二人用の首輪
チャイムが放課後を告げる。明日が土曜日と言う事もあって、教室はそれなりに騒がしい。
明日使う教科書を机に入れておこうとしたその時、僕は机の中で見覚えのない紙を見つけた。
折りたたまれたその紙の中を見ると、『三階の視聴覚室の隣にある、空き教室に来て』と書かれている。
一見ぎこちない、癖のあるその文字を見ただけで、僕は誰がそれを書いたのか簡単に分かった。
紙で指定された空き教室に着くと、ほんの少しだけ扉が空いていて、教室の中に誰かが立っているのがその隙間から見えた。
雪のように白い肌、真っ黒で長い髪の毛、背中から伸びる黒い触手。背は僕より少し低くて、小さめのブレザー。
それは僕が予想していた通りの相手。
僕が教室の引き戸を開くと、教室の中に居た彼女はそっとこちらを振り向いた。
顔の半分を埋めそうなほどに大きな、赤い瞳の一つ眼が僕を見つめる。
「わざわざこんな所に呼び出すなんて、まだ立場が分かってないのかな」
僕が気怠そうに言うと、彼女は困ったように下を向く。
彼女の身体は近くで見ると小刻みに震えていて、背中の触手は犬が尻尾を丸めるみたいに縮こまっている。
「……も、もう、限界なの。お願い……」
僕の身体に、彼女のか細い体がすがりついてくる。絞り出したようなその声は弱々しくて、彼女の息は荒く、小刻みだった。
「こんな所で欲しがるんだ? 思ったより節操がないんだね」
体勢を崩しながら僕の肩に手を載せ、上目遣いで彼女が僕の目を覗き込む。
その表情に余裕はほとんどなく、僕の嗜虐心をこれ以上ないぐらいくすぐってくれる。
じっと僕を睨むその大きな一つ眼は、何度も瞬きをして、瞳を潤ませながらも僕と目線を絡ませていた。
「せ、セイエキ……、君の、じゃないと……っ」
「……どれだけ『暗示』を掛けようとしても駄目だよ。僕には意味がないんだって」
僕は彼女の顔を見下ろしながら、更に続ける。
「いくら力の強いゲイザーでも『暗示』が効かなくなったら、もうただの小さな女の子だね。
だから、こんなに余裕を持って君を手懐けられるワケだけど」
「あ……うぅ、」
荒い吐息を続ける彼女の黒髪に指を這わせ、僕はその触り心地を楽しむ。
それでも彼女は僕を睨む事を止めない。
窓から差しこむ夕暮れの光に反射して、彼女の赤い一つ目は綺麗に光っていた。
「でも、せっかく頼んできてくれたんだし、突き離すわけにもいかないなあ」
「……! じゃ、じゃあっ」
僕が言い終わる前に、彼女はその言葉に反応した。
肩を掴んでくる手に力が入って、僕の制服がきゅっと歪む。
「ほら、早く服脱いで。全部」
「――え、こ、ここで……?」
「当たり前だよ。君が言い出した事なんだから」
「け、ど……」
彼女はそれ以上抗議することなく、静かに制服のリボンを外し始めた。
元々、ゲイザーという種族は服を着る必要がなく、したがって肌を晒す事自体にも抵抗はない。
だが、こちらの世界で共存する内に性質が変わっていったのか、個体差なのか、ともかく彼女は人前で服を脱ぐのをためらう。
それに普通のゲイザーは、胸や秘部などの繊細な部分を黒いゲル状の物質(魔力の固まりらしい)で保護しているのだが、それもほとんど見当たらない。
身体越しにちょろっと見える尻尾のような毛も大した大きさは無く、臀部を少し隠している程度だ。
なので彼女が服を脱ぐのは、真っ白な肌の少女が、公共の場で裸体になるのとほぼ同じと言える。
「……っ」
制服とカッターシャツは脱いだけれど、流石に下着を脱ぐのは躊躇っている。
放課後とはいえ学校には人が残っているし、偶然誰かが通りすがって見られてしまうかもしれない。
