獨擅
夏の暑い夜が立ち籠る室内。
マンティコアが男を背後から抱きすくめ、グロテスクな尻尾で勃起した陰茎を犯していた。
まさに人外と呼ぶに相応しい美貌を湛えたマンティコアの腹は、丸々と大きく膨らんでいる。
だがその顔にはおおよそ母には似つかわしくはない、淫猥な笑みが浮かんでいた。
グチュ、ブチュ、グチュ
夫婦の寝室にぐちゃぐちゃと水音が反響する。
聞くだけで欲情をかきたてるその音は、見る者が嫌悪感をも抱きかねない前時代の魔物を彷彿とさせる尻尾から発せられている。耳に纏わりつく様なねっとりとした水音をたてつつ、私はもう何度飲みこんだかもわからない夫の性器を尻尾で咥えこみ、ぐちゃぐちゃに溶かしこむように嬲っていた。
「あ、あぁっ…そこっは…!?」
夫の弱点は熟知している。
根元をきつく縛り上げながら、優しく裏筋を舐めまわすとこちらの予想通りに夫はたまらず喘ぎ声を洩らす。こうしてしまえばどれだけ我慢しようと、すぐに私の中にお漏らししてしまうくせに、いつも夫は射精を堪えようと体を強張らせる。
「我慢なんかするなよ…出せ…」
歯を食いしばり我慢しようとする夫の耳元で囁く。
私が本気で搾り上げれば成すすべなく濃い白濁液を吐きだすしかないというのに、抵抗しようとする私だけのオスがまるで眠気を我慢している幼い子供のように思えて、堪らなく母性本能や嗜虐心をくすぐられる。夫がそういう態度をすればするほど私はこのオスを甘やかせてやりたい、ひいひいと快楽の悲鳴をあげるほど嬲ってやりたいと思うのが分からないのだろうか。それとも…
「ひょっとして…いつも必死に我慢しているのは私を焦らしているつもりなのか?」
「っち、違う…!!」
顔を真っ赤にして否定の言葉を口にするが、言葉には動揺や焦りが濃く表れている。
「そうか、そうか。もっと嬲ってほしいってか…。」
グチグチ、ニュチュヌチュ、ニュグニュグ
「期待には応えてあげなくちゃいけないなあ。」
「あぁあぁああああああ!!!」
淫肉を全力で蠢かせてペニスを扱きあげる。
すると先程とは比べ物にならないほど尻尾からびちゃびちゃと大きな水音が洩れ、夫の口から悲鳴にも似た絶叫があがった。私によって嬲られた夫は情けないほど顔を歪めて、わなわなと口を震わせる。それは彼が幾分の余裕もない事を雄弁に示している。背後から抱きしめ、乳腺の張った乳房や大きく膨らんだ腹を背中に押しつけつつ、悠然とその横顔を優越感たっぷりに見詰めていると少しの間を置く事もなく…
びゅ、びゅうぅ…びゅぐぅ
「あは、あっけなく出したな。」
「ぅう…」
夫は私の尻尾の中にたっぷりと命の素をもらした。
ペニスが尻尾の中で何度も跳ね、亀頭が苦しげに震えながら熱くドロドロとしたザーメンを吐き出す。私はオスを屈服させた達成感や征服感、そしてなにより他に比べようもないほど甘露で濃厚な彼の精液をその身に受けたことで、嬉しさが体の中で爆発する。この瞬間だけはじっくりと幸せや喜びを楽しんでいたかったが、射精してもなおガチガチに怒張した陰茎を持て余した夫が、口では申し訳なさそうに謝罪の言葉を呟きながらも、私の尻尾を鷲掴みにして抽送を開始したことで直ぐに現実に引き戻される。
「ごめん、もう…我慢できない…!!!」
ぶちゅっぶちゅっぶちゅっ
目にうっすらと涙を浮かべ
戦慄く口の端から涎をたらし
快楽に負け、顔をくしゃくしゃにしながら一心不乱に腰を振る夫。
ああ、なんて自堕落で素晴らしいのだろう。
その姿を見るだけで、私の中にくすぶる独占欲がみるみる満たされていく。
例え一言でも私以外の女と言葉を交わすだけで心の奥底から滲みでてくる嫉妬とは正反対の、甘くとろけた心地よさが体の芯から髪の毛の先まで沁み渡る。その心地よさだけで、子を宿した私の子宮は甘く疼き、愛液をたっぷりと吐き出していく。
