前編
「大変です! 大変です! 緊急事態! 緊急事態ぃい!」
「何事ですか、騒々しい」
ここはファラオのネフェルランタナが支配する遺跡。その主の間に伝令のマミーが転がるようにしてやってきた。夫のクリネスとキスなどをして戯れていたネフェルランタナはその美しい顔を軽くしかめる。
しかし伝令のマミーが伝えた情報にはネフェルランタナも冷静ではいられなくなった。彼女の顔がサッと青くなる。
「アポピスがこの遺跡を目指して侵攻しています!」
アポピス。旧魔王時代、ファラオの目覚めを防ぐために彼ら彼女らを闇に葬り去った、冥府の力を得た闇の化身とも言える蛇である。今でこそファラオを闇に葬ったり殺すことこそないものの、ファラオの天敵であることは変わらない。その毒牙にかけられた魔物娘は理性を捨て去り、男と交わろうとする。しかも厄介なことに、アポピスの毒は永遠に消え去ることはない。
そして、その毒の影響を受けるのはファラオとて例外ではない。アポピスの毒牙に犯されたファラオは国のことなど忘れ去り、夫と寝室にこもりっきりとなって交わることとなる。空いた王座にはアポピスが就き、王国は彼女のものとなり、魔界も明緑魔界から暗黒魔界になるのだ。
「くっ、なんてこと……」
ネフェルランタナとクリネスはくちびるを噛む。魔物娘からすれば、魔界の性質が変わったりこそするものの、淫らに過ごせることには変わりないのだから大したことではないのかもしれない。しかし、ファラオ自身にとっては、とりわけネフェルランタナと夫のクリネスにとっては大問題だ。
ネフェルランタナは人間時代、自分の代で国を終わらせてしまったことを悔いていた。魔物娘のファラオとしてようやく復活した今、王国の復活と血筋の復活も果たせるチャンスが来た。しかし、ここにきてアポピスの襲撃である。
命こそ取られることはないが、また自分の王国は他者に蹂躙され、自分は裏舞台へと姿を消されてしまうのか。ネフェルランタナは頭を抱えた。
クリネスも黙って腕を組み、唸り声を上げる。しかし、少ししてふと彼はその顔を上げた。その目には希望の光が灯っている。
「アポピスがここに来るまでどのくらい時間がありますか?」
「10分もかからないかと……何かいい案が思いつきましたか?」
「……マミーが一人、彼女に噛まれてしまうことになりますし確実に成功するとは限りませんが……手はあります」
「さぁ、そこを退いてよ。それとも私とやる気?」
その頃、件のアポピスはネフェルランタナの住まう遺跡の入口にまで迫っていた。彼女の名前はハーメスロータスと言う。
「くっ……ネフェルランタナ様のため、ここは一歩も退かぬぞ……!」
門番を務めるマミーが二人、魔界銅製の槍を構えてハーメスロータスの行く手を阻もうとする。しかし腰が少し引けている。ぎらりと光る、蛇のように縦長の瞳孔を持つ目。禍々しい紫色の肌。押しつぶされると感じるほどのプレッシャー。それらにマミーたちはすでに怯えていた。
逃げ腰のマミーたちを見てハーメスロータスはふんとバカにしたように鼻を鳴らして笑う。フッと彼女が手を振ると、指先から黒い粘液塊が迸った。その塊は片方のマミーの股間に命中する。
「やっ!? なにこれ!? あ、あああ……」
驚きの顔が見る見るうちに快楽に染まる。粘液塊はマミーの性器を攻めているのだ。ダークマターのあの粘液塊と同じように。
相方のマミーが驚いている間にハーメスロータスがそのマミーを押し倒す。そしてその首筋に毒牙を突き立てた。アポピスの強力な淫毒がマミーに注がれる。あっと言う間にマミーの目が焦点を失い、力なく崩れ落ちた。
「くっ、あ……あ、んふああああ……キツォスぅ……」
崩れ落ちたマミーは立ち上がり、夫との交わりを求めてその場を去った。ふらふらと歩く彼女の股間は既に濡れており、発情したメスの匂いを漂わせている。
「あっははは! たわいないものねぇ」
