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魔物娘流・ビジネスマナー講座
 大学四年生になったばかりの彼は今、就職活動前線の真っただ中。
 しかし、この前の面接では「もっと礼儀やマナーを学びなさい」と暗に言われてしまいました。
 真面目な彼は大学に戻ったとき、受講者を募集するポスターを見たのがきっかけで、すぐさま『社会人としてのマナー研修』を受講予約したのです。

  ”本社は、この講習を受けた際に生じる、利用者または第三者が被ったいかなる不利益、損害について、理由を問わず一切の責任を負わないものとします”

 ”契約書”に書かれた受講規約の、この一文を見落として。





(※いうまでもなく魔物娘流のマナーなので、よい子のみんなは魔物娘のいない場所でマネしちゃだめですよ!デーモンさんとの約束です!)



【デーモンさんと学ぶ:挨拶・言葉遣いのマナー】


『本日は弊社のオフィスまでご足労いただき、ありがとうございます。
 それではよろしくお願いしますね、佐藤さん』

「は、はい。よろしくお願いします、出門さん。
 (一対一とは聞いてたけど、こんな美人な方が講師だなんて……緊張するなあ)」

『では、最初は上司との……特に付き合いの深い上司との、挨拶や言葉遣いについてです』

「上司と、ですか?」

『そうですよ。相手がわ……上司であるからといって、気を遣いすぎるのもマナー違反ですし、もちろん親しき仲にも礼儀あり、とも申します。
 塩梅が難しいものではありますが、覚えていきましょう』

「はい、ではどういうふうに……?」

『対応に関しては、接客七大用語に「いかもおおあし」というのがあります。
 これは基本的にはお客様との対話で使うものですが、言葉遣いとしても様々に応用していけるので、それを学んでいきましょう』

「わかりました。 「いかもおおあし」……というのは、もしかして頭文字をとった感じのものですかね?」

『ええ! ご明察の通りですよ、佐藤さん。
 では一つずつ挙げていきますね。メモと復唱の準備はよいですか?』

「えっと……はい、大丈夫です」

『では最初の”い”。「イカせてください」の”い”です』

「いかせてくださ…………え?」

『わた……上司との間柄では、ちゃんと希望をはっきり口に出すのが大事です。
 曖昧な言い方では自分がどう思っているのか、どう「感じている」のか伝わりませんからね』

「も、もっともらしい事を言ってますけど、なんかおかしくないですか?!
 語句が!語句だけが!」

『次は”か”です。これは「かしこまりました」ですね』

「え、ああ……(あれ?いきなり普通になった……)」

『わたs……上司の命令はほぼ絶対なので、基本的には素直に聞き入れましょう。
 どうしても苦手なことや、手が離せない場合は除きますが、そのあともしっかりフォローが必要です』

「は、はい」

『そのフォロ―によく使うのが”も”の「もうしわけありません」です。
 断る場合こそ、丁寧な対応が必要ということですね』

「なるほど……(さすがに最初のは聞き間違いだったのかな)」

『次は”お”ですね、まあ”お”は二つ続くので順番はどちらでもよいのですが。
 「おっぱい」と「おしり」。とても大事なものです』

「いや聞き間違いじゃなかった!絶対聞き間違いじゃなかったよこれ!!」

『わたs……上司にどちらを要望するか、両方とも希望するかは自由です』

「いやどう考えてもおかしいでしょう色々と?!」

『あっ、何か説明に不手際がありましたか?』

「それは……どこから突っ込んでいいのか分かりません……」

『じゃあ次に行きましょう。ガマンができな……いえ、時間が無くなってしまう前に。
 次は”あ”ですね、これは……』

「(まあ、ここはやっぱり「ありがとうございます」かな……)」

『お分かりとは思いますが、”あ”は「愛してます」ですね♪』

「なんで上司に愛の告白をするんですか!?」

『えっ……? ああ、そういうのはもっと大事に取っておくべきだということですね。
 その気持ちはとってもよく分かります……うふふ♡
 でも、ちゃんと口に出してこそ意味がある言葉というのはたくさんあるんですよ?』

