3 一つ目のあの子と。
「おい、カナメ。なんだよコレ? 『えろほん』ってヤツか?」
僕の名前を呼んだレティナの手には、僕が前に買ってきた成年向け雑誌があった。
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、彼女は本を楽しそうに眺めている。
本の裏表をしげしげと確かめると、レティナの真っ赤な一つ目が僕を見つめた。
その赤色は、彼女の黒髪の下からでも見えそうなくらいに映えている。
ついでのように、レティナの背中から伸びた触手の先に付いた目玉たちも、僕をじっと見ていた。
「いや、えーっと……」
僕はパソコンデスクの椅子に座ったまま、歯切れの悪い返事を返す。
さっきからレティナが僕の家の本棚を漁っていたのでそんな気はしたが、なぜしたり顔なのだろう。そんな丁寧に隠してたわけでもないのに。
とはいえ、改まって突き付けられると非常に気恥ずかしいのもたしかだ。
「イイワケなんか言わなくていーよ、ちゃあんと参考にしてやるからさ。
どれどれ、オマエはどんなシュミしてんのかなーっと」
どこか楽しそうにそう言いながら、レティナは雑誌を開く。
ページを捲るたびに男女の睦言やら、恥部やら、情事やらが満載なその本を、レティナは興味津々に読んでいる。
なんとなくバツの悪い僕は口を挟めず、レティナの反応を伺うばかりだった。
「……わ、こんなコトまですんだ……へー……うわぁ、すっご……
ふーん……ふぅん……♪」
ぽつぽつと出る独り言を抑えることもなく、レティナは雑誌に夢中になっている。
そういえば前に自分で『あたしはオトコを襲う魔物だからな』と言っていたから、こういう物にレティナは心惹かれるのかもしれない。
かといって成年向け雑誌を、しかも目の前で女の子のレティナに読まれるのは困る。
それが僕の買ってきた物ならなおさらに。
「やっぱオマエ、こーいうのが好きなのか?」
「……まあ」
レティナがこっちをちらりと見た。僕は気恥ずかしさで視線を逸らしながら答える。
僕とレティナは向かい合っているので、ここから雑誌の中身は見えない。
が、この雑誌は、『女性が主導権を握るタイプの話』ばかりなのでまあ、そういうことだろう。
「そういやあたしと初めて会った時は、似たようなコトあたしがしてやったっけ。
あの時のオマエ、オンナみたいな声出してたよなぁ?」
ししっ、とイタズラを企む子供のように、白くて鋭い歯を見せながらレティナが笑った。
はっきりとは覚えてないが、どうも僕はどこかで彼女と体を重ねた事があるらしい。
でも、どんなふうに、何をしたのかはよく覚えていない。
「……その辺りのことは、あんまり覚えてないなぁ」
「あぁ、全部思い出したわけじゃなかったのか。
……ま、そっちのがいいな。覚えててほしくないコトも……ちょい、あるし」
なぜそれを僕が覚えてないのかは僕自身にもよく分からないが、覚えているはずのレティナはそのあたりの事をごまかしたがる。
僕も正直な所、自分が何をしたのか分からなくて怖いので、聞くに聞きにくいのだ。
にしても、あの成年向け雑誌をどう参考にするのだろう。
レティナが僕にソレをする所を想像すると、少しでなく顔が熱くなってきてしまう。
「おいおい、そぉんなカオしなくても、またおんなじコトしてやるって。
オマエはあたしの大事なエモノなんだからな」
とは言うけど、別に彼女が僕の身体を食べるわけでも、冷蔵庫にある僕の食べ物を食べるわけでもない。
なんでもレティナは『ゲイザー』という魔物で、『別の世界』から来たのだと、彼女自身が言った。
”魔法”だとか”暗示”だとかいう力も使えるらしいけど、それを目の当たりにしたことはない。
僕が彼女と会った時の事をはっきり覚えてないのは、その力のせいらしいけど。
続いて言うには、彼女は『人間の精』を食糧にするそうだ。
僕はまだ、はっきりとそれを彼女にあげた覚えがないけど、以前に僕から吸ったことがあるらしい。
「オマエの精はワリと美味かったからな」と言っては、たびたび僕にちょっかいを出してくる。
……こんなの、普通の人間なら到底信じられる話じゃないはずだ。
けど、自分でも不思議なくらいに、僕はこの現実をすんなり受け入れている。
「いちおう言っとくけど、あたしがいない間にこんなもん読んでヌイたりすんなよ。
ま、そんな気も起きないようにあたしが搾ってやるんだけどねぇ」
レティナの外見は確かに、この世界のどこにもいない生物の姿だろう。
それは顔の一つ目だけじゃなく、レティナの背中にある十本の触手と尻尾のような物もそうだ。
肌だって雪のように白いし、手足は何故か黒っぽい色をしている。
けど、僕はレティナを初めて見たときから、その神秘的な姿やいじらしい態度に惹かれていたのかもしれない。
だから疑問には思っても、僕は彼女の存在を否定しようなんて一切思わなかった。
彼女がどうやって生まれて、どこから来たのか。
何故ここに彼女がいるのか。
どうして色々な不思議な事が出来るのか。
詳しい事をレティナが話してくれたわけじゃないけど、僕も無理に聞こうとは思わない。
そこにレティナがいてくれるのなら、それでいい。
その事実は、
「……どしたんだよ、ニヤニヤして。あたしのカオ、なんか付いてるか?」
僕の前でレティナが笑っていることが、何よりの証拠になる。
「んだよ、何がそんなにおかしいんだよ、おいっ」
「やっぱり、レティナの目は綺麗だね」
「え……あっ……ったり、まえだろ! ごまかすなよっ!」
レティナは顔を赤くして、柔らかいその黒い指で僕の頬を掴んだ。ちょっと痛い。
けど、この感触はやっぱり、幻じゃない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
その日の夜。
「……おっと、もうこんな時間か。やっぱ『でぃーえす』は面白いな、オマエが持っててよかったよ。
じゃ、あたしそろそろ帰るかな」
ゲームに夢中になっていたレティナはそう言うと、前も着ていた大きなコートとキャスケット帽を着始めた。
実は、レティナがこの近くの山の洞窟に一人で住んでいるという事を、今日初めて聞いた。
最初にこのアパートへレティナが来たときは色々とあったので、そのまま朝まで一緒に寝てしまっていて、その時にレティナは「一度自分の住処に帰る」と言った。
そんな目立つ姿で一体どこに住んでいるのだろう、とは僕も思っていた。
けど、まさかそれが洞窟だとは思わず、何も言わずに彼女を帰してしまったのだ。
――夜はもう冬のように冷えこむ時期なのに、レティナは洞窟で、たった一人で住んでいるなんて。
人間とは身体の勝手が違うのかもしれないけど、それでも心配になる。
「レティナ。今日の夜は特に冷えるらしいから、今晩は泊まっていったら?」
「……へっ?」
レティナの返事は芝居がかった言葉でなく、ふっと出てしまったような感じだった。
「……ばッ、ばか言ってんじゃねえよ。イロイロするだけならまあ、ともかくだ。
