僕はもう逃げられない
「大丈夫、大丈夫だよ〜」
やさしげな声が聞こえて、僕の頭が撫でられる。顔にはやわらかな感触。でも鼻は塞がれておらず、甘ったるい香りが脳をやわやわと溶かしている。
手はだらんと下がっており、脚にも力が入らない。なんか良くない状況のはずなのに、暴れるなりなんなりして逃げなきゃいけないはずなのに、全然そんな気になれない。完全に相手に身体を任せてしまっている。
「大丈夫だよ〜」
再びかけられるこえ。その声の主を見ようと僕はやわらかなふくらみからちょっと顔を離して首を上に向ける。ふたつの丸い膨らみの奥で、優しげな暗赤色の瞳が僕を覗き込んでいた。僕を安心させるかのようににっこりと笑っている。そしてその肌は緑色だ……
『え? 魔物?』
僕の身体に緊張が走る。魔物……教団の敵、滅ぼすべき淫魔……そんな言葉が脳裏をよぎるが、まるで砂浜に書いた文字が波にさらわれるように、さっと溶け消えてしまう。
それでも逃げなければと手をばたつかせる。持っていたはずの剣はどこに行ったんだろうとのんびりと考えながら。しかし羽ばたくように手がぱたぱたと動いただけで何の効果ももたらさない。クスクスと僕を抱きしめている魔物が笑う。
では脚はどうか。もがこうとするその時
「あ、あ、あああ……」
僕の口から情けない声が漏れていた。得も言われぬ快感が、動かした下半身から全身へと広がり、口を突いていた。その自分の声に混じって、ぬちゃっと粘液質な音が聞こえてくる。
笑う魔物娘から顔をそらして僕は音がする、自分の下半身を見てみる。その前に自分の胸やお腹も見えてしまうのだが……ああ、なんということだ。身につけていた革鎧どころか、その下の服も肌着もなかった。そして僕の下半身は……ウツボカズラのような葉にぱっくりと呑まれていた。そしてその葉に差し入れられているのは僕の下半身だけじゃない。眼の前の魔物娘の下半身も入っていた。
「ふふふ……」
眼の前の魔物娘がもぞりと身体を動かした。それだけで僕の下半身からはむず痒く甘い快感が立ち上る。
僕の脚に何かが絡みついた。見えなくても分かる。眼の前の魔物娘が脚を絡みつけて引き寄せてきたのだ。たったそれだけで、僕はまた声を漏らしてしまう。
どうしてこんなことになっているのか、眼の前の魔物娘は何なのか……とろけた頭で思い出そうとする。
僕は魔王討伐のためにイルトスト王国から出発した勇者だ。いくつかの山や森や街を抜けて、今、この密林にいる。
密林に入ってしばらくしたところで……何か甘い香りがして……気づいたら何かに腰掛けている女性が見えた。貴婦人が被るような大きな緑色の帽子を被っているように見えて、歓迎するように僕に手を差し伸べていた。その女に僕は……
……ああ、そうだ。その女性が、今、僕を捉えている魔物娘なのだ。種族は……おそらく、マンイーター。それも、一見受動的でおとなしそうに見えるが、実際は凶暴でラミアにまさるとも劣らず執着心のある、袋葉種だ。
まずい。非常にまずい相手に捕まっている。武器も防具もなくて万事窮すだ。それでもなんとか逃げなくては……僕は身体をよじる。
「あっ、ふわっ、あ、あっ……!」
しかし無駄だった。いや、それどころか逆効果だ。
この袋葉種はもちろん挟葉種も、マンイーターという種族は消化液を分泌させる。特に特徴的な葉の部分から。その液は、昔は哀れな犠牲者を骨すら残さず溶かして魔物のマンイーターの養分となっていた。だが今の世代の魔物娘に代わってからは、その消化液も、獲物の思考能力をとろとろに溶かし、身体を性的に敏感にさせるものへと代わった。ぱっくりとその葉に包まれている僕の下半身は当然、その消化液でどろどろだ。
消化液で敏感になった僕はちょっと身体を動かして、彼女の身体にふれるだけで甘くしびれるような快感に声が出てしまうのだ。
僕が逃げようとしたことを察してか、マンイーターの眼の光が強くなり、いっそう強く僕を抱きしめた。
「や……やめ……」
そんな言葉を聞いてか聞かずか、マンイーターはラミアのように全身をくねらせる。僕と彼女の身体と身体が擦れ合う。それだけではない。彼女の袋葉がまるで咀嚼でもするかのように蠕動運動を始めたのだ。
