こんなに寒い夜は
雪がしんしんと降り積もる夜。月明かりは真ん丸を描き、山中を薄暗くも照らしていた。
その雪の中をせっせと歩く男性の人影。
旅人のように身軽な服装と大袈裟な荷物、しかし防寒の類を知らないその装備。
このままでは凍死さえ覚悟しなければならない。
そう思っていた矢先、彼は掘っ立て小屋のような小さな家に気が付いた。
そこからは確かに明かりが漏れだしている。
誰かが住んでいる？こんな辺鄙な所で？
どちらにせよ、彼に選択の余地はなさそうだった。
彼が小屋の中に入ると、そこにはちゃんと家具が置いてあった。
椅子、テーブル、暖炉、ベッド。部屋の様相は呈していても、どれもこれも粗雑な作りをしている。
素人の手作りというか、見様見真似のハンドメイド製品というべきか。
その品質の低さは、まるで子供ががんばって作った工作のようだ。
何はともあれ、暖炉には火が付いていて暖かい。これだけで彼の心は嬉しくなった。
彼が喜びを隠せず安心しきったところで、奥の部屋から何者かが出てきた。
「……あ、な、……なんだ、オマエはっ」
そこに居たのはどこから見ても人間ではない、別の生き物だった。
肌は降り積もる雪のように白く、そして肌の所々に黒い結晶のような何かがあり、その黒い何かで手足の先が手袋や足袋のように包まれている。そして魔物だけあってか、全くの服を着ていない。惜しげもなく白肌を晒している。
彼女の長い黒髪に似た、背中から伸びる黒い触手。これが魔物の様相を呈していて、しかもその先端には目玉があって、時折こちらをぎょろりと睨んでくる。 しかも下に目をやると、どういうわけか彼女は地面に立っておらず、ほんの少しだが宙に浮いているのだ。
極めつけは、黒い前髪で見え隠れする赤い”一つ目”だ。
ただ身体の輪郭だけは、少女のような肢体をしているのが不思議でたまらない。
突然のことに驚いたまま返事ができず、ぼうっと彼は突っ立っていた。
「こ……ここは、あた、アタシの、家だぞ。分かってるのか」
魔物の剣幕に押され気味で、彼は少しずつ部屋の入り口までずりずりと引き足になる。
なんといっても相手は人間ではないのだから、逃げるべきなのかもしれない。
いくら相手に敵意が無さそうだ、とはいえ――
「あ、ま……待て！」
意外なその魔物からの呼びかけが、さらに青年を困惑させる。
魔物とは人間を襲う存在だ、彼は今までそう信じていたが、それは揺らいでいた。
「ゆ、雪が降ってるんだろう？ いま、外では」
こくんと頷く青年。
「だったら……夜になって出ていくのは、危ないんじゃないのか？」
それは正論だ。だが一体そんな事を言ってどうするのか、と青年が身構えると、
「こ……ここにいても、いい」
その言葉に思わず青年は聞き返した。
「そ、それぐらいは許してやるって言ってるんだよ！」
青年が旅の荷物を魔物の家に降ろすまで、そう時間は掛からなかった。
魔物は――いや一つ目の少女がじっと睨みつけてくるので、彼も落ち着かない。
「立ってるままなのか」と彼女が言うものだから、雪を払って椅子には座ったものの、その距離感はテーブルの間以上に大きかった。
旅人が小さくくしゃみをする。
そのついでのように青年は魔物に聞いた。暖炉に当たってもいいか、と。
ぶっきらぼうながらに魔物は「あぁ」と返す。
「寒くないのか」
偶然にも、両方が同じその言葉を、同時に言った。
「ど、どういう意味だ？」
先に聞き返したのは一つ目の魔物のほうだ。
何しろこの少女らしき相手は、自分と違って服もまともに着ていないのだから。
魔物だから、そもそも構造が違うのかもしれないが――と付け加えると。
「オマエだって、そんな格好でどうやって雪山を渡る気だったんだ」
そう言われれば、旅人として反省点でしかない。
