中篇
「関悠二様、私と結婚していただきたいのです。」
目の前の女性は自分の言葉に反応を示さない悠二を見て、聞こえていないと思ったのか先ほどと同じ事を口にする。
見ず知らずの女性にそんな事を言われた経験を持つ男性はどれくらいいるだろうと悠二は現実逃避をしながら考えていた。先ほどから自分の理解能力を超えた出来事に上手く対処できない。
「貴方様に生涯をかけてお仕えしたいとずっと私は思っておりました。そしてその願いが叶えられる時が遂に来たのです。」
悠二が混乱している様子を気にしない…というか気づいていないのか、彼女は興奮気味にそう言って頬を染めながら彼に近づいた。そして音もなく悠二の側に立ち、そっと彼の腕に自分の腕を絡ませる。
「ちょ、ちょっといきなり何をするんですか!?」
「ふふ、一刻も早く貴方様と直にお会いしとうございました…。」
悠二の混乱をよそに、彼女は絡める腕の力を強める。そうなれば自然と彼の腕に先ほどまでは彼女の美しさに気を取られていて気付かなかったが、大きくそして柔らかい胸が押し付けられる。その感触、伝わってくる熱やほのかに香る甘い匂いはどれも今まで彼が経験した事のないものだった。先ほどまで混乱していたのに、今では全神経が彼女と接している部分に集中しているような錯覚すらうける。
不純ではあるが、思考が集中したことにより幾らか心が落ち着いたところで、ふと今までの彼女の言動を思い出し違和感を覚える。目の前にいるこの女性とは初対面のはずなのに、彼女は悠二の事を知っているような口ぶりを先ほどからしている。これだけの美女を一度でも目にすれば忘れるはずはないと思うが…。それでも彼女に関する記憶は自分の中にない。
「本当に逞しくなられて…あの頃のあどけなさにも心躍りましたが、やはり殿方に身を預けるのが私の一番の望みです。」
猶も体を擦り付ける彼女を見て再び思考が停止する。
「ああ、でも幼い口調で甘えられるのも捨てがたい…」
何やら妄想に耽っている彼女の頭から今までなかった獣の耳が、そして腰のあたりからは尻尾が生えていた。しかも耳は小刻みに動き、尻尾は嬉しさをあらわすように激しく揺れている。それらはどう見ても彼女の体の一部で、決して作り物ではないと主張するように動いている。
「み、耳と…し、尻尾が!?」
「あら、夢中になりすぎて変化の術が解けてしまいました。折角驚かせて差し上げようと思っていましたのに。」
変化が解けたのがそんなに残念だったのか、耳は力なく垂れ、尻尾も項垂れるように動かなくなった。それらを見つつ彼女に質問する。
「あの、すみません。本当に貴方は一体誰なんですか。そしてせめて御名前を教えていただけないでしょうか?」
彼の言葉を受け、彼女は何かに気がついたように眼を見開き、彼の腕から離れる。
「これは私とした事が、嬉しさのあまり舞い上がってしまいました。まだ名前すら名乗っていませんでしたわね。」
緩んでいた表情を引き締め、彼女は美しい所作で悠二に頭を下げる。
「わたくし、名を静華と申します。あの時といい今といい自分の名前すらお伝えせずに申し訳ありませんでした。ご無礼をお許しください。」
そう言って静華はさらに深く頭を下げる。しかし、彼女の言うあの時が何時なのかも、そしてそこまで礼を尽くされる理由も分からず、悠二は慌てて彼女に声をかける。
「そんなにかしこまらないで頭をあげてください、静華さん。それにあなたは…。」
「はい。既にこの姿を見られてしまいましたので、私の正体について隠さずに申し上げます。私は稲荷という種族の…貴方が好きな魔物の一種です。」
頭を上げた彼女は好きという言葉を強調して言い、真っ直ぐに悠二の眼を見て微笑んだ。
魔物。
妖怪。
その言葉は悠二の中で確かに少し特別な意味を持っていた。
成長する中、知識や人とのコミュニケーションを身につけて行く上で彼は魔物や妖怪が好きである事を口にする事はあまりなくなった。それは無闇に自分からその事を口にして孤立するほど彼は強くなかったから。だから自分の気持ちを表面上から消し去り、自分の内面だけに熱い思いを封じ込めてきたのだった。
しかし、それでも好きという気持ちは消えず、彼の心の中でくすぶっていた。
それほどまでに好きな、求めていた存在が今目の前で微笑んでいる。
形を成し、自分と同じようにこの世界に存在している。
今まで言われたどの否定の言葉も、あざけりも、彼女の言葉が、彼女の存在が彼の心の中で真実として支配していった。
「本当に…いた。魔物はいたんだ。」
やっと口から出た声はかすれ、情けなく震えてしまう。
「はい。これからも、いつまでも私たち魔物はずっと人間の側におります。」
「…。」
彼女のそんな言葉がとても嬉しかった。今にも泣き出してしまいそうな気持ちをなんとか堪え、情けない表情を見られるのが嫌で顔を伏せる。
「そして私は貴方様の側に、貴方様と一緒に生きていきたいと思っております。」
そんな悠二の頬に静華の白い手がそっと添えられる。その手は温かく、とても優しかった。
その優しさに触れ、幾分か心に余裕が出来た。そして歓喜の気持ちを爆発させる前に静華に質問する。
「静華さんはもしかして以前どこかで僕と会ったことはあるのですか?」
その質問に静華はそっと口元を手で隠し、上品に笑う。
「ええ、一度だけですが。直接お会いしております。」
