そして今・・・
「稲荷が働く、ホテル内に稲荷神社があるホテルか・・・それはご利益があるなぁ」
俺がそう言ったときだった。
突然、琴葉の顔が悲しそうに歪んだ。
『えっ・・・? 俺、何かまずいことを言ったか?』
躊躇っていると、琴葉はそのまま俺の胸の中に倒れるようにもたれかかってきて、しがみついた。
「琴葉?」
「うちな・・・悔しいんや。このホテルや町が繁盛してはるのは、みんな母さまのおかげなんやわ」
俺にしがみついたまま琴葉が突然しゃべりだす。
しがみつかれ、顔を押し当てられている胸の辺りが熱い・・・薄い浴衣だから琴葉の顔の熱さがほぼ直に胸に伝わる。
考えてみれば、結構の量を飲んだ・・・
「このホテルに来やはった男のお客さんに『サービス』することがあるん。そのことに関してはお客さんの記憶を濁して『楽しい気分を味わえた』ってことだけ残して返し、また泊まりに来ることを狙うんやけど・・・」
サービス・・・琴葉の口ぶりで検討はついた。
つまり・・・性的なもの、夜伽なのだろう。
「うちらにとってでもあるん。魔力を補充するには精が必要さかい・・・」
精・・・文字通り、男性の精液のことだ。
これも、故郷を出てから読んだ魔物の図鑑に書いてあった。
魔物はこれを口や性交によって摂取し、魔物の魔力に変換する。
変換された魔力は男を魅了するのに使われたり戦うのに使われたりするのだ。
フロントで働いていた琴葉のように耳や尻尾を隠して人間のように振舞ったりするのにも魔力は使われ、精を必要とする。
「せやけど、うちはそげなこと、出来んかった・・・みんな母さま任せにしてはったの・・・」
「なぜ・・・?」
思わず、俺は声を絞り出すようにして訊ねていた。
琴葉がキッと顔を上げた。
その顔は酒のせいなのか、緊張のせいなのか、怒っているのか、かなり赤く、そして涙でぬれている。
そんな琴葉が俺に、はっきりと言い放った。
「大地のことを、好いとったからや!」
心臓が一跳ねして、そのまま止まったかと思った。
顔を少し伏せて琴葉は続ける。
「ずっと、ずっと好きやった・・・一人ぼっちで遊んどったところに声をかけてくれたのが大地やった・・・嬉しかった・・・一緒に遊ぶときもいつも気にかけてくれはった・・・そして、この森を守るって言うてくれはったのも大地や・・・!」
だから、男から精を摂取することをせず、ずっと大地を待っていたと、琴葉はうつむいた。
琴葉の突然の告白に、胸を金属バットで殴られたような思いだった。
そしてさらに思い出す。
『なんのために俺は森を守ろうとしたんだ?』
琴葉には
『子どもたちが遊ぶ場が消えないように、琴葉たちが住む場所がなくならないように』
と言ったのだが・・・
『大きなこと言ってみてかっこつけてんじゃねぇよ・・・!』
俺の中でもう一人の俺が意地悪く言う。
そしてさらに気づく。
『ああ、つまり俺は・・・』
俺は力の限り、琴葉を抱きしめた。
「・・・大地?」
「俺も、琴葉のことが好きだ・・・子どものときから好きだった・・・森を守る仕事に就いたのも、なんのことはない、好きだった琴葉を守りたかったからだ」
それだというのに、このザマはなんだろうか。
プロジェクトを成功させるのに夢中になって根本的なことを忘れ、そして今、守るべき琴葉は泣いている・・・
「全然約束を守られていないじゃないか、まったく・・・」
「ううん、大地は約束を守ってくれはったよ・・・」
涙で濡れた顔をクシャクシャっと崩して琴葉は笑う。
その笑顔は最高にかわいらしかった。
あっ、と琴葉は何かに気づいたような顔をし、再び笑った。
今度は悪戯っぽい笑みだった。
「せや、約束を守ってくれた暁にはもう一度接吻する約束やったな?」
そう言って琴葉は眼を閉じ、俺を待つ。
俺は思いをこめ、約束のキスをした。
「ん・・・はふっ・・・んぅ・・・」
「・・・・っ」
灯りを消した部屋に琴葉と俺の吐息が響く。