そんな小さいベッドで二人も寝れると思ってんのかよ?」
「ベッドはレティナが使っていいよ」
「い、いや、そういうコトじゃないんだよ。
だいたい、あたしがベッドで寝るとして、じゃあオマエはどうするんだ?」
「冬用の毛布が一枚余ってるから、それで床に寝るけど」
「……いくらあたしでもそいつは気が引けるっての。
ていうか床で寝るってぐらいならベツに……い、一緒に寝りゃ、いいじゃんか」
「え、でもこれ二人だと狭いよ」
「そっ、そんぐらいガマンしてやるよ、しょうがないからな。……しょうがないからな!」
そう言いながら、レティナはぷいと顔をよそに向けた。
二人で寝るとホントに狭いけど、寝返りは打てるだろうか。レティナの触手と尻尾もあるし。
「あ、じゃあお風呂とかどうしよう――」
と、自分で言って気付いたが、レティナはいつもこれといった服を着ていない。
大きなコートやキャスケット帽はあくまでも姿を隠すためだけの物だ。
手や胸とか、股間には黒い何かがあるけど、僕にはそれが柔らかいこと以外よくわからない。
着替えの準備はいらないけれど、そもそもお風呂に入るのだろうか。
「オフロ? ああ、ニンゲンは身体が汚れたらお湯の中に入るんだっけ。
あたしはそんなの別に気にしないけど」
「えっ……でも、レティナも、たまには入った方がいいんじゃない? 女の子なんだから」
「……いや、そういう意味じゃないって。
あたしの身体はちゃんとそういう仕組みになってんだよ。
オトコを抱くときに都合がイイようにな」
「ふーん……まあ、入らなくていいならいいんだけど。じゃ、僕が入ってくるよ」
そう言って僕は押入れの前で着替えの用意を始めた。
すると、後ろからレティナが僕に声を掛ける。
「……ちょうどイイ。その前に、あたしが搾ってやるよ。
なあに、泊めてもらう礼だ。たぁっぷり楽しんでくれ」
レティナが僕の背中に身を寄せてくると、押入れの前に立っていた僕は少し体勢を崩してしまう。
後ろから背中にレティナの吐息が掛かるのを感じる。なんだかくすぐったい。
「い、いや、まだお風呂にも入ってないのに……って、そういう事じゃなくて、」
「気にしないよ、そんなモン。んー、カナメの匂いがする……」
聞こえるような音を立てて、レティナはくんくんと僕の匂いを嗅いでくる。
それと一緒に背中から服の下に手を入れられ、僕の上半身をレティナの黒い手がなぞった。
思わず僕は着替えの服を落としてしまったけど、意に介さずレティナは愛撫を続ける。
「オマエ、ここ触られるの弱かったよなぁ」
さわさわと黒い手がシャツの下で動いて、僕の胸を撫でまわす。
探すような手つきでまさぐる指が僕の乳首に触れると、小さく声が出てしまう。
それに気が付いたのか、さらにレティナは指先でちょんちょんと触れるように乳首を刺激してくる。
「ちょっと触ってやっただけなのに、そんなに気持ちイイのか?
……ココもこんなに元気にしやがって。ほぉら、もっと声出してもいいんだよ?
ちゃーんと聞いといてやるからさぁ」
さらにもう片方の手で、レティナが僕の股間をズボン越しになぞった。
僕はその刺激にまた体勢を崩しそうになりながら、押入れの戸にもたれかかる。
「……あ、そうだ。風呂っていうのに入るんなら、そっちでやった方がいいな」
レティナが僕の服に手を掛けて、ゆっくりと脱がせていく。
僕はあくまで抵抗しようとしたけど、レティナに触れられるだけで変な気分になり、力が入らない。
まるで親に服を脱がせてもらう子供のような、変な気分だ。
「ほら、手離せよ。脱がせないだろ」
「い、いや。下は自分で脱ぐから……」
と僕は言ったけど、レティナはまた意地悪そうな目つきで僕を見た。
「おいおい、そうはいくかよ。
あたしはオマエの恥ずかしがる顔が見たくてやってんだからさぁ?」
と言って、結局彼女の言いなりどおりに下着まで脱がされてしまった。
部屋の中で丸裸にされた僕の体と手足に何かが絡みつく。それは彼女の真っ黒い触手だった。
そのままゆっくりと僕は持ち上げられ、しかも自由に身動きができないようにされる。
触手で僕の身体を持ち上げられるなんて、一体どんな力が働いているんだろう。
不思議に思いながらも、僕は彼女の触手に身を任せていた。
「面倒だから、このまま風呂まで連れてってやるよ。確かあの扉開けたトコだったよな」
「……でもうちのお風呂、一緒に入れるほど広くないよ?」
「ベツにあたしは入らなくていいよ。オマエを綺麗にしてやりたいだけだからさ」
「いや、それに入る前には湯船も張らないと――」
運ばれる途中で見えたレティナの顔はやっぱり意地悪そうな顔で、どこか楽しそうだった。
「ふーん、確かに狭いなぁ。で、この部屋でどうやって体を綺麗にするんだ?」
「……その箱みたいなのが『浴槽』で、そこにお湯を入れて、身体ごと浸かるんだよ。
その前に、そこにある『シャワー』っていうので体を洗うんだけど」
僕はレティナの触手から解放されると、お湯の出し方なんかの説明をする。
……バスルームとはいえ、裸のまま説明するのはなにか恥ずかしい。
「んー、これか。……へぇ、ベンリなもんがあるんだなぁ。魔法みたいだ」
レティナは興味深そうにお湯の出ているシャワーヘッドを持っている。
僕たち人間の生活については本当に何も知らないらしい。
「ずっと洞窟で暮らしてた」って言ってたのはやっぱり本当なんだろう。
「で、ここからお湯を出して、溜まったら入るんだよ」
「んー、じゃあ湯が溜まるまで、ちょい時間があるな……?」
レティナが見せつけるように舌なめずりをする。
楽しそうなその目つきは、獲物を見る猫のようにも見えた。
その瞬間、また僕の体に黒い触手が巻き付けられる。
僕は突然のことに驚いて床に転び、座ったままの姿勢で触手に絡みつかれてしまった。
そして両足を絡みついた触手に引っ張られ、僕は強引に大股を開かされる。
恥ずかしいと思っても、両腕両足にしっかり巻き付いた触手のせいで、僕は足を閉じられない。
僕と目線を合わせるためか、レティナもバスルームの床に座る。
レティナの前で股間を露わにされたまま、僕は俯いて顔を背けることしかできなかった。
「んっふっふー。いつ見てもイイ眺めだね、あんたの恥ずかしがるカオ」
この触手に巻き付かれる不思議な感触には、確かに覚えがあった。
前に僕から『搾った』というのは、この事なのだろうか。
「……ね、ねえレティナ。もしかして、前にも僕にこんなことした?」
「んー? あったりまえじゃないか。覚えてないんなら、思い出させてやるよ」
レティナの黒い手が、既に大きくなってしまった僕のペニスを突っつく。
その黒い手は人間の手と違い不思議な感触で、ほんの少し触られるだけでも気持ちいい。
「ほーら。こういう触り方ってどう?」
レティナは体を動かして、触手を巻き付けたまま僕の背中へ回り込む。
僕の首筋にレティナの吐息が掛かったかと思うと、そのまま舌を這わせてきた。
