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第四十七記 -ラージマウス-
「それにしても〜、治って本当に良かったですね、リムちゃん〜」

「うふふ…♥ ありがとう、もも♥」

歩きながら、和気藹々と話す…ももちゃんと、リムさん。

「…驚くほど、簡単に打ち解けてるわね…」

サキュさんの言葉に、頷くと共に…とても嬉しい気持ちになる。

…あの後……何十回目………ううん、百何回目かで、
まるで霧の様に、リムさんのは跡形もなく消えてしまった。
ダークプリーストが言うには、術は成功して、もう生えてくることも無いらしい。
リムさんはすごく喜んだけれど…最後に、もう私とはあっちでできないんだ…って、
残念そうに言って、それがサキュさんの怒りに触れて、こっぴどく怒られてた。

「あら。ドラ、その可愛いキーホルダー、どうしたの?」

「…ぱんでもにうむで…」

「買ったの?」

「うん…」

「可愛い花型ね♥ ドラに似合っているわ♥」

「…ありがとう…」

…そしてその後、宿屋で、リムさんは皆に改めて謝り、お礼を言った。
そんなリムさんを…もう怒ったりしている人は誰もいなくて、
今はもう…こうして、私達の輪の中に溶け込んでいる。

掛け替えのない、仲間のひとりとして。

「………」

と…急に立ち止まる、クノさん。

鼠花火

パンッ!

「アッヂィィーーーッ!!?」

道路横の木…その茂みの中から、何かが爆発したような音と……飛び出してくる、影。

「ぬぉぉーっ! スカーフ! 婆ちゃんから貰ったスカーフが大炎上ーッ!!」

…目の前をゴロゴロと転がる……たぶん、魔物。

「み、ミッキちゃーんっ!」

今度は、後ろの方から…こちらに走り寄ってくる……つぼまじん。

「…あれ。あの子…」

「相棒ーッ! 水ッ! 水をくれーッ!!」

「はいっ! ミッキちゃん、水だよぅ!」

「ゴクゴクゴク…。プハーッ! うめぇっ!」

「飲んでる場合じゃないよぅ!?」

…新手の旅芸人?

「つぼさん…と、ねずみさん?」

「えっ? ……あ、おねえさんっ!」

「ぬ? …おぉ、相棒2号! 力の2号!」

え? おねえちゃんの知り合い?

