後篇
「………。」
崇は妻の言葉を聞き、たっぷり数分間は呆然としていた。
というのも、業という言葉があまりにも浮世離れした言葉だったからだ。献身的で、誰よりも優しく自分に接してくれる彼女が言ったことが拍車をかけていたこともあり、とにかくその言葉を飲み込むのに時間がかかってしまった。それでもなんとか理解すると途端になぜ彼女がそんな言葉を言ったのかという疑問が噴出する。美嘉は無暗に人を混乱させるような言動をする性格ではないことを、崇は誰よりも知っている。だからこそ、業という言葉は彼女が本心から言っている言葉に間違いないのだろう。しかし彼女の言葉が本心のものだとしても、その意味が分からない。
「ね、ねえ…美嘉。」
「………はい。」
彼女の言葉の真意を探るべく、崇は質問をしてみる。
「その、僕が馬鹿だからなのかもしれないけれど…何故枝毛と業って言葉が結びつくのかが分からないんだ。」
「………。」
「だから、さ。その理由を僕に教えてくれないか?」
「…………分かりました。」
崇の言葉を聞いた美嘉は、少しの間俯き思案した。
その顔は今まで見たことないほど悲しそうな表情で、崇はすぐにでも声をかけたい欲求にかられたが、妻が静かに語り始めたので口をつぐみ、彼女の話を聞くことにした。
「前にも言いましたが…髪の毛というものは本当に繊細なものなのです。持ち主の体調、感情、ストレスやショックで簡単に傷んでしまいます。」
そういって妻は沢山生えた枝毛をそっと撫でた。
「それは私たち毛娼妓の髪の毛だって一緒。その昔、旦那様と結ばれるその少し前のことですが、私が旦那様に片思いしているときなど、ちょっとしたことで一喜一憂してしまいよく髪の毛が傷んでしまったものです。あの時もよく、こんな風に枝毛ができました。」
昔の思い出を、少しだけ楽しげに妻は話す。
しかしだからといって崇はその話をそうですかと聞き流すわけにはいかなかった。というのも彼女の話を聞く限り、枝毛の原因は彼女の感情が大きく関係していることが分かる。しかもその感情は負のもの。そして昨日まで枝毛がなかったということは…
「今日、なにかあった…いや、僕が何かしてしまったのか?」
恐る恐る、崇は自分の推測を口にする。
「………旦那様。」
すると美嘉は質問には答えず、一歩こちらに向かって踏み出したかと思うとトーンを下げた声で尋ねてきた。
「旦那様の質問にお答えするためにも一つお聞きしたいのですが…今日の午後、お仕事されている時に……まだ独り身の毛娼妓とお会いしませんでしたか?」
「え?」
妻の言葉に、今日何度目なのか分からいがぽかんとしてしまった。
なぜなら彼女の言葉が、事実だったからだ。確かに今日の午後、出向いた得意先で受付をしていた女性が毛娼妓で、今週から受付を始めたらしく、ぎこちないながらもきちんと対応をしてくれた。なんでも彼女は独身らしく一緒にいたこれまた独身の同僚がその人と話すきっかけが欲しかったのか、崇の妻が毛娼妓であることを伝えたところ、思わず話が弾み色々と話をしてしまった。といってもこちらが美嘉とののろけ話を一方的にしてしまったのではあるが。
「なんで、それを知って…見ていたの?」
だけれども妻はなぜそれを知っているのだろう。
その会社はここから特別に遠いというわけではないから妻がそこに行くことだってできるし、受付で話していたので外から見ることもできないわけではない。それでも妻には今日どこへ行くのかを言っていないのだから、後でもつけていない限りその場を見るなんてことはできないだろう。しかし一日中そんなことをすれば家事をすることなんてできないはずだし、今日もそうだったが妻はいつも自分が帰宅して玄関を開けると座って出迎えてくれるのだが、はたしてそんなことができるのだろうか。
「いいえ、見てはいません。…ただ」
すると美嘉は首を横に振りつつ、崇の左手にそっと手をのばした。
「私の髪の毛で感じていたのです。」
美嘉に言われて自分の左手、正確にいうと左手の薬指に視線を向けた。
そこには二人で選んだプラチナの結婚指輪と共に、美嘉の髪の毛をより合わせた作られたリングがはめられている。髪の毛を添い遂げる男性に送るというのが彼女たち毛娼妓の習慣であるらしく、妻の美嘉は結婚の約束を交わしたその晩に、常に私の髪の毛を身に着けていてほしいということでこのミサンガのようなリングをくれたのだった。崇は彼女からそれをもらい、随分と喜んだ。自分が髪の毛をもらえたということは彼女の配偶者として受け入れられた証でもあるし、常に愛しい人と一緒にいられるとそう思わずにはいられなかった。そのころは美嘉のことを思い出してはそっとリングを撫でてふやけた笑みを浮かべ、周りに何度も冷やかされたものだった。
「髪の毛って…これのこと?」
しかしそれと彼女が言っていた、感じるという言葉とうまくつながらず、疑問の声を上げる。