ぬちゃ……ぬちゃ……にちゅ……
彼女の身体から分泌される粘液が間に入っていやらしい音が僕と彼女からする。
「あ、あ……」
快感から逃れようともがくが、やっぱりそれは逆効果。そして僕の逃げようとした意思を感じ取ったのか、マンイーターの目が怪しく光った。
やんわりと彼女は僕を抱きしめてくる。マンイーターの抱擁は動作の穏やかさに反して意外と強固で逃げ出すことができない。
そしてマンイーターの抱擁の目的は拘束だけではなかった。再び押し当てられる彼女の豊満な胸。そのやわらかな感触は不思議と僕の気持ちを落ち着け、逃げようとする意思を削いでいく。
「大丈夫、大丈夫だよ〜」
再びかけられる、胸と同じくらいやわらかな優しい声。その声と肌のぬくもりとに僕は手をだらりと下げてしまう。
僕が抵抗しなくなったのを確認したマンイーターは身体をまたゆすり始めた。起こっていた抵抗の意思の代わりに僕を支配するのは快感への欲だ。
消化液にまみれてぬるぬるで敏感になった僕の身体を、同じく消化液でぬめっているマンイーターの身体と袋葉が撫でてくる。とくに、いきり立ったペニスを集中的に。
「ひ……あ、あ……」
自分の口から情けない声が漏れているのが分かるが止められない。脳も心もとっくに溶かされてしまっており、もう何も考えられない。ただ与えられる快楽を享受することしかできなくなっていた。
……腰がガクガクと震えると同時に熱いものが僕の体内からほとばしり出た。耐えられなかった。いや、とろけてしまっていて耐えようとする気力すら起きなかった。
粘液に濡れていたマンイーターのお腹が、別の粘液にまみれる。白く染まったお腹を、マンイーターは暗赤色の目を丸くして見ていたが、やがて目を細めた。
「いっぱい出たね、気持ちよかったね……♡」
僕が出した精液を嬉しそうにお腹に塗り拡げるマンイーター。それを呆然と見ながら僕は考える。思えばこれは魔物娘に屈服したと言うことだ。僕たち勇者にとって一番してはいけないこと。主神への裏切り。
その罪悪感が沸き起ころうとしたとき、またマンイーターが僕を抱きしめてきた。
「大丈夫、大丈夫だよ〜。もう、あなたは無理して勇者をしなくていいの。甘えていいの……」
甘える……甘える……これまで僕は甘えるってことをしなかったんだけど、甘えてもいいのかな……
僕は、イルトスト王国の孤児だった。赤ん坊のときに、孤児院に捨てられていたらしい。物心が付く前に僕は勇者としての適正があることが分かったらしく、勇者の錬成所に連れて行かれ、厳しい訓練に明け暮れていた。朝早く起きて稽古をして、魔法の勉強もして、怒られ……物心がついてからずっとそんな生活だった。
そんな厳しい訓練を経て僕は晴れて勇者になったのだけれども……こんなふうに優しく抱きしめられたことはなかったかもしれない。そう、お母さんとかお姉さんがしてくれるみたいに。
だから……
「勇者なんかやめちゃって、さ……私がずっと甘えさせてあげるから……ね?」
マンイーターの言葉が僕の耳から全身へ、心へ染み込んでくる。やわらかなぬくもりへの渇望を、潤してくる。
「ずっといっしょにいてずっと甘えさせてあげるから……ずっといっしょだから……ひとつになろ?」
もぞもぞとマンイーターは体勢を変えた。少しだけ身体を離して、上半身を後ろに倒す。こうすることで腰を僕に突き出すような形になる。
ぞわりと脇腹を大蛇でも通り抜けるような感じがした。その撫でられる感触だけで僕は嬌声を上げてしまう。マンイーターの太ももが僕の脇腹をかすめたのだ。その脇腹を撫でる感覚が、腰に回る。それを知覚した次の瞬間。
「ああああ……ッ!」
僕は悲鳴を上げていた。何が起きたのかを理解するより先に、全身に回った歓喜の伝達が口をついて出ていた。
その刺激が、下腹部……ペニスから起きたものだと理解するのに一瞬の時を、そしてその刺激をもたらしているのはマンイーターの肉壺であることを理解するのにさらに数秒の時を要した。そのラグが生じるくらい、マンイーターの肉壺の快感は衝撃的であった。