正直、自分がここまで夫に固執するとは思わなかった。
夫と出会うまでは白蛇やラミア種を代表する様な、嫉妬深い女の態度をいまいち理解することが出来なかった。なぜそこまで愛する配偶者を縛り上げるのだと…むしろ否定的な感情すら抱いていた。
ところが夫と出会い、初めて恋をしてからは彼女達の気持ちが痛いほどに分かった。
夫が他の女に笑みを向ける。
夫が他の女のために行動する。
夫が他の女と接触する。
夫が他の女と言葉を交わす。
浮気などでは無い、ただ夫が日常生活をしているだけなのに。
ただ彼が他の女と接触しているというだけで、無性に腹が立った。嫉妬で苦しかった。自分の気持ちを抑える事が出来なかった。一時でも夫が自分の側から離れるだけで不安になり、落ち着かなかった。
だから私は彼と結ばれて以来、半ば監禁でもしているかのように彼の行動を制限し、常に彼の側から離れようとはしなかった。そして私以外のメスのことを忘れさせるように、昼夜関係なくセックスをし続け、彼の気持ちが決して自分から離れないように愛し続けている。
そんな日常を過ごしていれば、新しい命が私の体に芽生えるのは自明の理。
愛しいオスの種が私の卵子を犯すのに、そう時間はかからなかった。
そっと自分の膨らんだ腹を撫でる。
そこには愛する夫との間にできた子供がいる。
それは想像を絶するほど嬉しく、喜ばしい事だ。夫も、私の妊娠を知った際には涙を浮かべて喜んでくれた。この世界で私以外の女が絶対に出来ない、彼の子を宿すという行為。その神聖さに私はひどく酔いしれた。
だが、喜んでいるばかりではいられなかった。
この世界では、魔物の子供は未だに娘しか生まれない。ということは、自分の子宮に宿った我が子は、日を追うごとにその存在を大きくしていく可愛い我が子は間違いなくマンティコアのメス。
その事実は妊娠が発覚したその日に、私に重くのしかかった。
ただ、私は悲観にくれることはなかった。
何故なら、私には恵まれた体も頭脳もあるのだから。マンティコアだからこそできる方法で、娘を胎内で育む事が出来たからだ。きっと娘が誕生してからも上手く立ち回ることは出来るという自信がある。だからこそ、私は悲観することもなく行動を実行に移した。
もし、自分に幸せを手に入れる術があるのならば…他人がどう思うと行為を遂行するだろう。
「うぅぁあぁ!?」
そんなことを考えていると、尻尾に向かって滅茶苦茶にペニスを突き立てていた夫が一際大きな喘ぎ声を上げ、再び大量の精液をぶちまけた。大量に出された白濁液を堪能しつつ、私は夫を犯す為に再び思考を一つに向けていく。
「二回目も、濃くて大量のザーメンを出してくれたな。」
「…っくぅ」
私の言葉を半分も聞こえていない様子で、夫は射精したばかりというのにかくかくと腰を振って快楽を貪ろうとする。
「そんなに気持ちよくなりたいのなら、手伝ってやるよ。」
「あぐぅ!?うあああぁっ!!!」
尻尾にはえた毒針を容赦なく夫に突き刺していく。
すると夫は低いうなり声をあげ、痙攣したように震えたかと思うと猛烈な勢いで腰を振るい始めた。
こうして、今日も理性の箍が緩んだ夫が吐き出す大量の精液をその身に受ける幸せな夜は更けていったのだった。
……………………………………………………………
ここ最近、俺はある事を悩んでいた。
「どうしたんだ、ぼんやりとして」
悩みの種は誰よりも愛おしく、大切な妻との関係。
実は数カ月、妻とセックスをしていない。
口や手などを使った愛撫、尻尾による性交渉はしているのだが、セックスを一切していないのだ。