いくら『魔物娘』の通う学校とはいえ、彼女たちにも羞恥心というものがある。
「靴はそのままでもいいけど……下着は脱いでもらわないと」
「わ、わかってる……」
薄いピンク色のブラジャーとショーツは少し子供っぽいデザインで、服に隠されていた彼女の体型は服の上から見るより更に細く、幼く見えた。
左手で小さな胸の膨らみを隠しつつ、彼女は右手でブラジャーを少しずつ外す。それが終わると、今度はぎこちない動きでショーツをずらしていく。
生まれたままの姿に近づくほど、彼女の白い頬が赤く染まっていく。僕は微笑みながらその光景を見ていた。
「ぬ、脱いだ……よ」
机の上には脱いだ服が置かれている。下着をよく見ると少し濡れているのが分かった。
「うん、素直でいいね。
じゃあ、これ。僕からのプレゼント」
僕はそう言って、通学鞄の中から白い袋を出す。
そしてその袋の中から、大きな黒い首輪を取り出して、彼女に見せた。
首輪の端からは丈夫な縄が伸びている。
「これ……って……」
「どう? ちょっと地味だけど、サイズは合わせてるんだよ。
……ほら、着けてあげる」
「こ、こんなの、……着けるの、変だよ……」
口ではぶつぶつと言いながら、それでも彼女がそれを拒否する事はない。
そっと僕は黒い首輪を彼女の首に当て、ベルトを締める。
裸になった彼女の細い首元に物々しい首輪が巻かれているのを見ると、まさしく彼女を自分のモノにしているかのような、背徳感や征服感がある。
僕は首輪から伸びる縄を手に掴んで、少しだけ引っ張ってみる。彼女の首から伝わる微かな手ごたえが、どこか小気味よかった。
「いい格好になったね。じゃ、このまま帰ろうか」
「っ、な、ばっ、そんなコトっ……!」
「え? ……ああ、そうか。これじゃ物足りないよね」
僕はまたさっきの白い袋を手に取り、中身を出す。この中に入っているのは全部、『彼女』のために用意した玩具だ。帰ってから使おうと思っていたけど、彼女に躾をするのなら今からの方がいい。
彼女に見せつけるかのように、僕は白い袋の中からピンクのローターを取り出す。
「じゃあ、準備をしようか。そこの机に座って、自分でオナニーして。
ちゃんと弄ってる所が見えるようにね」
「んぐっ……」
大きな一つ目を歪ませて何か言いたげな表情を見せるけれど、彼女は反抗しない。
決心したように、体育座りをするみたいに彼女が机に座って、そこから恐る恐る太腿を開いていく。
彼女の正面に立って、股間を見やすいように僕が覗きこむと、慌てて彼女は空いた左手で自分の赤い顔を隠した。
んぅ、と悩ましげな声を漏らしながら、彼女はゆっくり自分の右手を秘部に這わせる。毛の一つも生えていない小さなその膨らみは、もうじわりと濡れているようだ。
「……う、んんっ、」
恥ずかしがっていた割に、彼女の指の動きはすぐに早くなった。押し殺したような声がどうにもいじらしくて、ますます意地悪がしたくなる。
「そんなに熱くならなくていいよ、まだ『精液』はあげられないからね。
その代わりに……はい」
「ふ、ふあぁっ?!」
僕は自慰に耽りかけた彼女の右手を止めさせて、さっき取り出したローターを秘部に当てる。ぐりぐりと入り口を刺激すると、彼女はまた驚くような声を上げた。
そして、僕はそのままローターを膣穴の中へ滑りこませていく。少しだけ抵抗をしながらも、彼女の秘部はそれをにゅるり、にゅるりと飲み込んでいった。
はぁ、はぁ、と彼女が吐息を漏らす。
「うーん、一個じゃ足りないかな。もうひとつ」
「……っ、んぅ……」
更にローターを取り出して、僕はまた彼女の秘部の入口を刺激する。すんなりと膣に飲み込まれていって、彼女はますます悩ましげな声を出す。
