心溶かすは魔の氷柱
いくら進化しようとも、極寒の中で動き続けられる生物はいない。
ましてやそれが人間であるなら尚のことである。
点々と木々が立ち並び、真白い雪で覆われた険しい山中。
勢いは多少減り始めたが、まだ止まぬ吹雪が誰も彼もに吹き付ける、極寒の中。
一匹の魔物である彼女は、弱まりつつあるヒトの、その精の匂いを敏感に感じ取った。
その胸中には呆れが半分、己でも判然としない何かが半分。
「よもやこの季節に、斯様な山の中へ入る愚か者がいようとはな」
氷の精霊である彼女にとって、雪も吹雪も身体の一部のようなもの。
深く積もった真白の絨毯を、匂いのする方へ、いささかの苦も無く進む。
さくり、さくりと、その長身にそぐわぬ軽い音が雪を踏み分けていく。
彼女が思うよりずっと近くに、そのヒトはいた。
歩くのもおぼつかない足取りで、幾分弱まった吹雪にさえ翻弄されている。
そしてまだ細く小さい、男の子(おのこ)だ。
魔物である彼女は確かに長身だが、少年の背丈はその胸ほどしかない。
雪解けで濡れた衣はもはや服の体など成さず、体温を奪うのみ。
吹き付ける雪で前方すらよく見えていないのか、立ち止まった彼女に正面から当たるまで、少年はその存在に気付かなかった。
「……あ」
身体の触れたその男の子から小さな声が漏れる。
彼が恐る恐る見上げた先には、ヒトらしからぬ青白い肌の、すらりとした長身の女性が立っていた。
「童(わらし)か」
透き通る氷のような青い髪色で、真っ直ぐ揃った前髪に、頬を通って胸まで垂れる二つの長い髪。後頭部を含め、身体の所々から覗く氷柱のようなもの。
隻眼なのか、片目は眼帯と氷柱らしきもので隠れているが、息を呑むほど端正な顔立ちと、さながら尖った氷のように鋭い目つき。
この雪山では奇異にしか見えない、所々から肌を露出した着物の格好。だが、吹雪の中で雪解けに濡れた様子も、凍える様子もない。
ヒトであるか、そうでないか。彼にはもうそれを判断する力もまばらだった。
「そなたは、何処行く者ぞ」
女は少年に問いかける。
答えを待つこともなく、彼女は少年の痩せた手を握った。
「……!」
少年の凍え切った手は彼女よりも冷たく、か細く。
体温を奪われ、弱り果てた身体はびくりと震える。
「案ずるな。いくら魔物であろうと、貴様のような迷い子に手を掛けなどせぬ」
女性にしては低い、冷ややかさを感じる声。
その半分は意図的な物であり、余計な情を掛けるのを嫌ったものである。
「……まもの、さま……?」
「そうだ。我はこの雪山に住む精霊にして魔物、氷柱女(つららおんな)ぞ。
凍えてろくに口も利けぬのなら、有無を言わさず麓へ返す。
望むなら、何処(いずこ)へなりとも連れて行ってやる」
「つれていって……くださるのですか」
「童よ、何処を望む」
手を握ったまま、彼女はくるりと少年に背を向ける。
寒さで言う事を聞かず、かちかちと鳴り続ける歯音を必死で抑えながら、少年は言った。
「僕を、天の上まで、連れていってくださいませ」
吹雪が掻き消してしまいそうなその小さな声を、彼女ははっきりと聞き取る。
朦朧とはいえその言葉は、この寒さの耐え難さから口に出たのではない。
寧ろこのまま、自分を凍らせてくれと願うような、冷たい願望。
氷柱のように鋭い女の眼が、さらに尖る。
「……うつけが。何を口走ったか、分かっておるのか」
「二言は、ありません。どうか……このまま……ぼく、を……」
消え入りそうな体の熱は、更に小さく。もはや震える事すらままならなくなっていく。
そんな少年の手を、彼女は力強く、ぐいと引っ張った。
「付いて参れ。天国へ、連れて行ってやろうぞ」
強引に手を引かれ、少年は無我夢中で足を動かしていたが。
いつしか柔らかい何かに抱かれ、ふわりと身体が浮いた所で、記憶が途切れた。
――――――――――――――――――――――――――
ここは、どこだろうか。
身体はうまく動かないし、頭の中はふわふわと夢見心地だ。
もしかすると本当に、あの魔物様は僕を天国へと連れて行ってくれたのか。
暗いけれど、身体が、今も柔らかい何かに包まれているのが分かる。
降り積もる新雪が、僕を埋もれさせるように――、
「気は付いたか、童よ」
声は低いが、ささやくような優しい声。
薄く目を開けてみるが、それでも目前は暗く、青白い。
身体もそうだが、顔ごと、今まで感じたことがない程の柔らかさに埋もれている。
「まだ、口は回らぬだろう。焦ることはない」
全身の感覚が、少しずつ元に戻っていく。同時に身を包む柔さもまた、強く感じられる。
ぎこちなくも動く手の指が、自分を包むものをなぞる。
乾いた自分の着物と、何か布の生地と、もうひとつ。
人肌よりは冷たく、だがそれよりも軟らかで、柔らかな肉付きの肢体。
ようやく自分は察し始める。
今、己を包んでいるものは、先ほど出会った魔物様の身体なのでは、と。
「末端も解け始めたか。もう少し、こうしているとしよう」
顔が、首が動くようになると、自分を包むものからほんの少し離れる。
狭い視界の中に見えたのは、やはり先ほども見た、麗しき氷柱のような眼。
隻眼のその蒼い片目が、僕をじっと見下ろしていた。
「どうだ。気分は」
僕の頭をひんやりとした細い指が撫でる。
ああ、やはり僕の身体を包んでいたのは、あの魔物様の肉体だった。
「……ぁ」
そして僕が顔を埋めていたのは、たゆんとした、掌にも余る豊かな二つの乳房の間。
それに気が付くと途端に気恥ずかしくなって、顔から火を噴きそうになる。
だが、ぎゅうっと全身を抱きすくめられている今は、抜け出す力も気力も起きない。
「ふふ、顔にも血の気が戻ってきたようだの。初心(うぶ)で愛い奴め」
まるで赤ん坊を泣きやませるように、彼女はまた僕の頭を優しく撫でる。
もう片方の手が、労わるように背中をさする。
その掌はひやっとしているのに、触られると凍てた身体が融け出すのが分かった。
「良い心地になってきたな、お前の熱を感じられてきた。
もう口も利ける頃だろう」
「……はい」
幾分の時間が経って、身体の凍えは大分解け切った。
もぞもぞと僕が身体を動かすと、ほんの一瞬だけ名残惜しそうな顔をして、魔物様は僕から離れ始める。
そこでようやく、自分が魔物様と同じ布団の中で眠っていたことを知った。
「……ここは」
「粗末ながら我が住処よ。ヒトを、それも男(おのこ)を入れたのは初めてだがな」
凍り付いて使い物にならなくなったはずの身体は、ぎこちなくも元のように動く。
厚い布団と魔物様の温かみは恋しかったが、布団から這い出て周りを見渡す。
木造りの床と壁は簡素だが、僅かな格子窓から見える、依然雪景色の外の寒さを驚くほど防いでいた。
そして見たこともない色で部屋を照らす、明かりのような石が天井から吊ってある。
自分が居た場所とは何かが違う気もしたが、はっきりとわかるのは一つ。
「天の上では、ないのですね」
ぽつり、思わずそんな言葉が口に出てしまう。
しまったと思いながら魔物様を見遣ると、僕がさっき彼女から離れた時と同じ、どこか淋しそうな顔をしていた。
「その言葉、やはり妄言ではなかったのだな」
「……申し訳ございません」
いかに物分かりの悪い自分でも察している。彼女は僕を寒さから救ってくれたのだ。
そんな恩人を無下にするような言葉を、何故吐いてしまったのか。
自責の念を悟られたか否かは分からないが、魔物様は僕に問いかける。
「何ゆえだ」
「……」
「何ゆえ、斯様な山へ、この極寒の季節に訪れた。
それを語るまでは、貴様を何処へとも遣らん」
彼女の片目には有無を言わさない、この自然の寒さよりも厳しい眼光があった。
「取り留めもない、掃いて捨てるようなつまらぬ話ですが」
「構わぬ」
