まもむすさん
「へえ、こんなアプリが出てたのか」
アパートで一人暮らししている俺は、暇潰しにベッドで転がってスマホを触っていた。
彼女もなく、独身貴族を満喫している所なので女関係は別に頓着していないのだが、就職したことで数少ない友達が身近にいなくなり、会社に同期もいなかった俺は気軽な会話相手に飢えていた。
そこで偶然見つけたのが、つい最近に出来たというこのアプリである。
「まもむすさん」
このアプリは平たく言うと、匿名かつ不特定の相手と今すぐに通話ができるアプリだ。
通話する相手はもちろん自分と同じアプリを使っている人である。
誰と話すことになるかは掛けてみるまでわからないが、それは相手も同じ。
つまり自分から言及しない限り、自分の情報を相手にほとんど漏らすことなく、気軽に会話ができるわけである。
まあその分すぐに切られたり、会話してくれない相手だったり、ヘンな相手と話す可能性もあるわけだが……そこは一期一会だ。
その手軽さが受けて若者にはけっこう人気らしい。
さらに24時間有人監視パトロール付きとあり、犯罪や迷惑な勧誘行為は取り締まられているとのこと。安全性もお墨付きということだ。
名前の由来はよく分からないが、まあそれはどうでもいい。
「さて、物は試しだ。さっそくインストールしてみるか」
画面を何回かタップして「インストール」のボタンを押す。
……ん?アクセス権限の許可……色々あるけどまあ問題ないか、ポチっと。
ダウンロードバーが動きだす……が、アプリインストールには少し時間が掛かった。
さほど容量もないし、ネット環境も悪いわけではないはずだが……ま、いいや。
「さーて、早速掛けてみるかな」
アプリを起動すると約束事やら細かい説明やら出てきたが、適当に斜め読みする。
もし危険なアプリだとしたらレビューやネットの記事でも言われてるはずだからな。
「お、いよいよか……よーし。やっぱ話の合いそうな子がいいかな……ん?」
後ワンボタンで通話が掛かるという所で、少し気にかかる。
「なるほど、プロフィール欄ね。ここに教えたい情報だけ書いとけるのか。
うーん……まあ年齢とか、住んでる県、趣味ぐらいか?」
あまり書きすぎても引かれそうなので、短めに書いておく。
「二十代前半、K県、趣味……映画鑑賞でいっか」
さて。
いよいよ準備が整ったので、通話ボタンに指を掛ける。
気軽に何度でも掛けられるので、その点では心配ないが……このアプリを使うのは初めてだし、毎回必ず初対面の相手と話すってことだ。
人見知りと言う程ではないが、初めて話すというのは緊張するものだ。
少しドキドキしながら俺は通話ボタンを押した。
ppp……
なんかよく分からない効果音が流れる。
五秒、十秒、二十秒……意外と相手が出るまで時間が掛かるなあ。
一分ほどしてようやく、ヘンな効果音が途切れ、ピロリンという音が鳴った。
「お?」
繋がった?
『……し、もしもし……』
これは……女性の声だ。それも結構若い、俺と同じかそれより下かもしれない。
「あー、もしもーし」
『あ……は、はいっ』
密やか……というか、繊細な声。落ち着いているが、どこか気弱そうな声色だ。
「えーと……ごめん、俺はこのアプリ初めて使うんだけど」
『わ、わたしも……です』
「あれ、そうなの?そりゃすごい偶然だ」
『そ、そうですね』
言葉の端々から彼女には緊張が見て取れる。それは俺よりも格段に大きい。
まあ、気を遣う必要ははっきりいってないのだが……スムーズに話をするなら警戒は解いておいた方がいい気がした。
「んー、なんか結構若々しい声だけど……いくつか聞いちゃっても大丈夫?」
『あ、ぷ、プロフィールに、書いてます』
「ああー、ごめんごめん今から見るよ」
俺はスマホを耳元から一度離し、画面を見る。
19歳、K県、趣味は読書です、人見知りしてしまったらごめんなさい……か。
「へー、俺より若い……っていうか、住んでる所も同じだ」
『そ、そうなんですか?』
「意外と近くにいたりしてねー、ははは」
『そっ、そうです、ね』
流石に詳しい場所は聞きにくいが、同じ県に住んでいるというだけでも親近感が湧く。
「俺は仕事でこっちに来たんだけどねー。地元が恋しいよ」
『仕事……は、何をされてるんですか?』
「えーっと、まだ新卒だけど、俺は――」
――とまあ、こんな感じで会話は進んでいく。
どこか強張った声色も、十分ほど話していれば次第に消えていった。
「――かな。そういえば、そっちはどんな事してるの?」
『わ、わたしは……今は、お料理の勉強を……』
「っていうと、調理師とかかな?」
『そ、そんなに大層なものじゃないです。
でも、良いお嫁さんになれるように、って思って、本はたくさん買いました』
「へえー、そりゃあ今から出会う男性がうらやましいな」
『あ……いえ、もう男の人は……見つけたというか、出会っちゃったというか……』
「そうなの?そりゃあますます羨ましいね。可愛い声してるし」
『えっ、そ、そんなっ! わわ、わたしなんて……!』
「いや、もっと自信持っていいと思うよ。礼儀正しいから気立ても良さそうだし」
『うう、そ、そんな、こと、ないですからぁ……』
「俺も今のうちに良い人見つけろって親がうるさくてねー」
『や、やっぱり、男の人もそういうこと考えるんですか?』
「いや、まだあんまり真剣には考えてないんだけど……まあ、いいかなって」
『じゃ、じゃあ、女の人と遊びに行きたいとかは……?』