立ち去ったマミーを見送り、さらに地面に転がって粘液塊の攻めに悶えているマミーを見下ろしながらハーメスロータスは高笑いをした。そしてぎらりと目を光らせながら呟く。
「ネフェルランタナ……別に恨みはないけど、ここの王の座は退いてもらうわ。そして私がこの国の王となる!」
悠々と、蛇の下半身をうねらせながらハーメスロータスは遺跡の中を進んでいった。
主の間の天井裏にハーメスロータスは潜んでいた。天井の石畳をひとつ取り除けば中の様子を伺える。玉座に一人の女が腰を下ろしていた。金の装飾で頭や胸元、四肢を余すところなく飾っていて高貴な者に見える。だがそれを見てハーメスロータスはまた鼻を鳴らした。
「ふん、バカみたい。替え玉なのがバレバレだわ」
発する魔力でそれくらいは分かる。おそらく、ネフェルランタナの服を借りた配下のマミーだろう。とすると、ネフェルランタナは主の間ではない、別のところにいるはずだ。
「でもまぁ、彼女に噛み付いて性的に拷問をかければネフェルランタナの居場所を吐いてくれるかもね……っと言うわけで!」
天井からハーメスロータスは身を躍らせる。黒紫色の稲妻が光ったかのようだった。あっと言う間にハーメスロータスはネフェルランタナに扮したマミーに絡みつく。そしてその首筋に毒牙を突き立てた。
次の瞬間、この部屋に新たな乱入者が現れた。褐色の肌を透けるような布で包んだだけの魔物娘。姿こそ簡素だがその美貌と発する魔力は別格だ。ネフェルランタナである。
ハーメスロータスの真のターゲットが目の前に現れたわけだが、それを確認し、牙を引き抜くまでに隙が生じた。その間にネフェルランタナの凛とした声が響く。
「そこのアポピス! 汝、我に従え!」
「くっ……!?」
いかにファラオの天敵とも言えるアポピスでも、王の力のこもった言葉を受けてしまうと逆らうことはできない。逆らえるのはファラオと同等の力を持つ者か、心からファラオの命令に逆らおうとする者のみ。
ハーメスロータスはいずれでもなかった。冥府の力や強力な淫毒を持とうとも彼女は、夫を持つファラオのネフェルランタナを越す力を持っていない。ファラオに負けたくない、彼女を王座から引きずり下ろし自らが王になりたいという欲はあれどもそれは種の本能のようなもの。王の言葉に逆らうだけの力もない。
「そのマミーから離れ、そこで丸くなってなさい」
「ち、ちくしょう……」
悪態をついても身体は言うことを聞かない。ハーメスロータスは毒牙にかけたマミーから離れ、部屋の隅でとぐろを巻いた。彼女が反撃しないように、クリネスが目を光らせる。
ハーメスロータスがおとなしく従ったのを見届けてからネフェルランタナは王座のマミーに駆け寄り、抱き起こす。抱き起こされたマミーはネフェルランタナの腕の中で、片手で自分の乳首を転がし、もう一方の手で自らの股間をくちゅくちゅと音を立てて慰めていた。
「ウラニア!」
「はっ、ふわああ……ネフェルランタナ様ぁ……うまくいきましたねぇ……ん、あん!」
「でもウラニアは……」
「あへぁあ……私は旦那様とエッチすればいいだけなのでぇ……あぁん♥ ネフェルランタナ様ぁ、もう我慢できませんん♥」
「分かったわ。あなたを夫の元に飛ばします」
ネフェルランタナが何事か呪文をつぶやくと、マミーのウラニアの姿が掻き消えた。彼女の夫のいる部屋に転送されたのだ。アポピスの毒にうなされている彼女はこれから先、仕事をせずにずっと夫とともに淫らに絡み合うことだろう。魔物娘にとっては一番幸せなことだろう。
「さて……」
薄衣姿でネフェルランタナは王座に腰掛け、悠然と脚を組んでハーメスロータスを見据えた。種族の習性とは言え、自分の将来の望みを踏みにじろうとした侵入者を冷たく、サディスティックな目で見下ろす。
「アポピスよ。あなたの名前は何ですか? 答えなさい」
「ハーメスロータス……うぅう……」