彼女の小さな膣は卑猥な音を立てて、二つのローターを貪欲に飲み込んでいった。
「はい、このまま。出しちゃダメだからね」
彼女の膣から落ちないように、奥深くまでローターを押しこんでいく。このローターはコードレスなので、僕の手に持ったリモコンからバイブレーションのオンオフが自由にできる。
そしてそのまま、僕はリモコンのスイッチを入れる。
「っっ! うっ、ふぅっ……」
ヴィンヴィンとくぐもった音を立てて、ローター達が膣の中で振動し始める。中では二つのローターがぐちゃぐちゃに擦れ合っているだろう。スイッチオンと共に、敏感に反応する彼女の身体が艶めかしく揺れ動く。
「おっと、後ろの方にもだよね。はい、力抜いて」
ローターの刺激に耐えながら太腿を震わせる彼女を押さえつつ、僕はまたローターを手に取り、小さく窄まったお尻の穴を突っつく。そのピンク色の穴にふっと息を掛けてあげると、彼女が可愛らしい悲鳴を上げた。
秘部から零れ出る愛液をローターに塗りたくり、お尻の穴へと滑りこませる。
「や、そんな、トコっ、だめっ……!」
「ほらほら、暴れない暴れない」
お尻の方は慣れていないのか、彼女が力を入れてしまうので中々入れにくい。膣に入れてあるローターを強くしてみると彼女の気が逸れて、ローターの真ん中ぐらいまでずにゅっと入り。そこからはちゅるんと飲み込まれていった。ついでにもう一個、お尻のほうにローターを追加する。
震える小さなアヌスを舌で突っついてみると、彼女が息を漏らして刺激に耐える。もっと欲しいと言わんばかりに、彼女のお尻の穴がヒクヒクと動いていた。
「さて、とりあえずこんな所か。落としたりしないように頑張って」
お尻の方のローターにもスイッチを入れて、それから彼女を机から立ち上がらせる。
僕が彼女の首輪に付いた縄を少し引っ張るだけで、彼女は抗わずに動いた。
しかし快感の方には耐えがたいのか、彼女の身体はさっきより大きく震えていて、足取りもおぼつかない。元々ゲイザーは宙に浮ける魔物だが、その余裕もないらしい。
「良い格好になったね。着てた服は僕が持って帰るから、今日はそのまま帰ろうか」
「え……っ、こ、このまま、なんて……っ」
「うーん、さすがに寒いかな。 じゃ、上着を貸そうか」
僕は片付けが終わると、着ていた自分のコートを脱いで、彼女の白肌の上へ直に着せる。
丈は合わないけれど、ちょうど彼女の股間まで隠れる大きさで、外見なら彼女が裸であるのは分からない。彼女の膣とお尻にローターが入っている事も、その刺激で股間がぐちょぐちょに濡れている事もだ。
ただもちろん、彼女の首に巻き付いた黒の首輪とその紐は、はっきりと存在感を示していた。
「さ、行くよ」
「あぅ、あっ、あ……」
合図するみたいに、首輪に付いた紐を僕が引っ張ると、彼女は自分の鞄を持って、よたよたと教室の外へ歩き出す。顔には羞恥と、股間の刺激に堪える我慢の表情が入り混じり、何度も呼吸を繰り返す。
「ほら、早く」
動きが遅いので、僕は首輪をまたくいと引っ張る。
彼女が転びそうになって、大きな一つ目を潤ませながら僕にしがみついた。
「七時までに帰れなかったら、精液はなしだからね」
「え、あ、……うぅっ、んん……」
僕と彼女は一緒に、彼女の住む家に帰った。
彼女は今のところ一軒家に一人暮らしで、両親は別に住んでいる。
両親が言うには『自立できる娘になってほしい』という思いでの育成方針、らしい。
まあ、彼女に言わせるとそれは『両親が二人っきりで住んで楽しみたいだけ』だそうだが。
僕としてもそれは色々と都合が良いけれど、上手くいきすぎているような、妙な気分だ。