「一体何時…。僕は貴方に会った記憶は無いのですが。」
「この姿に御記憶がなくて当然です。この姿でお会いしましたのは今日が初めてなのですから。」
「この、姿?」
「はい。これをご覧ください。」
「これは…。」
そういって差しだされた彼女の両手には白い狐の像が握られている。
「思い出していただけたでしょうか。10年程前にこの姿でお会いした日の事を。」
それは悠二が一度として忘れた事のないもの、幼き日に見た白い狐の像だった。
「じゃあまさかあの時の声は、静華さん?」
「はい。生憎私の力が弱く直ぐに実体化できなくなってしまいましたが。」
お恥ずかしい限りですと言って静華は自虐するような笑みを浮かべる。
あの時とは自分の大切な思い出の事。
10年前に、やはり自分は魔物に会っていたのだ。
だからこそ、魔物が好きだという気持ちは自分の中から決して消えなかったのかもしれない。
自分は10年前既に答えにたどり着いていたのか。
「はは…。」
そんなことを考えると自然と笑みがこぼれ、体の力が抜ける。
「悠二様、どうなされたのですか?」
その様子に彼女は少し戸惑いながら悠二に声をかける。彼女の不安をあらわすように耳もどこか元気がなく下がっている。
「いや、再び会えて僕も嬉しくって。安心して力が抜けてしまいました。」
それまで目の前の彼女は悠二にとっては危険か安全かも分からない未知の存在だった。それが自分しかしらない過去を知り、しかも長い間参拝し続けた存在と分かった途端、一気に緊張の糸が切れたのだ。
「まあ、会う事が出来て嬉しいだなんて。悠二様は御口も達者なのですね。」
悠二の言葉を聞いた瞬間、それまで不安げだった静華の顔が一気に喜色に染まり、耳は力強く立ち、尻尾は千切れんばかりに揺れ始める。
そんな様子を見て、悠二はさらに体の力が抜けるのを感じた。
力が抜けると再び疑問が鎌首をもたげる。
「関悠二様、私と結婚していただきたいのです。」
そう。彼女のお願いである。あれはどういう意味だったのだろう。その真意を確かめるために彼は静華に話しかける。
「静華さん。お聞きしたいのですが…」
「はい。何でしょうか、悠二さ・ま〜。」
その受け答えで、彼女がとても上機嫌なのは分かった。だがそれは今聞きたいのはもっと違う次元の事。
「あの結婚とは、どういう意味なのですか?」
「くすくす。悠二様は御冗談が御好きなのですね。男と女の会話で出る結婚という言葉に他の意味がございますか。」
何を当然な事を聞くのかという表情で静華は衝撃の事実を告げる。その事実を受け、目の前の事実を確かめるために質問を重ねる。
「それは男女が夫婦になるって意味?」
「ええ。勿論。」
「誰と誰が?」
「悠二様とわたくしが。」
「僕は学生ですよ?」
「存じ上げております。魔物の私は気にしませんし、それに学生だからという理由で結婚を禁じられる謂れはございません。」
「お互いにほぼ初対面なのに?」
「私は悠二様が幼い時分よりずっと御慕い申しております。どこにも問題はございません。」
「…。」
「…。」
「ここに来た本当の理由は?」
「だから、何度も申し上げているようにわたくしを悠二様の妻にしていただくためです。」
「…。」
「…。」
「高校生の時のように油揚げをもらうため、とかではなく?」
「そんなことは商店に行けば済む事です。」
「…。」
「…。」
どうあがいても結婚。
どうやら彼女の結婚に対する決意はこちらの予想を上回るものだったようだ。それが分かり、思わず頭を抱えてしまう。
どうにかその現実から逃避しようとしている悠二に向かって静華は魔物についての話を語り始める。
「悠二様が魔物についてどのような認識を持たれているのか分かりませんが、私たちは決して人間に危害を加えることはありません。確かに随分昔の事になりますが、魔物は人間を襲い、殺し、殺されていました。しかし、魔王が代替わりし現魔王となったサキュバスとその伴侶である人間は、そんな世界を変革するべく我々魔物の生態を変化させたのです。その変化は人間を愛する肉体と心を魔物に宿すものでした。そうこのような。」
そう言って彼女は再び悠二の腕に自身の腕を絡め、強く肢体を押し付ける。行為は先ほどと同じだが、彼女の雰囲気が今までとがらりと変わっている。瞳は熱に潤み、妖艶に尻尾を揺らめかせ、腰を悠二に強く押し当ててくる。そして彼女から匂い立つ濃い芳香が鼻をくすぐる。その香りは彼の胸をぞわりとかき乱すような、匂いがした。
「静華さん、近いですよ。それに胸が…」
「ふふ。胸がなんです、悠二様?」
今までと違い甘く媚びるような声で応え、静華はまるで自身の匂いをマーキングするかのように悠二に体を擦り付ける。それは嫌でも彼女の豊満な胸を彼に意識させ、誘惑し、強烈に悠二の男である本能を刺激する。女性との交際すらしたこのとのない悠二にとってそれは何よりも耐えがたいものであった。そして先ほどまでの淑やかな静華は既に消え、まるで獲物を狙うような目と荒い息遣いが彼を陥落させようと迫る。
「お、落ち着きましょう、静華さん。」
「それは無理な話です。むしろ長い間お慕いしてきた貴方様が目の前におられるのにここまで自制している自分を褒めたいくらいです。もうこの体は悠二様と交わる事ばかり期待しているのですから。」
