エピローグ
その街は魔王軍の拠点の一つだった。
魔王軍にしては珍しくちゃんとした訓練設備が整っており、日々軍に所属する魔物達が腕を磨いている。
コンラッドはその訓練所の用具室でやはり一人黙々と整備、点検を行っていた。
別に誰に頼まれた訳でもないのだが、何となく人間時代の習慣が抜けきらず、雑用などは進んでこなそうとしてしまうのだ。
一通りの仕事を終えた所でコンラッドはふと、何かを感じたように顔を上げた。
そのまま用具室の入り口にまで歩くと、空を見上げた。
時刻は夕暮れ時で空は茜色に染まっており、鳥の群れの一団が空を悠々と横切って行く。
ふいにその集団の中から一羽がすうっと群れを離れ、コンラッドの方に向かって飛んで来た。
遠くにいた時にはわからなかったが、近付くにつれ、それは鳥ではないことが分かってくる、それは黒いマントを纏った人だった。腰から生えている羽からサキュバスである事がわかる。
コンラッドは驚くでもなく、自分の方に降りてくるサキュバスを微笑みながら見ている。
サキュバスは燕のように宙を滑空し、ふわりとコンラッドの目の前に降り立った。
驚く事にかなりのスピードで降下してくる時も地面に降り立つ時にも風が吹く音以外ほぼ無音だった、相当に繊細な魔力のコントロールを行えなければ出来ない芸当だ。
地面に降り立ったサキュバスは、サキュバスにしては珍しいほど露出のない服装をしていた、肌どころか頭部にも顔の上半分を覆い隠し、サキュバスの角だけを露出するデザインの異様な兜を被っている、そして、マントも兜も何もかもが黒ずくめ。
敵対する者の目にはまさしく死の使いに映るだろう、現に彼女と遭遇した教団の騎士達はその姿を一目見た瞬間蛇に睨まれた蛙のごとく身が竦むのだという。
降り立った漆黒のサキュバスにコンラッドは言った。
「おかえりなさい」
サキュバスは兜に手を掛け、外した。
瞬間、輝く金の髪が溢れだすように広がり、周囲に甘やかな香りが広がる。
そのサキュバス・・・ソランは、風になびく長い髪をそっと撫でつけるとコンラッドに微笑み返した、人間であった頃から彼女の美貌は人並み外れていたが、人で無くなってからはそれに更に妖しさが加わり、文字通り人に在らざる域に達し始めている。
「ただいま」
二人は用具室に入り、壁に寄り掛かって地べたに座り込んだ。
「・・・いつも思うんですけど、どうして来るのが分かるんですか？」
「さあ・・・何となくです」
あらゆる技能に長けるソランは隠密行動も得意にしている、彼女の接近に気付けるのは熟練の戦士であっても一握りだろう。
しかしコンラッドにだけは何故か気付かれずに接近できた試しがない。
何度かちょっと背後から驚かせてやろうとこっそりと近付いたりしたこともあるが、何故か100％気付かれる。
そもそも今回など地上から見れば鳥と区別がつかないような遥か上空を飛行している時から察知されたのだ、もはや特殊能力のレベルである。
「まぁ、夫婦だからじゃないですか？」
「そ、そういうものでしょうか・・・？」
ソランは赤面する、結婚してからだいぶ経つというのに夫婦、妻、伴侶、などの単語には未だにソランは照れを感じるらしい。
「・・・」
「・・・」
それから暫く二人は黙り込んだ、用具室に二人で座り込んでいるこのシチュエーションに互いにふと、人間時代のことを思い出したのだ。
あの時もコンラッドは整備をしていて、ソランがそこを訪ねて・・・
「随分遠い昔みたいに感じますね」
「本当に・・・」
「でも、やっぱりソランさんは変わったけど変わってないと思います」
「？」
「ソランさんはやっぱり・・・勇者なんだと思います」
魔物になってから、二人は今まで知らなかった様々な事実を目の当たりにした、人の生活に当たり前のように寄り添って生きる魔物達、人間の夫婦と変わらない愛情を育む人間と魔物の夫婦、そして・・・粛清の名目で行われる敵意を持たない者に振るわれる理不尽な暴力、略奪・・・。
ひょっとしてそれは自分達が魔物の立場に立ったからそう見えるのかもしれない、あのまま教団の騎士の一員として生きていけば当然の事のように感じたのかもしれない。
しかし、どれだけ視点を変えて考えてみても教団の粛清は善なる行為とはかけ離れたものにしか二人の目には映らなかった。
そうしてソランは決意したのだ、かつての自分の出身と戦う事を。
ソランの事をずっと見て来たコンラッドにはそれがどれだけ重い決断であるかがわかった、それは今までの自分の生涯の全てを否定し、白紙に戻す行為であり、そしてかつての師や友に刃を向ける行為なのだ。
その姿にコンラッドはあの英雄譚の勇者を思い起こすのだ、自身の身を顧みず、弱き者のために戦うその姿に。
「私は・・・そんな大層な・・・」
照れてソランが呟く。
そこで二人は思わず顔を見合わせ、同時に吹き出してしまった。
ソランが昔全く同じ台詞を言ったのを思い出したのだ。
「ソランさん、あの頃よりもっともっと強くなりましたね」
「まあ、訓練は欠かしませんでしたから」
魔物になったソランはより増強された身体能力や新しい魔力にすぐに対応して見せ、たちまち魔王軍の中でも高い地位に昇り詰めたのだ、今はあのジュカにも引けを取らない実力を備えている。
「この間の大会でも・・・その・・・」
「・・・ええ、うん・・・ごほん」
この街では定期的にイベント的な意味合いも兼ねて剣術大会が行われている、訓練所に円形の舞台を設置し、即興の闘技場にして行われるその大会には魔王軍に所属する腕自慢の魔物達や、元傭兵、騎士などの経歴を持つその夫達、また、噂を聞きつけてやってきた経歴の分からない者達など、多くの者が参加し、大陸でも屈指のレベルの高さを誇っている。
ソランはごく最近行われたその大会で他を寄せ付けない強さで優勝をさらったのだ。
「・・・」
「・・・」
しかし、この大会の話題を口にすると二人は揃って真っ赤になって黙り込んでしまうのが常だった、何故ならこの大会には途轍もなく淫らな思い出が付加されているからだ。