「えっ? あー……そうだなあ、楽しくなりそうなら行ってみたいかな」
俺がそう言った瞬間、彼女の声色が極端に変わる。
『そ、それなら!わ、わ、わ、わたしとっ、い、一緒に!あそ、遊んでくださいっ!!』
「ええっ?!」
驚いた俺も思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「そう言われても……これってそういうアプリじゃないんじゃ?」
『そっ、そんなコト関係ないです!連絡先の交換は同意の上なら問題ないですから!』
「まあ、確かに……」
『ですよねですよね!だ、だから、おおお願いします!』
こういう事も全く予期しなかったわけではないが、流石に一度目からこんなにぐいぐいくる相手が来るとは思わなかった。
しかしまあ、プロフ欄が正しいなら住む場所も近いし、そんなに悪い子には思えない。
なにかしら悪意があるとしても、本物ならもっとスマートなやり口で来るはずだ。
こんな唐突に、かつがむしゃらに「連絡先を交換したい」だなんて言わないだろう。
「そうだなあ、ちょうど近くに住む友達が欲しかったところだし……」
『ほほほ、ホントですかっ!嬉しいですっ!!』
しかしすごい喜びようだ。声の端々からそれが伝わってくる。
「じゃあ俺のLIMEのIDを教えるから、後でそっちのを教えて」
『分かりました!』
互いに通話アプリでの連絡先を教え合い、登録する。
「えーと、名前は……レーツェル?……で合ってる?」
『は、はい』
外国語っぽいが……まあ、ハンドルネームか何かだろう。
俺もアプリでは名前だけしか入れてないし、会って遊ぶぐらいなら十分だ。
「じゃあ、せっかくだしいつ遊ぶかの予定も立てようか」
『おおお、お願いします!』
「日にちは……次の土曜、○○駅の入り口辺りで十二時に集合、でいいかな?」
『わ、分かりました!』
「あと、目印もあった方が分かりやすいかな……じゃあ駅に着いたら、その日の格好を教えて」
『か、格好、ですね。おしゃれって苦手なんですけど、頑張ります……!』
「そ、そんな気負わなくていいよ。いつもの服で」
予定が決まった後も雑談をしたりして、その日は終わった。
そして、約束の土曜日。
そういえば外見の話は一切していないので、どんな子なのだろうと想像する。
まあ自分の外見に自信のある子ならもっと他の出会い方を探すだろうし、どんな子でも遊び相手として楽しければいいので特に期待はしていなかったが。
そして○○駅の入り口近くまでやって来た。
都会ではないので人混みというほどではないが、休日だけあって人気はそれなりだ。
まだ予定より二十分も前なので、流石に早すぎたな――と思っていると、スマホがメッセージの受信で振動する。
届いたメッセージはもちろんレーツェルからの物だ。
『私の格好は白のワンピース?っていうのと、他はほとんど黒です』
……これ以上は書いてない。
アバウトというか……ちょっと情報が少なすぎないか?
白のワンピースだとしても同じ人はたくさんいそうだし、ほとんど黒いと言われても。 一応周りを見渡してみるが、これだけでは――
「……なんだあれ」
フリルやレースが控えめについた真っ白いワンピースと、腰まで伸びた黒い髪に、驚くほど随所が整った顔と鋭い目つき。
背は俺より少しだけ低く、程よい胸の膨らみやくびれが女性らしさに溢れている。
しかし一番目を引くのは――頭にある黒い二本の角に、黒い翼と尻尾のようなものと、ワンピースの裾から覗く爬虫類のような鱗のついた黒く逞しい腕と足。
例えるなら……人の擬態をした”竜”だろうか。
コスプレ……だとしたら、翼や尻尾が落ち着きなく動いているのはおかしい。
生き物のように動くそれが作り物だとは考えられないが……あんな人間がいるというのも考えにくい。というかどうやってワンピースを着たんだ。
駅前というロケーションからは完全に浮いているし、通りすがる人達も目を合わせないようにしている。
「白のワンピースに……ほとんど黒い……」
とても嫌な予感がする。
確認のために俺はスマホで「今着いたから探してます」とメッセージを送ってみた。
「……!」
すぐさま黒い竜人はポケットから見た事のない形のスマートフォンを取り出す。
腕の鱗は籠手のようになっていて、手首から先は人間と同じ形をしているらしい。
彼女はスマホの画面を見るや否や、慌てたようにきょろきょろ周りを見渡している。
ついでに黒い翼や尾がひっきりなしに動いてさらに騒がしくする。
「い……いやいや、まさかそんな」
たまたまあの子にも連絡が来たのだろう、きっとそうだ。
俺と喋っていた相手があんなに厳つい人外だなんて、そんなはずがない。
もう一度俺はスマートフォンを立ち上げ、レーツェルにメッセージを――
「……あ!」
聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、人とは思えない重厚な足音が近づいてくる。
言うまでもなくあの黒い竜がいた方からだ。
俺がはっと顔を上げると、もう一メートル程の近さで彼女が立っていた。
「……」
黒い竜の、鋭い緋色の目が俺を睨む。
同時にその威圧感とは縁遠そうな、石鹸のような仄かに甘い匂いが漂ってくる。
「れ……レーツェルさん……です、か?」
何かの勘違いだと思いながら、俺は声を絞り出す。
「はいっ! わ、私がレーツェル、ですっ、……いや!
