誘う邪竜女王と乱れる勇者
シュワルツォーラ城を僕は進む。勇者として、マレフドラゴンを討ち果たすため。
ぜぇぜぇと僕は息を切らしている。剣を振り回して魔物たちを追い払いながら、ここまで来たのだ。消耗する。
城の造りはとても簡単だった。人(魔物だが)が住むところなのだ。いりくねった迷宮にする必要はない。前庭、エントランス、ホール、大謁見の間と一直線。謁見の間の奥に進むと廊下が続いていて、その先には見上げるほど大きく豪華な扉があった。その扉の前に立つだけで、背筋も凍るような寒気がする。会ったことはないが、間違いなく「ヤツ」がいると確信させる。
威圧感だけで僕は心が折れそうになった。雨に打たれた子犬のように背中が丸まる。ここで誰かが勇気づけるような言葉をかけてくれればどれだけ助かったか。
だが仲間はもういない……戦士ブライア、魔法使いステファン、僧侶ターリア……みんな、道中の魔物に捕まってしまった。残ったのは僕一人だ。
「……!」
温かい言葉はなかったが、僕は背筋を伸ばした。ここで戦意喪失しておめおめと帰ったら仲間たちにあわせる顔がない。その気持ちが僕の折れかけた心を立て直した。
無言で扉を押し開く。
先程の大謁見の間は人々を集めて城主が挨拶などをする間なのであろう。それに対しここはごく少数の者を呼んで挨拶をするところらしい。それでも、ちょっとした家の敷地と同じくらい広い部屋なのだが。
入り口から紅いカーペットは奥へと伸び、数段の段差を這って上っていた。その先には豪華な玉座がある。
その玉座に脚を組んで座っている者がいた。
女だ。純白の髪はまるで絹のように美しく腰のあたりまで流れている。紅い双眸がきらりと光って僕を見ている。胸元では大振りなりんごほどもあろうかと思われるたわわな果実が実っていた。胸だけでなく贅肉など一切ないお腹も、惜しげもなく晒している。だが大事なところは黒のドレスが隠している。ドレスの生地は縦長で首から二股に伸び、双丘の頂点を通って下腹部で合流していた。着る者によっては下品極まりないそのドレスを、その女は巧みに着こなしていた。
その女はただの女ではない。魔物である。
側頭部からは黒紫の宝石のような角がのびている。腰からは翼膜を持った翼が伸び、背中で折りたたまれている。前腕と膝から先はゴツゴツとした、角と同じような甲殻に覆われている。その特徴はまさに竜。
「よく来た、勇者フィルよ……妾がこのシュワルツォーラ城の主、古の時代では魔王と呼ばれたものの一族、マレフドラゴンのエレノア・アンジェリカじゃ」
その玉座に座っている者は口を聞いた。声は静かで大音声というわけではない。だがその重厚さは広いこの部屋中に響き渡るかのようであった。
その威圧に僕の足は一歩下がっていた。我ながらそれだけに留めたのは褒めてもいいと思う。ここから逃げ出したい、あるいはその足元にひれ伏したい、あるいはその身体にむしゃぶりつきたい……そんな気持ちになんとか打ち勝ったから。
……いや待った。最後の気持ちは一体何だ? 仲間を失い、それでもなんとかたどり着いた首魁の元。それなのにそのいやらしい気持ちは何だ。ふさわしくない!
いろんな恐怖を振り払うように僕は剣を構える。玉座で脚を組んだまま、頬杖をついているエレノアは、最上級の魔族の証である紅い瞳で冷ややかに見ていた。
「無粋じゃのう……そのような物を突きつけねば会話もままならぬか? せっかくの男と女の逢瀬なのじゃ。もう少し楽しみたいとは思わぬか? 妾は待っていたのじゃ。お主のようなオスが来るのを」
背筋を撫でられてるかのような感覚に僕は陥る。その撫でられているかのような感覚は逆撫でされるような不快なものではないのがまた怖い。今こうして恐慌して昂ぶっている気持ちを落ち着かせるような、それでいて別の何かを掻き立てて昂らせるような……彼女の低く柔らかな声は、そんな物を孕んでいた。
僕はエレノアの言葉に耳を貸さず、じりじりと歩を進める。
「まあ待て。それで遊ぶのも嫌いではないが、挨拶もなしにダンスパーティーを始めるほど無粋ではないのでのう……勇者フィルよ。妾の物にならぬか? さすればお主の望む者は全てくれてやろう」
エレノアは言葉を続ける。
「冨、名声、権力……人間が望みそうな願いであれば妾はいくらでも与えられるが、お主はそんなものは望まぬだろうなぁ……」
「誰がそんなもの!」
僕は歩を進める。走ればあっという間の彼女までの距離でも、とても遠く感じた。突進してしまいたい気持ちをなんとかして抑える。曖昧な気持ちのままで飛び込むなど自殺行為だ。
僕は叫んだが、エレノアは臆せず、くすくすと笑う
「そうであろうなぁ……お主は強くて優しいオスじゃ。お主が妾を倒すための旅に出てからずっとその様子を水晶玉越しに見ておったが……いや、本当に素晴らしい! 勇者とはかくあるべし、じゃな」
「褒められても何も出ないぞ」
なんとか僕はエレノアの玉座に続く階段まで気持ちを抑えながらやってきた。一段ずつ階段を登っていく。階段は六段。僕が階段を上っているにもかかわらずエレノアは玉座から動かなかった。
「ゆえに妾はお主のことが気に入った。お主こそ妾を孕ますのにふさわしい」
悠然と脚を組み替えながら、大胆なことを言うエレノア。そのいるかのようにつるりとした脚が動くのを僕は目で追ってしまっていた。ただ、動いた物に気を取られたのではない。組まれていたがゆえに塞がれていた、脚の奥が見えないか無意識のうちに期待していた。玉座の高さと階段にいる僕の目線の高さはちょうどそのくらいの高さだったのだ。
くすくすとエレノアは笑う。分かっていてこの魔物娘は脚を組み替えたのだ。
「そう、妾は待っていたのじゃ……お主のような、妾を孕ませるのに相応しいオスを……」
エレノアは言葉を続ける。その時には僕は階段を上りきり、エレノアの前に立っていた。
剣を振り上げる。そんな僕をエレノアは下からまっすぐに見上げていた。紅い瞳には、荒い息遣いをしている僕が映っている。その目に吸い込まれていしまいそうだ。
瞳から逃げるように僕は視線を少し落とした。だがそれも間違いだ。彼女の胸の谷間と、さらにその下のがいきおい目に飛び込んでくる。
くすくすとエレノアは笑った。だが次の瞬間、彼女は笑顔を消して真剣に言った。
「妾の物になれ、勇者フィルよ。代わりにお主には妾の全てを……心も身体も未来も愛も全てくれてやろうぞ」
「……! 断る!」
振り上げた剣を僕は振り下ろした。必殺の間合いでの、一抱えもある大木を両断するほどの、斬撃。だが、剣は小さな音を立てて空中で止まった。
「つれないのぉ……さすがの妾も少々傷つくのじゃ」
片手は相変わらず頬杖をついたまま、だがもう一方の腕をエレノアは掲げ、二本の指を伸ばしていた。その指に、剣は挟まれていた。力を込めてもびくともしない。エレノアがくすくすと笑った。
「そう睨むでない。見つめられると照れるではないか」
頬を紅く染めてエレノアが顔をそらす。チャンスだ。僕は魔法を唱えて玉座ごと邪竜を吹き飛ばそうとする。それより先にエレノアが僕の剣を弾き……姿を消した。
「くっ……どこに!?」
「……仕方ないのぉ。そこまで分かってもらえぬのであれば……」
姿は見えず、エレノアの声だけが響く。どこから話しかけているのか……ぐるりと見渡すと、エレノアはいつの間にか、部屋の中心にひっそりと立っていた。
「……来い、相手をしてやる」
手を差し出してくいくいと手招きをするエレノア。いきり立った僕は階段全てを飛び降りてエレノアに向かって突進した。
さっきは正直、エレノアの姿に見とれていて心も乱れていた。けど遠距離から一気に詰めての攻撃なら……!
闇色としか表現しようがない激しくも部屋を照らさない炎を、エレノアは口から吐き出す。軌道を変えて僕はそれを躱し、剣を振りかぶりながらエレノアに迫った。
振り下ろした剣撃を、エレノアは半身になって躱す。いや、それだけで終わっていない。後ろに下げた脚が折りたたまれている。速やかに盾で上体を守った。間一髪、エレノアの竜の脚は盾を叩いていた。
「ほう、妾の初撃を防いだか……」
意外そうな声の中にもいたぶるような嘲笑が混じっている。彼女の一撃で僕は四歩も五歩もよろめいて後ろに下がったのだ。その気になれば追撃することもできたのにしなかったのは、この一撃だけで全てが終わると舐めていたからだろう。
邪竜は左足を引いて腰を軽く沈める。ドレスのスリットから艶めかしい脚が伸びる。右手を前に、左手を胸元に持ってきた。本格的な徒手空拳の構え。いくぞとその笑みが伝えていた。
一息にエレノアは間合いを詰めてこようとする。完全に接近されたら不利だ。牽制するように僕は剣を横に凪ぐ。エレノアは突進を止めて上体をそらしてその剣を躱した。激しい動きに胸の果実が合わせて揺れる。一瞬それに目を奪われそうになるが、集中する。
前に踏み込みながら手首を返して僕は今度は逆方向に剣を振るう。予期しなかった二段攻撃にエレノアの涼しげな顔が一瞬固まる。先程の僕と同じように後ろに跳んでその攻撃を躱す。僕の剣は彼女のドレスを少し千切るだけに終わる。
「ほう、良い攻撃じゃ」
にこりと笑うエレノアに向かって今度は僕の方から突進する。右、左、下から上へ、上から下へ、さらにまっすぐ突く……息もつかせぬ連続攻撃。しかしエレノアはその攻撃を、間合いを保ったまま躱し続ける。
「ほほほ、良き攻めじゃ。妾はダンスも好きでな」
そんな軽口を叩くくらいには相手にはまだ余裕はありそうだ。ならばこれならどうだ!?
盾を持った手を突き出して僕は魔法を放つ。炎の帯がそこから放たれて相手を焼き尽くさんとする。それをエレノアはしゃがんで躱した。チャンスだ。その動きならば先程のように軽やかに跳んで跳ねて躱すことはできない!