「そ、そういう事じゃなくて……」

『では最後の”し”ですね。もちろん「シャセイさせてください」です』

「いやまたそんな……しかも最初とほぼ同じで――」

『あら、似ているようで違いますよ。
 男性の方はどうしても女性より短い周期で性欲が溜まりがちなので、セックス以外で発散をしておきたい状況も芳しくはありませんが、ままあります。
 そういう時には希望を相手にちゃんと伝えること、また丁寧に懇願する態度が大事なのです! これは社会では常識ですね♪
 さて、「いかのおおあし」は頭に入りましたか?』

「もう……いくらなんでもあり得ないでしょう!ふざけないでくださいよ!
 どう考えたってこんなおかしいマナーがあるわけ……」

『あらあら……ですけど、佐藤さん?』

「うっ……は、はい(得体の知れない気迫のせいで強く出れない……)」

『マナーというのは国や文化、時代、宗教……さまざまな習慣によって形式が異なります。また、個人でも価値観や捉え方には差があるのです。
 一部では美徳とされる行為が、他では不快に思われる事だってあるのですよ。
 もちろん、その逆もまた然り。
 ……ですから、何も間違ってはいないし、何も正しくないとも言えますね♪』

「……(じゃあ僕は一体どの業界の……いやどこの別社会のマナーを教えられているんだ……? リクルートスーツは何も教えてくれない……)」





【デーモンさんと学ぶ:お茶くみ】

『研修の途中ですが、ちょっと喉が渇きましたね……。
 佐藤クン……ああいや、佐藤さん。コーヒーを入れてきてもらえます?』

「えっ? ぼ、僕がですか?」

『もちろん。これもマナー研修の一環です。
 給湯室に設備と材料は置いてありますので、ご自由にお使いください。
 この特別応接室を出て、右手側に行けばありますので』

「でも、ぼくは男性社員だからお茶くみとかはたぶん……」

『あらあら、それは男女差別にもなり得ますよ?
 それにお茶くみでは”異性が飲み物を差し出す”のがマナーです。
 佐藤さんも、女性……いえ、私にコーヒーを淹れてもらえたら嬉しくはありませんか?』

「は、はあ……(でもそれはそれでハラスメントのような気も……)。
 わかりました、行ってきます」

『うふふ♡お待ちしております♡
 あ、あくまでも研修ですので、実際に上司やお客様へお茶をお出しするときのようにしてくださいね』

「は、はい……(一対一の講習でしっかり学べると思ったのに、なんかヘンな事ばかりさせられてるぞ……)」


 〜三分後〜


「(実際に出すときみたいに、って言ってたから、ノックもいるかな)
 失礼します、お待たせしました」

『ああ、待ってたわ……いえ、お待ちしてましたよ、佐藤さん♪』

「どうぞ……」

『おっと!……ああ、いけませんね佐藤さん。マナー違反ですよ?』

「えっ?」

『”横からそっと置く”のはマナー違反です。
 入れてきた人物があなたであると伝わるように、相手の目を見て、前からお出ししましょう。
 前以外から飲み物をお出しするときは、「横から、後ろから失礼します」の一言を入れます』

