雨の日のロマンス
俺は雨が嫌いだった。
理由は特にない。
恵みの雨なのかもしれないが。
俺は嫌いだった。
不思議の国に迷い込んだ時
もしや二度と雨と遭遇しないのではないかとも思ったが
迷い込んで数分もたたないうちにひどい夕立に襲われた。
その時の俺の気分は最高に最悪だった。
ここ数日不思議の国に降り続く雨を眺めながらそんな事を想う。
俺はとにかく雨が大嫌いだった。
特に冬の雨なんて最悪だ。
冷たくて。
陰湿で。
雪の方が数倍いいもののように思えてくる。
とにかく天気予報で雨のマークを見るだけで憂鬱だ。
「なあ、我が夫よ。」
だけど、この不思議の国に迷い込み。
机を挟んで目の前に座るマッドハッターの妻と出会って。
俺が大っ嫌いな恵みの雨を。
降り注ぐ雨を眺める憂いに沈んだ彼女の瞳を見て以来。
俺はなんだか雨が好きになった。
今日も、彼女と二人きり。
二人で過ごす午後のひと時。
室内から雨を、眺める。
「なんだい?」
俺は答える。
「私の話を聞いてくれるかい?」
彼女は質問する。
「ああ……勿論さ。」
俺は悪戯に間を空けて彼女の様子を盗み見る。
「ありがとう、我が夫よ。」
彼女はいつものようにマイペースに答える。
そして妻はすっと視線を窓の外に移す。
窓を叩く雨音に耳を傾け
灰色の雲を湛える異空間の空を
そこからたっぷりと降り注ぐ雨を眺める。
俺もそれにつられて視線を泳がせる。
俺が見ているこの世界は
彼女の眼にはどのように映っているのだろう。
彼女はこの雨をどう思っているんだろうか。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか
妻はのんびりと大好きな紅茶を一口啜る。
上品な口に琥珀色の輝きが吸いこまれ。
目をつぶって味や香りを堪能する。
そしてほうっと一息吐きだし
再び視線を窓の外へと漂わせる。
吐息と共に紅茶の香りが辺りに広がった。
俺は無意識のうちに深呼吸をする。
雨音だけが響く部屋の中
二人の息遣いがやけに大きく聞こえる。
まるでこの世界に俺と彼女しかいない
そんな馬鹿な妄想をしてしまうのは
この雨のせいなのだろうか。
「なあ、我が夫よ。」
彼女はじっと俺を見据える。
その眼は彼女の知性を彩るように
妖しく
鋭く光り
そして深海の様な深みを湛え、俺を魅了する。
「なんだい?」
「私は……………」
「私はお前と、お前のペニスのどちらを愛しているんだろうか。」
「これはきっと魔物娘ならば誰もが考えることだと思うんだ。」
「そっか。」
俺は相槌を打つ。
「そうだ。」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。
ざあざあと雨脚が強くなる。
「愛してるよ。」
俺は呟く。
「ああ、私もだ。我が夫よ。」
彼女も呟く。
俺は、こんな彼女が―――――大好きだ。
理由は特にない。
恵みの雨なのかもしれないが。
俺は嫌いだった。
不思議の国に迷い込んだ時
もしや二度と雨と遭遇しないのではないかとも思ったが
迷い込んで数分もたたないうちにひどい夕立に襲われた。
その時の俺の気分は最高に最悪だった。
ここ数日不思議の国に降り続く雨を眺めながらそんな事を想う。
俺はとにかく雨が大嫌いだった。
特に冬の雨なんて最悪だ。
冷たくて。
陰湿で。
雪の方が数倍いいもののように思えてくる。
とにかく天気予報で雨のマークを見るだけで憂鬱だ。
「なあ、我が夫よ。」
だけど、この不思議の国に迷い込み。
机を挟んで目の前に座るマッドハッターの妻と出会って。
俺が大っ嫌いな恵みの雨を。
降り注ぐ雨を眺める憂いに沈んだ彼女の瞳を見て以来。
俺はなんだか雨が好きになった。
今日も、彼女と二人きり。
二人で過ごす午後のひと時。
室内から雨を、眺める。
「なんだい?」
俺は答える。
「私の話を聞いてくれるかい?」
彼女は質問する。
「ああ……勿論さ。」
俺は悪戯に間を空けて彼女の様子を盗み見る。
「ありがとう、我が夫よ。」
彼女はいつものようにマイペースに答える。
そして妻はすっと視線を窓の外に移す。
窓を叩く雨音に耳を傾け
灰色の雲を湛える異空間の空を
そこからたっぷりと降り注ぐ雨を眺める。
俺もそれにつられて視線を泳がせる。
俺が見ているこの世界は
彼女の眼にはどのように映っているのだろう。
彼女はこの雨をどう思っているんだろうか。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか
妻はのんびりと大好きな紅茶を一口啜る。
上品な口に琥珀色の輝きが吸いこまれ。
目をつぶって味や香りを堪能する。
そしてほうっと一息吐きだし
再び視線を窓の外へと漂わせる。
吐息と共に紅茶の香りが辺りに広がった。
俺は無意識のうちに深呼吸をする。
雨音だけが響く部屋の中
二人の息遣いがやけに大きく聞こえる。
まるでこの世界に俺と彼女しかいない
そんな馬鹿な妄想をしてしまうのは
この雨のせいなのだろうか。
「なあ、我が夫よ。」
彼女はじっと俺を見据える。
その眼は彼女の知性を彩るように
妖しく
鋭く光り
そして深海の様な深みを湛え、俺を魅了する。
「なんだい?」
「私は……………」
「私はお前と、お前のペニスのどちらを愛しているんだろうか。」
「これはきっと魔物娘ならば誰もが考えることだと思うんだ。」
「そっか。」
俺は相槌を打つ。
「そうだ。」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。
ざあざあと雨脚が強くなる。
「愛してるよ。」
俺は呟く。
「ああ、私もだ。我が夫よ。」
彼女も呟く。
俺は、こんな彼女が―――――大好きだ。
14/01/09 21:05更新 / 松崎 ノス