邪竜の眷属姉妹の謀略-過激な紹介-
僕には好きな人がいた。同じ職場の先輩で、ドラゴニュートの内田ほのかさんだ。僕が福来観光に入社してから、仕事でいろんなことを教えてくれた先輩だ。美人で、スタイルも良くて、優しくて……入社してからのすぐの接近に僕は正直、夢を見ていた。
けど、夢は所詮夢だ。僕は会話のほんの端っこから、ほのかさんが結婚していたことを知った。その後で裏も取れた。魔物娘は相手がいれば、まず振り向くことはない。僕の初々しい職場初恋はこれで終わった。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、ちょいちょい彼女は僕をご飯に誘ってくれる。もちろん、職場の他の仲間も一緒のことが多いけど、僕を優先して誘っている印象はあるし、たまにサシ飲みを誘われることすらあった。それが僕を混乱させ、今の恋はちゃんと諦めているはずなのに、次の恋に踏み出せなかったりする。
極めつけが今日である。
――ホームパーティーするから、おいでよ。まあ、パーティーって言っても鍋だから宅飲みとそんな変わらないかもしれないけどさ。
全く気がない異性を普通、家に誘うだろうか? けれども魔物娘だから、気があるなんてことは絶対にない。それとも、もしかしたら当てつけなのだろうか? いやいや、あの先輩に限ってそんな意地悪いことはしないだろうし、そんなことを考えるとか失礼だろう。僕はぶんぶんと頭を振って、空を仰いだ。
空は、目の前でそびえ立つ高層マンションで僕の視界からは半分ほど阻害されていた。この15階建てのマンションに住んでいるとのことだ。
お土産のオリーブの瓶詰めを抱えて僕はエレベーターに乗り、6階で降りる。言われていた部屋番号と、内田の名字を確認してインターホンを押す。
「はーい」
「七瀬です」
「はいはーい、今開けるね」
ほどなくして鍵が開く音がして内側からドアが開いた。そこには、ブルーのタイトデニムと、白のブラウスを着ており、パーティーの料理の準備のためかエプロンをしているほのかさんが居た。……よく考えれば、ほのかさんの私服は始めて見た気がする。
「いらっしゃーい、どうぞ上がって」
「……お邪魔します。これ、お土産です。つまらないものですが……」
「えー!? わざわざいーのにぃ……でもありがとう」
ほのかさんに手招きされ、僕は靴を脱いで部屋に上がる。リビングに通されると、キッチンでは旦那さんが料理をしていた。
「どうもどうも、七瀬さん。ほのかの連れの内田達也です」
「どうも、七瀬です。お世話になっております」
この人が僕の憧れの女性を射止めたのかと思うと、チリチリと胸の奥が焼ける。彼から視線を反らそうとぐるりと周囲を見てみる。
「先輩、あと誰が来るんですか?」
さすがに夫婦と僕だけなんていうのは居心地が悪い。とは言うものの、テーブルの様子だけ見るとあと一人が限界だと思うのだけど……
「私の妹のまどかが来る」
「え、妹さん?」
そう言えば妹がいると言っていたような気がする。確か21才と、魔物娘ゆえ年が離れていて7才の妹がいると聞いていた。7才の妹が一人だけで来るとは思えないので、たぶん上の方が来るのだろう。
話をしていると、インターホンが鳴った。ほのかさんが返事をすると、似たような声が返ってきた。
「お姉ちゃん、私」
「私私詐欺はやめなさい。はいはい、まどかね。いらっしゃい」
軽くじゃれ合いをしてほのかさんは、妹さんを迎えにいった。まもなくして、二人揃ってやってくる。なるほど、たしかに姉妹だ。ちょっと違うけどよく似ている。
種族は、親がエキドナだったり、あるいは養子とかじゃなければ、ドラゴニュートの妹はドラゴニュートである。邪竜の眷属の証である、黒と紫の尻尾が期限良さそうに揺れていた。
二人ともくりっとした鈴のように丸い目に、強力な魔物娘独特の赤い瞳をしているが、妹のまどかさんの方がちょっとだけ釣り上がり気味かもしれない。あるいは、まつげのメイクが強めだからそう見えるのかもしれない。顔つきも少し、やせているように見える。髪型は大きく違っていた。ほのかさんはふんわりとした、ソバージュのボブにしているのに対し、まどかさんもふんわりした髪質だけど、長さは肩甲骨くらいまでありそうだ。身体つきも姉妹ゆえにているように見えるがこれはジロジロ見るのは失礼だろう。
服装は、黒の革ジャンと、ピンクのリブニットだがそのニットは胸元がざっくりとVの字にカットされており、深い胸の谷間があらわになっている。胸元には可愛らしいハートのペンダントが下がっていた。下は透け透けの生地の下に本生地がある白いスカート……チュールスカートと言ったか。淡色にまとめられて可愛らしさがありつつも、アウターでしっかりと締めている格好であった。
「あ、七瀬さんはじめまして。姉がお世話になっています。妹の竜井まどかです」
「ど、どうも……七瀬です。いえ、もう僕なんかほのかさんにお世話になりっぱなしで……」
にっこりと笑うまどかさんにどきどきしながら僕は挨拶を返す。しかし挨拶もつかの間、まどかさんはほのかさんに呼ばれて彼女はキッチンに行ってしまった。
程なくして鍋パーティーが始まる。鍋は豪勢な寄せ鍋だ。肉は豚ロースの薄切りとぶつ切りの鶏もも肉、海鮮系にホタテとタラとエビ、野菜はニンジンにハクサイにネギに水菜、きのこはシイタケとエノキにシメジ……海の幸山の幸すべてが詰まった一品である。
お酒もいろんな物が出された。ビール、日本酒、焼酎……どれでも好きなものを飲んでいいよとほのかさんが言う。あんまり酒は飲まないし良く分からない。でも、ビールはともかく、日本酒や焼酎は居酒屋では見かけない銘柄なのでちょっと高いのかもしれない。その封を切って振る舞ってくれるほのかさんと旦那さんに感謝しながら僕はいろんなお酒を試していた。
鍋をつつきながら僕らは他愛もない話をする。趣味や休日の過ごし方、それから仕事の話などなど。ちなみに鍋を挟んで対面にほのかさん、その隣に旦那さん、そして僕のとなりにまどかさんという配置だ。
「実際どう、七瀬くん? 一年近く働いてみて」
ほのかさんが僕に訊ねる。
「大変でしたけど、ひとえにほのかさんのおかげでなんとか乗り切れました」
「またまたぁ、口が上手いんだから」
「大丈夫ですか? お姉ちゃんにパワハラとかされませんでしたか?」
笑うほのかさんだが、心配そうに僕を見上げるようにまどかさんが訊ねる。ウッ……そのアングルはちょっと眼福と言おうか目に毒と言おうか……柔らかそうな山と深い谷間に目が吸い寄せられる……慌てて僕は目を反らして鍋をつつく。そんな僕にほのかさんがさらに訊ねる。
「何が一番大変だった?」
「……覚えることがたくさんあったのが大変でしたが一番はクレームを受けた時ですね」
それも確かに辛かったけど、一番は貴女が既婚者と分かったときですよ、と僕は心の中で舌を出す。
「じゃあ、逆に社会人になって何が一番楽しかったり嬉しかったりしましたか?」
まだ大学生でそろそろ就活だという、まどかさんが訊ねる。
言えない。一番楽しかった時期は、ほのかさんに恋をしていた時だ。大学時代もそんなに楽しい青春を送れなかった僕としては、社会人になって新しい環境になって、異性の先輩に優しくされて舞い上がっていたのが、まだ短い社会人生活歴の中では最高潮だった。
それが、その憧れの先輩が既婚者だったと知ったら、そりゃあそれ以降は何も楽しいことはない。そしてそんなことは旦那さんを前にして口が裂けても言えない。
「……労働後のビールですかね?」
「ちょっとちょっと、社会人一年目にしてだいぶくたびれた生活じゃないか?」
達也さんが苦笑いをする。ほのかさんは訝しげに「七瀬くんはそんなに酒を飲むタイプではなかったと思うが……」と首をかしげている。
いや実際その通りです。ごまかした答えです。そして、ビール一缶ならともかく、そこから焼酎とか飲んだからか、だいぶ酔っています。
「大丈夫ですか、七瀬さん。顔赤いですよ?」
「あー、だいぶ酔ったみたいです……」
心配そうに訊ねるまどかさんに僕は答える。そんな僕にほのかさんが軽い調子で提案する。
「じゃ、泊まっていきなよ」
あっさりとほのかさんはそんなことを言う。
「へ? いやいや、そんな悪いですよ!」
「いーのいーの。困った後輩を助けるのが先輩の役目なわけだし」