その視線に射抜かれ、僕は粛々と語り始める。
「武家の没落、か。道理で童にしては流暢に話すと思うたよ」
「……恐れ入ります」
小さな武家の末子として育ってきた自分は、修練もそこそこに戦へと駆り立てられた。
強大な隣国に睨まれ一刻の猶予もなく、自分のような未熟者を一角の将と祀り上げた。
だが。
そんな建前の軍勢など、圧倒的な兵力の前では塵に同じ。
初陣より敗軍として追われ、ほうほうの体で独り、雪山へ落ち延び。
鎧も武器も矜持も捨てて、一寸先も見えぬ吹雪嵐を彷徨う中。
気がつけば、そこで貴方様と出会っていたのだ、と。
「つまらぬ話だ」
「先刻申し上げた通りです」
「違う、貴様に言ったのではない。
戦事を起こす連中を、貴様のような童を祀り上げたという連中を指して、言ったのだ。
争い騒ぐ事しか出来ぬ、詰まらない、不器用な者どもよ」
怒るような、呆れるような、憐れむような、そのどれでもないような――。
人に非ざる魔物様の心中など、自分に察せるはずもなく。
「経緯は分かった。だが、肝心な所がまだだ。
何ゆえ貴様はああ言ったか」
「……」
しばし黙ってしまったが、彼女は先を急くよう煽ることもなかった。
「『勇敢に生きた者は、たとえ誰であれ天に昇り、愛される権利を持つ。
もし天の上まで来れば、お前を心より愛し、誇りとして思おう』と。
父はそう言って、追い縋ってくる軍勢から、私を逃がしたのです」
尖る目は、やはり何も言わず、瞬きをするのみ。
「それは何一つ加減なく、厳格だった父上の、最初で最後の寵愛だったのだと思います。
ですが所詮は小童ゆえ、結局はそれも能わず。
その資格が自分にあるとは思いませんが、なればせめて。
父君に会おうと、願った次第なのです」
魔物様は目を閉じたかと思うと、短く息をはあっと吐いた。
「貴様がうつけなら、その父とやらも大概なうつけ者よ」
「……そうかもしれません」
「こうやって命を拾った今でも、貴様はその言葉を吐くか」
ぎり、と音が聞こえそうなほど、鋭利な魔物様の視線。
身体を刺し貫かれているのではないかと思うほど、それは鋭く、痛かった。
「……分かりません。凍え、凍てて、ようやく自分は死の恐怖を悟りました。
この先にあるのは、自分が何者かも分からなくなる、ただの灰色ではないか、と。
ですが、その先にあるのがもし、天の上であるのなら。
自分は父を置いてなど――」
「いい加減にしろ、うつけがッ!」
静粛な部屋に鳴り響く、張り上げられた怒号。
その声はさっきまでとは打って変わって、冷淡さなど欠片もない。
「貴様には、お前の父が貴様を逃がした理由がまだ分からぬか。
闘って、討死しろとでも申したか。
死の先にあるのが灰色であると分かっていたからこそ、貴様の為に命を賭したのだ」
自分に声を荒げる様子と、鋭いその瞳は、どこか父君にも似ていて。
魔物様はすっくと立ち上がると、僕の目前で腰を下ろす。
「その者もおそらくは、不器用な物言いと生き方しか出来なかったのだ。
だが、どこかで気付いたのだろう。
命を賭した故に、命の大切さを知った。
そして命を賭すまで、命の尊さを知れなかった――大馬鹿者よ」
ひんやりとした彼女の掌が、僕の頬を撫でた。
粉雪に包まれるような、ふわりとした心地を持って。
「まもの、さま……私は、僕は……どうすれば、よいのでしょうか。
この未熟者に、何ができますか」
困惑するしかできない自分は、今や年相応にもならぬ小童でしかない。
しかしそんな僕を、彼女の柔らかな肢体が包んでいく。
「うつけに道を示すも、我等が役目よ。
だが――そんな小難しい理屈も、最早どうでもいい。
今の貴様を満たせる物は言葉ではない。温もりと知れ」
いつの間にか、彼女の体から覗いていた氷柱のようなものは消え失せており。
魔物様はするりと僕の背中へ回る。
すると、毬よりも大きく柔い彼女の乳房が、僕の頭を後ろからむにゅりと包んでくる。
さらに魔物様は両手を伸ばして、僕の全身をまさぐり始めた。
「あ……な、なにを……? もう身体は十分に……」
「気が変わったのだ。
御前のような凍った心を溶かして、その熱を味わってみとうなった。
望み通り、天国へと連れて行ってやろうぞ――溶け合うほどの情欲でな」
「や、やめ……んうっ」
ひやりとした指が着物の襟から入り込み、肌を撫でてくる。
首元から、胸へ、脇へ、子供がじゃれ合いでくすぐるように。
触れられるたびにぞくりとした感覚と、冷え切った氷に触れるような、冷えているのに熱くなる不思議な熱を感じる。
その心地よさに囚われてしまいそうになりながらも、身を捩って抵抗する。
「お止めっ、ください……!」
「こら、そう暴れるな……聞き分けの悪い童め。
仕置きとして、我が氷柱で杭を打ってやる」
すると、何もないはずの宙から、鋭利な氷柱が二つ、ふわりと浮いて現れる。
その氷柱は尖った先端を僕の両腕に向けたかと思うと、矢のような勢いで飛来し、右と左の両腕を刺し貫いた。
「っ……う、うで、がっ……?!」
「恐れるな、これはただの氷柱ではない。
いくら刺さろうと痛みも怪我もないし、血も流れぬ。
だが、貫かれた者の身と心は凍てる。大の大人でも屈しかねん寂寥に襲われる」
「あ、ああ……さ、寒気が……からだ、が……」
「……元より冷え切ったお前を、さらに凍てさせるのは心苦しいが。
熱を失えば失うほど――恋い焦がれ、熱に浮く。温もりに愛く。
些末な患いなど忘れるほど、その身に我が熱を覚えこませてやろう」
「だ……め、です……!」
両腕は突き刺さった氷柱により自由を失い、ほとんど動かせない。
正座をしていた足は崩れたが、痺れと寒さで暴れるほどには言う事を利かない。
それでも、首を横に振りながら、無力な抵抗をする。
「まだ抗うか……何を躊躇うことがある?」
「こ、こんな……自分は、そんな身の程ではありません。
魔物さまに、見初められるような、人間では……」
「ふふ、そういう所が愛いのではないか。
まだ年端もいかぬが、なまじ賢しいゆえに未熟さを弁えておる。
そんな危うい年頃の男の子も、私は好みでな。
それに、大人でも音を上げる寂寥に抗うその心胆。ますます喰らってみたくなったぞ」
「で、ですから……ひゃぁっ!」
突然に耳の穴へ、ひやりとぬめった塊が這い回る。
れろれろ、もぞもぞとうごめくそれは、魔物様の舌だと分かった。
ゾクゾクと震えてしまうような未知の快感が、抵抗心を溶かし出す。
むっちりとした彼女の太腿へ強引に座らされ、背中には乳房であろう、水風船のような柔さが押し当てられる。
「敏感な奴め。では、ほれは……ほうは?」
「あ、あぅ……?!」
さらに耳の中へ、舌が挿し込まれていく。
じゅるり、ぬちゅりと音を立てて、鋭敏に感じてしまう穴の中を舐め回される。
頭の中へ入り込んできて犯されるような、けれど甘く不思議な気持ちよさ。
抗う気が萎え、身体から力が抜けて、彼女のなすがままにされていく。
「すこし耳を舐っただけなのに、もう蕩けているのか。
女子のように感じおって……なら、ここはどうだ?」
「く、あぁっ」
肌を撫でていた二つの青白い手が衣をはだけさせ、両脇の下から手を入れて、僕の胸部を撫でまわす。
舌による耳責めとまさぐるような指のせいで、全身の感覚がさらに鋭くなるのを感じる。
ひやりとした指が僕の乳首にちょんと触れただけで、声が漏れてしまった。
「なんだ、乳首まで感じてしまうのか?男なのに、ますます生娘のようだの。
こんなにピンと勃たせおって、ここを弄られるとどんな可愛らしい音を上げるかな……?」
「や、やめ……うぁっ……」
右の乳首は指の腹でくりくりと、左の乳首は爪先でかりかりと、優しく捏ね回してくる。
触られる度に、感度も快感も増していく。
