重い足取りで咲は家路に着いていた。
　今日は気の置けない友人と二人で遊びに行く約束をしていたのだが、急にご破算となってしまった。なんでも昨夜、急にお相手をゲットしたお姉さんの代わりに友人は家業を手伝わなければならなくなったらしい。てんやわんやで連絡が遅くなってしまいごめんねと謝る友人の声を聞きながら、待ち合わせ場所の駅前で咲は呆然と立ち尽くした。
　元々は映画を見に行く予定だったが、一人で行くのも味気ない。
　それに見る予定の映画は、友人が見たいといって今日の予定をたてただけに、余計に気がそがれてしまう。
　休日ということもあり多い人波をぼんやりと眺めつつ、咲はゆっくりと来た道を引き返した。
「ただいまー……」
　自分でもよく分かる沈んだ声で帰宅の挨拶を口にしつつ、玄関で清めの魔法を自身の下半身にかける。ラミアである白蛇の自分たちは、父親のように靴を脱いではいお終いとはいかない。ここのところ晴天が続いたおかげもありひどく汚れていたわけではないが、地面と接した部分に念を込めて魔法をかけていると、奥から軽い足音と、聞き慣れない声が聞こえてきた。
「お、おかえり……」
「え？」
　我が家では聞くことはない、声変わり中のようなかすれ声。
　それに驚き顔を上げると、そこには中学生くらいの男の子がぶかぶかの服を手で押さえながら立っていた。
「……父さん？」
「ああ、ちょっと服を着替えなきゃいけないから失礼するよ」
　ずり落ちるズボンで歩きにくそうに部屋の方へ消えていく、若かりし父親の背中を思わず凝視してしまった。
「ああ、母さんの仕業か……」
　何度目かの光景ということもあり、今まで程の驚きはないが、それでも自分の親が、いきなり年下にまで若返るという現象に慣れることは難しい。
　父がああなってしまった主犯の元へ咲は向かった。

「母さん」
　リビングでなにやらごそごそと準備をしている母の背中へ声をかける。
「あら」
　耐水性のシートや掃除のしやすい毛布を持って、にやついた笑顔を浮かべていた母が、こちらを向くと一瞬で母親の貌になった。妹は祖父母のところへ遊びに行っているし、夫婦水入らず、どうやらここで父親としっぽりお励みになる予定だったようだ。
「おかえりなさい。遊びに行ったんじゃなかったの？」
「友だちが急に来れなくなったから帰ってきた」
「それは残念だったわね」
「うん、まあそれはいいんだけど」
　咲の言葉を聞きながら、ちゃくちゃくと愛を営む場所を整える母に疑問を投げかける。
「また父さんに若返りの薬を飲ませたの？」
「ええ」
　母は、平然と肯定した。
「サバトの方が神社へ奉納されたものが、私たちにも下賜されたから、それを紅茶に少々」
　細めた切れ長の美しい目が机の上に残されたカップへと向けられる。
「……この前もそんな感じじゃなかったっけ」
　ここ最近、同じような理由で時折父親は若返っていた。
　それは偶然というにはあまりにも頻度が高い。
　疑念が表情に出ていたのか、母親は噛んで含めるように説明を続ける。
「うちの水神様がお気に召したのを、先方のバフォメットさんがいたく喜ばれてね。それはもう大量に届いたの。だから数度に分けて、我々も使ってみたらという水神様のお気遣いなのよ」
　あくまでも、自分が進んで薬を手にしたのではないと母は言い張るようだ。
「ああ、なるほど」
「どうしたの」
「母さんも水神様と同じように、あれってわけね」
「あれ？」
「後天的ショタコン」
　伝え聞く中で知った魔物娘の性癖の一つ。
　元々その気はなくても、プレイとしてパートナーが若返った姿にドハマりして、後天的にショタコンとなってしまった事例だ。目の前でうきうきと交尾する場所を整える母親の姿は、まさにそれだろう。
「違うわよ、失礼ね」
　だが、本人は自覚がないのか、真顔でそれを否定する。
「私はショタコンじゃないわ」
「ああ、これは重傷だ」
　酔った人間ほど自分は酔ってないと主張するように、後天的ショタコンの沼に母親は沈み切ってしまっているようだ。
「はあ、大人っぽくなってきたと思ったけれど、咲もまだまだ子供ね」
「ええ、ショタコンなのが大人の証拠なのぉ？」
「ふふ、まああなたもパートナーを見つけて、私くらい生きれば、この行為の意味が分かるかもしれないわね」
　何故か一人で納得して頷く母親。
　それにあきれつつ、咲はリビングを後にする。
「あら、どこ行くの？」
「部屋で本でも読んでいようかと思ったけど、お邪魔になりそうだし図書館にでも行くよ」
「そう。気を付けていきなさいね」
「母さんも、か弱い父さんを虐めすぎないでね」
　適当に手を振り、そそくさと咲は退散することにしたのだった。



