読切小説
[TOP]
耳愛
多くの人や魔物が行き来する駅前周辺に腕を組んで親しげに歩く男女がひと組。
男は顔立ちも身長も平均的で、服装もあまりぱっとしない。その一方、女はすれ違った者が振りかえるほど見目麗しく、着こなしている薄紫の着物は遠目から見ても高価であると分かる。そしてその女性の頭からは二つの獣の耳が、たおやかな腰からは四本の尻尾が生えている。その風貌から分かるように、女は魔物、種族は稲荷だ。

「悠二さんと一緒のショッピングは初めてなので、楽しみです。」
人目もはばからず甘えるような口調で女、稲荷の静華は隣の男に話しかける。
「でも駅ビルにある本屋が目的地だから、楽しいかどうかは分からないよ?」
苦笑いしながら話しかけられた男、関悠二が応える。
「いいえ。目的地なんて関係ありません。一緒に出掛ける事ができて嬉しいのです。」
「そんな直球に言われると…」
「うふふ、素敵にエスコートしてくださいませ。」
恥ずかしさに顔を赤くする悠二の腕に絡める腕の力を強めながら静華は微笑む。その四本の尻尾が忙しなく、嬉しそうに揺れているのを見ると本当に楽しんでいるようだ。


「そこのお二人〜。ミルクは〜いかがですか〜?」
しばらく歩いていると、突然声をかけられた。その声は優しく、妙に間延びした声だった。
前方にいるその声の主は頭から角が生え、尻尾や体毛、足先の大きな蹄はまるで牛そのものだった。そして彼女の胸はかなり…でかい。隣にいる静華の胸もかなり大きいが、目の前のそれはただならぬ存在感を放っている。
「ああ…彼女はホルスタウロスという魔物で、ミノタウロスの一種ですよ。」
「へえ、ホルスタウロスっていうんだ。」
悠二の様子を察して、静華がそっと耳打ちをする。魔物娘の事や魔界に関する知識がほとんどない悠二にとって、静華が表情や心境を汲み取って即座にフォローしてくれるのはありがたい。

「今朝搾りたてですよ〜。試しに一杯いかがですか〜?」
彼女は相変わらずマイペースな口調で説明しながら、コップに入った牛乳を二人に差しだす。
「悠二さん、でいただいてみましょう。私も久しぶりに口にするので、楽しみです。」
「そうなんだ。いただきます。」
「どうぞ〜。もし気に入っていただけたら購入してくださいね〜。」
さしだされたミルクを受け取り、飲んでみる。
それは今まで自分が飲んできた牛乳とは一線を画すようなものだった。口に入れた瞬間に甘い匂いが広がり、次いで濃厚で、しかし決してくどくない旨味が味覚を支配する。そしてそれを味わいつつ飲み込むと、普通の牛乳では得られない爽快な後味が口を満たしていく。

「これは美味しい!!是非買わせていただきます。」
「ありがとうございます〜。値段は値札に書いていますので〜確認してくださいね〜。」
「それにしても本当に味がいいですね、旦那様の搾り方がよっぽど御上手なのかしら?」
「えへへ〜。そうなのですよ〜。分かりますか〜?」
「…。」
静華はその味に慣れているのか、飲み終わって直ぐに目の前のホルスタウロスからミルクを購入している。ホルスタウロスもミルクを褒められ嬉しそうに微笑んでいる。その一方、初めて飲んだホルスタウロスミルクがあまりに衝撃的だったので、悠二は言葉が直ぐに出なかった。その様子を見て、何か問題があったと思ったのか、ホルスタウロスはさっと笑顔が消え、心配そうに尋ねる。
「あの〜…。何か問題でも…ありましたか〜?」
その言葉で我に返り、慌てて感想を口にする。

「ああ、すみません。あまりにも美味しくて…。今まで生きてきてこんなに美味しい牛乳を飲んだ事はありません。本当に心からもっとたくさん飲んでみたいなって思いました!!」
彼女の不安を取り払おうと、感想を捲くし立てる。すると、悠二がいきなり喋り出した事に驚いたのか、ホルスタウロスは一瞬あっけにとられていたが、突然満面の笑みで抱きついてきた。
「ありがとうございます〜。そこまで言っていただけるのは〜、ミルクを出している私としても本当に嬉しいです〜。」
「ちょ、ちょっといきなり何を…というかミルクを出しているって?」
いきなり抱きつかれた事にも驚いたが、自分の想像もしていなかった言葉に驚いた。
「このミルクは〜今日私の旦那さんに搾ってもらった〜私のミルクですよ〜。」
何を当り前な事をと言わんばかりに彼女が答える。その言葉を聞いて思わず思考がフリーズする。そして思考がフリーズしたことで今まで意識しなかった豊満な彼女の胸の感触が悠二を襲う。その恐ろしく大きく、そして今まで体験した事のないような柔らかさを伴う双胸に、思わず鼻の下が伸びてしまう。
そしてその感触を感じつつ、先ほど飲んだミルクはこの胸から搾られたのか…と如何わしい妄想をしてしまう。