自分の部屋に着くなり、彼女は僕に精液を強請るけれど、もちろん応じない。
あんまりしつこく催促されるので、むしろ僕はさらにじらしたくなってしまった。
「ちゃんと躾をしないと、首輪を付けた意味がないからね。
言う事を聞くまで、ローターは入れっぱなしにしておくから」
「んんーっ、うぅっ、そんな、のっ……んぅっ?!」
たまにローターの振動を強くすると、敏感に彼女が反応する。ついでにコートの裾から手を入れてわき腹あたりの柔らかいところを擦ると、またピクッと震えた。
そのまま僕は彼女のコートを脱がしていく。
細く艶めかしい白肌の身体がまた、露わになった。
「お腹空いたね。ご飯の用意するから、ちゃんと良い子にしてて。分かった?」
「……うぅ、うんっ」
僕の言葉に、彼女が嬉しそうな声を上げた。
ゲイザーの主食は男の精だ、つまり普通に考えると、それは精液を彼女にあげるという事になる。
そのつもりだったけれどやっぱり、お預けにして彼女の反応も見てみたくなってきた。
一人キッチンに向かい、僕は自分が食べるための炒飯を適当に作って、それをお皿に盛って彼女の部屋まで持って行く。ただし、これは彼女の食べる分ではない。
もう一枚、平らな丸皿を空のままお盆に載せて持って行く。
「お待たせ」
「は、はやくう……」
彼女は部屋の扉の前で、小さな尾と黒い触手を振り乱しながら待っていた。こうして見ると本当に犬や猫のように見えなくもない。
僕はお盆を机に置くと持ってきた瓶を取り出し、平らな丸皿に中身を出す。白い半固体状のものが皿の上に載った。
「……あ、あれ、これ……」
彼女の顔が途端に暗くなる。
それもそのはず、僕がさっき皿に盛ったのはあくまで薬品で、精の代わりになる薬だ。
しかし、これは魔物娘にとってはただお腹が膨れるだけで全然美味しくないという不評な物で、好き好んで食べたがる魔物はいない。
「ちが、それ、じゃない、のっ……」
「ほら、ちゃんと食べて。手は使わずにね」
薬を入れた丸皿を、僕はカーペットの床の上へ置いた。
僕がくいくいと首輪を引っ張ると、彼女は僕の顔と丸皿とを交互に見て、泣き出しそうな顔をした。自分がどういう事を求められたのかを理解したのだろう。
姿勢を崩しながら、彼女が丸皿に顔を近づけていく。大きな一つ目は何度も瞬きをして、彼女の口はぷるぷると震えていた。
「うううっ、んっ、んっ、」
薄く赤い舌を伸ばすと、彼女は丸皿の上にある作り物の精をぺろぺろと舐めはじめる。
眉をしかめる彼女の表情は、とても食事を味わっているようには見えない。
それでも彼女は柔順に、四つん這いになって皿の上の薬品を舐めとっていく。床の上で四つん這いをした彼女の姿は、まるでミルクを舐める猫のようだった。
「ふふっ。とてもいい姿だよ」
救いを求めるみたいに、彼女は何度か僕の顔を見る。
けれど僕はそれに動じることなく、作った炒飯を食べながら、適度に彼女の首輪を引っ張ってやることにした。
僕が炒飯を食べ終わり、彼女も丸皿の中身を綺麗に舐めつくしたところで片づけに入る。
食器を全部片し終えて彼女の部屋に戻ったところで、
「と、といれ……いきたい」
と彼女がしな垂れかかってきた。
「……どっち?」
「小さい……ほう」
「じゃあ大丈夫だね。はい、トイレに入って」
そう言うと、心なしか彼女が安堵したような顔をした。
僕は首輪の紐を持ちながら、彼女と一緒にトイレの前まで付いていく。
「じゃあ……はい、」
僕はトイレのドアを開けると、そのまま彼女の身体を下から、両足を膝裏からすくい上げるように、手でぐいっと持ち上げる。彼女の背中が僕の胸のほうに倒れ込んだ。
「ひゃっ?!」
