夢見草
春の夜、月明かりが山道を明るく照らしている。
満月というには僅かに早い月明かりでも、街灯の無い暗い夜道では十分な程明るい。その光が照らすこの道も昔は脇往還の一部として栄えていたのだそうだが、草木が縦横無尽に生えた荒れ放題の現状では一見するとその歴史を見出すことは難しい。だがそれでもよくよく観察すると道幅がしっかりと取られていることも分かるし、獣道に比べれば格段に歩きやすいことからもかつて人の手が入ったのだろうと推察をすることができる。
長谷川辰郎はそんな道をのんびりと歩いていた。
つい先日まで寒さに震えていたとは思えないほど暖かい春の夜風に身をまかせると、なんとも心地がいい。幼いころから山歩きが趣味の両親に連れられて近辺の山を歩いてきたせいか、辰郎は山で過ごす時間が好きだった。加えてこの時季は木々の若葉が萌え、あたりに花が咲き乱れたりとなんとも華やかなのでつい心がうきだってしまう。
そんな辰郎が夜の山に足を踏み入れた理由は、もうすぐ見えてくる桜の古木を見るためだ。
その桜はため池のほとりに一本だけひっそりと佇むまさに知る人ぞ知る名木で、ごつごつとした幹や外側に大きく広がる枝、地面からせり出す根はどれも太く立派で、毎年沢山の花を咲かせて見る者を楽しませてくれる。街中や観光地などで見る沢山の桜並木も実に風情があって好きだが、ただ一人ぽつりと湖畔を前に佇むこの桜の姿が辰郎はとても好きだった。そしてただ好きというだけでは無く、四季折々時間があれば見に来るほどこの桜を気に入っている。春は満開の花姿、夏は力強く芽吹き成長した葉桜、秋はその命を燃やすように色を変えた紅葉、冬は雪に耐えしのぶ力強い姿を楽しむのだ。
ただ不思議なことに、この桜の近くであまり人と出会った事がない。
この山の他の場所で時々顔を合わせる事がある御老人たち、山の色々な事を教えてくれる樵の旦那とその奥さんである稲荷のお姉さん、そして一度だけだがすれ違ったまさにおしどり夫婦といった風情の男女くらいしか辰郎の記憶にはなかった。ただあの桜を多くの人に知られたくないと言うわがままな気持ちも辰郎の中で僅かながらに存在していたので、むしろ歓迎すべき現状なのかもしれないと時々思ってしまう事がある。もしかすると、この桜を見に来る他の人も同じ気持ちなのではないだろうか―――そんなことをぼんやりと考えていると、先が少し開け前方にため池が見えてきた。
逸る気持ちを抑えつつ、ため池の縁にそって時計回りに進むといよいよ桜が姿を現す。
満開の、まさに見事というほかない状態だった。大きな傘が開いた様にのびた枝には数え切れないほど大量の花が桜色の顔をほころばせ、月明かりを反射してまるでそこだけ白い霧がたちこめているように美しく暗闇の中で浮き上がっている。そこを時折吹く柔らかな風が通り過ぎると、はらはらと花弁が舞い散りため池へと降り注ぐ。水面は桜色の花びらと月光をてらてらと反射する妖しい光で埋め尽くされ、なんとも幻想的な雰囲気を醸し出している。まさに辰郎が毎年見ることを楽しみにしている例年通りの光景が目の前に広がっていた。
だが待ち望んだその光景の中に、今まで見た事の無い変化が起きていた。
見知らぬ女性が一人、その桜の元に立っているのだ。
こちらに背を向けて立っているその人は、美しく長い白金色の髪を簡単に結いあげ、ぞっとするほど美しい白い肌を肩口から背中にかけて大胆に露出させるセクシーなドレスを身につけている。紫色の滑らかな光沢を放つドレスのスリットから覗くほっそりとした足にはきめ細やかな薄紫色のストッキング、そして足元は黒に近い濃紫色のブーツがコーディネートされていた。それはともすれば品の無い恰好なのかもしれないが、むしろ彼女からは匂い立つような気品や品格が漂っている。
辰郎はその後ろ姿を見た瞬間から、強い衝動に襲われた。
それは恐怖に近い感情だと錯覚するほど強烈だった。暗闇の中、まるでこの世から音が消え去ってしまったかのような、逃げ出したくなるような静寂の中、湖畔にただ一本だけ咲き誇る桜の下に一人佇む彼女の美しさに身が震え、心が打ちひしがれるような強い衝撃が走った。喉が異常に乾き生唾を飲み込む。ワンテンポ遅れて心臓は今まで経験した事が無い様な速さで騒ぎたて、圧迫された肺は満足に空気の交換ができないのか途端に息苦しくなる。それによって思考は鈍くなり、単純な考えや欲望が頭の中に広がっていく。気がつくと体はその思いに支配され、ふらふらと覚束無い足取りで彼女の元へと近づいていき、ゆっくりと口を開いた。
それは普段の辰郎であれば決して口にしない様な、そんな言葉だった。
「こんばんは……月が、綺麗ですね。」
後に冷静になって振り返っても、何故自分がこんな言葉を彼女に話しかける第一声として選んだのかまるで分からない。完全に熱に浮かされていたとしか思えなかった。しかし、その時の辰郎はこの言葉をなんの躊躇も迷いもなく口にしたのだった。
「……え？」
話しかけられた彼女はゆっくりとこちらに振り返り、目を大きく見開いた。
大きく見開かれた目に浮かぶ赤く美しい宝石の様な瞳には、突然言葉をかけてきた不審者に対する警戒の色よりも、それ以上に何かに驚いているという様なそんな気配が漂っていた。だが辰郎と目が合うとそれを一瞬で消し去り、いたずらっぽく目を細めながら笑みをこぼした。
「おかしな御方ですわ。」
彼女はこちらに向けた視線をゆっくりと頭上へと移し、たおやかな白い腕を桜へのばしながら言葉を続ける。
「こんなに近くで、こんなにも美しく桜が花を咲かせているというのに………あなたは遥か彼方に浮かぶお月さまをお褒めになるのですね。」
