連載小説
[TOP][目次]
後編
「どこの神父か知らないが助けてくれ……腹が痛ぇんだ……」
「どれどれ? あー、これは何か悪い物を食べたようですね。これくらいは大丈夫です……」
 青空の下、青い僧服を纏った男が道端でうずくまっている青年剣士に向かって手をかざす。その手から淡い緑色の光が放たれた。十秒もすると青年はたちまちのうちに回復し、立ち上がった。
「助かったぜ神父さん、ありがとう!」
「礼には及びません。清く正しくあろうとしただけです」
 頭を下げる青年に向かって僧侶、クレンメ神父は穏やかに笑って言う。青年の横には連れの女がいた。彼女もまた頭を下げるがその顔は複雑そうだ。
「ねえ……あなた、主神教団の人間でしょう? なんで彼を助けてくれたの?」
 そう言う彼女の腰からは緑色の尾が伸びている。手足もガッシリとしており、緑色の鱗に覆われている。だが翼はない。リザードマンなのだ。
 腑に落ちない顔をしているリザードマンの女性に、クレンメは相変わらず静かに微笑みながら答えた。
「さっきの通りです。清く正しくあろうとしただけです。そのためにすれ違った見知らぬ人だろうと、それが魔物娘であろうとその夫であろうと、信じるものが何であろうと、助けただけです」
「……まあ、神父なのに女、それもフーリーを連れていることを考えれば、そう答えるのが自然なのかも知れないわね」
 リザードマンの顔がふっと和らぐ。その視線はクレンメではなく、その二歩奥で控えていた修道女の服を纏っている女性に注がれていた。むろん、ハンナだ。
「それでは、私達はそろそろ行きます。どうぞお気をつけて……神のご加護があらんことを……」
「ああ、神父さんもフーリーさんも気をつけてな」
「それでは……」
 二組の男女は背を向け、歩き出した。青空の下、旅路の上、そのほんのひと時の出来事……



 死んだハンナがフーリーとして戻って来てすぐ、クレンメは主神教団の統括管理教会の方に今いる教会の管理役を外して欲しいと願い出た。理由は自身の年齢と、共に働いていたシスターの不幸とした。嘘は言っていない。そしてその理由でクレンメの希望は通った。
 こうしてクレンメ神父とフーリーのハンナは教会を出て旅をしている。一応、クレンメ神父の伝導の旅と言うことになっているのだが……
「えへへ、クレンメ神父様……♥」
 ハンナはぎゅっとクレンメの腕にしがみついた。彼女のぬくもり、腕に感じる柔らかさ、それが神父をその職らしからぬ気持ちに駆り立てる。
「ふふっ、神父様♥ まるで新婚旅行ですね♥」
「あの……ハンナ……一応、私は神の教えを伝え広めるための旅に出ていると言うことなので……こうされるのは心苦しいのですが……」
「いいじゃないですか。今は神父様もお仕事が終わっているのでしょう? ならばこのようなことをしても構わないではないですか」
 日が暮れたとある街の市場にて。この街でも主神の教えの一部を説いたり住人の病気や毒を治したりしていたクレンメであったが、夜になってから人を集めて説教は無粋だ。今は伝導の旅と言うことを忘れてクレンメとハンナは二人で出歩いている。
 出歩くこと自体はクレンメも構わないと思っている。神に使える者であろうと、息抜きは必要だ。よほど、堕落したようなことでもしない限り、自分も羽根を伸ばそうとしていた。とは言え、さすがに腕にしがみつかれるのは、それまで神父として神に身を捧げ続け女人を絶っていた彼にとって少々困ることらしい。
 だがフーリーのハンナはそれをやめようとしない。それどころかますます身体を押し付けてくる。むにゅリと修道女の服に包まれている柔らかな感触が神父の腕に当てられる。どぎまぎしているクレンメにハンナは甘えた声で言った。
「いいじゃないですか。こうして神父様と街に出歩くのが夢だったんです」
「……可愛らしい、小さな夢ですね」
 ふっとクレンメは笑ったがハンナは不機嫌そうに頬を軽く膨らませた。
「……小さくなんかないですよ」
「……それもそうでしたね、失礼しました」