いくら来る前に雪が見えなかったとはいえ、地元民に聞けば冷え込むのは分かっていた事なのに。
それを怠ったせいが祟り、今こうなっているのだから。
「ふんっ。どーせ自信過剰なモンだから、そのままでも山を越えれると踏んだんだろう」
自分の思惑とは違う反論に、青年は思わず強い口調で返した。
そんなことはない、ちゃんと近くの街で話を聞いていたらこんな事はなかった、と。
「じゃあなんで、それをしなかったんだ」
それは――と言い返そうとした所で、口が止まる。
青年はすごすごと引き下がって、また暖炉でちらつく火に目を遣った。
そしてとても小さい声で返事をする。
「……なんだって？」
静かな部屋の中でも聞き取るのが精いっぱいのその声を、少女が復唱する。
「……”人と接するのが苦手だから、話を聞けなかった”？」
こくん、と青年が頷いた。
それきり、一つ目の魔物と青年は黙りこくってしまう。
それから時間が経って、そろそろ寝ようと少女が切り出す。
青年は荷物を片づけておこうと、それらを部屋の隅に追いやっていた。
少女は自分のベッドを整えると、小さな鍋に水を汲む。いつもの所作のような、淀みのない動き。
そして、ばしゃあ。 と、勢いよくその水を暖炉の中に掛け入れた。
良い音を立てて、火が消えていく。
「！？」
この行為に驚いたのはもちろん青年だ。
そして驚きの声を上げた青年と、火の消えた暖炉を見比べて、少女はようやく気付いたかのように顔を上げた。
「あっ……！ い、いつものクセで……！
ち、違うんだ！嫌がらせしようと思ったんじゃなくて……！」
曰く、万が一火事になると面倒だからと、少女は寝る前に暖炉の火を消す癖があるらしい。
どうしてそんな事をするのか。それは彼女自身、本来は寒さを気にしない魔物だからだろう。
しかし青年にとっては大問題だ。暖炉のそばで寝られれば、それなりに快適だったはずなのに。
詰め寄らざるを得ない。少女に対して。
「し、しょうがねえだろ！消しちまったモンは……」
困ったように頭を掻く一つ目の少女。
そして迫力のある剣幕で青年に言い寄られて、少女は涙目ながらにある提案をした。
「そんなら！さ、寒くなかったらっ、いいんだろっ」
つい、とベッドを少女が指さす。
しかしそのベッドも、タオルケットのような薄布の布団しか敷かれていない。
温かさという点ではほとんど貢献してくれないだろう。
青年がそう言うと、少女は真っ赤な顔に涙目を揃えて呟いた。
「あ……あた、アタシが、温めりゃ……もんく、ないだろが……！
い、いっとくけど、それでもそんな温かくなんかないからな！ せーぜーこごえ死ぬなよっ！」
結局、青年と一つ目の少女はベッドで薄布を被り、一緒に寝ることになった。
青年が寝転ぶと、その背中を包むように少女が密着してくる。
流石に見つめ合うのは羞恥心に耐えがたい（と少女が言った）ので、こういう塩梅になった。
「う、ううう……は、はずかしい……」
青年の背中からはじんわりと温もりが伝わってきて、確かに温かい。
しかしそれでは温められるのは背中だけなので、やはりまだまだ肌寒くて仕方がない。
薄布だけでは温もりが保てず、ぶるぶると身体が震えてしまう。
「あ、えっと……その、寒くしたのはアタシのせいだし……。
オマエが温かいようにしてくれて、いいからな？」
とはいっても、これ以上どうやって温かくしてもらうべきか。
青年ははやくも考え付き、少女にお願いをする。
「え……え？触手？ 触手でぎゅっとすれば、あったかくなるって……？
でもそれでいいのか？その……アタシのこれ、気持ち悪いとか、そういうのは……」
確かに触手というのは少し得体が知れない所はあるけれど、問題はないだろう。
なにより、たまにこつんと触れる触手が意外と温かいのだ。これを使ってもらわない方法はない。
