魔物化したてのエルフの場合
森の中をひとりの男が歩いていた。
頭に帽子、肩には弓……その男は狩人だった。
しかし狩人にしては、服はなかなか仕立てがよく、動きにも高貴な雰囲気がどことなく漂っている。
かと言って、貴族が狩りに来たわけでもないようだ。
貴族か狩人なのか……どちらも正解であって、正解ではない。
この男、クロヴァ・グラントは上流階級の軍人の家の出である。
とある反魔物領の将軍の第三男だ。
将軍の息子らしく剣、槍、弓、戦術、どれをとっても優秀な彼だったが、彼は戦争を好まなかった。
特に彼は親魔物国との戦争を否定した。
戦争をする意味もないし、局地的に勝ててもそれをするだけの意義がない。
それを訴えた結果、処刑されなかっただけましかもしれないが、彼は将軍である父親に勘当された。
ゆえに彼はこの森で狩りをして生計を立てているのである。
今はちょうど、市場で獲物を売りさばいてきて、適当な食材を買い込んで寝ぐらとしている小屋に帰ろうとしているところだ。
「ん?」
もう少しで小屋といったところで、何かを見つけたクロヴァは目を細めた。
茂みから人間の脚のような物が伸びている。
すらりとした綺麗な生足で、女性のようだ。
血の匂いなどはしていないので、死骸ではないと思われる。
それでも警戒心を解かず、クロヴァはその倒れている人物に近づいた。
「大丈夫か?」
はたして、長い金髪を持った女性がうつぶせに倒れていた。
クロヴァは女性に手をかけ、軽く叩いてみる。
意識は失っていたが、そんなひどい状況ではなかったようだ。
すぐに女性はうーんとうめき声を上げて顔をクロヴァの方にひねり、そしてうっすらと目を開けた。
開けるなり身体を起して身構える。
「だ、誰だ……? ニンゲン、か……?」
ややかすれた声で女性はつぶやく。
ニンゲン、と言う言い方にはひっかかったが、間違ったことは言っていない。
クロヴァは肯いた。
「ああ、この森に住むクロヴァだ。大丈夫か?」
「……ニンゲンと交わす言葉など、私は持ちあわせていない……!」
クロヴァの言葉を聞くなりその女性は目を背け、吐き捨てようにそう言う。
だが、それと時を同じくして、ぐぅーとお腹が鳴った。
「……お腹空いているの?」
拒絶されるような言葉を言われて涼しい顔はできなかったが、かと言って無視もできなかった。
今腹がなったと言うことは、彼女はおそらく空腹で倒れたのだろう。
屈辱的だと言わんばかりに顔を赤くして視線を落とす彼女に、クロヴァはそっと携帯食料を差し出した。
「くっ……そ、そんな……ニンゲンの、手の加わったもの、など……」
女性はくちびるをかんでいるが、横目でちらちらと携帯食料を見ている。
彼女のプライドか、食欲と生存欲か……天秤は後者に傾いた。
いきなりぱくりと女性はクロヴァの持っている携帯食料に食いつく。
クロヴァは驚いて携帯食料を手放したが、彼女は素早くそれを手にとり、ガツガツ食べつづけた。
よほど腹が減っていたのだろう。
携帯食料はあっという間に彼女の胃袋の中に消えた。
「あの……まだお腹空いているかい?」
クロヴァは訊ねる。
ないよりマシとは言え、彼女が食べたのは申し訳程度の携帯食料。
おそらくこの場で分かれると彼女はすぐにまたこの森のどこかで倒れてしまうだろう。
それに日も沈みかけている。
事情はよく分からないが、彼女の人間を目の敵にしているような態度は気に食わないが、彼女を今この森に放置するのは得策ではないとクロヴァは判断した。
「……ふ、ふん…もうお前などから施しを受ける気は……」
まだ意地を張る彼女だが、おそらく彼女もそのことは分かっているのだろう。
言葉には勢いがあまりない。
それに加えてまた腹の虫がぐーっと鳴った。
押すチャンスだと判断し、クロヴァは食べ物のことをちらつかせる。
「さっき市場でいろいろ買ったよ。パンとか、キノコとか野菜とか……もう暗くなっているし、俺の小屋に来たほうがいい。」
「パン、キノコ、野菜……」
うつろな声で彼女が食べ物の名前を復唱する……
そしてついに、彼女のプライドのような物が砕けた。
「……私が生きるためだ。勘違いして心やすくするなよ」
目線を逸らしたまま立ち上がり、彼女はクロヴァの横に並んだ。
一応は命の恩人と言えるようなクロヴァに対してこの態度なので、彼は軽く肩をすくめた。
「来てくれ。こっちだ」
クロヴァが歩き出すと、一歩ほど右斜め後ろから彼女がついてきた。
改めて見てみると、森をひとり歩きするにはあまりにも軽装だ。
武器らしい武器も持っていない。
だが手足にはほどよく筋肉が乗っており、そこいらの村娘は愚か、本調子ならならず者も相手にならないのではないかと思えた。
それでいながらその手足には女性らしい可憐さは残っている。
女性らしいのは手足だけでない。
髪は、今はパサついているが櫛を通せば流れる絹糸のような美しさを見せるだろう。
ボロボロの緑色のワンピースに身を包んでいるが、その胸元にはたわわな果実がなっている。
「おい、どこを見ている!?」
さすがにクロヴァの視線に気づいたのか、女が声を上げた。
「あ、ああ……すまない……」
「まったく……これだからニンゲンは穢らわしい……」
やれやれと言ったように女は首を振る。
それと同時に彼女の髪が揺れ、特に横髪がふわりと舞った。
今まで髪に隠れていた耳が出る。
「あ……」
それを見てようやくクロヴァは相手の正体を把握した。
女の正体はおそらくエルフだ……尖った特徴的な耳で判断した。
もっとも尖った耳と言うのはほぼ全ての人型魔物娘が持つ特徴であるが、彼女には翼や尻尾など、ほかの魔物娘が持つ特徴を耳以上に持っていない。
人間に擬態する魔力も、森で倒れていたことを思えば、ないと考えるのが普通だろう。
