後篇
目を覚ますと、見慣れぬ板張りの天井がぼやけた視界に映り込む。
半ば寝ぼけながら誠二郎は目を何度も瞬かせる。
だが当然のように目の前に広がる板目の杉材は変わることなく、黙って屋根の重みを一身に支えているだけだ。そのことに内心深い溜息をつきながら誠二郎はむくりと上半身を起き上がらせ、ゆっくりと周りに目を向ける。八畳ほどの広さ、その真ん中にある古めかしい囲炉裏、過剰な装飾が一切ない純朴で昔話に出てくるような部屋。誠二郎がこれまで一人で住んでいた、画一的でなんの面白みもないが使い勝手のいい安アパートの部屋とは全く違うこの部屋は、昨日茉莉に犯され連れてこられた彼女の家の一室だった。意識がだんだんと覚醒してくると、思い出したかのように冬の寒気に身が震え、誠二郎は与えられた厚手の半纏をより体に密着させつつのろのろと囲炉裏に近寄り体を温める。長い年月を感じさせる使い込まれた自在鉤が下がる火棚が設けられた囲炉裏には、炭が煌々と赤く燃えていた。手をかざすと、電気ストーブなどとは違う炭独特の暖かさがじんわりと体にしみこんでくる。
その感覚に思わず小さく声を漏らしながら体を弛緩させていると、突然目の前の引き戸ががらりと音を立てて開いた。
家主であり自分を攫った張本人である茉莉が、ぬうっと入ってくる。
暖を取り心地よさに体を弛緩させていた誠二郎は、すぐに体を固くして身構えてしまう。それも当然といえば当然だった。突然冬の寒空の中裸に剥かれ、精を搾り取られただけでは終わらず、山のどこにあるのかもわからない彼女の家に連れ込まれ力尽きるまで徹底的に犯されたのだ。そんな理不尽な言動をされておいて何も感じない人間はそういないのではないだろうか。
「…っ。」
だが誠二郎の体は警戒だけで硬くなっているわけではなかった。
連れてこられたこの家に着いた後、何度もセックスをし、まるで誠二郎の体に快楽を摺り込ませるかのように、長い時間をかけ彼女に愛撫を施された肉体は既に屈服してしまっていると認めざるを得ない。現に彼女が目の前に現れただけで緊張とは違う心の高鳴りが起き、無意識のうちに視線は惜しげもなくさらされる彼女の裸体に向き、切れ間なく続いた甘い刺激を再び味わうことを期待している。ざわざわとした黒い性欲が湧き上がってきて仕方がない。
しかしだからこそ彼女を望む肉体と、初対面であり理不尽ともいえる強引な手段をとる彼女を受け入れられない精神のギャップで誠二郎は動けなくなってしまっていた。
そんな誠二郎をちらりと一瞥した茉莉は、こちらに構うことなく手に持った鍋を自在鉤にかける。そして炉縁の上に白飯の入った茶碗や大根の漬物が盛り付けられた小皿、箸を置き、鍋の蓋を取って中身を木の椀によそい始めた。出汁に味噌を溶かし、肉や根菜、葉物を煮た汁物のいい香りが二人の間に立ち込める。彼女に攫われて以来何も口にしていなかったせいか、その滋養の高そうな料理を前にすると唾液が自然と溢れ、急に空腹を思い出した。するとそれまで不安や性欲で硬くなっていた体は急に息を吹き返してきたように活力が戻ってくる。それを見越したように茉莉が椀を誠二郎の目の前に置き短くつぶやいた。
「…飯だ。」
「………。」
「遠慮などするな。」
ぶっきら棒にそういった茉莉は、静かに手を合わせ食事を始める
「……いただきます。」。
一瞬だけ、この料理に何か入っているのではないかと勘繰ってしまったが、同じものを茉莉が食べているのだし、力も立場も自分に勝る彼女がわざわざそんなことをする意味がないとすぐに思い至った。それにこのまま無駄に抵抗して食事を拒否したとしても、自分が衰弱し状況がさらに悪化するだけ。何もいいことはない。誠二郎はおずおずと食事の挨拶をして箸と汁物に手を伸ばし、一口啜る。
「…美味しい」
思わず感想が口から出てしまった。
野菜の甘みや肉のうま味がやや塩気の強い味噌の味と混ざり合い、素朴ながらも滋味あふれる味わいが口の中に広がる。空腹だったこともあってか、一気に美味しさと汁物の温かみが体中に沁みていき、身体だけではなく心もほかほかと優しく解していく。誠二郎はそれまでの不安や感情をも飲み込んでいくかのように箸の動きを加速させて次々に料理を食べていった。その様子を横目でちらっと見た茉莉は、少しだけ目に温もりを浮かべながら誠二郎に声をかける。
「そうか。ならしっかり食え。お代りもある。」
「あ、ああ。」
「沢山食ってしっかり体力を養え。でないと体がもたんからな。」
「え?」
彼女の言葉から突然剣呑な雰囲気を感じ取った誠二郎が食事の手を止め、じっと茉莉を見つめると、彼女はその瞳にうっすらと淫靡な光を宿し、片方の口端をいやらしく釣り上げながら強い言葉で断言する。
「セックスだ。それ以外に何がある?」
「食事を終えたら、すぐにするぞ。」
「………。」
「分かったら食え。途中で倒れられてもしたら面倒だ。いいな?」
「…っ」
彼女の言葉で、目を背けていた現実を叩きつけられた。
久しぶりに摂った、しかも美味しい食事で得た幸せな気分が一瞬で霧散し、不安や緊張が心の奥底から再び噴き出していく。とてつもなく平凡で、貴重だなんて言うつもりはないが大切な日常を理不尽な力と快感で誠二郎から奪い去ったというのに、茉莉はまるでなにごともないような態度と言動をとり、平然と食事を再開する。そんな彼女に対し、ふつふつと怒りが込み上げてきた。
「なんで俺なんだよ…」
「…何が」
「なんで俺を襲ったのかって聞いてるんだよ!!」
「言っただろう」
彼女は面倒そうに少しため息を吐き言葉を続ける。
「お前がアタシにとって最高の獲物だからだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「信じられるか…」
「…なに?」
「お前と俺は初対面だった。お互いの人となりも、いや…名前すら知らなかったっていうのになぜそんなことが言えるんだ!!」
そして誠二郎は怒りに任せ、本音を茉莉に叩きつける。
「そんなこと言って本当は、誰だって…男だったら誰だってよかったんじゃないのかよ!!!」
「なん、だと…?」
茉莉は低く唸り声をあげた。
そしてそれまで態度を変えなかったのが嘘のように見る見るうちに顔を歪ませ、手足や耳、尻尾に生える黒々とした体毛を逆立て、そして炎のような赤い瞳に憤怒の色を浮かべる。普段の誠二郎なら怖気ついてしまうような威圧感を放つ彼女だが、怒りに任せて言葉を再びぶつける。
「何度だっていってやるよ。こんな山奥で住んでいるんだ。男なんてそうそう出会う機会なんてないんだろ?だから偶々この山に入った俺を捕まえて、適当に言い包めるつもりなんじゃないのか…ってうわ!?」