唾液でぬめっとした熱い舌が肌をなぞっていくたび、ゾクッとするような快感が走る。
「おっと。こっちも触ってほしいんだよな」
床に座り込んだ僕の背中から右手を回し、レティナは僕のペニスを擦る。
とてもゆっくりとした動きで、僕を焦らしているみたいに。
そして左手でも、僕の乳首をくりくりと弄ってきた。
乳首とレティナの指先が触れるたび、切ないような、もどかしい感じがしてしまう。
「ん……あっ」
両手でレティナの愛撫を受け、僕はたまらず声を出してしまった。
「乳首弄られて声出しちゃうなんて、ほんとオンナみたいなヤツだなぁ。
でも、今日はすぐに出させてやんないよ。湯が溜まるまで、ずーっと焦らし続けてやるから」
そう言ってレティナが右手を引っ込めたかと思うと、すぐに戻ってきてまたペニスに触れる。
レティナの手が濡れていたので、どうやら手に唾液か何かを塗していたらしい。
滑りのよくなったレティナの黒い手が亀頭をそっとなぞり、カリの敏感な場所をにゅるにゅると擦っていく。
すると乳首を触っていた左手が股間まで降りてきて、玉袋をむにむにと揉みしだきだす。
「ココにオマエの精液が入ってんだよな。今日はからっぽにしてやるから、カクゴしろよ」
耳元でそっとレティナに囁かれると、くすぐったくてぞわっとしてしまう。
レティナは手についた液体が乾きそうになると、また右手を戻して付けなおす。
そしてまたぬるぬるになったその手で、僕の亀頭だけを執拗にぐちゃぐちゃと擦っていく。
今度は掌いっぱいに唾液を付けて、その柔らかな表面で僕の亀頭をぐりぐりと擦りだす。摩擦されるたびに切ない快感が走り、腰が跳ねてしまいそうな刺激が僕を責める。
僕のペニスはもうレティナの唾液でべとべとだった。
「あっ……うっ、れ、レティナぁ……」
「気持ちよさそうに喘いじゃって。でも、ココだけだとオトコってイけないんだねぇ。
前に試した時もそーだったし、あの本にもそう書いてあったし。
ね、気持ちいいけど出せないってどんな感じ? じれったくてたまんない?」
たしかにじりじりと熱い快感が溜まっていくものの、射精に繋がるような刺激ではない。
亀頭をこねくり回される度に腰が浮いてしまいそうになるけど、その動きも触手に止められてしまい、身をよじる事さえできない。
快感が底無しに溜まっていくけれどそれを放出できず、もどかしくて仕方がない。
「れっ、レティナぁっ、だ、出させてぇ……」
僕は自分でも情けない声でレティナに懇願する。
でもレティナは責めの手を止めず、今度は指で作った輪っかに何度も亀頭をくぐらせていく。
唾液で濡れた黒い指とカリがにゅるにゅるとこすれ合って、亀頭が溶けてしまいそうなほど熱い快感が走る。
でも射精する事はできず、生殺しのような感覚のまま、指の輪っかで亀頭を擦り続けられる。
「だーめ、お湯がいっぱいになるまでずーっとやったげるんだから。
ほらぁ、今のカナメ、すっごくイイ顔してるよ……?
あ、すっごい汗。舐めちゃおっと♪」
生殺しの快感を延々と受け続け、僕の身体はどんどん熱くなり汗が噴き出していた。
僕の顔に這うレティナの舌が、ぺろりと汗を舐めとっていく。
「ほら。キスしたげるからさ……。
もーっと我慢して、それから、あたしの中でいっぱい出して……?」
亀頭責めを続けながらも、レティナは体を動かして僕の前に来る。
そしてそっと唇を重ね、僕の口内を蹂躙し始めた。
ざらざらしたレティナの舌と僕の舌がくちゅくちゅと音を立てながら絡みついて、口の中で暴れまわる。
ほの甘く感じるレティナの唾液を味わっていると、ますます頭の中が痺れていった。
「れひ、はぁっ……はまん、でひなひよぉ……!」
「っ、ぷはぁ……。あたしも、あんたの声聞いてたら、もうガマン出来ないや。
ちょうど湯もいっぱいになったし、ここまでにしたげる」
レティナの片手が蛇口を止める。
浴槽から昇る湯気なんて気にならないほど、もう僕の体は熱くなっていた。
「カナメ……焦らしたぶん、いっぱいナカに出して……?」
レティナが顔を離すと、亀頭を責め続けていた手が離れる。
びりびりと痺れるような余韻が無くなるヒマもないまま、レティナは僕を床へと寝転がらせる。
そして触手で身動きできない僕にのしかかり、騎乗位の形になった。
レティナが、僕に乗ったまま見下ろしながら言う。
「カナメ……こっ、今度は……あんたを、あたしが、押し倒すんだからね。
あんたは、ぜったい、動いちゃダメだからね……」
赤い顔でレティナは腰を持ち上げ、膣の入口と僕のペニスとをくっ付ける。
レティナの膣はもうすでに濡れていて、太ももまで流れている愛液の線が見えた。
黒い何かで覆われた股間の下にある、小さなレティナの膣が、ペニスを求めるようにヒクヒクと動いている。
元より触手で身動きの取れない僕は、なすがままにされるしかない。
「い、いくよ、カナメ。食べちゃうから……あんたのこと……!」
頬を染めたまま、レティナは一気に腰を降ろし、僕のペニスをにゅるんと一息に飲みこんだ。
レティナの中は熱湯のように熱く、そして狭い。
でもふんわりと優しく、けど離さないようにがっちりとペニスをぎゅうっと銜え込んでくる。
長い間亀頭責めで焦らされた僕のペニスは、それだけで暴発してしまいそうだった。
「っ、ああっ……きっ、気持ち、いぃ……!」
「あっ、……おっ、奥まで、入っちゃったぁ……。
か……かなめの、大きくて、すっごい、あついよぉっ……っ、あっ、ふぅ……っ」
びくん、と跳ねるような体の動き。その振動だけでも、僕には耐えがたい快感だった。
さらに膣が収縮し、ペニスを一際強く締め付ける。なんとか僕は射精するのを我慢した。
「あ……れ、レティナ……もしかして、挿れただけで……?」
「っ、ら、らってぇ……か、かなめの、き、きもち、よすぎてぇッ……」
呂律が回っていない言葉は、レティナが感じているのをこれ以上なく表していた。
少しの時間をおいてから、余韻に浸ったままのレティナが無意識のように腰を動かす。
ずっぽりと僕のペニスを銜え込んだレティナのくねる様なその動きは、快感に悶えているようでもあるし、僕から精液を搾り取ろうとする動きのようでもあった。
「い、いいよ、カナメぇ!ほらっ、ほらっ、早くいっぱい出しなよぉっ!」
僕のペニスをくわえ込んですぐに、レティナの腰の動きが早くなった。
単純な上下運動に加えて、ぷにぷにと柔らかな膣の肉壁が、精液を搾り取ろうとするようにぎゅっと絡みついてくる。
ぬるぬるとした無数のヒダがペニスをぐちゅぐちゅと擦り、これ以上ない刺激を与えていく。
じゅぽじゅぽと卑猥な音を立ててペニスを飲み込むたびに膣から愛液が溢れ、二人の身体を濡らす。
結合部からはむわっと濃い愛液の匂いが漂い、快感も相成って意識を奪われてしまいそうになる。
「で、出ちゃう……レティナぁ!」
「あっ、んっ、かっ、かなめぇ、もっ、がまん、しなくて、いいからぁ!
