ゲイザーちゃんと水ピストルで遊ぶ話 / 甘口 / 現代
「あー!また負けた!もーっ!」
コントローラーを放り投げかねない勢いで悔しがる、単眼の女の子。
彼女は”ゲイザー”という魔物娘で、名をレティナという。
そのレティナに突然、それも半ば無理やりに家へ押しかけられ、なんやかんやで俺は彼女とひとつ屋根の下に住んでいた。
「コントローラー壊すなよ、妙なほど高いんだから」
「だってー!味方がみんな弱すぎるんだもん!
負けたのも激おこぷんぷん丸なのもアタシのせいじゃないし!」
彼女が今やっているのは淫天堂から発売された、イカ……じゃない、ちっちゃいクラーケンさんたちがいろんな色のインク(なぜかスミではない)の出るブキを使って撃ち合いをする、いわゆるTPS(三人称視点)のアクションシューティングゲームである。
子供から大人まで遊べる撃ち合いゲームとして大人気で、世界中の人とのオンライン対戦が主流だ。
で、それでボロ負けしてレティナがお怒りなわけである。
「これは四人チームでやる対戦ゲーなんだから、協力しないと勝てるワケないだろ」
「だったらアタシ一人で全員倒せばいいだろ!」
「どこの元コマンドーだよ……ていうか負けてるから説得力ないぞ」
「それは……なんか寄ってたかってアタシを狙ってくるからで……。
ちぇーっ、アタシが四人いれば最強なのになー。
撃ち合いとかして敵を倒してみたいしー」
こうやって人は暴力ゲームで粗暴になると噂されるのだろうか……いや彼女は魔物だが。
すると、玄関の方からチャイムが鳴った。
「なんだろ。郵便か何かかな」
「ほっとけー。どーせNHK(にっぽんいちHなきょうかい)の受信料の取り立てだろ。
テレビどころかケータイ持ってるだけでお金せびられるぞー」
「まあそうだったとしても、出ないのもな」
俺は立ち上がり、玄関の扉を開ける。
「えーと、721号室……うん。ハーピー宅急便からお届けものでーす!」
ハンコかサインお願いしまーす!」
「宅急便?ああ、はい……っと、どうぞ」
「ありがとうございまーす!」
「ありがとうございます。 ……なんだろ。なにも注文した覚えはないけど」
送られてきたのは段ボール箱に入った何かで、かなり軽い。
「なんだこれ?」
レティナが不思議そうに俺と箱を見つめてくるが、当然俺にも分からない。
「さあ……とりあえず開けてみるか。危険物とかじゃないだろうし……ん?!」
段ボールを開けてみると、そこには”銃”が入っていた。
黒一色のいわゆるハンドガンだ。
「えっ?!これってもしかして……!」
「……いや、本物のわけないか。ちゃんと小さく”ウォーターガン”って書いてある」
「うぉーたーがん……ってことは、水鉄砲か?」
「そうだな……しかし、水鉄砲っていったらフタ開けて、上からどばどば注ぐもんだと思ってたが……ちゃんとマガジンに水が入るんだな。ちゃんと替えのマガジンまで二つ付いてるし。
プラスティック製だから、間近で見ると流石に分かるけど……海外なら職務質問ものだな、これは」
送ってきたのは匿名の誰からしいが、「これでゲイザーちゃんと遊んでください」みたいな文言が書いてある。誰が送ってきたのかはかなり気になるところだが、荷物間違いというわけではないだろう。
ちゃんと二丁送ってくれているので、これでレティナと遊べということか。
「よーし!さっそくこれで撃ち合いしようぜ!」
「待て待て、家の中でやられたらびっしゃびしゃの大事故だろうが。
うーん。適度に広くて水鉄砲で遊べる場所……。
公園は近くにあるけど……ずぶ濡れになった時が問題だな」
「ベツにそんなのどーでも……いや……ししっ、そーだな。
”さばげー”っぽく銃撃戦がしたいし、屋内のほうがいいぜ」
「……? じゃあ、えっと……あ、そうだ。
俺の友達にサバイバルゲームが趣味のヤツがいたな……ちょっと聞いてみるか」
――――――――――――――――――――――――――
……というわけで、レティナと一緒にサバゲー用のフィールドまでやってきた。
どうもその手の界隈では、最近水鉄砲専用のバトルフィールドというのが多くなっているらしく、家の近くにもあって当日予約もできた。
俺たちが借りたのはかなり小さいフィールドで、少人数でのゲームを対象にしているらしい。
「なんでアタシもTしゃつ?じーぱん?っていうのを着なきゃいけないんだ……?
