優しい気持ち
「ごめんなさい。重田くんのこと・・・いい人、友達としか見れない・・・」
思い切ってあこがれの女のコに告白した。
大学で同じ講義を受けている、おさげで品のよさそうな雰囲気を持ちながら男を魅了するような体つきをしている女のコだ。
しかし、結果はノー。
「さようなら」
背を向けながら去っていく彼女を俺は黙って見送ることしかできなかった・・・
「あ〜あ・・・また失敗かぁ・・・」
暗い夜道、一人暮らしのアパートに帰る途中、俺はため息をつきながら声に出してつぶやく。
フラれて明るくふるまえるはずがない・・・加えて、断られた理由が今までの女のコと同じ理由だったことが、暗い気持ちに追い打ちをかけていた。
「いい人にしか見えない」「男と認識できない」「友達でいたい」「『優しい人』ならもっと他にたくさんいる」・・・
かつん・・・
やりきれない気持ちを、小石を蹴っ飛ばして発散しようとする。
そう、今まで断られた理由はみんなこれだ。
告白に成功してもあんまり時を経ずして同じ理由で別れられる。
人には優しく接しろと親に教え込まれ、それを心がけて生きてきた。
その結果が「いい人にしか見えない」と断られ続けられる結果だ。
「いやぁ・・・『優しい』のと『ただいい人』なのと違うのは分かるけどなぁ・・・」
少なくとも、相手の意見に合わせて唯唯諾諾と従っているつもりはない。
「でも、それでもダメなのかな・・・それとも、容姿が悪いかな・・・?」
俺はあんまりイケメンとは言えないだろう。
いや、かっこいいかどうかはともかく、線が細く、厚い眼鏡をかけていたりすると『いい人』な印象が強くなってしまうのかもしれない。
そう考えると、自分の性格が疎ましくなってくる。
「ドッペルゲンガーでも現れてくれないかな」
非生産的な希望を口にしたその時、子猫が一匹、道路に飛び出した。
だがその子猫からあまり離れていないところから車が走ってきている・・・!
「危ない・・・!」
考えるより先に体が動いた。
ライトや車におびえてかたまっている子猫を、ダイブするようにして抱え込む。
近づく光、急ブレーキ音・・・
覚えていたのはそこまでだった。
頭への衝撃とともに俺の意識は闇に呑まれた。
「お前、馬鹿だろう」
翌日、市内の病院のベッドで俺は医者に呆れたような口調で言われた。
「車にひかれそうになった子猫を助けようとしてケガをするだなんて・・・まぁ、車にぶつかってケガをしたわけじゃないからいいが・・・」
あの時、飛び出した俺を見て運転手が急ブレーキをかけたお陰で大惨事にはならなかった。
しかし間抜けにも俺はダイブした拍子に肩を脱臼し、加えて頭を強かにアスファルトに打ちつけたため、脳震盪を起こしてしまったのだ。
念のため入院し、ついさっき検査の結果で異常なしだったので退院できる。
「無事でしたか!」
昨日のトラックの運転手が病室に入ってきた。
「ええ、なんとか・・・交通事故にならなくて良かったですよ」
苦笑しながら俺は言う。
ああ、全くと運転手は苦笑を返す。
「ところで・・・昨日の子猫、知りませんか?」
「子猫・・・?」
運転手は首をひねる。
どうも、俺が飛び出す前に子猫が飛び出していたことに気付いていなかったらしい。
俺が飛び出していなかったら・・・
「俺がお前を抱え起こそうとした時はいなかったな・・・」
「そう・・・ですか・・・」
つまり、俺がダイブして潰してしまったことはないらしい。
俺は心の中で胸を撫でおろした。
「やれやれ、災難だったが、まぁ悪い気分じゃないな」
昼下がり、一人暮らしのアパートへの帰り道を歩きながら俺はつぶやく(大学は今日は休むことにした)
あこがれの女のコにフラれたのはやっぱりキツかったが、とりあえず自分の行動で一つの命が救われたので、悪い気分ではなかった。