「は、はあ(なんかどっかの本で読んだのとは違うような……?)」

『そしてコーヒーなど、カップの場合は、取っ手は右側にして、ソーサーと一緒に両手でお出しします。
 スプーンやミルク、砂糖はソーサーの手前に置いて……』

「ふむふむ……(結構細かく見てるんだなあ……正直どうでもよさそうだけど)」

『……あら、ミルクがありませんよ?これはどういうことですか?』

「えっ?ああ、探しましたけど給湯室には置いてなかったようなので」

『ああー、いけませんねえ佐藤さん。
 ”ミルク”が一番大事なのに、それを忘れるなんて!大問題です!』

「いやあの、だから置いてなくて……」

『そういう時……特に私に出す場合だけは、自分自身、つまり今回は佐藤さんの”ミルク”を入れるほうが良い……いえ、入れなければ重大なマナー違反です(ビシッ)』

「……はい?」

『つまり男性の場合はおちんちんミルク、女性の場合は母乳ミルクになりますね♪』

「……え」

『そしてこういう場合は、誰が出したミルクかをはっきりお見せし、証明するためにも、お出しする方に手伝ってもらうのもマナーになります。
 万が一知らない方の”ミルク”が入ってしまったら、大変失礼かつ非常識になってしまいますからね♪』

「一体何を言って……ちょ?!なんで僕のズボンのチャックをっ……?!」

『どうしてもわた……相手方の手が空いていない時は一人でしても構いませんが……そうでなければ必ず手伝ってもらいましょう♪
 ほら、私のおててで、しーこ、しーこ♪』

「あっ、ううっ、や、やめっ……そんな、しごかないでくださっ……!」

『あっ、ダメですよ佐藤さん。ちゃんとお出しする相手の、手伝ってもらっている相手の目を見ないと♪
 そうじゃないと感じてる表情が見れ……いえ、お出しする相手に不信感を抱かせてしまっては失礼になりますからね♪
 では次は……んぁっ……はぁっ、唾液を含ませた指で手コキを続けますよ♡』

「あ、ああっ、そんなっ……き、亀頭っ、すりすり、撫でまわさないでっ……」

『うふふ♪ では次はおクチでじゅぽじゅぽします……んむっ……れろぉ♡』

「うあぁっ?! ぬ、ぬるぬるして、あったかくてっ……だめですっ、こんなっ……!」

『ぷはっ……あっ佐藤さん、手コキはもちろんフェラチオなどでも、愛撫をされている間は腰を引いてはいけません。
 「腰を引く」のは言葉通り、「消極的、逃げ腰である」と取られて失礼になってしまいます。これは社会人としての当然のマナーですよ?
 気持ちよさがちょっとキツくてもぐっと気を張って、しっかり快楽を受け入れましょう♡ちゃんと私が腰に抱きついて、離れないようにしてあげますからね♡
 れろっ、ぺろぺろっ……んむっ、はむぅ、じゅるっ……♡』

「そ、そんな滅茶苦茶なっ……あ、あぁぁっ、で、でるっ、もうでちゃう……っ!」

『んぷっ、へは、ほーひーにはひてほらいまひょうか……。
 ぷはっ……はい、最後はまたヌルヌルおててでゴシゴシです♪しーこ、しーこ♪ タマタマも優しくもみもみ♪
 さあ、カップの中におちんちんミルクいっぱい出しましょうね〜♡』

「あっ、あああっ……!!」

 ドプッ、ドププッ……

『まあっ♪ 素晴らしい量と濃さのミルクですよ、佐藤クン♪
 どうしても、という時以外は失礼のないように、いつでもこれくらい濃いミルクが出せるようちゃんと準備をしておきましょうね♡
 では、スプーンでぐるぐるして……いただきます♪』

「はあ、はあっ……(で、出門さんが、僕のアレが入ったコーヒーを飲んでる……しかもさっき佐藤くんって呼ばれたような……)」

『ごくっ……んん〜♪コーヒーの苦みがミルクを!ミルクの甘さがコーヒーを引き立てる!
 ハーモニーというべきか、味の調和というべきか……♪
 こちらの方は文句なしに合格ですね、佐藤クン♡』

「……あ、ありがとうございます……?(なんかもう頭が追い付かない……)」




【デーモンさんと学ぶ:服装のマナー】

『さて、色々と潤ったところで……実はですね、佐藤クン。
 あなたは先ほどからマナー違反をしているんです』

「えっ!? そ、そうなんですか?(でもさっき出門さんにされた事の方が……)
 敬語もそんなに間違えてなかったはずだし、服装もちゃんと……あ!
 (しまった、今日は少し肌寒いせいか、ずっとコートを着たままだった……!)
 すみません、すぐに脱ぎますっ!」