互いの舌を絡めあい、唾液を味わい、くちびるを押し付ける・・・先ほどのキスより、ましてや15年前の子どものキスとは全く違う、貪るようなキスを交わす。
15年も互いへの思いを溜め込み、気持ちを確認し、口付けまでした俺たちは止まれなかった。
「随分せっぷんがうまいどすなぁ・・・何人の女子を泣かせはったやろ?」
意地悪そうに微笑みながら琴葉は問う。
純粋に感心もしているようだが、かすかに嫉妬も感じられた。
「さぁな・・・」
過去に付き合った女性は何人かいたが、何か満たされなかった。
どこかで琴葉のことを思い続けていたからだろうか・・・
「そう言う琴葉もうまいんじゃないか?」
「うち、母さまから精をもらうときは接吻か、赤ちゃんがお乳を吸うかのようにしてもろうてたさかい・・・」
なんて淫靡だろうか。
「あ! 大地、今その様子を考えてはったやろ?」
「・・・まぁな」
これ以上、何か言われないように俺はまた琴葉のくちびるを奪った。
琴葉も受け止める。
今度はキスだけでなく、手も仕事を始めさせた。
琴葉の髪を梳き、首筋や顎の下を撫で、そして胸元に・・・
「ん・・・」
キスをされながらちょっと恥ずかしそうに琴葉は身をすくめたが、かまわず俺は浴衣の襟を広げた。
ぷるんと形が良くて、柔らかそうだが張りのある乳房が飛び出す。
グラドルとしても十分食べていけるくらいのものだろう。
「綺麗だ・・・」
思わず俺はそうつぶやき、手で胸を愛撫する。
そして唇の先でしこりはじめている頂を弾く。
「ひゃん!」
鼻にかかった嬌声が上がる。
「可愛い声を出すんだね・・・」
「い・・・言わんといて・・・」
琴葉が顔を真っ赤にする。
俺はその様子を楽しみながらまた胸に口を近づける。
「ひゃ・・・・はう・・・あっ・・・あっ! 気持ち・・・いい・・・」
身体を震わせながら琴葉が快感を口にした。
左手もサボらせずにもう一方の胸を愛撫する。
さらに右手で、琴葉の浴衣の帯から上を完全にはだけさせた。
そして敷かれていた布団に二人で一緒に横たわる。
「っは・・・」
「・・・」
くちびるを離して琴葉を見ると、とても扇情的な姿をしていた。
特に、乱れた浴衣の合わせ目から覗く脚がなんとも艶かしい。
太ももの方から手を這わせ、それをどんどん上のほうへ・・・
ショーツは冷たく湿っていた。
「すごく濡れている・・・」
「大地だって・・・」
琴葉がおっかなびっくりだが反撃してきた。
白い手が伸びてきて、俺の浴衣の下の合わせ目に入っていく。
そして下着越しに俺の痛いくらいに勃起した性器をつかんだ。
「えらい硬くなっとる・・・」
目を見開いて琴葉は驚く。
でも、臆することはなかった。
もう一方の手を伸ばして俺の下着を下ろそうとしてきたので、俺は自分の浴衣の帯を解いて手伝う。
俺は裸体に浴衣一枚羽織っているだけの状態になった。
そっと、俺は琴葉のショーツを脱がせた。
「い・・・いや・・・」
琴葉が身体を硬くする。
恥ずかしがっている琴葉にさすがにいきなりアソコを触るのは躊躇われた。
安心するように抱きしめて、背中とお尻、そして尻尾の付け根を撫でる。
時々琴葉は快感で短く甘い声を出して身体をすくめていたが、少しずつ身体から力を抜いていった。
スッと軽くクリトリスを触る。
「ひゃっ! あんっ!」
とたんに琴葉の口から嬌声が上がった。
続けて触り、さらにクリクリと転がすように愛撫する。
そのたびに琴葉は身体を震わせたり捩らせたりしながら甘くて可愛らしい声を上げた。
「大地・・・そこ・・・気持いい・・・!」
琴葉が快感を素直に口にする。
その様子にある推測が浮かび、わざと口にしてみた。
「意外と一人でやっていたりして・・・?」
「なしてそれを・・・あっ!」
カマにかかった。
琴葉は顔を真っ赤にし、その顔を両手で覆う。
「ややわ、恥ずかし・・・!」
「ごめんごめん、ちょっといじめすぎたかな?」
俺の言葉に琴葉が目だけを覗かせてぽつりとつぶやいた。
「大地のいけず・・・」
上目遣いでそう言われ、俺は理性が吹き飛びかかる。
落ち着け、俺。