自分の意思に関係なく、王の力でしゃべってしまう。屈辱的な状況にハーメスロータスは呻いた。
「ハーメスロータス……アポピスの習性とは言え、私の領域を犯し、踏みにじろうとしたその所業はちょっと許しがたいです。命を取ったりすることこそありませんが……そうですね、ちょうどこの遺跡の裏手に離れの家を建てたので、そこに篭っていただきましょう」
「そんなペットや罪人のように閉じ込められてたまるか! 絶対抜け出してお前の喉元に食らいついて……」
「……仮にも、私はこの国の王ですよ? 口の聞き方がなっていませんね。これはもう少しお仕置きが必要ですね。では……」
ネフェルランタナのサディスティックな表情が強くなる。今まで見たことのない表情に横にいてハーメスロータスの様子を伺っていたクリネスはゾッとした。そんなネフェルランタナがハーメスロータスに命を下す。
「ハーメスロータス。この場でオナニーをしなさい。イクまで」
「な!? 何てことを……えっ!? うそ!? なんで……!?」
あまりに淫らで屈辱的な命令に抗議の声をあげようとしたハーメスロータスだったが、その声が戸惑いの声に変わる。彼女の手が自分の意思とほぼ無関係に動き始めていた。左手はその豊満な乳房をすくい上げるようにして愛撫を始め、右手は胸元の装飾を外しにかかる。装飾が外れたら待ちきれないと言わんばかりに左手は乳首を転がし始めた。
「なんで身体が勝手に……んっ、んん……」
「王の力を舐めないで欲しいですね。たしかにアポピスはファラオの天敵とも言える存在ですが……噛み付かれる前に王の力で支配すればこちらのもの」
「お、おごるなよ……お前がちょっとでも油断したら……」
乳房を自分で愛撫して荒い息をしながら、アポピスはファラオをにらみ上げる。そんな視線を涼やかに受け流しながら、ネフェルランタナは傍らに控えているアヌビスを呼んだ。一礼をして彼女の命令を理解したアヌビスは呪いをかける。
「ひあっ!? な……体が……!? ひあああっ!?」
「マミーの呪いだ。身体中が敏感になってたまらんだろう?」
呪文をかけたアヌビスが犬歯をむき出しにして笑う。しかしハーメスロータスはほとんど聞いていない。マミーの呪いで快楽に敏感になった身体を愛撫するのに夢中になっている。両の乳房を揉んでいた手の一方が、下腹部に向かった。
「ついに性器を愛撫しますか……どうなっているか、私に良く見せなさい」
「や、やだ……あ、ああああ……」
口で嫌がっても王の力は容赦なくそれをねじ伏せる。ハーメスロータスは腰を突き出し、そして二本の指で秘裂をくつろげて見せた。アポピスは自らの毒で常に発情しているも同然。しかもそれに乳房への愛撫とマミーの呪いが加わっている。ハーメスロータスの蜜壷はしとどに濡れており、糸すら引いていた。
「ふっふふ……もうそんなに濡れているの、いやらしい……さぁ、そこからどうするのか、私によく見せてください」
「ち、ちくしょう……見るな、見るなぁああ……!」
ハーメスロータスが喚く。だが彼女がそうしたところで何も意味はない。ネフェルランタナの嗜虐心をくすぐるだけだった。ハーメスロータスが右手をぶるぶると震わせていたが、やがてその指先が秘裂の上でぷくりと立ち上がっていたクリトリスをこねまわし始める。
「んああああっ!」
アポピスの背が快感で反った。腰はそれで一度は引くもののまたクリトリスへの快感で突き出される。カクカクとまるで何かにこすりつけるかのように、ハーメスロータスの腰は動いた。
「いやらしい動き……あなたに抱かれている男はそれで達してしまうことでしょう」
淫らに踊るハーメスロータスを見ながらネフェルランタナは嘲り半分、感心半分で言葉をかける。その口は少し開かれ、熱い吐息が漏れ始めていた。脚ももぞもぞとこすり合わせるようにして動いている。すでに彼女の秘密の泉も淫水を湧き出させ始めていた。