『そう!そこです!よく気づきましたね!
 服を着るのは「福を切る」となり、縁起が悪いのでマナー違反なのです!』

「そうで…………え?」

『もちろん公共の場所・禁止されている場所だったり、また相手と会ってすぐ脱いでしまうのもマナー違反ですが……話が続いて雰囲気が和やかになり、打ち解けた後はかえって失礼になります。
 もちろんこの密室の部屋で、そして私と佐藤クンとの間には……言うまでもありませんよね♪』

「え……っと……(す、鋭い目つきでこっちに近寄ってくるぞ……!?)」

「そして――全裸になることで、相手に飾らない自然体を見せられるとともに、「危険物などを隠し持っていない」という信頼の証明もできます。
 すぐに全部脱いでしまいましょう!』

「ええ?!いや、そのっ」

『大丈夫ですよ、この特別応接室はちゃんと空調設備も防音設備も施錠も完備しておりますから!
 さあさあ、私もお手伝いしますからね〜♡』

「そういう問題じゃっ……ちょ、そんな、脱がさないでっ……アッー!!」





【デーモンさんと学ぶ:指示を受ける時のマナー】


『ああ、生まれたままのお姿になりましたね、とてもよいですよ佐藤クン♪
 では次の講習に参りましょう!』

「ううう……(どうして僕だけ全裸に……は、恥ずかしい……)」

『次は、上司から命令や指示を受けるときのマナーです。
 まあ基本、上司命令は絶対なわけですが……ポイントは四点ですね。
 一つ目は「指示・命令の内容を理解する」ということです。
 では佐藤クン、今回私が服を脱がせたことへの内容の理解は大丈夫ですか?』

「ええぇ……わ、わかるわけないでしょう……」

『あら……ならそうですね、分からない時はしっかりと確認をするのも大事です。
 まず私は佐藤クンがどんな体つきをしているか、健康体であるかを確かめるために服を脱がせました。やましい意図は……うん、じゃあ次にいきましょうか!』

「言葉を濁してはぐらかさないでください!」

『二つ目、「仕事の期限をはっきりさせておく」ことですね。
 万象において時間は無限ではありません、期限はきっちり確認しましょう。
 あ、言い忘れましたが、私が許可するまではその姿のままでいてもらいますね♪』

「……うう」

『三つ目は、「命令や指示は必ず復唱・確認する」ことです。
 特に電話応対などでは言葉や意味合いを取り違えたりする恐れもありますので、復唱は大事ですね。
 複雑な場合はきっちりメモなどに取って、形に残すのも大事です』

「(言ってることは正しいはずなのに……)」

『最後の四つ目、「わからないこと・不明な点は必ず確認する』です。
 疑問や無理解を放置していると、大変なことになりかねませんからね』

「……どうして僕はこんな間違った研修を受けてしまったのでしょうか……」

『この世に正しいことなんてありません。事実が大きく横たわっているだけですよ』

「……」





【デーモンさんと学ぶ:そもそもマナーとは何か?】


『……そういえば佐藤クン、さっきから両手で股間を隠したままですね……?
 どうしてですか?』

「そ、そんなの死ぬほど恥ずかしいからに決まってるでしょう!」

『うふふ……♪羞恥心に染まる表情ってとても素晴らしいですね♡
 その気持ちはとても大事です、ずっと大切に持っておきましょう!
 ……でも!たまには心の隅に置くぐらいにして、素直になってもいいのですよ?』

「す、素直って……」

『いいですか?マナーというのは万象につけ存在します。
 そこにある根底は「他者を気遣う」という思いです。
 これを最も体現し、かつ実践的に学べるであろう体験は何だと思いますか?』