「………てめえ」
だが誠二郎の言葉は途中で遮られてしまった。
「ふざけるのも大概にしろ。」
というのも、目にもとまらぬ速さで接近した茉莉に胸倉をつかまれ、床に敷かれた畳の上に叩きつけられたからだ。そして初対面の時のように馬乗りにのしかかられ、鼻と鼻とが当たるほど顔を近づけ強い口調で言葉を吐き捨てられる。視界いっぱいに映る怒りの形相に震える茉莉の顔や彼女の言葉は、押し付けられる理不尽な現状に憤り滾っていた誠二郎をはっとさせるほど冷たく、そして厳しいものだった。
「その言葉を本気で言っているのなら…例え誠二郎であっても絶対に許さんぞ…」
「…え?」
「アタシが誰とでもこんなことをする阿婆擦れだと本気で思っているのか?」
「…そうじゃ、ないのか。」
殺気にも似た強い感情を向けられ、先ほどまでの勢いはどこに行ったのかというほど誠二郎は弱弱しく疑問の声をあげる。すると、ほんの少しだけその瞳に落胆の色を浮かべ茉莉は口を開いた。
「そんなわけが、あるかよ。」
「………。」
「魔物娘にとってみればセックスには色々な意味がある。だがその中でも最も大事なのはどんな種類の魔物娘だって同じ…体を許した男と子を作るって行為だ。女を孕ませればそれで終わりのお前たち男と違って、アタシたち女はこの身に子供を宿さなければならない。ともすれば男は女を征服したように勘違いしているがそうじゃあない。女が男を選んで子を孕んでやるんだ。なぜなら妊娠となれば子供のために血肉を分け、十月十日子宮で子供を守り育まなきゃいけねえ…女にとって大変な行為だからな。そんな途方もなく時間も労力もかかる行為を…望みもしない男の種でするほどアタシは悪趣味でも馬鹿でもない。」
「…え、望むって」
「アタシはな…お前以外とセックスする気なんざ、さらさらねえってことだよ。」
「!!」
彼女の熱っぽい言葉に、誠二郎は感じたことのない鼓動の高鳴りを感じた。
「誠二郎はさっき言ったな。何故初対面のお前とこんなことができるのかと。」
「……うん。」
「アタシのような獣人の魔物娘は人間なんぞとは比べようもないほど鼻が利く。平気で嘘をつき、人を裏切る言葉と違って体から放たれる匂いってのはその人間の本質をアタシに教えてくれる。アタシに言わせれば、長い時間をかけて交わされる無益な言葉よりも、一瞬でもその匂いを嗅ぐ方が何倍も有益だ。」
そういうと、茉莉はそっと鼻を押しつける。
「確かにアタシはこんな山奥に住んでいるが、それでも月に一度は必需品を買うために麓の町へ下りていく。そうすれば嫌でも独身の男どもと出会うことになる。だがな、どんなに格好つけていようが、どんなに着飾ろうが、どんなに笑みをその顔に貼り付けようが…どいつもこいつもアタシにとってみればそこらへんに生えている木と大差はない。だがお前は違う。」
「…。」
「お前の匂いを初めて嗅いだ時、アタシはお前を欲しいと思った。山に漂うお前の匂いを嗅ぐと、心が休まると同時に何としても自分のものにしたいと本能が叫んだ。こんな感情になったのは…お前だけだよ。極端に言ってしまえば、誠二郎がどんな容姿で、どんな声で、どんな性格であってもいいとさえ…そしてこの男となら子を成してもいい、と本心でそう思った。」
「……茉莉、さん」
「お前がこれまでどのように生きてきたのか、どういう恋愛観をもって生活してきたのか確かにアタシは何も知らない。だがそんなものは後々知ればいいだけの話だ。アタシから言わせれば、ちんたら恋愛ごっこなんざするよりも、自分の鼻で理解し求めたお前を他人に奪われないよう、骨の髄までアタシの魔力で染めてやる方がよっぽど大切だ。だからこそお前を出会ってすぐにレイプし、この家に連れ込んでからは誠二郎の体力が続く範囲で犯してやった。それなのに…」
「まるで売女のようにいわれるのは…我慢できないほど腹立たしい。」
そういうと茉莉は静かに上体をあげ、再びその声に反論を許さない厳しさと冷たさを籠める。
「誠二郎だからこそ、一度は我慢してやる。だが…二度目はないと思え。いいな?」
「…あ、ああ。」
「………ふんっ。」
慌てて頷くと、茉莉はそれ以上言及することなく黙って立ち上がり、先ほどまで座っていた場所に戻り食事を再開した。
「茉莉さん、その…ごめん。」
なんて馬鹿なんだろうと、自分でも思う。
目の前で何事もなかったかのように食事をする魔物娘は、突然自分に襲いかかり、自由も日常も全て奪った張本人だというのに。こんな平凡でどこにでもいそうな自分をここまで真っ直ぐに求めてくれることからくる嬉しさや、そんな彼女にひどいことを言ってしまった後悔を誠二郎は心の中に抱いていた。
「……もういい。」
「知らなかったとはいえ、あんなひどいことを言ったんだ…謝らないわけにはいかない」
「もういいといっているだろう。」
だがなんとか許してもらおうと口にする謝罪の言葉は、強い言葉で遮られる。
自分に非がある分、それ以上強く言い出すこともできず誠二郎ががっくりと肩を落とすと、先ほどの声色とは正反対の、暖かく優しさの込められた声で茉莉が話しかけてきた。
「しっかり飯を食って、セックスに備えろ。」
「え?」
「アタシのことを思うなら、少しでも体力を回復して…その体でアタシを愛せ。」
分かったなと、目を瞑りぶっきらぼうに会話を終えた茉莉は黙々と食事を続ける。
「…うん。」
それが彼女なりの優しさなのだと、今の誠二郎には理解できる。
そのことが堪らなく嬉しくて、胸にこみ上げる思いをなんとかこらえつつ誠二郎も食事を再開した。
「さっきも言ったが、お代りもあるからな。」
「うん、うん。」
「沢山、食え。」
「うん!!」
堪らなく嬉しいのに、なぜかこぼれる涙を誠二郎は止めることができず、ごまかすように勢いよく胃に食べ物を流し込んでいったのだった。
………………………………………
それからしばらく時間が経った。
「ねえ、茉莉さん。」
「今度は、なんだ。」
二人でしっかりと食事をとり、自主的に片づけを手伝った誠二郎は、囲炉裏の傍に敷かれた布団の上で今まさに何も身に着けていない裸の茉莉に食われる一歩手前であった。先ほどの会話で既に誠二郎が完全に自分のものになったことを誰よりも理解しているのか、茉莉は昨日のように無理矢理犯そうと強硬手段はせず、肌同士をかるく触れ合わせるようなそれまでにないスキンシップを織り交ぜた、ゆっくりとした愛撫をしている。それでも静止を求める獲物の声に、わずかに眉をひそめ茉莉はしぶしぶ動きを止めた。そんな彼女の態度になんだか可笑しさを覚えるが、笑っている場合ではないと気を引き締め自分の願いを口にする。
