連載小説
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前編
「アレクセイ、またこわれてしまいました……」
とある中流貴族の家にて。そこの令嬢であるコンチエッタ・カスティリオーネが庭師の青年に大きさ一フィート(約三十センチメートル)の人形を差し出していた。
「お嬢様、またですか……」
呆れたような声を漏らしながらアレクセイはその人形を受け取った。美しい少女の人形なのだが首はあらぬ角度に曲がっており、右腕がもげてしまっている。
コンチエッタのお気に入りの人形でダリアという名前も付いているのだが、コンチエッタはよくこの人形を壊す。亡くなった母に与えられた人形と言うこともあって大事にはしているのだが……
「だってお父さまがまたおこごとをいうのですもの……」
「だからって癇癪を起こしてこれを投げられるのも……」
そう、彼女が感情を爆発させたとき、真っ先に被害に会うのがこのいつもコンチエッタが持っている人形、ダリアなのだ。精巧な人形が投げ飛ばされて無事なはずがない。このように人形が壊れてしまった回数はもう何度になることか。その度にアレクセイがこの人形を直していたのだ。
貴族の令嬢と庭師……普通は会話が許されぬほどの身分の差があるが、このような事が多いため、二人は会話することが多い。コンチエッタにとってアレクセイは人形を必ず直してくれる上、愚痴も聞いてくれる大事な存在であった。
「なおりますか、アレクセイ?」
「まあ……なんとか……さぁ、そろそろお夕飯の時間でございましょう。これは明日の朝までに直しておきますからどうぞお嬢様は食堂へお行き、そのままお休みになってください」
「ありがとう、アレクセイ!」
ぴょんと飛び跳ねながらコンチエッタは礼を言う。貴族の娘である彼女への躾は厳しい。さらに彼女の母親は他界している。そんな彼女が年相応の感情を見せ、甘えるのはアレクセイの前だけであった。コンチエッタののびのびとしたほほえましい喜びの表現にアレクセイも顔を緩める。
アレクセイに礼を言い、侍女を呼びつけてコンチエッタは去っていった。その様子を見送ってからアレクセイも自分に与えられた小屋に向かった。
「さて……これはちょっとだけ骨が折れますね……」
小屋の机に座り、人形のドレスを脱がせ、右腕と首を観察しながらアレクセイはため息をつく。首は球体関節がちぎれかけており、右腕に至っては裂けていた。中に入っている金属部分は問題ないが、はめて終わり、というわけには行かないようだ。
「まあ、そういう時のためにスペアを用意してあるのですが」
そう一人笑ってつぶやきながら、アレクセイは引き出しを開けた。中には人形の関節が2ダースほど転がっている。あまりにもコンチエッタがダリアを壊すので予め用意していたスペアだ。
アレクセイは壊れた関節を取り除き、新たな関節を取り付け、その上から首や腕を取り付けた。さらに、顔や髪など汚れてしまっているところも手入れする。あっという間にダリアは新品と見紛うばかりに修復された。
「それにしても……これで何度目でしょうか?」
コンチエッタがこの人形を壊したのは。一人アレクセイはつぶやく。三ヶ月ほど前に始めてこの人形の修理を依頼されてから、二十回以上は壊している気がする。いくら癇癪を起こして投げ飛ばすとは言え、多すぎるとアレクセイは思った。
「亡き奥様の形見ですのに……こんなに可愛いのに、この人形がかわいそうですよ……」
アレクセイは修復を終えた人形に服を着せることもなく、まじまじとその人形を見つめていた。傍から聞くとかなり危険な発言だ。だが確かに、ダリアはよくできており、可愛いと言う物は多いだろう。人形は雪のように白い肌を持ち、つぶらでアメジストをあしらった紫の瞳を持ち、流れるような琥珀色の髪をしている。