にこにこと笑うほのかさん。その口がやけに赤く、妖しげな感じがするのは気のせいだろうか、それともまだ僕がほのかさんへの思いを、捨てたつもりだけどつもりというだけで情けなくも捨てきれていないがゆえに女を感じてしまっているのだろうか。
「もう10時だし。ちゃんと人を泊めるようの部屋はあるから泊まっていきなよ」
達也さんも賛同する。いや、旦那さん。僕は貴方の奥さんにちょっと思いを寄せたことがある人間ですぜ? そんな男を泊めていいんですか? というか、10時はまだ帰れる時間だと思うのですが……
「ね、お姉ちゃんたちも良いと言っているから泊まっていきましょ、ね?」
なんでそこで貴女まで泊まることを勧めてくるんですか、妹さん……笑うその口が姉と似て妖しく感じるのは姉妹ゆえか、それとも……
しかし三人に強く勧められた僕は断りきれず、今晩は内田家に厄介になるのであった。
さすがに厄介になる以上、片付けはしなければなるまい。酔った身体に鞭を打って食器を流しに運ぶ。もっとも、洗うのは食洗機の仕事なので他にやることはあまりない。落として割ったりすると大変だとのことで鍋は達也さんが洗った。
そうしている間に風呂が沸いたようだ。先に入って良いと言われ、僕は家主の達也さんやほのかさんを差し置いて風呂に入ることになった。風呂に入る裸のほのかさんのことを想像してしまったのは内緒だ。
上がると客室に通された。この部屋は2LDKだ。つまり夫婦の寝室以外のもう一部屋も寝室にしたということになる。
「なんか、人を招くのにすごい気合を入れたんだな……」
用意された客室のベッドに腰掛けながら僕は一人つぶやく。着ているのは達也さんのスウェットだ。貸してくれた。達也さんは僕より大柄ゆえにちょっとだぶついているが、寝るぶんには問題ないだろう。
寝ると言えば今僕が腰掛けているベッド。大きさはセミダブルだ。ホテルでは一人用の部屋でもゆったりと寝られるようにセミダブルベッドが置かれることが多いが、まさか一般家庭の客室でそれとは……
それにしても、なんなんだろうこの状況は。職場の先輩のご家族とご厚意で家に泊めさせてもらうというのは分かるが……なんでここまで優しくしてくれるんだ? 逆に不気味だ。
「いや、泊まった人を襲って食う昔話じゃあるまいし、そこはもう考えてもしかたないでしょ、寝るぞ、寝る!」
自分に言い聞かせながら僕は部屋の灯りを消して布団に潜り込んだ。時刻はまだ11時……普段寝るよりは少し早めの時間だけど、寝ることにする。
その時である。部屋のドアがノックもされずに開いた。そして扉を開けた者はためらいもなく、部屋に入ってくる。誰何の声を上げるより先に、入ってきた人物は僕に声をかけてきた。
「酔っているにしても、ちょっと寝るには早い時間じゃないですか?」
ふわふわなタオル生地のワンピースという部屋着に身を包んでいる。太い尾がゆらりゆらりと背後で揺れ、赤い双眸が僕を見下ろしている。僕は仰天してベッドの上で身を起こした。
「ま、ま、まどかさん!? ななな……何しているんですか!?」
「何って、私ももともと今日はここに泊まるつもりだったんですから、ここで寝るんですよ」
「うぇ!? じゃあ僕がここで寝ちゃダメじゃないですか!」
もともと妹さんがこの部屋で寝るつもりなんだったら僕は無理にでも泊まるのを断って帰るべきだった。いきなり男女同室、しかも一つしかないベッドで一緒に寝ることになるとか、どうなっているんだ。
しかし、まどかさんは首を横にふる。微笑みながら……いや、その笑みはどこか捕食者めいたものがあった。僕に泊まることを勧めてきた時と同じようにやけにその笑みが妖しげに感じる。
「ダメなことなんて何もないですよ。さっきも言った通り、私はここに泊まるつもりでしたし、七瀬さんもここに泊めるつもりだったんです」
「な、なんで……?」
「さあ、なんででしょうねぇ?」
そうとぼけながら、まどかさんは僕のベッドに上がってきた。そのまま彼女にベッドの上で押し倒される。悲鳴を防ごうとするかのようにまどかさんのくちびるが僕のくちびるを塞ぐ。口の中にぬるりとしたものが入り込んでくる。舌だ。濃厚なキスに僕が軽くパニックに陥っている間にまどかさんの手が服の中に滑り込んできてスウェットのパンツとさらに下のトランクスまで脱がせてきた。
「あはっ♡ キスだけでこんなに大きくしている♡」
「そ、それはきれいな人にキスされたら……」
「あ、きれいな人って言ってくれた。嬉しいなぁ♡」
笑いながらまどかさんは僕のペニスを握り込んできた。指先でやわやわと揉みしだくようにしごいてくる。ドラゴニュートの手は邪竜の黒い甲殻でゴツゴツした見た目をしていたが、その見た目に反して柔らかく温かだった。そしてその刺激で僕のそこはさらに大きくなり完全な臨戦態勢となる。
「お姉ちゃんってね、意外と人のことを見ているんですよ」
僕のモノを握り直してしごきながら、唐突にまどかさんが話しだした。
「七瀬さんのことも良く話してくれましたよ? 真面目で素直で一生懸命で、言われたことは次には直してくるだけじゃなくて、裏でこっそりと勉強してくる努力家だって」
言われて驚いた。あんまり努力とかひけらかすものではないと思って言わなかったけど、たしかに言われたことだけじゃなくて、次はどうするべきかというのを考えて勉強して仕事には臨んでいた。そこを見てくれていたみたいだ。
「それから……七瀬さん、お姉ちゃんに気があったでしょ?」
「!?」
あっさりと破れた僕の職場初恋……胸のうちにしまっていたつもりなのに、ほのかさんにはバレていたみたいだ。そしてそれはまどかさんに伝わっている。
「『かわいい後輩だから結構優良物件だったとは思うけど、旦那大好きで一筋だから! 彼は残念!』って言ってましたよ」
「う、うわああ……」
もう諦めていた恋だったが、改めてそう聞かされるのはちょっとつらい物がある。僕は快感以外のうめき声を漏らす。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、相変わらず僕のペニスを弄びながら、まどかさんは訊ねてくる。
「ねえねえ、お姉ちゃんのどんなところが気になったんですか?」
「それは……優しくて、いろんなことを教えてくれて、頼れる人で……」
「うんうん。それから?」
「それから……」
……出てこない。所詮、ちょっと気になった職場の先輩なのである。本来であればそこからさらにアプローチしてデートに行ってもっと深く知るところなのだが、僕にはその先がなかったのだ。
まどかさんはそれを見透かしたようにニヤニヤと笑っている。その表情が、あ、と何かに気づいたようなものになる。
「あとお姉ちゃんのルックスとかスタイルもポイントでしょ? とくにおっぱい♪」
「なっ!?」
全く持って否定できない。ほのかさんがちょっとぴっちりしたブラウスや、谷間が見えるVネックなどを着ていたときはつい目が行ってしまっていた。ちょうど、まどかさんとさっき鍋を囲んで話していたときに気を取られてしまったように。
そしてそのこともまどかさんはお見通しだったみたいだ。くすくすと笑いながらまどかさんは僕の耳に口を寄せてささやく。
「私も結構スタイルには自信あるんだけどなぁ? 胸も実はお姉ちゃんとブラの貸し借りができるんですよ?」
確かにまどかさんも胸は大きいと思っていた。でも改めてそう言われると期待のような何かが僕のなかで膨れ上がる。その僕の気持ちを見透かしたように、まどかさんは僕の手をとって自分の胸に導いた。
「あ、柔らかい……」
「ふふふ? どうですか? なかなかのものでしょう? 直接触ります?」
そう言ってまどかさんは一度僕の性器から手を離した。そして勢いよく、タオル地のワンピースを脱ぎ捨てた。その下は情熱的なワインレッドをベースに可憐な白のレースがあしらわれたブラとショーツだった。女性経験がなく、下着にも詳しくない僕でも、勝負下着という奴であることは見てすぐに分かった。
自分の下着姿を見せつけて挑発的に笑うまどかさん。その手が自分の背中に回される。次の瞬間、ブラジャーがはらりと力なくこぼれ落ちた。だけど僕はそれを目で追わない。現れた生の女性の胸の方に目が釘付けになってしまう。
「さあ、どうぞ、好きにしていいですよ♡」
