裏エピソード
「ぬおおおお! だめだ、さっぱり書けん! やっぱり俺にはラブレターとか無理なのか!」
青年が机に突っ伏す。
彼の名前はカルロス。
この街で大工をやっている。
そんな彼には好きな人が出来た。
街の果物屋の娘のモモだ。
明るくて陽気で歌が好きな女のコで、カルロスの幼馴染でもある。
そんな彼女に告白をしようと思うのだが、「好きだ」と言うだけでは多分物足りない。
そう思ってラブレターを書こうと思ったのだが、便箋は書き始めようとして一時間経過してもいまだに真っ白だ。
文才がない彼にとっては、家の設計図を描くほうがまだ簡単だ。
「う〜む・・・気分転換に何か呑もうかな」
立ち上がったそのとき
「むむむっ! なぜか分からないけど閃いた!!」
まるで天の啓示でも受けたかのようにラブレターの文章が頭の中に浮かび上がってきた。
「よし! 書いてしまうぞ! うおおおおおおっ!」
彼は勢いよくイスに座りなおし、そして怒涛の勢いでラブレターを書き始めた。
「ぷっ・・・あははははは! これ、あんたが書いたの?」
翌日の夕方、カルロスのラブレターを読んでモモは弾けたように笑った。
「笑うなよ。真剣に書いたんだから・・・」
「あはは、ごめんごめん。あまりにも情熱的だったからさ〜」
そういう彼女はまだ笑いを抑えられないでいる。
「あんたの気持ちが良く伝わるよ。一言だけ『好きだ』なんて言われるより嬉しいね」
「え? それって・・・」
「あたしもあんたのことが好きだよ」
微笑んでモモはカルロスの頬にチュッとキスをした。
それからのことは嬉しすぎて良く覚えていない。
次の日曜日にデートする約束をしたことは覚えている。
『楽しみすぎてしょうがないぜ!』
全速力スキップで貧相な一人暮らしの長屋に帰宅する。
しかし彼の家には先客がいた。
年齢15歳くらいに見える、キャスケットを被った小柄な少女・・・
「な・・・!? なんだお前は〜〜っ!?」
「私はリャナンシー。芸術を愛する妖精よ」
「はぁ・・・」
いきなり妖精と言われても信じられないだろうが、この世界では魔物や妖精は珍しくない。
こうしていきなり人の家に上がりこんで待ち伏せしているのは珍しいが・・・
「その『芸術を愛する妖精』が俺になんのようだ? 俺は大工だ。芸術だったら隣の絵描きのところに行くんだな」
「そう! 本当はその隣の絵描きさんのところに用があったのに間違えてあなたにおまじないをかけちゃったのよ!」
「はぁ? どういうことだ?」
彼女は説明する。
この街にスランプにはまって悶々としている芸術家がいる。
今はまだ若い上に落ち込んでいるが、磨けば光る宝石にもなりうる者だ。
実際に本人が描いた絵を見て気に入った。
その才能を開花させるために彼女はその若き芸術家が住んでいる長屋を訪れ、悶々としていた男に才能を開花させるおまじないをしたのだが・・・
「その男がラブレターを書こうとして悶々としていた俺だったのか・・・」
「そう言うこと」
「はぁ・・・」
思わずため息が出てしまう。
ため息をつきながら隣に住んでいる絵描きのことを思い出す。
彼の名前はピエトロと言ったはずだ。
ここ最近はげっそりと痩せて顔も青白く、何か思いつめている感じだった・・・
「それがどうしたんだよ? まだ俺に用があるのか? 早く隣の絵描きのところに行っておまじないをすればいいじゃないか」
「それが・・・私の魔力、昨日あなたにおまじないをかけたから、ほとんど残ってないの・・・」
「はぁ・・・」
情けない話に思わずまたため息を漏らしてしまう。
「ところで・・・告白、うまくいった?」
「はぁ!? なんでお前にそんなこと教えなきゃいけないんだよ!?」
「うまくいったの?」
「う・・・うまくいったさ・・・」
だから今日はいい気分で一日を終えられると思っていたのに・・・この間抜けなリャナンシーのせいで台無しだ。
「じゃあ、告白がうまくいったのは私のおかげよね!」
「何でそうなるっ!?」
「だって、ラブレターが書けなくて悶々としていたところを、おまじないで書けるようにしたのは私だし・・・」
「・・・それはそうだな」
「だったら、お礼をして欲しいな!」
「お礼!?」
ずいぶん勝手な理屈だなと思ったが、彼女の言っていることは間違いではない。