尾と触手は出せるようにしてもらったけど、なんかソワソワしちまうよ」
レティナは”ゲイザー”なので、家ではシャツやエプロン一枚を付けるだけか、もしくは真っ白い素肌に黒いゲルが付いてるだけの、ほぼ裸体という大胆さである。正直、まだ俺も慣れていない。
だが今は競技用ということで、黒いTシャツと黒いジーパンを履いていた。
「そりゃまあ、予備のマガジンをズボンに取り付けるためもあるし、水の代わりにカラーインクを使うからな。
当たったかどうか分かりやすいように、だろう」
「なんかホントにあのゲームみたいだなー、すぷら……なんだっけ、まあいいや」
「……そういや、行くのが決まってから『準備してくる!』って言って一人で買い物に行ったのは何だったんだ?
何の準備かと思ったら、お菓子買ってきただけだったし」
「えっ……と、それはまあ、エネルギーの補給だよ、ほら!
それより、用意はいいか?アタシはもう準備万端だぜ」
レティナは黒い水ピストルを構えて、俺を撃つマネをする。
「待て待て、ルールを確認させてくれ。
えっと、どれだけ相手の黒いシャツを白いインクで染められたかで勝負する……のか」
「ふーん、なんかテキトーだな」
「ま、別に本気で勝ち負けを競いあう為の遊びじゃないからな。
楽しんだモン勝ちさ」
「……ナルホド。そいつはジツに楽しみだ……きしししっ♪」
何やら企んでいるのか、それとも射撃には自信があるのか。
気が付くと、レティナは配布されたマガジンをもうすべて装備していた。
しかも銃を一丁ずつ両手に構えている。どうやらもう一丁レンタルまでしてきたらしい。
「どーだ!二丁拳銃、かっこいいだろー!」
「まあ、水ピストルだからの芸当だな……」
俺も少し時間を掛けて、全部のマガジンを腰のベルトに装着した。
「……よし。こっちも準備OKだ」
俺は目印の付いたスタート位置に立つ。
人が隠れられるぐらい大きいバルーンのような遮蔽物がいくつかあり、ここからではレティナの姿は見えない。
広さはテニスコートよりやや広いぐらいだが、その分激しい撃ち合いは必至だ。
「こっちもおっけーだぜ!」
床にあるボタンを全員が推すと合図が鳴り、開始の合図を起こす。
俺がそのボタンを足で踏むと、勢いよくビーッというアラーム音が鳴った。
「先手必勝だっ!」
わかりやすくどたどたという足音が鳴る。そういえばレティナは普段履かないシューズも履いているんだった。インドアで狭いとはいえ、それで大体の位置は分かってしまう。
というかあまりにも猪突猛進すぎるので、ゲームで負けても当然だろうと思った。
「バレバレだぞ……それっ!」
音がした方向に銃を向けて、姿が見えた瞬間に引き金を引くつもりで狙う。
――しかし、数秒経ってもバルーンの陰からは姿が出てこない。
「……?」
様子を窺っているのか?いや、それにしては……
「ししっ、引っかかったなーっ!」
「なっ……うぉっ?!」
後ろからレティナの声――と共に、背中にインクが当たる衝撃。
驚きで振り向くと、レティナが意地悪そうに口の端を釣り上げて笑っていた。
そして一本だけ触手の目玉がこちらを睨んでいる。
そうか、触手で別の場所から覗いていたのか!でも足音はしなかったぞ?
「ち、ここは隠れないと!」
「あっ!逃げ足の速いやつだなー!」
レティナは確かに上級魔物でゲイザーではあるが魔法に頼りがちな所があるので、走力や身のこなしだけなら俺の方が上だ。特に走ることに関しては。
なんとか次のインクが当たる前にバルーンに身を隠せたので、ここから反撃……
いや、待てよ!
「それぐらいで隠れられてると思うなよー!」
レティナはさっきやっていたゲームの必殺技のように、空に浮かんで空中から俺に銃を向けてきた。
「くそっ、そもそも飛べるってこと忘れてた!」
俺は背を向けて逃げようかと一瞬だけ思ったが、空中から撃ってこられるとバルーンに隠れられても被弾をかわすのは難しいだろう。
幸いといっていいのか、レティナは射撃がかなりヘタだ。下手な鉄砲と言わんばかりに乱れ撃ちしてくるが、良くてかする程度にしか当たっていない。
こうなったら迎え撃つ!
「おらおらー!その綺麗な頭を……ふぎゃっ?!」
逃げるフェイントを掛け油断させた瞬間に振り返り、俺はレティナに向けて撃つ。
正確に照準を合わせる余裕はなかったが、どうやら急所――それも顔の一つ目にもろに当たってしまったようだ。
「うぎぎぃっ……目、めがぁっ……」
空を飛ぶことすらままなくなり、ふらふらと落ちたあと、レティナは床でうずくまっていた。
慌てて俺が駆け寄ると、そもそも彼女が安全のためのゴーグルを掛けていなかったことに気づく。
「ちょっ、なんでゴーグル掛けてないんだよ!」
「だ、だってっ、一つ目用なんてないから見づらいし、着けるだけでちょっと痛かったんだもん……」
「あーもう、ちょっと待ってろ!タオル持ってくるから!」
そして、試合を止めてもらって約三分後。
涙目で目をこすり続けているレティナにタオルを渡す。
「ううう……なんでこんなコトするんだよぉ……」
「いや、狙ったワケじゃなくて……。
ていうか宙に浮くのも触手使うのも反則みたいなもんだろーが!
