Sign1 Elf
「ただいま」
一日の仕事を終えて僕、久島ゆたかはアパートの扉を開けた。温かい空気が僕の鼻腔をくすぐる。そしてその空気に脂の匂いが混じっているのを感じ取った。生姜とにんにくも使われているだろうか。そうなると今日の料理は、生姜焼き……ポークジンジャーだろうか?
にゅっとキッチンから顔が飛び出てきた。絹糸という形容が一番相応しい、なめらかで薄黄金色の長い髪が揺れる。そんな髪を持つ頭の横からは長い耳がにょきりと伸びている。
エルフ……妻の久島アーシャだ。
出会ったあの時と同じような、表情の読めない仏頂面で僕を見て、おかえりと挨拶をする。そしてすぐに彼女はキッチンに引っ込んだ。私はエルフだ、人間に気を許したつもりはない、と言いたげな調子である。
僕は苦笑いしながら手を洗い、自室に引き上げる。ネクタイを緩め、スーツをハンガーにかけ、風呂に向かう。身体を洗い、暖かな湯が貼られた湯船に身体を沈める……
……突然だが諸君、エルフの生活に疑問を持ったことはないだろうか。彼らは総じて弓が得意だ。エルフの里を考えもなしに攻めようとしたら、森の中で高所から一方的に矢を射掛けられることだろう。
ところでエルフたちはその弓の腕を防衛以外のどこで振るうのだろうか。エルフの里を攻めるようなことがそんなしょっちゅう起きるはずなどない。そうすると、エルフたちの弓の腕は狩りで使われ、鍛えられることになる。
しかしここで疑問が生じる。彼らの食生活は、基本的には木の実や野菜などの草食系……肉や魚はあまり食べない。肉を食べない彼らがそんなしょっちゅう狩りに出る必要があるとは言えない。ではそれを街に売りに出て外貨を仕入れて生活しているのか? 確かにその例はよく考えられる。だが狩った獲物は全て売りさばくのだろうか? エルフ(特に魔物娘ではない、元祖の)は人間との交流を拒みがちである。そんなエルフが人間との商売のために森の仲間を害することに全賭けするような生活をするだろうか……
風呂から上がり、僕は寝巻きに着替え、その上から室内用の上着としてパーカーを着る。上がった僕の気配を感じ取ったか、アーシャが夕飯が出来上がったことを伝えた。
アーシャが作る料理はエルフらしく、ほぼ野菜類で構成されている。例外としては乳製品と蜂蜜、卵(パンやケーキなどに使われている物のみ、生卵や卵焼きなどは食べない)くらいか。お陰で僕も随分健康な身体になったものだ。肉や魚が恋しくなったら、一人や仲間との外食の時に食べる。肉や魚の匂いも得意ではないアーシャが相伴することはめったにない。
アーシャの普段の料理はさっきの通りだが、さて本日の食卓に並んでいるのは……
まず目に入るのは玄関の時点で感じ取っていた通り、メインの生姜焼きだ。おおよそエルフが作る料理には似つかわしくない代物。ニラも一緒に炒められているがそれを差し引いても、豚肉である。
サラダはちゃんと用意されている。これはいつも通り。ほうれん草が魔界の物なのは、これは魔物娘ゆえだろう。
小鉢は2つもある。たくさんの種類を用意するのは大変なのに、頭が下がる思いだ。1つにはカツオのしぐれ煮が入っていた。これもエルフらしくない。もう一つには山芋のすりおろしと、うずらの卵が入っている。山芋はともかくうずらの卵、それも生というのはエルフらしくない。
味噌汁は油揚げとオクラが入っている。これはエルフらしい味噌汁だ。普段でもよく出てくる。そして湯気を立てるつやつやの白米。
これが今日の夕飯。
「食え」
「はい。いただきます」
「……いただきます」
アーシャにつつかれ、僕は手をあわせて箸を取る。アーシャも箸をとって、サラダを食べる。エルフらしい。
味噌汁を一口吸い、ベジファーストということで僕もサラダをつついて、そしてメインの生姜焼きをつまんだ。