剣を振り下ろそうとする。だが今度は僕の顔が固まる番であった。エレノアはただしゃがんだのではない。その身体が螺旋を描くように回転し、伸ばされた尾が僕の軸足を刈ろうとしている。
間に合わない。重心を崩された僕は謁見の間に仰向けに叩きつけられる。その僕に向かってマレフドラゴンは踵落としを見舞うべく脚を振り上げた。
「はしたないぞ!」
あまりの大開脚に、目を奪われぬように目を強く閉じて僕は転がる。エレノア脚は僕がいた空間を踏み抜き、どしんと大きな音を部屋に響かせた。
「良い、良いぞ……フィルよ。妾をここまで昂ぶらせたのはお主が初めてじゃ」
荒い息をつく僕を見下ろしながらエレノアが言う。彼女もまた荒い息遣いだが、それはスタミナ切れや動揺を落ち着けるためではない。乱れた息遣いではない。ただの興奮だ。その頬は興奮で紅く染まっている。
ダメだ。この数回のコンタクトで僕は悟った。悔しいがエレノアのほうが力も技も、そして戦術の組み立ても上だ。最初の二段攻撃には驚いたようだが、先程の連続攻撃を全てかわしているのを見ると、もう連続攻撃は通じない。しかもあれは僕の体力を削っていく。攻撃が鈍くなったところに反撃の一撃を食らって沈むのがオチだ。
ならば……
「次の一撃で全てを決めようとしておるな?」
僕の考えを見抜いたようにエレノアは押し殺した声で言う。僕は答えない。間合いを悟られぬように剣を後ろに引き……その剣に魔力を込めていく。
「無駄なあがきを……だが良いぞ! それでこそ勇者じゃ!」
そう叫んでエレノアは突進した。そのエレノアに向かって僕は剣を振るった。僕とエレノアの距離は7m近く離れている。剣は絶対届かない位置。だが……!
魔力を込められた剣は光の刃となって伸びた。その刃は……驚愕したエレノアの首を捉えていた。
「勇者様ばんざーい!」
「勇者様の帰還だぞー!」
「勇者様、ばんざーい!」
歓声が城門の前に集まっていた。皆口々に僕のことを褒め称える。その降り注ぐ群衆の歓声の中、僕は少し小さくなりながら、王城へと続く大通りを歩いていた。
邪竜エレノアを倒して僕は故郷のヒュンバード王国に凱旋していた。といっても、シュヴァルツォーラ城からそこまで離れていないのだが。近くにいた邪竜の脅威から国を救った僕は、国中から祝われていた。
「勇者フィルよ! よくぞ成し遂げてくれた!」
国王が直々に僕の元までやってきて賞賛の言葉をかける。
「お前のお陰で我が国は邪竜の脅威から解放された。これは国を挙げての祝いをせねばならぬな!」
「いえ、僕は……それに、仲間たちが……」
「何を言う。確かに仲間を失ったのは辛かろう。だが、仮にお前が敗れていれば我が国は暗黒魔界に飲み込まれていたことだろう」
それは否定できない。魔物娘が人を殺したりすることこそないという噂だが、信用できたものではないし、現に魔界に飲まれた国は数しれずなのだ。
「ぜひともフィルには我が王女を娶っていただき、勇者としての血筋を残してほしい」
勇者としての血筋を残す……それはつまり交わり子をなすということ……
――お主こそ妾を孕ますのにふさわしい
不意に耳に、エレノアの声が蘇る。思わず僕は塞ぐようにバチンと自分の耳を叩いた。
「どうした勇者フィルよ。突然自分の顔など叩いて」
「あ、いえ。ちょっと疲れが……申し訳ありません」
まさか討ち取った邪竜のいやらしい言葉を思い出してしまったなどと言えるはずもない。かと言ってもっと良い言い訳はなかったのかと、言った後に思った。
それでも王はごまかされたようだ。さもありなんとばかりにうんうんとうなずく。
「ささ、勇者フィルよ。宴に備えてゆっくり休むがよい」
国王にそう言われ、僕はヒュンバード城の謁見の間を後にした。そして案内された王城の一室で泥のように眠った。
翌日は忙しかった。朝起こされて、人前に出るということで湯浴みをして丁寧におめかしをされる。
昼頃に王城の、演説の塔で国民の前に立ち、国王に紹介されてみんなの歓声を受けた。その後は王より勲章を受け……そして宴が始まった。
午後遅い時間が始まってから宴は白い満月が上ってからも続いた。その間、僕の盃は空になっていなかった時間はほとんどなかった気がする。城の兵士や冒険者たちが僕の話を聞きたがって入れ代わり立ち代わりやってきて、酒を注いだからだ。毒への耐性も僧侶ターリアにつけてもらったものの、さすがにつらいものがある。
僕は王に断って自室に戻ることを願った。一人になりたかったのもある。主役が抜けるのは寂しいが、後は騒ぎにかこつけて飲みたい者だけだろうと王もうなずいた。かくいう王も寄る年のせいか疲れているように見えた。
宴を抜けた僕は、部屋に戻った。重たい着飾った機能的ではない儀礼用の鎧を脱いで剣を置き……その剣を持ち直した。
「……誰だ。姿を見せろ」
答えるかのように、まるで影から作られたかのように、ぬるりと人が二人三人と現れた。手には不穏な光を放つナイフを握っている。暗殺者か。
だが、その暗殺者が着ている服に僕は仰天した。彼らは、ヒュンバード王国の紋章を織り込んだ、兵士の服をまとっていたのだ。
「な!? お前たち、どういうつもりだ!」
答える義理はないと言わんばかりに彼らはじりじりと間合いを詰めてくる。そちらがそういうつもりならこっちも考えがある、と僕は剣を抜いた。そして一撃で仕留めようと振りかぶった。
だが、その手がぴたりと止まる。ちょっと待った。こいつらは何者だと。
魔物娘が復讐のために来るというのが自然な流れだが、それはすぐに否定される。いくら報復のためといえど、直接命を奪いに来るというのは魔物娘がすることではない。彼女ら相手がいかなる者であろうと、もっと別の手で獲物を籠絡し、無力化し、己がものにする。
では、今回の功績に嫉妬した他国の主が暗殺者を仕向けた? それなら筋が通る。宴の最中で酔っているところを謀殺……タイミングも完璧だ。
しかし分からないことがある。なぜ堂々とヒュンバードの紋章を織り込んだ服を着ている? 城に侵入しやすくするため? それにしては不必要なまでに紋章を見せつけるようにしている。何か違和感を覚える。その違和感が僕の手を止めさせていた。
そして気づく。もう一つの可能性に。彼らは変装しているわけではない、ヒュンバード王国が秘密裏に保持している、暗殺部隊ではないかと。魔物娘に籠絡された勇者……普通の人より強力で厄介な存在である者を誅殺するために育て上げられた存在。
「なぜだ! 僕はマレフドラゴンを討伐したぞ!?」
「……それが困るのだ」
暗殺者の一人が口を開く。余計なことを言うなと別の暗殺者が睨む。それで確信した。
彼らはこの国の暗殺部隊だ。そして僕を暗殺しようとしている。なぜ? マレフドラゴンを倒すような強力な存在に反旗を翻されるより先に葬り去ろうという算段だ。ではなぜヒュンバードの紋章を紋章を見せびらかしているのか? それは返り討ちにされたとき、勇者が国王の部下に手をかけた、反逆をしたという証拠にするためだ。
脳裏で全てが繋がり、悟った僕の剣を持つ手は振り上げられたまま震えていた。動揺している僕に暗殺者は襲いかかってきた。
乱れた心で振られた剣は暗殺者の足を一瞬止めるだけに終わった。だがそれで十分だ。僕は窓に駆け寄って体当たりして飛び出した。そのまま屋根を伝って駆け出す。
「逃げたぞ! 追え!」
「屋根の上なら逃げ場はない!」
暗殺者が叫んでいる。そのとおりだ。この部屋は五階。屋根は傾斜しているが、それでも地面に降りようとすると三階から飛び降りる形となる。いかに僕は勇者でも三階から飛び降りるのは無事である保証はない。そんなところに暗殺部隊に追いつかれたら? 無理だ。では、屋根の上で無様に逃げ続けるのか? 暗殺者を返り討ちにして反逆者の汚名を被って国を捨てるか? 絶望的な状況に僕の心が折れかかる。
その時であった。
「捕まるがよい!」
黒い影がひゅんと宙を待った。その影が僕に向かって手を差し伸べてくる。相手が何者かを確認せず、反射的に僕はその手を握っていた。
次の瞬間、ぐいっと力強く僕は手を引かれ、身体が宙に浮いた。さらにその次の瞬間、転移魔法か世界がぐにゃりと歪み……
気づいたら僕は見知らぬ部屋にいた。
豪奢な部屋であった。ヒュンバード城で僕にあてられた部屋もかなり上等であったが、この部屋はそれ以上であった。
床にはふかふかとした上品なワインレッドのカーペットが敷かれている。小ぶりなテーブルがあり、それを挟むように二人がけの小さなソファとひとりがけ用のソファーが置かれている。他にも上品な調度品があちらこちらに飾られている。それなりの数があるはずなのだが、それでもまだ置くことができるくらいにこの部屋は広い。壁に据え付けられた暖炉では煌々と火が燃えていて、天井からはシャンデリアが吊り下げられている。
そして、僕のすぐとなりにはキングサイズよりもさらに大きなベッドが安置されている。天蓋付きの豪奢なもの、まさに王のために用意されているようなもの。
しかし僕にそれらをゆっくりと観察する余裕はなかった。僕と手を繋いで、ここに連れてきた存在に仰天していた。
「え、え、エレノア!?」
「ごきげんよう、勇者フィル。また会えて妾はとっても嬉しいぞ♡どうした、そんなゴーストでも見るような顔をして?」
そこにいたのは、マレフドラゴンのエレノア・アンジェリカであった。
「ば、馬鹿な!? お前は僕の必殺技を受けて首を落とされたはずじゃ……!?」
「くっくっく……あれか? あれは妾の魔力の塊を人形にしてその上からイリュージョンを被せただけの幻術じゃ」