そしてなんと言ってもこの人形はコンチエッタのお気に入りである。肌身離さずコンチエッタが持っているこの人形は、言わば彼女の身体の一部、あるいは分身のような物でもある。それを自分は預けられているのだ。
「ああ、コンチエッタ様……」
ダリアをコンチエッタに重ね、アレクセイは裸の人形を抱きしめる。彼は自分の雇い主である貴族の娘のコンチエッタに好意を寄せていた。だが彼は庭師、彼女は令嬢。この恋が叶うはずがなかった。そんな彼が行き場のない気持ちを吐き出すのが、この人形であったのだ。こうして抱きしめてみたり、あるいはその小さな口にキスをしてみたり……
随分倒錯的なことをしているという、自覚はあった。だが彼はそれをやめられなかった。一度、精液を人形にかけたことすらあった。なかなか汚れが落ちなくなってしまったのでそれ以来はしなくなったが。
「……いけない」
ふと我にかえり、アレクセイはダリアを胸から離す。裸のダリアは、コンチエッタの分身が名残惜しそうにアメジストの瞳がこちらを見ている気がした。その魅力的な瞳から強引に目を反らせ、アレクセイはダリアに服を着せ、机にそっと座らせた。そして外を見てみる。上弦の月が西の空に沈んでいる。
「寝なければ……明日も、早い……」
自分にそう言い聞かせ、庭師は粗末なベッドに潜り込む。そして意識を、コンチエッタと人形への気持ちを抱えたまま、闇に落とし込んだ。



「直りましたよ、お嬢様」
「まぁ! アレクセイ、ありがとう!」
翌朝、ダリアを渡すとコンチエッタは両手を口元に当て、飛び上がって喜んだ。その無垢な喜び様を見るとアレクセイも直して良かったと思える。
「今度は丁寧に扱ってください、お嬢様。提灯お化けがお嬢様にお仕置きにかかるかもしれませんよ?」
少しおどけてアレクセイは言ってみせる。提灯お化けとはジパングの魔物娘の一種だ。大切に使われた物には感謝の念が宿って持ち主の元へ恩返しに行き、ぞんざいに扱われて捨てられた物には怨念が宿って持ち主の元へ復讐に行くと伝えられている。もっとも、魔物娘なのだからその恩返しや復讐は性的な物であるのだが。そして女性相手に提灯お化けが襲いかかってきたと言う例は報告されていない。さらにこの西洋でジパングの魔物が目撃されたと言う話は稀だ。ましてやここはあまり大きくはないとは言え、主神教団の領土。魔物が闊歩するようなところではない。
よってアレクセイの言葉はお伽話の「いい子にしないと悪魔にさらわれるよ」と同じような調子の、ありえない脅しであった。それを分かっているコンチエッタもいつもはアレクセイの言葉を笑ったり、あるいは聞き流してさっさと遊びに行く。
しかし今日は違った。
コンチエッタは大事そうに人形を抱え、神妙な顔で頷いた。
「はい、こんどからはたいせつにします。ダリアもわたしのだいじなおともだちですから」
「は、はい。ぜひそうしてくださいませ」
いつもと違う反応にアレクセイは不思議に思ったのだが、コンチエッタが子どもであることを思い出す。子どもと言うのは未熟である分、大きく成長する存在なのだ。おそらく、コンチエッタも何か思うところがあったのだろう。
コンチエッタの気持ちの変化に心の中で喜びつつ、アレクセイは別れの挨拶をして庭師としての仕事に戻っていった。



あの時ああは約束したが、それからもコンチエッタによる人形壊しは続いた。その度にアレクセイはダリアを直した。
そんなある日のこと。コンチエッタが大泣きしながらアレクセイの元に人形の修理の依頼に来た。ダリアは首も手足ももげていてひどい壊れようだった。
「どうしてここまで……」
「わたしではありません。お父さまが……」
コンチエッタの話によると、彼女が部屋で一人ダリアとおままごとをしていると父親が入ってきて、突如烈火の如く怒り出したらしい。そして娘の尻を打ち、さらにダリアをバラバラにしたのだと言う。
