読切小説
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猫せんせーと迷い香スパイス
 
 
 お疲れさまです。

 誰に言うでもなくそう呟いて、ビル3Fのオフィスから退出する。

 後ろを振り向いてみても気が滅入るだけ、真っ暗になったオフィスが目に入るだけだ。
 返事を期待するどころか、とっくのとうに他の社員は帰宅してしまった。
 後の管理はこのビルの屈強な警備員の方々に任せ、自分は何もせずに出るだけである。

 そう考えると今の自分はふっと消える亡霊のように思えてしまうのだけれど、実際タイムレコーダーはかなり前の時間に切っていたため、本当に幽霊のような存在に近いと言える。
 レコーダーを切ったのは自主的、あくまで自主的なものである。そういうことになっている。

 そう、幽霊は実在したのである…………。
 あなたの身近なところで、疲れ目の幽霊が誰もいない深夜のオフィスに…………。

 まあ、そんな冗談はさておき。

 お残りしたぶんだけ仕事は片付いたため、もうあとは帰るのみである。

 しかしここで、困ったことが1つ。

 時間配分を間違えたようで、今ちょうど終電の時間を越えてしまったのだ。

 この会社と家のアパートとは電車1本、3駅分の距離なので、歩いても1時間程度で帰れるのだけれど……。

 もうこの際だ、いろいろ諦めてゆっくり帰ろう。

 家で誰が待っているわけでもなし、せいぜい明日の自分が寝不足で困るだけだろう。
 そう思い、好きでもないアルコールを自販機で買って会社近くの公園に寄ってみる。

 昼は周りのオフィスに勤める社員らが昼食のために集まってくるこの公園も、さすがに深夜になると暗く閑散としていた。

 のんきな笑顔を浮かべたパンダの置き物(?)に腰掛け、プシュッと缶を開ける。
 少し振ってしまっていたのかどうか、手元の缶ビールの口からは軽く泡があふれてきた。

「それは……酒精かな?」

 酒精、ちょっと聞かない表現だ。
 普通はアルコールと言えば充分だと思う。

「あるこーる、ね。それを飲むのかい? 話に聞いたことはあるが、飲むと頭がぽわぽわするのだろうね?」

 ぽわぽわ…………。
 まあ、間違ってはいない。

 ぽわぽわと言うか、ぼーっとして何も考えられなくなる感じというのが正しいかも。

「なに、それはよくない。ヒトは理性を持ち、思考して生きる生物なのだろう? 考えることを完全にやめたら、それは怠慢というものだよ」

 寝る時は別だけれどね、と近くでまた声がする。

 そういや、自分はさっきから誰と話しているのだろうか。
 頭にするっと入ってくるような、今のくさくさした自分の気分とは対照的な、澄んだ声色。

「ならば、あるこーるというのものを吾輩は歓迎することはできないな。きみもこの際もっと、思考の妨げにならないような、理性のある飲料でノドをうるおすというのはどうだろう?」

 缶の上に載った泡に付けようとしていた口を離す。
 周りを見ても誰もいない。
 ついにモノホンの幽霊と遭遇してしまったのかな?

「確かにゴーストやファントムは君たちの考えるゆーれいと似ているけど、吾輩は彼女らとはまた異なる存在だね。ほら、ここにいるよ」

 声のする方を見ると、そこにはすべり台が。
 そしてそのてっぺんには、鉄柵の向こうからからこちらを覗き込む影があった。

 影、それも小柄でそこまで大きくない影。
 月明かりの下で、その人の目だけが妙にはっきりと見えた。

 コハク色の目に、中央には縦長の黒い瞳。
 そんな目が、強い好奇心をたたえてこちらを見ている。

 …………あの。

 そちらの方はいつから、どうしてそんな所に?

「『いつから』、というのは吾輩は時間をあまり気にしない性格なため、はっきりとは答えられないな。ただ、きみが来た時にはもういた、という言い方ならできるね」

 はあ、そうなんですか。

 かちりかちりとパズルピースをはめるように筋道立てて意見を話す小さい影に、呆気にとられつつもそう頷いた。

 すべり台の柵に隠れるくらいの大きさだから、その子は1メートルにも満たない背丈だろう。もっと小さいかもしれない。

 気づけば滑り台の方へ向かって歩み寄っている自分がいた。

 缶ビールは結局一口も飲まないまま、パンダの上に置きっぱなしだ。

「うむ、そうなんだ。そして、『どうして』そんな所に、という質問についてはだね――――」

 ……その人は、実にネコっぽい姿をしていた。

 ネコっぽい姿でもって二本足で立ち、すべり台のてっぺんの柵を手で掴んでこちらを見下ろしている。

 そして、頭のネコ耳をぴこぴこさせつつ、少し言い淀んでからこんなことを言った。

「――登ったはいいが、あまりの高さに降りれなくなってしまった。そこのきみ、だっこしてくれたまえ、だっこ」

 だっこ、だっこと言いながら、ふさふさな毛に包まれた小さな手を柵の間から伸ばしてくる。


 それが『哲学する猫』、猫せんせーとの初めての出会いだった。











「……なるほど。確かに思い返してみれば、そんな初対面だったかな?」

 ええ、そんな感じでしたね。

 今じゃあ見慣れた猫せんせーですが、初めてお会いしたあの時は自分でも結構驚いてたんですよ。

「にひひ。あの時は誰もいない公園に疲れた目をしたきみが1人でやってきたものだから、少しびっくりさせてみたくなったのだ」

 猫せんせーがいたずらっぽく笑うと、シャギーショートの髪の下の大きな目が、しゅっと細くなってアーチを描く。
 ネコ耳も一緒に横向きに倒れ、ころころと笑う姿がとっても愛らしい。