そしてこれまでの言動も併せて考えると……彼女はエルフに違いない、そうクロヴァは結論づけた。
「な、なんだっ? まだ何かあるのか?」
「いいや、何も……ほら、俺の小屋が見えてきた」
もう日が沈みきるかといったところでようやくクロヴァが寝ぐらとしている小屋が見えてきた。
完全に日が落ちる前に二人は足を早めた。
「はいどうぞ、お嬢様」
レディーファーストは貴族の心得……自然な感じにクロヴァはドアを開いてエルフを中に通す。
ふん、と彼女は鼻を鳴らし、そうしてようやく自分から彼女自身の情報を明かした。
「お嬢様でもなんでもない。私はライア……誇り高きエルフのひとり、ライアだ」
本来エルフは集落で暮らす種族のはずだ。
しかしそれは純エルフ……魔力に染まっていない、魔物ではないエルフの話である。
魔に染まったエルフは集落から追放されるのだ。
おそらくこのエルフもその目にあったのだろう。
それもつい最近、ろくな準備も許されず、着のみ着のままといった感じで……
追放されての後、何も口にすることができず、飢えて倒れていた……そういうことだろう。
「何がおかしいんだ!?」
苦笑はこらえていたつもりだったのだが、やはりバレてしまったのだろう。
エルフ、ライアが眉を釣り上げて声を上げる。
「いや、すまない。状況がなんとなく俺と似ている気がしてな……」
軍人の家を異分子として追い出された自分、エルフの集落を異分子として追い出されたライア……
初めて会ったばかりだが、いや、初対面だったからこそ、クロヴァは彼女に好印象のような物を持っていた。
自分の身の上と笑った理由を簡単に説明すると、ライアは軽く表情を崩したが、すぐに思い出したようにふんと鼻を鳴らし、中に入る。
そのことにもう一度苦笑しながらクロヴァも続いて中に入った。
「とりあえずそれを食べていて待っていて」
ライアをリビングと寝室を兼ねた狭い部屋のテーブルに着かせ、白パンを二つテーブルに置き、クロヴァは調理場とも呼べないような土間に向かった。
去っていくクロヴァの背を見ていたライアだったが、思い出したように白パンにかじりつく。
そんなライアを見て軽く笑い、クロヴァは料理を始めた。
家にいた頃は料理などすべてを召使に任せていたため、家事は苦戦したものだが、今なら何とか人並みには暮らせる。
干肉や野菜のスープのために湯を沸かしてから、すぐに出すことができるサラダの準備を始めた。
葉物の野菜を取り出して一枚ずつ引きちぎって木のボウルに敷き、その上にスライスしたキノコを散らす。
野菜には何かプルプルとした芯があったが、これも食べるべきだと売っていた商人が言っていたので、スライスしてキノコといっしょに散らした。
そして、貴重ではあるがせっかく来たエルフのゲストなのだからということでなけなしのオリーブオイルをドレッシングとしてかけて完成だ。
出来上がったサラダをライアのところに持っていく。
既に彼女は二つの白パンを平らげて、物珍しそうに部屋をキョロキョロと見渡していた。
「はい、どうぞ」
木のボウルに敷かれたみずみずしそうな野菜、その上に甘そうなプルプルした紫色のゼリー状の物、スライスされたキノコ、そして食欲をそそるオリーブオイル……出された料理を見てライアはごくりと喉を鳴らした。
「い、いただきます……」
小さな声で挨拶をし、恐る恐ると言った感じでフォークをサラダに突き刺した。
野菜の葉と芯、キノコ、オリーブオイル、全て上手く刺さり、それが彼女の口に運ばれて中に入れられる。
口に入れた瞬間、ライアは目を見開いた。
「う……美味い! キノコがもちもちしていてほのかに甘くて、葉っぱがシャキシャキしていて、この紫のも甘くて歯ごたえがあって、美味い!」
「ははは、それは良かった」
エルフのライアの口にあったようでクロヴァは嬉しそうに笑ったが、彼女はそれどころではない。
もはやボウルを抱え込み、頭を突っ込む勢いでサラダにがっついている。
よほど腹が減っていたのか、そしてそれだけ美味しかったのか……
その食べっぷりにクロヴァは苦笑してから、スープの様子を見に土間に向かった。
「ムシャムシャ、ガツガツ!」
クロヴァが去ったことも気づかないくらい、ライアはサラダに夢中になっていた。
だが、その様子が少し変になってきた。
サラダに夢中になっている彼女だが、その目はなぜか夢見心地のようにとろんとしている。
そしてうわごとのようにつぶやき始めた。
「ん、ぅぅ……おいしい、きのこ、おい、しい……それに、なんだか、むずむずする……」
先程までクロヴァに対して見せていた油断なく警戒心を強めて張り詰めた表情はもうない。
まるで情事のときのような表情で身体をもじもじさせながらライアはサラダを食べ続ける。
そのサラダがなくなるころ、ライアの異常はさらに顕著になった。
「……ん、くぅ……くすぐったい、ふく、くすぐったいよぉ……もう、ぬいじゃお……」
フォークを一度置き、ライアはボロボロになった緑のワンピースを脱ぎ捨てた。
飾り気のない、弓を引くのに邪魔にならないように押さえ込むための白いブラと、同じように飾り気のないショーツだけの姿になる。
だがそれでもまだ身体がむずがゆいのか、ライアはそのブラとショーツすらも脱ぎ捨てた。
もはやライアは何も身にまとっていない、生まれたままの姿だ。
その状態で再びフォークを取り、サラダの最後の一口分に突き刺した。
突き刺された野菜の葉とゼリー状の芯、キノコが彼女の口の中に消える。
「……んはぁ」
味わうように咀嚼したライアの口から満足したような、だがどこか甘い響きが見える声が漏れた。
だが、本当に満足したわけではないようだ。
