変貌編
彼女の部屋で、彼女のベッドの上で、彼女を押し倒す。
憧れのシチュエーションと言える。
しかも、ずっと焦がれ続けた大好きな女の子と。
しかしこれがただの恋人同士の交わりでない事はわかる。
ベッドに折り重なる二人を見守るように覗き込むのは着物姿の異様な女。
その女から伝わる、喜悦の感情。
これは契約。
菊池雅史がタネコヒさまのものとなり、その生涯の全てを捧げる契約。
だが菊池の心持ちは違う、これは善治に全てを捧げる契約。
仰向けに押し倒された善治ははだけられた乳房を今更のように恥ずかしがって手で隠す。
その肩を抱いて、菊池は善治にキスをした。
あの石碑の前でされた衝動的なキスから、二度目のキス。
菊池の方からする初めてのキス。
羞恥に潤んでいた善治の目がとろん、と蕩け、胸を隠していた両手が解かれて菊池の背中に回される。
リップを塗っている訳でもないのにツヤツヤした唇の弾力を感じながら、菊池は改めて善治の小ささを実感していた。
それ程大柄でもない菊池に乗られただけで、その小さな体はまるで抵抗できなそうに見える。
その事実に加虐的な興奮を感じずにいられない。
「ちゅぷ、ちゅるる」
初々しい唇のついばみ合いもそこそこに、また善治の舌が侵入を求めて来る。
組み伏せられているというのに積極的な善治に興奮しつつ、舌を絡め返す。
ぬるん、ぬるぬりゅにゅぷちゅぷねろにゅぷ
二匹の蛇が絡みあうような口腔内、小ぶりであるに関わらず善治の舌は縦横無尽に菊池を翻弄する。
すりっ すりっ
そして体勢的に苦しいだろうに、菊池の身体の下から腰を振り、種を乞う。
はやく欲しい、ここに欲しい、と健気に訴えかけてくる。
男だったら、牡だったら、応えざるを得ない。
息を荒げながら菊池はズボンを脱ぎ散らかす。それを見ながら善治も下を脱ぎ、一糸纏わぬ姿になる。
ふう、ふう、ふう、ふう、
部屋に、発情しきった牡と雌の息遣いが響く。
タネコヒさまが見守る。
善治は男を誘惑するためにはしたなく発育させられてしまった身体を横たえ、足を開く。
受け入れるため、女として最も無防備な姿を晒す。
「ふぅーっふぅーっふぅーっ」
物を言う事もできない程理性を失くした菊池が覆いかぶさる。
開かれた足の間にあるぬらぬらと濡れて光る場所に、自分の信じられないほど隆起した陰茎に手を添えて狙いを定める。
興奮で手が震えてうまくいかない。
その菊池の手に小さな手が添えられる。
善治の手も震えている、怖いからではない、菊池と同じ、興奮で震えている。
震える二人の手で、ヒクつく無毛の雌に狙いが定められる。
もう片方の善治の手が、自らの雌に伸びる。
くちゃぁ
粘着質な音を立てて、その割れ目を開く。
目に鮮やかな濃いピンク色まで露わになる。
善治の「女」そのもの。
先端をあてがわれただけで、うねうねと奥に引き込もうと処女らしからぬ蠕動を見せる女。
ひゅうひゅうと興奮で掠れる息を吐きながら、それに向けて腰を突き出す。
み゛ちゅぅ
儚い抵抗が破られ、善治の初めては散った。
本来ならば相応の痛みを伴うはずのそれは、余りに甘美で生々しく……。
「あ゛っ……ごっ……!」
「ひゅぐっ……んぃっ……!」
獣じみた二人の声が上がる。
甘い風が吹く。
お隠しが風で捲られ、タネコヒさまの口元が覗く。
口角が吊り上がっている、タネコヒさまは、笑っている。
・
・
・
「洋介(ようすけ)さんは?」
「こんな感じ」
「あら、まあ」
和室からリビングに移動してきた房江はソファーで赤い顔をしていびきを立てている婿を見て破顔する。
「無理も無いかしら、一人娘ですものね」
「私としては……ごめんなさい、こんな言い方をしてはいけないかもしれないけど、嬉しいんです……」
君江は夫の髪を撫でながら言う。
孫娘に憑いたものを祓えなかったという無念を、母が抱いているであろうとわかった上で言った。
「いいのよ、気持ちはわかるわ」
ソファーに腰を下ろし、房江も同意する。
確かに祓う者としては孫娘を救えなかった事は大きい、しかし、それでも母と娘の想いは同じだった。
房江は君江が生まれた時、娘にその力が受け継がれていない事を喜んだ。
無論、表面には出さなかったが喜んだ。
この子は普通に生きていける、普通に幸せになれる。
自分のように力に縛られ、生まれながらの重責を背負って生きなくてよいのだ。
それを心から嬉しく思った。
君江も、母が自分に力の無い事を喜んでいるというのは薄々気付いていた。
始めは何故なのか分からなかったが、自分に娘が出来てその気持ちが理解できた。
そう、大半の親が子に望むのは常に「普通の幸せ」なのだ。
普通に成長して、普通に仕事をして、普通に結婚して……。
そんな姿を望む。
力を持って生まれてしまったがため、依江は生まれながらにその権利を剥奪されてしまっているのだ。
だから……。
「お父さんは認めないと思うけど……娘は見る目があると思います」
「そうね、それは私が保証するわ」
「鈍いですけどね」
「そうね、鈍いわね」
・
・
・
善治の部屋には家族写真が一枚ある。
真っ青な海と砂浜を背景にした写真。
父の仕事の関係で中々旅行に行く機会に恵まれない、と聞いた覚えがあるので貴重な家族旅行の思い出なのだろう。
笑顔の両親に挟まれてワンピースにサンダル姿の善治が立っている。
カメラに慣れていないのか、少しぎこちない笑顔で立つ善治は小学生くらいだろうか。
こうして部屋に飾っているという事はやっぱり善治にとっても特別と言う事だ。
ドビュグッッ!!