 まあ、その時から猫せんせーの言葉は頭にするりと入ってくるものでしたし、お姿は今もあの時も変わらずうつくしゅうございます。
 猫せんせーは傾国の美女、いや美ネコですね。

「にゃっ、そこまで言われると吾輩も照れてしまうな。……でも、どうして今そんなことを思いだしたんだい?」

 それは、そのですね。

 今自分たちが居るのはアパートの一室、その玄関口。
 こちらは私服用の靴を履いたところだが、猫せんせーがまだいらっしゃらない。

 天井近くを見上げる。

「…………ヒロ、ヒロ。ねぇ、ヒロ?」

 猫せんせーから何度も名前を呼ばれている。

 いらっしゃらないというか、玄関横の台所の上にある戸棚の中に入ってらっしゃる。現在進行形で。
 高い戸棚の中にすっぽりと黒白毛並みのツヤツヤもふもふした身体が収まってらっしゃる。
 首から先だけがひょこりと戸棚から、若干おそるおそるな様子で外へと出ておられる。

 なんだか非常にデジャヴを感じる光景だった。

「ヒロ……あのね。今なら吾輩をだっこする権利をあげるよ。せんせーからの日頃のごほーびだよ?」

 …………猫せんせー、今度は何が出たんです?

「は、ハエにびっくりして思わず登ったら降りられなくなったとか、そんなことはにゃいよ!」

 動揺してねこ口調が出てきてますよ、猫せんせー。
 ……なんて、余計なことは言わない。

 猫せんせー、かなり高いところによく登るわりには、結構な怖がりなのである。

 何かに驚いた時や逃げる時はぴょいーんと跳ねて上にゆくのだが、あとで冷静になってみればどう高所から降りればいいのか分からなくなることがあるのだそうだ。

 ドジっ子と言ってはいけない。

 あと、ネコなのに虫怖がりなのも追及は厳禁だ。

「うみゅ、羽虫はダメだ。彼らの飛び方といい歩き方といい、行動原理がとくと理解できない。飛ぶならまっすぐ飛ぶ、食べものを見つけたら一直線に歩くように徹底するべきだよ」

 小さな虫に対してなかなかの無茶をおっしゃる。

 最初のあの日のすべり台では、夜の暗い中で滑る方から降りようとしたら毛が金具の隙間に挟まりかけてしまい、痛い思いをしたために降りれなくなっていたらしい。

 こちらに話しかけてきた時も、実は内心どう降りようかと困りはて、悩み迷っていたのだろう。

 なんかそういうの、すごくかわいいと思います。

 ……だが、あまり猫せんせーを困らせるのは本意ではない。

 いくら今の猫せんせーの姿に『好きな子にちょっかい出したくなる小学生男子の心理』が激しく煽られるからといっても、いつも理知的な猫せんせーがそわそわしつつ困っている姿が空前絶後に愛らしいからといっても、これ以上お待たせするのは良くないだろう。

 猫せんせーの収まった戸棚の方へと腕を伸ばす。

「そう、そのままね。その姿勢を維持するのだよ」

 両手の先にとすっと猫せんせーの身体が加わり、心地よい感触と温度が伝わってくる。

 それもつかの間のことで、手に載った御仁は素早く腕をつたってくると、こちらの肩に手を引っ掛けるようにしてぶら下がった。

「あぁ、こわかっ…………や、一時はどうなることかと思ったけど、ヒロがいてくれて助かったよ」

 どういたしまして、と応えつつ、引っつく猫せんせーを両腕で下からすくい上げるようにして抱える。

 普通のネコ科ネコ属イエネコであれば片腕で持つのだろうが、猫せんせーは猫せんせーなので、お身体がイエネコよりは大きく、両腕で持つ必要があるのだ。

「……重いなぁとか、考えてないだろうね?」

 めっ、めめめ、滅相もございません。

「………………」

 無言のねこパンチをもらってしまった。

 ……と言っても、全然痛くはないのだけれど。

 いや、違うんです猫せんせー。
 ほんの少しだけ、のしっとした感じがあるなぁとは思ったのです。
 ですが、それはひとえに猫せんせーの重みを感じ、毛のふかふかさを感じたことによる感想でございます!