 死の病床にて、生前の彼女はなんと言っていたか。それを考えると確かに小さくない。神父の顔が曇る。クレンメの顔を見たハンナはにっこりと笑った。
「そんな顔しないでください。せっかく私の夢がかなっていると言うのに、台無しになってしまいます。ほら神父様! あれ、一緒に食べましょう」
 ハンナが指さしたのはパフェの屋台。質素な教会ではこのような物は食べられなかった。男と女が出歩く時に食べるものなのかは分からないが、娘のような存在であり、今は妻であるハンナのおねだりにクレンメは一も二もなく応えた。
 こうして買われたパフェであったが……ハンナはパフェも確かに欲しかったのであったが、もう一つ、やりたいことがあった。パフェは屋台から少し離れたところにある、椅子とテーブルが多数置いてある公園で食べることになったのだが……
「神父様、あーん♥」
 スプーンで掬われて差し出されるパフェ。病人や幼い子どもでもないのに、クレンメはハンナに食べさせられようとしている。先ほど、道中で抱きつかれるのと同じくらい気恥ずかしい。
「え、えーっと……ハンナ。それは食べなければ駄目ですか?」
「駄目です♥ これもやりたかったことなのですから♥」
 パフェが乗ったスプーンを差し出したままにっこりとするハンナ。やりたかった事、と言われるとやはりクレンメは弱い。とりあえず食べなければ、と思う。だが、疑問は消えない。
「しかしなぜこのような事を……」
「恋人たちがよくやっていることですよ」
 ハンナの言葉にクレンメは周囲を見渡してみる。なるほど、自分たちの他にも多数のカップルがあちこちの席についていたが、皆同じように食べさせ合っていた。これが恋人同士ではよくやられているらしい。
「なので……神父様、あーん♥」
 再びパフェが差し出される。クレンメも納得したが、動きはぎこちない。おずおずといった調子でパフェへと首を伸ばし、口にする。濃厚な甘い味が口の中に広がるが……それ以上はもはや気持ちが舞い上がってしまっていて分からない。そんなクレンメにさらなる要求がされる。
「はい、今度はクレンメ神父様からも♪」
 そう言ってスプーンが、今度は柄のほうが差し出された。傀儡にでもなったかのようにクレンメはそれを手にする。そしてパフェを掬ってハンナに差し出す。先ほど、ハンナが自分にそうしたように。少し動きと口調が強張っているのはご愛嬌だ。
「ハ、ハンナ……その、あーん……」
「あーん♥」
 至福の笑みを顔に浮かべ、大口を開けてハンナはそのパフェを口にした。その笑顔を見ると、少し恥ずかしくてもこうして良かったと思える。それに、ハンナとより親密になれたことが感じられ、自分も嬉しくなる。また、クレンメは気付かなかったが、二人から漂うパフェに劣らぬ甘い雰囲気に周囲の人たちは微笑ましい視線を向けていた。
 神父と元シスターのフーリーはパフェの食べさせあいっこを続ける。時間は普通よりかかるが、それでも無限ではない。やがてパフェはなくなってしまった。
 名残惜しいがここを発つことにする。クレンメは立ち上がろうとするが、ハンナがそれに待ったをかけた。何かまだあるのだろうかと訝しがるクレンメ。
「どうしたのですか、ハンナ?」
「ほっぺたにクリームがついていますよ、神父様」
「え? あ、ああ、これはしつれ……」
 クリームを拭おうと手を持ち上げたクレンメだったが、その手に雷光の速さでハンナの手が伸びてそれを制した。どうしたのかと思わず固まるクレンメに、ハンナは身体を乗り出す。そして……
「……チュッ♥」
 くちづけでそのクリームを舐めとった。ハンナからの不意打ちにクレンメは思わず固まってしまう。その顔は真っ赤で、耳から蒸気でも噴き出るのではないかと思われた。積極的にいちゃつきに行っているフーリーと初心な神父の様子を周囲は温かく見守っている。
「さっきのパフェですけどね、神父様……」
 固まっている神父の、今度は耳にハンナは口を寄せる。耳元にかかる甘い吐息に神父の胸は緊張と喜びに張り裂けそうであったが、平静を装って彼
