押し掛け猫の恩返し
とんとんと叩かれるアパートの玄関を開けると、そこに二足歩行の猫が立っていた。
何を言っているのか分からないが、何が起きているのか私にも分からない。
「こんばんは、夜分遅くに申し訳ございみゃせん」
その猫は恭しく頭をぺこりと下げて、しかも人間の言葉を話した。猫なで声かと思ったらそれは驚くほどおしとやかな声色で、どこぞの屋敷で大切に育てられた貴族のようである。
つま先から耳まで黒に近い藍色で、ペット用美容院に行った帰りのように美しく整った毛並み、瞳は金色で動物らしいつぶらな目。しかもステッキを携え、マントのような布まで纏っていて、まるで絵本の世界だ。
……だが、普通の猫と比べるとかなり背丈が大きい。私の胸ぐらいまではありそうだ。
私が知っている四足歩行の猫をそのまま立たせてもこんなに大きくはないだろう。二足で立つためか後ろ足は太く、見た目からして毛でふわふわしている。
「本日は失礼を承知で、直接アナタ様のご自宅へとお伺いさせていただきみゃした。
予定もお聞きせず急にお尋ねして不躾とは思いますが、どうかお目通りをお許しくださいみゃせ」
夢だろうか。夢でもないと困るのだが、それにしてはこの猫の挙動が生々しすぎる。
ピンと立った細いひげと尻尾を揺らしながら、目前にいる猫は続けた。
「あ、これはこれは申し遅れみゃして。
ボクはフェイレス・フォン・ベルベットと申しみゃす。ベル、とお呼びくださいみゃせ」
それでその、ベルさん……が一体私に何の用なのか。
私に猫の知り合いはいない。人間の言葉を話す猫ならことさらに。
「そ、それは、もちろん……!
ああ、このような見てくれとはいえ、まがりにゃりにも女子でありみゃすのに!
ボクからそんな事を申し上げるにゃんて、そんにゃっ!
尻尾とおしりがうずうずしてたまりみゃせんみゃっ!」
二足歩行の猫……いやベルさんは、両手(猫の手を大きくしたみたいな形だ)で赤くなった(気がする)頬を隠しながら、藍色の体をくねらせる。
その仕草はどことなく人間に似ていて、麗しい女性と話すような幸福感と、とても猫とは思えない彼女への違和感が私の心中で混ざり合っていた。
「――はっ、にゃんとはしたにゃい事を。
失礼いたしみゃした、それで話というのはですね……」
こほん、と猫は一拍置いて、
「このボクを、アナタ様の妻としてお迎えいただきたく、参上した次第ですみゃ」
はっきりと、荘厳な声でそう言った。
……ばたん。
「みゃーッ!どうして扉をお閉めににゃるのですかっ!」
……働きすぎとは言われたが、こんな妄想に取りつかれるとは。
近くに心療内科の病院はあっただろうか。
「ちょっとお待ちくださいみゃ! 夢でも妄想でもございませんにゃっ!
確かにボクは由緒正しきフェイレス家の娘、ですが今ここにいますはただ一匹の猫ですみゃー!
にゃああ! 危険を顧みず、また今夜も従者の目を盗み抜け出してきたというのにっ!(カリカリカリッ)」
……扉を引っ掻く幻聴まで聞こえてきた。
「昨夜、ボクをあんにゃにも淫らに狂わせておいて、快楽を身体に覚えこませておいてっ!
もうアナタにゃしではボクは生きていけにゃい身体にされてしみゃったとゆーのにぃっ!!
そんにゃにていそーを弁えにゃい方だったにゃんてっ!」
私が観念して玄関を開けるまで、そう時間は掛からなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「……そうでしたか、それは大変申し訳ございませんでしたみゃ。
なにぶん世間知らずの箱入り娘なものでして、お詫びの言葉もありませんみゃ……」
さっきの猫……ベルさんは、私の部屋にあるちゃぶ台の前に正座(?)で座っている。
幸いお隣さんたちは留守だったようで、さっきの騒動を聞きつけてやって来る人はいなかった。
まだ半信半疑ではあるが、一体どういう経緯があってこうなったのか、と彼女に私は問う。
「……そ、それは……。お忍びでこちらにやってくるボクへ、いつも施しをくれておりましたから。
その一途で誠実なお姿と優しさに、ボクは仮の姿だということもあり、つい気を許してしまい……、」
……一体何を言ってるんだ。
と思ったが、いつも会社帰りに私が餌をあげていた、不思議な毛色の猫をはっと思い出す。黒と藍の混じった毛色の猫だ。
他にも野良猫はいたけれど、誰かに餌付けされていたのかみんな餌を出そうとしなくても寄ってくるくらいに慣れていた。
なのに、その不思議な毛色の猫は私が餌をやっても、私の姿が見えなくなるまで決して餌を食べない、それぐらい警戒心の強い子だった。
確かに他の野良猫とは違う風格らしきものがあった……ような気はするが、そんなバカな。
「そして昨日、ついにあにゃたに身体のすみずみみゃで蹂躙されみゃして――、
あの時のとろけるようにゃ快感が、もう忘れられにゃいんですみゃ……」
そういえば昨日、件の不思議な毛色の猫をたっぷりと撫でた。
いつもは近くに寄ってすら来ないのに、その時は急に私のスーツへ擦り寄ってくるものだから、つい私も嬉しくなって、思いっきり撫でてしまったが……どうしてそれが結婚に繋がるのだろう。
「ええっ! 女子の身体を文字通り弄んでおいて、責任もお取りになってくれないとは?!
無防備にお腹を見せる事は、我々の間では親愛、そして相手への信頼の情を表すのですよ!
そしてそこを自由に触れさせるコトは、も、もちろん……ふみゃぅ、」
そこまで言うと真っ赤な顔をしてベルさんは俯いてしまった。頬のひげもちょっと垂れている。しかし尻尾はピンと立ったままだ。
まさか、一度撫でただけの猫にそこまで思われているとは。
……とにかく、いきなり嫁ぎに来られても困ります。
そもそもウチのアパートはペット不可で――。
「ぺ、ペット!? ぼ、ボクをペットにして飼おうとお思いだったんですかにゃ?!
にゃにゃ、にゃんと、はれんちみゃっ……ああでもっ、わたしはもう……」
……何かカン違いをされているようだ。
「ふにゃあぁ……人間の文化というのは想像よりもはるかに猥雑なのですみゃっ……」
――閑話休題。
『とにかく今の所は結婚まで考えられません』という旨をきっぱり言っておいた。
人間の女性相手ならともかく、猫を相手にこんな事を言うとは。
「そう、ですかみゃ……」
水を掛けられた火のようにさっきの勢いがしゅんと消え、ピンと立っていたベルさんのひげと尻尾がげんなりと垂れる。
しかし猫とはいえ相手がなまじ喋れるだけに、妙な罪悪感は残った。
「ですがボクもフェイレス家の末裔、受けた恩には忠義を尽くさねば祖先に顔向けができません!
どうかアナタにお仕えすることをお許しくださいですみゃ!」
そんな大層なことでなく、また少し身体を撫でさせてくれれば――と言おうとしたが、それを言うと更に誤解を深めそうだ。
どうしたらよいのだろう。
「……はっ! ではどうでしょう、アナタさまをボクたちの国にご招待するというのみゃ」
国、という単語に私は思わず聞き返す。
「そうですみゃそうですみゃ。ボクたちケット・シーが住む猫の王国ですみゃ。
貴族であるボクが言うのもなんですが、とてもすばらしい国で、人間の方々もたくさん住んでおりますみゃ」
普通の人間も住んでいるとは。
猫の王国……というと、野良猫だらけのネコ屋敷とか、近所の猫喫茶を思い浮かべる。
いや、人語を介する猫の言うことなのだから、今さらなにが起きても不思議ではない。
「我が王国は、猫と人間がともに暮らすための理想郷。びっくりするほどユートピアでございますみゃ」
そこまで言うとベルさんはえへんと平らな胸を張って、どうだと言わんばかりの自慢げな顔をした。
猫の王国。確かにちょっと興味はある。
「おお! それは何よりですみゃ、早速参りましょう!」
するとベルさんはすっくと立ち上がり、私のアパートの白い壁紙の前に立った。
そして柔らかそうな手(猫なので前足かもしれない)に持っていたステッキで、壁をガリガリとなぞりはじめる。まるで壁紙を剥がそうとするかのように、四角の形に線が掘られていく。
壁に傷をつけられるのは困る――と、制止しようとしたその時。
傷で出来た一本の線が四角を形作ると、突然そこにドアノブがにょきっと生えてきて、さも最初からそこにあったように扉のようなものが現れた。
目を疑うような光景に私は瞬きを繰り返すことしかできない。
「……よし、これで……あ、ボクのサイズなので少し小さい扉になってしみゃいました。
すみませんが、屈んでお通りくださいみゃ」
……。突然すぎて、もはや驚くこともできない。
もしやこれを通った先が……?