締付けはきつくないしツブとかヒダとかは多くない。しかしナカは温かくぬめっていてさらにまるで意思を持つかのように迎え入れたペニスを揉みしだいてくる。特に膣の最奥は亀頭をくるんで収縮して揉み洗いしているかのような刺激を与えてくる。もちろん、マンイーター特有の感度を上昇させる効果付きの粘液だ。
「あ、あ、ああああ……」
あまりの快感に呆けたような声が僕の口から上る。いや、本当に呆けてしまったのかもしれない。快感を言語化することも、眼の前の魔物娘に許しを乞うこともできず、無様に嬌声を上げるだけだ。
そんな悶えている僕をマンイーターはくすくすと笑いながら見ている。彼女は僕の腰に脚を絡みつけて引き寄せているだけ。身体はほとんど動かしていない。それなのに、僕の頭は真っ白になりつつある。腰のあたりに疼きが沸き起こってきた。
このままだと射精してしまう。勇者なのに、魔物娘の膣内に種付けしてしまう。それは一番やってはいけないこと。だから我慢しなければいけない。
射精が始まったのは、頭が今のその一連の情報処理と結果の演算をするより先だった。
「はあぅうう……」
情けない声を上げながら僕は身体を震わせて、精液をマンイーターの蜜壺に注ぎ込んでいた。どくどくと、何度も。ろくに腰を動かしてもいないのに、彼女の性器の気持ちよさにあっさりと屈服してしまったのだ。
「ふふふ、気持ちよかった?」
小さくではあるが勝ち誇ったかのように、マンイーターは笑った。その笑みに、ようやく頭がはじき出した結論を認識した心が身体に鞭打つ。遅まきながらこの魔物娘の結合から逃れるべく、僕はマンイーターの肩を掴んで押しやりながら腰を引いて、ペニスをヴァギナから抜こうとする。
……しかし無駄なことであった。
ぬるぬるの膣肉が僕の竿を、カリの傘を、にゅるにゅるとこすってくる。その快感はあっさりと僕の逃げようとする気力を削ぐ。気づけばがくりと脱力した僕は身体をマンイーターに預けていた。当然それは抜きかけたペニスがまた膣奥へと進むことを意味する。
「あん♡」
期せず、膣奥をえぐられたマンイーターが可愛らしい嬌声を上げた。それに僕はハッとして意識をとりもどした。いけないいけない。この魔物娘から逃げないといけないのだ。
再び僕は膣からペニスを抜こうとする。しかしやはり、ぬるぬるの膣肉が逃げようとするペニスに刺激を浴びせて引き留めようとしてくる。いや、それだけではない。マンイーターがにやりと笑う。
次の瞬間、竿の半ばほどに絞扼感が出た。マンイーターが下腹部に力を込めてきたのだ。挿入時はそれほどきつくないと思っていた彼女の膣だったのに、事情が変わってきた。締め付けてくることでまるで尿道内に残っている精液を絞り出そうとするかのような刺激を加えられる。
「あっ、あっ……! そんなにしめつけないでぇえ……」
僕は懇願するがマンイーターは締め付けは止めてくれない。ニヤニヤ笑いも。その顔を僕に近づけてささやく。
「大丈夫だよ、また精液出しても……ほぉら、出して♡」
そして腰に回している脚に力を込めて僕を引き寄せ、奥へと招きこんできた。名残惜しそうに撫でてきていた膣肉が今度は歓迎するかのようにまとわりついてきて……
「あひぃいい……また出ちゃうよ……あ、あ、あああっ!」
マンイーターに僕はまた精を放っていた。快感で身体が震え、頭がおかしくなってしまいそうだ。その恐怖から逃れて安心を求めるように、僕はマンイーターにしがみついていた。しがみつきながらびゅくびゅくと彼女の中に射精していた。
「ん、あ、はぁ……♡」
お腹に広がるぬくもりを感じ取っているのか、それとも僕がしがみついたのを好意の抱擁と思ったのか、マンイーターは幸せそうに笑った。その微笑みを直視してしまって僕のとろけた心のなかに、彼女への愛おしさのようなものがムクリと起き上がっていた。
僕の気持ちに呼応するかのように、一仕事を終えて休もうとしていた肉棒が芯を持ち始めて彼女の膣の中で硬さを増すのを感じた。マンイーターの笑みがさらに広がる。
「また大きくなったね♡ もっともっと気持ちよくしてあげるね♡」
そしてマンイーターはとうとう腰をゆすり始めた。結合部が、さらに粘液にぬめった肌がこすれてにちゃっ、にちゃっと音を立てる。
「うあっ! あっ、あっ、それだめぇえ……!」
