悪役令嬢に転生しちゃったので破滅ルートを全力で回避しようとしたら異分子のXXXが入り込んだせいで国は滅亡しちゃいましたけどみんな幸せです
皆様は前世というものをお信じになられますか? 私? ドレッサーの前でまどろんでいて目を覚ましたたった今、信じるようになりましたわ。
ごきげんよう、私の名前はシルフィーユ・アンジュルムと申します。悪役令嬢ですわ。
え、自分のことを「悪役」というのはなぜなのかですって? 仕方がないですわ。そういう役回りですもの。
……もうちょっとでいいので、砕けた口調で話をさせてください。私の"前の名前"は天野風花……まだ全部は思い出せませんが、ある程度前世のことは思い出してきました。そして気付いたのです。この世界は、私が前世で良くやっていたゲーム……最初の文字がオで最後の文字がメで、真ん中の文字がトの、三文字のゲームのジャンル……その中で攻略対象が少ないけどストーリーはなかなか良くできていると言われたゲーム、『聖なる力と選択の王冠』というゲームの世界だと。そして私は、そのゲームの悪役令嬢、シルフィーユ・アンジュルムに転生してしまったのだと。
このゲームは、孤児院の出で貴族の養子となったケイト・エルウィンという女性が主人公で、三人の王子が攻略対象のゲームです。すなわち、優しくて誰からも好かれる優雅な第一王子のエドワード、少しやんちゃだけどたくましくて爽やかなリチャード、シャープなメガネがチャーミングなクール系のチャールズ……この王子の好感度を高めて結婚を目指すのが『聖なる力と選択の王冠』というゲームです。
さて、その主人公のケイトのライバル的な存在がいます。それが私、シルフィーユ・アンジュルムです。孤児院の出のケイトをいつも嘲笑し、陰湿な嫌がらせをして、攻略対象の前で恥をかかせたりして攻略対象の好感度を下げ、妨害しようとしてくる存在です。はい、お手本のような悪役令嬢です。
シルフィーユは嫌なキャラではありますが誰もが振り返るような美貌を持ち、スタイルも抜群です……いま、自分で実際に胸を触ってみてますが、前世のぼんやりとした自分の記憶にある大きさよりはるかに大きくて微妙な気持ちになります。手におさまりきりません。
ドレッサーの鏡に映っているのは、ゲームでも見たあの姿……ツンと鋭くつり上がった強気そうな目と眉、少し薄めの唇、陶磁器のようなつややかな肌……髪は色素が薄めで鎖骨のあたりでは螺旋状にまかれております。いわゆる縦ロール。
そして、そんな美貌の持ち主のシルフィーユには婚約者がいます。第四王子のジョセフです。背が低くて自信がなさそうでおどおどしていて、何でもできるけど何か一つとなるとどうしても兄たちには敵わず、シルフィーユに一言きつく言われるだけですぐに引っ込んでしまう、影の薄いキャラ……この手のゲームとしては憧れるようなキャラではなく、攻略対象ではありません。
『いや、とは言うもののゲームをやったときも思ったけどシルフィーユ、贅沢すぎるわよ……』
優しいし、王位継承権は兄たちよりは後ろになるかもしれないけど十分すぎる身分になるし、何が不満なんだと言いたいです。でも、シルフィーユの性格的に、自分より出自が悪いケイトが、自分より条件が良い王子と結婚するのが我慢できなかったのでしょう。前世の記憶を思い出し、魂がそちらに塗り替えられつつある私としてはちょっと理解できないのですけど。
さて、そんなシルフィーユですが……主人公が誰かと結ばれるハッピーエンドになった場合はだいたい、シルフィーユは因果応報とばかりにひどい目に合います。
はい、困りました。私は今、シルフィーユに転生したということを思い出してしまいました。このままぐずぐずしていると、ひどい目にあってしまいます。転生を自覚して、気持ちも本来のシルフィーユよりは前世のものによりつつあるのに、あんまりです。
カレンダーを見てみると水の月の10日……ゲームも後半戦に差し掛かろうとしているころです。もう十分、ケイトのヘイトが溜まっているような状況なので、彼女が誰かと結ばれると私はひどい目にあうことでしょう。なんとかしなければ……
『まず、今この世界がどのルートを進んでいるかを把握する必要があるわ』
ぐるりと部屋を見渡したその時、ドアをノックする音が聞こえました。どうぞ、と声をかけると使用人が入ってきました。
前世のことを思い出して衝撃を受けて、シルフィーユとして暮らした19年の記憶が飛びかけてましたが……ああ、彼女は私の着替えや化粧を手伝ったりしてくれるタリアータでした。ゲームには出てきません。しかし、そのような人はごまんとおりましょう。下着に関しても彼女は関わっておりますので、シルフィーユの人生の中でおそらく一番私の肌を見ている人間です。そしてそれだけシルフィーユが信頼している部下でもあります。
「居眠りされていましたか、お嬢様?」
「ごめんなさいね、タリアータ。 ……ねえ、今日は私は何か予定があったかしら?」
「このあとでお屋敷の地下でご面会の予定があると少し前にお嬢様がおっしゃっておりましたが……」
ぎゃー! まずい! 最悪!! これは王国崩壊の危機すらある通称破滅ルート!!
このルートは、すべての王子の好感度を最高より少し手前まで上げて、そしてシルフィーユの陰謀をすべて打ち砕いたときに開放されるルートです。このルートでは追い込まれてヤケになったシルフィーユが邪教徒と接触して呪いでケイトを亡き者にしようとします。……うまくなんとかすれば、ケイトはその呪いの力を打ち消し聖なる力に目覚め、さらに邪教徒が召喚した魔神に打ち勝ち、聖女の王として君臨し、攻略対象の王子を誰か一人自由に選べるというボーナスルートです。ちなみにこのルートだとシルフィーユは、呪いの代償として邪教徒によって、魔神の召喚の生け贄のために実に、筆舌に尽くしがたいレベルで惨たらしく殺されてしまいます。
いやだー!!! それが今これから私の身に起こるの!? 絶対嫌!!
「客人の方はすでに下で準備されております。お嬢様、お支度を……」
……落ち着け、ここはゲームの世界ではあるけれどゲームではなく、私が自分の意志をもって動くことができる世界。ならば、邪教徒の誘いを断れば破滅ルートには進まないはず。
「ええ、今行きますわ」
私は背筋を伸ばして部屋を出ます。転生の事が分かったとしても、私はシルフィーユ・アンジュルム。アンジュルム家のプライドをもって、怯えることなく、国の、そして私の危機を未然に防いで見せますわ!
「ごきげんうるわしゅうございます、シルフィーユ・アンジェルム様。私が御国から邪教と忌み嫌われております宗教の者、レイチェルと申します」
席について私はすぐに困惑します。ゲームではシルフィーユと邪教徒の密談の様子は演出されるのですが、その時の話相手は、フードつきのローブで口元以外はすっぽりと姿を隠してはいますが、男性だったはずです。しかし、相手の声はどう聞いても女性……名前も女性です。
ちなみに私とテーブルを挟むようにしてレイチェルが席についており、その後ろにさらに二人、同じようにローブを身にまとっていて口元以外はよくわかりません。でも雰囲気で女性のように見えます。私の背後には、タリアータがついております。
「ごきげんよう、私があなた方を呼んだ、シルフィーユ・アンジュルムですわ」
つとめて平静を装い、相手の話に合わせるように私は挨拶します。良き名前ですね、とレイチェルは笑います。これもそんなイベントシーンがなかった私としては、困惑のような気持ちが出ます。
「さて、アンジュルム家の令嬢ともあろうお方がわざわざ邪教と忌み嫌われております私共と接触したのは、どのようなことがありましたか?」
「えーっと、それは……」
どう答えましょう。ゲームではシルフィーユは「あの憎たらしい女を亡き者にしてやりたい」などと言うのですが、今の私、今のシルフィーユにはそんな気持ちは毛頭もありません。すぐにでもこの邪教徒を追い返して自分の部屋に戻りたいです。
「そして、戻ってどうするのですか?」
「……え!?」
私の考えを読んだようなレイチェルの言葉に私は仰天します。フードの下のレイチェルの口角が上がります。
「ふふふ……私の前から逃げたそうに、脚と肩がそわそわしていますわよ。大丈夫、とって食ったりしませんよ」
そ、そうは言っても……
「さあ、シルフィーユ様、あなた様のお心をお聞かせ願えませんか?」
「……私は、あの女を亡き者にしてやりたいと強く思っていました」
とりあえず私は言葉を紡いでみます。もともとのシルフィーユの気持ちを代弁しつつ、その上に乗せる言葉を話しながら探して。
「ほう、それはどうして?」
「あの女は私よりも身分が低いのにエドワード様やリチャード様やチャールズ様にちやほやされて! だから私はあなた達の力を借りてあの女を亡き者にしようと思っていたのですわ」
「そうだったのですか……しかしシルフィーユ様。聞いてみると、今のお言葉、すべて『思っていた』と過去形ですよね?」
その通り。今のシルフィーユは少し前までのシルフィーユとは違うのです。今の私はシルフィーユはそのようなことなどを思っておりません。
さあ、貴女の今のお望みは? レイチェルが首をかしげます。生暖かく重たい、ヘビがうねっているかのような空気がアンジェルム家の地下室に漂っています。
そんな中で私は必死に考えます。なんとかしてこの破滅ルートから逃れたい。この邪教徒の前から逃げ出したい。そのためにどう言おうか……あーでもないこーでもないと言葉が浮かんでは消えます。
「お迷いになられてますか、シルフィーユ様。ゆっくりと、上手いこと言おうとせず、素直なお言葉で、一番どうしたいかをお聞かせください」
邪教に連なる者とは思えない優しい笑みを浮かべて促してくれるレイチェル……それが邪教徒のやり方なのかもしれないのですが。しかし今の言葉で、私が落ち着いたのも事実です。
結局私は何がしたいのか? なぜこの邪教徒の前から逃げ出したいのか? 答えはとっても簡単。ゲームのように惨たらしく殺されたくない。生き延びたい。
そう考えたら繋がるように出てきました。転生を自覚したらもうケイトをいじめたりしないから、静かに生きたい。生きたい……
「生きたい、です……」
そうだ、つまるところ私は生きたいのです。破滅ルートはもちろん避けたいし、他のルートでも断罪されて死んだりしたくないのです。今の私はケイトを妨害したいわけでもなければ、エドワードたちを自分のものにしたいわけでもなく、静かに暮らしたいだけなのです!