ずいっと彼女は僕に胸を突きつけてきた。その胸に僕は夢遊病者のようにふらふらと顔を近づけ……そのまま物欲しそうにぷくりと主張している乳首に吸い付いた。それだけでなく、手も伸ばして彼女の胸の柔らかさを堪能する。男にはないその柔らかさに僕は夢中になる。
「やぁん♡ がっつきすぎですよぉ♡」
「ご、ごめん!」
「うぅん、嫌じゃないですよ。気持ちいいからもっと触って?」
許しが出たら、いいだろう。僕はもう一度、胸にある赤い果実を口に含む。吸い立ててみたり、舌で転がしたりしつつ、むにゅりと胸を揉む。何か刺激を加えるたびにまどかさんの口からは可愛らしい嬌声が上がる。
「あんっ♡ あああ……七瀬さん、すごく上手♡ それに、がっつきつつも私に気を使ってくれてますよね?」
「そんなに器用じゃないけど……そのつもりです」
「ふふっ♡ ありがとう。おかげで、ほら……」
まどかさんがまた僕の手を取った。その手を今度は下半身に持っていく。ぬるりと湿った感触。ショーツの上からでも分かるくらい、彼女のそこは濡れていた。
「七瀬さんとエッチがしたくて……七瀬さんの赤ちゃん孕みたくて私のここ、もうこんなに濡れちゃっているんですよ?」
赤ちゃんという単語を聞いて僕のふわふわとした気持ちが現実に戻される。そうだ、なし崩しにこんなことになっちゃっているけど、相手は職場の先輩の妹さんで今日会ったばかりだ。それなのにいきなりエッチするなんて。
ぴたりと固まって躊躇している僕を、まどかさんはどうしたの、と覗き込んでくる。僕は、今思ったことをまどかさんに伝える。やっぱり素直な正直者でいろんなことを気にするんですね、と彼女は笑う。
そして彼女は僕の脚をまたぎ、僕の正面に居座った。真正面から僕を見てまどかさんは話す。
「さぁて、ここで七瀬さんの最初の質問に戻ります。私は最初からこの部屋に泊まって寝るつもりだった。七瀬さんもこの部屋に泊まって寝る予定だった。なんででしょう?」
「な、なんで……」
「あ、もうちょっと言います? 私は最初からこの部屋に泊まって寝るつもりだったし、お姉ちゃんはOKを出してくれた。そしてお姉ちゃんは最初からかわいいお気に入りな後輩くんの七瀬さんもこの部屋に泊めるつもりだった。なんででしょう?」
……ここまで来たらさすがの僕でも分かる。まさか、というように口を開けるが言葉が出てこない僕に、にんまりとまどかさんは、あの捕食者のような笑みを浮かべながら正解を言う。
「その通り。鍋パも泊まることも、何から何まで、自分が認めたオスの七瀬さんを私が食べるようにしてくれた、お姉ちゃんの策略でーす♡」
「そ、そんな……」
「知らなかったんですか? ドラゴニュートってそういう種族なんですよ?」
概して魔物娘というのは、男を手に入れたら他の男には興味がなくなるので、ある意味男はその魔物娘からは狙われなくなり安心と、昔は言われていた。社会に浸透してきた今となったら、仲を取り持ったり紹介したりするようになったが。
だが昔からドラゴニュートは違う。未婚の仲間が男性を手に入れる様に積極的に手助けを行い、そのための邪な策を巡らせる……その熱意は「いい人がいたら紹介する」のレベルを超えている。
こうして僕はほのかさんの策略によって、まどかさんに過激な"紹介"をされた。そしてひと目で気に入られたらしく、こういう状況になっている。気に入らなかったら、こんなことしませんよ? とまどかさんは笑う。
「というわけで七瀬さん、いただいちゃいますね? 大丈夫。この竜井まどかが、お姉ちゃんの代わりなんかじゃなくて、一人のドラゴニュートとして七瀬さんをいっぱいいっぱい愛しますから。」
そう言ってまどかさんはショーツを脱ぎ捨てて改めて僕にまたがった。僕のペニスを握って固定しながら、そこにゆっくりと腰を落としていく。
亀頭が、まるで溶岩を思わせるような熱くてぬるぬるな邪竜眷属の肉孔に包まれる。そのぬくもりはすぐに、カリ首へ、竿全体への広がっていく。
「んん〜〜ッ♡ 入ってきたぁあ♡」
「う、あ……」
他所様の家の客室で、男と女の声が絡まり合う。ついに僕とまどかさんは一番大事なところで、深くまで繋がっていた。
「奥まで入りましたよ♡ 私達一つになってますよ……♡」
恍惚とした表情でまどかさんは自分の下腹部を撫でている。まるでそこに僕のモノがあることを確かめるようなしぐさだ。その艶めかしく可愛らしい様子に、ドキリとする。
今度はまどかさんは腰をぐねぐねと、背後で揺れる尾のようにくねらせてきた。
「んっ♡ あん♡ ほら、先っぽに赤ちゃんの部屋の入り口があるのが分かるでしょう?」
確かに亀頭にコリコリと、膣の柔肉とはことなる硬い感触がある。子宮口なのだろう。ここで射精してしまうと、まどかさんは妊娠してしまうかもしれない。僕とは初対面なのに。そのスリルが、理性とは裏腹に、身体を興奮させる。僕は自分の下半身にさらに血液が集まっていくのを感じた。それに反応したようにまどかさんは短く嬌声を上げ、反射的に膣の締め付けを強くする。思わず声が漏れた僕に彼女はにやりと笑う。
「興奮しちゃいましたか? 私を妊娠させちゃうかもって♡」
「う、ううう……」
見透かされている。僕はうめくことしかできない。けど、僕が言葉を紡ぐことができなかったのは、その羞恥心だけではない。まどかさんのキスと手コキだけでギリギリだった僕は、情けないことにもう射精してしまいそうになっていたのだ。
そんな僕の状態を知ってか知らずか、まどかさんは腰をはずませ始めた。膣が僕の竿をしごいてくる。
「いいです、七瀬さん♡ 七瀬さんの精子を受精して妊娠してあげますよ♡」
「あっ、ダメっ! まどかさ……あっ、あっ!」
「ふふふ♡ 女の子みたいにあえいじゃって七瀬さんかわいい♡」
ダメと言ってもまどかさんはニヤニヤ笑いながら、腰を振るのを止めてくれない。完全に邪竜の眷属に僕は振り回されてしまい……屈服しそうになる。腰の奥にぞわりとした感覚が起こっていた。
「まどかさん、だめっ! 本当に出る、出ちゃう!」
「ふふ、どうぞ♡ ほらっ♡ 出して? 出しちゃいましょう? もう私のカラダじゃないとイけないくらいに夢中にしてあげるんですから♡」
僕の訴えをあっさりと取り下げて、まどかさんは僕の上で踊るように上下に腰を振りつづけた。ぐねぐねと熱くて濡れていてヒダもたっぷりと備わっている肉が僕をもてあそぶ。根元から竿の先まで、精液を搾り取ろうとする肉の快楽に僕はあっさりと屈した。
どくどくと、肉棒が肉孔の中で脈打つ。職場の先輩の妹の腟内に、初対面なのに僕は射精してしまった。僕の理性はなんということをしてしまったんだと騒ぎ立てている。しかしドラゴニュートへの腟内射精の快感の前には、そんな騒ぎは波にさらわれる砂のごとくかき消されてしまう。
「ふふふ……いっぱい出しましたね♡ どくどくいってましたもんね……♡」
長い射精を終えてぐったりとしている僕にまどかさんが身体を倒して話しかけてきた。私もとっても気持ちよかったです♡ と言ってまどかさんはそのままキスをしてきた。なすがまま、僕はそのキスを受け止める。いや、なすがままというわけにも行かない。おずおずと舌を出してみて、彼女のキスに応えようとする。嬉しそうにまどかさんのキスがもっと熱烈なものになった。
「んちゅ……ふふふ♡ 七瀬さんもその気になってきました?」
「え、まあ……」
「良かったです。ところで七瀬さん?」
再び、まどかさんはにまにまと笑いだした。あの見透かしたような、策略にきれいにハメたような、あの笑いだ。
「さっき私にナカ出ししたとき、お姉ちゃんのこと思い出せました?」
「……」
それはいろんな意味で無理があると思う。射精している最中にそんな他のことなんか考えられる余裕などあるはずもないし、そもそも誰かとセックスしているときに他の人のことを考えるのはちょっと失礼だと思う。たとえそれが、こんな風に、付き合っていない状態での、なし崩しのセックスでも。
ただそれを差し引いても、今、ほのかさんのことを出されても、僕は、ほのかさんを裏切っている罪悪感のような物はなかった。そりゃ妹さんとこんなことになってしまったという後ろめたさはちょっとあるけど、それは社会的なものであり、恋心ゆえのものはなかった。
そう、まどかさんに腟内射精してしまった罪悪感と同様に、ほのかさんへの気持ちも薄らいでいた。まどかさんのぶつけてくる気持ちと行動は、ほんのりとした憧れと恋心も押し流してしまっていた。