普段は意識することのない場所を巧みに責められ、肉欲を自覚させられる。
幼少より穢れたものとして抑えこまれていた欲の類が首をもたげ、疼いてくる。
「だめ……です、こん、な……」
「馬鹿を言え、股座(またぐら)でこんなに立派なモノを勃たせておいて。
触られたいか? だが貴様が自分から言えるようになるまではお預けだ」
「ぼ、ぼくは……ああっ、んくっ」
今度は二本の指で僕の乳首を緩く摘まんで、こりこりと擦り合わせてくる。
さらにさっきとは逆の耳穴へ舌責めまで加えてきて、ぬちゅぬちゅと犯されていく。
耳から乳首から、耐え難いほどの気持ちよさが襲ってくるが、どこかまだ決定的に物足りない。
びくびくと震える自分の愚息は、とても正直だった。
「ひぃっ、あうぅっ……!」
「どれ、そろそろ衣を捲ってやろうか」
彼女が身をひらりと動かしたかと思うと、あっという間にするりと着物を脱がされ、下着の褌だけにされる。
そしてさっきまで寝ていた布団の上へと僕は押し倒され、そこへ魔物様が添い寝をするかのように、横へ並んで寝転ぶ。
「……ふふふ、見ろ。物欲しそうに震えては、先走りまで垂らして、褌を汚しておるぞ♥
これでもまだ正直にはなれぬか?」
布地の上からその膨らんだ愚息を、焦らすように指でつーっとなぞられる。
さらに余った手で乳首を、舌で耳を責められてしまう。
直接的な快感を与えられず、昂らされ続けた股間はもうはち切れそうだった。
そして耐え切れず、口に出してしまう。
「お……お願いです、魔物様。お慈悲を、ください」
「お慈悲、では分からぬ。何をされたいのか、ちゃんと口に出せ」
「う、うう……」
喋る間も舌以外は止まることなく責め続けてきて、さらに焦らしてくる。
「ぼ、ぼくの……愚息を、鎮めてくださいませ」
「もっと明瞭に言うのだ。この指で扱いて欲しいか、舌で責めて欲しいか。
望むなら……私の膣中に呑み込んでやろう」
「ち、ちつ……?」
「そちらの教育はお座成りか。男と女が交わり、子を成す、その営みのことだ。
もっとも私は魔物ゆえ、お前の精こそが糧である以上、まだ子を孕む訳ではないが」
「……そ、そんな……交わいなど、もっての……」
「仕様がない、我が氷柱に耐えていたことも称えて、この位で勘弁してやろう。
……む、これは……中々……ん?」
褌の結びに手を掛けたが解き方が分からないのか、四苦八苦している様子が見える。
それさえも焦らしの手腕かと思えたが、そうでもないらしい。
「ああ、ここはこう、か……で、では、脱がすぞ、よいな?」
その声には珍しく、幾ばくかの困惑が見て取れた。
魔物様の青白いはずの頬も、どこか色づいて見える。
そうして褌を解かれ、自分の愚息が屹立したのを見ると、彼女が息を呑むのが分かった。
「ああ……これが、男の一物か。痩せた身体にしては、随分と逞しいモノを持っておる。
見ているだけで、身体が疼いてくるぞ……♥」
息を荒げながら、魔物様は愚息に顔をそっと近づけていく。
ふうっと冷えた吐息が当たると、それだけでまた肉棒が跳ねてしまった。
「息が当たるだけでも感じるのか、淫らな身体だ。
では舌でなぞってやれば、どんな風に蕩けるのか。見物よの……♥」
魔物様の長い舌が伸びて、れろり、と竿を舐め上げる。
滑った舌はやはり心地が良く、つーっと肉棒に這わせられるだけで気持ちがいい。
「あ、ああ……そんな、汚れたモノを、舐められては……くうっ」
「何を言うか、とても甘美だぞ♥
さて先走りの垂れる亀頭はどんな味か、存分に堪能するとしよう……♪」
「あぐっ、そ、そこはぁっ……」
彼女が肉棒の先端をぱっくりと咥える。
さらに棒の付いた飴を舐るように、チロチロと舌で愚息の軟い部分を舐め回してくる。
特に裏の筋は念入りに舌が這って、唾液で塗れてしまうほどに磨かれていく。
刺激の強すぎる快感が股間を伝い、全身を痺れさせる。
「おっとすまぬ、手が空いていたか。
どうだ、自分で扱くよりも遥かに感じてしまうだろう。
いや、貴様はまだ千擦りも覚えておらぬ程の初心であったか……? ふふ♥」
「あ、あっ、あああ……!」
先端を舐め回すのを止めないまま、右の手が肉棒の竿を握り、ごしごしと擦ってくる。
自分の愚息がびくびくと震え、何かがせり上がり始める。
とても熱くて、恐ろしいほどの快感を伴う何かが。
「お、お止めを……! なにか……で、出てしまいます……!」
「んむ?ぷはっ……そうか、まだ精通もしておらぬか。
そんな生きのいい子種を、膣で受け止めぬというのは余りに勿体ない話だな……?♥」
彼女は一度立ち上がると、自分の着物の帯をさっと解いた。
はらり、と着物の一部が宙を舞ったかと思うと、大きな袖と足袋は残したまま、肉付きの良い裸体が露わになる。
元々目のやり場に困るほど露出の多い格好であったが、今は張りの良い大きな乳房が全て晒されて、薄青色の乳首がぷくりと勃っているのが分かる。
そして青白い肌の股間は、とっぷりと淫らな液体に濡れそぼり、部屋の小さな明かりに反射して煌めいていた。
「ああ、私もこれほどまでに昂っているとは。
子宮が疼いて、お前の子種を搾り取りたいと強請っているぞ……♥」
「ま……まもの、さま……そんな……」
「そうか、まだ口答えをする気力があるらしいな。
丁度いい、快感を僅かたりとも逃がさぬよう、四肢ごと布団へ磔にしてやろう」
彼女は布団の上で仰向けになっていた僕を、大の字にさせる。
すると先刻も見た氷柱が四つ、湧き出るように宙へ現れて、また僕の身体へ先端を向けた。
「なに、を……あぐうっ?!」
僕の両腕と両足に、氷柱が一瞬で突き刺さる。
木の床板ごと肢体を刺し貫いたそれは、僕自身の力では抜くことはおろか、手足をぴくりと動かすこともできない。
同時に襲ってくる、寂寥感と孤独さ。
「あ、あ……さむ、い……」
さっきまで触れていた魔物様の温もりが恋しくて、涙まで出そうになる。
だが凍てつくような身体の冷えで、懇願の声を上げることすらままならない。
肢体の自由を奪われ、凍りかけた意識を、頬に触れる掌の温かさが溶かしていく。
「凍えるだろう?……私がいつも感じていたその寂しさ、分かってくれるか?
青白い氷の色さえ霞んでいく、灰色のような寒さを……」
大の字に寝ころんだ僕の腰に、まるで騎乗のごとく、おずおずと魔物様が跨る。
彼女のむちむちとした太腿が触れて擦れるだけで、肉棒がびくんと震えた。
「あ……う、まもの、さまぁ……っ」
「おお、すまぬ。お前を苦しめたくないと言った傍から、また意地の悪い真似をしたな。
凍てたその身体を、心を。すぐに溶かしてやろうぞ……♥」
依然として勃起したままだった肉棒の先端に、彼女の濡れた股間がくちゅりと触れる。
それだけで火のような熱さが愚息を温めていく。
その肉壺に、膣穴に呑み込まれたら、狂おしいほど心地が良いと分かってしまう。
ゆっくり、ゆっくりと、魔物様が腰を落として、僕の愚息を呑み込んでいく。
「んっ……あ、ああ……♥は、入ってくるぞ……お前の熱い、一物が……♥」
「ひぐぅっ……♥あ、熱い、ですぅっ、まものさまっ……!♥」
その中は溶かされそうなほど熱くて、幾多のヒダで埋め尽くされていて。
ただゆっくりと膣に這入っていくだけでも、何かが爆発しそうになる。
「あ、ふぅっ……♥ど、どうだ、根元まで……咥えこんだ、ぞ。
初めての経験だが……この僅かな痛みさえ、心地いい。
それに……今までにないほど、熱を感じる……外からも、内からも……♥」
「ま、もの、さま……だい、じょうぶ、ですか……?」
熱に茹る意識の中でも、彼女の股座から、赤味こそないが血のような体液が少しばかり零れているのが分かった。
「なんだ……四肢を氷柱に貫かれておいて、まだ私を案ずる余裕があるのか?