このままジョセフ王子と一緒に……
「よく分かりました、シルフィーユ様。その望みを私たちは叶えましょう」
私の身体に緊張が走ります。その望みを叶えるために一体何をしようというのか……
「うすうす感づかれているとは思われますが、このままだと貴女はケイト様とそのパートナーから糾弾されて死ぬ……死ななくても穏やかな生活ができません」
その通り、破滅ルートを避けてもほかのルートでもシルフィーユはろくな目にあいません。生きているだけで丸儲けなる言葉は前世でよく聞きましたができれば、できれば先程のように、静かに穏やかに、幸せに暮らしたいですわね。
「ではどうすると言うのですか? ……言っておきますが、私は貴女達の手を借りてケイトを呪い殺して先手を打つとかそんなことは望みませんわよ?」
「そうでしょうね。では、そろそろ茶番は終わりにして私達も正体を明かしましょう」
そう言ってレイチェルはやおら立ち上がってローブを脱ぎ捨てました。ローブの下に彼女は、その邪教の法衣と思われる服を来ておりました。しかし、おおよそ聖職者の衣装と言うには彼女の服は扇情的でした。ワンピース型のローブの横にはざっくりとスリットが入っており、ややもすると鼠径部まで見えてしまいそうです。お腹をはじめそこ以外はきちんと肌を守っているかと思いきや胸元はざっくりと開かれており、深い谷間が除いています。
口元だけしか見えていませんでしたがフードが取られた今、その全貌が明らかになっています。立場上、この19年の間に沢山の美女を見てきましたが、レイチェルはその中でも最上級に位置します。
そして何より目を引いたのが、その美貌を持つ頭の横からにょきりと伸びている黒色の角……そして左右に張り出している腰の中央から伸びている尾、孔雀のように広がられている鴉のような羽毛……
レイチェルだけではありません。同様に彼女の背後に控えていた二人もその外套を脱ぎ捨てましたが、同じように角と尾と羽が……
「ま、魔物!?」
「改めましてごきげんようシルフィーユ・アンジェルム様。私、堕落神に仕えますダークプリーストのレイチェルと申します」
「堕落神?」
「そうです……世の皆様は真面目に考えすぎなのです。貴女も、シルフィーユ様。王位継承権がより上位の王子と結ばれたいだとか、自分より身分の低い女がその王子と結婚するのが嫌だとか……どうでもいいではないですか。そのような難しいことなど捨てて、人は愛する人と愛し合い、欲望のままに堕落していくべきなのです」
「……よく分かりません」
もう、レイチェルの言うように結婚相手の王位継承権だとかケイトのことだとかは今のシルフィーユにとっては、確かにどうでもいいのだけれども、突然この破廉恥な邪教徒は何を言うのでしょうか……?
「すぐに分かりますわ。さて、そろそろ私達もお暇しましょう。そろそろ、ダンスパーティーの時間では?」
そうでした。そう言えば確かこのあと、ゲームではダンスパーティーが開催され、その時にシルフィーユからの呪いが発動してケイトが血反吐を吐いて大騒ぎになるのでした。その直前にあった、シルフィーユと邪教徒のイベントが、こんなふうにおかしなことになったから、おそらくそのような騒ぎは起きないでしょうが……
はっと気づくといつの間にかレイチェルがテーブルを回り込み、私の前に立っていました。そして自分の指の腹に軽く口付けをしていました。そしてその手を、私の胸元へ……
「貴女がこの先、静かに、安全に、そして"幸せに"暮らすことができるよう……堕落神の加護があらんことを」
そう言い残すと彼女らはいかなる秘術か、その姿を揺らがせ、消えてしまいました。私と、事の成り行きを見守っていたタリアータは呆然とその場を見るばかり。
しばらく二人はそうしていましたが、先に立ち直ったのはタリアータでした。
「何やら分かりかねますが、とりあえずお話はおしまいですね、お嬢様。さあ、王城で舞踏会がございます。お着替えもございますから……」
「え、ええ……」
あまりにもあっさりとレイチェルたちが去ったので釈然としませんが、とりあえずこれで破滅ルートの密談イベントは回避したはずです。ここから私は、この王国はどうなるのか……それを見届けるため、私はタリアータに促されるままに、地下室を出るのでした。
舞踏会にて。私はいろんな貴族やその家族と挨拶をします。もちろん、あの女とも。
「ごきげんよう、シルフィーユ様」
ケイト・ウィンスレットです。ゲームでは顔には影が入っていてあまりビジュアルは表にはならないのですが、さすがにこの世界ではしっかりと姿が見えます。誰もが守ってあげたくなるような可憐で、くりっとした目が可愛らしい女です。
むむむ……転生したことを自覚し、気持ちが変わりつつある今でも、シルフィーユ・アンジェルムとして何かぞわぞわする不快感が……相手のケイトの表情も、ニコニコとしてはいますが硬いです。まあ、無理もありません。少し前まで、シルフィーユがいじめていましたからね。断罪されたりしないように、これからこの女とどうやりあうか……
『そんな必要はありません。貴女は貴女のことだけを考えなさい』
「え?」
不意に聞こえた艶めかしい女性の声が響いた気がして私はきょろきょろしますが、そのような人は近くにはおりません。
「どうかしましたかシルフィーユ様?」
「今、何か声がしませんでしたか?」
「いいえ、何も……お疲れですか、シルフィーユ様? パーティーはまだ始まったばかりですわよ?」
ふっと笑うケイト。その笑顔はやっぱり気持ちいいものではありません。さんざんいじめてきた相手の調子が悪いことを喜んでいるように見えます。それはゲームの主人公がしてはいけない表情ですわよ、ケイト様。
適当に話を切り上げようとしたとき、周囲がざわつきました。王子たちが登場したのです。第一王子のエドワード、第二王子のリチャード、第三王子のチャールズ、第四王子のジョセフ……
「……っ!」
ジョセフ王子を見た瞬間、私の胸が大きく高鳴りました。え……何、今のは……?
私はぎゅっと胸を抑えます。動悸が止まりません。ジョセフ王子を見た瞬間、胸の高鳴りと顔の火照りが止まらなくなったのです。これは一体……!?
「シルフィーユ様?」
少し前は私にマウントを取ろうとしてはいましたが一応は聖女……に今後なるケイトも、私の変化に心配そうな表情を見せています。
しかし私はそれどころではありません。目はジョセフ様に釘付けになり、顔の火照りは、心臓の鼓動によって全身へと流れ回っています。特にお腹のほうがきゅっと……
「シルフィーユ様?」
ふいに身体を支えられて私は我に返りました。ケイトの腕が私の身体を支えるように回されていました。どうも気づかないうちに2,3歩、前にまろび出ていたようです。倒れそうになったと思ったケイトが支えてくれたようです。
彼女に礼を言って私は何事もなかったかのように、国王や王子の挨拶を聞き流しておりました。
やがて、王子たちが婚約者や、結婚候補の娘たちとダンスを踊ります。婚約が決まっている人はともかく、候補は何人か相手を交代します。このダンスパーティーは王子たちとの婚約をかけた戦いでもあるのです。
私は相手が決まっております。第四王子のジョセフ様です。
「シルフィーユ……その、踊ってもらえるか?」
おどおどとエスコートの手を出してくるジョセフ様。元のシルフィーユはこの自信なさそうな態度が気に入らず、彼を毛嫌いしていたのですが、今のシルフィーユはそんなことはありません。それどころか、彼はとても魅力的で、今すぐに抱かれたくて……
「……!?」
突然浮かんだはしたない考えに私は頭を振ります。もう! どうしたというのですか、私の身体は!?