わ、私が!レーツェルだっ!」
俺の願いも虚しく、彼女はそう言い切った。
「い、色々聞きたい事はあるんですが……どうして、俺の姿が分かったんです?」
「え? ……あ!そ、そうだった!まだ知らない事になってるのに……!」
鋭い目つきのままレーツェルは取り乱し始め、体を揺らす。
「それに……その姿は一体?」
「こ、これは……誇り高き”ドラゴン”族の姿!
そして、うぞうむじょっ……有象無象を屠る我らが種族は、誇り高き人間を探し求めていたのだっ!
そう、あな……貴様のような人間を!」
取り繕ったような言葉と無理のある高笑いを発しながら、レーツェルはじりじりと俺に近づいてくる。
周りを見ても俺達に近づく人影はない、みんな余計なトラブルとは無縁でいたいのだろう。
「いや、ドラゴンと言われても……そんなファンタジーな生き物がいるわけが……」
「ふっふっふっ、これだから愚鈍な人間は困る。
我々は既にこの世界への侵攻を始めているのだ。
”てれび”とやらで”魔物娘”という言葉を聞いた事はないのか?」
「まものむすめ……?そういえば、最近色んなメディアでたまーに見るような……」
人間に似ているが、性質は異なる生き物……というぐらいしか知らない。
それに彼女のような、竜に似た外見の魔物娘を見るのは初めてだ。
「しかし、俺は君みたいな子を見たことがないんだけど……」
「ほう、我らがドラゴンについて知らぬとは、無知を通り越して感激さえ覚える。
では、お、教えてやろう!その身体に、心に、決して忘れられぬようになっ!
ぐるおぉぉぉぉぉぉんっ!!」
察するに獣のような咆哮――のつもりなのだろうが、いかんせん声量も凄みも足りていない。
ともすれば雑踏にかき消されそうなか細い遠吠えだった。
「あの……ここだと人目につくんで、喫茶店にでも入りましょうか」
「え、あ、わかりま……いいだろう!」
手頃な喫茶店に入って、レーツェルの話を詳しく聞く。
あのアプリの怪訝な点については教えてくれなかったが、ドラゴンという種についてはちゃんと話してくれた。
おおよそのドラゴンは強気で高慢な性格らしいのだが、レーツェルはかなりの変わり者で弱気かつ卑屈な性格をしている。
どうも両親の教育と黒い竜という外見が原因らしいが、人間の俺には理解しにくい。
匿名で通話できるアプリを使っていたのも、出会ってすぐに威厳ある喋り方をしようとしたのも、ドラゴンという種族が自分のせいで誤解されないように、ということらしい。
「……なので、ウチの両親がとっても強いうえに、おまけに姉たちも優秀で……。
末っ子の私はとても甘やかされてたんですけど、成長するにつれてだんだん自分の無力さが目に付くようになって。
ぱ……お父さんやお姉ちゃん達は「お前にはお前だけの強さがある、それも魔物娘にとって最大の」って言ってくれてたんですけど、遺伝したのは目つきの鋭さぐらいで。
結局、すぐに親元を離れちゃったんです」
「ドラゴンってのも意外と大変なんだな……」
俺はアイスコーヒーを飲みながら、彼女の打ち明け話を聞いていた。
流石に店の中では邪魔になると思ったのか、レーツェルは大きな黒い翼を折りたたんで背中に収納している。
「と、とにかく……わた、我がドラゴンであるかどうかはこの際関係ないのだ。
我が探し求めていたのは、貴殿のような、選ばれた人間であり、」
「いや、もう喋り方は無理しなくていいから……」
「うぐっ……は、はい……えっと、それでも!
私は出会えたんです、貴方のような男性と!」
「でもあのアプリ、なんか変だったような……」
「も、問題じゃないんです、どういう切っ掛けだったかってコトは!
私みたいな落ちこぼれドラゴンにも優しくしてくれた、その事実が大切で……」
「あの時は普通に話してただけで……そんな大層な事はしてないよ。
それに俺は、君が言うような取り立てて価値のある人間じゃない。
君みたいな綺麗な人なら、俺よりも他にもっと良い人が――」
そう言いかけると、レーツェルが、ばんっとテーブルを叩いて立ち上がる。
驚いた俺は言葉が止まり、ちょうど持っていたアイスコーヒーをこぼしそうになった。
「わ、私にとっては! 貴方はもう、かけがえのない宝なんです!
確かに私は男の人とは殆ど話したこともないですが、それでも……!
貴方の事は!とっても素敵だと思ったんですっ!」
いつもの気弱な声からは信じられない程の強い口調。
レーツェルは自分が立ち上がっていたことにようやく気付いたように、顔を赤らめながら座り直した。
「……ドラゴンの端くれである私にはなんとなく分かるんです。相手がどんな存在で、どういう気概を持って生きているか。
自分と相手の相性がどれぐらいなのか」
「でも……俺は金持ちでもないし、逞しい身体も類稀な頭脳もない。
ごくごく一般の人間だ。それこそドラゴンなんて生き物とはとても釣り合うとは……」
「財産の多寡なんてドラゴンに……いいえ、魔物娘全員にとって興味ありません。
屈強な肉体も飛び抜けた知識もいらない。どうしても必要になればその時から鍛えればいい。
そんな些事よりも、誠実か、そして私に興味を持ってくれるかどうか。
そっちの方が何よりも大事なんです」
いつも鋭い目つきが更に真剣になり、俺を睨む。
「だから……私の事に、少しでも興味を持ってくれるなら……。
私と一緒に、今日一日を過ごしてくれませんか」
それはとても真っ直ぐな言葉で、言いようのないほど純真な思いだった。
「――もちろん。俺はもっと、君の事を知ってみたい」
「ほ、ホントですか!ありがとうございますっ!