「悠二さん。」
だが、今まで聞いた事のないような静華の冷たい声を聞いて邪念は吹き飛んだ。静華はいつもと変わらない笑顔を浮かべ立っている。いつもであればその笑顔に見ほれるところだが、今はその変わらない笑顔を見ると無性に背筋が寒くなる。
ホルスタウロスも静華からただならぬ気配を感じ取ったのか、悠二から体を離す。
「ごめんなさい〜。私、嬉しくなったり気が昂ぶると〜抱きついてしまうもので〜。」
「私はぜ・ん・ぜ・ん、気にしていませんわ。それよりミルクはこれからもこの街で販売なさるのですか?」
あくまでにこやかに静華は受け答える。
「はい〜。隣町に住んでいるので、販売する場所は変わるかもしれませんが〜この街で販売する予定です〜。」
「それでは是非、また利用させていただきます。」
「本当ですか〜。ありがとうございます〜。」
「こちらこそ、これからも美味しいミルクを楽しみにしています。」
「またの御越しをまってま〜す。」

「ほら、行きますわよ。悠二さ・ま。」
話を終え、静華はさっさと歩きだす。その後ろ姿に嬉しそうに頭を下げるホルスタウロスとは対照的に、静華の後を追う悠二の顔は恐怖にひきつっていた。
おそらく、静華は他の女性に鼻の下をのばしていた悠二に相当腹をたてているのだろう。最低でもこれ以上怒らせないようにしなければ…。

「あの〜…静華さ…。」
「はい。何でしょうか?」
言い終わらに内に間髪いれず返される。立ち止りゆっくりとこちらに向けた顔には言葉の強さとは裏腹に柔和な笑みが浮かぶ。
「静華さん、さっきの事…」
「先ほど、何かあったんですか?私はミルクに夢中で何があったか分かりませんでしたわ。」
「嘘だ…。だって顔が笑ってな…」
「…。」
笑みをさらに濃くし、静華は無言のプレッシャーを放つ。ここは無駄な抵抗をせず、素直に謝るほうが得策かもしれない。
「怒らせてしまうようなことをしてしまい、すみませんでした…。」
「くすっ。本当に可笑しな悠二様。突然謝るなんて。それに私は怒ってなど、そう決して怒ってなどいませんわ。」
そう言われるとこちらは何も言えなくなる。彼女自身が例え腹が煮えくりかえるほど怒っていても、怒っていないと言われれば、これ以上何を言っても藪蛇になってしまう。
「あ、悠二様。今日は用事があるのを思い出しましたので、申し訳ありませんがここで帰らせていただきます。」
「え、用事って?」
「母様に会わなければならないのです。」
「そう…なんだ。」
「はい。ですので、申し訳ありませんが今日は御一人で買物をなさってくださいませ。そう、ごゆっくりと。」
最後のゆっくりの部分をあからさまに強調し、彼女は頭を下げる。言葉から察するに、これは暗にしばらく帰ってくるなということなのだろう。
「では私はこれにて。失礼します。」
頭を下げたままの彼女が次の瞬間、煙のようにいなくなった。おそらく妖術の類を使用したのだろう。

その場には、相変わらずの人混みと一人残された悠二が立ち尽くしているだけだった。
「お金、足りるかな…。」
ため息をつきつつ、寂しい財布の中身を確認する。
彼女の機嫌を損ねてしまった悠二に出来る事は、彼女に気にいってもらえるような土産を買ってご機嫌を窺いつつ、ただただ謝る事だけだ。それでも彼女にどれだけ頭を下げても許されるかどうか分からない。それを考えるだけで頭が痛くなる。