「お願いがあるんだ…その」
「?」
「もし、茉莉さんがよければ…俺にさせてくれないかな。ほら、昨日からずっと俺がされっぱなしでしょ?勿論、初めてだからうまくできるってわけじゃないかもしれないけど…。それでも自分にできることをしたいんだ!!」
「………。」
誠二郎の告白を聞いた茉莉は少しだけ眉をあげ、目を見張っていた。
そしてそのまま何も口にせず、じっと誠二郎を見つめるだけだ。いくら彼女の真意をしったからといって、調子に乗ってしてはいけないことをしてしまったと思った誠二郎は、慌てて謝ろうと口を開くが、彼女の無言の行動で制される。
「茉莉さんがい、いやならいいんだ。全く経験のない人間の愛撫なんていや…」
「やってみろ。」
「へ?」
それまで上に跨っていた茉莉はすっとわきによけ、大きな手を誠二郎の背に回し上体を起こす。そして顔をゆっくりと近づけ、甘い声で誘惑した。
「お前の心意気は、理解した。だからやってみろといっている。あと」
さんはつけず茉莉と呼べ、そういって茉莉は目を細めながらさらに顔を近づける
「…茉莉。」
「ああ。」
「茉莉!!」
「…ああ。」
彼女に自分が受け入れられたことで体が震え、思わず何度も彼女の名前を口にする。
その度に彼女は短く、だがすこしだけ感情を滲ませたような声で返事を返してくれた。それがさらに歓喜を増幅させ、誠二郎はその感情のままに行動し、ゆっくりと唇を重ねていった。
「茉莉…ん…っ…」
「誠、二郎…ちゅ…」
一度吸い付いた唇は、まるでそれが必然のように熱くお互いを求めあう。
それまで自分からキスなどしたことなどない誠二郎は、昨夜たっぷりと舐られた記憶を頼りにおずおずと舌を彼女に伸ばしていく。そして舌先でとんとんと軽く茉莉の口先をノックすると、ゆっくりと唇が開き彼女の甘い唾液が口に広がっていった。
ちゅぬるっ…ぬちゅ、ちゅぷ…ぬっちゅっ
「んっ、んっん!!」
「んむ♡ちゅぅ♡」
もっと茉莉を味わいたくて、誠二郎が少し大胆に彼女の口内に舌を伸ばす。
すると茉莉の舌は侵入してきた誠二郎の舌にまるで寄り添うように優しく絡みつき、案内するようにゆっくりと自分の口内を動き回った。その動きに従って彼女の尖った白い犬歯や奥歯を、子供が飴を舐るかのように一心に舐め、次第に彼女の口内にたまっていく二人の唾液が撹拌された液体を舌に擦り込むように卑猥な水音を立てながら絡める。昨日彼女に押し倒され何度も同じようにキスを茉莉としたはずなのに、心を通わせお互いを気持ちよくさせようと行うキスは格別だった。まさに甘く、蕩けるようなキスに二人は鼻息を荒くさせながら夢中になって堪能していった。
暫く、そのまま互いの心を溶かし合うような熱いキスを過ごしていた誠二郎が、そっと茉莉の胸に手を伸ばす。
ゆっくりと下から持ち上げるように乳房に触れてみる。
その行動は童貞といってもいい経験の無い誠二郎が偶々起こした行動ではあったが、触れられた茉莉はまんざらでもないらしく、重なる口からくぐもった喘ぎ声を漏らした。その反応に気を良くした誠二郎はキスと並行して胸への愛撫を開始する。
むにゅん、にゅぷ…ぬぷ…
彼女が動くたびにぶるんと揺れる豊胸は、予想以上に柔らかかった。
内部までみっちりと柔肉がつまり、ずしりと重みを手に伝える胸をそっと揉む。すると彼女の極上の胸はただ柔らかいだけではなく、手に反発するような張りと瑞々しさを誇っていた。その感触にある種の感動を覚えながら、それだけで相当な重さがありそうな胸を持ち上げゆっくりと揉みこんでいると、誠二郎の手が触れている茉莉の黒い肌がじんわりと汗で湿り始め、さらに密着し今までに感じたことのないような感触を届け始める。
「んぅっ♡!」
そうして胸を愛撫している最中、ひときわ強く茉莉が反応した。
何事かと思い手の感触に意識を集中すると、右手の指先にそれまでのもっちりとした感触とは違う、何か固いものに触れていることに気が付いた。彼女と唇が離れないよう気をつけながらそっと視線を下に向けると、そこには黒い肌に浮かぶ美しい桜色をした乳首が、より一層その色を濃くしながら身を固くしている。
「うっ…は、んん…♡」
「ん、んふ…」
試しに誠二郎は人差し指と親指で軽く乳首をつまんでみた。
するとその行動は彼女にとって正解だったらしく、甘く大きな声が絶えず漏れ出る。その様子に味をしめ、つまむだけではなく軽くよじったり、つまんだまま軽く左右に揺すったりと試行錯誤を繰り返していると、いよいよ軽い絶頂を迎えそうになったのか、茉莉は水音と唾液の橋を残して唇を離し、ゆっくりとその背をそらし快感に集中した。
「んっ……ふっ…あっ♡!」
その瞬間、今までにない力で乳首を摘み、指が埋まるほどの力で胸を握り締める。
すると茉莉はとっさに大きな手を誠二郎の背に回し力強く抱きしめながら、初めて与えられた誠二郎の能動的な快楽の波にその身を預けた。
「ふふ、ふふふ…」
「?」
それからしばらく誠二郎にしがみついていた茉莉が、突然笑い声を上げ始めた。
「やればできるじゃないか…本当に初めてなのか?」
「匂いで、わかるでしょ?」
「…それも、そうだな♡」
少しだけ、自虐的な笑みを浮かべゆっくりと腕の拘束を解いた茉莉がその身を布団の上に横たえる。冬だというのにうっすらと肌に汗を浮かべ、体から甘い体臭を立ち昇らせながら余韻に従い横たわる彼女はたまらなく美しく、そして可憐だった。だが彼女はわざとらしい憎まれ口を口にする。
「さあ、続きをやってみろ…童貞君♡?」
「うん。」
これまでとは逆に、ゆっくりと彼女の肢体に覆いかぶさっていく。
自分の下に横たわる茉莉は、これまで誠二郎がかなわない力で自由を封じ騎乗位でがむしゃらに自分を犯していた同一人物と思えないほど、女性的で儚く見えた。その姿を見て、暴走してしまいそうな心情をなんとか抑え、彼女の体に腕を伸ばしていく。
くちゅり…ぬちゅぬちゅ、ぬるっ
「んっ…ぅ……」
黒く触り心地のいい体毛を撫で、太腿をさかのぼり彼女の秘部に指が到達する。
まだ直接愛撫をしていないというのに、彼女の蜜壺は粘りつく湿気で覆われていた。それを指に絡めるようにゆっくりと撫で、そっと中指を割れ目に沈みこませる。すると熱く滾る性器はなんの抵抗もすることなくにゅるりと指を飲み込んでいく。誠二郎の指が挿入された途端、茉莉は喉の奥でくぐもるような甘い声をあげ、飲み込んだ中指を膣で甘く締め付ける。
「すごい、濡れてるよ…」
「ふ、ふっ…五月蠅い♡」
最初は緩やかに、挿入した中指を動かしてみる。
