13倍の愛
ジパングの北方で古くから港町として栄えた街がある。その街は夜景がきれいだとかガラスやオルゴールの工房があるとかで観光も人気がある街であったりする。よく言えばレトロ、悪く言えば古臭い街だ。
そんな街に一人のセルキーが住んでいる。彼女の名は田尾珠子。夫である誠一と共に漁業を営み、馴染みの店に魚介をおろして生活の糧にしている。彼女たちの漁業スタイルは決まった量、決まった種類を獲るのでは無く、その季節その日に獲れたモノを提供するといった具合だ。魚一匹の時もあれば、ウニが山盛りの日もある。彼女の目利きは確かで、その日最高の素材を提供することで有名でもあった。ただ、彼女は自分の好きな相手、馴染みの客にしか商売はしない頑固な一面がある。
珠子は半年前に田尾誠一と結ばれた。
この辺りの海を取り仕切るクラーケンの娘が行った婿探しに友人たちと共に同行したのだ。標的となったのはよく見かける観光船で、クラーケンは静かにその船に近付き十本の腕であっという間に船を沈める。すると水面にたたき落とされた哀れな獲物を我先にと獲りあう、歓喜に包まれた祭りが始まった。実は最初珠子はそこまで乗り気ではなかったのだが、その場の熱気や次々と獲物を獲得して発情する友人たちの痴態に当てられ、気がつけば夢中になって婿探しをしていた。
そして出会った青年が、誠一だった。
どうやら友人とその船に同乗していたらしく、ほとんど沈んでしまった船から落ちてきたところを誠一は珠子が、誠一の友人を珠子の友人であるスキュラが仲良く捕まえ、とんとん拍子に婚姻に至った。元々誠一は学者志望だったが、魅了された珠子と共に生きることを選び、この街に永住する決意をした。元来、体を動かすのは苦では無かったらしく、今では夫婦共に腕利きの漁師として名が知られるようになっている。
そんな二人の夫婦仲は至って良好。
淋しがり屋だけれど、意地っ張りな珠子と根が優しくおおらかな誠一は偶然の出会いだったけれど、今ではお互いに側にいるのは必然であると心の底から思っている。子供はまだいないが、日に何度も性交している二人に幸せなニュースが届くのは時間の問題だろう。
この話はそんな二人の間に起こった、ある『問題』とその結末である。
「旦那が太った。」
「……で、それが何？」
流れる時間がゆっくりと感じるほど長閑な昼のひと時。目の前の海は穏やかに澄み渡り、海面を戯れるように反射する日光がすっかり夏のそれになった事を実感するほど眩しい。そんなのんびりとした港町の午後に二人の魔物娘の声が響く。
「ちょっと、私は真面目に相談しているんだけど！！」
一人は頭からアザラシの顔がついた毛皮をかぶり、美しい金髪、海のように澄んだ碧眼、シミ一つないきめ細やかな肌をしたセルキーである田尾珠子。
「だ・か・ら。あんたの旦那が太ったからって別にどうってこともないでしょ？」
真剣に相談する珠子と対照的に、いかにも興味がなさそうに受け答えているのはスキュラの尾田光子。こちらも負けず劣らず美しい肌を目のやり場に困るような小さいビキニと腰布で隠し、情熱的な赤い髪の毛を髪留めでまとめ、緑や青色をした綺麗なアクセサリーを付けている。
「ちょっと、それって酷くない？親友なのに！！」
「親友だからこそ、そんなどうでもいいことをこうやってちゃんと聞いてあげているんでしょうが。」
「聞くだけじゃ解決にならないわよ！」
珠子の悩みなど自分には関係ないと光子は聞き流そうとするが、珠子はそんな彼女の様子をみて、より一層鼻息を荒くして光子に食ってかかる。
「というかなんでそんな話を私にするのさ。律子にでも相談すれば？私より真面目に聞いてくれるでしょ。」
「…もう相談したよ。けど『幸せ太りでしょ、嫌味か！！』って言って水を引っ掛けられちゃった。」
ああ、そりゃそうかと光子はどこか納得したように頷く。律子というのは二人の共通の友人で、幼馴染の竹田律子のことだ。珠子と光子より一才年上で、二人の姉の様な存在でもある。種族はマーメイドで未婚。未婚なのだ。律子は妙にロマンチストなところがあり、半年前の騒動にも「私は、迎えに来てくれる王子様を待ちますから参加いたしませんわ。べ、別にう、羨ましくなんか…ないんですのよ！？」と言って参加しなった。
「私たちが夫を紹介した時も…そんな感じだったね、そう言えば。」
「うん。律子曰く私たちは『裏切り者』らしいから…ね。だから光子に相談してるのよ。」
「っていっても…。まさに律子の言う通り『幸せ太り』なんじゃないの？」
「だって、太るような食生活もしてないし思い当たるような原因も…もし病気だったらって心配で。」
「病気って…。あんたと誠一さんは毎日一緒に漁に出てるんでしょ？」
「うん。」光子の言う通り、今日も漁に行ってきたばかりだ。
「毎晩、愛し合ってるんでしょ？」
「…う、うん。」
「病気だったら、毎日出来ないでしょ。特に夜の営みは。」
「でも…」
「ええい、鬱陶しいわね。そんなに気になるなら小川先生のところにでも旦那引っ張っていけばすむことでしょ！？」
いつまでも要領を得ない珠子の態度に光子は強い口調で答える。話の中に登場した「小川先生」というのはこの街で開業医をしている腕利きの医者のことである。ちなみに種族はダークプリースト。
「そうよね…何かあってからでは遅いものね。」
「「お〜い。」」
珠子が光子の言葉に頷いたその時、遠くから二人に男たちが声をかける。
二人とも肌が真っ黒に焼け、半そでから覗く腕はがっしりとした筋肉がつき、海水で傷んだ海の男ならではの髪の毛は短く刈り上げられている様は見る者に好印象を与える。
