前篇
匂いが、した。
紅葉が終わりを迎え、風が一層冷たくなった冬の山の中に匂いたつそれは、まるで春が訪れ力強くその命を芽吹かせる木々が放つような、むせ返るほど生命力に溢れた香りだった。
体の芯が熱くなるのを感じる。
荒く吐き出される息は白く、肌に触れる空気はひんやりと冷たい。だがそれを忘れさせるほど、自分の臓腑が滾っているのを自覚する。
震える気持ちを抑え、長めの舌でペロリと鼻先を舐める。
水気を帯び、さらに敏感になった嗅覚がその芳香を放つ存在の在りかを教えてくれる。どうやら思った以上に遠くではないらしい。
その瞬間、身体は動き出す。
大地を蹴り、宙を跳ね、信じられない速度で躍動する。まるで仏舎利を取り戻す韋駄天のように、全ての神経をその方向に向けてただただ森を走り抜ける。
全ては己の欲を満たすために。
………………………………………
「聞いた話だと、こんなに時間はかからないはずなんだがなあ…」
三木誠二郎は、軽く息を乱しながらあたりを見回した。
目に映るのは長年人の手が入っていない、厳しい生存競争を繰り返して形成された、低木が少なく日の光のあまり届かない大きな常緑樹が生える鬱蒼とした森。耳に聞こえてくるのは微かな風で木々の枝が揺れる音や長閑な野鳥の声ばかり。誠二郎は現在、地元の人間もそう頻繁に足を踏み入れることのない山の中にいる。登山用の履き慣れたブーツを履き、快適性と利便性を併せ持つ冬用の登山服を身に着け、熊除けの鈴が付いた大きな荷物を背負うその姿はどう見ても登山に慣れ、冬の山を楽しむ登山者にしか見えないが、誠二郎の目的はただ山を登ることだけではない。
「今頃は誰もいない温泉を堪能しているはずだってのに。」
この山にあるという秘湯を楽しむことが誠二郎の一番の目的だ。
わざわざ厳しい山道を時間をかけて登り、それほど整備されてもいない温泉に入りに行くことにそこまで魅力があるのかと、懐疑的である誠二郎が秘湯巡りを趣味とする友人に説得され、近場にある温泉に浸かりに行ったのがまだ学生だった数年前のこと。元々宿泊施設が併設されているようなきちんと整備された温泉が好きだったのだが、地元の人間や知る人しか訪れない、大自然に囲まれた中でつかる温泉は格別だった。遮るものがなく、視界のどこにも人工物がない中で入る解放感に溢れた温泉は、それまでにはない魅力を誠二郎に教えてくれた。そして同時に秘湯に浸かっていると、日頃の慌ただしさやわずらわしさ、そういった感情全てを温泉が溶かしていくような感覚を感じずにはいられなかった。そうして初めて秘湯に入り、すぐさまその魅力に取りつかれた誠二郎は、友人や同好の士と、社会人となってからは多くも少なくもない休日に一人で各地の秘湯に廻るようになったのだった。
そんな誠二郎が休日を利用しこの山に入ったのは午前八時。
この山に入山する前に話した、地元に住み何度もその秘湯に通っているという老人の話では一時間もあれば着くらしいのだが、いまだにたどり着くことはなく、既に時計の針は十時を大きく過ぎようとしている。往復で三時間を見積り、たっぷり温泉を楽しんだ後麓で何か美味しいものでも食べようかと思っていた誠二郎の計画はもろくも崩れ去ろうとしていた。
「しょうがない…遭難するわけにもいかないし、諦めて戻るとするか。」
大きくため息を吐き出し、ポケットからコンパスを取り出す。
何とも悔しいことではあるが、一人で馴染みのない山を歩く秘湯巡りではこういうことはよくあることだった。秘湯に浸かるのは楽しみであるが、そのために命を捨てるわけにも、自分を探すために派遣される救助隊の方々に迷惑をかけるわけにもいかない。冬の山はあっという間に暮れ、暗闇に包まれた山は容赦なく命の危機を突き付けてくる。そうなる前にちゃんと判断しなければいけない。後ろ髪をひかれる思いだがぐっとこらえ、背負っていた荷物をおろし地図を取り出す。そしておおよそ自分のいる位置を頭に入れつつ手にしたコンパスで方角を確認していたその時―――
突然、野鳥がけたたましく警戒の声を上げ始めた。
それも一羽二羽などではない、今まで気配を隠していた鳥たちが一斉に声を上げ始めたようだ。聞いたことのないような甲高く大きな鳴き声が山々に木霊し、あたり一帯に緊張感が走る。それなりに多く山に足を踏み入れている誠二郎だが、こんなことに遭遇したことは初めてだった。その異様な雰囲気にのまれ、咄嗟に行動もできず地図とコンパスを持ったまま呆然と立ち尽くす誠二郎がやっと我に返ると同時に漆黒に包まれた何かが、突然目の前に降ってきた。
「な、なんだ！？」
「………お前、か。」
頭上を覆う木の枝を踏み折り地面に着陸したそれは、ゆっくりとこちらに体を向ける。