は、何でしょう、と訊ねた。クレンメの手をそっととり、ハンナは彼の耳元に囁いた。
「あれはホルスタウロスのミルクで出来ていたのですよ」
「……! それって……」
「それにトッピングのフルーツ……あれは陶酔の果実なんですよ」
 教会を出て旅を始めたクレンメは、その旅の間にあらゆる魔物娘の特産品の知識を得た。教会に閉じこもっていると知らなかった物ばかりだ。多くのものが美味で、そして媚薬や精力剤に準じる、性に絡んだ物であることも知った。
 つまり、このホルスタウロスのミルクで作られたクリームが使われ、陶酔の果実も盛られていたパフェは……
「クレンメ神父様……♥」
 熱っぽくささやき、潤んだ目で見上げてくる修道女の格好をしたフーリーが何を望んでいるかは神父もすぐに察したのであった。


「……」
 質素な木造の宿屋の一室にて。クレンメはランプの明かりを消した。部屋に闇の帳が降りる。下帯に寝間着のローブを羽織ったクレンメはベッドに潜り込んだ。そのベッドはすでにぬくもりに満ちている。すでに別の者が入っていたのだ。無論、ハンナである。
 あの教会で暮らしていた時は、二人はもちろん別のベッド、別の部屋で寝ていた。だが、旅に出てからはほぼ毎日、ダブルの部屋を取って一緒に寝ている。
 すっ……ベッドカバーの下でハンナの手が動き、クレンメの手を探り当てる。その手を捉えて自分の方に引き寄せた。クレンメの手にハンナの素肌が当たる。おおよそ、太もものあたり。つまり、今のハンナは下着姿……神父の胸が強く打つ。
 旅に出て以来、寝所は共にしている二人だが、もちろんそれはただ一緒に眠っているだけではない。世の恋人や夫婦と同じように、彼らも共に寝ると言うことは身体を重ねると言うことを意味していた。ましてやこの二人は数日前に思いを確認して交わったばかり。今していることはハンナにとっては「新婚旅行」。そう言うハンナの種族は「永遠の新妻」の異名を持つフーリー。夜が熱く燃え上がらないはずがない。
「神父様……今夜も、いいですか?」
 おずおずと乙女のように恥じらいながら情事を請うハンナ。クレンメの頭の中でひゅんひゅんと、相変わらず信じている主神の教え、はたまた明日に旅するための体力のことなどの不安要素が飛び交う。だが、目の前の新妻の誘い、それによる快楽、何より彼女を喜ばせたいという思い……それらに天秤はあっさりと傾いた。
 仰向けに寝ていたハンナは寝返りを打ってその端正な顔をクレンメのそれに寄せる。クレンメは拒まない。暗闇の中、静かな水音とくぐもった吐息が響いた。
 キスを交わしている間、他の身体の部位は怠けてはいない。ベッドカバーの下でハンナの手はクレンメのローブの紐を解こうとしている。少し驚いたクレンメは身体を引こうとしたが、ハンナのつるりとした脚がクレンメのそれに絡みついて逃さなかった。あっという間にローブの前は天使の手によってくつろげられてしまう。開いたところからハンナはするりと手を挿し入れた。すぐに硬い物を探り当てて笑う。
「神父様……もうこんなにしているんですか?」
 そう言われると聖職者であるはずなのに猥りがましいと言われているようで恥ずかしい。少しだけ神父は罰が悪そうにうめいた。しかしその気持ちも下着越しのハンナによる手の愛撫でどうでも良くなってしまう。
 クレンメもやられてばかりではいられない。彼もまたベッドカバーの下で、手をハンナの下腹部に伸ばした。冷たく湿った感触が彼の指先にあった。
「ハンナも……濡れているのですね……」
「いや、恥ずかしい……♥ 言わないで……♥」
「し、失礼しました……!」
 ただ単に状況を口にしただけなのに、ハンナを必要以上に恥ずかしがらせてしまったらしい。思わず手を引っ込める。あっ、とハンナは声を上げた。
「だ、大丈夫です、神父様っ! む、むしろ……そんな風に言ってくれるほうが……その……♥」