豚バラでは脂身が多すぎる、逆にロースだとちょっと硬い。その丁度中間の、ランダムに肉が入っている豚こま肉。小麦粉がまぶされて旨味も閉じ込められたちょっと手間かかっている一品だ。出来合いの調味料ではなく、自分で生姜をすりおろして醤油もまぶして下味をつけて、その上で炒めるときにも生姜を追加した一品。生姜本来の爽やかさとパンチがピリリと効いている。パンチの強化にはにんにくも少し混ぜられているようだ。生姜とはまた違う香りと後味を残していく。基本の味付けは醤油であり、わざと少し焦がすことで風味と香りを立てている。そして全てをマイルドにまとめつつ甘さのようにすら錯覚させる旨味を出しているのが、ラードである。ダイニングの灯りを受けてテラテラと妖しげな光を放つその照りは官能すら感じさせた。これが白米と合わないはずがない。
咀嚼していると、アーシャと視線があった。相変わらずの仏頂面であるが、サハギンよりは動きがある。彼女が何を言わんとしているかを察するのは容易であった。
「おいしいよ」
僕が思った通りの言葉を伝えると、アーシャはフンと鼻を鳴らした。しかしその口角は軽くつり上がっている。
そんな彼女が箸で取ったのは生姜焼きであった。そう、普段野菜料理ばかりの彼女が肉料理を作ること事態が珍しいのだが、それを自分が食べているのである。牛乳も断って豆乳を飲み、魚は生臭いと言い、比較的獣臭くない鶏肉牛肉ですら嫌がる彼女が、豚肉を食べているのである。いやいやながら食べているわけではない。顔をしかめることは控えない彼女が、そんな表情見せずに黙々と生姜焼きを食べているのである。少し味は濃いめで脂もあるため、ご飯で中和させながら。
その次に箸を伸ばしたのはカツオの佃煮である。僕も食べてみた。こちらは脂身は控えめだが、塩分はそこそこ強い。日持ちするように濃い味付けにしたらしい。つまりは、一週間内はまた夕食に出るか、あるいはお弁当に詰めてくれるかもしれない。
「……何?」
僕の視線に気づいたのか、少し不機嫌そうにアーシャは眉を掲げる。僕はなんでもないと言って首を振って、山芋の小鉢をかき込んだ。 ……おっと、トロロに埋もれていて分からなかった。なめこっぽいきのこが入っていたか。
今日のメニューの内容に僕は苦笑しながら、生姜焼きをもう一切れ、箸で取るのであった。
夕食を終えてしばしの時間。いつもなら少しばかり、一人の時間を僕たちは取る。夫婦と言えど、それぞれ一人でやりたいことはある。例えば静かに本を読む。例えばゲームに集中する。例えば刺繍をする。例えば趣味の弓の手入れをする。そこに伴侶の介入は望まない。
いつもならそんな時間がある。けど、今日はそれはなしだ。シャワーの音を背に僕は早々に寝室に引き上げる。
しばらくスマートフォンを眺めているが、風呂場のドアが開いた音がしたので充電器に繋いで遠くに放った。
まもなく、無言でアーシャが寝室に入ってきた。いつものパジャマではなく、バスタオルを一枚身体に巻いただけだ。
何も言わずに彼女は僕の前に立った。しばらく寝室に沈黙が流れる。それは重たいものではなく、じれったい雰囲気。
僕が口火を切っても良かったのだが、今日はそれはしないほうが良さそうだ。我慢してアーシャを見つめる。しばらくアーシャは脚をすり合わせてもじもじとしていたが、やがてラリアットのような調子で僕の胸に手を置いて自分も倒れ込みながら、僕をベッドに押し倒した。
速やかに彼女は僕の上にまたがる。そして両手で僕の顔を捉えた。一瞬の間。その間が終わった刹那、彼女の口が僕のそれを荒々しく塞いだ。
ふーふーと鼻息の音と、びちゃびちゃとした水音が薄暗い寝室に響く。ほぼ全てアーシャが立てているものだ。
舌で僕の口内を蹂躙して、舌や歯茎まで舐め回す。肉厚な彼女の舌が僕の舌を搦め捕り、時には僕の舌を吸いながら自分の口内へ誘導し、自分の口内で蹂躙する。それはまさに捕食行為、狼に貪り食われ、蛇に丸呑みにされているようだ。