「わぁっ! おねえさん、お久しぶりですっ!」

「うん、久しぶり。こんなところで、何してるの?」

「…えーっと……それは…」

どことなく、言い辛そうに目を伏せるつぼまじん。

「ちょっと相棒2号! 聞いてよ! あたいの話!」

「うん」

「腹減った! 旅人の荷物狙った! 失敗した! 終わりっ!」

「そっか。チーズなら一欠片あるから、あげる」

「うっひょーいっ!! さすが相棒2号!」

「ミッキちゃん…」

うん、絶対悪い人ではないのは分かった。

「でも、もう旅人を襲ったりしない方がいいよ」

「そうだよぅ、ミッキちゃん…」

「ハグハグクッチャモグフガモグガフッ!」

「うん、話すのは食べ終わってからでいいよ」

「ゲフッ。でも食糧が無い!」

「分けてあげる。ソラちゃん、いいかな?」

もちろん頷く。

「うっひょひょーいっ!! さすが相棒1号!」

「えっ? ミッキちゃん、私格下げ?」

「つぼさんは町で別れた筈だよね? どうして一緒に?」

「…あの後、町にミッキちゃんが忍びこんで…」

「泥棒として捕まりそうになっていたところを助けて……また成り行きで…」

「…苦労したんだね…」

「ぅぅ…」

ぽんぽん、とつぼまじんを慰めるおねえちゃん。ちょっと羨ましい。

「そーだ、相棒1号。あたい今気分が良いから、これあげる!」

「…? 何、これ?」

おねえちゃんがラージマウスから受け取ったのは…何か動くものが入った小瓶。

「オジャマタクシ」

「ミッキちゃん、オタマジャクシ」

「そう、オジャマタクシ」

「………」

「オタマジャクシにしては、身体が長くて、顔が尖ってるね」

おねえちゃんの一言に、私も…みんなも、興味深く瓶の中身を見つめる。

「何処で採ったの?」

「机の上」

「ミッキちゃん、もっと大きな範囲で…」

「んーと…相棒1号と会ったところの、隣の隣の部屋」

「教団の…?」

「ねぇ、うーによく見せてっ」

手を伸ばして、瓶をせがむうーちゃん。
おねえちゃんは少し腰を屈めて、うーちゃんが受け取りやすいようにして手渡した。

瓶を受け取ると…うーちゃんがいつになく真剣な眼差しで観察し始める。

「何か特殊な生物なのかな…」

「新たな魔物の幼生体か…まったく新種の生物という可能性もあるな」

「実はペット、とか〜?」

「……ひじょうしょく…」

「…それはまた、随分世知辛い食糧事情ね…」

「ちなみにチーズは無かった」

「ミッキちゃん、それ全然関係ないよぅ…」

…本当に、ただの珍しい形のオタマジャクシってだけたったりして…。

「ところで、二人はこれからどうするの?」

「…ミッキちゃん次第です…」

「盗む! 食べる! 寝る!」

「盗むのは駄目」

「そうだよぅ、ミッキちゃん…」

「男がいればなー。交尾っちゃ寝だけでいいんだけどなー」

「…理由が不純過ぎるよぅ…」

「この先に町があるから、そこで探してみるのはどうかな」

「この先にチーズがある!?」

「間違ってはいないけれど、間違ってるよぅ…」

「えっと、この道をまっすぐ行って、最初の分かれ道で……って、もういない」

「あぁっ!? また置いていかれちゃったよぅ!? ミッキちゃーんっ!」

「つぼさん、待って。よいしょっ…。これ、食糧」

「えっ!? こ、こんなにいいんですか!?」

「うん。少し重いけれど、持てる?」

「は、はいっ! ありがとうございます、おねえさんっ!」

「いいよ。ほら、早く追い掛けないと」

「はい! おねえさん、本当にありがとうございますっ! またどこかで!」

「ミッキちゃ〜んっ! 待ってよーぅっ!!」

………行っちゃった…。

「…ふふっ。楽しいお友達をお持ちなのですね、ミーファ様」

「うん。私がここにいるのも、あの子達のおかげ」

「追々、そのお話も聞かせてくださいね」

「勿論」

あ、そのお話、私も聞きたいっ。

「……これからどうするか、か…」

「サキュちゃん、むずかしいお顔をして、どうかしましたか〜?」

「…ねえ、貴女はこれからどうするか…考えてる?」

「もちろん〜。家に着いたら、みんなでパーティですよ〜」

「そうじゃなくて、もう少し先の話よ」

「もう少し先…ですか〜?」

「そう。ソラはもう、教団との縁は切れたも同然だから…」

「あの場所に長く住むべきではないわ。また教団の人間が来るかもしれない」

「それに、研究を続ける必要も無くなったけれど、同時に職も無くなった…」

「これから先、ソラは…私達は、どうするのかっていう問題よ」

「う〜ん………どうしましょう〜…?」

「……きっと…」

「きっと、こうして私達が一緒に歩くのは、これが最初で最後…」

「次は…ソラと誰かが、並んで歩くだけ…」

「それは私だとは思うけれど、でも、可能性としては必ずある…」

「ソラと一緒ではない未来」

「その時……私は、どうするのか…」

「………その時は、泣いて、泣いて…」

「諦められるまで泣いて…」

「また……次の恋を探すしかないんでしょうね」

「それが私達、魔物の生き方だもの」

「………」

「もちろん、良い未来の方は、語り尽くせるものじゃないわ」

「ソラにしてあげたい事、してほしい事、二人で一緒にしたい事…。たくさんある」

「だからこそ…迷っているの。これからどうするか」

「良い未来だけを見つめて、考えていいのか…」

「…サキュちゃん…」

……ももちゃんとサキュさんが暗い顔してる…。どうしたんだろう…。

「おねえちゃんっ」

ん? うーちゃん…?

「あーんっ♪」

…? あ〜んっ…。

「ぽいっ♪」

っ!? ぁっ……。

「あぁっ!? 貴女、ソラに何を飲ませているんですの!?」

「さっきのやつ♪」

「さっきのって…オタマジャクシですか〜っ!?」

「ソラッ! ペッしなさい、ペッて!」

「いや、もう飲み込んでいる。吐き出させるしかない」

「…糸で釣れるか…?」

「ソラッ♥ 私が吸い出してあげるわ♥」

「あんたはどさくさに紛れて何しようとしてんのよっ!」

「そうですわ! その役目はわたくしがっ!」

「あんたも同類よっ!」

「阿呆蛇め…」

「ムッキー! 駄犬の分際で、またわたくしを馬鹿にしましたわねっ!?」

あぁ……、私以上に、周りが大混乱に…。

「はーいっ♪ うーのセツメイ、きいてーっ♪」

「そうよ! 元はと言えばっ…!」

「あれはねっ、セーシを作りだすおクスリなんだよ〜♪」

………え?

「セーシ……精子、ですか?」

「うんっ♪」

「な、何でそんなことが分かるのよ?」

「マカガクテキケンカイでわかるよ〜♪」

「…ねぇ。このコ…もしかして、頭良いの?」

「今更ですよ〜」

「ですが、もしそうだとして、何故その様なお薬が…?」

「ん〜、たぶんだけれどー…」

「キョーダンが、おねえちゃんのカラダのヒミツがあるていど分かってきて…」

「それをリヨウしようとして、作ったんじゃないかなーっ?」

「何のために…?」

「ジコセイサンのためだと思うよっ」

「…じこせいさん…?」

「うんっ。おねえちゃんは、マモノにならないって思われてるみたいだから…」

「そのタイセイをもつニンゲンを、ふやそうとしたんじゃないかなっ」

「おちんちんは、テンシにおねがいすればなくなっちゃうことを知っていたなら…」

「もしコドモがおねえちゃんと同じカラダでも、フツウの女の子になれるしねっ」

「…事実なら、本当に碌でもないことを考えるわね、あそこの教団は」

「でも…ソラ様に精子を作る力が出来たということは…」

…皆の視線が、私に集中する。

………心なしか……なんか、コワイ。

「…今後、ソラが膣内出しすれば………孕む……?」

「ということは〜…、つまり〜…」

「……ごしゅじんさまとの…あかちゃん……」

「ソラ様…♥ 私、何だか急に身体が熱く…♥」

「おねえちゃ〜んっ♪ 今夜はうーとおフロはいろ〜っ♥」

「…ハクに我が子を見せる日も近いか…」

「ふふっ…。あの鼠には、感謝しなければいけないな…」

「ソラと子作り、ソラと子作り、ソラと子作り…」

「あぁ…ソラ♥ これで私達、夫婦になれるのね…♥」

…じりじりと寄ってくる、目付きの変わった魔物達…。

………振り返り、全力ダッシュ!!

「ソラ〜〜〜〜〜〜ッ♥♥♥♥♥」

―わーーーーっ!!?

……………

………



「………」

「…ソラちゃんの、赤ちゃん……か…」

「………」

「………」

「………」

「…………うん…」

「私…決めたよ、ソラちゃん」

「ソラちゃんのこと…どう思っているか」

……………

………

12/04/16 00:05更新 / コジコジ
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