「それにしても指を入れないのね……普段どうしているか、答えなさい」
「ゆ、指なんか入れるか……ふあっ! いつもはしっぽの先を入れる……何を言わせるんだぁああ!」
王の力で自らの恥ずかしい秘密まで暴露させられた。羞恥で血が上ったハーメスロータスの毒々しい紫色の肌が朱に染まる。だがそれは序の口だ。これからそれを実演しなければならないのだ。
くねくねとハーメスロータスの後ろで所在無げにくねっていた蛇の尾がついに前にやってきた。そして秘裂にその先端をこじ入れた。ぬちゃっと淫らな音とともにハーメスロータスが悲鳴のような強制を上げる。
「随分とまぁ可愛らしい声で啼くのですね。アポピスらしくない……」
「あ、あ、うあああ……」
ネフェルランタナの言葉ももはや耳に入っていない。がくりと床に崩れ落ちてハーメスロータスは自慰にふける。初々しい色をした肉壷を毒々しい色の蛇の尾が出入りをしていた。しかし、ネフェルランタナの位置からではよく見えない。
「もっと私に良く見せなさい」
「は、はい……」
もはや返事まで従順になっている。ハーメスロータスは横向きにころがってその身体の前面を晒した。蛇の尾の出入りもこれでネフェルランタナからよく見えるようになる。ごくりとネフェルランタナが喉を鳴らした。
「とってもいやらしいですよ、ハーメスロータス。さぁ、そのまま果てなさい」
言われるまでもない。絶頂への階段を駆け上がるべく、尾で膣内を攻め抜き、右手でクリトリスをこねまわし、左手で乳房を揉みしだきながらアポピスは床の上で悶える。主の間にはハーメスロータスの嬌声と股間からの水音が響いていた。
「う、うああ……イクっ……イク……!」
アポピスの背がぐぐぐっと曲がって硬直する。いよいよクライマックスだ。
「くっ……ふあああああん!」
甲高く一声啼いて、ハーメスロータスはオーガズムに達した。がくがくと女性の上半身と蛇の下半身が痙攣を起こす。プシッと音がして、秘裂から潮が吹き出し、床を汚した。絶頂が過ぎ去ると、ハーメスロータスは床にぐったりと横たわったまま、ときおり身体をひくつかせて荒い息をついていた。
「ふふふ……あなたのはしたない姿、たっぷりと堪能させていただきました」
「ちくしょう……」
ハーメスロータスは悪態をつくが、快感で身体に力は入らないし、王の力の影響かネフェルランタナへの攻撃もできそうにない。屈辱にアポピスはくちびるを噛む。
その時だった。淫らな空気が支配する主の間に緊縛した声が響き渡った。
「大変です! 大変です! 緊急事態! 緊急事態ぃい!」
「今度は何事ですか、騒々しい」
妖しげな雰囲気のまま、これからハーメスロータスをどうするか考えを巡らし、さらに自分もこの後クリネスと交わろうと思っていたネフェルランタナは眉をひそめる。しかし、たしかに緊急事態だったようだ。マミーが報告を続ける。
「勇者のパーティーが現れました! 数は3人です! 男の勇者と男の魔術師、さらに女の盗賊がいます!」
「なるほど……問題はまったくありません。ハーメスロータス!」
マミーの報告を受けたネフェルランタナはひとつ頷き、そしてまだ快感の余韻覚めやらぬアポピスを呼ぶ。王の力に屈服したままのため、ハーメスロータスはのろのろと身体を起こし、頭を下げた。
自分にひれ伏しているアポピスに満足げに微笑んでからネフェルランタナは彼女に命じる。
「聞いた通りです。勇者の一行がここに来ています。あなたが行って迎撃しなさい。方法はあなたに任せますし、男はあなたのものにしても構いません」
ファラオを堕とし、自らが王となるのがアポピスというものだが、好きにしていい男がいれば話は別だ。頭を形上は下げたまま、ハーメスロータスは了承の返事をするのであった。
「何事ですか、騒々しい」