良かったぁ……断られちゃったら、泣いちゃいそうだったから……」
さっきの突き刺す視線が嘘のように、レーツェルが柔和な笑顔を浮かべる。
目つきこそ鋭いままだが、声色からも緊張が解けたような感情が見て取れた。
「じゃ、じゃあ……そろそろ行きましょうか。私が案内しますから」
「あ、うん。俺はまだここの近くに住んだばっかりだから、頼んでもいいかな」
「はいっ」
自分の分を払いたがるレーツェルを押しとどめ、会計を終えて店を出る。
「それで、どこに行くの?」
ばさっ、と大きな音を立てて彼女が黒い翼を広げる。
そしてギザギザした歯を覗かせ、さっきとはまた違う獰猛な笑みを浮かべた。
「そ、それはもちろん……私の家です♥」
「へっ?」
気の抜けた声を出した瞬間、俺の身体は地上から離れていた。
彼女に、レーツェルに抱きかかえられて空を飛んでいると認識するのに数秒は掛かっただろう。
「え、ええええええ?!!」
「大丈夫ですよ、絶対に離したりしませんから……今も、これからも♪」
「い、いや、でも!俺、こ、高所恐怖症で――あっ」
下を見た途端、自分が今見えるどの建物よりも高い所に浮かんでいる事に気付く。
――飛んでいる。飛翔している。
人々が豆粒よりも小さくなり、風が全身を撫でる。
足が着く展望台でさえ気が遠くなる俺にとって、その刺激は余りに強すぎた。
「ふふふふっ……私の事、たっぷり知ってもらいます♪
身体も心も、そしてその中までぜーんぶ……♥」
その言葉を最後に、俺は意識を失った。
次に目が覚めたとき、俺は良い匂いのする柔らかなベッドで寝かされていた。
裸で。
そして俺の上には、ワンピースを脱いだ一糸纏わぬレーツェルが馬乗りになっている。
「えへへへぇ……目が覚めた? もうわたしガマンできないよぉ……♥」
「れ、レーツェル?!これは……?!」
「お互いを知るのには、これがいちばん早くて効率的だからぁ……。
大丈夫、私は初めてだけどいーっぱい勉強も練習もしたの。
パパもお姉ちゃんたちもすっごく喜んでくれてたから、きっと貴方も気に入るよ……♥」
「あ、あああ……た、たすけ……アッー!!!」
それは”ドラゴン”としての威厳を示すかのような、圧倒的な力と性技。
男の俺をいとも簡単に組み伏せ、性感帯をあっという間に見抜き、優しい愛撫と意地悪な焦らし責めを的確に織り交ぜてくる。
もしかして彼女の姉が言っていたという「彼女だけの強さ」とはこの事ではないか。
しかし――「情事の際だけ淫らになるが、普段はおとなしい女性に襲われたい」という願望を密かに持っていた俺には、今のシチュエーションはあまりに魅力的すぎる。
スマホに入っている成年向け作品のデータもそんなジャンルばかりだが、実際にそんな出会いがあるわけもなく、俺はどこか満たされない思いを抱えていた。
そんな俺がレーツェルに犯されるのを自ら望むのに、時間が掛かるはずもなかった。
「ああっ♥貴方のおちんちん、すごく気持ちいいっ♥ぱっくり飲み込むたびにふわってしちゃう♥
それに貴方の感じてる顔もっ♥とってもカワイイ♥見てるだけでイッちゃいそう……♥」
もっと、もっとトロけた顔を見せてぇっ♥
「うああああっ、れ、レーツェルうぅ……っ」
「ほら、今はレーツェル様と呼べっ♥ちゃんと言わないとお預けだぞ♥」
抵抗する気などすぐに瓦解し、快感という餌で心の芯まで調教される。
人間を蹂躙し、容易くねじ伏せるその姿はまさしく”ドラゴン”だった。
「ああっ♥わ、わたしもイクっ♥イッちゃうぅっ♥
さあ、わたしの中に、全てっ♥貴様の子種を吐き出すのだぁっ♥♥
わたしを一度で孕ませてしまうぐらいにっ♥濃い精液を注げぇっ♥♥」
――やはりドラゴンに勝てる人間などいないのかもしれない。
桃源郷のような快楽で薄れゆく意識の中、俺はそう思っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
まもむすさん:平均評価(4.8/5.0)
紅き瞳のレーツェル 様のカスタマーレビュー 評価:★★★★★
友達に勧められて使ってみましたが、最高に満足です!!
(以下は専用スマートフォンを使用している方のみに表示されております)
普段は臆病で、誰かと話すたびにどもってしまうほどの私ですが、
「自分のいる場所に近い」「自分と相性の良さそうな」男性と見事出会えました!
相手の携帯電話にあるデータや履歴から性癖・嗜好を調べてくれるので、外れる事はまずないでしょう。
『ラタトスク機関』が企画・制作している事もあって、信頼性は抜群です!
魔物娘が使うには専用のスマートフォン(バッフォンというそうです)が必要になりますが、普段使いも十分可能で、かつお値段もお手頃でした。
ただ、自分のデータを入力する必要もあるので、以前レビューされたレッドスライムさんのような、スマホが非常に扱いにくい方には一人だと難しいかもしれません。
また、最近出たばかりのアプリなので、現時点では全国どこでもすぐに相手が見つかる、というわけにはいかないようです。
しかし定期アップデートで将来性もばっちりなので、満点を付けさせて頂きました!