ただでさえ消化液を浴びせられて敏感になっているペニスを包んでくる、あたたかさとぬめりと揉みしだきが心地良いマンイーターの蜜壺……それがいよいよ本格的に僕のペニスをしごいてきたのだ。さっき射精したばかりなのに、気を抜くとすぐにまた射精してしまいそうだ。
さて、先程までは一方的に僕があえいでいたが、今度は違う。
「あ、あん♡ あはっ♡ あっ、あっ♡ 気持ちいい♡」
僕が漏らした声にマンイーターが甘い嬌声が混じってくる。先程とは違って今度は彼女も気持ちよくなっているのだ。僕のペニスで。そのことに嬉しいような気持ちが起きているのを感じる。相手は倒すべき魔物娘なのに。
「うう、やめてええ、そんなに動かないでぇ……」
情けなく懇願する僕。マンイーターの肩に手を置いているが、それは引き離そうとしているのかしがみつこうとしているのか、自分でも分からない。
「大丈夫だよ、もっと気持ちよくなって……♡」
マンイーターが僕をぎゅっと抱きしめてきた。彼女の乳房が僕の胸板に押し付けられる。そして全身でぎゅっと抱きしめられたことで、消化液で敏感になっているところがさらに撫でられて気持ちよくなってしまう。いや、密着しているのは彼女の肌だけではない。周囲の葉袋も収縮して僕の背中やお尻を撫でてくる。まるで、僕の全身がペニスになってしまったかのようだ。我慢できそうにない。
「だめええ、そんなにされたらまた出ちゃう……でちゃうよぉお……」
全身が気持ちいいのだが、会陰のうずきだけは特別にそこに起こった。射精の予兆だ。さらにペニスがムクムクと膨らみ、奥の精液を勢いよく吐き出そうと溜めを作っている。
一回も二回も膣内射精するのは同じだとは思うが、それでも僕はなんとか結合を解こうともがく。そんな僕にマンイーターは快感にとろけた顔を寄せて囁いてきた。
「いいよ♡ また出して♡ 私も……んんん♡ イキそう、だから……あっ、あっ♡」
そして腰をどんとひときわ強く打ちつけ僕をぎゅっと抱きしめた。腰は僕に密着させたままぐりぐりと、円を描いて押し付けてくる。
竿全体がぬるぬるの肉壺でもみくちゃにされ、さらに身体もマンイーターの体と葉っぱでもみくちゃにされ……
「あっ、出る……うぅううう!」
もう何度目か分からない射精が始まった。ペニスが心臓のように脈打って何度も何度も、弾のように白濁液をマンイーターの膣内へと放つ。
「あっ♡ これすご……あっ、ああああっ♡」
その脈動と膣奥にたたきつけられる粘液の感触が引き金になったか、マンイーターも絶頂に達したようだった。がくんと背中を弓なりに反らせ、頭が反っくり返る。その間も僕の身体はしっかりと抱きしめたままだったし、結合も解かなかった。そしてまるで消化するかのようにぎゅむぎゅむと膣肉が蠕動運動をする。
「あうううっ、今しぼられると……うぅうう!」
その刺激で僕は射精の最後の瞬間まで気持ちよかった。
やがて二人の絶頂がおさまり、葉袋内で二人の吐息が絡まっていた。僕は、その時、彼女の身体をしっかりと抱きしめていたことに気づいた。はっと気づいて身体を離そうとするより先に、マンイーターがにっこりと笑ってきた。
「気持ちよかった?」
とろとろに溶かされた僕は、勇者としての使命も忘れてこくんとうなずいていた。
「うれしい♡ 私もとっても気持ちよかったよ。だからね……」
ずっといっしょにいてくれるよね
言われて僕は悟る。
ああ、これはだめだ。僕はもう逃げられない。ウツボカズラに捉えられた虫が逃げられないのと同じように、僕は彼女から逃げられない。
でも、いいんじゃないかな……と、とろけた僕の心の中から沸き起こった僕がささやく。
マンイーターは旧世代と違って僕を溶かして食べるわけではない。快楽でとろとろに溶かして性的に食べるけど。でもそんなエッチで優しい魔物娘が一緒にいてくれるのだ。今まで甘えられなかったぶん、甘えさせてくれるのだ。何の問題があろう。
僕はぬるぬるな彼女の身体を抱きしめなおしていた。そんな僕を抱きしめ返しながらマンイーターは甘く優しく囁いた。
「大丈夫だよ〜、私がずっといっしょだからね〜♡」
ああ、僕はもう彼女から逃げられない。それでも僕は今とこれからの幸せを感じていた。