そんな悠二をあざ笑うような駅前の騒々しさがとても妬ましく感じた。



「気が重いなあ…。」
そう呟いた悠二は今、自分の家の玄関前に立っていた。すっかり日は傾き、辺りは急速に暗くなり始める。
静華に取り残された悠二は当初の目的であった本屋へは到底行く気になれず、あれから手土産を探しながら時間をつぶした。
そんな事を思い返しながら、手に持った箱に視線を落とす。中には数種類のケーキが入っている。これで少しでも静華の機嫌が上向けばいいのだけれど。
「でもまあ、ぐずぐずしても仕方がないか。」
角部屋である自分の部屋の明かりはついている。それはつまり彼女が帰宅しているということ。確かに直ぐに帰ってくるなと言われたが、あまりぐずぐずして帰宅が遅くなってしまうと余計に怒られてしまうかもしれない。

「た、ただいま〜…。」
恐る恐る扉を開け、中の様子を窺う。
「お帰りなさいませ。お帰りになるのをお待ちしていました。」
するとそこには昼間の様子を微塵も感じさせないいつも通りの静華がいた。柔らかい笑みが浮かび、尻尾も嬉しそうに揺れている。その様子に気が抜けてしまうが、自分がまずしなければならないのは―――謝罪だ。

「昼間、事故とはいえ不快な思いをさせてしまってごめん。これ、お詫びです。」
静華にケーキを差し出し、出来うる限り頭を下げて謝罪する。
「これは御土産ですか?…まあケーキ。ありがとうございます。食後に一緒にいただきましょう!!」
ケーキを受け取り、中身を確認した静華は嬉しそうに声を弾ませる。
「あの、静華さん?」
「はい、なんですか。」
「怒っていないんですか?」
「おかしなことをおっしゃいますね。私は無闇に怒ったりしませんよ。」
「…。」
「さあ、何時までも玄関におられずに、あがってくださいませ。食事の準備も、お風呂の準備も出来ていますがどちらになさいますか?」
「ええと、じゃあご飯で…。」
「はい。では用意しますので、手を洗って席でお待ちください。」
そう言って静華はパタパタと軽い足音を残して台所へと消えていく。
てっきり何度謝っても許してもらえないとばかり思っていたので、気が抜けてしまった。玄関で靴を脱ぎ、彼女に言われたように手を洗い席につく。

しかし、悠二は彼女の笑みの真意をはかりかねていた。それを彼は後々身を持って知ることとなる。




「悠二さん、膝枕はいかがですか?」
それは食事を終え、食後のお茶を飲みながら二人でのんびりとテレビを見ている時だった。
いつものように悠二に腕を絡めつけ、しなだれていた静華が自分の膝をポンポンと叩きながら誘ってきた。
「え、いいの?」
「はい。いつか愛しい殿方に膝枕を…と思っていましたので。」
「じゃあお願いします。」
「はい。いらっしゃいませ〜。」
その時、既に悠二の頭には昼間の出来事は残っていなかった。それはひとえに静華のまるで昼間に何もなかったかのような振舞いが影響していた。そんな状況で提示される男の夢の一つでもある膝枕の誘惑に悠二はあっさりと負けてしまう。

それは想像以上に凄かった。
膝枕など母親以外にしてもらった事は無いが、人間の膝枕と魔物の膝枕は別次元のものだと痛感した。
太ももに乗せた頭からは静華の体温が熱いほど伝わり、全身から漂う彼女の甘い体臭が呼吸するたび肺に満ちて行く。そして彼女の肉付きのいい太ももは今まで使ったどの枕よりも柔らかく、上質な着物も相まって非常に心地がいい。
そして、下から見上げる彼女の扇情的な胸に目が釘付けになる。それは彼女が呼吸するたびに揺れ、形を変える。既に何度も静華と情事を重ねてその胸を堪能しているが、それでも目を離す事が出来ないほどの魅力を放っている。