アパートで一人暮らししている俺は、暇潰しにベッドで転がってスマホを触っていた。
彼女もなく、独身貴族を満喫している所なので女関係は別に頓着していないのだが、就職したことで数少ない友達が身近にいなくなり、会社に同期もいなかった俺は気軽な会話相手に飢えていた。
そこで偶然見つけたのが、つい最近に出来たというこのアプリである。
「まもむすさん」
このアプリは平たく言うと、匿名かつ不特定の相手と今すぐに通話ができるアプリだ。
通話する相手はもちろん自分と同じアプリを使っている人である。
誰と話すことになるかは掛けてみるまでわからないが、それは相手も同じ。
つまり自分から言及しない限り、自分の情報を相手にほとんど漏らすことなく、気軽に会話ができるわけである。
まあその分すぐに切られたり、会話してくれない相手だったり、ヘンな相手と話す可能性もあるわけだが……そこは一期一会だ。
その手軽さが受けて若者にはけっこう人気らしい。
さらに24時間有人監視パトロール付きとあり、犯罪や迷惑な勧誘行為は取り締まられているとのこと。安全性もお墨付きということだ。
名前の由来はよく分からないが、まあそれはどうでもいい。
「さて、物は試しだ。さっそくインストールしてみるか」
画面を何回かタップして「インストール」のボタンを押す。
……ん?アクセス権限の許可……色々あるけどまあ問題ないか、ポチっと。
ダウンロードバーが動きだす……が、アプリインストールには少し時間が掛かった。
さほど容量もないし、ネット環境も悪いわけではないはずだが……ま、いいや。
「さーて、早速掛けてみるかな」
アプリを起動すると約束事やら細かい説明やら出てきたが、適当に斜め読みする。
もし危険なアプリだとしたらレビューやネットの記事でも言われてるはずだからな。
「お、いよいよか……よーし。やっぱ話の合いそうな子がいいかな……ん?」
後ワンボタンで通話が掛かるという所で、少し気にかかる。
「なるほど、プロフィール欄ね。ここに教えたい情報だけ書いとけるのか。
うーん……まあ年齢とか、住んでる県、趣味ぐらいか?」
あまり書きすぎても引かれそうなので、短めに書いておく。
「二十代前半、K県、趣味……映画鑑賞でいっか」
さて。
いよいよ準備が整ったので、通話ボタンに指を掛ける。
気軽に何度でも掛けられるので、その点では心配ないが……このアプリを使うのは初めてだし、毎回必ず初対面の相手と話すってことだ。
人見知りと言う程ではないが、初めて話すというのは緊張するものだ。
少しドキドキしながら俺は通話ボタンを押した。
ppp……
なんかよく分からない効果音が流れる。
五秒、十秒、二十秒……意外と相手が出るまで時間が掛かるなあ。
一分ほどしてようやく、ヘンな効果音が途切れ、ピロリンという音が鳴った。
「お?」
繋がった?
『……し、もしもし……』
これは……女性の声だ。それも結構若い、俺と同じかそれより下かもしれない。
「あー、もしもーし」
『あ……は、はいっ』
密やか……というか、繊細な声。落ち着いているが、どこか気弱そうな声色だ。
「えーと……ごめん、俺はこのアプリ初めて使うんだけど」
『わ、わたしも……です』
「あれ、そうなの?そりゃすごい偶然だ」
『そ、そうですね』
言葉の端々から彼女には緊張が見て取れる。それは俺よりも格段に大きい。
まあ、気を遣う必要ははっきりいってないのだが……スムーズに話をするなら警戒は解いておいた方がいい気がした。
「んー、なんか結構若々しい声だけど……いくつか聞いちゃっても大丈夫?」
『あ、ぷ、プロフィールに、書いてます』
「ああー、ごめんごめん今から見るよ」
俺はスマホを耳元から一度離し、画面を見る。
19歳、K県、趣味は読書です、人見知りしてしまったらごめんなさい……か。
「へー、俺より若い……っていうか、住んでる所も同じだ」
『そ、そうなんですか?』
「意外と近くにいたりしてねー、ははは」
『そっ、そうです、ね』
流石に詳しい場所は聞きにくいが、同じ県に住んでいるというだけでも親近感が湧く。
「俺は仕事でこっちに来たんだけどねー。地元が恋しいよ」
『仕事……は、何をされてるんですか?』
「えーっと、まだ新卒だけど、俺は――」
――とまあ、こんな感じで会話は進んでいく。
どこか強張った声色も、十分ほど話していれば次第に消えていった。
「――かな。そういえば、そっちはどんな事してるの?」
『わ、わたしは……今は、お料理の勉強を……』
「っていうと、調理師とかかな?」
『そ、そんなに大層なものじゃないです。
でも、良いお嫁さんになれるように、って思って、本はたくさん買いました』
「へえー、そりゃあ今から出会う男性がうらやましいな」
『あ……いえ、もう男の人は……見つけたというか、出会っちゃったというか……』
「そうなの?そりゃあますます羨ましいね。可愛い声してるし」
『えっ、そ、そんなっ! わわ、わたしなんて……!』
「いや、もっと自信持っていいと思うよ。礼儀正しいから気立ても良さそうだし」
『うう、そ、そんな、こと、ないですからぁ……』
「俺も今のうちに良い人見つけろって親がうるさくてねー」
『や、やっぱり、男の人もそういうこと考えるんですか?』
「いや、まだあんまり真剣には考えてないんだけど……まあ、いいかなって」
『じゃ、じゃあ、女の人と遊びに行きたいとかは……?』