そして静華は悠二の手を取り、自らの左胸へと誘う。されるがまま手を置くと、まるで早鐘を打つかのように彼女の心臓が鼓動しているのが分かる。そのまま彼の手に手を重ね、甘い声でたずねる。
「それとも…悠二様はこんなはしたない女は御嫌いですか?」
「…ッ」
上目づかいで迫る彼女に悠二の理性も限界を迎えようとしていた。気を抜けばすぐにでも彼女を抱きしめてしまいそうだった。それでもその誘惑から耐えるため必死に目を瞑り歯を食いしばる。
それはひとえに自分の欲望で彼女を傷つけてはいけないと彼女の事を思う気持ちから起きた行動だった。彼の中の倫理はこのまま彼女と肉体関係を持てばお互いに不幸になると告げる。それは人間の倫理からすれば当然のものだったのかもしれない。だが、相手は色欲を糧にする魔物。そんな倫理は邪魔にしかならない。
しかし、静華は彼女を想う悠二の強い気持ちも優しさも理解していた。だからこそ愛する人が自分を想ってくれているというその喜びをおさえる事が出来なくなったのだった。
「私の愛を…しっかりと受け止めてください。」
その言葉のすぐ後、悠二の唇に甘い刺激が広がる。それはただ唇を押し付けるだけのキス。しかしそれは今まで経験もした事のない柔らかく瑞々しい感触だった。悠二は突然の事にあっけをとられ、ファーストキスを奪われたことに気が付き呆然として完全に硬直してしまう。
「私、悠二様とキスしてしまいました。ふふ、ふふふ。」
そんな悠二とは対照的に、静華は頬を真っ赤に染め、自分の唇を指でさすりながら嬉しそうに呟いている。
「な、なんて事を…」
やっとのことで口にした言葉は彼女を非難する言葉。それは必死に堪えてきた彼の意思と反する行為だったからだ。しかしその言葉を聞いて彼女はさらに行動を起こす。
「素直になってくださいませ、悠二様。」
まるでそれ以上文句は言わせないと言わんばかりに、彼女は再び唇を押し付ける。しかも今回は先ほどのような軽いキスでは無い。彼の言葉を遮るだけでは止まらず、彼の口内に舌を差しいれ、そのまま彼の頭を両手で抱えこみ、味わうように濃厚なキスを続ける。敏感な粘膜に自分の唾液を塗りつけるような、肉食動物が獲物をむさぼるような荒っぽいキスに悠二はただただされるがままになっていた。
ちゅ、ぢゅう…ちゅううううう
接合部から卑猥な音が響く。まるでお互いの唇を溶かしあうような行為。初めてのことに身動き一つできない悠二の舌をほぐすように静華の舌が絡みつく。その動きは激しく、未だに動けない彼を逃がすまいと執拗に舌を絡める。だが、そんな熱烈な愛情表現を向ける彼女も余裕があるわけではないようだ。眼は欲望に染まり、せつなそうに腰をくねらせている。
「ん…ッふん…んん。はあはあ。」
そんな激しいキスは、やがて息が切れて終焉を迎える。お互いに許容量を超える興奮を肩で息をしながらを落ちつかせる。
「しずかさん。なんで…こんな事を…」
「私たち魔物は恋と欲に溺れる存在。こんな行為でしか自分をさらけ出せないのです。」
「そんな…もっと自分を大事に。」
「その、あなたのその優しさが私にこのような行為をさせるのです!!」
頭を激しく振り、悠二の胸に顔をうずめながら彼女が叫ぶ。彼の腰に手を回し、決して離れないように力を込めて抱きつく。
「あなたはほとんど初対面の私にもそこまで優しくしてくださいます。私はその優しさが、思いやりが私に向けられるのが嬉しいのです。ですが、同時にその優しさが他人に向く事を考えると…恐くてたまらなくなるのです。」
―――貴方を他の誰にも取られたくは無いのです。そう泣き叫ぶ彼女は…震えていた。
「あの日、私は貴方様に参拝してくださるようお願いいたしました。それから、貴方様は私の元に参りに来てくださいました。毎日毎日。例え天気が悪くても、どんなに遅い時間でも。あの人気のない暗い鎮守の森の中でそれがどんなに嬉しかったことか。悠二様がいらっしゃるのをどれだけ楽しみにしていた事か。私とのただの口約束を守ってくださるあなたにどれほど感謝した事か。」
―――だからこそ、貴方をお慕い申し上げたのです。心から恋したのです。
悠二を抱きしめる彼女の腕に力がこもる。
「…魔物は自分の感情に素直です。いつ何時悠二様に他の魔物が手を出すか分かりません。見知らぬ相手にお慕いしている悠二様を取られるなど、考えただけで身がよだちます。わたくしは貴方様の御側にいることができれば、例え地獄の猛火に焼かれようとも構いません。それほどまでに御慕い申している相手に…こうして甘えることは」
―――そこまで愚かな行為なのでございますか。
そう言って彼女は顔を上げる。
両目から涙を流し、不安と恐怖に潰されてしまいそうな静華の顔を見た瞬間。
―――悠二の理性は音をたてて崩れ去った。
後に残ったのは真っ直ぐに向けられた愛情に対する感謝と目の前の女性に対する想いだけ。
「静華さん、…静華ッ!!」
「嬉しい。私の気持ちに答えてくださるのですね、悠二様。」
普段の彼であれば考えられないほど乱暴に彼女を押し倒し、静華の体を力いっぱい抱きしめる。まるで目の前の女を支配しようとするかのように。一方抱きすくめられている静華も、それに答えるように彼を抱きしめる。
彼が抱きついている間、何時の間に解かれていた帯をさらに緩め、静華は悠二の手を自らの秘所へと導く。彼はそれまでに一度も女性の秘所を見た事は無かったが、うっすらと生える金色の恥毛、進入を拒むかのように閉じている陰唇。そのどれもが美しいと思った。