「あっ！！…えっと」
彼女の言う事がもっともである。
慌てて取り繕うとするが、辰郎が口を開く前に彼女はこちらに視線を戻し、にっこりと笑い質問してくる。
「私、あなたに興味がわきました。もしよろしければ、あなたの御名前を教えていただけませんか？」
「あ、はい。勿論です。長谷川辰郎、といいます。長い谷の川で長谷川。下は辰年の太郎です。」
「タツロウ、辰郎さん。素敵な御名前ですね。」
「いえ、古臭い名前です。あの…それで」
反芻するように目を閉じて辰郎の名前を口ずさむ彼女に、今度はこちらから尋ねる。
「もしよろしければ、あなたの御名前を教えてもらえますか？」
「あら、私とした事が。名前も名乗らず、あまつさえ一方的に質問するなんてなんてはしたないことを。大変失礼しました。」
彼女はそこで一つ咳払いをした後、ほれぼれするほど綺麗な発音で自分の名前を名乗った。
「私は九条桜子、九条ネギの九条に桜の子供で、桜子です。」
「サクラコさん…綺麗な御名前ですね。とてもお似合いです。」
「ふふ、私こそ古臭い名前です。ですがそう言っていただけると…嬉しいものですね。」
彼女はやや照れ臭そうに笑う。
はにかんだような柔らかい笑顔を見ただけでそれまでの緊張がゆっくりと昇華されていき、自然に彼女と受け答えする事が出来るようになっていた。それからは辰郎が度々この桜を見に来ていることや、目の前の桜の見事さなど実にたわいもない世間話をした。彼女は時折笑みをこぼしながら絶妙なタイミングで相槌をしてくれる。それが普段それほどおしゃべりではない辰郎を饒舌にさせた。そして彼女の笑みがもっと見たくて、自分自身のことをしって欲しくて辰郎は何時になく熱心に彼女に話しかけていった。
だが、さあっとやや強い春の夜風が二人の間を通り過ぎ、会話が途切れてしまった。
桜子はなにか思案するように視線を泳がせている。
その間に辰郎はゆっくりと目の前の女性を見つめた。改めて思うが、彼女は息を飲むほど美しい。こちらに背を向けていたおかげで見る事が出来なかった顔は実に均整がとれ、すっとのびる首筋から順に視線をおろしていくと豊満な胸や腰のくびれに釘づけになる。出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる、まさにナイスバディとしかいいようのない見事な体形だ。彼女を見るだけでさきほどの熱情が心の中で沸き立ち、胸が苦しくなってくる。こんな経験をした事が無い。見れば見るほど彼女の魅力に、まるで底なしの沼にずぶずぶと沈むように没入してしまいそうだ。
「あの、辰郎さん？」
彼女の声ではっと我に返った。
「す、すみません。黙ったままじっと見つめるなんて失礼を」
「いえ、お気になさらないでください。それよりも」
桜子は慌てる辰郎に人懐っこい笑顔を浮かべながら一つの提案をした。
「もし辰郎さんがよろしければ、私がする昔話におつきあいいただけませんか？」
辰郎にその申し出を断る理由はないので慌ただしく二三度首を縦に振ると、彼女は笑みを濃くしながら話を切り出した。
「実は私も昔からここにはよくきています。勿論、この美しい桜を見るのも目的なのですが…この木は何とも私の一族に縁のある木でして。ふと、この桜の木を見たくなってしまう時があるのです。」
「どのような、縁なのですか？」
「この場所は…私の母と父が初めて出会った思い出の場所なのです。」
「御両親が…」
「はい。そしてそのまま二人は結ばれ、長女として生まれてきたのがこの私。」
そこでふっと間をとった後、彼女は手を胸元に置き口を開いた。
「桜の下で授かった子、だから私はサクラコなのです。」
「なるほど。」
辰年に生まれたから辰郎と名づけられた自分とは比べ物にならない程、ロマンチックな命名理由だなとそんなことを思ってしまう。
「単純な両親だと御笑いになるでしょう？」
「いえ、そんなことは」
「妹たちは可奈だとか普通の名前をつけてもらっていることもあって、昔はなんだか両親の過去を自分だけに押しつけられている様な気がして…嫌だと思う事もありました。」
「………。」
「でも、自分たちの大切な思い出や愛を…私に分け与えようとしてくれたのだと思う事が出来てからはこの名前がとっても好きになりました。」
自身の両親について話す桜子の眼はとても優しく、慈愛に満ちたものだった。
「お好きなんですね、ご両親の事が。」
「はい。山の中で偶然の出会いを果たし、いつまでも愛を囁き合える二人が愛おしくてたまりません。傍から見ればいつまでも節度をわきまえない付き合いたてのカップルの様な二人ですが、そういう無二の存在を見つけることができた者の幸せを誰よりも噛み締めている二人が本当に羨ましいです。」
「いいですね、そういう関係って。」
彼女が微笑む様を見て、ふと一度であった夫婦の事を思い出した。もしかすると、あれは彼女の両親だったのかもしれない。
「ええ。ですから、私は幼いころからずっと…そんな出会いをすることを夢見ていたのです。まあそれも、今夜までの様ですが。」
「え？」
彼女の赤い目が一瞬だけぎらりと光った様な気がした。
その光はまるで肉食動物が獲物に狙いを定めた様な鋭さを持っていた。その変化に驚いていると、桜子は音もなく近づきお互いの鼻が触れるほど顔を寄せたかと思うと意味深な台詞を口にした。
「ねえ、辰郎さん。今の私たちってそんな両親とまるで同じだと思いません？」
花の匂いのような甘い香りがふわりと鼻孔をかすめる。