エレノアは掌からじゅくじゅくと、タールのような塊があふれ、そこから黒い霧が立ち上る。魔物娘の魔力塊だ。それは彼女が少し念じると人の形となり……エレノアがぱちんと指を鳴らすと、彼女の姿となった。掌に乗る、ミニチュアサイズであるが。にぱりと小さなエレノアが僕に笑いかける。
「玉座で剣を受け止めたまでが本物の妾じゃ。そこから先はお主は幻の妾と戦っていた。妾は玉座に座ったまま一歩も動かず一人黒い霧と踊っている様子を眺めておったわ」
心底おかしそうにエレノアは身体を揺らしてくつくつと笑う。だがすぐに真剣な表情になる。
「それで……どうじゃった勇者フィルよ。妾を倒して凱旋したと思ったら、どんな仕打ちを受けた?」
「……思い出したくもない」
「そうじゃのう、妾も水晶玉を通じてお主の様子を見ておったが、あんまりな仕打ちじゃのう」
水晶玉で見ていたから飛んで駆けつけたというわけだ。
「……全部分かっててやったのか?」
「うーむ……勝算はあったが、『分かっていた』かとなると違うのぅ……」
頬を軽く掻いて答えるエレノア。その様子に嘘はなさそうだ。
彼女いわく、すでに数人の部下をヒュンバード王国および王城に忍ばせており、国や王城内の動向を探っているそうだ。それゆえに国王やその周辺である大臣たちの人となりは知っており、大臣たちは強大な力を持ちかつ飼い慣らす自信がない者は始末することは予期していたのだ。
「そうは予想してはいたが、ここまで予想通りになったのは、むしろ人間というものを思い知らされて妾まで惨めな気分ということに加え、大切なお主をここまでコケにされて腹が立つというものじゃ」
エレノアは悲しげに眉を下げた。その様子は本当に嫌な気分になっているようだ。そんなエレノアに僕はもう一つ疑問をぶつける。
「……なぜこんな回りくどいことをしたんだ?」
その気になればエレノアは力で僕をねじ伏せ、僕を凌辱することもできたはずだ。サキュバスを始めほかの魔物娘がやるように。幻影ですらあの力量だ。できたはずである。
僕の問いにマレフドラゴンは妖しげに笑い、ベッドに腰掛けた。そして悠然と脚を組む。あの戦いの前のように、僕は思わずその動きを目で追ってしまう。玉座の時と違い、ベッドでその肢体を見ると、それは雰囲気もあって蠱惑的に見えた。脚から目をそらしてもお腹が、突き出た胸が、三日月のように笑っている口が、紅い目が、目に飛び込んでくる。エレノアから目が逃げられず、心が昂ぶる。
僕が目をそらすことができないことを知っているのだろう。エレノアはくすくすと笑う。
「言わずとも、お主は分かっておるのではないかぇ?」
そのはぐらかした言葉は、逆に僕の中で答えを固めた。彼女はあくまで僕自らが彼女の手に堕ちるためにこのようなことをしたのだ。それが邪竜たる所以なのだ。誘うようにその身体を揺らし、だが自らは触れさせず、帰したかと思いきやその帰る先を失っていることを分かっているがゆえに自分が帰る先になるようにしている……
蛇以上に執念深く、蜘蛛以上に周到で、悪魔以上に甘い邪竜の手のひらに、僕はすでに落ちていたのだ。
「さて、勇者フィルよ……改めて問おう」
マレフドラゴンのエレノアが僕をまっすぐ見ながら尋ねる。
「妾のものにならぬか? 代わりにお主には妾の全てを……心も身体も未来も愛も全てくれてやろうぞ」
あの時、何度も惑わされたマレフドラゴン、エレノア・アンジェリカの身体……それが今、目の前にある。身体だけではない。彼女はその心も許してくれている。王国から弾かれた僕の心に寄り添い……
「おぉおう!?」
気づいたら僕はエレノアの胸の中に飛び込み押し倒していた。頓狂な声をエレノアは上げる。随分無体なことを僕はしているが、エレノアは驚いただけで、咎めはしなかった。下から優しく僕を抱きしめてくる
。
「よしよし、よくぞ妾のもとに参った、勇者フィルよ。では約束通り、妾の全てをくれてやろう」
「んっ、ちゅ……はふっ……フィル……」
「んんんっ……エレノアぁ……」
僕たちはベッドの上で熱烈な口づけを躱していた。そう言うと聞こえは良いがどちらかと言うと僕がエレノアから一方的に攻め立てられている。所詮、僕は教団の国の出身の勇者だ。女慣れしているわけでもない。いかなる男はもちろん、女ですら骨抜きにする床上手と言われる魔物娘に敵うはずがない。彼女のなすがままにされている。
エレノアの舌がねじ込まれ口内を蹂躙される。歯茎や上顎、舌の裏まで舐め尽くされ……その唾液が媚薬のように僕の身体を熱くする。
「んぅっ!? ふっ……んっ……!」
しかもただキスしているだけではない。エレノアの右手は僕の股間に伸びていた。ズボンの上からカリカリと爪の先で、キスだけで興奮し始めていたペニスを掻いてくる。
「んふっ……くくく、接吻だけでこんなに繁殖の準備を整えおって。そんなに期待しておったのか? ん?」
一度口を離して訊ねるエレノア。赤い目にいたずらっぽく見られ、恥ずかしくなって顔を背ける。その隙をついてエレノアは僕を転がして上になった。
待ちきれずにプレゼントの包み紙を破くように、エレノアは僕の服を荒々しく剥ぎ取っていく。下半身まで脱がされると、ぶるんと僕のペニスが露わになった。
「くく、これはこれは相当な暴れん坊じゃのう。妾のキスと愛撫だけでこんなに興奮したのか?」
「あ、えっと……」
直視され問われると恥ずかしい。顔から火が出るようだ。目を逸らすと、エレノアは「可愛い奴め」とでも言いたげに頰にキスをしてきた。
そのとき、むにゅりと僕の腕に柔らかな物が当たった。見なくてもそれが何かすぐに分かる。エレノアの胸だ。思わず僕の牡器がひくりと動き、それはすぐにエレノアの知ることとなる。
「うむ? 乳が気になるか?」
僕はますます顔を赤くするばかりだ。エレノアの方に顔向けができない。そんな僕をエレノアはくすくすと笑い、そしてその手で強引に僕を抱き寄せてきた。顔にむにゅりとエレノアの胸が押し当てられる。
「ほぅら。お主が初対面から気になっておった妾の乳ぞ? 揉むなり吸うなり、しかと堪能するが良い」
もうこの身体はお主の物だから、と加えるエレノア。許可が出されると止まらない。自分が勇者だったことも相手が討伐すべきだった魔物娘だったことも忘れて僕はその胸に手を伸ばした。胸を揉みしだいた。
それは僕を虜にした魔性の乳房だ。すべすべとしていて、しかし手を押し返そうとする張りもある。何よりその大きさは男を魅了して止まない大きさであった。
さらに僕のくちびるに押し当てられている先端は固く尖っている。思わず僕はその固くなっている乳首を口に含み、ちゅーちゅーと吸い立てた。
「あんっ♡ あはっ♡ くくく、そんなにがっつきおって、まるで赤ん坊じゃのう……他の魔物娘たちが交わっている様子は見ておったが、これだから男というのはたまらぬ♡」
興奮が高まるのはエレノアも同じらしい。僕を払うことなく愉快そうに言いながら、そして彼女も僕の身体に手を伸ばした。向かったのは僕のペニス。やんわりと彼女は固く熱く張り詰めていたそれを握り込んできた。マレフドラゴンの手は鱗と甲殻でゴツゴツしているかと思いきや、その手のひらは柔らかであった。
僕のモノを包んだ柔らかな手がいやらしい上下運動を始める。思わず声が漏れた。でも大きな声が出なかったのは、僕の口は未だにエレノアの胸から離れていなかったからだ。
「よしよし、赤ん坊じゃないのだから存分に妾の乳を吸って妾を気持ちよくしてたもれ♡」
そう言いながらエレノアは僕のモノをしごき続けた。優しく、それでいて緩急を付けて竿を上下に擦られるその快感にぞくぞくして、僕は腰を揺らしてしまう。
「ほほほ、これこれ♡ さすがの魔物娘でも手に出されては孕むことはできぬぞ♡ それとも繁殖と勘違いするほど気持ち良かったか?」
恥ずかしさのあまりに僕はごまかすようにエレノアの乳首をひときわ強く吸い、胸を揉みしだく。生意気な奴めとエレノアが笑う。
「お主がその気なら妾も手加減せぬぞ?」
弾かれたように、エレノアの手淫のピッチが上がった。僕のペニスからはいつの間にか我慢汁が漏れていたらしく、にちゃにちゃといやらしい音が立った。エレノアはその汁すら使って僕を攻め立ててくる。軽く指で溢れ出てきた汁を亀頭に撫で広げる。敏感な部分を刺激されて僕は逃げるように腰を動かす。いや、本当はもっと撫でてほしくて動かしているのかもしれない。
腰にぞわぞわと疼きが起こる。教団にはしたないと言われていた、それでも何度か経験した、射精の感覚……
「やめ……出るっ、出る!」
乳首から口を離して僕はやめるようにマレフドラゴンに言う。そうは言っても魔物娘のことだろう、やめてくれるはずないと思っていたが……エレノアは少し驚いたように声を上げ、そしてあっさりと手を離した。
気持ちいい感覚が徐々に引いていき、逆に物足りなさと不満が上ってくる。そんな顔を僕はしてしまっていたのかもしれない。僕の顔を見てくすくすと笑った。
「やめろと言うたからやめたのになんじゃその不満げな顔は……まあ、気持ちは分からぬでもない。しかし妾もこのまま精を放たれては困るでな」
エレノアは僕の手をとった。ドレスの裾を軽くのけてその先へ……ぬるりとした感覚が僕の手に触れる。
「分かるか? これは繁殖のための行為じゃ。お主の精液は妾が孕むまでは全て妾の子袋におさめてもらわねばならぬ」
まあ、たまには戯れに性器以外でも搾っても良いが、とエレノアはつぶやきながら一度僕から離れた。そして形ばかりのもはや用を成していなかったドレスを脱ぎ捨て、産まれたままの姿になってベッドの上で、僕の前に腰を下ろす。
「だが少なくとも初夜はダメじゃ……せっかくの初めての交わりを、繁殖以外にしたくないからのう」
