清流は闇色に澄み渡り
蒼い笑顔がコペルを見つめる。
普段は温厚な顔をしているが、今のルフューイの顔はまさしく獲物を狙う魔物の表情だった。
コペルはしかし物怖じばかりしていられないと思った。
彼女が自分に欲望を向けるのと同じく自分だって彼女達に欲望を抱いている、それを伝えたい。
コペルは手を広げると改めてルフューイをその腕の中に抱き締めた。
その身体の感触は人間では有り得ない柔らかさを伝えて来る、しかしやはり女性を感じさせる感触だ。
「あっ……」
ルフューイはうっとりとした息を吐くと目を細めてコペルの肩に頬を擦り付ける。
手を後頭部に回して髪をすくと指の間をサラサラと清流が流れる感触がする、川の流れに指を浸しているような感覚だ。
「んふふ、コペルさんやりますね……ここに来てロマンチックな感じにしちゃうなんて」
コペル自身はロマンチックもへったくれも知らないが、どうやらルフューイにとってはそう感じる抱擁だったらしい。
不思議な感触のその身体を浴槽の底に横たえると、顔の両脇に手を突いて見つめ合う。
ルフューイがそっと目を閉じると、コペルはその頬に手を添えて唇を触れ合わせる。
「ちゅっ」
軽く触れた所で一度顔を離してまた視線を交わす。
するとルフューイは照れたように視線を逸らす、それを追いかけるようにまた口づける。
キスをしながら体のラインを確かめるように胸からウエストにまで大きな手で触れていき、そっと両手で足を押し開く。
「ああっ……」
ルフューイは多分に恥じらいの成分を含んだ期待の声を上げる。
さっきまで魔物らしくいけいけな気分だったのだが、コペルの真面目(?)な愛撫に乙女心を刺激されてしまったようだ。
「キスを……」
「……え?はい……?」
声をかけられて見てみるとコペルが微妙に情けない表情になっていた。
「その……キスをしながら入れたいんだが……できないな……」
一瞬何の事かわからなかったが、どうやら身長が違う為挿入時にキスできないのが不満らしい。不満気な顔が子供っぽくて思わずルフューイは笑顔になってしまう。
「ふふっ大丈夫ですよ、ちゃんとキスしながらできますから」
「?」
どう言う事か、と思う間もなく背後に柔らかな重みと優しい匂いを感じた。
「イ、イェンダさ……」
言い切る前に頬に手が添えられて顔が横向きにされ、柔らかな唇が重ねられた。
薄目を開けた悪戯気なイェンダの表情が目に入る。
キスをしながらしたいとは言ったがこれは違う、無論、そんな事二人はわかってはいるだろう。
しかし異なる感触の柔らかな肢体にサンドイッチされるともはや些細な事はどうでもよくなってしまう。
余りの心地よさにコペルの身体から力が抜けた瞬間、くい、とイェンダが腹でコペルの尻を押した。
「っっあっ……」
ルフューイが切なげな表情になる、コペルの先端がルフューイの入口に侵入したのだ。
物理的な話をするならばルフューイで満たされた風呂に入った時点で身体の中への侵入は既に果たしている事になる。
しかしこうして人間形態の状態で挿入すると全く感覚が違う、そしてイェンダの感触ともまた違う。
快楽と興奮を与えると同時にまるで海の中にいるような不思議な安らぎを覚える。
蕩けそうな快感を下半身に与えられながらもイェンダの舌使いに翻弄される、揺り籠に揺られるようなリズムでゆらゆらと三人の身体が揺れる。
激しくはない動きだがゆっくりゆっくりと快楽が蓄積していく。
「ん……んん……んっ……」
「あっ……んぁっ……あぁっ……」
浴室に静かな声が響く、先程とは違う穏やかで静かな交わり、しかし快楽の総量が下回っている訳ではない。
器に静かに静かに水を満たしていき、表面張力の限界まで注いでいくような高まり、激しく動いて零れてしまわないように。
「ううん……くぅぅん……」
「ちゅっ」
イェンダがペースを調整するようにコペルの腰の動きをコントロールする、コペルとしては任せきりにするのは忍びないのだがどうにも心地良すぎて身体に力が入らない。
ただただ波間にたゆとうように身を任せるしかない。
「……っっ!!」
その時も穏やかに訪れた。
限界まで注がれた水がとうとう堪え切れずに縁から零れるように、とぷん、と。
魔物にとっての最高のご馳走がルフューイの中に注がれた。