「誠一！！」
「ダーリン！！」
そしてその二人を黄色い声が迎える。彼らは彼女たちの夫、田尾誠一と尾田純。先ほど二人で馴染みの店に今日獲れた魚を納入してきたところだ。
「仕事が終わったから迎えに来たぜ、ハニー！！」
「もう、淋しかったんだから。今日も目いっぱい愛してね♡」
さっきまで隣にいた光子は既に夫である純に八本の足を絡めつけている。もう彼女の頭には先ほどまで聞いていた珠子の悩みはきれいさっぱり無いようだ。
「おうよ。嫌って言っても離すかよ〜。」
「いや〜ん。嬉しい♡」
「誠一、俺はこれから忙しいから、またな。珠子さんもまたな！！」
「もう、私の前で他の女の人の名前をいわないで♡それじゃあまたね、珠子、誠一さん。」
「こら、お前だって俺の前で他の男の名前を言ってるじゃないか！」
「あら、いやん♪」
「悪い奥さんには、オシオキだ〜！！」
「あ〜れ〜♡」
嵐のように去って行ったバカップルを見て、珠子と誠一は苦笑いすることしかできなかった。
「最近、誠一ってその…逞しくなった、よね…。」
光子と純に圧倒されつつ、家に帰った珠子は何やら申し訳なさそうに質問をしてきた。
「ん？ああ、確かに。珠子と出会う前はひょろひょろだったから。」
でも、最近はわき腹に余計な肉がついたかなと誠一は笑いながら腹をさする。
元々学者を目指して勉強を続けていた自分は、貧層とまではいわないが完全にやせ形だった。だが、ここ半年の海での漁や珠子との激しい夜の営みで体力と筋肉が体に身についていた。しかし、最近は筋肉だけではなく、わき腹に肉がつきはじめたことも自覚していた。
「その、気分を悪くしたらごめん…。誠一、太ったよね？」
「ん？ああ、確かに太く…なったね。特に胴周りがきつくなってきた。」
「私、心配なんだ。」
「心配？」珠子が一体何を心配するか全く分からず、誠一は首をひねる。
「だって食生活は乱れていないし、誠一はお酒も煙草もしないでしょ？なのに…太るってことはどこか体が悪いんじゃないかって。」
そう言って心配そうに珠子はうつむく。本当に自分の体の事が心配のようだ。だが、のんびりと腹をさすりながら誠一は俯く彼女を見てむくむくと悪戯心に火がついた。それを珠子に悟られないように気をつけつつ無言で珠子に近付く。
「珠子ッ！！」
「きゃっ！？どうしたの誠一？」
誠一は俯いたままの珠子に抱きついた。突然、がっしりとした腕に抱かれ、珠子の心拍数は跳ね上がる。そして誠一は珠子の耳元でわざと声のトーンを落として囁く。
「そんなに心配することないんじゃないかな。」
「っん、でもぉ…やっぱり心配だよぉ。」
抱きつかれたことで一段と艶やか声になった妻は、やはり自分の身を案じる言葉を繰り返す。
「俗に言う『幸せ太り』ってやつじゃないかな？こんなにいいお嫁さんを貰えば、太りもするさ。」
「誠一のばかぁ…そんなこと耳元で言うなんてぇ…。」
「安心して、不摂生はしてないし悪い所なんてないから。」
「じゃあ、一つ約束して…。」
「約束？」
「今度一緒に小川先生のところへ行って、健康診断を受けてちょうだい…。」
「どうしても？」
「お願い、きいてくれるわよね？」
「ああ、今からしっかりと愛してくれればね♡んっむちゅぅ…。」
「ん！？んちゅう…ちゅぅ…もぉ、ばかあ…♡」
抱きつかれ身動きが取れない妻にうるうると濡れた目で上目づかいで見つめられた瞬間、自分の理性は簡単に砕け散った。返事の代わりに彼女の血色のいい唇にむしゃぶりつく。珠子独特の甘い唾液と体臭が口内一杯に広がる。何度味わってもこの瞬間は堪らない。
「ベッドに、行こうか。」
「…うん。私の『中』に、入ってきてぇ♡」
「じゃあ、失礼しますよ。」
「いらっしゃいませ♡」
彼女を抱きしめたまま、どさりとベッドに倒れ込む。そのままバードキスや軽いボディータッチを楽しみ、ゆっくりとお互いの体を興奮させていく。その一方で自分はいそいそと彼女の『中』に入る準備をする。邪魔な服や下着を脱ぎ去り、珠子の毛皮に付いた大きなファスナーをゆっくりと下していく。そこからむわっとメスの香りが匂い立ち、絹の様な美しい肌が覗く。この瞬間はいつも楽しみだ。まるで宝石の入った宝箱を開けるような高揚感が堪らない。
そして伸縮自在な彼女の毛皮に十分な余裕を持たせながら、ゆっくりと足を踏み入れていく。
「ん♡入って、きたぁあ♡」
セルキーにとって、「寒さ」を防いでくれる毛皮を脱ぐ、もしくはその中に男を誘いこむといった行動は特別な意味を持つ。毛皮の中で愛する男と抱き合って過ごすのはセルキーにとってなによりも愛を確かめ合う最高の手段なのだ。珠子も例外に漏れず、毛皮の中での性交を何よりも好んでいる。
「はあぁ…気持ちいぃ…。気持ちいいよ、珠子！」
自分も彼女と過ごす毛皮の虜だ。何度入っても決して飽きることは無い。すべすべでかつぷにぷにとした彼女の肌とまるでベルベットのような毛皮の感触に包まれる感触、そして彼女の発する熱や汗の甘酸っぱい匂いが充満する空間は…筆舌に尽くし難いものだ。おそらくこれから何年たってもこの空間に勝るものは現れないと確信している。
「もう、我慢できない…これも入れてぇ♡」
先ほどよりさらに甘い、蕩け切った声でさらなる痴態をおねだりする。こうなってしまえば彼女はとても素直だ。硬く勃起した自分の分身を愛おしげに摩りあげながら自らの秘所へと誘う。珠子の女陰は既に大量の蜜を吐き出し、受け入れる態勢は万全のようだ。先ほどまでの汗の匂いに加え、彼女の体臭を濃縮させた濃い愛液の匂いが強く鼻孔をくすぐる。