「そうです。実はその髪の毛は…まだ生きているのです。」
「ええ!?」
思わずリングを凝視する自分をしり目に、美嘉は説明を続ける。
「といっても正確にいうと私の妖術でセンサーになっているといった方がいいのでしょうか。私に二つの情報を教えてくれます。」
「センサー…。」
「はい。一つ目は旦那様の大まかな現在地です。」
「ああ、だから帰る時間が変わっても必ず玄関で座って待っていてくれていたのか!!」
崇は長年の疑問が一つ解け、思わず大きな声で独り言をつぶやいてしまう。
「そうです。勿論旦那様のためならばどれほど座って待っていることも苦にはなりませんが、家事を疎かにするわけにはいきませんので、使わせていただいています。」
「なるほどなあ。」
「そして二つ目は…その」
「………。」
言いよどむ美嘉の背中を押すように無言で彼女の手をそっと重ねると、美嘉は一つ頷いた後、少しためらいがちに口を開いた。
「未婚の毛娼妓が…旦那様の近くにいるかどうかを、教えてくれます。」
「未婚の…」
全ての条件が受付の彼女と符合した。
「はい。ですから直接は見ていませんが、感じて分かっているのです。」
「なるほど…」
これで妻が知っていたという状況は十分なほど理解できた。
だがそうなるとまた新たな疑問がわいてくる。自分の現在地はまだいいとして、彼女はなぜ未婚の毛娼妓の存在まで探知する必要があったのだろうか。それを隠すことなく美嘉に告げる。すると美嘉は悲しげに眼を細めつつその理由を語った。
「旦那様もすでに十分お分かりになっていると思いますが…私は嫉妬深い性格をしています。私だけを見てほしい、私だけに言葉をかけてほしい、私だけに愛を囁いてほしいと澄ました顔の下でそんなことをいつも考えているのです。」
彼女が閨で、独占欲を度々垣間見せることはよくあることだ。
その言葉を聞いているからそうであることは知っていたが、こうもはっきりと嫉妬深いと彼女の口から聞いたのは初めてだった。
「でもそれと同時に、私は傲岸で不遜な、バカみたいなふてぶてしさも持ち合わせているのです。」
「え?」
ジパングに住む魔物娘らしくいつも献身的に愛してくれる妻には似合わない言葉に困惑してしまう。
「旦那様を愛することができる女は、私以外ありえないと…例外を除いて他のどんな女も全くの敵ではないと…そう思う自分がいるのです。バカ、みたいですよね。」
彼女の自虐めいた言葉から、一つの回答が導かれる。
「…その例外ってまさか」
「はい……それは、私と同じ種族の毛娼妓です。」
「私はこの髪の毛と体で、旦那様を愛します。それは他のどの魔物娘の愛し方にも引けを取るつもりはありません。どこまでも旦那様を堕落させ、夢中になってもらう技量はあるつもりです。ですが、同じ髪の毛で男性から精を搾り取る毛娼妓だけは…ダメなのです。どうしても考えてしまうのです。もしかしたら旦那様は私以外の髪の毛に惹かれてしまうのではないかと。こんな私にいつも愛の言葉をかけてくださる、優しい旦那様が浮気などされるわけがないと、信じているのに…同じ毛娼妓の時だけはどうしても不安が拭いきれないのです。」
美嘉はうっすらと涙を浮かべつつ、自身の髪をつかみ上げた。
「今日も…旦那様の近くに未婚の毛娼妓がいることを察した私は、不安になりました。旦那様が何を話しているのか、どんな表情を向けているのか、私以外にどのような感情を向けているのか…そしてそれを受けた毛娼妓がよからぬ想いにかられないか。優しい旦那様に対して全く必要のない猜疑心を私はずっと燃やしていたのです。そんな最愛の旦那様を信じきれない愚かな妻だからこそ…」
「髪の毛にこんなにも沢山の枝毛ができてしまったのです。この枝毛はいわば当然の罰であり、過剰な嫉妬深さを持つ私の業、なのです。」
「美嘉!!!」
「えっ!?」
いてもたってもいられず美嘉を力いっぱい抱きしめた。
崇の突然の行動はまったく予想していなかったのか、美嘉は抱きしめられた瞬間体をびくりとこわばらせる。崇はそんなことはお構いなしに、少しでも自分の気持ちを伝えたくてさらに力を込めて抱きしめる。
「僕は、馬鹿だ!!ずっと一緒にいたのに、傍にいたのに。美嘉がそんなに悩んでいたことをちっとも知らなかったなんて…僕の方がよっぽどダメな夫じゃないか!!!」
「旦那、様……」
一度体を放し、真っ直ぐに妻を見つめる。
すると妻はみるみる涙をその瞳に貯めつつ、弱弱しく自分の名前をつぶやいた。そのいじらしさが、おそらくこちらが想像する以上に不安に駆られそれでも心配をかけまいと限界まで耐えようとした彼女の健気さが愛おしくてたまらなかった。崇は妻の涙を止めてあげたくて迷うことなく微かに震える唇に口づけを落とした。
ンッチュ…レロ、…クチュ…
初めはついばむように、次第にねっとりと絡みつくようなキスを交わす。