「虐めるだなんて、人聞きの悪い」
　咲が出ていった後、着替えを終え戻ってきた夫を有無も言わさず蜷局の中へ収める。
　少し力を加えれば折れてしまいそうな成長途中の幼い体。
　その大切な体を後ろから強く抱きしめながら、恭子は祐介の耳元で息たっぷりに囁いた。
「ただいつものように、愛し合っているだけですよね、旦那様♡」
　咲と話していた同一人物が発しているとは思えないほど湿り、蕩けきった甘い声を聞き、まだ何もしていないのに夫はぶるりと身体を震わせた。
「う、うん…ひゃっ」
「うふふ、お耳がいつも以上に敏感なの、素敵♡」
　熱を込めた言葉を注ぎ込むと同時に、小さな耳朶へむしゃぶりつく。
　わざと大きな水音をたてて嬲ると、その度に薄い体を震わせ、か細い嬌声を上げた。
「きょ、きょうこ耳はや、やめて」
「ええ、なんでですかぁ？」
「うう、気持ちがいいから……」
「からぁ？」
「あんまりされると、出ちゃいそう……」
「んふふぅ♡」
　これは以前、若返りの薬を使いたっぷりと楽しんだ後のピロートークで聞いたことのなのだが、身体に引きずられどうやら精神もある程度後退してしまうらしい。恥ずかしそうに、舌足らずな口調で話す夫は、決して演技などではないのだ。だからこそ、抗えない痴態に身を悶えさせる夫の姿は、堪らなく子宮を熱く滾らせ、秘裂から愛液を滴らせてしまう。
「じゃあ、まずは一回出しちゃいましょうねえ♡」
「あひぃっ」
　言い終わると同時に短パンへ右手を突っ込み、固く勃起したペニスを軽く握りしめる。
　必死に勃起しているのに、恭子の片手に収まってしまう子供サイズのおちんちん。滲みだす先走りを潤滑油にしてゆっくりとしごき始める。
「あっダメ」
「もう出ちゃうんですか？」
　いつもの二人であれば、児戯ですらないあいさつ代わりの手コキでも、夫は悲鳴に似た嬌声を上げる。
　そうなることは、これまでのことで分かっている。
　だがそれを黙殺しつつ、音をたてて男根を扱き続けると、限界であることを示すようにびくびくとペニスが掌で震え始めた。

　快感に支配される夫の顔を穴が開くほど視姦しながら、恭子は軽く絶頂する。
　この年頃の貴方は、こんな表情で喘いでいたんですか。
　こんな可愛い顔で、必死に射精を我慢するのですね。

　そんな、リアルタイムで見ることのできなかった夫の痴態が、たまらなく恭子を燃え上がらせるのだ。

　先ほど咲にいったように、恭子は自分のことを後天的ショタコンだとは思っていない。
　確かに夫のこの姿は可愛らしく素敵だが、常にこうであってほしいとは思わない。
　やはり長年、一緒に時を重ね過ごした姿が一番しっくりとくる。
　では何故こうして若返りの薬を使うかといえば、それは単に自分が見ることのできなかった祐介の姿をすべからく見たい、夫の全てを知りたいという執着心だ。
　この世界で誰よりもこの男性を愛しているのは間違いなく恭子だ。
　なのに、その自分が知らない夫の姿があるなんて、到底容認できるはずはない。
　しかも、それを見る“手段”があるのだ。
　白蛇の強い嫉妬心や独占欲は、何も現在だけとは限らない。
　未来は当然のものとして、過ぎ去ってしまったものであっても当然対象となる。

　例えば、数度前に若返り薬を使用した際にこんなことがあった。

　まだ羞恥心が強く、身を捩る夫の幼い体を拘束した時のこと。
「あら〜♡」
　抵抗しようとする右腕を掴み上げ、露わになった腋。
　そこには数本ではあるが、産毛とははっきりと違う黒々とした腋毛が生え始めていた。
「み、見ないでぇ」
　恭子にその様をまじまじと凝視され、祐介は顔を真っ赤にして涙ながらに懇願する。
「何故です」
「え？」
「旦那様が、私のために逞しい男性になるその最中じゃありませんか。それを恥じる必要などありません♡」
「で、でもこのころはとっても恥ずかしかったんだよぉ」
俯きつつ、訥々とその訳を口にする。
「まだ腋毛が生えてる同級生は多くなかったら、生えてるやつはすごいからかわれて……。だから体育の時、特にプールとかの着替えは見られないように気を付けたんだ……」
「うふふ♡」
　普通に夫婦生活を送っていれば知りえなかった夫の可愛らしいエピソードを知ることができ、恭子の心に言いようのない歓びと愉悦が駆け巡った。
「可愛いオハナシですね♡」
「その時は真剣だっ…あひっ」
「んちゅぅ♡」
　抗弁を続けようとする夫を無視して、腋窩へ顔を埋め、音をたてて吸い付く。
　舌で僅かなしょっぱさと、鼻でほんのりと男臭さを感じとった。
　幼子から男へと成長しつつある体へㇺむしゃぶりつく。
(ああ、堪らない♡)
　それから時間を忘れるほど夫が上げ続ける可愛らしい悲鳴を聞きながら、恭子は一心不乱に腋を舐めつくしていった。