まったく、その心胆には呆れて惚れ惚れする。
そんな顔をするな、痛みは僅かと言ったろう? それより、も……♥」
「え、あ……ああぁッ♥♥」
「もう、私も、我慢が利かぬのだ……♥
互いがどろどろに溶け切るまで、お前を犯しつくしてやらないと、心が満ちぬ……!♥」
突然に、魔物様は腰を上下に振り乱し始める。
初めはまだ緩やかだったが、すぐさま勢いづいて、動きが早くなっていく。
ぱんっ、ぱんっ、と、魔物様の尻たぶが自分の身体に当たる音が鳴り響く。
彼女が腰を動かすたび、たゆんとした二つの乳房がぶるんぶるんと揺れる。
「くぅっ、ああっ♥こ、こんなにっ、熱くなれるものが、あろうとはっ……♥
い、一物が♥膣を擦るたびにっ♥奥を突かれるたびにっ♥痺れてしまうようだっ……♥♥」
「ま、まもっ、さまっ♥こんなっ、ああっ♥」
ずちゅっ、ぱちゅっ、ぬちゅっ、ぐちゅっ。
淫らな水音と、互いの熱く荒い吐息だけが部屋を埋めていく。
きゅうきゅうと吸い付くように締め付けてくる魔物様の穴は、何よりも甘美な快楽をもたらしてくる。
彼女の頬が色濃く染まり、肉棒を奥底に咥え込むたびに子供のような可愛らしい嬌声を上げ、淫靡に蕩けていくのが分かった。
「もっとっ、もっとだっ♥お前の熱を感じさせてくれっ♥♥
熱くて、硬い、その一物で、私のほとを、抉ってっ……♥
男に成るその証の、一番濃い子種を、注ぎ込めっ……♥♥」
魔物様の言うとおり、自分の愚息には子種がせり上がって来ているのだろう。
それを解き放つと、きっとこの狂いそうなまでのもどかしさからは解放される。
同時に意識が溶けるほどの快楽に包まれるであろうことも、ひしひしと感じた。
「ふふふっ、まだ、手は抜かんぞっ♥お前の好きな乳首も、捏ね回してやるっ♥
そうだ、接吻も、まだだったではないか♥
貴様が、子種を吐き出すまで♥口づけも、たっぷり、味あわせろっ……♥んっ♥むぅっ♥ちゅうっ……♥♥」
「んーっ、んぐっ♥んむぅぅっ……!♥」
膣内で肉棒を扱かれ、両方の乳首を指で愛撫されながら、唇を塞がれる。
息が上手く出来なくなって、喘ぎ声さえ自由に出せなくなる。
長い舌が口内へ入り込んで、僕の舌といやらしく絡まり合う。
息継ぎのために少しだけ唇が離れた瞬間に、僕は限界を告げた。
「っ、ぷはっ……♥あぁっ♥も、もうっ♥だめですっ♥まものさまぁっ♥」
「わ、わたしもっ、もうっ……♥い、一緒に、果てるぞ……っ♥
身体の、全部で、お前を♥熱を、受け止めてっ、やるぅっ……♥♥」
乳首をくりくりと愛撫してくる指の動きと、暴力的なまでに打ち付けてくる腰の動き。
蕩けきった顔で僕を見つめる魔物様を目に焼き付けてから、僕は瞼を閉じる。
それを合図にして彼女はまた唇を重ね、舌を絡ませてきた。
全ての快楽が合わさり、一つになった僕たちの身体が溶け合うような錯覚。
「ちゅっ、んっ♥はむっ♥ふうっ♥んんっ、んんん――ッ……♥♥!!」
彼女の奥底に咥え込まれた肉棒が、どくん、どくんと強く脈打って、液体を吐き出す。
視界が真っ白に霞んで、全身が跳ねる。
氷柱が刺さり動かない四肢のせいで快楽を逃がせず、脳が溶けるような気持ちよさに全てが包まれていく。
口づけをしていた唇が離れて、ぱくぱくと空気を求めて開閉を繰り返した。
「あっ、ああっ、はあああっ……♥すごい、なかっ、満たされてっ……♥♥
あたま、まっしろに、とけるうっ……♥」
幼子のような嬌声は、あの冷ややかな魔物様のものとは思えないほど甘く。
目を開けると、絶頂で蕩け、溶けた彼女の緩み切った表情が、また目に焼き付く。
絶え絶えの息を整えながら、僕の身体をぎゅうっと彼女が抱きしめた。
「ふーっ……♥ふーっ……♥お前の、初子種、すべて搾り取って、やったぞ♥
氷の我が身体が、ここまで、蕩け切るとは、な……♥」
僕の四肢を貫いていた氷柱は融けて消え、動かせなかった体が動く。
冷ややかだったはずの彼女の体温は、滾るような温もりが支配している。
それに触れるだけで、囲炉裏に当たるような心地よさに包まれていく。
僅かに残っていた身も心も、安心して溶け切ってしまう。
消耗しきった身体で何とか彼女を抱きしめ返すが、次第に力が入らなくなる。
「はぁ……はぁ、まもの……さまぁ……」
「……どうした、眠くなったか? ふふ、あれほど焦らしてしまったからな、無理もない。
何も案ずるな、そなたはもう凍てる心配をしなくていい。
このままずっと、私がお前を、包み込んでいてやろうぞ……♥」
優しい声の中、僕の意識は微睡みに溶けていった。
――――――――――――――――――――――――――
「――起きたか。まだ、身体は震えるか?」
「いえ。申し分ありません」
「お前が何処の世から彷徨ってきたかは知らぬが、来れるのなら戻ることも出来よう。
同胞も感づいたらしい、幾らかはもう旅立ったと聞いた。
ヒトのままであるかは保証せぬが、いずれお前の親類とも知人とも、会える時が来る。
だが今日の夜は、特に吹雪が強まる。小屋の外には決して出るな、童よ」
「はい」
ヒトと魔物と、同じ布団の中、魔物様が僕にささやく。
「童……と呼び続けるのも、気が進まぬな。
そういえばまだ、お前の名前を聞いていなかった」
何度抱かれても、このたゆんとした乳房の柔さを感じながら寝るのには慣れない。
あの日に出会ってから数日間、夜の間はずっと、魔物様に抱きすくめられていた。
「あ……申し遅れておりました。自分の名は、出水(いずみ)です」
「ではその名で呼ぶぞ、出水よ」
そうして自分の名を口に出したとき、否応なくある事に気付く。
「……ひとつ、差し出た願いを、よろしいでしょうか」
「珍しいな、藪から棒に」
「自分とていつまでも、魔物様、などとはお呼びしたくありません。
お名前を、知りとうございます」
「我が種を指して言うなら、氷柱女と呼ぶ者は多かろうが」
「それでは意味がありませぬ。私と共に居てくれる、貴方様の名が知りたいのです」
「……そうか」
彼女には珍しく、逡巡したように見えた後の相槌。
「すまぬが、私には斯様なものはない。
どうしてもと言うなら、お前が決めるがいい」
「なれば……僭越ながら」
暫し自分も思案した後、ふと思いつく。
「氷雨(ひさめ)のようでいて、太陽のように温かい。
”ひ”と”よう”を採り、”氷陽(ひよう)”というのは、如何ですか」
「っ……なんなりと、好きに呼べ」
彼女は途端に僕に背を向けて、淡々と、だが上機嫌を隠しきれない口調でそう言う。
「はい、氷陽さま」
「……うつけめ」
数日過ごして分かったが、これは魔物様なりの振る舞いだった。
照れた表情を見せるのは苦手なのか、感情が昂るとすぐに自分から顔を背けてしまう。
例外は、自分と交わりあう時だけ。
「喜んでいただけて何よりです、氷陽さま」
「ば、馬鹿を申すな」
「それにしては、背中が熱くなっておりますが」
そして上機嫌になると、冷ややかな体温が温まり始める。
目は口ほどに物を言うと云われるが、ここまで身体が物を言うのも珍しい。
「それは……お前がくっついておるからだ」
「ではもう少し、温まらせてくださいませ。どうにも冷え込んでしまうのです」
「……仕様のない童め」
もぞもぞと氷陽さまが身体を動かしたかと思うと、また僕の方を向く。
そして自分の顔が見えぬようにするためか、その豊かな乳房の間で僕の顔をむにゅりと挟んだ。
「その……いつもながらこれは、あまりに、恥ずかしいのですが」
「私をからかった仕置きだ。存分に堪能しろ」
そうぶっきらぼうに言いながらも、氷陽さまは僕の頭を優しく撫でる。
いつもなら冷えた掌は、もう十分に温かみを持っていて。
静粛な時間の後、昂りを抑えきれぬ、色気の混ざった声で氷陽さまがつぶやいた。
「お前は……これからも、この冷たい氷柱女をその身に抱いて、溶かしてくれるか」
「もとより、僕を救ってくださったのは、他ならぬ氷陽さまではないですか。