 恥ずかしがって最後まで言わないが、ハンナが本気で嫌がっていないようだ。それでも、ハンナは本音を言わずに飲み込んでしまうことが、生前は特に多かった。今回もそうではないか……神父の胸に不安がよぎる。
「本当に大丈夫ですから……ね?」
 戸惑っている神父に天使はそっと背中を押す言葉をかけた。彼女の言葉に神父は勇気を出して先に進む。再び手を股間に伸ばし、ショーツを撫でる。布越しの秘裂への愛撫の感触に愛の天使はそっと目を閉じてまつげを震わせ、息を吐いた。
 ハンナの控えめで可愛らしい反応にクレンメは夢中になっていたが、ふと気付いた。ショーツはべっとりと濡れている。教会の畑仕事をしたあとも自分の肌着も同じような感じになる。気持ち悪いものだ。それを考えると、ハンナも濡れたショーツを穿き続けるのは気持ち悪いのではないだろうか。それに……考えたクレンメは口を開く。
「汚れてしまいます。脱いでしまいましょう」
「……ッ! はい……♥」
 クレンメはただ理由を述べて提案しただけだが、それがハンナにとってはほどよい言葉責めになったらしい。はっと息を呑み、そして艶然と頬を染めた。
「神父様も……」
「……ええ、そうですね」
 さすがにベッドシーツの中では互いの下着を脱がせるのは少々難しい。二人はもぞもぞと身体を動かして、大事なところを覆っていた布を取り去る。ハンナは産まれたままの姿に、クレンメはそれに寝間着のローブを羽織っているだけの姿になる。そのローブも用を成していないくらいにはだけているのだが。
 下着を脱いだ二人はベッドの上できつく抱き合う。互いのぬくもりを、肌を感じ合う。それだけでも心地良いのだが、二人の身体はさらなるつながりを、さらなる快楽を求めていた。
 先に我慢できなくなったのは意外にもクレンメの方だった。身体を丸め、ベッドカバーの中に体ごと潜り込んでしまう。ベッドカバー内の闇の中でもクレンメは"ソレ"を探り当てた。片方の乳房に子どものように吸い付く。愛の天使はそれを拒むことなどせず、むしろ彼の頭を撫でて受け止めた。
「クレンメ神父様は私の胸が好きですよね……♥ ええ……」
 彼が胸に彼女は知っている。知っているからその言葉は尻すぼみになり、ハンナの顔は情事の最中だと言うのに渋いものになった。胸に夢中になっていてベッドカバーに潜り込んでいるクレンメはその顔を見ていなかったが。
 クレンメもまた、あの教会に赤ん坊のうちに孤児として引き取られていた。だから無意識のうちに母性の象徴とも言える胸を求めるのだ。ハンナが人間のシスターであったころはこのようなことをするとは、クレンメ自身も考えていなかった。だがあの教会で男と女の関係を持つと、それまで封じていた無意識の物が表に出てきた。
 自分の育ての親である神父の頭を撫でながらハンナは囁く。
「いいですよ、神父様の気が済むまで好きにしていいですよ……♥」
 そう言われるとたまらない。空いている乳房の方に手を伸ばして揉みしだく。その男にはない柔らかさを神父は夢中になって手で味わった。口による愛撫と手による愛撫……ハンナはその二つを同時に受け止め、熱い吐息をついて股間をますます濡らした。
 もじもじとハンナが脚をこすりあわせたことでクレンメは自分が胸に夢中になりすぎていたことに気付いた。急いでベッドカバーから顔を出す。
「も、申し訳ありませんハンナ。ちょっと夢中になりすぎました」
「いいえ、いいのです……でも今度は私の方からさせてください」
 言うや否やハンナはベッドカバーを跳ね除けた。クレンメのペニスがベッドカバーから露わになる。それは限界まで勃起していて、先走り汁すら漏らしていた。
「まだ触れてもいないのにこんなになって……そんなに私の胸が気に入ってくれたのですね♥」
「いえ、あの、その……うっ」
「それにしてもすっごく大きい……お口に咥えられるでしょうか?」
 現れたクレンメのペニスをそっと握って上下に動かしながらハンナは少し不安そうに言う。これまでに何度かフェラチオを神父にしたことがあったが、今日は一段と固く脈打っていた。