「猫の王国に繋がっておりますみゃ!」
扉を開けた先にはヨーロッパ風な装いを見せる部屋があり、その中は豪華そうなインテリアや調度品で囲まれている。
柔らかそうなソファ、味わいのあるアンティークのテーブルやタンス、天蓋付きの巨大な、私の三倍は厚みのありそうなベッド。
アニメや映画で見るような荘厳な作りで、学のない私でも高級品そうなのは分かる。
まさしく貴族の屋敷、という感じだ。
「では早速、お母様にお話をつけて参りますみゃ」
え、ちょっと――と止める暇もなく、自分よりもかなり大きな扉を開けるとベルさんはどこかに行ってしまう。
おそらくここはベルさんのお屋敷なのだろうが、自分のいた世界とは雰囲気が違いすぎて落ち着かない。
迷子になって美術館の中に置いていかれた気分だ。
すると、さっきベルさんが出て行った扉からこんこん、とノックする音がした。
「おじょうさまー、入りますみゃー」
またしっとりした声だがベルさんとは違う誰かのようだ。
まずい、隠れるべきだろうか――などと考えている間に、無情にも扉は開いてしまう。
扉の向こうに立っていたのはやはり二足歩行の猫で、白地に茶色と黒のぶち模様という三毛の毛並みをしている。フリル付きのエプロンドレスに黒のロングスカート、いわゆるヴィクトリアンスタイルのメイドに似た服を着ていて、察するにメイドだ。お手伝いさんだ。
「にぁ゛っ?! し、しらないオトコのヒトがおじょうさまのへやにっ?!」
バケツを両手に持ったその三毛猫は慌てたように後ずさって、
「さてはあなた、ドロボウですねっ! 雇われて一週間、ようやくメイドとしての腕が鳴りますみゃっ!」
そして姿勢を低く構え毛を逆立て、獲物を狙う猫のようにじーっとこちらを睨みつけてくる。
やはり誤解されているようだが、弁解の余地はなさそうだ。
ここは下手に逃げ出しても事態を悪くするだけだろうと、私は両手を上げて降参の意を示す。
「み、みゃぁっ……あ、あくまでも抵抗なされるのですみゃ?!」
……しまった、これは人間相手だから通じるボディランゲージか。
「おお、おとなしくしてくださいみゃあっ、でないと、む、いたいことしちゃいますにゃーっ」
言葉は強気だが、三毛猫メイドは震えながら後ずさっていく。
ベルさんよりも身体が小さく背も低く、子供のようなあどけなさを残した彼女は、どうやら私の行動に至極怯えているようだ。体格だけで言えば私の方が倍はあるのだから当然である。
落ち着いてほしい、と言いながら私は正座して両手を膝に置き、無抵抗をアピールしてみる。
身を小さくしたこの姿なら威嚇にはならないだろう。
「……あ、ほ、ホントにおとなしくしてくれるんですみゃ。
こわいヒトだったらどうしようかと思っちゃったにゃー……」
とりあえず私はベルさんの知り合いで、突然彼女にここへ連れてこられたという旨を伝えてみる。
「はあ、おじょうさまが……。いやぁでも、変わり物でしょう、おじょうさま。
『ボクのご主人様にふさわしい人を探すのみゃ!』なーんていっつも言ってみゃーしたから……」
三毛猫メイドはやれやれ、と言いたげな表情を見せる。
ご主人様……という事は、やはりベルさんは本気で私の所へ嫁ぎに来たのか。
「ええ、人間に付き従うなんてそんみゃ、まるであべこべですからみゃー」
あべこべ、というと?
「おやや、ニンゲンさんは私たち猫に従うのがお好きなのではないのですみゃー?
王国に住む猫好きのみなさまはそうおっしゃっておりましたのみゃ」
なるほど、この王国には本当に猫好きの方が集まっているということらしい。
そしてベルさんはその中でも異端な考え方に走っているようだ。
「まあ、ですからおじょうさまもお外に行きたがってたんでしょうみゃー。
この国でそんな考え方をする方ほとんどおりませんからみゃ……」
三毛猫メイドさんは、はっと気付いたように私を見た。
「そんにゃことより、いくらお客様とはいえ勝手に入っちゃなりませんみゃー!
来客者用のお部屋へお通ししますので、どうぞこちらへ、ですにゃ!」
いやしかし、私はベルさんにここへ連れてこられたのだが。
「問答無用ですみゃ! さっこちらへどうぞですみゃっ!」
……。
三毛猫メイドに連れて行かれたのはやはり高級そうな家具の置かれた部屋で、テーブルとその向かい二つに大きな赤のソファが置かれている。
促されるままそのソファに座り、少し待っているとさっきのメイドさんが紅茶を持ってきてくれた。猫舌に合わせているせいか温度は低めになっている。
「さっきベルベット様とお会いしみゃした。まもなくお母様とこちらに来られるそうですみゃ」
お礼を言うと、三毛猫メイドさんは恭しく頭を下げて部屋を出て行った。
それにしても求婚を申し込まれた上にいきなり親と会う事になるとは、話が早過ぎて何が何やら。
少し待っているとこんこん、とノックの音。
「ああ、ご主人さま! お待たせして申し訳ございませんみゃっ」
ベルさんは勢いよく扉を開けて入ってきた。
その横にはベルさんと同じ体格ぐらいの、白茶色の毛並みをした猫がいた。もちろん二足歩行。
察するに彼女はベルさんの母上なのだろう、それっぽい貫禄もある。
立ち上がって私がぺこりと頭を下げると、彼女たちも倣って二人でおじぎをした。
「どうも初めまして、ベルベットの母でフェルリドルと申します」
フェルリドルと名乗ったベルさんの母は、ベルさんとは違った気品を持ち合わせている。白のリボンと黒のワンピースを着けていて若々しく、母というよりは姉のようだ。とはいえ猫の外見から年齢なんて分からないし、お世辞に取られかねないので私は余計な発言を慎んでおいた。
「お話はベルから聞いておりますわ。とてもお優しいお方であると。
ああ、どうぞお掛けください。
ロンネフェルトの紅茶も淹れさせました、美味しいですからぜひご賞味ください。うふふ」
二人がソファに着いたので私もそれに続いて座り、いただきます、と言って紅茶を頂く。
「それで……ベル。
こちらの方とは、どこまでお済になったのかしら。もう交わいはしました?」
フェルさんの言葉を聞いて、紅茶が気管に入りかけたせいで私はむせる。動揺しているのは私だけらしかった。
やはりベルさんの親類、丁寧な物腰とはいえ血は争えないという事か……。
「あらみゃあ、お母様。少々配慮に欠ける質問ですみゃ」
「そんなことはありませんよ。
むしろこれからの事を考えれば、迂遠な物言いなど無用でしょう」
フェルさんは笑顔で私を見ていたが、その眼には確かな強かさを感じる。
野性味を失わない、鋭さを帯びた目つき――。
ベルさんに似たくりっとした可愛らしい瞳だが、同時に私は捕えられた獲物のような気分になる。
「ただ残念なことに、まだボクたち……口づけすら済ませておりみゃせんの……」
そりゃそうだ、と言いたくなる気持ちをぐっとこらえる。
会社の前でベルさんに餌をあげていた期間まで入れれば、二週間ほどは会っていた事になるのかもしれないが。