血色のよい綺麗な唇に自身の唇を重ねるだけではなく、痛みを感じさせない絶妙な力で下唇をあまがみしたり、時間をかけて唇の周りをゆっくりと舐めていくとそれまで可哀想なほど弱弱しかった美嘉も、崇が舌や唇で行う熱心なアプローチにおずおずとだが応えはじめた。
「ちゅ、美嘉…」
しだいにペースを取り戻してきた美嘉の様子を見つつ、崇はそっと口内に唇を挿し入れてみる。
っくちゅくちゅ…れろぉ…ぐちゅぐちゅっぅ
「あンッ…だ、んなさまぁ♡」
すると美嘉の舌は、それを嬉しそうに受け止めてくれた。
魔物娘特有の甘く濃い唾液をたっぷりと纏った彼女の舌は、いつものように情熱的に絡みついてくる。熱に浮かされたように名前を呼びながら、必死に崇の舌をねぶる美嘉が愛おしくて、崇も無心になって彼女の口内をむさぼっていく。二人の口の中で響く淫靡な水音が頭にゆっくりとピンクの靄をかけていった。すっかりスイッチが入ってしまった美嘉は先ほどまでの悲しみの涙とは違う、最愛の男に愛されている喜びで流す涙が浮かんでいた。
「んっ、ぷはぁ…美嘉……」
「旦那様♡」
口を離すと、二人の間に銀色の橋がつながる。
既に淫猥な炎と熱をその瞳に宿す美嘉は、その様をいたく嬉しそうに眺めていた。そんな彼女を見るとすぐにでも一つになりたいという欲求に駆られてしまいそうになるが、ぐっとこらえて自分の素直な気持ちを吐露した。
「ねえ、美嘉。僕の話を聞いてもらえるかな。」
「話、ですか?」
ほんの少しだけ、冷ややかな理性が戻った彼女に続く言葉を投げかける。
「知らなかったとはいえ、君を傷つけてしまって本当に…すまなかった。この先二度と同じ思いをさせないと、誓うよ。だから…こんな至らない僕でよければ、君の夫でいさせてもらえない、だろうか…」
「私などには…勿体ないお言葉です。私こそ、こんな私でよければ旦那様のお傍にいさせてください…」
美嘉はみるみるうちに涙を瞳に貯め、口を覆って嗚咽を漏らした。
「美嘉ッ!!」
「旦那様……」
そんな彼女を抱きしめるのに理由はいらなかった。
彼女の細くてしなやかな腰を抱きしめ、無駄な肉が一切ついていない背中をゆっくりとさする。崇の腕の中におさまった彼女の美しい髪の毛は、まるで二度と離れさせないといわんばかりにするすると抱き合う二人を縛るように絡みついていく。そのすべすべとした感触と気持ちのいい適度な圧迫感が、相手への親愛をより深めていく。
そうしてお互いに幸せを感じつつ、崇と美嘉はしばらくの間じっと抱き合っていたのだった。
それからどれほど美嘉を抱きしめていたのか分からないが、突然二人を包んでいた髪の影ゆっくりとほどけていった。その変化に驚きつつ彼女に視線を向けると、蕩けきって荒い息を吐く妻が甘い誘惑を口にする。
「だ、旦那様…あの」
「ん、なんだい?」
「も、もう…我慢できないのです。旦那様の逞しいおちんぽで…私を慰めてください♡」
「!!」
美嘉はすでに固く勃起したペニスを撫でながら上目遣いにねだる。
最愛の女性にこんな風にお願いされて、平気でいられる男などいるはずがない。強烈な破壊力に思わず立ちくらみをしてしまいそうになるが、ぐっとこらえて期待に応えるべくこちらも彼女の股座へ手を伸ばす。
クチュ…チュクゥ…
「準備は、必要ないみたいだね…」
彼女の秘裂からは、粘度の高い愛液がたっぷりと吐き出されている。
その量はすさまじく、下着はすでに役目をなさないほどしとどに濡れて股間の周りの和服を汚し、そこからもあふれる愛液が足を伝って流れだしていた。愛液から香るオスを惑わせる魔性の芳香と、白磁のようになまめかしい肌を濡らす愛液の淫靡さに今度こそ本当に立ちくらみがしたような気がした。
「はい、早く…旦那様のお情けを、私にくださいませ♡」
だが、妻におずおずとおねだりされて一気に意識が鮮明になる。
「ああ、わかった。すぐに入れてあげるから…すぐにね」
そしてその勢いのままぐっしょりと濡れた下着をおろして和服ごと荒々しく彼女の股を押し開き、美嘉のヴァギナにペニスを突き立て一気に挿入した。
ずっちゅ、ぶちゅぅ、ぐちゅ
「あぁ♡きた、旦那様の固くて熱い…おちんちんがきたぁ♡!!」
子宮口に亀頭の先が勢いよくぶつかるほど一気にペニスを突き入れると、途端に美嘉の口から歓喜の声があがる。
「ぐぅ、美嘉の中…きもち、いぃ!!!」
ただし崇にそんな様子を観察する余裕はなかった。
彼女の膣はそれまでも大変に気持ちのいい感触で敏感なペニスを攻めたててきたが、この時ほど熱く、まるで真空かと思うほどたくさんの愛液を纏って絡みついてくることはなかった。ただ挿入しただけなのに美嘉と初めてセックスをした時のように腰ががくがくと震えて今すぐにでも射精してしまいたくなってしまう。
「あぁ、気持ちいい、気持ちいいです旦那様♡もっと、もっとぉ♡」
だが、それをぐっとこらえてがむしゃらにピストン運動を開始する。