やさしげな声が聞こえて、僕の頭が撫でられる。顔にはやわらかな感触。でも鼻は塞がれておらず、甘ったるい香りが脳をやわやわと溶かしている。
手はだらんと下がっており、脚にも力が入らない。なんか良くない状況のはずなのに、暴れるなりなんなりして逃げなきゃいけないはずなのに、全然そんな気になれない。完全に相手に身体を任せてしまっている。
「大丈夫だよ〜」
再びかけられるこえ。その声の主を見ようと僕はやわらかなふくらみからちょっと顔を離して首を上に向ける。ふたつの丸い膨らみの奥で、優しげな暗赤色の瞳が僕を覗き込んでいた。僕を安心させるかのようににっこりと笑っている。そしてその肌は緑色だ……
『え? 魔物?』
僕の身体に緊張が走る。魔物……教団の敵、滅ぼすべき淫魔……そんな言葉が脳裏をよぎるが、まるで砂浜に書いた文字が波にさらわれるように、さっと溶け消えてしまう。
それでも逃げなければと手をばたつかせる。持っていたはずの剣はどこに行ったんだろうとのんびりと考えながら。しかし羽ばたくように手がぱたぱたと動いただけで何の効果ももたらさない。クスクスと僕を抱きしめている魔物が笑う。
では脚はどうか。もがこうとするその時
「あ、あ、あああ……」
僕の口から情けない声が漏れていた。得も言われぬ快感が、動かした下半身から全身へと広がり、口を突いていた。その自分の声に混じって、ぬちゃっと粘液質な音が聞こえてくる。
笑う魔物娘から顔をそらして僕は音がする、自分の下半身を見てみる。その前に自分の胸やお腹も見えてしまうのだが……ああ、なんということだ。身につけていた革鎧どころか、その下の服も肌着もなかった。そして僕の下半身は……ウツボカズラのような葉にぱっくりと呑まれていた。そしてその葉に差し入れられているのは僕の下半身だけじゃない。眼の前の魔物娘の下半身も入っていた。
「ふふふ……」
眼の前の魔物娘がもぞりと身体を動かした。それだけで僕の下半身からはむず痒く甘い快感が立ち上る。
僕の脚に何かが絡みついた。見えなくても分かる。眼の前の魔物娘が脚を絡みつけて引き寄せてきたのだ。たったそれだけで、僕はまた声を漏らしてしまう。
どうしてこんなことになっているのか、眼の前の魔物娘は何なのか……とろけた頭で思い出そうとする。
僕は魔王討伐のためにイルトスト王国から出発した勇者だ。いくつかの山や森や街を抜けて、今、この密林にいる。
密林に入ってしばらくしたところで……何か甘い香りがして……気づいたら何かに腰掛けている女性が見えた。貴婦人が被るような大きな緑色の帽子を被っているように見えて、歓迎するように僕に手を差し伸べていた。その女に僕は……
……ああ、そうだ。その女性が、今、僕を捉えている魔物娘なのだ。種族は……おそらく、マンイーター。それも、一見受動的でおとなしそうに見えるが、実際は凶暴でラミアにまさるとも劣らず執着心のある、袋葉種だ。
まずい。非常にまずい相手に捕まっている。武器も防具もなくて万事窮すだ。それでもなんとか逃げなくては……僕は身体をよじる。
「あっ、ふわっ、あ、あっ……!」
しかし無駄だった。いや、それどころか逆効果だ。
この袋葉種はもちろん挟葉種も、マンイーターという種族は消化液を分泌させる。特に特徴的な葉の部分から。その液は、昔は哀れな犠牲者を骨すら残さず溶かして魔物のマンイーターの養分となっていた。だが今の世代の魔物娘に代わってからは、その消化液も、獲物の思考能力をとろとろに溶かし、身体を性的に敏感にさせるものへと代わった。ぱっくりとその葉に包まれている僕の下半身は当然、その消化液でどろどろだ。
消化液で敏感になった僕はちょっと身体を動かして、彼女の身体にふれるだけで甘くしびれるような快感に声が出てしまうのだ。
僕が逃げようとしたことを察してか、マンイーターの眼の光が強くなり、いっそう強く僕を抱きしめた。
「や……やめ……」
そんな言葉を聞いてか聞かずか、マンイーターはラミアのように全身をくねらせる。僕と彼女の身体と身体が擦れ合う。それだけではない。彼女の袋葉がまるで咀嚼でもするかのように蠕動運動を始めたのだ。
ぬちゃ……ぬちゃ……にちゅ……
彼女の身体から分泌される粘液が間に入っていやらしい音が僕と彼女からする。