そう言ってエレノアは脚を広げ、さらに自分の秘裂をくちゅりと指で押し広げる。よだれを垂らしている……そんな表現が相応しいかもしれない。くちびるのような花弁はひくひくとしていた。愛液が彼女の肉壁から滲み出し、糸を引いている。それどころかとろとろと彼女の膣口から溢れて尻をつたってベッドにぽたりと垂れている。
女性の身体のことがあまり良く分からない僕でも、本能的に理解した。眼の前のメスは、オスを求めて、発情していると……それだけで僕のモノがドクンと脈打ち、大きさを増した。
……よく考えれば、今僕はエレノアに組み伏せられたりしていない。逃げるなり何なり、自由なはずだった。
けれども、僕はエレノアに近づき、その手を彼女の肩に置いて、押し倒し、覆いかぶさっていた。
早く挿れたい。この魔物娘の中に入って自分のものにしてしまいたい。このメスを孕ませたい。初めて感じる本能的な欲求に頭が支配される。
押し倒されたエレノアは逆らずに笑っている。腕を伸ばして僕の首にからみつけて引き寄せる。そしてささやいた。
「さあ、勇者フィルよ……妾のモノになり、妾を孕ませよ……妾もお主に全てを捧げよう」
「……!」
次の瞬間、僕は自分の意志で腰を沈めた。ぬるりと僕のペニスが、彼女のヴァギナへと入っていく。
亀頭にねっとりと淫肉が歓迎するように絡みつき、僕の牡器は奥へ奥へと誘われていく。
「うっ、あっ!」
けどその途中で僕は腰を震わせ、情けない声を上げた。手でぎりぎりのところまで攻められていた僕は、挿入半ばで暴発してしまったのだ。どくどくと、膣洞の中に白濁の液が撒かれていく。
突然の胎内での生温かい感覚に何が起きたのか悟ったのか、マレフドラゴンの赤い目が一瞬きょとんと丸くなる。そしてにんまりと笑った。
「我慢できずに精を放ったか……♡ それだけ妾の膣肉が心地よかったか♡」
とはいえ、本当は膣の奥の奥、子宮口で射精を望んでいたとエレノアは少しだけ不満そうに頬をふくらませる。
「まあ良い。夜は長いしこれからも長い。そうら……♡」
エレノアの脚が僕の腰に絡んできて、引き寄せる。当然、結合はどんどん深くなっていく。そして、一仕事終えて休むべく緊張を解こうとしていた牡器の先端に何か固い感触が当たる。
「んっ、んっ♡ そこが妾の子宮口、仔の部屋の入り口じゃ。次はそこにお主の精を注ぎ込むのじゃ♡」
組み伏せられている下からクイクイと腰を動かしてエレノアは子宮口を押し付けてくる。ここに種付けすれば、このメスが先程以上に孕む可能性が高くなる。その事実を理解した牡器は、子宮口の感触もあって再び力を取り戻した。
大きくなったな、とエレノアは満足げに笑う。
「さあ、お主のオスを見せるがよい」
その言葉が引き金になった。僕は少しだけ腰を引き、そして思い切り腰を突き入れた。
「んおっ♡ ……きたぁ♡」
突然の強烈な一撃にエレノアは歓喜の声を上げる。その声を聞いて僕はもう遠慮しなくなった。教団の勇者としての使命など先の射精でとうに溶け、捨てている。その戒めから解かれた僕はただひたすらに激しく腰を打ち付け始めた。
「あっ♡ ああ♡ 良い♡ 良いぞフィル♡ 妾を孕ますための本気のセックス……♡」
じゅぽじゅぽと淫らな音が結合部から上がる。一突きごとにエレノアは艶めかしく身をよじって快楽を貪る。メスが快楽にそして僕もまた、その淫肉が与える快感に夢中になっていた。
「ああ♡ 良いっ♡ お主のオチンポ、妾のマンコによく馴染む♡ おおぉっ♡」
先ほどまでの余裕はどこへやら、エレノアの口からは快楽に喘いでいる声しか聞こえてこない。僕にも余裕など全くないが。
そして再びあの感覚が腰の奥からせり上がってきた。これはまずいと僕は思ったが、もう腰を止められない。エレノアもまた僕の限界を感じ取っていた。
「また射精しそうじゃな? いいぞっ♡ 今度こそ妾の奥にその滾った子種をぶちまけるのじゃ♡」
自分もそろそろイキそうだから、とエレノアは、下から腰をうねらせて、僕のモノを刺激しつつ、自分の一番気持ちいいところに当たるように調節する。
また暴発に近い形で僕は射精した。その瞬間、無意識のうちに僕はエレノアに腰をぐいっと押し付けていた。どくんどくんと肉棒が脈打って精液をエレノアに注いでいく。
「おお……良いぞっ♡ お主の子種が妾の子袋に……♡」
うっとりとした声でエレノアはそれを受け止めていた。逃さないように、僕の腰にまた足をからみつけている。さらに腕も体に回して抱き寄せていた。
「どうであろう、気持ちよかったろう? お主には妾が孕むまで種付けしてもらうぞ♡ どれ、今夜はもう一回くらい仕込まぬか?」
妾の体もまだまだ満足しておらぬゆえ、とエレノアは言いながら僕の下から一度抜け出した。くるりと体をそのままひねり、四つん這いの姿勢になる。あえてのメスが屈服した、獣の姿勢。竜の尾を持ち上げて秘部は一切隠さず、マレフドラゴンは僕を誘う。
「ほれ、どうじゃ? お主のモノで発情しきったこのメス穴でお主はもう一度、妾に気持ちよく種付けができるぞ?」
淫靡な笑みを浮かべるエレノアに僕は躊躇なく後ろにとりついた。片手で彼女の安産型の腰を押さえつけ、もう一方で休むまもなく仕事をしたいと蜂起している肉棒を、竜の花園に押し当てた。そのまま、腰を進める。
「おおおっ♡ 入ってきおったぁ♡」
歓喜の声を上げるエレノア。一方、僕も思わず声を漏らしていた。同じエレノアの肉穴のはずだが、体勢が変わるとまた味も少々異なっていた。裏筋への攻めが少し穏やかになった一方、先端をぶつぶつと撫でてくる感触が強くなる。そして、相変わらずきゅうきゅうと精液をねだって締め付けてくる。
「ふふふ、どうじゃ? 好きに動いてよいぞ? 妾はもうお主だけのメスゆえ♡」
そう言われると止まらない。エレノアの腰を抱え込みながら、僕はエレノアを貪る。もう僕は教団系列ヒュンバード王国の勇者 フィル・スウェイツではない。邪竜マレフドラゴン エレノア・アンジェリカの番である。
体勢の通り獣のようになって僕は腰を打ち付ける。腰の動きに合わせて揺れるエレノアの胸はゆさゆさと弾み、それに興奮した僕は更に強く腰を打ち付けた。本当はその胸をまた揉んだりしたかったが、今はそれより注挿が優先された。
僕のグラインドに、あの余裕綽々としていたエレノアが野太い嬌声を上げてよがる。実際余裕がないらしく、竜の手は必死にベッドのシーツを握りしめており、快感でおかしくなるのを防ぐようにいやいやと頭を振っている。だがそれでいながら僕を求め、尻尾を僕の身体に巻き付けている。
「良いっ♡ もっと……もっとじゃ♡ 妾の身も心も壊れてしまうくらい♡」
エレノアの声に僕はますます興奮する。僕の一物は大きさと硬度を増していく。それを敏感に感じ取ったのか、エレノアがこちらに視線を寄越す。その瞳は潤み、とろけきった淫靡な笑みを浮かべていた。
「おお……また硬くなったな♡ いいぞ♡ 妾にお主の仔を孕ませて産ませるがいい♡ 」
それがエレノアのこの性交でのまともな最後の言葉となった。完全に獣性に支配された僕は彼女に遠慮などなく、腰を思いっきり動かした。自分が気持ちよくなり射精するため。その動きでマレフドラゴンもまた野生に帰る。
「んおっ♡ おぉおお♡ あぁっ♡ すごっ、いぃ♡ あぐっ、くぅううっ♡」
もう自分が何を言っているかもわからないのか、エレノアはただただ獣のような声を上げるだけ。
僕もまた限界が近くなる。射精感がこみ上げてくる。快感でおかしな嬌声を上げながらもその感覚を敏感に察したか、エレノアが僕の腰に尻尾をがっちりと絡ませる。それによって今まで以上に僕とエレノアはぴったりと密着する形になった。
「んぁああああああ♡」
「うあっ、あ、あ!」
その瞬間、エレノアは顎を上げて一際大きい嬌声を上げた。同時にエレノアの膣肉がこれ以上ないくらい、僕のペニスを締め付けてきた。ただ締め付けるだけではなく、まるで乳搾りのように根本から先端に向かって蠕動するかのように……
三度目とは思えないくらいの精液が、僕の精巣から上がって尿道を通り、そしてエレノアの中に注がれていった。
絶頂しているエレノアは膣内射精でさらにそのさきへと押し上げられているのか、声にならない声を上げている。そのエレノアに誘われるように、僕は何度も何度も牡器を脈動させ、精液を彼女の子袋に注ぎ込んでいった。まるで連続で二度三度と射精しているかのような感覚であった。
やがて長い絶頂が終わり、僕たちは広いベッドの上に崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……♡」
エレノアの息遣いが荒い。今度は興奮だけではなく、乱れている。僕との戦いで、息を見出していなかった、あの彼女が。それほど激しい行為だったのだと今更ながらに思った。
「ふ、ふふふ……たくさん出したのぅ……♡ これだけで孕むことができたら良いが……確実に孕むために、明日も、その次の日も、さらにその先も、お主には種付けしてもらうぞ、勇者フィル……おおおっ?」
エレノアが驚いた声を上げる。僕が眼の前にあった胸にまた口をつけたからだ。無意識にやってしまったことに、僕自身が驚いたが、エレノアはそれ以上は責めることなく、むしろ嬉しそうににんまりと笑っていた。
「よいよい♡ 何ならもう一度交わるとするか? 妾は構わぬぞ♡」
マレフドラゴンの寛大でかつ淫靡な誘いに……僕は乗るのであった。
こうして僕、勇者フィル・スウェイツは討伐対象であったはずの、マレフドラゴンのエレノア・アンジェリカと番になった。そして勇者だった僕と邪竜の魔力が結びつき合い、さらに子どもたちもできることによってシュワルツォーラ城を中心に暗黒魔界が一気に広がっていくのであった。
なお、マレフドラゴンを討伐したと歓喜に沸いていたヒュンバード王国は、翌日にはエレノアの怒りとともに魔界に飲まれたことを、記録に残す余裕すらなかったことを哀れみ、ほんの一言僕から残しておくこととする。
