MCP-124 - ワンナイト・“カーニ”バル！
MCP-124 - ワンナイト・“カーニ”バル！
――――――――――――――――――――
識別番号: MCP-124
オブジェクトクラス: Goetia
特別収容プロトコル: MCP-124群は人口密集地から離れた山間の内湾であるエリア-104に棲息しており、MCP-124個体は一様にエリアからの遠出に消極的です。カバーストーリー"古隧道の閉鎖"はMCP-124群の滞留する漁村へ不用意に民間人が進入することを防ぐための措置であり、エリア-104に繋がる唯一の陸路は、財団のフロント企業の一つである建設会社によって常時封鎖されています。クリアランスレベル1以上を保有する財団職員以外の外部の民間人に対してはMCP-124群の存在は隠蔽されていますが、平時のMCP-124群は財団の収容方針に対して非常に協力的であり、上記以外の封じ込め処理は必要ありません。
ただし、MCP-124-αイベント発生の予兆が観測された場合は、一連のイベントが終息するまでの期間中に許可を得ていない人員が不用意に漁村付近に接近することのないように警戒を行なってください。この際、観測員は通常状態からイベントに備えて増員され、期間中はMCP-124の異常行動の詳細を逐次報告することが義務付けられます。また、観測員はイベント時に要求されるあろう人員数を検討し、速やかにDクラス職員の派遣要請を行なってください。それ以外の許可を得ていない人員がイベント期間中にMCP-124個体に理由なく接触することは
説明: MCP-124は水陸両生型の魔物娘であり、MCP-124-αイベントを主に構成する魔物娘です。財団エージェントによる████年の棲息域の発見から現在、計██体のMCP-124が確認されています。やや外的反応に乏しい（無口な、とも形容されます）個体、マイペースな個体が比較的多数を占めるものの、このMCPへの対話接触は非常に有効です。
MCP-124は通常の人間女性とは異なる外見的特徴として、下肢に該当する部分がベンケイガニ属（Sesarmops）と類似した形状に置き換わっていることが挙げられます。MCP-124から提供された脱皮後の表皮を解析したところ、甲殻類のキチン質に近い高分子から構成されていることが判明しました。しかし、同組成の高分子材料を再現したモデルシミュレーションとの比較を行った結果、MCP-124の持つ実際の甲殻は理論値の数十倍程度の強度を有し、その一部である鋏状の脚部は想定された██トンを大幅に上回る剪断力を発揮しました。上記の現象の原因は現在判明していませんが、この異常な運動能力をヒトに対して直接行使することはないとMCP-124達は主張しています。
MCP-124に共通する習性として、MCP-124個体のパートナーとなった人間男性に対して自身が産生する高粘性の液体を擦り付ける習性が挙げられます。上記の習性はパートナーとの性的行為の際にほぼ必ず行われ、この未知の泡立つ液体を塗られた被験者からは、一様に「MCP-124個体との性的接触時の感覚が鋭敏に感じられた」と報告されています。水棲型の甲殻動物であるカニがエラ呼吸の補助のために発する泡とは用途が異なっており、本来の用途が何であったのかはMCP-124のいずれの個体も把握していませんでしたが、ある個体からは「（彼に）塗り込むことで自身の所有物になった気がする」という旨の発言が記録されました。現在はパートナーに行うマーキングの一種のようなものであると推測されています。
近年、水陸両生型であるMCP-124が他のMCPオブジェクトと比較しても一際複雑な生活環を有すること判明しました。MCP-124は卵生であり、母体からは一度の妊娠につき1〜2体のMCP-124娘個体が出産されます。パートナーとの性的行為を含む平時の全ての活動を海中で行うMCP-124成体は、この出産の時期に生活基盤を陸上へと移した後、孵卵及び育児の期間をパートナーや他の親個体と協力して行います。そして、ある程度成長した娘個体は親個体から独立して、自身のパートナーと共に海中で生活するようになります。親個体とそのパートナーについても、しばらく経つと海中へと戻るケースが多いようです。
この一定期間のみ生活基盤を移動させる習性はMCP-124の本能的なものであり、習性の起源は不明ですが、陸生であるヒト男性とMCP-124娘個体が出会うために適応したMCP-124特有の生態形質であると推測されています。
MCP-124-αイベントは、エリア-104中心部の████村を起点に、約250mの海岸線一帯で発生する特異な現象です。████村に現存する過去の祭事記録と村民への聞き取り調査から、MCP-124はグレゴリオ暦での夏季にあたる毎年6〜9月のいずれかの満潮時、かつ満月の日に限定して周期的に発生することが判明しました。MCP-124は1年に1回の頻度で発生し、1回を上回ることはありません。現象の発生当日におけるαイベントの時間推移、及びαイベントの前後で起こりうるミーム汚染（認識汚染）の詳細については、後述のログを参照して下さい。