なんか、フラれたことを忘れようと無理やりポジティブに考えている感があるが。
昨日は途中であんなことがあったが、今日は無事にアパートについた。
ドアを開けて部屋に入る。
「おかえりなさいニャ!」
「なっ!?」
部屋に入ったら仰天した。
一人暮らしのはずなのに、見ず知らずの女の子が部屋にいた。
いや、女の子と言っていいのか・・・少なくとも、現代のそこらの女性とはだいぶ様子が違う。
彼女は薄手で丈の短い浴衣のような着物を着ていた。
それはまだいい。
手足がふさふさした薄茶色の毛におおわれており、手のひらには肉球がある。
さらに頭頂部からは猫のような耳が伸びていた。
薄い腰からは手足の毛と同じ色の尻尾がのびており、先っぽが機嫌よさそうにピクピクと動いている。
どうやら彼女はワーキャットの一種らしい。
現代では魔物娘に対して排他的な思想はないため、ワーキャットを始めいろんな魔物娘を目にすることができる。
俺のクラスにも魔物娘が何人かいる。
だが、目の前にいる女の子もワーキャットだと思うのだが・・・
ぴんと伸びている尻尾が2本なのが、普通のワーキャットと一味違うところを強調している。
「だ・・・だれだお前は!?」
「誰って・・・昨日助けてくれたじゃニャいか・・・覚えてないのニャ?」
腰に手をやり、彼女は怒ったようにちょっと薄い胸をそらせて自分を大きく見せようとする。
「君なんか知らないよ。俺が助けたのは子猫だぞ?」
「そう、あたしがその猫ニャ!」
「な・・・なんだって!?」
驚く俺に彼女は説明する。
彼女はネコマタという、ワーキャットの亜種なのだそうだ。
気にいった男性を見つけると動物の猫に化けて近づき、その男が自分に優しく接してくれるか、可愛がってくれるかを確かめるのだと言う。
「で、昨日ある男に近づこうとしたんニャけど、その男は猫嫌いで乱暴で、うちのことを棒きれで叩いておっぱらおうとしたのニャ!」
気に入った男にそんな態度をとられて意気消沈しており、左右確認せずに道路に飛び出したところを俺に救ってもらった・・・ということらしい。
「身体を張って助けてくれたことに、うちは心底惚れたのニャ! というわけでうちをお嫁さんにして欲しいのニャ!」
「話が早すぎるよ!」
ネコマタの言葉に俺は思わず叫ぶ。
「だいたい、君は俺のこと、そんなに知らないじゃないか・・・」
「確かに知らないけど、君がとても優しい事はうちは知っているのニャ!」
「いや、優しいと言ったって・・・」
優しい人ならもっと他にもいる・・・そう言おうとしたが、彼女は遮った。
「少なくとも、ただの『いい人』は自分の命を張ってまで猫を助けようとしないニャ! でも君はそれをした・・・君は本当に優しい人なのニャ!」
本当に優しい人・・・
そう言われて胸に衝撃が走る。
「『うち』を助けてくれたことじゃなくて、人間じゃない『猫』を助けてくれた・・・自分のためじゃなく、自分以外の誰かのために命を投げ出してまで助けようとした・・・それだけで十分なのニャ!」
彼女の言葉が胸に沁み入り、明るく広がる。
「それだけじゃ納得してくれないかニャ?」
「いや、そんなことないよ・・・でも、まずは『彼女』からな?」
「え!? う、うん! そこからでも嬉しいニャ! 恋人になれて嬉しいニャ! じゃあ、これからよろしくニャ!」
彼女は飛び跳ね、俺の手を握った。
「こちらこそよろしく。それから・・・」
「それから? 何ニャ?」
「・・・いや、何でもない」
ちょっと照れくさくなって俺はそっぽを向く。
いきなり『友達』からではなく、『彼女』として接することになったけど、それは・・・
彼女は俺も知らなかった「本当の優しさ」を見てくれ、教えてくれた・・・それが嬉しくて惚れてしまったからのようだ。
まだ名前も知らないけど・・・ありがとう。
思い切ってあこがれの女のコに告白した。