青年が頼み込むと、少女はおずおずと自分の背中から伸びる触手を青年の近くに集めだした。
一本、二本と触手が青年の身体を包む。
身体の上からぎゅーっと絡みついてくる触手の温かさは、かなりのものだった。
「こ……これでイイのか？」
困惑しながらも、少女は触手で青年を包み込んでいく。
外気の寒さから保護され、青年はほっと一息を付いた。
「んっ……あ、アタシも……オマエの温かさ、感じるよ。
こうやってみると……ニンゲンのカラダも、あったかいんだな……」
しばらく、その温かみに安堵しながら目を瞑る。
そうしていると、一つ目の少女の方から小さな声が聞こえてくる。
「ふ……んん……」
大丈夫か、と青年が問うと、
「あ、いや……その。アタシ等、男の精を吸う魔物だからさ……。
その、こうやってカラダを密着させてると……すごく、ヘンな感じで……。
き、気持ちが昂っちゃってっ……」
もぞもぞと少女の身体と触手がうごめく。
それにつれて、肌から触れる少女の体温が上がっていくように感じる。
「あ……んふぅ……」
そんな艶っぽい声を聞かされては、青年にとっても溜まったものではない。
いくら相手が魔物とはいえ、背後から聞こえるその声も、肌に触れる柔らかい肉の感触も、人間と見紛うほどに艶めかしいからだ。
「も、もう少し……そばにいくぞ？ いいよな……？」
ぎゅうっと背中から抱きつかれ、驚いて身体が跳ねてしまう。
もぞもぞ。すりすり。
妙なほど熱を持った少女の肢体が青年により深く、くっついてくる。
その温かさはどこか安心するような、優しく柔らかな温度。
「ああ……あったかいなぁ……♪ どうだ、オマエもあったまってくれてるか？」
んふふ……でもまだ、こんなモンじゃ済まさないからな？
もうアタシ、スイッチ入っちゃったぜ……♪」
ぞくっ、と下半身が痺れるような快感。
下を見ると、彼女の黒い指先が青年の内腿をすりすりと撫でまわしている。
さらに、全身を包む触手がぐにぐにと、強弱をつけるようにして全身をマッサージしてくる。
その動きはまるで生き物のように――。
「これなら……あたしもオマエも、あったまれるよな？」
一つ目の魔物の指先が、妖しく青年の身体を撫ぜていく。
服の中に手を入れて脇腹やへそを触ってみたり、脇をくすぐってみたり。
さらに首筋に吐息を掛けたり、舌でれろっと舐めてみたり。
その動きはマッサージというより、前戯になっていた。
「ああ……オマエに触れてると、すごく気分が良くなるんだよ。精が満ちてくのが分かるんだ。
でもまだ、イチバン大事なトコはお預けだな……♪」
さすさすと体の敏感な部位を触っていく少女だが、股間にはまだ触らない。
代わりに乳首や胸板、耳やほっぺのような、細微な性感帯に指を這わせてくる。
指先でくりくりと乳首をいじったり、耳をれろれろと舐めたり、ねっとりとした責めが青年を襲ってくる。
「んっ、ふぅ……オマエの身体が熱くなってきたの、感じるぜ。
ほら、もっと気持ちよくなれよっ」
責めはだんだんと激しく、よりいやらしいものになっていく。
熱く長い少女の舌が耳や首筋を這うだけで、身体が跳ねそうなほど気持ちがいい。
さらに指先が優しく乳首をいじめてくるのだから、青年の快感はますます増していった。
「どうしよっかな？おねだりできるまでずーっとイジめるってのもアリだけど……♪
さすがにそれはイジワルすぎるか？んふふ……♪」
楽しそうな声が背中から伝わってくる。
その声が聞こえてくる耳も、彼女の舌でねろっと犯されて性感帯になってしまっていた。
「でも、出しちまったらあったかいのが逃げちまうモンな……。
こーいうときは……そうだっ、」
急に少女が起き上がり、青年をベッドに仰向けにさせた。屹立した勃起がズボンの中で上を向く。
彼女の顔には、獲物をいたぶる動物のような、楽しそうな表情が浮かんでいる。