たとえそうでなくとも――僕はもう、貴方様に惚れてしまいました。
一人の男として、氷陽さまが望む限り、身を捧げる所存です」
返事と共に、自分の身には余る肉付きの良いその身体を、出来る限り抱きしめる。
その肢体はすでに、熱く温もりを持ち始めていた。
「もう、情欲を抑えられぬ……今宵も、吹雪を溶かすほどに熱く、愛し合おうぞ。
いつしか子を成し、お前の父が羨み、満足するような家族と成ろう。
互いの名も知れた。何度であろうと、私を想って名を呼んでくれ、出水よ」
「ああ。心よりお慕いしております、氷陽さま――」
いつしか、荒れ吹雪いていたはずの山は鳴りを潜め、雪が降り積もるばかりとなり。
その雪解け水は、生を、子を紡いでいく。
ましてやそれが人間であるなら尚のことである。
点々と木々が立ち並び、真白い雪で覆われた険しい山中。
勢いは多少減り始めたが、まだ止まぬ吹雪が誰も彼もに吹き付ける、極寒の中。
一匹の魔物である彼女は、弱まりつつあるヒトの、その精の匂いを敏感に感じ取った。
その胸中には呆れが半分、己でも判然としない何かが半分。
「よもやこの季節に、斯様な山の中へ入る愚か者がいようとはな」
氷の精霊である彼女にとって、雪も吹雪も身体の一部のようなもの。
深く積もった真白の絨毯を、匂いのする方へ、いささかの苦も無く進む。
さくり、さくりと、その長身にそぐわぬ軽い音が雪を踏み分けていく。
彼女が思うよりずっと近くに、そのヒトはいた。
歩くのもおぼつかない足取りで、幾分弱まった吹雪にさえ翻弄されている。
そしてまだ細く小さい、男の子(おのこ)だ。
魔物である彼女は確かに長身だが、少年の背丈はその胸ほどしかない。
雪解けで濡れた衣はもはや服の体など成さず、体温を奪うのみ。
吹き付ける雪で前方すらよく見えていないのか、立ち止まった彼女に正面から当たるまで、少年はその存在に気付かなかった。
「……あ」
身体の触れたその男の子から小さな声が漏れる。
彼が恐る恐る見上げた先には、ヒトらしからぬ青白い肌の、すらりとした長身の女性が立っていた。
「童(わらし)か」
透き通る氷のような青い髪色で、真っ直ぐ揃った前髪に、頬を通って胸まで垂れる二つの長い髪。後頭部を含め、身体の所々から覗く氷柱のようなもの。
隻眼なのか、片目は眼帯と氷柱らしきもので隠れているが、息を呑むほど端正な顔立ちと、さながら尖った氷のように鋭い目つき。
この雪山では奇異にしか見えない、所々から肌を露出した着物の格好。だが、吹雪の中で雪解けに濡れた様子も、凍える様子もない。
ヒトであるか、そうでないか。彼にはもうそれを判断する力もまばらだった。
「そなたは、何処行く者ぞ」
女は少年に問いかける。
答えを待つこともなく、彼女は少年の痩せた手を握った。
「……!」
少年の凍え切った手は彼女よりも冷たく、か細く。
体温を奪われ、弱り果てた身体はびくりと震える。
「案ずるな。いくら魔物であろうと、貴様のような迷い子に手を掛けなどせぬ」
女性にしては低い、冷ややかさを感じる声。
その半分は意図的な物であり、余計な情を掛けるのを嫌ったものである。
「……まもの、さま……?」
「そうだ。我はこの雪山に住む精霊にして魔物、氷柱女(つららおんな)ぞ。
凍えてろくに口も利けぬのなら、有無を言わさず麓へ返す。
望むなら、何処(いずこ)へなりとも連れて行ってやる」
「つれていって……くださるのですか」
「童よ、何処を望む」
手を握ったまま、彼女はくるりと少年に背を向ける。
寒さで言う事を聞かず、かちかちと鳴り続ける歯音を必死で抑えながら、少年は言った。
「僕を、天の上まで、連れていってくださいませ」
吹雪が掻き消してしまいそうなその小さな声を、彼女ははっきりと聞き取る。
朦朧とはいえその言葉は、この寒さの耐え難さから口に出たのではない。
寧ろこのまま、自分を凍らせてくれと願うような、冷たい願望。
氷柱のように鋭い女の眼が、さらに尖る。
「……うつけが。何を口走ったか、分かっておるのか」
「二言は、ありません。どうか……このまま……ぼく、を……」
消え入りそうな体の熱は、更に小さく。もはや震える事すらままならなくなっていく。
そんな少年の手を、彼女は力強く、ぐいと引っ張った。
「付いて参れ。天国へ、連れて行ってやろうぞ」
強引に手を引かれ、少年は無我夢中で足を動かしていたが。
いつしか柔らかい何かに抱かれ、ふわりと身体が浮いた所で、記憶が途切れた。
――――――――――――――――――――――――――
ここは、どこだろうか。
身体はうまく動かないし、頭の中はふわふわと夢見心地だ。
もしかすると本当に、あの魔物様は僕を天国へと連れて行ってくれたのか。
暗いけれど、身体が、今も柔らかい何かに包まれているのが分かる。
降り積もる新雪が、僕を埋もれさせるように――、
「気は付いたか、童よ」
声は低いが、ささやくような優しい声。
薄く目を開けてみるが、それでも目前は暗く、青白い。
身体もそうだが、顔ごと、今まで感じたことがない程の柔らかさに埋もれている。
「まだ、口は回らぬだろう。焦ることはない」
全身の感覚が、少しずつ元に戻っていく。同時に身を包む柔さもまた、強く感じられる。
ぎこちなくも動く手の指が、自分を包むものをなぞる。
乾いた自分の着物と、何か布の生地と、もうひとつ。
人肌よりは冷たく、だがそれよりも軟らかで、柔らかな肉付きの肢体。
ようやく自分は察し始める。
今、己を包んでいるものは、先ほど出会った魔物様の身体なのでは、と。
「末端も解け始めたか。もう少し、こうしているとしよう」
顔が、首が動くようになると、自分を包むものからほんの少し離れる。
狭い視界の中に見えたのは、やはり先ほども見た、麗しき氷柱のような眼。
隻眼のその蒼い片目が、僕をじっと見下ろしていた。
「どうだ。気分は」
僕の頭をひんやりとした細い指が撫でる。
ああ、やはり僕の身体を包んでいたのは、あの魔物様の肉体だった。
「……ぁ」
そして僕が顔を埋めていたのは、たゆんとした、掌にも余る豊かな二つの乳房の間。
それに気が付くと途端に気恥ずかしくなって、顔から火を噴きそうになる。
だが、ぎゅうっと全身を抱きすくめられている今は、抜け出す力も気力も起きない。
「ふふ、顔にも血の気が戻ってきたようだの。初心(うぶ)で愛い奴め」
まるで赤ん坊を泣きやませるように、彼女はまた僕の頭を優しく撫でる。
もう片方の手が、労わるように背中をさする。
その掌はひやっとしているのに、触られると凍てた身体が融け出すのが分かった。
「良い心地になってきたな、お前の熱を感じられてきた。
もう口も利ける頃だろう」
「……はい」
幾分の時間が経って、身体の凍えは大分解け切った。
もぞもぞと僕が身体を動かすと、ほんの一瞬だけ名残惜しそうな顔をして、魔物様は僕から離れ始める。
そこでようやく、自分が魔物様と同じ布団の中で眠っていたことを知った。
「……ここは」
「粗末ながら我が住処よ。ヒトを、それも男(おのこ)を入れたのは初めてだがな」
凍り付いて使い物にならなくなったはずの身体は、ぎこちなくも元のように動く。
厚い布団と魔物様の温かみは恋しかったが、布団から這い出て周りを見渡す。
木造りの床と壁は簡素だが、僅かな格子窓から見える、依然雪景色の外の寒さを驚くほど防いでいた。
そして見たこともない色で部屋を照らす、明かりのような石が天井から吊ってある。
自分が居た場所とは何かが違う気もしたが、はっきりとわかるのは一つ。
「天の上では、ないのですね」
ぽつり、思わずそんな言葉が口に出てしまう。
しまったと思いながら魔物様を見遣ると、僕がさっき彼女から離れた時と同じ、どこか淋しそうな顔をしていた。
「その言葉、やはり妄言ではなかったのだな」
「……申し訳ございません」
いかに物分かりの悪い自分でも察している。彼女は僕を寒さから救ってくれたのだ。
そんな恩人を無下にするような言葉を、何故吐いてしまったのか。