一度、アーシャの口が離れた。僕を見下ろすその目は座っている。
アーシャの手が僕のパジャマの上に伸びた。忙しそうに指が這いまわる。だが、焦っているためか本来なら大きくて簡単に外れるボタンはなかなか取れない。その様子に苦笑しながら彼女の仕事を減らすべく、僕は別のボタンを外し、さらにパジャマとズボンを一緒に脱いで産まれたままの姿になる。
「ユタカ……もっと舌を出せ……」
僕を剥いたアーシャが僕に命令する。その言葉がほぼ終わらぬ前に、アーシャの上でが僕の首に回って半身を起こして引き寄せようとしてきた。逃げられない僕の口が再び塞がれる。半ばされるがまま、けれども時々逃げてみせたりはするアーシャが絡め取りやすいようにしながら、彼女の愛撫に身を任せた。
僕がアーシャのリードにまかせていると、僕の首に回っていた手が下へと伸びた。彼女の手にふれるのは、この後のことを期待して固く熱くいきり立っている牡器。
「もうこんなにしているのか、いやらしい奴め」
呆れたような言葉を言うエルフ。しかしそれが上っ面だけの言葉であることを僕は知っている。そのあたりのことについて一言二言物申したかったが、僕が彼女の痴態に興奮しているのは事実だし、今言っても彼女の興が削がれるだけだ。
いつの間にかバスタオルははだけ、アーシャも全裸になっていた。スレンダーな体つきではあるが出るところはしっかりと出ており、森の奥の泉のごとく清らかな肌があらわになっている。薄暗闇の中で彼女の肌は妖艶に白く浮かび上がり揺れていた。
しばらくの間、彼女は僕のモノの感触や僕の反応を楽しむかのように僕にまたがったまましごいていたが、やがて我慢できなくなったようだ。ペニスを握ったままそれを固定して、足をベッドにつけて用足しでもするかのようにはしたなく膝は立てて脚を広げ、自分の腰の位置を調節する。そのまま、すっと腰を落とした。
僕からは何も愛撫はしていなかったが、エルフの秘密の花は、何の抵抗もなく、僕を受け入れた。それだけ彼女は僕を求めていたし……我慢していたのだ。
僕とアーシャは、一番深いところまでつながる。
「んぐぅうううう!」
挿入だけでエルフは達した。僕の肩をつかみながら、アーシャは背中を弓なりに反らせて痙攣する。その間も発情した淫らなエルフは、下腹部をこすりつけるようにして腰をグイグイと揺らしていた。
達したばかりで敏感な身体を激しく攻めるのはちょっと気が引ける。けどこのまま何もしないのも無芸だ。僕は左手に自分の身体を支えるのを任せ、右手を動かす。まずそっと、黄金色の髪を撫でる。絹のような触り心地のその髪は引っかかることなくするすると僕の指の間を流れていく。
川に揺れる木の葉ように、僕は流れのまま手を下へと持っていく。その手がぶつかるのは耳だ。魔物娘であれば誰もが持つ人の物とはちょっと異なる尖った耳。だが、エルフのそれは特別だ。
ぴくぴくとくすぐったそうに、恥ずかしそうにその耳が動く。もう一回触ると、アーシャの口から甘い嬌声が漏れた。
「や、やめ……そこは敏感……」
弱々しく拒否の声を上げるアーシャ。敏感なのは事実だが、やめろと言うのは嘘だ。現に彼女は無意識のうちに少し頭を傾けて僕が触りやすいように頭を調節している。そして、手で触るだけではなく、もっと気持ちい事をしてほしいと。
僕の口を伸ばして、彼女の耳にくちづけをした。
「ひゃぁああっ!?」
普段はツンとすましているエルフの口から頓狂な声が上がった。だが構わず攻め立て続ける。悶えるアーシャをしっかりと抱きしめて、唇で甘く咥えてみたり、舌でなぞってみたり、息を吹きかけたり……耳の穴にまで舌を差し込んで責め立てると、面白いように彼女は悶えた。身体をよじるとその動きが結合部に伝わり、僕もなかなか気持ちいい。いや、なかなかどころかこれはちょっと余裕がなくなってきた。
