魔物娘掛け合い漫才:『猫と金魚』
「ねえねえマーチヘア、窓のつっかえ棒しらなーい?」
「つつつ、つっかえ棒ですか!? ドコにつっかえさせるんですかっ♥♥」
「窓にゃ。そんな口あけてぺろぺろする動きは必要ないよ?」
「チェシャ猫さんの、お窓…………♥♥♥」
「うん。なんとなく想像してることはわかるけど、この家の窓のつっかえ棒だからねー?」
「そうですよね♥ チェシャ猫さんのは窓というよりは」
「それ以上はいけなーい!」
「イケないっ♥♥」
「…………」
「放置プレイっ♥♥♥」
「他のをあたるとするかなー……」
「あぁん♥ 待ってくださいよぉ♥ 1人にしちゃやぁですよぉ♥」
「はじめにマーチヘアに話しかけたことを後悔してる私がいるにゃ」
「そんなぁ……♥♥ チェシャさんのお手伝いならなんでもしますよぉ〜♥ それで、どうしてつっかえ棒♥ が必要なんですかぁ?」
「久しぶりに飴じゃなくてふつーの雨が、雫のほうのドロップが降りそうだったから、窓と雨戸を閉めようと思いたったのさー」
「この国じゃだいたいおクスリ入りの飴がぱらぱら降ってきておしまいですからねぇ……♥♥ あとはえっちなお汁の雨とかぁ♥」
「今回はほんとうの雨らしいよぉ?」
「どうしてチェシャ猫さん、知ってるんです?」
「さっきハートの女王が『もーゼッタイ雨ふらしてやるんだから! みーんな酸性雨でとけてなくなっちゃえ!! びゃああああん!!』って言って泣きながら走ってたからねー」
「えっ」
「どうせ遊びにきてたアリスにカードかクロッケーかなにかでメタメタに負けたんだろうけどー、なかなか大人げないのかマセてるのかわからない発言だったなー」
「たたた、大変じゃないですか!?」
「おお、マーチヘアがハートも付けずに驚いてるっ。めずらしいっ」
「そんな、みんなで溶けあって1つになっちゃうなんてっ……♥ はあぁぁぁぁああんっっっ♥♥♥」
「いつも通りだったにゃ。あとそんな融合エンドみたいなのイヤにゃ。どうみてもバッドエンドにゃー」
「はぁ……はぁ……♥ それで、どうスるんですかぁ?」
「マーチヘアとは何もしないけど、とりあえずこのキノコの家の窓は全部閉めておこうかなーと」
「キノコっ♥♥♥♥♥♥」
「今さらそこ反応しちゃう? 私らが昔から住んでる家なんだけどー?」
「だってウサギですからぁ♥♥ ウサギなら帽子屋さんのキノコの帽子を見ただけでもぉ……んっ♥……今日も1日、ガンバりますっ♥♥♥」
「わかったにゃ。オマエが他のマーチヘアとくらべても一段抜かしで上にいるってことがわかったにゃ。あるイミ上級者にゃ」
「ぬ、ぬか、ヌかすっ…………!?」
「……まあ女王サマのワガママも、いきなり予告なしに洪水ドバーッじゃなくて、ただの雨で良かったと思うしかないかなー。ということで、雨戸用のつっかえ棒知らなーい? 久しぶりすぎてどこに置いといたかサッパリ」
「持ってません! 私、持ってませんっ!!」
「なんか突然マジメな顔になったし」
「ゼッタイにこの部屋のベッドの下にしまったりなんかしてませんからっ!!」
「…………」
「ああっ♥ そんなっ♥ ムリヤリぃっ……♥♥ ムリヤリしないでぇっ……♥♥♥」
「どうせそのテの絵本か、コドモ向けじゃないオモチャしか置いてないでしょーが」
「ああっ! 奥に手ぇツッコんじゃダメぇぇ♥♥♥」
「む? 硬い感触。これかなー?」
「ああ〜〜〜〜っ♥♥♥」
「……ふつーのえっちな本ですらない、マジモンの春画が出てきたんだけどー……」
「あっ♥ それはダメ♥ それはタツシカ・ナンサイ先生の『亀と烏賊』じゃないですかっ♥」
「…………はっ! 予想外すぎて一瞬バッドトリップしかけたにゃ。チェシャ猫さんともあろうものが、不覚不覚」
「だ、ダメぇ♥ 見てくださいこのイカさんの触手のリアルさ♥ ダメだけど見てぇ♥」
「この国で春画が出てくるとか、バラの色をペンキで塗り替えさせられるくらい理不尽な話だにゃ。ひとまずこれはポーイ」
「ああ〜〜〜〜っ♥♥♥」
「このベッドはムダに広いし、どうせまだ奥に何か隠してるに違いなーい」
「お、奥っ!?」
「む、ツメにまた硬い感触が。箱かな?」
「あぁぁ♥♥ 奥のほうカリカリしちゃダメぇぇ♥♥♥」
「なんだかチープな感じの宝石箱が出てきた。うん、これこそ不思議の国ってアイテムだねー。にひひ、つっかえ棒とは関係ないけど開けていーい?」
「だ、ダメダメ♥ それだけはダメぇっ♥♥」
