｢どうする？｣
｢帰る訳には行かないしなぁ･･･｣
ルカは腕を組んで石壁に寄り掛かり、ルイーザは暇をもて余した様に尻尾を揺らしている。
二人は途方に暮れていた。

ルイーザとルカのティカル姉弟が釈放されたのは、一連の事件から一月ほど経った事である。
最初は酷い悔恨に苛まれたルカも、ドラゴンに変化したルイーザと牢屋で二人きりでいる内に、姉の変化を受け入れられるようになっていた。
しかし、竜になったルイーザを一族の下へ連れて帰る訳にはいかず、おまけに姉弟で男女の仲になってしまったのでは、なおの事、故郷に戻れる訳がなかった。
文字通り身一つで異国に放り出された格好の二人は、さしあたって途方に暮れるしかなかったのである。

｢おや、予定より早く釈放されたのかい？｣
途方に暮れている二人の前に現れたのは一人のワームだった。
二人は彼女を知っている。
｢あの時のワーム･･･｣
｢ピーニャ・クラーナハよ。あなた達には、まだ名乗ってなかったわよね？｣
ピーニャは腕組みしながら、面白いものを見るように二人を見ていた。
｢･･･あの時のケリでも付けるつもり？｣
ルイーザはルカを庇うように身構える。
ルカも身構えたのだが、二人とも武器を取り上げられているので、完全に丸腰だったのだ。
しかし、ピーニャはその様子に呆れたように溜め息を付く。
｢この国の住民がドラゴンを傷付ける訳無いでしょう｣
心外だとでも言わんばかりの様子で、敵意が無い事を示すように肩を竦めて見せた。
｢第一、あなた達を釈放するようにデオノーラ様に頼んだのはあたしよ？｣
｢･･･何のつもり？｣
ピーニャの言葉を聞いてもルイーザは警戒を解かない。
わざわざ敵を釈放する事に、理由が無いはずが無いのだ。
｢デオノーラ様には『有意義な人材を牢屋で置きっぱなしにするのは無駄でしょう？』って言っただけよ｣
ピーニャはルイーザの警戒ももっともだと思いながら、なにも隠さずに考えている事を伝える事にした。
｢お昼ご飯でも食べながら説明するわ。奢るわよ？｣


竜翼通りのテラス席で、三人は昼食を取りながら話し合っていた。
｢街中の竜があんなに盛っちゃったのは初めて見たわ｣
ローストされた魔界蜥蜴が挟まれた分厚いサンドイッチを摘まみながら、ピーニャは二人と話している。
｢あんな使い方をしなければ、あたし達の役に立つと思った訳よ｣
ピーニャの狙いは、竜の寝床横町を大混乱に陥れた二人の技術だった。
その効果にピーニャは感心していたのである。
｢･･･作り方は一族の秘伝よ。私は竜になったけど、だからといって一族の秘伝を教える訳にはいかないわ｣
ルイーザはピーニャを真っ直ぐに見据えながら、ピーニャの提案を拒否したが、ピーニャはルイーザの義理堅さを好ましく思った。
｢レシピを教えろとは言わないわ。それに、あのままじゃ効果が強すぎて使えないしね｣
もちろん、彼らの技術は竜を殺す為の物なので、安全に使用できる様に調整しなければいけない。
それも含めてのピーニャの依頼であった。
｢つまり、行くあてが無いのなら、ここで薬屋をやってみたら？って事なのよ｣
｢僕らがこんな事になった意趣返しをするとは考えない？｣
ルカの目付きは警戒と不審を隠していない。
｢そうまでして復讐するほど、元の生活に執着があるの？｣
ピーニャもそれに応える様に真顔で返す。
腐敗のブレスを受けた後の顛末を考えれば、ピーニャには到底そうは思えなかった。
｢･･･分かった、やってみる｣
小さくため息を付いた後、ルカはピーニャの提案を受け入れる事にした。
まるで正反対の目的でドラゴンスレイヤーの技術を使う事には複雑な感情もあったが、今となってはドラゴンスレイヤーの立場に拘る理由も無くなってしまった。
自分が持っている技術がそれしかない事もあり、また、自分達を苦しめてきた因縁へのささやかな復讐という感情も、僅かながらに芽生えていたのである。