口は耳を攻めているので手が空いてしまっている。ならば新しい仕事を与えよう。右手を彼女の胸に、左手を彼女の尻に伸ばす。二つの柔らかな感触は、揉みしだいてみると弾力が異なっており僕を楽しませる。そして彼女も快感の果てへと駆り立てていく。
「だ、だめ!イク、イクッ……!!」
彼女の膣がぎゅうと絞まり、僕のモノを締め付ける。同時に彼女はまた腰をぐりぐりと動かしてきた。子宮口が僕の亀頭を撫で回す。エルフの牝器が、男を精液を求めて道連れを狙い激しく蠕動する。
その強請に僕は屈した。しがみつくように左手で彼女の腰を引き寄せながら、僕は射精した。粘度の高い精液が、輸精管から尿道へと通り抜けていく感触がしっかりと伝わってくる。そして、鈴口からどぷりと吹き出た感覚も。
「あっ、あっ、あああ……!」
子宮口に叩きつけられる精液の感触でアーシャが連続で達した。膣肉が再びぎゅうっと絞まる。まるで、尿道に残った精液を最後まで絞り出そうとするかのように。おかげで僕は射精の最後の瞬間まで、気持ちよかった。
僕たちはしばらくアクメの激しい快感に互いにしがみつき合っていたが、やがて倒れ込んだ。その間も僕たちは繋がったままであり、腕は相手の身体に絡みついたままだ。
「まったく、お前は本当に変態だ……」
息を切らせながら、アーシャは僕を睨みながらそう言った。しかし裸のまま抱き合い、汗だくで密着して、かつ僕の肉棒を咥えこんでいる状態で言われても説得力はない。何より……
「そりゃないよ……アーシャだって……」
「黙れ!」
自分も発情していることを指摘されることを察してアーシャはべちんと僕の胸を平手で打つ。けど、さっき一言二言言いたかったけど飲み込んだ言葉を、今は我慢できなかった。
「それに夕飯のメニュー……」
「黙れぇええ!」
独特の尖った耳まで真っ赤にしながら、羞恥にエルフは爆発したかのように叫んだ。
……菜食主義者に近いようなイメージを抱かれるエルフ。彼女が住んでいた里ではそれは間違ってはいないのだが……エルフとて肉を食べる時がある。その名残は……魔物娘になった今でも残っている。
エルフが肉を食べる時……それは、繁殖をするとき。精をつけ、何度も激しく交わりあうとき。普段はそんな空気を微塵も感じさせない淡白で高貴な森の賢人が、本気で発情して子を成そうとしているとき。
魔物娘になり、いつでも交わって精を求めるようになった今、それはさらに加速した。
このエルフは今日の夕食のメニューを考えている時から、ずっとこの時のことを考えていたのだ。今日は本気で交わりたいと。
「……黙っていればよかったものを、わざわざ言って私を辱めるとは、いい度胸だな、ユタカ……」
少し落ち着いた静かに言葉を紡いだ。一度僕の身体を離し、結合も解く。肉の栓が抜けたが、ぽっかりと開いた肉孔からは精液は漏れ出ない。夕食にあった、トロロにこっそりと混ぜられていたきのこ、ネバリタケの効果だろう。さらにちなむと、メインの豚の生姜焼きはもちろん、小鉢のカツオも、トロロも、味噌汁の油揚げもオクラも、どれも精がつくと言われているものばかりである。おかげで、という訳では無いが、僕のペニスは一回の射精だけでは満足せず、まだ臨戦態勢を保っている。
そしてそれはアーシャも同じだ。肉を食べたエルフが一回や二回で満足などしない。
「覚悟はできているだろうな?」
覚悟自体は夕食の献立を見た時から固めていたのだが……これはその覚悟を改めなければならないかもしれない……
押し殺した声で言いながら、自分の愛液まみれの肉棒を掴んで再び喰らおうとするエルフを見ながら、僕は苦笑いを浮かべるのであった。
一日の仕事を終えて僕、久島ゆたかはアパートの扉を開けた。温かい空気が僕の鼻腔をくすぐる。そしてその空気に脂の匂いが混じっているのを感じ取った。生姜とにんにくも使われているだろうか。そうなると今日の料理は、生姜焼き……ポークジンジャーだろうか?