「いかがですか、私の膝枕は?」
「最高、です。毎晩これで寝たいくらい。」
「うふふ。そう言っていただけると嬉しいですね。」
「重くは無いですか?」
「幸せを感じる素敵な重みなので、全然苦になりませんよ。」
そう言って彼女は慈愛に満ちた笑顔を悠二に向ける。その笑顔に安心しきって全身の力が抜けて行く。
「でもしてもらってばかりだと申し訳ない気持ちに…。」
「お気になさらず…っつ。」
珍しく彼女が言葉を濁した事に疑問を覚える。そして今まで笑みが浮かんでいた彼女の端正な顔に、ほんの僅かに葛藤が浮かんでいる事に気がつく。
「どうかしたの?」
「いえ、その…」
「僕で出来る事なら何でも言ってよ。」
その言葉で意を決したのか、彼女は頬を赤らめながら口を開く。
「その、私の眼を…見ていただけないでしょうか。」
「え?」
「私たちの様な魔物にとって、目を合わせると言う行為は特殊な意味を持つのです。ですので、よろしければしていただけないでしょうか…。」
羞恥に顔を赤らめ、もじもじとする彼女がとても可愛かった。どんな意味があるのか分からないが、普段我を通す事の少ない彼女の頼みを無下にできない。
「うん。そんなことでよければ何時だって。」
「本当ですか?では早速。」
そう言うと、静華は悠二の顔に覆いかぶさるかのようにぐっと頭を下げた。

切れ長の目に浮かぶ彼女の瞳は、金色である。それは彼女の髪の毛や、獣の耳、四本の尻尾と同じ色でとても美しい。
その瞳を見続けていると、まるでその中に吸い込まれるような錯覚を覚える。

しかし、その瞳を見つめて直ぐに体に異変を感じる。体がまるで金縛りにでもあったかのように動かない。
「う、…これ、は?」
なんとか喋る事は出来るが、それもたどたどしいものになってしまう。
「その様子だと、上手くいったようですね。」
そんな悠二に、静華が楽しげに話しかける。
「悠二さんは素直ですね。私たちのように妖術や呪文を使用する魔物やラミア属のような魔物と目を合わせると言う事は、命取りなのですよ?他の魔物娘とは絶対に合わせないでくださいね。」
「それは、どういう…意味?」
「クスクス。目を合わせると、相手に無防備な状態で接してしまうのです。そうなれば簡単に妖術をかける事が出来るのですよ。しかもそうやってかけると、どんなに抗ってもかけられた側からは術を解く事が出来ないのです。」
可笑しそうに笑いながら、想像もしなかったことを告げる。そして彼女は馬鹿な獲物がかかった喜びを隠そうともせず、満面の笑みを浮かべる。その瞳はまるでいたぶるような嗜虐的な光が宿っている。

「でもそんなに不安に思わないでくださいね。何も酷い事をしようって訳ではないですから。」
「じゃあ…何の、ためにこんな…ことを?」
「まずは、これです。」
そう言った彼女は、着物の袖から何かを取り出した。
「耳搔き?」
「はい。耳搔きです。母様にお会いしたついでに実家から持ってきました。これでご奉仕させていただきますね。耳搔きをして差し上げるのも一つの夢なのです。」
それは何の変哲もない耳搔きだった。それを見せつけるように目の前でゆっくりと揺らしてみせる。
「でも耳搔き中に動かれては危ないでしょう?だから動けないようにしたのです。」
しかし、不気味なほど笑顔を浮かべる彼女の笑みが恐ろしかった。

「さて、まずは左耳からですね〜。」
そして何の抵抗も許されず体を傾けられる。
「ではではまずは下準備を…ふうぅ〜。」
「ひゃあ!?」
突然耳に息を吹き込まれる。思いもしなかった彼女の行動に情けない声が出てしまう。そして、息を吹き込まれた左耳は、じくじくと熱を持って疼き始める。
「まるで女の子のような声を出されて、可愛らしいです。では参りますよ〜。」
「あぁ!?あぎぃいぃ!!」

次の瞬間、まるで耳の穴から直接脳みそをかき乱すような快楽が悠二を襲った。
一体、自分は今何をされたのか?
そして自分を襲った性器から得られるものとは異質な快感は一体…。
たった一搔きしただけで与えられる快感にただただ体を震わせる。

「いかがですか〜悠二さん。私の耳搔きは?」
「はあ、はあ。僕に何をした、の?」
「耳限定に神経を何倍も敏感に、そして快楽を感じるようになる呪文をかけたのです。今の悠二さんの耳の穴は、人間のおまんこくらい敏感になっていますよ。ふう〜。」
「あうっ、そんな…。」
「そしてこの特製の耳搔き。私の愛液と魔力を幾重にも染み込ませた特別製です。いつか使う事を夢見て、オーダーメイドで作ってもらっていたのです。」
「…。」
「だ・か・ら。」
「あひっ…あぐぅ。」
「一搔きするだけで悶絶するような快感を生み出します。」
「も、もう…やめて…」
「それでは、続きをしましょうか。あ、射精は出来ないようにしていますので、下着を汚す心配もありませんからご安心ください。」
「な、んでこん…な事を?」
「ふふ、それはですねとっても簡単な理由です…」
不気味に笑いながら、彼女は一旦悠二を正面に傾け彼の顔を覗きこむ。