その大会が終わった夜、コンラッドは一人訓練所に居た、次の日に撤去される舞台の姿をもう一目見ようと思って訪れたのだ。
「凄かったなぁ・・・」
コンラッドはソランの活躍を思い出していた、漆黒のマント姿で舞うように木刀を操り、対戦相手に全く付け入る隙を与えずに次々と打ち破り、優勝しても大きな喜びを現さず、あくまで謙虚に、かつ優雅に一礼し、割れんばかりの観客の声援に応えていた姿を。
自分は凄い人を妻にしているのだと改めて感じていた。
その時、ソランが訓練所に入ってきた。
「どうしたんですか？こんな所で」
「いや、明日に撤去されてしまうので、もう一目見たくて・・・」
「そうですか・・・ね、上がってみませんか？」
「えっ」
インキュバスになっても変わらず武術的才能に恵まれないコンラッドはもちろん大会にはエントリーせず、ずっと観客席で試合を観戦していたのだ、見ているしかできなかった舞台に上がってみるというのはちょっと心惹かれる。
「それじゃちょっと失礼して・・・」
コンラッドは舞台に上がって周囲を見回した、上から見ていた印象より大分広く感じる、それに・・・。
「うわあ、これは緊張するなぁ」
周囲をぐるりと観客席に囲まれている空間というのはコンラッドにとって新鮮だった、その観客席にぎっしりと人が詰め、この舞台に一斉に熱い視線を注いでいたのだと想像するとそれだけでもう体がカチカチになりそうに緊張してしまう。
やはり自分は何と言うか表舞台向きの体質じゃないなぁ、と苦笑していると、いつの間にかソランも舞台に上がり、丁度自分と向かい合うように立っていた。
「ソランさん？」
見てみるといつの間に持って来たのか木刀を手にし、兜まで装備している。
訝しむコンラッドを前にソランは微かに笑みを浮かべ、すうっと木刀を構えて見せる。
ああ成程、試合の様子を忠実に再現してくれているのだな、と理解した。
考えてみるとこうして正面から彼女の構えを見るのは初めてかもしれない、何処にも無駄な力の入っていない、そして隙のない構えは対峙しているだけでぞっとするほどの力の差を感じる、大会の対戦相手もさぞや恐ろしかったろう。
と、その時ソランの手から急に木刀が滑り落ちた、カラーンという音が無人の訓練所に響き渡った。
「えっ？」
驚くコンラッドの前でソランは兜もガチャリと落とし、がっくりと膝を折った、露わになった金の髪が地面に擦れる。
「ソ、ソランさん！？」
何事かと掛け寄ったコンラッドをソランは見上げる。
コンラッドは思わず足を止めた、蒼い瞳が粘着質な光を帯びている、まるで・・・あの時のような。
「私の・・・負けです」
唐突に、ソランが言った。
「どんなに技を磨いても、どれだけ体を鍛えても、貴方には勝てません」
そして、そのまま四つん這いで硬直しているコンラッドに近付き始める。
「貴方無しでは・・・生きられません」
言いながら、コンラッドの足元まで辿り着く。
「どうか・・・」
そして、ちゅ、とコンラッドの靴にキスをした。
「どうかこの哀れな牝に・・・慈悲を・・・お情けを・・・」
哀れを誘う様な声で這いつくばり、精一杯の媚を浮かべた目でコンラッドを見上げる。
「は・・・ぁ・・・はぁ・・・っ」
コンラッドは凄まじい興奮に包まれた、全身がぶるぶる震え、陰茎に猛烈な勢いで血液が集まり始める。
あの大会の日、この舞台の上で圧倒的強さを見せた人が、歓声を、栄光を、一身に受けていた人が、同じ舞台の上で自分に、自分如きに犬のような醜態を晒している。
「お願いします・・・どうか・・・どうかぁ・・・」
くんくんと鼻を鳴らさんばかりに媚を売り、脛にすりすりと頬を擦りつけてくる。
何という無様な姿だろう、あれ程凄まじい強さを見せつけた人物と同一人物とはとても思えない、しかし、その無様さがコンラッドの欲望に火を付ける。
それは普段のまぐわいの時に感じる愛情から来る欲情とは異質の興奮だった、支配欲、優越感、独占欲などの人として恥ずべきドス黒い欲望が混ざり合った溶岩のようなドロドロとした興奮だった。
コンラッドは興奮に震える声で言った。
「頼み方が・・・なってないね」
普段の謙虚なコンラッドからは想像もつかない台詞だった、それを聞いたソランが一層瞳を蕩かせながら言う。
「どうしたら・・・どうしたらいいのですかぁ・・・」
コンラッドは屈んで靴紐を解き、片足だけ素足になった。
「もっと丹念に「お願い」するんだ」
そう言って、その素足をソランの目の前に置き、踵を曲げて指先をソランに向けた。
ソランは飢えた犬のようにコンラッドの足の指にしゃぶりつき、陰茎にそうするように丹念で激しい奉仕を始めた、その間も主人のご機嫌を伺うような媚びた目でコンラッドの顔を見上げ続ける。
二人とも、無人の観客席から視線を感じるような錯覚を覚えた、目に見えない観客達にソランはコンラッドの所有物である、という事実を見せつけているような気分だった。
そうして暫くの間、コンラッドは漆黒の勇者のこの上なく惨めな姿をたっぷりと堪能した。
「よく頑張ったね・・・ご褒美だ」
そう言って陰茎を取り出すとソランは犬のように息を乱し、早速しゃぶりつこうとする。
「お預け」
しかし口に含もうとする寸前でとん、とコンラッドの人差し指が額に置かれ、ソランは口を開けたままぴたりと咥える寸前で止まる。
どうして？と目で訴えると、コンラッドは今まで誰にも見せた事のない、恐らく本人も今まで浮かべた事のない嗜虐的な笑みを浮かべていた。
それを見た瞬間ソランの背筋にぞわわっと鳥肌が立ち、股間の割れ目からはだくだくと白っぽい本気汁が垂れ始める。
「お預け」
コンラッドはもう一度言った。
ソランは初めての時の体験が性癖に影響したのか、口での奉仕を施すのが好きだった、それを承知した上での命令だった。
隆々と勃起した陰茎を目前に大きく口を開けたままソランはじっと「お預け」の解除を待った、知らずのうちにはしたなく股を開き、丁度犬の「ちんちん」のような姿勢になっている、まさしく飼い主の命令を待つ忠犬といった有様だ。