自責の念を悟られたか否かは分からないが、魔物様は僕に問いかける。
「何ゆえだ」
「……」
「何ゆえ、斯様な山へ、この極寒の季節に訪れた。
それを語るまでは、貴様を何処へとも遣らん」
彼女の片目には有無を言わさない、この自然の寒さよりも厳しい眼光があった。
「取り留めもない、掃いて捨てるようなつまらぬ話ですが」
「構わぬ」
その視線に射抜かれ、僕は粛々と語り始める。
「武家の没落、か。道理で童にしては流暢に話すと思うたよ」
「……恐れ入ります」
小さな武家の末子として育ってきた自分は、修練もそこそこに戦へと駆り立てられた。
強大な隣国に睨まれ一刻の猶予もなく、自分のような未熟者を一角の将と祀り上げた。
だが。
そんな建前の軍勢など、圧倒的な兵力の前では塵に同じ。
初陣より敗軍として追われ、ほうほうの体で独り、雪山へ落ち延び。
鎧も武器も矜持も捨てて、一寸先も見えぬ吹雪嵐を彷徨う中。
気がつけば、そこで貴方様と出会っていたのだ、と。
「つまらぬ話だ」
「先刻申し上げた通りです」
「違う、貴様に言ったのではない。
戦事を起こす連中を、貴様のような童を祀り上げたという連中を指して、言ったのだ。
争い騒ぐ事しか出来ぬ、詰まらない、不器用な者どもよ」
怒るような、呆れるような、憐れむような、そのどれでもないような――。
人に非ざる魔物様の心中など、自分に察せるはずもなく。
「経緯は分かった。だが、肝心な所がまだだ。
何ゆえ貴様はああ言ったか」
「……」
しばし黙ってしまったが、彼女は先を急くよう煽ることもなかった。
「『勇敢に生きた者は、たとえ誰であれ天に昇り、愛される権利を持つ。
もし天の上まで来れば、お前を心より愛し、誇りとして思おう』と。
父はそう言って、追い縋ってくる軍勢から、私を逃がしたのです」
尖る目は、やはり何も言わず、瞬きをするのみ。
「それは何一つ加減なく、厳格だった父上の、最初で最後の寵愛だったのだと思います。
ですが所詮は小童ゆえ、結局はそれも能わず。
その資格が自分にあるとは思いませんが、なればせめて。
父君に会おうと、願った次第なのです」
魔物様は目を閉じたかと思うと、短く息をはあっと吐いた。
「貴様がうつけなら、その父とやらも大概なうつけ者よ」
「……そうかもしれません」
「こうやって命を拾った今でも、貴様はその言葉を吐くか」
ぎり、と音が聞こえそうなほど、鋭利な魔物様の視線。
身体を刺し貫かれているのではないかと思うほど、それは鋭く、痛かった。
「……分かりません。凍え、凍てて、ようやく自分は死の恐怖を悟りました。
この先にあるのは、自分が何者かも分からなくなる、ただの灰色ではないか、と。
ですが、その先にあるのがもし、天の上であるのなら。
自分は父を置いてなど――」
「いい加減にしろ、うつけがッ!」
静粛な部屋に鳴り響く、張り上げられた怒号。
その声はさっきまでとは打って変わって、冷淡さなど欠片もない。
「貴様には、お前の父が貴様を逃がした理由がまだ分からぬか。
闘って、討死しろとでも申したか。
死の先にあるのが灰色であると分かっていたからこそ、貴様の為に命を賭したのだ」
自分に声を荒げる様子と、鋭いその瞳は、どこか父君にも似ていて。
魔物様はすっくと立ち上がると、僕の目前で腰を下ろす。
「その者もおそらくは、不器用な物言いと生き方しか出来なかったのだ。
だが、どこかで気付いたのだろう。
命を賭した故に、命の大切さを知った。
そして命を賭すまで、命の尊さを知れなかった――大馬鹿者よ」
ひんやりとした彼女の掌が、僕の頬を撫でた。
粉雪に包まれるような、ふわりとした心地を持って。
「まもの、さま……私は、僕は……どうすれば、よいのでしょうか。
この未熟者に、何ができますか」
困惑するしかできない自分は、今や年相応にもならぬ小童でしかない。
しかしそんな僕を、彼女の柔らかな肢体が包んでいく。
「うつけに道を示すも、我等が役目よ。
だが――そんな小難しい理屈も、最早どうでもいい。
今の貴様を満たせる物は言葉ではない。温もりと知れ」
いつの間にか、彼女の体から覗いていた氷柱のようなものは消え失せており。
魔物様はするりと僕の背中へ回る。
すると、毬よりも大きく柔い彼女の乳房が、僕の頭を後ろからむにゅりと包んでくる。
さらに魔物様は両手を伸ばして、僕の全身をまさぐり始めた。
「あ……な、なにを……? もう身体は十分に……」
「気が変わったのだ。
御前のような凍った心を溶かして、その熱を味わってみとうなった。
望み通り、天国へと連れて行ってやろうぞ――溶け合うほどの情欲でな」
「や、やめ……んうっ」
ひやりとした指が着物の襟から入り込み、肌を撫でてくる。
首元から、胸へ、脇へ、子供がじゃれ合いでくすぐるように。
触れられるたびにぞくりとした感覚と、冷え切った氷に触れるような、冷えているのに熱くなる不思議な熱を感じる。
その心地よさに囚われてしまいそうになりながらも、身を捩って抵抗する。
「お止めっ、ください……!」
「こら、そう暴れるな……聞き分けの悪い童め。
仕置きとして、我が氷柱で杭を打ってやる」
すると、何もないはずの宙から、鋭利な氷柱が二つ、ふわりと浮いて現れる。
その氷柱は尖った先端を僕の両腕に向けたかと思うと、矢のような勢いで飛来し、右と左の両腕を刺し貫いた。
「っ……う、うで、がっ……?!」
「恐れるな、これはただの氷柱ではない。
いくら刺さろうと痛みも怪我もないし、血も流れぬ。
だが、貫かれた者の身と心は凍てる。大の大人でも屈しかねん寂寥に襲われる」
「あ、ああ……さ、寒気が……からだ、が……」
「……元より冷え切ったお前を、さらに凍てさせるのは心苦しいが。
熱を失えば失うほど――恋い焦がれ、熱に浮く。温もりに愛く。
些末な患いなど忘れるほど、その身に我が熱を覚えこませてやろう」
「だ……め、です……!」
両腕は突き刺さった氷柱により自由を失い、ほとんど動かせない。
正座をしていた足は崩れたが、痺れと寒さで暴れるほどには言う事を利かない。
それでも、首を横に振りながら、無力な抵抗をする。
「まだ抗うか……何を躊躇うことがある?」
「こ、こんな……自分は、そんな身の程ではありません。
魔物さまに、見初められるような、人間では……」
「ふふ、そういう所が愛いのではないか。
まだ年端もいかぬが、なまじ賢しいゆえに未熟さを弁えておる。
そんな危うい年頃の男の子も、私は好みでな。
それに、大人でも音を上げる寂寥に抗うその心胆。ますます喰らってみたくなったぞ」
「で、ですから……ひゃぁっ!」
突然に耳の穴へ、ひやりとぬめった塊が這い回る。
れろれろ、もぞもぞとうごめくそれは、魔物様の舌だと分かった。
ゾクゾクと震えてしまうような未知の快感が、抵抗心を溶かし出す。
むっちりとした彼女の太腿へ強引に座らされ、背中には乳房であろう、水風船のような柔さが押し当てられる。
「敏感な奴め。では、ほれは……ほうは?」
「あ、あぅ……?!」
さらに耳の中へ、舌が挿し込まれていく。
じゅるり、ぬちゅりと音を立てて、鋭敏に感じてしまう穴の中を舐め回される。
頭の中へ入り込んできて犯されるような、けれど甘く不思議な気持ちよさ。
抗う気が萎え、身体から力が抜けて、彼女のなすがままにされていく。
「すこし耳を舐っただけなのに、もう蕩けているのか。
女子のように感じおって……なら、ここはどうだ?」
「く、あぁっ」
肌を撫でていた二つの青白い手が衣をはだけさせ、両脇の下から手を入れて、僕の胸部を撫でまわす。
舌による耳責めとまさぐるような指のせいで、全身の感覚がさらに鋭くなるのを感じる。
ひやりとした指が僕の乳首にちょんと触れただけで、声が漏れてしまった。
「なんだ、乳首まで感じてしまうのか?男なのに、ますます生娘のようだの。
こんなにピンと勃たせおって、ここを弄られるとどんな可愛らしい音を上げるかな……?」