目の前に現れたのは一人の女性、そして一見して人間ではないことを誠二郎に理解させた。頭に生える二つの獣の形をした耳、漆を塗り重ね丁寧に磨かれたように美しく深みのある黒い肌、沈みゆく日輪のごとく光り輝く赤い瞳、悠然と振られる大きな尻尾、指先や足先にのぞく熊のように鋭く大きな爪、手足を守るように生える黒い体毛と目尻や胸元に部分的に生える炎のような赤毛。そしてなにより端正で整った顔立ちや重力の存在を否定するように美しいお椀型を保っている大きな双胸、人間ではありえないようなスレンダーとグラマラスが一つの体に同居した肢体はまさに魔物娘のそれだった。しかし誠二郎の記憶に符合する魔物娘の種族はない。彼女の風貌からしておそらく獣人の魔物娘であることなどは分かるが、街に住む魔物娘にはない敵意にも似た鋭い視線でこちらを睨み、すんっと一つ何かを確認するように鼻を動かした彼女の様子から得られる情報は少なかった。
「アタシの名は……茉莉。」
「え？」
目の前の彼女が何者なのか、何故自分の前に姿を現したのか、なにより胸の先を金属の装飾で隠してはいるがほぼ全裸の彼女を前にして視線をどこに向けていいのか分からず、困惑していた誠二郎に向けて彼女は静かな口調で名乗りをあげる。そして―――
「今日からお前は、アタシのモノだ。分かったな？」
「は…？」
高らかにそう宣言したかと思うと、茉莉は誠二郎の胸倉をつかんで強引に手繰り寄せ、まるで反論を封じるといわんばかりになんの躊躇いもなくその唇を重ねてきた。
「っん…ん…」
「ん、うむぅ！！？」
完全に虚を突かれた誠二郎の口に火照った茉莉の舌が侵入する。
誰ともしたことがない初めての行為に思わず首を振って逃げようとするが、彼女は決して逃さないといわんばかりに自由なもう片方の手を誠二郎の後頭部に回し、確実に動きを封じていった。顔を抑える彼女の力は強く、捕まれた頭はまるで自分の体ではないようにピクリとも動かない。驚きに目を見開くその様に満足したのか、茉莉は瞳により一層光を宿しながら、誠二郎とは反対にゆっくりと目を細めていく。
「んっふっ…ん」
レロ、ネチャ…クチュ、ンッチュ
そして茉莉はより深く貪ろうと舌を容赦なく奥まで差し込んできた。
喉奥を舐められ息苦しさに思わず声を漏らしてしまうが、たっぷりと唾液を纏う彼女の舌は関係ないといわんばかりに口内を余すことなく舐め溶かしていく。自分の唾液でコーティングするかのように全ての歯は舌で丁寧に磨かれ、彼女の舌の届く範囲の口内はその味を確かめるかのように執拗に何度も舐められ、抵抗しようと伸ばす誠二郎の舌はわざと大きな水音がたつ動きで弄ばれる。誠二郎も初めは突然キスされた衝撃で身を固くさせていたが、押し付けられる形がよく柔らかい唇の感触、口の中でかき立てられ脳内で大きく響く淫猥な水音、少しざらざらとしているが肉厚の舌が動くたびに口いっぱいに与えられる甘い刺激で体から力が抜け始める。
「…ん、んっ？」
「くちゅ…ん、くちゅ……」
誠二郎の体から力が抜けるのを抜け目なく感じ取った茉莉は、掴んでいた胸倉を放しその手を顎に添え上を向かせた。そして覆いかぶさるように唇を上から重ね、舌に伝わせて唾液を次々に流し込み始める。魔物娘のその全ては男を魅了するといわれている。人間では知りも知らない他人の唾液が自分の口中に入ってくるなど考えるまでもなくおぞましいだけなのに、魔物娘である彼女が吐き出すそれは全く嫌悪感を抱かせることはない。むしろ芳しい芳香を放ち、食材などから味わったことのない甘い味をしたそれは正反対の感情を誠二郎の中に生み出していくだけだった。ほんの一瞬、本当に一瞬だけこれを飲んでしまえば後戻りできなくなるとどこか冷静に考える自分がいたが、その何倍も興奮で高ぶる本能に逆らうことができず、誠二郎はゆっくりと喉を動かして口の中に溜まる甘く濃厚な唾液を飲み込んでいく。彼女の体液が食道を通り胃へ落ちていくと、触れた部分はじくじくとまるで発熱したように熱くなっていき、さらに体から力を奪っていった。
そうして暫くの間、誠二郎はなすすべなく親鳥から餌を与えられる小鳥のように流し込まれる唾液をただただ飲み干していったのだった。
「っちゅ、ぷっふぅ……こんな、ものか」
短い水音と二人の唾液が混ざり合った銀の橋を残し、満足げに微笑みを浮かべわずかに頬を赤く染めた茉莉が徐に顔と腕を放す。
「は、はッ…はあ…」
膝が笑うほど体から力が抜けていた誠二郎は、茉莉の手から解放されたことで荒い息を吐き出しながら地面にへたり込んでしまった。時間の感覚が鈍くなるほどたっぷりとキスをされ、吐き出す自分の息までもが甘く感じるほど大量の体液を飲まされた誠二郎の体は冬の寒さを忘れさせるほど体温が高まり、発情していた。それでもなんとか酸欠気味の脳みそに酸素を送るため荒く吸い込んだ冬の冷たい空気から少しばかりの冷静さを回復し、理性の色を瞳に滲ませて真っ直ぐにこちら見下ろしている茉莉に声をかける。