 それでもハンナに臆する様子などない。フーリーのハンナは口を大きく開けてクレンメ神父の亀頭をその可憐な口に納めた。
「うっ、ハンナ……そんな無理しなくとも……くっ!」
 制止しようとしたクレンメの声が快感で途切れる。舌がくるくるとペニスの先端を這いまわっていた。咥えきれない竿の部分は手で細かくしごいている。愛する人の物なら泌尿器だろうがそこから出る尿であろうがなんだって受け止めようとする愛の天使のハンナは止まらない。
 じゅるじゅると立ててハンナはクレンメのペニスの先端を吸い立てる。生真面目な神父に育てられた元修道女とは思えない、極めて下品な音であった。
「ハ、ハンナ……! 少し、待ってくださ……くっ……!」
「ぷはっ……いいですよ、神父様……このまま私のお口の中に出しても……」
「いえ、そうではなくて……私からもさせてください。一緒に、しましょう」
 一緒に。夫婦で共同で相手を気持ちよくする……その言葉にハンナはにっこりと微笑んで頷き、横になっているクレンメを脚を上げてまたいで尻を向けた。神父の目の前に突きつけられたのは蜜が滴り落ちている天使の秘花。その花にクレンメはためらわず口をつけた。あの神父がと思われるくらい貪欲にクレンメはハンナの秘裂を舐め、蜜を啜り、さらに陰核を舌で転がす。
「ひぃん♥ 神父様、だめっ……そんなにされると……くぅうん♥」
 甘く媚びた声をハンナは上げる。しかし、最初に口唇愛撫をしていたのはハンナだ。このままクレンメのクンニリングスに身を任せはしない。彼女は再び彼の股座に顔をうずめて、その肉棒を口に含んだ。
 薄暗い宿屋の一室にじゅぷじゅぷと卑猥な水音とくぐもった嬌声が響く。敬虔な神父と愛の天使の性器と口の結合部から発せられる音だ。不意にその音が途切れた。クレンメが口を離したのだ。
「あっ、あっ……!」
 何かをハンナに伝えようとするが、言葉にならない。それより先に身体のほうに反応が出た。腰にじんわりと耐え難い疼きが現れ、その滾りを解き放たんと肉棒がフーリーの口の中で膨れ上がった。ハンナはすぐに察した。クレンメがまもなく射精することを。一滴もその液を逃すまいと彼女は口をすぼめ、きゅっと先端を吸い上げた。
 その吸引に導かれるように、クレンメの肉棒から精液が噴き出した。放たれた生臭い白濁液は元修道女のフーリーの口内に広がっていく。一滴もこぼれない。射精の間も吸っているからだ。その刺激でクレンメは絶頂の最後の瞬間まで快感であった。
「ん……えへへ、神父様の精液、全部飲んじゃいました」
 上気した顔をクレンメの方に向け、ハンナは笑ってみせる。流暢にしゃべっている辺り、本当に全部飲んでしまったらしい。あのハンナが、娘だと思っていた存在が、異教ではあるがその神の使いが、子どもの素を、自分の泌尿器から出た体液を飲み干したと言うことに、クレンメの心に背徳的な気持ちが沸き起こる。初めて交わった時から何度その光景を見ているが、その背徳感は慣れない。だがそれは肉棒を萎えさせることなく、むしろ剛直を保たせた。これも初めて交わった時から変わらなかった。
 ハンナは手足をもぞもぞと動かして前に進む。その四つん這いの姿勢のまま、手を腹の下から伸ばして股間に持って行き、指でクレヴァスを広げてみせた。
「どうぞ、神父様……来てください……♥」
 月明かりに妖しげに照らされる彼女の肌、丸い尻と太もも、よだれを垂らしている膣……それを愛の天使は夫にむけて突き出している。
 ハンナの下から抜けだしたクレンメは彼女の後ろで膝を突いた。祈る姿勢でありながら手は組まれておらず、代わりに女の尻をしっかりと掴んでいる。行きますよと声をかけ、彼は腰を押し進め、欲棒をその肉孔の中に挿入した。
「くっ、あっ、あああッ♥」
 ハンナが身体を弓なりして声を上げる。そのままぶるぶると震え、やがてがくりと上体をベッドに沈み込ませた。何が起きたのか、すぐにクレンメは察した。
「ハンナ……?」