無意識の内に首を突き出し、口に迎え入れようという動作をしてしまい、また人差し指でくいっと頭を押し返される。
「待て」
また、犬にするように命令される。
ソランは待った、はあはあと熱い息を陰茎に吐きかけながら。
「待て」
開きっぱなしの口からだらだらと粘度の高い唾液・・・「おしゃぶり汁」が垂れ、黒い服を突きあげている巨大な乳房の上にぼたぼたと落ち、シミをつくる。
「待て」
目の淵に涙が溜まり始め、唾液まみれの舌が奉仕を待ち切れずにれろれろと卑猥に踊り始める。
「はい、よし」
人差し指が外された。
「あむぅぅんんんンンンじゅぷちゅじゅるぅぅぅ♪♪」
凄い音を立てながらソランはむしゃぶりついた。
「すご、いねっ、そんなに、っくっ、美味しい？」
凄まじい快感に必死に耐えながらコンラッドはなおも言葉で責める。
美味しいです、最高です、たまりません。
ソランは口で答えることができないので目で必死に訴えた。
「ぐぅぅぅぅっ・・・・！！！出す・・・よ！」
極限の興奮の中での激しすぎる奉仕に長時間耐えることなど不可能だった、コンラッドが宣言するとソランは舌を絡めながら口腔全体で肉棒を力一杯吸い上げた。
「んぢゅぢゅぢゅるるるるるぅ」
およそ人に聞かせられない下品な音を立て、口腔内が真空状態になる。
「っくぅぅぅぅぅ」
コンラッドはぎりぎりと歯を軋ませながらあらん限りの勢いで欲望をぶちまけた。
ソランはぽろぽろと涙をこぼしながら最高に美味なそれを喉を鳴らして飲み干していった、蕩けそうに幸せだった。
無論奉仕だけで済むはずがなく、その後ソランは対戦相手を打ちのめした舞台の上でコンラッドに散々に打ちのめされたのだ、この事は二人・・・いや、三人だけが知っている秘密だ（後で問いただすとやはりジュカの入れ知恵だった事が分かった）
用具室に気まずいような恥ずかしいような微妙な空気が流れる、コンラッドは頭を掻いて言った。
「ほんとあの時はすいませんでした・・・」
「い、いえ、誘ったのは私ですし・・・それにとてもその・・・凄かったですし、機会があったらまたああいうのも・・・」
「勘弁して下さい」
コンラッドはがっくりと項垂れて言った。
あの情事は確かに凄まじく気持ち良かったが、自分でも自覚していなかった黒い部分を発見してしまった気がして、その後数日間落ち込む羽目になったのだ。
そんなコンラッドを尻目に新しい快楽を知ったソランはいつかまたきっとあのシチュエーションを再現して「犬」にしてもらおう、と密かに決意していた。
「・・・ふう」
ソランは熱い息を吐き、自分の体に火が入り始めた事に気付いた、以前の激しい情事を思い出しているうちに気分が出てしまったらしい。
ソランは周囲の気配を探り、周辺に二人以外いない事を確認した後、暑そうにぱたぱたと手で顔をあおいだ。
コンラッドはその時点でソランの気持ちに気付いた。
この特に暑い訳でもないのに暑そうに顔を手であおぐという仕草は彼女のある種のサインだった。
ソランは生来の真面目さ故かサキュバスとなった後でも「誘う」のがとても苦手だった、以前のように事前にジュカに教えてもらっていたりすれば別だが、こういう二人きりの状態で自然に色っぽい雰囲気にもっていくという事がうまく出来ないのだ。
サキュバスなのにそれはどうなんだと本人も思わないでもないが苦手な物は苦手なのだ。
そこで彼女が頼るのが自らの恵まれた肉体だ、芸のない話だが何はともあれ女が脱げば男はその気になる。
つまり、暑くもないのに暑そうな振りをする、というのはその武器を披露する前振りのようなものだ。
ソランはコンラッドの視線を意識しながら、漆黒のマントを脱ぎ、その下のこれまた漆黒の戦闘服のボタンに手を掛け、胸元を開いて深い谷間を露わにするとそこにぱたぱたと風を送り始める。
コンラッドはそんな時いつも欲情を覚えると同時に微笑ましさを感じてしまう、さり気なさを装っているが、ソランは顔はおろか首から手の平まで真っ赤にしている、暑さが原因でない事は一目瞭然だ、そしてこちらを気にしてないふうに見せながら耐えきれないように時折ちらちらとこちらに視線を走らせる、そのいっぱいいっぱいな誘い方は何だかとても子供っぽさを感じさせて、色っぽいというよりやはり微笑ましい。
コンラッドは優しく笑うとそっとソランの頬に手を添えてこちらを向かせる、ソランはぱぁっと顔を輝かせる。
コンラッドは愛しさを込めてソランの唇にキスをした。
（よし！誘惑成功♪）
心中喝采を上げるソランはまさか顔をあおいだ時点で気持ちを察知されているなどとは夢にも思わない。
そっと互いに向かい合い、ゆっくりと口付けを深くしていく、まだ体はそんなに密着させていないが、前方に大きく突きだしているソランの乳房は先端がコンラッドの胸に触れている。
ソランはぷっくりと勃ち上がる乳首を服越しにコンラッドの胸板にすりすりと擦りつけはじめる、もう少しロマンチックなキスを堪能していたいのだがサキュバスの本能がより激しい交わりを求めてしまうのだ。
コンラッドは胸に感じる心地よい硬さと背中を撫で回すしなやかな手と背中に押し当てられる柔らかな感触に・・・？
ぎょっとして振り向くと、歪曲した空間から上半身だけ出したジュカがぴったりと背中にくっついていた。
キスを中断されてちょっと不機嫌な顔をしたソランもジュカに気付き、びっくりする。
ジュカはコンラッドの首筋にかぷ、と一噛み与えてからコンラッドの肩越しにソランを半目でじとーっと見る。
「いいなー、イイナー、私もドＳモードのコンラッドくんとしたいなー、私の助言のお陰で実現したシチュエーションなんだけどなー」
ソランは微妙に気まずげに目線を逸らす。
「その上またしても私抜きで始めようとしてるしねー？最近ソランにサービス偏ってる気がしないでもないなー」
コンラッドはぽりぽりと頭を掻く。
ジュカはむすーっと膨れるとコンラッドの背から離れてするりと全身を現した、外出からの帰りだったのか、あのサキュバスらしい色々と目のやり場に困る服装をしている。