「や、やめ……うぁっ……」
右の乳首は指の腹でくりくりと、左の乳首は爪先でかりかりと、優しく捏ね回してくる。
触られる度に、感度も快感も増していく。
普段は意識することのない場所を巧みに責められ、肉欲を自覚させられる。
幼少より穢れたものとして抑えこまれていた欲の類が首をもたげ、疼いてくる。
「だめ……です、こん、な……」
「馬鹿を言え、股座(またぐら)でこんなに立派なモノを勃たせておいて。
触られたいか? だが貴様が自分から言えるようになるまではお預けだ」
「ぼ、ぼくは……ああっ、んくっ」
今度は二本の指で僕の乳首を緩く摘まんで、こりこりと擦り合わせてくる。
さらにさっきとは逆の耳穴へ舌責めまで加えてきて、ぬちゅぬちゅと犯されていく。
耳から乳首から、耐え難いほどの気持ちよさが襲ってくるが、どこかまだ決定的に物足りない。
びくびくと震える自分の愚息は、とても正直だった。
「ひぃっ、あうぅっ……!」
「どれ、そろそろ衣を捲ってやろうか」
彼女が身をひらりと動かしたかと思うと、あっという間にするりと着物を脱がされ、下着の褌だけにされる。
そしてさっきまで寝ていた布団の上へと僕は押し倒され、そこへ魔物様が添い寝をするかのように、横へ並んで寝転ぶ。
「……ふふふ、見ろ。物欲しそうに震えては、先走りまで垂らして、褌を汚しておるぞ♥
これでもまだ正直にはなれぬか?」
布地の上からその膨らんだ愚息を、焦らすように指でつーっとなぞられる。
さらに余った手で乳首を、舌で耳を責められてしまう。
直接的な快感を与えられず、昂らされ続けた股間はもうはち切れそうだった。
そして耐え切れず、口に出してしまう。
「お……お願いです、魔物様。お慈悲を、ください」
「お慈悲、では分からぬ。何をされたいのか、ちゃんと口に出せ」
「う、うう……」
喋る間も舌以外は止まることなく責め続けてきて、さらに焦らしてくる。
「ぼ、ぼくの……愚息を、鎮めてくださいませ」
「もっと明瞭に言うのだ。この指で扱いて欲しいか、舌で責めて欲しいか。
望むなら……私の膣中に呑み込んでやろう」
「ち、ちつ……?」
「そちらの教育はお座成りか。男と女が交わり、子を成す、その営みのことだ。
もっとも私は魔物ゆえ、お前の精こそが糧である以上、まだ子を孕む訳ではないが」
「……そ、そんな……交わいなど、もっての……」
「仕様がない、我が氷柱に耐えていたことも称えて、この位で勘弁してやろう。
……む、これは……中々……ん?」
褌の結びに手を掛けたが解き方が分からないのか、四苦八苦している様子が見える。
それさえも焦らしの手腕かと思えたが、そうでもないらしい。
「ああ、ここはこう、か……で、では、脱がすぞ、よいな?」
その声には珍しく、幾ばくかの困惑が見て取れた。
魔物様の青白いはずの頬も、どこか色づいて見える。
そうして褌を解かれ、自分の愚息が屹立したのを見ると、彼女が息を呑むのが分かった。
「ああ……これが、男の一物か。痩せた身体にしては、随分と逞しいモノを持っておる。
見ているだけで、身体が疼いてくるぞ……♥」
息を荒げながら、魔物様は愚息に顔をそっと近づけていく。
ふうっと冷えた吐息が当たると、それだけでまた肉棒が跳ねてしまった。
「息が当たるだけでも感じるのか、淫らな身体だ。
では舌でなぞってやれば、どんな風に蕩けるのか。見物よの……♥」
魔物様の長い舌が伸びて、れろり、と竿を舐め上げる。
滑った舌はやはり心地が良く、つーっと肉棒に這わせられるだけで気持ちがいい。
「あ、ああ……そんな、汚れたモノを、舐められては……くうっ」
「何を言うか、とても甘美だぞ♥
さて先走りの垂れる亀頭はどんな味か、存分に堪能するとしよう……♪」
「あぐっ、そ、そこはぁっ……」
彼女が肉棒の先端をぱっくりと咥える。
さらに棒の付いた飴を舐るように、チロチロと舌で愚息の軟い部分を舐め回してくる。
特に裏の筋は念入りに舌が這って、唾液で塗れてしまうほどに磨かれていく。
刺激の強すぎる快感が股間を伝い、全身を痺れさせる。
「おっとすまぬ、手が空いていたか。
どうだ、自分で扱くよりも遥かに感じてしまうだろう。
いや、貴様はまだ千擦りも覚えておらぬ程の初心であったか……? ふふ♥」
「あ、あっ、あああ……!」
先端を舐め回すのを止めないまま、右の手が肉棒の竿を握り、ごしごしと擦ってくる。
自分の愚息がびくびくと震え、何かがせり上がり始める。
とても熱くて、恐ろしいほどの快感を伴う何かが。
「お、お止めを……! なにか……で、出てしまいます……!」
「んむ?ぷはっ……そうか、まだ精通もしておらぬか。
そんな生きのいい子種を、膣で受け止めぬというのは余りに勿体ない話だな……?♥」
彼女は一度立ち上がると、自分の着物の帯をさっと解いた。
はらり、と着物の一部が宙を舞ったかと思うと、大きな袖と足袋は残したまま、肉付きの良い裸体が露わになる。
元々目のやり場に困るほど露出の多い格好であったが、今は張りの良い大きな乳房が全て晒されて、薄青色の乳首がぷくりと勃っているのが分かる。
そして青白い肌の股間は、とっぷりと淫らな液体に濡れそぼり、部屋の小さな明かりに反射して煌めいていた。
「ああ、私もこれほどまでに昂っているとは。
子宮が疼いて、お前の子種を搾り取りたいと強請っているぞ……♥」
「ま……まもの、さま……そんな……」
「そうか、まだ口答えをする気力があるらしいな。
丁度いい、快感を僅かたりとも逃がさぬよう、四肢ごと布団へ磔にしてやろう」
彼女は布団の上で仰向けになっていた僕を、大の字にさせる。
すると先刻も見た氷柱が四つ、湧き出るように宙へ現れて、また僕の身体へ先端を向けた。
「なに、を……あぐうっ?!」
僕の両腕と両足に、氷柱が一瞬で突き刺さる。
木の床板ごと肢体を刺し貫いたそれは、僕自身の力では抜くことはおろか、手足をぴくりと動かすこともできない。
同時に襲ってくる、寂寥感と孤独さ。
「あ、あ……さむ、い……」
さっきまで触れていた魔物様の温もりが恋しくて、涙まで出そうになる。
だが凍てつくような身体の冷えで、懇願の声を上げることすらままならない。
肢体の自由を奪われ、凍りかけた意識を、頬に触れる掌の温かさが溶かしていく。
「凍えるだろう?……私がいつも感じていたその寂しさ、分かってくれるか?
青白い氷の色さえ霞んでいく、灰色のような寒さを……」
大の字に寝ころんだ僕の腰に、まるで騎乗のごとく、おずおずと魔物様が跨る。
彼女のむちむちとした太腿が触れて擦れるだけで、肉棒がびくんと震えた。
「あ……う、まもの、さまぁ……っ」
「おお、すまぬ。お前を苦しめたくないと言った傍から、また意地の悪い真似をしたな。
凍てたその身体を、心を。すぐに溶かしてやろうぞ……♥」
依然として勃起したままだった肉棒の先端に、彼女の濡れた股間がくちゅりと触れる。
それだけで火のような熱さが愚息を温めていく。
その肉壺に、膣穴に呑み込まれたら、狂おしいほど心地が良いと分かってしまう。
ゆっくり、ゆっくりと、魔物様が腰を落として、僕の愚息を呑み込んでいく。
「んっ……あ、ああ……♥は、入ってくるぞ……お前の熱い、一物が……♥」
「ひぐぅっ……♥あ、熱い、ですぅっ、まものさまっ……!♥」
その中は溶かされそうなほど熱くて、幾多のヒダで埋め尽くされていて。
ただゆっくりと膣に這入っていくだけでも、何かが爆発しそうになる。
「あ、ふぅっ……♥ど、どうだ、根元まで……咥えこんだ、ぞ。
初めての経験だが……この僅かな痛みさえ、心地いい。
それに……今までにないほど、熱を感じる……外からも、内からも……♥」
「ま、もの、さま……だい、じょうぶ、ですか……?」
熱に茹る意識の中でも、彼女の股座から、赤味こそないが血のような体液が少しばかり零れているのが分かった。
「なんだ……四肢を氷柱に貫かれておいて、まだ私を案ずる余裕があるのか?