　そんな、甘美で嬉しい発見がこの行為には、ある。
　そしてそれは、同時にもしかすれば他人が知っている可能性である事実を突きつけた。

　他人が知りえたかもしれない夫の姿を、自分が知らないなんてことは到底我慢できない。

　だからこそ若返り薬を使用するが、私は断じてショタコンではない。

　ただ夫をより理解し、愛しているだけなのだ。

　恭子のことを後天的ショタコンと信じて疑わない長女も、いつかパートナーを見つけ、この気持ちが分かる時が来るだろう。その時は、一言揶揄ってあげても良いかもしれない。
　あなたも後天的ショタコンなのかしら、と。
　そんなことを頭の片隅で考えていると、思わず右手に力が入ってしまい、幼い夫が身を捩らせた。
　いけない、今は大切で大事な夫との情事の真っ最中。
　些末なことなど、考えている暇はない。
　恭子はいっそう、熱を込め手淫する右手に力を込めた。
「うぅっひっ、いぃ」
　すると眦から涙を零しつつ、夫はいとも簡単に暴発する。
　それを器用に左手で受け止めつつ、再び耳元でねっとりと囁きかけた。
「あーあ、もう出ちゃいましたねぇ♡」
「ご、ごめん」
「ほーら、こんなに♡」
　涙を流す夫の面前で、ザーメンまみれの掌を広げる。
　にちゃりと音をたてて、精液の太い橋が出来上がった。
　むわりと鼻腔をくすぐる栗の花にも似た、心なしかいつもより若々しい香りを放つ白濁液がぷるぷると震える。
　その芳醇な香りが、恭子を滾らせて仕方がない。
　二度も恭子を孕ませ、虜にしてやまないザーメン。
　すぐにでも舐め啜り、夫の愛を求め乾くことを知らない貪欲なこの体で吸収したい。
　だが恭子はおくびにもそんな様子は見せず、見せつけるようにわざとらしくゆっくりと精液を舐めとっていく。
　羞恥心と好奇心に染まるくりくりと可愛らしい主人の目が、ちろちろと覗く紅の舌を凝視していることに堪らない踰越を感じた。
　だから途中でわざとらしく舐めとったザー汁を舌で躍らせたり、音をたてて唇を舐める。
　サイズは年相応とはいえ、昨日は立派な夫の生殖器から放たれた沢山の精液。
　時間をかけ、動けない夫の常道を煽りながらそれらを貪った。
綺麗に舐めとったというのに、飼い犬が執拗に食器を舐めまわすように何度も掌を舐め、フェラをするようにじゅぼじゅぼと音をたてて指をしゃぶる。
「ごちそうさまでした♡」
　その様子を、穴が開くほど見つめていた夫の、涙で濡れた頬へ感謝のキスを施す。
「…………」
　びくりと身体を震わせるが、夫から言葉は帰ってこない。
　その代わり、蜷局の中で真っ赤にうなじを染めながら、上目遣いで恭子を見つめてきた。
　どこか子犬のような表情が、庇護欲や母性、それ以上に魔物娘の性欲をかき立てるが、真意はおくびにも出さない。
「なんですかあ、旦那様。気持ちよくお射精してすっきりなさったじゃないですか♡」
「わ、わかってるでしょ」
「なにを、ですか」
　さわさわと柔らかいお腹を、イヤらしい手つきで撫でまわしながらすっとぼける。
「何か私にしてほしいことがあるなら、どうぞはっきりおっしゃってください♡」
　暫く俯いて逡巡していたが、じんわりと目に涙を浮かべ、頬を真っ赤に紅潮させた幼い夫が、おねだりを始めた。
「お、お願い……もっと気持ちよくしてぇ」
「うふふ♡」
　その言葉を聞いた私は、口角を吊り上げた満面の笑みで愛する夫へと襲いかかる。

　幼い祐介は抵抗など出来るはずもなく、可憐な過去と痴態をただただ晒し、恭子はその度に甘美な満足感に酔い痴れたのだった。

■作者メッセージ
クロスさんの小話付きギャラリーの中で、後天的ショタコンという部分を読んで思いついたものを形にしてみました。

白蛇さんだとショタコンより独占欲や執着心が勝りそうだなあと(笑)。
もちろん図鑑世界にはショタコンの白蛇さんもいらっしゃるとは思いますが、どうも自分の場合はこういう形に軍配が上がってしまいました(笑)。