「……シルフィーユ?」
「あ、いえ、申し訳ありません……喜んで……!」
私はジョセフ様の手を強くしっかりと握り返します。今までのシルフィーユだったらちょっと嫌そうな顔をして、それでも愛想笑いを浮かべて手をつまむようにとっていたはずですが……今までとは異なる言動にジョセフ様は驚いているようです。
ちらっとケイトの方を見てみると、彼女はリチャード様に手をとられておりました。
音楽が始まりました。ジョセフ様のリードのもと、私は踊ります。前世の魂は社交ダンスなど全く分かりませんが、そこは元のシルフィーユの身体が完璧なまでに覚えていてくれていました。ジョセフ様の踊りもスマートで不慣れなところは一切ありません。さすがは王子です。
私たちはステップを踏み、ターンし、手をつなぎ合い……近くなるとジョセフ様の腕が遠慮がちに背中に回されます。ジョセフ様の体温が感じられます。もうそれだけで私はどうにかなってしまいそうです。
それだけではありません。スマートに踊っているジョセフ様も男です。私の身体を見まいとしてそれでもちらちらと見てしまっているのを感じます。そうですよね、このドレスは胸元が開いていて谷間がよく見えますものね。そして遠慮がちでもその瞳には確かにオスの炎が宿っています。そんな視線を受けて私は……
「あっ……」
音楽が終了すると私はよろけてしまいました。慌ててジョセフ様が支えてくださいました。彼に抱きかかえられて……自分で自分をごまかしているつもりですが、もう意識せざるをえませんでした。身体の熱は特に下腹部に集中し、熱を逃がすかのように私のそこは濡れています。下着が冷たく湿っているから分かります。スカートがふんわりとしていたドレスだから他の人にはバレていないでしょうが……
「シルフィーユ嬢、大丈夫か?」
主催であり、将来の義父ともなる国王のトレント8世が声をかけてくださいます。
……私は本当はこのダンスパーティーのイベントでこのあとケイトがどうなるのか、この国がどうなるのかを見届けるつもりでした。しかし、このように倒れかけ、国王様に心配された今、こう考えてしまいました。抜け出せるチャンスだと。ジョセフ様といっしょに。
「大丈夫ですわ……ただちょっと熱気に当てられたようですので、少し失礼いたしますわ」
救護の兵士たちに任されても良かったのかもしれませんが、別の意図があった私はジョセフ様をそのまま連れ出しました。彼もダンスパーティーを抜けることになりますが、すでに婚約者が決まっている以上、彼が舞台にいる意義は、他の王子と比べると薄いです。誰も引き止めませんでした。
私たちはバルコニーに出ます。夜風が涼しくて心地よいですが、私の熱はそれだけではおさまりません。時々、私の胸を覗き込もうとするジョセフ様の視線がよりその熱をかきたててきます。前のシルフィーユなら嫌がったかもしれませんが、今の私にはそれが嬉しくてたまりません。
「それにしてもどうしたんだい、シルフィーユ。今まで私にそっけなかったのに」
私から目をそらしてジョセフ様が訊ねてきます。どう説明したものでしょう。前世の記憶を思い出して文字通り心を入れ替えたと言って納得いただけるでしょうか? そもそも、今このように気持ちが高ぶっているときにうまく説明できる気がしません。
「……ふふふ、秘密ですわ」
そう言った方が、含みがあって面白いでしょう。それより、と私は切り出します。
「ジョセフ様は私のことをどう思っておりますか?」
「どうって……」
「ジョセフ様と私の婚約は政略的なもの……少し前まではジョセフ様に辛く当たってしまったりして……その……取り返しがつかないレベルまで嫌われてしまったのではないかと……私より可憐なケイト様の方が良いのではないかと思って……」
「……いや、そんなことはないよ。確かに……その……当たりが強いと思ったこともあるにはあるけど、魅力的な女性だと思っているし……何より『四番目だろうとなんだろうと、貴方は人を導く王子なんだから、堂々としなさい!』と言われたのは、今でも大事にしているんだ」
そう言えばゲームにもそんなセリフを言うシーンがありましたわね。プレイヤーたちが預かり知らないところで登場人物の気持ちや人生に大きな影響を与えているなんて、素敵ではないですか。
「……ケイト嬢は聖女かもしれないなんて言われているね。他にもいろんな貴族令嬢がいるかもしれない。でも私は、シルフィーユと添い遂げようと思っているよ」
はにかむように笑いながら言うジョセフ様。その顔に、興奮のあまり私は全身の血が逆流したかのように感じました。
私は転生を自覚したときから、破滅ルートを回避したい、ただ生きたいとだけ思っていました。でも今は違います。このジョセフ様と一緒に生きたいです。いや、もっと欲深いです。
『もう分かっていますね?』
ダンスパーティー前にも聞こえた艶めかしい声がまた響きました。先程はパーティー会場だったので他の誰かがいたかもしれませんが、今は私とジョセフ様しかここにはいません。
「ジョセフ様……」
聞こえてきた声に突き動かされるように私は彼に身を寄せます。胸を押し当てると、彼の鼓動が高ぶったのが聞こえてきました。思わず笑みを浮かべてしまいます。姿なき声の主が笑った気がしました。
『さあ、彼の気持ちを、欲を、身も心もすべて受け止めるのです。貴女もそれを望んでいるはずです』
「ジョセフ様……私が心を入れ替えた理由は秘密ですが……私がどう思っているかは包み隠さず、お見せします……ジョセフ様、踊りませんか? ジョセフ様の部屋で、二人きりで……」
王子の部屋は、その中に民家があるのではないかと思うくらい広いです。前世の天野風花はそう驚いたでしょう。執務室を抜け、その奥の扉を開けて、一人で眠るには広すぎる、本当に踊ることができそうな寝室へ……
部屋に入るなり私は腕をジョセフ様の背中に回しました。ジョセフ様もダンスのように腕を背中に回します。
どちらからともなく私たちは顔を寄せ合い、口づけをしました。ただ、タイミングはともかく、熱烈さは圧倒的に私の方が上です。ジョセフ様の部屋に入ったように、遠慮なく舌もジョセフ様の口を割り、中へ入り込み、彼の舌に抱きつくように絡みつきます。
抱き合い、くちびるを重ねたまま、私たちはステップを踏んでベッドに寄ります。名残惜しいですが一度私たちは離れました。ドレスは自分では脱げないので、ジョセフ様にお願いをして背中を向けます。
「背中の紐を引いてくださいまし。……お望みでしたら破いてしまっても構いませんわよ?」
さすがにそんな乱暴なことはしないとジョセフ様は笑って言って、大義そうにドレスを脱がせてくださいました。
豪奢なドレスの下はインナーのみです。本来であれば見せないところですが、そこにも力を入れるのが一流の家です。
胸元をつつむ、ストラップのないブラジャーは黒の絹糸でできており、細かなレースに加えてバラの刺繍が加えられております。それがつつんでいる胸は、私の手に収まらないくらい……赤ん坊の頭より大きいのではないかと思うくらいの大きさです。
ショーツの方も同じような黒を貴重としたデザイン。黒色なのは、万が一転倒しても翳りでよく見えないようにするためです。そして生脚が出ないよう、ガーターベルトでストッキングも吊っています。
「いかがですか、ジョセフ様?」
私は振り向いて訊ねました。こんな姿は前世を含めて誰にも見せたことはありません。こんな姿を見せるのは……夫となる人以外にはありえませんわ。
ジョセフ様はしばし私の姿を見ておりましたが、やがて「素敵だ」と言ってくれました。社交辞令ではなさそうです。
『彼のソコを見てみなさい』
二人しかいないはずの寝室に響く例の声……導かれるままに見てみると、彼のズボンの前面は苦しそうなくらいに張っていました。私はそれを手のひらで撫でました。
「シルフィーユ、こ、これはその……」
「ああ、殿下……私の下着姿を見てここまで欲情してくれたのですね? 嬉しいですわ」
幾重の布越しでもその硬さと大きさと熱さが伝わってきます。自分の身体にここまで反応してくれるだなんて……これほどまでに嬉しいことはありません。
ジョセフ王子も礼装を脱ぎ捨てて下着姿になり二人でベッドに上がります。王族のベッドゆえ、二人で乗っても狭くなどありません。
失礼しますわと言って私は彼の下着を取り去ります。現れたのは私の手に余るほど張り詰めた男性器でした。
「その、シルフィーユ……あまりまじまじと見られるのは恥ずかしいのだが……」
「ふふふっ、これがこれから私の中に入るのかと思うと愛おしくて」
その言葉を聞いたジョセフ様の目が丸くなります。
「もう、その……繋がるつもりかい? 婚約者とはいえまだ婚姻の儀を済ませていないのに、それは……」
確かに、この世界の価値観だとそうなるかもしれない。婚約破棄なんていくらでもあるわけですし、実際にゲームのシルフィーユは断罪前にはジョセフ様に婚約破棄されるわけですし。その前に処女を失うのもどうかとは思うのですが……
『そのような難しいことを考える必要はありません。貴女は、貴女達は、欲望のままに従い、堕ちるべきなのです』
そう、熟した果実が自然に落ちるように。私たちが今、結ばれることは自然なこと……頭の声に従い、私は進みます。
「殿下、ここをこんなにしておきながらそれは説得力ないですわよ。それに……」
そう言って私はジョセフ様の手を導きます。その先は、ダンスパーティーのときから濡れていた秘所……
「私はジョセフ様と一つになりたいのです」
「シルフィーユ……」
私の濡れ具合を見て、ジョセフ様が生唾を飲み込んだのが見えました。さきほど難しいことを言っていたことなど忘れ去り呆けたように彼は私の秘裂をなぞります。
「んっ、んっ?」
思わず声が漏れてしまいます。負けじとばかりに私はジョセフ様のペニスを握り込み、上下に動かします。たちまち、ジョセフ様の顔が快感にゆるみました。
私たちは体を寄せ合い、ときどき口づけをかわし、互いの性器を撫であいます。二人の荒い息使いが部屋に響きます。
「シルフィーユ……その……」
「いかがなさいましたか?」
「……もっと触って良いか? 胸とか……」
もちろんですとも、何を言っているのですか。想っている殿方の欲望をすべて受け入れるのは当たり前じゃないですか。
私は背中に腕を回してブラを外しました。現れた胸にジョセフ様が目が釘付けになっているのを見てうれしくなります。ゲームのイラストを見たときも、そして転生を自覚してからも想っていましたが、改めて見ると、シルフィーユの胸は本当に大きいです。柔らかくて、大きくて、ずっしりと重たくて、それでいて垂れることなくハリを持っていて……そんな胸に、ジョセフ様は顔を埋めてきました。
「やわらかい……」
「お気に召したようで光栄ですわ。もっと好きにして良いのですよ? だってジョセフ様は私の婚約者なのですから……この身も心も全部ジョセフ様だけのものですわ」