「仕方がないな・・・何が欲しいんだ?」
「私の魔力を補充するために・・・精をちょうだい」
「精!? 精ってまさか・・・」
「そう、精液」
「・・・お前も酷いヤツだな。ついさっき恋人が出来た男に今、恋人以外の女と寝ろと?」
「う〜ん・・・それは確かにあなたにも恋人さんにも悪いなぁ・・・じゃあ、こういうのならどう?」
「お・・・おい、こりゃいくらなんでも変だろう」
カルロスは目隠しをされ、下半身を丸出しにした状態でベッドに仰向けにされていた。
SMプレイではないから手錠はされていないが・・・カルロスの言うとおり、やはり変だ。
リャナンシーが提案した方法は、モモのことを妄想しながらカルロスがオナニーし、その精液をリャナンシーが口で摂取するというものだった。
最後だけフェラチオというかたちになるが、やむを得まい。
目隠しをしたのはカルロスがリャナンシーの魅了にかからないようにするためらしい。
「じゃあ、始めてよ」
「なんか人に見られながらというのも落ち着かないけど・・・」
そういいながらもカルロスはすでに怒張しつつある自分の性器に手を這わせた。
頭の中で恋人となったモモを思い描く。
フルーツを片手に、太陽のように微笑みながら客に売り込む彼女。
カルロスと喧嘩してカンカンに怒っている彼女。
悲しいことがあって、川原で膝を抱えて泣いていた彼女。
今日、ラブレターを読んで大笑いをした彼女。
そして頬への柔らかい感触・・・
『そ・・・そのくちびるがもし俺のくちびるに触れたら・・・』
モモが初めての女性のため、キスも経験がない。
どんな感じか分からないが、きっと気持ちいいだろう。
そして・・・
普段の彼女とは違う彼女を想像する。
これから自分だけが見ることになるであろう彼女の姿・・・淫らで美しい姿。
幼いころは一緒に風呂に入ったことがあるので、その身体は見たことがあるが、成長してからはもちろん見ていない。
あのころもお尻が名前のとおり、売っているもののとおり、桃のように思えたが、思春期を迎えて丸みを帯びたそれはますますそう見える。・・・
服の上からでも分かるほど胸は大きく、やはり水蜜桃のように柔らかそうだ。
「ねぇねぇ。どんなこと考えているの?」
「・・・話しかけるんじゃない、集中できないだろう」
「いやらしいこと考えている? 裸とかじゃなくて、セックスしているところとかさ」
「なっ・・・!」
リャナンシーの言葉で思わず想像してしまう。
彼女が自分に組み敷かれて、眉根を寄せてあえいでいる。
彼女を汚してしまったような気分になり、顔に熱が上った。
しかし一方で性器は正直に力を増す。
「・・・いやらしいことを悪く思うことはないんだよ。愛というものはそういうもので、行き着くところはそこなんだから・・・」
カルロスの気持ちを汲み取ったのか、リャナンシーが優しく言う。
そう言われたらもう抑制できなかった。
嬌声を上げながら自分の上で胸を揺らして踊っている彼女・・・
自分の性器をバナナのように咥える彼女・・・
「うっ・・・がっ!」
身体が絶頂の直前で痙攣する。
ぴとっとリャナンシーのくちびるが自分の性器に吸い付いた気がした。
「も・・・モモ!」
恋人の名前を叫びながら、そのまま精を放つ。
自分の思いを吐き出すように・・・
「んっ! んっ! ん〜〜っ♪」
そしてそれをリャナンシーは満足そうに吸い上げるのだった・・・
「ふぅ、ご馳走様! これで彼におまじないをすることができるかな」
満足そうにリャナンシーは言う。
「じゃあ、私は行くわ。彼女を大切にね。結婚するときは呼んでよね。なんてったって彼女と付き合うラブレターを書く力を与えたのは私なんだから」
そう言い残してリャナンシーは姿をかき消した。
「やれやれ・・・ありがとうな。お前も上手くやれよ」
もう自分ひとりしかいない部屋で、カルロスは口元に穏やかな笑みを浮かべてつぶやいた。
数ヵ月後・・・
「ねぇカルロス、今日の夕食はどうしようか?」
カルロスとモモは市場で夕食の買い物をしていた。
仲睦まじくぴったりと寄り添って腕を組んでいるその様子に、道行く人は微笑んでいく。
「あ・・・あれ? あれはピエトロとナンシーじゃない?」
「本当だ・・・」
市場の雑踏でも分かるほどいちゃついて目立っている二人組みはカルロスの隣に住んでいる絵描きと、あの日のリャナンシーだった。