「えっ……う、うーん……カウンセリング、とか?」

『ちょっと惜しいところではありますが、違いますね。
 カウンセリングは相談と援助が目的で、双方が双方を気遣うという形式ではないのです』

「じゃあ、正解は……」

『うふふふ……♡ もちろん、交尾!性交!セックスです!!』

「そんなことだろうと思ってた!!!」

『ところで佐藤クン……こうは思っていませんでしたか?
 「どうして僕だけ裸なのだろう?出門さんは裸になってくれないのかな」って……』

「うっ……そ、そんなこと……!(後半のは考えてる余裕もなかったけど)」

『勿論、私も後で服を脱がせていただくことになるでしょう。
 でも私は、服よりももっと大きいもので自分を隠しているので……まだお見せするわけにはいかないんです』

「ど、どういう事ですか……?」

『それは守秘義務違反なので、社内では話せません♪
 そしてこの後は社外に出て、「飲み会」でのマナー講座になります♪』

「えええっ!? で、でも会社の外に出る必要なんて……」

『何事も実際にやってみなければ身に付きません、習うより慣れろと申します。
 もちろんこれから行く個室居酒屋さんは、私達の傘下にある企業が経営しているものなので、何も心配はいりませんよ♪
 さあ、さっそくお店へ行きましょう!』

「心配しかないですよ!ていうか外に行くなら服を着せてください!!」

『あっ……そうでした、佐藤クンの裸は他人にお見せさせたくありませんからね。
 私としたことがうっかり、てへぺろ☆』

「えぇ……」





【デーモンさんと学ぶ:飲み会のマナー・座る位置】


『はい、着きました〜。ここが件の個室居酒屋で飲み会マナー研修用の部屋です』

「な、なんで手を繋いで僕を連れていく必要があるんですか……。
 しかも個室に入ってすぐにまた服を全部脱がせて……なんか居酒屋なのに扉に鍵まであるし……」

『あら、佐藤クンが私を連れて行ってくれてもよかったんですよ?♪』

「……無茶苦茶言わないでください」

『ではさっそく講習を始めましょうか。まず一番最初は座る位置ですね』

「上座、下座ですよね、それなら僕も少しは……」

『そうですね、では私が上司だとして、佐藤クンは下座に座ってみてください』

「はい……(確かこの出入口に近い場所だよな)」

『では私も、よいしょ……あらら、残念ですが間違ってますね〜。
 私が上座に座ったんですから、佐藤クンは上座である私の下に座るんですよ?』

「え?……ええっと?」

『さあさあ、そこの柔らかいクッションの上で寝転がって♪』

「は、はあ……」(ゴロン)

『うふふ〜♪では失礼して〜……』

「んむっ?! な、なにふるんでふかっ、出門さん……?!」

『佐藤クンは下座なのですから、必然的に上司である私の下に座るんですよ〜。
 どうです?私のショーツとお尻の感触……顔に乗っているのが分かりますか?』

「むむむぅ〜……!(ちょっと重いけど、あ、甘くて、いやらしい匂いがっ……)」

『大丈夫ですか? 一応体重を掛けるのは弱めにしていますけど。
 さっきも教えましたが、苦しいときはすぐに上司に報告が必要ですよ♪』

「んうううっ……(あ、頭がぼーっとして、声を上げる前にヘンになるうっ……)」




【デーモンさんと学ぶ:飲み会のマナー・お酌】

『はーい、ありがとうございまーす。
 ではお酒も届いたことですし、次はお酌ですね』

「はあっ、はあっ……て、店員さんが来てくれて、やっと解放された……」

『できれば佐藤クンが仰向けに寝転んで、私がその上に覆いかぶさるという「下座・上座」も教えたかったのですが……。
 今回はあくまでまだ研修なので、それはまた次の機会にしましょう♪』