そうすると、ジョセフ様は恥ずかしがりながら、私にお願い事をしてきました。その胸でペニスを挟んでほしいと。もちろん、厭うはずなどありません。
ジョセフ様にはベッド縁に腰掛けていただき、私は彼の脚の間に身体を割り入れ、床に膝をつきました。女が男に奉仕する形の姿勢……以前のシルフィーユでしたら絶対やらなかったでしょう。しかし今の私はこうして、彼の望みであればなんでも叶えてあげたくなってしまいます。
そっと両手で乳房を寄せて王子のペニスを挟み込みます。そして身体を踊るようにくねらせ始めました。ダンスパーティーでのような息をあわせた社交ダンスではなく、男を悦ばせる猥りがましい踊り……
「いかがですか、ジョセフ様? 先程のダンスでも、私の胸を見ていましたね?」
「うっ、それは……申し訳ない」
「いえ、いいのですよ。むしろ嬉しかったですわ。私の胸で、気持ち良くなってください」
私は乳房を圧迫しながらこするように身体を上下左右に揺らします。こんなこと前世の私が知れば鼻で笑っていたでしょう。ですが今の私にとってみればこれが当たり前なのです。
「シルフィーユ……ああっ、いい……」
ジョセフ様の顔が快楽にとろけています。そして私の胸にもみくちゃにされている自分のペニスを見ています。どんな男でも目を奪い、女の憧れになるであろう私の胸……それが自分の泌尿器を挟んでいるというのは、特に彼の気持ちを掻き立てていることでしょう。
悦んでいる彼を見て私も嬉しくなります。好きな人が喜んでくれるのですもの、うれしくないわけがないです。そしてその嬉しさは私の身体も駆り立てます。ぽたりと絨毯に雫が垂れた音がしました。とうとう愛液がショーツを通り越して滴り落ちてしまったみたいです。そのくらい私は濡れ、興奮しておりました。
あまりに興奮していて、あまりにうれしくて、つい熱が入ってしまったみたいです。そのときは唐突に来ました。
「シルフィーユ……すまない……出るッ!」
「え?」
私が聞き返すより先に始まってしまいました。谷間から覗いている亀頭が膨らみ、そして爆ぜました。射精です。放たれた白濁液はベッドの天蓋に届くのではないかと思うほど勢いよく噴き上がり、そして重力に従って私に降り注いできました。あっという間に私の胸は、そして顔が白く染まってしまいます。
『ふふふ……たっぷり受けましたね。彼の欲望の証を……』
熱くぬめった生臭い液に恍惚としている私に、久方ぶりにあの艶めかしい声が聞こえてきました。せっかくの彼との時間を邪魔されているという煩わしい気持ちもわずかにありましたが、私はその声を聞きます。
その声は言いました。
『男を悦ばせ、男の欲望をその身に受け、それを歓び、そして自らの欲に素直になった貴女は……私、堕落神の使徒になる資格がある』
声が聞こえた次の瞬間、私の胸が大きく高鳴りました。ダンスパーティーでジョセフ様を見たときのように、でもあの時以上に……
何度か私の中で大きな鼓動が起き、そして弾けました。
「ああああああっ♡」
声を抑えられませんでした。それは性的なようなものでありながら、何か解放されるような、快感……
そして声を上げている私の腰からにゅるりと尾が伸び、その横から黒い翼が広がり、そして頭からは角が……すぐに理解しました。
私は、レイチェルらと同じ堕落神の使徒、ダークプリーストになったのだと。
ジョセフ様も私の変化に仰天しております。無理もないでしょう。
「シルフィーユ、君は一体……!?」
「私は私ですわ、ジョセフ様。前世の記憶を思い出したり、ダンスパーティーの前に同じダークプリーストと話をしてこのように私もダークプリーストになったりしましたが……ずっと私は私ですわ」
もちろん、私がずっと昔から魔物で、騙してきたわけでもないことも言う。
「それとも、人を辞めた私はお嫌いになられましたか?」
「……いや。少し前の私の言葉を覆すつもりはないよ。たとえ君が魔物でも、悪魔でも、聖女でも、天使でも……私はシルフィーユと添い遂げようと思っているよ」
彼の言葉を聞いて、嬉しさのあまり新たに生えた尾と翼が逆立ったかのように思えました。その気持ちに突き動かされるように、私は彼に下からくちびるを重ねました。ジョセフ様も私を受け止めてくれました。
もつれるように、倒れ込むようにして二人はベッドに上がりました。私は何も言わず、もはやおもらしをしたかのように濡れて用を成してないショーツを脱ぎ去りました。その私にジョセフ様が覆いかぶさります。
「シルフィーユ……私を受け止めてくれ」
「もちろんですわ。ダークプリーストのシルフィーユ・アンジェルム……愛するジョセフ・クロンヌス様の身も心も欲望も、すべて受けますわ」
私は両脚を大きく広げ、手は祈りのために組みました。そして愛しい人を受け止めるべく、待ちます。腰を少し動かしてジョセフ様は濡れきった私の性器に狙いを定め……腰を沈めました。
「んあぁああああっ♡」
口からはしたない声が上がりますが、とても抑えられません。それほどまでに、彼との大事な場所での結合は、快感でした。
一方、ジョセフ様の方は快感に顔を歪ませております。ああ、こんな顔を見られるのは、ケイトや他の女ではなく、私だけなのですね。
「うう、心地よすぎる……あつくて、ぬるぬるしていて……まるでいくつもの舌に舐められているようで……」
「ジョ、ジョセフ様っ、そのように言われるとさすがに少々恥ずかしゅうございますわっ!」
つい先程、ダークプリースト……淫らであればあるほど良いとされる魔物娘の一種になった私ですが、それでもまだちょっと気持ちが追いついていないところもあり、羞恥心が煽られます。
「す、すまない……!」
「いいえ。でもそう言われて嬉しかったですから」
その嬉しさを表そうと、私は彼を下から抱きしめました。祈りのために組んでいた手を一度解いて背中に回して抱き寄せます。それだけではありません。開いていた脚をジョセフ様の腰に絡みつけて引き寄せます。新たに備わった、翼や尻尾でも。二人の結合がさらに深くなり、ペニスを撫でられたジョセフ様と、奥を圧迫された私は声を上げます。
「シルフィーユ、痛くないか……?」
私は首を横に振りました。自分の下腹部に彼の存在をしっかりと感じているのに、全く痛くありません。それどころか自分の身体が彼をもっともっとと求めているのが分かります。
もう少し二人が一つになった感覚を楽しみたかったのですが、身体が我慢できなくなってきました。ジョセフ様もそうみたいですし、その欲望を受けるべきですし。
「動いてくださいまし」
そう言って私は脚での拘束をゆるめました。本当にいいの? とばかりに彼は少しの間そのままじっとしていましたが、やがて腰を動かし始めました。最初は遠慮がちでしたが、徐々にその動きは熱を帯びて遠慮がなくなっていきます。
「んんっ♡ あんっ♡ あぁあ♡ ふ、ふかっ……ぃ、あぁあん♡」
膣壁をこすられ、奥を突かれるたびに、それに押し出されるかのように私の口から嬌声が上がります。ただ気持ちいいだけではありません。彼が私に自分の滾った欲望を叩きつけてくれている……その事が私を、天にも上るほどの幸福感に押し上げてくれます。もっとも、私が仕えている神は天の神ではなく、伏魔殿(パンデモニウム)の堕落神なのですが。
「し、シルフィ……もう……!」
ジョセフ様の声が切羽詰まってきました。また射精が近づいているようです。そして先程は胸で一方的に愛しておりました私ですが、共につながって高まり合った今は……
「私も……私も! 果ててしまいますわっ!」
目から火花が散っているかのようでした。 ああ、なんて幸せ……! こんな悦楽の果てを見ながら、彼の欲望をこの身に受けられるなんて! 私は手を組み、感謝の祈りを心の中で堕落神に捧げます。祈りの言葉は……到底無理でした。
そして、その時は訪れました。私の胎内で、さきほど身に受けた彼の欲望の証が弾けました。どくどくと、何度も。
私の身体もオーガズムを迎えていました。身体の筋肉が収縮します。特に膣が、中に出された精液を一滴たりとも漏らさないと言わんばかりにぎゅっと彼のモノを締め付けます。その刺激で彼の精液が搾り出されてきました。
『どうかしら、シルフィーユ・アンジュルム?』
絶頂の余韻と、上から覆いかぶさり抱きしめてくるジョセフ様のぬくもりにまどろみかけている私の頭に、例の声が……堕落神さまの声が聞こえてきます。私は答えます。ええ、とても幸せです、と。
『おめでとう。男を悦ばせ、男の欲望をその身に受け、それを歓び、そして自らの欲に素直になった貴女は身も心もダークプリーストになり、そして愛する男と結ばれた……』
ありがたき幸せでございます。そして、このように導いてくださった堕落神さまに感謝します。私は祈りを捧げます。
『さて、今は彼の欲望を身に受けましたが、今度は貴女が欲のままに彼を貪り、その欲望を掻き立てて受けなさい。シルフィーユに私の加護と祝福を』
声が消えました。そのときには私はまどろみから戻っていました。目を開けると心配そうなジョセフ様のお顔。どうやら激しくしすぎてしまったのではないかと不安になったようです。私は壊れるほど愛されて幸せだったので、気になさらなくていいのに……
でももし気になさるのでしたら……
「ジョセフ様……今度は私が上になってもよろしいでしょうか?」
少し驚いた顔をされたジョセフ様ですが、にっこり笑って頷きます。名残惜しいですが一度私たちは離れました。
ベッドに腰を下ろして上体を起こして私を待たれるジョセフ様。そのペニスは、二度も射精しているのに未だに剛直を保っております。ああ、こんなにも私に欲情してくれているなんて!
そのことを嬉しく思いながら、私は彼を跨ぎ、令嬢にあるまじき用足しのような形で腰を落とし……その欲棒を身に収めました。
私はジョセフ様の両肩に手を置き、ジョセフ様は私の背中と腰に腕を回されます。それから再び私たちは踊り始めたのでした。
かくして私、シルフィーユ・アンジュルムはクロンヌス王国の第四王子、ジョセフ・クロンヌスと結ばれました。もちろん断罪などされることなく、二人で仲睦まじく、そして幸せに暮らしております。
なお、ゲームではシルフィーユがあの邪教徒に会って進んでいき、魔神が召喚されて国が存亡の危機に瀕する破滅ルートですが……私は自分が生き延びることも目標ではありましたが、王国が破滅する未来も回避するつもりでしたわ。
しかし恥ずかしながらそれは回避できず……いえ、恥ずかしながらとは言いましたが実は露ほども恥とは思っておらず……
ダークプリーストになった私と、ジョセフ様は結ばれましたがその魔力が制御できないレベルで王国を包んでしまいまして……クロンヌス王国は魔に飲まれ、伏魔殿(パンデモニウム)の一部のようになってしまいましたわ。ある意味国の崩壊です。
ですが……国の者が争うことなく、愛する者と結ばれ、欲望を交わし、堕ちていくのは……それは幸せではございませんこと?