「分かった。入れる…よ！！」
「ああぁあ…大きい♡」
熱くうねる彼女の蜜壺に正常位で剛直を差し入れ、同時に子宮口をノックするようにゆっくりとピストンを開始する。珠子の膣は突き入れれば愛液をたっぷりと吐きながらねっとりとペニスを受け入れ、引き抜こうとするとまるで逃がすまいとするように一つ一つの襞が絡みついてくる。
「ここ…ここを触って♡」
誠一の腕の中で快楽に震える珠子があることを強請る。
「ん？何処を触って欲しいのか、言ってもらわないと困るなあ♪」
半年の経験から珠子が何を求めているのか分かっているが、わざとらしくすっとボケる。
「もおイジワル♡胸を触って…♡」
焦らされたことでより一層苦しそうに身もだえながら、珠子は恥ずかしそうに胸を差しだす。先ほどまで乳房を覆っていたアザラシの足が退き、血色の好い乳房と桜色の乳首が姿を現す。真っ白の肌にうっすらと青い血管が浮かび出る様は堪らなく卑猥だ。そして乳首は既にツンと勃起し誠一の愛撫を今か今かと待ちわびている。
「(相変わらず、いい手触りだ。)」
「ひうっ…お願い、優しく触って♡」
「ああ、勿論。分かっているよ。」
珠子の乳房は目を剥く様な大きさではないが、決して小さいわけではない。まさに美乳という言葉がぴったりな乳をしている。珠子はそんな美乳を優しく、じっくりと時間をかけて愛撫されるのが大好きだ。
まずはもっちりとした、まるで搗きたての餅のように柔らかく形を変える両の乳房を下から持ち上げる。乳房全体がプルプルと揺れ、真ん中の乳首が嵐の中、海に浮かぶブイのように揺らめく。そしてそのブイを目指すようにじんわりと力を込めつつ揉んでいく。
その際に乳首には決して触れず、乳房全体の凝りをほぐすように揉みしだくのがポイントだ。
自分の愛撫から与えられる快感に震える彼女の様子を楽しみつつ子供が母乳を強請るかのように優しく揉んでいくと、彼女の乳頭がジンワリと湿ってくる。
「ねえ、お願い…そろそろ出そうだから乳首に触って♡」
彼女の口から懇願の言葉を聞き出せたことに満足しつつ、ひくひくと震える乳首をつまみあげる。するとまるで乳草の茎を切ったように、その乳房からは真っ白い雫がしみ出す。だが、彼女は妊娠しているわけでも、出産したわけでもない。珠子は興奮すると母乳が溢れ出る体質なのだ。
「いただきます♡」
「んっふ、ひぃん♡」
誠一は溢れだす母乳に遠慮なく吸いつく。珠子の母乳はとても甘く、独特の風味は病みつきになるほど蟲惑的だ。クラーケンに襲われ、初めて彼女と交わった時はいい年をして母乳を吸う事にためらったが、今では母乳を飲む事がセックスにおける楽しみの一つでもあった。
「(そして、子宮を意識して、と。)」
「きたあぁ♡」
妻の乳房にむしゃぶりつきながら、亀頭でコリコリとした彼女の子宮口を探り当て、腰に力を込めて子宮口を押しつぶすようにこすりつける。母乳を吸われながら子宮口をいじめられるのが珠子は大好きだ。彼女いわく「一番愛してもらっているし、誠一に愛を与えている私にとって最高の瞬間」なのだそうだ。
勿論、自分もこの行為は大好きだ。激しい性行為も好きだが、こうやって母乳を堪能しつつゆっくりと愛を確認する行為はとっても自分達らしいのだとここ最近思う事がある。
「はあ、はあ…今日もゆっくり愛してね、誠一♡」
「勿論。ゆっくりと、ね♡」
こうして夫婦のスローな愛の営みは今日も更けていくのであった。
数日後
私たち夫婦は、小川医院の診察室にいた。
そして目の前に座る、黒いシスター風の衣装に白衣を羽織って、検査結果が書かれた紙を見ているのが医師である、小川久子。赤縁の眼鏡が彼女の黒髪、絹の様な美しい白い肌となんともマッチしている。
「どの数値にも異常なし。診察の結果、誠一さんは特に問題があるわけではありません。ご安心を。」
しばらく紙面に視線を泳がせていた久子がこちらに顔を向け診断結果を告げる。そしてそのまま表情を変えずに淡々と質問を始める。
「じゃあ幾つか質問していくから素直に答えてくださいね。まず、一日何食、食事をとっていますか？」
「一日三食、時々朝食を抜かす時もありあますが…」
「ふむ。では間食は？」
「間食は…あまりしませんね。」
「寝る前に何かを口にすると言ったことは…。」
「ありません。」
「食事も問題無し。お仕事は…ええっと漁師だったわよね。じゃあ毎日漁に出ているからしっかりと体も動かしていますよね？」
「はい。毎日妻と一緒に。」
「筋骨隆々なところを見る限り、その言葉に嘘はない、か。」
夫と医師の受け答えを聞きながら改めて太る要因がないと珠子は思う。だからこそ何かよくないことが起こっているのではないかと心配になってしまう。
そんな珠子の心配を知ってか知らずかじゃあこれから聞く事が大切なのだけれど、そう言って久子は一つ呼吸を置き、かけていた眼鏡を外した。
「奥様とのどんなセックスが好きですか？」
「「！？」」
私と誠一は予期しなかった医師の質問に言葉を失った。
「そして週に何回、時間はどのくらいかけて、どんな体位で、あ、ちなみに私はバックが好きです♡旦那様は何回ほど、どれくらいの量の精子を奥様の中に射精していますか？それとも顔射？胸射？マニアックに髪射？それらをどんなシチュエーションで行うのですか。レイプ？逆レイプ？教師と教え子？SM？」
「「…。」」
