連載小説
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逃れられない運命
 (……うーん、やっぱモバイル版は操作がむずいな……)
リリースされて間もないモバイル版ダークネスロードの操作に四苦八苦していた荻須はゲーム画面を閉じ、駅の時計台を見上げる。
(もうちょっとか)
喧噪に包まれたこの場所は三人と初めてオフ会をした待ち合わせ場所。
なんだか随分前の話に思えるが、その時の事は鮮明に覚えている。
(……てっきり三人とも男だと思ってたからな……)
初めて二人を見て、ビビッてこっそり帰ろうとして、そこでアリストレイに捕まって……。
物思いにふけりながら視線を戻すと、丁度その三人が歩いてくる所だった。
るい子がこちらを見つけてぱたぱた手を振って駆け寄ってくる。二人も笑いながらその後を追う。
「あ、ケータイでできるやつやってる!どう?」
「いや、操作むずいねこれ」
「だよねータッチパネルだとねー」
と、手元の携帯を覗き込んでくるるい子。
ぷに、と肩にその胸が密着しようとお構いなしだ。
着ているカットソーの生地は薄い訳でもないのだが、やはり内側からの圧力がすごい。
「モバイル版よりやっぱり本体でやるのが好きだねぼくは」
そう言うアリストレイの姿は初めての時と同じ形状のワンピース、しかし華やかだったあの時とは違った白基調のシンプルな柄。
「でも、手が開いた時にちょっと出来るのは便利ですよね」
こちらはやっぱり女性らしいふわっとしたブラウス姿の巴……落ち着いた服装なのに体の一部の自己主張が激しいのはるい子と同じだ。
それほどに気合の入ったお洒落という訳ではない、しかしやはり周囲の視線が集まる三人であった。
「……ふふ、この待ち合わせ場所はちょっと懐かしいですよね」
巴が微笑み、ひた、と荻須の横に付く。
それは友人というには近すぎる恋人の距離。
そう、巴は荻須の恋人。
にこにこ笑いながらるい子がぐい、と荻須の腕を引く。
るい子も荻須の恋人。
両サイドを取られたアリストレイはぷう、と頬を膨らませて正面から抱き着く。
アリストレイも荻須の恋人。
「あ、歩けない歩けない」
暖かく、柔らかな体に取り囲まれた荻須は慌てる。
動けないし、美女美少女三人にべったり密着される光景は余計に周囲の視線を引く。
「お姫様抱っこしてくれたら可能」
「不可能だってば」







 あのイベントの後、荻須は色々な事実を知った。
異界から進出する「魔物娘」という存在、三人がその魔物である事、魔物娘の生態、性質。
「ダークネスロード」が魔物の手によって作られたゲームである事、元々伴侶を探すための婚活装置であった事……。
言葉だけで説明されたなら信じられない話であるし、それが作り話でないと知ったなら危機感を覚えるだろう。
だからこそ篭絡した後に事実を明かされるのだという。
実際、この愛しい三人が魔物と知っても荻須の気持ちは変わらないし、魔物娘という存在への危機感は沸かない。
まんまと嵌められた形だが、人間、とりあえず今の自分が幸せであれば人類の存続だとか何だとかの大きな問題には目がいかなくなるものだ。
増して、侵略の先にあるのが愛と平和なのであれば尚更。