ぜぇぜぇと僕は息を切らしている。剣を振り回して魔物たちを追い払いながら、ここまで来たのだ。消耗する。
城の造りはとても簡単だった。人(魔物だが)が住むところなのだ。いりくねった迷宮にする必要はない。前庭、エントランス、ホール、大謁見の間と一直線。謁見の間の奥に進むと廊下が続いていて、その先には見上げるほど大きく豪華な扉があった。その扉の前に立つだけで、背筋も凍るような寒気がする。会ったことはないが、間違いなく「ヤツ」がいると確信させる。
威圧感だけで僕は心が折れそうになった。雨に打たれた子犬のように背中が丸まる。ここで誰かが勇気づけるような言葉をかけてくれればどれだけ助かったか。
だが仲間はもういない……戦士ブライア、魔法使いステファン、僧侶ターリア……みんな、道中の魔物に捕まってしまった。残ったのは僕一人だ。
「……!」
温かい言葉はなかったが、僕は背筋を伸ばした。ここで戦意喪失しておめおめと帰ったら仲間たちにあわせる顔がない。その気持ちが僕の折れかけた心を立て直した。
無言で扉を押し開く。
先程の大謁見の間は人々を集めて城主が挨拶などをする間なのであろう。それに対しここはごく少数の者を呼んで挨拶をするところらしい。それでも、ちょっとした家の敷地と同じくらい広い部屋なのだが。
入り口から紅いカーペットは奥へと伸び、数段の段差を這って上っていた。その先には豪華な玉座がある。
その玉座に脚を組んで座っている者がいた。
女だ。純白の髪はまるで絹のように美しく腰のあたりまで流れている。紅い双眸がきらりと光って僕を見ている。胸元では大振りなりんごほどもあろうかと思われるたわわな果実が実っていた。胸だけでなく贅肉など一切ないお腹も、惜しげもなく晒している。だが大事なところは黒のドレスが隠している。ドレスの生地は縦長で首から二股に伸び、双丘の頂点を通って下腹部で合流していた。着る者によっては下品極まりないそのドレスを、その女は巧みに着こなしていた。
その女はただの女ではない。魔物である。
側頭部からは黒紫の宝石のような角がのびている。腰からは翼膜を持った翼が伸び、背中で折りたたまれている。前腕と膝から先はゴツゴツとした、角と同じような甲殻に覆われている。その特徴はまさに竜。
「よく来た、勇者フィルよ……妾がこのシュワルツォーラ城の主、古の時代では魔王と呼ばれたものの一族、マレフドラゴンのエレノア・アンジェリカじゃ」
その玉座に座っている者は口を聞いた。声は静かで大音声というわけではない。だがその重厚さは広いこの部屋中に響き渡るかのようであった。
その威圧に僕の足は一歩下がっていた。我ながらそれだけに留めたのは褒めてもいいと思う。ここから逃げ出したい、あるいはその足元にひれ伏したい、あるいはその身体にむしゃぶりつきたい……そんな気持ちになんとか打ち勝ったから。
……いや待った。最後の気持ちは一体何だ? 仲間を失い、それでもなんとかたどり着いた首魁の元。それなのにそのいやらしい気持ちは何だ。ふさわしくない!
いろんな恐怖を振り払うように僕は剣を構える。玉座で脚を組んだまま、頬杖をついているエレノアは、最上級の魔族の証である紅い瞳で冷ややかに見ていた。
「無粋じゃのう……そのような物を突きつけねば会話もままならぬか? せっかくの男と女の逢瀬なのじゃ。もう少し楽しみたいとは思わぬか? 妾は待っていたのじゃ。お主のようなオスが来るのを」
背筋を撫でられてるかのような感覚に僕は陥る。その撫でられているかのような感覚は逆撫でされるような不快なものではないのがまた怖い。今こうして恐慌して昂ぶっている気持ちを落ち着かせるような、それでいて別の何かを掻き立てて昂らせるような……彼女の低く柔らかな声は、そんな物を孕んでいた。
僕はエレノアの言葉に耳を貸さず、じりじりと歩を進める。
「まあ待て。それで遊ぶのも嫌いではないが、挨拶もなしにダンスパーティーを始めるほど無粋ではないのでのう……勇者フィルよ。妾の物にならぬか? さすればお主の望む者は全てくれてやろう」
エレノアは言葉を続ける。
「冨、名声、権力……人間が望みそうな願いであれば妾はいくらでも与えられるが、お主はそんなものは望まぬだろうなぁ……」
「誰がそんなもの!」
僕は歩を進める。走ればあっという間の彼女までの距離でも、とても遠く感じた。突進してしまいたい気持ちをなんとかして抑える。曖昧な気持ちのままで飛び込むなど自殺行為だ。
僕は叫んだが、エレノアは臆せず、くすくすと笑う
「そうであろうなぁ……お主は強くて優しいオスじゃ。お主が妾を倒すための旅に出てからずっとその様子を水晶玉越しに見ておったが……いや、本当に素晴らしい! 勇者とはかくあるべし、じゃな」
「褒められても何も出ないぞ」
なんとか僕はエレノアの玉座に続く階段まで気持ちを抑えながらやってきた。一段ずつ階段を登っていく。階段は六段。僕が階段を上っているにもかかわらずエレノアは玉座から動かなかった。
「ゆえに妾はお主のことが気に入った。お主こそ妾を孕ますのにふさわしい」
悠然と脚を組み替えながら、大胆なことを言うエレノア。そのいるかのようにつるりとした脚が動くのを僕は目で追ってしまっていた。ただ、動いた物に気を取られたのではない。組まれていたがゆえに塞がれていた、脚の奥が見えないか無意識のうちに期待していた。玉座の高さと階段にいる僕の目線の高さはちょうどそのくらいの高さだったのだ。
くすくすとエレノアは笑う。分かっていてこの魔物娘は脚を組み替えたのだ。
「そう、妾は待っていたのじゃ……お主のような、妾を孕ませるのに相応しいオスを……」
エレノアは言葉を続ける。その時には僕は階段を上りきり、エレノアの前に立っていた。
剣を振り上げる。そんな僕をエレノアは下からまっすぐに見上げていた。紅い瞳には、荒い息遣いをしている僕が映っている。その目に吸い込まれていしまいそうだ。
瞳から逃げるように僕は視線を少し落とした。だがそれも間違いだ。彼女の胸の谷間と、さらにその下のがいきおい目に飛び込んでくる。
くすくすとエレノアは笑った。だが次の瞬間、彼女は笑顔を消して真剣に言った。
「妾の物になれ、勇者フィルよ。代わりにお主には妾の全てを……心も身体も未来も愛も全てくれてやろうぞ」
「……! 断る!」
振り上げた剣を僕は振り下ろした。必殺の間合いでの、一抱えもある大木を両断するほどの、斬撃。だが、剣は小さな音を立てて空中で止まった。
「つれないのぉ……さすがの妾も少々傷つくのじゃ」
片手は相変わらず頬杖をついたまま、だがもう一方の腕をエレノアは掲げ、二本の指を伸ばしていた。その指に、剣は挟まれていた。力を込めてもびくともしない。エレノアがくすくすと笑った。
「そう睨むでない。見つめられると照れるではないか」
頬を紅く染めてエレノアが顔をそらす。チャンスだ。僕は魔法を唱えて玉座ごと邪竜を吹き飛ばそうとする。それより先にエレノアが僕の剣を弾き……姿を消した。
「くっ……どこに!?」
「……仕方ないのぉ。そこまで分かってもらえぬのであれば……」
姿は見えず、エレノアの声だけが響く。どこから話しかけているのか……ぐるりと見渡すと、エレノアはいつの間にか、部屋の中心にひっそりと立っていた。
「……来い、相手をしてやる」
手を差し出してくいくいと手招きをするエレノア。いきり立った僕は階段全てを飛び降りてエレノアに向かって突進した。
さっきは正直、エレノアの姿に見とれていて心も乱れていた。けど遠距離から一気に詰めての攻撃なら……!
闇色としか表現しようがない激しくも部屋を照らさない炎を、エレノアは口から吐き出す。軌道を変えて僕はそれを躱し、剣を振りかぶりながらエレノアに迫った。
振り下ろした剣撃を、エレノアは半身になって躱す。いや、それだけで終わっていない。後ろに下げた脚が折りたたまれている。速やかに盾で上体を守った。間一髪、エレノアの竜の脚は盾を叩いていた。
「ほう、妾の初撃を防いだか……」
意外そうな声の中にもいたぶるような嘲笑が混じっている。彼女の一撃で僕は四歩も五歩もよろめいて後ろに下がったのだ。その気になれば追撃することもできたのにしなかったのは、この一撃だけで全てが終わると舐めていたからだろう。
邪竜は左足を引いて腰を軽く沈める。ドレスのスリットから艶めかしい脚が伸びる。右手を前に、左手を胸元に持ってきた。本格的な徒手空拳の構え。いくぞとその笑みが伝えていた。
一息にエレノアは間合いを詰めてこようとする。完全に接近されたら不利だ。牽制するように僕は剣を横に凪ぐ。エレノアは突進を止めて上体をそらしてその剣を躱した。激しい動きに胸の果実が合わせて揺れる。一瞬それに目を奪われそうになるが、集中する。
前に踏み込みながら手首を返して僕は今度は逆方向に剣を振るう。予期しなかった二段攻撃にエレノアの涼しげな顔が一瞬固まる。先程の僕と同じように後ろに跳んでその攻撃を躱す。僕の剣は彼女のドレスを少し千切るだけに終わる。
「ほう、良い攻撃じゃ」
にこりと笑うエレノアに向かって今度は僕の方から突進する。右、左、下から上へ、上から下へ、さらにまっすぐ突く……息もつかせぬ連続攻撃。しかしエレノアはその攻撃を、間合いを保ったまま躱し続ける。
「ほほほ、良き攻めじゃ。妾はダンスも好きでな」
そんな軽口を叩くくらいには相手にはまだ余裕はありそうだ。ならばこれならどうだ!?
盾を持った手を突き出して僕は魔法を放つ。炎の帯がそこから放たれて相手を焼き尽くさんとする。それをエレノアはしゃがんで躱した。チャンスだ。その動きならば先程のように軽やかに跳んで跳ねて躱すことはできない!