まどかさんのにまにまとした笑いがさらに大きくなる。僕のそんな気持ちの揺れまで彼女は見えているのだ。僕の上に乗って身体を預けたまま、彼女は緩やかに腰を振り始めた。まどかさんの中に入っている僕のペニスはまだ大きいままだ。
「じゃ、もう一押ししちゃいますね。お姉ちゃんなんか忘れるくらい塗りつぶして私だけ見るように、私に夢中にしてあげますから♡」
まどかさんが本格的に腰を動かすべく、上体を起こす。その時、彼女は僕の身体に腕を回していた。そのため彼女に連れられて僕も身体を起こすことになる。いわゆる対面座位の状態。
僕の肩に両手を置いたまま、まどかさんは腰を弾ませ始める。再び、職場の上司の家の客室に、僕と上司の妹の淫声が響き渡った。
「ふふ♡ 騎乗位で食べちゃうのも良かったですけど、こうやって同じくらいの目線だと恋人っぽくていいですね♡」
とろけた顔で腰を弾ませるまどかさん。胸も彼女の動きにあわせてぷるんぷるんと揺れている。そのエッチな姿から僕は目が離せなくなっていた。
そんな僕の目に気づいたか、まどかさんは僕に話しかけてくる。
「ほら、もっと見て七瀬さん♡ お姉ちゃんから七瀬さんの話を聞いてずっと気になっていて、会ってすぐに好きになっちゃって、こんなにエッチになっちゃってるドラゴニュートの竜井まどかですよ♡」
まどかさんが、僕の気持ちを、まどかさん一色に塗りつぶそうとしてくる。その可愛らしい姿、エッチな声とまっすぐに気持ちを伝えてくる言葉、ふんわりと香るシャンプーの香り、肌のぬくもりとぐちゅぐちゅに濡れて絡みついてくるアソコの感触……どんどん彼女に惹かれていく。
「あ、ああ……まどかさん……」
「名前呼ばれるの嬉しい♡ もっと呼んで♡」
「まどかさん……ああ、まどかさん!」
名前を呼ぶと、何か衝動のようなものに僕は弾かれていた。気づいたら彼女のきれいな腰に手を回してしっかりと掴み、そして自分の身体を下から叩きつけていた。
「あぁあん♡ あっ、あっ♡ 七瀬さんから突いて来てくれてるぅ♡ あっ、ダメぇ! そんなにされるとすぐイッちゃうからぁあ♡」
まどかさんの声の調子が急に切羽詰まったものになる。きゅっと膣が締め付けてきて、同時に天国を見ようと誘ってくる。
そしてそのときは唐突に来た。
「ふにゅうううっ!」
可愛らしい声を上げてまどかさんが僕の上でのけぞった。アソコはぎゅうぎゅうとしめつけてきて、腰はぐねぐねと前後に動き、僕を道連れにしようとする。その動きに僕は耐えられなかった。
二発目の精液が彼女の中にぶちまけられる。一回射精したというのに、その量は変わりがないように見えた。そして一回目と違って僕は無意識のうちに彼女の腰を抱え込んで自分に引き寄せ、膣の奥の奥で射精するようにしていた。
僕たちはしばらくお互いに抱き合って絶頂後の余韻に浸っていたが、やがてぐったりとベッドに二人一緒に倒れ込んだ。
「はー、はー……うふふ♡ またたくさん出しましたね♡」
「う、うん……」
笑いながら、となりで転がっている僕の手をまどかさんは握ってくる。手をつなぐ以上のことをやっていると言うのに、僕の心臓は腰を動かしていたときと同じくらいドキドキしていた。
その身体のほうだけど、ちょっと疲れていたが、僕のペニスはまだドラゴニュートに種付けをしたいといきり立っている。それを見てまどかさんはもう一回はできそうですね、と笑った。僕は苦笑するしかない。
まどかさんは身体を軽く起こして、脚を広げた。そして微笑む。
「ねえ……今度は七瀬さんのほうから来てください♡ ほら、このカラダもココロも……みんな七瀬さんのモノですよ?」
正常位。今までまどかさんがイニシアチブを握っていたけど、今度は僕から挿入する体位。僕の意志をもって彼女とつながる。
それはつまり、完全なる過去との決別。
気づいたら、隣の部屋から何やら声が聞こえていた。ほのかさんと達也さんだろう。二人が何をしているのかは想像に難くない。一瞬だけ胸がチリつくが……
僕は自分の意志でまどかさんに覆いかぶさった。二度も自分の精液を注いだ、邪竜の眷属の蜜壺に、先端を当てようとする。膣口は思った以上に下にあるので、女慣れしてない僕はちょっと苦労したが、まどかさんの助けもあって探り当てた。
そのまま僕は腰を押し進める。隣の部屋からほのかさんの嬌声が聞こえていた気もするが、BGM程度で気にもならなかった。
「あはぁあああ♡ また入ってきたぁあ♡」
僕の下で身体をくねらせるまどかさん。その姿が可愛らしくて、僕は彼女の頭を抱え込んでキスをする。すぐに嬉しそうにまどかさんの舌が出迎えてくれた。
しばらく僕は動かなかった。動かなくても彼女の肉孔が僕を求めて絡みついてくるのが気持ちよかった。しばらく二人でゆっくりと繋がっている時間を楽しんでいたけど、やがてゆっくりと動き始める。最初は優しく、次第に激しく、彼女の中を何度も行き来する。そのたびに彼女は嬌声を上げていく。
「ああ、七瀬さん……七瀬さん♡」
まどかさんは濡れた紅い瞳でせつなそうに見上げてきていた。最初は騎乗位で下から、さっきは対面座位で正面から、そして今は正常位で上から彼女の顔を見ているが、この気持ちよさそうなそれでいてしおらしそうな表情が僕の心をくすぐる。
彼女も僕に任せっぱなしではなく、下で身体をくねらせて刺激してくる。さらに僕の首に腕を絡め、キスを求めてきた。僕はそれに応える。
「くあぁ♡ あっあん♡ いいっ、いいのぉお♡」
何度も何度も腰を叩きつけながら、まどかさんの身体を抱く。お互いに汗だくになりながらも、決して離れることはなく一つになっている。激しく絡み合ってお互いに高めあっていく。
いつまでもこうしていたいけど、僕に三度目の限界が迫っていた。それを告げるとまどかさんも、自分もイキそうだと言った。
「ほら……私を一発で妊娠させちゃうくらい思いっきり出してください♡ もう私は七瀬さんナシじゃいられないんですから♡」
「あ、ああ……」
ラストスパートのストローク。そして熱いものが僕の中から迸る。射精の瞬間、僕は思いっきり腰を突き入れた。中で弾ける精液と子宮口をえぐられる感覚にまどかさんは絶頂の嬌声を上げ、結合がより深くなるように僕の腰に脚と尾を回して引き寄せた。そして子宮口で亀頭をくわえるようにして僕の精液を一滴残らず性器で受け止めた。
こうして僕は、邪竜眷属の姉妹の策略に落ち、まどかさんに捕まった。
次の日はいろんな意味で気恥ずかしくてまどかさんにもほのかさんにも達也さんにも顔向けができなかった。そんな僕ににやにや笑いながらほのかさんは朝ごはんを振る舞ってくれた。
はじめは僕も困惑した。ほのかさんへの恋が破れたところにまどかさんに誘惑されてセックスして、そのまま惰性で付き合っているだけなんじゃないか、あるいはまどかさんをほのかさんの代わりにしているんじゃないか、って。
けれども、改めてまどかさんと何回かデートして彼女のことをさらに知っていくうちに、僕は彼女のことが好きになり、そのわだかまりも溶けていった。
「いやあ、妹とうまく行っているようで何より。私も頭を巡らせたかいがあったよ」
仕事が終わって帰り道。途中までほのかさんと一緒に帰るが、その途中でほのかさんが話しかけてくる。普通に話すことができる。会社の先輩後輩として、未来の義姉義弟として。
「これも一重にほのかさんのおかげです、ありがとうございます」
「またまたぁ、口が上手いんだからぁ。最初の鍋パ以外は私は何も…・・」
「何を言いますか! この間のデートでサプライズされましたけど、絶対ほのかさんが会社で仕入れた情報をまどかさんに回していたでしょう! 未だにきっちり策略巡らせているじゃないですか!」
バレたかと苦笑いするほのかさん。この邪竜の眷属のお姉さんは僕がまどかさんと結婚するまで、いや、結婚してからも妹の手助けをするに違いない。実に油断ならない、ドラゴニュート。
「お、噂をすればなんとやらだね」
確かに、僕たちの視線の先にまどかさんがいた。デートの邪魔しちゃ悪いから、とほのかさんとはここで別れた。
「おかえり、七瀬さん。お姉ちゃんと何話していたの?」
「この間のデートのプレゼントはほのかさんの入れ知恵があっただろうって話」
「え、気づいていたの?」
「そりゃもちろん」
そんな会話をしながら僕たちは手を繋いで帰路につく。