事例: MCP-124-α-76イベント
日時: ████年8月3日
概要: ████年8月3日の夜間〜翌4日の未明にかけてイベント発生。途中で収容違反が起こり、希望被験者であったDクラス男性2名以外にも財団職員1名、民間人3名がイベントの影響を受ける事案が発生した。その後、77回目以降のイベント時に警戒を強化する大きな判断材料となった。
オブジェクト担当専門研究員・シラサワの手記
7月29日: ████村に滞留する一部のMCP-124個体が深夜帯に住居から出て海岸付近へと移動し、鋏脚を夜空に向けて打ち鳴らす動作を繰り返していたことを確認。
7月30日: 昨日の異常行動についてMCP-124個体に聞き取り調査を試みた結果、動作を行なっていたいずれの個体からも「なんとなく」や「むずむずしたから」といった不明瞭な返答のみ得られた。例年通り、およそ本能的な行動であるものと考えられる。
過去の例を参照し、これをMCP-124-αイベントの発生予兆と認定。イベント発生日は次の満月となる8月3日であると推測される。財団本部へ物資・人員の追加要請を行い、本イベントはこれよりMCP-124-α-76として指定する。
これまでの調査から、今回の“適齢期”のMCP-124個体は2体であると予測される。
7月31日: MCP-124群は、村に備蓄されていたシナノキ科の樹木を近くの川に移動させ、中皮の繊維を採取する作業に終始する。パートナー男性らは別行動であり、農作物の収穫及び漁猟を総出で行う。
午後には財団から追加の人員が4名と、双眼鏡や糧食を含む必要物資が到着。人員の内訳は昨日の申請通り、財団エージェントが2名と希望被験者のDクラス男性職員が2名。自身とエージェント2名はイベント当日に発生するミーム汚染から逃れるため、観測拠点を村外れの民家からエリア-104の高台に設置された小屋へと移す準備を開始。Dクラス職員2名については、財団からの派遣であるという名目でMCP-124群の作業の補助を行うように指示した。
8月1日: 自身もMCP-124個体からαイベントの参加招待を受けたが、これを丁重に固辞。エージェント2名と共に高台の小屋へと移動し、再びMCP-124の活動の観測を再開。
昨日に採取が終わった大量の樹木中皮は木灰や複数の染料と併せて湯煮され、草木染めされた繊維として回収されており、MCP-124群はDクラス職員2名を交えてこれを手作業で布地へと縫い合わせていた。
8月2日: αイベント前日。MCP-124群は自身の手と鋏脚を器用に用いて布地の裁断・縫製作業を行っている。淡色の薄衣のような一枚布はMCP-124個体用、簡易な法被のような衣装は男性用である。
縫製作業は1日で終了し、夕方には漁猟を終えて戻ったMCP-124のパートナー達も加えて制作物の試着までを完了。例年通り、年長者は橙色や紫色の衣装を着用し、パートナーの居ない若い個体は薄紅色の衣装をそれぞれ試着し着用している。
初日は戸惑いの様子が見られたDクラス職員2名も、この日になると問題なく馴染めていることが観察できた。
8月3日: MCP-124-α-76イベント開始。予備観測員となるエージェント2名には、村へ接近してはならない旨を再度伝えた後、それぞれ高台の別地点からのイベント観測のために移動を指示した。
以降は状況を時間毎に記述する。
19: 36 日没と同時に全ての準備を終えたMCP-124群らが、衣装を纏って村の海に面した広場へと集合。その中にはDクラス職員2名も含まれる。広場はまばらに設置された木製の柱が点在し、柱には午前中の作業で柱頭を繋ぐようにロープが複雑に結び合わされている。このロープを結ぶ意図、及びロープから垂らした海藻類の意図は不明だが、何かしらの儀礼的な意味合いがあるものと思われる。MCP-124群達は広場の中央を開けて輪状に待機している。
20: 08 しばらくその場で待機していたMCP-124群が、やがて無言のまま夜空に向かって鋏脚を一斉に打ち鳴らし始める。鋏脚を持たない男性陣は手を打ち鳴らしている。クラス職員2名も同様の動作を行っており、躊躇や疑問を抱いた様子は一切見られない。既に彼らはαイベントの影響下に置かれていると推測される。
20: 20 上記の動作が開始されてから十数分後、潮位の上昇とともに海岸から多数のMCP-124とそのパートナーらが出現。およそ██体程の現れたMCP-124は、去年度に計測した海中で生活を営む個体数と完全に一致。これら個体は海岸から移動することなくその場に留まり、広場に居るMCP-124群を見守っている。この時現れたMCPオブジェクトはMCP-124のみではなく、MCP-███やMCP-███の姿も何体か見られた。
