勇者、黒髪に捉えられ堕つ
『くそっ、ハメられた!』
若き勇者、ディルクは腹の中で悪態をつく。それだけの事態が起きていた。絶体絶命である。
剣術と魔術の才能があった彼は若干十六歳にして勇者としての洗礼を受け、三人の仲間を引き連れて魔物粛清と魔王討伐の旅に出た。旅は長く続き、霧の大陸を横断し、ついに一行はジパングまでやってきた。
そこでとある村の宿に泊まることになったのだが……あまりに人間と変わらない生活をしていたので気づけなかった。そこは魔物たちが住む村であった。
勇者たちが眠っている間に仲間たちは誘い出されて分断されてしまった。そしてディルクの前にも今、宿の女将をしていた魔物娘が立ちはだかっていた。
ディルクたちを迎えてくれたときはきれいな女性だと思っていた。雪のように白い肌、それを強調するかのような口紅、伏せがちでおしとやかに見える黒目、そして夜の闇より黒くつややかな丁寧に結われた髪……
今も、一見すると普通の女性である。しかし本性を現し、漂わせている魔力は人の物ではない。異様に長い髪が、彼女が人ならざる存在であることを強調していた。
「タエさん……お前、魔物だったな!」
「ああそうともさ。ジパングじゃ魔物娘と親しい者が多いと言うのに、西の勇者さんは横暴だねぇ」
宿屋の女将、妙(タエ)は勝ち誇ったように笑いながら言った。紅をさしたくちびるがまるで血を吸った鬼のように恐ろしく見える。だが同時にその朱はとても艶やかにも映った。
その妖艶さに、若き勇者はぞくりと背筋を震わせた。だがそれを噛み殺し、剣を構える。魔物娘であれば斬る。防具を身に着けていないし、今この場に味方がいないのが心細いが、彼はイルトスト王国を出たころより使っている剣を抜いた。
「へっへ〜ん……西の国の剣の切れ味は悪いとは聞くけど……そんななまくらな剣であたしを斬るつもりかい?」
剣を構えるディルクを妙はせせら笑う。ディルクは歯噛みした。神の祝福を受けた剣をそのように言われて若き勇者が我慢できるはずがない。
「でぇええええい!」
ディルクは剣を振りかぶり、妙に襲い掛かった。速い。並みの人間であればそのまま剣を叩き付けられ、血をふいて倒れたことであろう。また、妙は無手。白羽どりなどをする様子も見せない。そしてディルクの刃は妙の首を捉える。勝った。ディルクはそう思った。
「う……!?」
予想していなかった事態にディルクは驚愕に目を向く。ディルクの刃は確かに妙の首を捉えていた。だが、彼女の身体からは血が流れていない。神の祝福を受けし剣はまるで鉄の板か何かに受け止められたかのように、妙の首のところで止まった。
「はっはははは! だから言ったろう? そんななまくらな剣であたしを斬ることなんてできないって!」
勝ち誇ったように妙が高笑いをする。そしてふわりと手を挙げた。すると摩訶不思議なことが起きる。妙の髪がひとりでに動き出したのだ!
髪はぎゅるると剣に巻きついた。ハッとしてディルクは剣を引き抜こうとするが、剣は万力に挟まれたかのようにビクともしない。
「く、くそ……!」
「くくく……ほれ、それっぽっちかい? ほれほれ、もっと気張ってみんか」
勇者であるディルクはまだ少年に片足を残している年齢とはいえ、勇者である以上非力ではない。だが目の前の魔物娘は髪で縛るだけでその力を上回っている力を見せつけているのだ。思わずディルクは呻く。
「化け物……!」
「おやおや、ずいぶんな物言いだねぇ……そんなことより、ほれ。剣ばかりに夢中になっていていいのかい?」
「……! しまった!」
彼の足もとに妙の髪の毛が這い寄っていた。彼女に言われてハッとしたディルクであったがもう遅い。その髪の毛は猫のようにディルクに向かってとびかかり、足を縛り上げた。
さらに数本の毛束が彼に向かって伸び、手を、腰をと、身体を縛り上げていく。そうして妙はディルクを、手足を広げて立たせた姿勢で拘束した。
「おっと、呪文は無駄だよ。封じさせてもらったからね」
「うう、くそぉ……!」
完全に妙によって拘束され、魔法も封じられた。仲間はおそらく自分と同じように孤立させられている。うまくやらない限り、魔物娘の餌食になっていることだろう。勇者の完敗であった。
「それにしてもひとくくりに魔物娘だの化け物だとひどいねえ……あたしは毛娼妓さ」
ここで妙が初めて、自分が何者であるかを勇者に明かした。
毛娼妓……ジパングに住む者ならどのような魔物娘かは想像がつくだろう。その髪の毛が何より特徴的な魔物娘なのだ。彼女たちの髪には妖力が満ちており、自由自在に動かすことができる。そう、今こうして妙がディルクを縛り上げているように。
ジパングの魔物娘について勉強していたら、ディルクもこのように不用意に剣撃をしなかったかもしれない。だが彼が西の国出身であること、そして魔物娘であればなんであれ斬ると言って勉強などしなかったことが、今回の敗因だ。
「くそっ……俺をどうするつもりだ……!?」
「どうするって……そんなの、決まっているだろう?」
あきれた様子の声を出しながらも舌でぺろりとくちびるを舐める妙。そのしぐさにディルクは妙を初めて見た時のような、戦う直前にも感じた、背筋を甘く撫でられるかのような感覚を味わった。
いいや、だまされるなとディルクは首を振る。魔物娘は人を取って食うと彼は教わっていた。油断させておいて自分を食うつもりなんだと彼は自分に言い聞かせる。そして実際に口にした。妙は目を丸くする。
「何をあほなことを言う。そんな取って食うなんて野蛮なことはしないさ。真夜中に男と女が二人きり……どうもこうもやることは一つしかないだろうに」