 元より猫せんせーはケット・シーですから!
 よその十人並みの野良ネコたちよりも身体が大きいぶん、魔物娘としての魅力もこうして存分に堪能できるというもの!

 そう心の底から断言して、もふもふボディをぎゅむっと胸元に抱きしめると、徐々に猫せんせーの眉間に寄っていた剣呑なシワが消えていった。

「……にゃ、ならば、吾輩をだっこしたまま買い物に連れていってくれたまえ。買い物中、ずっとだよ?」

 はい、もちろんです。
 では買い物に参りましょうか。

 猫せんせーを抱えたままアパート2階の自室を出て、すれ違った大家さんに挨拶しつつ階下へ向かう。

 猫せんせーはすぐにご機嫌も直ったようで、腕の中でくあっとあくびをしたりしていた。

 ところで、猫せんせー。

「…………ぁふ。んむ、どうしたのかな?」

 自分も背は低いほうではないのですが、猫せんせーはこの腕の高さで問題はないのでしょうか?

 滑り台や、先ほどの戸棚の件もありますし、はずみで落ちてしまったらとか……。

 ぶっちゃけ、怖くはないのかなぁ、なんて。

 そう尋ねると、猫せんせーはすぐに答えた。

「そりゃあもちろん、ちっとも怖くなんてないさ」

 肉球付きの手でよじよじとこちらのシャツを掴むと、顔を寄せてくる。
 猫せんせーの黒白模様の毛並みは額のところが特徴的で、こうして間近で顔を合わせると、黒い毛がどこかハテナマークを描いているように見えるのだ。

 そして、コハク色の目でこちらを覗き込んだ猫せんせーは、からかうような微笑みとともに命題を提示してみせた。

「吾輩は知っているからね。きみならば絶対に吾輩を落とさないし、けっして離すこともないと。ヒロ、どうかこの言葉が真であると証明してくれたまえよ?」

 ……なんとも責任重大ですね、それは。

 こちらが失敗すれば、敬愛する猫せんせーが偽を騙るウソつきになってしまう。

 こりゃあ生徒としては、頑張らなければいけませんね。











 本日は買い出しの予定であったため、現在は隣街の商店街にまで歩いてきていた。

 自分の家は街の外れ側にあり、のんびりと歩いたところでさほど時間はかからない。
 時計を見ると、家を出てから30分ほどといったところだろうか。

 とりあえず、風通しのよい並木道を歩いている途中で寝てしまった猫せんせーを起こすことにした。

 腕の中の猫せんせーを、軽く揺する。

「……………………すぴ」

 起きない。

 心を鬼にして何度も揺する、揺する。

「にゃっ………………」

 さらにちょっと強めに揺する。

「…………んへぇ……ヒロぉ……」

 寝言がすこぶる愛らしい。

 まるまって寝ている猫せんせーのふかふかのお腹に顔をうずめてみたい。
 そうすれば、すごく幸せな気分になれるんじゃなかろうか。
 歩いてる間にお日さまの暖気を蓄えたためか、毛並みがふわふわと立ち上がり、もうホントにふっかふっかな状態になっているのである。

 というか、もうこのまま帰ってお昼寝させてあげたほうが良いんじゃなかろうか。

 ……いや、ダメだダメだ。

 今日は猫せんせーたっての要望で一緒に買い出しに来ているのだ。
 それをこのまま無為に帰ってしまったら、悲しむのは猫せんせーだろう。

 しばらく午後の日差しの下でベンチに座って猫せんせーを揺すったり頬をつついたり、シャギーショートの髪からぴよっと伸びているネコ耳の付け根をなでたりしていると、やがて糸のようになっていた目がうっすらと開いた。