はやく、あたしに、いっぱいぃ、出してぇっ!あっ、あた、あたしも、いっ、イっひゃぁ……っ!」
レティナの嬌声がお風呂場に響き渡って、一際強く僕のペニスをきゅっと締め付ける。
もうすでに限界が近かった僕は、その刺激でたまらず射精してしまった。
吸い付くように膣が動いて、ペニスから精液を搾り取っていく。
「か……かなめの、大きくて、すっごい、あついよぉっ……っ」
びくん、と跳ねるような体の動き。その振動だけでも、僕には耐えがたい快感だった。
さらに膣が収縮し、ペニスを一際強く締め付ける。
「あ、れ、レティナぁ……」
「ぁ……っ、ふぅ……っ、いっぱい、ナカ、満たされてるぅ……♪」
ピクピクとレティナの身体が痙攣した後、ゆっくりと僕の胸にレティナが倒れ込んでくる。
なおも搾るようにレティナの膣が窄まって、僕は射精の余韻に浸る間も刺激を与え続けられた。
「美味しいよ……カナメのセイエキ。すっごく濃くて、たまんない……」
僕もレティナも荒い息を整えながら、性交の余韻に浸る。
僕達は少しの間繋がったまま、静かに抱き合っていた。
落ち着いてからようやく、僕はお風呂の事を思い出す。
「あ、お湯、いっぱいになってたんだった……。
冷めちゃう前に入らないと。……ね。レティナも、一緒に入ろうよ」
胸に顔を埋めたままのレティナの黒髪を撫でながら、僕は言った。
「……えっ、あっ、でも……」
ゆっくり顔を上げたレティナは、どこか歯切れの悪い返事を返す。
僕に巻き付いたままだった触手がしゅるしゅると元へ戻っていき、そわそわとうごめく。
「あっ、あたし、先に部屋で待っとくからさ。着替えとタオル、外に置いといていやるよ」
レティナはすぐに体を起こすと、飛び出すようにお風呂場から出て行ってしまった。
一体どうしたんだろうと思ったけど、お湯の中に入るという習慣がないからお風呂は苦手なのかもしれない。
さっきレティナ自身も「あたしは入る必要が無い」と言ってたし、入らなくてもたぶん大丈夫なのだろう。
変に機嫌を損ねてたりしないといいんだけど。
僕はとりあえず、色々な液体で汚れた体を洗うことにした。
「上がったよ、レティナ。着替えとタオル持ってきてくれてありがとう」
僕は寝間着に着替えて髪を乾かし終えると、ベッドに座っていたレティナの横に座る。
ふっと見るとなぜかレティナの頬が赤くなっていて、どこか伏し目がちだった。
「あ、あのさ……カナメ。その。
さっきのオフロとかいうのも、いざ一緒に入ろうってなると、なんかヘンな気分になって逃げちゃったけど……。
あたし……お、オトコと一緒に寝るのだって、初めてなんだよ。
ほ、ほんとに、ココで、いっしょに寝る……の?」
それは消えてしまいそうな小さい声で、からかうような口調でもなかった。
「だから僕は床で寝てもいいって――」
「ばっ、バカ! そうじゃないって言ってるだろ!
でも、だって、これだと、ホントに……くっつかないと、寝れない……じゃん……」
言う度にレティナの声が小さくなり、消え入りそうな声になっていく。
ベッドの上にある布団を掴んだりいじったりと、レティナは落ち着かない様子だった。
それに比例するように彼女の頬は、一つ目の瞳のように赤く赤く染まっていく。
……さっきまであんなコトをしてたのに、どうしてこんなにうろたえているんだろう。
一緒に寝るだけなのに。
「レティナ、どうしてそんなに恥ずかしがってるの?
僕とお風呂場にいたときは、……その、もっと恥ずかしいコトたくさんしてたのに」
「はっ、はっ、恥ずかしがってなんかねえよッ!
けど……オトコからセイエキ搾るのは、あたしにとって当たり前のコトなんだよ。
でも、でも、一緒に抱き合って寝るのなんて、ぜんぜん、やったコトないから……」
レティナのその表情も仕草も、ウソを付いているようには見えなかった。
いまいち人間の常識とは違うけど、そんな風に恥ずかしがるレティナが愛おしく感じる。
そこだけ見れば、レティナはただの純情な女の子に違いなかった。
でも、さっきまでとのギャップが大きすぎて、ほんの少し僕は笑ってしまう。
「……な、何がおかしいんだよ。慣れないモンはしょうがないだろ!
だ、だから、あたっ――?!」
言い終わる前に、僕はレティナをベッドに、出来る限り優しく押し倒した。
柔らかな音を立てて、レティナがベッドに横たわる。
それから、触手が下敷きになったりしないように彼女の姿勢を整えていく。
「あ……」
されるがままのレティナは固くなったまま動こうともしない。
その間に、僕は電気のスイッチを消した。
それからレティナと僕と、向かい合う形でベッドに寝転んで布団を掛けなおす。
「……うぅ……」
真っ赤な顔のまま、何度もレティナは瞬きをしていた。
ぎょろぎょろと大きな一つ目が目線を泳がせて、落ち着かない様子をしている。
「レティナ、大丈夫? 寒くない?」
「……あ……うん。 熱くて、しかたない、ぐらい……」
さっきまでの威勢が嘘に思えるぐらい、レティナは緊張したままだった。
僕だってレティナと寝るのが恥ずかしいわけじゃないけど、お風呂場でされた事を思い出すと、それほどでもない。
「よかった。こんな寒い日に、レティナを一人で寝かせたくないからね」
固くなったまま動けないレティナの頭を、僕は自分の胸にそっと寄せる。
すん、とレティナの身体からは、ほんのりと甘い匂いがした。
「……あったかい」
「僕も、あったかいよ。それに、レティナのいい匂いがするし」
「うぅ……これ以上恥ずかしくなるようなコト、言うなっての……」
ふわふわとしたレティナの黒い髪の毛が腕をくすぐる。
じんわりとした温もりを全身で感じながら、僕は目を閉じる。
「……こんなの、されたら……もうあんなトコで、一人でなんて……寝れないよ……」
レティナの声は、ほんの少しだけ震えていた。
「なら、ずっとここに居てよ、レティナ」
思わず言ってしまったその言葉に、僕も顔が赤くなってしまう。
胸に顔を埋めたままのレティナの体が、ほんの少しだけ震えていた。
「なんでカナメは、そんなに優しいんだよ。
どうしてあたしなんかに優しくしてくれるんだよ。
『好きになれ』って暗示も魔法も掛けてないのに……どうして……」
「僕だって、そんな不思議な力、使ったことないよ。
けどレティナは、僕と一緒にいてくれるじゃないか」
勢い余って言ってしまった言葉は、さすがに恥ずかしかった。
ほんの少しだけ間をおいて、レティナが言う。
「……ばか。
あたしと一緒にいたって、あたしに好かれたって……イイ事なんか、なんにもないよ。
あたし、捻くれ物でイヤなヤツなんだから。
これからカナメ、ずっとあたしのエサになっちゃうんだよ?
何度も何度も今日みたいに、あたしの好きなように犯されちゃうんだよ?