そう言って妙は髪の毛の束をさらに数本、ディルクに向かって伸ばした。それは彼の服の襟口やベルトの隙間から入り込み、彼が着ている物を引きちぎる。そう、髪の毛で。布地を素手で破るのはそうとうの力がないとできないはずだ。それを毛娼妓という魔物娘はやってのけたのだ。刃を受け止めたことと言い、このことと言い、魔物娘の力にディルクは戦慄する。
しかし、こんなのは副次的なこと。彼はこれからさらに魔物娘の恐ろしさを知ることになる。
「おやおや、まだ若いというのに立派な逸物を持っておるのう……!」
「……!」
魔物娘の力に驚いていて忘れていたが、ディルクは妙によって着ている物はすべて引きちぎられていた。つまり、今の彼は全裸。その歳にしては酷なほど戦士として鍛えられた身体、一方でその歳に許された無駄毛のない中性的な身体、そしてそれでも彼がすでに大人の男になっていることを示す、子どもの姿から脱している生殖器……それらがすべて、妙の目にさらされていた。さっとディルクの顔が赤くなる。
「や、やめろ! 何をするつもりだ!?」
「だから言っているじゃないさ、男と女がこれからやること……まぐわいさね」
ジパング特有の言い回しをディルクは理解できない。それでも、それがいやらしい意味であることは彼にも理解できた。そしてそれが、神の教え「清く正しく生きる」に対して禁忌的なものであることも察する。
しかし、彼も多感な時期だ。背徳的な感覚と同時に好奇心のようなものも、心の中で鎌首をもたげていた。少年勇者の心の内は、魔物娘の妙には手に取るように分かっていた。
「ふふふ、急に赤くなって、ういやつういやつ。そして、初物らしいね、え?」
髪の毛がひとりでに動き、肉棒の包皮を剥いた。現れたのは桃色の、くすんでいない亀頭。毛娼妓の笑みが広がった。
「さてさて、この初物のお珍宝、どうかわいがってやろうかえ? ……まあまずは、撫でて可愛がってあげよう」
妙による魔性の愛撫が始まる。しかし相手は毛娼妓。ほかの魔物のように手や胸などでの愛撫などという、生易しいものではなかった。
うぞぞと、陰茎に絡みついている髪の毛がうごめく。そう、妙は髪の毛でディルクを愛撫し始めたのだ。
毛娼妓の髪に込められているのは妖力や魔力だけではない。色気や魅了の魔力なども含まれている。
「な、なにこれ……うわ、あ……」
思わずディルクは声を漏らす。性に禁欲的な主神教団出身の彼だ。自慰などはしない。その彼の性器を初めて官能的に刺激したのが髪なのは幸か不幸か。
毛娼妓の髪は絹のような肌触りでつややかである。その髪が幹や仮首、亀頭に器用に絡みつき、牛の乳搾りのように緩急をつけながら締め付けては緩みを繰り返し、同時に上下に動いてしごきぬく。
たちまちのうちに勇者の男根は生殖のための臨戦態勢に入る。固く張りつめた陰茎を見て毛娼妓は目を輝かせる。
「これはまあ、本当に立派な逸物さね。若いだけあってこの反り立ち具合……いいもんだ」
きゅっと妙は脚を内股気味にした。髪の毛で嫐るという異質な行為をしているが、それでも妙も女だ。最終的には牝器で男を受け入れたいと思っている。その反応が襦袢の奥で起こったのだ。彼女の秘花は蜜でうるみ始めている。
しかしディルクがそれに気づく余裕はない。ただでさえ慣れていない性的快感、それも毛娼妓の髪の毛という異様かつ強烈な愛撫……すでに彼の身体に限界が近づいていた。
「や、やめろぉおお! 何か、何か……!」
「おやディルク、もう精を放つと言うのかい? 少々早すぎる気もするが……童貞であればしょうがないことさね。さあ……思いっきりぶちまけるがいいさ!」
毛娼妓による髪攻めがより苛烈な物となった。締め付けがきつくなり、しごく動きも速くなる。すでに射精が近かった若きディルクに我慢ができるはずがない。
「あ、ああああ!」
妙に髪で身体を縛り上げられ、同じ髪で陰茎をしごかれ、彼は射精した。放たれた白濁液は肉棒に巻きついている髪にかかる。漆のように黒い髪と白い精液の対比はあざやかに映った。
「ほほほ、いっぱい出たいっぱい出た! 若いだけあって量も濃さも相当だね」
放たれた精液に妙は目を細める。一方、ディルクは自分の身体から放たれた体液に愕然としていた。夢精をしたことなどはあったが、実際に自分の射精を見るのは初めてだったのだ。ディルクの様子に妙は眉をひそめる。
「なんだい、勇者さん、これが何かも分からないのかい? 主神教団とやらは何をしているのさ……赤ちゃんの作り方くらいちゃんと教えなければいけないじゃないのさ」
「あ、赤ちゃん!?」
彼にとっては何の脈絡もなく飛び出した単語に、ディルクは目を丸くした。ディルクの反応に妙はますますあきれる。だが同時に、彼女の顔にはいたずらっぽい笑みも浮かんでいた。
「これはあたしが一から手取り足取り、じっくりねっとりねっぷりと教えてあげないといけないねぇ……」
そう言って彼女は襦袢を肩口から落とした。白い肌はシミひとつなく、髪と同じくらいつややかだ。胸のにも尻にも脂がたっぷりと乗っており、女らしい柔らかさを主張している。そして下肢からはこれからの行為を期待してよだれを垂らしている、女の口があった。しかしそこをはじめ、妙の身体は彼女の自慢の髪で隠されているところが多い。それがより、ディルクの見たいという気持ちを駆り立てる。
「ふふふ……そんなに目をぎらつかせないでも、ちゃんと教えてやるさ。女の身体を……」