剣を振り下ろそうとする。だが今度は僕の顔が固まる番であった。エレノアはただしゃがんだのではない。その身体が螺旋を描くように回転し、伸ばされた尾が僕の軸足を刈ろうとしている。
間に合わない。重心を崩された僕は謁見の間に仰向けに叩きつけられる。その僕に向かってマレフドラゴンは踵落としを見舞うべく脚を振り上げた。
「はしたないぞ!」
あまりの大開脚に、目を奪われぬように目を強く閉じて僕は転がる。エレノア脚は僕がいた空間を踏み抜き、どしんと大きな音を部屋に響かせた。
「良い、良いぞ……フィルよ。妾をここまで昂ぶらせたのはお主が初めてじゃ」
荒い息をつく僕を見下ろしながらエレノアが言う。彼女もまた荒い息遣いだが、それはスタミナ切れや動揺を落ち着けるためではない。乱れた息遣いではない。ただの興奮だ。その頬は興奮で紅く染まっている。
ダメだ。この数回のコンタクトで僕は悟った。悔しいがエレノアのほうが力も技も、そして戦術の組み立ても上だ。最初の二段攻撃には驚いたようだが、先程の連続攻撃を全てかわしているのを見ると、もう連続攻撃は通じない。しかもあれは僕の体力を削っていく。攻撃が鈍くなったところに反撃の一撃を食らって沈むのがオチだ。
ならば……
「次の一撃で全てを決めようとしておるな?」
僕の考えを見抜いたようにエレノアは押し殺した声で言う。僕は答えない。間合いを悟られぬように剣を後ろに引き……その剣に魔力を込めていく。
「無駄なあがきを……だが良いぞ! それでこそ勇者じゃ!」
そう叫んでエレノアは突進した。そのエレノアに向かって僕は剣を振るった。僕とエレノアの距離は7m近く離れている。剣は絶対届かない位置。だが……!
魔力を込められた剣は光の刃となって伸びた。その刃は……驚愕したエレノアの首を捉えていた。
「勇者様ばんざーい!」
「勇者様の帰還だぞー!」
「勇者様、ばんざーい!」
歓声が城門の前に集まっていた。皆口々に僕のことを褒め称える。その降り注ぐ群衆の歓声の中、僕は少し小さくなりながら、王城へと続く大通りを歩いていた。
邪竜エレノアを倒して僕は故郷のヒュンバード王国に凱旋していた。といっても、シュヴァルツォーラ城からそこまで離れていないのだが。近くにいた邪竜の脅威から国を救った僕は、国中から祝われていた。
「勇者フィルよ! よくぞ成し遂げてくれた!」
国王が直々に僕の元までやってきて賞賛の言葉をかける。
「お前のお陰で我が国は邪竜の脅威から解放された。これは国を挙げての祝いをせねばならぬな!」
「いえ、僕は……それに、仲間たちが……」
「何を言う。確かに仲間を失ったのは辛かろう。だが、仮にお前が敗れていれば我が国は暗黒魔界に飲み込まれていたことだろう」
それは否定できない。魔物娘が人を殺したりすることこそないという噂だが、信用できたものではないし、現に魔界に飲まれた国は数しれずなのだ。
「ぜひともフィルには我が王女を娶っていただき、勇者としての血筋を残してほしい」
勇者としての血筋を残す……それはつまり交わり子をなすということ……
――お主こそ妾を孕ますのにふさわしい
不意に耳に、エレノアの声が蘇る。思わず僕は塞ぐようにバチンと自分の耳を叩いた。
「どうした勇者フィルよ。突然自分の顔など叩いて」
「あ、いえ。ちょっと疲れが……申し訳ありません」
まさか討ち取った邪竜のいやらしい言葉を思い出してしまったなどと言えるはずもない。かと言ってもっと良い言い訳はなかったのかと、言った後に思った。
それでも王はごまかされたようだ。さもありなんとばかりにうんうんとうなずく。
「ささ、勇者フィルよ。宴に備えてゆっくり休むがよい」
国王にそう言われ、僕はヒュンバード城の謁見の間を後にした。そして案内された王城の一室で泥のように眠った。
翌日は忙しかった。朝起こされて、人前に出るということで湯浴みをして丁寧におめかしをされる。
昼頃に王城の、演説の塔で国民の前に立ち、国王に紹介されてみんなの歓声を受けた。その後は王より勲章を受け……そして宴が始まった。
午後遅い時間が始まってから宴は白い満月が上ってからも続いた。その間、僕の盃は空になっていなかった時間はほとんどなかった気がする。城の兵士や冒険者たちが僕の話を聞きたがって入れ代わり立ち代わりやってきて、酒を注いだからだ。毒への耐性も僧侶ターリアにつけてもらったものの、さすがにつらいものがある。
僕は王に断って自室に戻ることを願った。一人になりたかったのもある。主役が抜けるのは寂しいが、後は騒ぎにかこつけて飲みたい者だけだろうと王もうなずいた。かくいう王も寄る年のせいか疲れているように見えた。
宴を抜けた僕は、部屋に戻った。重たい着飾った機能的ではない儀礼用の鎧を脱いで剣を置き……その剣を持ち直した。
「……誰だ。姿を見せろ」
答えるかのように、まるで影から作られたかのように、ぬるりと人が二人三人と現れた。手には不穏な光を放つナイフを握っている。暗殺者か。
だが、その暗殺者が着ている服に僕は仰天した。彼らは、ヒュンバード王国の紋章を織り込んだ、兵士の服をまとっていたのだ。
「な!? お前たち、どういうつもりだ!」
答える義理はないと言わんばかりに彼らはじりじりと間合いを詰めてくる。そちらがそういうつもりならこっちも考えがある、と僕は剣を抜いた。そして一撃で仕留めようと振りかぶった。
だが、その手がぴたりと止まる。ちょっと待った。こいつらは何者だと。
魔物娘が復讐のために来るというのが自然な流れだが、それはすぐに否定される。いくら報復のためといえど、直接命を奪いに来るというのは魔物娘がすることではない。彼女ら相手がいかなる者であろうと、もっと別の手で獲物を籠絡し、無力化し、己がものにする。
では、今回の功績に嫉妬した他国の主が暗殺者を仕向けた? それなら筋が通る。宴の最中で酔っているところを謀殺……タイミングも完璧だ。
しかし分からないことがある。なぜ堂々とヒュンバードの紋章を織り込んだ服を着ている? 城に侵入しやすくするため? それにしては不必要なまでに紋章を見せつけるようにしている。何か違和感を覚える。その違和感が僕の手を止めさせていた。
そして気づく。もう一つの可能性に。彼らは変装しているわけではない、ヒュンバード王国が秘密裏に保持している、暗殺部隊ではないかと。魔物娘に籠絡された勇者……普通の人より強力で厄介な存在である者を誅殺するために育て上げられた存在。
「なぜだ! 僕はマレフドラゴンを討伐したぞ!?」
「……それが困るのだ」
暗殺者の一人が口を開く。余計なことを言うなと別の暗殺者が睨む。それで確信した。
彼らはこの国の暗殺部隊だ。そして僕を暗殺しようとしている。なぜ? マレフドラゴンを倒すような強力な存在に反旗を翻されるより先に葬り去ろうという算段だ。ではなぜヒュンバードの紋章を紋章を見せびらかしているのか? それは返り討ちにされたとき、勇者が国王の部下に手をかけた、反逆をしたという証拠にするためだ。
脳裏で全てが繋がり、悟った僕の剣を持つ手は振り上げられたまま震えていた。動揺している僕に暗殺者は襲いかかってきた。
乱れた心で振られた剣は暗殺者の足を一瞬止めるだけに終わった。だがそれで十分だ。僕は窓に駆け寄って体当たりして飛び出した。そのまま屋根を伝って駆け出す。
「逃げたぞ! 追え!」
「屋根の上なら逃げ場はない!」
暗殺者が叫んでいる。そのとおりだ。この部屋は五階。屋根は傾斜しているが、それでも地面に降りようとすると三階から飛び降りる形となる。いかに僕は勇者でも三階から飛び降りるのは無事である保証はない。そんなところに暗殺部隊に追いつかれたら? 無理だ。では、屋根の上で無様に逃げ続けるのか? 暗殺者を返り討ちにして反逆者の汚名を被って国を捨てるか? 絶望的な状況に僕の心が折れかかる。
その時であった。
「捕まるがよい!」
黒い影がひゅんと宙を待った。その影が僕に向かって手を差し伸べてくる。相手が何者かを確認せず、反射的に僕はその手を握っていた。
次の瞬間、ぐいっと力強く僕は手を引かれ、身体が宙に浮いた。さらにその次の瞬間、転移魔法か世界がぐにゃりと歪み……
気づいたら僕は見知らぬ部屋にいた。
豪奢な部屋であった。ヒュンバード城で僕にあてられた部屋もかなり上等であったが、この部屋はそれ以上であった。
床にはふかふかとした上品なワインレッドのカーペットが敷かれている。小ぶりなテーブルがあり、それを挟むように二人がけの小さなソファとひとりがけ用のソファーが置かれている。他にも上品な調度品があちらこちらに飾られている。それなりの数があるはずなのだが、それでもまだ置くことができるくらいにこの部屋は広い。壁に据え付けられた暖炉では煌々と火が燃えていて、天井からはシャンデリアが吊り下げられている。
そして、僕のすぐとなりにはキングサイズよりもさらに大きなベッドが安置されている。天蓋付きの豪奢なもの、まさに王のために用意されているようなもの。
しかし僕にそれらをゆっくりと観察する余裕はなかった。僕と手を繋いで、ここに連れてきた存在に仰天していた。
「え、え、エレノア!?」
「ごきげんよう、勇者フィル。また会えて妾はとっても嬉しいぞ♡どうした、そんなゴーストでも見るような顔をして?」
そこにいたのは、マレフドラゴンのエレノア・アンジェリカであった。
「ば、馬鹿な!? お前は僕の必殺技を受けて首を落とされたはずじゃ……!?」
「くっくっく……あれか? あれは妾の魔力の塊を人形にしてその上からイリュージョンを被せただけの幻術じゃ」
エレノアは掌からじゅくじゅくと、タールのような塊があふれ、そこから黒い霧が立ち上る。魔物娘の魔力塊だ。それは彼女が少し念じると人の形となり……エレノアがぱちんと指を鳴らすと、彼女の姿となった。掌に乗る、ミニチュアサイズであるが。にぱりと小さなエレノアが僕に笑いかける。