にゅっとキッチンから顔が飛び出てきた。絹糸という形容が一番相応しい、なめらかで薄黄金色の長い髪が揺れる。そんな髪を持つ頭の横からは長い耳がにょきりと伸びている。
エルフ……妻の久島アーシャだ。
出会ったあの時と同じような、表情の読めない仏頂面で僕を見て、おかえりと挨拶をする。そしてすぐに彼女はキッチンに引っ込んだ。私はエルフだ、人間に気を許したつもりはない、と言いたげな調子である。
僕は苦笑いしながら手を洗い、自室に引き上げる。ネクタイを緩め、スーツをハンガーにかけ、風呂に向かう。身体を洗い、暖かな湯が貼られた湯船に身体を沈める……
……突然だが諸君、エルフの生活に疑問を持ったことはないだろうか。彼らは総じて弓が得意だ。エルフの里を考えもなしに攻めようとしたら、森の中で高所から一方的に矢を射掛けられることだろう。
ところでエルフたちはその弓の腕を防衛以外のどこで振るうのだろうか。エルフの里を攻めるようなことがそんなしょっちゅう起きるはずなどない。そうすると、エルフたちの弓の腕は狩りで使われ、鍛えられることになる。
しかしここで疑問が生じる。彼らの食生活は、基本的には木の実や野菜などの草食系……肉や魚はあまり食べない。肉を食べない彼らがそんなしょっちゅう狩りに出る必要があるとは言えない。ではそれを街に売りに出て外貨を仕入れて生活しているのか? 確かにその例はよく考えられる。だが狩った獲物は全て売りさばくのだろうか? エルフ(特に魔物娘ではない、元祖の)は人間との交流を拒みがちである。そんなエルフが人間との商売のために森の仲間を害することに全賭けするような生活をするだろうか……
風呂から上がり、僕は寝巻きに着替え、その上から室内用の上着としてパーカーを着る。上がった僕の気配を感じ取ったか、アーシャが夕飯が出来上がったことを伝えた。
アーシャが作る料理はエルフらしく、ほぼ野菜類で構成されている。例外としては乳製品と蜂蜜、卵(パンやケーキなどに使われている物のみ、生卵や卵焼きなどは食べない)くらいか。お陰で僕も随分健康な身体になったものだ。肉や魚が恋しくなったら、一人や仲間との外食の時に食べる。肉や魚の匂いも得意ではないアーシャが相伴することはめったにない。
アーシャの普段の料理はさっきの通りだが、さて本日の食卓に並んでいるのは……
まず目に入るのは玄関の時点で感じ取っていた通り、メインの生姜焼きだ。おおよそエルフが作る料理には似つかわしくない代物。ニラも一緒に炒められているがそれを差し引いても、豚肉である。
サラダはちゃんと用意されている。これはいつも通り。ほうれん草が魔界の物なのは、これは魔物娘ゆえだろう。
小鉢は2つもある。たくさんの種類を用意するのは大変なのに、頭が下がる思いだ。1つにはカツオのしぐれ煮が入っていた。これもエルフらしくない。もう一つには山芋のすりおろしと、うずらの卵が入っている。山芋はともかくうずらの卵、それも生というのはエルフらしくない。
味噌汁は油揚げとオクラが入っている。これはエルフらしい味噌汁だ。普段でもよく出てくる。そして湯気を立てるつやつやの白米。
これが今日の夕飯。
「食え」
「はい。いただきます」
「……いただきます」
アーシャにつつかれ、僕は手をあわせて箸を取る。アーシャも箸をとって、サラダを食べる。エルフらしい。
味噌汁を一口吸い、ベジファーストということで僕もサラダをつついて、そしてメインの生姜焼きをつまんだ。