「ごめんなさい……我慢できなくて……挿れられただけでイッちゃいました……♥」
 荒い息使いの下で、恥ずかしそうに笑いながら、ハンナは言った。尻を左右に振る。さながら、メスがオスを誘うように。交尾の続きの催促をする。
「ね、神父様……またシてください……♥ 私、神父様と一緒にイキたいです……♥」
 妻の、愛の天使の、育ての娘の要求にクレンメは抗えなかった。弾かれたように腰を動かす。膣内を抽送され、子宮口を突かれる快感にハンナはベッドのシーツを掴んで悶えた。
 だがよがっているのはハンナだけではない。彼女を後ろから犯しているクレンメもまた快感に理性を飛ばされていた。先ほどのフェラチオではハンナの粘膜に包まれていたのは先端だけであったが、今は先端から根本まですべてが媚粘膜によって包まれ、しごかれている。女の肉によって全体をしゃぶられている感覚は、敬虔で理知的な神の使徒であろうと、狂わせるのに十分であった。
「あっ、あんッ♥ すごい……神父様のが私の中をぐちゅぐちゅにぃ……♥ もっと、もっとぐちゅぐちゅしてくださいッ……♥」
 だらしなくよだれを垂らしながらあられもない言葉をハンナは叫ぶ。口元からはだらしなくよだれが垂れていてシーツにシミを作っているが、シミになっているのはそれだけではない。二人の結合部から飛び散っているハンナの愛液もまたベッドに滴り落ちていた。だがそのようなことを気にすることができないくらい、二人は快感を貪っていた。
「んあッ!? あっ、神父様ッ……それ……ダメッ……♥ そんなにされるとまたイッちゃ……あああッ♥」
 快感の波に乗せられたのか、再びハンナの身体に絶頂が迫っていた。それを途切れ途切れに彼女は訴えるが、獣性とハンナの肉体に囚われたクレンメは聞くことができない。抽送が続く。
「イクッ、イクッ……うっ、ああああんッ♥」
 ハンナの身体が波打つ。さらに膣がきゅうきゅうと男の精液を搾ろうと収縮する。さすがのクレンメもそれでハンナに何が起きたか気付いた。腰の動きをゆるめて訊ねる。
「ハンナ……イッたのですね?」
「い、いや……恥ずかしっ……♥」
 邪気もなくまっすぐに訊ねるクレンメに、ベッドに上体を預けたままハンナは顔を覆って見せる。それでも逃げたりはせず、下の口はきゅんきゅんとクレンメの肉棒を咥えて離さない。
 少しするとハンナは落ち着き、クレンメを濡れた目で見た。
「気持ち良かったです……♥ でも今度こそ、神父様と一緒にイキたい……もう一度、いいですか?」
 クレンメに否のあろうはずがない。だが、彼の息はハンナ以上に荒く、動きも鈍っている。彼女と結ばれてからそれなりの月日は流れたが、インキュバスにはまだなっていないのだ。四十に手が届こうとする人間の肉体は疲れが見えていた。
 察したハンナは一度抜くようにクレンメに言った。緊張の糸も切れたクレンメはドサリとベッドの上に尻もちをつく。彼の脚をまたいでハンナはクレンメに向き直った。そして、疲れていても交わりたいと主張している分身を掴み、その上に腰を落としていく。
にちゅ……
 再び、神父とフーリーがひとつになる。先ほどは獣の体勢であったが、今度は向き合って密着する体位……
「神父様と見つめ合って、一緒にイキたいです……♥」
 クレンメの両肩に手を置いて腰を動かしながらハンナは言う。絶頂を迎えたばかりで敏感になっているため、その動きは緩やかに抑えているが、そのくらいが今のクレンメにもちょうど良かった。
クレンメは再び背中を丸めてハンナの胸に顔を寄せた。目の前で彼女の動きに併せてふるふると揺れている果実の突起に吸い付く。そんなクレンメの頭を抱え込みながら、ハンナはゆらゆらと腰を動かし続けた。
「ああ、素敵……好きです、神父様……愛してます♥ ああ、このまま溶けて一つになってしまいたい……♥」
「ハンナ……ああ、ハンナ……」
 嬌声の吐息混じりにハンナはうわ言のように、育ての親であり、夫であるクレンメ神父への愛をつぶやき、腰を振る。クレンメもまた乳房を軽く咥えたまま、愛する育ての娘であり、妻であるハンナの名前を呼ぶ。