「ふむ、それは少し円滑ではありませんね。
まあ大丈夫でしょう、紅茶も飲んでいただけたようですから……、
後はお若い二人でゆっくりと、睦言をお交わしになってください」
どういうことでしょう、と聞こうとした瞬間、カップを持つ私の手に力が入らなくなっていく。
なんとか零すことなくソーサーには戻せたが、身体全体に違和感を覚える。
全身から力が抜けて、少しずつ睡魔のようなものが溢れ出す。
視界のピントがずれて、上半身を支える力すら入らなくっていく。
「美味しい紅茶でしょう。お客様にはまずこの飲み物を振る舞うことになっているのです」
私は身体を支えきれず、テーブルに突っ伏してしまう。
「……ベル、テイル。こちらの方を”特別応対室”へお連れしてください。
もちろん、ちゃんと準備をしてから起こすのですよ」
「ええ、お母様。抜かりにゃいようにお膳立てを頂き、誠に感謝しますみゃ」
意識が途切れ途切れになり、押し寄せてくる眠気にあっけなく私は飲み込まれていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
目が覚めるとそこは、天蓋付きの大きなベッドの上だった。
部屋の中は暗く、ベッドの横にあるスタンドライトがぼんやりと周囲を照らす程度の明かりしかない。
その装飾品を見るにベルさんの屋敷の一室であることは分かった。
が、どうして私が一服盛られたのか、そしてベッドに寝かされているのかは分からない。
「手荒な真似をしてしまい、大変申し訳ございみゃせん。どうかお許しくださいみゃ」
ベルさんの声。
どこから聞こえるのかと思ったら、どうやらベルさんは私の上に乗っていたらしい、声がしてようやく私はその存在に気が付いた。
「我侭でいて気まぐれな我々ですが、愛されたいという願いを皆、胸中に忍ばせておりますみゃ。
しかしボク達ケット・シーは、そうはお見えににゃらないかもしれませんが、臆面ばかりの種族。
ただ本心を一言、ぽつりと漏らすだけでも、日の下ではとても叶いみゃせん……」
私の身体にまたがったまま、ベルさんは続ける。
暗い部屋の中では身体の輪郭をとらえるのがやっとで、表情までは分からない。
ただ、熱っぽい吐息だけはやけに大きく聞こえた。
「ボク達フェイレス家は、そんな本心を少しでも表にはできにゃいものかと考え――、
人間に仕えることを公(おおやけ)にし、その誠実さを確かめようとしてきたのですみゃ」
声が近くなり、ベルさんが顔を寄せてくるのが分かる。
「そしてどんな言葉も、行動に勝ることなどありみゃせん。
だからボクたちは、その身体を捧げる事で”誓い”をするのです……みゃ。
その点では、ボク達フェイレス家も、他のケット・シーたちも、同じですけど、にゃ」
声は耳元まで寄り、温い息が私の頬にかかる。
猫らしい野性味溢れる匂いと、石鹸のような香の匂いが重なり、鼻をくすぐる。
ベルさんはごろんと転がって私の上から降り、私の頭を抱きかかえるように寄り添ってきた。
ふわっとしたベルさんの体毛が肌に擦れ、くすぐったさと気持ちよさが重なる。
「……ご主人様。
このボクの身体では、ご満足いただけないのでしょうかみゃ……?
もしそうなら、すぐにでもボクは身を引きますみゃ……」
そうじゃない、と私は反射的に答えていた。
「では、どうして。
ご主人様の家を訪れたその時に、ボクを受け入れてくれなかったのですみゃ。
茶化してはおりみゃしたが、ボクも心の内は気が気でなかったというのに……」
それは……まさか猫が二本足で立って家に来るとは思ってなかったからで。
でも違う、決して嫌だとかそんな気持ちは無くて――。
「……ご主人様。 ボクの身体はもうすでに、アナタ様を主人だと忠誠を誓っておるのですみゃ。
身体を捧げるというその意を汲んでいただけるのなら、どうか。
……その手でボクを、愛してくださいみゃ」
溶けるように甘いそのか細い声に、私の頭が痺れていく。
気がつくと私はベルさんの小さな身体に覆い被さろうとしていた。
先程まではただ藍色の不思議な猫ぐらいにしか思わなかったその姿が、とびきり特別に思える。
猫。
そう、彼女は人というより寧ろ獣のような外見だというのに、どうしようもなく惹かれていく。
私に尽くそうと身体を捧げるその姿は、ただ麗しい女性にしか見えず――。
獣であるか、人間であるかなど、とても些事のように思えた。
「はぁ、んっ」
考えるよりも先に、ベルさんの身体を私はまさぐっていた。
白い毛が生えるお腹を撫でつつ背中に手を回し、そのままお腹へぼふっと顔を埋める。人肌のような温かさと毛布のような柔らかさに安らぎを覚え、私は顔を伏せたまま深く深呼吸をした。
すー、はー。
さっきよりも強くなった石鹸と野生の匂いが鼻を突き、私の吐いた息でベルさんが声を漏らす。
「ふぅっ、あぁ……あたたかい、ですみゃあ……」
獣人の少女にどう愛撫をすればよいのか逡巡し、しばらく白毛の毛並みの柔らかさを楽しんでいた。
お腹の毛はふわふわで格別に柔らかく、羽毛のように触り心地がよく、ずっとこうしたいとさえ思う。
そんな想いを振り払い私は顔を上げ、伸し掛かるようにしてベルさんと顔を突き合わせる。
くりっとした大きな瞳が、ゆっくりと私を見つめて。
鼻と鼻が当たらないように首を傾け、目を閉じてそっと顔を降ろしていく。
「……んむっ、」
唇に当たる柔らかい感触。
どちらからでもなく舌を絡ませ、混ざる唾液の味と熱を感じる。少しの生臭さと、痺れるような甘さ。
彼女の舌はざらっとはしていたが、普通の猫ほど引っかかる凹凸はない。
むしろそのざらつきが舌に対する愛撫のようにさえ感じて、ぞわっとした快感が走った。
「っ、ちゅっ、ぷはっ」
顔を離してお互いの目が合うと、ベルさんは照れくさそうに笑った。
そしてまた目を閉じたので、意を汲んでもう一度、互いの舌を味わう。
「ふぅ、んっ……」
ちゅ、にちゅっ、くちゅっ……。
静かな水音は目を瞑ったぶんよけい耳に残り、内から頭中に響いた。
理性が抑えていた興奮に火が付き、燃え上がっていくのが分かる。
そして顔を下げていき、彼女の胸元を手でまさぐる。
白毛に覆われたそこは体毛を含めても僅かな膨らみだが、掌で優しく揉むと彼女が声を上げる。
「ひゃ、あっ。む、むね、は……よわ、くてぇ、みゃふぅっ」
まずは体毛の感触を掌で愛おしく撫でつける。
次に指で毛の中を探るようにして、毛の隙間から覗いた桃色の乳首を探り当てた。そこにぴっと触れるだけで彼女はびくっと身体を震わせる。
両手の指で焦らすように乳首の周辺を撫で、先端をほんの少し指ではじく――それを繰り返す。
「んにゃ、あぁっ、みゅ、うぅ……」
そして顔を胸に近づけ、その慎ましい乳首に舌を這わせる。
れろっ、ちろっ、と舌の先端で転がすように。
そうするとますますベルさんの反応は強くなり、彼女の左手が心許なく震えるのが見えた。
私は空いた右手を使い、彼女の股間へ指を近づける。