豚バラでは脂身が多すぎる、逆にロースだとちょっと硬い。その丁度中間の、ランダムに肉が入っている豚こま肉。小麦粉がまぶされて旨味も閉じ込められたちょっと手間かかっている一品だ。出来合いの調味料ではなく、自分で生姜をすりおろして醤油もまぶして下味をつけて、その上で炒めるときにも生姜を追加した一品。生姜本来の爽やかさとパンチがピリリと効いている。パンチの強化にはにんにくも少し混ぜられているようだ。生姜とはまた違う香りと後味を残していく。基本の味付けは醤油であり、わざと少し焦がすことで風味と香りを立てている。そして全てをマイルドにまとめつつ甘さのようにすら錯覚させる旨味を出しているのが、ラードである。ダイニングの灯りを受けてテラテラと妖しげな光を放つその照りは官能すら感じさせた。これが白米と合わないはずがない。
咀嚼していると、アーシャと視線があった。相変わらずの仏頂面であるが、サハギンよりは動きがある。彼女が何を言わんとしているかを察するのは容易であった。
「おいしいよ」
僕が思った通りの言葉を伝えると、アーシャはフンと鼻を鳴らした。しかしその口角は軽くつり上がっている。
そんな彼女が箸で取ったのは生姜焼きであった。そう、普段野菜料理ばかりの彼女が肉料理を作ること事態が珍しいのだが、それを自分が食べているのである。牛乳も断って豆乳を飲み、魚は生臭いと言い、比較的獣臭くない鶏肉牛肉ですら嫌がる彼女が、豚肉を食べているのである。いやいやながら食べているわけではない。顔をしかめることは控えない彼女が、そんな表情見せずに黙々と生姜焼きを食べているのである。少し味は濃いめで脂もあるため、ご飯で中和させながら。
その次に箸を伸ばしたのはカツオの佃煮である。僕も食べてみた。こちらは脂身は控えめだが、塩分はそこそこ強い。日持ちするように濃い味付けにしたらしい。つまりは、一週間内はまた夕食に出るか、あるいはお弁当に詰めてくれるかもしれない。
「……何?」
僕の視線に気づいたのか、少し不機嫌そうにアーシャは眉を掲げる。僕はなんでもないと言って首を振って、山芋の小鉢をかき込んだ。 ……おっと、トロロに埋もれていて分からなかった。なめこっぽいきのこが入っていたか。
今日のメニューの内容に僕は苦笑しながら、生姜焼きをもう一切れ、箸で取るのであった。
夕食を終えてしばしの時間。いつもなら少しばかり、一人の時間を僕たちは取る。夫婦と言えど、それぞれ一人でやりたいことはある。例えば静かに本を読む。例えばゲームに集中する。例えば刺繍をする。例えば趣味の弓の手入れをする。そこに伴侶の介入は望まない。
いつもならそんな時間がある。けど、今日はそれはなしだ。シャワーの音を背に僕は早々に寝室に引き上げる。
しばらくスマートフォンを眺めているが、風呂場のドアが開いた音がしたので充電器に繋いで遠くに放った。
まもなく、無言でアーシャが寝室に入ってきた。いつものパジャマではなく、バスタオルを一枚身体に巻いただけだ。
何も言わずに彼女は僕の前に立った。しばらく寝室に沈黙が流れる。それは重たいものではなく、じれったい雰囲気。
僕が口火を切っても良かったのだが、今日はそれはしないほうが良さそうだ。我慢してアーシャを見つめる。しばらくアーシャは脚をすり合わせてもじもじとしていたが、やがてラリアットのような調子で僕の胸に手を置いて自分も倒れ込みながら、僕をベッドに押し倒した。
速やかに彼女は僕の上にまたがる。そして両手で僕の顔を捉えた。一瞬の間。その間が終わった刹那、彼女の口が僕のそれを荒々しく塞いだ。
ふーふーと鼻息の音と、びちゃびちゃとした水音が薄暗い寝室に響く。ほぼ全てアーシャが立てているものだ。
舌で僕の口内を蹂躙して、舌や歯茎まで舐め回す。肉厚な彼女の舌が僕の舌を搦め捕り、時には僕の舌を吸いながら自分の口内へ誘導し、自分の口内で蹂躙する。それはまさに捕食行為、狼に貪り食われ、蛇に丸呑みにされているようだ。
一度、アーシャの口が離れた。僕を見下ろすその目は座っている。