ほら、私はとっても幸せですわよ♡
ごきげんよう、私の名前はシルフィーユ・アンジュルムと申します。悪役令嬢ですわ。
え、自分のことを「悪役」というのはなぜなのかですって? 仕方がないですわ。そういう役回りですもの。
……もうちょっとでいいので、砕けた口調で話をさせてください。私の"前の名前"は天野風花……まだ全部は思い出せませんが、ある程度前世のことは思い出してきました。そして気付いたのです。この世界は、私が前世で良くやっていたゲーム……最初の文字がオで最後の文字がメで、真ん中の文字がトの、三文字のゲームのジャンル……その中で攻略対象が少ないけどストーリーはなかなか良くできていると言われたゲーム、『聖なる力と選択の王冠』というゲームの世界だと。そして私は、そのゲームの悪役令嬢、シルフィーユ・アンジュルムに転生してしまったのだと。
このゲームは、孤児院の出で貴族の養子となったケイト・エルウィンという女性が主人公で、三人の王子が攻略対象のゲームです。すなわち、優しくて誰からも好かれる優雅な第一王子のエドワード、少しやんちゃだけどたくましくて爽やかなリチャード、シャープなメガネがチャーミングなクール系のチャールズ……この王子の好感度を高めて結婚を目指すのが『聖なる力と選択の王冠』というゲームです。
さて、その主人公のケイトのライバル的な存在がいます。それが私、シルフィーユ・アンジュルムです。孤児院の出のケイトをいつも嘲笑し、陰湿な嫌がらせをして、攻略対象の前で恥をかかせたりして攻略対象の好感度を下げ、妨害しようとしてくる存在です。はい、お手本のような悪役令嬢です。
シルフィーユは嫌なキャラではありますが誰もが振り返るような美貌を持ち、スタイルも抜群です……いま、自分で実際に胸を触ってみてますが、前世のぼんやりとした自分の記憶にある大きさよりはるかに大きくて微妙な気持ちになります。手におさまりきりません。
ドレッサーの鏡に映っているのは、ゲームでも見たあの姿……ツンと鋭くつり上がった強気そうな目と眉、少し薄めの唇、陶磁器のようなつややかな肌……髪は色素が薄めで鎖骨のあたりでは螺旋状にまかれております。いわゆる縦ロール。
そして、そんな美貌の持ち主のシルフィーユには婚約者がいます。第四王子のジョセフです。背が低くて自信がなさそうでおどおどしていて、何でもできるけど何か一つとなるとどうしても兄たちには敵わず、シルフィーユに一言きつく言われるだけですぐに引っ込んでしまう、影の薄いキャラ……この手のゲームとしては憧れるようなキャラではなく、攻略対象ではありません。
『いや、とは言うもののゲームをやったときも思ったけどシルフィーユ、贅沢すぎるわよ……』
優しいし、王位継承権は兄たちよりは後ろになるかもしれないけど十分すぎる身分になるし、何が不満なんだと言いたいです。でも、シルフィーユの性格的に、自分より出自が悪いケイトが、自分より条件が良い王子と結婚するのが我慢できなかったのでしょう。前世の記憶を思い出し、魂がそちらに塗り替えられつつある私としてはちょっと理解できないのですけど。
さて、そんなシルフィーユですが……主人公が誰かと結ばれるハッピーエンドになった場合はだいたい、シルフィーユは因果応報とばかりにひどい目に合います。
はい、困りました。私は今、シルフィーユに転生したということを思い出してしまいました。このままぐずぐずしていると、ひどい目にあってしまいます。転生を自覚して、気持ちも本来のシルフィーユよりは前世のものによりつつあるのに、あんまりです。
カレンダーを見てみると水の月の10日……ゲームも後半戦に差し掛かろうとしているころです。もう十分、ケイトのヘイトが溜まっているような状況なので、彼女が誰かと結ばれると私はひどい目にあうことでしょう。なんとかしなければ……
『まず、今この世界がどのルートを進んでいるかを把握する必要があるわ』
ぐるりと部屋を見渡したその時、ドアをノックする音が聞こえました。どうぞ、と声をかけると使用人が入ってきました。
前世のことを思い出して衝撃を受けて、シルフィーユとして暮らした19年の記憶が飛びかけてましたが……ああ、彼女は私の着替えや化粧を手伝ったりしてくれるタリアータでした。ゲームには出てきません。しかし、そのような人はごまんとおりましょう。下着に関しても彼女は関わっておりますので、シルフィーユの人生の中でおそらく一番私の肌を見ている人間です。そしてそれだけシルフィーユが信頼している部下でもあります。
「居眠りされていましたか、お嬢様?」
「ごめんなさいね、タリアータ。 ……ねえ、今日は私は何か予定があったかしら?」
「このあとでお屋敷の地下でご面会の予定があると少し前にお嬢様がおっしゃっておりましたが……」
ぎゃー! まずい! 最悪!! これは王国崩壊の危機すらある通称破滅ルート!!
このルートは、すべての王子の好感度を最高より少し手前まで上げて、そしてシルフィーユの陰謀をすべて打ち砕いたときに開放されるルートです。このルートでは追い込まれてヤケになったシルフィーユが邪教徒と接触して呪いでケイトを亡き者にしようとします。……うまくなんとかすれば、ケイトはその呪いの力を打ち消し聖なる力に目覚め、さらに邪教徒が召喚した魔神に打ち勝ち、聖女の王として君臨し、攻略対象の王子を誰か一人自由に選べるというボーナスルートです。ちなみにこのルートだとシルフィーユは、呪いの代償として邪教徒によって、魔神の召喚の生け贄のために実に、筆舌に尽くしがたいレベルで惨たらしく殺されてしまいます。
いやだー!!! それが今これから私の身に起こるの!? 絶対嫌!!
「客人の方はすでに下で準備されております。お嬢様、お支度を……」
……落ち着け、ここはゲームの世界ではあるけれどゲームではなく、私が自分の意志をもって動くことができる世界。ならば、邪教徒の誘いを断れば破滅ルートには進まないはず。
「ええ、今行きますわ」
私は背筋を伸ばして部屋を出ます。転生の事が分かったとしても、私はシルフィーユ・アンジュルム。アンジュルム家のプライドをもって、怯えることなく、国の、そして私の危機を未然に防いで見せますわ!
「ごきげんうるわしゅうございます、シルフィーユ・アンジェルム様。私が御国から邪教と忌み嫌われております宗教の者、レイチェルと申します」
席について私はすぐに困惑します。ゲームではシルフィーユと邪教徒の密談の様子は演出されるのですが、その時の話相手は、フードつきのローブで口元以外はすっぽりと姿を隠してはいますが、男性だったはずです。しかし、相手の声はどう聞いても女性……名前も女性です。
ちなみに私とテーブルを挟むようにしてレイチェルが席についており、その後ろにさらに二人、同じようにローブを身にまとっていて口元以外はよくわかりません。でも雰囲気で女性のように見えます。私の背後には、タリアータがついております。
「ごきげんよう、私があなた方を呼んだ、シルフィーユ・アンジュルムですわ」
つとめて平静を装い、相手の話に合わせるように私は挨拶します。良き名前ですね、とレイチェルは笑います。これもそんなイベントシーンがなかった私としては、困惑のような気持ちが出ます。
「さて、アンジュルム家の令嬢ともあろうお方がわざわざ邪教と忌み嫌われております私共と接触したのは、どのようなことがありましたか?」
「えーっと、それは……」
どう答えましょう。ゲームではシルフィーユは「あの憎たらしい女を亡き者にしてやりたい」などと言うのですが、今の私、今のシルフィーユにはそんな気持ちは毛頭もありません。すぐにでもこの邪教徒を追い返して自分の部屋に戻りたいです。
「そして、戻ってどうするのですか?」
「……え!?」
私の考えを読んだようなレイチェルの言葉に私は仰天します。フードの下のレイチェルの口角が上がります。
「ふふふ……私の前から逃げたそうに、脚と肩がそわそわしていますわよ。大丈夫、とって食ったりしませんよ」
そ、そうは言っても……
「さあ、シルフィーユ様、あなた様のお心をお聞かせ願えませんか?」
「……私は、あの女を亡き者にしてやりたいと強く思っていました」
とりあえず私は言葉を紡いでみます。もともとのシルフィーユの気持ちを代弁しつつ、その上に乗せる言葉を話しながら探して。
「ほう、それはどうして?」
「あの女は私よりも身分が低いのにエドワード様やリチャード様やチャールズ様にちやほやされて! だから私はあなた達の力を借りてあの女を亡き者にしようと思っていたのですわ」
「そうだったのですか……しかしシルフィーユ様。聞いてみると、今のお言葉、すべて『思っていた』と過去形ですよね?」
その通り。今のシルフィーユは少し前までのシルフィーユとは違うのです。今の私はシルフィーユはそのようなことなどを思っておりません。
さあ、貴女の今のお望みは? レイチェルが首をかしげます。生暖かく重たい、ヘビがうねっているかのような空気がアンジェルム家の地下室に漂っています。
そんな中で私は必死に考えます。なんとかしてこの破滅ルートから逃れたい。この邪教徒の前から逃げ出したい。そのためにどう言おうか……あーでもないこーでもないと言葉が浮かんでは消えます。
「お迷いになられてますか、シルフィーユ様。ゆっくりと、上手いこと言おうとせず、素直なお言葉で、一番どうしたいかをお聞かせください」
邪教に連なる者とは思えない優しい笑みを浮かべて促してくれるレイチェル……それが邪教徒のやり方なのかもしれないのですが。しかし今の言葉で、私が落ち着いたのも事実です。
結局私は何がしたいのか? なぜこの邪教徒の前から逃げ出したいのか? 答えはとっても簡単。ゲームのように惨たらしく殺されたくない。生き延びたい。
そう考えたら繋がるように出てきました。転生を自覚したらもうケイトをいじめたりしないから、静かに生きたい。生きたい……
「生きたい、です……」
そうだ、つまるところ私は生きたいのです。破滅ルートはもちろん避けたいし、他のルートでも断罪されて死んだりしたくないのです。今の私はケイトを妨害したいわけでもなければ、エドワードたちを自分のものにしたいわけでもなく、静かに暮らしたいだけなのです!