ジュカはするすると空中を滑るように移動し、ソランの隣に腰を下ろした。
「ま、いいんだけどね、いつでも何処でも食べ放題なのはお互いの権利だし」
毎度思うのだがその食べ放題という表現はどうなんだろう、といつもコンラッドは思う、ソランはうんうん頷いているが。
「だけどね、その権利は二人に平等で有るべきだと思うの、片方だけのリクエストを聞くっていうのはフェアじゃないと思うの、うん、だから、その、つまり早い話あのシチュエーション私にもして欲しい訳なのよ」
地面に人差し指でぐりぐりとのの字を描きながらジュカは言う。
実はあの舞台上の情事はしっかりとジュカの透視魔法で観察されていたのだ、最もジュカの入れ知恵で始めたことなのでどこからか見られてはいるだろうと二人とも薄々思っていたが。
そこでの予想以上のコンラッドの豹変ぶりに感動し、これは是非自分も「犬」にしてもらうしかないと意気込んだのだが、コンラッドのいわゆる「ドＳモード」はかなり特殊な条件が重なった上でしか発生しないレアケースだという事が後日わかったのだ。
よってあの特殊な情事はソランしか体験していない、それがジュカの言う所のフェアじゃない部分らしい。
「・・・あの時は、私が前日に試合でいい所を見せた後で、なおかつその活躍を見せた舞台の上で媚を売るというシチュエーションが、強い私とはしたない私の・・・いわゆるギャップを最大限に感じさせ、コンラッド君の普段隠れている暗黒面に強く作用したんだと思います、それに類似した状況を作る事を考えてみては？」
「私、基本争いごと好きじゃないからなー、強さとかそういうの以外でギャップを感じさせるシチュエーションって・・・普段の私らしくない私って・・・んん？こうして考えると自分のキャラよくわかんなくなってきた」
コンラッドは勘弁してもらいたかった。
いや、自分の性癖について女の子に議論されるのは羞恥の極みだが、それより何より二人揃ってこうして自分の目の前に並ばれると、こう・・・眩しすぎるのだ。
結婚までしておいて何を今さら、と言われそうだが二人の美しさには多分一生かかっても飽きるどころか慣れる事もできなさそうなのだ。
方や男を魅了する魔物達の中でもさらに頭抜けた美貌と魔力を持ち合わせた、魔王の娘たるリリム。
方や「漆黒の勇者」と呼ばれ、その名に恥じぬ強さと並みの淫魔を凌駕する性的魅力に溢れたサキュバス。
一生分の運を使い果たしても片方ともつり合いが取れそうにない。
そんな二人がこうして並んで座っていると金髪と銀髪のコントラストも相まって物凄い絵になる、しかもその二人ともが自分の妻であり、そして二人して自分との性生活についてああだこうだと議論しているのだ、この事実にどうしても慣れない自分がいたりもする、
思い返してみると自分の人生でこんな風景に出くわすことになるなんてそれこそ夢にも思わなかった。
時折ふと、我に返ったように思う事があるのだ、本当にこれでよかったのだろうか？
人間時代の自分達から見ると今の自分達は魔道に堕ち、人である事すら辞め、堕落の道を歩んでいると言えるかもしれない、お世話になった人々に顔向けできないような生き方をしているのかもしれない。
しかしこうも思うのだ、あのまま教団の中で生きていたら自分達だけが絶対的な正義であると盲目的に信じる人間になっていなかっただろうか、魔物達の中にも愛が、友情が、正義が、思いやりがあるのだと気付けただろうか、そして何より・・・
コンラッドはソランを見た、何かをジュカと言い合い、くすくすと笑っている。
あのまま人間として生きていたら、ソランはあんな風に子供のような笑顔を浮かべる事はなかったように思う、人生だの正義だの色々難しい事は抜きにして、その一事だけでやっぱりこうなってよかったんだとコンラッドは思えるのだ。
「ねえ！聞いてる？そもそも君がやる気をだしてくれれば・・・」
物思いにふけっていたコンラッドにジュカが話を振る、急に話しかけられたコンラッドは慌てて言った。
「わ、わかったよ！わかりましたよ！あの時みたいな感じですればいいんだろう？」
「そうそうそう！」
「あのときみたいな感じで！」
コンラッドが了承したとたんにソランとジュカはしゅたっとコンラッドの前に並んで正座し、期待にきらきら輝く目でコンラッドを見上げる。
うわあこのアングル二人の谷間が凄い、とかいつのまにソランさんも加わる事に？とか頭をよぎったが、とにかく引くに引けない状態に陥ってしまったのでコンラッドは腹を決めて何とか演じる事にした。
「えー、それじゃあ、ふ、ふた、二人とも！ひ、ひざま、跪き、跪いて・・・！くだ、さい」
しーん
ああいけない既に跪いてるんだった、と、あまり重要でない所を反省しているコンラッドを見てソランは呆れ、ジュカはむくれる。
「もーいい」
「ジュカ？」
「どうせ苛めてくれないなら苛めてやる！」
正座していた姿勢から獣のごとくがばーっと飛びかかるジュカ、思わず逃げ出そうとするコンラッドの足を綺麗な水面蹴りで払うソラン。
ものの見事にひっくり返ったコンラッドを素早く取り押さえる二人の淫魔。
「どうして逃げられると思うかなぁ？」
「ふふ、責めるコンラッド君も最高ですが、責められるコンラッド君も最高です」
欲情を隠そうともしない二人に顔を覗きこまれ、引き攣った笑みを浮かべるコンラッド。
ソランはきっと幸せなんだと思う、そして自分は？と問われたならばそれこそ不幸などと言ったら罰が当たるだろう、しかし・・・
「んふふ、ずっと取っておいたコンラッド君の「はじめて」をついに貰う時が来たみたいだね・・・この尻尾で」
「あ、それいい、いいですそれ、私もやりたい」
「ちょちょちょちょ待って！待って下さい！それだけは！それだけはアッー」
しかし二人の上級淫魔を妻に持つという事はその・・・とても大変な事でもあるのだという事は分かってもらいたい、コンラッドは切に思うのだった。
魔王軍にしては珍しくちゃんとした訓練設備が整っており、日々軍に所属する魔物達が腕を磨いている。