その一つ目を見ていると、なぜか頭の中まで犯されてしまいそうな悦楽を感じた。
「今日は一晩中、つながってるんだ。そしたら寒くならなくて安心だろ？」
少女が青年のズボンに手を掛け勢いよく降ろすと、勃起したペニスが出てくる。
そして彼女は舌なめずりをすると、自分の膣口にちょんと肉棒を当てた。ぬるっとした感触がペニスを僅かに濡らす。
お預けだったペニスへの刺激で、青年は声が出そうになった。
「じゃあ……入れる、ぞっ……んふぅぅっ……、」
にゅるる……と肉棒が先端からゆっくり飲み込まれていく。
柔らかなヒダが亀頭をちゅるりと刺激しながら、ペニスがずっぽりと少女の穴の中に呑まれた。
がっちりつかんで離さない肉壁は熱くて柔らかくて、入れているだけでも達してしまいそうになる。
「あはぁっ……！こ、こんな、気持ちイイ、なんてっ……！
で、でも……ガマン、しないとっ……動かさない、ようにぃ、っ……」
奥までペニスを飲み込み終えると、少女は青年の胸に顔を埋めるようにして抱きつく。
さらに触手が覆いかぶさってきて、二人をぎゅうっと包み込んだ。
ペニスを膣で、身体全体を触手で、と二重に包まれ、少女からの温もりを一身に受ける形になる。
「あふぅ……こ、これ、すごいよぉ。
動かしてないのに、あそこがきゅうきゅうして……っ。
こ、こんなで……寝られるかな……っ」
少女が喘ぎながらつぶやきを漏らす。
青年にとっても断続的に快感を送られ、このままでは寝るどころではないかもしれない。
ただ、身体の方は異様なほど温かく、熱く――。
そういう意味では、凍えてしまう心配がなさそうだった。
「んぁう、う、うごかすなよっ……か、かんじちゃうだろ……ひぁぁ……」
二人にとってはまるで快感を送り合う繋がりでもあり。
お互いが少しでも動くと、肉壁がずれてペニスに快感を送り、その刺激で動いてしまう。
あらゆる刺激がお互いを刺激する事に繋がって、結果的に相乗効果をもたらす。
そうしてお互いの体力が続くまで、二人はお互いに気持ちよさを分け合っていた。
「で、でもさ……こういうのって、イイよな。
アタシたちが、お互いに、温まりあってて、きもちよくなってて……。
こーいう関係って、さ……ずっとアタシが望んでた……ものかも、な」
突然の独白に、青年は耳を傾ける。
「アタシだって……ヒト付き合いなんて、ニガテなんだよ。
でも、こうやって家を作ってたら、いつか誰か来てくれるかなって、思って……。
それで、魔法を使わない火の使い方だって覚えたんだ。
そんで誰かが来てもいいように、毎日火を入れたり消したりしてた。
ホントは……必要なんかないのにさ」
それはいつか自分が言った、『人と付き合うのが下手』という言葉に対しての返答。
「オマエだって、はじめっから人を嫌ってるワケじゃないんだろ？
そうじゃなかったら旅人なんて、やってらんないもんな……。
アタシもオマエも……ホントは誰かと一緒になりたいのに、出来なかった……ってことだよな」
押し黙った青年は、頷くことで返答するしかなかった。
「なあ……あたし達、そーいうモン同士でさ。一緒になったりできないかな。
アタシ、人柄も人相も良くない魔物で、かわいくないヤツだけど。
それでもオマエが、イイって言ってくれるなら……」
胸の中で語られる少女の独白を、青年はただ聞いていた。
そして二人が目覚めたころ。
結局一晩中つながっていた彼女達は、お互いがお互いを刺激し合いっぱなしだった。
そうして休む間もなく快感に陥っていて、まったく休息にはならなかったようだ。
「……。
な、なあ。昨日言ったコト……だけどさ。
もし、その……少しでも、そういう気があるなら……。
もう一日だけ、泊まっていってくれても――。」
その家の住人が二人になるのに、大した時間は掛からなかった。