するとそれを歓迎するように茉莉の蜜壺は大量の愛液をごぷごぷと吐き出しながら奥へ奥へと飲み込んでいく。彼女から漏れ出た粘り白く泡立った愛液は、太腿から臀部に伝い何本も淫猥な川を作って垂れ、布団に甘い香りを放つ染みを作り出していた。自分がそうしたということに興奮し、思わず彼女を煽動するような言葉を投げかけると、茉莉はにやりと口端を釣り上げいやらしい笑みを浮かべたかと思うと、腕を伸ばして誠二郎の首に回し、逆らい難い力で自分の方へづっと引き寄せ唇に吸い付いてきた。
ちゅ、ちゅぷ…じゅぷじゅちゅ…
「ん、く…むちゅ、ん…」
「ちゅぅちゅっ…む、じゅ…♡」
もはやどちらの口から発しているのか分からない水音が、静かな室内に響き渡る。
指先を動かせば彼女の唇が熱心に吸い付き、彼女の舌の動きにこたえようと意識を向けると、逃がさないといわんばかりに膣が収縮し指を甘く愛撫する。
それからお互いの性感を高めるだけに上下の口で行われる駆け引きをたっぷり楽しんでいると、抱き付く腕の力を強め茉莉が一心不乱に体を擦り付けてきた。
「ん、むぅ♡!!」
そしてひときわ強く膣が指を締め付け、茉莉が体を硬直させたかと思うと、今までにないほど大きくびくんと体を震わせる。それは経験の無い誠二郎が見ても分かるほど、彼女が限界に達した証拠だった。自分の手で彼女にちゃんと奉仕できた喜びや、エクスタシーに震える彼女がなによりも可愛らしくてそっと体を抱きしめて、彼女の震えがおさまるのを待ってそっと囁く。
「茉莉、気持ちよかった?」
「…っ」
「ねえ」
「気に食わねえ…」
「えぇ?」
するとようやく快楽の波から戻ってきた彼女はその眼に煌々と欲望を燃やし、宝石のような朱い瞳をさらに強く輝かせながら、既に限界まで固く勃起した誠二郎のペニスをその手で掴んで凄む。
「アタシばっかじゃ気に食わない…さっさとお前もこいつを入れて、情けなく喘いでしまえっ」
「ふふ、わかったよ。」
「早く、しろ♡」
口では悪ぶっていても、自分をちゃんと求めてくれていることに再び喜びを感じつつ、陰茎を彼女の秘裂にあてがった。
「……行くよ。」
「ああ…」
にちゅ、ぐにゅう…ずちゅ、にゅむぅ…
そして一言彼女に声をかけ、剛直をゆっくりと挿入していく。
鈴口からとめどなく漏れ出る先走りと、彼女の膣全体から染み出るぬめった愛液が混じり合い、潤滑油となっていきり立つ男根を苦も無く飲み込んでいく。いまだに指一本をあれだけしっかりと締め付ける彼女の膣が、指よりもかなり太いペニスを飲み込む様はまるで淫猥なマジックでも見せられているような不思議な気分になる。だがそんな馬鹿な考えもすぐに思考の隅に飛び去っていくほど強烈な刺激が、挿入した瞬間誠二郎の体に襲いかかる。
「くぁっ、はっ…!!」
だがそれでも体に力を入れ、奥歯を食いしばってなんとかこらえる。
自分から挿入している、愛する彼女と初めて能動的にセックスをしているという気分の高揚がさらに誠二郎の快感を増幅していたせいもあってそれは大変だったが、なんとか踏ん張った。彼女の膣奥までその男根の全てを挿入した状態で何度か深呼吸をし、射精しないよう気を付ける。するとその様子を下から見つめていた茉莉が、これ以上ないほど楽しそうに口や目を吊り上げ、挑発する。
「なんだぁ〜その情けない面は♡」
「だって…」
「アタシを気持ちよくさせてくれるんじゃ、ないのかぁ?」
「くぅ…」
「挿入しただけじゃあ、無機質のバイブ以下だぞぉ〜♡」
「分かって、るよぉ!!」
ぐぷぅ、ぬ、ぬちゅぅ…
大きな声をあげて気合を入れ、腰を大きく振る。
ぎちぎちとペニスを逃がさないといわんばかりに吸い付いてくる襞や膣壁を力いっぱい引きはがし、ぎりぎりまで腰を引いた後、最奥に待ち構える子宮に亀頭を叩きつけるように腰を進めた。そして彼女に犯されていた時には想像もできなかった、亀頭の雁首で茉莉の膣をしごき上げていくイメージで一心不乱に突き上げる。
「んぅっ…あ、あぁ♡!!」
その動きを始めた途端、茉莉の喘ぎ声がトーンを上げ大きくなった。
向かい合い、再び互いを貪るように何度も口づけを交わす。舌を絡め、唾液を交換し、何度も何度も互いの愛を確かめあう。その間に誠二郎は理性を振り絞って射精を我慢しながら腰を振り、茉莉は手を首に回し、足を誠二郎の腰あたりに組みすこしでも多くその身を触れ合わせようと体を密着させる。
そんな二人に、限界が訪れた。
「くぅ…もう、だめ。出す、我慢…できない、よ!!」
「!!」
とうとう自制の聞かなくなった誠二郎の口から限界を告げる言葉が漏れると、茉莉は目を見開き今までにない力で誠二郎の体を抱き寄せたかと思うと、腰に回した足に力をこめペニスを最奥まで飲み込みつつ耳元で甘く囁いた。
「出せ♡出して…アタシを、孕ませてみろ♡」
ッビュ、ビュウ…ビュルル、びゅくっびゅくっ…
「ああああああああああぁっ!!!!」
「あ…は、き、たぁ♡!!!」
咆哮をあげ、魂まで吐き出すようにびくびくと体を痙攣させて射精する。
パンパンに膨らんだ亀頭が苦しげに震えたその時、茉莉はその瞬間を待っていたかのように、器用に膣壁や襞を蠢動させ、鈴口にべったりと子宮口を吸い付かせて精液を受け止めた。そして誠二郎のペニスがザーメンを吐き出した瞬間、茉莉も意思が白く飛び散らせて絶頂を迎えたのだった。
それは二人にとって気も遠くなるような、初めて経験した最高の瞬間に違いなかった。
誠二郎は無意識のうちに唇を重ね、茉莉はそれを嬉しそうに受け入れたのだった。
………………………………………
雄の本能とでも言うのだろうか。
子種の一滴でさえ彼女の子宮に収めようと執拗に腰を押し付け、全てを吐き出す射精はそれまで経験したことがないほど気持ちがよかった。誠二郎は半ば自我がなくなってしまうのではないかと思うほど強烈な快感がいつまでも引かず、ぐったりと体を弛緩させて茉莉の上にもたれかかる。
「茉莉…」
射精しても緩むどころか、さらに精液を強請るように蠢く性器や彼女の性欲の深さに驚きつつ、そっと名前を口にする。
「…くっくく。誠二郎ォ〜♡」
だが弱弱しい誠二郎の口調とは対照的に、茉莉の口調は溌剌としていた。
「な、なに!?」
「気持ち、よかったぞ。」
「…え?」
彼女の、素直に自分を褒める言葉に思わず呆然としてしまう。
聞き間違えかと思ったが、どうやらこれは現実のことらしく、目の前で笑う彼女の美しい笑顔を見ると、少し前に自分が犯してしまった間違えを少しでも贖罪できたのではないだろうかと、そんな気分がこみ上げてくる。だが、そんな甘い妄想に逃げることを目の前の魔物娘は許すはずもなく…
「ま、前座としては合格だな♡」
「うわっ、ちょ…ええ!?