崇にしがみつくように抱き付いてくる美嘉の体をつかみ、一心不乱に腰を突き立てていく。普段であれば彼女が気持ちよくなれるよう自分なりに配慮して腰を振り、胸や髪への愛撫も同時にこなしているが今はそんなことを考えることはできなかった。まるでタガが外れてしまったように、愛する妻の蜜壺を蹂躙していき、彼女の喉からあられもない嬌声を絞り出すことに専念していった。
「み、美嘉…ごめん、もう!!」
「私も、もう…だから一緒に、一緒に♡」
「ああ、一緒に…いこう、美嘉!!!」
「はい、旦那様♡」
そんな乱暴なセックスを長く続けられるはずもなかった。
もはや耐えられないほどの射精欲が下半身に集まり、限界まで膨らんだ亀頭から先走り液がとめどなく吐き出される。夫の限界を知った美嘉は、目をつむり腕と髪の毛を使ってその身をまるで縫い付けるように崇を抱きしめて身を震わせた。そして崇がその細くたおやかな彼女の背中に腕を回した瞬間…
びゅる…ドクッ、ドクン、ドクンッ…びゅ、びゅるぅ
「美嘉、イクッ!!!」
「あぁ…旦那様の、熱い精液が…きたぁ♡」
それまでにないほど大量の精液を、美嘉の膣内で吐き出した。
少しでも多くの白濁液を吐き出そうと鈴口は大きく開き、精巣に繋がる輸精管は収縮を繰り返す。深い絶頂を感じながら精液を受け止める美嘉の膣内もその動きに呼応するようにびくびくと痙攣し、子宮口が亀頭に吸い付き放そうとしなかった。まるで魂まで一緒に吐き出したかのような強烈な快感に身を震わせ、最後の一滴まで精液を吐き出した崇だったが、休む暇はない。
「旦那様、もっと…もっと私にお情けをくださいませ♡」
「!!」
快感に身を震わせながら、それでもまっすぐにこちらを向く美嘉にねだられ、再び男根が痛くなるほど硬く勃起する。
「ああ、君が望むだけ…愛してあげるよ。」
「嬉しい♡嬉しいです、旦那様…♡」
腰を動かすと、妻の言葉は甘く蕩ける。
崇はその声がもっと聞きたくて、再びがむしゃらに美嘉の膣奥をついていく。その度に彼女は歓喜の声をあげ、その身を擦り付けてくる。そして彼女の髪の毛はきつく、きつく崇の全身に絡みついていった。その瞬間、何故だかようやく美嘉と本当に結ばれたような気がして、崇はとても嬉しかった。だからその思いも込めてより一層力を込めて彼女の膣をえぐっていく。
それからはただひたすら水音と二人の喘ぎ声が響くだけ。
そんな理性を感じられない野性的なセックスを、二人は体力が続く限り行った。
「あの、さ。美嘉。一ついいかな?」
「はい、なんでしょうか。」
「もし、君がよければ…」
そして二人がようやく落ち着いたその時、崇は美嘉に…ある提案をしたのだった。
………………………………………………………………………
「旦那様〜。」
庭から妻の声が聞こえてきたのでそちらに行くと、長い髪を後ろで一本にまとめ大きめの麦わら帽子をかぶった妻が収穫したトマトを嬉しそうに手に持っていた。そのトマトは見事にその身を赤く色づかせ、つやつやと夏の光を反射している。
「おいしそうなトマトだね。」
「はい。虫に食われることもなくしっかりと熟れてくれました。お昼はこれを使った冷製パスタにしようと思うのですが、どうでしょうか?」
「ああ、それはいい。美嘉の作るパスタは本当においしいからね。」
「ありがとうございます。ご期待に応えられるように腕によりをかけて、おつくりします♡それでは他の野菜も、収穫してきますね〜。」
そういうと、美嘉は軽い足取りで小さな畑へと向かっていった。
妻の想いを知ったその次の日、崇は会社に辞表を提出した。
ありがたいことに周りからは考え直すようにと沢山の声をかけてもらったが、崇の意思は揺らぐことはなかった。
現在、崇はその時得た退職金を使って長年使われることのなかった人がほとんど住んでいない山里の一軒家に移り住み、美嘉と二人っきりで細々と農業をして生活をしている。
二人とも今までに農業などしたこともなかったから大変なことばかりだが、愛する妻と二人、それもまた楽しみだと割り切ってどんな時も協力して生活する現在の暮しは、それまでにないほど充実していた。というのも何と比べることもなく…
「旦那様〜」
「なんだい?」
「パスタに紫蘇と茗荷のどちらかを入れようと思うのですが、旦那様はどちらがいいですか?」
「う〜ん…難しいところだけど、茗荷がいいかな?」
「分かりました。おいしそうなのをとってきますね♡」
「ありがとう。なあ、美嘉。」
「はい、なんですか。」
「君は今、幸せかい?」
「はい。私は、生まれてきてからこれ以上ないくらい…幸せです♡」
妻がこれ以上ないほど幸せそうにしているのが何よりだ。
崇の質問に答えた妻の顔には何よりも眩しい笑顔が、のぞいている。
あれ以来、彼女の美しい髪の毛に枝毛は一本もできていない。
妻の笑顔を見て、これからもおそらく、いや絶対に彼女を悲しませはしないと崇は改めて心に誓ったのだった。
崇は妻の言葉を聞き、たっぷり数分間は呆然としていた。