「あ、あ……」
快感から逃れようともがくが、やっぱりそれは逆効果。そして僕の逃げようとした意思を感じ取ったのか、マンイーターの目が怪しく光った。
やんわりと彼女は僕を抱きしめてくる。マンイーターの抱擁は動作の穏やかさに反して意外と強固で逃げ出すことができない。
そしてマンイーターの抱擁の目的は拘束だけではなかった。再び押し当てられる彼女の豊満な胸。そのやわらかな感触は不思議と僕の気持ちを落ち着け、逃げようとする意思を削いでいく。
「大丈夫、大丈夫だよ〜」
再びかけられる、胸と同じくらいやわらかな優しい声。その声と肌のぬくもりとに僕は手をだらりと下げてしまう。
僕が抵抗しなくなったのを確認したマンイーターは身体をまたゆすり始めた。起こっていた抵抗の意思の代わりに僕を支配するのは快感への欲だ。
消化液にまみれてぬるぬるで敏感になった僕の身体を、同じく消化液でぬめっているマンイーターの身体と袋葉が撫でてくる。とくに、いきり立ったペニスを集中的に。
「ひ……あ、あ……」
自分の口から情けない声が漏れているのが分かるが止められない。脳も心もとっくに溶かされてしまっており、もう何も考えられない。ただ与えられる快楽を享受することしかできなくなっていた。
……腰がガクガクと震えると同時に熱いものが僕の体内からほとばしり出た。耐えられなかった。いや、とろけてしまっていて耐えようとする気力すら起きなかった。
粘液に濡れていたマンイーターのお腹が、別の粘液にまみれる。白く染まったお腹を、マンイーターは暗赤色の目を丸くして見ていたが、やがて目を細めた。
「いっぱい出たね、気持ちよかったね……♡」
僕が出した精液を嬉しそうにお腹に塗り拡げるマンイーター。それを呆然と見ながら僕は考える。思えばこれは魔物娘に屈服したと言うことだ。僕たち勇者にとって一番してはいけないこと。主神への裏切り。
その罪悪感が沸き起ころうとしたとき、またマンイーターが僕を抱きしめてきた。
「大丈夫、大丈夫だよ〜。もう、あなたは無理して勇者をしなくていいの。甘えていいの……」
甘える……甘える……これまで僕は甘えるってことをしなかったんだけど、甘えてもいいのかな……
僕は、イルトスト王国の孤児だった。赤ん坊のときに、孤児院に捨てられていたらしい。物心が付く前に僕は勇者としての適正があることが分かったらしく、勇者の錬成所に連れて行かれ、厳しい訓練に明け暮れていた。朝早く起きて稽古をして、魔法の勉強もして、怒られ……物心がついてからずっとそんな生活だった。
そんな厳しい訓練を経て僕は晴れて勇者になったのだけれども……こんなふうに優しく抱きしめられたことはなかったかもしれない。そう、お母さんとかお姉さんがしてくれるみたいに。
だから……
「勇者なんかやめちゃって、さ……私がずっと甘えさせてあげるから……ね?」
マンイーターの言葉が僕の耳から全身へ、心へ染み込んでくる。やわらかなぬくもりへの渇望を、潤してくる。
「ずっといっしょにいてずっと甘えさせてあげるから……ずっといっしょだから……ひとつになろ?」
もぞもぞとマンイーターは体勢を変えた。少しだけ身体を離して、上半身を後ろに倒す。こうすることで腰を僕に突き出すような形になる。
ぞわりと脇腹を大蛇でも通り抜けるような感じがした。その撫でられる感触だけで僕は嬌声を上げてしまう。マンイーターの太ももが僕の脇腹をかすめたのだ。その脇腹を撫でる感覚が、腰に回る。それを知覚した次の瞬間。
「ああああ……ッ!」
僕は悲鳴を上げていた。何が起きたのかを理解するより先に、全身に回った歓喜の伝達が口をついて出ていた。
その刺激が、下腹部……ペニスから起きたものだと理解するのに一瞬の時を、そしてその刺激をもたらしているのはマンイーターの肉壺であることを理解するのにさらに数秒の時を要した。そのラグが生じるくらい、マンイーターの肉壺の快感は衝撃的であった。
締付けはきつくないしツブとかヒダとかは多くない。しかしナカは温かくぬめっていてさらにまるで意思を持つかのように迎え入れたペニスを揉みしだいてくる。特に膣の最奥は亀頭をくるんで収縮して揉み洗いしているかのような刺激を与えてくる。もちろん、マンイーター特有の感度を上昇させる効果付きの粘液だ。