あのリャナンシーはナンシーと名乗っているらしい。
なんて単純。
「やぁピエトロ、こんなところで奇遇だな」
「あ、カルロスさん。それにモモさんも」
「あいかわらず二人とも仲がいいわね」
「お互い様よ、ふふふ」
4人があいさつを交わす。
「ところで、何を買ったんだ?」
ピエトロが持っている籠にはすでにあらゆるものが詰まっていた。
覗き込んでみる。
ニンニクにニラ、干された牛肉とホルスタウロスのミルク・・・
「精のつきそうなものがたっぷりだな・・・」
「ナハハ・・・」
ピエトロが照れたように笑う。
『照れるなよピエトロ、お前らが毎晩お盛んなのは良く分かっているぜ。なんていったって壁が薄いからな、あのボロ長屋は』
だがそれは、カルロスの家にモモが泊まりに来たときも、その様子が筒抜けであることを示している。
「すっぽんの生き血まで・・・これ、レアな品物だろう?」
「ああ、ヴァンパイアのシェリルのワインショップで30ccまでなら格安で売られていましたよ」
「・・・カルロス、私たちの夕食もそうするわよ。ニンニクと牛肉のホルスタウロスクリーム・ソテーにすっぽんの生き血を混ぜたシェリー酒・・・」
「おいおい・・・」
つまり、今夜は眠れそうにない。
「行くわよ! ぐずぐずしていたら売切れるわ!」
モモはピエトロたちに背を向け、カルロスの腕を引き、行こうとする。
「やれやれ・・・じゃあな、ピエトロ、ナンシー」
「ええ、それではまた・・・」
ピエトロもカルロスたちに背を向けていこうとする。
「・・・・・」
「・・・・・」
ほんのわずかな間、カルロスとナンシーは見つめあった。
あの日、ナンシーが誤ってカルロスにおまじないをかけなければ、モモと今の関係はなかったかもしれない。
その次の日、カルロスがナンシーに精を分けなければ、ピエトロと今の関係はなかったかもしれない。
「じゃあな、ナンシー」
「今夜は頑張ってね、カルロス」
挨拶をしながら二人は思いを込めてウインクを互いに交わす。
『君のおかげだ』
『あなたのおかげよ』
青年が机に突っ伏す。
彼の名前はカルロス。
この街で大工をやっている。
そんな彼には好きな人が出来た。
街の果物屋の娘のモモだ。
明るくて陽気で歌が好きな女のコで、カルロスの幼馴染でもある。
そんな彼女に告白をしようと思うのだが、「好きだ」と言うだけでは多分物足りない。
そう思ってラブレターを書こうと思ったのだが、便箋は書き始めようとして一時間経過してもいまだに真っ白だ。
文才がない彼にとっては、家の設計図を描くほうがまだ簡単だ。
「う〜む・・・気分転換に何か呑もうかな」
立ち上がったそのとき
「むむむっ! なぜか分からないけど閃いた!!」
まるで天の啓示でも受けたかのようにラブレターの文章が頭の中に浮かび上がってきた。
「よし! 書いてしまうぞ! うおおおおおおっ!」
彼は勢いよくイスに座りなおし、そして怒涛の勢いでラブレターを書き始めた。
「ぷっ・・・あははははは! これ、あんたが書いたの?」
翌日の夕方、カルロスのラブレターを読んでモモは弾けたように笑った。
「笑うなよ。真剣に書いたんだから・・・」
「あはは、ごめんごめん。あまりにも情熱的だったからさ〜」
そういう彼女はまだ笑いを抑えられないでいる。
「あんたの気持ちが良く伝わるよ。一言だけ『好きだ』なんて言われるより嬉しいね」
「え? それって・・・」
「あたしもあんたのことが好きだよ」
微笑んでモモはカルロスの頬にチュッとキスをした。
それからのことは嬉しすぎて良く覚えていない。
次の日曜日にデートする約束をしたことは覚えている。
『楽しみすぎてしょうがないぜ!』
全速力スキップで貧相な一人暮らしの長屋に帰宅する。
しかし彼の家には先客がいた。
年齢15歳くらいに見える、キャスケットを被った小柄な少女・・・
「な・・・!? なんだお前は〜〜っ!?」
「私はリャナンシー。芸術を愛する妖精よ」
「はぁ・・・」
いきなり妖精と言われても信じられないだろうが、この世界では魔物や妖精は珍しくない。
こうしていきなり人の家に上がりこんで待ち伏せしているのは珍しいが・・・
「その『芸術を愛する妖精』が俺になんのようだ? 俺は大工だ。芸術だったら隣の絵描きのところに行くんだな」