このままジョセフ王子と一緒に……
「よく分かりました、シルフィーユ様。その望みを私たちは叶えましょう」
私の身体に緊張が走ります。その望みを叶えるために一体何をしようというのか……
「うすうす感づかれているとは思われますが、このままだと貴女はケイト様とそのパートナーから糾弾されて死ぬ……死ななくても穏やかな生活ができません」
その通り、破滅ルートを避けてもほかのルートでもシルフィーユはろくな目にあいません。生きているだけで丸儲けなる言葉は前世でよく聞きましたができれば、できれば先程のように、静かに穏やかに、幸せに暮らしたいですわね。
「ではどうすると言うのですか? ……言っておきますが、私は貴女達の手を借りてケイトを呪い殺して先手を打つとかそんなことは望みませんわよ?」
「そうでしょうね。では、そろそろ茶番は終わりにして私達も正体を明かしましょう」
そう言ってレイチェルはやおら立ち上がってローブを脱ぎ捨てました。ローブの下に彼女は、その邪教の法衣と思われる服を来ておりました。しかし、おおよそ聖職者の衣装と言うには彼女の服は扇情的でした。ワンピース型のローブの横にはざっくりとスリットが入っており、ややもすると鼠径部まで見えてしまいそうです。お腹をはじめそこ以外はきちんと肌を守っているかと思いきや胸元はざっくりと開かれており、深い谷間が除いています。
口元だけしか見えていませんでしたがフードが取られた今、その全貌が明らかになっています。立場上、この19年の間に沢山の美女を見てきましたが、レイチェルはその中でも最上級に位置します。
そして何より目を引いたのが、その美貌を持つ頭の横からにょきりと伸びている黒色の角……そして左右に張り出している腰の中央から伸びている尾、孔雀のように広がられている鴉のような羽毛……
レイチェルだけではありません。同様に彼女の背後に控えていた二人もその外套を脱ぎ捨てましたが、同じように角と尾と羽が……
「ま、魔物!?」
「改めましてごきげんようシルフィーユ・アンジェルム様。私、堕落神に仕えますダークプリーストのレイチェルと申します」
「堕落神?」
「そうです……世の皆様は真面目に考えすぎなのです。貴女も、シルフィーユ様。王位継承権がより上位の王子と結ばれたいだとか、自分より身分の低い女がその王子と結婚するのが嫌だとか……どうでもいいではないですか。そのような難しいことなど捨てて、人は愛する人と愛し合い、欲望のままに堕落していくべきなのです」
「……よく分かりません」
もう、レイチェルの言うように結婚相手の王位継承権だとかケイトのことだとかは今のシルフィーユにとっては、確かにどうでもいいのだけれども、突然この破廉恥な邪教徒は何を言うのでしょうか……?
「すぐに分かりますわ。さて、そろそろ私達もお暇しましょう。そろそろ、ダンスパーティーの時間では?」
そうでした。そう言えば確かこのあと、ゲームではダンスパーティーが開催され、その時にシルフィーユからの呪いが発動してケイトが血反吐を吐いて大騒ぎになるのでした。その直前にあった、シルフィーユと邪教徒のイベントが、こんなふうにおかしなことになったから、おそらくそのような騒ぎは起きないでしょうが……
はっと気づくといつの間にかレイチェルがテーブルを回り込み、私の前に立っていました。そして自分の指の腹に軽く口付けをしていました。そしてその手を、私の胸元へ……
「貴女がこの先、静かに、安全に、そして"幸せに"暮らすことができるよう……堕落神の加護があらんことを」
そう言い残すと彼女らはいかなる秘術か、その姿を揺らがせ、消えてしまいました。私と、事の成り行きを見守っていたタリアータは呆然とその場を見るばかり。
しばらく二人はそうしていましたが、先に立ち直ったのはタリアータでした。
「何やら分かりかねますが、とりあえずお話はおしまいですね、お嬢様。さあ、王城で舞踏会がございます。お着替えもございますから……」
「え、ええ……」
あまりにもあっさりとレイチェルたちが去ったので釈然としませんが、とりあえずこれで破滅ルートの密談イベントは回避したはずです。ここから私は、この王国はどうなるのか……それを見届けるため、私はタリアータに促されるままに、地下室を出るのでした。
舞踏会にて。私はいろんな貴族やその家族と挨拶をします。もちろん、あの女とも。
「ごきげんよう、シルフィーユ様」
ケイト・ウィンスレットです。ゲームでは顔には影が入っていてあまりビジュアルは表にはならないのですが、さすがにこの世界ではしっかりと姿が見えます。誰もが守ってあげたくなるような可憐で、くりっとした目が可愛らしい女です。
むむむ……転生したことを自覚し、気持ちが変わりつつある今でも、シルフィーユ・アンジェルムとして何かぞわぞわする不快感が……相手のケイトの表情も、ニコニコとしてはいますが硬いです。まあ、無理もありません。少し前まで、シルフィーユがいじめていましたからね。断罪されたりしないように、これからこの女とどうやりあうか……
『そんな必要はありません。貴女は貴女のことだけを考えなさい』
「え?」
不意に聞こえた艶めかしい女性の声が響いた気がして私はきょろきょろしますが、そのような人は近くにはおりません。
「どうかしましたかシルフィーユ様?」
「今、何か声がしませんでしたか?」
「いいえ、何も……お疲れですか、シルフィーユ様? パーティーはまだ始まったばかりですわよ?」
ふっと笑うケイト。その笑顔はやっぱり気持ちいいものではありません。さんざんいじめてきた相手の調子が悪いことを喜んでいるように見えます。それはゲームの主人公がしてはいけない表情ですわよ、ケイト様。
適当に話を切り上げようとしたとき、周囲がざわつきました。王子たちが登場したのです。第一王子のエドワード、第二王子のリチャード、第三王子のチャールズ、第四王子のジョセフ……
「……っ!」
ジョセフ王子を見た瞬間、私の胸が大きく高鳴りました。え……何、今のは……?
私はぎゅっと胸を抑えます。動悸が止まりません。ジョセフ王子を見た瞬間、胸の高鳴りと顔の火照りが止まらなくなったのです。これは一体……!?
「シルフィーユ様?」
少し前は私にマウントを取ろうとしてはいましたが一応は聖女……に今後なるケイトも、私の変化に心配そうな表情を見せています。
しかし私はそれどころではありません。目はジョセフ様に釘付けになり、顔の火照りは、心臓の鼓動によって全身へと流れ回っています。特にお腹のほうがきゅっと……
「シルフィーユ様?」
ふいに身体を支えられて私は我に返りました。ケイトの腕が私の身体を支えるように回されていました。どうも気づかないうちに2,3歩、前にまろび出ていたようです。倒れそうになったと思ったケイトが支えてくれたようです。
彼女に礼を言って私は何事もなかったかのように、国王や王子の挨拶を聞き流しておりました。
やがて、王子たちが婚約者や、結婚候補の娘たちとダンスを踊ります。婚約が決まっている人はともかく、候補は何人か相手を交代します。このダンスパーティーは王子たちとの婚約をかけた戦いでもあるのです。
私は相手が決まっております。第四王子のジョセフ様です。
「シルフィーユ……その、踊ってもらえるか?」
おどおどとエスコートの手を出してくるジョセフ様。元のシルフィーユはこの自信なさそうな態度が気に入らず、彼を毛嫌いしていたのですが、今のシルフィーユはそんなことはありません。それどころか、彼はとても魅力的で、今すぐに抱かれたくて……
「……!?」
突然浮かんだはしたない考えに私は頭を振ります。もう! どうしたというのですか、私の身体は!?