突然の事に驚いたのか、彼女が妙な声を上げる。小柄な彼女の身体は見た目よりも軽く苦にはならない。ただ、長い髪の毛や背中の触手とか尾が当たってちょっとくすぐったいけれど。
「お、おろし、てえ……」
便座の前で露わになった股間がぷるぷると震えている。それはきっとローターのせいだけではないだろう。
今の体勢はつまり、僕が彼女を後ろから抱き抱えている。それも小さな子供におしっこをさせるような体勢で、当然股間は丸見えになり、足を閉じる事も出来ない。
小さく首を横に振りながら、彼女は降ろすように懇願している。
そんな言葉を聞くわけもなく、僕は彼女の身体をゆさゆさと揺らしてやる。
「ほら、早く」
「やっ、やだよぉっ……」
真っ赤な顔で抗議する彼女の顔は、どうやら限界に近いらしかった。
しかし彼女にも意地があるのか、まだ出そうとはしない。
なら刺激を加えてやろうと、熱が伝わりそうな程赤く染まった彼女の耳を、はむはむと口で甘噛みしてみる。
「ひゃっ! ぁっ、!? あぁ、だ、だめっ、あっ、」
不意の刺激に気を緩めてしまったらしく、股間がきゅっと動いた。
程なくして彼女の股間からちょろちょろと小水のアーチが弧を描く。
「やぁ、やだっ、見ないで、よおっ……」
それなりに我慢をしていたせいか、彼女のおしっこが止まるのには時間が掛かった。
その間彼女は目前の光景から顔を逸らしながら、目をぎゅっと瞑っていた。
放尿が止まったら彼女を降ろして、トイレットペーパーで彼女の股間をそっと拭いてやる。
「よくできました」
「うう、ばかっ、」
いくら魔物娘とはいえ、用を足すところを見られるのは羞恥に耐えがたいようだ。触らずとも熱が伝わってきそうなほど、真っ赤な頬をしている。
トイレを終えた後、僕はまた首輪を引っ張って彼女を連れて行く。
彼女に色んなコトをさせていると、もうそろそろ日が変わる時間になっていた。
その間僕は、お風呂に入れて彼女の身体を洗ってあげたり、彼女に恥ずかしいポーズをさせたり、言葉を喋らないように命令したりした。もちろん服は着せずに、裸体のままで。
そうやって、彼女をまるで僕の所有物のように扱うことを僕は楽しんでいた。
それは以前にもやっていたはずの事なのに、なぜか新鮮に感じる。
何故だろう。
「そろそろ寝ようか」
「……うぅぅ……」
不満そうな、物足りないような顔をして彼女が僕を小さく睨む。暗示が効かないと分かっていても大きな一つ目でじっと見られると、ちょっとドキッとする。
首輪は彼女に付けたまま、僕は寝ることにした。
彼女の部屋にはベッドが一つしかないので、僕は居間のソファーを借りて寝る。大きさは申し分ないので、毛布があれば十分だ。
もうしばらくは、彼女と交わったりしないと決めた。まだまだお預けにしてあげよう。
そして僕の方にも我慢が出来なくなったところで、たっぷり身体を重ねればいい。
そんなつもりで、僕はベッドに入って目を閉じた。
土曜日の朝。
僕が目を覚まして時計を見てみると、もうすぐ八時を迎えるところだった。
ううん、とソファーの上で伸びをする。
その時、僕のすぐ傍に彼女が立っているのに気付いた。
「おはよう……あれ?」
昨日とは違って、彼女の姿は普段の姿と同じだ。ちゃんと白のシャツを着ているし、下には黒のスカートをはいている。つまり服を着ている。
首元を見てみると、昨日付けたはずの黒い首輪もそこにはない。
「首輪、外しちゃったんだ。どうし……て……?」
そして。
僕を見下ろす彼女の一つ目と、僕の目がぱっちりと見つめ合った。
すると、まるで電気ショックを受けたみたいに、僕の心臓がドクンと跳ねる。
暗示は効かないはず、だったのに、なぜ?