20: 41 潮位はさらに上昇。鋏脚を打ち鳴らす動作が一斉に止まり、海岸からMCP-███※1が1体出現。道を空けたMCP-124達の間を通り、広場の輪の中心に到達すると、少し経ってから一定の文言を唱え始めたことを確認。MCP-124群は沈黙を維持。
21: 25 MCP-███の言葉が止まり、薄紅に染められた衣装を纏った2体のMCP-124個体が輪の中心に歩み出る。この時、Dクラス職員2名もそれぞれの個体に手を引かれて中央に登場。
中央に現れたMCP-124個体は向かい合ったDクラス職員に対して軽い身体接触を行った後、自身から生み出した気泡混じりの液体を相手の頬に塗りつける。それを見てMCP-███は頷き、2組のMCP-124と職員のペアに順に手をかざす。
21: 39 中央のMCP-124個体が足踏みと鋏脚の打ち鳴らしを組み合わせたような動作を行い、Dクラス職員らはそれぞれのMCP-124個体の前で待機し続ける。職員らの様子は、MCP-124個体の上記の動作や、それに伴って生み出された液体の気泡の様子に意識を取られているようにも見える。
21: 49 過去に存在しなかった事案が突発的に発生。沖合から一隻の小型の船舶※2がエリア-104に向けて接近していた。エリア-104の海岸が入り江構造になっていたため近距離に到るまで把握できず、船舶の航路は広場に面した地点から20〜30mほど東側の海岸線に向かっていると予測された。モールス信号を送信するものの、船舶からの応答なし。予備観測員であったエージェントのうち1名がMCP収容違反の可能性を訴え、こちらの制止を振り切って船舶の向かう方角へと移動を開始。
21: 51 船舶は浜辺に座礁。現場に急行したエージェントからやや遅れ、気付けば広場に居たMCP-124個体のうちの数体が小型船舶に近寄っていた。船舶の内部に進入したMCP-124は、やがて乗船していた民間人男性3名を連れて浜辺へと戻った。エージェント1名も1体のMCP-124に手を引かれて船から脱出。こちらからエージェントへ、無線で離脱を指示。
21: 55 エージェントが指示を拒否し、民間人3名とともに村の広場へと向かう。開いたMCP-124群の輪の間を通った4名は、彼らを船から救助した薄紅衣装のMCP-124個体それぞれに手を引かれてペアを形成。MCP-███の前に到達した彼らは、既にその場に居たDクラス職員2名と同様の作業を示し合わせたかのように行なった。
22: 32 広場が満潮によって浸される中、輪の中心のMCP-███は6組のペアの周りを緩やかに円を描いて泳ぎ、一定の文言を唱えている。
周囲のMCP-124群は再び鋏脚を打ち鳴らしつつ、輪を徐々に海に向かって開いていく。
22: 47 広場のMCP-124群が打ち鳴らすのを止め、やがて海側で待機していたMCP-124群が鋏脚を鳴らし始める。輪の中心の6組のペアは、MCP-███に引き連れられて海へと向かう。
23: 04 海側に待機していたMCP-124群と6組のペアは沖へと向かい、そして海中へと姿を消した。男性パートナーはこのαイベントにより未知の現実改変能力を受けていると考えられ、この時点から水中でも問題なく生活が可能となっている。
23: 10 残された広場のMCP-124群は、一様に海の方角を眺めている。
23: 26 広場のMCP-124群が輪を崩す。それぞれに自由に行動を開始。行動の内容は主に食事、飲酒、及びパートナーとの性行為。
訪れたMCP-███やMCP-███を交え、上記の行動は潮が引く翌日未明まで行われた。MCP-124-76-αイベントの終了を確認。
・MCP-124-α-76イベントに対する補遺
αイベントの影響はこれまで、“αイベント時に村に滞在する男性と、まだパートナーを持たない適齢期のMCP-124個体を結び付ける”効果を持つものだと推測されていた。
しかし、それだけでは今回の事例の説明が出来ない。
なぜ、船舶はあの時間にエリア-124に現れたのか？
なぜ、今回だけはαイベントの“適齢期”でないはずの幼い個体までもがイベントの影響を受けたのか？
なによりも、なぜMCP-124らは船の座礁というインシデントを受けても時間通りに、かつ動揺なくαイベントを継続できたのか？
MCP-124-αイベントは、私達の予想を超えたミーム影響能力を持っている可能性がある。より詳しい調査が必要になるだろう。手始めに、“適齢期”の最低年齢をより下方修正することとする。
- オブジェクト担当専門研究員・シラサワ
――――――――――――――――――――
※1. 彼女の存在、及び彼女がαイベント時に唱える文言の内容から、このαイベントと████████との何らかの関連性が指摘されています。
※2. αイベント後に乗船者へ聴取を行ったところ、航行開始からMCP-124に救助されるまでの間の行動についての認識はひどく曖昧であり、明確な答えを持っている者は彼らの中に存在しませんでした。
17/08/10 12:44更新 / しっぽ屋
戻る
次へ