「玉座で剣を受け止めたまでが本物の妾じゃ。そこから先はお主は幻の妾と戦っていた。妾は玉座に座ったまま一歩も動かず一人黒い霧と踊っている様子を眺めておったわ」
心底おかしそうにエレノアは身体を揺らしてくつくつと笑う。だがすぐに真剣な表情になる。
「それで……どうじゃった勇者フィルよ。妾を倒して凱旋したと思ったら、どんな仕打ちを受けた?」
「……思い出したくもない」
「そうじゃのう、妾も水晶玉を通じてお主の様子を見ておったが、あんまりな仕打ちじゃのう」
水晶玉で見ていたから飛んで駆けつけたというわけだ。
「……全部分かっててやったのか?」
「うーむ……勝算はあったが、『分かっていた』かとなると違うのぅ……」
頬を軽く掻いて答えるエレノア。その様子に嘘はなさそうだ。
彼女いわく、すでに数人の部下をヒュンバード王国および王城に忍ばせており、国や王城内の動向を探っているそうだ。それゆえに国王やその周辺である大臣たちの人となりは知っており、大臣たちは強大な力を持ちかつ飼い慣らす自信がない者は始末することは予期していたのだ。
「そうは予想してはいたが、ここまで予想通りになったのは、むしろ人間というものを思い知らされて妾まで惨めな気分ということに加え、大切なお主をここまでコケにされて腹が立つというものじゃ」
エレノアは悲しげに眉を下げた。その様子は本当に嫌な気分になっているようだ。そんなエレノアに僕はもう一つ疑問をぶつける。
「……なぜこんな回りくどいことをしたんだ?」
その気になればエレノアは力で僕をねじ伏せ、僕を凌辱することもできたはずだ。サキュバスを始めほかの魔物娘がやるように。幻影ですらあの力量だ。できたはずである。
僕の問いにマレフドラゴンは妖しげに笑い、ベッドに腰掛けた。そして悠然と脚を組む。あの戦いの前のように、僕は思わずその動きを目で追ってしまう。玉座の時と違い、ベッドでその肢体を見ると、それは雰囲気もあって蠱惑的に見えた。脚から目をそらしてもお腹が、突き出た胸が、三日月のように笑っている口が、紅い目が、目に飛び込んでくる。エレノアから目が逃げられず、心が昂ぶる。
僕が目をそらすことができないことを知っているのだろう。エレノアはくすくすと笑う。
「言わずとも、お主は分かっておるのではないかぇ?」
そのはぐらかした言葉は、逆に僕の中で答えを固めた。彼女はあくまで僕自らが彼女の手に堕ちるためにこのようなことをしたのだ。それが邪竜たる所以なのだ。誘うようにその身体を揺らし、だが自らは触れさせず、帰したかと思いきやその帰る先を失っていることを分かっているがゆえに自分が帰る先になるようにしている……
蛇以上に執念深く、蜘蛛以上に周到で、悪魔以上に甘い邪竜の手のひらに、僕はすでに落ちていたのだ。
「さて、勇者フィルよ……改めて問おう」
マレフドラゴンのエレノアが僕をまっすぐ見ながら尋ねる。
「妾のものにならぬか? 代わりにお主には妾の全てを……心も身体も未来も愛も全てくれてやろうぞ」
あの時、何度も惑わされたマレフドラゴン、エレノア・アンジェリカの身体……それが今、目の前にある。身体だけではない。彼女はその心も許してくれている。王国から弾かれた僕の心に寄り添い……
「おぉおう!?」
気づいたら僕はエレノアの胸の中に飛び込み押し倒していた。頓狂な声をエレノアは上げる。随分無体なことを僕はしているが、エレノアは驚いただけで、咎めはしなかった。下から優しく僕を抱きしめてくる
。
「よしよし、よくぞ妾のもとに参った、勇者フィルよ。では約束通り、妾の全てをくれてやろう」
「んっ、ちゅ……はふっ……フィル……」
「んんんっ……エレノアぁ……」
僕たちはベッドの上で熱烈な口づけを躱していた。そう言うと聞こえは良いがどちらかと言うと僕がエレノアから一方的に攻め立てられている。所詮、僕は教団の国の出身の勇者だ。女慣れしているわけでもない。いかなる男はもちろん、女ですら骨抜きにする床上手と言われる魔物娘に敵うはずがない。彼女のなすがままにされている。
エレノアの舌がねじ込まれ口内を蹂躙される。歯茎や上顎、舌の裏まで舐め尽くされ……その唾液が媚薬のように僕の身体を熱くする。
「んぅっ!? ふっ……んっ……!」
しかもただキスしているだけではない。エレノアの右手は僕の股間に伸びていた。ズボンの上からカリカリと爪の先で、キスだけで興奮し始めていたペニスを掻いてくる。
「んふっ……くくく、接吻だけでこんなに繁殖の準備を整えおって。そんなに期待しておったのか? ん?」
一度口を離して訊ねるエレノア。赤い目にいたずらっぽく見られ、恥ずかしくなって顔を背ける。その隙をついてエレノアは僕を転がして上になった。
待ちきれずにプレゼントの包み紙を破くように、エレノアは僕の服を荒々しく剥ぎ取っていく。下半身まで脱がされると、ぶるんと僕のペニスが露わになった。
「くく、これはこれは相当な暴れん坊じゃのう。妾のキスと愛撫だけでこんなに興奮したのか?」
「あ、えっと……」
直視され問われると恥ずかしい。顔から火が出るようだ。目を逸らすと、エレノアは「可愛い奴め」とでも言いたげに頰にキスをしてきた。
そのとき、むにゅりと僕の腕に柔らかな物が当たった。見なくてもそれが何かすぐに分かる。エレノアの胸だ。思わず僕の牡器がひくりと動き、それはすぐにエレノアの知ることとなる。
「うむ? 乳が気になるか?」
僕はますます顔を赤くするばかりだ。エレノアの方に顔向けができない。そんな僕をエレノアはくすくすと笑い、そしてその手で強引に僕を抱き寄せてきた。顔にむにゅりとエレノアの胸が押し当てられる。
「ほぅら。お主が初対面から気になっておった妾の乳ぞ? 揉むなり吸うなり、しかと堪能するが良い」
もうこの身体はお主の物だから、と加えるエレノア。許可が出されると止まらない。自分が勇者だったことも相手が討伐すべきだった魔物娘だったことも忘れて僕はその胸に手を伸ばした。胸を揉みしだいた。
それは僕を虜にした魔性の乳房だ。すべすべとしていて、しかし手を押し返そうとする張りもある。何よりその大きさは男を魅了して止まない大きさであった。
さらに僕のくちびるに押し当てられている先端は固く尖っている。思わず僕はその固くなっている乳首を口に含み、ちゅーちゅーと吸い立てた。
「あんっ♡ あはっ♡ くくく、そんなにがっつきおって、まるで赤ん坊じゃのう……他の魔物娘たちが交わっている様子は見ておったが、これだから男というのはたまらぬ♡」
興奮が高まるのはエレノアも同じらしい。僕を払うことなく愉快そうに言いながら、そして彼女も僕の身体に手を伸ばした。向かったのは僕のペニス。やんわりと彼女は固く熱く張り詰めていたそれを握り込んできた。マレフドラゴンの手は鱗と甲殻でゴツゴツしているかと思いきや、その手のひらは柔らかであった。
僕のモノを包んだ柔らかな手がいやらしい上下運動を始める。思わず声が漏れた。でも大きな声が出なかったのは、僕の口は未だにエレノアの胸から離れていなかったからだ。
「よしよし、赤ん坊じゃないのだから存分に妾の乳を吸って妾を気持ちよくしてたもれ♡」
そう言いながらエレノアは僕のモノをしごき続けた。優しく、それでいて緩急を付けて竿を上下に擦られるその快感にぞくぞくして、僕は腰を揺らしてしまう。
「ほほほ、これこれ♡ さすがの魔物娘でも手に出されては孕むことはできぬぞ♡ それとも繁殖と勘違いするほど気持ち良かったか?」
恥ずかしさのあまりに僕はごまかすようにエレノアの乳首をひときわ強く吸い、胸を揉みしだく。生意気な奴めとエレノアが笑う。
「お主がその気なら妾も手加減せぬぞ?」
弾かれたように、エレノアの手淫のピッチが上がった。僕のペニスからはいつの間にか我慢汁が漏れていたらしく、にちゃにちゃといやらしい音が立った。エレノアはその汁すら使って僕を攻め立ててくる。軽く指で溢れ出てきた汁を亀頭に撫で広げる。敏感な部分を刺激されて僕は逃げるように腰を動かす。いや、本当はもっと撫でてほしくて動かしているのかもしれない。
腰にぞわぞわと疼きが起こる。教団にはしたないと言われていた、それでも何度か経験した、射精の感覚……
「やめ……出るっ、出る!」
乳首から口を離して僕はやめるようにマレフドラゴンに言う。そうは言っても魔物娘のことだろう、やめてくれるはずないと思っていたが……エレノアは少し驚いたように声を上げ、そしてあっさりと手を離した。
気持ちいい感覚が徐々に引いていき、逆に物足りなさと不満が上ってくる。そんな顔を僕はしてしまっていたのかもしれない。僕の顔を見てくすくすと笑った。
「やめろと言うたからやめたのになんじゃその不満げな顔は……まあ、気持ちは分からぬでもない。しかし妾もこのまま精を放たれては困るでな」
エレノアは僕の手をとった。ドレスの裾を軽くのけてその先へ……ぬるりとした感覚が僕の手に触れる。
「分かるか? これは繁殖のための行為じゃ。お主の精液は妾が孕むまでは全て妾の子袋におさめてもらわねばならぬ」
まあ、たまには戯れに性器以外でも搾っても良いが、とエレノアはつぶやきながら一度僕から離れた。そして形ばかりのもはや用を成していなかったドレスを脱ぎ捨て、産まれたままの姿になってベッドの上で、僕の前に腰を下ろす。
「だが少なくとも初夜はダメじゃ……せっかくの初めての交わりを、繁殖以外にしたくないからのう」
そう言ってエレノアは脚を広げ、さらに自分の秘裂をくちゅりと指で押し広げる。よだれを垂らしている……そんな表現が相応しいかもしれない。くちびるのような花弁はひくひくとしていた。愛液が彼女の肉壁から滲み出し、糸を引いている。それどころかとろとろと彼女の膣口から溢れて尻をつたってベッドにぽたりと垂れている。