「はぁっっ………」
「…………っっ!」
溜息のような嬌声が二人の口から漏れた。
爆発的な快楽ではなく、じんわりと全身に広がる波のような快楽。そしてそれは。
とぷん……とぷん……とぷん……とぷん……
止まらない。
「あ、あぁっ、うぁっ、な、何で……!」
普通の射精は一瞬、長くても数秒も続かないもの、ところがその射精は数十秒もの間長々と続く。
当然、普通の射精なら一瞬で終わる筈の快楽も延々と引き延ばされて感じさせられる。
今まで感じた事もないような感覚に思わず腰を引こうとしたがそれはしっかりと足を回したルフューイも上からコペルに覆い被さるイェンダも許さない。
もがくコペルをしっかり固定し、ルフューイの中に形成された女性器の一番奥にキスをした状態を維持させられる。
とぷん……とぷん……とぷん……とぷん……
「あ……あぁ……うぁぁ……」
コペルはもはやそのずっと続く射精に身を委ねるしかなかった、大きく形成されたルフューイの胸の谷間に顔を埋めて声を漏らし続ける。
「ふっ……ふぅっ……ぅふぅんっ……」
ルフューイはぐぐっと全身を仰け反らせてより深くコペルを受け入れ、大きく目を見開いて喉から微かな嬌声を漏らし続ける。
イェンダはびくびくと震えて快楽を享受するコペルの髪を「いいこいいこ」と言うように愛おしげに撫でる。
終わりそうで終わらない射精は長々と続き、コペルはひたすらにルフューイの柔らかな身体にしがみつき続けた、無意識に自分の腰がぐりぐりと押し付ける動きをする事に自分の中の雄の本能を感じて驚いた。
とぷん……とぷん……とぷ…………
やがて永遠に思えた射精がようやく終わった、終わったはずなのだが……。
「くううっ……!」
快楽は終わらない、射精中と殆ど変らない快感をルフューイの膣が与え続けているのだ。穏やかで緩やかな快楽がずっとフラットな状態で維持される。
しかし射精が終わった事で納得したのか、ようやく二人はその柔らかな檻の中からコペルを解放する。
イェンダがそっと髪をかき上げながら身体をどけると二人の粘液にまみれてぐったりとルフューイの肢体の上に横たわるコペルが現れた。
解放された事に気付いたコペルはどうにか身体を起こし、視線を下ろして目を見開いた。
ルフューイの半透明の身体の中に侵入している自分の陰茎、その先に白い塊が出来ているのだ、生々しく蠕動する子宮の中に収まっている様子がありありと伺える。
思わず喉を鳴らす、まさしくこの身体に種付けしたのだという不思議な高揚感を感じる。
と、コペルがぼんやりしていると背後からイェンダが胸に手を回し、ぐいっと後ろに引っ張った。
ぐぽん
「あんっ」
「あぐっ」
深々と突き刺さっていた陰茎が引き抜かれ、二人は思わず声を上げる。
そのまま介護をするように横たえると、スムーズにコペルの上に跨り、腰を下ろす。
にゅぷぷぅ……
「えっ?まっ待って、イェンダさ……!」
一連の動作が余りに自然に行われたので抵抗の間もなかった。外気に触れるのもそこそこにまた陰茎は柔らかな女の肉に包まれる。
「さ……私にも下さい……あれと、同じくらい……」
イェンダは魔物らしい艶やかな笑みを浮かべて言う、「あれ」というのはどうやらルフューイの腹に透けて見える自分の精液の事らしい。
「ま……待っ……」
「ちゅうっ」
何かを言う前に今度はルフューイがコペルの口を塞ぐ。
イェンダは先程と同じ波に揺られるような穏やかなリズムで腰を動かし始める。
「ん……んっ……んんぅ……んっ……」
押し殺すような声を上げて身体を揺らすイェンダ、くちゅくちゅと口腔内を掻きまわすルフューイ。
そのルフューイの目はこれが終わったらまた自分に注いでもらえるという期待に輝いている。
コペルはまともな思考もままならないまま、またたゆとうような快楽に呑まれて行った。
・
・
・
「……親父、お袋、こっちは色々な事があった……本当に……」
コペルは丘の上で両親の墓の前に立って言った。
青々と茂るジャガイモ畑は今日もこの地方特有の豊かな日差しを受けて輝いている、そこから吹いて来る風がコペルの頬を撫でる。
「一概には言えないが……全体に、いい方に向かっているんじゃないかと思う、しかしまあ、これからだ」
そう、これからだ。