その雪の中をせっせと歩く男性の人影。
旅人のように身軽な服装と大袈裟な荷物、しかし防寒の類を知らないその装備。
このままでは凍死さえ覚悟しなければならない。
そう思っていた矢先、彼は掘っ立て小屋のような小さな家に気が付いた。
そこからは確かに明かりが漏れだしている。
誰かが住んでいる？こんな辺鄙な所で？
どちらにせよ、彼に選択の余地はなさそうだった。
彼が小屋の中に入ると、そこにはちゃんと家具が置いてあった。
椅子、テーブル、暖炉、ベッド。部屋の様相は呈していても、どれもこれも粗雑な作りをしている。
素人の手作りというか、見様見真似のハンドメイド製品というべきか。
その品質の低さは、まるで子供ががんばって作った工作のようだ。
何はともあれ、暖炉には火が付いていて暖かい。これだけで彼の心は嬉しくなった。
彼が喜びを隠せず安心しきったところで、奥の部屋から何者かが出てきた。
「……あ、な、……なんだ、オマエはっ」
そこに居たのはどこから見ても人間ではない、別の生き物だった。
肌は降り積もる雪のように白く、そして肌の所々に黒い結晶のような何かがあり、その黒い何かで手足の先が手袋や足袋のように包まれている。そして魔物だけあってか、全くの服を着ていない。惜しげもなく白肌を晒している。
彼女の長い黒髪に似た、背中から伸びる黒い触手。これが魔物の様相を呈していて、しかもその先端には目玉があって、時折こちらをぎょろりと睨んでくる。 しかも下に目をやると、どういうわけか彼女は地面に立っておらず、ほんの少しだが宙に浮いているのだ。
極めつけは、黒い前髪で見え隠れする赤い”一つ目”だ。
ただ身体の輪郭だけは、少女のような肢体をしているのが不思議でたまらない。
突然のことに驚いたまま返事ができず、ぼうっと彼は突っ立っていた。
「こ……ここは、あた、アタシの、家だぞ。分かってるのか」
魔物の剣幕に押され気味で、彼は少しずつ部屋の入り口までずりずりと引き足になる。
なんといっても相手は人間ではないのだから、逃げるべきなのかもしれない。
いくら相手に敵意が無さそうだ、とはいえ――
「あ、ま……待て！」
意外なその魔物からの呼びかけが、さらに青年を困惑させる。
魔物とは人間を襲う存在だ、彼は今までそう信じていたが、それは揺らいでいた。
「ゆ、雪が降ってるんだろう？ いま、外では」
こくんと頷く青年。
「だったら……夜になって出ていくのは、危ないんじゃないのか？」
それは正論だ。だが一体そんな事を言ってどうするのか、と青年が身構えると、
「こ……ここにいても、いい」
その言葉に思わず青年は聞き返した。
「そ、それぐらいは許してやるって言ってるんだよ！」
青年が旅の荷物を魔物の家に降ろすまで、そう時間は掛からなかった。
魔物は――いや一つ目の少女がじっと睨みつけてくるので、彼も落ち着かない。
「立ってるままなのか」と彼女が言うものだから、雪を払って椅子には座ったものの、その距離感はテーブルの間以上に大きかった。
旅人が小さくくしゃみをする。
そのついでのように青年は魔物に聞いた。暖炉に当たってもいいか、と。
ぶっきらぼうながらに魔物は「あぁ」と返す。
「寒くないのか」
偶然にも、両方が同じその言葉を、同時に言った。
「ど、どういう意味だ？」
先に聞き返したのは一つ目の魔物のほうだ。
何しろこの少女らしき相手は、自分と違って服もまともに着ていないのだから。
魔物だから、そもそも構造が違うのかもしれないが――と付け加えると。
「オマエだって、そんな格好でどうやって雪山を渡る気だったんだ」
そう言われれば、旅人として反省点でしかない。
いくら来る前に雪が見えなかったとはいえ、地元民に聞けば冷え込むのは分かっていた事なのに。