これ以上優しくされると、勘違いしちゃうんだよ、あたし。
だから――」
「じゃあレティナ。一言だけ聞かせて」
レティナが息を止めたのが、僕にも分かった。
「レティナ。僕のこと、好き?」
「いっ、言わなくても、そんなの……わかんでしょ……」
「もし言ってくれるなら、僕はずっとレティナのエサだっていいよ。
僕の事を好きでいてくれるなら、それだけでいい」
熱い吐息が胸に掛かり、僕の体をさらに温める。
深呼吸を一度したかと思うと、レティナが小さい声で言った。
「……一回だけ。一回だけだかんね」
柔らかいレティナの黒い腕が、僕の身体をぎゅっと抱きしめる。
「……き。……好きだよ、カナメ」
それはすごく小さな声だったけど、僕の胸から伝わって聞こえてくるように感じた。
「エサなんかじゃない。 あんたは、あたしの大事なコイビトだよ」
抱きしめるだけで安心するような柔らかさを感じながら、僕はそっと言った。
「僕も大好きだよ、レティナ」
僕の名前を呼んだレティナの手には、僕が前に買ってきた成年向け雑誌があった。
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、彼女は本を楽しそうに眺めている。
本の裏表をしげしげと確かめると、レティナの真っ赤な一つ目が僕を見つめた。
その赤色は、彼女の黒髪の下からでも見えそうなくらいに映えている。
ついでのように、レティナの背中から伸びた触手の先に付いた目玉たちも、僕をじっと見ていた。
「いや、えーっと……」
僕はパソコンデスクの椅子に座ったまま、歯切れの悪い返事を返す。
さっきからレティナが僕の家の本棚を漁っていたのでそんな気はしたが、なぜしたり顔なのだろう。そんな丁寧に隠してたわけでもないのに。
とはいえ、改まって突き付けられると非常に気恥ずかしいのもたしかだ。
「イイワケなんか言わなくていーよ、ちゃあんと参考にしてやるからさ。
どれどれ、オマエはどんなシュミしてんのかなーっと」
どこか楽しそうにそう言いながら、レティナは雑誌を開く。
ページを捲るたびに男女の睦言やら、恥部やら、情事やらが満載なその本を、レティナは興味津々に読んでいる。
なんとなくバツの悪い僕は口を挟めず、レティナの反応を伺うばかりだった。
「……わ、こんなコトまですんだ……へー……うわぁ、すっご……
ふーん……ふぅん……♪」
ぽつぽつと出る独り言を抑えることもなく、レティナは雑誌に夢中になっている。
そういえば前に自分で『あたしはオトコを襲う魔物だからな』と言っていたから、こういう物にレティナは心惹かれるのかもしれない。
かといって成年向け雑誌を、しかも目の前で女の子のレティナに読まれるのは困る。
それが僕の買ってきた物ならなおさらに。
「やっぱオマエ、こーいうのが好きなのか?」
「……まあ」
レティナがこっちをちらりと見た。僕は気恥ずかしさで視線を逸らしながら答える。
僕とレティナは向かい合っているので、ここから雑誌の中身は見えない。
が、この雑誌は、『女性が主導権を握るタイプの話』ばかりなのでまあ、そういうことだろう。
「そういやあたしと初めて会った時は、似たようなコトあたしがしてやったっけ。
あの時のオマエ、オンナみたいな声出してたよなぁ?」
ししっ、とイタズラを企む子供のように、白くて鋭い歯を見せながらレティナが笑った。
はっきりとは覚えてないが、どうも僕はどこかで彼女と体を重ねた事があるらしい。
でも、どんなふうに、何をしたのかはよく覚えていない。
「……その辺りのことは、あんまり覚えてないなぁ」
「あぁ、全部思い出したわけじゃなかったのか。
……ま、そっちのがいいな。覚えててほしくないコトも……ちょい、あるし」
なぜそれを僕が覚えてないのかは僕自身にもよく分からないが、覚えているはずのレティナはそのあたりの事をごまかしたがる。
僕も正直な所、自分が何をしたのか分からなくて怖いので、聞くに聞きにくいのだ。
にしても、あの成年向け雑誌をどう参考にするのだろう。
レティナが僕にソレをする所を想像すると、少しでなく顔が熱くなってきてしまう。
「おいおい、そぉんなカオしなくても、またおんなじコトしてやるって。
オマエはあたしの大事なエモノなんだからな」
とは言うけど、別に彼女が僕の身体を食べるわけでも、冷蔵庫にある僕の食べ物を食べるわけでもない。
なんでもレティナは『ゲイザー』という魔物で、『別の世界』から来たのだと、彼女自身が言った。
”魔法”だとか”暗示”だとかいう力も使えるらしいけど、それを目の当たりにしたことはない。
僕が彼女と会った時の事をはっきり覚えてないのは、その力のせいらしいけど。
続いて言うには、彼女は『人間の精』を食糧にするそうだ。
僕はまだ、はっきりとそれを彼女にあげた覚えがないけど、以前に僕から吸ったことがあるらしい。
「オマエの精はワリと美味かったからな」と言っては、たびたび僕にちょっかいを出してくる。
……こんなの、普通の人間なら到底信じられる話じゃないはずだ。
けど、自分でも不思議なくらいに、僕はこの現実をすんなり受け入れている。
「いちおう言っとくけど、あたしがいない間にこんなもん読んでヌイたりすんなよ。
ま、そんな気も起きないようにあたしが搾ってやるんだけどねぇ」
レティナの外見は確かに、この世界のどこにもいない生物の姿だろう。
それは顔の一つ目だけじゃなく、レティナの背中にある十本の触手と尻尾のような物もそうだ。
肌だって雪のように白いし、手足は何故か黒っぽい色をしている。
けど、僕はレティナを初めて見たときから、その神秘的な姿やいじらしい態度に惹かれていたのかもしれない。
だから疑問には思っても、僕は彼女の存在を否定しようなんて一切思わなかった。
彼女がどうやって生まれて、どこから来たのか。
何故ここに彼女がいるのか。
どうして色々な不思議な事が出来るのか。
詳しい事をレティナが話してくれたわけじゃないけど、僕も無理に聞こうとは思わない。
そこにレティナがいてくれるのなら、それでいい。
その事実は、
「……どしたんだよ、ニヤニヤして。あたしのカオ、なんか付いてるか?」
僕の前でレティナが笑っていることが、何よりの証拠になる。
「んだよ、何がそんなにおかしいんだよ、おいっ」
「やっぱり、レティナの目は綺麗だね」
「え……あっ……ったり、まえだろ! ごまかすなよっ!」
レティナは顔を赤くして、柔らかいその黒い指で僕の頬を掴んだ。ちょっと痛い。
けど、この感触はやっぱり、幻じゃない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
その日の夜。
「……おっと、もうこんな時間か。やっぱ『でぃーえす』は面白いな、オマエが持っててよかったよ。
じゃ、あたしそろそろ帰るかな」
ゲームに夢中になっていたレティナはそう言うと、前も着ていた大きなコートとキャスケット帽を着始めた。
実は、レティナがこの近くの山の洞窟に一人で住んでいるという事を、今日初めて聞いた。
最初にこのアパートへレティナが来たときは色々とあったので、そのまま朝まで一緒に寝てしまっていて、その時にレティナは「一度自分の住処に帰る」と言った。