大学で同じ講義を受けている、おさげで品のよさそうな雰囲気を持ちながら男を魅了するような体つきをしている女のコだ。
しかし、結果はノー。
「さようなら」
背を向けながら去っていく彼女を俺は黙って見送ることしかできなかった・・・
「あ〜あ・・・また失敗かぁ・・・」
暗い夜道、一人暮らしのアパートに帰る途中、俺はため息をつきながら声に出してつぶやく。
フラれて明るくふるまえるはずがない・・・加えて、断られた理由が今までの女のコと同じ理由だったことが、暗い気持ちに追い打ちをかけていた。
「いい人にしか見えない」「男と認識できない」「友達でいたい」「『優しい人』ならもっと他にたくさんいる」・・・
かつん・・・
やりきれない気持ちを、小石を蹴っ飛ばして発散しようとする。
そう、今まで断られた理由はみんなこれだ。
告白に成功してもあんまり時を経ずして同じ理由で別れられる。
人には優しく接しろと親に教え込まれ、それを心がけて生きてきた。
その結果が「いい人にしか見えない」と断られ続けられる結果だ。
「いやぁ・・・『優しい』のと『ただいい人』なのと違うのは分かるけどなぁ・・・」
少なくとも、相手の意見に合わせて唯唯諾諾と従っているつもりはない。
「でも、それでもダメなのかな・・・それとも、容姿が悪いかな・・・?」
俺はあんまりイケメンとは言えないだろう。
いや、かっこいいかどうかはともかく、線が細く、厚い眼鏡をかけていたりすると『いい人』な印象が強くなってしまうのかもしれない。
そう考えると、自分の性格が疎ましくなってくる。
「ドッペルゲンガーでも現れてくれないかな」
非生産的な希望を口にしたその時、子猫が一匹、道路に飛び出した。
だがその子猫からあまり離れていないところから車が走ってきている・・・!
「危ない・・・!」
考えるより先に体が動いた。
ライトや車におびえてかたまっている子猫を、ダイブするようにして抱え込む。
近づく光、急ブレーキ音・・・
覚えていたのはそこまでだった。
頭への衝撃とともに俺の意識は闇に呑まれた。
「お前、馬鹿だろう」
翌日、市内の病院のベッドで俺は医者に呆れたような口調で言われた。
「車にひかれそうになった子猫を助けようとしてケガをするだなんて・・・まぁ、車にぶつかってケガをしたわけじゃないからいいが・・・」
あの時、飛び出した俺を見て運転手が急ブレーキをかけたお陰で大惨事にはならなかった。
しかし間抜けにも俺はダイブした拍子に肩を脱臼し、加えて頭を強かにアスファルトに打ちつけたため、脳震盪を起こしてしまったのだ。
念のため入院し、ついさっき検査の結果で異常なしだったので退院できる。
「無事でしたか!」
昨日のトラックの運転手が病室に入ってきた。
「ええ、なんとか・・・交通事故にならなくて良かったですよ」
苦笑しながら俺は言う。
ああ、全くと運転手は苦笑を返す。
「ところで・・・昨日の子猫、知りませんか?」
「子猫・・・?」
運転手は首をひねる。
どうも、俺が飛び出す前に子猫が飛び出していたことに気付いていなかったらしい。
俺が飛び出していなかったら・・・
「俺がお前を抱え起こそうとした時はいなかったな・・・」
「そう・・・ですか・・・」
つまり、俺がダイブして潰してしまったことはないらしい。
俺は心の中で胸を撫でおろした。
「やれやれ、災難だったが、まぁ悪い気分じゃないな」
昼下がり、一人暮らしのアパートへの帰り道を歩きながら俺はつぶやく(大学は今日は休むことにした)
あこがれの女のコにフラれたのはやっぱりキツかったが、とりあえず自分の行動で一つの命が救われたので、悪い気分ではなかった。
なんか、フラれたことを忘れようと無理やりポジティブに考えている感があるが。
昨日は途中であんなことがあったが、今日は無事にアパートについた。