「あぅう……たりない、たりないよぅ……もっとぉ、もっときのこたべたいよぉ……」
生まれたままの姿のまま、間延びした声で、フォークを置いた彼女はつぶやく。
そこに、クロヴァが戻ってきた。
「スープ、あとちょっとでできるからね……って何をしているんだ、君は!?」
クロヴァが仰天した声を上げる。
無理もない。
さっきまでサラダを食べていたはずの初対面のエルフが全裸になってボーッと宙を見ていたのだから。
一応、上流階級の都合で女性を多少なりとも抱いたことのあるクロヴァだが、さすがにいきなり女の裸を見たらそれは気が動転する。
一方のライアは声をかけられて始めてそちらの方に向き直り、にへらとだらしない笑顔を浮かべた。
その様子に裸体を晒していることへの羞恥心は見えない。
「あ、おかえりぃ……ねえ、きのこ、もっとないの……? おいしいきのこ、もっと……」
「へ? キノコ? そんなにあのキノコが気に入ったのかい? じゃなくて……! なんて格好をしているんだ!?」
普通に受け答えしそうになったが今の状況がどう考えてもおかしいことを思い出してクロヴァは言葉を切って叫んだ。
悪びれもせず、ライアは応える。
「んぅっ、しかたないじゃない、むずむずするんだものぉ……」
そして立ち上がってふらふらとクロヴァの方へ歩み寄る。
ところどころ汚れているが、それでも白くてすべすべの肌が惜しげもなく全てさらけ出されていた。
彼女が一歩ずつ歩くたびにぷるんぷるんと揺れ動く、今は何にも押さえつけられていない真っ白な乳房が目を引く。
クロヴァもそれに目がひかれそうになるが、ライアの身を案じて彼女に寄った。
そして肩を掴んで話しかけようとする。
「おい、本当にどうした……」
「んひゃうぅ!?」
クロヴァに肩を触られた瞬間、ライアはびくんと全身をわななかせて甘い声を上げ、がくりと膝を着いた。
予想しなかった反応に驚いたクロヴァは思わず後ずさったが、その時に足を滑らせて尻餅を付くような形で転んだ。
「あ、ぁ……いま、の、きもちいい……きもちいいの、うれしい……」
少しの間びくびくと震え余韻に浸っていたライアだったが、すぐに持ち直して再度クロヴァに、四つん這いの状態で這うようにしてにじり寄った。
「くっ……」
彼女を蹴り飛ばしたりしてでも逃げるべきか、様子を見るべきか、彼女を何かしら介抱するべきか……迷いがクロヴァの動きを鈍くした。
迷いだけではない。
鋭さは抜けて潤んだ上目遣いの目、とろけた表情、揺れる胸、柔らかそうな身体……
にじり寄ってくるライアの淫靡な姿も彼の動きを鈍らせた要因だった。
ここが戦場だったら、クロヴァの命はこれでなかっただろう。
「……ねえ、きのこ……もっと、もっとたべたいの……きのこ、ちょうだい……?」
ついにライアはクロヴァに接近し、ひしっと彼の服を掴んで逃げないようにした。
「いや、君が望むならあげるけどさ……」
「うーん、きのこぉ……すんすん、おいしそうなにおいぃ……クロヴァからするぅ……」
しどろもどろになりながらクロヴァが答えるが、ライアはその答えを聞いていなかった。
何かにあっと気づいたような表情をし、そっちに興味が移っている。
くんくんと匂いを嗅いでいたライアが、その動きをクロヴァの腰のあたりで止めた。
その表情がパッと、砂漠でオアシスを見つけた旅人のように輝き、えへらとだらしなくも淫靡な笑みを浮かべる。
「あはぁ……おいしそうなきのこのにおいぃ……ここからするぅ」
「お、おい!」
クロヴァが声を上げる。
ライアがあろうことか、彼のズボンを下ろそうとしたからだ。
彼女を止めようとしたが、それより彼のズボンが下着と一緒に下ろされるのが先だった。
ライアの淫らな姿を見て反応し始めていた性器が露になる。
まだ完全には勃起していないが、大きくなり始めた男性器はエラが張っており、確かにキノコのようであった。
「あ、きのこ……なぁんだ、こんなところにあったんだ……」
うっとりとした表情でライアはそのキノコをさする。
女性の柔らかい手にさすられ、ここ最近女性どころか自分でも慰めていなかった男性器がたちどころに固く張り詰めた。
食べごろとなったキノコを前にしてライアはクロヴァにねだる。
「ねぇ、きのこ、ねぇ……きのこ、たべさせて……?」
「いや食べさせてって……ぬおぅっ!?」
クロヴァの抗議の声が途切れる。
彼の逸物はクロヴァの答えを聞く前にライアの口内に消えていた。
「ん、れる……じゅるじゅる、んちゅう……んっ、んっ、ん」
ライアの舌がクロヴァの性器の先端を転がし、竿を面で撫で、さらに巻き付く。
頭もリズミカルに動かされ、それに合わせて彼女の金髪が揺れ動いた。
涎もいやらしく絡められてぐじゅぐじゅと淫猥な音を立てる。
これが少し前までクロヴァにキツくあたり、自らを「誇り高き」と言ったエルフかと疑いたくなるくらい、彼女の舌使いは巧みで執拗で貪欲で淫らだった。
たちまちのうちにクロヴァは追い詰められる。
「や、やめるんだライアっ! そんなにされると俺は……!」
なんとか彼女から離れようとクロヴァは腕を伸ばし、彼女の肩を押しやろうとする。
「んぅうううっ! んはぁあっ! はふぅ……なんれぇ……? こんなに、おいひいのにぃ……んむぅ、ちゅるるるるっ! じゅるり、はぅ、ちゅぷ…… 」
先程と同じように肩に触れただけで身体を震わせて声を上げたライアだったが、一度口を離して息をついただけだった。
何がまずいのかよくわからない、と言わんばかりの反応を見せ、再びクロヴァのキノコをくわえ込む。
ほとんど休む間もなく加えられた刺激の影響で、クロヴァの性器が一回り膨れ上がる。
射精の前兆だ。
魔物としての本能でそれを感じ取り、そして突き動かされたのか、ライアはクロヴァの肉棒をさらに深くまで咥え込んだ。