「だって、もうすぐ八時だから」
彼女はとても嬉しそうに微笑んで、
「ちゃんと昨日の朝、言ったものね。終わったら、次は私の番だって」
「……え?」
ソファーに座った僕の首に、その黒い首輪を着けた。
「な、何を……」
そうすることが最初から約束されていたみたいに、僕の身体はそれを止めることも、抵抗することも出来ない。しようとも思わない。彼女の暗示が僕に掛かっていることはもう、明らかだった。
ただ心だけが戸惑って、今の状況を上手く飲み込めずにいる。
放心している僕を見ながら、彼女が首輪にぶら下がった紐をぐっと引っ張ったので、僕はバランスを崩し、ソファーの横に上半身を倒した。
「ほらっ、服なんて着てたら邪魔でしょう? そんなの脱いで、早く、ね。ふふっ」
僕が昨日彼女に付けたはずの首輪は、今僕の首に掛かっている。
その首輪の紐をちょいちょいと引っ張りながら、彼女は倒れ込んだ僕の顔を覗き込んで、そう言った。
「……っ」
僕の身体はその言葉に操られるみたいに、さっきまで着ていた寝間着を脱いでいく。
Tシャツはもちろん、ズボンもトランクスも脱いで、裸になるまで身体は動きを止めない。
程なくして、僕は素っ裸で床のカーペットに座らされていた。
「ああ、とてもいい格好。
ね……昨日私がしたみたいに、……出来るよね?」
「な、何を?」
「もちろん、自慰のことよ。誰かに見られるかもしれないのに、私にあんなコトさせて。
そう考えたら、私の家で、私の前でおちんちんしごくくらい、恥ずかしくないでしょ?」
その口調はとても優しくて、子供に語りかけるみたいだった。
けれど僕にはどこか畏怖すら感じる。部下を使役する女王のような威圧だ。
「まずはそこに仰向けで寝転がって。ちゃんと足を開くの」
また彼女が僕の首輪の紐を引っ張る。
言われるままに僕は、リビングのカーペットの上で仰向けになり、膝を曲げて足を開いて横になった。背中に当たるカーペットの毛がくすぐったい。
「ふふ、そう、それでいいわ。じゃあいつもするみたいに、自分でごしごししてみて」
僕がカーペットに寝そべると、彼女は僕の上半身の横に座る。
子供のように小柄な彼女に、大きな一つ目で見下ろされるのはどこかゾクッとした。
そっと僕は自分のペニスに手を当て、そのまま上下にゆっくりと動かす。
自分一人だけが服を脱がされて、オナニーを強要される。僕も昨日彼女にさせた事なのに、実際に自分がやるとなると、どうしようもなく恥ずかしい。
そのせいか、中々手を動かすスピードを速められない。
「こら、真面目にしないとご飯抜きよ。言う事が聞けないなんて、悪い子なんだから」
彼女が楽しそうに言って、僕の乳首を指でこりこりと擦った。
普段は触らない場所なのに、何故か彼女に刺激されると声が出てしまう程気持ちがいい。
「あんまり気が乗らない? じゃあ手伝ってあげる。
君もも私がオナニーしてたとき、手伝ってくれてたから、ね?」
彼女の手がペニスを擦っていた僕の右手を押しのける。
そのまま、彼女の手が僕のペニスをきゅっと握った。細くて柔らかな指の感触と同時に、ローションのようなにゅるっとした感触がする。
顔だけ上げて見てみると、黒いゲルのような何かがペニスに塗り込まれていた。
「あんまり私は保護膜が出来ない体質だから、ちょっと量が少ないけど。
でも、これでコスられるとすごく気持ちイイと思うの。
なんたって私の魔力の固まりだから、ある程度好きなように動かせちゃうのよね……♪」
彼女の手と、その黒いゲルの中に包まれた僕のペニス。
するとまるで黒いスライムが這いまわるかのように、ペニスの上をゲルが動き回っていく。
しゅっしゅっと擦る彼女の指の動きと、ぬるぬるが這いまわるゲルの感触。どちらも僕を的確に刺激してきて、声が漏れてしまう。
「わ、いい顔してるよ。でも、まだこれだけじゃないから。
大丈夫、受けた分はちゃんと返してあげる……♪」
怪しく微笑んだ彼女が、僕にチラッと目配せをする。同時に、僕のペニスに纏わりついていた黒いゲルがまた動き出した。
僕の玉袋を這い回ったかと思うと、そのまま会陰部を通って、僕のお尻のほうまでじりじりと近づいていく。