ここはファラオのネフェルランタナが支配する遺跡。その主の間に伝令のマミーが転がるようにしてやってきた。夫のクリネスとキスなどをして戯れていたネフェルランタナはその美しい顔を軽くしかめる。
しかし伝令のマミーが伝えた情報にはネフェルランタナも冷静ではいられなくなった。彼女の顔がサッと青くなる。
「アポピスがこの遺跡を目指して侵攻しています!」
アポピス。旧魔王時代、ファラオの目覚めを防ぐために彼ら彼女らを闇に葬り去った、冥府の力を得た闇の化身とも言える蛇である。今でこそファラオを闇に葬ったり殺すことこそないものの、ファラオの天敵であることは変わらない。その毒牙にかけられた魔物娘は理性を捨て去り、男と交わろうとする。しかも厄介なことに、アポピスの毒は永遠に消え去ることはない。
そして、その毒の影響を受けるのはファラオとて例外ではない。アポピスの毒牙に犯されたファラオは国のことなど忘れ去り、夫と寝室にこもりっきりとなって交わることとなる。空いた王座にはアポピスが就き、王国は彼女のものとなり、魔界も明緑魔界から暗黒魔界になるのだ。
「くっ、なんてこと……」
ネフェルランタナとクリネスはくちびるを噛む。魔物娘からすれば、魔界の性質が変わったりこそするものの、淫らに過ごせることには変わりないのだから大したことではないのかもしれない。しかし、ファラオ自身にとっては、とりわけネフェルランタナと夫のクリネスにとっては大問題だ。
ネフェルランタナは人間時代、自分の代で国を終わらせてしまったことを悔いていた。魔物娘のファラオとしてようやく復活した今、王国の復活と血筋の復活も果たせるチャンスが来た。しかし、ここにきてアポピスの襲撃である。
命こそ取られることはないが、また自分の王国は他者に蹂躙され、自分は裏舞台へと姿を消されてしまうのか。ネフェルランタナは頭を抱えた。
クリネスも黙って腕を組み、唸り声を上げる。しかし、少ししてふと彼はその顔を上げた。その目には希望の光が灯っている。
「アポピスがここに来るまでどのくらい時間がありますか?」
「10分もかからないかと……何かいい案が思いつきましたか?」
「……マミーが一人、彼女に噛まれてしまうことになりますし確実に成功するとは限りませんが……手はあります」
「さぁ、そこを退いてよ。それとも私とやる気?」
その頃、件のアポピスはネフェルランタナの住まう遺跡の入口にまで迫っていた。彼女の名前はハーメスロータスと言う。
「くっ……ネフェルランタナ様のため、ここは一歩も退かぬぞ……!」
門番を務めるマミーが二人、魔界銅製の槍を構えてハーメスロータスの行く手を阻もうとする。しかし腰が少し引けている。ぎらりと光る、蛇のように縦長の瞳孔を持つ目。禍々しい紫色の肌。押しつぶされると感じるほどのプレッシャー。それらにマミーたちはすでに怯えていた。
逃げ腰のマミーたちを見てハーメスロータスはふんとバカにしたように鼻を鳴らして笑う。フッと彼女が手を振ると、指先から黒い粘液塊が迸った。その塊は片方のマミーの股間に命中する。
「やっ!? なにこれ!? あ、あああ……」
驚きの顔が見る見るうちに快楽に染まる。粘液塊はマミーの性器を攻めているのだ。ダークマターのあの粘液塊と同じように。
相方のマミーが驚いている間にハーメスロータスがそのマミーを押し倒す。そしてその首筋に毒牙を突き立てた。アポピスの強力な淫毒がマミーに注がれる。あっと言う間にマミーの目が焦点を失い、力なく崩れ落ちた。
「くっ、あ……あ、んふああああ……キツォスぅ……」
崩れ落ちたマミーは立ち上がり、夫との交わりを求めてその場を去った。ふらふらと歩く彼女の股間は既に濡れており、発情したメスの匂いを漂わせている。
「あっははは! たわいないものねぇ」
立ち去ったマミーを見送り、さらに地面に転がって粘液塊の攻めに悶えているマミーを見下ろしながらハーメスロータスは高笑いをした。そしてぎらりと目を光らせながら呟く。