「な、なんで…はぁ、こんな…ことを、するんだ？」
「何度言わせるつもりだ…」
尋ねられた茉莉は表情をあまり変えず静かにしゃがみこんだかと思うと、誠二郎が着ている登山服をその大きな手でつかみながら答えた。
「お前を、アタシのものにするために決まっている。」
そして誠二郎が着ている服を紙でも裂くように簡単に破り捨てていく。
「え、ちょ…なにをするんだよ！！」
「セックスをするのに邪魔なものを取り除いてないが悪い。」
「せっ…」
「お前だってアタシとキスをしてすっかりその気のくせに、いちいち抵抗するな。」
「ぅ、あぁ…」
頭のどこかで理解していた言葉を口に出され、ぶるりと心が震えてしまう。
いくら見知らぬといっても相手は魔物娘。その全身から発散されるフェロモンにあてられ、しかも接吻を交わしてしまったただの人間がどうなるか答えは一つに決まっている。誠二郎の男性器は今までにないほど血液が集中し、下着の中で痛いほど勃起し、下着を濡らすほど先走り液を吐き出していた。そして視線は無意識のうちに目の前で揺れる豊胸や、強く快香を漂わせる彼女の体に釘づけになってしまう。自分の欲求を満たすためなら相手が誰でもいいなんて短絡的なことは絶対に考えてはいない、そんな不誠実なことはしてはいけないと心と頭で強く思っていても、誠二郎の体は確実に目の前にいる彼女と種を残す行為を交わしたいと強く願ってしまっていた。
「アタシだって準備はできている。」
くちゅぅ、ヌルッ
「す、ごい…！」
心と体のギャップに体を硬直させる誠二郎の手を掴み、茉莉は己の蜜壺にあてがう。
すると指が当たったことでラビアが開き、聞くだけで身が震えるような粘る水音を立てて愛液をどぷどぷと吐き出し始めた。指だけでは収まらず手にまで絡みつく愛液は白く泡立ち、彼女の興奮状態を雄弁に誠二郎に示している。その淫猥な光景に目は釘づけになり、下着をその身から剥ぎ取られていることも分からないほど感覚が集中してしまった。
「おいおい、これからいつだって見せてやるんだ。初めの時ぐらい挿入に集中してろよな。」
「え？」
「ほら、いく…ぞ」
その言葉で我に返る前に、誠二郎の体は地面に押し倒されてしまった。
茉莉は素早くその上に跨り、大きな手で器用に陰茎を掴んで角度を調整したかと思うと、自身の性器に亀頭をあてがい一気に腰を沈めていく。
「あぁ、あああああ！！！」
ズッチュ、ヌ、ヌチュゥ
誠二郎は声をあげずにはいられなかった。
冬の外気に晒された滾るペニスが、灼熱の蜜壺によって溶かされていく。一瞬、亀頭が完全に入ったところで何かに引っかかるような感触があったが、それが処女膜だと誠二郎が理解する間もなく容易く破れ、茉莉の強い腰使いによって最奥まで一気に剛直は飲み込まれていった。それまで誰の侵入も許さなかった彼女の膣は、初めて飲み込んだ男性器を歓迎するかのように一斉に絡みつく。粘度の高い愛液を纏う柔らかい膣はきゅうきゅうと力強く締め付け、奥にある襞は優しく磨くように亀頭に絡みつき、ぷりぷりとまるで陰唇のように口を開く小さな子宮口はぴったりと鈴口に吸い付き我慢汁を吸い取っている。それはまさに人を堕落させ、虜にするための極上の名器。そこから齎される刺激は、強烈な快楽だけだった。
「ふ、んっ、ん…」
「あぁ、や、やめて…腰、動かさないで！！」
「やだね…」
身を焼くようなエクスタシーに奥歯がかみ合わず譫言のように弱弱しくつぶやく誠二郎とは対照的に、抑え気味ながらもしっかりとした喘ぎ声を口から漏らす茉莉が力強く腰を振り始める。するとそれまで必死に吸い付いていた子宮口や、亀頭にまぶりついていた襞、根元からぴったりと絡みついた膣肉は腰があげられる際にはまるで自分の体に反抗するようがむしゃらにペニスに吸い付き、再び飲み込む際は逆に一切抵抗することなく奥まで飲み込もうと一斉に蠢動する。挿入しただけで身も心も戦慄くほどの快感だったのに、動きが加わったことでさらに上乗せされる刺激に、誠二郎は目を剥き必死に彼女に止まるよう懇願する。だが、茉莉は低く短い拒絶の言葉で誠二郎の懇願を突っぱね、止まるどころかさらに動きを加速させていく。
ジュブ、ブチュッ…ぐちゅぐちゅぅ
「あぁ、がぁっ、くぅ」
茉莉はより一層力を込め、動物のように理性を感じさせない動きで誠二郎を貪っていく。
その暴風のように苛烈で、一切の容赦のない愉悦の連続に誠二郎の我慢はあっという間に限界を迎えようとしていた。それでも突然訳も分からず襲われ、凌辱されていることになんとか抵抗しようと、ぎりぎりと歯ぎしりがするほど歯を食いしばり、言葉にならない声を喉の奥から吐き出しながら耐え忍ぶ。