「ここに私が貴方様のモノであるという証をくださいませ。」
閉じた陰部は、何もしていないのに愛液でぬらぬらと濡れていた。それは童貞である彼が見ても分かるほどに。
「もうこんなに濡れてる…」
初めて見る女陰に興奮を抑えきれず、悠二は両手で陰唇を開く。開くと同時に大量の愛液がごぷっと流れ出し、辺りにメスの匂いがあふれ出す。
「はしたない女狐で申し訳ありません。悠二様の事を考えるだけでこうなってしまいました。」
そう言って赤面する彼女が堪らなく可愛かった。そんな彼女を見ていると、下半身に血が集まるのを感じる。するとそれを察したのか、彼女の手がするすると悠二の股間にのびる。彼の男根が膨張している事を確認すると、先ほどまでの淫靡な笑みは消え、おぼこのようにはにかみながら彼女は悠二の性器を露出させる。
「もうこんなに立派に…。」
彼女はそそりたつ男根から視線を外せないかのように凝視する。その瞳には期待に満ちたような、そして僅かに恐怖が混じったような色が浮かぶ。
「じゃあ、そろそろ。」
その余裕のない表情が心配になったが、そんな彼女に気を使う余裕は既になく、彼は分身を静華の陰にあてがう。既にだらだらとカウパーを吐きだしている鈴口と、湧水のように淫水を吐きだす女陰が触れ合うだけで強い快感を感じる。
しかし、彼は童貞なのだ。
ここまでは本などで得た知識でなんとかごまかしてきたが、これから先どうしたらいいか分からない。
焦れば焦るほど思考はまとまらず、冷や汗が背中を伝い嫌な事ばかりが頭を過る。
「どうかされました、か?」
彼が直ぐに挿入しない事を疑問に思ったのか、静華は悠二に声をかける。
「ご、ごめん。実はこんなことするの…初めてで。そ、そのどうしたらいいか分からないんだ。」
最後の方は消え入るような声で静華に童貞である事を告げた。それは男として非常に情けない行為。その情けない姿を静華に見せてしまうなんて。あまりにも恥ずかしくて彼女の顔を見る事が出来ない。
そんな彼の顔を優しく両手で包み、彼女は優しく微笑む。そこには不安に顔を曇らせる姿も、淫靡に笑う彼女の姿も無かった。
「そんなに恥ずかしがらないでくださいませ。わたくしは悠二様の初めての相手になる事ができて非常に嬉しいのです。」
―――入口までは私が導きますから。そう言って彼女は屈託のない笑顔を悠二に向ける。
その笑顔は彼の中の不安や焦りを一掃した。きっと不安や焦りは彼女にもあるだろうに、自分を励ますためにここまでしてくれる彼女の前では恥も外聞もなくしっかりと向き合おうと心に決める。
「ではこちらに差し入れてくださいませ。」
そんな悠二の覚悟を理解したように一つ頷き、ペニスを自身のヴァギナに誘い静華はその時を待つ。
「いくよ。」
そう言って真っ直ぐに彼女の眼を見ながら腰を突きだしていく。
そこは彼の想像を絶する空間だった。
温かくぬめった肉壁が四方から悠二の男根を締め付ける。
その魔窟は自慰など足元にも及ばない快感を彼に叩きつける。
まだ亀頭が入っただけだが、既に限界に近い量の快楽が押し寄せている。
しかし、その亀頭が膣内にある何かに引っかかるのを感じ、悠二は我に返る。
「静華、もしかして君は…」
「はい。私も初めて、なのです。魔物の場合は痛みなどほとんどないと聞きますので、最後まで一息に御入れくださいませ…。」
涙を瞳にためて静華は処女である事を悠二に告げる。だが、いくら魔物とは言え、処女喪失に全く不安があるわけではないらしく気丈な言葉とは裏腹に体は小刻みに震えている。
「分かった。もし痛かったら言ってね。」
静華を安心させるため彼女の額にそっと口づけを落とし、言葉をかける。
「はい。御心遣いありがとうございます。さあ、いらしてください。」
それが嬉しかったのか、彼女の震えは止まり表情に笑みが浮かぶ。
そして意を決したように彼はペニスを押し進めた。
「ああ…、奥…奥まで悠二様がっ」
「う…っつあああ…」
びりっという音が響いたかと思うと、悠二の男根はあっという間に彼女の最奥へと突き刺さる。最奥へと到達した途端に彼女は一際大きな嬌声を上げた。その声に驚きつつ、彼女に声をかける。
「だ、大丈夫?」
「…お母様より聞いていた、通りでした。……大好きな方との交わりは、…こんなにも気持ち、いいのですね。…悠二様、悠二様は…気持ちいいでしょうか?」
「うん。もう限界、かも…」
それまで処女膜に守られていた膣奥や子宮口は容赦なく悠二の男根に襲いかかっていた。
膣奥の襞はさらに奥に飲みこむような動きで亀頭や幹を蹂躙し、子宮口は精液をせがむかのようにぴったりと鈴口に吸いつく。
それらの与える快感は童貞の彼が耐えられるようなものではなかった。仮に彼が初体験を済ましていたとしても、この快楽にはまともに耐えることもできないだろう。
そしていよいよ射精欲がピークにせまり、彼はペニスを引き抜くために腰を引こうとした。しかし、それは静華が彼の腰を足でがっちりとホールドしたことにより阻止される。
「ちょっと、足をどけてくれないと中にっ!!」
「お、お願いです。どうか膣に、私の子袋に悠二様の種を注いでくださいませ!!」
びゅくっ…どぴゅっ!!びゅるるるるるっ!!