言われてアレクセイは少し納得した。確かに、ダリアの今回の壊れ方はいつもと少し違う。落としたり叩きつけられたり何かにぶつけたりしたような壊れ方ではなく、四肢を引っこ抜くかのような壊れ方だった。
『それにしても旦那様はどうしておままごとをしていただけなのに、どうしてダリアを壊すような真似をしたのでしょうか?』
厳格なコンチエッタの父ではあるが、ここまでするとは相当なことだろう。疑問が沸き起こるが、今それを考えたところで仕方がない。
「なおりますか、アレクセイ?」
「まあ……なんとか……これは明日の朝までに直しておきます」
いつものようにアレクセイは人形の修理を引き受ける。コンチエッタはこれまでにないくらいに喜んだ。その喜び様に応えるべく、ここまでになったダリアを直すことを胸に誓ったアレクセイだった。



翌朝のことだ。
「一体どこに行ったんだ!?」
アレクセイは自分の小屋の物を隅から隅まで動き回り、あらゆる家具をひっくり返してまで探し物をしていた。探しているのはダリアだ。昨晩、アレクセイは苦戦しながらもなんとかして関節の歪んだ金属部分を新たに付け直し、球体関節も取り付けて人形を修理した。そして疲れ果ててダリアを机の上に置いたまま眠りに落ちたのだが、そのダリアが煙のように消えていたのだ。
このままだとコンチエッタに申し訳が立たない。アレクセイは血眼になって人形を探した。
しかし人形は見つからない。そうこうしているうちに彼の仕事の時間が来てしまった。もっと探したいのだが、仕事に遅れると雇い主である主人に首を切られ、コンチエッタの頼みも聞けなくなる。
彼女には「まだ修理が終わっていない」と謝り、仕事が終わってから改めて探そう。そう考えてアレクセイは小屋を出た。
「おはようございます、アレクセイ!」
小屋を出た次の瞬間、アレクセイは声をかけられた。朝の挨拶をしたのは無論、コンチエッタだ。その腕にはダリアが抱かれている。
「えっ!?」
飛び上がらんばかりにアレクセイは驚く。ダリアは自分が昨日修理して机に置いたはずだ。なくなってしまっていたとはいえ、外に持ち出したはずが、ましてコンチエッタに渡したはずがないのだ。
そのダリアが、コンチエッタの腕にあった。
「わたしがねているあいだにダリアをまくらもとにおいてくれたのですね、ありがとう!」
「えっ、いや、ええ、まぁ……」
混乱したアレクセイは歯切れの悪い返事をする。どうしてダリアがコンチエッタの元にあるのか非常に疑問であったが、とりあえず紛失したわけではなかったことは一安心だ。
「これでまたダリアとあそべます」
「お嬢様……普段、ダリアとどのような遊びをするのですか?」
ふと沸き起こった疑問をアレクセイは訊ねた。昨日、父親に人形を壊されるまで、どんな遊びをしていたのか。
人形を胸元に抱え、口元をダリアの頭で隠しているコンチエッタがこちらを見上げてくる。上目遣いの視線に思わずアレクセイはドキリと胸を高鳴らせた。クスクスと笑いながらコンチエッタは答えた。
「たのしいあそびをするのですよ」
答える幼いコンチエッタの表情は、大人の女を思わせる、破滅を孕んだ妖しさを漂わせていた。
その時だ。
「アレクセイ! こんな所で何をしている!」
男の怒声が二人の空間を引き裂くようにして飛んできた。声はこの屋敷の主、コンチエッタの父、クリストフォロ・カスティリオーネの物だった。
「貴様、庭師の分際で私の娘に気安く声をかけるな!」
「も、申し訳ありません、旦那様」
アレクセイは頭を下げる。その頭上でクリストフォロのさらなる怒声が響いた。
「コ、コンチエッタ!? その人形、まだ持っているのか!?」
クリストフォロは娘の持っている人形に気づいたのだ。