というのも、業という言葉があまりにも浮世離れした言葉だったからだ。献身的で、誰よりも優しく自分に接してくれる彼女が言ったことが拍車をかけていたこともあり、とにかくその言葉を飲み込むのに時間がかかってしまった。それでもなんとか理解すると途端になぜ彼女がそんな言葉を言ったのかという疑問が噴出する。美嘉は無暗に人を混乱させるような言動をする性格ではないことを、崇は誰よりも知っている。だからこそ、業という言葉は彼女が本心から言っている言葉に間違いないのだろう。しかし彼女の言葉が本心のものだとしても、その意味が分からない。
「ね、ねえ…美嘉。」
「………はい。」
彼女の言葉の真意を探るべく、崇は質問をしてみる。
「その、僕が馬鹿だからなのかもしれないけれど…何故枝毛と業って言葉が結びつくのかが分からないんだ。」
「………。」
「だから、さ。その理由を僕に教えてくれないか?」
「…………分かりました。」
崇の言葉を聞いた美嘉は、少しの間俯き思案した。
その顔は今まで見たことないほど悲しそうな表情で、崇はすぐにでも声をかけたい欲求にかられたが、妻が静かに語り始めたので口をつぐみ、彼女の話を聞くことにした。
「前にも言いましたが…髪の毛というものは本当に繊細なものなのです。持ち主の体調、感情、ストレスやショックで簡単に傷んでしまいます。」
そういって妻は沢山生えた枝毛をそっと撫でた。
「それは私たち毛娼妓の髪の毛だって一緒。その昔、旦那様と結ばれるその少し前のことですが、私が旦那様に片思いしているときなど、ちょっとしたことで一喜一憂してしまいよく髪の毛が傷んでしまったものです。あの時もよく、こんな風に枝毛ができました。」
昔の思い出を、少しだけ楽しげに妻は話す。
しかしだからといって崇はその話をそうですかと聞き流すわけにはいかなかった。というのも彼女の話を聞く限り、枝毛の原因は彼女の感情が大きく関係していることが分かる。しかもその感情は負のもの。そして昨日まで枝毛がなかったということは…
「今日、なにかあった…いや、僕が何かしてしまったのか?」
恐る恐る、崇は自分の推測を口にする。
「………旦那様。」
すると美嘉は質問には答えず、一歩こちらに向かって踏み出したかと思うとトーンを下げた声で尋ねてきた。
「旦那様の質問にお答えするためにも一つお聞きしたいのですが…今日の午後、お仕事されている時に……まだ独り身の毛娼妓とお会いしませんでしたか?」
「え?」
妻の言葉に、今日何度目なのか分からいがぽかんとしてしまった。
なぜなら彼女の言葉が、事実だったからだ。確かに今日の午後、出向いた得意先で受付をしていた女性が毛娼妓で、今週から受付を始めたらしく、ぎこちないながらもきちんと対応をしてくれた。なんでも彼女は独身らしく一緒にいたこれまた独身の同僚がその人と話すきっかけが欲しかったのか、崇の妻が毛娼妓であることを伝えたところ、思わず話が弾み色々と話をしてしまった。といってもこちらが美嘉とののろけ話を一方的にしてしまったのではあるが。
「なんで、それを知って…見ていたの?」
だけれども妻はなぜそれを知っているのだろう。
その会社はここから特別に遠いというわけではないから妻がそこに行くことだってできるし、受付で話していたので外から見ることもできないわけではない。それでも妻には今日どこへ行くのかを言っていないのだから、後でもつけていない限りその場を見るなんてことはできないだろう。しかし一日中そんなことをすれば家事をすることなんてできないはずだし、今日もそうだったが妻はいつも自分が帰宅して玄関を開けると座って出迎えてくれるのだが、はたしてそんなことができるのだろうか。
「いいえ、見てはいません。…ただ」
すると美嘉は首を横に振りつつ、崇の左手にそっと手をのばした。
「私の髪の毛で感じていたのです。」
美嘉に言われて自分の左手、正確にいうと左手の薬指に視線を向けた。
そこには二人で選んだプラチナの結婚指輪と共に、美嘉の髪の毛をより合わせた作られたリングがはめられている。髪の毛を添い遂げる男性に送るというのが彼女たち毛娼妓の習慣であるらしく、妻の美嘉は結婚の約束を交わしたその晩に、常に私の髪の毛を身に着けていてほしいということでこのミサンガのようなリングをくれたのだった。崇は彼女からそれをもらい、随分と喜んだ。自分が髪の毛をもらえたということは彼女の配偶者として受け入れられた証でもあるし、常に愛しい人と一緒にいられるとそう思わずにはいられなかった。そのころは美嘉のことを思い出してはそっとリングを撫でてふやけた笑みを浮かべ、周りに何度も冷やかされたものだった。
「髪の毛って…これのこと?」
しかしそれと彼女が言っていた、感じるという言葉とうまくつながらず、疑問の声を上げる。
「そうです。実はその髪の毛は…まだ生きているのです。」
「ええ!?」
思わずリングを凝視する自分をしり目に、美嘉は説明を続ける。