睾丸で作られた大量の精子は、強烈な放出の快感と共に静華の体内へと吐きだされた。
その射精は今までの射精と一線を画し、目の奥で火花を散らせ、許容量をはるかに超えた快感は確実に彼の体力を奪っていた。
「…私の子、宮が…子種で満たされ、ているのが…分かります。なんて…なんて幸せなので、しょう…。」
一方の静華は完全に体を弛緩させ、初めて味わう快感と多幸感に浸っていた。それでも子宮口は未だに鈴口に吸いつき最後の一滴まで吸い込もうとはりつき、膣はもっと強請るようにペニスをしごきあげる。
「うっ…し、ずが…。」
なんとか意識を保とうとするが、断続的に続く快感に意識が擂り潰されていく。
「悠二様。わたくしはと…ても幸せで、す。」
「こっちこそ…ありがと…」
彼女の豊満な胸に顔を埋める。彼女の体温と甘いにおいに包まれると途端に襲う虚脱感と眠気に抗う事が出来ない。
「今日は…ありがとうございました。ゆっくり、お休みください。」
その言葉を聞いた悠二は、緩やかに意識を手放した。
目の前の女性は自分の言葉に反応を示さない悠二を見て、聞こえていないと思ったのか先ほどと同じ事を口にする。
見ず知らずの女性にそんな事を言われた経験を持つ男性はどれくらいいるだろうと悠二は現実逃避をしながら考えていた。先ほどから自分の理解能力を超えた出来事に上手く対処できない。
「貴方様に生涯をかけてお仕えしたいとずっと私は思っておりました。そしてその願いが叶えられる時が遂に来たのです。」
悠二が混乱している様子を気にしない…というか気づいていないのか、彼女は興奮気味にそう言って頬を染めながら彼に近づいた。そして音もなく悠二の側に立ち、そっと彼の腕に自分の腕を絡ませる。
「ちょ、ちょっといきなり何をするんですか!?」
「ふふ、一刻も早く貴方様と直にお会いしとうございました…。」
悠二の混乱をよそに、彼女は絡める腕の力を強める。そうなれば自然と彼の腕に先ほどまでは彼女の美しさに気を取られていて気付かなかったが、大きくそして柔らかい胸が押し付けられる。その感触、伝わってくる熱やほのかに香る甘い匂いはどれも今まで彼が経験した事のないものだった。先ほどまで混乱していたのに、今では全神経が彼女と接している部分に集中しているような錯覚すらうける。
不純ではあるが、思考が集中したことにより幾らか心が落ち着いたところで、ふと今までの彼女の言動を思い出し違和感を覚える。目の前にいるこの女性とは初対面のはずなのに、彼女は悠二の事を知っているような口ぶりを先ほどからしている。これだけの美女を一度でも目にすれば忘れるはずはないと思うが…。それでも彼女に関する記憶は自分の中にない。
「本当に逞しくなられて…あの頃のあどけなさにも心躍りましたが、やはり殿方に身を預けるのが私の一番の望みです。」
猶も体を擦り付ける彼女を見て再び思考が停止する。
「ああ、でも幼い口調で甘えられるのも捨てがたい…」
何やら妄想に耽っている彼女の頭から今までなかった獣の耳が、そして腰のあたりからは尻尾が生えていた。しかも耳は小刻みに動き、尻尾は嬉しさをあらわすように激しく揺れている。それらはどう見ても彼女の体の一部で、決して作り物ではないと主張するように動いている。
「み、耳と…し、尻尾が!?」
「あら、夢中になりすぎて変化の術が解けてしまいました。折角驚かせて差し上げようと思っていましたのに。」
変化が解けたのがそんなに残念だったのか、耳は力なく垂れ、尻尾も項垂れるように動かなくなった。それらを見つつ彼女に質問する。
「あの、すみません。本当に貴方は一体誰なんですか。そしてせめて御名前を教えていただけないでしょうか?」
彼の言葉を受け、彼女は何かに気がついたように眼を見開き、彼の腕から離れる。
「これは私とした事が、嬉しさのあまり舞い上がってしまいました。まだ名前すら名乗っていませんでしたわね。」
緩んでいた表情を引き締め、彼女は美しい所作で悠二に頭を下げる。
「わたくし、名を静華と申します。あの時といい今といい自分の名前すらお伝えせずに申し訳ありませんでした。ご無礼をお許しください。」
そう言って静華はさらに深く頭を下げる。しかし、彼女の言うあの時が何時なのかも、そしてそこまで礼を尽くされる理由も分からず、悠二は慌てて彼女に声をかける。
「そんなにかしこまらないで頭をあげてください、静華さん。それにあなたは…。」
「はい。既にこの姿を見られてしまいましたので、私の正体について隠さずに申し上げます。私は稲荷という種族の…貴方が好きな魔物の一種です。」
頭を上げた彼女は好きという言葉を強調して言い、真っ直ぐに悠二の眼を見て微笑んだ。
魔物。
妖怪。
その言葉は悠二の中で確かに少し特別な意味を持っていた。
成長する中、知識や人とのコミュニケーションを身につけて行く上で彼は魔物や妖怪が好きである事を口にする事はあまりなくなった。それは無闇に自分からその事を口にして孤立するほど彼は強くなかったから。だから自分の気持ちを表面上から消し去り、自分の内面だけに熱い思いを封じ込めてきたのだった。
しかし、それでも好きという気持ちは消えず、彼の心の中でくすぶっていた。
それほどまでに好きな、求めていた存在が今目の前で微笑んでいる。
形を成し、自分と同じようにこの世界に存在している。
今まで言われたどの否定の言葉も、あざけりも、彼女の言葉が、彼女の存在が彼の心の中で真実として支配していった。
「本当に…いた。魔物はいたんだ。」
やっと口から出た声はかすれ、情けなく震えてしまう。
「はい。これからも、いつまでも私たち魔物はずっと人間の側におります。」
「…。」
彼女のそんな言葉がとても嬉しかった。今にも泣き出してしまいそうな気持ちをなんとか堪え、情けない表情を見られるのが嫌で顔を伏せる。
「そして私は貴方様の側に、貴方様と一緒に生きていきたいと思っております。」