「(つ、次の機会って……)」

『佐藤クン、お酌の仕方は分かりますか?』

「えっと……基本は役職順で、グラスが空いたら一言聞いてから注ぐ……」

『そうですね、はなまるさんの答えです。では……』 (グイッ)

「えっ、だ、大丈夫なんですか、そんな一気に飲んで……」

『ぷはーっ……おっと、勿論研修なので、アルコールは入っていませんよ。
 では、上司に注ぐシーンを実際にやってみましょう』

「(そういう所だけは研修っぽくしてるのは何故なんだろう……)えっと……
 出門さん、まだ飲まれますか?」

『ええ、もちろん♪ ……あっ、ちょっとちょっと!すとっぷです!』

「えっ?(普通に注ごうとしただけなんだけど……まさかラベルの向きがどうこうとか言うんじゃないだろうな……)」

『ちゃんと注ぐ前に”精”を出さないといけませんよ♪』

「……まさか」

『ええ、もちろん精液のことです。
 精子を出さないのは文字通り「精を出さない」という言葉通りに取られてしまい、相手を軽んじる行為として大変重大なマナー違反になります!』

「どこの世界で飲み会に行って上司に射精する飲み会があるんですか?!!」

『あ、そうですね。これはあくまでわたs……直属の上司に注ぐときだけです!
 今回はいいですが、他にも参加者がいる場合は臨機応変に対応しましょう。
 特に伴侶がまだいない方や、伴侶が一緒に来られなかった方がいる場合は、配慮を忘れてはいけませんよ。
 あくまで「飲み会」であって「ヤリ会」ではないですからね!』

「いやもうこれじゃ似たような……わっ!だ、だから、し、シゴかないでぇっ……!」

『うふふ♪せっかく後で来るようにカルーアミルクも頼んでおいたんだから、佐藤クンのミルクで割らないと美味しくないですものね〜♪』

「け、結局お酒飲むんじゃないですか……あ、あああっ……!!」

『あ、お酌を受けたら一度口にしてからグラスを置くのもマナーですよ。
 では、いただきま〜す♪』





【デーモンさんと学ぶ:食事のマナー】

『おっと、ちょうどいいタイミングで料理も運ばれてきましたね。
 ではこういうときどうすればいいでしょうか、はい佐藤クン!』

「はあはあ……え、えっと、周りを見てから、目上の人より先に取らない、自分の近くの料理は率先して取り分けて他人に渡す……とか?」

『ふむふむ、おおむね合格の回答ですね。
 では、わたs……直属上司に取り分けてほしいと言われたときはどうしましょう?
 これも実際にやってみてください』

「は、はあ(でもこれ普通の唐揚げだし、小皿に移す以外に何が……?)」

『んー♡』

「……(出門さんが口を開けて、なぜか僕を見てくる……)」

『……ん、まられふか?』

「もしかして……」

『もちろん、こういう時は食べさせてあげるのがマナーです♪
 お箸でも一応はOKですが、一番いいのは口移しですね♡』

「もう分かってますよ!また適当なこと言って失礼だのなんだの言うんでしょう?!」

『いえ、これは私がやりたいだけです』(キッパリ)

「(で、出門さんから、絶対にやらせるという『スゴ味』を感じるッ……!)」

『レモンは掛けなくてもよいですよ。
 佐藤クンの唾液が最高の良い味付けになるんですから……♡』

「で、でも……こんな事したら、ファーストキスが唐揚げの味になるんですが……」

『ふーむ……それも一理ありますね。
 初めてはどんなことでも大切ですもの。
 じゃあ食事マナーは一度ほっといて、キスだけにしましょう♡』

「ちょっ、それマナー講師としてぜったい言っちゃダメな……んむ――っ!」





【デーモンさんと学ぶ:二次会?のマナー】


『ぷはぁ……っ♡ 佐藤クンのよだれ、とっても美味しい……♡
 ねえ……もうそろそろ、ガマンできなくなってきたんじゃありませんか?♡』

「はぁっ、はぁっ……(も、もう何回か射精させられてたのに、また……)
 あれ……?で、出門さん……なんか、目の色も、肌の色も変ですよ……しかもなんか、翼とか、しっぽみたいなものまで見える……ような……」