そこはもう粘液でぬるぬるっとしていて、周りの毛まで濡れそぼっていた。
「あぁ、そこは……はふぅっ」
股間に指をなぞらせただけでベルさんがいじらしい声を上げ、私は上目でその顔を確かめる。
暗いのではっきりとは見えないが、身体をよじらせているのを見るに恥ずかしがっているのは明白だった。
どれほど愛撫を続けた物かと思っていたが、ここまで濡れてくれればもう少しだろう。
「あっ、」
一度身体を起こし、仰向けに寝る彼女の足元へ移動する。
そして彼女の股間に顔を近づけ、その性器の穴を舌でつんつんと触ってみる。
形は人間のそれと似ていて、入り口がヒクヒクと動いているのが暗がりでも見えた。
「ん、みゃぁっ、そんなっ、まじまじと、みにゃいで、くだしゃ……みゅっ、」
舌で触れるそこは熱く、侵入する異物をさぞやさしく、ぎゅっと包み込んでくれるだろう。
それを思うと私の股間にますます血が集まり、交尾の準備をうるさく催促する。
私は人間の女性と同じように正常位を位置取り、ベルの足をそっと撫でながら彼女の方へと持ち上げる。
激しく勃起した男根を膣穴にそっと合わせると、くちゅ、と水音が鳴った。
亀頭で入り口をにゅるにゅると刺激すると、滑りは良くなっていく。
「あふっ、んん……い、いよいよ、ですみゃ……」
くちゅっと音を立てながら、小さな膣にペニスを押し当て、少しずつ力を入れていく。
狭い膣穴はやはり熱く、小さく、愛液と唾液でぬるぬるだ。
にゅ、ずぶ、ずぶぶ……。
ずぶずぶと狭い穴にめり込んでいくその感触が、たまらない。
「あ、うっ、」
ある程度までペニスが入ると、途中で引っかかるような箇所があった。
おそらくベルの純潔の証なのだろう。
まだ幼いであろう、それも自分より遥かに小さい猫の女の子と交わる――。
それはぞくそくするほど背徳的な行為。
「ボクは、だい、じょうぶです、みゃ。……そのまま、ゆっくりっ……」
言われるまま、ゆっくり、ゆっくりとペニスをヒダだらけの膣に進ませる。
にゅっ、ぷぷっ。
そしてぐっと力を入れ、ベルの純潔を貫き、その感覚に酔いしれる。
「ん、みゃぁっ……! あ、あ……っ、ボクと、ごしゅじん、ひ、ひとつに、なったん、ですみゃ……」
そのままベルの一番奥まで侵入し、熱湯のような中の熱さを味わう。小さな秘穴にペニスは全部入りきらず、少しだけ竿の部分が余っていた。
小さなベルの身体をぎゅっと抱きしめようとして、体格差に気付き、私はゆっくりと彼女を持ち上げた。
いわゆる対面座位という体位に位置を入れ替える。
ゆっくりと亀頭を擦っていく刺激でさえ腰が抜けそうだったのに、ピストンするとどうなるのだろう。
早くその快楽を味わいたかったが、ベルの様子を見るとそうはいかない。
「はーっ、はーっ、ん、ぅぅ、」
きゅっと閉じたベルの瞳からは涙がこぼれ、身体が小刻みに震えて肩で息をしている。両手は爪を立てそうなほどしっかりと私の背を掴んでいた。
ベルの呼吸が落ち着くまで彼女の身体を撫で、愛撫する事に徹する。
「ふーっ、ふみゅ、うぅ……ごしゅじんさま、ありがとうございます、みゃ……。
もう、おちつき、ましたから、みゃあ……」
その言葉が強がりでないのを信じながら、私はベルの腰を掴んで、ゆっくりと動かし始める。
ぬ、ぬぬぬ、にちゅ、ずりゅっ。
淫らな音を立てながら、ゆっくりと抽送が行われる。
深くまでベルの身体を沈めるたびにふさっとした毛が私の内股に当たり、それも快感になる。
「あ、ふ、うぅっ」
少しずつ、少しずつ動かす速度を速める。
にゅ、ぬぷぷ、ぐちゅっ。
ずちゅっ、くぷぷっ、ぬちゅっ。
ベルの身体を持ち上げ、ずんずんと突き上げると、次第に潤滑は増え、スムーズになっていく。
「みゃ、あぁ、ご、ごしゅじんっ、も、もっと、ゆっく、りぃっ」
ベルの必死な声が耳を揺らすが、私ももう止められない。
ぬるぬると絡みついてくるベルの膣穴は狙ったように敏感な所を擦りあげていくのだ。
しかも奥まで突き入れると、亀頭にちゅっと吸い付くように子宮口が責めてきて、下半身全体が痺れる快楽が襲ってくる。
ピストンの速度に比例して射精欲は一気に高まっていった。
「はっ、あぁっ、ふぅっ、そ、そんな、はげし、にゃぁっ」
ずっちゅ、ぬちゅっ、ぐちゅっ……!
ベルの身体を大きく上下に揺らしながら、そして腰を打ち付ける。
私の胸元にベルの熱い吐息がかかり、唾液や愛液がお互いの身体を汚しあう。
さらにずんずんと突き上げると、ベルが私をきつく抱きしめる。
「あ、あ、あ、ああっ、ご、ごしゅ、じん、さみゃあっ、ぼ、ボクっ、こ、こわい、ですぅっ」
そして同時に、ベルの膣がペニスをまたぎゅっと締め付けた。
もう絶頂が近いのだろう、私も我慢できそうにない。
「ぎゅっ、ぎゅっと、してっ、くだっ、あぁっ、ボク、ボク――!」
互いに抱きしめあった瞬間、彼女の膣がぎゅうっとペニスを包み込む。
その刺激で溜まっていた子種を全て、彼女の狭い膣穴に注ぎ込んだ。
搾り取られるその感覚に、視界が一瞬真白になるほどの快感を覚える。
「みゃっ、あぁぁ……っ、ふーっ、ふーっ……」
息も絶え絶えといった感じのベルが、荒い吐息を必死で整える。快楽に蕩けたその瞳はどこかいやらしく、私の雄を刺激する。
繋がりあったままの秘所から、少しだけ白い液が零れて太腿を汚した。
「……あ、あぁ。ボクのなかに、熱いのが入ってきたの……わかります……♪」
まだベルは絶頂の余韻に浸っているらしく息が熱い。視界もおぼつかないのか何度も瞬きをしている。
だが、一度出したにも関わらず、私のペニスはまだ固いまま。
やるべきことは自明だった。
「――ふやっ?! あ、ぁ、そん、なぁっ♪
ま、まださっきの、のこってっ――ふみゃぁぁっ!」
ベルの腰をぎゅっと掴んで、また上下に動かしていく。
じゅぽっ、ぢゅぽっ、と卑猥な音を立てて、更にすべりの良くなった膣穴を犯していく。
まだまだベルの穴はキュッと締め付けてきて、精液を欲しがっているように見えた。
「あ、ああぁっ、ご、ごしゅっ、じん、さまぁ、ゆる、ひて、っ、ふあぁっ……♪」
そのまま、何度も何度もベルを持ち上げては降ろし、乱暴にベルを犯し続ける。
ベルの目に焦点が合わなくなるまで、声が出せなくなるまで。
快楽に蕩けて、何も考えられなくなるまで――ずっと。
私の記憶が確かなら、およそ一週間後。
その日も濃密な交わりの行為が終わって、お互いの温もりを確かめ合っていたときのこと。
「……ご主人様、どうでしょうみゃ。このまま猫の王国に住むことにしては……?」
今思えば、それは素晴らしい誘いに聞こえた。
しかし思えば私は元の世界に会社も自宅もある、そういうわけにも……
「いえいえ、ボク達フェイレス家はそれほど脆弱な家柄ではありませんみゃ。
もうすでに、アナタ様の地位はフェイレス家のお世継ぎ。
あの世界で務めていらっしゃった場所に戻る必要など、ございませんみゃ」
……え?