セックスを断わられた、というわけでもない。
断られる以前に、その意思を確かめることも出来ていない。ある時を境にして、セックスする気力がなくなるほど徹底的に尻尾で搾精されるようになったからだ。
彼女の尻尾による搾精は執拗だった。
そう、それはまるで出会った当初、彼女達が男の精液を体になじませるためにするように。最初は気がつかなかったのだが、それは思い返してみると彼女が妊娠したころからの事だと思う。もし彼女が人間ならば、セックスを控えるのは納得が出来る。しかし、人間とは比べられないほど性行為に適応し、頑丈な生殖器官をもつ魔物娘が性行為を避ける理由は一体…なんなのだろうか。
「何を考えているんだ…?」
「いや、なにも考えて…ないよ。」
今日も先程まで続いた激しい尻尾による凌辱を終え横たわる俺の体に、満足そうな表情を浮かべ身重の体を預けながら妻は真っ直ぐな視線をこちらに向ける。子を宿し、腹が膨れてもなお美しさを損なわない彼女に見つめられると、どこまでも自分の考えが読まれている様な気がしてならない。迷いの無い深みのある紅の瞳を前では、別にやましい事があるわけではないのに気まずさを感じてしまう。こちらの動揺を気取られないよう心を落ちつかせつつ、妻の質問に真意とは正反対の返事をする。
「嘘だな。」
だがそんな苦し紛れについた嘘が、彼女に通じるわけがない。
「最近、お前がふとした瞬間に何かを思い悩んでいるのは知っている。」
「………。」
彼女はゆっくりと、大きな獣の手を俺の頬にあてながら囁きかける。
「私はお前の妻なんだ。悩み事があるのなら、私に相談してくれ…。」
「あの、さ」
確かにこのまま一人で悩んでいたとしてもなにも解決しないだろう。
それならば、自分の心情を吐露してしまった方が…いいのかもしれない。彼女と出会い、今までの人生を捨てて彼女と二人きりで生活をしてきた今の自分にとって、妻という存在は絶対なのだから。
「ここ最近、ずっとセックスをして…ないだろ?」
「!!」
質問を投げかけられた妻は、目を大きく開き体を固くさせた。
「確かに、尻尾で搾られるのは気持ちいい。何度経験しても、なれることも、飽きることもない。むしろする度にその行為に夢中になっていくくらい気持ちがいい。だけど…時々空しくなることがある。俺は気持ちよくなっているけれど、お前はどうなんだろうって。」
彼女は口を噤んで自分の話を聞いている。
「だけど、セックスならお互いを気持ちよくすることができるって、そう思うんだ。だから」
俺は頬にあてられた妻の手に自分の手を重ねて彼女を誘う。
「久しぶりに、セックスしないか?」
「ああ、しまった。失敗したなあ…今日も根こそぎ搾りとったと思っていたが、私の愛しい旦那様は想像以上にお盛んだった、か。」
提案を聞いた妻は、額に手を置き悔しげに顔を上げたかと思うと、がっくりと脱力した。彼女が何を悔しがっているのかいまいち測りかねるが、彼女の同意を期待する自分は言葉を出さずぐっと彼女の答えを待った。
「………断る。絶対に、嫌だね。」
だが妻は自分の提案に首を縦に振ることはなく、それどころかみるみる顔に怒気や嫌悪感を滲ませていった。
「…え?」
まさか断られるとは思ってもみなかったこともあり、呆然としてしまう。
すると妻は放心して動けない、仰向けに寝ている自分の鳩尾にどっかりと座りこみ、右手で動きを封じるように首を鷲掴み、左手で搾り上げるように腕を掴みあげた。そしてじらすようにゆっくりと体を近づけながらその理由を説明し始める。
「普通の状態であれば、お前とするセックスを断る事なんか絶対にしない。」
「……っ普通って、どういうこと」