アーシャの手が僕のパジャマの上に伸びた。忙しそうに指が這いまわる。だが、焦っているためか本来なら大きくて簡単に外れるボタンはなかなか取れない。その様子に苦笑しながら彼女の仕事を減らすべく、僕は別のボタンを外し、さらにパジャマとズボンを一緒に脱いで産まれたままの姿になる。
「ユタカ……もっと舌を出せ……」
僕を剥いたアーシャが僕に命令する。その言葉がほぼ終わらぬ前に、アーシャの上でが僕の首に回って半身を起こして引き寄せようとしてきた。逃げられない僕の口が再び塞がれる。半ばされるがまま、けれども時々逃げてみせたりはするアーシャが絡め取りやすいようにしながら、彼女の愛撫に身を任せた。
僕がアーシャのリードにまかせていると、僕の首に回っていた手が下へと伸びた。彼女の手にふれるのは、この後のことを期待して固く熱くいきり立っている牡器。
「もうこんなにしているのか、いやらしい奴め」
呆れたような言葉を言うエルフ。しかしそれが上っ面だけの言葉であることを僕は知っている。そのあたりのことについて一言二言物申したかったが、僕が彼女の痴態に興奮しているのは事実だし、今言っても彼女の興が削がれるだけだ。
いつの間にかバスタオルははだけ、アーシャも全裸になっていた。スレンダーな体つきではあるが出るところはしっかりと出ており、森の奥の泉のごとく清らかな肌があらわになっている。薄暗闇の中で彼女の肌は妖艶に白く浮かび上がり揺れていた。
しばらくの間、彼女は僕のモノの感触や僕の反応を楽しむかのように僕にまたがったまましごいていたが、やがて我慢できなくなったようだ。ペニスを握ったままそれを固定して、足をベッドにつけて用足しでもするかのようにはしたなく膝は立てて脚を広げ、自分の腰の位置を調節する。そのまま、すっと腰を落とした。
僕からは何も愛撫はしていなかったが、エルフの秘密の花は、何の抵抗もなく、僕を受け入れた。それだけ彼女は僕を求めていたし……我慢していたのだ。
僕とアーシャは、一番深いところまでつながる。
「んぐぅうううう!」
挿入だけでエルフは達した。僕の肩をつかみながら、アーシャは背中を弓なりに反らせて痙攣する。その間も発情した淫らなエルフは、下腹部をこすりつけるようにして腰をグイグイと揺らしていた。
達したばかりで敏感な身体を激しく攻めるのはちょっと気が引ける。けどこのまま何もしないのも無芸だ。僕は左手に自分の身体を支えるのを任せ、右手を動かす。まずそっと、黄金色の髪を撫でる。絹のような触り心地のその髪は引っかかることなくするすると僕の指の間を流れていく。
川に揺れる木の葉ように、僕は流れのまま手を下へと持っていく。その手がぶつかるのは耳だ。魔物娘であれば誰もが持つ人の物とはちょっと異なる尖った耳。だが、エルフのそれは特別だ。
ぴくぴくとくすぐったそうに、恥ずかしそうにその耳が動く。もう一回触ると、アーシャの口から甘い嬌声が漏れた。
「や、やめ……そこは敏感……」
弱々しく拒否の声を上げるアーシャ。敏感なのは事実だが、やめろと言うのは嘘だ。現に彼女は無意識のうちに少し頭を傾けて僕が触りやすいように頭を調節している。そして、手で触るだけではなく、もっと気持ちい事をしてほしいと。
僕の口を伸ばして、彼女の耳にくちづけをした。
「ひゃぁああっ!?」
普段はツンとすましているエルフの口から頓狂な声が上がった。だが構わず攻め立て続ける。悶えるアーシャをしっかりと抱きしめて、唇で甘く咥えてみたり、舌でなぞってみたり、息を吹きかけたり……耳の穴にまで舌を差し込んで責め立てると、面白いように彼女は悶えた。身体をよじるとその動きが結合部に伝わり、僕もなかなか気持ちいい。いや、なかなかどころかこれはちょっと余裕がなくなってきた。