「ボク達ケット・シーの様々な力と人脈を駆使し、すでに抜かりなく手続きは済んでおりますみゃ。
ご主人様のお身分はもはや猫の王国のみ。
ご自宅はそのままですが、ご主人様の匂いを残すために、ボクとご主人様の別荘という形にしておきますみゃ」
えっ。えっ。
「それと、ご主人様のお勤めなさっていた会社には猫好きの方が多いと情報があったので――。
表沙汰には決してならぬよう、フェイレス家で制圧させていただきましたみゃ。
あの場所は、我が娘たちの婿を見つける礎の場として、有効活用する予定ですみゃ」
えっ。えっ。えっ。
「ご心配なさることなどありみゃせん……さあ、もう少し休んだらまた、睦言を交わしましょうにゃ。
愛し子は多いほど、育てがいがありますからみゃ……♪」
……やはり人間は、猫という生き物を従えられないのかもしれない。
私はベルの「ご主人様♪」と呼ぶ声を聞きながら、また彼女との交わりに耽るのだった。
何を言っているのか分からないが、何が起きているのか私にも分からない。
「こんばんは、夜分遅くに申し訳ございみゃせん」
その猫は恭しく頭をぺこりと下げて、しかも人間の言葉を話した。猫なで声かと思ったらそれは驚くほどおしとやかな声色で、どこぞの屋敷で大切に育てられた貴族のようである。
つま先から耳まで黒に近い藍色で、ペット用美容院に行った帰りのように美しく整った毛並み、瞳は金色で動物らしいつぶらな目。しかもステッキを携え、マントのような布まで纏っていて、まるで絵本の世界だ。
……だが、普通の猫と比べるとかなり背丈が大きい。私の胸ぐらいまではありそうだ。
私が知っている四足歩行の猫をそのまま立たせてもこんなに大きくはないだろう。二足で立つためか後ろ足は太く、見た目からして毛でふわふわしている。
「本日は失礼を承知で、直接アナタ様のご自宅へとお伺いさせていただきみゃした。
予定もお聞きせず急にお尋ねして不躾とは思いますが、どうかお目通りをお許しくださいみゃせ」
夢だろうか。夢でもないと困るのだが、それにしてはこの猫の挙動が生々しすぎる。
ピンと立った細いひげと尻尾を揺らしながら、目前にいる猫は続けた。
「あ、これはこれは申し遅れみゃして。
ボクはフェイレス・フォン・ベルベットと申しみゃす。ベル、とお呼びくださいみゃせ」
それでその、ベルさん……が一体私に何の用なのか。
私に猫の知り合いはいない。人間の言葉を話す猫ならことさらに。
「そ、それは、もちろん……!
ああ、このような見てくれとはいえ、まがりにゃりにも女子でありみゃすのに!
ボクからそんな事を申し上げるにゃんて、そんにゃっ!
尻尾とおしりがうずうずしてたまりみゃせんみゃっ!」
二足歩行の猫……いやベルさんは、両手(猫の手を大きくしたみたいな形だ)で赤くなった(気がする)頬を隠しながら、藍色の体をくねらせる。
その仕草はどことなく人間に似ていて、麗しい女性と話すような幸福感と、とても猫とは思えない彼女への違和感が私の心中で混ざり合っていた。
「――はっ、にゃんとはしたにゃい事を。
失礼いたしみゃした、それで話というのはですね……」
こほん、と猫は一拍置いて、
「このボクを、アナタ様の妻としてお迎えいただきたく、参上した次第ですみゃ」
はっきりと、荘厳な声でそう言った。
……ばたん。
「みゃーッ!どうして扉をお閉めににゃるのですかっ!」
……働きすぎとは言われたが、こんな妄想に取りつかれるとは。
近くに心療内科の病院はあっただろうか。
「ちょっとお待ちくださいみゃ! 夢でも妄想でもございませんにゃっ!
確かにボクは由緒正しきフェイレス家の娘、ですが今ここにいますはただ一匹の猫ですみゃー!
にゃああ! 危険を顧みず、また今夜も従者の目を盗み抜け出してきたというのにっ!(カリカリカリッ)」
……扉を引っ掻く幻聴まで聞こえてきた。
「昨夜、ボクをあんにゃにも淫らに狂わせておいて、快楽を身体に覚えこませておいてっ!
もうアナタにゃしではボクは生きていけにゃい身体にされてしみゃったとゆーのにぃっ!!
そんにゃにていそーを弁えにゃい方だったにゃんてっ!」
私が観念して玄関を開けるまで、そう時間は掛からなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「……そうでしたか、それは大変申し訳ございませんでしたみゃ。
なにぶん世間知らずの箱入り娘なものでして、お詫びの言葉もありませんみゃ……」
さっきの猫……ベルさんは、私の部屋にあるちゃぶ台の前に正座(?)で座っている。
幸いお隣さんたちは留守だったようで、さっきの騒動を聞きつけてやって来る人はいなかった。
まだ半信半疑ではあるが、一体どういう経緯があってこうなったのか、と彼女に私は問う。
「……そ、それは……。お忍びでこちらにやってくるボクへ、いつも施しをくれておりましたから。
その一途で誠実なお姿と優しさに、ボクは仮の姿だということもあり、つい気を許してしまい……、」
……一体何を言ってるんだ。
と思ったが、いつも会社帰りに私が餌をあげていた、不思議な毛色の猫をはっと思い出す。黒と藍の混じった毛色の猫だ。
他にも野良猫はいたけれど、誰かに餌付けされていたのかみんな餌を出そうとしなくても寄ってくるくらいに慣れていた。
なのに、その不思議な毛色の猫は私が餌をやっても、私の姿が見えなくなるまで決して餌を食べない、それぐらい警戒心の強い子だった。
確かに他の野良猫とは違う風格らしきものがあった……ような気はするが、そんなバカな。
「そして昨日、ついにあにゃたに身体のすみずみみゃで蹂躙されみゃして――、
あの時のとろけるようにゃ快感が、もう忘れられにゃいんですみゃ……」
そういえば昨日、件の不思議な毛色の猫をたっぷりと撫でた。
いつもは近くに寄ってすら来ないのに、その時は急に私のスーツへ擦り寄ってくるものだから、つい私も嬉しくなって、思いっきり撫でてしまったが……どうしてそれが結婚に繋がるのだろう。
「ええっ! 女子の身体を文字通り弄んでおいて、責任もお取りになってくれないとは?!
無防備にお腹を見せる事は、我々の間では親愛、そして相手への信頼の情を表すのですよ!
そしてそこを自由に触れさせるコトは、も、もちろん……ふみゃぅ、」
そこまで言うと真っ赤な顔をしてベルさんは俯いてしまった。頬のひげもちょっと垂れている。しかし尻尾はピンと立ったままだ。
まさか、一度撫でただけの猫にそこまで思われているとは。
……とにかく、いきなり嫁ぎに来られても困ります。
そもそもウチのアパートはペット不可で――。
「ぺ、ペット!? ぼ、ボクをペットにして飼おうとお思いだったんですかにゃ?!
にゃにゃ、にゃんと、はれんちみゃっ……ああでもっ、わたしはもう……」
……何かカン違いをされているようだ。
「ふにゃあぁ……人間の文化というのは想像よりもはるかに猥雑なのですみゃっ……」
――閑話休題。
『とにかく今の所は結婚まで考えられません』という旨をきっぱり言っておいた。
人間の女性相手ならともかく、猫を相手にこんな事を言うとは。
「そう、ですかみゃ……」
水を掛けられた火のようにさっきの勢いがしゅんと消え、ピンと立っていたベルさんのひげと尻尾がげんなりと垂れる。
しかし猫とはいえ相手がなまじ喋れるだけに、妙な罪悪感は残った。
「ですがボクもフェイレス家の末裔、受けた恩には忠義を尽くさねば祖先に顔向けができません!
どうかアナタにお仕えすることをお許しくださいですみゃ!」
そんな大層なことでなく、また少し身体を撫でさせてくれれば――と言おうとしたが、それを言うと更に誤解を深めそうだ。
どうしたらよいのだろう。
「……はっ! ではどうでしょう、アナタさまをボクたちの国にご招待するというのみゃ」
国、という単語に私は思わず聞き返す。
「そうですみゃそうですみゃ。ボクたちケット・シーが住む猫の王国ですみゃ。
貴族であるボクが言うのもなんですが、とてもすばらしい国で、人間の方々もたくさん住んでおりますみゃ」
普通の人間も住んでいるとは。
猫の王国……というと、野良猫だらけのネコ屋敷とか、近所の猫喫茶を思い浮かべる。
いや、人語を介する猫の言うことなのだから、今さらなにが起きても不思議ではない。
「我が王国は、猫と人間がともに暮らすための理想郷。びっくりするほどユートピアでございますみゃ」
そこまで言うとベルさんはえへんと平らな胸を張って、どうだと言わんばかりの自慢げな顔をした。
猫の王国。確かにちょっと興味はある。
「おお! それは何よりですみゃ、早速参りましょう!」
するとベルさんはすっくと立ち上がり、私のアパートの白い壁紙の前に立った。
そして柔らかそうな手(猫なので前足かもしれない)に持っていたステッキで、壁をガリガリとなぞりはじめる。まるで壁紙を剥がそうとするかのように、四角の形に線が掘られていく。
壁に傷をつけられるのは困る――と、制止しようとしたその時。
傷で出来た一本の線が四角を形作ると、突然そこにドアノブがにょきっと生えてきて、さも最初からそこにあったように扉のようなものが現れた。
目を疑うような光景に私は瞬きを繰り返すことしかできない。
「……よし、これで……あ、ボクのサイズなので少し小さい扉になってしみゃいました。
すみませんが、屈んでお通りくださいみゃ」
……。突然すぎて、もはや驚くこともできない。
もしやこれを通った先が……?