「よせっ、本当に……うあ、ああああ!」
クロヴァ腰がガクンと跳ね上がり、どぷりと精液がライアの口の中に放たれる。
少し驚いた表情をしたライアだったが、それでも銜え込んだキノコは口から離さない。
それどころか口内に広がったこれ以上ないほど甘美な味わいを感じ取ると、眼の色を変えて精液を飲み下し、もっと出せとねだるかのようにちゅうちゅうとペニスを吸い立てた。
「あっ、あぐっ! がっ!」
射精直後の敏感な性器にそんな刺激を加えられ、クロヴァは床の上に倒れ込んで身体をビクビクと痙攣させた。
クロヴァはまだ人間ゆえに射精はすでに収まっていたが、肉棒は彼女の刺激で萎えることを許されていない。
これ以上吸っても今味わった甘美な味はもう出てこないと理解したライアは名残惜しそうに口を離した。
そして始めて会ったときからは考えられないようなとろけた笑顔を浮かべてクロヴァにしなだれかかる。
「ん、んひゅう! クロヴァ〜……」
やはり肌にクロヴァの身体が触れるたびに身体を震わせ、甘い声を上げる。
「くそっ……」
射精後の影響で身体に力が入らない。
そして目の前で自分に無防備にしなだれかかっているエルフがたまらなく魅力的に、愛おしく見える。
クロヴァはライアを突き飛ばしたりすることができなかった。
代わりに、彼女に訊ねてみる。
「ライア、どうしてこんなことを……?」
「そんなの、どうでもいいでしょぉ……? だって、きのこたべたら、おいしくって、あたまがふわふわしてぇ……♪」
どうでもいいと言いながらも答えてくれた情報で、クロヴァは全てを悟った。
あのキノコと野菜だ。
この世界にはマタンゴモドキというキノコとまといの野菜という野菜がある。
マタンゴモドキは、強力な催淫作用を持ち、意識を混濁させる作用も持つ。
まといの野菜は食べた者の肌を敏感にさせるのだ。
目の前のエルフのように、触れられるだけで嬌声をあげるほど、服すらもどかしくなるほど。
おそらくサラダに使ったのはその二つだったのだろう。
『とすると、あれを売った商人は……!』
クロヴァの思考はそこまでだった。
しなだれかかっていたライアがクロヴァの胸板をついて仰向けに動きを封じる。
「きのこがなにかなんて、もうどうだっていいじゃなぁい……♪ それよりぃ、もっともっとぉ、きのこたべたいのぉ……きもちよくなりたいのぉ……♪」
そう言いながらライアはクロヴァにまたがり、すでに潤みきった秘所を男根の真上に合わせた。
マタンゴモドキの催淫効果はただ性欲を高めるだけではない。
性を知らない乙女であろうとプライドが高いヴァンパイアであろうと食べた女性に、膣に男性器を受け入れるよう、はっきりと仕向けるのだ。
クロヴァは顔を引きつらせて、思いとどまるように叫ぶ。
いくらここ最近女日照りで魔物に対してそんなに偏見を持っていない彼でも、元は禁欲的な主神教団の国の上流階級の出であり、誰彼交わろうと思うほど落ちぶれてはいなかった。
「よ、よせライア! こんなこと、初対面の男相手にやることでは……!」
「しょたいめん〜? そんなのかんけいないよぉ……♪ だって、あんなおいしいものくれたんだもの、あなたはきっといいニンゲンなんだ……♪ だから、いっしょになったって……」
好意の滲みでた、嬉しそうな笑顔を浮かべてライアはやんわりとクロヴァの言葉を遮り、否定した。
秘所がゆっくりと降りて男根にあてがわれる。
ライアの、まだ他人には触れられていない媚粘膜とクロヴァの亀頭が擦れ合う。
先端が擦れるだけでクロヴァの身体には快感が走り、びくんと身体が震えた。
抵抗する気が一気に削がれてしまい、脱力してしまう。
その様子にライアは満足そうに笑い、ゆっくりと腰を落としていった。
押さえ込んだような声が二つ、部屋に響く。
クロヴァは射精をこらえるために歯を食いしばっており、ライアはかすかな痛みに息を詰めていた。
彼女の秘裂からは血が一筋流れている。
それにはっと気づいてクロヴァは、上体を起して彼女に声をかけた。
「ライア、大丈夫か……?」
「んぁ、ぁ……だいじょうぶ、だよぉ……ほらぁ……」
魔物娘の身体が頑強なのと、マタンゴモドキによる催淫作用があるからだろう。
ライアは最初以上の辛さは見せず、にんまりと笑顔を深めて軽く腰を動かした。
たまらないのはクロヴァだ。
キツく締め付けながらも熱くたっぷりと潤んだ処女洞に肉棒をゆったりとこねくり回され、快感のあまり思わずライアにしがみつく。
いきなり敏感になっている肌に触れられて身体を震わせたライアだったが、すぐに嬉しそうに笑った。
「んひゃう!? んぅ……ん、んふふ、きもちいいんだねぇ……? わたしも、あそこもせなかもきもちいいよぉ……♪もっともっとぉ、いっぱいきもちよく、なろぉ……♪ いっしょに、ね? 」
クロヴァを抱きしめ返し、ライアはゆったりと腰を前後させた。
豊満な胸はクロヴァの体に密着してひしゃげ、むにゅむにゅと変形している。
胸からの快感にライアはクロヴァの上でライアは身体をびくびくとわななかせ、声を上げた。
彼女が震えるたびにその振動がペニスにも伝わり、クロヴァの身体を固くさせる。
「んぅぅぅっ!! おっぱい、おっぱいぃ! おっぱい、きもちいい……♪ もっと、むにゅむにゅてぇ、クロヴァからもむにゅむにゅしてぇ……♪」
理性の枷を完全に失っているためか、与えられる快楽を拒絶するどころかむしろもっともっとと求めていく。
言われたとおりクロヴァは片手を自分とライアの間に潜り込ませ、その豊満な乳房を揉みしだいた。
ライアの口からより甘く大きな嬌声が漏れ、一度胸を揉まれるたびそれに反応するようにして膣が収縮する。