そんな悠二の頬に静華の白い手がそっと添えられる。その手は温かく、とても優しかった。
その優しさに触れ、幾分か心に余裕が出来た。そして歓喜の気持ちを爆発させる前に静華に質問する。
「静華さんはもしかして以前どこかで僕と会ったことはあるのですか?」
その質問に静華はそっと口元を手で隠し、上品に笑う。
「ええ、一度だけですが。直接お会いしております。」
「一体何時…。僕は貴方に会った記憶は無いのですが。」
「この姿に御記憶がなくて当然です。この姿でお会いしましたのは今日が初めてなのですから。」
「この、姿?」
「はい。これをご覧ください。」
「これは…。」
そういって差しだされた彼女の両手には白い狐の像が握られている。
「思い出していただけたでしょうか。10年程前にこの姿でお会いした日の事を。」
それは悠二が一度として忘れた事のないもの、幼き日に見た白い狐の像だった。
「じゃあまさかあの時の声は、静華さん?」
「はい。生憎私の力が弱く直ぐに実体化できなくなってしまいましたが。」
お恥ずかしい限りですと言って静華は自虐するような笑みを浮かべる。
あの時とは自分の大切な思い出の事。
10年前に、やはり自分は魔物に会っていたのだ。
だからこそ、魔物が好きだという気持ちは自分の中から決して消えなかったのかもしれない。
自分は10年前既に答えにたどり着いていたのか。
「はは…。」
そんなことを考えると自然と笑みがこぼれ、体の力が抜ける。
「悠二様、どうなされたのですか?」
その様子に彼女は少し戸惑いながら悠二に声をかける。彼女の不安をあらわすように耳もどこか元気がなく下がっている。
「いや、再び会えて僕も嬉しくって。安心して力が抜けてしまいました。」
それまで目の前の彼女は悠二にとっては危険か安全かも分からない未知の存在だった。それが自分しかしらない過去を知り、しかも長い間参拝し続けた存在と分かった途端、一気に緊張の糸が切れたのだ。
「まあ、会う事が出来て嬉しいだなんて。悠二様は御口も達者なのですね。」
悠二の言葉を聞いた瞬間、それまで不安げだった静華の顔が一気に喜色に染まり、耳は力強く立ち、尻尾は千切れんばかりに揺れ始める。
そんな様子を見て、悠二はさらに体の力が抜けるのを感じた。
力が抜けると再び疑問が鎌首をもたげる。
「関悠二様、私と結婚していただきたいのです。」
そう。彼女のお願いである。あれはどういう意味だったのだろう。その真意を確かめるために彼は静華に話しかける。
「静華さん。お聞きしたいのですが…」
「はい。何でしょうか、悠二さ・ま〜。」
その受け答えで、彼女がとても上機嫌なのは分かった。だがそれは今聞きたいのはもっと違う次元の事。
「あの結婚とは、どういう意味なのですか?」
「くすくす。悠二様は御冗談が御好きなのですね。男と女の会話で出る結婚という言葉に他の意味がございますか。」
何を当然な事を聞くのかという表情で静華は衝撃の事実を告げる。その事実を受け、目の前の事実を確かめるために質問を重ねる。
「それは男女が夫婦になるって意味?」
「ええ。勿論。」
「誰と誰が?」
「悠二様とわたくしが。」
「僕は学生ですよ?」
「存じ上げております。魔物の私は気にしませんし、それに学生だからという理由で結婚を禁じられる謂れはございません。」
「お互いにほぼ初対面なのに?」
「私は悠二様が幼い時分よりずっと御慕い申しております。どこにも問題はございません。」
「…。」
「…。」
「ここに来た本当の理由は?」
「だから、何度も申し上げているようにわたくしを悠二様の妻にしていただくためです。」
「…。」
「…。」
「高校生の時のように油揚げをもらうため、とかではなく?」
「そんなことは商店に行けば済む事です。」
「…。」
「…。」
どうあがいても結婚。
どうやら彼女の結婚に対する決意はこちらの予想を上回るものだったようだ。それが分かり、思わず頭を抱えてしまう。
どうにかその現実から逃避しようとしている悠二に向かって静華は魔物についての話を語り始める。
「悠二様が魔物についてどのような認識を持たれているのか分かりませんが、私たちは決して人間に危害を加えることはありません。確かに随分昔の事になりますが、魔物は人間を襲い、殺し、殺されていました。しかし、魔王が代替わりし現魔王となったサキュバスとその伴侶である人間は、そんな世界を変革するべく我々魔物の生態を変化させたのです。その変化は人間を愛する肉体と心を魔物に宿すものでした。そうこのような。」
そう言って彼女は再び悠二の腕に自身の腕を絡め、強く肢体を押し付ける。行為は先ほどと同じだが、彼女の雰囲気が今までとがらりと変わっている。瞳は熱に潤み、妖艶に尻尾を揺らめかせ、腰を悠二に強く押し当ててくる。そして彼女から匂い立つ濃い芳香が鼻をくすぐる。その香りは彼の胸をぞわりとかき乱すような、匂いがした。
「静華さん、近いですよ。それに胸が…」
「ふふ。胸がなんです、悠二様?」
今までと違い甘く媚びるような声で応え、静華はまるで自身の匂いをマーキングするかのように悠二に体を擦り付ける。それは嫌でも彼女の豊満な胸を彼に意識させ、誘惑し、強烈に悠二の男である本能を刺激する。女性との交際すらしたこのとのない悠二にとってそれは何よりも耐えがたいものであった。そして先ほどまでの淑やかな静華は既に消え、まるで獲物を狙うような目と荒い息遣いが彼を陥落させようと迫る。
「お、落ち着きましょう、静華さん。」
「それは無理な話です。むしろ長い間お慕いしてきた貴方様が目の前におられるのにここまで自制している自分を褒めたいくらいです。もうこの体は悠二様と交わる事ばかり期待しているのですから。」
そして静華は悠二の手を取り、自らの左胸へと誘う。されるがまま手を置くと、まるで早鐘を打つかのように彼女の心臓が鼓動しているのが分かる。そのまま彼の手に手を重ね、甘い声でたずねる。