完全に油断していた誠二郎はあっという間に体位を入れ替えられ、昨夜と同じように茉莉に組み敷かれてしまった。茉莉はそうして獲物を仕留めたことによって悪魔のような笑みを浮かべつつ、ゆっくりと迫る。
「当然といえばそうだがアタシに奉仕してくれたその礼も兼ねてこれからしっかり、アタシの本気をお前の体に改めて教えてやるから、な♡」
「ま、待って…」
「その頼みは、聞けねえなあ。なんてたって…」
私たちを従わせることは、神だってできないんだからよ♡
そう言って素早く誠二郎の頬にキスを落としたかと思うと、茉莉は猛然と腰を振り始める。
こうして心も体も結ばれた二人にとって忘れられない一日が、ゆっくりと過ぎ去っていくのだった。
半ば寝ぼけながら誠二郎は目を何度も瞬かせる。
だが当然のように目の前に広がる板目の杉材は変わることなく、黙って屋根の重みを一身に支えているだけだ。そのことに内心深い溜息をつきながら誠二郎はむくりと上半身を起き上がらせ、ゆっくりと周りに目を向ける。八畳ほどの広さ、その真ん中にある古めかしい囲炉裏、過剰な装飾が一切ない純朴で昔話に出てくるような部屋。誠二郎がこれまで一人で住んでいた、画一的でなんの面白みもないが使い勝手のいい安アパートの部屋とは全く違うこの部屋は、昨日茉莉に犯され連れてこられた彼女の家の一室だった。意識がだんだんと覚醒してくると、思い出したかのように冬の寒気に身が震え、誠二郎は与えられた厚手の半纏をより体に密着させつつのろのろと囲炉裏に近寄り体を温める。長い年月を感じさせる使い込まれた自在鉤が下がる火棚が設けられた囲炉裏には、炭が煌々と赤く燃えていた。手をかざすと、電気ストーブなどとは違う炭独特の暖かさがじんわりと体にしみこんでくる。
その感覚に思わず小さく声を漏らしながら体を弛緩させていると、突然目の前の引き戸ががらりと音を立てて開いた。
家主であり自分を攫った張本人である茉莉が、ぬうっと入ってくる。
暖を取り心地よさに体を弛緩させていた誠二郎は、すぐに体を固くして身構えてしまう。それも当然といえば当然だった。突然冬の寒空の中裸に剥かれ、精を搾り取られただけでは終わらず、山のどこにあるのかもわからない彼女の家に連れ込まれ力尽きるまで徹底的に犯されたのだ。そんな理不尽な言動をされておいて何も感じない人間はそういないのではないだろうか。
「…っ。」
だが誠二郎の体は警戒だけで硬くなっているわけではなかった。
連れてこられたこの家に着いた後、何度もセックスをし、まるで誠二郎の体に快楽を摺り込ませるかのように、長い時間をかけ彼女に愛撫を施された肉体は既に屈服してしまっていると認めざるを得ない。現に彼女が目の前に現れただけで緊張とは違う心の高鳴りが起き、無意識のうちに視線は惜しげもなくさらされる彼女の裸体に向き、切れ間なく続いた甘い刺激を再び味わうことを期待している。ざわざわとした黒い性欲が湧き上がってきて仕方がない。
しかしだからこそ彼女を望む肉体と、初対面であり理不尽ともいえる強引な手段をとる彼女を受け入れられない精神のギャップで誠二郎は動けなくなってしまっていた。
そんな誠二郎をちらりと一瞥した茉莉は、こちらに構うことなく手に持った鍋を自在鉤にかける。そして炉縁の上に白飯の入った茶碗や大根の漬物が盛り付けられた小皿、箸を置き、鍋の蓋を取って中身を木の椀によそい始めた。出汁に味噌を溶かし、肉や根菜、葉物を煮た汁物のいい香りが二人の間に立ち込める。彼女に攫われて以来何も口にしていなかったせいか、その滋養の高そうな料理を前にすると唾液が自然と溢れ、急に空腹を思い出した。するとそれまで不安や性欲で硬くなっていた体は急に息を吹き返してきたように活力が戻ってくる。それを見越したように茉莉が椀を誠二郎の目の前に置き短くつぶやいた。
「…飯だ。」
「………。」
「遠慮などするな。」
ぶっきら棒にそういった茉莉は、静かに手を合わせ食事を始める
「……いただきます。」。
一瞬だけ、この料理に何か入っているのではないかと勘繰ってしまったが、同じものを茉莉が食べているのだし、力も立場も自分に勝る彼女がわざわざそんなことをする意味がないとすぐに思い至った。それにこのまま無駄に抵抗して食事を拒否したとしても、自分が衰弱し状況がさらに悪化するだけ。何もいいことはない。誠二郎はおずおずと食事の挨拶をして箸と汁物に手を伸ばし、一口啜る。
「…美味しい」
思わず感想が口から出てしまった。
野菜の甘みや肉のうま味がやや塩気の強い味噌の味と混ざり合い、素朴ながらも滋味あふれる味わいが口の中に広がる。空腹だったこともあってか、一気に美味しさと汁物の温かみが体中に沁みていき、身体だけではなく心もほかほかと優しく解していく。誠二郎はそれまでの不安や感情をも飲み込んでいくかのように箸の動きを加速させて次々に料理を食べていった。その様子を横目でちらっと見た茉莉は、少しだけ目に温もりを浮かべながら誠二郎に声をかける。
「そうか。ならしっかり食え。お代りもある。」
「あ、ああ。」
「沢山食ってしっかり体力を養え。でないと体がもたんからな。」
「え?」
彼女の言葉から突然剣呑な雰囲気を感じ取った誠二郎が食事の手を止め、じっと茉莉を見つめると、彼女はその瞳にうっすらと淫靡な光を宿し、片方の口端をいやらしく釣り上げながら強い言葉で断言する。
「セックスだ。それ以外に何がある?」
「食事を終えたら、すぐにするぞ。」
「………。」
「分かったら食え。途中で倒れられてもしたら面倒だ。いいな?」
「…っ」
彼女の言葉で、目を背けていた現実を叩きつけられた。
久しぶりに摂った、しかも美味しい食事で得た幸せな気分が一瞬で霧散し、不安や緊張が心の奥底から再び噴き出していく。とてつもなく平凡で、貴重だなんて言うつもりはないが大切な日常を理不尽な力と快感で誠二郎から奪い去ったというのに、茉莉はまるでなにごともないような態度と言動をとり、平然と食事を再開する。そんな彼女に対し、ふつふつと怒りが込み上げてきた。
「なんで俺なんだよ…」
「…何が」
「なんで俺を襲ったのかって聞いてるんだよ!!」
「言っただろう」
彼女は面倒そうに少しため息を吐き言葉を続ける。
「お前がアタシにとって最高の獲物だからだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「信じられるか…」
「…なに?」
「お前と俺は初対面だった。お互いの人となりも、いや…名前すら知らなかったっていうのになぜそんなことが言えるんだ!!」
そして誠二郎は怒りに任せ、本音を茉莉に叩きつける。
「そんなこと言って本当は、誰だって…男だったら誰だってよかったんじゃないのかよ!!!」
「なん、だと…?」
茉莉は低く唸り声をあげた。
そしてそれまで態度を変えなかったのが嘘のように見る見るうちに顔を歪ませ、手足や耳、尻尾に生える黒々とした体毛を逆立て、そして炎のような赤い瞳に憤怒の色を浮かべる。普段の誠二郎なら怖気ついてしまうような威圧感を放つ彼女だが、怒りに任せて言葉を再びぶつける。