そんな目立つ姿で一体どこに住んでいるのだろう、とは僕も思っていた。
けど、まさかそれが洞窟だとは思わず、何も言わずに彼女を帰してしまったのだ。
――夜はもう冬のように冷えこむ時期なのに、レティナは洞窟で、たった一人で住んでいるなんて。
人間とは身体の勝手が違うのかもしれないけど、それでも心配になる。
「レティナ。今日の夜は特に冷えるらしいから、今晩は泊まっていったら?」
「……へっ?」
レティナの返事は芝居がかった言葉でなく、ふっと出てしまったような感じだった。
「……ばッ、ばか言ってんじゃねえよ。イロイロするだけならまあ、ともかくだ。
そんな小さいベッドで二人も寝れると思ってんのかよ?」
「ベッドはレティナが使っていいよ」
「い、いや、そういうコトじゃないんだよ。
だいたい、あたしがベッドで寝るとして、じゃあオマエはどうするんだ?」
「冬用の毛布が一枚余ってるから、それで床に寝るけど」
「……いくらあたしでもそいつは気が引けるっての。
ていうか床で寝るってぐらいならベツに……い、一緒に寝りゃ、いいじゃんか」
「え、でもこれ二人だと狭いよ」
「そっ、そんぐらいガマンしてやるよ、しょうがないからな。……しょうがないからな!」
そう言いながら、レティナはぷいと顔をよそに向けた。
二人で寝るとホントに狭いけど、寝返りは打てるだろうか。レティナの触手と尻尾もあるし。
「あ、じゃあお風呂とかどうしよう――」
と、自分で言って気付いたが、レティナはいつもこれといった服を着ていない。
大きなコートやキャスケット帽はあくまでも姿を隠すためだけの物だ。
手や胸とか、股間には黒い何かがあるけど、僕にはそれが柔らかいこと以外よくわからない。
着替えの準備はいらないけれど、そもそもお風呂に入るのだろうか。
「オフロ? ああ、ニンゲンは身体が汚れたらお湯の中に入るんだっけ。
あたしはそんなの別に気にしないけど」
「えっ……でも、レティナも、たまには入った方がいいんじゃない? 女の子なんだから」
「……いや、そういう意味じゃないって。
あたしの身体はちゃんとそういう仕組みになってんだよ。
オトコを抱くときに都合がイイようにな」
「ふーん……まあ、入らなくていいならいいんだけど。じゃ、僕が入ってくるよ」
そう言って僕は押入れの前で着替えの用意を始めた。
すると、後ろからレティナが僕に声を掛ける。
「……ちょうどイイ。その前に、あたしが搾ってやるよ。
なあに、泊めてもらう礼だ。たぁっぷり楽しんでくれ」
レティナが僕の背中に身を寄せてくると、押入れの前に立っていた僕は少し体勢を崩してしまう。
後ろから背中にレティナの吐息が掛かるのを感じる。なんだかくすぐったい。
「い、いや、まだお風呂にも入ってないのに……って、そういう事じゃなくて、」
「気にしないよ、そんなモン。んー、カナメの匂いがする……」
聞こえるような音を立てて、レティナはくんくんと僕の匂いを嗅いでくる。
それと一緒に背中から服の下に手を入れられ、僕の上半身をレティナの黒い手がなぞった。
思わず僕は着替えの服を落としてしまったけど、意に介さずレティナは愛撫を続ける。
「オマエ、ここ触られるの弱かったよなぁ」
さわさわと黒い手がシャツの下で動いて、僕の胸を撫でまわす。
探すような手つきでまさぐる指が僕の乳首に触れると、小さく声が出てしまう。
それに気が付いたのか、さらにレティナは指先でちょんちょんと触れるように乳首を刺激してくる。
「ちょっと触ってやっただけなのに、そんなに気持ちイイのか?
……ココもこんなに元気にしやがって。ほぉら、もっと声出してもいいんだよ?
ちゃーんと聞いといてやるからさぁ」
さらにもう片方の手で、レティナが僕の股間をズボン越しになぞった。
僕はその刺激にまた体勢を崩しそうになりながら、押入れの戸にもたれかかる。
「……あ、そうだ。風呂っていうのに入るんなら、そっちでやった方がいいな」
レティナが僕の服に手を掛けて、ゆっくりと脱がせていく。
僕はあくまで抵抗しようとしたけど、レティナに触れられるだけで変な気分になり、力が入らない。
まるで親に服を脱がせてもらう子供のような、変な気分だ。
「ほら、手離せよ。脱がせないだろ」
「い、いや。下は自分で脱ぐから……」
と僕は言ったけど、レティナはまた意地悪そうな目つきで僕を見た。
「おいおい、そうはいくかよ。
あたしはオマエの恥ずかしがる顔が見たくてやってんだからさぁ?」
と言って、結局彼女の言いなりどおりに下着まで脱がされてしまった。
部屋の中で丸裸にされた僕の体と手足に何かが絡みつく。それは彼女の真っ黒い触手だった。
そのままゆっくりと僕は持ち上げられ、しかも自由に身動きができないようにされる。
触手で僕の身体を持ち上げられるなんて、一体どんな力が働いているんだろう。
不思議に思いながらも、僕は彼女の触手に身を任せていた。
「面倒だから、このまま風呂まで連れてってやるよ。確かあの扉開けたトコだったよな」
「……でもうちのお風呂、一緒に入れるほど広くないよ?」
「ベツにあたしは入らなくていいよ。オマエを綺麗にしてやりたいだけだからさ」
「いや、それに入る前には湯船も張らないと――」
運ばれる途中で見えたレティナの顔はやっぱり意地悪そうな顔で、どこか楽しそうだった。
「ふーん、確かに狭いなぁ。で、この部屋でどうやって体を綺麗にするんだ?」
「……その箱みたいなのが『浴槽』で、そこにお湯を入れて、身体ごと浸かるんだよ。
その前に、そこにある『シャワー』っていうので体を洗うんだけど」
僕はレティナの触手から解放されると、お湯の出し方なんかの説明をする。
……バスルームとはいえ、裸のまま説明するのはなにか恥ずかしい。
「んー、これか。……へぇ、ベンリなもんがあるんだなぁ。魔法みたいだ」
レティナは興味深そうにお湯の出ているシャワーヘッドを持っている。
僕たち人間の生活については本当に何も知らないらしい。
「ずっと洞窟で暮らしてた」って言ってたのはやっぱり本当なんだろう。
「で、ここからお湯を出して、溜まったら入るんだよ」
「んー、じゃあ湯が溜まるまで、ちょい時間があるな……?」
レティナが見せつけるように舌なめずりをする。
楽しそうなその目つきは、獲物を見る猫のようにも見えた。
その瞬間、また僕の体に黒い触手が巻き付けられる。
僕は突然のことに驚いて床に転び、座ったままの姿勢で触手に絡みつかれてしまった。
そして両足を絡みついた触手に引っ張られ、僕は強引に大股を開かされる。
恥ずかしいと思っても、両腕両足にしっかり巻き付いた触手のせいで、僕は足を閉じられない。
僕と目線を合わせるためか、レティナもバスルームの床に座る。
レティナの前で股間を露わにされたまま、僕は俯いて顔を背けることしかできなかった。
「んっふっふー。いつ見てもイイ眺めだね、あんたの恥ずかしがるカオ」
この触手に巻き付かれる不思議な感触には、確かに覚えがあった。
前に僕から『搾った』というのは、この事なのだろうか。
「……ね、ねえレティナ。もしかして、前にも僕にこんなことした?」
「んー? あったりまえじゃないか。覚えてないんなら、思い出させてやるよ」
レティナの黒い手が、既に大きくなってしまった僕のペニスを突っつく。