相手は初めてなんだぞ。
落ち着いて深呼吸をして動きを止めている俺に、琴葉が訊ねる。
「大地は自慰をしはるような、いやらしい女の子は嫌い?」
俺は首を横に振った。
「そんなことはないよ。エッチな女の子が好き嫌いじゃなくて、俺は琴葉が好きなんだ」
琴葉の横に自分の顔を寄せ、耳元でささやく。
顔を横に持っていったのは赤くなった顔を隠すためだ。
今の言った言葉は本心だけど、自分もオナニーをすることもあるとか、まして「実は精通してしばらくは琴葉のことをおかずにしていた」なんてことは言えない。
前者はまだともかく、後者は口が裂けても言えない。
カミングアウトした琴葉には悪いが、自分のことは胸のうちに仕舞わせてもらおう。
「だからいくらでも乱れていいよ。その姿を見れるのは、俺だけだからな」
そういいながらクリトリスを撫でていた指をさらに膣の方に進める。
クッと指先を入れてみた。
琴葉のアソコは粘液を俺の指に絡みつかせながらそれを受け入れる。
膣内はまだ硬くて狭く、慣れていない感じだったが、それでも中で指をぐにぐにと動かすと琴葉の口からさらに嬌声が上がった。
「大地・・・もう、うち・・・」
琴葉が潤んだ目で訴える。
恥ずかしがってそれ以上は言わないが、俺には琴葉が何を求めているか分かった。
俺も同じ気持だ。
琴葉の脚の間に身体を割っていれ、互いの性器をくっつける。
琴葉が震えているのが分かった。
「無理はしなくても・・・」
「無理なんてしてへん!」
俺の言葉は琴葉の声でさえぎられた。
「ずっと・・・ずっとしんぼうしてたんさかいに・・・はよう、はようして」
琴葉の切ない声に俺は心を決めた。
少しずつ腰を進めていく。
「あ・・・い・・・くっ・・・」
俺の下で琴葉が苦しげな声を上げる。
痛々しい声に俺は入れるのをやめようかと思ったが、生殺しのような真似はしたくない。
ゆっくりと時間をかけて、俺は琴葉と繋がっていく。
そしてとうとう、奥まで俺のものが納まった。
「全部、入ったよ」
「うれしい・・・やっとうちら、ひとつになれたんやね」
身体をこわばらせ、目に小さい涙の粒を浮かべながら琴葉が答える。
その言葉が嬉しくて、俺は琴葉を抱きしめた。
琴葉の中はきつくて、温かくて、気持ちよかった。
相手が落ち着くのを待つこともあったけど、その感触を味わいたくて俺は動かずにいた。
琴葉も同じ気持なのか、ギュッと俺を抱きしめかえしてくる。
「うちは大丈夫やよ・・・ええよ、動いても・・・」
しばらくして琴葉に言われ、俺はゆっくりと、琴葉に負担をかけない程度に動き始めた。
キスや胸への愛撫も加える。
「ん・・・くっ・・・あ・・・あん・・・」
琴葉の苦しげな声の中にも、甘いものが混じってきて、俺の動きに合わせてつぷ・・・つぷ・・・という水音が聞こえてきた。
魔物娘は概して好色なものだ。
初めてでも痛みの峠さえ過ぎれば気持いいものらしい。
高校時代に魔物の彼女がいたやつが言っていたが・・・
「ひゃ・・・うっ!?」
琴葉のあえぎ声のトーンが高くなった。
そこがツボらしい。
まだ激しくは動かないが、そこを執拗に攻める。
「あ・・・あんっ・・・! あかん! そこは・・・あっ!」
ダメと言っているが、ダメでないことは明白だ。
様子を見てペースも速めていく。
もう苦しげな声は聞こえない。
琴葉は俺を抱きしめて肌を最大限に合わせ、快楽を貪る。
「や・・・やあ! なんか来はる! なんか・・・あああ!」
「ん? もしかしてイキそう?」
そう訊ねる俺もそろそろ限界だ。
「わ・・・分からへん・・・でも・・・あっ! おかしく・・・なる・・・!」
「いいよ・・・そのままおかしくなっても・・・!」
二人で絶頂を駆け上がろうと、俺は追い込みをかけた。
「あかん・・・もう・・・もうっ・・・!」
俺の腕の中で、琴葉の背中が弓なりに反った。
同時に俺のアソコがきついくらいに締め付けられる。
射精をせがむかのように根元から絞り上げられるような刺激に耐えられず、琴葉の中に精液を思いと共に吐き出した。