まったく、その心胆には呆れて惚れ惚れする。
そんな顔をするな、痛みは僅かと言ったろう? それより、も……♥」
「え、あ……ああぁッ♥♥」
「もう、私も、我慢が利かぬのだ……♥
互いがどろどろに溶け切るまで、お前を犯しつくしてやらないと、心が満ちぬ……!♥」
突然に、魔物様は腰を上下に振り乱し始める。
初めはまだ緩やかだったが、すぐさま勢いづいて、動きが早くなっていく。
ぱんっ、ぱんっ、と、魔物様の尻たぶが自分の身体に当たる音が鳴り響く。
彼女が腰を動かすたび、たゆんとした二つの乳房がぶるんぶるんと揺れる。
「くぅっ、ああっ♥こ、こんなにっ、熱くなれるものが、あろうとはっ……♥
い、一物が♥膣を擦るたびにっ♥奥を突かれるたびにっ♥痺れてしまうようだっ……♥♥」
「ま、まもっ、さまっ♥こんなっ、ああっ♥」
ずちゅっ、ぱちゅっ、ぬちゅっ、ぐちゅっ。
淫らな水音と、互いの熱く荒い吐息だけが部屋を埋めていく。
きゅうきゅうと吸い付くように締め付けてくる魔物様の穴は、何よりも甘美な快楽をもたらしてくる。
彼女の頬が色濃く染まり、肉棒を奥底に咥え込むたびに子供のような可愛らしい嬌声を上げ、淫靡に蕩けていくのが分かった。
「もっとっ、もっとだっ♥お前の熱を感じさせてくれっ♥♥
熱くて、硬い、その一物で、私のほとを、抉ってっ……♥
男に成るその証の、一番濃い子種を、注ぎ込めっ……♥♥」
魔物様の言うとおり、自分の愚息には子種がせり上がって来ているのだろう。
それを解き放つと、きっとこの狂いそうなまでのもどかしさからは解放される。
同時に意識が溶けるほどの快楽に包まれるであろうことも、ひしひしと感じた。
「ふふふっ、まだ、手は抜かんぞっ♥お前の好きな乳首も、捏ね回してやるっ♥
そうだ、接吻も、まだだったではないか♥
貴様が、子種を吐き出すまで♥口づけも、たっぷり、味あわせろっ……♥んっ♥むぅっ♥ちゅうっ……♥♥」
「んーっ、んぐっ♥んむぅぅっ……!♥」
膣内で肉棒を扱かれ、両方の乳首を指で愛撫されながら、唇を塞がれる。
息が上手く出来なくなって、喘ぎ声さえ自由に出せなくなる。
長い舌が口内へ入り込んで、僕の舌といやらしく絡まり合う。
息継ぎのために少しだけ唇が離れた瞬間に、僕は限界を告げた。
「っ、ぷはっ……♥あぁっ♥も、もうっ♥だめですっ♥まものさまぁっ♥」
「わ、わたしもっ、もうっ……♥い、一緒に、果てるぞ……っ♥
身体の、全部で、お前を♥熱を、受け止めてっ、やるぅっ……♥♥」
乳首をくりくりと愛撫してくる指の動きと、暴力的なまでに打ち付けてくる腰の動き。
蕩けきった顔で僕を見つめる魔物様を目に焼き付けてから、僕は瞼を閉じる。
それを合図にして彼女はまた唇を重ね、舌を絡ませてきた。
全ての快楽が合わさり、一つになった僕たちの身体が溶け合うような錯覚。
「ちゅっ、んっ♥はむっ♥ふうっ♥んんっ、んんん――ッ……♥♥!!」
彼女の奥底に咥え込まれた肉棒が、どくん、どくんと強く脈打って、液体を吐き出す。
視界が真っ白に霞んで、全身が跳ねる。
氷柱が刺さり動かない四肢のせいで快楽を逃がせず、脳が溶けるような気持ちよさに全てが包まれていく。
口づけをしていた唇が離れて、ぱくぱくと空気を求めて開閉を繰り返した。
「あっ、ああっ、はあああっ……♥すごい、なかっ、満たされてっ……♥♥
あたま、まっしろに、とけるうっ……♥」
幼子のような嬌声は、あの冷ややかな魔物様のものとは思えないほど甘く。
目を開けると、絶頂で蕩け、溶けた彼女の緩み切った表情が、また目に焼き付く。
絶え絶えの息を整えながら、僕の身体をぎゅうっと彼女が抱きしめた。
「ふーっ……♥ふーっ……♥お前の、初子種、すべて搾り取って、やったぞ♥
氷の我が身体が、ここまで、蕩け切るとは、な……♥」
僕の四肢を貫いていた氷柱は融けて消え、動かせなかった体が動く。
冷ややかだったはずの彼女の体温は、滾るような温もりが支配している。
それに触れるだけで、囲炉裏に当たるような心地よさに包まれていく。
僅かに残っていた身も心も、安心して溶け切ってしまう。
消耗しきった身体で何とか彼女を抱きしめ返すが、次第に力が入らなくなる。
「はぁ……はぁ、まもの……さまぁ……」
「……どうした、眠くなったか? ふふ、あれほど焦らしてしまったからな、無理もない。
何も案ずるな、そなたはもう凍てる心配をしなくていい。
このままずっと、私がお前を、包み込んでいてやろうぞ……♥」
優しい声の中、僕の意識は微睡みに溶けていった。
――――――――――――――――――――――――――
「――起きたか。まだ、身体は震えるか?」
「いえ。申し分ありません」
「お前が何処の世から彷徨ってきたかは知らぬが、来れるのなら戻ることも出来よう。
同胞も感づいたらしい、幾らかはもう旅立ったと聞いた。
ヒトのままであるかは保証せぬが、いずれお前の親類とも知人とも、会える時が来る。
だが今日の夜は、特に吹雪が強まる。小屋の外には決して出るな、童よ」
「はい」
ヒトと魔物と、同じ布団の中、魔物様が僕にささやく。
「童……と呼び続けるのも、気が進まぬな。
そういえばまだ、お前の名前を聞いていなかった」
何度抱かれても、このたゆんとした乳房の柔さを感じながら寝るのには慣れない。
あの日に出会ってから数日間、夜の間はずっと、魔物様に抱きすくめられていた。
「あ……申し遅れておりました。自分の名は、出水(いずみ)です」
「ではその名で呼ぶぞ、出水よ」
そうして自分の名を口に出したとき、否応なくある事に気付く。
「……ひとつ、差し出た願いを、よろしいでしょうか」
「珍しいな、藪から棒に」
「自分とていつまでも、魔物様、などとはお呼びしたくありません。
お名前を、知りとうございます」
「我が種を指して言うなら、氷柱女と呼ぶ者は多かろうが」
「それでは意味がありませぬ。私と共に居てくれる、貴方様の名が知りたいのです」
「……そうか」
彼女には珍しく、逡巡したように見えた後の相槌。
「すまぬが、私には斯様なものはない。
どうしてもと言うなら、お前が決めるがいい」
「なれば……僭越ながら」
暫し自分も思案した後、ふと思いつく。
「氷雨(ひさめ)のようでいて、太陽のように温かい。
”ひ”と”よう”を採り、”氷陽(ひよう)”というのは、如何ですか」
「っ……なんなりと、好きに呼べ」
彼女は途端に僕に背を向けて、淡々と、だが上機嫌を隠しきれない口調でそう言う。
「はい、氷陽さま」
「……うつけめ」
数日過ごして分かったが、これは魔物様なりの振る舞いだった。
照れた表情を見せるのは苦手なのか、感情が昂るとすぐに自分から顔を背けてしまう。
例外は、自分と交わりあう時だけ。
「喜んでいただけて何よりです、氷陽さま」
「ば、馬鹿を申すな」
「それにしては、背中が熱くなっておりますが」
そして上機嫌になると、冷ややかな体温が温まり始める。
目は口ほどに物を言うと云われるが、ここまで身体が物を言うのも珍しい。
「それは……お前がくっついておるからだ」
「ではもう少し、温まらせてくださいませ。どうにも冷え込んでしまうのです」
「……仕様のない童め」
もぞもぞと氷陽さまが身体を動かしたかと思うと、また僕の方を向く。
そして自分の顔が見えぬようにするためか、その豊かな乳房の間で僕の顔をむにゅりと挟んだ。
「その……いつもながらこれは、あまりに、恥ずかしいのですが」
「私をからかった仕置きだ。存分に堪能しろ」
そうぶっきらぼうに言いながらも、氷陽さまは僕の頭を優しく撫でる。
いつもなら冷えた掌は、もう十分に温かみを持っていて。
静粛な時間の後、昂りを抑えきれぬ、色気の混ざった声で氷陽さまがつぶやいた。
「お前は……これからも、この冷たい氷柱女をその身に抱いて、溶かしてくれるか」
「もとより、僕を救ってくださったのは、他ならぬ氷陽さまではないですか。
たとえそうでなくとも――僕はもう、貴方様に惚れてしまいました。
一人の男として、氷陽さまが望む限り、身を捧げる所存です」
返事と共に、自分の身には余る肉付きの良いその身体を、出来る限り抱きしめる。
その肢体はすでに、熱く温もりを持ち始めていた。
「もう、情欲を抑えられぬ……今宵も、吹雪を溶かすほどに熱く、愛し合おうぞ。
いつしか子を成し、お前の父が羨み、満足するような家族と成ろう。
互いの名も知れた。何度であろうと、私を想って名を呼んでくれ、出水よ」
「ああ。心よりお慕いしております、氷陽さま――」
いつしか、荒れ吹雪いていたはずの山は鳴りを潜め、雪が降り積もるばかりとなり。
その雪解け水は、生を、子を紡いでいく。
18/10/31 19:47更新 / しおやき