「ふ、ふふ…」
だがその健気なしぐさが、より一層茉莉を興奮させることを誠二郎は知る由もなかった。
組み伏せられ、もだえ苦しむ屈服しかかったオスの姿を見て茉莉はなによりも嬉しそうにほくそ笑む。そして亀頭が膣から抜けてしまうぎりぎりまで腰を引いたかと思うと、額をこすり合わせるように顔を近づけまっすぐに燃えるような赤い瞳でこちらを覗き込み、小悪魔のような厭らしい笑みをにいっと浮かべ誠二郎を煽動する。
「我慢なんかしてんなよ。アタシの中でイっちまえ。」
「あ、やめ…出…る、出るッ！！！」
「おら、出せ！！」
そしてとどめと言わんばかりに、一切のためらいもなく腰を叩きつけた。
飲み込まれた膣の暖かさ、最奥に亀頭が突き刺ささる柔らかい感触、大きな水音と肉がぶつかりある破裂音とともに襲いかかる刺激に誠二郎はなすすべもなく絶頂する。
びゅるッ…びゅく、びゅくぅ、びゅるるる
亀頭がびくびくと震え、精一杯口を開いた鈴口から大量のザーメンを射精した。
せり上がる精巣から次々と精子が押し出され、茉莉の神聖な子袋を汚すべく欲望を吐き出していく。見知らぬ女性と関係を持つだけでは終わらず、子供を作る行為である膣内射精までしてしまった…その背徳感と単純に茉莉から与えられる人外の恍惚は体の自由が利かなくなるほど強烈だった。今まで経験したことのないほど長い射精時間の間、誠二郎は体全身を強張らせ、痙攣するようにびくびくとただ震えるほかなかった。
「ん、ぅ…ん、ん…」
一方精液を一身に受け止める茉莉は、眉間に皺をよせ目を軽くつむる。
吐き出された白濁液を一滴も残すまいと子宮が収縮を繰り返し、膣はペニスを絞るようにぎゅうぎゅうと締め付けているとは思えないほど、静かに彼女は快楽の波にその身をゆだねていた。その光景を薄らと開いた目で見つめながら、改めて自分が彼女とセックスしてしまったことを実感してしまう。そして処女を捨て、より一層妖艶さを醸し出し始めた彼女を見つめつつ、これからのことを考えようと誠二郎が思案し始めたその時、突然茉莉は目を開き、誠二郎と視線を合わせたかと思うと腰を振る動きを開始した。
ぐちゅ、ぬちゅぬちゃ
「え、終わったんじゃ！？」
終わったと思っていた性行為が再開され、誠二郎は驚きの声をあげる。
「なにを言っている…まだ始まったばかり」
そうだろといかにも馬鹿なことを口にした子供をからかうような口調で囁きながら、茉莉は瞳に情欲を滾らせる。その様を見た誠二郎は、彼女との行為が終わるどころか始まったばかりなのだと今更ながらに痛感せざるをえなかった。そして再び彼女の膣から齎される強い快感に視界が歪む。
「喜べ。限界まで…搾り取ってやるからな。」
愛液が撹拌され膣がかきまぜられる淫靡な水音と彼女の声が頭の中でこだました。
こうして茉莉による体力の続く限りの一方的な性行が続いていく。
………………………………………
びゅ、びゅぅ…びゅく
「も、もう…無理。本当に、無理、だよ。」
「ふぅ、ふぅ……んっ…。」
誠二郎が弱弱しく降伏の言葉を口にし、何度目かも忘れた勢いの無い射精をする。
茉莉は荒い息を吐き出しながら上気した顔を誠二郎に向け、その言葉の真贋を判断するようにじっと見つめる。性に長けた魔物娘である茉莉とは違い、まだインキュバスにすらなっていない脆弱な人間である誠二郎は、本当に疲れ果てていた。それをなんとか理解してもらおうと弛緩して力の入らない腕をあげ、弱弱しく彼女の体に触れる。
「………。」
自分に伸びる誠二郎の手を獣の手で握り返し、茉莉は目をゆっくりと細めた。
そして吐き出された精液を確かめるようにもう片方の手で自分の腹部を撫でながら静かな口調でつぶやく。
「どうやら、本当のようだな。」
「お願いだから、もう…休ませて…」
「そう、か。」
ぴたりと動きを止め、真っ直ぐに誠二郎を茉莉は見つめる。
「なら、家で休み体力を回復したところで再開としよう。」
「え、家？」
「ああ、アタシ“たち”の家…これからお前が暮らすことになる家だ。」
「え？ちょ、うぁ！？」
想像していなかった展開に、朦朧としていた頭脳は追いつくことができなかった。
しかし茉莉はさも当然といわんばかりに言い放ち、勢いよく立ち上がったかと思うと、横たわる誠二郎の体をひょいと持ち上げ、まるで軽い荷物でもそうするように担ぎ上げる。改めて彼女の強い膂力に驚きの声をあげ、体をよじり手で彼女の体をぺしぺしと叩き少しばかりの抵抗を示すが、強靭な脚力で走り始める彼女に届くことはない。
こうして、誠二郎の茉莉と暮らす生活が唐突に幕を開けたのだった。