「えっ? あー……そうだなあ、楽しくなりそうなら行ってみたいかな」
俺がそう言った瞬間、彼女の声色が極端に変わる。
『そ、それなら!わ、わ、わ、わたしとっ、い、一緒に!あそ、遊んでくださいっ!!』
「ええっ?!」
驚いた俺も思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「そう言われても……これってそういうアプリじゃないんじゃ?」
『そっ、そんなコト関係ないです!連絡先の交換は同意の上なら問題ないですから!』
「まあ、確かに……」
『ですよねですよね!だ、だから、おおお願いします!』
こういう事も全く予期しなかったわけではないが、流石に一度目からこんなにぐいぐいくる相手が来るとは思わなかった。
しかしまあ、プロフ欄が正しいなら住む場所も近いし、そんなに悪い子には思えない。
なにかしら悪意があるとしても、本物ならもっとスマートなやり口で来るはずだ。
こんな唐突に、かつがむしゃらに「連絡先を交換したい」だなんて言わないだろう。
「そうだなあ、ちょうど近くに住む友達が欲しかったところだし……」
『ほほほ、ホントですかっ!嬉しいですっ!!』
しかしすごい喜びようだ。声の端々からそれが伝わってくる。
「じゃあ俺のLIMEのIDを教えるから、後でそっちのを教えて」
『分かりました!』
互いに通話アプリでの連絡先を教え合い、登録する。
「えーと、名前は……レーツェル?……で合ってる?」
『は、はい』
外国語っぽいが……まあ、ハンドルネームか何かだろう。
俺もアプリでは名前だけしか入れてないし、会って遊ぶぐらいなら十分だ。
「じゃあ、せっかくだしいつ遊ぶかの予定も立てようか」
『おおお、お願いします!』
「日にちは……次の土曜、○○駅の入り口辺りで十二時に集合、でいいかな?」
『わ、分かりました!』
「あと、目印もあった方が分かりやすいかな……じゃあ駅に着いたら、その日の格好を教えて」
『か、格好、ですね。おしゃれって苦手なんですけど、頑張ります……!』
「そ、そんな気負わなくていいよ。いつもの服で」
予定が決まった後も雑談をしたりして、その日は終わった。
そして、約束の土曜日。
そういえば外見の話は一切していないので、どんな子なのだろうと想像する。
まあ自分の外見に自信のある子ならもっと他の出会い方を探すだろうし、どんな子でも遊び相手として楽しければいいので特に期待はしていなかったが。
そして○○駅の入り口近くまでやって来た。
都会ではないので人混みというほどではないが、休日だけあって人気はそれなりだ。
まだ予定より二十分も前なので、流石に早すぎたな――と思っていると、スマホがメッセージの受信で振動する。
届いたメッセージはもちろんレーツェルからの物だ。
『私の格好は白のワンピース?っていうのと、他はほとんど黒です』
……これ以上は書いてない。
アバウトというか……ちょっと情報が少なすぎないか?
白のワンピースだとしても同じ人はたくさんいそうだし、ほとんど黒いと言われても。 一応周りを見渡してみるが、これだけでは――
「……なんだあれ」
フリルやレースが控えめについた真っ白いワンピースと、腰まで伸びた黒い髪に、驚くほど随所が整った顔と鋭い目つき。
背は俺より少しだけ低く、程よい胸の膨らみやくびれが女性らしさに溢れている。
しかし一番目を引くのは――頭にある黒い二本の角に、黒い翼と尻尾のようなものと、ワンピースの裾から覗く爬虫類のような鱗のついた黒く逞しい腕と足。
例えるなら……人の擬態をした”竜”だろうか。
コスプレ……だとしたら、翼や尻尾が落ち着きなく動いているのはおかしい。
生き物のように動くそれが作り物だとは考えられないが……あんな人間がいるというのも考えにくい。というかどうやってワンピースを着たんだ。
駅前というロケーションからは完全に浮いているし、通りすがる人達も目を合わせないようにしている。
「白のワンピースに……ほとんど黒い……」
とても嫌な予感がする。
確認のために俺はスマホで「今着いたから探してます」とメッセージを送ってみた。
「……!」
すぐさま黒い竜人はポケットから見た事のない形のスマートフォンを取り出す。
腕の鱗は籠手のようになっていて、手首から先は人間と同じ形をしているらしい。
彼女はスマホの画面を見るや否や、慌てたようにきょろきょろ周りを見渡している。
ついでに黒い翼や尾がひっきりなしに動いてさらに騒がしくする。
「い……いやいや、まさかそんな」
たまたまあの子にも連絡が来たのだろう、きっとそうだ。
俺と喋っていた相手があんなに厳つい人外だなんて、そんなはずがない。
もう一度俺はスマートフォンを立ち上げ、レーツェルにメッセージを――
「……あ!」
聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、人とは思えない重厚な足音が近づいてくる。
言うまでもなくあの黒い竜がいた方からだ。
俺がはっと顔を上げると、もう一メートル程の近さで彼女が立っていた。
「……」
黒い竜の、鋭い緋色の目が俺を睨む。
同時にその威圧感とは縁遠そうな、石鹸のような仄かに甘い匂いが漂ってくる。
「れ……レーツェルさん……です、か?」
何かの勘違いだと思いながら、俺は声を絞り出す。
「はいっ! わ、私がレーツェル、ですっ、……いや!