口は耳を攻めているので手が空いてしまっている。ならば新しい仕事を与えよう。右手を彼女の胸に、左手を彼女の尻に伸ばす。二つの柔らかな感触は、揉みしだいてみると弾力が異なっており僕を楽しませる。そして彼女も快感の果てへと駆り立てていく。
「だ、だめ!イク、イクッ……!!」
彼女の膣がぎゅうと絞まり、僕のモノを締め付ける。同時に彼女はまた腰をぐりぐりと動かしてきた。子宮口が僕の亀頭を撫で回す。エルフの牝器が、男を精液を求めて道連れを狙い激しく蠕動する。
その強請に僕は屈した。しがみつくように左手で彼女の腰を引き寄せながら、僕は射精した。粘度の高い精液が、輸精管から尿道へと通り抜けていく感触がしっかりと伝わってくる。そして、鈴口からどぷりと吹き出た感覚も。
「あっ、あっ、あああ……!」
子宮口に叩きつけられる精液の感触でアーシャが連続で達した。膣肉が再びぎゅうっと絞まる。まるで、尿道に残った精液を最後まで絞り出そうとするかのように。おかげで僕は射精の最後の瞬間まで、気持ちよかった。
僕たちはしばらくアクメの激しい快感に互いにしがみつき合っていたが、やがて倒れ込んだ。その間も僕たちは繋がったままであり、腕は相手の身体に絡みついたままだ。
「まったく、お前は本当に変態だ……」
息を切らせながら、アーシャは僕を睨みながらそう言った。しかし裸のまま抱き合い、汗だくで密着して、かつ僕の肉棒を咥えこんでいる状態で言われても説得力はない。何より……
「そりゃないよ……アーシャだって……」
「黙れ!」
自分も発情していることを指摘されることを察してアーシャはべちんと僕の胸を平手で打つ。けど、さっき一言二言言いたかったけど飲み込んだ言葉を、今は我慢できなかった。
「それに夕飯のメニュー……」
「黙れぇええ!」
独特の尖った耳まで真っ赤にしながら、羞恥にエルフは爆発したかのように叫んだ。
……菜食主義者に近いようなイメージを抱かれるエルフ。彼女が住んでいた里ではそれは間違ってはいないのだが……エルフとて肉を食べる時がある。その名残は……魔物娘になった今でも残っている。
エルフが肉を食べる時……それは、繁殖をするとき。精をつけ、何度も激しく交わりあうとき。普段はそんな空気を微塵も感じさせない淡白で高貴な森の賢人が、本気で発情して子を成そうとしているとき。
魔物娘になり、いつでも交わって精を求めるようになった今、それはさらに加速した。
このエルフは今日の夕食のメニューを考えている時から、ずっとこの時のことを考えていたのだ。今日は本気で交わりたいと。
「……黙っていればよかったものを、わざわざ言って私を辱めるとは、いい度胸だな、ユタカ……」
少し落ち着いた静かに言葉を紡いだ。一度僕の身体を離し、結合も解く。肉の栓が抜けたが、ぽっかりと開いた肉孔からは精液は漏れ出ない。夕食にあった、トロロにこっそりと混ぜられていたきのこ、ネバリタケの効果だろう。さらにちなむと、メインの豚の生姜焼きはもちろん、小鉢のカツオも、トロロも、味噌汁の油揚げもオクラも、どれも精がつくと言われているものばかりである。おかげで、という訳では無いが、僕のペニスは一回の射精だけでは満足せず、まだ臨戦態勢を保っている。
そしてそれはアーシャも同じだ。肉を食べたエルフが一回や二回で満足などしない。
「覚悟はできているだろうな?」
覚悟自体は夕食の献立を見た時から固めていたのだが……これはその覚悟を改めなければならないかもしれない……
押し殺した声で言いながら、自分の愛液まみれの肉棒を掴んで再び喰らおうとするエルフを見ながら、僕は苦笑いを浮かべるのであった。
23/11/29 22:47更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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