紅葉が終わりを迎え、風が一層冷たくなった冬の山の中に匂いたつそれは、まるで春が訪れ力強くその命を芽吹かせる木々が放つような、むせ返るほど生命力に溢れた香りだった。
体の芯が熱くなるのを感じる。
荒く吐き出される息は白く、肌に触れる空気はひんやりと冷たい。だがそれを忘れさせるほど、自分の臓腑が滾っているのを自覚する。
震える気持ちを抑え、長めの舌でペロリと鼻先を舐める。
水気を帯び、さらに敏感になった嗅覚がその芳香を放つ存在の在りかを教えてくれる。どうやら思った以上に遠くではないらしい。
その瞬間、身体は動き出す。
大地を蹴り、宙を跳ね、信じられない速度で躍動する。まるで仏舎利を取り戻す韋駄天のように、全ての神経をその方向に向けてただただ森を走り抜ける。
全ては己の欲を満たすために。
………………………………………
「聞いた話だと、こんなに時間はかからないはずなんだがなあ…」
三木誠二郎は、軽く息を乱しながらあたりを見回した。
目に映るのは長年人の手が入っていない、厳しい生存競争を繰り返して形成された、低木が少なく日の光のあまり届かない大きな常緑樹が生える鬱蒼とした森。耳に聞こえてくるのは微かな風で木々の枝が揺れる音や長閑な野鳥の声ばかり。誠二郎は現在、地元の人間もそう頻繁に足を踏み入れることのない山の中にいる。登山用の履き慣れたブーツを履き、快適性と利便性を併せ持つ冬用の登山服を身に着け、熊除けの鈴が付いた大きな荷物を背負うその姿はどう見ても登山に慣れ、冬の山を楽しむ登山者にしか見えないが、誠二郎の目的はただ山を登ることだけではない。
「今頃は誰もいない温泉を堪能しているはずだってのに。」
この山にあるという秘湯を楽しむことが誠二郎の一番の目的だ。
わざわざ厳しい山道を時間をかけて登り、それほど整備されてもいない温泉に入りに行くことにそこまで魅力があるのかと、懐疑的である誠二郎が秘湯巡りを趣味とする友人に説得され、近場にある温泉に浸かりに行ったのがまだ学生だった数年前のこと。元々宿泊施設が併設されているようなきちんと整備された温泉が好きだったのだが、地元の人間や知る人しか訪れない、大自然に囲まれた中でつかる温泉は格別だった。遮るものがなく、視界のどこにも人工物がない中で入る解放感に溢れた温泉は、それまでにはない魅力を誠二郎に教えてくれた。そして同時に秘湯に浸かっていると、日頃の慌ただしさやわずらわしさ、そういった感情全てを温泉が溶かしていくような感覚を感じずにはいられなかった。そうして初めて秘湯に入り、すぐさまその魅力に取りつかれた誠二郎は、友人や同好の士と、社会人となってからは多くも少なくもない休日に一人で各地の秘湯に廻るようになったのだった。
そんな誠二郎が休日を利用しこの山に入ったのは午前八時。
この山に入山する前に話した、地元に住み何度もその秘湯に通っているという老人の話では一時間もあれば着くらしいのだが、いまだにたどり着くことはなく、既に時計の針は十時を大きく過ぎようとしている。往復で三時間を見積り、たっぷり温泉を楽しんだ後麓で何か美味しいものでも食べようかと思っていた誠二郎の計画はもろくも崩れ去ろうとしていた。
「しょうがない…遭難するわけにもいかないし、諦めて戻るとするか。」
大きくため息を吐き出し、ポケットからコンパスを取り出す。
何とも悔しいことではあるが、一人で馴染みのない山を歩く秘湯巡りではこういうことはよくあることだった。秘湯に浸かるのは楽しみであるが、そのために命を捨てるわけにも、自分を探すために派遣される救助隊の方々に迷惑をかけるわけにもいかない。冬の山はあっという間に暮れ、暗闇に包まれた山は容赦なく命の危機を突き付けてくる。そうなる前にちゃんと判断しなければいけない。後ろ髪をひかれる思いだがぐっとこらえ、背負っていた荷物をおろし地図を取り出す。そしておおよそ自分のいる位置を頭に入れつつ手にしたコンパスで方角を確認していたその時―――
突然、野鳥がけたたましく警戒の声を上げ始めた。
それも一羽二羽などではない、今まで気配を隠していた鳥たちが一斉に声を上げ始めたようだ。聞いたことのないような甲高く大きな鳴き声が山々に木霊し、あたり一帯に緊張感が走る。それなりに多く山に足を踏み入れている誠二郎だが、こんなことに遭遇したことは初めてだった。その異様な雰囲気にのまれ、咄嗟に行動もできず地図とコンパスを持ったまま呆然と立ち尽くす誠二郎がやっと我に返ると同時に漆黒に包まれた何かが、突然目の前に降ってきた。
「な、なんだ！？」
「………お前、か。」
頭上を覆う木の枝を踏み折り地面に着陸したそれは、ゆっくりとこちらに体を向ける。