その香りが彼女の髪や体から香っていることや、少し上気し熱のこもった息遣いがはっきりと分かる近距離に彼女が居るという状況にドギマギしていると、桜子が突然辰郎の手を握ってきた。
ドクン…ドクンッ……
「うっ…！？これは、一体…な、にが」
「そして一つご忠告を…不用意にあんな甘い言葉を女性に、特に魔物娘にかけてはいけませんよ」
彼女に手を握られた途端、体全身に抗いがたい強烈な虚脱感や性欲が巻き起こった。
膝はがくがくと震え、下腹部からわきおこる熱い脈動が甘い痺れを伴いながら股間へ集中し、海綿体に血液を蓄え始める。そしてオスの本能のままに彼女を犯したい、彼女に全てを支配されたいといった様々な矛盾をはらんだ欲望が心の中に噴出したのだった。そんな自身の体に起こった変調に戸惑っていると、彼女がその原因を教えてくれた。
「その御様子だと、お気づきになられませんでしたか。私は不死者の王と呼ばれる魔物娘の一種…ただこうして男性にふれるだけで吸精が行えるワイトです。辰郎さんの精、とても美味しくてやみつきになりそうです♡」
辰郎が悶え苦しむ様を満足げに眺めながら吸精したことで自身も興奮したのか、やわ肌にじんわりと汗を浮かべた桜子はさらに強く吸精を行うため腕を背中に回していく。
「ふふふ…ねえ辰郎さん。私、先程は心底驚いたのですよ。」
「…っ？」
「先程申しました通り、父と母はこの場所で結ばれました。その際父の方からプロポーズしたのだそうです。その時父は何と母に言ったのか…お分かりになりますか？」
「…わかる、わけ」
「父は母に自身の想いを伝える言葉として『月が、綺麗ですね』といったのだそうです。辰郎さんが私にかけてくれた最初の言葉と………同じなのです。」
「！！」
「こんな偶然は、そうそうあるわけがありません。きっとこれは神様が私に辰郎さんを引き合わせ、確実に結びつけるためにしてくださった粋な計らいに相違ありません。だから…私は母が父にした返事を辰郎さんに返し、自分の想いを遂げようと思います。」
「私、死んでもいいわ。…では私の想い……しっかりと受け取ってくださいませ♡」
ちゅ…ちゅう…
真っ直ぐに辰郎の眼を見たまま桜子は、血色のいい唇を押し当ててきた。
合わさった二人の唇から、ぴちゃぴちゃと卑猥な水音が静かな湖畔に響き渡る。この場所に来てから想像もしなかったことの連続に感情と体が追い付かず、辰郎は桜子にされるがまま動く事が出来なかった。
「んっ、ちゅっちゅぱ…ちゅぅ」
一方の桜子は死や老いを超越した青白い肌を紅潮させ、一心不乱に辰郎を貪っていく。
最初は啄ばむように吸いつき、唇を使って辰郎の両の唇を優しく食んだ。それは実に絶妙な力加減の愛撫で、唇が触れた場所がゆっくりと火照っていき、緊張や強張りを解していく。暫くそうしているとすっかり力が抜けていき、それ見計らったかのように彼女の舌がぬるりと口内に進入してきた。
「あんっ…れろぉ、くちゅ…」
アンデットならではのやや低い体温をした彼女の舌は、桜子の濃い唾液をすりこむように絡みつく。
唾液から漂う甘い香りは、ディープなキスの連続で軽い酸欠状態に陥る辰郎の体内に深く浸透していき、継続して行われている吸精と共に心を狂わせていく。
辰郎を思う様に翻弄した桜子は、満足げな表情を浮かべながら口を離した。
「ぷはっ、嗚呼…私たちキスしちゃいましたね♡思い人とだからこそできる甘い甘いキス、堪りません♡」
「さ、くらこ…さんっ」
桜子は接吻の余韻に浸るように唇に手をやり、うっとりとしている。
一方の辰郎は、初めてのキスが想像を超えるディープなものだったことや、桜子の行う吸精によって完全に脱力してしまい、へなへなと地面に崩れ落ちた。力なく着地した尻や地についた手から伝わる夜露の冷たさが、予期せぬ欲情に火照る体に沁みる。先程からもたらされる性的な心地よさとは違う、どこか理性を回復させてくれる様な気持ちよさを求めて辰郎は声も出せずゆっくりと体を横たえた。だがエンジンのかかった魔物娘の前でそのような無防備な姿、しかも誘うように横になるのは極上の据え膳、または俎上に横たえられた鯛以外のなにものでもない。
「うふ、ふふふ…わざわざ横になって私をお誘いになるなんて。なんていじらしく、可愛らしいんでしょう♡」
「うぐぅ…ま、待って！！」
案の定笑みを濃くした桜子は、辰郎に覆いかぶさる。
「いいえ、待ちません…もう私は準備が完了しています、お確かめください。」
ぬちゃ…くちぃ…
「…っ濡れてる」
手を掴まれ、誘われた彼女の秘部は強い匂いを放つ粘度の高い愛液で溢れていた。
「ええ、もう下着がびちゃびちゃになってしまうほど濡れてしまいました♡ですから、辰郎さんの固くて立派なペニスを…」
そこで一旦言葉を切ると、桜子は素早い動作で辰郎のペニスをズボンから取り出し、大きさを確かめるように手を上下させる。
「素敵…熱くてとっても固くて、大きい♡このペニスを私にくださいませ♡」
そしてペニスの角度を調整し、ゆっくりと自身の腰を持ち上げてたっぷりと愛液を吐きだす膣口へと狙いを定めた。
ぐちゅ、ちゅぅ…ぐぷ、ぐぷぷ…
「いきますよ…っん、あぁ♡！！」
桜子が腰を沈めていき、自身の肉穴へとペニスを誘う。
にちゃりと粘液がこすれる音をたてながら、亀頭が陰唇に食い込んでいく。肉穴が今まで感じた事の無いほど強烈な性感や異物感を伴いながら押し広げられていく感触に、桜子は戦慄く口の端からたまらず嬌声を上げる。辰郎も同様に性に特化した魔物娘の性器から浴びせられる刺激に圧倒され、情けない声を上げてしまう。そうこうしている内に剛直が生娘の証拠である処女膜をあっさりと貫通し、勢いよく子宮口へと突き刺さる。