まるで入り方を確かめるみたいに、ゲルの感触が僕のお尻の穴の上を這い回っている。それだけでも妙な快感が駆け上って、ペニスがびくびくっと震えてしまう。
「そ、そこはっ……」
「ほおら、動かないの」
そのままにゅるん、と僕のお尻の中に黒い固まりが入っていく。腸壁をぐにぐにと擦りながら、固まりがアヌスの中で暴れ回っている。
それと同時に、彼女が僕の亀頭を柔らかな唇で咥えた。口の中は熱くてヌルヌルで、ペニスが蕩けそうなほど心地が良い。彼女は舌でチロチロと敏感なところを舐めつつ、空いた手でペニスの根元を扱いている。
お尻の穴の中とペニスを同時に刺激される未知の快感で、僕はもう簡単に射精してしまいそうだった。
「ほは、ひょうのあさのぶん、はやくらしてっ」
喋る口の動きさえ快感につながって、精液がペニスに上ってくるのを感じる。
お尻の中のゲルがうねって、前立腺のあたりを強い力で擦ってくると、もう僕は耐え切れない。
彼女に強制的に射精させられるような感覚がたまらなく気持ちよくて、大量の精液が彼女の厚い口内を満たしていく。
びゅるびゅると溢れ出る精液を、彼女は喉を鳴らしながら飲んでいく。亀頭に吸い付くその感触でさらに刺激されてしまう。
「んんっ、ん。はぁっ、ひはひぶりのへーえき、ふごく、おいひいっ……」
僕の精液を貪欲に平らげた彼女の顔は恍惚としていて、とても満足そうだった。
「……ふぅっ。じゃ、あなたの分のご飯も用意しないと」
射精の余韻で動けない僕を後目に、彼女はキッチンの方へ歩いて行く。
彼女は、僕が昨日使ったような平らな丸皿と、小さなロールパンを持ってきた。
そしてその丸皿に、見覚えのある白い何かを垂らす。
「これ、ホントにおいしくないの。だからちょっと、味わってみて」
「でもそれ……」
「言い訳しないの。今からは犬さんの言葉以外で喋っちゃダメだからね。
分かった?」
「……わん」
元々それは人間の僕が食べるものではないのだが、抗議する台詞も許されない。
僕は彼女が昨日そうしたように、丸皿に顔を近づけてペロペロとそれを舐めとる。
その半固形状のものは確かに味気なくて、とても薄い牛乳を飲んでいるような気分だ。
「パンは、私が食べさせてあげる。あむっ」
彼女がロールパンを口で千切って、そのまま口移しで僕に食べさせてくる。
唇と唇が触れて、同時に彼女の赤い一つ目と視線が絡み合う。見ているだけで体温が上がったよな錯覚が起きた。
唾液で濡れたパンの味はさっきの薬品と違って、ほんのりと甘い味がした。
「んっ、むっ」
飲み物も普通に用意してくれればいいのに、と思ったけれど、口には出さない。出せない。
「さて、朝食も終わったし、
せっかくの休みなんだから、お出かけしましょうか」
午前十時。
彼女は僕の頭をわしわしと撫でながら、黒い首輪を引っ張りつつそう言った。
「も、もしかしてこの格好で……」
「もう、喋っちゃダメって言ったの、聞いてなかった?
次にわんちゃん言葉以外で話したら、五時間快楽漬けにしちゃうから」
「……わう」
爛々とした顔で言われると、僕は彼女の言うとおりにするしかない。
「さすがにその格好じゃ周りの方も驚くし、そうね。
パンツだけは履いておきましょうか」
「……うぅ」
せめて上着を着せてくれないだろうか、と言いたいけれど、それを言うと後が怖い。
「お利口さんにしていたら、ちゃんと美味しいゴハンを作ってあげる。
この前は失敗したけど、今回は大丈夫だから」
「えっ、君が作……」
「今、喋った?」
「……わうわう」
そのまま僕は外に下着だけのままで連れ出される。
さすがに寒い。しかし何より、周りの人の目線が痛い。
彼女の単眼も街中ではそれなりに目立つけれど、ほぼ裸の僕も相当目立つだろう。
魔物娘と言う存在が認知されていなければ、警察に通報されても文句は言えないレベルだ。
「ほら、カオ上げて。ちゃんと着いてきて」
そうはいっても、首輪に付いている紐のせいで距離が離れることはない。
「うふふ。何だかすごく、いい気分っ」
昨日僕が彼女にした事をやり返せるのが嬉しいのか、鼻歌が聞こえるほど彼女は上機嫌だった。
「ねえ、その、寒いから……」
「なあに? また喋った?