コンラッドはその訓練所の用具室でやはり一人黙々と整備、点検を行っていた。
別に誰に頼まれた訳でもないのだが、何となく人間時代の習慣が抜けきらず、雑用などは進んでこなそうとしてしまうのだ。
一通りの仕事を終えた所でコンラッドはふと、何かを感じたように顔を上げた。
そのまま用具室の入り口にまで歩くと、空を見上げた。
時刻は夕暮れ時で空は茜色に染まっており、鳥の群れの一団が空を悠々と横切って行く。
ふいにその集団の中から一羽がすうっと群れを離れ、コンラッドの方に向かって飛んで来た。
遠くにいた時にはわからなかったが、近付くにつれ、それは鳥ではないことが分かってくる、それは黒いマントを纏った人だった。腰から生えている羽からサキュバスである事がわかる。
コンラッドは驚くでもなく、自分の方に降りてくるサキュバスを微笑みながら見ている。
サキュバスは燕のように宙を滑空し、ふわりとコンラッドの目の前に降り立った。
驚く事にかなりのスピードで降下してくる時も地面に降り立つ時にも風が吹く音以外ほぼ無音だった、相当に繊細な魔力のコントロールを行えなければ出来ない芸当だ。
地面に降り立ったサキュバスは、サキュバスにしては珍しいほど露出のない服装をしていた、肌どころか頭部にも顔の上半分を覆い隠し、サキュバスの角だけを露出するデザインの異様な兜を被っている、そして、マントも兜も何もかもが黒ずくめ。
敵対する者の目にはまさしく死の使いに映るだろう、現に彼女と遭遇した教団の騎士達はその姿を一目見た瞬間蛇に睨まれた蛙のごとく身が竦むのだという。
降り立った漆黒のサキュバスにコンラッドは言った。
「おかえりなさい」
サキュバスは兜に手を掛け、外した。
瞬間、輝く金の髪が溢れだすように広がり、周囲に甘やかな香りが広がる。
そのサキュバス・・・ソランは、風になびく長い髪をそっと撫でつけるとコンラッドに微笑み返した、人間であった頃から彼女の美貌は人並み外れていたが、人で無くなってからはそれに更に妖しさが加わり、文字通り人に在らざる域に達し始めている。
「ただいま」
二人は用具室に入り、壁に寄り掛かって地べたに座り込んだ。
「・・・いつも思うんですけど、どうして来るのが分かるんですか？」
「さあ・・・何となくです」
あらゆる技能に長けるソランは隠密行動も得意にしている、彼女の接近に気付けるのは熟練の戦士であっても一握りだろう。
しかしコンラッドにだけは何故か気付かれずに接近できた試しがない。
何度かちょっと背後から驚かせてやろうとこっそりと近付いたりしたこともあるが、何故か100％気付かれる。
そもそも今回など地上から見れば鳥と区別がつかないような遥か上空を飛行している時から察知されたのだ、もはや特殊能力のレベルである。
「まぁ、夫婦だからじゃないですか？」
「そ、そういうものでしょうか・・・？」
ソランは赤面する、結婚してからだいぶ経つというのに夫婦、妻、伴侶、などの単語には未だにソランは照れを感じるらしい。
「・・・」
「・・・」
それから暫く二人は黙り込んだ、用具室に二人で座り込んでいるこのシチュエーションに互いにふと、人間時代のことを思い出したのだ。
あの時もコンラッドは整備をしていて、ソランがそこを訪ねて・・・
「随分遠い昔みたいに感じますね」
「本当に・・・」
「でも、やっぱりソランさんは変わったけど変わってないと思います」
「？」
「ソランさんはやっぱり・・・勇者なんだと思います」
魔物になってから、二人は今まで知らなかった様々な事実を目の当たりにした、人の生活に当たり前のように寄り添って生きる魔物達、人間の夫婦と変わらない愛情を育む人間と魔物の夫婦、そして・・・粛清の名目で行われる敵意を持たない者に振るわれる理不尽な暴力、略奪・・・。
ひょっとしてそれは自分達が魔物の立場に立ったからそう見えるのかもしれない、あのまま教団の騎士の一員として生きていけば当然の事のように感じたのかもしれない。
しかし、どれだけ視点を変えて考えてみても教団の粛清は善なる行為とはかけ離れたものにしか二人の目には映らなかった。
そうしてソランは決意したのだ、かつての自分の出身と戦う事を。
ソランの事をずっと見て来たコンラッドにはそれがどれだけ重い決断であるかがわかった、それは今までの自分の生涯の全てを否定し、白紙に戻す行為であり、そしてかつての師や友に刃を向ける行為なのだ。
その姿にコンラッドはあの英雄譚の勇者を思い起こすのだ、自身の身を顧みず、弱き者のために戦うその姿に。
「私は・・・そんな大層な・・・」
照れてソランが呟く。
そこで二人は思わず顔を見合わせ、同時に吹き出してしまった。
ソランが昔全く同じ台詞を言ったのを思い出したのだ。
「ソランさん、あの頃よりもっともっと強くなりましたね」
「まあ、訓練は欠かしませんでしたから」
魔物になったソランはより増強された身体能力や新しい魔力にすぐに対応して見せ、たちまち魔王軍の中でも高い地位に昇り詰めたのだ、今はあのジュカにも引けを取らない実力を備えている。
「この間の大会でも・・・その・・・」
「・・・ええ、うん・・・ごほん」
この街では定期的にイベント的な意味合いも兼ねて剣術大会が行われている、訓練所に円形の舞台を設置し、即興の闘技場にして行われるその大会には魔王軍に所属する腕自慢の魔物達や、元傭兵、騎士などの経歴を持つその夫達、また、噂を聞きつけてやってきた経歴の分からない者達など、多くの者が参加し、大陸でも屈指のレベルの高さを誇っている。
ソランはごく最近行われたその大会で他を寄せ付けない強さで優勝をさらったのだ。
「・・・」
「・・・」
しかし、この大会の話題を口にすると二人は揃って真っ赤になって黙り込んでしまうのが常だった、何故ならこの大会には途轍もなく淫らな思い出が付加されているからだ。
その大会が終わった夜、コンラッドは一人訓練所に居た、次の日に撤去される舞台の姿をもう一目見ようと思って訪れたのだ。