「あぁ…ぐぅ♡！？」
「き、もちいぃ…ぐぅ、あぁ！！」
桜子は固いペニスによって内臓を押し上げられるような感触と女となった喜びに、辰郎はそれまでの動きが嘘のようにむしゃぶりついてくる肉襞の感触に声にならない声を上げる。
「もっと、もっと♡！！」
「桜子さん、ちょ、ちょっと待って」
「待てません、こんな…気持ちのいいことぉ♡」
胸板に手を置き、桜子が淫猥に腰を揺らし始める。
最初の数回は探るようにゆっくりと、そして直ぐにこつを得たようにだんだんとその動きは激しさを増していく。その間も膣内は執拗に精液をねだり、快感を送り続ける。最奥へと進入する際は絶妙な締め付けで抵抗なく受け入れ、引き抜かれる際には亀頭の先から根元までねっとりと逃がさないといわんばかりに吸いついてくる。白く泡立った濃い愛液が襞という襞からたっぷりと沁みだし、真空の様になったおまんこはペニスがピストンする度にぐちょぐちょと卑猥な音を奏で始める。
「(ああ、もう駄目…だ！！！！)」
結合部から聞こえてくる卑猥な水音、目の前でぶるんぶるんと揺れ卑猥に形を変える美乳、そして全てを根こそぎ吸い尽くさんとする人外のヴァギナ、その全てが辰郎を限界へと追い詰めていく。亀頭が苦しげに震え、睾丸が精を解き放つためにせり上がり着実に射精の準備を整える。
「あはぁ…もう、射精してしまうのですね♡」
その変化をいち早く感じ取った桜子は、一層腰の動きや膣の収縮を強め襲いかかる。
「桜子さん、もう…出る…あぁ！！」
「膣内に♡私の中に、全て吐き出してください♡私を辰郎さんのザーメンで染め上げてください♡！！！」
蕩け切った瞳でこちらを見つめ、とどめと言わんばかりに桜子が恥骨を叩きつけた瞬間、鈴口が限界まで開き熱く濃い白濁液が彼女の胎内に吐き出された。
ッビュ、ビュウ…ビュルル、びゅくっびゅくっ…
「出る、で、るっ…かっはぁ！！！」
今まで経験したことないほど強い脈動が下腹部から性器にわたって巻き起こり、びゅくびゅくと欲望を吐きだしていく。それは驚くほど長い間、まるでペニスが壊れてしまったかのように自分の意思とは関係なく続いた。桜子はその全てを子宮で受け止めながら絶頂してしまったようで、びくびくと痙攣させながら体をのけぞらせる。その様子をダ強くしながらぼんやりと眺めていると、ぶるりと体を大きく震わせた桜子が突然低い笑い声を上げた。
「うふふ、ふふふ♡ああ、こんなにも気持ちよく、心地よく、快いなんて♡……だからこそ口惜しい、なんて…口惜しいんでしょう…」
体内に吐き出された大量のザーメンを、腰をくねらせながら一滴残らず貪欲に子宮に飲みこんだ桜子は、恨み言を口ずさみながら辰郎の肩を掴み、体を寄せた。月光を背にしているせいで桜子の顔には影がさし、先程まで愉悦に歪んでいた表情が見えなくなっていた。だからこそ、肩を掴む力の強さや彼女の言葉に気押しされてしまう。
「どうしたって…いうんです、桜子さん？」
「私は口惜しいのです、辰郎さん。」
「一体何が…」
「お互いにこの場所には何度となくきているのに…どうして」
桜子はゆっくりと体勢を下し、辰郎に身をゆだねながら呟いた。
「どうして私たちはこんなに出会うのが遅くなってしまったのでしょう…あなたともっと早く出会う事が出来れば、沢山の喜びを共感する事が出来たのだと思うとそれが堪らなく口惜しいのです。」
「桜子さん…僕も同じ気持ちです！！」
「あんっ…嬉しい♡」
彼女の気持ちが嬉しくて、辰郎は力いっぱい抱きしめた。
一瞬だけびくりと体を縮ませたが、桜子も直ぐに脱力し身を任せる。
「だから…その分も、今日から愛し合いましょう。」
「はい♡」
満面の笑みで頷く桜子の膣が呼応するように再びペニスを撫で、堪らずびくりと陰茎が震える。それを合図にされるがままだった辰郎は腰を突きあげ、桜子は喜色を浮かべ全てを受け止める。
こうして、長い夜の幕が開けたのだった。
それから何度身を重ねたのかは覚えていない。
それでも東の空が僅かに白み、湖の反射する光の色が変わり出す頃にやっと一息ついた。お互いの体を見ると体液や泥、草の汁で汚れ、まるで子供が時間を忘れて遊んだ後の様なあり様になっている。それがなんだかとっても可笑しくて、二人は額を擦り付けながらくすくすと笑いあった。
そして一通り笑い終えた辰郎の中には一つの想いが浮かんでいた。
この想いは、今この場で彼女に伝えなければいけないとそう思った。
だから息を整え、隣で横になっている桜子を真っ直ぐに見据える。
「桜子さん。」
「はい。」
「やり直させてくれませんか？」
「…え？」
言葉の真意が分からず彼女の顔に不安の色が広がる。
「確かに自分たちは桜子さんの御両親と同じような出会いをしました。でも、自分たちは自分たちです。それに借り物の言葉じゃない…自分自身の言葉で、あなたにこの想いを伝えたいんです。」
「桜子さん…あなたが、好きです。これから僕と共に、生きてもらえませんか？」
びっくりしたような、呆けたような表情を浮かべた桜子だったが、すぐに辰郎の言葉を理解し目に涙をためながら何度も頷いた。
「では、私も…自分の言葉で言わせてください。私もあなたが好き。堪らなく好き。ずっとずっと一緒に…永遠に私の側にいてください。」
「これから、よろしくお願いします。桜子さんこそ、ずっと側にいてくださいね。」
そう言って彼女の血色のいい唇に誓いの口づけを落とす。
すると、桜子の顔に
頭上の桜に負けないほど華やかで、美しい笑顔の花が咲き乱れたのだった。
おしまい