市街地から外れてポツリと建ってる一軒家が、当分の間の二人の家となった。
作る物が物だけに、実験に失敗した場合を考慮して、ピーニャが用意した物件である。
｢まさかこんな事になるとはなあ｣
｢世の中、何が起こるか分かったものじゃないわね｣
二人は薬研を使って、薬の材料をゴリゴリと粉にしていた。
ドラゴンの手は細かい仕事をやれる様には出来ていないが、ルイーザにとっては慣れた仕事である。
ついこの間まではドラゴンゾンビを誘拐しようと知恵を絞っていたのに、今では竜達を喜ばせる為に知恵を絞っている。
その有為転変を考えれば、これから少々の事が起こったところで驚く程の事はない様に思えた。
｢･･･姉さん｣
｢？｣
｢もし、僕がブレスを受けてなかった時に襲っていたら、受け入れてくれてた？｣
もし、こんな形でルイーザがドラゴンになっていなかったら、自分は許されていたのだろうか？
それは、あの夜からルカがずっと思い悩んでいた事の一つだった。
真っ正面から聞けない疑念だからこそ、こんなタイミングで口にしてしまう。
それでもルイーザは怒るでもなく、恥ずかしがるでもなく、静かに問いへと答える。
｢･･･止めていたかもしれないけれど、今の私にはもう分からない事ね｣
ルイーザの尻尾がピタンと床を一叩きした。
長女らしく倫理観が強いルイーザである。
諭すなり抵抗するなり、何らかの形で止めたかもしれない。
しかし、あの時に受け入れたという事自体、ルカを拒む意志が無かった様にも思える。
どちらにせよ、ドラゴンとなった今の身では、受け入れる事しか考えられないのだ。
人であった頃の可能性は、既にルイーザにとって辿る事が出来ない事柄だった。
｢でも、貴方を見放したりしなかったわ。絶対にね｣
それが肉親に対する物なのか、愛する男に対する物なのかは分からないが、どちらにしてもそうしただろうとルイーザは漠然と思う。
何があっても二人が離れる事は決してあり得なかっただろう。
｢そっか･･･ありがと｣
薬研に目を落としたままルカがそう答えた後は、ゴリゴリという音が部屋に響くだけだった。


テーブルの上の小さな皿に、幾つかの丸薬が乗っていた。
リッチからアドバイスを受けたり、媚薬以外の薬も調合も参考にしながら、どうにか完成した試作品である。
しかし、これだけでは完成したかどうかは分からない。
試作品の効果は自分達で確かめるしかないのだ。
ルカは気乗りがしなかったが、この話を受けた時からルイーザは覚悟を決めていた。

万が一毒性があってもいい様に、小さな丸薬をナイフで更に小さく割る。
その小さな欠片をルイーザは飲み込んだ。
計算通りの効果が出れば、発情した上に性器の感度が何倍にもなるはずだった。
しばらくすると、ルイーザの様子に落ち着きが無くなってくる。
｢うまくいった？｣
｢･･･何か違う感じがするけど｣
更にしばらくは椅子の上で、じっと薬の効果が何なのか探ろうとしていたが、何かに耐えられなくなったかの様に、秘所へ指を潜り込ませてしまった。
普段は決して見せない有り様で、指を深く入れて動かし続けている。
その姿は正面に座っているルカからも全て見えた。
整った陰毛の奥にある、肉の穴と呼ぶのにふさわしい肉色をした秘所が、ゴツゴツとした竜の指を二本も呑み込みながら、だらしなく椅子へと汁を垂らし続けている。
ルカも初めて見るルイーザの自慰の姿から眼が離せない。
反面、ルイーザは自分がしている事が自慰であるとは考えていなかった。
｢ルカ･･･これ、やっぱり失敗作みたい･･･｣
快楽とは違う原因の汗で身を湿らしながら、ルイーザは少し焦った様に指を深く潜らせて動かす。
｢見た目は成功してる様に見えるけど･･･｣
｢違うの･･･その、凄く･･･痒いの･･･｣
どうやら、試作品は全然違った効果を発揮してしまったらしい。

｢少量だから、しばらくすれば効き目も切れると思うけど･･･｣
｢そんなの待ってたら、頭がおかしくなっちゃうわよ！｣
イリーナは隔靴掻痒どころではない事になっていた。
自分の指では絶対に届かない身体の奥底が、虫に刺された何倍も痒いのである。
糸を引くほど濃い体液で濡らしながら、激しく指を動かしているが、肝心の場所へは全く届かない。
｢･･･ルカ、責任とってよ？｣
｢へ･･･？姉さ･･･わぁぁっ！｣
ルカが襲った時でさえ、そんな事を言わなかったルイーザが涙目でルカを睨むと、そのまま床へと押し倒してしまった。
下着ごとズボンを引き摺り下ろすと、ルイーザの姿に反応していた肉棒が勢いよく姿を現す。
｢私の指じゃ届かないのよ！｣
ドラゴンになっても元の凛とした部分を残していたルイーザも、薬がもたらした痒みに我を失っていた。
ルカを跨いで仁王立ちになると、そのままガニ股で下品に腰を落とす。
ルカの肉棒が子宮を強く突いて、痒みの元をゴリッと擦り上げた。
｢はぁぁ♥️そう♥️ここが痒かったの♥️｣
ようやく痒みの元を直に掻く事が出来た快感と、肉棒で子宮を突き上げられる快感の両方が、ルイーザの身体の底を揺さぶる。
｢ルカぁ♥️これ確かに、いつもより気持ちが良い♥️｣
深く腰を落としたまま、肉棒で子宮の入口を満遍なく掻く様に、ルイーザの腰が円を描く。
当然、その動きはルカの方にも強い快感をもたらした。
｢ねっ、姉さんっ･･･激しすぎるって！｣
薬で僅かに腫れた子宮口が、肉棒の先端をプルリと咥えて離さない。
十分すぎるほど濡れた襞は、そのすぐ下でヌルヌルと絡み付く。
単に子種を欲するだけではない秘所の動きは、今までの交わりとは全く違った快楽を互いにもたらしていた。