「といっても正確にいうと私の妖術でセンサーになっているといった方がいいのでしょうか。私に二つの情報を教えてくれます。」
「センサー…。」
「はい。一つ目は旦那様の大まかな現在地です。」
「ああ、だから帰る時間が変わっても必ず玄関で座って待っていてくれていたのか!!」
崇は長年の疑問が一つ解け、思わず大きな声で独り言をつぶやいてしまう。
「そうです。勿論旦那様のためならばどれほど座って待っていることも苦にはなりませんが、家事を疎かにするわけにはいきませんので、使わせていただいています。」
「なるほどなあ。」
「そして二つ目は…その」
「………。」
言いよどむ美嘉の背中を押すように無言で彼女の手をそっと重ねると、美嘉は一つ頷いた後、少しためらいがちに口を開いた。
「未婚の毛娼妓が…旦那様の近くにいるかどうかを、教えてくれます。」
「未婚の…」
全ての条件が受付の彼女と符合した。
「はい。ですから直接は見ていませんが、感じて分かっているのです。」
「なるほど…」
これで妻が知っていたという状況は十分なほど理解できた。
だがそうなるとまた新たな疑問がわいてくる。自分の現在地はまだいいとして、彼女はなぜ未婚の毛娼妓の存在まで探知する必要があったのだろうか。それを隠すことなく美嘉に告げる。すると美嘉は悲しげに眼を細めつつその理由を語った。
「旦那様もすでに十分お分かりになっていると思いますが…私は嫉妬深い性格をしています。私だけを見てほしい、私だけに言葉をかけてほしい、私だけに愛を囁いてほしいと澄ました顔の下でそんなことをいつも考えているのです。」
彼女が閨で、独占欲を度々垣間見せることはよくあることだ。
その言葉を聞いているからそうであることは知っていたが、こうもはっきりと嫉妬深いと彼女の口から聞いたのは初めてだった。
「でもそれと同時に、私は傲岸で不遜な、バカみたいなふてぶてしさも持ち合わせているのです。」
「え?」
ジパングに住む魔物娘らしくいつも献身的に愛してくれる妻には似合わない言葉に困惑してしまう。
「旦那様を愛することができる女は、私以外ありえないと…例外を除いて他のどんな女も全くの敵ではないと…そう思う自分がいるのです。バカ、みたいですよね。」
彼女の自虐めいた言葉から、一つの回答が導かれる。
「…その例外ってまさか」
「はい……それは、私と同じ種族の毛娼妓です。」
「私はこの髪の毛と体で、旦那様を愛します。それは他のどの魔物娘の愛し方にも引けを取るつもりはありません。どこまでも旦那様を堕落させ、夢中になってもらう技量はあるつもりです。ですが、同じ髪の毛で男性から精を搾り取る毛娼妓だけは…ダメなのです。どうしても考えてしまうのです。もしかしたら旦那様は私以外の髪の毛に惹かれてしまうのではないかと。こんな私にいつも愛の言葉をかけてくださる、優しい旦那様が浮気などされるわけがないと、信じているのに…同じ毛娼妓の時だけはどうしても不安が拭いきれないのです。」
美嘉はうっすらと涙を浮かべつつ、自身の髪をつかみ上げた。
「今日も…旦那様の近くに未婚の毛娼妓がいることを察した私は、不安になりました。旦那様が何を話しているのか、どんな表情を向けているのか、私以外にどのような感情を向けているのか…そしてそれを受けた毛娼妓がよからぬ想いにかられないか。優しい旦那様に対して全く必要のない猜疑心を私はずっと燃やしていたのです。そんな最愛の旦那様を信じきれない愚かな妻だからこそ…」
「髪の毛にこんなにも沢山の枝毛ができてしまったのです。この枝毛はいわば当然の罰であり、過剰な嫉妬深さを持つ私の業、なのです。」
「美嘉!!!」
「えっ!?」
いてもたってもいられず美嘉を力いっぱい抱きしめた。
崇の突然の行動はまったく予想していなかったのか、美嘉は抱きしめられた瞬間体をびくりとこわばらせる。崇はそんなことはお構いなしに、少しでも自分の気持ちを伝えたくてさらに力を込めて抱きしめる。
「僕は、馬鹿だ!!ずっと一緒にいたのに、傍にいたのに。美嘉がそんなに悩んでいたことをちっとも知らなかったなんて…僕の方がよっぽどダメな夫じゃないか!!!」
「旦那、様……」
一度体を放し、真っ直ぐに妻を見つめる。
すると妻はみるみる涙をその瞳に貯めつつ、弱弱しく自分の名前をつぶやいた。そのいじらしさが、おそらくこちらが想像する以上に不安に駆られそれでも心配をかけまいと限界まで耐えようとした彼女の健気さが愛おしくてたまらなかった。崇は妻の涙を止めてあげたくて迷うことなく微かに震える唇に口づけを落とした。
ンッチュ…レロ、…クチュ…
初めはついばむように、次第にねっとりと絡みつくようなキスを交わす。
血色のよい綺麗な唇に自身の唇を重ねるだけではなく、痛みを感じさせない絶妙な力で下唇をあまがみしたり、時間をかけて唇の周りをゆっくりと舐めていくとそれまで可哀想なほど弱弱しかった美嘉も、崇が舌や唇で行う熱心なアプローチにおずおずとだが応えはじめた。