「ネフェルランタナ……別に恨みはないけど、ここの王の座は退いてもらうわ。そして私がこの国の王となる!」
悠々と、蛇の下半身をうねらせながらハーメスロータスは遺跡の中を進んでいった。
主の間の天井裏にハーメスロータスは潜んでいた。天井の石畳をひとつ取り除けば中の様子を伺える。玉座に一人の女が腰を下ろしていた。金の装飾で頭や胸元、四肢を余すところなく飾っていて高貴な者に見える。だがそれを見てハーメスロータスはまた鼻を鳴らした。
「ふん、バカみたい。替え玉なのがバレバレだわ」
発する魔力でそれくらいは分かる。おそらく、ネフェルランタナの服を借りた配下のマミーだろう。とすると、ネフェルランタナは主の間ではない、別のところにいるはずだ。
「でもまぁ、彼女に噛み付いて性的に拷問をかければネフェルランタナの居場所を吐いてくれるかもね……っと言うわけで!」
天井からハーメスロータスは身を躍らせる。黒紫色の稲妻が光ったかのようだった。あっと言う間にハーメスロータスはネフェルランタナに扮したマミーに絡みつく。そしてその首筋に毒牙を突き立てた。
次の瞬間、この部屋に新たな乱入者が現れた。褐色の肌を透けるような布で包んだだけの魔物娘。姿こそ簡素だがその美貌と発する魔力は別格だ。ネフェルランタナである。
ハーメスロータスの真のターゲットが目の前に現れたわけだが、それを確認し、牙を引き抜くまでに隙が生じた。その間にネフェルランタナの凛とした声が響く。
「そこのアポピス! 汝、我に従え!」
「くっ……!?」
いかにファラオの天敵とも言えるアポピスでも、王の力のこもった言葉を受けてしまうと逆らうことはできない。逆らえるのはファラオと同等の力を持つ者か、心からファラオの命令に逆らおうとする者のみ。
ハーメスロータスはいずれでもなかった。冥府の力や強力な淫毒を持とうとも彼女は、夫を持つファラオのネフェルランタナを越す力を持っていない。ファラオに負けたくない、彼女を王座から引きずり下ろし自らが王になりたいという欲はあれどもそれは種の本能のようなもの。王の言葉に逆らうだけの力もない。
「そのマミーから離れ、そこで丸くなってなさい」
「ち、ちくしょう……」
悪態をついても身体は言うことを聞かない。ハーメスロータスは毒牙にかけたマミーから離れ、部屋の隅でとぐろを巻いた。彼女が反撃しないように、クリネスが目を光らせる。
ハーメスロータスがおとなしく従ったのを見届けてからネフェルランタナは王座のマミーに駆け寄り、抱き起こす。抱き起こされたマミーはネフェルランタナの腕の中で、片手で自分の乳首を転がし、もう一方の手で自らの股間をくちゅくちゅと音を立てて慰めていた。
「ウラニア!」
「はっ、ふわああ……ネフェルランタナ様ぁ……うまくいきましたねぇ……ん、あん!」
「でもウラニアは……」
「あへぁあ……私は旦那様とエッチすればいいだけなのでぇ……あぁん♥ ネフェルランタナ様ぁ、もう我慢できませんん♥」
「分かったわ。あなたを夫の元に飛ばします」
ネフェルランタナが何事か呪文をつぶやくと、マミーのウラニアの姿が掻き消えた。彼女の夫のいる部屋に転送されたのだ。アポピスの毒にうなされている彼女はこれから先、仕事をせずにずっと夫とともに淫らに絡み合うことだろう。魔物娘にとっては一番幸せなことだろう。
「さて……」
薄衣姿でネフェルランタナは王座に腰掛け、悠然と脚を組んでハーメスロータスを見据えた。種族の習性とは言え、自分の将来の望みを踏みにじろうとした侵入者を冷たく、サディスティックな目で見下ろす。
「アポピスよ。あなたの名前は何ですか? 答えなさい」
「ハーメスロータス……うぅう……」
自分の意思に関係なく、王の力でしゃべってしまう。屈辱的な状況にハーメスロータスは呻いた。