忘れていた…小川久子はこういう医師だった。今まで真面目に医療行為をしていたから思い出さなかったが、医師としての規範は忘れても常にセクハラだけは忘れないと自ら豪語するほど変態医師なのだ。先ほどまでと違い、目を輝かせながら一方的に卑猥な言葉をまき散らす姿は到底医療従事者とは思えない。だが、これで腕は一流だから余計にたちが悪い。
「あの、それは何か関係あるんですか？」
「当り前です、これは…正当な医療行為です☆」
「ちょっと待て、変態医師！！」
あくまで白を切る久子に声を荒げ、手に持った銛の切っ先を久子の喉元に構える。全く関係のない、しかも誠一をたぶらかすような妄言は許せない。
「まあ、奥様…落ち着いて。」だが、一方の久子は全く動じない。
「よく考えてください。旦那様を調べつくしても特に異常は見られない。食生活も良好。適度な運動もしている。正攻法では旦那様の肥満原因を探し出せないのです。それならば他にどんな要因があるのか。普通のぼんくらな医師ならこのままあなた達二人を帰宅させるでしょう。ですが、私はひらめいた。インキュバスと魔物娘にとって何よりも大事なもの…そう、『性交』に原因があると私は冷静に判断した！！だから、このような質問をしているのです☆」
それどころかよく分からない御託を並べ自らの正当性を主張する有様だ。
「ええっと…それなら。珠子と抱き合って、ゆっくりと交わるのが好きです。」
「ちょっと誠一！？」
しかし、どうやら誠一は痴女の言葉を間に受け、素直に話し始めてしまう。
「まあまあ、奥様がマゾっぽいからてっきり激しい腰使いで毎夜鳴かせていると思っていましたのに。それで、それで？」
「お互いに目を合わせて…」
「目を合わせて、からの〜♡」
「彼女の母乳を飲みながら、亀頭で子宮口をこするのがいつもの流れです。」
「っつ〜〜！？」
誠一が他人に夫婦の営みを他人に話すのだけでも、誠一との甘い夜を思い出して体が疼き毛皮に包まれた肢体にうっすら汗が滲んでしまう。この毛皮が無ければ危なかった…。
「母乳？」
だが、誠一の言葉を聞いた久子は今までと全く違う反応を示した。それまでの痴態が嘘のように瞳に真剣な光が宿る。
「奥様は妊娠されているのですか？」
「いえ、私は昔から興奮すると母乳が出る体質で…。」
「最初は自分も驚いたんですけど、今ではお互いにしっかりと楽しんでいます。」
「って先生？」
「………。」
珠子の体質を聞いた久子は無言で立ちあがり、私の顔を真っ直ぐに見詰めて素っ頓狂な声を上げた。
「おっぱいを調べます。」
「はあ？」
「あなたのぉ…その乳房から染み出すぅ…おっぱいですよぉ♡」
「な、なんで…」
「実は…昔から女の人のおっぱいに興味が…」
「この銛の餌食になりたい？」
「冗談ですよ、冗談。ではバカはここまでにして早速調べましょう。」
「ひゃあぁああ！？」
そう言って変態医師はむんずと珠子の胸を鷲掴みにする。突然の事に裏返った情けない声が出る。
「ほうほう、確かに乳腺が張っている…これならば母乳は出ても不思議はありませんね。」
「ん、んう！？(う、上手い…この変態、もとい医者、やっぱり凄いんだ…。)」
「出せ〜おっぱいを出せ〜♡」
珠子が妙な事に感心する間に、久子の触診はエスカレートする。
「…。」
だが、ここで誠一が申し訳なさそうに二人の様子を見ている事に珠子が気づき、やっと正気に戻る。
「検査するならせ、せめて別室で…」
「なんだあ…折角寝取りプレイをしようと…。」
「…刺すわよ。」
「私は本気なのに…では、別室で調べてまいりますので少々お待ちください☆」
そして悶々とした気持ちの誠一だけが診察室に残された。
それから数分後、久子はどこか満足げに、珠子は頬を赤らめながら帰ってきた。そして久子は何やら数字が書かれた紙を不自然なくらい仰々しく読み上げ始めた。
「遂に原因が判明いたしました！！結果から言うと、誠一さんの肥満の原因は…」
「珠子さんの母乳です！！」
「…えぇええ！？」
「調べてみて驚いたんですけど、珠子さんの母乳はすっごいんです。魔物娘の母乳に含まれる平均的な栄養価と比べ物にならない位に、珠子さんの母乳の栄養価は高い数値を示したのです。中でも脂肪は平均値の約13倍！！こんなにあるのは正直、信じられないくらいですよ。」
これは本当に「幸せ太り」って名前の病気を新たに認定すべきなのかもしれないわと厭らしい笑みを浮かべた医師は告げた。
「……。」
珠子はどうやら先にその検査結果を聞いたらしく、部屋に入って来た時よりもさらに顔を赤らめて俯いている。
「ということは…」
「ええ、只でさえ母乳は栄養価の高いモノ。その何倍も栄養価の高い珠子さんの母乳を毎日口にしているから、誠一さんはこの半年で太ったと言うのが真実。まったく、どこが『病気』なのやら〜♪」
「…。」
「…。」
あまりにも意外な原因、そしてその原因を探る為に友人たちをも巻き込んできたこれまでの事を思い出して思わず恥ずかしくなったのか、二人とも上手く言葉が出てこないようだ。するとその状況に痺れを切らしたのか、久子が大きな声で病院を退出するように促す。
「ほらほら、原因がはっきり分かったリア充はさっさと帰ってください。健康診断の御代は…珠子さんの母乳を堪能できたので今回は特別に無料です☆そして今度は奥様がご懐妊ってことで来てくださいね♡」
ぎくしゃくと油の切れた人形の様な動きの二人を病院から追い出す際、「太ってもいいから、母乳を吸うの、辞めないで…ね？」という珠子の声を久子は確かに耳にした。