「そう! 本当はその隣の絵描きさんのところに用があったのに間違えてあなたにおまじないをかけちゃったのよ!」
「はぁ? どういうことだ?」
彼女は説明する。
この街にスランプにはまって悶々としている芸術家がいる。
今はまだ若い上に落ち込んでいるが、磨けば光る宝石にもなりうる者だ。
実際に本人が描いた絵を見て気に入った。
その才能を開花させるために彼女はその若き芸術家が住んでいる長屋を訪れ、悶々としていた男に才能を開花させるおまじないをしたのだが・・・
「その男がラブレターを書こうとして悶々としていた俺だったのか・・・」
「そう言うこと」
「はぁ・・・」
思わずため息が出てしまう。
ため息をつきながら隣に住んでいる絵描きのことを思い出す。
彼の名前はピエトロと言ったはずだ。
ここ最近はげっそりと痩せて顔も青白く、何か思いつめている感じだった・・・
「それがどうしたんだよ? まだ俺に用があるのか? 早く隣の絵描きのところに行っておまじないをすればいいじゃないか」
「それが・・・私の魔力、昨日あなたにおまじないをかけたから、ほとんど残ってないの・・・」
「はぁ・・・」
情けない話に思わずまたため息を漏らしてしまう。
「ところで・・・告白、うまくいった?」
「はぁ!? なんでお前にそんなこと教えなきゃいけないんだよ!?」
「うまくいったの?」
「う・・・うまくいったさ・・・」
だから今日はいい気分で一日を終えられると思っていたのに・・・この間抜けなリャナンシーのせいで台無しだ。
「じゃあ、告白がうまくいったのは私のおかげよね!」
「何でそうなるっ!?」
「だって、ラブレターが書けなくて悶々としていたところを、おまじないで書けるようにしたのは私だし・・・」
「・・・それはそうだな」
「だったら、お礼をして欲しいな!」
「お礼!?」
ずいぶん勝手な理屈だなと思ったが、彼女の言っていることは間違いではない。
「仕方がないな・・・何が欲しいんだ?」
「私の魔力を補充するために・・・精をちょうだい」
「精!? 精ってまさか・・・」
「そう、精液」
「・・・お前も酷いヤツだな。ついさっき恋人が出来た男に今、恋人以外の女と寝ろと?」
「う〜ん・・・それは確かにあなたにも恋人さんにも悪いなぁ・・・じゃあ、こういうのならどう?」
「お・・・おい、こりゃいくらなんでも変だろう」
カルロスは目隠しをされ、下半身を丸出しにした状態でベッドに仰向けにされていた。
SMプレイではないから手錠はされていないが・・・カルロスの言うとおり、やはり変だ。
リャナンシーが提案した方法は、モモのことを妄想しながらカルロスがオナニーし、その精液をリャナンシーが口で摂取するというものだった。
最後だけフェラチオというかたちになるが、やむを得まい。
目隠しをしたのはカルロスがリャナンシーの魅了にかからないようにするためらしい。
「じゃあ、始めてよ」
「なんか人に見られながらというのも落ち着かないけど・・・」
そういいながらもカルロスはすでに怒張しつつある自分の性器に手を這わせた。
頭の中で恋人となったモモを思い描く。
フルーツを片手に、太陽のように微笑みながら客に売り込む彼女。
カルロスと喧嘩してカンカンに怒っている彼女。
悲しいことがあって、川原で膝を抱えて泣いていた彼女。
今日、ラブレターを読んで大笑いをした彼女。
そして頬への柔らかい感触・・・
『そ・・・そのくちびるがもし俺のくちびるに触れたら・・・』
モモが初めての女性のため、キスも経験がない。
どんな感じか分からないが、きっと気持ちいいだろう。
そして・・・
普段の彼女とは違う彼女を想像する。
これから自分だけが見ることになるであろう彼女の姿・・・淫らで美しい姿。
幼いころは一緒に風呂に入ったことがあるので、その身体は見たことがあるが、成長してからはもちろん見ていない。
あのころもお尻が名前のとおり、売っているもののとおり、桃のように思えたが、思春期を迎えて丸みを帯びたそれはますますそう見える。・・・
服の上からでも分かるほど胸は大きく、やはり水蜜桃のように柔らかそうだ。
「ねぇねぇ。どんなこと考えているの?」
「・・・話しかけるんじゃない、集中できないだろう」