満月というには僅かに早い月明かりでも、街灯の無い暗い夜道では十分な程明るい。その光が照らすこの道も昔は脇往還の一部として栄えていたのだそうだが、草木が縦横無尽に生えた荒れ放題の現状では一見するとその歴史を見出すことは難しい。だがそれでもよくよく観察すると道幅がしっかりと取られていることも分かるし、獣道に比べれば格段に歩きやすいことからもかつて人の手が入ったのだろうと推察をすることができる。
長谷川辰郎はそんな道をのんびりと歩いていた。
つい先日まで寒さに震えていたとは思えないほど暖かい春の夜風に身をまかせると、なんとも心地がいい。幼いころから山歩きが趣味の両親に連れられて近辺の山を歩いてきたせいか、辰郎は山で過ごす時間が好きだった。加えてこの時季は木々の若葉が萌え、あたりに花が咲き乱れたりとなんとも華やかなのでつい心がうきだってしまう。
そんな辰郎が夜の山に足を踏み入れた理由は、もうすぐ見えてくる桜の古木を見るためだ。
その桜はため池のほとりに一本だけひっそりと佇むまさに知る人ぞ知る名木で、ごつごつとした幹や外側に大きく広がる枝、地面からせり出す根はどれも太く立派で、毎年沢山の花を咲かせて見る者を楽しませてくれる。街中や観光地などで見る沢山の桜並木も実に風情があって好きだが、ただ一人ぽつりと湖畔を前に佇むこの桜の姿が辰郎はとても好きだった。そしてただ好きというだけでは無く、四季折々時間があれば見に来るほどこの桜を気に入っている。春は満開の花姿、夏は力強く芽吹き成長した葉桜、秋はその命を燃やすように色を変えた紅葉、冬は雪に耐えしのぶ力強い姿を楽しむのだ。
ただ不思議なことに、この桜の近くであまり人と出会った事がない。
この山の他の場所で時々顔を合わせる事がある御老人たち、山の色々な事を教えてくれる樵の旦那とその奥さんである稲荷のお姉さん、そして一度だけだがすれ違ったまさにおしどり夫婦といった風情の男女くらいしか辰郎の記憶にはなかった。ただあの桜を多くの人に知られたくないと言うわがままな気持ちも辰郎の中で僅かながらに存在していたので、むしろ歓迎すべき現状なのかもしれないと時々思ってしまう事がある。もしかすると、この桜を見に来る他の人も同じ気持ちなのではないだろうか―――そんなことをぼんやりと考えていると、先が少し開け前方にため池が見えてきた。
逸る気持ちを抑えつつ、ため池の縁にそって時計回りに進むといよいよ桜が姿を現す。
満開の、まさに見事というほかない状態だった。大きな傘が開いた様にのびた枝には数え切れないほど大量の花が桜色の顔をほころばせ、月明かりを反射してまるでそこだけ白い霧がたちこめているように美しく暗闇の中で浮き上がっている。そこを時折吹く柔らかな風が通り過ぎると、はらはらと花弁が舞い散りため池へと降り注ぐ。水面は桜色の花びらと月光をてらてらと反射する妖しい光で埋め尽くされ、なんとも幻想的な雰囲気を醸し出している。まさに辰郎が毎年見ることを楽しみにしている例年通りの光景が目の前に広がっていた。
だが待ち望んだその光景の中に、今まで見た事の無い変化が起きていた。
見知らぬ女性が一人、その桜の元に立っているのだ。
こちらに背を向けて立っているその人は、美しく長い白金色の髪を簡単に結いあげ、ぞっとするほど美しい白い肌を肩口から背中にかけて大胆に露出させるセクシーなドレスを身につけている。紫色の滑らかな光沢を放つドレスのスリットから覗くほっそりとした足にはきめ細やかな薄紫色のストッキング、そして足元は黒に近い濃紫色のブーツがコーディネートされていた。それはともすれば品の無い恰好なのかもしれないが、むしろ彼女からは匂い立つような気品や品格が漂っている。
辰郎はその後ろ姿を見た瞬間から、強い衝動に襲われた。
それは恐怖に近い感情だと錯覚するほど強烈だった。暗闇の中、まるでこの世から音が消え去ってしまったかのような、逃げ出したくなるような静寂の中、湖畔にただ一本だけ咲き誇る桜の下に一人佇む彼女の美しさに身が震え、心が打ちひしがれるような強い衝撃が走った。喉が異常に乾き生唾を飲み込む。ワンテンポ遅れて心臓は今まで経験した事が無い様な速さで騒ぎたて、圧迫された肺は満足に空気の交換ができないのか途端に息苦しくなる。それによって思考は鈍くなり、単純な考えや欲望が頭の中に広がっていく。気がつくと体はその思いに支配され、ふらふらと覚束無い足取りで彼女の元へと近づいていき、ゆっくりと口を開いた。
それは普段の辰郎であれば決して口にしない様な、そんな言葉だった。
「こんばんは……月が、綺麗ですね。」
後に冷静になって振り返っても、何故自分がこんな言葉を彼女に話しかける第一声として選んだのかまるで分からない。完全に熱に浮かされていたとしか思えなかった。しかし、その時の辰郎はこの言葉をなんの躊躇も迷いもなく口にしたのだった。
「……え？」
話しかけられた彼女はゆっくりとこちらに振り返り、目を大きく見開いた。
大きく見開かれた目に浮かぶ赤く美しい宝石の様な瞳には、突然言葉をかけてきた不審者に対する警戒の色よりも、それ以上に何かに驚いているという様なそんな気配が漂っていた。だが辰郎と目が合うとそれを一瞬で消し去り、いたずらっぽく目を細めながら笑みをこぼした。
「おかしな御方ですわ。」
彼女はこちらに向けた視線をゆっくりと頭上へと移し、たおやかな白い腕を桜へのばしながら言葉を続ける。
「こんなに近くで、こんなにも美しく桜が花を咲かせているというのに………あなたは遥か彼方に浮かぶお月さまをお褒めになるのですね。」