親魔物派になった事でこれから全てのものがどんどん変化していく、農家であるコペルは自然環境の変化に対応していかなくてはならない。
特に自分は街の特産品を担っているのだから責任は人一倍重大だといえる。
最も、それはコペルにとっては嬉しい事でもある。
「親父達が残したこの品種はもっともっと良くなる……見ていてくれ」
その顔には自信が表れていた、伊達に親の亡き後たった一人で品種を支えてきた訳ではない。
「それと、その、これは予想しなかった事なんだが……どうやら俺に嫁いでくれる奇特な人がいて……それがその……一人、ではないんだ……」
コペルが頬を掻きながら言うと、後ろに控えていたイェンダとルフューイがコペルの両隣に並び立った。
「お袋は怒るかもしれないが……この二人共が俺に嫁いでくれる事になった……誓って言うが、いい加減な気持ちで言っているんじゃない、俺はこの二人の事をどちらとも大切に思っているし、結婚するからには幸せにするつもりだ」
コペルは淀みのない口調ではっきりとそう言った。
その言葉の後イェンダが墓前に一歩進み出て花を一束供えた。同時にそっと膝まづき、目を閉じる。
何も言葉は発しなかった、ただ墓に首を垂れて彫像のようにじっと祈りを捧げた、微かに口元で何かを話しているようにも見える。
静かな時が過ぎ、やがてイェンダは顔を上げて墓前から離れた。
その後に続いてルフューイが墓前に進み出て同じく花を供えた。
「はじめまして……ルフューイと申します……」
こちらは言葉を発して墓に語り掛けた。
「至らない所もあるとは思いますが……コペルさんは私達が頑張って幸せにします……どうか、見守っていて下さい」
真摯に語りかける。
「私達は魔物ですので、お孫さんを授かるのは中々だと思います……ですが、心配なさらないで下さい」
その背後でイェンダが「あ、駄目だ」という表情になる。
ルフューイはそっと下腹部に手を当てて妖艶に微笑んで言う。
「毎晩毎晩……たっぷりと注いでもらってますので遠くない内にきっと」
すぱーん!
言い終わる前にイェンダが無表情のまま素早くルフューイの後頭部をはたいて引っ立てて行った。慌ててコペルが代わって墓前に立つ。
「ああと……まあ、そう言う事だ、だからその、家系の血筋の事も多分まあ、その、うん、解決……すると思う、うん、それじゃあ、また」
しどろもどろに言うと二人の後を追って行った。
「んもぅ、ご両親にコペルさんの頑張りを見せて差し上げようと思ったのにぃ……」
そう言うとルフューイはそっと下腹部を撫でて見せる。
すると撫でた箇所がぼやっと透過され、今朝絞り取ったコペルの白い精が子宮の形に浮かび上がった。
「……見せなくていい……」
コペルがぐったりと言うとルフューイは「てへ♪」と笑って元に戻す。
魔精霊から闇精霊へと変わったルフューイは飛躍的に能力が向上した、しかしその代償と言ってはなんだが以前よりも性的な意味で貪欲になった模様だ。
「……」
さわわっ
「!?」
急に尻に感じた感触に驚いて隣を見てみると、イェンダがジト目でこっちを見ていた。
「い、イェンダさ……」
「……」
さわさわ
無言でコペルの尻をその白魚のような手で撫で続けるイェンダ。
実は今朝ルフューイに絞られた事を彼女は今初めて知った。ずるい、という抗議らしい。
「わ、わかった、後で……この後で……」
「……」
そう言うとイェンダは表情を和らげた。
さすさす
しかし手は止めてくれない。
どうも彼女もルフューイの闇化に伴って自分を求めてくる回数が増えているようだ。
この分だと本当に遠くないうちに孫ができそうだ。
(……頑張らなくては……色々と……)
イェンダと便乗したルフューイの二人に尻を撫でられながらコペルは心を新たにする。
とりあえずは帰ってから二人の時間を取って妻の機嫌を直さなくては……。
「……ごくっ」
コペルは思わず隣を歩く妻の美しい肢体を横目に見る、何度味わっても慣れることのない妻の身体を。
闇化によって性欲が増大しているのは何も妻達に限った話ではないらしい。
コペルは若干前屈みになりながら帰り道を急ぐのだった。
13/07/21 07:29更新 / 雑兵
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