「琴葉・・・」
「大地ぃ・・・」
絶頂の余韻が醒めない身体で、互いの名を呼び、そのくちびるをふさぎあい、もう離さないとばかりに俺たちはきつく抱き合った。
あれから3ヶ月・・・
「鈴木君、なかなかのプレゼンだったぞ」
プレゼンが終わり、会議室の後片付けをしている俺に部長が上機嫌で話しかけてきた。
「ありがとうございます!」
「結構頑張っているようだし・・・やっぱり、これか?」
ニヤニヤしながら部長は小指を立ててみせる。
「やめてくださいよ、部長」
言葉では嫌がるが、俺もニヤニヤ笑いが止まらない。
彼女・・・もちろん琴葉のことだ。
あの日から俺たちは付き合い始めた。
本当はすぐにでも同棲したかったが、残念ながら俺たちには金がまだない。
そして琴葉がこっちの方で働けるあてがないので、琴葉はホテルの仕事を続け、俺はこっちで仕事を頑張っている。
そして2週間に1回くらいのペースで、二人は俺のアパートか琴葉のホテルで過ごすのだ。
ちょっと遠距離恋愛。
ちなみに宿代はすこしサービスさせてもらっている。
さらにちなむと、宿の布団が汚れないようにいつも気をつけている。
初めてセックスしたときは血とか精液でちょっと面倒なことになったからな・・・
「早く結婚できるといいな。私が式に参加できるのを楽しみにしているぞ」
「たはは・・・」
部長の言葉と過去の思い出に苦笑しながら俺はスーツの上から胸ポケットに入っているものをぎゅっと掴む。
それは、琴葉からもらった稲荷のお守りだ。
握り締めながら、あの夜、琴葉にささやいた言葉をまた心の中でつぶやく。
『琴葉・・・見ていてくれ。君のためという動機から始まったことだけど、そんな俺が頑張って事をなすところを、見守ってくれ』
部長に一礼し、もう一度、胸ポケットに入っているお守りを強く握り締めて俺は歩き出した。
これからもまた、俺は頑張る。
俺がそう言ったときだった。
突然、琴葉の顔が悲しそうに歪んだ。
『えっ・・・? 俺、何かまずいことを言ったか?』
躊躇っていると、琴葉はそのまま俺の胸の中に倒れるようにもたれかかってきて、しがみついた。
「琴葉?」
「うちな・・・悔しいんや。このホテルや町が繁盛してはるのは、みんな母さまのおかげなんやわ」
俺にしがみついたまま琴葉が突然しゃべりだす。
しがみつかれ、顔を押し当てられている胸の辺りが熱い・・・薄い浴衣だから琴葉の顔の熱さがほぼ直に胸に伝わる。
考えてみれば、結構の量を飲んだ・・・
「このホテルに来やはった男のお客さんに『サービス』することがあるん。そのことに関してはお客さんの記憶を濁して『楽しい気分を味わえた』ってことだけ残して返し、また泊まりに来ることを狙うんやけど・・・」
サービス・・・琴葉の口ぶりで検討はついた。
つまり・・・性的なもの、夜伽なのだろう。
「うちらにとってでもあるん。魔力を補充するには精が必要さかい・・・」
精・・・文字通り、男性の精液のことだ。
これも、故郷を出てから読んだ魔物の図鑑に書いてあった。
魔物はこれを口や性交によって摂取し、魔物の魔力に変換する。
変換された魔力は男を魅了するのに使われたり戦うのに使われたりするのだ。
フロントで働いていた琴葉のように耳や尻尾を隠して人間のように振舞ったりするのにも魔力は使われ、精を必要とする。
「せやけど、うちはそげなこと、出来んかった・・・みんな母さま任せにしてはったの・・・」
「なぜ・・・?」
思わず、俺は声を絞り出すようにして訊ねていた。
琴葉がキッと顔を上げた。
その顔は酒のせいなのか、緊張のせいなのか、怒っているのか、かなり赤く、そして涙でぬれている。
そんな琴葉が俺に、はっきりと言い放った。
「大地のことを、好いとったからや!」
心臓が一跳ねして、そのまま止まったかと思った。
顔を少し伏せて琴葉は続ける。
「ずっと、ずっと好きやった・・・一人ぼっちで遊んどったところに声をかけてくれたのが大地やった・・・嬉しかった・・・一緒に遊ぶときもいつも気にかけてくれはった・・・そして、この森を守るって言うてくれはったのも大地や・・・!」