「猫の王国に繋がっておりますみゃ!」
扉を開けた先にはヨーロッパ風な装いを見せる部屋があり、その中は豪華そうなインテリアや調度品で囲まれている。
柔らかそうなソファ、味わいのあるアンティークのテーブルやタンス、天蓋付きの巨大な、私の三倍は厚みのありそうなベッド。
アニメや映画で見るような荘厳な作りで、学のない私でも高級品そうなのは分かる。
まさしく貴族の屋敷、という感じだ。
「では早速、お母様にお話をつけて参りますみゃ」
え、ちょっと――と止める暇もなく、自分よりもかなり大きな扉を開けるとベルさんはどこかに行ってしまう。
おそらくここはベルさんのお屋敷なのだろうが、自分のいた世界とは雰囲気が違いすぎて落ち着かない。
迷子になって美術館の中に置いていかれた気分だ。
すると、さっきベルさんが出て行った扉からこんこん、とノックする音がした。
「おじょうさまー、入りますみゃー」
またしっとりした声だがベルさんとは違う誰かのようだ。
まずい、隠れるべきだろうか――などと考えている間に、無情にも扉は開いてしまう。
扉の向こうに立っていたのはやはり二足歩行の猫で、白地に茶色と黒のぶち模様という三毛の毛並みをしている。フリル付きのエプロンドレスに黒のロングスカート、いわゆるヴィクトリアンスタイルのメイドに似た服を着ていて、察するにメイドだ。お手伝いさんだ。
「にぁ゛っ?! し、しらないオトコのヒトがおじょうさまのへやにっ?!」
バケツを両手に持ったその三毛猫は慌てたように後ずさって、
「さてはあなた、ドロボウですねっ! 雇われて一週間、ようやくメイドとしての腕が鳴りますみゃっ!」
そして姿勢を低く構え毛を逆立て、獲物を狙う猫のようにじーっとこちらを睨みつけてくる。
やはり誤解されているようだが、弁解の余地はなさそうだ。
ここは下手に逃げ出しても事態を悪くするだけだろうと、私は両手を上げて降参の意を示す。
「み、みゃぁっ……あ、あくまでも抵抗なされるのですみゃ?!」
……しまった、これは人間相手だから通じるボディランゲージか。
「おお、おとなしくしてくださいみゃあっ、でないと、む、いたいことしちゃいますにゃーっ」
言葉は強気だが、三毛猫メイドは震えながら後ずさっていく。
ベルさんよりも身体が小さく背も低く、子供のようなあどけなさを残した彼女は、どうやら私の行動に至極怯えているようだ。体格だけで言えば私の方が倍はあるのだから当然である。
落ち着いてほしい、と言いながら私は正座して両手を膝に置き、無抵抗をアピールしてみる。
身を小さくしたこの姿なら威嚇にはならないだろう。
「……あ、ほ、ホントにおとなしくしてくれるんですみゃ。
こわいヒトだったらどうしようかと思っちゃったにゃー……」
とりあえず私はベルさんの知り合いで、突然彼女にここへ連れてこられたという旨を伝えてみる。
「はあ、おじょうさまが……。いやぁでも、変わり物でしょう、おじょうさま。
『ボクのご主人様にふさわしい人を探すのみゃ!』なーんていっつも言ってみゃーしたから……」
三毛猫メイドはやれやれ、と言いたげな表情を見せる。
ご主人様……という事は、やはりベルさんは本気で私の所へ嫁ぎに来たのか。
「ええ、人間に付き従うなんてそんみゃ、まるであべこべですからみゃー」
あべこべ、というと?
「おやや、ニンゲンさんは私たち猫に従うのがお好きなのではないのですみゃー?
王国に住む猫好きのみなさまはそうおっしゃっておりましたのみゃ」
なるほど、この王国には本当に猫好きの方が集まっているということらしい。
そしてベルさんはその中でも異端な考え方に走っているようだ。
「まあ、ですからおじょうさまもお外に行きたがってたんでしょうみゃー。
この国でそんな考え方をする方ほとんどおりませんからみゃ……」
三毛猫メイドさんは、はっと気付いたように私を見た。
「そんにゃことより、いくらお客様とはいえ勝手に入っちゃなりませんみゃー!
来客者用のお部屋へお通ししますので、どうぞこちらへ、ですにゃ!」
いやしかし、私はベルさんにここへ連れてこられたのだが。
「問答無用ですみゃ! さっこちらへどうぞですみゃっ!」
……。
三毛猫メイドに連れて行かれたのはやはり高級そうな家具の置かれた部屋で、テーブルとその向かい二つに大きな赤のソファが置かれている。
促されるままそのソファに座り、少し待っているとさっきのメイドさんが紅茶を持ってきてくれた。猫舌に合わせているせいか温度は低めになっている。
「さっきベルベット様とお会いしみゃした。まもなくお母様とこちらに来られるそうですみゃ」
お礼を言うと、三毛猫メイドさんは恭しく頭を下げて部屋を出て行った。
それにしても求婚を申し込まれた上にいきなり親と会う事になるとは、話が早過ぎて何が何やら。
少し待っているとこんこん、とノックの音。
「ああ、ご主人さま! お待たせして申し訳ございませんみゃっ」
ベルさんは勢いよく扉を開けて入ってきた。
その横にはベルさんと同じ体格ぐらいの、白茶色の毛並みをした猫がいた。もちろん二足歩行。
察するに彼女はベルさんの母上なのだろう、それっぽい貫禄もある。
立ち上がって私がぺこりと頭を下げると、彼女たちも倣って二人でおじぎをした。
「どうも初めまして、ベルベットの母でフェルリドルと申します」
フェルリドルと名乗ったベルさんの母は、ベルさんとは違った気品を持ち合わせている。白のリボンと黒のワンピースを着けていて若々しく、母というよりは姉のようだ。とはいえ猫の外見から年齢なんて分からないし、お世辞に取られかねないので私は余計な発言を慎んでおいた。
「お話はベルから聞いておりますわ。とてもお優しいお方であると。
ああ、どうぞお掛けください。
ロンネフェルトの紅茶も淹れさせました、美味しいですからぜひご賞味ください。うふふ」
二人がソファに着いたので私もそれに続いて座り、いただきます、と言って紅茶を頂く。
「それで……ベル。
こちらの方とは、どこまでお済になったのかしら。もう交わいはしました?」
フェルさんの言葉を聞いて、紅茶が気管に入りかけたせいで私はむせる。動揺しているのは私だけらしかった。
やはりベルさんの親類、丁寧な物腰とはいえ血は争えないという事か……。
「あらみゃあ、お母様。少々配慮に欠ける質問ですみゃ」
「そんなことはありませんよ。
むしろこれからの事を考えれば、迂遠な物言いなど無用でしょう」
フェルさんは笑顔で私を見ていたが、その眼には確かな強かさを感じる。
野性味を失わない、鋭さを帯びた目つき――。
ベルさんに似たくりっとした可愛らしい瞳だが、同時に私は捕えられた獲物のような気分になる。
「ただ残念なことに、まだボクたち……口づけすら済ませておりみゃせんの……」
そりゃそうだ、と言いたくなる気持ちをぐっとこらえる。
会社の前でベルさんに餌をあげていた期間まで入れれば、二週間ほどは会っていた事になるのかもしれないが。
「ふむ、それは少し円滑ではありませんね。
まあ大丈夫でしょう、紅茶も飲んでいただけたようですから……、
後はお若い二人でゆっくりと、睦言をお交わしになってください」
どういうことでしょう、と聞こうとした瞬間、カップを持つ私の手に力が入らなくなっていく。