「……ホントにダメなのか前フリなのかまったくわからないにゃ。まーいいや、お砂糖が出るかスパイスが出るか、どっちかなーっと」
「ナカはっ♥ ナカは許してえぇっ♥」
「あ、お人形が出てきた。案外ふつー……う?」
「あら? チェシャさんどうしたんです?」
「……これ、私の人形じゃないの?」
「いいえぇ、私のですよー♥」
「そうじゃなくて、どー見ても私のカッコした人形だにゃ。しかも、この家のドーマウスやマッドハッターの人形も並んでるにゃ」
「…………見ちゃいましたねぇ?」
「な、なんにゃ!? というかなんでコイツら人形のクセに全部服を脱がされてるにゃ!? しかも造形がすっごくリアル!!」
「………………♥♥♥」
「うわ近い! いつの間にマーチヘアは私の後ろに張り付いてたにゃ!? なんでこの人形たち、ところどころ薄くシミが付いてるにゃ!?」
「……うふっ♥♥ そろそろ新しい人形を作り直さなきゃいけないなー♥ と思ってたんですけどぉ♥ ちょうどご本人の公認で材料を取れるいいチャンスですねぇ♥」
「にゃ!? 材料ってなんにゃ、公認ってなんのことゃ!? んにぎゃぁーーーー!!」
「……あ、危ないところだった、もし私のオハコな空間転移魔法がなければあれで話が終わってたにゃ。マーチヘア、意外と闇の深いヤツだったにゃ」
「む? あれは……」
「しかもつっかえ棒は見つからずじまいとか損ばかりにゃ。マーチヘアのとんちんかん、役立たずっ。もう空はまっくろでゴロゴロだしー……」
「チェシャか。どうかしたのか?」
「あ、ジャバウォック!」
「いきなり家から出てきて、どうした?」
「かくかくしかじかー、にゃ」
「なるほどわからん」
「この家の発情マーチヘアには誰も勝てないということがわかったのさー」
「む、ドラゴンを前にして勝ち目がないなどとぬかす輩があるか。我は何よりも強いぞ。だが、この家にはあの飄々とした食えない奴がいただろう」
「マッドハッターのこと?」
「そうだ。奴ならウサギの一羽や二羽、首に紐をかけておくのは余裕だろうに」
「マッドハッターは今、自家製のキノコ果樹園に出向いてるからねー」
「自家製キノコ果樹園!?」
「そ。植えた木からキノコの果実が生えるにゃ」
「なんだその意味不明な果実は」
「表面が黒々と甘く塗られたキノコにゃ。ジャバウォックも欲しい? 私はタケノコがすきー」
「わからん、全くわからん……」
「最近は1つの木からとれる実の数が減ってサイズも小さくなってるとボヤいてたにゃ。不況にゃ」
「……あー、帽子屋についてはわかった。しかしチェシャの所は4人暮らしだろう、もう1人は?」
「ドーマウス?」
「ああそうだ、いつも寝ているネズミだ。私は久しく会っていないが」
「ずぅっとティーポットに入ってるからねぇ」
「で、そいつは?」
「にひひ、寝てる子が発情ウサギに勝てると思ーう?」
「まあそうか」
「むしろ今はマーチヘアに襲われてると思ーう」
「そうなのか!?」
「掴みかかってきたマーチヘアをとっさにティーポットの中にワープさせちゃったからね!」
「なんてヤツだ……」
「ところでところで、もうすぐ雨がドシャッと降るらしいけど、ウチで休んでいかなーい?」
「む、ちょうど私も雨雲を見て狩猟から帰ろうとしていたところだ」
「グッドタイミーング! ピッタリ賞で今なら媚薬紅茶のネズミ漬けと、ついでにエロエロ兎をプレゼントー!」
「それはいらん!!」
「だよねー。じゃあ本題、雨戸を閉めたいけれどもつっかえ棒が一本足りないんだよ」
「棒などないぞ、だが狩猟用の弓なら森で拾った」
「そうそうそれそれ、そのちょうどいい長さのボウを貸してくださいな」
「仕方ないな、壊すなよ。だがもてなしは期待していいんだろうな?」
「もちろんもちろん、媚薬紅茶と睡眠薬紅茶、ついでに黒光りするキノコもいっしょにどーぞ!」
「普通の紅茶を出せ!!」
「不思議の国にふつーを期待しちゃいけないよー」
『おおぉぉぉぉ♥ おほぉぉぉぉ♥』
「にひひ、働いたあとの紅茶はおいしーねぇ」
「この状況でよく落ち着いていられるな……」
『もうダメぇ♥ 私っ♥ 濡れウサギになっちゃいましたぁっ♥』
「雨の音を聞きながら飲む紅茶もオツなものだねー」
「私は雨音よりも、隣でガタガタ揺れてるバカでかいティーポットが気になって仕方ないんだが」
「だいじょーぶ! 今飲んでる紅茶はあの中のじゃない可能性が高いから!」
「いやそういう話じゃ…………え、低い可能性ではあり得るのか!?」