「ハーメスロータス……アポピスの習性とは言え、私の領域を犯し、踏みにじろうとしたその所業はちょっと許しがたいです。命を取ったりすることこそありませんが……そうですね、ちょうどこの遺跡の裏手に離れの家を建てたので、そこに篭っていただきましょう」
「そんなペットや罪人のように閉じ込められてたまるか! 絶対抜け出してお前の喉元に食らいついて……」
「……仮にも、私はこの国の王ですよ? 口の聞き方がなっていませんね。これはもう少しお仕置きが必要ですね。では……」
ネフェルランタナのサディスティックな表情が強くなる。今まで見たことのない表情に横にいてハーメスロータスの様子を伺っていたクリネスはゾッとした。そんなネフェルランタナがハーメスロータスに命を下す。
「ハーメスロータス。この場でオナニーをしなさい。イクまで」
「な!? 何てことを……えっ!? うそ!? なんで……!?」
あまりに淫らで屈辱的な命令に抗議の声をあげようとしたハーメスロータスだったが、その声が戸惑いの声に変わる。彼女の手が自分の意思とほぼ無関係に動き始めていた。左手はその豊満な乳房をすくい上げるようにして愛撫を始め、右手は胸元の装飾を外しにかかる。装飾が外れたら待ちきれないと言わんばかりに左手は乳首を転がし始めた。
「なんで身体が勝手に……んっ、んん……」
「王の力を舐めないで欲しいですね。たしかにアポピスはファラオの天敵とも言える存在ですが……噛み付かれる前に王の力で支配すればこちらのもの」
「お、おごるなよ……お前がちょっとでも油断したら……」
乳房を自分で愛撫して荒い息をしながら、アポピスはファラオをにらみ上げる。そんな視線を涼やかに受け流しながら、ネフェルランタナは傍らに控えているアヌビスを呼んだ。一礼をして彼女の命令を理解したアヌビスは呪いをかける。
「ひあっ!? な……体が……!? ひあああっ!?」
「マミーの呪いだ。身体中が敏感になってたまらんだろう?」
呪文をかけたアヌビスが犬歯をむき出しにして笑う。しかしハーメスロータスはほとんど聞いていない。マミーの呪いで快楽に敏感になった身体を愛撫するのに夢中になっている。両の乳房を揉んでいた手の一方が、下腹部に向かった。
「ついに性器を愛撫しますか……どうなっているか、私に良く見せなさい」
「や、やだ……あ、ああああ……」
口で嫌がっても王の力は容赦なくそれをねじ伏せる。ハーメスロータスは腰を突き出し、そして二本の指で秘裂をくつろげて見せた。アポピスは自らの毒で常に発情しているも同然。しかもそれに乳房への愛撫とマミーの呪いが加わっている。ハーメスロータスの蜜壷はしとどに濡れており、糸すら引いていた。
「ふっふふ……もうそんなに濡れているの、いやらしい……さぁ、そこからどうするのか、私によく見せてください」
「ち、ちくしょう……見るな、見るなぁああ……!」
ハーメスロータスが喚く。だが彼女がそうしたところで何も意味はない。ネフェルランタナの嗜虐心をくすぐるだけだった。ハーメスロータスが右手をぶるぶると震わせていたが、やがてその指先が秘裂の上でぷくりと立ち上がっていたクリトリスをこねまわし始める。
「んああああっ!」
アポピスの背が快感で反った。腰はそれで一度は引くもののまたクリトリスへの快感で突き出される。カクカクとまるで何かにこすりつけるかのように、ハーメスロータスの腰は動いた。
「いやらしい動き……あなたに抱かれている男はそれで達してしまうことでしょう」
淫らに踊るハーメスロータスを見ながらネフェルランタナは嘲り半分、感心半分で言葉をかける。その口は少し開かれ、熱い吐息が漏れ始めていた。脚ももぞもぞとこすり合わせるようにして動いている。すでに彼女の秘密の泉も淫水を湧き出させ始めていた。
「それにしても指を入れないのね……普段どうしているか、答えなさい」
「ゆ、指なんか入れるか……ふあっ! いつもはしっぽの先を入れる……何を言わせるんだぁああ!」