女性の身体のことがあまり良く分からない僕でも、本能的に理解した。眼の前のメスは、オスを求めて、発情していると……それだけで僕のモノがドクンと脈打ち、大きさを増した。
……よく考えれば、今僕はエレノアに組み伏せられたりしていない。逃げるなり何なり、自由なはずだった。
けれども、僕はエレノアに近づき、その手を彼女の肩に置いて、押し倒し、覆いかぶさっていた。
早く挿れたい。この魔物娘の中に入って自分のものにしてしまいたい。このメスを孕ませたい。初めて感じる本能的な欲求に頭が支配される。
押し倒されたエレノアは逆らずに笑っている。腕を伸ばして僕の首にからみつけて引き寄せる。そしてささやいた。
「さあ、勇者フィルよ……妾のモノになり、妾を孕ませよ……妾もお主に全てを捧げよう」
「……!」
次の瞬間、僕は自分の意志で腰を沈めた。ぬるりと僕のペニスが、彼女のヴァギナへと入っていく。
亀頭にねっとりと淫肉が歓迎するように絡みつき、僕の牡器は奥へ奥へと誘われていく。
「うっ、あっ!」
けどその途中で僕は腰を震わせ、情けない声を上げた。手でぎりぎりのところまで攻められていた僕は、挿入半ばで暴発してしまったのだ。どくどくと、膣洞の中に白濁の液が撒かれていく。
突然の胎内での生温かい感覚に何が起きたのか悟ったのか、マレフドラゴンの赤い目が一瞬きょとんと丸くなる。そしてにんまりと笑った。
「我慢できずに精を放ったか……♡ それだけ妾の膣肉が心地よかったか♡」
とはいえ、本当は膣の奥の奥、子宮口で射精を望んでいたとエレノアは少しだけ不満そうに頬をふくらませる。
「まあ良い。夜は長いしこれからも長い。そうら……♡」
エレノアの脚が僕の腰に絡んできて、引き寄せる。当然、結合はどんどん深くなっていく。そして、一仕事終えて休むべく緊張を解こうとしていた牡器の先端に何か固い感触が当たる。
「んっ、んっ♡ そこが妾の子宮口、仔の部屋の入り口じゃ。次はそこにお主の精を注ぎ込むのじゃ♡」
組み伏せられている下からクイクイと腰を動かしてエレノアは子宮口を押し付けてくる。ここに種付けすれば、このメスが先程以上に孕む可能性が高くなる。その事実を理解した牡器は、子宮口の感触もあって再び力を取り戻した。
大きくなったな、とエレノアは満足げに笑う。
「さあ、お主のオスを見せるがよい」
その言葉が引き金になった。僕は少しだけ腰を引き、そして思い切り腰を突き入れた。
「んおっ♡ ……きたぁ♡」
突然の強烈な一撃にエレノアは歓喜の声を上げる。その声を聞いて僕はもう遠慮しなくなった。教団の勇者としての使命など先の射精でとうに溶け、捨てている。その戒めから解かれた僕はただひたすらに激しく腰を打ち付け始めた。
「あっ♡ ああ♡ 良い♡ 良いぞフィル♡ 妾を孕ますための本気のセックス……♡」
じゅぽじゅぽと淫らな音が結合部から上がる。一突きごとにエレノアは艶めかしく身をよじって快楽を貪る。メスが快楽にそして僕もまた、その淫肉が与える快感に夢中になっていた。
「ああ♡ 良いっ♡ お主のオチンポ、妾のマンコによく馴染む♡ おおぉっ♡」
先ほどまでの余裕はどこへやら、エレノアの口からは快楽に喘いでいる声しか聞こえてこない。僕にも余裕など全くないが。
そして再びあの感覚が腰の奥からせり上がってきた。これはまずいと僕は思ったが、もう腰を止められない。エレノアもまた僕の限界を感じ取っていた。
「また射精しそうじゃな? いいぞっ♡ 今度こそ妾の奥にその滾った子種をぶちまけるのじゃ♡」
自分もそろそろイキそうだから、とエレノアは、下から腰をうねらせて、僕のモノを刺激しつつ、自分の一番気持ちいいところに当たるように調節する。
また暴発に近い形で僕は射精した。その瞬間、無意識のうちに僕はエレノアに腰をぐいっと押し付けていた。どくんどくんと肉棒が脈打って精液をエレノアに注いでいく。
「おお……良いぞっ♡ お主の子種が妾の子袋に……♡」
うっとりとした声でエレノアはそれを受け止めていた。逃さないように、僕の腰にまた足をからみつけている。さらに腕も体に回して抱き寄せていた。
「どうであろう、気持ちよかったろう? お主には妾が孕むまで種付けしてもらうぞ♡ どれ、今夜はもう一回くらい仕込まぬか?」
妾の体もまだまだ満足しておらぬゆえ、とエレノアは言いながら僕の下から一度抜け出した。くるりと体をそのままひねり、四つん這いの姿勢になる。あえてのメスが屈服した、獣の姿勢。竜の尾を持ち上げて秘部は一切隠さず、マレフドラゴンは僕を誘う。
「ほれ、どうじゃ? お主のモノで発情しきったこのメス穴でお主はもう一度、妾に気持ちよく種付けができるぞ?」
淫靡な笑みを浮かべるエレノアに僕は躊躇なく後ろにとりついた。片手で彼女の安産型の腰を押さえつけ、もう一方で休むまもなく仕事をしたいと蜂起している肉棒を、竜の花園に押し当てた。そのまま、腰を進める。
「おおおっ♡ 入ってきおったぁ♡」
歓喜の声を上げるエレノア。一方、僕も思わず声を漏らしていた。同じエレノアの肉穴のはずだが、体勢が変わるとまた味も少々異なっていた。裏筋への攻めが少し穏やかになった一方、先端をぶつぶつと撫でてくる感触が強くなる。そして、相変わらずきゅうきゅうと精液をねだって締め付けてくる。
「ふふふ、どうじゃ? 好きに動いてよいぞ? 妾はもうお主だけのメスゆえ♡」
そう言われると止まらない。エレノアの腰を抱え込みながら、僕はエレノアを貪る。もう僕は教団系列ヒュンバード王国の勇者 フィル・スウェイツではない。邪竜マレフドラゴン エレノア・アンジェリカの番である。
体勢の通り獣のようになって僕は腰を打ち付ける。腰の動きに合わせて揺れるエレノアの胸はゆさゆさと弾み、それに興奮した僕は更に強く腰を打ち付けた。本当はその胸をまた揉んだりしたかったが、今はそれより注挿が優先された。
僕のグラインドに、あの余裕綽々としていたエレノアが野太い嬌声を上げてよがる。実際余裕がないらしく、竜の手は必死にベッドのシーツを握りしめており、快感でおかしくなるのを防ぐようにいやいやと頭を振っている。だがそれでいながら僕を求め、尻尾を僕の身体に巻き付けている。
「良いっ♡ もっと……もっとじゃ♡ 妾の身も心も壊れてしまうくらい♡」
エレノアの声に僕はますます興奮する。僕の一物は大きさと硬度を増していく。それを敏感に感じ取ったのか、エレノアがこちらに視線を寄越す。その瞳は潤み、とろけきった淫靡な笑みを浮かべていた。
「おお……また硬くなったな♡ いいぞ♡ 妾にお主の仔を孕ませて産ませるがいい♡ 」
それがエレノアのこの性交でのまともな最後の言葉となった。完全に獣性に支配された僕は彼女に遠慮などなく、腰を思いっきり動かした。自分が気持ちよくなり射精するため。その動きでマレフドラゴンもまた野生に帰る。
「んおっ♡ おぉおお♡ あぁっ♡ すごっ、いぃ♡ あぐっ、くぅううっ♡」
もう自分が何を言っているかもわからないのか、エレノアはただただ獣のような声を上げるだけ。
僕もまた限界が近くなる。射精感がこみ上げてくる。快感でおかしな嬌声を上げながらもその感覚を敏感に察したか、エレノアが僕の腰に尻尾をがっちりと絡ませる。それによって今まで以上に僕とエレノアはぴったりと密着する形になった。
「んぁああああああ♡」
「うあっ、あ、あ!」
その瞬間、エレノアは顎を上げて一際大きい嬌声を上げた。同時にエレノアの膣肉がこれ以上ないくらい、僕のペニスを締め付けてきた。ただ締め付けるだけではなく、まるで乳搾りのように根本から先端に向かって蠕動するかのように……
三度目とは思えないくらいの精液が、僕の精巣から上がって尿道を通り、そしてエレノアの中に注がれていった。
絶頂しているエレノアは膣内射精でさらにそのさきへと押し上げられているのか、声にならない声を上げている。そのエレノアに誘われるように、僕は何度も何度も牡器を脈動させ、精液を彼女の子袋に注ぎ込んでいった。まるで連続で二度三度と射精しているかのような感覚であった。
やがて長い絶頂が終わり、僕たちは広いベッドの上に崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……♡」
エレノアの息遣いが荒い。今度は興奮だけではなく、乱れている。僕との戦いで、息を見出していなかった、あの彼女が。それほど激しい行為だったのだと今更ながらに思った。
「ふ、ふふふ……たくさん出したのぅ……♡ これだけで孕むことができたら良いが……確実に孕むために、明日も、その次の日も、さらにその先も、お主には種付けしてもらうぞ、勇者フィル……おおおっ?」
エレノアが驚いた声を上げる。僕が眼の前にあった胸にまた口をつけたからだ。無意識にやってしまったことに、僕自身が驚いたが、エレノアはそれ以上は責めることなく、むしろ嬉しそうににんまりと笑っていた。
「よいよい♡ 何ならもう一度交わるとするか? 妾は構わぬぞ♡」
マレフドラゴンの寛大でかつ淫靡な誘いに……僕は乗るのであった。
こうして僕、勇者フィル・スウェイツは討伐対象であったはずの、マレフドラゴンのエレノア・アンジェリカと番になった。そして勇者だった僕と邪竜の魔力が結びつき合い、さらに子どもたちもできることによってシュワルツォーラ城を中心に暗黒魔界が一気に広がっていくのであった。
なお、マレフドラゴンを討伐したと歓喜に沸いていたヒュンバード王国は、翌日にはエレノアの怒りとともに魔界に飲まれたことを、記録に残す余裕すらなかったことを哀れみ、ほんの一言僕から残しておくこととする。
23/10/22 23:02更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)