 着きましたよ、猫せんせー。

「…………おや、寝てしまっていたのかな?」

 はい。もう隣街に着いています。

「それは……申し訳ないね。だっこされてるとヒロの体温と揺れが心地よくて、ふにゃふにゃとした気分になってきてしまうんだ」

 電車の振動で眠気を誘われるようなものだろうか。
 つまり、それだけ自分の腕には猫せんせーへの安眠効果があったということ。
 光栄の至りでございます。

 そうして目覚めた猫せんせーを抱え直し、休日の少し混雑した商店街をぶらぶらと歩いていく。

 猫せんせーは好奇心が旺盛であり、何度来ても新しい発見をしてくれるので、こちらも買い物に飽きがこないのだ。

「――ヒロ、ヒロっ、金物屋があるぞ。もしあんな砥石があれば、ツメとぎには困らなくなるのかな?」

 きっと酷い音が出ますし、石だと爪が痛くなってしまいますよ。

「そうかぁ……。あ、メガネすとあーだ! メガネがあれば、ヒロの疲れ目も良くなるんじゃないかな?」
 
 残念ながら、これはメガネ程度ではどうにもならないのです。
 あと、実はわりと視力は良いほうです。
 悪いのは目つきと目のクマだけです。

「んにゃ、じゃあ本屋だね。せんせーが目に効くマッサージについて研究しておいてあげよう」

 なんとありがたい申し出か。
 猫せんせーのぷにぷにした肉球で指圧なんて受けた日にはもう、どんな不調も裸足どころか全裸に靴下で逃げていきそうです。

 本屋で『東洋医学の神秘に学ぶ:指圧編』と、自分用に『肉食系女子の肉料理レシピ』という2冊の本を購入し、外に戻る。

「ヒロ……きみは肉食系でも女子でもないんじゃあないかな? むしろ対偶の位置にあると思うのだけどね」

 猫せんせーが、微妙な顔でビニール袋の中のウシオニの女性が表紙に描かれた本を見ている。

 つい安かったから買ってしまいました。
 今日の献立はこの中から決めようと思ってますよ。

「にゃっ……! ならばヒロ、25ぺーじの『ケイジャンチキン』を作ってくれたまえ!」

 そこには、腕の中でしっぽをふりっふりしながら、コハクの目をキラキラさせる猫せんせーのお姿があった。
 なんでもない風な顔をして、既にこっそりと本の中身を覗き見ていたらしい。

 でもコレ、結構辛いんですよ?
 猫せんせーだと少し厳しいものがあるかなぁ、と。

「む、にゅむぅ…………そうかぁ…………」

 うわっ!
 せ、せんせーが悲しんでらっしゃる!
 これは猫せんせーの一番弟子として看過できない!

 考えろっ、考えろ自分!

 何か、どうにかして辛いモノがダメな猫せんせーがコレを食べれるような解決策を……!!

 ――――そうだ! ヨーグルト!

 猫せんせー、ヨーグルト入れましょう!

「わっ、ヒロ、いきなりなにかな!?」

 こういう辛いモノはヨーグルトを少し入れるとマイルドになるんです、猫せんせー!
 猫せんせー大好き乳製品がここで活躍するんですよ!

「にゃる……なるほど! さすがは理性の食べ物だね、そんな応用もできるのかぁ」

 『哲学する猫』である猫せんせーがたまに言うフレーズこと、理性の食べ物。もしくは理性の飲み物。

 ミルクや干し魚は理性ある食物であり、酒やポテトチップスは理性的ではないらしい。
 猫せんせーのネコ的な判断基準ではあるが、後者はなんとなく納得できる気がする。

 猫せんせーと一緒になってからは自分も猫せんせーの食生活に合わせているので、普段の食べものもだいぶ健康的な感じになっているのだ。

 ……よし、そうと決まれば鶏肉とヨーグルト、あとはこの際ケイジャンスパイスも市販のものではなく、専用のものを用意してしまいましょう。
 鷹の爪あたりを少なめ、オレガノ・タイム等のハーブを多めにして作る、猫せんせー専用のスパイスですよ。

「す、素晴らしいね。ヒロ、ぜひ吾輩を満足させるものを作ってくれたまえ」

 猫せんせーが威厳たっぷりに頷いてみせる。

「………………♪」

 でも、しっぽやネコ耳のピョコピョコが隠しきれていない。
 鼻血が出そうなほど愛らしい。

 そんなご機嫌な猫せんせーを抱えて、商店街を奥へ奥へと進んでいく。
 今度はぶらぶらとウィンドウショッピングをすることもなく、目的の店に一直線だ。

 たまに寄ることがある鰻女郎とその旦那さんの夫妻が営む和菓子屋『鰻処』も今回ばかりは素通りし、商店街の外れの方へ。

 そうして辿り着いたのは、インドから中東、さらに北南米の品までも広くカバーする香辛料・ハーブ店。

「あァら、いらっしゃァい!」

 アジアンな装いの店内に入ると、蠱惑的な装いのギルタブリル氏が迎えてくれる。
 海外にしょっちゅう出かけるらしく、言葉の発音もなんとなくこの国のイントネーションと少し異なっている感じだ。

 何度か来たことがあるので、奥のカウンターで氏と相談しつつ香辛料を量り売りしていただく。

 猫せんせーはふんふんと鼻を鳴らしながら周りを気にしていたので、床に降ろしてさしあげるとトテトテーっと香辛料・ハーブのサンプルが並ぶ棚の方へ一目散に駆けていってしまった。
 ちょっと寂しい。

「……ふゥん。じゃァ、こちらで混ぜてしまいましょうか。セロリシードは……」

 こういうのはやはり本業の方がよほど詳しい。
 店主はこちらのつたない要望を聞いただけで、最初から知っていたかのようにさらっとブレンドを始めてしまう。
 これでいて店の経営は趣味であると豪語するのだから、なかなかにとんでもない御仁である。

 少しだけ味見をさせてもらってから、店主に大きく頷いて代金を支払う。

 うむ。

 これなら猫せんせーもご満足いただけるはずだ。


 ――そして振り返れば、くたっと倒れた猫せんせーの姿が。


 …………え゛っ!?

 慌てて駆け寄ると、猫せんせーはマンガのごとくグルグル目になっており、耳はヘンな感じにピクピクしていた。

 うわ、これは大変だ!!