王の力で自らの恥ずかしい秘密まで暴露させられた。羞恥で血が上ったハーメスロータスの毒々しい紫色の肌が朱に染まる。だがそれは序の口だ。これからそれを実演しなければならないのだ。
くねくねとハーメスロータスの後ろで所在無げにくねっていた蛇の尾がついに前にやってきた。そして秘裂にその先端をこじ入れた。ぬちゃっと淫らな音とともにハーメスロータスが悲鳴のような強制を上げる。
「随分とまぁ可愛らしい声で啼くのですね。アポピスらしくない……」
「あ、あ、うあああ……」
ネフェルランタナの言葉ももはや耳に入っていない。がくりと床に崩れ落ちてハーメスロータスは自慰にふける。初々しい色をした肉壷を毒々しい色の蛇の尾が出入りをしていた。しかし、ネフェルランタナの位置からではよく見えない。
「もっと私に良く見せなさい」
「は、はい……」
もはや返事まで従順になっている。ハーメスロータスは横向きにころがってその身体の前面を晒した。蛇の尾の出入りもこれでネフェルランタナからよく見えるようになる。ごくりとネフェルランタナが喉を鳴らした。
「とってもいやらしいですよ、ハーメスロータス。さぁ、そのまま果てなさい」
言われるまでもない。絶頂への階段を駆け上がるべく、尾で膣内を攻め抜き、右手でクリトリスをこねまわし、左手で乳房を揉みしだきながらアポピスは床の上で悶える。主の間にはハーメスロータスの嬌声と股間からの水音が響いていた。
「う、うああ……イクっ……イク……!」
アポピスの背がぐぐぐっと曲がって硬直する。いよいよクライマックスだ。
「くっ……ふあああああん!」
甲高く一声啼いて、ハーメスロータスはオーガズムに達した。がくがくと女性の上半身と蛇の下半身が痙攣を起こす。プシッと音がして、秘裂から潮が吹き出し、床を汚した。絶頂が過ぎ去ると、ハーメスロータスは床にぐったりと横たわったまま、ときおり身体をひくつかせて荒い息をついていた。
「ふふふ……あなたのはしたない姿、たっぷりと堪能させていただきました」
「ちくしょう……」
ハーメスロータスは悪態をつくが、快感で身体に力は入らないし、王の力の影響かネフェルランタナへの攻撃もできそうにない。屈辱にアポピスはくちびるを噛む。
その時だった。淫らな空気が支配する主の間に緊縛した声が響き渡った。
「大変です! 大変です! 緊急事態! 緊急事態ぃい!」
「今度は何事ですか、騒々しい」
妖しげな雰囲気のまま、これからハーメスロータスをどうするか考えを巡らし、さらに自分もこの後クリネスと交わろうと思っていたネフェルランタナは眉をひそめる。しかし、たしかに緊急事態だったようだ。マミーが報告を続ける。
「勇者のパーティーが現れました! 数は3人です! 男の勇者と男の魔術師、さらに女の盗賊がいます!」
「なるほど……問題はまったくありません。ハーメスロータス!」
マミーの報告を受けたネフェルランタナはひとつ頷き、そしてまだ快感の余韻覚めやらぬアポピスを呼ぶ。王の力に屈服したままのため、ハーメスロータスはのろのろと身体を起こし、頭を下げた。
自分にひれ伏しているアポピスに満足げに微笑んでからネフェルランタナは彼女に命じる。
「聞いた通りです。勇者の一行がここに来ています。あなたが行って迎撃しなさい。方法はあなたに任せますし、男はあなたのものにしても構いません」
ファラオを堕とし、自らが王となるのがアポピスというものだが、好きにしていい男がいれば話は別だ。頭を形上は下げたまま、ハーメスロータスは了承の返事をするのであった。
13/03/19 18:48更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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