「この中身不明の紅茶がドーマウスの媚薬漬けかどうかそうでないかは、実際に飲んでみるまでわからないー、ってね!」
「なんの猫なんだオマエは」
『ああっ♥ ドーマウスさんのネズミさんがびちゃびちゃになっちゃってますっ♥ これぞまさに濡れネズミっ♥』
「うるさい! というかネズミを淫語のように言うなこのエロ兎!」
「ティーポットにどなってる。ダメだよぉ、外からあの中へは声が届かないらしいから」
「じゃあなんで中の声は聞こえるんだ!?」
「不思議の国ではよくあること!」
『あはぁっ♥ 私も中に届いちゃいますよぉっ♥』
「わからん……実はこちらの声も向こうに聞こえてるのか、偶然言葉のタイミングが合っただけなのかわからん……」
「お、そろそろジャバウォックもあの中が気になってきちゃったかなー?」
「いや気にならん。まったく気にならんな」
「またまたー」
「イヤだぞ。たとえヴォーパルな剣を突きつけられようと私はあの中を覗こうとは思わん」
『おおぉぉぉぉ♥ 寝てるドーマウスさん全然反応ないぃっ♥ 私っ、寝てる子無理やりプレイと放置プレイを同時に楽しんじゃってるぅぅぅ♥♥』
「ほら、うるさくてかなわないんでしょー?」
「本当にうるさいな!! なんでああも1人で盛り上がれるんだ!?」
「ウサギは2種類に分けられる! 1匹になると寂しくて死んじゃうタイプ。……そして、1匹になると発情しちゃうタイプ!」
「ウサギ面倒くさいな!! チェシャ、オマエが行ってくればいいだろう!」
「えー、マッドハッターが戻ってくるまで無視しとこうと思ってたんだけどなぁ」
「……しかし、ドーマウスが不憫だろう」
「にゃ? ドラゴンさん、なんとお優しーい」
「う、うるさい!」
「まー、さすがにマーチヘアもあんまり酷いことはしない……といいなぁ……と、思ってるんだけどねぇ」
「全然ダメじゃないか! 信用ないな!!」
「ならこうしよう。2人でいっせーの、せっ、だ。2人がかりであの中に転移すればいけるいける」
「と言っておいて、蓋開けてみれば私1人でオマエは逃げ出してた、とかないよな?」
「…………にひひひ」
「その顔はウソをついている顔だッ!!」
「なんでー? 私はいっつもこんな顔でしょーう?」
「く、これ見よがしにニヤニヤしおって!」
「それでー、行くの? 行かなーいの?」
「行かな……」
「あっれれー? ジャバウォックってドラゴンだよねー?」
「…………む? なんだと?」
「ドラゴン種って何よりも強いんでしょ?」
「ああ、無論だ。我らは何よりも気高く、強く、そして魅力的でなければならない。我に挑むガッツのある男子には即オチするだろうが、それ以外には絶対に負けん」
「なにその限定的な弱点ー……。でもそれなら、気高いドラゴンがウサギの一羽も止められないワケがないよねー? にゃー?」
「ふん、当たり前だ! ……ならばこの力、存分に見せてやろう! チェシャ、オマエも一緒に来いッ!」
「ほいほーい。じゃあ、おててを繋いでー、と。いっせーのっ、せっ!」
「よし行くぞッ! 私は、絶対に負けないッ!」
「…………って言ったら転移するからね?」
「おいっ!? 入れた気合いを返せ!!」
「にひひ。ベタベタなじょーだんだよっ」
「全く、しっかりしてくれ……」
「せっ」
「あっ!?」
「ふぅ、外の雨はすごいね……。酸で服が溶けてしまいそうだよ」
「あ、マッドハッター。雨はだいじょーぶだった?」
「ただいま。この溶けきったキノコの帽子で防いでいなければ危ないところだったよ」
「……それマッドハッターの本体だよね?」
「ははは。ところで、1人でお茶会とは寂しいね」
「うんにゃ、ほらドーマウスも」
「ああ、膝に寝転がってたんだね」
「でも寝てるから、退屈なのには変わりないねー」
「ふむ。すると疑問が生じるな。そこのティーポットは……」
『おおぉぉぉぉ♥ おほぉぉぉぉ♥』
『おおぉぉぉぉ♥ おほぉぉぉぉ♥』
「よく聞けば悲鳴が2人分。どういうことかな?」
「にひひ。ジパングには、エトって考え方があるらしーねぇ」
「ああ、干支か。鼠年、牛年、虎年、兎年、龍年……という順番で年月が交代していくヤツだね」
「それそれ。最初はネズミさんが居たけど、後からウサギさんが飛び込んじゃってね? そこで、さらに次の番の人にネズミさんと交代で入ってもらっちゃったのさー」
「なるほど。君は行かなくてもいいのかい?」
「残念ながら、ネコの年はないんだにゃー」
17/04/12 23:58更新 / しっぽ屋