笑いながら妙はディルクににじり寄る。縛られているとは言え、ディルクは逃げようとするしぐさひとつ見せない。射精とそこへ導いた刺激、そして目の前の女の身体はそれだけの力があったのだ。勇者の力も魔力も精神力も、神への信仰心などもすべて押し流す魅力が。
「さあ」
ついに毛娼妓はディルクの目と鼻の先まで接近した。そのまま彼に抱きつく。身体と髪で。むにゅりと双丘が彼の身体に押し付けられ、餅のようにひしゃげた。
「どうだ、これが女の胸さ。赤ちゃんにやるだけのもんじゃないのさ。どうだ、柔らかいだろう?」
「あ、ああ……柔らかい」
初めて味わう女だけの肉の感触に、熱に浮かされたようにディルクは答える。彼が夢中になったのはそれだけではない。今自分を包んでいる妙の身体、髪、そしてそこから放たれる匂い……そこにも興味がいっていた。無意識のうちに彼は鼻から深々と息を吸ってそれを堪能する。彼が自覚するより先に妙が気づいて笑った。
「ほう、あたしの髪の匂いに目をつけるとは、あんたも目が高いな。椿の香油とかを使って手入れもしている、自慢の髪さね、たっぷりと味わいな」
魔物娘に指摘され、勇者にあるまじきことをしてしまっていると自覚したディルク。しかしやめることなどできはしない。くんくんと犬のように妙の髪の匂いを嗅ぎ続ける。
「ずいぶん、あたしの髪を気に入ってくれているようだね。うれしいことだ。どれ、そのあんたのお気に入りの髪でもう一発抜いてあげようかね」
別の髪がディルクのペニスに巻きつく。さらにその上から鞘でもかぶせるかのように別の髪がまとわりついた。そして同時に動き始める。巻きついた髪の搾りしごく動き、かぶされた髪のつまみ上げるかのような動き……二種類の攻めを同時に受け、妙の腕の中でディルクは声を上げて身体をよじる。
「ふふふ、本当に初々しい反応だね。見ているだけであたしのおまんこはぐちょぐちょさ」
「お、おまんこ……?」
下肢から上る快感にあえぎながらも、聞きなれない単語にディルクは聞き返す。そのディルクの手を妙は取り、そして自分の下腹部に導いた。勇者の指先が女の媚粘膜に触れる。
「あ、なにこれ……うっ、ぬるぬるして……」
「んっ……これがおまんこさ。ここに男のこのちんぽを入れてさっきの精液を出して、子どもを作るのさ」
「……!?」
教団の人間が教えてくれなかった性教育事項。その今知った事実に勇者は異様に興奮した。びくりと彼の身体が震える。また限界が近くなったのだ。一度射精を見た妙はすぐに察した。そして彼女はそれに追い打ちをかける。
「その精液をあんたはさっき、髪の毛なんかに出したのさ。どうだい? イケないことだけど、気持ちよかっただろう?」
「う、うわあああああ!」
悲鳴のような声と同時にディルクは身体を反らせた。射精が始まっていた。巻きついているうえに覆いかぶさるようにして絡みついているため、肉棒からあふれる精液は余すことなく妙の髪に注がれていく。
「ふ、ふふふふ……」
毛娼妓の髪は搾精器官でもある。人間の髪は神経などが通っていないため髪を切られようが焼かれ様が感知することはできないが、毛娼妓は精液の感覚は敏感に察知する。妙もまた、ディルクが髪に射精したことを感じ取り、その精液を味わってうっとりと目を閉じていた。
やがてディルクの射精が収まり、射精した本人とそれを受け止めた女が息をついた。しかしこれで終わりではない。まだまだやることがある。
それを毛娼妓は勇者に伝える。髪を男根からほどき、彼に見せつける。白く染まった黒髪を。
「またこんなにたくさん出して……さっき言った通り、本当は赤ちゃんの元だ。それなのにこんなに髪の毛なんかに出しちゃって……勇者さんも業が深いね」
あえて妙はディルクの精神をいたぶる。狙い通り、ディルクは泣き出しそうな顔になっていた。髪なんかで気持ち良くなってしまったこと、神聖なる命の元をそこに出してしまったこと、そして……
「あ、もしかして『もう髪なしじゃ射精できない身体になるんじゃないか』と不安に思っているんじゃないのかい?」
言い当てられてディルクはびくりと身体を震わせる。妙はにやにやと笑いながら顔を寄せ、そのまま彼を床の上に押し倒した。
「そんな身体にしてやってもいいんだけどね……まあそれは勘弁してやろうじゃないのさ」
妙も魔物娘で女だ。愛する男と淫らに交わり、子袋に子種を受け、孕んで子を産み落とすのが望みだ。今から、それをする。押し倒したディルクに妙はまたがった。
髪をまた肉棒に巻きつけ、自分が挿入しやすいように固定する。そのまま彼女はゆっくりと腰を落としていった。妙のそこはこれからの行為の期待と、二回の髪からの吸精で濡れそぼっている。
「うあっ、ああああ!」
「ああぁん! 気持ちいい……!」
二人の嬌声が絡まりあう。勇者と魔物の身体がつながり、一つになっていた。
一番奥まで男のモノを納めたところで、感じきった妙はディルクを見る。長い髪を垂らして見下ろすその様はどこか幽霊のような恐ろしさがあった。思わずディルクは身をよじるが髪で縛られていたため、逃げることはかなわない。それどころか、今の自分の動きが、肉棒と肉壁が擦れあって互いを刺激することとなってしまった。
「んっ、あん! ふふふ、もう動きたいのかい? しょうがないねぇ、けど動くのはあたしがやってやるよ!」
「ま、待って……うわあぁああ!」
ディルクの制止の声もむなしく、妙が腰を振り始めた。ねっとりと、前後左右にくねさせる動き……まるで蛇のようだ。
妙の腰の動きに合わせて膣壁が男根に吸いつき、絡みつく。絹のような髪によるしごきも耐え難い快感であったが、女の柔肉による感触もまた快感であった。
すでに二回も射精しているとはいえ、童貞だったディルクにこの刺激はやはり強すぎた。三度目の射精が始まろうとしていた。