もう一方の手でクロヴァはさわさわとライアの腰や尻を撫でる。
「ひぁぁぁぁんっ!あ、はぁ、くすぐったいぃ! でもきもちいいのぉ! びりびりってしてぇ! おかしくなっちゃうのぉ!」
まといの野菜の効果によって敏感になった肌には、たどたどしい愛撫による刺激も十分な快感として伝わっていた。
快感は彼女を駆り立て、腰の動きをより淫らにくねらせるものにし、膣の締め付けをより強力にする。
射精の感覚が近づいてきてクロヴァが声を上げた。
「はぐっ、そんなに締め付けるな……! また……またっ……!」
「んぅぅっ……いいよぉ、だして、わたしのなかに、おいしいのいっぱいそそいで……!」
「ちょ、おい……くっ!」
膣内に注ぎたくないから抜いてくれという意味だったのに、ライアはクロヴァの体に足を絡め、全身を思い切り密着させつつ膣を締め付けてきた。
逃げられない。
なすすべもなく、クロヴァの身体がそのまま絶頂を迎えた。
「あ、ぬああっ!」
「んく……っ、あ、ひぁぁぁぁぁっ!」
クロヴァと共に、ライアも絶頂に達した。
注ぎ込まれた精液の熱さと濃さ、粘っこいそれに奥を叩かれる感覚、そして精の味わいといった甘美な感覚の全てに、マタンゴモドキの影響で混濁している頭が掻き回される。
「あ、あ、ああああ……」
二度目の射精にぐったりとクロヴァは仰向けに倒れた。
彼に抱きついていたライアの身体もつられて倒れこむ。
「あふぅ……おいしいのが、おなかにいっぱいぃ……あんっ♪」
クロヴァの身体の上でうっとりとした表情を浮かべながらライアはつぶやく。
一方のクロヴァは何も言わない。
絶頂後の脱力感もあるが、初対面のエルフの膣内に己の精を注ぎ込んでしまったという罪悪感が彼を苛んでいた。
だが罪悪感と同時に彼の心の中にはこのエルフに対する慕情のようなものも芽生えていた。
初対面のときのキツい印象と情事中のとろけた印象との差なのか、ただ単に交わったら情が移ってしまったのか、それとも魔物の魅力にあっさりと魅了されてしまったか……
だがそれは確かに、初対面の好印象とは違う、はっきりとした好意ではあることを彼は自覚していた。
「ん〜、クロヴァ、つかれちゃった……? それならぁ……んむっ……」
脱力しているクロヴァの様子を見て、ライアが優しく唇を奪った。
そのまま軽く舌を絡めとり、いたわるようにしてキスを続ける。
キスされた事に一瞬驚くが、すでに彼女に想いを抱いているクロヴァははっきりとそのキスに応じた。
そしてそっと背中を撫でさする。
「ひゃっ、ああぁっ! うあああっ!?」
まだまといの野菜の影響で敏感なままだったか、ライアは大きく背を反らせる。
しかしその声は……最初は甘い嬌声であったが、後のは驚愕したような声だった。
身体を反らせていたライアが姿勢を元に戻し、クロヴァを見下ろす。
その顔は情事の影響で上気していたが、目は光を取り戻しており、正気に戻っていることを示していた。
二人の時間と空間が凍りつく。
「……な、な、なんだこれはーっ!?」
沈黙を破ったのはライアの悲鳴だった。
顔を真っ赤にして叫び、クロヴァを睨みつける。
だが、パニックに陥ったままなのか、それともマタンゴモドキの影響がまだ多少残っていたのか、クロヴァの性器を深々と膣内に埋めたままで、その二人の結合を解こうとしなかった。
「あ、あの……これは、その……覚えていないのかい?」
今、二人が交わったというのは言い逃れができない状態だ。
ならば相手に話を聞いてもらえるよう落ち着いてもらい、そのために自分を落ち着ける必要があった。
ライアがいきなり正気に戻ったことや大声を上げたことには驚いたが、それをなんとか抑えてクロヴァは静かに語りかける。
「な、な、な……貴様、何をしらばっくれて……!? あ……」
冷静なクロヴァの言葉にライアはさらに声をあげようとしたが、おぼろげながら先ほどの情事の記憶を思い出したのか間の抜けた声を上げた。
黙ってクロヴァはライアの反応を待つ。
確かあのサラダを食べてからボーッとして……とか、嫌がるこの男を押し倒して……とかと、ライアはブツブツとつぶやいて記憶を辿る。
この男のことをいいニンゲンだとも言って……や、この男に恥ずかしい姿を全部見せて……!ともつぶやき、顔を真っ赤に染めた。
ぶつぶつとライアはつぶやいていたが、彼女の中で何か結論が出たのか、クロヴァを見下ろして口を開いた。
「……な、なあ。この状況、あのサラダに原因があるのだから……それを食べさせたお前にも責任はある、よな?」
「そ、そうだな……」
認めざるを得ない。
知らなかったとは言え、彼女にマタンゴモドキとまといの野菜を与えたのは自分だ。
自分に彼女と交わろうとする下心などがなくても、サラダを与えたことでこのような結果を引き起こしたのであれば、それはクロヴァに非がある。
「すまない……」
素直に、クロヴァは自分の非を詫びた。
ライアは軽く首を横に振って続ける。
「……謝らなくてもいい。ただ……責任は、きちんととらなければならない、よな?」
自分を見下ろすライアの目をクロヴァはじっと見つめる。
その目にはこうなったことへの責任を取れという圧迫感と……目の前の男への愛情と、その男と結ばれる期待のような物が星のように光っていた。
『あんなおいしいものくれたんだもの、あなたはきっといいニンゲンなんだ……♪ だから、いっしょになったって……』
ひとつになる直前の彼女の言葉を思い出す。
あれは、マタンゴモドキの影響で意識が混濁したからこそ出た、彼女の偽らざる好意だったのだろう。
食べ物がきっかけというのも締まらないが、確かだ。
「つまり、君は俺とけ……」