「あの人形の前であのようなハレンチなことをして……教育に悪いと言ったのになぜ持っている! それをこっちによこしなさい!」
「いやです! やめて、おとうさま!」
アレクセイは目を上げた。幼女が大の男に力で敵う訳がない。コンチエッタはダリアを父によってもぎ取られてしまった。ダリアを奪ったクリストフォロは次にアレクセイの小屋に立てかけられている手斧を手に取った。そしてダリアを地面に叩きつけ、その斧を振り上げる。
「やめてー!!」
自分が殺されるかのような悲鳴がコンチエッタの口から迸る。だが次の瞬間には斧は振り下ろされていた。鈍い音とともにダリアの頭が叩き割られる。その惨劇をコンチエッタとアレクセイは金縛りにあったかのように見つめる以外何もできなかった。
二人が見ている前でダリアは見るも無残にバラバラにされてしまった。
「さぁ、コンチエッタ! 人形のことなどさっさと忘れて勉強の時間だ! さっさと来るんだ!」
鼻息荒くクリストフォロは言って、去っていった。
コンチエッタは動かない。ダリアの亡骸を呆然と見つめていた。何度壊そうが、ダリアはコンチエッタの亡き母の大事な形見、分身や身体の一部とも言える物。それをこのような姿にされては、気も狂わんばかりに彼女は傷ついただろう。そんな彼女の気持ちに、そして自分が何度も直したダリアの痛ましい姿に、アレクセイはやりきれない気分だった。
一つ一つ丁寧にアレクセイはダリアの破片を集めていく。そのアレクセイに声もなく泣いていたコンチエッタがぽつんとつぶやくようにして訊ねた。
「なおりますか、アレクセイ?」
「……なんとか……時間はかかるとは思いますが直しておきます」
いつものようにアレクセイは人形の修理を引き受ける。はっきり言って、直せる自信は全くない。関節などを直す程度には手先が器用なアレクセイだが、人形修理の専門職人ではないのだ。ここまでの姿になってしまったダリアを直せる保障はどこにもなかった。
しかし、傷ついたコンチエッタの気持ちを考えると、アレクセイはそう答えるしかなかった。
コンチエッタは涙をぬぐい、まっすぐな目でアレクセイを見て言った。
「しんじています」
そう言って彼女は館の方へ去っていった。
コンチエッタが帰ったのを見送ってから、アレクセイは小屋の扉を開けた。机の上にハンカチを敷き、その上にダリアの亡骸を置く。すぐにでも修理に取り掛かりたかったが、彼にも仕事がある。
後ろ髪を引かれる思いでアレクセイは小屋を出て、扉を閉める。あとには原型をとどめていない人形のダリアだけが残された。



「ううっ、ぐす……」
日がすっかり落ちて暗くなったコンチエッタの部屋にて。部屋の主であるコンチエッタはワンピースの薄着姿でベッドに突っ伏して嗚咽していた。
幼い彼女でも分かる。あそこまでになってしまったダリアを直すのは、今まで人形を直してくれていたアレクセイにも無理だと言うことは。
もう、生前の母が買い与えてくれた大事な人形は帰ってこない。コンチエッタは泣きじゃくった。
「へぇ……あたしがあんな姿になって、あんた、泣いているんだ? 意外ねぇ……」
不意に部屋に声が響いた。コンチエッタの物ではない。少女の声ではあったが、やや低めで、いたぶるような粘着質な声だった。
「誰!?」
コンチエッタはベッドから顔を上げ、身体と首をひねって部屋の中を見るが誰もいない。
「あ、この位置じゃ見えないかしら? よっと!」
不意に、ベッドの横にあるタンスから何かがコンチエッタの尻の上に落ちた。コンチエッタの目が驚きに見開かれる。
「ダリア!」
「そうですよー、あなたのお人形、ダリアですよー」
ひとりでに人形は立ち、スカートの裾を軽く広げてお辞儀をする。
コンチエッタが被りを振る。そんなはずがない。