「あっ！！…えっと」
彼女の言う事がもっともである。
慌てて取り繕うとするが、辰郎が口を開く前に彼女はこちらに視線を戻し、にっこりと笑い質問してくる。
「私、あなたに興味がわきました。もしよろしければ、あなたの御名前を教えていただけませんか？」
「あ、はい。勿論です。長谷川辰郎、といいます。長い谷の川で長谷川。下は辰年の太郎です。」
「タツロウ、辰郎さん。素敵な御名前ですね。」
「いえ、古臭い名前です。あの…それで」
反芻するように目を閉じて辰郎の名前を口ずさむ彼女に、今度はこちらから尋ねる。
「もしよろしければ、あなたの御名前を教えてもらえますか？」
「あら、私とした事が。名前も名乗らず、あまつさえ一方的に質問するなんてなんてはしたないことを。大変失礼しました。」
彼女はそこで一つ咳払いをした後、ほれぼれするほど綺麗な発音で自分の名前を名乗った。
「私は九条桜子、九条ネギの九条に桜の子供で、桜子です。」
「サクラコさん…綺麗な御名前ですね。とてもお似合いです。」
「ふふ、私こそ古臭い名前です。ですがそう言っていただけると…嬉しいものですね。」
彼女はやや照れ臭そうに笑う。
はにかんだような柔らかい笑顔を見ただけでそれまでの緊張がゆっくりと昇華されていき、自然に彼女と受け答えする事が出来るようになっていた。それからは辰郎が度々この桜を見に来ていることや、目の前の桜の見事さなど実にたわいもない世間話をした。彼女は時折笑みをこぼしながら絶妙なタイミングで相槌をしてくれる。それが普段それほどおしゃべりではない辰郎を饒舌にさせた。そして彼女の笑みがもっと見たくて、自分自身のことをしって欲しくて辰郎は何時になく熱心に彼女に話しかけていった。
だが、さあっとやや強い春の夜風が二人の間を通り過ぎ、会話が途切れてしまった。
桜子はなにか思案するように視線を泳がせている。
その間に辰郎はゆっくりと目の前の女性を見つめた。改めて思うが、彼女は息を飲むほど美しい。こちらに背を向けていたおかげで見る事が出来なかった顔は実に均整がとれ、すっとのびる首筋から順に視線をおろしていくと豊満な胸や腰のくびれに釘づけになる。出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる、まさにナイスバディとしかいいようのない見事な体形だ。彼女を見るだけでさきほどの熱情が心の中で沸き立ち、胸が苦しくなってくる。こんな経験をした事が無い。見れば見るほど彼女の魅力に、まるで底なしの沼にずぶずぶと沈むように没入してしまいそうだ。
「あの、辰郎さん？」
彼女の声ではっと我に返った。
「す、すみません。黙ったままじっと見つめるなんて失礼を」
「いえ、お気になさらないでください。それよりも」
桜子は慌てる辰郎に人懐っこい笑顔を浮かべながら一つの提案をした。
「もし辰郎さんがよろしければ、私がする昔話におつきあいいただけませんか？」
辰郎にその申し出を断る理由はないので慌ただしく二三度首を縦に振ると、彼女は笑みを濃くしながら話を切り出した。
「実は私も昔からここにはよくきています。勿論、この美しい桜を見るのも目的なのですが…この木は何とも私の一族に縁のある木でして。ふと、この桜の木を見たくなってしまう時があるのです。」
「どのような、縁なのですか？」
「この場所は…私の母と父が初めて出会った思い出の場所なのです。」
「御両親が…」
「はい。そしてそのまま二人は結ばれ、長女として生まれてきたのがこの私。」
そこでふっと間をとった後、彼女は手を胸元に置き口を開いた。
「桜の下で授かった子、だから私はサクラコなのです。」
「なるほど。」
辰年に生まれたから辰郎と名づけられた自分とは比べ物にならない程、ロマンチックな命名理由だなとそんなことを思ってしまう。
「単純な両親だと御笑いになるでしょう？」
「いえ、そんなことは」
「妹たちは可奈だとか普通の名前をつけてもらっていることもあって、昔はなんだか両親の過去を自分だけに押しつけられている様な気がして…嫌だと思う事もありました。」
「………。」
「でも、自分たちの大切な思い出や愛を…私に分け与えようとしてくれたのだと思う事が出来てからはこの名前がとっても好きになりました。」
自身の両親について話す桜子の眼はとても優しく、慈愛に満ちたものだった。
「お好きなんですね、ご両親の事が。」
「はい。山の中で偶然の出会いを果たし、いつまでも愛を囁き合える二人が愛おしくてたまりません。傍から見ればいつまでも節度をわきまえない付き合いたてのカップルの様な二人ですが、そういう無二の存在を見つけることができた者の幸せを誰よりも噛み締めている二人が本当に羨ましいです。」
「いいですね、そういう関係って。」
彼女が微笑む様を見て、ふと一度であった夫婦の事を思い出した。もしかすると、あれは彼女の両親だったのかもしれない。
「ええ。ですから、私は幼いころからずっと…そんな出会いをすることを夢見ていたのです。まあそれも、今夜までの様ですが。」
「え？」
彼女の赤い目が一瞬だけぎらりと光った様な気がした。
その光はまるで肉食動物が獲物に狙いを定めた様な鋭さを持っていた。その変化に驚いていると、桜子は音もなく近づきお互いの鼻が触れるほど顔を寄せたかと思うと意味深な台詞を口にした。
「ねえ、辰郎さん。今の私たちってそんな両親とまるで同じだと思いません？」
花の匂いのような甘い香りがふわりと鼻孔をかすめる。