「にゃぇへぇぇ……ひろおぉぉ〜……」

 全くろれつが回ってないぞ!?

 いったい今のわずかの間に何が!?

「あァ……もしかして、コレ?」

 後ろから来た店主が、彼女の持つサソリの尾で店内サンプルの小ビンを1つ持ち上げる。
 若草色の液体が入った、フタの開いた小ビン。
 ラベルには『Catnip』とあった。

「キャットニップ……イヌハッカ、なァんて呼んだりもするかしら? 精油のこれ、ネコちゃんにはすこォし効きすぎたみたいねェ」

 イヌハッカの効能として、ネコ科に対して酩酊感を与えるような効果があるとのこと。
 類似した効果の他植物では、マタタビが挙げられる。

 うん、マタタビか。

「ひゃ、ひ、ひろぉぉ…………❤」

 見れば猫せんせーは仰向けになったまま目を潤ませ、しゃがんでいるこちらのヒザへとしきりに身体をスリスリ擦りつけてきていた。

 ……うん、どうみても発情しているぞ。

 これは、本当にマズいかもしれない。

「奥のお部屋ァ、使う?」

 何に気を遣ってくれたのかは全然分かりませんが、結構です。使いません。
 猫せんせーは理性のヒト、いやネコなんです。
 そんな他の方の家でなんてはしたないマネ、絶対にしませんよ!

 ぐったりしてる割りに妙に力強く引っついてくる猫せんせーを抱え、急いで外に……!!

「おっとッと……」

 あのですね、店主さん。

 なぜ、こちらが出ようとしていた入り口をその長いサソリ尻尾で塞ぐんです?
 出れないんですけど?

「あァら、ごめんなさァい。そこのビンが一つ、床に落ちちゃってェ……」

 そう言ってギルタブリル氏は、店内サンプルではない売り物の大きなビンを、今まさに尻尾に引っ掛けて床に転がした。

 ごとん、と転がったビンのラベルが目に入る。

 イヌハッカの葉入り精油だった。

「落として傷モノになってしまいましたから、今ならァ、とってもお安くしておきますわよォ?」

 効果はこの通りですわ、と店主が猫せんせーの頭を指で軽くなぞり、後ろから艶めかしく囁いてくる。

 ………………なんという商売上手。


 もうひとビン下さい。









 それから自分は、ヘロヘロになった猫せんせーを抱えて商店街を走った。

 手提げ袋の中の3本のビンががっちゃがっちゃ音を立てるのにも構わず、走った。

 もうこんなに走るのはいつ以来だろう、会社に勤めだしてからここまで全力疾走したことがあっただろうか、というぐらいには走った。

 しかし結果から言うと、間に合わなかった。

「――あぁ、あたまがグルグルしてぇ、からだがあつくってぇ、なんだかもうたまらないんだぁ❤」

 腕から自らしゅるりと降りてしまった猫せんせーが、こちらの太ももに縋るようにして頭を押しつけてくる。

 履いている自分のチノパン越しにも、猫せんせーの身体が火照っているのが分かった。

 だ、ダメですよせんせー。

 ここ、まだ外なんですよ!

「ねぇ、おねがいだからしゃがんでよぉ……❤ もうガマンできないんだ、おねがいだよぉ……❤」

 ……猫せんせーの、お願い。

 その普段は聞けないような言葉が脳天に突き刺さり、ついに覚悟を決めることにした。

 ギリギリの判断で商店街の表通りからは外れて、今は狭い裏路地に来ている。
 自分が背もたれにしているこの壁は、表の料理屋の裏口側だ。
 頭上で店の換気扇がぐおんぐおんと騒々しい回転音を立てている。

「ああ、あふぁぁ❤ おねがいだからぁ……❤」

 とろけた甘いジャムのような声に引きずられるようにして、ズルズルと自分の腰が地面へと下がっていく。

「あぁ、やっぱりやさしいなぁ、きみはぁ❤」

 立つ猫せんせーと自分の視線の高さが合った途端、彼女は待っていたとばかりに顔を押しつけてきた。
 こちらの鼻に猫せんせーのわずかに湿り気を帯びた鼻がくっついて、そのままグリグリと。

「うにゃ……きみのニオイに、こーしんりょうのニオイがまざってるねぇ…………。ダメだぞ、きみはぁ、わがはいのニオイしかつけちゃダメなんだぁ❤」

 マーキングしないと、マーキングだよ、と猫せんせーがうわ言のように何度もつぶやく。

 そして、なりふり構わずといった様子で猫せんせーはふかふかの顔をこすりつけてきたり、ザラつく舌でこちらの口の周りを舐めてくる。

 反射的に口を開けると猫せんせーの小さな舌がずるりと中へ侵入し、こちらの歯の裏をこそぐように何度もなぞった。

「ぇれ…………んむっ❤ れろぉっ❤」

 猫せんせーが息をするたびに、嗅ぐだけで頬が熱くなってくるような、彼女が発する煽情的なニオイがこちらの鼻へと否応なしに入りこんでくる。

「あ、あうぅ、しんぞーがおかしくなりそうだぁ❤」

 押しつけられたふかふかの感触の身体は、バクバク鼓動を鳴らしているのが確かに感じられる。
 
 猫せんせーは舌を伸ばし、こちらの舌の先へちょんちょんと当ててきた。

「にゃ、なめてほしいなぁ❤ ねぇ、なめてぇ❤」

 舌が小さいため、口の奥の方へは届かないようだ。
 口蓋にあたっていた猫せんせーの舌を持ち上げるように下方から自分の舌でなぞる。
 さらに、小さな舌をしごきながらお互いのだ液を交換し、こねるように混ぜ合わせていく。