恋人のぬくもりを感じながら、僕は、先輩とは別の道をまっすぐ歩いていった。
けど、夢は所詮夢だ。僕は会話のほんの端っこから、ほのかさんが結婚していたことを知った。その後で裏も取れた。魔物娘は相手がいれば、まず振り向くことはない。僕の初々しい職場初恋はこれで終わった。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、ちょいちょい彼女は僕をご飯に誘ってくれる。もちろん、職場の他の仲間も一緒のことが多いけど、僕を優先して誘っている印象はあるし、たまにサシ飲みを誘われることすらあった。それが僕を混乱させ、今の恋はちゃんと諦めているはずなのに、次の恋に踏み出せなかったりする。
極めつけが今日である。
――ホームパーティーするから、おいでよ。まあ、パーティーって言っても鍋だから宅飲みとそんな変わらないかもしれないけどさ。
全く気がない異性を普通、家に誘うだろうか? けれども魔物娘だから、気があるなんてことは絶対にない。それとも、もしかしたら当てつけなのだろうか? いやいや、あの先輩に限ってそんな意地悪いことはしないだろうし、そんなことを考えるとか失礼だろう。僕はぶんぶんと頭を振って、空を仰いだ。
空は、目の前でそびえ立つ高層マンションで僕の視界からは半分ほど阻害されていた。この15階建てのマンションに住んでいるとのことだ。
お土産のオリーブの瓶詰めを抱えて僕はエレベーターに乗り、6階で降りる。言われていた部屋番号と、内田の名字を確認してインターホンを押す。
「はーい」
「七瀬です」
「はいはーい、今開けるね」
ほどなくして鍵が開く音がして内側からドアが開いた。そこには、ブルーのタイトデニムと、白のブラウスを着ており、パーティーの料理の準備のためかエプロンをしているほのかさんが居た。……よく考えれば、ほのかさんの私服は始めて見た気がする。
「いらっしゃーい、どうぞ上がって」
「……お邪魔します。これ、お土産です。つまらないものですが……」
「えー!? わざわざいーのにぃ……でもありがとう」
ほのかさんに手招きされ、僕は靴を脱いで部屋に上がる。リビングに通されると、キッチンでは旦那さんが料理をしていた。
「どうもどうも、七瀬さん。ほのかの連れの内田達也です」
「どうも、七瀬です。お世話になっております」
この人が僕の憧れの女性を射止めたのかと思うと、チリチリと胸の奥が焼ける。彼から視線を反らそうとぐるりと周囲を見てみる。
「先輩、あと誰が来るんですか?」
さすがに夫婦と僕だけなんていうのは居心地が悪い。とは言うものの、テーブルの様子だけ見るとあと一人が限界だと思うのだけど……
「私の妹のまどかが来る」
「え、妹さん?」
そう言えば妹がいると言っていたような気がする。確か21才と、魔物娘ゆえ年が離れていて7才の妹がいると聞いていた。7才の妹が一人だけで来るとは思えないので、たぶん上の方が来るのだろう。
話をしていると、インターホンが鳴った。ほのかさんが返事をすると、似たような声が返ってきた。
「お姉ちゃん、私」
「私私詐欺はやめなさい。はいはい、まどかね。いらっしゃい」
軽くじゃれ合いをしてほのかさんは、妹さんを迎えにいった。まもなくして、二人揃ってやってくる。なるほど、たしかに姉妹だ。ちょっと違うけどよく似ている。
種族は、親がエキドナだったり、あるいは養子とかじゃなければ、ドラゴニュートの妹はドラゴニュートである。邪竜の眷属の証である、黒と紫の尻尾が期限良さそうに揺れていた。
二人ともくりっとした鈴のように丸い目に、強力な魔物娘独特の赤い瞳をしているが、妹のまどかさんの方がちょっとだけ釣り上がり気味かもしれない。あるいは、まつげのメイクが強めだからそう見えるのかもしれない。顔つきも少し、やせているように見える。髪型は大きく違っていた。ほのかさんはふんわりとした、ソバージュのボブにしているのに対し、まどかさんもふんわりした髪質だけど、長さは肩甲骨くらいまでありそうだ。身体つきも姉妹ゆえにているように見えるがこれはジロジロ見るのは失礼だろう。
服装は、黒の革ジャンと、ピンクのリブニットだがそのニットは胸元がざっくりとVの字にカットされており、深い胸の谷間があらわになっている。胸元には可愛らしいハートのペンダントが下がっていた。下は透け透けの生地の下に本生地がある白いスカート……チュールスカートと言ったか。淡色にまとめられて可愛らしさがありつつも、アウターでしっかりと締めている格好であった。
「あ、七瀬さんはじめまして。姉がお世話になっています。妹の竜井まどかです」
「ど、どうも……七瀬です。いえ、もう僕なんかほのかさんにお世話になりっぱなしで……」
にっこりと笑うまどかさんにどきどきしながら僕は挨拶を返す。しかし挨拶もつかの間、まどかさんはほのかさんに呼ばれて彼女はキッチンに行ってしまった。
程なくして鍋パーティーが始まる。鍋は豪勢な寄せ鍋だ。肉は豚ロースの薄切りとぶつ切りの鶏もも肉、海鮮系にホタテとタラとエビ、野菜はニンジンにハクサイにネギに水菜、きのこはシイタケとエノキにシメジ……海の幸山の幸すべてが詰まった一品である。
お酒もいろんな物が出された。ビール、日本酒、焼酎……どれでも好きなものを飲んでいいよとほのかさんが言う。あんまり酒は飲まないし良く分からない。でも、ビールはともかく、日本酒や焼酎は居酒屋では見かけない銘柄なのでちょっと高いのかもしれない。その封を切って振る舞ってくれるほのかさんと旦那さんに感謝しながら僕はいろんなお酒を試していた。
鍋をつつきながら僕らは他愛もない話をする。趣味や休日の過ごし方、それから仕事の話などなど。ちなみに鍋を挟んで対面にほのかさん、その隣に旦那さん、そして僕のとなりにまどかさんという配置だ。
「実際どう、七瀬くん? 一年近く働いてみて」
ほのかさんが僕に訊ねる。
「大変でしたけど、ひとえにほのかさんのおかげでなんとか乗り切れました」
「またまたぁ、口が上手いんだから」
「大丈夫ですか? お姉ちゃんにパワハラとかされませんでしたか?」
笑うほのかさんだが、心配そうに僕を見上げるようにまどかさんが訊ねる。ウッ……そのアングルはちょっと眼福と言おうか目に毒と言おうか……柔らかそうな山と深い谷間に目が吸い寄せられる……慌てて僕は目を反らして鍋をつつく。そんな僕にほのかさんがさらに訊ねる。
「何が一番大変だった?」
「……覚えることがたくさんあったのが大変でしたが一番はクレームを受けた時ですね」
それも確かに辛かったけど、一番は貴女が既婚者と分かったときですよ、と僕は心の中で舌を出す。
「じゃあ、逆に社会人になって何が一番楽しかったり嬉しかったりしましたか?」
まだ大学生でそろそろ就活だという、まどかさんが訊ねる。
言えない。一番楽しかった時期は、ほのかさんに恋をしていた時だ。大学時代もそんなに楽しい青春を送れなかった僕としては、社会人になって新しい環境になって、異性の先輩に優しくされて舞い上がっていたのが、まだ短い社会人生活歴の中では最高潮だった。
それが、その憧れの先輩が既婚者だったと知ったら、そりゃあそれ以降は何も楽しいことはない。そしてそんなことは旦那さんを前にして口が裂けても言えない。
「……労働後のビールですかね?」
「ちょっとちょっと、社会人一年目にしてだいぶくたびれた生活じゃないか?」
達也さんが苦笑いをする。ほのかさんは訝しげに「七瀬くんはそんなに酒を飲むタイプではなかったと思うが……」と首をかしげている。
いや実際その通りです。ごまかした答えです。そして、ビール一缶ならともかく、そこから焼酎とか飲んだからか、だいぶ酔っています。
「大丈夫ですか、七瀬さん。顔赤いですよ?」
「あー、だいぶ酔ったみたいです……」
心配そうに訊ねるまどかさんに僕は答える。そんな僕にほのかさんが軽い調子で提案する。
「じゃ、泊まっていきなよ」
あっさりとほのかさんはそんなことを言う。
「へ? いやいや、そんな悪いですよ!」
「いーのいーの。困った後輩を助けるのが先輩の役目なわけだし」
にこにこと笑うほのかさん。その口がやけに赤く、妖しげな感じがするのは気のせいだろうか、それともまだ僕がほのかさんへの思いを、捨てたつもりだけどつもりというだけで情けなくも捨てきれていないがゆえに女を感じてしまっているのだろうか。