「か、勘違いするなっ! これはあくまで責任をとってもらうだけだ! お前に食事と寝床を用意させるという荷を負わせるだけのことなんだからな!」
クロヴァが言おうとした結婚という言葉が照れくさくなったのか、羞恥に顔をりんごのように赤く染めてライアはあれこれと取り繕う。
そんな彼女にクロヴァは苦笑を漏らす。
彼もまた、交わりの最中から感じていたことだが、彼女に好意を抱いていた。
そして、そんな魅力的な彼女と共に暮らせることを嬉しくも感じていた。
滅茶苦茶な形で始まった二人の関係だが、いい予感はある。
「分かった。このクロヴァ・グラント、全身全霊をかけてライアとともに寄り添い生きて行くこと、愛することを誓おう」
クロヴァはライアを抱きしめた。
「んひゃうう!?」
まだまといの野菜の影響も残っていたのか、ライアが嬌声を上げた。
慌ててクロヴァは謝って、彼女の身体を離そうとした。
「いや、いいんだ……そ、それより……今の言葉、誇り高きエルフを前にして嘘偽りはないな?」
「ああ、ない」
はっきりとした声でクロヴァは答えた。
それを聞いたライアの顔に笑みが浮かぶ。
だがその笑顔は、男を上手く篭絡した狡猾な女の笑みではなく、純粋に男を手に入れて歓び、そしてこれからの快楽の生活を期待する、とろけた魔物の笑みだった。
えへらと笑いながらクロヴァを見ていたライアだったが、自分がそのような表情をしているのに気づいたか、ぷいっと横を向く。
「ふ、ふん! せいぜい、全力で償うことだな……!」
横を向きながらもチラチラと、共に生きて行くことになった男のことを見ながら、ライアは照れ隠しにそう言うのだった。
将軍の家を追い出されたクロヴァと、エルフの集落を追い出されたライア……
二人はこうして結ばれた。
その結ばれる際のきっかけとなったのは、やはりマタンゴモドキとまといの野菜だっただろう。
それも二つ同時に使ったことによる結果だ。
エルフの高いプライドすら崩落させた、マタンゴモドキとまといの野菜の組み合わせによって取りもたれて結ばれた二人は今、森の奥で今幸せに暮らしている。
頭に帽子、肩には弓……その男は狩人だった。
しかし狩人にしては、服はなかなか仕立てがよく、動きにも高貴な雰囲気がどことなく漂っている。
かと言って、貴族が狩りに来たわけでもないようだ。
貴族か狩人なのか……どちらも正解であって、正解ではない。
この男、クロヴァ・グラントは上流階級の軍人の家の出である。
とある反魔物領の将軍の第三男だ。
将軍の息子らしく剣、槍、弓、戦術、どれをとっても優秀な彼だったが、彼は戦争を好まなかった。
特に彼は親魔物国との戦争を否定した。
戦争をする意味もないし、局地的に勝ててもそれをするだけの意義がない。
それを訴えた結果、処刑されなかっただけましかもしれないが、彼は将軍である父親に勘当された。
ゆえに彼はこの森で狩りをして生計を立てているのである。
今はちょうど、市場で獲物を売りさばいてきて、適当な食材を買い込んで寝ぐらとしている小屋に帰ろうとしているところだ。
「ん?」
もう少しで小屋といったところで、何かを見つけたクロヴァは目を細めた。
茂みから人間の脚のような物が伸びている。
すらりとした綺麗な生足で、女性のようだ。
血の匂いなどはしていないので、死骸ではないと思われる。
それでも警戒心を解かず、クロヴァはその倒れている人物に近づいた。
「大丈夫か?」
はたして、長い金髪を持った女性がうつぶせに倒れていた。
クロヴァは女性に手をかけ、軽く叩いてみる。
意識は失っていたが、そんなひどい状況ではなかったようだ。
すぐに女性はうーんとうめき声を上げて顔をクロヴァの方にひねり、そしてうっすらと目を開けた。
開けるなり身体を起して身構える。
「だ、誰だ……? ニンゲン、か……?」
ややかすれた声で女性はつぶやく。
ニンゲン、と言う言い方にはひっかかったが、間違ったことは言っていない。
クロヴァは肯いた。
「ああ、この森に住むクロヴァだ。大丈夫か?」
「……ニンゲンと交わす言葉など、私は持ちあわせていない……!」
クロヴァの言葉を聞くなりその女性は目を背け、吐き捨てようにそう言う。
だが、それと時を同じくして、ぐぅーとお腹が鳴った。
「……お腹空いているの?」
拒絶されるような言葉を言われて涼しい顔はできなかったが、かと言って無視もできなかった。
今腹がなったと言うことは、彼女はおそらく空腹で倒れたのだろう。
屈辱的だと言わんばかりに顔を赤くして視線を落とす彼女に、クロヴァはそっと携帯食料を差し出した。
「くっ……そ、そんな……ニンゲンの、手の加わったもの、など……」
女性はくちびるをかんでいるが、横目でちらちらと携帯食料を見ている。
彼女のプライドか、食欲と生存欲か……天秤は後者に傾いた。
いきなりぱくりと女性はクロヴァの持っている携帯食料に食いつく。
クロヴァは驚いて携帯食料を手放したが、彼女は素早くそれを手にとり、ガツガツ食べつづけた。
よほど腹が減っていたのだろう。
携帯食料はあっという間に彼女の胃袋の中に消えた。
「あの……まだお腹空いているかい?」
クロヴァは訊ねる。
ないよりマシとは言え、彼女が食べたのは申し訳程度の携帯食料。
おそらくこの場で分かれると彼女はすぐにまたこの森のどこかで倒れてしまうだろう。
それに日も沈みかけている。
事情はよく分からないが、彼女の人間を目の敵にしているような態度は気に食わないが、彼女を今この森に放置するのは得策ではないとクロヴァは判断した。
「……ふ、ふん…もうお前などから施しを受ける気は……」
まだ意地を張る彼女だが、おそらく彼女もそのことは分かっているのだろう。
言葉には勢いがあまりない。
それに加えてまた腹の虫がぐーっと鳴った。