余りの快楽に顔を上げた菊池が射精の瞬間目にしたのがその家族写真だった。
明らかに今までの生涯で最大級の射精感に痺れる脳内に善治の家族……お父さん、お母さん、おばあちゃんの姿がフラッシュバックする。
それに続いて学校で見て来た制服姿の善治、霊障の悩みに応じてくれる善治、霊を祓う時の神仏のような善治、一緒に旅をした善治の姿が、閃光のように脳裏を駆け巡る。
「あ゛っ……かはっ……」
喘ぎながら視線を写真から下に戻すと、ぷるぷると白いプリンみたいに震える乳房が見え、その上に善治の顔が見える。
「か、ぉぉ、ぉ……」
涙を零しながら、口をぱくぱくさせて押し殺された嬌声を上げている。
その顔を見ながら、貪欲に貪る膣に無遠慮に牡の種を巻き散らす。
ドグンッ ドグンッ ドグンッ ドグンッ
脈動の度に、脳が焼き切れそうな快楽が走る。
小柄な善治を気遣う事もできず、思い切り腰を押し付けるような体位を取ってしまう。
この雌の一番奥に射精したい、という本能がそうさせる。
「ふ、ふっ、ふぅぅっ……!たね、た、ね、きくち、くん、の、たねぇ……」
喘ぎながら、息も絶え絶えに善治が言う。
「ぐぅぅぅっ!」
その言葉に、菊池の中の獣が吠える。
射精しながらも腰を引き、今一度思い切り善治の奥に突き込む。
溢れる白濁を、小さな子宮に押し込む。
「うぎゅっ」
と、潰されたような悲鳴を上げて善治の大きな瞳がくるん、と上を向いて白目を晒す。
その小さな体のどこにそんな力があるのか、善治の腰が乗っている菊池を持ち上げる勢いでぐうん、と浮き上がる。
腰に巻き付く脚がぎゅぅぅっと締め付け、一滴たりとも逃さないと意思表示する。
「かぁぁぁあ……」
出る、出る、出る、出る、全部出る。
脳が溶ける。
溶けた脳が放出されているみたいだ。
菊池は善治の女の子にあるまじきみっともない顔を脳裏に焼き付けながら、射精し続けた。
「くす……くすくす……」
果実の匂いと性臭で満ちる部屋に、タネコヒさまの笑い声が響く。
「くすくすくす……くすくす……くすくすくす……」
・
・
・
「俺の見る目が無かったって認めるよ……」
「何の話だ?」
休み時間、友人の唐突な言葉に菊池は首を傾げる。
「いや、以前言ったろ、善治って地味だって……」
「あー……言ってたような……」
「お前見る目があるよ……あんなダイヤの原石だったとは、プロデューサーの才能あるんじゃね」
何のゲームにハマっているか分かるような友人の言葉に曖昧に笑い返しつつ、菊池は遠くの席にいる善治を見る。
夏休みの後に病気に倒れ、長期に渡って休んでいた善治は病気も完治し、復学した。
表面上はそういう事になっている。
だが、戻ってきた善治は何か人が違ったようになっていた。
いや、本人は普段と変わらず真面目で大人しく、友人関係にも変化はない。
しかし、明らかに違うのだ。
些細な仕草、纏う雰囲気、空気……。
そして、体の成長。
最初登校して来た時には「詰め物?」と皆が思ったくらいに、胸周りと腰回りのサイズが一変していたのだ。
もっとも体育の着替え時間で詰め物疑惑は晴れ、逆にどうやったらそんなに成長できたのか質問責めに合う羽目になったが……。
要するに、クラスの中でも地味で目立たないポジションだった善治は、休みを境に男子達の注目の的となる存在になってしまったのだ。
モーションを掛けられる事も多くなったが、善治自身の態度は以前と変わらず真面目にお断りし続けている。
色々な噂が流れた。
中には聞くに堪えないゴシップやデマも。
しかし当の善治はどこ吹く風だ。
体形の変化も「病気の間太った、それが変な痩せ方をした」とのたまっている。
その他の雰囲気の変化も「それは気のせい」と流す。
善治のある種超然とした精神はこんな時にも強みを発揮している。
と、善治が振り返った。
菊池の視線に気付いたらしい。
ほんの一瞬、微笑みを見せて善治は前に向き直った。
「なあ、前から狙ってたんだろ?、急にライバル増えて大変だな」
「あー、そうだな……」
二人の関係については秘密にしてある。
実は善治の提案だ、自分に向けられるあらゆる感情を考慮すると菊池に迷惑が掛かると考えての事だ。
「ほんと……苦労、するよ……」
菊池は俯いて、座りが悪そうにもじもじする。
「おいおい気合入れろよ、競争相手すげえぞ、あのすげえモテる先輩も善治狙ってるって噂だぜ?」
「ああ……」
友人に相槌をうちながら、菊池はどうにか股間の膨らみを誤魔化す。
あの微笑だけでこの有様だ。
そう、実際のところ善治は装っている程、真面目などではない。
むしろ菊池との関係は爛れている。
爛れ切っている。
20/03/09 19:51更新 / 雑兵
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