「もう10時だし。ちゃんと人を泊めるようの部屋はあるから泊まっていきなよ」
達也さんも賛同する。いや、旦那さん。僕は貴方の奥さんにちょっと思いを寄せたことがある人間ですぜ? そんな男を泊めていいんですか? というか、10時はまだ帰れる時間だと思うのですが……
「ね、お姉ちゃんたちも良いと言っているから泊まっていきましょ、ね?」
なんでそこで貴女まで泊まることを勧めてくるんですか、妹さん……笑うその口が姉と似て妖しく感じるのは姉妹ゆえか、それとも……
しかし三人に強く勧められた僕は断りきれず、今晩は内田家に厄介になるのであった。
さすがに厄介になる以上、片付けはしなければなるまい。酔った身体に鞭を打って食器を流しに運ぶ。もっとも、洗うのは食洗機の仕事なので他にやることはあまりない。落として割ったりすると大変だとのことで鍋は達也さんが洗った。
そうしている間に風呂が沸いたようだ。先に入って良いと言われ、僕は家主の達也さんやほのかさんを差し置いて風呂に入ることになった。風呂に入る裸のほのかさんのことを想像してしまったのは内緒だ。
上がると客室に通された。この部屋は2LDKだ。つまり夫婦の寝室以外のもう一部屋も寝室にしたということになる。
「なんか、人を招くのにすごい気合を入れたんだな……」
用意された客室のベッドに腰掛けながら僕は一人つぶやく。着ているのは達也さんのスウェットだ。貸してくれた。達也さんは僕より大柄ゆえにちょっとだぶついているが、寝るぶんには問題ないだろう。
寝ると言えば今僕が腰掛けているベッド。大きさはセミダブルだ。ホテルでは一人用の部屋でもゆったりと寝られるようにセミダブルベッドが置かれることが多いが、まさか一般家庭の客室でそれとは……
それにしても、なんなんだろうこの状況は。職場の先輩のご家族とご厚意で家に泊めさせてもらうというのは分かるが……なんでここまで優しくしてくれるんだ? 逆に不気味だ。
「いや、泊まった人を襲って食う昔話じゃあるまいし、そこはもう考えてもしかたないでしょ、寝るぞ、寝る!」
自分に言い聞かせながら僕は部屋の灯りを消して布団に潜り込んだ。時刻はまだ11時……普段寝るよりは少し早めの時間だけど、寝ることにする。
その時である。部屋のドアがノックもされずに開いた。そして扉を開けた者はためらいもなく、部屋に入ってくる。誰何の声を上げるより先に、入ってきた人物は僕に声をかけてきた。
「酔っているにしても、ちょっと寝るには早い時間じゃないですか?」
ふわふわなタオル生地のワンピースという部屋着に身を包んでいる。太い尾がゆらりゆらりと背後で揺れ、赤い双眸が僕を見下ろしている。僕は仰天してベッドの上で身を起こした。
「ま、ま、まどかさん!? ななな……何しているんですか!?」
「何って、私ももともと今日はここに泊まるつもりだったんですから、ここで寝るんですよ」
「うぇ!? じゃあ僕がここで寝ちゃダメじゃないですか!」
もともと妹さんがこの部屋で寝るつもりなんだったら僕は無理にでも泊まるのを断って帰るべきだった。いきなり男女同室、しかも一つしかないベッドで一緒に寝ることになるとか、どうなっているんだ。
しかし、まどかさんは首を横にふる。微笑みながら……いや、その笑みはどこか捕食者めいたものがあった。僕に泊まることを勧めてきた時と同じようにやけにその笑みが妖しげに感じる。
「ダメなことなんて何もないですよ。さっきも言った通り、私はここに泊まるつもりでしたし、七瀬さんもここに泊めるつもりだったんです」
「な、なんで……?」
「さあ、なんででしょうねぇ?」
そうとぼけながら、まどかさんは僕のベッドに上がってきた。そのまま彼女にベッドの上で押し倒される。悲鳴を防ごうとするかのようにまどかさんのくちびるが僕のくちびるを塞ぐ。口の中にぬるりとしたものが入り込んでくる。舌だ。濃厚なキスに僕が軽くパニックに陥っている間にまどかさんの手が服の中に滑り込んできてスウェットのパンツとさらに下のトランクスまで脱がせてきた。
「あはっ♡ キスだけでこんなに大きくしている♡」
「そ、それはきれいな人にキスされたら……」
「あ、きれいな人って言ってくれた。嬉しいなぁ♡」
笑いながらまどかさんは僕のペニスを握り込んできた。指先でやわやわと揉みしだくようにしごいてくる。ドラゴニュートの手は邪竜の黒い甲殻でゴツゴツした見た目をしていたが、その見た目に反して柔らかく温かだった。そしてその刺激で僕のそこはさらに大きくなり完全な臨戦態勢となる。
「お姉ちゃんってね、意外と人のことを見ているんですよ」
僕のモノを握り直してしごきながら、唐突にまどかさんが話しだした。
「七瀬さんのことも良く話してくれましたよ? 真面目で素直で一生懸命で、言われたことは次には直してくるだけじゃなくて、裏でこっそりと勉強してくる努力家だって」
言われて驚いた。あんまり努力とかひけらかすものではないと思って言わなかったけど、たしかに言われたことだけじゃなくて、次はどうするべきかというのを考えて勉強して仕事には臨んでいた。そこを見てくれていたみたいだ。
「それから……七瀬さん、お姉ちゃんに気があったでしょ?」
「!?」
あっさりと破れた僕の職場初恋……胸のうちにしまっていたつもりなのに、ほのかさんにはバレていたみたいだ。そしてそれはまどかさんに伝わっている。
「『かわいい後輩だから結構優良物件だったとは思うけど、旦那大好きで一筋だから! 彼は残念!』って言ってましたよ」
「う、うわああ……」
もう諦めていた恋だったが、改めてそう聞かされるのはちょっとつらい物がある。僕は快感以外のうめき声を漏らす。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、相変わらず僕のペニスを弄びながら、まどかさんは訊ねてくる。
「ねえねえ、お姉ちゃんのどんなところが気になったんですか?」
「それは……優しくて、いろんなことを教えてくれて、頼れる人で……」
「うんうん。それから?」
「それから……」
……出てこない。所詮、ちょっと気になった職場の先輩なのである。本来であればそこからさらにアプローチしてデートに行ってもっと深く知るところなのだが、僕にはその先がなかったのだ。
まどかさんはそれを見透かしたようにニヤニヤと笑っている。その表情が、あ、と何かに気づいたようなものになる。
「あとお姉ちゃんのルックスとかスタイルもポイントでしょ? とくにおっぱい♪」
「なっ!?」
全く持って否定できない。ほのかさんがちょっとぴっちりしたブラウスや、谷間が見えるVネックなどを着ていたときはつい目が行ってしまっていた。ちょうど、まどかさんとさっき鍋を囲んで話していたときに気を取られてしまったように。
そしてそのこともまどかさんはお見通しだったみたいだ。くすくすと笑いながらまどかさんは僕の耳に口を寄せてささやく。
「私も結構スタイルには自信あるんだけどなぁ? 胸も実はお姉ちゃんとブラの貸し借りができるんですよ?」
確かにまどかさんも胸は大きいと思っていた。でも改めてそう言われると期待のような何かが僕のなかで膨れ上がる。その僕の気持ちを見透かしたように、まどかさんは僕の手をとって自分の胸に導いた。
「あ、柔らかい……」
「ふふふ? どうですか? なかなかのものでしょう? 直接触ります?」
そう言ってまどかさんは一度僕の性器から手を離した。そして勢いよく、タオル地のワンピースを脱ぎ捨てた。その下は情熱的なワインレッドをベースに可憐な白のレースがあしらわれたブラとショーツだった。女性経験がなく、下着にも詳しくない僕でも、勝負下着という奴であることは見てすぐに分かった。
自分の下着姿を見せつけて挑発的に笑うまどかさん。その手が自分の背中に回される。次の瞬間、ブラジャーがはらりと力なくこぼれ落ちた。だけど僕はそれを目で追わない。現れた生の女性の胸の方に目が釘付けになってしまう。
「さあ、どうぞ、好きにしていいですよ♡」
ずいっと彼女は僕に胸を突きつけてきた。その胸に僕は夢遊病者のようにふらふらと顔を近づけ……そのまま物欲しそうにぷくりと主張している乳首に吸い付いた。それだけでなく、手も伸ばして彼女の胸の柔らかさを堪能する。男にはないその柔らかさに僕は夢中になる。
「やぁん♡ がっつきすぎですよぉ♡」