「……シルフィーユ?」
「あ、いえ、申し訳ありません……喜んで……!」
私はジョセフ様の手を強くしっかりと握り返します。今までのシルフィーユだったらちょっと嫌そうな顔をして、それでも愛想笑いを浮かべて手をつまむようにとっていたはずですが……今までとは異なる言動にジョセフ様は驚いているようです。
ちらっとケイトの方を見てみると、彼女はリチャード様に手をとられておりました。
音楽が始まりました。ジョセフ様のリードのもと、私は踊ります。前世の魂は社交ダンスなど全く分かりませんが、そこは元のシルフィーユの身体が完璧なまでに覚えていてくれていました。ジョセフ様の踊りもスマートで不慣れなところは一切ありません。さすがは王子です。
私たちはステップを踏み、ターンし、手をつなぎ合い……近くなるとジョセフ様の腕が遠慮がちに背中に回されます。ジョセフ様の体温が感じられます。もうそれだけで私はどうにかなってしまいそうです。
それだけではありません。スマートに踊っているジョセフ様も男です。私の身体を見まいとしてそれでもちらちらと見てしまっているのを感じます。そうですよね、このドレスは胸元が開いていて谷間がよく見えますものね。そして遠慮がちでもその瞳には確かにオスの炎が宿っています。そんな視線を受けて私は……
「あっ……」
音楽が終了すると私はよろけてしまいました。慌ててジョセフ様が支えてくださいました。彼に抱きかかえられて……自分で自分をごまかしているつもりですが、もう意識せざるをえませんでした。身体の熱は特に下腹部に集中し、熱を逃がすかのように私のそこは濡れています。下着が冷たく湿っているから分かります。スカートがふんわりとしていたドレスだから他の人にはバレていないでしょうが……
「シルフィーユ嬢、大丈夫か?」
主催であり、将来の義父ともなる国王のトレント8世が声をかけてくださいます。
……私は本当はこのダンスパーティーのイベントでこのあとケイトがどうなるのか、この国がどうなるのかを見届けるつもりでした。しかし、このように倒れかけ、国王様に心配された今、こう考えてしまいました。抜け出せるチャンスだと。ジョセフ様といっしょに。
「大丈夫ですわ……ただちょっと熱気に当てられたようですので、少し失礼いたしますわ」
救護の兵士たちに任されても良かったのかもしれませんが、別の意図があった私はジョセフ様をそのまま連れ出しました。彼もダンスパーティーを抜けることになりますが、すでに婚約者が決まっている以上、彼が舞台にいる意義は、他の王子と比べると薄いです。誰も引き止めませんでした。
私たちはバルコニーに出ます。夜風が涼しくて心地よいですが、私の熱はそれだけではおさまりません。時々、私の胸を覗き込もうとするジョセフ様の視線がよりその熱をかきたててきます。前のシルフィーユなら嫌がったかもしれませんが、今の私にはそれが嬉しくてたまりません。
「それにしてもどうしたんだい、シルフィーユ。今まで私にそっけなかったのに」
私から目をそらしてジョセフ様が訊ねてきます。どう説明したものでしょう。前世の記憶を思い出して文字通り心を入れ替えたと言って納得いただけるでしょうか? そもそも、今このように気持ちが高ぶっているときにうまく説明できる気がしません。
「……ふふふ、秘密ですわ」
そう言った方が、含みがあって面白いでしょう。それより、と私は切り出します。
「ジョセフ様は私のことをどう思っておりますか?」
「どうって……」
「ジョセフ様と私の婚約は政略的なもの……少し前まではジョセフ様に辛く当たってしまったりして……その……取り返しがつかないレベルまで嫌われてしまったのではないかと……私より可憐なケイト様の方が良いのではないかと思って……」
「……いや、そんなことはないよ。確かに……その……当たりが強いと思ったこともあるにはあるけど、魅力的な女性だと思っているし……何より『四番目だろうとなんだろうと、貴方は人を導く王子なんだから、堂々としなさい!』と言われたのは、今でも大事にしているんだ」
そう言えばゲームにもそんなセリフを言うシーンがありましたわね。プレイヤーたちが預かり知らないところで登場人物の気持ちや人生に大きな影響を与えているなんて、素敵ではないですか。
「……ケイト嬢は聖女かもしれないなんて言われているね。他にもいろんな貴族令嬢がいるかもしれない。でも私は、シルフィーユと添い遂げようと思っているよ」
はにかむように笑いながら言うジョセフ様。その顔に、興奮のあまり私は全身の血が逆流したかのように感じました。
私は転生を自覚したときから、破滅ルートを回避したい、ただ生きたいとだけ思っていました。でも今は違います。このジョセフ様と一緒に生きたいです。いや、もっと欲深いです。
『もう分かっていますね?』
ダンスパーティー前にも聞こえた艶めかしい声がまた響きました。先程はパーティー会場だったので他の誰かがいたかもしれませんが、今は私とジョセフ様しかここにはいません。
「ジョセフ様……」
聞こえてきた声に突き動かされるように私は彼に身を寄せます。胸を押し当てると、彼の鼓動が高ぶったのが聞こえてきました。思わず笑みを浮かべてしまいます。姿なき声の主が笑った気がしました。
『さあ、彼の気持ちを、欲を、身も心もすべて受け止めるのです。貴女もそれを望んでいるはずです』
「ジョセフ様……私が心を入れ替えた理由は秘密ですが……私がどう思っているかは包み隠さず、お見せします……ジョセフ様、踊りませんか? ジョセフ様の部屋で、二人きりで……」
王子の部屋は、その中に民家があるのではないかと思うくらい広いです。前世の天野風花はそう驚いたでしょう。執務室を抜け、その奥の扉を開けて、一人で眠るには広すぎる、本当に踊ることができそうな寝室へ……
部屋に入るなり私は腕をジョセフ様の背中に回しました。ジョセフ様もダンスのように腕を背中に回します。
どちらからともなく私たちは顔を寄せ合い、口づけをしました。ただ、タイミングはともかく、熱烈さは圧倒的に私の方が上です。ジョセフ様の部屋に入ったように、遠慮なく舌もジョセフ様の口を割り、中へ入り込み、彼の舌に抱きつくように絡みつきます。
抱き合い、くちびるを重ねたまま、私たちはステップを踏んでベッドに寄ります。名残惜しいですが一度私たちは離れました。ドレスは自分では脱げないので、ジョセフ様にお願いをして背中を向けます。
「背中の紐を引いてくださいまし。……お望みでしたら破いてしまっても構いませんわよ?」
さすがにそんな乱暴なことはしないとジョセフ様は笑って言って、大義そうにドレスを脱がせてくださいました。
豪奢なドレスの下はインナーのみです。本来であれば見せないところですが、そこにも力を入れるのが一流の家です。
胸元をつつむ、ストラップのないブラジャーは黒の絹糸でできており、細かなレースに加えてバラの刺繍が加えられております。それがつつんでいる胸は、私の手に収まらないくらい……赤ん坊の頭より大きいのではないかと思うくらいの大きさです。
ショーツの方も同じような黒を貴重としたデザイン。黒色なのは、万が一転倒しても翳りでよく見えないようにするためです。そして生脚が出ないよう、ガーターベルトでストッキングも吊っています。
「いかがですか、ジョセフ様?」
私は振り向いて訊ねました。こんな姿は前世を含めて誰にも見せたことはありません。こんな姿を見せるのは……夫となる人以外にはありえませんわ。
ジョセフ様はしばし私の姿を見ておりましたが、やがて「素敵だ」と言ってくれました。社交辞令ではなさそうです。
『彼のソコを見てみなさい』
二人しかいないはずの寝室に響く例の声……導かれるままに見てみると、彼のズボンの前面は苦しそうなくらいに張っていました。私はそれを手のひらで撫でました。
「シルフィーユ、こ、これはその……」
「ああ、殿下……私の下着姿を見てここまで欲情してくれたのですね? 嬉しいですわ」
幾重の布越しでもその硬さと大きさと熱さが伝わってきます。自分の身体にここまで反応してくれるだなんて……これほどまでに嬉しいことはありません。
ジョセフ王子も礼装を脱ぎ捨てて下着姿になり二人でベッドに上がります。王族のベッドゆえ、二人で乗っても狭くなどありません。
失礼しますわと言って私は彼の下着を取り去ります。現れたのは私の手に余るほど張り詰めた男性器でした。
「その、シルフィーユ……あまりまじまじと見られるのは恥ずかしいのだが……」
「ふふふっ、これがこれから私の中に入るのかと思うと愛おしくて」
その言葉を聞いたジョセフ様の目が丸くなります。
「もう、その……繋がるつもりかい? 婚約者とはいえまだ婚姻の儀を済ませていないのに、それは……」
確かに、この世界の価値観だとそうなるかもしれない。婚約破棄なんていくらでもあるわけですし、実際にゲームのシルフィーユは断罪前にはジョセフ様に婚約破棄されるわけですし。その前に処女を失うのもどうかとは思うのですが……
『そのような難しいことを考える必要はありません。貴女は、貴女達は、欲望のままに従い、堕ちるべきなのです』
そう、熟した果実が自然に落ちるように。私たちが今、結ばれることは自然なこと……頭の声に従い、私は進みます。
「殿下、ここをこんなにしておきながらそれは説得力ないですわよ。それに……」
そう言って私はジョセフ様の手を導きます。その先は、ダンスパーティーのときから濡れていた秘所……
「私はジョセフ様と一つになりたいのです」
「シルフィーユ……」
私の濡れ具合を見て、ジョセフ様が生唾を飲み込んだのが見えました。さきほど難しいことを言っていたことなど忘れ去り呆けたように彼は私の秘裂をなぞります。
「んっ、んっ?」
思わず声が漏れてしまいます。負けじとばかりに私はジョセフ様のペニスを握り込み、上下に動かします。たちまち、ジョセフ様の顔が快感にゆるみました。
私たちは体を寄せ合い、ときどき口づけをかわし、互いの性器を撫であいます。二人の荒い息使いが部屋に響きます。
「シルフィーユ……その……」
「いかがなさいましたか?」
「……もっと触って良いか? 胸とか……」
もちろんですとも、何を言っているのですか。想っている殿方の欲望をすべて受け入れるのは当たり前じゃないですか。
私は背中に腕を回してブラを外しました。現れた胸にジョセフ様が目が釘付けになっているのを見てうれしくなります。ゲームのイラストを見たときも、そして転生を自覚してからも想っていましたが、改めて見ると、シルフィーユの胸は本当に大きいです。柔らかくて、大きくて、ずっしりと重たくて、それでいて垂れることなくハリを持っていて……そんな胸に、ジョセフ様は顔を埋めてきました。
「やわらかい……」
「お気に召したようで光栄ですわ。もっと好きにして良いのですよ? だってジョセフ様は私の婚約者なのですから……この身も心も全部ジョセフ様だけのものですわ」
そうすると、ジョセフ様は恥ずかしがりながら、私にお願い事をしてきました。その胸でペニスを挟んでほしいと。もちろん、厭うはずなどありません。