わ、私が!レーツェルだっ!」
俺の願いも虚しく、彼女はそう言い切った。
「い、色々聞きたい事はあるんですが……どうして、俺の姿が分かったんです?」
「え? ……あ!そ、そうだった!まだ知らない事になってるのに……!」
鋭い目つきのままレーツェルは取り乱し始め、体を揺らす。
「それに……その姿は一体?」
「こ、これは……誇り高き”ドラゴン”族の姿!
そして、うぞうむじょっ……有象無象を屠る我らが種族は、誇り高き人間を探し求めていたのだっ!
そう、あな……貴様のような人間を!」
取り繕ったような言葉と無理のある高笑いを発しながら、レーツェルはじりじりと俺に近づいてくる。
周りを見ても俺達に近づく人影はない、みんな余計なトラブルとは無縁でいたいのだろう。
「いや、ドラゴンと言われても……そんなファンタジーな生き物がいるわけが……」
「ふっふっふっ、これだから愚鈍な人間は困る。
我々は既にこの世界への侵攻を始めているのだ。
”てれび”とやらで”魔物娘”という言葉を聞いた事はないのか?」
「まものむすめ……?そういえば、最近色んなメディアでたまーに見るような……」
人間に似ているが、性質は異なる生き物……というぐらいしか知らない。
それに彼女のような、竜に似た外見の魔物娘を見るのは初めてだ。
「しかし、俺は君みたいな子を見たことがないんだけど……」
「ほう、我らがドラゴンについて知らぬとは、無知を通り越して感激さえ覚える。
では、お、教えてやろう!その身体に、心に、決して忘れられぬようになっ!
ぐるおぉぉぉぉぉぉんっ!!」
察するに獣のような咆哮――のつもりなのだろうが、いかんせん声量も凄みも足りていない。
ともすれば雑踏にかき消されそうなか細い遠吠えだった。
「あの……ここだと人目につくんで、喫茶店にでも入りましょうか」
「え、あ、わかりま……いいだろう!」
手頃な喫茶店に入って、レーツェルの話を詳しく聞く。
あのアプリの怪訝な点については教えてくれなかったが、ドラゴンという種についてはちゃんと話してくれた。
おおよそのドラゴンは強気で高慢な性格らしいのだが、レーツェルはかなりの変わり者で弱気かつ卑屈な性格をしている。
どうも両親の教育と黒い竜という外見が原因らしいが、人間の俺には理解しにくい。
匿名で通話できるアプリを使っていたのも、出会ってすぐに威厳ある喋り方をしようとしたのも、ドラゴンという種族が自分のせいで誤解されないように、ということらしい。
「……なので、ウチの両親がとっても強いうえに、おまけに姉たちも優秀で……。
末っ子の私はとても甘やかされてたんですけど、成長するにつれてだんだん自分の無力さが目に付くようになって。
ぱ……お父さんやお姉ちゃん達は「お前にはお前だけの強さがある、それも魔物娘にとって最大の」って言ってくれてたんですけど、遺伝したのは目つきの鋭さぐらいで。
結局、すぐに親元を離れちゃったんです」
「ドラゴンってのも意外と大変なんだな……」
俺はアイスコーヒーを飲みながら、彼女の打ち明け話を聞いていた。
流石に店の中では邪魔になると思ったのか、レーツェルは大きな黒い翼を折りたたんで背中に収納している。
「と、とにかく……わた、我がドラゴンであるかどうかはこの際関係ないのだ。
我が探し求めていたのは、貴殿のような、選ばれた人間であり、」
「いや、もう喋り方は無理しなくていいから……」
「うぐっ……は、はい……えっと、それでも!
私は出会えたんです、貴方のような男性と!」
「でもあのアプリ、なんか変だったような……」
「も、問題じゃないんです、どういう切っ掛けだったかってコトは!
私みたいな落ちこぼれドラゴンにも優しくしてくれた、その事実が大切で……」
「あの時は普通に話してただけで……そんな大層な事はしてないよ。
それに俺は、君が言うような取り立てて価値のある人間じゃない。
君みたいな綺麗な人なら、俺よりも他にもっと良い人が――」
そう言いかけると、レーツェルが、ばんっとテーブルを叩いて立ち上がる。
驚いた俺は言葉が止まり、ちょうど持っていたアイスコーヒーをこぼしそうになった。
「わ、私にとっては! 貴方はもう、かけがえのない宝なんです!
確かに私は男の人とは殆ど話したこともないですが、それでも……!
貴方の事は!とっても素敵だと思ったんですっ!」
いつもの気弱な声からは信じられない程の強い口調。
レーツェルは自分が立ち上がっていたことにようやく気付いたように、顔を赤らめながら座り直した。
「……ドラゴンの端くれである私にはなんとなく分かるんです。相手がどんな存在で、どういう気概を持って生きているか。
自分と相手の相性がどれぐらいなのか」
「でも……俺は金持ちでもないし、逞しい身体も類稀な頭脳もない。
ごくごく一般の人間だ。それこそドラゴンなんて生き物とはとても釣り合うとは……」
「財産の多寡なんてドラゴンに……いいえ、魔物娘全員にとって興味ありません。
屈強な肉体も飛び抜けた知識もいらない。どうしても必要になればその時から鍛えればいい。
そんな些事よりも、誠実か、そして私に興味を持ってくれるかどうか。
そっちの方が何よりも大事なんです」
いつも鋭い目つきが更に真剣になり、俺を睨む。
「だから……私の事に、少しでも興味を持ってくれるなら……。
私と一緒に、今日一日を過ごしてくれませんか」
それはとても真っ直ぐな言葉で、言いようのないほど純真な思いだった。
「――もちろん。俺はもっと、君の事を知ってみたい」
「ほ、ホントですか!ありがとうございますっ!