「あ、あ、ああああ……」
あまりの快感に呆けたような声が僕の口から上る。いや、本当に呆けてしまったのかもしれない。快感を言語化することも、眼の前の魔物娘に許しを乞うこともできず、無様に嬌声を上げるだけだ。
そんな悶えている僕をマンイーターはくすくすと笑いながら見ている。彼女は僕の腰に脚を絡みつけて引き寄せているだけ。身体はほとんど動かしていない。それなのに、僕の頭は真っ白になりつつある。腰のあたりに疼きが沸き起こってきた。
このままだと射精してしまう。勇者なのに、魔物娘の膣内に種付けしてしまう。それは一番やってはいけないこと。だから我慢しなければいけない。
射精が始まったのは、頭が今のその一連の情報処理と結果の演算をするより先だった。
「はあぅうう……」
情けない声を上げながら僕は身体を震わせて、精液をマンイーターの蜜壺に注ぎ込んでいた。どくどくと、何度も。ろくに腰を動かしてもいないのに、彼女の性器の気持ちよさにあっさりと屈服してしまったのだ。
「ふふふ、気持ちよかった?」
小さくではあるが勝ち誇ったかのように、マンイーターは笑った。その笑みに、ようやく頭がはじき出した結論を認識した心が身体に鞭打つ。遅まきながらこの魔物娘の結合から逃れるべく、僕はマンイーターの肩を掴んで押しやりながら腰を引いて、ペニスをヴァギナから抜こうとする。
……しかし無駄なことであった。
ぬるぬるの膣肉が僕の竿を、カリの傘を、にゅるにゅるとこすってくる。その快感はあっさりと僕の逃げようとする気力を削ぐ。気づけばがくりと脱力した僕は身体をマンイーターに預けていた。当然それは抜きかけたペニスがまた膣奥へと進むことを意味する。
「あん♡」
期せず、膣奥をえぐられたマンイーターが可愛らしい嬌声を上げた。それに僕はハッとして意識をとりもどした。いけないいけない。この魔物娘から逃げないといけないのだ。
再び僕は膣からペニスを抜こうとする。しかしやはり、ぬるぬるの膣肉が逃げようとするペニスに刺激を浴びせて引き留めようとしてくる。いや、それだけではない。マンイーターがにやりと笑う。
次の瞬間、竿の半ばほどに絞扼感が出た。マンイーターが下腹部に力を込めてきたのだ。挿入時はそれほどきつくないと思っていた彼女の膣だったのに、事情が変わってきた。締め付けてくることでまるで尿道内に残っている精液を絞り出そうとするかのような刺激を加えられる。
「あっ、あっ……! そんなにしめつけないでぇえ……」
僕は懇願するがマンイーターは締め付けは止めてくれない。ニヤニヤ笑いも。その顔を僕に近づけてささやく。
「大丈夫だよ、また精液出しても……ほぉら、出して♡」
そして腰に回している脚に力を込めて僕を引き寄せ、奥へと招きこんできた。名残惜しそうに撫でてきていた膣肉が今度は歓迎するかのようにまとわりついてきて……
「あひぃいい……また出ちゃうよ……あ、あ、あああっ!」
マンイーターに僕はまた精を放っていた。快感で身体が震え、頭がおかしくなってしまいそうだ。その恐怖から逃れて安心を求めるように、僕はマンイーターにしがみついていた。しがみつきながらびゅくびゅくと彼女の中に射精していた。
「ん、あ、はぁ……♡」
お腹に広がるぬくもりを感じ取っているのか、それとも僕がしがみついたのを好意の抱擁と思ったのか、マンイーターは幸せそうに笑った。その微笑みを直視してしまって僕のとろけた心のなかに、彼女への愛おしさのようなものがムクリと起き上がっていた。
僕の気持ちに呼応するかのように、一仕事を終えて休もうとしていた肉棒が芯を持ち始めて彼女の膣の中で硬さを増すのを感じた。マンイーターの笑みがさらに広がる。
「また大きくなったね♡ もっともっと気持ちよくしてあげるね♡」
そしてマンイーターはとうとう腰をゆすり始めた。結合部が、さらに粘液にぬめった肌がこすれてにちゃっ、にちゃっと音を立てる。
「うあっ! あっ、あっ、それだめぇえ……!」
ただでさえ消化液を浴びせられて敏感になっているペニスを包んでくる、あたたかさとぬめりと揉みしだきが心地良いマンイーターの蜜壺……それがいよいよ本格的に僕のペニスをしごいてきたのだ。さっき射精したばかりなのに、気を抜くとすぐにまた射精してしまいそうだ。