「ま、また出る……!」
「んっ、あっ……! そいつぁダメだ。あたしをちゃんと……んぅ! 気持ちよくしてから……」
つまり射精を我慢しろと妙は言うのだ。無理なことを言う。実際無理であった。男根が脈動し、白濁液が妙の膣奥へ……
「いっ、ぐっ……な、なにこれ……!?」
さっきの二回とは異なる感覚にディルクは驚く。下腹部の疼きはあった。会陰がきゅっとしまって精液が外へ出ようとしているのも感じられた。でもそれが外にでた感覚、そして解放感がない。それもそのはずだ。
妙の髪が陰茎の根本をきつく縛っていた。これで精液をせき止めたのだ。
「ダメだよ、先にイッちゃ。一人勝手に気持ち良くなる自分勝手なまぐわいは良くないよ」
いやがるディルクの服を破き、髪でしごいて二回も射精させたことを棚に上げ、妙はうそぶく。そして自分が気持ちよくなるべく再び腰を振り始めた。
たまらないのはディルクのほうだ。精液こそ出していないものの、絶頂に達したのだ。その直後の性器への刺激は強すぎるものがある。それに、精液をせき止められること自体が男にとってかなりの苦痛だ。
「や、やめ! タエ……! それは……キツイ……がぁああ!」
「も、もうちょっと我慢しとくれ……あ、あん!」
妙の声は絶頂に向かってどんどんのびやかになっていくが、ディルクはそれどころではない。声が獣じみたものになってきた。
「ほ、本当にダメだって! ぐぁあああ! 出さ……出さしてぇ! なんでもするからぁ!」
「ん? 何でもしてくれるんかいな?」
もう少しで果てるところであったが、ディルクの言葉を耳ざとく聞きつけ、妙は腰の動きを少しだけゆるめた。また笑みを彼女は浮かべる。その笑みはいたずらっぽくもあり、肉食獣のような恐ろしさもあり、そして官能でとろけきっていた。
「そうさな……なんでも、と言うなら……あたしの婿になってもらおうかい」
「えっ……!?」
確かになんでもと口走ったが、まさかこのような条件が出されるとは……魔物娘は勇者にとって忌むべき、倒すべき存在だ。それと結婚しろとは……ディルクは困惑する。
迷っている勇者を毛娼妓はあおる。
「聞き入れられないんだったらまた腰を動かしちゃうぞ」
「わ、分かった! 分かったからぁ! 出させてくれぇ!」
「よぅし……!」
勇者の承諾を聞いた魔物娘はこれまでにない笑みを浮かべた。男を捉えるのに成功した会心の笑み、そしてこれから自分の膣内に流れくるであろう精液の感覚を期待する笑み……
妙は深くまで腰を下ろし、子宮口と亀頭を密着させる。その状態で根本を縛っている髪をゆるめた。せき止められていた白濁の奔流が外を目指して暴れ狂う。
「あああああああ!」
ようやく訪れた解放感に堕ちた少年は声を上げる。さらに、それが刺激となって四度目の精液がせき止められていた精液を追って放たれた。
「んくぅううううう!」
一方、妙もまた歓喜の声を上げていた。魔物娘は精に敏感だ。匂いを嗅いだり、触れただけでも恍惚としてしまう者すらいる。まして膣内に出されたら……この妙のように果てることになる。
毛娼妓の膣は絶頂でぎゅうぎゅうと、二回分の精液を余すことなく取り込もうと収縮するのであった。
「んっ、ふぅうう……」
嵐のような激しい快感が過ぎ去り、妙はディルクの上でぐったりと身体を弛緩させる。一方、ディルクはあまりの快感で気絶すらしていた。
そのディルクに妙はさらに髪の束を伸ばしていき、絡みつけていく。
「……確かに聞いたからな……婿になると……」
髪がさらにディルクに絡みついていく。また一束、また一束……
「絶対離さないから、覚悟するんだな……」
「ただいまぁ」
「おかえり。今日の夕飯はあじの開きになっぱの味噌汁さ」
それからしばらくして。勇者はあの日の約束どおり、毛娼妓の婿となっていた。
勇者と一緒に旅をしていた仲間もあの日、男は他の魔物娘に襲われて婿になり、女は同じ存在へと変えられた。勇者たちの冒険はこの村で終わった。
イルトスト王国にとっては大事な勇者をまた一人失い、大きな痛手となったであろう。しかし、本人たちにとってイルトスト王国の損得などどうでもいいらしい。少なくともディルクは。
「ありがとう。妙も疲れただろう? 髪を梳くよ」
「あんたがやりたいだけじゃないのかい? まあ、うれしいからやってもらうんだけどさ」
まんざらでもなさそうに妙はそう言って簪をとり、結っていた髪をほどいた。長い髪がばらりと散る。その髪にディルクはいそいそと櫛を通す。
あれからさらに髪にも身体にも膣にも夫となったディルクの精液を受けた妙の髪はよりあでやかに、よりつややかになっていた。輝きは増し、櫛通りもよくなっている。もちろん、枝毛なんてものは存在しない。
その髪にディルクは夢中になって櫛を通す。どんどん魅力的になっていくその髪に、そして……
「なんだい、ディルク。勃っちゃったのかい?」
からかうように言った妙の言葉にディルクは顔を赤くしてうつむいた。図星だったのだ。
ディルクは妙の髪のとりこになっていた。どんどん魅力的になっていくその髪に、そして自分を気持ちよく射精に導いてくれるその髪に。
「やれやれ、しょうがない奴さね」
妙の髪が魔力によってひとりでに動き、後ろにいるディルクを包み込むようにして抱き寄せた。髪の匂いに包まれ、元勇者のいきり立ちがさらに激しいものとなる。
そのことに苦笑しながらも、これから味わえる夫の精の味に期待をして、毛娼妓の妙は淫らな笑みを髪の陰で浮かべるのであった。