なんとか零すことなくソーサーには戻せたが、身体全体に違和感を覚える。
全身から力が抜けて、少しずつ睡魔のようなものが溢れ出す。
視界のピントがずれて、上半身を支える力すら入らなくっていく。
「美味しい紅茶でしょう。お客様にはまずこの飲み物を振る舞うことになっているのです」
私は身体を支えきれず、テーブルに突っ伏してしまう。
「……ベル、テイル。こちらの方を”特別応対室”へお連れしてください。
もちろん、ちゃんと準備をしてから起こすのですよ」
「ええ、お母様。抜かりにゃいようにお膳立てを頂き、誠に感謝しますみゃ」
意識が途切れ途切れになり、押し寄せてくる眠気にあっけなく私は飲み込まれていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
目が覚めるとそこは、天蓋付きの大きなベッドの上だった。
部屋の中は暗く、ベッドの横にあるスタンドライトがぼんやりと周囲を照らす程度の明かりしかない。
その装飾品を見るにベルさんの屋敷の一室であることは分かった。
が、どうして私が一服盛られたのか、そしてベッドに寝かされているのかは分からない。
「手荒な真似をしてしまい、大変申し訳ございみゃせん。どうかお許しくださいみゃ」
ベルさんの声。
どこから聞こえるのかと思ったら、どうやらベルさんは私の上に乗っていたらしい、声がしてようやく私はその存在に気が付いた。
「我侭でいて気まぐれな我々ですが、愛されたいという願いを皆、胸中に忍ばせておりますみゃ。
しかしボク達ケット・シーは、そうはお見えににゃらないかもしれませんが、臆面ばかりの種族。
ただ本心を一言、ぽつりと漏らすだけでも、日の下ではとても叶いみゃせん……」
私の身体にまたがったまま、ベルさんは続ける。
暗い部屋の中では身体の輪郭をとらえるのがやっとで、表情までは分からない。
ただ、熱っぽい吐息だけはやけに大きく聞こえた。
「ボク達フェイレス家は、そんな本心を少しでも表にはできにゃいものかと考え――、
人間に仕えることを公(おおやけ)にし、その誠実さを確かめようとしてきたのですみゃ」
声が近くなり、ベルさんが顔を寄せてくるのが分かる。
「そしてどんな言葉も、行動に勝ることなどありみゃせん。
だからボクたちは、その身体を捧げる事で”誓い”をするのです……みゃ。
その点では、ボク達フェイレス家も、他のケット・シーたちも、同じですけど、にゃ」
声は耳元まで寄り、温い息が私の頬にかかる。
猫らしい野性味溢れる匂いと、石鹸のような香の匂いが重なり、鼻をくすぐる。
ベルさんはごろんと転がって私の上から降り、私の頭を抱きかかえるように寄り添ってきた。
ふわっとしたベルさんの体毛が肌に擦れ、くすぐったさと気持ちよさが重なる。
「……ご主人様。
このボクの身体では、ご満足いただけないのでしょうかみゃ……?
もしそうなら、すぐにでもボクは身を引きますみゃ……」
そうじゃない、と私は反射的に答えていた。
「では、どうして。
ご主人様の家を訪れたその時に、ボクを受け入れてくれなかったのですみゃ。
茶化してはおりみゃしたが、ボクも心の内は気が気でなかったというのに……」
それは……まさか猫が二本足で立って家に来るとは思ってなかったからで。
でも違う、決して嫌だとかそんな気持ちは無くて――。
「……ご主人様。 ボクの身体はもうすでに、アナタ様を主人だと忠誠を誓っておるのですみゃ。
身体を捧げるというその意を汲んでいただけるのなら、どうか。
……その手でボクを、愛してくださいみゃ」
溶けるように甘いそのか細い声に、私の頭が痺れていく。
気がつくと私はベルさんの小さな身体に覆い被さろうとしていた。
先程まではただ藍色の不思議な猫ぐらいにしか思わなかったその姿が、とびきり特別に思える。
猫。
そう、彼女は人というより寧ろ獣のような外見だというのに、どうしようもなく惹かれていく。
私に尽くそうと身体を捧げるその姿は、ただ麗しい女性にしか見えず――。
獣であるか、人間であるかなど、とても些事のように思えた。
「はぁ、んっ」
考えるよりも先に、ベルさんの身体を私はまさぐっていた。
白い毛が生えるお腹を撫でつつ背中に手を回し、そのままお腹へぼふっと顔を埋める。人肌のような温かさと毛布のような柔らかさに安らぎを覚え、私は顔を伏せたまま深く深呼吸をした。
すー、はー。
さっきよりも強くなった石鹸と野生の匂いが鼻を突き、私の吐いた息でベルさんが声を漏らす。
「ふぅっ、あぁ……あたたかい、ですみゃあ……」
獣人の少女にどう愛撫をすればよいのか逡巡し、しばらく白毛の毛並みの柔らかさを楽しんでいた。
お腹の毛はふわふわで格別に柔らかく、羽毛のように触り心地がよく、ずっとこうしたいとさえ思う。
そんな想いを振り払い私は顔を上げ、伸し掛かるようにしてベルさんと顔を突き合わせる。
くりっとした大きな瞳が、ゆっくりと私を見つめて。
鼻と鼻が当たらないように首を傾け、目を閉じてそっと顔を降ろしていく。
「……んむっ、」
唇に当たる柔らかい感触。
どちらからでもなく舌を絡ませ、混ざる唾液の味と熱を感じる。少しの生臭さと、痺れるような甘さ。
彼女の舌はざらっとはしていたが、普通の猫ほど引っかかる凹凸はない。
むしろそのざらつきが舌に対する愛撫のようにさえ感じて、ぞわっとした快感が走った。
「っ、ちゅっ、ぷはっ」
顔を離してお互いの目が合うと、ベルさんは照れくさそうに笑った。
そしてまた目を閉じたので、意を汲んでもう一度、互いの舌を味わう。
「ふぅ、んっ……」
ちゅ、にちゅっ、くちゅっ……。
静かな水音は目を瞑ったぶんよけい耳に残り、内から頭中に響いた。
理性が抑えていた興奮に火が付き、燃え上がっていくのが分かる。
そして顔を下げていき、彼女の胸元を手でまさぐる。
白毛に覆われたそこは体毛を含めても僅かな膨らみだが、掌で優しく揉むと彼女が声を上げる。
「ひゃ、あっ。む、むね、は……よわ、くてぇ、みゃふぅっ」
まずは体毛の感触を掌で愛おしく撫でつける。
次に指で毛の中を探るようにして、毛の隙間から覗いた桃色の乳首を探り当てた。そこにぴっと触れるだけで彼女はびくっと身体を震わせる。
両手の指で焦らすように乳首の周辺を撫で、先端をほんの少し指ではじく――それを繰り返す。
「んにゃ、あぁっ、みゅ、うぅ……」
そして顔を胸に近づけ、その慎ましい乳首に舌を這わせる。
れろっ、ちろっ、と舌の先端で転がすように。
そうするとますますベルさんの反応は強くなり、彼女の左手が心許なく震えるのが見えた。
私は空いた右手を使い、彼女の股間へ指を近づける。
そこはもう粘液でぬるぬるっとしていて、周りの毛まで濡れそぼっていた。
「あぁ、そこは……はふぅっ」
股間に指をなぞらせただけでベルさんがいじらしい声を上げ、私は上目でその顔を確かめる。
暗いのではっきりとは見えないが、身体をよじらせているのを見るに恥ずかしがっているのは明白だった。
どれほど愛撫を続けた物かと思っていたが、ここまで濡れてくれればもう少しだろう。
「あっ、」
一度身体を起こし、仰向けに寝る彼女の足元へ移動する。
そして彼女の股間に顔を近づけ、その性器の穴を舌でつんつんと触ってみる。
形は人間のそれと似ていて、入り口がヒクヒクと動いているのが暗がりでも見えた。