もしかして、街中で自慰をさせてほしいの?」
「……わうっ」
僕は肌寒さと、街を歩く人たちの奇異な視線に耐えながら、彼女の紐に引っ張られて歩く。
これから彼女にした事を全部やり返されるのだと思うと、気が遠くなりそうだった。
「へっくしょっ。うう、ティッシュティッシュ……」
日曜日の昼なのに、僕は布団にくるまって寝ていた。
原因はもちろん、土曜日の間ずっと彼女にほぼ裸で外を連れ回された事だろう。
この身体で彼女の家にいるわけにもいかず、僕は自分の家に戻ってベッドで寝込んでいた。
しかしついさっき彼女から電話が掛かってきて、僕が風邪を引いた事を言うと、「い、今すぐ行くから、何か食べたい物は?」と、慌てた口調で彼女が返してきた。
大した熱じゃないから大丈夫だと言っても聞かず、彼女は強引に僕の家まで来た。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
そして今、何度も謝りながら僕の傍に付き添ってくれている。
「だから、大丈夫だって。薬も飲んだから」
そう僕が言っても、よほど気にしているのか、彼女は謝る事を止めない。
僕に首輪を着けて命令していた時の姿がまるで嘘のようだ。
「私が『お互いを一日、好きなようにできる日が欲しい』なんて言ったから、調子に乗って、それで……」
「その辺はお互い様だよ。僕が先にした事だし」
僕と彼女を比べると、ゲイザーである彼女の方が体質的にはたぶん強い。
元々ゲイザーは服を着ないから、彼女に服を着せていても着せなくても、彼女が体調を崩す事もなかっただろう。
「で、でも、体を悪くさせちゃったのは、私だから……ちゃんと、看病させて」
彼女は自分の着ていた服をそっと脱ぎ始める。
真っ白な柔肌があっという間に露わになり、真っ黒な触手と尾が服に引っかかってふっと揺れた。
そのまま彼女は、僕の寝ている布団にもぞもぞと潜り込んでくる。
「ちょ、ちょっと。風邪が移っちゃうって」
「いいの。私が温めるから、君はゆっくりしてて」
彼女は横向けに寝転んだ僕の身体の前から、僕の顔を胸で包むようにして抱きついてくる。母が子供を抱くような、優しい抱擁だ。
小さな彼女の膨らみが顔に当たって、どことなく気恥ずかしい。
背中から伸びるは黒い触手が僕の背中に回ってきて、じんわりと背中を包みこんでいく。
その感触は布団よりも柔らかく、とても心地がいい。
僕を抱きしめながら、彼女がそっと呟く。
「……ほんとは、嬉しかったの。君に命令するのも、されるのも。
私は君に首輪を着けられてるあいだ、ずっと『暗示』を使えないようにしてた。
だから、本当に怖かった。
君が私と居てくれるのはもしかしたら、『暗示』のせいなのかもって、心のどこかで疑ってたから」
彼女の表情は、僕から見えない。
けれどその響きは優しくて、どこか安心したような声。
「色々恥ずかしいこともされたけど、……その、それもあの、気持ち良くて。
君に色んなコトさせるのも、なんだかこう、ゾクゾクってして、すごくヘンな気分になって。
……えっと、そう、確かにそう、なんだけど……」
言いたいことが分からずに悩む彼女の顔が、顔を見なくても想像できた。
「今日は、何も言わずに……くっついたままでも、いいかな……?」
僕は返事のかわりに、彼女を抱きしめる力をぎゅっと強くする。
同時に、僕を包む腕と触手の力が、また少し強くなったのを感じた。
「変にどっちがどっち、なんて決めるより……こっちの方が、いいかな」
ぼそっと僕が呟くと、ちょっと間を置いて返事が返ってくる。
「……私も、そう。
でも、……また、ちょっとだけやりたい、かも」
彼女と僕が、一緒のタイミングでふふっと笑った。
14/11/10 00:31更新 / しおやき