その香りが彼女の髪や体から香っていることや、少し上気し熱のこもった息遣いがはっきりと分かる近距離に彼女が居るという状況にドギマギしていると、桜子が突然辰郎の手を握ってきた。
ドクン…ドクンッ……
「うっ…！？これは、一体…な、にが」
「そして一つご忠告を…不用意にあんな甘い言葉を女性に、特に魔物娘にかけてはいけませんよ」
彼女に手を握られた途端、体全身に抗いがたい強烈な虚脱感や性欲が巻き起こった。
膝はがくがくと震え、下腹部からわきおこる熱い脈動が甘い痺れを伴いながら股間へ集中し、海綿体に血液を蓄え始める。そしてオスの本能のままに彼女を犯したい、彼女に全てを支配されたいといった様々な矛盾をはらんだ欲望が心の中に噴出したのだった。そんな自身の体に起こった変調に戸惑っていると、彼女がその原因を教えてくれた。
「その御様子だと、お気づきになられませんでしたか。私は不死者の王と呼ばれる魔物娘の一種…ただこうして男性にふれるだけで吸精が行えるワイトです。辰郎さんの精、とても美味しくてやみつきになりそうです♡」
辰郎が悶え苦しむ様を満足げに眺めながら吸精したことで自身も興奮したのか、やわ肌にじんわりと汗を浮かべた桜子はさらに強く吸精を行うため腕を背中に回していく。
「ふふふ…ねえ辰郎さん。私、先程は心底驚いたのですよ。」
「…っ？」
「先程申しました通り、父と母はこの場所で結ばれました。その際父の方からプロポーズしたのだそうです。その時父は何と母に言ったのか…お分かりになりますか？」
「…わかる、わけ」
「父は母に自身の想いを伝える言葉として『月が、綺麗ですね』といったのだそうです。辰郎さんが私にかけてくれた最初の言葉と………同じなのです。」
「！！」
「こんな偶然は、そうそうあるわけがありません。きっとこれは神様が私に辰郎さんを引き合わせ、確実に結びつけるためにしてくださった粋な計らいに相違ありません。だから…私は母が父にした返事を辰郎さんに返し、自分の想いを遂げようと思います。」
「私、死んでもいいわ。…では私の想い……しっかりと受け取ってくださいませ♡」
ちゅ…ちゅう…
真っ直ぐに辰郎の眼を見たまま桜子は、血色のいい唇を押し当ててきた。
合わさった二人の唇から、ぴちゃぴちゃと卑猥な水音が静かな湖畔に響き渡る。この場所に来てから想像もしなかったことの連続に感情と体が追い付かず、辰郎は桜子にされるがまま動く事が出来なかった。
「んっ、ちゅっちゅぱ…ちゅぅ」
一方の桜子は死や老いを超越した青白い肌を紅潮させ、一心不乱に辰郎を貪っていく。
最初は啄ばむように吸いつき、唇を使って辰郎の両の唇を優しく食んだ。それは実に絶妙な力加減の愛撫で、唇が触れた場所がゆっくりと火照っていき、緊張や強張りを解していく。暫くそうしているとすっかり力が抜けていき、それ見計らったかのように彼女の舌がぬるりと口内に進入してきた。
「あんっ…れろぉ、くちゅ…」
アンデットならではのやや低い体温をした彼女の舌は、桜子の濃い唾液をすりこむように絡みつく。
唾液から漂う甘い香りは、ディープなキスの連続で軽い酸欠状態に陥る辰郎の体内に深く浸透していき、継続して行われている吸精と共に心を狂わせていく。
辰郎を思う様に翻弄した桜子は、満足げな表情を浮かべながら口を離した。
「ぷはっ、嗚呼…私たちキスしちゃいましたね♡思い人とだからこそできる甘い甘いキス、堪りません♡」
「さ、くらこ…さんっ」
桜子は接吻の余韻に浸るように唇に手をやり、うっとりとしている。
一方の辰郎は、初めてのキスが想像を超えるディープなものだったことや、桜子の行う吸精によって完全に脱力してしまい、へなへなと地面に崩れ落ちた。力なく着地した尻や地についた手から伝わる夜露の冷たさが、予期せぬ欲情に火照る体に沁みる。先程からもたらされる性的な心地よさとは違う、どこか理性を回復させてくれる様な気持ちよさを求めて辰郎は声も出せずゆっくりと体を横たえた。だがエンジンのかかった魔物娘の前でそのような無防備な姿、しかも誘うように横になるのは極上の据え膳、または俎上に横たえられた鯛以外のなにものでもない。
「うふ、ふふふ…わざわざ横になって私をお誘いになるなんて。なんていじらしく、可愛らしいんでしょう♡」
「うぐぅ…ま、待って！！」
案の定笑みを濃くした桜子は、辰郎に覆いかぶさる。
「いいえ、待ちません…もう私は準備が完了しています、お確かめください。」
ぬちゃ…くちぃ…
「…っ濡れてる」
手を掴まれ、誘われた彼女の秘部は強い匂いを放つ粘度の高い愛液で溢れていた。
「ええ、もう下着がびちゃびちゃになってしまうほど濡れてしまいました♡ですから、辰郎さんの固くて立派なペニスを…」
そこで一旦言葉を切ると、桜子は素早い動作で辰郎のペニスをズボンから取り出し、大きさを確かめるように手を上下させる。
「素敵…熱くてとっても固くて、大きい♡このペニスを私にくださいませ♡」
そしてペニスの角度を調整し、ゆっくりと自身の腰を持ち上げてたっぷりと愛液を吐きだす膣口へと狙いを定めた。
ぐちゅ、ちゅぅ…ぐぷ、ぐぷぷ…
「いきますよ…っん、あぁ♡！！」
桜子が腰を沈めていき、自身の肉穴へとペニスを誘う。
にちゃりと粘液がこすれる音をたてながら、亀頭が陰唇に食い込んでいく。肉穴が今まで感じた事の無いほど強烈な性感や異物感を伴いながら押し広げられていく感触に、桜子は戦慄く口の端からたまらず嬌声を上げる。辰郎も同様に性に特化した魔物娘の性器から浴びせられる刺激に圧倒され、情けない声を上げてしまう。そうこうしている内に剛直が生娘の証拠である処女膜をあっさりと貫通し、勢いよく子宮口へと突き刺さる。