「凄かったなぁ・・・」
コンラッドはソランの活躍を思い出していた、漆黒のマント姿で舞うように木刀を操り、対戦相手に全く付け入る隙を与えずに次々と打ち破り、優勝しても大きな喜びを現さず、あくまで謙虚に、かつ優雅に一礼し、割れんばかりの観客の声援に応えていた姿を。
自分は凄い人を妻にしているのだと改めて感じていた。
その時、ソランが訓練所に入ってきた。
「どうしたんですか？こんな所で」
「いや、明日に撤去されてしまうので、もう一目見たくて・・・」
「そうですか・・・ね、上がってみませんか？」
「えっ」
インキュバスになっても変わらず武術的才能に恵まれないコンラッドはもちろん大会にはエントリーせず、ずっと観客席で試合を観戦していたのだ、見ているしかできなかった舞台に上がってみるというのはちょっと心惹かれる。
「それじゃちょっと失礼して・・・」
コンラッドは舞台に上がって周囲を見回した、上から見ていた印象より大分広く感じる、それに・・・。
「うわあ、これは緊張するなぁ」
周囲をぐるりと観客席に囲まれている空間というのはコンラッドにとって新鮮だった、その観客席にぎっしりと人が詰め、この舞台に一斉に熱い視線を注いでいたのだと想像するとそれだけでもう体がカチカチになりそうに緊張してしまう。
やはり自分は何と言うか表舞台向きの体質じゃないなぁ、と苦笑していると、いつの間にかソランも舞台に上がり、丁度自分と向かい合うように立っていた。
「ソランさん？」
見てみるといつの間に持って来たのか木刀を手にし、兜まで装備している。
訝しむコンラッドを前にソランは微かに笑みを浮かべ、すうっと木刀を構えて見せる。
ああ成程、試合の様子を忠実に再現してくれているのだな、と理解した。
考えてみるとこうして正面から彼女の構えを見るのは初めてかもしれない、何処にも無駄な力の入っていない、そして隙のない構えは対峙しているだけでぞっとするほどの力の差を感じる、大会の対戦相手もさぞや恐ろしかったろう。
と、その時ソランの手から急に木刀が滑り落ちた、カラーンという音が無人の訓練所に響き渡った。
「えっ？」
驚くコンラッドの前でソランは兜もガチャリと落とし、がっくりと膝を折った、露わになった金の髪が地面に擦れる。
「ソ、ソランさん！？」
何事かと掛け寄ったコンラッドをソランは見上げる。
コンラッドは思わず足を止めた、蒼い瞳が粘着質な光を帯びている、まるで・・・あの時のような。
「私の・・・負けです」
唐突に、ソランが言った。
「どんなに技を磨いても、どれだけ体を鍛えても、貴方には勝てません」
そして、そのまま四つん這いで硬直しているコンラッドに近付き始める。
「貴方無しでは・・・生きられません」
言いながら、コンラッドの足元まで辿り着く。
「どうか・・・」
そして、ちゅ、とコンラッドの靴にキスをした。
「どうかこの哀れな牝に・・・慈悲を・・・お情けを・・・」
哀れを誘う様な声で這いつくばり、精一杯の媚を浮かべた目でコンラッドを見上げる。
「は・・・ぁ・・・はぁ・・・っ」
コンラッドは凄まじい興奮に包まれた、全身がぶるぶる震え、陰茎に猛烈な勢いで血液が集まり始める。
あの大会の日、この舞台の上で圧倒的強さを見せた人が、歓声を、栄光を、一身に受けていた人が、同じ舞台の上で自分に、自分如きに犬のような醜態を晒している。
「お願いします・・・どうか・・・どうかぁ・・・」
くんくんと鼻を鳴らさんばかりに媚を売り、脛にすりすりと頬を擦りつけてくる。
何という無様な姿だろう、あれ程凄まじい強さを見せつけた人物と同一人物とはとても思えない、しかし、その無様さがコンラッドの欲望に火を付ける。
それは普段のまぐわいの時に感じる愛情から来る欲情とは異質の興奮だった、支配欲、優越感、独占欲などの人として恥ずべきドス黒い欲望が混ざり合った溶岩のようなドロドロとした興奮だった。
コンラッドは興奮に震える声で言った。
「頼み方が・・・なってないね」
普段の謙虚なコンラッドからは想像もつかない台詞だった、それを聞いたソランが一層瞳を蕩かせながら言う。
「どうしたら・・・どうしたらいいのですかぁ・・・」
コンラッドは屈んで靴紐を解き、片足だけ素足になった。
「もっと丹念に「お願い」するんだ」
そう言って、その素足をソランの目の前に置き、踵を曲げて指先をソランに向けた。
ソランは飢えた犬のようにコンラッドの足の指にしゃぶりつき、陰茎にそうするように丹念で激しい奉仕を始めた、その間も主人のご機嫌を伺うような媚びた目でコンラッドの顔を見上げ続ける。
二人とも、無人の観客席から視線を感じるような錯覚を覚えた、目に見えない観客達にソランはコンラッドの所有物である、という事実を見せつけているような気分だった。
そうして暫くの間、コンラッドは漆黒の勇者のこの上なく惨めな姿をたっぷりと堪能した。
「よく頑張ったね・・・ご褒美だ」
そう言って陰茎を取り出すとソランは犬のように息を乱し、早速しゃぶりつこうとする。
「お預け」
しかし口に含もうとする寸前でとん、とコンラッドの人差し指が額に置かれ、ソランは口を開けたままぴたりと咥える寸前で止まる。
どうして？と目で訴えると、コンラッドは今まで誰にも見せた事のない、恐らく本人も今まで浮かべた事のない嗜虐的な笑みを浮かべていた。
それを見た瞬間ソランの背筋にぞわわっと鳥肌が立ち、股間の割れ目からはだくだくと白っぽい本気汁が垂れ始める。
「お預け」
コンラッドはもう一度言った。
ソランは初めての時の体験が性癖に影響したのか、口での奉仕を施すのが好きだった、それを承知した上での命令だった。
隆々と勃起した陰茎を目前に大きく口を開けたままソランはじっと「お預け」の解除を待った、知らずのうちにはしたなく股を開き、丁度犬の「ちんちん」のような姿勢になっている、まさしく飼い主の命令を待つ忠犬といった有様だ。
無意識の内に首を突き出し、口に迎え入れようという動作をしてしまい、また人差し指でくいっと頭を押し返される。