夫の自由を奪い、完全に優位にたった妊婦はその大きな腹につかみ上げた自分の手をあてがいながら質問する。
「分からないか、今私の子宮の中に何が居るのか…」
「それは…」
彼女の言葉を聞いて、視線を膨らんだ妻のお腹に向ける。
臨月にはまだ達していないが、それでも大きくなった彼女の胎内には自分たちの可愛い子供が宿っている。
「俺たちの…子供だ。」
「そうだ。私たちの大事な、大事な“娘”だ。この意味が分かるか?」
「………。」
一段とトーンが低く、冷たさを孕んだ彼女の言葉になんと答えればいいのか分からず、口を噤んでしまう。彼女の反応は、自分が妻以外の女性と接触してしまった時と酷似している。その迫力に圧倒されていると妻はさらに機嫌を損ねたように表情を歪めながら顔を近づけてきた。
「お前は……私だけの男だ。例えどんなに大切な娘であっても、精液の一滴、先走りの一滴でも譲る気は…毛頭ない。お前の全ては私だけのもの。お前が愛を向けるのは私だけ。他の女にくれたやるものなど…なに一つないって言っているんだよ。」
「!!」
妻の瞳には、自分への愛と狂気が彩られていた。
その狂気の色を見て、温度を感じる事が出来ない無機質の様な妻の言葉を聞いて、誰よりも深く大きな自分への愛を感じて、彼女が言わんとしている事をようやく理解することが出来た。
つまり、彼女は自分たちの子供…この世界に生まれてすらいない娘でさえ一匹のメスとして嫉妬し、自分と接触させたくないと言いたいのだ。
「ただな、勘違いはするなよ?」
幾分、瞳に理性の色を漂わせた妻が愕然とする自分に釘をさす。
「子宮にいるお前との子供は、私にとっても大切な娘だ。大事に育てるさ。今だってその為にお前からたっぷりと精液を貰って、そこから得られる栄養や魔力を娘にあげているんだからな。」
「だがな、それはあくまで一度私の体で魔力や栄養として変換されたモノだけだ。他の女にはお前のペニスから射精される精液を直接吸収すること、いや触れることさえも…」
「絶対にさせはしない。」
彼女はゆっくりと体を起こし、自分の尻尾を手繰り寄せる。
「無事にこの子を出産し、子宮が空になればイヤといってもセックスをしてやるが…そういうわけで今はこの子が生まれるまで何があってもセックスすることはできない。だが安心してくれ…。」
にちぃ…ぐちゅぅ…
彼女の言葉が終ると同時に、尻尾の口が開く。
「だが安心してくれ…。今日みたいなことが起こらないよう、これからは徹底的にこの尻尾で搾ってやるからな。」
「あぁ…」
魔性の香りや粘度の高い粘液を吐きだす淫肉の洞を見るだけで、頭にピンク色の靄がかかってしまう。それまでに受けた快楽や刺激が、反射的に思考を奪い去っていく。その様を満足そうにながめながら魔物娘は囁く。
「そうだ、それでいい…。お前は私だけを愛してくれればいいんだ…。お前は私だけの、大切な男なんだからな。」
こちらを見つめる瞳が鈍く光る。
その光は黒く淀み、だがどこまでもまっすぐだ。俺がその視線に釘づけになっていると、長い時間をかけ精液を搾られたというのに固く勃起した陰茎に彼女の尻尾がせまった。
「これからいつまでも、お前を骨の髄まで愛し尽くしてやるよ」
その言葉と共に、ペニスが再び飲みこまれた。
粘膜をまとった淫肉が一斉にペニスに絡みつく。晒される強烈な快感が、彼女の深すぎる愛情が、あっという間に自分の自我を侵略していった。
それに抗う術が、自分にはない。
ずぶずぶと、妻の深すぎる底無しの愛に沈む他なかった。
「なあ、嬉しいだろ?」
愉悦たっぷりの彼女の言葉が、どこまでも頭に響いて消えることはなかった。
14/07/19 19:35更新 / 松崎 ノス