良かったぁ……断られちゃったら、泣いちゃいそうだったから……」
さっきの突き刺す視線が嘘のように、レーツェルが柔和な笑顔を浮かべる。
目つきこそ鋭いままだが、声色からも緊張が解けたような感情が見て取れた。
「じゃ、じゃあ……そろそろ行きましょうか。私が案内しますから」
「あ、うん。俺はまだここの近くに住んだばっかりだから、頼んでもいいかな」
「はいっ」
自分の分を払いたがるレーツェルを押しとどめ、会計を終えて店を出る。
「それで、どこに行くの?」
ばさっ、と大きな音を立てて彼女が黒い翼を広げる。
そしてギザギザした歯を覗かせ、さっきとはまた違う獰猛な笑みを浮かべた。
「そ、それはもちろん……私の家です♥」
「へっ?」
気の抜けた声を出した瞬間、俺の身体は地上から離れていた。
彼女に、レーツェルに抱きかかえられて空を飛んでいると認識するのに数秒は掛かっただろう。
「え、ええええええ?!!」
「大丈夫ですよ、絶対に離したりしませんから……今も、これからも♪」
「い、いや、でも!俺、こ、高所恐怖症で――あっ」
下を見た途端、自分が今見えるどの建物よりも高い所に浮かんでいる事に気付く。
――飛んでいる。飛翔している。
人々が豆粒よりも小さくなり、風が全身を撫でる。
足が着く展望台でさえ気が遠くなる俺にとって、その刺激は余りに強すぎた。
「ふふふふっ……私の事、たっぷり知ってもらいます♪
身体も心も、そしてその中までぜーんぶ……♥」
その言葉を最後に、俺は意識を失った。
次に目が覚めたとき、俺は良い匂いのする柔らかなベッドで寝かされていた。
裸で。
そして俺の上には、ワンピースを脱いだ一糸纏わぬレーツェルが馬乗りになっている。
「えへへへぇ……目が覚めた? もうわたしガマンできないよぉ……♥」
「れ、レーツェル?!これは……?!」
「お互いを知るのには、これがいちばん早くて効率的だからぁ……。
大丈夫、私は初めてだけどいーっぱい勉強も練習もしたの。
パパもお姉ちゃんたちもすっごく喜んでくれてたから、きっと貴方も気に入るよ……♥」
「あ、あああ……た、たすけ……アッー!!!」
それは”ドラゴン”としての威厳を示すかのような、圧倒的な力と性技。
男の俺をいとも簡単に組み伏せ、性感帯をあっという間に見抜き、優しい愛撫と意地悪な焦らし責めを的確に織り交ぜてくる。
もしかして彼女の姉が言っていたという「彼女だけの強さ」とはこの事ではないか。
しかし――「情事の際だけ淫らになるが、普段はおとなしい女性に襲われたい」という願望を密かに持っていた俺には、今のシチュエーションはあまりに魅力的すぎる。
スマホに入っている成年向け作品のデータもそんなジャンルばかりだが、実際にそんな出会いがあるわけもなく、俺はどこか満たされない思いを抱えていた。
そんな俺がレーツェルに犯されるのを自ら望むのに、時間が掛かるはずもなかった。
「ああっ♥貴方のおちんちん、すごく気持ちいいっ♥ぱっくり飲み込むたびにふわってしちゃう♥
それに貴方の感じてる顔もっ♥とってもカワイイ♥見てるだけでイッちゃいそう……♥」
もっと、もっとトロけた顔を見せてぇっ♥
「うああああっ、れ、レーツェルうぅ……っ」
「ほら、今はレーツェル様と呼べっ♥ちゃんと言わないとお預けだぞ♥」
抵抗する気などすぐに瓦解し、快感という餌で心の芯まで調教される。
人間を蹂躙し、容易くねじ伏せるその姿はまさしく”ドラゴン”だった。
「ああっ♥わ、わたしもイクっ♥イッちゃうぅっ♥
さあ、わたしの中に、全てっ♥貴様の子種を吐き出すのだぁっ♥♥
わたしを一度で孕ませてしまうぐらいにっ♥濃い精液を注げぇっ♥♥」
――やはりドラゴンに勝てる人間などいないのかもしれない。
桃源郷のような快楽で薄れゆく意識の中、俺はそう思っていた。
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まもむすさん:平均評価(4.8/5.0)
紅き瞳のレーツェル 様のカスタマーレビュー 評価:★★★★★
友達に勧められて使ってみましたが、最高に満足です!!
(以下は専用スマートフォンを使用している方のみに表示されております)
普段は臆病で、誰かと話すたびにどもってしまうほどの私ですが、
「自分のいる場所に近い」「自分と相性の良さそうな」男性と見事出会えました!
相手の携帯電話にあるデータや履歴から性癖・嗜好を調べてくれるので、外れる事はまずないでしょう。
『ラタトスク機関』が企画・制作している事もあって、信頼性は抜群です!
魔物娘が使うには専用のスマートフォン(バッフォンというそうです)が必要になりますが、普段使いも十分可能で、かつお値段もお手頃でした。
ただ、自分のデータを入力する必要もあるので、以前レビューされたレッドスライムさんのような、スマホが非常に扱いにくい方には一人だと難しいかもしれません。
また、最近出たばかりのアプリなので、現時点では全国どこでもすぐに相手が見つかる、というわけにはいかないようです。
しかし定期アップデートで将来性もばっちりなので、満点を付けさせて頂きました!
18/08/17 20:50更新 / しおやき