目の前に現れたのは一人の女性、そして一見して人間ではないことを誠二郎に理解させた。頭に生える二つの獣の形をした耳、漆を塗り重ね丁寧に磨かれたように美しく深みのある黒い肌、沈みゆく日輪のごとく光り輝く赤い瞳、悠然と振られる大きな尻尾、指先や足先にのぞく熊のように鋭く大きな爪、手足を守るように生える黒い体毛と目尻や胸元に部分的に生える炎のような赤毛。そしてなにより端正で整った顔立ちや重力の存在を否定するように美しいお椀型を保っている大きな双胸、人間ではありえないようなスレンダーとグラマラスが一つの体に同居した肢体はまさに魔物娘のそれだった。しかし誠二郎の記憶に符合する魔物娘の種族はない。彼女の風貌からしておそらく獣人の魔物娘であることなどは分かるが、街に住む魔物娘にはない敵意にも似た鋭い視線でこちらを睨み、すんっと一つ何かを確認するように鼻を動かした彼女の様子から得られる情報は少なかった。
「アタシの名は……茉莉。」
「え？」
目の前の彼女が何者なのか、何故自分の前に姿を現したのか、なにより胸の先を金属の装飾で隠してはいるがほぼ全裸の彼女を前にして視線をどこに向けていいのか分からず、困惑していた誠二郎に向けて彼女は静かな口調で名乗りをあげる。そして―――
「今日からお前は、アタシのモノだ。分かったな？」
「は…？」
高らかにそう宣言したかと思うと、茉莉は誠二郎の胸倉をつかんで強引に手繰り寄せ、まるで反論を封じるといわんばかりになんの躊躇いもなくその唇を重ねてきた。
「っん…ん…」
「ん、うむぅ！！？」
完全に虚を突かれた誠二郎の口に火照った茉莉の舌が侵入する。
誰ともしたことがない初めての行為に思わず首を振って逃げようとするが、彼女は決して逃さないといわんばかりに自由なもう片方の手を誠二郎の後頭部に回し、確実に動きを封じていった。顔を抑える彼女の力は強く、捕まれた頭はまるで自分の体ではないようにピクリとも動かない。驚きに目を見開くその様に満足したのか、茉莉は瞳により一層光を宿しながら、誠二郎とは反対にゆっくりと目を細めていく。
「んっふっ…ん」
レロ、ネチャ…クチュ、ンッチュ
そして茉莉はより深く貪ろうと舌を容赦なく奥まで差し込んできた。
喉奥を舐められ息苦しさに思わず声を漏らしてしまうが、たっぷりと唾液を纏う彼女の舌は関係ないといわんばかりに口内を余すことなく舐め溶かしていく。自分の唾液でコーティングするかのように全ての歯は舌で丁寧に磨かれ、彼女の舌の届く範囲の口内はその味を確かめるかのように執拗に何度も舐められ、抵抗しようと伸ばす誠二郎の舌はわざと大きな水音がたつ動きで弄ばれる。誠二郎も初めは突然キスされた衝撃で身を固くさせていたが、押し付けられる形がよく柔らかい唇の感触、口の中でかき立てられ脳内で大きく響く淫猥な水音、少しざらざらとしているが肉厚の舌が動くたびに口いっぱいに与えられる甘い刺激で体から力が抜け始める。
「…ん、んっ？」
「くちゅ…ん、くちゅ……」
誠二郎の体から力が抜けるのを抜け目なく感じ取った茉莉は、掴んでいた胸倉を放しその手を顎に添え上を向かせた。そして覆いかぶさるように唇を上から重ね、舌に伝わせて唾液を次々に流し込み始める。魔物娘のその全ては男を魅了するといわれている。人間では知りも知らない他人の唾液が自分の口中に入ってくるなど考えるまでもなくおぞましいだけなのに、魔物娘である彼女が吐き出すそれは全く嫌悪感を抱かせることはない。むしろ芳しい芳香を放ち、食材などから味わったことのない甘い味をしたそれは正反対の感情を誠二郎の中に生み出していくだけだった。ほんの一瞬、本当に一瞬だけこれを飲んでしまえば後戻りできなくなるとどこか冷静に考える自分がいたが、その何倍も興奮で高ぶる本能に逆らうことができず、誠二郎はゆっくりと喉を動かして口の中に溜まる甘く濃厚な唾液を飲み込んでいく。彼女の体液が食道を通り胃へ落ちていくと、触れた部分はじくじくとまるで発熱したように熱くなっていき、さらに体から力を奪っていった。
そうして暫くの間、誠二郎はなすすべなく親鳥から餌を与えられる小鳥のように流し込まれる唾液をただただ飲み干していったのだった。
「っちゅ、ぷっふぅ……こんな、ものか」
短い水音と二人の唾液が混ざり合った銀の橋を残し、満足げに微笑みを浮かべわずかに頬を赤く染めた茉莉が徐に顔と腕を放す。
「は、はッ…はあ…」
膝が笑うほど体から力が抜けていた誠二郎は、茉莉の手から解放されたことで荒い息を吐き出しながら地面にへたり込んでしまった。時間の感覚が鈍くなるほどたっぷりとキスをされ、吐き出す自分の息までもが甘く感じるほど大量の体液を飲まされた誠二郎の体は冬の寒さを忘れさせるほど体温が高まり、発情していた。それでもなんとか酸欠気味の脳みそに酸素を送るため荒く吸い込んだ冬の冷たい空気から少しばかりの冷静さを回復し、理性の色を瞳に滲ませて真っ直ぐにこちら見下ろしている茉莉に声をかける。