だから、男から精を摂取することをせず、ずっと大地を待っていたと、琴葉はうつむいた。
琴葉の突然の告白に、胸を金属バットで殴られたような思いだった。
そしてさらに思い出す。
『なんのために俺は森を守ろうとしたんだ?』
琴葉には
『子どもたちが遊ぶ場が消えないように、琴葉たちが住む場所がなくならないように』
と言ったのだが・・・
『大きなこと言ってみてかっこつけてんじゃねぇよ・・・!』
俺の中でもう一人の俺が意地悪く言う。
そしてさらに気づく。
『ああ、つまり俺は・・・』
俺は力の限り、琴葉を抱きしめた。
「・・・大地?」
「俺も、琴葉のことが好きだ・・・子どものときから好きだった・・・森を守る仕事に就いたのも、なんのことはない、好きだった琴葉を守りたかったからだ」
それだというのに、このザマはなんだろうか。
プロジェクトを成功させるのに夢中になって根本的なことを忘れ、そして今、守るべき琴葉は泣いている・・・
「全然約束を守られていないじゃないか、まったく・・・」
「ううん、大地は約束を守ってくれはったよ・・・」
涙で濡れた顔をクシャクシャっと崩して琴葉は笑う。
その笑顔は最高にかわいらしかった。
あっ、と琴葉は何かに気づいたような顔をし、再び笑った。
今度は悪戯っぽい笑みだった。
「せや、約束を守ってくれた暁にはもう一度接吻する約束やったな?」
そう言って琴葉は眼を閉じ、俺を待つ。
俺は思いをこめ、約束のキスをした。
「ん・・・はふっ・・・んぅ・・・」
「・・・・っ」
灯りを消した部屋に琴葉と俺の吐息が響く。
互いの舌を絡めあい、唾液を味わい、くちびるを押し付ける・・・先ほどのキスより、ましてや15年前の子どものキスとは全く違う、貪るようなキスを交わす。
15年も互いへの思いを溜め込み、気持ちを確認し、口付けまでした俺たちは止まれなかった。
「随分せっぷんがうまいどすなぁ・・・何人の女子を泣かせはったやろ?」
意地悪そうに微笑みながら琴葉は問う。
純粋に感心もしているようだが、かすかに嫉妬も感じられた。
「さぁな・・・」
過去に付き合った女性は何人かいたが、何か満たされなかった。
どこかで琴葉のことを思い続けていたからだろうか・・・
「そう言う琴葉もうまいんじゃないか?」
「うち、母さまから精をもらうときは接吻か、赤ちゃんがお乳を吸うかのようにしてもろうてたさかい・・・」
なんて淫靡だろうか。
「あ! 大地、今その様子を考えてはったやろ?」
「・・・まぁな」
これ以上、何か言われないように俺はまた琴葉のくちびるを奪った。
琴葉も受け止める。
今度はキスだけでなく、手も仕事を始めさせた。
琴葉の髪を梳き、首筋や顎の下を撫で、そして胸元に・・・
「ん・・・」
キスをされながらちょっと恥ずかしそうに琴葉は身をすくめたが、かまわず俺は浴衣の襟を広げた。
ぷるんと形が良くて、柔らかそうだが張りのある乳房が飛び出す。
グラドルとしても十分食べていけるくらいのものだろう。
「綺麗だ・・・」
思わず俺はそうつぶやき、手で胸を愛撫する。
そして唇の先でしこりはじめている頂を弾く。
「ひゃん!」
鼻にかかった嬌声が上がる。
「可愛い声を出すんだね・・・」
「い・・・言わんといて・・・」
琴葉が顔を真っ赤にする。
俺はその様子を楽しみながらまた胸に口を近づける。
「ひゃ・・・・はう・・・あっ・・・あっ! 気持ち・・・いい・・・」
身体を震わせながら琴葉が快感を口にした。
左手もサボらせずにもう一方の胸を愛撫する。
さらに右手で、琴葉の浴衣の帯から上を完全にはだけさせた。
そして敷かれていた布団に二人で一緒に横たわる。
「っは・・・」
「・・・」
くちびるを離して琴葉を見ると、とても扇情的な姿をしていた。
特に、乱れた浴衣の合わせ目から覗く脚がなんとも艶かしい。
太ももの方から手を這わせ、それをどんどん上のほうへ・・・