若き勇者、ディルクは腹の中で悪態をつく。それだけの事態が起きていた。絶体絶命である。
剣術と魔術の才能があった彼は若干十六歳にして勇者としての洗礼を受け、三人の仲間を引き連れて魔物粛清と魔王討伐の旅に出た。旅は長く続き、霧の大陸を横断し、ついに一行はジパングまでやってきた。
そこでとある村の宿に泊まることになったのだが……あまりに人間と変わらない生活をしていたので気づけなかった。そこは魔物たちが住む村であった。
勇者たちが眠っている間に仲間たちは誘い出されて分断されてしまった。そしてディルクの前にも今、宿の女将をしていた魔物娘が立ちはだかっていた。
ディルクたちを迎えてくれたときはきれいな女性だと思っていた。雪のように白い肌、それを強調するかのような口紅、伏せがちでおしとやかに見える黒目、そして夜の闇より黒くつややかな丁寧に結われた髪……
今も、一見すると普通の女性である。しかし本性を現し、漂わせている魔力は人の物ではない。異様に長い髪が、彼女が人ならざる存在であることを強調していた。
「タエさん……お前、魔物だったな!」
「ああそうともさ。ジパングじゃ魔物娘と親しい者が多いと言うのに、西の勇者さんは横暴だねぇ」
宿屋の女将、妙(タエ)は勝ち誇ったように笑いながら言った。紅をさしたくちびるがまるで血を吸った鬼のように恐ろしく見える。だが同時にその朱はとても艶やかにも映った。
その妖艶さに、若き勇者はぞくりと背筋を震わせた。だがそれを噛み殺し、剣を構える。魔物娘であれば斬る。防具を身に着けていないし、今この場に味方がいないのが心細いが、彼はイルトスト王国を出たころより使っている剣を抜いた。
「へっへ〜ん……西の国の剣の切れ味は悪いとは聞くけど……そんななまくらな剣であたしを斬るつもりかい?」
剣を構えるディルクを妙はせせら笑う。ディルクは歯噛みした。神の祝福を受けた剣をそのように言われて若き勇者が我慢できるはずがない。
「でぇええええい!」
ディルクは剣を振りかぶり、妙に襲い掛かった。速い。並みの人間であればそのまま剣を叩き付けられ、血をふいて倒れたことであろう。また、妙は無手。白羽どりなどをする様子も見せない。そしてディルクの刃は妙の首を捉える。勝った。ディルクはそう思った。
「う……!?」
予想していなかった事態にディルクは驚愕に目を向く。ディルクの刃は確かに妙の首を捉えていた。だが、彼女の身体からは血が流れていない。神の祝福を受けし剣はまるで鉄の板か何かに受け止められたかのように、妙の首のところで止まった。
「はっはははは! だから言ったろう? そんななまくらな剣であたしを斬ることなんてできないって!」
勝ち誇ったように妙が高笑いをする。そしてふわりと手を挙げた。すると摩訶不思議なことが起きる。妙の髪がひとりでに動き出したのだ!
髪はぎゅるると剣に巻きついた。ハッとしてディルクは剣を引き抜こうとするが、剣は万力に挟まれたかのようにビクともしない。
「く、くそ……!」
「くくく……ほれ、それっぽっちかい? ほれほれ、もっと気張ってみんか」
勇者であるディルクはまだ少年に片足を残している年齢とはいえ、勇者である以上非力ではない。だが目の前の魔物娘は髪で縛るだけでその力を上回っている力を見せつけているのだ。思わずディルクは呻く。
「化け物……!」
「おやおや、ずいぶんな物言いだねぇ……そんなことより、ほれ。剣ばかりに夢中になっていていいのかい?」
「……! しまった!」
彼の足もとに妙の髪の毛が這い寄っていた。彼女に言われてハッとしたディルクであったがもう遅い。その髪の毛は猫のようにディルクに向かってとびかかり、足を縛り上げた。
さらに数本の毛束が彼に向かって伸び、手を、腰をと、身体を縛り上げていく。そうして妙はディルクを、手足を広げて立たせた姿勢で拘束した。
「おっと、呪文は無駄だよ。封じさせてもらったからね」
「うう、くそぉ……!」
完全に妙によって拘束され、魔法も封じられた。仲間はおそらく自分と同じように孤立させられている。うまくやらない限り、魔物娘の餌食になっていることだろう。勇者の完敗であった。
「それにしてもひとくくりに魔物娘だの化け物だとひどいねえ……あたしは毛娼妓さ」
ここで妙が初めて、自分が何者であるかを勇者に明かした。
毛娼妓……ジパングに住む者ならどのような魔物娘かは想像がつくだろう。その髪の毛が何より特徴的な魔物娘なのだ。彼女たちの髪には妖力が満ちており、自由自在に動かすことができる。そう、今こうして妙がディルクを縛り上げているように。
ジパングの魔物娘について勉強していたら、ディルクもこのように不用意に剣撃をしなかったかもしれない。だが彼が西の国出身であること、そして魔物娘であればなんであれ斬ると言って勉強などしなかったことが、今回の敗因だ。
「くそっ……俺をどうするつもりだ……!?」
「どうするって……そんなの、決まっているだろう?」
あきれた様子の声を出しながらも舌でぺろりとくちびるを舐める妙。そのしぐさにディルクは妙を初めて見た時のような、戦う直前にも感じた、背筋を甘く撫でられるかのような感覚を味わった。
いいや、だまされるなとディルクは首を振る。魔物娘は人を取って食うと彼は教わっていた。油断させておいて自分を食うつもりなんだと彼は自分に言い聞かせる。そして実際に口にした。妙は目を丸くする。
「何をあほなことを言う。そんな取って食うなんて野蛮なことはしないさ。真夜中に男と女が二人きり……どうもこうもやることは一つしかないだろうに」