 互いに抱き合い、愛と名前をささやき合って、腰を揺する二人からは甘い雰囲気が漂っている。まるで、メルティ・ラブのアロマを焚いているかのように。
 だがその甘く穏やかな空気に強い風が起こり始める。クレンメは腰の奥にうずく物を感じた。射精の予感だ。まもなく、絶頂の嵐に身体を激しく震わせ、愛の天使の蜜壺の中に精液を吐き出すことだろう。
「すみません、ハンナ……そろそろ……」
 胸から口を離し、顔を上げてクレンメはそれを訴える。首を曲げてクレンメを見るハンナの目は焦点がやや合っていない。
「あはぁ……実は……んっ、私もなんです……♥」
 彼女の身体にも絶頂が迫っていた。何度も達して燃え上がり波が立ったその身体は、ゆるやかな動きだけでもアクメへと押し上げられていたのだ。愛する男の精液を受け入れんと子宮口が降り、くにゅくにゅと精液の出口により押し当てられる。
「神父様……お願いです……っ♥ ぎゅって……ぎゅってしてください……♥ んっ、私が……あっ、私がっ、どこにも行かないように……」
 オーガズム直前の朦朧とした意識が死の記憶と重なったか、ハンナはそうねだる。クレンメはその要求に応えた。自分とて、ハンナを手放したくない。がしりとハンナのくびれた腰に自分の腕を回して引き寄せる。ハンナもまたクレンメの頭を己の胸にぎゅっと抱え込んだ。そして
「クレンメ神父様ぁ……♥」
「ハンナっ、ああっ!」
 互いの名前を呼びながら、二人は同時に、快楽の天国へと昇り詰めた……



「うふふ、神父様……♥」
「なんですか、ハンナ?」
「……ううん、なんでもないです♥ うふふ……♥」
 クレンメとハンナは月明かり差し込むベッドで並んで横になっていた。行為の最中にうっちゃってしまったベッドカバーは最初から宿の者がベッドメイキングしたかのように二人に丁寧にかけられている。だがその下の二人は生まれたままの姿だ。そしてハンナはクレンメの腕を枕にしている。ベッドカバーが綺麗になっていようと、二人が甘く愛しあう雰囲気が残り、今も漂っていた。
「何もないのに呼ぶとは……不可解ですね……」
「私にも分からないのですが、呼んでみたかっただけですよ、うふふ♥」
 幸せそうに言いながらハンナはクレンメの胸に頬を擦り付ける。神父のクレンメは何も言わずそれを受け止めた。
 二人は互いの呼吸の音を子守唄に、まどろみに落ちていく……だがそれを破ってハンナが口を開いた。
「神父様……」
「なんでしょうか?」
「私……神父様がおじいさんに、私がおばあさんになってしまっても、ずっと一緒にいたかったです……」
 寝ぼけ気味の彼女が口にしている言葉。何度も聞いた、生前の、聖女の夢見た願い……一度は死によって無残に踏みにじられたその願い……だがその願いは今、もう手が届くところにある。
「……いずれ子どもができても、おじいさんおばあさんになってもずっと一緒にいましょうね……♥」
 眠りに落ちかけていた神父の胸が高鳴る。子ども、そして愛する女と一緒にいる……普通の主神教団の聖職者であれば許されないことだ。それなのに、ハンナの願いの言葉に期待し、微塵も罪悪感を覚えない……それどころか期待し、自分も同じ気持ちになっている……そのことに、幸福すら覚える……そんな自分を神父は感じた。
 腕枕をしていない方の手でハンナの手を取り、クレンメは力強く言う。
「ええ、ハンナ……ずっと、添い遂げましょう」
「ええ……」
 鈍いハンナの言葉を最後に、部屋には小さな寝息が二つ響きだした。それでも、眠っている二人から放たれるメルティ・ラブのような甘い雰囲気は、残り香のように部屋にあったのだった。
15/05/11 22:12更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
戻る 次へ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33