 すると彼女はよりいっそう喜色を深め、ノドの奥から甘えるような声を出した。

「ふやぁっ❤ えれぇ、れる……ぢゅっ❤」

 ぢゅっ、ぢゅるっ、と猫せんせーの口が、普段の落ち着いた声音を発する口からは想像もつかないような下品な音を立てている。

 しかも視線を下に向ければ、自分のズボンの太ももが濡れてきていた。
 それに驚き、ディープキスを中断してしまう。

「にゃっ……うにゃ、どうしてぇ……?」

 こちらの太ももに跨っていた猫せんせーの腰がくねり、擦られた部分からは粘着質な染みが広がっていく。

 たまらず猫せんせーを両手で持ち上げ、透明な糸でテラテラと光る下腹部に顔をうずめた。

「に、やぁぁぁぁぁぁっ❤」

 直前の寂しげな声がウソのような嬌声。

 腰が逃げて引こうとする猫せんせーを、その後ろから腕で抱えこみ、さらに顔を押しつける。
 ぴっちりと閉じた小さな下腹の谷間にちょうど口が埋まり、鼻先にツンと当たるものがあった。

「あう゛っ❤ らめだぁっ❤ はな、はなでいきしゅるのらめだぁっ❤」

 息を吸うと、脳天に刺さるように錯覚するほど深く猫せんせーの匂いが自分の体内に入ってきた。
 吸うほどに自分の息が荒くなり、彼女の奥へと侵入したくてしたくてたまらなくなる。

「にゃ、なめてるよぉぉ、わがはいのナカまでしたがはいってくるぅぅぅ❤」

 猫せんせーの温かい部分が全て集まってできているようなその中心は、ひどくヌメッて柔らかくなっていた。
 鼻先を猫せんせーの陰核に触れさせながら、舌を伸ばして柔らかい穴へと突っこむ。

「あ、ああぁぁぁぁああっ❤」

 一際高い声が裏路地に響いた。
 そして、ぴちゃ、ぴちゅっ、とこちらの上アゴに猫せんせーの膣口から漏れた飛沫がかかる。

 彼女の身体が、こちらの首にぎゅっと回された小さな脚が、何よりも柔らかい太ももの付け根がビクビクと数回に渡って痙攣し、そのたびにサラサラした水しぶきが顔に当たった。

「う、やぁ、やらぁぁぁぁ❤ こんにゃのしらない、しらにゃいよぉぉぉぉぉぉ❤」

 息をするのもツラくなるような、こちらに強烈な陶酔をもたらす匂いのする水しぶき。
 どうやら猫せんせー、潮を吹いてしまったようだ。

 舌を入れただけでここまでひどく乱れる猫せんせーの姿は初めて見た。
 これはそうか、キャットニップで酩酊し、発情してしまったからここまでヨがっているのか。

「あ、あうぁぁ❤ したがうごいてるっ❤ わがはいのえっちなおしるっ、のまれてるっ❤」

 舌を細くまるめて猫せんせーの狭い穴に突っこみ、膣内で舌の形を変えつつ前後に動かす。

 膣の上側をなぞるように舌を引きずり出すと、ぷしゅっ、ぷしゅっと彼女の中に残っていた潮が勢いよく漏れ出てくる。

「うぁぁっ、あっ、やぁぁぁっ❤❤❤」

 そのたびに、猫せんせーは自分以外の他の人には絶対聞かせられないようなあえぎ声を上げ、いやいやをするような動きで髪を振り乱した。

 ――しかしその時、遠く裏の方から複数の大きな笑い声が聞こえてきた。

 どうやら自分たちが背にしている食堂の中から聞こえてきた笑い声であるようだ。

 それを聞いて、突然思考の一部が冷静になった。

 向こうからの声が聞こえているということは、こちらからの声も聞こえてしまうということ。
 今はまだ、こちらに気づいていないとは思うのだけど……。

 これはよくない。むしろ、非常にマズい。

 複数回オーガズムの波があったのだろう、ひゅーひゅーと荒く息をついていた猫せんせーを、悪いと思いつつも下に降ろした。

 猫せんせー、すみませんが今はこれで――

「――あっ…………❤」

 ……しかし猫せんせーは何を誤解したのか、地面にくたりと寝そべると、脚を開いてこちらに見せつけてきた。

 女性の一番大事なところを野外で無防備にさらけ出し、こちらをひたすらに待っている姿勢。
 コハク色の目はドロリと融けたかのように濁り、舌を出して喘ぐ口からは幾筋もヨダレが流れ出ている。