ショーツは冷たく湿っていた。
「すごく濡れている・・・」
「大地だって・・・」
琴葉がおっかなびっくりだが反撃してきた。
白い手が伸びてきて、俺の浴衣の下の合わせ目に入っていく。
そして下着越しに俺の痛いくらいに勃起した性器をつかんだ。
「えらい硬くなっとる・・・」
目を見開いて琴葉は驚く。
でも、臆することはなかった。
もう一方の手を伸ばして俺の下着を下ろそうとしてきたので、俺は自分の浴衣の帯を解いて手伝う。
俺は裸体に浴衣一枚羽織っているだけの状態になった。
そっと、俺は琴葉のショーツを脱がせた。
「い・・・いや・・・」
琴葉が身体を硬くする。
恥ずかしがっている琴葉にさすがにいきなりアソコを触るのは躊躇われた。
安心するように抱きしめて、背中とお尻、そして尻尾の付け根を撫でる。
時々琴葉は快感で短く甘い声を出して身体をすくめていたが、少しずつ身体から力を抜いていった。
スッと軽くクリトリスを触る。
「ひゃっ! あんっ!」
とたんに琴葉の口から嬌声が上がった。
続けて触り、さらにクリクリと転がすように愛撫する。
そのたびに琴葉は身体を震わせたり捩らせたりしながら甘くて可愛らしい声を上げた。
「大地・・・そこ・・・気持いい・・・!」
琴葉が快感を素直に口にする。
その様子にある推測が浮かび、わざと口にしてみた。
「意外と一人でやっていたりして・・・?」
「なしてそれを・・・あっ!」
カマにかかった。
琴葉は顔を真っ赤にし、その顔を両手で覆う。
「ややわ、恥ずかし・・・!」
「ごめんごめん、ちょっといじめすぎたかな?」
俺の言葉に琴葉が目だけを覗かせてぽつりとつぶやいた。
「大地のいけず・・・」
上目遣いでそう言われ、俺は理性が吹き飛びかかる。
落ち着け、俺。
相手は初めてなんだぞ。
落ち着いて深呼吸をして動きを止めている俺に、琴葉が訊ねる。
「大地は自慰をしはるような、いやらしい女の子は嫌い?」
俺は首を横に振った。
「そんなことはないよ。エッチな女の子が好き嫌いじゃなくて、俺は琴葉が好きなんだ」
琴葉の横に自分の顔を寄せ、耳元でささやく。
顔を横に持っていったのは赤くなった顔を隠すためだ。
今の言った言葉は本心だけど、自分もオナニーをすることもあるとか、まして「実は精通してしばらくは琴葉のことをおかずにしていた」なんてことは言えない。
前者はまだともかく、後者は口が裂けても言えない。
カミングアウトした琴葉には悪いが、自分のことは胸のうちに仕舞わせてもらおう。
「だからいくらでも乱れていいよ。その姿を見れるのは、俺だけだからな」
そういいながらクリトリスを撫でていた指をさらに膣の方に進める。
クッと指先を入れてみた。
琴葉のアソコは粘液を俺の指に絡みつかせながらそれを受け入れる。
膣内はまだ硬くて狭く、慣れていない感じだったが、それでも中で指をぐにぐにと動かすと琴葉の口からさらに嬌声が上がった。
「大地・・・もう、うち・・・」
琴葉が潤んだ目で訴える。
恥ずかしがってそれ以上は言わないが、俺には琴葉が何を求めているか分かった。
俺も同じ気持だ。
琴葉の脚の間に身体を割っていれ、互いの性器をくっつける。
琴葉が震えているのが分かった。
「無理はしなくても・・・」
「無理なんてしてへん!」
俺の言葉は琴葉の声でさえぎられた。
「ずっと・・・ずっとしんぼうしてたんさかいに・・・はよう、はようして」
琴葉の切ない声に俺は心を決めた。
少しずつ腰を進めていく。
「あ・・・い・・・くっ・・・」
俺の下で琴葉が苦しげな声を上げる。
痛々しい声に俺は入れるのをやめようかと思ったが、生殺しのような真似はしたくない。
ゆっくりと時間をかけて、俺は琴葉と繋がっていく。
そしてとうとう、奥まで俺のものが納まった。
「全部、入ったよ」
「うれしい・・・やっとうちら、ひとつになれたんやね」
身体をこわばらせ、目に小さい涙の粒を浮かべながら琴葉が答える。
その言葉が嬉しくて、俺は琴葉を抱きしめた。