押すチャンスだと判断し、クロヴァは食べ物のことをちらつかせる。
「さっき市場でいろいろ買ったよ。パンとか、キノコとか野菜とか……もう暗くなっているし、俺の小屋に来たほうがいい。」
「パン、キノコ、野菜……」
うつろな声で彼女が食べ物の名前を復唱する……
そしてついに、彼女のプライドのような物が砕けた。
「……私が生きるためだ。勘違いして心やすくするなよ」
目線を逸らしたまま立ち上がり、彼女はクロヴァの横に並んだ。
一応は命の恩人と言えるようなクロヴァに対してこの態度なので、彼は軽く肩をすくめた。
「来てくれ。こっちだ」
クロヴァが歩き出すと、一歩ほど右斜め後ろから彼女がついてきた。
改めて見てみると、森をひとり歩きするにはあまりにも軽装だ。
武器らしい武器も持っていない。
だが手足にはほどよく筋肉が乗っており、そこいらの村娘は愚か、本調子ならならず者も相手にならないのではないかと思えた。
それでいながらその手足には女性らしい可憐さは残っている。
女性らしいのは手足だけでない。
髪は、今はパサついているが櫛を通せば流れる絹糸のような美しさを見せるだろう。
ボロボロの緑色のワンピースに身を包んでいるが、その胸元にはたわわな果実がなっている。
「おい、どこを見ている!?」
さすがにクロヴァの視線に気づいたのか、女が声を上げた。
「あ、ああ……すまない……」
「まったく……これだからニンゲンは穢らわしい……」
やれやれと言ったように女は首を振る。
それと同時に彼女の髪が揺れ、特に横髪がふわりと舞った。
今まで髪に隠れていた耳が出る。
「あ……」
それを見てようやくクロヴァは相手の正体を把握した。
女の正体はおそらくエルフだ……尖った特徴的な耳で判断した。
もっとも尖った耳と言うのはほぼ全ての人型魔物娘が持つ特徴であるが、彼女には翼や尻尾など、ほかの魔物娘が持つ特徴を耳以上に持っていない。
人間に擬態する魔力も、森で倒れていたことを思えば、ないと考えるのが普通だろう。
そしてこれまでの言動も併せて考えると……彼女はエルフに違いない、そうクロヴァは結論づけた。
「な、なんだっ? まだ何かあるのか?」
「いいや、何も……ほら、俺の小屋が見えてきた」
もう日が沈みきるかといったところでようやくクロヴァが寝ぐらとしている小屋が見えてきた。
完全に日が落ちる前に二人は足を早めた。
「はいどうぞ、お嬢様」
レディーファーストは貴族の心得……自然な感じにクロヴァはドアを開いてエルフを中に通す。
ふん、と彼女は鼻を鳴らし、そうしてようやく自分から彼女自身の情報を明かした。
「お嬢様でもなんでもない。私はライア……誇り高きエルフのひとり、ライアだ」
本来エルフは集落で暮らす種族のはずだ。
しかしそれは純エルフ……魔力に染まっていない、魔物ではないエルフの話である。
魔に染まったエルフは集落から追放されるのだ。
おそらくこのエルフもその目にあったのだろう。
それもつい最近、ろくな準備も許されず、着のみ着のままといった感じで……
追放されての後、何も口にすることができず、飢えて倒れていた……そういうことだろう。
「何がおかしいんだ!?」
苦笑はこらえていたつもりだったのだが、やはりバレてしまったのだろう。
エルフ、ライアが眉を釣り上げて声を上げる。
「いや、すまない。状況がなんとなく俺と似ている気がしてな……」
軍人の家を異分子として追い出された自分、エルフの集落を異分子として追い出されたライア……
初めて会ったばかりだが、いや、初対面だったからこそ、クロヴァは彼女に好印象のような物を持っていた。
自分の身の上と笑った理由を簡単に説明すると、ライアは軽く表情を崩したが、すぐに思い出したようにふんと鼻を鳴らし、中に入る。
そのことにもう一度苦笑しながらクロヴァも続いて中に入った。
「とりあえずそれを食べていて待っていて」
ライアをリビングと寝室を兼ねた狭い部屋のテーブルに着かせ、白パンを二つテーブルに置き、クロヴァは調理場とも呼べないような土間に向かった。
去っていくクロヴァの背を見ていたライアだったが、思い出したように白パンにかじりつく。
そんなライアを見て軽く笑い、クロヴァは料理を始めた。
家にいた頃は料理などすべてを召使に任せていたため、家事は苦戦したものだが、今なら何とか人並みには暮らせる。
干肉や野菜のスープのために湯を沸かしてから、すぐに出すことができるサラダの準備を始めた。
葉物の野菜を取り出して一枚ずつ引きちぎって木のボウルに敷き、その上にスライスしたキノコを散らす。
野菜には何かプルプルとした芯があったが、これも食べるべきだと売っていた商人が言っていたので、スライスしてキノコといっしょに散らした。
そして、貴重ではあるがせっかく来たエルフのゲストなのだからということでなけなしのオリーブオイルをドレッシングとしてかけて完成だ。
出来上がったサラダをライアのところに持っていく。
既に彼女は二つの白パンを平らげて、物珍しそうに部屋をキョロキョロと見渡していた。
「はい、どうぞ」
木のボウルに敷かれたみずみずしそうな野菜、その上に甘そうなプルプルした紫色のゼリー状の物、スライスされたキノコ、そして食欲をそそるオリーブオイル……出された料理を見てライアはごくりと喉を鳴らした。
「い、いただきます……」
小さな声で挨拶をし、恐る恐ると言った感じでフォークをサラダに突き刺した。
野菜の葉と芯、キノコ、オリーブオイル、全て上手く刺さり、それが彼女の口に運ばれて中に入れられる。
口に入れた瞬間、ライアは目を見開いた。
「う……美味い! キノコがもちもちしていてほのかに甘くて、葉っぱがシャキシャキしていて、この紫のも甘くて歯ごたえがあって、美味い!」