「いやらしいこと考えている? 裸とかじゃなくて、セックスしているところとかさ」
「なっ・・・!」
リャナンシーの言葉で思わず想像してしまう。
彼女が自分に組み敷かれて、眉根を寄せてあえいでいる。
彼女を汚してしまったような気分になり、顔に熱が上った。
しかし一方で性器は正直に力を増す。
「・・・いやらしいことを悪く思うことはないんだよ。愛というものはそういうもので、行き着くところはそこなんだから・・・」
カルロスの気持ちを汲み取ったのか、リャナンシーが優しく言う。
そう言われたらもう抑制できなかった。
嬌声を上げながら自分の上で胸を揺らして踊っている彼女・・・
自分の性器をバナナのように咥える彼女・・・
「うっ・・・がっ!」
身体が絶頂の直前で痙攣する。
ぴとっとリャナンシーのくちびるが自分の性器に吸い付いた気がした。
「も・・・モモ!」
恋人の名前を叫びながら、そのまま精を放つ。
自分の思いを吐き出すように・・・
「んっ! んっ! ん〜〜っ♪」
そしてそれをリャナンシーは満足そうに吸い上げるのだった・・・
「ふぅ、ご馳走様! これで彼におまじないをすることができるかな」
満足そうにリャナンシーは言う。
「じゃあ、私は行くわ。彼女を大切にね。結婚するときは呼んでよね。なんてったって彼女と付き合うラブレターを書く力を与えたのは私なんだから」
そう言い残してリャナンシーは姿をかき消した。
「やれやれ・・・ありがとうな。お前も上手くやれよ」
もう自分ひとりしかいない部屋で、カルロスは口元に穏やかな笑みを浮かべてつぶやいた。
数ヵ月後・・・
「ねぇカルロス、今日の夕食はどうしようか?」
カルロスとモモは市場で夕食の買い物をしていた。
仲睦まじくぴったりと寄り添って腕を組んでいるその様子に、道行く人は微笑んでいく。
「あ・・・あれ? あれはピエトロとナンシーじゃない?」
「本当だ・・・」
市場の雑踏でも分かるほどいちゃついて目立っている二人組みはカルロスの隣に住んでいる絵描きと、あの日のリャナンシーだった。
あのリャナンシーはナンシーと名乗っているらしい。
なんて単純。
「やぁピエトロ、こんなところで奇遇だな」
「あ、カルロスさん。それにモモさんも」
「あいかわらず二人とも仲がいいわね」
「お互い様よ、ふふふ」
4人があいさつを交わす。
「ところで、何を買ったんだ?」
ピエトロが持っている籠にはすでにあらゆるものが詰まっていた。
覗き込んでみる。
ニンニクにニラ、干された牛肉とホルスタウロスのミルク・・・
「精のつきそうなものがたっぷりだな・・・」
「ナハハ・・・」
ピエトロが照れたように笑う。
『照れるなよピエトロ、お前らが毎晩お盛んなのは良く分かっているぜ。なんていったって壁が薄いからな、あのボロ長屋は』
だがそれは、カルロスの家にモモが泊まりに来たときも、その様子が筒抜けであることを示している。
「すっぽんの生き血まで・・・これ、レアな品物だろう?」
「ああ、ヴァンパイアのシェリルのワインショップで30ccまでなら格安で売られていましたよ」
「・・・カルロス、私たちの夕食もそうするわよ。ニンニクと牛肉のホルスタウロスクリーム・ソテーにすっぽんの生き血を混ぜたシェリー酒・・・」
「おいおい・・・」
つまり、今夜は眠れそうにない。
「行くわよ! ぐずぐずしていたら売切れるわ!」
モモはピエトロたちに背を向け、カルロスの腕を引き、行こうとする。
「やれやれ・・・じゃあな、ピエトロ、ナンシー」
「ええ、それではまた・・・」
ピエトロもカルロスたちに背を向けていこうとする。
「・・・・・」
「・・・・・」
ほんのわずかな間、カルロスとナンシーは見つめあった。
あの日、ナンシーが誤ってカルロスにおまじないをかけなければ、モモと今の関係はなかったかもしれない。
その次の日、カルロスがナンシーに精を分けなければ、ピエトロと今の関係はなかったかもしれない。
「じゃあな、ナンシー」
「今夜は頑張ってね、カルロス」
挨拶をしながら二人は思いを込めてウインクを互いに交わす。
『君のおかげだ』
『あなたのおかげよ』
10/08/24 23:03更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)