「待て」
また、犬にするように命令される。
ソランは待った、はあはあと熱い息を陰茎に吐きかけながら。
「待て」
開きっぱなしの口からだらだらと粘度の高い唾液・・・「おしゃぶり汁」が垂れ、黒い服を突きあげている巨大な乳房の上にぼたぼたと落ち、シミをつくる。
「待て」
目の淵に涙が溜まり始め、唾液まみれの舌が奉仕を待ち切れずにれろれろと卑猥に踊り始める。
「はい、よし」
人差し指が外された。
「あむぅぅんんんンンンじゅぷちゅじゅるぅぅぅ♪♪」
凄い音を立てながらソランはむしゃぶりついた。
「すご、いねっ、そんなに、っくっ、美味しい？」
凄まじい快感に必死に耐えながらコンラッドはなおも言葉で責める。
美味しいです、最高です、たまりません。
ソランは口で答えることができないので目で必死に訴えた。
「ぐぅぅぅぅっ・・・・！！！出す・・・よ！」
極限の興奮の中での激しすぎる奉仕に長時間耐えることなど不可能だった、コンラッドが宣言するとソランは舌を絡めながら口腔全体で肉棒を力一杯吸い上げた。
「んぢゅぢゅぢゅるるるるるぅ」
およそ人に聞かせられない下品な音を立て、口腔内が真空状態になる。
「っくぅぅぅぅぅ」
コンラッドはぎりぎりと歯を軋ませながらあらん限りの勢いで欲望をぶちまけた。
ソランはぽろぽろと涙をこぼしながら最高に美味なそれを喉を鳴らして飲み干していった、蕩けそうに幸せだった。
無論奉仕だけで済むはずがなく、その後ソランは対戦相手を打ちのめした舞台の上でコンラッドに散々に打ちのめされたのだ、この事は二人・・・いや、三人だけが知っている秘密だ（後で問いただすとやはりジュカの入れ知恵だった事が分かった）
用具室に気まずいような恥ずかしいような微妙な空気が流れる、コンラッドは頭を掻いて言った。
「ほんとあの時はすいませんでした・・・」
「い、いえ、誘ったのは私ですし・・・それにとてもその・・・凄かったですし、機会があったらまたああいうのも・・・」
「勘弁して下さい」
コンラッドはがっくりと項垂れて言った。
あの情事は確かに凄まじく気持ち良かったが、自分でも自覚していなかった黒い部分を発見してしまった気がして、その後数日間落ち込む羽目になったのだ。
そんなコンラッドを尻目に新しい快楽を知ったソランはいつかまたきっとあのシチュエーションを再現して「犬」にしてもらおう、と密かに決意していた。
「・・・ふう」
ソランは熱い息を吐き、自分の体に火が入り始めた事に気付いた、以前の激しい情事を思い出しているうちに気分が出てしまったらしい。
ソランは周囲の気配を探り、周辺に二人以外いない事を確認した後、暑そうにぱたぱたと手で顔をあおいだ。
コンラッドはその時点でソランの気持ちに気付いた。
この特に暑い訳でもないのに暑そうに顔を手であおぐという仕草は彼女のある種のサインだった。
ソランは生来の真面目さ故かサキュバスとなった後でも「誘う」のがとても苦手だった、以前のように事前にジュカに教えてもらっていたりすれば別だが、こういう二人きりの状態で自然に色っぽい雰囲気にもっていくという事がうまく出来ないのだ。
サキュバスなのにそれはどうなんだと本人も思わないでもないが苦手な物は苦手なのだ。
そこで彼女が頼るのが自らの恵まれた肉体だ、芸のない話だが何はともあれ女が脱げば男はその気になる。
つまり、暑くもないのに暑そうな振りをする、というのはその武器を披露する前振りのようなものだ。
ソランはコンラッドの視線を意識しながら、漆黒のマントを脱ぎ、その下のこれまた漆黒の戦闘服のボタンに手を掛け、胸元を開いて深い谷間を露わにするとそこにぱたぱたと風を送り始める。
コンラッドはそんな時いつも欲情を覚えると同時に微笑ましさを感じてしまう、さり気なさを装っているが、ソランは顔はおろか首から手の平まで真っ赤にしている、暑さが原因でない事は一目瞭然だ、そしてこちらを気にしてないふうに見せながら耐えきれないように時折ちらちらとこちらに視線を走らせる、そのいっぱいいっぱいな誘い方は何だかとても子供っぽさを感じさせて、色っぽいというよりやはり微笑ましい。
コンラッドは優しく笑うとそっとソランの頬に手を添えてこちらを向かせる、ソランはぱぁっと顔を輝かせる。
コンラッドは愛しさを込めてソランの唇にキスをした。
（よし！誘惑成功♪）
心中喝采を上げるソランはまさか顔をあおいだ時点で気持ちを察知されているなどとは夢にも思わない。
そっと互いに向かい合い、ゆっくりと口付けを深くしていく、まだ体はそんなに密着させていないが、前方に大きく突きだしているソランの乳房は先端がコンラッドの胸に触れている。
ソランはぷっくりと勃ち上がる乳首を服越しにコンラッドの胸板にすりすりと擦りつけはじめる、もう少しロマンチックなキスを堪能していたいのだがサキュバスの本能がより激しい交わりを求めてしまうのだ。
コンラッドは胸に感じる心地よい硬さと背中を撫で回すしなやかな手と背中に押し当てられる柔らかな感触に・・・？
ぎょっとして振り向くと、歪曲した空間から上半身だけ出したジュカがぴったりと背中にくっついていた。
キスを中断されてちょっと不機嫌な顔をしたソランもジュカに気付き、びっくりする。
ジュカはコンラッドの首筋にかぷ、と一噛み与えてからコンラッドの肩越しにソランを半目でじとーっと見る。
「いいなー、イイナー、私もドＳモードのコンラッドくんとしたいなー、私の助言のお陰で実現したシチュエーションなんだけどなー」
ソランは微妙に気まずげに目線を逸らす。
「その上またしても私抜きで始めようとしてるしねー？最近ソランにサービス偏ってる気がしないでもないなー」
コンラッドはぽりぽりと頭を掻く。
ジュカはむすーっと膨れるとコンラッドの背から離れてするりと全身を現した、外出からの帰りだったのか、あのサキュバスらしい色々と目のやり場に困る服装をしている。
ジュカはするすると空中を滑るように移動し、ソランの隣に腰を下ろした。