その黒い手は人間の手と違い不思議な感触で、ほんの少し触られるだけでも気持ちいい。
「ほーら。こういう触り方ってどう?」
レティナは体を動かして、触手を巻き付けたまま僕の背中へ回り込む。
僕の首筋にレティナの吐息が掛かったかと思うと、そのまま舌を這わせてきた。
唾液でぬめっとした熱い舌が肌をなぞっていくたび、ゾクッとするような快感が走る。
「おっと。こっちも触ってほしいんだよな」
床に座り込んだ僕の背中から右手を回し、レティナは僕のペニスを擦る。
とてもゆっくりとした動きで、僕を焦らしているみたいに。
そして左手でも、僕の乳首をくりくりと弄ってきた。
乳首とレティナの指先が触れるたび、切ないような、もどかしい感じがしてしまう。
「ん……あっ」
両手でレティナの愛撫を受け、僕はたまらず声を出してしまった。
「乳首弄られて声出しちゃうなんて、ほんとオンナみたいなヤツだなぁ。
でも、今日はすぐに出させてやんないよ。湯が溜まるまで、ずーっと焦らし続けてやるから」
そう言ってレティナが右手を引っ込めたかと思うと、すぐに戻ってきてまたペニスに触れる。
レティナの手が濡れていたので、どうやら手に唾液か何かを塗していたらしい。
滑りのよくなったレティナの黒い手が亀頭をそっとなぞり、カリの敏感な場所をにゅるにゅると擦っていく。
すると乳首を触っていた左手が股間まで降りてきて、玉袋をむにむにと揉みしだきだす。
「ココにオマエの精液が入ってんだよな。今日はからっぽにしてやるから、カクゴしろよ」
耳元でそっとレティナに囁かれると、くすぐったくてぞわっとしてしまう。
レティナは手についた液体が乾きそうになると、また右手を戻して付けなおす。
そしてまたぬるぬるになったその手で、僕の亀頭だけを執拗にぐちゃぐちゃと擦っていく。
今度は掌いっぱいに唾液を付けて、その柔らかな表面で僕の亀頭をぐりぐりと擦りだす。摩擦されるたびに切ない快感が走り、腰が跳ねてしまいそうな刺激が僕を責める。
僕のペニスはもうレティナの唾液でべとべとだった。
「あっ……うっ、れ、レティナぁ……」
「気持ちよさそうに喘いじゃって。でも、ココだけだとオトコってイけないんだねぇ。
前に試した時もそーだったし、あの本にもそう書いてあったし。
ね、気持ちいいけど出せないってどんな感じ? じれったくてたまんない?」
たしかにじりじりと熱い快感が溜まっていくものの、射精に繋がるような刺激ではない。
亀頭をこねくり回される度に腰が浮いてしまいそうになるけど、その動きも触手に止められてしまい、身をよじる事さえできない。
快感が底無しに溜まっていくけれどそれを放出できず、もどかしくて仕方がない。
「れっ、レティナぁっ、だ、出させてぇ……」
僕は自分でも情けない声でレティナに懇願する。
でもレティナは責めの手を止めず、今度は指で作った輪っかに何度も亀頭をくぐらせていく。
唾液で濡れた黒い指とカリがにゅるにゅるとこすれ合って、亀頭が溶けてしまいそうなほど熱い快感が走る。
でも射精する事はできず、生殺しのような感覚のまま、指の輪っかで亀頭を擦り続けられる。
「だーめ、お湯がいっぱいになるまでずーっとやったげるんだから。
ほらぁ、今のカナメ、すっごくイイ顔してるよ……?
あ、すっごい汗。舐めちゃおっと♪」
生殺しの快感を延々と受け続け、僕の身体はどんどん熱くなり汗が噴き出していた。
僕の顔に這うレティナの舌が、ぺろりと汗を舐めとっていく。
「ほら。キスしたげるからさ……。
もーっと我慢して、それから、あたしの中でいっぱい出して……?」
亀頭責めを続けながらも、レティナは体を動かして僕の前に来る。
そしてそっと唇を重ね、僕の口内を蹂躙し始めた。
ざらざらしたレティナの舌と僕の舌がくちゅくちゅと音を立てながら絡みついて、口の中で暴れまわる。
ほの甘く感じるレティナの唾液を味わっていると、ますます頭の中が痺れていった。
「れひ、はぁっ……はまん、でひなひよぉ……!」
「っ、ぷはぁ……。あたしも、あんたの声聞いてたら、もうガマン出来ないや。
ちょうど湯もいっぱいになったし、ここまでにしたげる」
レティナの片手が蛇口を止める。
浴槽から昇る湯気なんて気にならないほど、もう僕の体は熱くなっていた。
「カナメ……焦らしたぶん、いっぱいナカに出して……?」
レティナが顔を離すと、亀頭を責め続けていた手が離れる。
びりびりと痺れるような余韻が無くなるヒマもないまま、レティナは僕を床へと寝転がらせる。
そして触手で身動きできない僕にのしかかり、騎乗位の形になった。
レティナが、僕に乗ったまま見下ろしながら言う。
「カナメ……こっ、今度は……あんたを、あたしが、押し倒すんだからね。
あんたは、ぜったい、動いちゃダメだからね……」
赤い顔でレティナは腰を持ち上げ、膣の入口と僕のペニスとをくっ付ける。
レティナの膣はもうすでに濡れていて、太ももまで流れている愛液の線が見えた。
黒い何かで覆われた股間の下にある、小さなレティナの膣が、ペニスを求めるようにヒクヒクと動いている。
元より触手で身動きの取れない僕は、なすがままにされるしかない。
「い、いくよ、カナメ。食べちゃうから……あんたのこと……!」
頬を染めたまま、レティナは一気に腰を降ろし、僕のペニスをにゅるんと一息に飲みこんだ。
レティナの中は熱湯のように熱く、そして狭い。
でもふんわりと優しく、けど離さないようにがっちりとペニスをぎゅうっと銜え込んでくる。
長い間亀頭責めで焦らされた僕のペニスは、それだけで暴発してしまいそうだった。
「っ、ああっ……きっ、気持ち、いぃ……!」
「あっ、……おっ、奥まで、入っちゃったぁ……。
か……かなめの、大きくて、すっごい、あついよぉっ……っ、あっ、ふぅ……っ」
びくん、と跳ねるような体の動き。その振動だけでも、僕には耐えがたい快感だった。
さらに膣が収縮し、ペニスを一際強く締め付ける。なんとか僕は射精するのを我慢した。
「あ……れ、レティナ……もしかして、挿れただけで……?」
「っ、ら、らってぇ……か、かなめの、き、きもち、よすぎてぇッ……」
呂律が回っていない言葉は、レティナが感じているのをこれ以上なく表していた。
少しの時間をおいてから、余韻に浸ったままのレティナが無意識のように腰を動かす。
ずっぽりと僕のペニスを銜え込んだレティナのくねる様なその動きは、快感に悶えているようでもあるし、僕から精液を搾り取ろうとする動きのようでもあった。
「い、いいよ、カナメぇ!ほらっ、ほらっ、早くいっぱい出しなよぉっ!」
僕のペニスをくわえ込んですぐに、レティナの腰の動きが早くなった。
単純な上下運動に加えて、ぷにぷにと柔らかな膣の肉壁が、精液を搾り取ろうとするようにぎゅっと絡みついてくる。
ぬるぬるとした無数のヒダがペニスをぐちゅぐちゅと擦り、これ以上ない刺激を与えていく。
じゅぽじゅぽと卑猥な音を立ててペニスを飲み込むたびに膣から愛液が溢れ、二人の身体を濡らす。
結合部からはむわっと濃い愛液の匂いが漂い、快感も相成って意識を奪われてしまいそうになる。
「で、出ちゃう……レティナぁ!」
「あっ、んっ、かっ、かなめぇ、もっ、がまん、しなくて、いいからぁ!