その日セルキーの夫婦が初めてした露出プレイはしっかりと医者に目撃されていたとかいないとか。
おしまい。
そんな街に一人のセルキーが住んでいる。彼女の名は田尾珠子。夫である誠一と共に漁業を営み、馴染みの店に魚介をおろして生活の糧にしている。彼女たちの漁業スタイルは決まった量、決まった種類を獲るのでは無く、その季節その日に獲れたモノを提供するといった具合だ。魚一匹の時もあれば、ウニが山盛りの日もある。彼女の目利きは確かで、その日最高の素材を提供することで有名でもあった。ただ、彼女は自分の好きな相手、馴染みの客にしか商売はしない頑固な一面がある。
珠子は半年前に田尾誠一と結ばれた。
この辺りの海を取り仕切るクラーケンの娘が行った婿探しに友人たちと共に同行したのだ。標的となったのはよく見かける観光船で、クラーケンは静かにその船に近付き十本の腕であっという間に船を沈める。すると水面にたたき落とされた哀れな獲物を我先にと獲りあう、歓喜に包まれた祭りが始まった。実は最初珠子はそこまで乗り気ではなかったのだが、その場の熱気や次々と獲物を獲得して発情する友人たちの痴態に当てられ、気がつけば夢中になって婿探しをしていた。
そして出会った青年が、誠一だった。
どうやら友人とその船に同乗していたらしく、ほとんど沈んでしまった船から落ちてきたところを誠一は珠子が、誠一の友人を珠子の友人であるスキュラが仲良く捕まえ、とんとん拍子に婚姻に至った。元々誠一は学者志望だったが、魅了された珠子と共に生きることを選び、この街に永住する決意をした。元来、体を動かすのは苦では無かったらしく、今では夫婦共に腕利きの漁師として名が知られるようになっている。
そんな二人の夫婦仲は至って良好。
淋しがり屋だけれど、意地っ張りな珠子と根が優しくおおらかな誠一は偶然の出会いだったけれど、今ではお互いに側にいるのは必然であると心の底から思っている。子供はまだいないが、日に何度も性交している二人に幸せなニュースが届くのは時間の問題だろう。
この話はそんな二人の間に起こった、ある『問題』とその結末である。
「旦那が太った。」
「……で、それが何？」
流れる時間がゆっくりと感じるほど長閑な昼のひと時。目の前の海は穏やかに澄み渡り、海面を戯れるように反射する日光がすっかり夏のそれになった事を実感するほど眩しい。そんなのんびりとした港町の午後に二人の魔物娘の声が響く。
「ちょっと、私は真面目に相談しているんだけど！！」
一人は頭からアザラシの顔がついた毛皮をかぶり、美しい金髪、海のように澄んだ碧眼、シミ一つないきめ細やかな肌をしたセルキーである田尾珠子。
「だ・か・ら。あんたの旦那が太ったからって別にどうってこともないでしょ？」
真剣に相談する珠子と対照的に、いかにも興味がなさそうに受け答えているのはスキュラの尾田光子。こちらも負けず劣らず美しい肌を目のやり場に困るような小さいビキニと腰布で隠し、情熱的な赤い髪の毛を髪留めでまとめ、緑や青色をした綺麗なアクセサリーを付けている。
「ちょっと、それって酷くない？親友なのに！！」
「親友だからこそ、そんなどうでもいいことをこうやってちゃんと聞いてあげているんでしょうが。」
「聞くだけじゃ解決にならないわよ！」
珠子の悩みなど自分には関係ないと光子は聞き流そうとするが、珠子はそんな彼女の様子をみて、より一層鼻息を荒くして光子に食ってかかる。
「というかなんでそんな話を私にするのさ。律子にでも相談すれば？私より真面目に聞いてくれるでしょ。」
「…もう相談したよ。けど『幸せ太りでしょ、嫌味か！！』って言って水を引っ掛けられちゃった。」
ああ、そりゃそうかと光子はどこか納得したように頷く。律子というのは二人の共通の友人で、幼馴染の竹田律子のことだ。珠子と光子より一才年上で、二人の姉の様な存在でもある。種族はマーメイドで未婚。未婚なのだ。律子は妙にロマンチストなところがあり、半年前の騒動にも「私は、迎えに来てくれる王子様を待ちますから参加いたしませんわ。べ、別にう、羨ましくなんか…ないんですのよ！？」と言って参加しなった。
「私たちが夫を紹介した時も…そんな感じだったね、そう言えば。」
「うん。律子曰く私たちは『裏切り者』らしいから…ね。だから光子に相談してるのよ。」
「っていっても…。まさに律子の言う通り『幸せ太り』なんじゃないの？」
「だって、太るような食生活もしてないし思い当たるような原因も…もし病気だったらって心配で。」
「病気って…。あんたと誠一さんは毎日一緒に漁に出てるんでしょ？」
「うん。」光子の言う通り、今日も漁に行ってきたばかりだ。
「毎晩、愛し合ってるんでしょ？」
「…う、うん。」
「病気だったら、毎日出来ないでしょ。特に夜の営みは。」
「でも…」
「ええい、鬱陶しいわね。そんなに気になるなら小川先生のところにでも旦那引っ張っていけばすむことでしょ！？」
いつまでも要領を得ない珠子の態度に光子は強い口調で答える。話の中に登場した「小川先生」というのはこの街で開業医をしている腕利きの医者のことである。ちなみに種族はダークプリースト。
「そうよね…何かあってからでは遅いものね。」
「「お〜い。」」
珠子が光子の言葉に頷いたその時、遠くから二人に男たちが声をかける。
二人とも肌が真っ黒に焼け、半そでから覗く腕はがっしりとした筋肉がつき、海水で傷んだ海の男ならではの髪の毛は短く刈り上げられている様は見る者に好印象を与える。
「誠一！！」
「ダーリン！！」