 「恋愛ってややっこしいねー」
「二人と同時に付き合えば何も問題ないと思う」
「まあ、そこにハラハラするのが恋愛物の醍醐味ですから……付き合ってしまえばいいのにとは思いますけどね?」
魔物である三人と晴れて付き合う事になってからも、前述の通り彼女達に対するイメージは人間だと思っていた時とそう変わらない。
しかしやっぱり人間と違うなあ、と感じるのは外見的特徴以外だとこういう時だ。
デートで恋愛映画を見た後に喫茶店に入り、そこで出た彼女達の感想がこの言葉だ。
鑑賞した映画は恋愛物としてはよくあるパターンで、愛する二人の女性の間で揺れ動く男の心情とその恋の行方を追う内容だった。
彼女達からすると「二人と付き合えば解決するのに」という事だ。
最も、自分一人と三人で付き合ってしまうような三人なのだからこの結論も当然か。
しかし、三人が言うには魔物であれば皆がそんな感想を抱くだろう、という事だ。
このあたりの感性というのは一般的な人間のそれとはかなり隔たりがあるように思える。
では「女性が複数の男性と付き合うのはアリなのか」と聞くと「それはダメ」「ないわー」「あり得ませんね」との事だ。
よくわからない。
だが、卑しい考えだが彼女達が浮気する事はあり得ないという確証を得られたようで、ちょっと嬉しかったのは内緒だ。
ふと喫茶店の時計を見上げると、午後五時。
ランチを一緒に食べ、映画を見て……夕食にはまだ早いとは思うが……。
「お腹すいてきちゃったね、ちょっと早いけど晩にしちゃう?」
「あー……そう、だな……」
「そうですね、そうしましょうか」
「そうしよー」
実の所それほど空腹な訳ではない、しかしデートの時に夕飯の時間がやたら早くなるというのは毎度の事なのだ。
喫茶店を出て、こっそり事前に調べておいたイタリアンの店に三人を誘導して早い夕食にする。
実の所を言うと彼女達はディナーがハンバーガーだって構いやしないのだろう、しかしそこは男のプライドというか、そういうものだ。
彼女達もそこを汲んで食事を楽しんでくれる。
会計は極力素早く迅速に、見栄もあるがそれだけではない、素早く済ませないと巴あたりがスッと会計してしまうのだ。
もう、このあたりから三人の様子が変わり始める。
瞳が濡れるのだ。その濡れた視線が荻須の全身に絡みつくようになる
そして挙動がそわそわしはじめ、浮足立った感じになる。
そう、これから本番なのだ。
ランチに映画にディナー、定番のデートコース。それら全ては前菜。
あのイベントで初めてを交換した時の言葉。
「たくさん、エッチして……たくさん、たくさん、たくさんエッチしてね……荻須クン……♪」
言葉通りだった。それは魔物の性質でもある。
彼女達が何よりも望むものは素敵なプレゼントでも気取ったデートでもなく。荻須の体。
ぶっちゃけてしまえば、早いことホテルにしけこみたいのである。
夕食の時間が早くなるのも、早くに済ませればその後の翌日までのお楽しみの時間が長く取れるからだ。
実際、普通の人間同士のカップルに比べて四人の性交時間は非常に長く、濃い。
そんな貪欲な彼女達に荻須も無尽蔵の精力と性欲で応える、そうできるように「作り変えられて」いるのだ。
よって、荻須の方も食事の後半は下半身の昂ぶりを誤魔化す事に気を割かねばならないという有様になる。
「行こうか」
「うん」
「んっ!」
「はい」
もはや口数も少なくなっている三人に言って、荻須は素早く伝票をカウンターに持っていく。
今回は荻須が会計する事に成功した。







 「ぴちゃ……ちゅぷ……ちゅぱ……ねちゃ……」
薄暗くライトアップされたホテルの一室に水音が響く。
ガウンを肩に掛けた荻須がベッドに腰掛けて足を開き、その間に座り込んだ少女の金色の髪が揺れる。
非現実的な光景だ。
自分の醜い程に肥大した陰茎の先端にフランス人形じみた美貌がはしたなく口元を歪ませて吸い付いている。
「ふ、んむ、ん、えろ、れぁ、れろ、ぴちゅちゅ……ちゅぷ……」
敏感な亀頭部分を咥え、れるれると下品に舌を回して舐め啜る。
特に、アリストレイに対しては神聖な物を自分の欲望で汚しているような背徳感が常に付きまとう。
そしてそれが快感をたまらなく増長させる。
荻須に余裕はない、上半身を起こしているので精一杯だ。
ともすれば腰が浮き上がってベッドに倒れ込みそうなのを必死に耐えている。
「ふぅぅっ、くっ、うっ……!」
だらしなく漏れそうになる喘ぎ声を噛み殺しながら、奉仕するアリストレイの頭を撫でてやる。
そうして滑らかな金の糸を指で堪能すると、アリストレイは褒められたペットのようにその深紅の目を細めて喜びを訴える。
(信じ、られない……)
付き合い始めてから少なくない回数身を重ねた。
だが、何度経験してもその体験は新鮮味を失う事がない。
そう、恐らくは生半可な本番よりも強烈なこの快楽はただのウォームアップのようなものなのだ。
サァァァァァ  キュッ
淫らな水音の背景にもう一つ流れていた水音、シャワーの音が止んだ。
それから間もなくアリストレイの口淫の音が響く部屋に、石鹸の匂いをさせながら二人が踏み入る。
成熟した妖艶な肢体にエルフのような長耳、背後にゆらゆらと悪魔の尻尾を揺らす巴。
小柄でありながら豊満な身体、巴と同じく長い耳、頭部に左右非対称の角を備えたるい子。
アリストレイに奉仕される荻須を見て妖艶に微笑みながら、二人が身に着けていたバスローブをはだける。
これから自分が味わう事になる肢体を見せつけられ、興奮が限界を超える。