「な、なんで…はぁ、こんな…ことを、するんだ？」
「何度言わせるつもりだ…」
尋ねられた茉莉は表情をあまり変えず静かにしゃがみこんだかと思うと、誠二郎が着ている登山服をその大きな手でつかみながら答えた。
「お前を、アタシのものにするために決まっている。」
そして誠二郎が着ている服を紙でも裂くように簡単に破り捨てていく。
「え、ちょ…なにをするんだよ！！」
「セックスをするのに邪魔なものを取り除いてないが悪い。」
「せっ…」
「お前だってアタシとキスをしてすっかりその気のくせに、いちいち抵抗するな。」
「ぅ、あぁ…」
頭のどこかで理解していた言葉を口に出され、ぶるりと心が震えてしまう。
いくら見知らぬといっても相手は魔物娘。その全身から発散されるフェロモンにあてられ、しかも接吻を交わしてしまったただの人間がどうなるか答えは一つに決まっている。誠二郎の男性器は今までにないほど血液が集中し、下着の中で痛いほど勃起し、下着を濡らすほど先走り液を吐き出していた。そして視線は無意識のうちに目の前で揺れる豊胸や、強く快香を漂わせる彼女の体に釘づけになってしまう。自分の欲求を満たすためなら相手が誰でもいいなんて短絡的なことは絶対に考えてはいない、そんな不誠実なことはしてはいけないと心と頭で強く思っていても、誠二郎の体は確実に目の前にいる彼女と種を残す行為を交わしたいと強く願ってしまっていた。
「アタシだって準備はできている。」
くちゅぅ、ヌルッ
「す、ごい…！」
心と体のギャップに体を硬直させる誠二郎の手を掴み、茉莉は己の蜜壺にあてがう。
すると指が当たったことでラビアが開き、聞くだけで身が震えるような粘る水音を立てて愛液をどぷどぷと吐き出し始めた。指だけでは収まらず手にまで絡みつく愛液は白く泡立ち、彼女の興奮状態を雄弁に誠二郎に示している。その淫猥な光景に目は釘づけになり、下着をその身から剥ぎ取られていることも分からないほど感覚が集中してしまった。
「おいおい、これからいつだって見せてやるんだ。初めの時ぐらい挿入に集中してろよな。」
「え？」
「ほら、いく…ぞ」
その言葉で我に返る前に、誠二郎の体は地面に押し倒されてしまった。
茉莉は素早くその上に跨り、大きな手で器用に陰茎を掴んで角度を調整したかと思うと、自身の性器に亀頭をあてがい一気に腰を沈めていく。
「あぁ、あああああ！！！」
ズッチュ、ヌ、ヌチュゥ
誠二郎は声をあげずにはいられなかった。
冬の外気に晒された滾るペニスが、灼熱の蜜壺によって溶かされていく。一瞬、亀頭が完全に入ったところで何かに引っかかるような感触があったが、それが処女膜だと誠二郎が理解する間もなく容易く破れ、茉莉の強い腰使いによって最奥まで一気に剛直は飲み込まれていった。それまで誰の侵入も許さなかった彼女の膣は、初めて飲み込んだ男性器を歓迎するかのように一斉に絡みつく。粘度の高い愛液を纏う柔らかい膣はきゅうきゅうと力強く締め付け、奥にある襞は優しく磨くように亀頭に絡みつき、ぷりぷりとまるで陰唇のように口を開く小さな子宮口はぴったりと鈴口に吸い付き我慢汁を吸い取っている。それはまさに人を堕落させ、虜にするための極上の名器。そこから齎される刺激は、強烈な快楽だけだった。
「ふ、んっ、ん…」
「あぁ、や、やめて…腰、動かさないで！！」
「やだね…」
身を焼くようなエクスタシーに奥歯がかみ合わず譫言のように弱弱しくつぶやく誠二郎とは対照的に、抑え気味ながらもしっかりとした喘ぎ声を口から漏らす茉莉が力強く腰を振り始める。するとそれまで必死に吸い付いていた子宮口や、亀頭にまぶりついていた襞、根元からぴったりと絡みついた膣肉は腰があげられる際にはまるで自分の体に反抗するようがむしゃらにペニスに吸い付き、再び飲み込む際は逆に一切抵抗することなく奥まで飲み込もうと一斉に蠢動する。挿入しただけで身も心も戦慄くほどの快感だったのに、動きが加わったことでさらに上乗せされる刺激に、誠二郎は目を剥き必死に彼女に止まるよう懇願する。だが、茉莉は低く短い拒絶の言葉で誠二郎の懇願を突っぱね、止まるどころかさらに動きを加速させていく。
ジュブ、ブチュッ…ぐちゅぐちゅぅ
「あぁ、がぁっ、くぅ」
茉莉はより一層力を込め、動物のように理性を感じさせない動きで誠二郎を貪っていく。
その暴風のように苛烈で、一切の容赦のない愉悦の連続に誠二郎の我慢はあっという間に限界を迎えようとしていた。それでも突然訳も分からず襲われ、凌辱されていることになんとか抵抗しようと、ぎりぎりと歯ぎしりがするほど歯を食いしばり、言葉にならない声を喉の奥から吐き出しながら耐え忍ぶ。
「ふ、ふふ…」