そしてその二人を黄色い声が迎える。彼らは彼女たちの夫、田尾誠一と尾田純。先ほど二人で馴染みの店に今日獲れた魚を納入してきたところだ。
「仕事が終わったから迎えに来たぜ、ハニー！！」
「もう、淋しかったんだから。今日も目いっぱい愛してね♡」
さっきまで隣にいた光子は既に夫である純に八本の足を絡めつけている。もう彼女の頭には先ほどまで聞いていた珠子の悩みはきれいさっぱり無いようだ。
「おうよ。嫌って言っても離すかよ〜。」
「いや〜ん。嬉しい♡」
「誠一、俺はこれから忙しいから、またな。珠子さんもまたな！！」
「もう、私の前で他の女の人の名前をいわないで♡それじゃあまたね、珠子、誠一さん。」
「こら、お前だって俺の前で他の男の名前を言ってるじゃないか！」
「あら、いやん♪」
「悪い奥さんには、オシオキだ〜！！」
「あ〜れ〜♡」
嵐のように去って行ったバカップルを見て、珠子と誠一は苦笑いすることしかできなかった。
「最近、誠一ってその…逞しくなった、よね…。」
光子と純に圧倒されつつ、家に帰った珠子は何やら申し訳なさそうに質問をしてきた。
「ん？ああ、確かに。珠子と出会う前はひょろひょろだったから。」
でも、最近はわき腹に余計な肉がついたかなと誠一は笑いながら腹をさする。
元々学者を目指して勉強を続けていた自分は、貧層とまではいわないが完全にやせ形だった。だが、ここ半年の海での漁や珠子との激しい夜の営みで体力と筋肉が体に身についていた。しかし、最近は筋肉だけではなく、わき腹に肉がつきはじめたことも自覚していた。
「その、気分を悪くしたらごめん…。誠一、太ったよね？」
「ん？ああ、確かに太く…なったね。特に胴周りがきつくなってきた。」
「私、心配なんだ。」
「心配？」珠子が一体何を心配するか全く分からず、誠一は首をひねる。
「だって食生活は乱れていないし、誠一はお酒も煙草もしないでしょ？なのに…太るってことはどこか体が悪いんじゃないかって。」
そう言って心配そうに珠子はうつむく。本当に自分の体の事が心配のようだ。だが、のんびりと腹をさすりながら誠一は俯く彼女を見てむくむくと悪戯心に火がついた。それを珠子に悟られないように気をつけつつ無言で珠子に近付く。
「珠子ッ！！」
「きゃっ！？どうしたの誠一？」
誠一は俯いたままの珠子に抱きついた。突然、がっしりとした腕に抱かれ、珠子の心拍数は跳ね上がる。そして誠一は珠子の耳元でわざと声のトーンを落として囁く。
「そんなに心配することないんじゃないかな。」
「っん、でもぉ…やっぱり心配だよぉ。」
抱きつかれたことで一段と艶やか声になった妻は、やはり自分の身を案じる言葉を繰り返す。
「俗に言う『幸せ太り』ってやつじゃないかな？こんなにいいお嫁さんを貰えば、太りもするさ。」
「誠一のばかぁ…そんなこと耳元で言うなんてぇ…。」
「安心して、不摂生はしてないし悪い所なんてないから。」
「じゃあ、一つ約束して…。」
「約束？」
「今度一緒に小川先生のところへ行って、健康診断を受けてちょうだい…。」
「どうしても？」
「お願い、きいてくれるわよね？」
「ああ、今からしっかりと愛してくれればね♡んっむちゅぅ…。」
「ん！？んちゅう…ちゅぅ…もぉ、ばかあ…♡」
抱きつかれ身動きが取れない妻にうるうると濡れた目で上目づかいで見つめられた瞬間、自分の理性は簡単に砕け散った。返事の代わりに彼女の血色のいい唇にむしゃぶりつく。珠子独特の甘い唾液と体臭が口内一杯に広がる。何度味わってもこの瞬間は堪らない。
「ベッドに、行こうか。」
「…うん。私の『中』に、入ってきてぇ♡」
「じゃあ、失礼しますよ。」
「いらっしゃいませ♡」
彼女を抱きしめたまま、どさりとベッドに倒れ込む。そのままバードキスや軽いボディータッチを楽しみ、ゆっくりとお互いの体を興奮させていく。その一方で自分はいそいそと彼女の『中』に入る準備をする。邪魔な服や下着を脱ぎ去り、珠子の毛皮に付いた大きなファスナーをゆっくりと下していく。そこからむわっとメスの香りが匂い立ち、絹の様な美しい肌が覗く。この瞬間はいつも楽しみだ。まるで宝石の入った宝箱を開けるような高揚感が堪らない。
そして伸縮自在な彼女の毛皮に十分な余裕を持たせながら、ゆっくりと足を踏み入れていく。
「ん♡入って、きたぁあ♡」
セルキーにとって、「寒さ」を防いでくれる毛皮を脱ぐ、もしくはその中に男を誘いこむといった行動は特別な意味を持つ。毛皮の中で愛する男と抱き合って過ごすのはセルキーにとってなによりも愛を確かめ合う最高の手段なのだ。珠子も例外に漏れず、毛皮の中での性交を何よりも好んでいる。
「はあぁ…気持ちいぃ…。気持ちいいよ、珠子！」
自分も彼女と過ごす毛皮の虜だ。何度入っても決して飽きることは無い。すべすべでかつぷにぷにとした彼女の肌とまるでベルベットのような毛皮の感触に包まれる感触、そして彼女の発する熱や汗の甘酸っぱい匂いが充満する空間は…筆舌に尽くし難いものだ。おそらくこれから何年たってもこの空間に勝るものは現れないと確信している。
「もう、我慢できない…これも入れてぇ♡」
先ほどよりさらに甘い、蕩け切った声でさらなる痴態をおねだりする。こうなってしまえば彼女はとても素直だ。硬く勃起した自分の分身を愛おしげに摩りあげながら自らの秘所へと誘う。珠子の女陰は既に大量の蜜を吐き出し、受け入れる態勢は万全のようだ。先ほどまでの汗の匂いに加え、彼女の体臭を濃縮させた濃い愛液の匂いが強く鼻孔をくすぐる。
「分かった。入れる…よ！！」