「ご、ごめん!」
「うぅん、嫌じゃないですよ。気持ちいいからもっと触って?」
許しが出たら、いいだろう。僕はもう一度、胸にある赤い果実を口に含む。吸い立ててみたり、舌で転がしたりしつつ、むにゅりと胸を揉む。何か刺激を加えるたびにまどかさんの口からは可愛らしい嬌声が上がる。
「あんっ♡ あああ……七瀬さん、すごく上手♡ それに、がっつきつつも私に気を使ってくれてますよね?」
「そんなに器用じゃないけど……そのつもりです」
「ふふっ♡ ありがとう。おかげで、ほら……」
まどかさんがまた僕の手を取った。その手を今度は下半身に持っていく。ぬるりと湿った感触。ショーツの上からでも分かるくらい、彼女のそこは濡れていた。
「七瀬さんとエッチがしたくて……七瀬さんの赤ちゃん孕みたくて私のここ、もうこんなに濡れちゃっているんですよ?」
赤ちゃんという単語を聞いて僕のふわふわとした気持ちが現実に戻される。そうだ、なし崩しにこんなことになっちゃっているけど、相手は職場の先輩の妹さんで今日会ったばかりだ。それなのにいきなりエッチするなんて。
ぴたりと固まって躊躇している僕を、まどかさんはどうしたの、と覗き込んでくる。僕は、今思ったことをまどかさんに伝える。やっぱり素直な正直者でいろんなことを気にするんですね、と彼女は笑う。
そして彼女は僕の脚をまたぎ、僕の正面に居座った。真正面から僕を見てまどかさんは話す。
「さぁて、ここで七瀬さんの最初の質問に戻ります。私は最初からこの部屋に泊まって寝るつもりだった。七瀬さんもこの部屋に泊まって寝る予定だった。なんででしょう?」
「な、なんで……」
「あ、もうちょっと言います? 私は最初からこの部屋に泊まって寝るつもりだったし、お姉ちゃんはOKを出してくれた。そしてお姉ちゃんは最初からかわいいお気に入りな後輩くんの七瀬さんもこの部屋に泊めるつもりだった。なんででしょう?」
……ここまで来たらさすがの僕でも分かる。まさか、というように口を開けるが言葉が出てこない僕に、にんまりとまどかさんは、あの捕食者のような笑みを浮かべながら正解を言う。
「その通り。鍋パも泊まることも、何から何まで、自分が認めたオスの七瀬さんを私が食べるようにしてくれた、お姉ちゃんの策略でーす♡」
「そ、そんな……」
「知らなかったんですか? ドラゴニュートってそういう種族なんですよ?」
概して魔物娘というのは、男を手に入れたら他の男には興味がなくなるので、ある意味男はその魔物娘からは狙われなくなり安心と、昔は言われていた。社会に浸透してきた今となったら、仲を取り持ったり紹介したりするようになったが。
だが昔からドラゴニュートは違う。未婚の仲間が男性を手に入れる様に積極的に手助けを行い、そのための邪な策を巡らせる……その熱意は「いい人がいたら紹介する」のレベルを超えている。
こうして僕はほのかさんの策略によって、まどかさんに過激な"紹介"をされた。そしてひと目で気に入られたらしく、こういう状況になっている。気に入らなかったら、こんなことしませんよ? とまどかさんは笑う。
「というわけで七瀬さん、いただいちゃいますね? 大丈夫。この竜井まどかが、お姉ちゃんの代わりなんかじゃなくて、一人のドラゴニュートとして七瀬さんをいっぱいいっぱい愛しますから。」
そう言ってまどかさんはショーツを脱ぎ捨てて改めて僕にまたがった。僕のペニスを握って固定しながら、そこにゆっくりと腰を落としていく。
亀頭が、まるで溶岩を思わせるような熱くてぬるぬるな邪竜眷属の肉孔に包まれる。そのぬくもりはすぐに、カリ首へ、竿全体への広がっていく。
「んん〜〜ッ♡ 入ってきたぁあ♡」
「う、あ……」
他所様の家の客室で、男と女の声が絡まり合う。ついに僕とまどかさんは一番大事なところで、深くまで繋がっていた。
「奥まで入りましたよ♡ 私達一つになってますよ……♡」
恍惚とした表情でまどかさんは自分の下腹部を撫でている。まるでそこに僕のモノがあることを確かめるようなしぐさだ。その艶めかしく可愛らしい様子に、ドキリとする。
今度はまどかさんは腰をぐねぐねと、背後で揺れる尾のようにくねらせてきた。
「んっ♡ あん♡ ほら、先っぽに赤ちゃんの部屋の入り口があるのが分かるでしょう?」
確かに亀頭にコリコリと、膣の柔肉とはことなる硬い感触がある。子宮口なのだろう。ここで射精してしまうと、まどかさんは妊娠してしまうかもしれない。僕とは初対面なのに。そのスリルが、理性とは裏腹に、身体を興奮させる。僕は自分の下半身にさらに血液が集まっていくのを感じた。それに反応したようにまどかさんは短く嬌声を上げ、反射的に膣の締め付けを強くする。思わず声が漏れた僕に彼女はにやりと笑う。
「興奮しちゃいましたか? 私を妊娠させちゃうかもって♡」
「う、ううう……」
見透かされている。僕はうめくことしかできない。けど、僕が言葉を紡ぐことができなかったのは、その羞恥心だけではない。まどかさんのキスと手コキだけでギリギリだった僕は、情けないことにもう射精してしまいそうになっていたのだ。
そんな僕の状態を知ってか知らずか、まどかさんは腰をはずませ始めた。膣が僕の竿をしごいてくる。
「いいです、七瀬さん♡ 七瀬さんの精子を受精して妊娠してあげますよ♡」
「あっ、ダメっ! まどかさ……あっ、あっ!」
「ふふふ♡ 女の子みたいにあえいじゃって七瀬さんかわいい♡」
ダメと言ってもまどかさんはニヤニヤ笑いながら、腰を振るのを止めてくれない。完全に邪竜の眷属に僕は振り回されてしまい……屈服しそうになる。腰の奥にぞわりとした感覚が起こっていた。
「まどかさん、だめっ! 本当に出る、出ちゃう!」
「ふふ、どうぞ♡ ほらっ♡ 出して? 出しちゃいましょう? もう私のカラダじゃないとイけないくらいに夢中にしてあげるんですから♡」
僕の訴えをあっさりと取り下げて、まどかさんは僕の上で踊るように上下に腰を振りつづけた。ぐねぐねと熱くて濡れていてヒダもたっぷりと備わっている肉が僕をもてあそぶ。根元から竿の先まで、精液を搾り取ろうとする肉の快楽に僕はあっさりと屈した。
どくどくと、肉棒が肉孔の中で脈打つ。職場の先輩の妹の腟内に、初対面なのに僕は射精してしまった。僕の理性はなんということをしてしまったんだと騒ぎ立てている。しかしドラゴニュートへの腟内射精の快感の前には、そんな騒ぎは波にさらわれる砂のごとくかき消されてしまう。
「ふふふ……いっぱい出しましたね♡ どくどくいってましたもんね……♡」
長い射精を終えてぐったりとしている僕にまどかさんが身体を倒して話しかけてきた。私もとっても気持ちよかったです♡ と言ってまどかさんはそのままキスをしてきた。なすがまま、僕はそのキスを受け止める。いや、なすがままというわけにも行かない。おずおずと舌を出してみて、彼女のキスに応えようとする。嬉しそうにまどかさんのキスがもっと熱烈なものになった。
「んちゅ……ふふふ♡ 七瀬さんもその気になってきました?」
「え、まあ……」
「良かったです。ところで七瀬さん?」
再び、まどかさんはにまにまと笑いだした。あの見透かしたような、策略にきれいにハメたような、あの笑いだ。
「さっき私にナカ出ししたとき、お姉ちゃんのこと思い出せました?」
「……」
それはいろんな意味で無理があると思う。射精している最中にそんな他のことなんか考えられる余裕などあるはずもないし、そもそも誰かとセックスしているときに他の人のことを考えるのはちょっと失礼だと思う。たとえそれが、こんな風に、付き合っていない状態での、なし崩しのセックスでも。
ただそれを差し引いても、今、ほのかさんのことを出されても、僕は、ほのかさんを裏切っている罪悪感のような物はなかった。そりゃ妹さんとこんなことになってしまったという後ろめたさはちょっとあるけど、それは社会的なものであり、恋心ゆえのものはなかった。
そう、まどかさんに腟内射精してしまった罪悪感と同様に、ほのかさんへの気持ちも薄らいでいた。まどかさんのぶつけてくる気持ちと行動は、ほんのりとした憧れと恋心も押し流してしまっていた。
まどかさんのにまにまとした笑いがさらに大きくなる。僕のそんな気持ちの揺れまで彼女は見えているのだ。僕の上に乗って身体を預けたまま、彼女は緩やかに腰を振り始めた。まどかさんの中に入っている僕のペニスはまだ大きいままだ。