「何度だっていってやるよ。こんな山奥で住んでいるんだ。男なんてそうそう出会う機会なんてないんだろ?だから偶々この山に入った俺を捕まえて、適当に言い包めるつもりなんじゃないのか…ってうわ!?」
「………てめえ」
だが誠二郎の言葉は途中で遮られてしまった。
「ふざけるのも大概にしろ。」
というのも、目にもとまらぬ速さで接近した茉莉に胸倉をつかまれ、床に敷かれた畳の上に叩きつけられたからだ。そして初対面の時のように馬乗りにのしかかられ、鼻と鼻とが当たるほど顔を近づけ強い口調で言葉を吐き捨てられる。視界いっぱいに映る怒りの形相に震える茉莉の顔や彼女の言葉は、押し付けられる理不尽な現状に憤り滾っていた誠二郎をはっとさせるほど冷たく、そして厳しいものだった。
「その言葉を本気で言っているのなら…例え誠二郎であっても絶対に許さんぞ…」
「…え?」
「アタシが誰とでもこんなことをする阿婆擦れだと本気で思っているのか?」
「…そうじゃ、ないのか。」
殺気にも似た強い感情を向けられ、先ほどまでの勢いはどこに行ったのかというほど誠二郎は弱弱しく疑問の声をあげる。すると、ほんの少しだけその瞳に落胆の色を浮かべ茉莉は口を開いた。
「そんなわけが、あるかよ。」
「………。」
「魔物娘にとってみればセックスには色々な意味がある。だがその中でも最も大事なのはどんな種類の魔物娘だって同じ…体を許した男と子を作るって行為だ。女を孕ませればそれで終わりのお前たち男と違って、アタシたち女はこの身に子供を宿さなければならない。ともすれば男は女を征服したように勘違いしているがそうじゃあない。女が男を選んで子を孕んでやるんだ。なぜなら妊娠となれば子供のために血肉を分け、十月十日子宮で子供を守り育まなきゃいけねえ…女にとって大変な行為だからな。そんな途方もなく時間も労力もかかる行為を…望みもしない男の種でするほどアタシは悪趣味でも馬鹿でもない。」
「…え、望むって」
「アタシはな…お前以外とセックスする気なんざ、さらさらねえってことだよ。」
「!!」
彼女の熱っぽい言葉に、誠二郎は感じたことのない鼓動の高鳴りを感じた。
「誠二郎はさっき言ったな。何故初対面のお前とこんなことができるのかと。」
「……うん。」
「アタシのような獣人の魔物娘は人間なんぞとは比べようもないほど鼻が利く。平気で嘘をつき、人を裏切る言葉と違って体から放たれる匂いってのはその人間の本質をアタシに教えてくれる。アタシに言わせれば、長い時間をかけて交わされる無益な言葉よりも、一瞬でもその匂いを嗅ぐ方が何倍も有益だ。」
そういうと、茉莉はそっと鼻を押しつける。
「確かにアタシはこんな山奥に住んでいるが、それでも月に一度は必需品を買うために麓の町へ下りていく。そうすれば嫌でも独身の男どもと出会うことになる。だがな、どんなに格好つけていようが、どんなに着飾ろうが、どんなに笑みをその顔に貼り付けようが…どいつもこいつもアタシにとってみればそこらへんに生えている木と大差はない。だがお前は違う。」
「…。」
「お前の匂いを初めて嗅いだ時、アタシはお前を欲しいと思った。山に漂うお前の匂いを嗅ぐと、心が休まると同時に何としても自分のものにしたいと本能が叫んだ。こんな感情になったのは…お前だけだよ。極端に言ってしまえば、誠二郎がどんな容姿で、どんな声で、どんな性格であってもいいとさえ…そしてこの男となら子を成してもいい、と本心でそう思った。」
「……茉莉、さん」
「お前がこれまでどのように生きてきたのか、どういう恋愛観をもって生活してきたのか確かにアタシは何も知らない。だがそんなものは後々知ればいいだけの話だ。アタシから言わせれば、ちんたら恋愛ごっこなんざするよりも、自分の鼻で理解し求めたお前を他人に奪われないよう、骨の髄までアタシの魔力で染めてやる方がよっぽど大切だ。だからこそお前を出会ってすぐにレイプし、この家に連れ込んでからは誠二郎の体力が続く範囲で犯してやった。それなのに…」
「まるで売女のようにいわれるのは…我慢できないほど腹立たしい。」
そういうと茉莉は静かに上体をあげ、再びその声に反論を許さない厳しさと冷たさを籠める。
「誠二郎だからこそ、一度は我慢してやる。だが…二度目はないと思え。いいな?」
「…あ、ああ。」
「………ふんっ。」
慌てて頷くと、茉莉はそれ以上言及することなく黙って立ち上がり、先ほどまで座っていた場所に戻り食事を再開した。
「茉莉さん、その…ごめん。」
なんて馬鹿なんだろうと、自分でも思う。
目の前で何事もなかったかのように食事をする魔物娘は、突然自分に襲いかかり、自由も日常も全て奪った張本人だというのに。こんな平凡でどこにでもいそうな自分をここまで真っ直ぐに求めてくれることからくる嬉しさや、そんな彼女にひどいことを言ってしまった後悔を誠二郎は心の中に抱いていた。
「……もういい。」
「知らなかったとはいえ、あんなひどいことを言ったんだ…謝らないわけにはいかない」
「もういいといっているだろう。」
だがなんとか許してもらおうと口にする謝罪の言葉は、強い言葉で遮られる。
自分に非がある分、それ以上強く言い出すこともできず誠二郎ががっくりと肩を落とすと、先ほどの声色とは正反対の、暖かく優しさの込められた声で茉莉が話しかけてきた。
「しっかり飯を食って、セックスに備えろ。」
「え?」
「アタシのことを思うなら、少しでも体力を回復して…その体でアタシを愛せ。」
分かったなと、目を瞑りぶっきらぼうに会話を終えた茉莉は黙々と食事を続ける。
「…うん。」
それが彼女なりの優しさなのだと、今の誠二郎には理解できる。
そのことが堪らなく嬉しくて、胸にこみ上げる思いをなんとかこらえつつ誠二郎も食事を再開した。
「さっきも言ったが、お代りもあるからな。」
「うん、うん。」
「沢山、食え。」
「うん!!」
堪らなく嬉しいのに、なぜかこぼれる涙を誠二郎は止めることができず、ごまかすように勢いよく胃に食べ物を流し込んでいったのだった。
………………………………………
それからしばらく時間が経った。
「ねえ、茉莉さん。」
「今度は、なんだ。」
二人でしっかりと食事をとり、自主的に片づけを手伝った誠二郎は、囲炉裏の傍に敷かれた布団の上で今まさに何も身に着けていない裸の茉莉に食われる一歩手前であった。先ほどの会話で既に誠二郎が完全に自分のものになったことを誰よりも理解しているのか、茉莉は昨日のように無理矢理犯そうと強硬手段はせず、肌同士をかるく触れ合わせるようなそれまでにないスキンシップを織り交ぜた、ゆっくりとした愛撫をしている。それでも静止を求める獲物の声に、わずかに眉をひそめ茉莉はしぶしぶ動きを止めた。そんな彼女の態度になんだか可笑しさを覚えるが、笑っている場合ではないと気を引き締め自分の願いを口にする。
「お願いがあるんだ…その」
「?」