『あっ……!?ごめんなさい、気持ちよくって、ついうっかり……。
 でも問題ありませんよ、ここはもう会社の中じゃないんですから。
 じゃあ、飲み会のマナーはここで終わりで、次は飲み会終わり、つまり二次会のマナーにしましょうか……♪』

「で、でも、こんな状況で、ほかのお店になんて……」

『大丈夫ですよ、このお店は特別ですから。
 なんと……個室居酒屋としてもラブホテルとしても使える複合店舗なのです!
 奥にも扉がありますよね?あっちが寝室とお風呂の付いたお部屋なんですよ♡』

「(まあ予想はついてたけど……)」

『うふふふふ……もうここは社外なんですから、いくらでもプライベートなことを聞いても構いませんよ?
 私が何者なのか、気になるでしょう……?』

「き、気にはなりますけど……正直な所、気にしてません」

『あら?』

「その翼も尻尾、目や肌の色を見ても、出門さんは普通の人間じゃない何かだって思いますけど……。
 僕は……そんな出門さんのこと、もっと知りたいです」

『……っ……ご、ごめんなさい……佐藤クン……。
 そんな素敵なこと言われちゃったら……もう、ガマンなんて出来ないわ……♡
 待ちきれない……今すぐベッドの上で、一つになりましょう……!
 うふっ……うふふふっ……♡』

「あ、ああっ……で、出門、さんっ……!」






【デーモンさんと学ぶ:飲み会後のマナー】


『飲み会が終わった翌日は、お礼や感謝の言葉をちゃんと伝えましょう♪
 社外の方、食事会、接待の場合はメールなどがよいですね』

「は……はいぃ……」(グッタリ)

『……っていっても、面倒くさいですよねそんなの正直。
 非礼を詫びたいならともかく、テンプレみたいな内容で感謝メールを送られたからって別に嬉しくないでしょうし。
 イベント後ならともかく、ただの飲み会で、それも会社だけの付き合いの会で、思い出になったり感謝したりされたりする話なんてそうそうないはずだし』

「(それをマナー講師が言っていいのだろうか……?)」

『それでぇ……佐藤クン。
 翌日じゃなく、今から……あなたにひとつお願い……いいえ、”契約”してほしいことがあるんです……♪』

「け、けいやく……?」

『そう……私の働くこの会社に来てもらって、私の仕事を手伝って欲しいの。
 いわゆる”スカウト”、もしくは”ヘッドハンティング”ね♪』

「出門さんの下で……働く……いいんですか?」

『勿論。最高のパートナーとなら仕事も人生も、きっとうまくいく……いいえ。
 絶対に私がうまくいかせてみせるから♪』

「……出門さんっ。まだまだ未熟な僕ですけど……。
 それでもいいのなら……お願いします!」

『ええ。二人で一緒に素晴らしい”マナー”を作って、守って、広めていこうね♡
 私たちは勿論、みんながお互いを気遣える、素敵な社会を作るために……♪』



 というわけで、彼は魔物娘たちが集う企業に入社しました。
 世界を魔界に変える”活動”に尽力する者となって、バリバリ働いてくれています。
 そしてプライベートな夜はもちろん……お分かりですよね。

『まだまだ未婚の子はいっぱいいるから、あなたもどうですか?うふふ……♪』


〜おしまエンド〜
19/01/04 20:23更新 / しおやき

■作者メッセージ
最後までお読みいただき、ありがとうございます。

意味も合理性もない創作マナーを作る講師を「失礼クリエイター」と呼ぶのは素晴らしいセンスだと思います。
でもこのSSでのマナーは魔物娘にとって正しいですからね。素晴らしく正しいマナーと礼儀作法です(白目)

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