「ホルスタウロスのおっぱいに浮気した悠二様を懲らしめるためです。」

彼女の眼は、完全に獲物を狙う目になっていた。
「あれは事故…」
「でも、私の前で鼻をのばしていました。」
「うう。」
そう言われると、のばしていたのは事実なので反論できない。

「では、お仕置きを続けますね。どんなに気持ち良くても、壊れないでくださいね?」



「ハア…ハァ…もう、ムリ…」
あれから一体どれだけ時間が過ぎたのだろう。とっくの昔に時間の感覚は消失していた。
その間休みなく行為は続けられた。一搔きされると、まるで耳垢を掻き出すように理性や忍耐ががりがりと削られていく。
静華との性行為による快感とはまるで異なる快感は、確実に彼の体力と精神力を奪っていた。
その苛烈な快感を感じるたびに、昼間の自分の軽率な行動を悔い、彼女がどれだけ怒っていたのかを嫌というほど実感する。
そんな悠二の様子を窺いつつ、今までの成果を確認するために、彼女は再び悠二の体を傾け顔を覗きこむ。その顔は幾筋の涙の跡が残り、口からは涎がだらしなく垂れている。
「うふふ。とっても素敵な御顔になって♪でも駄目ですよ、まだ半分しか済んでいないのですから〜。」
しかし、彼女は容赦はしない。獣は獲物に対してどんな時でも非情である。
「頼むから…許して…」
「だ・め・で・す〜☆」
「昼間の事は…本当に…反省しているから。もう、二度とあんなことしない、から。お願いだから許して…。」
「本当ですか?」
「うん。絶対にしないから。」
「あんなおっぱいにデレデレする悠二さんは信用できません。」
そう言うと、静華は徐に顔を近づけ悠二の耳たぶを甘噛みしてきた。
「あひゃあ!?」
そのままでは終わらず、彼女は温かい舌を耳の中に入れて執拗に舐めまわす。ぴちゃぴちゃとたつ水音がぼんやりとした頭に響く。
「ふあっ…んん!!」
「ぷっは。悠二さんは何処をなめても美味しい〜。」
しばらく舐め続けた静華は満足したのか、耳から顔を離した。
「なんで・も…する、から。助けて…?」
「な・ん・で・も?今、なんでもするとおっしゃいましたね?」
「うん。だから許して…。」
悠二にその言葉を言わせた優越感を満面ににじませながら、静華は再び悠二の顔を覗きこむ。

「では―――これから一生、私だけを見て…私だけを愛してくださると誓いますか?」
「誓い、ます。」
「ありがとうございます。私も悠二さんだけを愛し、一生つくす事を誓いますよ。」
彼の言葉を聞いた静華は、とても穏やかな笑みを浮かべる。そこには先ほどの様な嗜虐の色も、激しく燃える嫉妬の色も無い。それはひとえに、愛しいオスが手段はどうであれ自分に愛を誓ってくれたことによるものだ。
そして悠二も、その笑みを見てほっとする。自分の行動が原因とは言え、これ以上あの責苦に苛まれるのは避けたかった。

「はい、では続きを。右耳を掃除しましょうね〜。」
しかし、その淡い期待は彼女の言葉に打ち消され、その言葉に思考が停止する。
「なん、で?」
「うふふ…私は一言も許すとは言っていませんよ?」
静華の顔には、先ほどの穏やかな笑みは消え、再び残酷で嫌らしい笑みが浮かぶ。そしてその眼はぎらぎらと鈍い光を放っている。

「さあ、私の愛を―――受け止めてくださいませ♪」

体を傾けられながら、悠二はもう二度と過ちは起こさないと心に強く誓ったのだった。
13/03/26 15:03更新 / 松崎 ノス

■作者メッセージ
人間でも膝枕&耳かきで商売ができるくらいなので、魔物娘がそれをしたらどうなるだろうと思い書いてみました。

そして最初は男(関)が稲荷(静香)の獣耳をモフモフする話を考えたのですが、それだとありきたりな感じがしたので、逆にしてみました。ただ、あまりにもマニアックなので、描写が難しかったです(笑)。

ちなみにタイトルは、慈愛のじを耳とかけたダジャレです。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33