それを怠ったせいが祟り、今こうなっているのだから。
「ふんっ。どーせ自信過剰なモンだから、そのままでも山を越えれると踏んだんだろう」
自分の思惑とは違う反論に、青年は思わず強い口調で返した。
そんなことはない、ちゃんと近くの街で話を聞いていたらこんな事はなかった、と。
「じゃあなんで、それをしなかったんだ」
それは――と言い返そうとした所で、口が止まる。
青年はすごすごと引き下がって、また暖炉でちらつく火に目を遣った。
そしてとても小さい声で返事をする。
「……なんだって？」
静かな部屋の中でも聞き取るのが精いっぱいのその声を、少女が復唱する。
「……”人と接するのが苦手だから、話を聞けなかった”？」
こくん、と青年が頷いた。
それきり、一つ目の魔物と青年は黙りこくってしまう。
それから時間が経って、そろそろ寝ようと少女が切り出す。
青年は荷物を片づけておこうと、それらを部屋の隅に追いやっていた。
少女は自分のベッドを整えると、小さな鍋に水を汲む。いつもの所作のような、淀みのない動き。
そして、ばしゃあ。 と、勢いよくその水を暖炉の中に掛け入れた。
良い音を立てて、火が消えていく。
「！？」
この行為に驚いたのはもちろん青年だ。
そして驚きの声を上げた青年と、火の消えた暖炉を見比べて、少女はようやく気付いたかのように顔を上げた。
「あっ……！ い、いつものクセで……！
ち、違うんだ！嫌がらせしようと思ったんじゃなくて……！」
曰く、万が一火事になると面倒だからと、少女は寝る前に暖炉の火を消す癖があるらしい。
どうしてそんな事をするのか。それは彼女自身、本来は寒さを気にしない魔物だからだろう。
しかし青年にとっては大問題だ。暖炉のそばで寝られれば、それなりに快適だったはずなのに。
詰め寄らざるを得ない。少女に対して。
「し、しょうがねえだろ！消しちまったモンは……」
困ったように頭を掻く一つ目の少女。
そして迫力のある剣幕で青年に言い寄られて、少女は涙目ながらにある提案をした。
「そんなら！さ、寒くなかったらっ、いいんだろっ」
つい、とベッドを少女が指さす。
しかしそのベッドも、タオルケットのような薄布の布団しか敷かれていない。
温かさという点ではほとんど貢献してくれないだろう。
青年がそう言うと、少女は真っ赤な顔に涙目を揃えて呟いた。
「あ……あた、アタシが、温めりゃ……もんく、ないだろが……！
い、いっとくけど、それでもそんな温かくなんかないからな！ せーぜーこごえ死ぬなよっ！」
結局、青年と一つ目の少女はベッドで薄布を被り、一緒に寝ることになった。
青年が寝転ぶと、その背中を包むように少女が密着してくる。
流石に見つめ合うのは羞恥心に耐えがたい（と少女が言った）ので、こういう塩梅になった。
「う、ううう……は、はずかしい……」
青年の背中からはじんわりと温もりが伝わってきて、確かに温かい。
しかしそれでは温められるのは背中だけなので、やはりまだまだ肌寒くて仕方がない。
薄布だけでは温もりが保てず、ぶるぶると身体が震えてしまう。
「あ、えっと……その、寒くしたのはアタシのせいだし……。
オマエが温かいようにしてくれて、いいからな？」
とはいっても、これ以上どうやって温かくしてもらうべきか。
青年ははやくも考え付き、少女にお願いをする。
「え……え？触手？ 触手でぎゅっとすれば、あったかくなるって……？
でもそれでいいのか？その……アタシのこれ、気持ち悪いとか、そういうのは……」
確かに触手というのは少し得体が知れない所はあるけれど、問題はないだろう。
なにより、たまにこつんと触れる触手が意外と温かいのだ。これを使ってもらわない方法はない。
青年が頼み込むと、少女はおずおずと自分の背中から伸びる触手を青年の近くに集めだした。