ジョセフ様にはベッド縁に腰掛けていただき、私は彼の脚の間に身体を割り入れ、床に膝をつきました。女が男に奉仕する形の姿勢……以前のシルフィーユでしたら絶対やらなかったでしょう。しかし今の私はこうして、彼の望みであればなんでも叶えてあげたくなってしまいます。
そっと両手で乳房を寄せて王子のペニスを挟み込みます。そして身体を踊るようにくねらせ始めました。ダンスパーティーでのような息をあわせた社交ダンスではなく、男を悦ばせる猥りがましい踊り……
「いかがですか、ジョセフ様? 先程のダンスでも、私の胸を見ていましたね?」
「うっ、それは……申し訳ない」
「いえ、いいのですよ。むしろ嬉しかったですわ。私の胸で、気持ち良くなってください」
私は乳房を圧迫しながらこするように身体を上下左右に揺らします。こんなこと前世の私が知れば鼻で笑っていたでしょう。ですが今の私にとってみればこれが当たり前なのです。
「シルフィーユ……ああっ、いい……」
ジョセフ様の顔が快楽にとろけています。そして私の胸にもみくちゃにされている自分のペニスを見ています。どんな男でも目を奪い、女の憧れになるであろう私の胸……それが自分の泌尿器を挟んでいるというのは、特に彼の気持ちを掻き立てていることでしょう。
悦んでいる彼を見て私も嬉しくなります。好きな人が喜んでくれるのですもの、うれしくないわけがないです。そしてその嬉しさは私の身体も駆り立てます。ぽたりと絨毯に雫が垂れた音がしました。とうとう愛液がショーツを通り越して滴り落ちてしまったみたいです。そのくらい私は濡れ、興奮しておりました。
あまりに興奮していて、あまりにうれしくて、つい熱が入ってしまったみたいです。そのときは唐突に来ました。
「シルフィーユ……すまない……出るッ!」
「え?」
私が聞き返すより先に始まってしまいました。谷間から覗いている亀頭が膨らみ、そして爆ぜました。射精です。放たれた白濁液はベッドの天蓋に届くのではないかと思うほど勢いよく噴き上がり、そして重力に従って私に降り注いできました。あっという間に私の胸は、そして顔が白く染まってしまいます。
『ふふふ……たっぷり受けましたね。彼の欲望の証を……』
熱くぬめった生臭い液に恍惚としている私に、久方ぶりにあの艶めかしい声が聞こえてきました。せっかくの彼との時間を邪魔されているという煩わしい気持ちもわずかにありましたが、私はその声を聞きます。
その声は言いました。
『男を悦ばせ、男の欲望をその身に受け、それを歓び、そして自らの欲に素直になった貴女は……私、堕落神の使徒になる資格がある』
声が聞こえた次の瞬間、私の胸が大きく高鳴りました。ダンスパーティーでジョセフ様を見たときのように、でもあの時以上に……
何度か私の中で大きな鼓動が起き、そして弾けました。
「ああああああっ♡」
声を抑えられませんでした。それは性的なようなものでありながら、何か解放されるような、快感……
そして声を上げている私の腰からにゅるりと尾が伸び、その横から黒い翼が広がり、そして頭からは角が……すぐに理解しました。
私は、レイチェルらと同じ堕落神の使徒、ダークプリーストになったのだと。
ジョセフ様も私の変化に仰天しております。無理もないでしょう。
「シルフィーユ、君は一体……!?」
「私は私ですわ、ジョセフ様。前世の記憶を思い出したり、ダンスパーティーの前に同じダークプリーストと話をしてこのように私もダークプリーストになったりしましたが……ずっと私は私ですわ」
もちろん、私がずっと昔から魔物で、騙してきたわけでもないことも言う。
「それとも、人を辞めた私はお嫌いになられましたか?」
「……いや。少し前の私の言葉を覆すつもりはないよ。たとえ君が魔物でも、悪魔でも、聖女でも、天使でも……私はシルフィーユと添い遂げようと思っているよ」
彼の言葉を聞いて、嬉しさのあまり新たに生えた尾と翼が逆立ったかのように思えました。その気持ちに突き動かされるように、私は彼に下からくちびるを重ねました。ジョセフ様も私を受け止めてくれました。
もつれるように、倒れ込むようにして二人はベッドに上がりました。私は何も言わず、もはやおもらしをしたかのように濡れて用を成してないショーツを脱ぎ去りました。その私にジョセフ様が覆いかぶさります。
「シルフィーユ……私を受け止めてくれ」
「もちろんですわ。ダークプリーストのシルフィーユ・アンジェルム……愛するジョセフ・クロンヌス様の身も心も欲望も、すべて受けますわ」
私は両脚を大きく広げ、手は祈りのために組みました。そして愛しい人を受け止めるべく、待ちます。腰を少し動かしてジョセフ様は濡れきった私の性器に狙いを定め……腰を沈めました。
「んあぁああああっ♡」
口からはしたない声が上がりますが、とても抑えられません。それほどまでに、彼との大事な場所での結合は、快感でした。
一方、ジョセフ様の方は快感に顔を歪ませております。ああ、こんな顔を見られるのは、ケイトや他の女ではなく、私だけなのですね。
「うう、心地よすぎる……あつくて、ぬるぬるしていて……まるでいくつもの舌に舐められているようで……」
「ジョ、ジョセフ様っ、そのように言われるとさすがに少々恥ずかしゅうございますわっ!」
つい先程、ダークプリースト……淫らであればあるほど良いとされる魔物娘の一種になった私ですが、それでもまだちょっと気持ちが追いついていないところもあり、羞恥心が煽られます。
「す、すまない……!」
「いいえ。でもそう言われて嬉しかったですから」
その嬉しさを表そうと、私は彼を下から抱きしめました。祈りのために組んでいた手を一度解いて背中に回して抱き寄せます。それだけではありません。開いていた脚をジョセフ様の腰に絡みつけて引き寄せます。新たに備わった、翼や尻尾でも。二人の結合がさらに深くなり、ペニスを撫でられたジョセフ様と、奥を圧迫された私は声を上げます。
「シルフィーユ、痛くないか……?」
私は首を横に振りました。自分の下腹部に彼の存在をしっかりと感じているのに、全く痛くありません。それどころか自分の身体が彼をもっともっとと求めているのが分かります。
もう少し二人が一つになった感覚を楽しみたかったのですが、身体が我慢できなくなってきました。ジョセフ様もそうみたいですし、その欲望を受けるべきですし。
「動いてくださいまし」
そう言って私は脚での拘束をゆるめました。本当にいいの? とばかりに彼は少しの間そのままじっとしていましたが、やがて腰を動かし始めました。最初は遠慮がちでしたが、徐々にその動きは熱を帯びて遠慮がなくなっていきます。
「んんっ♡ あんっ♡ あぁあ♡ ふ、ふかっ……ぃ、あぁあん♡」
膣壁をこすられ、奥を突かれるたびに、それに押し出されるかのように私の口から嬌声が上がります。ただ気持ちいいだけではありません。彼が私に自分の滾った欲望を叩きつけてくれている……その事が私を、天にも上るほどの幸福感に押し上げてくれます。もっとも、私が仕えている神は天の神ではなく、伏魔殿(パンデモニウム)の堕落神なのですが。
「し、シルフィ……もう……!」
ジョセフ様の声が切羽詰まってきました。また射精が近づいているようです。そして先程は胸で一方的に愛しておりました私ですが、共につながって高まり合った今は……
「私も……私も! 果ててしまいますわっ!」
目から火花が散っているかのようでした。 ああ、なんて幸せ……! こんな悦楽の果てを見ながら、彼の欲望をこの身に受けられるなんて! 私は手を組み、感謝の祈りを心の中で堕落神に捧げます。祈りの言葉は……到底無理でした。
そして、その時は訪れました。私の胎内で、さきほど身に受けた彼の欲望の証が弾けました。どくどくと、何度も。
私の身体もオーガズムを迎えていました。身体の筋肉が収縮します。特に膣が、中に出された精液を一滴たりとも漏らさないと言わんばかりにぎゅっと彼のモノを締め付けます。その刺激で彼の精液が搾り出されてきました。
『どうかしら、シルフィーユ・アンジュルム?』
絶頂の余韻と、上から覆いかぶさり抱きしめてくるジョセフ様のぬくもりにまどろみかけている私の頭に、例の声が……堕落神さまの声が聞こえてきます。私は答えます。ええ、とても幸せです、と。
『おめでとう。男を悦ばせ、男の欲望をその身に受け、それを歓び、そして自らの欲に素直になった貴女は身も心もダークプリーストになり、そして愛する男と結ばれた……』
ありがたき幸せでございます。そして、このように導いてくださった堕落神さまに感謝します。私は祈りを捧げます。
『さて、今は彼の欲望を身に受けましたが、今度は貴女が欲のままに彼を貪り、その欲望を掻き立てて受けなさい。シルフィーユに私の加護と祝福を』
声が消えました。そのときには私はまどろみから戻っていました。目を開けると心配そうなジョセフ様のお顔。どうやら激しくしすぎてしまったのではないかと不安になったようです。私は壊れるほど愛されて幸せだったので、気になさらなくていいのに……
でももし気になさるのでしたら……
「ジョセフ様……今度は私が上になってもよろしいでしょうか?」
少し驚いた顔をされたジョセフ様ですが、にっこり笑って頷きます。名残惜しいですが一度私たちは離れました。
ベッドに腰を下ろして上体を起こして私を待たれるジョセフ様。そのペニスは、二度も射精しているのに未だに剛直を保っております。ああ、こんなにも私に欲情してくれているなんて!
そのことを嬉しく思いながら、私は彼を跨ぎ、令嬢にあるまじき用足しのような形で腰を落とし……その欲棒を身に収めました。
私はジョセフ様の両肩に手を置き、ジョセフ様は私の背中と腰に腕を回されます。それから再び私たちは踊り始めたのでした。
かくして私、シルフィーユ・アンジュルムはクロンヌス王国の第四王子、ジョセフ・クロンヌスと結ばれました。もちろん断罪などされることなく、二人で仲睦まじく、そして幸せに暮らしております。
なお、ゲームではシルフィーユがあの邪教徒に会って進んでいき、魔神が召喚されて国が存亡の危機に瀕する破滅ルートですが……私は自分が生き延びることも目標ではありましたが、王国が破滅する未来も回避するつもりでしたわ。
しかし恥ずかしながらそれは回避できず……いえ、恥ずかしながらとは言いましたが実は露ほども恥とは思っておらず……
ダークプリーストになった私と、ジョセフ様は結ばれましたがその魔力が制御できないレベルで王国を包んでしまいまして……クロンヌス王国は魔に飲まれ、伏魔殿(パンデモニウム)の一部のようになってしまいましたわ。ある意味国の崩壊です。
ですが……国の者が争うことなく、愛する者と結ばれ、欲望を交わし、堕ちていくのは……それは幸せではございませんこと?
ほら、私はとっても幸せですわよ♡
24/09/05 22:00更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)