｢ルカぁ♥️もっと奥の方へゴリってして♥️｣
｢もう･･･こんなにだらしない姉さんは初めてだよ｣
ルカがルイーザの腰を掴んで更に激しく突き上げると、ルイーザがびくりと身体を震わせる。
軽く絶頂を迎えてしまったのだが、痒みは全く治まらない。
｢んゃぁ♥️まだ痒いの♥️もっと掻いてぇ♥️｣
二つの快感がルイーザを際限なく淫らに溶かし、ルカもそれに応える様に夢中で腰を動かす。
肉棒を叩き付けるのではなく、ゴリゴリと子宮へ擦り付けるように動かす度に、ルイーザの秘所はクツクツと肉棒を締め上げた。
小刻みに絶頂を続けているのだ。
そんないつまでも忘我の時間が続く様な錯覚を、ルカの限界が打ち破る。
｢もう無理っ！出ちゃうっ･･･｣
｢やぁっ♥️まだ痒いのに･･･ふぁぁっ！♥️｣
子宮口に密着した先端から放たれた大量の精が、ルイーザの子宮へと直に流し込まれる。
濃厚な精が子宮を満たしていくにしたがって、不思議と身体の奥の痒みも退いていくのをルイーザは感じていた。

交わりを存分に楽しんだルカとルイーザではあったが、この薬が商品として成立するかはまた別の話である。
何度か試した結果、痒みは精液を受ける事で治まる事が分かったが、だからといって普通の媚薬として使える様な代物ではない。
ルカは｢こんな変な薬は売れないと思うけど･･･｣と否定的であり、ルイーザも｢もっと普通の薬が出来るまで待って欲しい｣と言ったのだが、話を聞いたピーニャは太鼓判を押して売り出させた。
そして、世の中にはどんな需要も存在していたのである。


｢あなた･･･その、身体の奥の方が凄く痒いの･･･｣
普段は気位が高いドラゴンの妻が、うっすらと涙を浮かべながら自分を頼りにしている事に夫は困惑しながらも、妻が見せる新たな一面に夢中になりつつあった。
実は、夫へ素直になれない自分を変える為に、妻が自ら薬を飲んでいた。
普段はどこか頼りない夫だが、そんな夫が今は頼りにできる唯一の者であるという事実が、妻の方も興奮させる。
普段とは全く違った交わりになる事が、二人の胸を共に高鳴らせた。

こうした普段は素直になれない竜達に、薬は買い求められたのである。
もちろん、普段から妻に頭が上がらない夫が下剋上を狙って買っていく事もあったが、それ以上に妻や恋人である竜たちが買っていく需要の方が遥かに多いという事実に、ルカとルイーザはドラゴニアの竜たちの本心を見た気がしていた。
ただ盛りたいだけの客を相手に商売するのは気が進まなかったのだが、こういう話であればまた別だと思えたのだ。
『竜の漆』と名付けられたこの薬は、ドラゴニアの竜達を素直にする薬として、末長く愛される事となったのである。


しばらく後に二人は竜の寝所横町の奥の方に店を構えた。
竜が使う特殊な薬を作ってくれる薬屋として、今では住人達から重宝される存在になっている。
今日も二人は店の奥で、仲良く薬種を混ぜ合わせていた。
｢ルイーザはもう『漆』を使わないの？｣
ルカは、ルイーザがあれから『竜の漆』を自分では使わない事を、不思議に思っていた。
｢んー･･･だって、使わなくてもルカとするのは気持ちいいし･･･それに私は『漆』が無くてもルカには素直でいられるから｣
姉弟であり、竜と人であり、恋人でもある。
それだけ絆が揃ったルカに対して、今更どんな壁を作る必要があるのか。
だから自分には薬は必要ないの、とばかりにルカを抱き締めると、ルイーザは自分の心のままにルカの唇へ口付けた。
ドラゴンスレイヤーであったから、今ここでこうしていられる。
苦難を与え続けてきたドラゴンスレイヤーの血は、ようやく二人を幸せにしてくれたのだった。

■作者メッセージ
待たれていた奇特な方、お待たせして申し訳ありませんでした。
刺客組のその後の話が三話、レオン達三人の話が一話、エピローグとして一話を予定しています。
同様の事を何度お願いしたが分かりませんが、もう少しだお付き合い頂ければ幸いです。