「じゃ、もう一押ししちゃいますね。お姉ちゃんなんか忘れるくらい塗りつぶして私だけ見るように、私に夢中にしてあげますから♡」
まどかさんが本格的に腰を動かすべく、上体を起こす。その時、彼女は僕の身体に腕を回していた。そのため彼女に連れられて僕も身体を起こすことになる。いわゆる対面座位の状態。
僕の肩に両手を置いたまま、まどかさんは腰を弾ませ始める。再び、職場の上司の家の客室に、僕と上司の妹の淫声が響き渡った。
「ふふ♡ 騎乗位で食べちゃうのも良かったですけど、こうやって同じくらいの目線だと恋人っぽくていいですね♡」
とろけた顔で腰を弾ませるまどかさん。胸も彼女の動きにあわせてぷるんぷるんと揺れている。そのエッチな姿から僕は目が離せなくなっていた。
そんな僕の目に気づいたか、まどかさんは僕に話しかけてくる。
「ほら、もっと見て七瀬さん♡ お姉ちゃんから七瀬さんの話を聞いてずっと気になっていて、会ってすぐに好きになっちゃって、こんなにエッチになっちゃってるドラゴニュートの竜井まどかですよ♡」
まどかさんが、僕の気持ちを、まどかさん一色に塗りつぶそうとしてくる。その可愛らしい姿、エッチな声とまっすぐに気持ちを伝えてくる言葉、ふんわりと香るシャンプーの香り、肌のぬくもりとぐちゅぐちゅに濡れて絡みついてくるアソコの感触……どんどん彼女に惹かれていく。
「あ、ああ……まどかさん……」
「名前呼ばれるの嬉しい♡ もっと呼んで♡」
「まどかさん……ああ、まどかさん!」
名前を呼ぶと、何か衝動のようなものに僕は弾かれていた。気づいたら彼女のきれいな腰に手を回してしっかりと掴み、そして自分の身体を下から叩きつけていた。
「あぁあん♡ あっ、あっ♡ 七瀬さんから突いて来てくれてるぅ♡ あっ、ダメぇ! そんなにされるとすぐイッちゃうからぁあ♡」
まどかさんの声の調子が急に切羽詰まったものになる。きゅっと膣が締め付けてきて、同時に天国を見ようと誘ってくる。
そしてそのときは唐突に来た。
「ふにゅうううっ!」
可愛らしい声を上げてまどかさんが僕の上でのけぞった。アソコはぎゅうぎゅうとしめつけてきて、腰はぐねぐねと前後に動き、僕を道連れにしようとする。その動きに僕は耐えられなかった。
二発目の精液が彼女の中にぶちまけられる。一回射精したというのに、その量は変わりがないように見えた。そして一回目と違って僕は無意識のうちに彼女の腰を抱え込んで自分に引き寄せ、膣の奥の奥で射精するようにしていた。
僕たちはしばらくお互いに抱き合って絶頂後の余韻に浸っていたが、やがてぐったりとベッドに二人一緒に倒れ込んだ。
「はー、はー……うふふ♡ またたくさん出しましたね♡」
「う、うん……」
笑いながら、となりで転がっている僕の手をまどかさんは握ってくる。手をつなぐ以上のことをやっていると言うのに、僕の心臓は腰を動かしていたときと同じくらいドキドキしていた。
その身体のほうだけど、ちょっと疲れていたが、僕のペニスはまだドラゴニュートに種付けをしたいといきり立っている。それを見てまどかさんはもう一回はできそうですね、と笑った。僕は苦笑するしかない。
まどかさんは身体を軽く起こして、脚を広げた。そして微笑む。
「ねえ……今度は七瀬さんのほうから来てください♡ ほら、このカラダもココロも……みんな七瀬さんのモノですよ?」
正常位。今までまどかさんがイニシアチブを握っていたけど、今度は僕から挿入する体位。僕の意志をもって彼女とつながる。
それはつまり、完全なる過去との決別。
気づいたら、隣の部屋から何やら声が聞こえていた。ほのかさんと達也さんだろう。二人が何をしているのかは想像に難くない。一瞬だけ胸がチリつくが……
僕は自分の意志でまどかさんに覆いかぶさった。二度も自分の精液を注いだ、邪竜の眷属の蜜壺に、先端を当てようとする。膣口は思った以上に下にあるので、女慣れしてない僕はちょっと苦労したが、まどかさんの助けもあって探り当てた。
そのまま僕は腰を押し進める。隣の部屋からほのかさんの嬌声が聞こえていた気もするが、BGM程度で気にもならなかった。
「あはぁあああ♡ また入ってきたぁあ♡」
僕の下で身体をくねらせるまどかさん。その姿が可愛らしくて、僕は彼女の頭を抱え込んでキスをする。すぐに嬉しそうにまどかさんの舌が出迎えてくれた。
しばらく僕は動かなかった。動かなくても彼女の肉孔が僕を求めて絡みついてくるのが気持ちよかった。しばらく二人でゆっくりと繋がっている時間を楽しんでいたけど、やがてゆっくりと動き始める。最初は優しく、次第に激しく、彼女の中を何度も行き来する。そのたびに彼女は嬌声を上げていく。
「ああ、七瀬さん……七瀬さん♡」
まどかさんは濡れた紅い瞳でせつなそうに見上げてきていた。最初は騎乗位で下から、さっきは対面座位で正面から、そして今は正常位で上から彼女の顔を見ているが、この気持ちよさそうなそれでいてしおらしそうな表情が僕の心をくすぐる。
彼女も僕に任せっぱなしではなく、下で身体をくねらせて刺激してくる。さらに僕の首に腕を絡め、キスを求めてきた。僕はそれに応える。
「くあぁ♡ あっあん♡ いいっ、いいのぉお♡」
何度も何度も腰を叩きつけながら、まどかさんの身体を抱く。お互いに汗だくになりながらも、決して離れることはなく一つになっている。激しく絡み合ってお互いに高めあっていく。
いつまでもこうしていたいけど、僕に三度目の限界が迫っていた。それを告げるとまどかさんも、自分もイキそうだと言った。
「ほら……私を一発で妊娠させちゃうくらい思いっきり出してください♡ もう私は七瀬さんナシじゃいられないんですから♡」
「あ、ああ……」
ラストスパートのストローク。そして熱いものが僕の中から迸る。射精の瞬間、僕は思いっきり腰を突き入れた。中で弾ける精液と子宮口をえぐられる感覚にまどかさんは絶頂の嬌声を上げ、結合がより深くなるように僕の腰に脚と尾を回して引き寄せた。そして子宮口で亀頭をくわえるようにして僕の精液を一滴残らず性器で受け止めた。
こうして僕は、邪竜眷属の姉妹の策略に落ち、まどかさんに捕まった。
次の日はいろんな意味で気恥ずかしくてまどかさんにもほのかさんにも達也さんにも顔向けができなかった。そんな僕ににやにや笑いながらほのかさんは朝ごはんを振る舞ってくれた。
はじめは僕も困惑した。ほのかさんへの恋が破れたところにまどかさんに誘惑されてセックスして、そのまま惰性で付き合っているだけなんじゃないか、あるいはまどかさんをほのかさんの代わりにしているんじゃないか、って。
けれども、改めてまどかさんと何回かデートして彼女のことをさらに知っていくうちに、僕は彼女のことが好きになり、そのわだかまりも溶けていった。
「いやあ、妹とうまく行っているようで何より。私も頭を巡らせたかいがあったよ」
仕事が終わって帰り道。途中までほのかさんと一緒に帰るが、その途中でほのかさんが話しかけてくる。普通に話すことができる。会社の先輩後輩として、未来の義姉義弟として。
「これも一重にほのかさんのおかげです、ありがとうございます」
「またまたぁ、口が上手いんだからぁ。最初の鍋パ以外は私は何も…・・」
「何を言いますか! この間のデートでサプライズされましたけど、絶対ほのかさんが会社で仕入れた情報をまどかさんに回していたでしょう! 未だにきっちり策略巡らせているじゃないですか!」
バレたかと苦笑いするほのかさん。この邪竜の眷属のお姉さんは僕がまどかさんと結婚するまで、いや、結婚してからも妹の手助けをするに違いない。実に油断ならない、ドラゴニュート。
「お、噂をすればなんとやらだね」
確かに、僕たちの視線の先にまどかさんがいた。デートの邪魔しちゃ悪いから、とほのかさんとはここで別れた。
「おかえり、七瀬さん。お姉ちゃんと何話していたの?」
「この間のデートのプレゼントはほのかさんの入れ知恵があっただろうって話」
「え、気づいていたの?」
「そりゃもちろん」
そんな会話をしながら僕たちは手を繋いで帰路につく。
恋人のぬくもりを感じながら、僕は、先輩とは別の道をまっすぐ歩いていった。
24/01/06 22:06更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)