そう言って妙は髪の毛の束をさらに数本、ディルクに向かって伸ばした。それは彼の服の襟口やベルトの隙間から入り込み、彼が着ている物を引きちぎる。そう、髪の毛で。布地を素手で破るのはそうとうの力がないとできないはずだ。それを毛娼妓という魔物娘はやってのけたのだ。刃を受け止めたことと言い、このことと言い、魔物娘の力にディルクは戦慄する。
しかし、こんなのは副次的なこと。彼はこれからさらに魔物娘の恐ろしさを知ることになる。
「おやおや、まだ若いというのに立派な逸物を持っておるのう……!」
「……!」
魔物娘の力に驚いていて忘れていたが、ディルクは妙によって着ている物はすべて引きちぎられていた。つまり、今の彼は全裸。その歳にしては酷なほど戦士として鍛えられた身体、一方でその歳に許された無駄毛のない中性的な身体、そしてそれでも彼がすでに大人の男になっていることを示す、子どもの姿から脱している生殖器……それらがすべて、妙の目にさらされていた。さっとディルクの顔が赤くなる。
「や、やめろ! 何をするつもりだ!?」
「だから言っているじゃないさ、男と女がこれからやること……まぐわいさね」
ジパング特有の言い回しをディルクは理解できない。それでも、それがいやらしい意味であることは彼にも理解できた。そしてそれが、神の教え「清く正しく生きる」に対して禁忌的なものであることも察する。
しかし、彼も多感な時期だ。背徳的な感覚と同時に好奇心のようなものも、心の中で鎌首をもたげていた。少年勇者の心の内は、魔物娘の妙には手に取るように分かっていた。
「ふふふ、急に赤くなって、ういやつういやつ。そして、初物らしいね、え?」
髪の毛がひとりでに動き、肉棒の包皮を剥いた。現れたのは桃色の、くすんでいない亀頭。毛娼妓の笑みが広がった。
「さてさて、この初物のお珍宝、どうかわいがってやろうかえ? ……まあまずは、撫でて可愛がってあげよう」
妙による魔性の愛撫が始まる。しかし相手は毛娼妓。ほかの魔物のように手や胸などでの愛撫などという、生易しいものではなかった。
うぞぞと、陰茎に絡みついている髪の毛がうごめく。そう、妙は髪の毛でディルクを愛撫し始めたのだ。
毛娼妓の髪に込められているのは妖力や魔力だけではない。色気や魅了の魔力なども含まれている。
「な、なにこれ……うわ、あ……」
思わずディルクは声を漏らす。性に禁欲的な主神教団出身の彼だ。自慰などはしない。その彼の性器を初めて官能的に刺激したのが髪なのは幸か不幸か。
毛娼妓の髪は絹のような肌触りでつややかである。その髪が幹や仮首、亀頭に器用に絡みつき、牛の乳搾りのように緩急をつけながら締め付けては緩みを繰り返し、同時に上下に動いてしごきぬく。
たちまちのうちに勇者の男根は生殖のための臨戦態勢に入る。固く張りつめた陰茎を見て毛娼妓は目を輝かせる。
「これはまあ、本当に立派な逸物さね。若いだけあってこの反り立ち具合……いいもんだ」
きゅっと妙は脚を内股気味にした。髪の毛で嫐るという異質な行為をしているが、それでも妙も女だ。最終的には牝器で男を受け入れたいと思っている。その反応が襦袢の奥で起こったのだ。彼女の秘花は蜜でうるみ始めている。
しかしディルクがそれに気づく余裕はない。ただでさえ慣れていない性的快感、それも毛娼妓の髪の毛という異様かつ強烈な愛撫……すでに彼の身体に限界が近づいていた。
「や、やめろぉおお! 何か、何か……!」
「おやディルク、もう精を放つと言うのかい? 少々早すぎる気もするが……童貞であればしょうがないことさね。さあ……思いっきりぶちまけるがいいさ!」
毛娼妓による髪攻めがより苛烈な物となった。締め付けがきつくなり、しごく動きも速くなる。すでに射精が近かった若きディルクに我慢ができるはずがない。
「あ、ああああ!」
妙に髪で身体を縛り上げられ、同じ髪で陰茎をしごかれ、彼は射精した。放たれた白濁液は肉棒に巻きついている髪にかかる。漆のように黒い髪と白い精液の対比はあざやかに映った。
「ほほほ、いっぱい出たいっぱい出た! 若いだけあって量も濃さも相当だね」
放たれた精液に妙は目を細める。一方、ディルクは自分の身体から放たれた体液に愕然としていた。夢精をしたことなどはあったが、実際に自分の射精を見るのは初めてだったのだ。ディルクの様子に妙は眉をひそめる。
「なんだい、勇者さん、これが何かも分からないのかい? 主神教団とやらは何をしているのさ……赤ちゃんの作り方くらいちゃんと教えなければいけないじゃないのさ」
「あ、赤ちゃん!?」
彼にとっては何の脈絡もなく飛び出した単語に、ディルクは目を丸くした。ディルクの反応に妙はますますあきれる。だが同時に、彼女の顔にはいたずらっぽい笑みも浮かんでいた。
「これはあたしが一から手取り足取り、じっくりねっとりねっぷりと教えてあげないといけないねぇ……」
そう言って彼女は襦袢を肩口から落とした。白い肌はシミひとつなく、髪と同じくらいつややかだ。胸のにも尻にも脂がたっぷりと乗っており、女らしい柔らかさを主張している。そして下肢からはこれからの行為を期待してよだれを垂らしている、女の口があった。しかしそこをはじめ、妙の身体は彼女の自慢の髪で隠されているところが多い。それがより、ディルクの見たいという気持ちを駆り立てる。
「ふふふ……そんなに目をぎらつかせないでも、ちゃんと教えてやるさ。女の身体を……」
笑いながら妙はディルクににじり寄る。縛られているとは言え、ディルクは逃げようとするしぐさひとつ見せない。射精とそこへ導いた刺激、そして目の前の女の身体はそれだけの力があったのだ。勇者の力も魔力も精神力も、神への信仰心などもすべて押し流す魅力が。