一本、二本と触手が青年の身体を包む。
身体の上からぎゅーっと絡みついてくる触手の温かさは、かなりのものだった。
「こ……これでイイのか？」
困惑しながらも、少女は触手で青年を包み込んでいく。
外気の寒さから保護され、青年はほっと一息を付いた。
「んっ……あ、アタシも……オマエの温かさ、感じるよ。
こうやってみると……ニンゲンのカラダも、あったかいんだな……」
しばらく、その温かみに安堵しながら目を瞑る。
そうしていると、一つ目の少女の方から小さな声が聞こえてくる。
「ふ……んん……」
大丈夫か、と青年が問うと、
「あ、いや……その。アタシ等、男の精を吸う魔物だからさ……。
その、こうやってカラダを密着させてると……すごく、ヘンな感じで……。
き、気持ちが昂っちゃってっ……」
もぞもぞと少女の身体と触手がうごめく。
それにつれて、肌から触れる少女の体温が上がっていくように感じる。
「あ……んふぅ……」
そんな艶っぽい声を聞かされては、青年にとっても溜まったものではない。
いくら相手が魔物とはいえ、背後から聞こえるその声も、肌に触れる柔らかい肉の感触も、人間と見紛うほどに艶めかしいからだ。
「も、もう少し……そばにいくぞ？ いいよな……？」
ぎゅうっと背中から抱きつかれ、驚いて身体が跳ねてしまう。
もぞもぞ。すりすり。
妙なほど熱を持った少女の肢体が青年により深く、くっついてくる。
その温かさはどこか安心するような、優しく柔らかな温度。
「ああ……あったかいなぁ……♪ どうだ、オマエもあったまってくれてるか？」
んふふ……でもまだ、こんなモンじゃ済まさないからな？
もうアタシ、スイッチ入っちゃったぜ……♪」
ぞくっ、と下半身が痺れるような快感。
下を見ると、彼女の黒い指先が青年の内腿をすりすりと撫でまわしている。
さらに、全身を包む触手がぐにぐにと、強弱をつけるようにして全身をマッサージしてくる。
その動きはまるで生き物のように――。
「これなら……あたしもオマエも、あったまれるよな？」
一つ目の魔物の指先が、妖しく青年の身体を撫ぜていく。
服の中に手を入れて脇腹やへそを触ってみたり、脇をくすぐってみたり。
さらに首筋に吐息を掛けたり、舌でれろっと舐めてみたり。
その動きはマッサージというより、前戯になっていた。
「ああ……オマエに触れてると、すごく気分が良くなるんだよ。精が満ちてくのが分かるんだ。
でもまだ、イチバン大事なトコはお預けだな……♪」
さすさすと体の敏感な部位を触っていく少女だが、股間にはまだ触らない。
代わりに乳首や胸板、耳やほっぺのような、細微な性感帯に指を這わせてくる。
指先でくりくりと乳首をいじったり、耳をれろれろと舐めたり、ねっとりとした責めが青年を襲ってくる。
「んっ、ふぅ……オマエの身体が熱くなってきたの、感じるぜ。
ほら、もっと気持ちよくなれよっ」
責めはだんだんと激しく、よりいやらしいものになっていく。
熱く長い少女の舌が耳や首筋を這うだけで、身体が跳ねそうなほど気持ちがいい。
さらに指先が優しく乳首をいじめてくるのだから、青年の快感はますます増していった。
「どうしよっかな？おねだりできるまでずーっとイジめるってのもアリだけど……♪
さすがにそれはイジワルすぎるか？んふふ……♪」
楽しそうな声が背中から伝わってくる。
その声が聞こえてくる耳も、彼女の舌でねろっと犯されて性感帯になってしまっていた。
「でも、出しちまったらあったかいのが逃げちまうモンな……。
こーいうときは……そうだっ、」
急に少女が起き上がり、青年をベッドに仰向けにさせた。屹立した勃起がズボンの中で上を向く。
彼女の顔には、獲物をいたぶる動物のような、楽しそうな表情が浮かんでいる。
その一つ目を見ていると、なぜか頭の中まで犯されてしまいそうな悦楽を感じた。