触手の目玉にインクが当たってもよくないから、どっちも禁止だ!」
「ちぇっ……しょーがないなあ」
「顔のほうは……まあ、そこだけは魔法とかで守っててもいいから」
「あっ、そうすりゃよかったか……忘れてた」
「目に入っても害はないらしいが、一応目を洗って拭いてから再試合するぞ」
俺はレティナの顔や髪にも多少飛んだインクを拭いてやりながら、床に落ちていた二丁の銃を拾って手渡した。
……ん?なんか、違和感があるが……なんだろう?
「お……おいっ。早く銃、返してくれよ」
「ん、ああ」
気のせいかと思いながら、二丁ともレティナに返した。
それから、インクに濡れたタオルだけでも洗っておこうと控室に向かう――
「……ていっ!」
「ぐあっ?!」
その瞬間、また背中に何かがべちゃっと当たる感触がした。
「なっ、おまっ……!今撃つのは卑怯ってレベル、じゃ……」
同時に、さっきインクが当たった時とは違う、強烈な違和感があった。
「しししっ……危ない危ない、バレるかと思ったけど、油断してたみたいだな?」
「え……な、何のことだ……?」
「たぶん、ピストルの重さがだいぶ違うはずだけどな。
最初っからアタシは片方でしか撃ってなかったんだから」
そう言われると、違っていた……気がする。
だがどうしてそんなことを、と聞く前に、俺の身体に異変が起きた。
「うぐっ……?!なんだ……か、身体が……あ、熱い……?」
「だろうなァ。右のピストルはここで支給されたフツーのインクだけど、左手側の銃にはテンタクル製の粘液媚薬が詰まってるからな」
「な、なにっ?」
「オマエ、アタシのマガジンを確かめなかっただろ。
これ買い物に行った時も、媚薬をごまかす為に買ってきたお菓子しか見てなかったもんなー?」
「ぐ、ぐぐ……」
何か言い返したいが、それよりも体の疼きで頭がいっぱいになってしまう。
背中から伝わってくる熱が全身に広がって、立っていられないほどに頭がクラクラする。
ついには床に座り込んでしまった俺の方に、レティナはゆっくり近づいてきた。
「ま、そりゃアタシだって、ホントはもっとインクの掛け合いを楽しんでからのほーがよかったんだけど……さ。
なんか……もう、ガマンできなくって……」
「お、おい。媚薬ってことは……まさか、こんなところで……」
「ばーか、運営側のほうもはじめっからこーいうのは想定済みなのさ。
でなきゃ、アタシら魔物たちにこんな人気が出るワケないだろ?
魔物にとってイチバン楽しいコトなんて、決まり切ってるんだからさ……」
「む……むむ」
まともに動かない身体はレティナによって完全に自由を奪われ、俺は仰向けに寝転がされたあと、彼女に馬乗りにされる。
痛いほどに勃起した股間が大きくジーパンを膨らませ、これでもかと主張していた。
「でもさ……途中でガマンできなくなった何よりの理由は……オマエがアタシのために、すぐに動いてくれたからだ」
「……えっ?」
「それなりに付き合いはあるんだ、アタシの目を狙ってたワケじゃないくらいわかるさ。
そんでオマエはアタシの事を心配して、すぐに駆け寄ってきてくれた。
アタシはいっつもイジワルばっかしてるのに……なのに、ちゃんと助けてくれるんだなって分かっちゃったら……今すぐオマエに抱きしめられたくなって……へへっ」
美味しそうな肉を目の前にした肉食獣のように、楽しそうに、嬉しそうに。
ぎざっとした鋭い歯を大きく露わにしながら、レティナがにんまりと笑った。
「でも、やっぱりアタシはズルっこでいたいからさ。こうでもしないと……な」
俺のジーパンのベルトに手を掛け、レティナがそれを解いていく。
「だいじょーぶ、優しくされたぶん、アタシもたっぷり優しくしてやるからよ……♡」
長い舌をれろりと見せつけてくるレティナの顔は赤く、熱に浮かされたようで。
とても可愛らしく、淫靡に思えて。
「でも……オマエの色に染められるまで、今日は離してやんないぜ……♡」
それからは自前の”インク”の掛け合いが始まり。
ぐちゃぐちゃに混ざった二人の体液でお互いが染まるまで、俺たちはずっと交わっていた。
18/12/18 20:30更新 / しおやき
戻る
次へ