「さあ」
ついに毛娼妓はディルクの目と鼻の先まで接近した。そのまま彼に抱きつく。身体と髪で。むにゅりと双丘が彼の身体に押し付けられ、餅のようにひしゃげた。
「どうだ、これが女の胸さ。赤ちゃんにやるだけのもんじゃないのさ。どうだ、柔らかいだろう?」
「あ、ああ……柔らかい」
初めて味わう女だけの肉の感触に、熱に浮かされたようにディルクは答える。彼が夢中になったのはそれだけではない。今自分を包んでいる妙の身体、髪、そしてそこから放たれる匂い……そこにも興味がいっていた。無意識のうちに彼は鼻から深々と息を吸ってそれを堪能する。彼が自覚するより先に妙が気づいて笑った。
「ほう、あたしの髪の匂いに目をつけるとは、あんたも目が高いな。椿の香油とかを使って手入れもしている、自慢の髪さね、たっぷりと味わいな」
魔物娘に指摘され、勇者にあるまじきことをしてしまっていると自覚したディルク。しかしやめることなどできはしない。くんくんと犬のように妙の髪の匂いを嗅ぎ続ける。
「ずいぶん、あたしの髪を気に入ってくれているようだね。うれしいことだ。どれ、そのあんたのお気に入りの髪でもう一発抜いてあげようかね」
別の髪がディルクのペニスに巻きつく。さらにその上から鞘でもかぶせるかのように別の髪がまとわりついた。そして同時に動き始める。巻きついた髪の搾りしごく動き、かぶされた髪のつまみ上げるかのような動き……二種類の攻めを同時に受け、妙の腕の中でディルクは声を上げて身体をよじる。
「ふふふ、本当に初々しい反応だね。見ているだけであたしのおまんこはぐちょぐちょさ」
「お、おまんこ……?」
下肢から上る快感にあえぎながらも、聞きなれない単語にディルクは聞き返す。そのディルクの手を妙は取り、そして自分の下腹部に導いた。勇者の指先が女の媚粘膜に触れる。
「あ、なにこれ……うっ、ぬるぬるして……」
「んっ……これがおまんこさ。ここに男のこのちんぽを入れてさっきの精液を出して、子どもを作るのさ」
「……!?」
教団の人間が教えてくれなかった性教育事項。その今知った事実に勇者は異様に興奮した。びくりと彼の身体が震える。また限界が近くなったのだ。一度射精を見た妙はすぐに察した。そして彼女はそれに追い打ちをかける。
「その精液をあんたはさっき、髪の毛なんかに出したのさ。どうだい? イケないことだけど、気持ちよかっただろう?」
「う、うわあああああ!」
悲鳴のような声と同時にディルクは身体を反らせた。射精が始まっていた。巻きついているうえに覆いかぶさるようにして絡みついているため、肉棒からあふれる精液は余すことなく妙の髪に注がれていく。
「ふ、ふふふふ……」
毛娼妓の髪は搾精器官でもある。人間の髪は神経などが通っていないため髪を切られようが焼かれ様が感知することはできないが、毛娼妓は精液の感覚は敏感に察知する。妙もまた、ディルクが髪に射精したことを感じ取り、その精液を味わってうっとりと目を閉じていた。
やがてディルクの射精が収まり、射精した本人とそれを受け止めた女が息をついた。しかしこれで終わりではない。まだまだやることがある。
それを毛娼妓は勇者に伝える。髪を男根からほどき、彼に見せつける。白く染まった黒髪を。
「またこんなにたくさん出して……さっき言った通り、本当は赤ちゃんの元だ。それなのにこんなに髪の毛なんかに出しちゃって……勇者さんも業が深いね」
あえて妙はディルクの精神をいたぶる。狙い通り、ディルクは泣き出しそうな顔になっていた。髪なんかで気持ち良くなってしまったこと、神聖なる命の元をそこに出してしまったこと、そして……
「あ、もしかして『もう髪なしじゃ射精できない身体になるんじゃないか』と不安に思っているんじゃないのかい?」
言い当てられてディルクはびくりと身体を震わせる。妙はにやにやと笑いながら顔を寄せ、そのまま彼を床の上に押し倒した。
「そんな身体にしてやってもいいんだけどね……まあそれは勘弁してやろうじゃないのさ」
妙も魔物娘で女だ。愛する男と淫らに交わり、子袋に子種を受け、孕んで子を産み落とすのが望みだ。今から、それをする。押し倒したディルクに妙はまたがった。
髪をまた肉棒に巻きつけ、自分が挿入しやすいように固定する。そのまま彼女はゆっくりと腰を落としていった。妙のそこはこれからの行為の期待と、二回の髪からの吸精で濡れそぼっている。
「うあっ、ああああ!」
「ああぁん! 気持ちいい……!」
二人の嬌声が絡まりあう。勇者と魔物の身体がつながり、一つになっていた。
一番奥まで男のモノを納めたところで、感じきった妙はディルクを見る。長い髪を垂らして見下ろすその様はどこか幽霊のような恐ろしさがあった。思わずディルクは身をよじるが髪で縛られていたため、逃げることはかなわない。それどころか、今の自分の動きが、肉棒と肉壁が擦れあって互いを刺激することとなってしまった。
「んっ、あん! ふふふ、もう動きたいのかい? しょうがないねぇ、けど動くのはあたしがやってやるよ!」
「ま、待って……うわあぁああ!」
ディルクの制止の声もむなしく、妙が腰を振り始めた。ねっとりと、前後左右にくねさせる動き……まるで蛇のようだ。
妙の腰の動きに合わせて膣壁が男根に吸いつき、絡みつく。絹のような髪によるしごきも耐え難い快感であったが、女の柔肉による感触もまた快感であった。
すでに二回も射精しているとはいえ、童貞だったディルクにこの刺激はやはり強すぎた。三度目の射精が始まろうとしていた。
「ま、また出る……!」