「ああぁあ…大きい♡」
熱くうねる彼女の蜜壺に正常位で剛直を差し入れ、同時に子宮口をノックするようにゆっくりとピストンを開始する。珠子の膣は突き入れれば愛液をたっぷりと吐きながらねっとりとペニスを受け入れ、引き抜こうとするとまるで逃がすまいとするように一つ一つの襞が絡みついてくる。
「ここ…ここを触って♡」
誠一の腕の中で快楽に震える珠子があることを強請る。
「ん？何処を触って欲しいのか、言ってもらわないと困るなあ♪」
半年の経験から珠子が何を求めているのか分かっているが、わざとらしくすっとボケる。
「もおイジワル♡胸を触って…♡」
焦らされたことでより一層苦しそうに身もだえながら、珠子は恥ずかしそうに胸を差しだす。先ほどまで乳房を覆っていたアザラシの足が退き、血色の好い乳房と桜色の乳首が姿を現す。真っ白の肌にうっすらと青い血管が浮かび出る様は堪らなく卑猥だ。そして乳首は既にツンと勃起し誠一の愛撫を今か今かと待ちわびている。
「(相変わらず、いい手触りだ。)」
「ひうっ…お願い、優しく触って♡」
「ああ、勿論。分かっているよ。」
珠子の乳房は目を剥く様な大きさではないが、決して小さいわけではない。まさに美乳という言葉がぴったりな乳をしている。珠子はそんな美乳を優しく、じっくりと時間をかけて愛撫されるのが大好きだ。
まずはもっちりとした、まるで搗きたての餅のように柔らかく形を変える両の乳房を下から持ち上げる。乳房全体がプルプルと揺れ、真ん中の乳首が嵐の中、海に浮かぶブイのように揺らめく。そしてそのブイを目指すようにじんわりと力を込めつつ揉んでいく。
その際に乳首には決して触れず、乳房全体の凝りをほぐすように揉みしだくのがポイントだ。
自分の愛撫から与えられる快感に震える彼女の様子を楽しみつつ子供が母乳を強請るかのように優しく揉んでいくと、彼女の乳頭がジンワリと湿ってくる。
「ねえ、お願い…そろそろ出そうだから乳首に触って♡」
彼女の口から懇願の言葉を聞き出せたことに満足しつつ、ひくひくと震える乳首をつまみあげる。するとまるで乳草の茎を切ったように、その乳房からは真っ白い雫がしみ出す。だが、彼女は妊娠しているわけでも、出産したわけでもない。珠子は興奮すると母乳が溢れ出る体質なのだ。
「いただきます♡」
「んっふ、ひぃん♡」
誠一は溢れだす母乳に遠慮なく吸いつく。珠子の母乳はとても甘く、独特の風味は病みつきになるほど蟲惑的だ。クラーケンに襲われ、初めて彼女と交わった時はいい年をして母乳を吸う事にためらったが、今では母乳を飲む事がセックスにおける楽しみの一つでもあった。
「(そして、子宮を意識して、と。)」
「きたあぁ♡」
妻の乳房にむしゃぶりつきながら、亀頭でコリコリとした彼女の子宮口を探り当て、腰に力を込めて子宮口を押しつぶすようにこすりつける。母乳を吸われながら子宮口をいじめられるのが珠子は大好きだ。彼女いわく「一番愛してもらっているし、誠一に愛を与えている私にとって最高の瞬間」なのだそうだ。
勿論、自分もこの行為は大好きだ。激しい性行為も好きだが、こうやって母乳を堪能しつつゆっくりと愛を確認する行為はとっても自分達らしいのだとここ最近思う事がある。
「はあ、はあ…今日もゆっくり愛してね、誠一♡」
「勿論。ゆっくりと、ね♡」
こうして夫婦のスローな愛の営みは今日も更けていくのであった。
数日後
私たち夫婦は、小川医院の診察室にいた。
そして目の前に座る、黒いシスター風の衣装に白衣を羽織って、検査結果が書かれた紙を見ているのが医師である、小川久子。赤縁の眼鏡が彼女の黒髪、絹の様な美しい白い肌となんともマッチしている。
「どの数値にも異常なし。診察の結果、誠一さんは特に問題があるわけではありません。ご安心を。」
しばらく紙面に視線を泳がせていた久子がこちらに顔を向け診断結果を告げる。そしてそのまま表情を変えずに淡々と質問を始める。
「じゃあ幾つか質問していくから素直に答えてくださいね。まず、一日何食、食事をとっていますか？」
「一日三食、時々朝食を抜かす時もありあますが…」
「ふむ。では間食は？」
「間食は…あまりしませんね。」
「寝る前に何かを口にすると言ったことは…。」
「ありません。」
「食事も問題無し。お仕事は…ええっと漁師だったわよね。じゃあ毎日漁に出ているからしっかりと体も動かしていますよね？」
「はい。毎日妻と一緒に。」
「筋骨隆々なところを見る限り、その言葉に嘘はない、か。」
夫と医師の受け答えを聞きながら改めて太る要因がないと珠子は思う。だからこそ何かよくないことが起こっているのではないかと心配になってしまう。
そんな珠子の心配を知ってか知らずかじゃあこれから聞く事が大切なのだけれど、そう言って久子は一つ呼吸を置き、かけていた眼鏡を外した。
「奥様とのどんなセックスが好きですか？」
「「！？」」
私と誠一は予期しなかった医師の質問に言葉を失った。
「そして週に何回、時間はどのくらいかけて、どんな体位で、あ、ちなみに私はバックが好きです♡旦那様は何回ほど、どれくらいの量の精子を奥様の中に射精していますか？それとも顔射？胸射？マニアックに髪射？それらをどんなシチュエーションで行うのですか。レイプ？逆レイプ？教師と教え子？SM？」
「「…。」」
忘れていた…小川久子はこういう医師だった。今まで真面目に医療行為をしていたから思い出さなかったが、医師としての規範は忘れても常にセクハラだけは忘れないと自ら豪語するほど変態医師なのだ。先ほどまでと違い、目を輝かせながら一方的に卑猥な言葉をまき散らす姿は到底医療従事者とは思えない。だが、これで腕は一流だから余計にたちが悪い。