「今日は一晩中、つながってるんだ。そしたら寒くならなくて安心だろ？」
少女が青年のズボンに手を掛け勢いよく降ろすと、勃起したペニスが出てくる。
そして彼女は舌なめずりをすると、自分の膣口にちょんと肉棒を当てた。ぬるっとした感触がペニスを僅かに濡らす。
お預けだったペニスへの刺激で、青年は声が出そうになった。
「じゃあ……入れる、ぞっ……んふぅぅっ……、」
にゅるる……と肉棒が先端からゆっくり飲み込まれていく。
柔らかなヒダが亀頭をちゅるりと刺激しながら、ペニスがずっぽりと少女の穴の中に呑まれた。
がっちりつかんで離さない肉壁は熱くて柔らかくて、入れているだけでも達してしまいそうになる。
「あはぁっ……！こ、こんな、気持ちイイ、なんてっ……！
で、でも……ガマン、しないとっ……動かさない、ようにぃ、っ……」
奥までペニスを飲み込み終えると、少女は青年の胸に顔を埋めるようにして抱きつく。
さらに触手が覆いかぶさってきて、二人をぎゅうっと包み込んだ。
ペニスを膣で、身体全体を触手で、と二重に包まれ、少女からの温もりを一身に受ける形になる。
「あふぅ……こ、これ、すごいよぉ。
動かしてないのに、あそこがきゅうきゅうして……っ。
こ、こんなで……寝られるかな……っ」
少女が喘ぎながらつぶやきを漏らす。
青年にとっても断続的に快感を送られ、このままでは寝るどころではないかもしれない。
ただ、身体の方は異様なほど温かく、熱く――。
そういう意味では、凍えてしまう心配がなさそうだった。
「んぁう、う、うごかすなよっ……か、かんじちゃうだろ……ひぁぁ……」
二人にとってはまるで快感を送り合う繋がりでもあり。
お互いが少しでも動くと、肉壁がずれてペニスに快感を送り、その刺激で動いてしまう。
あらゆる刺激がお互いを刺激する事に繋がって、結果的に相乗効果をもたらす。
そうしてお互いの体力が続くまで、二人はお互いに気持ちよさを分け合っていた。
「で、でもさ……こういうのって、イイよな。
アタシたちが、お互いに、温まりあってて、きもちよくなってて……。
こーいう関係って、さ……ずっとアタシが望んでた……ものかも、な」
突然の独白に、青年は耳を傾ける。
「アタシだって……ヒト付き合いなんて、ニガテなんだよ。
でも、こうやって家を作ってたら、いつか誰か来てくれるかなって、思って……。
それで、魔法を使わない火の使い方だって覚えたんだ。
そんで誰かが来てもいいように、毎日火を入れたり消したりしてた。
ホントは……必要なんかないのにさ」
それはいつか自分が言った、『人と付き合うのが下手』という言葉に対しての返答。
「オマエだって、はじめっから人を嫌ってるワケじゃないんだろ？
そうじゃなかったら旅人なんて、やってらんないもんな……。
アタシもオマエも……ホントは誰かと一緒になりたいのに、出来なかった……ってことだよな」
押し黙った青年は、頷くことで返答するしかなかった。
「なあ……あたし達、そーいうモン同士でさ。一緒になったりできないかな。
アタシ、人柄も人相も良くない魔物で、かわいくないヤツだけど。
それでもオマエが、イイって言ってくれるなら……」
胸の中で語られる少女の独白を、青年はただ聞いていた。
そして二人が目覚めたころ。
結局一晩中つながっていた彼女達は、お互いがお互いを刺激し合いっぱなしだった。
そうして休む間もなく快感に陥っていて、まったく休息にはならなかったようだ。
「……。
な、なあ。昨日言ったコト……だけどさ。
もし、その……少しでも、そういう気があるなら……。
もう一日だけ、泊まっていってくれても――。」
その家の住人が二人になるのに、大した時間は掛からなかった。
16/01/26 02:34更新 / しおやき