「ちゅ、美嘉…」
しだいにペースを取り戻してきた美嘉の様子を見つつ、崇はそっと口内に唇を挿し入れてみる。
っくちゅくちゅ…れろぉ…ぐちゅぐちゅっぅ
「あンッ…だ、んなさまぁ♡」
すると美嘉の舌は、それを嬉しそうに受け止めてくれた。
魔物娘特有の甘く濃い唾液をたっぷりと纏った彼女の舌は、いつものように情熱的に絡みついてくる。熱に浮かされたように名前を呼びながら、必死に崇の舌をねぶる美嘉が愛おしくて、崇も無心になって彼女の口内をむさぼっていく。二人の口の中で響く淫靡な水音が頭にゆっくりとピンクの靄をかけていった。すっかりスイッチが入ってしまった美嘉は先ほどまでの悲しみの涙とは違う、最愛の男に愛されている喜びで流す涙が浮かんでいた。
「んっ、ぷはぁ…美嘉……」
「旦那様♡」
口を離すと、二人の間に銀色の橋がつながる。
既に淫猥な炎と熱をその瞳に宿す美嘉は、その様をいたく嬉しそうに眺めていた。そんな彼女を見るとすぐにでも一つになりたいという欲求に駆られてしまいそうになるが、ぐっとこらえて自分の素直な気持ちを吐露した。
「ねえ、美嘉。僕の話を聞いてもらえるかな。」
「話、ですか?」
ほんの少しだけ、冷ややかな理性が戻った彼女に続く言葉を投げかける。
「知らなかったとはいえ、君を傷つけてしまって本当に…すまなかった。この先二度と同じ思いをさせないと、誓うよ。だから…こんな至らない僕でよければ、君の夫でいさせてもらえない、だろうか…」
「私などには…勿体ないお言葉です。私こそ、こんな私でよければ旦那様のお傍にいさせてください…」
美嘉はみるみるうちに涙を瞳に貯め、口を覆って嗚咽を漏らした。
「美嘉ッ!!」
「旦那様……」
そんな彼女を抱きしめるのに理由はいらなかった。
彼女の細くてしなやかな腰を抱きしめ、無駄な肉が一切ついていない背中をゆっくりとさする。崇の腕の中におさまった彼女の美しい髪の毛は、まるで二度と離れさせないといわんばかりにするすると抱き合う二人を縛るように絡みついていく。そのすべすべとした感触と気持ちのいい適度な圧迫感が、相手への親愛をより深めていく。
そうしてお互いに幸せを感じつつ、崇と美嘉はしばらくの間じっと抱き合っていたのだった。
それからどれほど美嘉を抱きしめていたのか分からないが、突然二人を包んでいた髪の影ゆっくりとほどけていった。その変化に驚きつつ彼女に視線を向けると、蕩けきって荒い息を吐く妻が甘い誘惑を口にする。
「だ、旦那様…あの」
「ん、なんだい?」
「も、もう…我慢できないのです。旦那様の逞しいおちんぽで…私を慰めてください♡」
「!!」
美嘉はすでに固く勃起したペニスを撫でながら上目遣いにねだる。
最愛の女性にこんな風にお願いされて、平気でいられる男などいるはずがない。強烈な破壊力に思わず立ちくらみをしてしまいそうになるが、ぐっとこらえて期待に応えるべくこちらも彼女の股座へ手を伸ばす。
クチュ…チュクゥ…
「準備は、必要ないみたいだね…」
彼女の秘裂からは、粘度の高い愛液がたっぷりと吐き出されている。
その量はすさまじく、下着はすでに役目をなさないほどしとどに濡れて股間の周りの和服を汚し、そこからもあふれる愛液が足を伝って流れだしていた。愛液から香るオスを惑わせる魔性の芳香と、白磁のようになまめかしい肌を濡らす愛液の淫靡さに今度こそ本当に立ちくらみがしたような気がした。
「はい、早く…旦那様のお情けを、私にくださいませ♡」
だが、妻におずおずとおねだりされて一気に意識が鮮明になる。
「ああ、わかった。すぐに入れてあげるから…すぐにね」
そしてその勢いのままぐっしょりと濡れた下着をおろして和服ごと荒々しく彼女の股を押し開き、美嘉のヴァギナにペニスを突き立て一気に挿入した。
ずっちゅ、ぶちゅぅ、ぐちゅ
「あぁ♡きた、旦那様の固くて熱い…おちんちんがきたぁ♡!!」
子宮口に亀頭の先が勢いよくぶつかるほど一気にペニスを突き入れると、途端に美嘉の口から歓喜の声があがる。
「ぐぅ、美嘉の中…きもち、いぃ!!!」
ただし崇にそんな様子を観察する余裕はなかった。
彼女の膣はそれまでも大変に気持ちのいい感触で敏感なペニスを攻めたててきたが、この時ほど熱く、まるで真空かと思うほどたくさんの愛液を纏って絡みついてくることはなかった。ただ挿入しただけなのに美嘉と初めてセックスをした時のように腰ががくがくと震えて今すぐにでも射精してしまいたくなってしまう。
「あぁ、気持ちいい、気持ちいいです旦那様♡もっと、もっとぉ♡」
だが、それをぐっとこらえてがむしゃらにピストン運動を開始する。