「ん、みゃぁっ、そんなっ、まじまじと、みにゃいで、くだしゃ……みゅっ、」
舌で触れるそこは熱く、侵入する異物をさぞやさしく、ぎゅっと包み込んでくれるだろう。
それを思うと私の股間にますます血が集まり、交尾の準備をうるさく催促する。
私は人間の女性と同じように正常位を位置取り、ベルの足をそっと撫でながら彼女の方へと持ち上げる。
激しく勃起した男根を膣穴にそっと合わせると、くちゅ、と水音が鳴った。
亀頭で入り口をにゅるにゅると刺激すると、滑りは良くなっていく。
「あふっ、んん……い、いよいよ、ですみゃ……」
くちゅっと音を立てながら、小さな膣にペニスを押し当て、少しずつ力を入れていく。
狭い膣穴はやはり熱く、小さく、愛液と唾液でぬるぬるだ。
にゅ、ずぶ、ずぶぶ……。
ずぶずぶと狭い穴にめり込んでいくその感触が、たまらない。
「あ、うっ、」
ある程度までペニスが入ると、途中で引っかかるような箇所があった。
おそらくベルの純潔の証なのだろう。
まだ幼いであろう、それも自分より遥かに小さい猫の女の子と交わる――。
それはぞくそくするほど背徳的な行為。
「ボクは、だい、じょうぶです、みゃ。……そのまま、ゆっくりっ……」
言われるまま、ゆっくり、ゆっくりとペニスをヒダだらけの膣に進ませる。
にゅっ、ぷぷっ。
そしてぐっと力を入れ、ベルの純潔を貫き、その感覚に酔いしれる。
「ん、みゃぁっ……! あ、あ……っ、ボクと、ごしゅじん、ひ、ひとつに、なったん、ですみゃ……」
そのままベルの一番奥まで侵入し、熱湯のような中の熱さを味わう。小さな秘穴にペニスは全部入りきらず、少しだけ竿の部分が余っていた。
小さなベルの身体をぎゅっと抱きしめようとして、体格差に気付き、私はゆっくりと彼女を持ち上げた。
いわゆる対面座位という体位に位置を入れ替える。
ゆっくりと亀頭を擦っていく刺激でさえ腰が抜けそうだったのに、ピストンするとどうなるのだろう。
早くその快楽を味わいたかったが、ベルの様子を見るとそうはいかない。
「はーっ、はーっ、ん、ぅぅ、」
きゅっと閉じたベルの瞳からは涙がこぼれ、身体が小刻みに震えて肩で息をしている。両手は爪を立てそうなほどしっかりと私の背を掴んでいた。
ベルの呼吸が落ち着くまで彼女の身体を撫で、愛撫する事に徹する。
「ふーっ、ふみゅ、うぅ……ごしゅじんさま、ありがとうございます、みゃ……。
もう、おちつき、ましたから、みゃあ……」
その言葉が強がりでないのを信じながら、私はベルの腰を掴んで、ゆっくりと動かし始める。
ぬ、ぬぬぬ、にちゅ、ずりゅっ。
淫らな音を立てながら、ゆっくりと抽送が行われる。
深くまでベルの身体を沈めるたびにふさっとした毛が私の内股に当たり、それも快感になる。
「あ、ふ、うぅっ」
少しずつ、少しずつ動かす速度を速める。
にゅ、ぬぷぷ、ぐちゅっ。
ずちゅっ、くぷぷっ、ぬちゅっ。
ベルの身体を持ち上げ、ずんずんと突き上げると、次第に潤滑は増え、スムーズになっていく。
「みゃ、あぁ、ご、ごしゅじんっ、も、もっと、ゆっく、りぃっ」
ベルの必死な声が耳を揺らすが、私ももう止められない。
ぬるぬると絡みついてくるベルの膣穴は狙ったように敏感な所を擦りあげていくのだ。
しかも奥まで突き入れると、亀頭にちゅっと吸い付くように子宮口が責めてきて、下半身全体が痺れる快楽が襲ってくる。
ピストンの速度に比例して射精欲は一気に高まっていった。
「はっ、あぁっ、ふぅっ、そ、そんな、はげし、にゃぁっ」
ずっちゅ、ぬちゅっ、ぐちゅっ……!
ベルの身体を大きく上下に揺らしながら、そして腰を打ち付ける。
私の胸元にベルの熱い吐息がかかり、唾液や愛液がお互いの身体を汚しあう。
さらにずんずんと突き上げると、ベルが私をきつく抱きしめる。
「あ、あ、あ、ああっ、ご、ごしゅ、じん、さみゃあっ、ぼ、ボクっ、こ、こわい、ですぅっ」
そして同時に、ベルの膣がペニスをまたぎゅっと締め付けた。
もう絶頂が近いのだろう、私も我慢できそうにない。
「ぎゅっ、ぎゅっと、してっ、くだっ、あぁっ、ボク、ボク――!」
互いに抱きしめあった瞬間、彼女の膣がぎゅうっとペニスを包み込む。
その刺激で溜まっていた子種を全て、彼女の狭い膣穴に注ぎ込んだ。
搾り取られるその感覚に、視界が一瞬真白になるほどの快感を覚える。
「みゃっ、あぁぁ……っ、ふーっ、ふーっ……」
息も絶え絶えといった感じのベルが、荒い吐息を必死で整える。快楽に蕩けたその瞳はどこかいやらしく、私の雄を刺激する。
繋がりあったままの秘所から、少しだけ白い液が零れて太腿を汚した。
「……あ、あぁ。ボクのなかに、熱いのが入ってきたの……わかります……♪」
まだベルは絶頂の余韻に浸っているらしく息が熱い。視界もおぼつかないのか何度も瞬きをしている。
だが、一度出したにも関わらず、私のペニスはまだ固いまま。
やるべきことは自明だった。
「――ふやっ?! あ、ぁ、そん、なぁっ♪
ま、まださっきの、のこってっ――ふみゃぁぁっ!」
ベルの腰をぎゅっと掴んで、また上下に動かしていく。
じゅぽっ、ぢゅぽっ、と卑猥な音を立てて、更にすべりの良くなった膣穴を犯していく。
まだまだベルの穴はキュッと締め付けてきて、精液を欲しがっているように見えた。
「あ、ああぁっ、ご、ごしゅっ、じん、さまぁ、ゆる、ひて、っ、ふあぁっ……♪」
そのまま、何度も何度もベルを持ち上げては降ろし、乱暴にベルを犯し続ける。
ベルの目に焦点が合わなくなるまで、声が出せなくなるまで。
快楽に蕩けて、何も考えられなくなるまで――ずっと。
私の記憶が確かなら、およそ一週間後。
その日も濃密な交わりの行為が終わって、お互いの温もりを確かめ合っていたときのこと。
「……ご主人様、どうでしょうみゃ。このまま猫の王国に住むことにしては……?」
今思えば、それは素晴らしい誘いに聞こえた。
しかし思えば私は元の世界に会社も自宅もある、そういうわけにも……
「いえいえ、ボク達フェイレス家はそれほど脆弱な家柄ではありませんみゃ。
もうすでに、アナタ様の地位はフェイレス家のお世継ぎ。
あの世界で務めていらっしゃった場所に戻る必要など、ございませんみゃ」
……え?
「ボク達ケット・シーの様々な力と人脈を駆使し、すでに抜かりなく手続きは済んでおりますみゃ。
ご主人様のお身分はもはや猫の王国のみ。
ご自宅はそのままですが、ご主人様の匂いを残すために、ボクとご主人様の別荘という形にしておきますみゃ」
えっ。えっ。
「それと、ご主人様のお勤めなさっていた会社には猫好きの方が多いと情報があったので――。
表沙汰には決してならぬよう、フェイレス家で制圧させていただきましたみゃ。
あの場所は、我が娘たちの婿を見つける礎の場として、有効活用する予定ですみゃ」
えっ。えっ。えっ。
「ご心配なさることなどありみゃせん……さあ、もう少し休んだらまた、睦言を交わしましょうにゃ。
愛し子は多いほど、育てがいがありますからみゃ……♪」
……やはり人間は、猫という生き物を従えられないのかもしれない。
私はベルの「ご主人様♪」と呼ぶ声を聞きながら、また彼女との交わりに耽るのだった。
15/03/15 20:21更新 / しおやき