さて、先程までは一方的に僕があえいでいたが、今度は違う。
「あ、あん♡ あはっ♡ あっ、あっ♡ 気持ちいい♡」
僕が漏らした声にマンイーターが甘い嬌声が混じってくる。先程とは違って今度は彼女も気持ちよくなっているのだ。僕のペニスで。そのことに嬉しいような気持ちが起きているのを感じる。相手は倒すべき魔物娘なのに。
「うう、やめてええ、そんなに動かないでぇ……」
情けなく懇願する僕。マンイーターの肩に手を置いているが、それは引き離そうとしているのかしがみつこうとしているのか、自分でも分からない。
「大丈夫だよ、もっと気持ちよくなって……♡」
マンイーターが僕をぎゅっと抱きしめてきた。彼女の乳房が僕の胸板に押し付けられる。そして全身でぎゅっと抱きしめられたことで、消化液で敏感になっているところがさらに撫でられて気持ちよくなってしまう。いや、密着しているのは彼女の肌だけではない。周囲の葉袋も収縮して僕の背中やお尻を撫でてくる。まるで、僕の全身がペニスになってしまったかのようだ。我慢できそうにない。
「だめええ、そんなにされたらまた出ちゃう……でちゃうよぉお……」
全身が気持ちいいのだが、会陰のうずきだけは特別にそこに起こった。射精の予兆だ。さらにペニスがムクムクと膨らみ、奥の精液を勢いよく吐き出そうと溜めを作っている。
一回も二回も膣内射精するのは同じだとは思うが、それでも僕はなんとか結合を解こうともがく。そんな僕にマンイーターは快感にとろけた顔を寄せて囁いてきた。
「いいよ♡ また出して♡ 私も……んんん♡ イキそう、だから……あっ、あっ♡」
そして腰をどんとひときわ強く打ちつけ僕をぎゅっと抱きしめた。腰は僕に密着させたままぐりぐりと、円を描いて押し付けてくる。
竿全体がぬるぬるの肉壺でもみくちゃにされ、さらに身体もマンイーターの体と葉っぱでもみくちゃにされ……
「あっ、出る……うぅううう!」
もう何度目か分からない射精が始まった。ペニスが心臓のように脈打って何度も何度も、弾のように白濁液をマンイーターの膣内へと放つ。
「あっ♡ これすご……あっ、ああああっ♡」
その脈動と膣奥にたたきつけられる粘液の感触が引き金になったか、マンイーターも絶頂に達したようだった。がくんと背中を弓なりに反らせ、頭が反っくり返る。その間も僕の身体はしっかりと抱きしめたままだったし、結合も解かなかった。そしてまるで消化するかのようにぎゅむぎゅむと膣肉が蠕動運動をする。
「あうううっ、今しぼられると……うぅうう!」
その刺激で僕は射精の最後の瞬間まで気持ちよかった。
やがて二人の絶頂がおさまり、葉袋内で二人の吐息が絡まっていた。僕は、その時、彼女の身体をしっかりと抱きしめていたことに気づいた。はっと気づいて身体を離そうとするより先に、マンイーターがにっこりと笑ってきた。
「気持ちよかった?」
とろとろに溶かされた僕は、勇者としての使命も忘れてこくんとうなずいていた。
「うれしい♡ 私もとっても気持ちよかったよ。だからね……」
ずっといっしょにいてくれるよね
言われて僕は悟る。
ああ、これはだめだ。僕はもう逃げられない。ウツボカズラに捉えられた虫が逃げられないのと同じように、僕は彼女から逃げられない。
でも、いいんじゃないかな……と、とろけた僕の心の中から沸き起こった僕がささやく。
マンイーターは旧世代と違って僕を溶かして食べるわけではない。快楽でとろとろに溶かして性的に食べるけど。でもそんなエッチで優しい魔物娘が一緒にいてくれるのだ。今まで甘えられなかったぶん、甘えさせてくれるのだ。何の問題があろう。
僕はぬるぬるな彼女の身体を抱きしめなおしていた。そんな僕を抱きしめ返しながらマンイーターは甘く優しく囁いた。
「大丈夫だよ〜、私がずっといっしょだからね〜♡」
ああ、僕はもう彼女から逃げられない。それでも僕は今とこれからの幸せを感じていた。
24/05/03 11:12更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)