崇にしがみつくように抱き付いてくる美嘉の体をつかみ、一心不乱に腰を突き立てていく。普段であれば彼女が気持ちよくなれるよう自分なりに配慮して腰を振り、胸や髪への愛撫も同時にこなしているが今はそんなことを考えることはできなかった。まるでタガが外れてしまったように、愛する妻の蜜壺を蹂躙していき、彼女の喉からあられもない嬌声を絞り出すことに専念していった。
「み、美嘉…ごめん、もう!!」
「私も、もう…だから一緒に、一緒に♡」
「ああ、一緒に…いこう、美嘉!!!」
「はい、旦那様♡」
そんな乱暴なセックスを長く続けられるはずもなかった。
もはや耐えられないほどの射精欲が下半身に集まり、限界まで膨らんだ亀頭から先走り液がとめどなく吐き出される。夫の限界を知った美嘉は、目をつむり腕と髪の毛を使ってその身をまるで縫い付けるように崇を抱きしめて身を震わせた。そして崇がその細くたおやかな彼女の背中に腕を回した瞬間…
びゅる…ドクッ、ドクン、ドクンッ…びゅ、びゅるぅ
「美嘉、イクッ!!!」
「あぁ…旦那様の、熱い精液が…きたぁ♡」
それまでにないほど大量の精液を、美嘉の膣内で吐き出した。
少しでも多くの白濁液を吐き出そうと鈴口は大きく開き、精巣に繋がる輸精管は収縮を繰り返す。深い絶頂を感じながら精液を受け止める美嘉の膣内もその動きに呼応するようにびくびくと痙攣し、子宮口が亀頭に吸い付き放そうとしなかった。まるで魂まで一緒に吐き出したかのような強烈な快感に身を震わせ、最後の一滴まで精液を吐き出した崇だったが、休む暇はない。
「旦那様、もっと…もっと私にお情けをくださいませ♡」
「!!」
快感に身を震わせながら、それでもまっすぐにこちらを向く美嘉にねだられ、再び男根が痛くなるほど硬く勃起する。
「ああ、君が望むだけ…愛してあげるよ。」
「嬉しい♡嬉しいです、旦那様…♡」
腰を動かすと、妻の言葉は甘く蕩ける。
崇はその声がもっと聞きたくて、再びがむしゃらに美嘉の膣奥をついていく。その度に彼女は歓喜の声をあげ、その身を擦り付けてくる。そして彼女の髪の毛はきつく、きつく崇の全身に絡みついていった。その瞬間、何故だかようやく美嘉と本当に結ばれたような気がして、崇はとても嬉しかった。だからその思いも込めてより一層力を込めて彼女の膣をえぐっていく。
それからはただひたすら水音と二人の喘ぎ声が響くだけ。
そんな理性を感じられない野性的なセックスを、二人は体力が続く限り行った。
「あの、さ。美嘉。一ついいかな?」
「はい、なんでしょうか。」
「もし、君がよければ…」
そして二人がようやく落ち着いたその時、崇は美嘉に…ある提案をしたのだった。
………………………………………………………………………
「旦那様〜。」
庭から妻の声が聞こえてきたのでそちらに行くと、長い髪を後ろで一本にまとめ大きめの麦わら帽子をかぶった妻が収穫したトマトを嬉しそうに手に持っていた。そのトマトは見事にその身を赤く色づかせ、つやつやと夏の光を反射している。
「おいしそうなトマトだね。」
「はい。虫に食われることもなくしっかりと熟れてくれました。お昼はこれを使った冷製パスタにしようと思うのですが、どうでしょうか?」
「ああ、それはいい。美嘉の作るパスタは本当においしいからね。」
「ありがとうございます。ご期待に応えられるように腕によりをかけて、おつくりします♡それでは他の野菜も、収穫してきますね〜。」
そういうと、美嘉は軽い足取りで小さな畑へと向かっていった。
妻の想いを知ったその次の日、崇は会社に辞表を提出した。
ありがたいことに周りからは考え直すようにと沢山の声をかけてもらったが、崇の意思は揺らぐことはなかった。
現在、崇はその時得た退職金を使って長年使われることのなかった人がほとんど住んでいない山里の一軒家に移り住み、美嘉と二人っきりで細々と農業をして生活をしている。
二人とも今までに農業などしたこともなかったから大変なことばかりだが、愛する妻と二人、それもまた楽しみだと割り切ってどんな時も協力して生活する現在の暮しは、それまでにないほど充実していた。というのも何と比べることもなく…
「旦那様〜」
「なんだい?」
「パスタに紫蘇と茗荷のどちらかを入れようと思うのですが、旦那様はどちらがいいですか?」
「う〜ん…難しいところだけど、茗荷がいいかな?」
「分かりました。おいしそうなのをとってきますね♡」
「ありがとう。なあ、美嘉。」
「はい、なんですか。」
「君は今、幸せかい?」
「はい。私は、生まれてきてからこれ以上ないくらい…幸せです♡」
妻がこれ以上ないほど幸せそうにしているのが何よりだ。
崇の質問に答えた妻の顔には何よりも眩しい笑顔が、のぞいている。
あれ以来、彼女の美しい髪の毛に枝毛は一本もできていない。
妻の笑顔を見て、これからもおそらく、いや絶対に彼女を悲しませはしないと崇は改めて心に誓ったのだった。
14/08/30 00:25更新 / 松崎 ノス
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