「それとも…悠二様はこんなはしたない女は御嫌いですか?」
「…ッ」
上目づかいで迫る彼女に悠二の理性も限界を迎えようとしていた。気を抜けばすぐにでも彼女を抱きしめてしまいそうだった。それでもその誘惑から耐えるため必死に目を瞑り歯を食いしばる。
それはひとえに自分の欲望で彼女を傷つけてはいけないと彼女の事を思う気持ちから起きた行動だった。彼の中の倫理はこのまま彼女と肉体関係を持てばお互いに不幸になると告げる。それは人間の倫理からすれば当然のものだったのかもしれない。だが、相手は色欲を糧にする魔物。そんな倫理は邪魔にしかならない。
しかし、静華は彼女を想う悠二の強い気持ちも優しさも理解していた。だからこそ愛する人が自分を想ってくれているというその喜びをおさえる事が出来なくなったのだった。
「私の愛を…しっかりと受け止めてください。」
その言葉のすぐ後、悠二の唇に甘い刺激が広がる。それはただ唇を押し付けるだけのキス。しかしそれは今まで経験もした事のない柔らかく瑞々しい感触だった。悠二は突然の事にあっけをとられ、ファーストキスを奪われたことに気が付き呆然として完全に硬直してしまう。
「私、悠二様とキスしてしまいました。ふふ、ふふふ。」
そんな悠二とは対照的に、静華は頬を真っ赤に染め、自分の唇を指でさすりながら嬉しそうに呟いている。
「な、なんて事を…」
やっとのことで口にした言葉は彼女を非難する言葉。それは必死に堪えてきた彼の意思と反する行為だったからだ。しかしその言葉を聞いて彼女はさらに行動を起こす。
「素直になってくださいませ、悠二様。」
まるでそれ以上文句は言わせないと言わんばかりに、彼女は再び唇を押し付ける。しかも今回は先ほどのような軽いキスでは無い。彼の言葉を遮るだけでは止まらず、彼の口内に舌を差しいれ、そのまま彼の頭を両手で抱えこみ、味わうように濃厚なキスを続ける。敏感な粘膜に自分の唾液を塗りつけるような、肉食動物が獲物をむさぼるような荒っぽいキスに悠二はただただされるがままになっていた。
ちゅ、ぢゅう…ちゅううううう
接合部から卑猥な音が響く。まるでお互いの唇を溶かしあうような行為。初めてのことに身動き一つできない悠二の舌をほぐすように静華の舌が絡みつく。その動きは激しく、未だに動けない彼を逃がすまいと執拗に舌を絡める。だが、そんな熱烈な愛情表現を向ける彼女も余裕があるわけではないようだ。眼は欲望に染まり、せつなそうに腰をくねらせている。
「ん…ッふん…んん。はあはあ。」
そんな激しいキスは、やがて息が切れて終焉を迎える。お互いに許容量を超える興奮を肩で息をしながらを落ちつかせる。
「しずかさん。なんで…こんな事を…」
「私たち魔物は恋と欲に溺れる存在。こんな行為でしか自分をさらけ出せないのです。」
「そんな…もっと自分を大事に。」
「その、あなたのその優しさが私にこのような行為をさせるのです!!」
頭を激しく振り、悠二の胸に顔をうずめながら彼女が叫ぶ。彼の腰に手を回し、決して離れないように力を込めて抱きつく。
「あなたはほとんど初対面の私にもそこまで優しくしてくださいます。私はその優しさが、思いやりが私に向けられるのが嬉しいのです。ですが、同時にその優しさが他人に向く事を考えると…恐くてたまらなくなるのです。」
―――貴方を他の誰にも取られたくは無いのです。そう泣き叫ぶ彼女は…震えていた。
「あの日、私は貴方様に参拝してくださるようお願いいたしました。それから、貴方様は私の元に参りに来てくださいました。毎日毎日。例え天気が悪くても、どんなに遅い時間でも。あの人気のない暗い鎮守の森の中でそれがどんなに嬉しかったことか。悠二様がいらっしゃるのをどれだけ楽しみにしていた事か。私とのただの口約束を守ってくださるあなたにどれほど感謝した事か。」
―――だからこそ、貴方をお慕い申し上げたのです。心から恋したのです。
悠二を抱きしめる彼女の腕に力がこもる。
「…魔物は自分の感情に素直です。いつ何時悠二様に他の魔物が手を出すか分かりません。見知らぬ相手にお慕いしている悠二様を取られるなど、考えただけで身がよだちます。わたくしは貴方様の御側にいることができれば、例え地獄の猛火に焼かれようとも構いません。それほどまでに御慕い申している相手に…こうして甘えることは」
―――そこまで愚かな行為なのでございますか。
そう言って彼女は顔を上げる。
両目から涙を流し、不安と恐怖に潰されてしまいそうな静華の顔を見た瞬間。
―――悠二の理性は音をたてて崩れ去った。
後に残ったのは真っ直ぐに向けられた愛情に対する感謝と目の前の女性に対する想いだけ。
「静華さん、…静華ッ!!」
「嬉しい。私の気持ちに答えてくださるのですね、悠二様。」
普段の彼であれば考えられないほど乱暴に彼女を押し倒し、静華の体を力いっぱい抱きしめる。まるで目の前の女を支配しようとするかのように。一方抱きすくめられている静華も、それに答えるように彼を抱きしめる。
彼が抱きついている間、何時の間に解かれていた帯をさらに緩め、静華は悠二の手を自らの秘所へと導く。彼はそれまでに一度も女性の秘所を見た事は無かったが、うっすらと生える金色の恥毛、進入を拒むかのように閉じている陰唇。そのどれもが美しいと思った。
「ここに私が貴方様のモノであるという証をくださいませ。」
閉じた陰部は、何もしていないのに愛液でぬらぬらと濡れていた。それは童貞である彼が見ても分かるほどに。
「もうこんなに濡れてる…」
初めて見る女陰に興奮を抑えきれず、悠二は両手で陰唇を開く。開くと同時に大量の愛液がごぷっと流れ出し、辺りにメスの匂いがあふれ出す。
「はしたない女狐で申し訳ありません。悠二様の事を考えるだけでこうなってしまいました。」