「あぁ…ぐぅ♡！？」
「き、もちいぃ…ぐぅ、あぁ！！」
桜子は固いペニスによって内臓を押し上げられるような感触と女となった喜びに、辰郎はそれまでの動きが嘘のようにむしゃぶりついてくる肉襞の感触に声にならない声を上げる。
「もっと、もっと♡！！」
「桜子さん、ちょ、ちょっと待って」
「待てません、こんな…気持ちのいいことぉ♡」
胸板に手を置き、桜子が淫猥に腰を揺らし始める。
最初の数回は探るようにゆっくりと、そして直ぐにこつを得たようにだんだんとその動きは激しさを増していく。その間も膣内は執拗に精液をねだり、快感を送り続ける。最奥へと進入する際は絶妙な締め付けで抵抗なく受け入れ、引き抜かれる際には亀頭の先から根元までねっとりと逃がさないといわんばかりに吸いついてくる。白く泡立った濃い愛液が襞という襞からたっぷりと沁みだし、真空の様になったおまんこはペニスがピストンする度にぐちょぐちょと卑猥な音を奏で始める。
「(ああ、もう駄目…だ！！！！)」
結合部から聞こえてくる卑猥な水音、目の前でぶるんぶるんと揺れ卑猥に形を変える美乳、そして全てを根こそぎ吸い尽くさんとする人外のヴァギナ、その全てが辰郎を限界へと追い詰めていく。亀頭が苦しげに震え、睾丸が精を解き放つためにせり上がり着実に射精の準備を整える。
「あはぁ…もう、射精してしまうのですね♡」
その変化をいち早く感じ取った桜子は、一層腰の動きや膣の収縮を強め襲いかかる。
「桜子さん、もう…出る…あぁ！！」
「膣内に♡私の中に、全て吐き出してください♡私を辰郎さんのザーメンで染め上げてください♡！！！」
蕩け切った瞳でこちらを見つめ、とどめと言わんばかりに桜子が恥骨を叩きつけた瞬間、鈴口が限界まで開き熱く濃い白濁液が彼女の胎内に吐き出された。
ッビュ、ビュウ…ビュルル、びゅくっびゅくっ…
「出る、で、るっ…かっはぁ！！！」
今まで経験したことないほど強い脈動が下腹部から性器にわたって巻き起こり、びゅくびゅくと欲望を吐きだしていく。それは驚くほど長い間、まるでペニスが壊れてしまったかのように自分の意思とは関係なく続いた。桜子はその全てを子宮で受け止めながら絶頂してしまったようで、びくびくと痙攣させながら体をのけぞらせる。その様子をダ強くしながらぼんやりと眺めていると、ぶるりと体を大きく震わせた桜子が突然低い笑い声を上げた。
「うふふ、ふふふ♡ああ、こんなにも気持ちよく、心地よく、快いなんて♡……だからこそ口惜しい、なんて…口惜しいんでしょう…」
体内に吐き出された大量のザーメンを、腰をくねらせながら一滴残らず貪欲に子宮に飲みこんだ桜子は、恨み言を口ずさみながら辰郎の肩を掴み、体を寄せた。月光を背にしているせいで桜子の顔には影がさし、先程まで愉悦に歪んでいた表情が見えなくなっていた。だからこそ、肩を掴む力の強さや彼女の言葉に気押しされてしまう。
「どうしたって…いうんです、桜子さん？」
「私は口惜しいのです、辰郎さん。」
「一体何が…」
「お互いにこの場所には何度となくきているのに…どうして」
桜子はゆっくりと体勢を下し、辰郎に身をゆだねながら呟いた。
「どうして私たちはこんなに出会うのが遅くなってしまったのでしょう…あなたともっと早く出会う事が出来れば、沢山の喜びを共感する事が出来たのだと思うとそれが堪らなく口惜しいのです。」
「桜子さん…僕も同じ気持ちです！！」
「あんっ…嬉しい♡」
彼女の気持ちが嬉しくて、辰郎は力いっぱい抱きしめた。
一瞬だけびくりと体を縮ませたが、桜子も直ぐに脱力し身を任せる。
「だから…その分も、今日から愛し合いましょう。」
「はい♡」
満面の笑みで頷く桜子の膣が呼応するように再びペニスを撫で、堪らずびくりと陰茎が震える。それを合図にされるがままだった辰郎は腰を突きあげ、桜子は喜色を浮かべ全てを受け止める。
こうして、長い夜の幕が開けたのだった。
それから何度身を重ねたのかは覚えていない。
それでも東の空が僅かに白み、湖の反射する光の色が変わり出す頃にやっと一息ついた。お互いの体を見ると体液や泥、草の汁で汚れ、まるで子供が時間を忘れて遊んだ後の様なあり様になっている。それがなんだかとっても可笑しくて、二人は額を擦り付けながらくすくすと笑いあった。
そして一通り笑い終えた辰郎の中には一つの想いが浮かんでいた。
この想いは、今この場で彼女に伝えなければいけないとそう思った。
だから息を整え、隣で横になっている桜子を真っ直ぐに見据える。
「桜子さん。」
「はい。」
「やり直させてくれませんか？」
「…え？」
言葉の真意が分からず彼女の顔に不安の色が広がる。
「確かに自分たちは桜子さんの御両親と同じような出会いをしました。でも、自分たちは自分たちです。それに借り物の言葉じゃない…自分自身の言葉で、あなたにこの想いを伝えたいんです。」
「桜子さん…あなたが、好きです。これから僕と共に、生きてもらえませんか？」
びっくりしたような、呆けたような表情を浮かべた桜子だったが、すぐに辰郎の言葉を理解し目に涙をためながら何度も頷いた。
「では、私も…自分の言葉で言わせてください。私もあなたが好き。堪らなく好き。ずっとずっと一緒に…永遠に私の側にいてください。」
「これから、よろしくお願いします。桜子さんこそ、ずっと側にいてくださいね。」
そう言って彼女の血色のいい唇に誓いの口づけを落とす。
すると、桜子の顔に
頭上の桜に負けないほど華やかで、美しい笑顔の花が咲き乱れたのだった。
おしまい
14/04/10 22:29更新 / 松崎 ノス