「ま、いいんだけどね、いつでも何処でも食べ放題なのはお互いの権利だし」
毎度思うのだがその食べ放題という表現はどうなんだろう、といつもコンラッドは思う、ソランはうんうん頷いているが。
「だけどね、その権利は二人に平等で有るべきだと思うの、片方だけのリクエストを聞くっていうのはフェアじゃないと思うの、うん、だから、その、つまり早い話あのシチュエーション私にもして欲しい訳なのよ」
地面に人差し指でぐりぐりとのの字を描きながらジュカは言う。
実はあの舞台上の情事はしっかりとジュカの透視魔法で観察されていたのだ、最もジュカの入れ知恵で始めたことなのでどこからか見られてはいるだろうと二人とも薄々思っていたが。
そこでの予想以上のコンラッドの豹変ぶりに感動し、これは是非自分も「犬」にしてもらうしかないと意気込んだのだが、コンラッドのいわゆる「ドＳモード」はかなり特殊な条件が重なった上でしか発生しないレアケースだという事が後日わかったのだ。
よってあの特殊な情事はソランしか体験していない、それがジュカの言う所のフェアじゃない部分らしい。
「・・・あの時は、私が前日に試合でいい所を見せた後で、なおかつその活躍を見せた舞台の上で媚を売るというシチュエーションが、強い私とはしたない私の・・・いわゆるギャップを最大限に感じさせ、コンラッド君の普段隠れている暗黒面に強く作用したんだと思います、それに類似した状況を作る事を考えてみては？」
「私、基本争いごと好きじゃないからなー、強さとかそういうの以外でギャップを感じさせるシチュエーションって・・・普段の私らしくない私って・・・んん？こうして考えると自分のキャラよくわかんなくなってきた」
コンラッドは勘弁してもらいたかった。
いや、自分の性癖について女の子に議論されるのは羞恥の極みだが、それより何より二人揃ってこうして自分の目の前に並ばれると、こう・・・眩しすぎるのだ。
結婚までしておいて何を今さら、と言われそうだが二人の美しさには多分一生かかっても飽きるどころか慣れる事もできなさそうなのだ。
方や男を魅了する魔物達の中でもさらに頭抜けた美貌と魔力を持ち合わせた、魔王の娘たるリリム。
方や「漆黒の勇者」と呼ばれ、その名に恥じぬ強さと並みの淫魔を凌駕する性的魅力に溢れたサキュバス。
一生分の運を使い果たしても片方ともつり合いが取れそうにない。
そんな二人がこうして並んで座っていると金髪と銀髪のコントラストも相まって物凄い絵になる、しかもその二人ともが自分の妻であり、そして二人して自分との性生活についてああだこうだと議論しているのだ、この事実にどうしても慣れない自分がいたりもする、
思い返してみると自分の人生でこんな風景に出くわすことになるなんてそれこそ夢にも思わなかった。
時折ふと、我に返ったように思う事があるのだ、本当にこれでよかったのだろうか？
人間時代の自分達から見ると今の自分達は魔道に堕ち、人である事すら辞め、堕落の道を歩んでいると言えるかもしれない、お世話になった人々に顔向けできないような生き方をしているのかもしれない。
しかしこうも思うのだ、あのまま教団の中で生きていたら自分達だけが絶対的な正義であると盲目的に信じる人間になっていなかっただろうか、魔物達の中にも愛が、友情が、正義が、思いやりがあるのだと気付けただろうか、そして何より・・・
コンラッドはソランを見た、何かをジュカと言い合い、くすくすと笑っている。
あのまま人間として生きていたら、ソランはあんな風に子供のような笑顔を浮かべる事はなかったように思う、人生だの正義だの色々難しい事は抜きにして、その一事だけでやっぱりこうなってよかったんだとコンラッドは思えるのだ。
「ねえ！聞いてる？そもそも君がやる気をだしてくれれば・・・」
物思いにふけっていたコンラッドにジュカが話を振る、急に話しかけられたコンラッドは慌てて言った。
「わ、わかったよ！わかりましたよ！あの時みたいな感じですればいいんだろう？」
「そうそうそう！」
「あのときみたいな感じで！」
コンラッドが了承したとたんにソランとジュカはしゅたっとコンラッドの前に並んで正座し、期待にきらきら輝く目でコンラッドを見上げる。
うわあこのアングル二人の谷間が凄い、とかいつのまにソランさんも加わる事に？とか頭をよぎったが、とにかく引くに引けない状態に陥ってしまったのでコンラッドは腹を決めて何とか演じる事にした。
「えー、それじゃあ、ふ、ふた、二人とも！ひ、ひざま、跪き、跪いて・・・！くだ、さい」
しーん
ああいけない既に跪いてるんだった、と、あまり重要でない所を反省しているコンラッドを見てソランは呆れ、ジュカはむくれる。
「もーいい」
「ジュカ？」
「どうせ苛めてくれないなら苛めてやる！」
正座していた姿勢から獣のごとくがばーっと飛びかかるジュカ、思わず逃げ出そうとするコンラッドの足を綺麗な水面蹴りで払うソラン。
ものの見事にひっくり返ったコンラッドを素早く取り押さえる二人の淫魔。
「どうして逃げられると思うかなぁ？」
「ふふ、責めるコンラッド君も最高ですが、責められるコンラッド君も最高です」
欲情を隠そうともしない二人に顔を覗きこまれ、引き攣った笑みを浮かべるコンラッド。
ソランはきっと幸せなんだと思う、そして自分は？と問われたならばそれこそ不幸などと言ったら罰が当たるだろう、しかし・・・
「んふふ、ずっと取っておいたコンラッド君の「はじめて」をついに貰う時が来たみたいだね・・・この尻尾で」
「あ、それいい、いいですそれ、私もやりたい」
「ちょちょちょちょ待って！待って下さい！それだけは！それだけはアッー」
しかし二人の上級淫魔を妻に持つという事はその・・・とても大変な事でもあるのだという事は分かってもらいたい、コンラッドは切に思うのだった。
11/06/08 01:46更新 / 雑兵
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