「もし、茉莉さんがよければ…俺にさせてくれないかな。ほら、昨日からずっと俺がされっぱなしでしょ?勿論、初めてだからうまくできるってわけじゃないかもしれないけど…。それでも自分にできることをしたいんだ!!」
「………。」
誠二郎の告白を聞いた茉莉は少しだけ眉をあげ、目を見張っていた。
そしてそのまま何も口にせず、じっと誠二郎を見つめるだけだ。いくら彼女の真意をしったからといって、調子に乗ってしてはいけないことをしてしまったと思った誠二郎は、慌てて謝ろうと口を開くが、彼女の無言の行動で制される。
「茉莉さんがい、いやならいいんだ。全く経験のない人間の愛撫なんていや…」
「やってみろ。」
「へ?」
それまで上に跨っていた茉莉はすっとわきによけ、大きな手を誠二郎の背に回し上体を起こす。そして顔をゆっくりと近づけ、甘い声で誘惑した。
「お前の心意気は、理解した。だからやってみろといっている。あと」
さんはつけず茉莉と呼べ、そういって茉莉は目を細めながらさらに顔を近づける
「…茉莉。」
「ああ。」
「茉莉!!」
「…ああ。」
彼女に自分が受け入れられたことで体が震え、思わず何度も彼女の名前を口にする。
その度に彼女は短く、だがすこしだけ感情を滲ませたような声で返事を返してくれた。それがさらに歓喜を増幅させ、誠二郎はその感情のままに行動し、ゆっくりと唇を重ねていった。
「茉莉…ん…っ…」
「誠、二郎…ちゅ…」
一度吸い付いた唇は、まるでそれが必然のように熱くお互いを求めあう。
それまで自分からキスなどしたことなどない誠二郎は、昨夜たっぷりと舐られた記憶を頼りにおずおずと舌を彼女に伸ばしていく。そして舌先でとんとんと軽く茉莉の口先をノックすると、ゆっくりと唇が開き彼女の甘い唾液が口に広がっていった。
ちゅぬるっ…ぬちゅ、ちゅぷ…ぬっちゅっ
「んっ、んっん!!」
「んむ♡ちゅぅ♡」
もっと茉莉を味わいたくて、誠二郎が少し大胆に彼女の口内に舌を伸ばす。
すると茉莉の舌は侵入してきた誠二郎の舌にまるで寄り添うように優しく絡みつき、案内するようにゆっくりと自分の口内を動き回った。その動きに従って彼女の尖った白い犬歯や奥歯を、子供が飴を舐るかのように一心に舐め、次第に彼女の口内にたまっていく二人の唾液が撹拌された液体を舌に擦り込むように卑猥な水音を立てながら絡める。昨日彼女に押し倒され何度も同じようにキスを茉莉としたはずなのに、心を通わせお互いを気持ちよくさせようと行うキスは格別だった。まさに甘く、蕩けるようなキスに二人は鼻息を荒くさせながら夢中になって堪能していった。
暫く、そのまま互いの心を溶かし合うような熱いキスを過ごしていた誠二郎が、そっと茉莉の胸に手を伸ばす。
ゆっくりと下から持ち上げるように乳房に触れてみる。
その行動は童貞といってもいい経験の無い誠二郎が偶々起こした行動ではあったが、触れられた茉莉はまんざらでもないらしく、重なる口からくぐもった喘ぎ声を漏らした。その反応に気を良くした誠二郎はキスと並行して胸への愛撫を開始する。
むにゅん、にゅぷ…ぬぷ…
彼女が動くたびにぶるんと揺れる豊胸は、予想以上に柔らかかった。
内部までみっちりと柔肉がつまり、ずしりと重みを手に伝える胸をそっと揉む。すると彼女の極上の胸はただ柔らかいだけではなく、手に反発するような張りと瑞々しさを誇っていた。その感触にある種の感動を覚えながら、それだけで相当な重さがありそうな胸を持ち上げゆっくりと揉みこんでいると、誠二郎の手が触れている茉莉の黒い肌がじんわりと汗で湿り始め、さらに密着し今までに感じたことのないような感触を届け始める。
「んぅっ♡!」
そうして胸を愛撫している最中、ひときわ強く茉莉が反応した。
何事かと思い手の感触に意識を集中すると、右手の指先にそれまでのもっちりとした感触とは違う、何か固いものに触れていることに気が付いた。彼女と唇が離れないよう気をつけながらそっと視線を下に向けると、そこには黒い肌に浮かぶ美しい桜色をした乳首が、より一層その色を濃くしながら身を固くしている。
「うっ…は、んん…♡」
「ん、んふ…」
試しに誠二郎は人差し指と親指で軽く乳首をつまんでみた。
するとその行動は彼女にとって正解だったらしく、甘く大きな声が絶えず漏れ出る。その様子に味をしめ、つまむだけではなく軽くよじったり、つまんだまま軽く左右に揺すったりと試行錯誤を繰り返していると、いよいよ軽い絶頂を迎えそうになったのか、茉莉は水音と唾液の橋を残して唇を離し、ゆっくりとその背をそらし快感に集中した。
「んっ……ふっ…あっ♡!」
その瞬間、今までにない力で乳首を摘み、指が埋まるほどの力で胸を握り締める。
すると茉莉はとっさに大きな手を誠二郎の背に回し力強く抱きしめながら、初めて与えられた誠二郎の能動的な快楽の波にその身を預けた。
「ふふ、ふふふ…」
「?」
それからしばらく誠二郎にしがみついていた茉莉が、突然笑い声を上げ始めた。
「やればできるじゃないか…本当に初めてなのか?」
「匂いで、わかるでしょ?」
「…それも、そうだな♡」
少しだけ、自虐的な笑みを浮かべゆっくりと腕の拘束を解いた茉莉がその身を布団の上に横たえる。冬だというのにうっすらと肌に汗を浮かべ、体から甘い体臭を立ち昇らせながら余韻に従い横たわる彼女はたまらなく美しく、そして可憐だった。だが彼女はわざとらしい憎まれ口を口にする。
「さあ、続きをやってみろ…童貞君♡?」
「うん。」
これまでとは逆に、ゆっくりと彼女の肢体に覆いかぶさっていく。
自分の下に横たわる茉莉は、これまで誠二郎がかなわない力で自由を封じ騎乗位でがむしゃらに自分を犯していた同一人物と思えないほど、女性的で儚く見えた。その姿を見て、暴走してしまいそうな心情をなんとか抑え、彼女の体に腕を伸ばしていく。
くちゅり…ぬちゅぬちゅ、ぬるっ
「んっ…ぅ……」
黒く触り心地のいい体毛を撫で、太腿をさかのぼり彼女の秘部に指が到達する。
まだ直接愛撫をしていないというのに、彼女の蜜壺は粘りつく湿気で覆われていた。それを指に絡めるようにゆっくりと撫で、そっと中指を割れ目に沈みこませる。すると熱く滾る性器はなんの抵抗もすることなくにゅるりと指を飲み込んでいく。誠二郎の指が挿入された途端、茉莉は喉の奥でくぐもるような甘い声をあげ、飲み込んだ中指を膣で甘く締め付ける。
「すごい、濡れてるよ…」
「ふ、ふっ…五月蠅い♡」
最初は緩やかに、挿入した中指を動かしてみる。
するとそれを歓迎するように茉莉の蜜壺は大量の愛液をごぷごぷと吐き出しながら奥へ奥へと飲み込んでいく。彼女から漏れ出た粘り白く泡立った愛液は、太腿から臀部に伝い何本も淫猥な川を作って垂れ、布団に甘い香りを放つ染みを作り出していた。自分がそうしたということに興奮し、思わず彼女を煽動するような言葉を投げかけると、茉莉はにやりと口端を釣り上げいやらしい笑みを浮かべたかと思うと、腕を伸ばして誠二郎の首に回し、逆らい難い力で自分の方へづっと引き寄せ唇に吸い付いてきた。