「あの、それは何か関係あるんですか？」
「当り前です、これは…正当な医療行為です☆」
「ちょっと待て、変態医師！！」
あくまで白を切る久子に声を荒げ、手に持った銛の切っ先を久子の喉元に構える。全く関係のない、しかも誠一をたぶらかすような妄言は許せない。
「まあ、奥様…落ち着いて。」だが、一方の久子は全く動じない。
「よく考えてください。旦那様を調べつくしても特に異常は見られない。食生活も良好。適度な運動もしている。正攻法では旦那様の肥満原因を探し出せないのです。それならば他にどんな要因があるのか。普通のぼんくらな医師ならこのままあなた達二人を帰宅させるでしょう。ですが、私はひらめいた。インキュバスと魔物娘にとって何よりも大事なもの…そう、『性交』に原因があると私は冷静に判断した！！だから、このような質問をしているのです☆」
それどころかよく分からない御託を並べ自らの正当性を主張する有様だ。
「ええっと…それなら。珠子と抱き合って、ゆっくりと交わるのが好きです。」
「ちょっと誠一！？」
しかし、どうやら誠一は痴女の言葉を間に受け、素直に話し始めてしまう。
「まあまあ、奥様がマゾっぽいからてっきり激しい腰使いで毎夜鳴かせていると思っていましたのに。それで、それで？」
「お互いに目を合わせて…」
「目を合わせて、からの〜♡」
「彼女の母乳を飲みながら、亀頭で子宮口をこするのがいつもの流れです。」
「っつ〜〜！？」
誠一が他人に夫婦の営みを他人に話すのだけでも、誠一との甘い夜を思い出して体が疼き毛皮に包まれた肢体にうっすら汗が滲んでしまう。この毛皮が無ければ危なかった…。
「母乳？」
だが、誠一の言葉を聞いた久子は今までと全く違う反応を示した。それまでの痴態が嘘のように瞳に真剣な光が宿る。
「奥様は妊娠されているのですか？」
「いえ、私は昔から興奮すると母乳が出る体質で…。」
「最初は自分も驚いたんですけど、今ではお互いにしっかりと楽しんでいます。」
「って先生？」
「………。」
珠子の体質を聞いた久子は無言で立ちあがり、私の顔を真っ直ぐに見詰めて素っ頓狂な声を上げた。
「おっぱいを調べます。」
「はあ？」
「あなたのぉ…その乳房から染み出すぅ…おっぱいですよぉ♡」
「な、なんで…」
「実は…昔から女の人のおっぱいに興味が…」
「この銛の餌食になりたい？」
「冗談ですよ、冗談。ではバカはここまでにして早速調べましょう。」
「ひゃあぁああ！？」
そう言って変態医師はむんずと珠子の胸を鷲掴みにする。突然の事に裏返った情けない声が出る。
「ほうほう、確かに乳腺が張っている…これならば母乳は出ても不思議はありませんね。」
「ん、んう！？(う、上手い…この変態、もとい医者、やっぱり凄いんだ…。)」
「出せ〜おっぱいを出せ〜♡」
珠子が妙な事に感心する間に、久子の触診はエスカレートする。
「…。」
だが、ここで誠一が申し訳なさそうに二人の様子を見ている事に珠子が気づき、やっと正気に戻る。
「検査するならせ、せめて別室で…」
「なんだあ…折角寝取りプレイをしようと…。」
「…刺すわよ。」
「私は本気なのに…では、別室で調べてまいりますので少々お待ちください☆」
そして悶々とした気持ちの誠一だけが診察室に残された。
それから数分後、久子はどこか満足げに、珠子は頬を赤らめながら帰ってきた。そして久子は何やら数字が書かれた紙を不自然なくらい仰々しく読み上げ始めた。
「遂に原因が判明いたしました！！結果から言うと、誠一さんの肥満の原因は…」
「珠子さんの母乳です！！」
「…えぇええ！？」
「調べてみて驚いたんですけど、珠子さんの母乳はすっごいんです。魔物娘の母乳に含まれる平均的な栄養価と比べ物にならない位に、珠子さんの母乳の栄養価は高い数値を示したのです。中でも脂肪は平均値の約13倍！！こんなにあるのは正直、信じられないくらいですよ。」
これは本当に「幸せ太り」って名前の病気を新たに認定すべきなのかもしれないわと厭らしい笑みを浮かべた医師は告げた。
「……。」
珠子はどうやら先にその検査結果を聞いたらしく、部屋に入って来た時よりもさらに顔を赤らめて俯いている。
「ということは…」
「ええ、只でさえ母乳は栄養価の高いモノ。その何倍も栄養価の高い珠子さんの母乳を毎日口にしているから、誠一さんはこの半年で太ったと言うのが真実。まったく、どこが『病気』なのやら〜♪」
「…。」
「…。」
あまりにも意外な原因、そしてその原因を探る為に友人たちをも巻き込んできたこれまでの事を思い出して思わず恥ずかしくなったのか、二人とも上手く言葉が出てこないようだ。するとその状況に痺れを切らしたのか、久子が大きな声で病院を退出するように促す。
「ほらほら、原因がはっきり分かったリア充はさっさと帰ってください。健康診断の御代は…珠子さんの母乳を堪能できたので今回は特別に無料です☆そして今度は奥様がご懐妊ってことで来てくださいね♡」
ぎくしゃくと油の切れた人形の様な動きの二人を病院から追い出す際、「太ってもいいから、母乳を吸うの、辞めないで…ね？」という珠子の声を久子は確かに耳にした。
その日セルキーの夫婦が初めてした露出プレイはしっかりと医者に目撃されていたとかいないとか。
おしまい。
13/06/13 20:14更新 / 松崎 ノス