ダリアは今朝、父親の手によって粉々にされたはずだ。そしてその残骸はアレクセイが預かっているはずだ。仮に人形が修理できたとしても、あの状態から一日も経たずして直るはずがない。そして何より、人形がひとりでに喋って動くはずがない。
だが、雪のような白い肌、つぶらでアメジストをあしらった紫の瞳、流れるような琥珀色の髪……間違いなくダリアだった。
驚いたコンチエッタは起き上がろうとする。だが足がもつれて、ベッドの上で尻餅を付くような形で固まってしまう。
「うわっ! ちょっと! 危ないわね!」
急にコンチエッタが動いたので、ダリアがその身体から落ちそうになる。慌てて跳んでベッドの上に、ちょうどコンチエッタの開かれた脚の間にダリアは着地する。
「でも、驚くのも無理はないわね。あんたがリビングドールなんて見るのは始めてだろうし、あたしがリビングドールになったのはつい最近だし……」
「りびんぐどーる?」
聞きなれぬ単語をコンチエッタは呆然と繰り返した。
リビングドール……情念の宿った人形に魔物の魔力が結びつくことで生まれる、魔法物質型の魔物だ。粗末に扱われたり捨てられたりした人形や、逆に大切に扱われた人形がこのようなリビングドールとなる。
ダリアもまた、何度もコンチエッタの手によって壊され、アレクセイの手によって何度も修理されて大切にされた人形であった。リビングドールになる素質は十二分にあった。
そしてリビングドールになったため、ダリアは粉々に壊されようが元通りの姿に復活し、こうしてひとりでに動いてコンチエッタの前に現れることができるのだ。
「本当にあんたは散々に私を壊してくれたわよね」
紫色の瞳を細めてダリアが恨みがましい口調で言う。コンチエッタの脳裏に「提灯お化けがお嬢様にお仕置きにかかるかもしれませんよ?」というアレクセイの言葉がよぎった。自分はこれからひどいことをされるのだろうか?
「でもそれって、あんたなりに理由があったのよね……」
だが次の瞬間には、ダリアの表情が和らぎ、優しい口調になった。ダリアが恐怖に固まっているコンチエッタの背後に回る。そしてコンチエッタの耳元に囁いた。
「はじめは本当に偶然、あたしを壊した。そしてアレクセイがあたしを直した……そのあたしを直してくれたアレクセイのこと、あんたは好きになっちゃったんでしょ?」
自分の心にだけ留めていたはずの感情を言い当てられ、驚きにコンチエッタは身体を竦ませた。そのコンチエッタにダリアはさらに彼女の秘密を暴いていく。
「そしてあんたはあたしを何度も壊した。あたしを壊したらアレクセイが直してくれる。その時に、アレクセイとおしゃべりができる……」
呆れたようにダリアはため息をついた。
「壊されたあたしはいい迷惑だけど、まあ可愛い乙女心のことを思えばあまり強くも言えないわよね……それに、こうしてリビングドールになったことであんたの叶わぬ恋のお手伝いもできる訳だし」
「わたしの……お手つだい?」
コンチエッタの言葉にダリアは頷いた。
「あんた、人間をやめればいいのよ。そうすれば身分の差なんて、お父さんの言葉なんてまったく関係がないわ。大好きなアレクセイと結ばれるのよ」
人間をやめる……それはこれまでの価値観やアイデンティティを崩壊させる重大なことだ。だが、大好きなアレクセイと結ばれる……それはコンチエッタにとってこれ以上にない誘惑であった。父によって貴族の娘として厳しく躾けられているコンチエッタだが、魔物以上に自分の欲に忠実で疑いを知らない、幼い無垢な子どもである。その誘惑に抗うのは不可能であった。
「どうすればいいのですか?」
「あら、簡単よ。この間と同じように、あたしと"遊べば"いいの」
コンチエッタの頬がサッと紅く染まった。ダリアの言う"遊び"が何を意味しているのか、彼女は良く分かっているのだ。最近知ったもので、ちょっと恥ずかしい。しかし、それがアレクセイと結ばれる手段であるのならば、ためらうことはない。何よりその"遊び"が楽しいことを、コンチエッタは良く知っていた。