びゅっ……く……びゅっ……く

それは、緩やかな射精。
激しい吸引や刺激によるフィニッシュではない、彼女達にとっては前菜のような射精。
こくん、こくん、と細い喉を鳴らしてアリストレイがそれを美味しそうに飲み干していく。
「……ぷは」
ようやく口を外したアリストレイがその身を起こす。
既に一糸纏わない彼女の芸術的とさえ言える可憐な肢体が視界に入る。
同時に、その色に違わぬ情欲に燃えた瞳も。
とん、と荻須の両肩をアリストレイが軽く押す。
快楽の余韻で脱力していた荻須の上半身は容易くベッドに横倒しになる。
するりとその上にアリストレイが跨り、何をされずとも十二分に潤ったその魔性の性器で荻須を包み込む。

 ぬ、ちゅっ……

一層の淫らな水音と同時にぎし、とベッドがもう二人分の体重を受けて軋む。
怪しく瞳を輝かせながら腰をゆっくり揺らし始めたアリストレイの両脇から、たぷん、と乳房を揺らしつつ二人の淫魔が荻須に覆いかぶさる。
荻須の肌に空気が触れる箇所を無くそうとするかのように、淫らな肉で覆いつくしていく。
視界がキスで塞がれる寸前、時計が目に入る。
午後六時半。
夜は始まったばかり、時間はたっぷりある。
最も、始まってしまえば時計を気にする余裕など一切ないのだが。

(こんな、こんな事が……)

石鹸の匂いと、たまらない雌の匂いに包まれながら荻須は思う。

(ずっと……続く訳はないんだ……)

三人共を、いつまでもずっと手放したくない。
だけどやはりいつかはどこかで分岐点が来るのだろう。
ずっと三人一緒にいる事は周囲の目が、常識が、法律が許さない。
やがてはこの温もりを手放さなくてはいけない時が来るのだ。
荻須は、想像するだけで泣きそうになるその気持ちと共に快楽を噛み締めた。







 「一番確実なのはこの法律の成立を待つ事ですね」
「えー、そんなの待ってらんないー」
「時期がわからないものを待つのは合理的じゃないね」
「ええ……私もそう思います」
暗めの照明に照らされたバーカウンターで、三人は何やら話し合っている。
ここは三人の行きつけにして巴がオーナーを務めるクラブ「fallen girl」。
最近は毎週のように集まって「作戦会議」を開いている。
三人が頭を突き合わせて覗き込んでいる資料はとある政治家の活動記録を纏めた資料。
政界に彗星の如く現れ、奇抜すぎる政策を次々打ち出す女性政治家。
何を隠そう、その女性政治家は法律を魔物に都合のいいように改定しようと活動する魔物娘なのだが……。
その打ち出された政策の中にあるのが「一夫多妻制」。
三人が特に熱心に熟読していた項目がそこだ。
「通るのは相当先だろうなー……」
「待ってられないね」
「ではまず私が結婚をし、二人が通い妻……もとい、愛人という形でよいですね?」
にんまりと笑みを浮かべて胸を張る巴。
そう、三人が企てているのは如何にして三人共が荻須の元へ嫁ぐか。
荻須の悲観をよそに、彼を離す気などさらさらない三人は着々と外堀を埋める計画を立てていくのだった。

「なんでそこで巴さんなのさ」
「世間の目を鑑みても最も収入が多く、最も年齢の近い私と結婚するのがベストで一番早いと思いますが?」
「と、歳ならるーだって……」
「君はダメだね」
「ダメですね」
「なぜだぁー!?」

19/06/02 19:54更新 / 雑兵
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■作者メッセージ
長らくお待たせしました。
次は……要望の多い追憶の方に手を付けて行こうかなw

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