 もうそれは、オスの種が注がれるのを待ち望んでいる発情したメスの姿でしかなかった。

 わずかに戻った自分の理性が、即座に消し飛んだ。

「い、いいよぉ❤ ねぇ、きてぇぇ❤」

 何かこちらが問う前にろれつの回らない口調でおねだりされ、ズボンを脱ぐ動作ももどかしく自分のペニスを取り出した。

 それを見た猫せんせーが目をトロンと潤ませる姿に、自分の背中のあたりがゾクゾクとする感覚を得る。

 そして、次の瞬間にはためらいなく彼女の穴にペニスを突き入れていた。
 入れた余韻を感じる暇もなく、ドロドロに蕩けた肉の中に侵入した剛直は、ズルリと一気に最奥まで挿入されてしまう。

「にゃ❤ ふにゃ――――む゛ぅ!?」

 ギリギリのところで口を塞いだ。
 上から片手で彼女の小さな口を覆うように、ともすれば頭を地面へと押しつけるような格好だ。
 ただ、どうしても猫せんせーの喘ぎ声は他の人には聞かせたくなかった。

「む゛ぅぅぅ❤ ふむ゛ぅぅぅぅ❤」

 声を出せなくなった猫せんせーは、代わりにこちらの手に噛みつくことで交尾の快楽を耐えようとしている。
 そのいじましい努力に、さらに興奮してしまう。

 噛む力が強くなるのを感じながら、仰向けになった猫せんせーの膣にペニスを上から何度も叩きつけた。

「む゛ぐぅぅぅ❤ ぐぅっ、ぎっ❤ む゛ぅぅぅ❤」

 体格差から猫せんせーの膣内とこちらの肉棒では、サイズが全く合っていない。
 奥へと強引に挿入すると猫せんせーのナカはそれを柔らかく受け入れてはくれるものの、ぐにぐにと膣肉がペニスのカリ部分に引きずられるようについてくる。
 そのため、抽送のたびにぐぼっぐぼっと下品な音を立てて猫せんせーの膣から空気が出入りしていた。

 そのことを意地悪く指摘すると、猫せんせーは快楽が羞恥か分からない涙を流しながら首を横に振ろうとした。

「あ゛ゔぅぅぅぅ❤ ひがっ、ひがうんぁぁぁ❤ これっ、ひがうんぁぁぁっ❤」

 必死に否定する猫せんせーではあるが、普段の理性的な様子など今はカケラも残っていなかった。

 何度もナカをえぐられ続けたためか結合部は猫せんせーの白い愛液で濁っている。
 そして、こちらが腰を動かすたびにぶぴぶぴと卑猥な音を鳴らしつつ空気と混ざりながら、ピンクのヒダがわずかに覗く膣口周りでねばっとした泡をいくつも作っていた。

「ふえ゛っ……ふお゛ぉぉぉぉっ❤」

 まるでえづくようなくぐもった声で猫せんせーが達すると、ぎゅぅぅっと膣内が締まり、ペニスが奥へ奥へと飲み込まれた。

 ……こんなレイプみたいな交尾でも、猫せんせーの身体はこちらの精を受け入れようと一生懸命動いてしまうようだ。

 口を押さえた指を噛む力が一際強くなったところで、こちらも彼女の一番奥に容赦なく射精した。

「ゔゔぅぅぅぅぅぅっ❤❤❤」

 ひたすら猫せんせーの子宮に流し込むように、脈動するペニスから精液がどくっ、どくっと放出される。

 猫せんせーの最後の絶叫を少しでも抑えようと、上から地面に抱きこむようにして全身で音を塞いだ。

「ゔあ゛っ❤ あ゛っ…………あ゛ゔぅっ❤」

 身体を痙攣させながら放心した猫せんせーをまた強く抱きしめ、残った精液も全て注ぎ終わるまで2人でじっとしていた。

 お互いに、荒い息をゆっくりと整える。

「あぁ…………はぁ❤ きみ、それはぁ…………」

 少し経ってからようやく手を離すと、猫せんせーがぐったりとしつつも何やら指摘してくれる。
 見れば、ずっと猫せんせーに咥えられていた部分が噛み跡になり、若干の血が滲んでいた。

「た、たてないよぉ……ねぇ、手、こっちに……」

 猫せんせーに言われ、手の傷のところをせんせーの顔の近くにかざしてみる。
 すると、彼女の温かな舌が傷の周りを穏やかな動きでチロチロと這いまわった。

「んふ、きみの味がするなぁ…………❤ これ、すっごくしあわせだぁ…………❤」

 ……まだ猫せんせー、キャットニップの効果が出てらっしゃるのかもしれない。

 これは、とんでもない掘り出し物を手に入れてしまったかもしれないぞ。

 下腹部から精液を裏路地の道路端にたれ流している淫らな彼女の姿を見下ろしながら、そんな考えが自分の脳裏をよぎったのであった。










 はい猫せんせー、できましたよ!