琴葉の中はきつくて、温かくて、気持ちよかった。
相手が落ち着くのを待つこともあったけど、その感触を味わいたくて俺は動かずにいた。
琴葉も同じ気持なのか、ギュッと俺を抱きしめかえしてくる。
「うちは大丈夫やよ・・・ええよ、動いても・・・」
しばらくして琴葉に言われ、俺はゆっくりと、琴葉に負担をかけない程度に動き始めた。
キスや胸への愛撫も加える。
「ん・・・くっ・・・あ・・・あん・・・」
琴葉の苦しげな声の中にも、甘いものが混じってきて、俺の動きに合わせてつぷ・・・つぷ・・・という水音が聞こえてきた。
魔物娘は概して好色なものだ。
初めてでも痛みの峠さえ過ぎれば気持いいものらしい。
高校時代に魔物の彼女がいたやつが言っていたが・・・
「ひゃ・・・うっ!?」
琴葉のあえぎ声のトーンが高くなった。
そこがツボらしい。
まだ激しくは動かないが、そこを執拗に攻める。
「あ・・・あんっ・・・! あかん! そこは・・・あっ!」
ダメと言っているが、ダメでないことは明白だ。
様子を見てペースも速めていく。
もう苦しげな声は聞こえない。
琴葉は俺を抱きしめて肌を最大限に合わせ、快楽を貪る。
「や・・・やあ! なんか来はる! なんか・・・あああ!」
「ん? もしかしてイキそう?」
そう訊ねる俺もそろそろ限界だ。
「わ・・・分からへん・・・でも・・・あっ! おかしく・・・なる・・・!」
「いいよ・・・そのままおかしくなっても・・・!」
二人で絶頂を駆け上がろうと、俺は追い込みをかけた。
「あかん・・・もう・・・もうっ・・・!」
俺の腕の中で、琴葉の背中が弓なりに反った。
同時に俺のアソコがきついくらいに締め付けられる。
射精をせがむかのように根元から絞り上げられるような刺激に耐えられず、琴葉の中に精液を思いと共に吐き出した。
「琴葉・・・」
「大地ぃ・・・」
絶頂の余韻が醒めない身体で、互いの名を呼び、そのくちびるをふさぎあい、もう離さないとばかりに俺たちはきつく抱き合った。
あれから3ヶ月・・・
「鈴木君、なかなかのプレゼンだったぞ」
プレゼンが終わり、会議室の後片付けをしている俺に部長が上機嫌で話しかけてきた。
「ありがとうございます!」
「結構頑張っているようだし・・・やっぱり、これか?」
ニヤニヤしながら部長は小指を立ててみせる。
「やめてくださいよ、部長」
言葉では嫌がるが、俺もニヤニヤ笑いが止まらない。
彼女・・・もちろん琴葉のことだ。
あの日から俺たちは付き合い始めた。
本当はすぐにでも同棲したかったが、残念ながら俺たちには金がまだない。
そして琴葉がこっちの方で働けるあてがないので、琴葉はホテルの仕事を続け、俺はこっちで仕事を頑張っている。
そして2週間に1回くらいのペースで、二人は俺のアパートか琴葉のホテルで過ごすのだ。
ちょっと遠距離恋愛。
ちなみに宿代はすこしサービスさせてもらっている。
さらにちなむと、宿の布団が汚れないようにいつも気をつけている。
初めてセックスしたときは血とか精液でちょっと面倒なことになったからな・・・
「早く結婚できるといいな。私が式に参加できるのを楽しみにしているぞ」
「たはは・・・」
部長の言葉と過去の思い出に苦笑しながら俺はスーツの上から胸ポケットに入っているものをぎゅっと掴む。
それは、琴葉からもらった稲荷のお守りだ。
握り締めながら、あの夜、琴葉にささやいた言葉をまた心の中でつぶやく。
『琴葉・・・見ていてくれ。君のためという動機から始まったことだけど、そんな俺が頑張って事をなすところを、見守ってくれ』
部長に一礼し、もう一度、胸ポケットに入っているお守りを強く握り締めて俺は歩き出した。
これからもまた、俺は頑張る。
11/03/23 18:27更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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