「…………」
無言でコンチエッタはワンピースの裾を少したくし上げ、その中に手を突っ込む。そしてその手を下ろした。するりと下着が彼女の脚から抜き取られる。そろそろとコンチエッタが脚を広げる。今まで、本人以外に誰も触らせたことのない、無垢な彼女の象徴があらわになった。
「そうそう。それで、いつもみたいにするのよ。アレクセイにいっぱい抱っこしてもらって、いっぱいキスしてもらうことを想像して……」
コンチエッタの耳元でダリアは妄想の材料をコンチエッタに与える。聞き分けの良い令嬢は素直にその言葉に従ってしまう。幼い少女故にそれ以上の知識はない。だが、リビングドールに溜め込まれ、さらにその魔力に当てられ続けた少女が淫らな気分になり、行動を起こさせるには十分であった。
「あっ、んんん……」
湯にでも使ったかのような、リラックスした声がコンチエッタの口から漏れた。ワンピースの裾から潜り込んでいる彼女の左手は、まだ膨らみ初めてすらいない胸の中心部をくりくりと転がす。幼き胸でも刺激は快感として受け止めた。その小さな乳首がぷくりと立ち上がる。
「んひぅうう……」
少女の反応がより淫らになった。ちりちりとした快感が胸から身体全体へと広がっていく。魔物の魔力の影響も受けている彼女の性器が反応し始めた。ぴったりと閉じられていた幼い秘花が少し開く。その中では蜜が溜め込まれ始めていた。
見なくても魔物であるダリアはコンチエッタの変化を理解していた。さらに彼女は自分の所有者である少女に"教育"をする。
「気持ちよくなってきた? じゃあ、もっと気持ちいいことをしよっか。あ、ちゃんと指で濡らさないと痛いかもよ」
「ふぁい……」
とろんとした目でコンチエッタは返事をする。そして手持ち無沙汰だった右手を口元に持っていき、その指をしゃぶった。あっという間に彼女の右手の人差し指と中指が唾液まみれになる。その涎まみれの手をコンチエッタは下へと持っていった。右手がワンピースの裾をくぐり、股間へと伸びていく。そしてためらいもなく、コンチエッタは濡れた指を女の一番敏感な部分に押し当てた。
「ん、ああああっ!」
下腹部から立ち上る快感に背を反らせた少女の口からたまらず声が漏れる。だが指はクリトリスを離れない。それどころか乳首にしたのと同じようにクリクリと転がす。手馴れた物だった。もはや何年もの間やっていたかのように幼き少女は自慰をしていた。
なぜここまで彼女は自慰になれていたか。それはひと月ほど前にリビングドールとなったダリアが正体を隠したまま、魔力に乗せてコンチエッタに自慰の知識を教えていたからだ。自分が所有している人形からの知識と言うことに気付けぬまま、コンチエッタは自慰を覚え、その快感にのめり込んでいったのだった。父のクリストフォロが激怒したのも、コンチエッタが人形の前でそれに見せつけるかのように自慰をしていたからだ。
「んんぅうう……」
コンチエッタの脚が閉じられる。くちゅりと蜜壷がいやらしい音を立てた。だが指はそこから離れていない。入口からあふれた蜜もすくい取って指に絡みつかせながら、陰核をくりくりといじる。くちくちと少女の秘花から控えめな水音が立ち、その音にあわせて彼女は喘いだ。また、胸に添えられていた手も股間の手の動きに連動するかのように激しく動き回った。
「手伝ってあげる。よいしょっと……」
魔力を少し使ってダリアがコンチエッタのワンピースを取り除く。少女は生まれたままの、無防備な姿となった。そのコンチエッタの右腿にダリアは立つ。そして舌を空いていたもう一方の乳首に這わせた。
「あああっ! ダリア、それ……気持ちいい……!」
「れろ……んふふ、そうでしょう? ふふふ、アレクセイに舐められたらもっと気持ちいいかもよ?」