 そう言いつつ自室のテーブルに、今日の料理の載った大皿を置いてみる。
 匂いはなかなか悪くない出来なのだけれど……。

「………………」

 今、部屋の端にあるベッドに横たわっているお方こそが、我らが猫せんせーである。

 しかし猫せんせーは、壁の方を向いたままだ。
 こちらを振り向いてくれる気配が全くなかった。

 ……ご機嫌、そろそろ直していただけませんか?

「………………にゃ」

 ほら、猫せんせーご所望のケイジャンチキン、我ながら結構うまく作れたんですよ。
 見てくださいこれ、かかってるソースも赤じゃなくてオレンジ色で、あまり辛くはなさそうでしょう?

 きっと猫せんせーのお口にも合うと思いますよ?

「………………ねえ、ねえ、ヒロ」

 ようやく言葉を発してくれた。
 ずっとこの調子であれば、こちらも困ってしまうところだった。

「ヒロ、あのね。その、だよ?」

 後ろを向いたままぽそぽそとしゃべる猫せんせー。
 一体どうしたというのか。

「その、吾輩のこと、キライにならないでほしいな……」

 ……ん? ええと、つまり?

「吾輩は、ヒロのせんせーだから……。あんなお外でいっぱいえっちしていっぱい感じちゃう、はしたないメスだって思われたらイヤだな……」

 ………………なんと。
 何を言うかと思えば、そんなことでしたか。

「そ、そんなって……。ヒロも、幻滅しただろう? それが吾輩には――――にゃっ!?」

 後ろを向いているせんせーに忍び寄ってむぎゅっと抱きあげ、当家の食卓であるちゃぶ台へと運んでいく。
 そして、そのままあぐらをかいた自分の上に、目を白黒させている猫せんせーを載せる。

「ひ、ヒロっ!?」

 残念ながら自分は、どんな猫せんせーでも大好きですよ。
 むしろ昼間の積極的な猫せんせー、とても良いと思いました。

 自分は何を隠そう、偉大な猫せんせーの1の生徒。
 むしろ猫せんせーに自分がイヤがられたとしても、こちらから必死に張りついていくくらいの覚悟を持っていますからね。

「にゃっ、あぅ…………そうかぁ」

 ネコ耳の間の黒白毛並みの頭やアゴ下のあたりをかいぐりかいぐりしつつ熱弁を振るっていると、猫せんせーが安堵したようにそう言ってくれた。

 では、冷めないうちにいただきましょうか。
 実は自分はですね、ごはんを美味しそうに食べてくれる猫せんせーがとりわけ大好きでして。
 ここだけのヒミツですけどね。

「ふふっ…………うむ。ではヒロ、吾輩にそのケイジャンチキンとやらを取り分けてくれたまえよ!」

 猫せんせー、元気が戻ったようで何よりである。

「んにゃ! すぱいしーと言うわりには、あまり辛くないな! これはおいしいね!」

 そして料理もお口に合ったのならば、万々歳というものである。

 ナイフで骨から切り分けたチキンを猫せんせーに献上しつつ、自分も味を確認して頷いたりしてみる。
 休日の料理のレパートリーが増えるのは喜ばしい。

「んもんも……。しかしヒロ、あんな吾輩の姿が良いだなんて、きみは意外と業が深いのかな? ……その、お外でするのはどうなのかと思うのだけどね?」

 ううむ。

 別にこちらとしては外か内かは関係なく、ただハーブの効果で酩酊して乱れまくった猫せんせーがとても良かったと言いますか……。

「にゃっ、あうぅ…………」

 ご飯を食べつつ顔を赤らめる猫せんせー。
 昼間のことを思い出しているのだろう。

 …………あ、でも。

「む? どうしたのかな?」

 それなら、家の中でなら問題ないってことですか?

 一応、あの店で例のハーブは買ってあるのですが。ふたビンほど。

「そ、それはぁ……。というかヒロ、買ってしまったのか……」

 膝の上でもじもじとする猫せんせー。
 恥ずかしいのだろうか、それとも……。

 あのですね、猫せんせー。

「…………?」

 疑問符を頭に浮かべてこちらを向いた猫せんせーに、細かく割いたチキンを箸でお渡しする。

 ぱくりと咥えたのを見てから、箸の手前にへばりついていた細切れの葉っぱを手に取った。

 猫せんせー。これ、なんだと思いますか?

「にゃ、なにかな? 香辛料なのだろう?」

 実はですね、この葉っぱ…………。

 キャットニップっていう名前なんですけど。

「ふにゃっ!? ヒロっ!?」


 そんなこんなで、猫せんせーとの休日は過ぎてゆくのであった。
 
 
17/06/04 16:35更新 / しっぽ屋

■作者メッセージ
 
ケイジャンチキン・ヨーグルト。
おすすめです。

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