ちゅ、ちゅぷ…じゅぷじゅちゅ…
「ん、く…むちゅ、ん…」
「ちゅぅちゅっ…む、じゅ…♡」
もはやどちらの口から発しているのか分からない水音が、静かな室内に響き渡る。
指先を動かせば彼女の唇が熱心に吸い付き、彼女の舌の動きにこたえようと意識を向けると、逃がさないといわんばかりに膣が収縮し指を甘く愛撫する。
それからお互いの性感を高めるだけに上下の口で行われる駆け引きをたっぷり楽しんでいると、抱き付く腕の力を強め茉莉が一心不乱に体を擦り付けてきた。
「ん、むぅ♡!!」
そしてひときわ強く膣が指を締め付け、茉莉が体を硬直させたかと思うと、今までにないほど大きくびくんと体を震わせる。それは経験の無い誠二郎が見ても分かるほど、彼女が限界に達した証拠だった。自分の手で彼女にちゃんと奉仕できた喜びや、エクスタシーに震える彼女がなによりも可愛らしくてそっと体を抱きしめて、彼女の震えがおさまるのを待ってそっと囁く。
「茉莉、気持ちよかった?」
「…っ」
「ねえ」
「気に食わねえ…」
「えぇ?」
するとようやく快楽の波から戻ってきた彼女はその眼に煌々と欲望を燃やし、宝石のような朱い瞳をさらに強く輝かせながら、既に限界まで固く勃起した誠二郎のペニスをその手で掴んで凄む。
「アタシばっかじゃ気に食わない…さっさとお前もこいつを入れて、情けなく喘いでしまえっ」
「ふふ、わかったよ。」
「早く、しろ♡」
口では悪ぶっていても、自分をちゃんと求めてくれていることに再び喜びを感じつつ、陰茎を彼女の秘裂にあてがった。
「……行くよ。」
「ああ…」
にちゅ、ぐにゅう…ずちゅ、にゅむぅ…
そして一言彼女に声をかけ、剛直をゆっくりと挿入していく。
鈴口からとめどなく漏れ出る先走りと、彼女の膣全体から染み出るぬめった愛液が混じり合い、潤滑油となっていきり立つ男根を苦も無く飲み込んでいく。いまだに指一本をあれだけしっかりと締め付ける彼女の膣が、指よりもかなり太いペニスを飲み込む様はまるで淫猥なマジックでも見せられているような不思議な気分になる。だがそんな馬鹿な考えもすぐに思考の隅に飛び去っていくほど強烈な刺激が、挿入した瞬間誠二郎の体に襲いかかる。
「くぁっ、はっ…!!」
だがそれでも体に力を入れ、奥歯を食いしばってなんとかこらえる。
自分から挿入している、愛する彼女と初めて能動的にセックスをしているという気分の高揚がさらに誠二郎の快感を増幅していたせいもあってそれは大変だったが、なんとか踏ん張った。彼女の膣奥までその男根の全てを挿入した状態で何度か深呼吸をし、射精しないよう気を付ける。するとその様子を下から見つめていた茉莉が、これ以上ないほど楽しそうに口や目を吊り上げ、挑発する。
「なんだぁ〜その情けない面は♡」
「だって…」
「アタシを気持ちよくさせてくれるんじゃ、ないのかぁ?」
「くぅ…」
「挿入しただけじゃあ、無機質のバイブ以下だぞぉ〜♡」
「分かって、るよぉ!!」
ぐぷぅ、ぬ、ぬちゅぅ…
大きな声をあげて気合を入れ、腰を大きく振る。
ぎちぎちとペニスを逃がさないといわんばかりに吸い付いてくる襞や膣壁を力いっぱい引きはがし、ぎりぎりまで腰を引いた後、最奥に待ち構える子宮に亀頭を叩きつけるように腰を進めた。そして彼女に犯されていた時には想像もできなかった、亀頭の雁首で茉莉の膣をしごき上げていくイメージで一心不乱に突き上げる。
「んぅっ…あ、あぁ♡!!」
その動きを始めた途端、茉莉の喘ぎ声がトーンを上げ大きくなった。
向かい合い、再び互いを貪るように何度も口づけを交わす。舌を絡め、唾液を交換し、何度も何度も互いの愛を確かめあう。その間に誠二郎は理性を振り絞って射精を我慢しながら腰を振り、茉莉は手を首に回し、足を誠二郎の腰あたりに組みすこしでも多くその身を触れ合わせようと体を密着させる。
そんな二人に、限界が訪れた。
「くぅ…もう、だめ。出す、我慢…できない、よ!!」
「!!」
とうとう自制の聞かなくなった誠二郎の口から限界を告げる言葉が漏れると、茉莉は目を見開き今までにない力で誠二郎の体を抱き寄せたかと思うと、腰に回した足に力をこめペニスを最奥まで飲み込みつつ耳元で甘く囁いた。
「出せ♡出して…アタシを、孕ませてみろ♡」
ッビュ、ビュウ…ビュルル、びゅくっびゅくっ…
「ああああああああああぁっ!!!!」
「あ…は、き、たぁ♡!!!」
咆哮をあげ、魂まで吐き出すようにびくびくと体を痙攣させて射精する。
パンパンに膨らんだ亀頭が苦しげに震えたその時、茉莉はその瞬間を待っていたかのように、器用に膣壁や襞を蠢動させ、鈴口にべったりと子宮口を吸い付かせて精液を受け止めた。そして誠二郎のペニスがザーメンを吐き出した瞬間、茉莉も意思が白く飛び散らせて絶頂を迎えたのだった。
それは二人にとって気も遠くなるような、初めて経験した最高の瞬間に違いなかった。
誠二郎は無意識のうちに唇を重ね、茉莉はそれを嬉しそうに受け入れたのだった。
………………………………………
雄の本能とでも言うのだろうか。
子種の一滴でさえ彼女の子宮に収めようと執拗に腰を押し付け、全てを吐き出す射精はそれまで経験したことがないほど気持ちがよかった。誠二郎は半ば自我がなくなってしまうのではないかと思うほど強烈な快感がいつまでも引かず、ぐったりと体を弛緩させて茉莉の上にもたれかかる。
「茉莉…」
射精しても緩むどころか、さらに精液を強請るように蠢く性器や彼女の性欲の深さに驚きつつ、そっと名前を口にする。
「…くっくく。誠二郎ォ〜♡」
だが弱弱しい誠二郎の口調とは対照的に、茉莉の口調は溌剌としていた。
「な、なに!?」
「気持ち、よかったぞ。」
「…え?」
彼女の、素直に自分を褒める言葉に思わず呆然としてしまう。
聞き間違えかと思ったが、どうやらこれは現実のことらしく、目の前で笑う彼女の美しい笑顔を見ると、少し前に自分が犯してしまった間違えを少しでも贖罪できたのではないだろうかと、そんな気分がこみ上げてくる。だが、そんな甘い妄想に逃げることを目の前の魔物娘は許すはずもなく…
「ま、前座としては合格だな♡」
「うわっ、ちょ…ええ!?
完全に油断していた誠二郎はあっという間に体位を入れ替えられ、昨夜と同じように茉莉に組み敷かれてしまった。茉莉はそうして獲物を仕留めたことによって悪魔のような笑みを浮かべつつ、ゆっくりと迫る。
「当然といえばそうだがアタシに奉仕してくれたその礼も兼ねてこれからしっかり、アタシの本気をお前の体に改めて教えてやるから、な♡」
「ま、待って…」
「その頼みは、聞けねえなあ。なんてたって…」
私たちを従わせることは、神だってできないんだからよ♡
そう言って素早く誠二郎の頬にキスを落としたかと思うと、茉莉は猛然と腰を振り始める。
こうして心も体も結ばれた二人にとって忘れられない一日が、ゆっくりと過ぎ去っていくのだった。
14/12/22 23:15更新 / 松崎 ノス
戻る
次へ