「あ、アレクセイ……あ、あああ……」
憧れの男の名前が出た瞬間、コンチエッタの反応が顕著になった。快感のレベルが一つあがり、身体がびくんと跳ねる。その快感をもっと求めようと、手の動きがさらに激しくなった。
もはやコンチエッタは貴族の幼き令嬢ではない。性の快楽に貪欲な一匹のメスであった。彼女の変化にダリアがほくそ笑む。
「素敵よ、コンチエッタ……ではあたしも本気を出して、助けてあげる……んんん!」
彼女が軽くいきんだ。するとダリアの身体が紫色の薄い煙のようなオーラに包まれる。そのオーラはあっという間に広がり、コンチエッタも包んだ。
「なに……!? なにこれ!? すごい! すごいよぉ! おかしくなっちゃうう!」
オナニーを覚えたサルのように、コンチエッタはクリトリスと乳首をこねくりまわす。どろどろとした粘液が彼女の膣から漏れ、尻の割れ目を伝わってシーツに染み込んでいく。
本来、彼女くらいの年頃ならば味わうことのない快感をコンチエッタは叩き込まれていた。そしてその身体に限界が近づいていた。座っている姿勢を保てなくなって仰向けに倒れこむ。身体がびくびくと震え、足先がピンと伸ばされている。
「やだぁ、なんかだめぇ! だめになるぅ……!」
「大丈夫。そのまま身を任せて……こっちにいらっしゃい……」
未知の感覚に怯える少女を人形は安心させる。その安心がコンチエッタを解き放った。
「くうううううっ!」
ベッドの上で彼女の身体が反った。達したのだ。それと同時にコンチエッタの身体を包んでいた紫の霧が散る。
そして彼女の身に変化が起きた。
コンチエッタの四肢や胸が短い桃色の体毛に覆われていく。腰からずるりと、白くて薄い、小さな悪魔の尾と翼が生える。そして両側頭部から魔の者の象徴である二本の角がニョキッと芽吹いた。
そう。コンチエッタはもう人間ではない。レッサーサキュバスとなったのだった。
「おめでとう、コンチエッタ。これであんたもあたしたちの仲間、魔物娘よ」
新たな同胞の誕生にダリアは祝福をする。コンチエッタは聞いていない。生まれて始めて味わった絶頂と魔物化の快楽に、呼吸をするので精一杯だった。
その彼女の耳元に、コンチエッタは囁く。
「さあ、そのまま行こうか、アレクセイの元に……」
「ア、レク、セイ……」
荒い息遣いの下でコンチエッタは心を寄せている男の名前をつぶやく。その顔がにへらとだらしなく笑顔を作った。
「すき……アレクセイと……いっしょがいい……」
「決まりね……さぁ、行きましょう」
狂おしい魔の夜はまだこれから。
二人の魔物娘は淫らな笑みを浮かべ、頷き合った。
13/06/01 11:22更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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■作者メッセージ
はーい、沈黙の天使です。
リビングドールが更新されたので書いてみました!
……「リビングドールがいる」と言う情報がすでにあるのでこのSS、「衝撃の展開」とか驚かせることができてないですよね……orz
難しいものです。
まあそれでも書いてみたのですが……安定の自慰です(笑)
これからも自慰とニーソをどんどん売り出して行こうと思います(殴)

さて、リビングドールとなったダリアと、レッサーサキュバスとなったコンチエッタですが、このあとはもちろん"彼"のもとへ!
次回は3Pを書こうと思います。
うぇーい、難易度をなぜ跳ね上げた、沈黙の天使……でも頑張ってこの週末、最悪でも来週までに書き上げま……あ、もん●えDLできた?
遊んできマース ε三ヽ(*´∀`)ノわーい

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