「んっ、あっ……! そいつぁダメだ。あたしをちゃんと……んぅ! 気持ちよくしてから……」
つまり射精を我慢しろと妙は言うのだ。無理なことを言う。実際無理であった。男根が脈動し、白濁液が妙の膣奥へ……
「いっ、ぐっ……な、なにこれ……!?」
さっきの二回とは異なる感覚にディルクは驚く。下腹部の疼きはあった。会陰がきゅっとしまって精液が外へ出ようとしているのも感じられた。でもそれが外にでた感覚、そして解放感がない。それもそのはずだ。
妙の髪が陰茎の根本をきつく縛っていた。これで精液をせき止めたのだ。
「ダメだよ、先にイッちゃ。一人勝手に気持ち良くなる自分勝手なまぐわいは良くないよ」
いやがるディルクの服を破き、髪でしごいて二回も射精させたことを棚に上げ、妙はうそぶく。そして自分が気持ちよくなるべく再び腰を振り始めた。
たまらないのはディルクのほうだ。精液こそ出していないものの、絶頂に達したのだ。その直後の性器への刺激は強すぎるものがある。それに、精液をせき止められること自体が男にとってかなりの苦痛だ。
「や、やめ! タエ……! それは……キツイ……がぁああ!」
「も、もうちょっと我慢しとくれ……あ、あん!」
妙の声は絶頂に向かってどんどんのびやかになっていくが、ディルクはそれどころではない。声が獣じみたものになってきた。
「ほ、本当にダメだって! ぐぁあああ! 出さ……出さしてぇ! なんでもするからぁ!」
「ん? 何でもしてくれるんかいな?」
もう少しで果てるところであったが、ディルクの言葉を耳ざとく聞きつけ、妙は腰の動きを少しだけゆるめた。また笑みを彼女は浮かべる。その笑みはいたずらっぽくもあり、肉食獣のような恐ろしさもあり、そして官能でとろけきっていた。
「そうさな……なんでも、と言うなら……あたしの婿になってもらおうかい」
「えっ……!?」
確かになんでもと口走ったが、まさかこのような条件が出されるとは……魔物娘は勇者にとって忌むべき、倒すべき存在だ。それと結婚しろとは……ディルクは困惑する。
迷っている勇者を毛娼妓はあおる。
「聞き入れられないんだったらまた腰を動かしちゃうぞ」
「わ、分かった! 分かったからぁ! 出させてくれぇ!」
「よぅし……!」
勇者の承諾を聞いた魔物娘はこれまでにない笑みを浮かべた。男を捉えるのに成功した会心の笑み、そしてこれから自分の膣内に流れくるであろう精液の感覚を期待する笑み……
妙は深くまで腰を下ろし、子宮口と亀頭を密着させる。その状態で根本を縛っている髪をゆるめた。せき止められていた白濁の奔流が外を目指して暴れ狂う。
「あああああああ!」
ようやく訪れた解放感に堕ちた少年は声を上げる。さらに、それが刺激となって四度目の精液がせき止められていた精液を追って放たれた。
「んくぅううううう!」
一方、妙もまた歓喜の声を上げていた。魔物娘は精に敏感だ。匂いを嗅いだり、触れただけでも恍惚としてしまう者すらいる。まして膣内に出されたら……この妙のように果てることになる。
毛娼妓の膣は絶頂でぎゅうぎゅうと、二回分の精液を余すことなく取り込もうと収縮するのであった。
「んっ、ふぅうう……」
嵐のような激しい快感が過ぎ去り、妙はディルクの上でぐったりと身体を弛緩させる。一方、ディルクはあまりの快感で気絶すらしていた。
そのディルクに妙はさらに髪の束を伸ばしていき、絡みつけていく。
「……確かに聞いたからな……婿になると……」
髪がさらにディルクに絡みついていく。また一束、また一束……
「絶対離さないから、覚悟するんだな……」
「ただいまぁ」
「おかえり。今日の夕飯はあじの開きになっぱの味噌汁さ」
それからしばらくして。勇者はあの日の約束どおり、毛娼妓の婿となっていた。
勇者と一緒に旅をしていた仲間もあの日、男は他の魔物娘に襲われて婿になり、女は同じ存在へと変えられた。勇者たちの冒険はこの村で終わった。
イルトスト王国にとっては大事な勇者をまた一人失い、大きな痛手となったであろう。しかし、本人たちにとってイルトスト王国の損得などどうでもいいらしい。少なくともディルクは。
「ありがとう。妙も疲れただろう? 髪を梳くよ」
「あんたがやりたいだけじゃないのかい? まあ、うれしいからやってもらうんだけどさ」
まんざらでもなさそうに妙はそう言って簪をとり、結っていた髪をほどいた。長い髪がばらりと散る。その髪にディルクはいそいそと櫛を通す。
あれからさらに髪にも身体にも膣にも夫となったディルクの精液を受けた妙の髪はよりあでやかに、よりつややかになっていた。輝きは増し、櫛通りもよくなっている。もちろん、枝毛なんてものは存在しない。
その髪にディルクは夢中になって櫛を通す。どんどん魅力的になっていくその髪に、そして……
「なんだい、ディルク。勃っちゃったのかい?」
からかうように言った妙の言葉にディルクは顔を赤くしてうつむいた。図星だったのだ。
ディルクは妙の髪のとりこになっていた。どんどん魅力的になっていくその髪に、そして自分を気持ちよく射精に導いてくれるその髪に。
「やれやれ、しょうがない奴さね」
妙の髪が魔力によってひとりでに動き、後ろにいるディルクを包み込むようにして抱き寄せた。髪の匂いに包まれ、元勇者のいきり立ちがさらに激しいものとなる。
そのことに苦笑しながらも、これから味わえる夫の精の味に期待をして、毛娼妓の妙は淫らな笑みを髪の陰で浮かべるのであった。
14/08/16 12:02更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)