読切小説
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幸せな誕生日
墨を流したような真っ黒な夜。
青年が山道を歩いている。
否、彷徨っている。
その足取りは限界まで溜まった疲労で覚束無い。
それでも青年は懸命に脚を動かす。

「大丈夫か?しっかりせえよ!!」
青年は一人ではない。
痩せこけた妹を背負っている。
年は近いのか青年同様幼さがかなり抜け、女の色香が薄っすらとだがのぞく。
「兄ちゃん…。私を置いて一人で…行って…。」
「馬鹿言うんじゃない。一緒に帰るんや。」

怒気を込めて吐き出された声が辺りを支配する真っ暗闇に木霊する。
その言葉は強く妹の体に響いた。
だが、妹は分かっていた。
どれくらい自分が弱わっているのか。
自分が後ろに迫る死からは決して逃げられないであろうこと。
栄養失調を起こした成長期の体に限界が訪れようとしている事も。

聡明な妹は全て理解していた。

「兄ちゃん、今までありがとぉなあ…。」
「おい、何を急に。」
「ああ、お母ちゃんの握ったおにぎりが…もう一度食べたかったなあ…。」
「馬鹿な事を言うんやない。今から帰って一緒に食べるんや!!」
「………。」
「おい、なんかゆうたらどうや!?」
兄は嫌な予感が頭を過り、急いで背負っている妹の顔を覗き込む。

妹は
笑っていた
母や父と共に過ごしていたあの頃のような
無邪気な笑顔を浮かべて

そして
妹は息をしていなかった

苦しげに鼓動を打っていた心の臓は
動くのを止めていた。

不思議なもので、先ほどまで温かかった有機物は
無機物になった途端、急激に冷たくなっていく

その温度の変化が堪らなく悲しくって

兄は大粒の涙を流して

泣いた。







どれだけ時間が経ったのか分からない。
冷たくなった妹の体を地面に横たえて身なりを整える。
腫れあがった瞼をこすりながら兄は必死に妹を綺麗にした。
自分がこうして動けているのが不思議だった。
「ごめん、ごめんよ…。」
それまで必死に耐えてきた疲労が
妹にだけは決して見せまいとしていた弱音が口から洩れる。
あの快活で、賢かった自慢の妹。
それが先ほどまで兄の支えであり全てだった。

それを失った今
やっとの思いで妹の骸を綺麗に整えた兄は
その場に崩れ落ちた。







兄は夢を見た。
数年前に家族で行った旅行の夢。
旅行先は温泉街だった。
あたりに硫黄の匂いがたちこめ鼻につく。

夢の中で兄は露天風呂に入っていた。
目の前には父と母。
隣には恥ずかしそうにうつむいている妹が。

兄は浸かっていた。人肌よりやや温い温泉に。
父と母は笑っている。
妹も笑っている。

だが、兄は何故か笑えなかった。
何故だろうと思い、ふと隣にいる妹を見遣ると

そこには白骨になった妹が
笑っていた。







「うわあああああああ」
兄は大きな声をあげて目を覚ました。
滝のように流れる汗が目に入りひりひりと沁みる。
よくは覚えていないが、とってもショッキングな夢を見ていたような気がする。

チャプ
チュプ

だが、そこでふと下半身に違和感を覚えた。
まるで幼い頃寝小便をしてしまったかのように温かいのだ。
まさかこの年でと思い、下半身に目をやると

「にーちゃん、やっと起きた♪」
「!?」
確かに死んだはずの妹が
まるでアイスキャンディーをしゃぶるかのように
兄のペニスを頬張っていた。

「お前、何をして…」
「わたしを綺麗にしてくれたにーちゃんを綺麗にしてるの♪」
「や、止めるんだ。それにお前は死んだはずじゃ!?」
兄が止めろと言ってもなお頬張る事をやめない妹。
今起きている現実が理解できず、兄は叫ぶ。
「そーだよ。わたしは死んだの♪」
でもね―――そう言って妹は死に顔の様な笑顔を浮かべる
「綺麗なおねーさんがわたしを救ってくれたの♪」
「綺麗なお姉さん?」
「うん。」
妹は元気よく頷く。
年不相応の幼い言動は兄の混乱に拍車をかけた。
だが、妹は兄を全く気にせず立ちあがり兄の上に跨った。

クチュリ
沢山の先走りを吐き出す兄の亀頭が妹の濡れそぼった女陰に触れる。
「うっ、何をするつもりなんだ!!」
「そのおねーさんがね、わたしに教えてくれたの。」
にこやかに笑いながら妹は一気に腰を沈めた。
「こうやってお兄さんと幸せになりなさいって。」
「ねえ、にーちゃん。わたし」
兄のペニスを完全に膣に咥えこんだ妹は兄の体にしなだれる。
近寄ってくる顔は
確かに妹のモノだった。
その顔が悲しげに歪められ口を開いた。

しあわせになっちゃダメ?

兄の口から答えは出なかった。
だが、代わりに妹の体の中で熱い精液が大量に吐き出された。

それを子宮で感じた妹は

満足げに微笑み、兄を優しく抱きしめた。

その一瞬だけ、生前の賢く聡明な妹の面影が浮かんだが

甘い快感の波に一瞬で飲まれてしまった。
13/08/21 00:35更新 / 松崎 ノス

■作者メッセージ
祖母の弟は祖母の背中で死にました。

終戦をむかえた年の夏だったそうです。

暑く、どこまでも澄んだ空だったと祖母は言っていました。

その祖母が逝って数年。

ふと頭に浮かび書いてみました。

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