だがその健気なしぐさが、より一層茉莉を興奮させることを誠二郎は知る由もなかった。
組み伏せられ、もだえ苦しむ屈服しかかったオスの姿を見て茉莉はなによりも嬉しそうにほくそ笑む。そして亀頭が膣から抜けてしまうぎりぎりまで腰を引いたかと思うと、額をこすり合わせるように顔を近づけまっすぐに燃えるような赤い瞳でこちらを覗き込み、小悪魔のような厭らしい笑みをにいっと浮かべ誠二郎を煽動する。
「我慢なんかしてんなよ。アタシの中でイっちまえ。」
「あ、やめ…出…る、出るッ！！！」
「おら、出せ！！」
そしてとどめと言わんばかりに、一切のためらいもなく腰を叩きつけた。
飲み込まれた膣の暖かさ、最奥に亀頭が突き刺ささる柔らかい感触、大きな水音と肉がぶつかりある破裂音とともに襲いかかる刺激に誠二郎はなすすべもなく絶頂する。
びゅるッ…びゅく、びゅくぅ、びゅるるる
亀頭がびくびくと震え、精一杯口を開いた鈴口から大量のザーメンを射精した。
せり上がる精巣から次々と精子が押し出され、茉莉の神聖な子袋を汚すべく欲望を吐き出していく。見知らぬ女性と関係を持つだけでは終わらず、子供を作る行為である膣内射精までしてしまった…その背徳感と単純に茉莉から与えられる人外の恍惚は体の自由が利かなくなるほど強烈だった。今まで経験したことのないほど長い射精時間の間、誠二郎は体全身を強張らせ、痙攣するようにびくびくとただ震えるほかなかった。
「ん、ぅ…ん、ん…」
一方精液を一身に受け止める茉莉は、眉間に皺をよせ目を軽くつむる。
吐き出された白濁液を一滴も残すまいと子宮が収縮を繰り返し、膣はペニスを絞るようにぎゅうぎゅうと締め付けているとは思えないほど、静かに彼女は快楽の波にその身をゆだねていた。その光景を薄らと開いた目で見つめながら、改めて自分が彼女とセックスしてしまったことを実感してしまう。そして処女を捨て、より一層妖艶さを醸し出し始めた彼女を見つめつつ、これからのことを考えようと誠二郎が思案し始めたその時、突然茉莉は目を開き、誠二郎と視線を合わせたかと思うと腰を振る動きを開始した。
ぐちゅ、ぬちゅぬちゃ
「え、終わったんじゃ！？」
終わったと思っていた性行為が再開され、誠二郎は驚きの声をあげる。
「なにを言っている…まだ始まったばかり」
そうだろといかにも馬鹿なことを口にした子供をからかうような口調で囁きながら、茉莉は瞳に情欲を滾らせる。その様を見た誠二郎は、彼女との行為が終わるどころか始まったばかりなのだと今更ながらに痛感せざるをえなかった。そして再び彼女の膣から齎される強い快感に視界が歪む。
「喜べ。限界まで…搾り取ってやるからな。」
愛液が撹拌され膣がかきまぜられる淫靡な水音と彼女の声が頭の中でこだました。
こうして茉莉による体力の続く限りの一方的な性行が続いていく。
………………………………………
びゅ、びゅぅ…びゅく
「も、もう…無理。本当に、無理、だよ。」
「ふぅ、ふぅ……んっ…。」
誠二郎が弱弱しく降伏の言葉を口にし、何度目かも忘れた勢いの無い射精をする。
茉莉は荒い息を吐き出しながら上気した顔を誠二郎に向け、その言葉の真贋を判断するようにじっと見つめる。性に長けた魔物娘である茉莉とは違い、まだインキュバスにすらなっていない脆弱な人間である誠二郎は、本当に疲れ果てていた。それをなんとか理解してもらおうと弛緩して力の入らない腕をあげ、弱弱しく彼女の体に触れる。
「………。」
自分に伸びる誠二郎の手を獣の手で握り返し、茉莉は目をゆっくりと細めた。
そして吐き出された精液を確かめるようにもう片方の手で自分の腹部を撫でながら静かな口調でつぶやく。
「どうやら、本当のようだな。」
「お願いだから、もう…休ませて…」
「そう、か。」
ぴたりと動きを止め、真っ直ぐに誠二郎を茉莉は見つめる。
「なら、家で休み体力を回復したところで再開としよう。」
「え、家？」
「ああ、アタシ“たち”の家…これからお前が暮らすことになる家だ。」
「え？ちょ、うぁ！？」
想像していなかった展開に、朦朧としていた頭脳は追いつくことができなかった。
しかし茉莉はさも当然といわんばかりに言い放ち、勢いよく立ち上がったかと思うと、横たわる誠二郎の体をひょいと持ち上げ、まるで軽い荷物でもそうするように担ぎ上げる。改めて彼女の強い膂力に驚きの声をあげ、体をよじり手で彼女の体をぺしぺしと叩き少しばかりの抵抗を示すが、強靭な脚力で走り始める彼女に届くことはない。
こうして、誠二郎の茉莉と暮らす生活が唐突に幕を開けたのだった。
14/12/14 19:10更新 / 松崎 ノス
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