はやく、あたしに、いっぱいぃ、出してぇっ!あっ、あた、あたしも、いっ、イっひゃぁ……っ!」
レティナの嬌声がお風呂場に響き渡って、一際強く僕のペニスをきゅっと締め付ける。
もうすでに限界が近かった僕は、その刺激でたまらず射精してしまった。
吸い付くように膣が動いて、ペニスから精液を搾り取っていく。
「か……かなめの、大きくて、すっごい、あついよぉっ……っ」
びくん、と跳ねるような体の動き。その振動だけでも、僕には耐えがたい快感だった。
さらに膣が収縮し、ペニスを一際強く締め付ける。
「あ、れ、レティナぁ……」
「ぁ……っ、ふぅ……っ、いっぱい、ナカ、満たされてるぅ……♪」
ピクピクとレティナの身体が痙攣した後、ゆっくりと僕の胸にレティナが倒れ込んでくる。
なおも搾るようにレティナの膣が窄まって、僕は射精の余韻に浸る間も刺激を与え続けられた。
「美味しいよ……カナメのセイエキ。すっごく濃くて、たまんない……」
僕もレティナも荒い息を整えながら、性交の余韻に浸る。
僕達は少しの間繋がったまま、静かに抱き合っていた。
落ち着いてからようやく、僕はお風呂の事を思い出す。
「あ、お湯、いっぱいになってたんだった……。
冷めちゃう前に入らないと。……ね。レティナも、一緒に入ろうよ」
胸に顔を埋めたままのレティナの黒髪を撫でながら、僕は言った。
「……えっ、あっ、でも……」
ゆっくり顔を上げたレティナは、どこか歯切れの悪い返事を返す。
僕に巻き付いたままだった触手がしゅるしゅると元へ戻っていき、そわそわとうごめく。
「あっ、あたし、先に部屋で待っとくからさ。着替えとタオル、外に置いといていやるよ」
レティナはすぐに体を起こすと、飛び出すようにお風呂場から出て行ってしまった。
一体どうしたんだろうと思ったけど、お湯の中に入るという習慣がないからお風呂は苦手なのかもしれない。
さっきレティナ自身も「あたしは入る必要が無い」と言ってたし、入らなくてもたぶん大丈夫なのだろう。
変に機嫌を損ねてたりしないといいんだけど。
僕はとりあえず、色々な液体で汚れた体を洗うことにした。
「上がったよ、レティナ。着替えとタオル持ってきてくれてありがとう」
僕は寝間着に着替えて髪を乾かし終えると、ベッドに座っていたレティナの横に座る。
ふっと見るとなぜかレティナの頬が赤くなっていて、どこか伏し目がちだった。
「あ、あのさ……カナメ。その。
さっきのオフロとかいうのも、いざ一緒に入ろうってなると、なんかヘンな気分になって逃げちゃったけど……。
あたし……お、オトコと一緒に寝るのだって、初めてなんだよ。
ほ、ほんとに、ココで、いっしょに寝る……の?」
それは消えてしまいそうな小さい声で、からかうような口調でもなかった。
「だから僕は床で寝てもいいって――」
「ばっ、バカ! そうじゃないって言ってるだろ!
でも、だって、これだと、ホントに……くっつかないと、寝れない……じゃん……」
言う度にレティナの声が小さくなり、消え入りそうな声になっていく。
ベッドの上にある布団を掴んだりいじったりと、レティナは落ち着かない様子だった。
それに比例するように彼女の頬は、一つ目の瞳のように赤く赤く染まっていく。
……さっきまであんなコトをしてたのに、どうしてこんなにうろたえているんだろう。
一緒に寝るだけなのに。
「レティナ、どうしてそんなに恥ずかしがってるの?
僕とお風呂場にいたときは、……その、もっと恥ずかしいコトたくさんしてたのに」
「はっ、はっ、恥ずかしがってなんかねえよッ!
けど……オトコからセイエキ搾るのは、あたしにとって当たり前のコトなんだよ。
でも、でも、一緒に抱き合って寝るのなんて、ぜんぜん、やったコトないから……」
レティナのその表情も仕草も、ウソを付いているようには見えなかった。
いまいち人間の常識とは違うけど、そんな風に恥ずかしがるレティナが愛おしく感じる。
そこだけ見れば、レティナはただの純情な女の子に違いなかった。
でも、さっきまでとのギャップが大きすぎて、ほんの少し僕は笑ってしまう。
「……な、何がおかしいんだよ。慣れないモンはしょうがないだろ!
だ、だから、あたっ――?!」
言い終わる前に、僕はレティナをベッドに、出来る限り優しく押し倒した。
柔らかな音を立てて、レティナがベッドに横たわる。
それから、触手が下敷きになったりしないように彼女の姿勢を整えていく。
「あ……」
されるがままのレティナは固くなったまま動こうともしない。
その間に、僕は電気のスイッチを消した。
それからレティナと僕と、向かい合う形でベッドに寝転んで布団を掛けなおす。
「……うぅ……」
真っ赤な顔のまま、何度もレティナは瞬きをしていた。
ぎょろぎょろと大きな一つ目が目線を泳がせて、落ち着かない様子をしている。
「レティナ、大丈夫? 寒くない?」
「……あ……うん。 熱くて、しかたない、ぐらい……」
さっきまでの威勢が嘘に思えるぐらい、レティナは緊張したままだった。
僕だってレティナと寝るのが恥ずかしいわけじゃないけど、お風呂場でされた事を思い出すと、それほどでもない。
「よかった。こんな寒い日に、レティナを一人で寝かせたくないからね」
固くなったまま動けないレティナの頭を、僕は自分の胸にそっと寄せる。
すん、とレティナの身体からは、ほんのりと甘い匂いがした。
「……あったかい」
「僕も、あったかいよ。それに、レティナのいい匂いがするし」
「うぅ……これ以上恥ずかしくなるようなコト、言うなっての……」
ふわふわとしたレティナの黒い髪の毛が腕をくすぐる。
じんわりとした温もりを全身で感じながら、僕は目を閉じる。
「……こんなの、されたら……もうあんなトコで、一人でなんて……寝れないよ……」
レティナの声は、ほんの少しだけ震えていた。
「なら、ずっとここに居てよ、レティナ」
思わず言ってしまったその言葉に、僕も顔が赤くなってしまう。
胸に顔を埋めたままのレティナの体が、ほんの少しだけ震えていた。
「なんでカナメは、そんなに優しいんだよ。
どうしてあたしなんかに優しくしてくれるんだよ。
『好きになれ』って暗示も魔法も掛けてないのに……どうして……」
「僕だって、そんな不思議な力、使ったことないよ。
けどレティナは、僕と一緒にいてくれるじゃないか」
勢い余って言ってしまった言葉は、さすがに恥ずかしかった。
ほんの少しだけ間をおいて、レティナが言う。
「……ばか。
あたしと一緒にいたって、あたしに好かれたって……イイ事なんか、なんにもないよ。
あたし、捻くれ物でイヤなヤツなんだから。
これからカナメ、ずっとあたしのエサになっちゃうんだよ?
何度も何度も今日みたいに、あたしの好きなように犯されちゃうんだよ?
これ以上優しくされると、勘違いしちゃうんだよ、あたし。
だから――」
「じゃあレティナ。一言だけ聞かせて」
レティナが息を止めたのが、僕にも分かった。
「レティナ。僕のこと、好き?」
「いっ、言わなくても、そんなの……わかんでしょ……」
「もし言ってくれるなら、僕はずっとレティナのエサだっていいよ。
僕の事を好きでいてくれるなら、それだけでいい」
熱い吐息が胸に掛かり、僕の体をさらに温める。
深呼吸を一度したかと思うと、レティナが小さい声で言った。
「……一回だけ。一回だけだかんね」
柔らかいレティナの黒い腕が、僕の身体をぎゅっと抱きしめる。
「……き。……好きだよ、カナメ」
それはすごく小さな声だったけど、僕の胸から伝わって聞こえてくるように感じた。
「エサなんかじゃない。 あんたは、あたしの大事なコイビトだよ」
抱きしめるだけで安心するような柔らかさを感じながら、僕はそっと言った。
「僕も大好きだよ、レティナ」
13/11/07 23:33更新 / しおやき
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