そう言って赤面する彼女が堪らなく可愛かった。そんな彼女を見ていると、下半身に血が集まるのを感じる。するとそれを察したのか、彼女の手がするすると悠二の股間にのびる。彼の男根が膨張している事を確認すると、先ほどまでの淫靡な笑みは消え、おぼこのようにはにかみながら彼女は悠二の性器を露出させる。
「もうこんなに立派に…。」
彼女はそそりたつ男根から視線を外せないかのように凝視する。その瞳には期待に満ちたような、そして僅かに恐怖が混じったような色が浮かぶ。
「じゃあ、そろそろ。」
その余裕のない表情が心配になったが、そんな彼女に気を使う余裕は既になく、彼は分身を静華の陰にあてがう。既にだらだらとカウパーを吐きだしている鈴口と、湧水のように淫水を吐きだす女陰が触れ合うだけで強い快感を感じる。
しかし、彼は童貞なのだ。
ここまでは本などで得た知識でなんとかごまかしてきたが、これから先どうしたらいいか分からない。
焦れば焦るほど思考はまとまらず、冷や汗が背中を伝い嫌な事ばかりが頭を過る。
「どうかされました、か?」
彼が直ぐに挿入しない事を疑問に思ったのか、静華は悠二に声をかける。
「ご、ごめん。実はこんなことするの…初めてで。そ、そのどうしたらいいか分からないんだ。」
最後の方は消え入るような声で静華に童貞である事を告げた。それは男として非常に情けない行為。その情けない姿を静華に見せてしまうなんて。あまりにも恥ずかしくて彼女の顔を見る事が出来ない。
そんな彼の顔を優しく両手で包み、彼女は優しく微笑む。そこには不安に顔を曇らせる姿も、淫靡に笑う彼女の姿も無かった。
「そんなに恥ずかしがらないでくださいませ。わたくしは悠二様の初めての相手になる事ができて非常に嬉しいのです。」
―――入口までは私が導きますから。そう言って彼女は屈託のない笑顔を悠二に向ける。
その笑顔は彼の中の不安や焦りを一掃した。きっと不安や焦りは彼女にもあるだろうに、自分を励ますためにここまでしてくれる彼女の前では恥も外聞もなくしっかりと向き合おうと心に決める。
「ではこちらに差し入れてくださいませ。」
そんな悠二の覚悟を理解したように一つ頷き、ペニスを自身のヴァギナに誘い静華はその時を待つ。
「いくよ。」
そう言って真っ直ぐに彼女の眼を見ながら腰を突きだしていく。
そこは彼の想像を絶する空間だった。
温かくぬめった肉壁が四方から悠二の男根を締め付ける。
その魔窟は自慰など足元にも及ばない快感を彼に叩きつける。
まだ亀頭が入っただけだが、既に限界に近い量の快楽が押し寄せている。
しかし、その亀頭が膣内にある何かに引っかかるのを感じ、悠二は我に返る。
「静華、もしかして君は…」
「はい。私も初めて、なのです。魔物の場合は痛みなどほとんどないと聞きますので、最後まで一息に御入れくださいませ…。」
涙を瞳にためて静華は処女である事を悠二に告げる。だが、いくら魔物とは言え、処女喪失に全く不安があるわけではないらしく気丈な言葉とは裏腹に体は小刻みに震えている。
「分かった。もし痛かったら言ってね。」
静華を安心させるため彼女の額にそっと口づけを落とし、言葉をかける。
「はい。御心遣いありがとうございます。さあ、いらしてください。」
それが嬉しかったのか、彼女の震えは止まり表情に笑みが浮かぶ。
そして意を決したように彼はペニスを押し進めた。
「ああ…、奥…奥まで悠二様がっ」
「う…っつあああ…」
びりっという音が響いたかと思うと、悠二の男根はあっという間に彼女の最奥へと突き刺さる。最奥へと到達した途端に彼女は一際大きな嬌声を上げた。その声に驚きつつ、彼女に声をかける。
「だ、大丈夫?」
「…お母様より聞いていた、通りでした。……大好きな方との交わりは、…こんなにも気持ち、いいのですね。…悠二様、悠二様は…気持ちいいでしょうか?」
「うん。もう限界、かも…」
それまで処女膜に守られていた膣奥や子宮口は容赦なく悠二の男根に襲いかかっていた。
膣奥の襞はさらに奥に飲みこむような動きで亀頭や幹を蹂躙し、子宮口は精液をせがむかのようにぴったりと鈴口に吸いつく。
それらの与える快感は童貞の彼が耐えられるようなものではなかった。仮に彼が初体験を済ましていたとしても、この快楽にはまともに耐えることもできないだろう。
そしていよいよ射精欲がピークにせまり、彼はペニスを引き抜くために腰を引こうとした。しかし、それは静華が彼の腰を足でがっちりとホールドしたことにより阻止される。
「ちょっと、足をどけてくれないと中にっ!!」
「お、お願いです。どうか膣に、私の子袋に悠二様の種を注いでくださいませ!!」
びゅくっ…どぴゅっ!!びゅるるるるるっ!!
睾丸で作られた大量の精子は、強烈な放出の快感と共に静華の体内へと吐きだされた。
その射精は今までの射精と一線を画し、目の奥で火花を散らせ、許容量をはるかに超えた快感は確実に彼の体力を奪っていた。
「…私の子、宮が…子種で満たされ、ているのが…分かります。なんて…なんて幸せなので、しょう…。」
一方の静華は完全に体を弛緩させ、初めて味わう快感と多幸感に浸っていた。それでも子宮口は未だに鈴口に吸いつき最後の一滴まで吸い込もうとはりつき、膣はもっと強請るようにペニスをしごきあげる。
「うっ…し、ずが…。」
なんとか意識を保とうとするが、断続的に続く快感に意識が擂り潰されていく。
「悠二様。わたくしはと…ても幸せで、す。」
「こっちこそ…ありがと…」
彼女の豊満な胸に顔を埋める。彼女の体温と甘いにおいに包まれると途端に襲う虚脱感と眠気に抗う事が出来ない。
「今日は…ありがとうございました。ゆっくり、お休みください。」
その言葉を聞いた悠二は、緩やかに意識を手放した。
13/03/15 23:15更新 / 松崎 ノス
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