ドアを開けて部屋に入る。
「おかえりなさいニャ!」
「なっ!?」
部屋に入ったら仰天した。
一人暮らしのはずなのに、見ず知らずの女の子が部屋にいた。
いや、女の子と言っていいのか・・・少なくとも、現代のそこらの女性とはだいぶ様子が違う。
彼女は薄手で丈の短い浴衣のような着物を着ていた。
それはまだいい。
手足がふさふさした薄茶色の毛におおわれており、手のひらには肉球がある。
さらに頭頂部からは猫のような耳が伸びていた。
薄い腰からは手足の毛と同じ色の尻尾がのびており、先っぽが機嫌よさそうにピクピクと動いている。
どうやら彼女はワーキャットの一種らしい。
現代では魔物娘に対して排他的な思想はないため、ワーキャットを始めいろんな魔物娘を目にすることができる。
俺のクラスにも魔物娘が何人かいる。
だが、目の前にいる女の子もワーキャットだと思うのだが・・・
ぴんと伸びている尻尾が2本なのが、普通のワーキャットと一味違うところを強調している。
「だ・・・だれだお前は!?」
「誰って・・・昨日助けてくれたじゃニャいか・・・覚えてないのニャ?」
腰に手をやり、彼女は怒ったようにちょっと薄い胸をそらせて自分を大きく見せようとする。
「君なんか知らないよ。俺が助けたのは子猫だぞ?」
「そう、あたしがその猫ニャ!」
「な・・・なんだって!?」
驚く俺に彼女は説明する。
彼女はネコマタという、ワーキャットの亜種なのだそうだ。
気にいった男性を見つけると動物の猫に化けて近づき、その男が自分に優しく接してくれるか、可愛がってくれるかを確かめるのだと言う。
「で、昨日ある男に近づこうとしたんニャけど、その男は猫嫌いで乱暴で、うちのことを棒きれで叩いておっぱらおうとしたのニャ!」
気に入った男にそんな態度をとられて意気消沈しており、左右確認せずに道路に飛び出したところを俺に救ってもらった・・・ということらしい。
「身体を張って助けてくれたことに、うちは心底惚れたのニャ! というわけでうちをお嫁さんにして欲しいのニャ!」
「話が早すぎるよ!」
ネコマタの言葉に俺は思わず叫ぶ。
「だいたい、君は俺のこと、そんなに知らないじゃないか・・・」
「確かに知らないけど、君がとても優しい事はうちは知っているのニャ!」
「いや、優しいと言ったって・・・」
優しい人ならもっと他にもいる・・・そう言おうとしたが、彼女は遮った。
「少なくとも、ただの『いい人』は自分の命を張ってまで猫を助けようとしないニャ! でも君はそれをした・・・君は本当に優しい人なのニャ!」
本当に優しい人・・・
そう言われて胸に衝撃が走る。
「『うち』を助けてくれたことじゃなくて、人間じゃない『猫』を助けてくれた・・・自分のためじゃなく、自分以外の誰かのために命を投げ出してまで助けようとした・・・それだけで十分なのニャ!」
彼女の言葉が胸に沁み入り、明るく広がる。
「それだけじゃ納得してくれないかニャ?」
「いや、そんなことないよ・・・でも、まずは『彼女』からな?」
「え!? う、うん! そこからでも嬉しいニャ! 恋人になれて嬉しいニャ! じゃあ、これからよろしくニャ!」
彼女は飛び跳ね、俺の手を握った。
「こちらこそよろしく。それから・・・」
「それから? 何ニャ?」
「・・・いや、何でもない」
ちょっと照れくさくなって俺はそっぽを向く。
いきなり『友達』からではなく、『彼女』として接することになったけど、それは・・・
彼女は俺も知らなかった「本当の優しさ」を見てくれ、教えてくれた・・・それが嬉しくて惚れてしまったからのようだ。
まだ名前も知らないけど・・・ありがとう。
11/05/03 03:01更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)