「ははは、それは良かった」
エルフのライアの口にあったようでクロヴァは嬉しそうに笑ったが、彼女はそれどころではない。
もはやボウルを抱え込み、頭を突っ込む勢いでサラダにがっついている。
よほど腹が減っていたのか、そしてそれだけ美味しかったのか……
その食べっぷりにクロヴァは苦笑してから、スープの様子を見に土間に向かった。
「ムシャムシャ、ガツガツ!」
クロヴァが去ったことも気づかないくらい、ライアはサラダに夢中になっていた。
だが、その様子が少し変になってきた。
サラダに夢中になっている彼女だが、その目はなぜか夢見心地のようにとろんとしている。
そしてうわごとのようにつぶやき始めた。
「ん、ぅぅ……おいしい、きのこ、おい、しい……それに、なんだか、むずむずする……」
先程までクロヴァに対して見せていた油断なく警戒心を強めて張り詰めた表情はもうない。
まるで情事のときのような表情で身体をもじもじさせながらライアはサラダを食べ続ける。
そのサラダがなくなるころ、ライアの異常はさらに顕著になった。
「……ん、くぅ……くすぐったい、ふく、くすぐったいよぉ……もう、ぬいじゃお……」
フォークを一度置き、ライアはボロボロになった緑のワンピースを脱ぎ捨てた。
飾り気のない、弓を引くのに邪魔にならないように押さえ込むための白いブラと、同じように飾り気のないショーツだけの姿になる。
だがそれでもまだ身体がむずがゆいのか、ライアはそのブラとショーツすらも脱ぎ捨てた。
もはやライアは何も身にまとっていない、生まれたままの姿だ。
その状態で再びフォークを取り、サラダの最後の一口分に突き刺した。
突き刺された野菜の葉とゼリー状の芯、キノコが彼女の口の中に消える。
「……んはぁ」
味わうように咀嚼したライアの口から満足したような、だがどこか甘い響きが見える声が漏れた。
だが、本当に満足したわけではないようだ。
「あぅう……たりない、たりないよぅ……もっとぉ、もっときのこたべたいよぉ……」
生まれたままの姿のまま、間延びした声で、フォークを置いた彼女はつぶやく。
そこに、クロヴァが戻ってきた。
「スープ、あとちょっとでできるからね……って何をしているんだ、君は!?」
クロヴァが仰天した声を上げる。
無理もない。
さっきまでサラダを食べていたはずの初対面のエルフが全裸になってボーッと宙を見ていたのだから。
一応、上流階級の都合で女性を多少なりとも抱いたことのあるクロヴァだが、さすがにいきなり女の裸を見たらそれは気が動転する。
一方のライアは声をかけられて始めてそちらの方に向き直り、にへらとだらしない笑顔を浮かべた。
その様子に裸体を晒していることへの羞恥心は見えない。
「あ、おかえりぃ……ねえ、きのこ、もっとないの……? おいしいきのこ、もっと……」
「へ? キノコ? そんなにあのキノコが気に入ったのかい? じゃなくて……! なんて格好をしているんだ!?」
普通に受け答えしそうになったが今の状況がどう考えてもおかしいことを思い出してクロヴァは言葉を切って叫んだ。
悪びれもせず、ライアは応える。
「んぅっ、しかたないじゃない、むずむずするんだものぉ……」
そして立ち上がってふらふらとクロヴァの方へ歩み寄る。
ところどころ汚れているが、それでも白くてすべすべの肌が惜しげもなく全てさらけ出されていた。
彼女が一歩ずつ歩くたびにぷるんぷるんと揺れ動く、今は何にも押さえつけられていない真っ白な乳房が目を引く。
クロヴァもそれに目がひかれそうになるが、ライアの身を案じて彼女に寄った。
そして肩を掴んで話しかけようとする。
「おい、本当にどうした……」
「んひゃうぅ!?」
クロヴァに肩を触られた瞬間、ライアはびくんと全身をわななかせて甘い声を上げ、がくりと膝を着いた。
予想しなかった反応に驚いたクロヴァは思わず後ずさったが、その時に足を滑らせて尻餅を付くような形で転んだ。
「あ、ぁ……いま、の、きもちいい……きもちいいの、うれしい……」
少しの間びくびくと震え余韻に浸っていたライアだったが、すぐに持ち直して再度クロヴァに、四つん這いの状態で這うようにしてにじり寄った。
「くっ……」
彼女を蹴り飛ばしたりしてでも逃げるべきか、様子を見るべきか、彼女を何かしら介抱するべきか……迷いがクロヴァの動きを鈍くした。
迷いだけではない。
鋭さは抜けて潤んだ上目遣いの目、とろけた表情、揺れる胸、柔らかそうな身体……
にじり寄ってくるライアの淫靡な姿も彼の動きを鈍らせた要因だった。
ここが戦場だったら、クロヴァの命はこれでなかっただろう。
「……ねえ、きのこ……もっと、もっとたべたいの……きのこ、ちょうだい……?」
ついにライアはクロヴァに接近し、ひしっと彼の服を掴んで逃げないようにした。
「いや、君が望むならあげるけどさ……」
「うーん、きのこぉ……すんすん、おいしそうなにおいぃ……クロヴァからするぅ……」
しどろもどろになりながらクロヴァが答えるが、ライアはその答えを聞いていなかった。
何かにあっと気づいたような表情をし、そっちに興味が移っている。
くんくんと匂いを嗅いでいたライアが、その動きをクロヴァの腰のあたりで止めた。
その表情がパッと、砂漠でオアシスを見つけた旅人のように輝き、えへらとだらしなくも淫靡な笑みを浮かべる。
「あはぁ……おいしそうなきのこのにおいぃ……ここからするぅ」
「お、おい!」
クロヴァが声を上げる。
ライアがあろうことか、彼のズボンを下ろそうとしたからだ。
彼女を止めようとしたが、それより彼のズボンが下着と一緒に下ろされるのが先だった。
ライアの淫らな姿を見て反応し始めていた性器が露になる。
まだ完全には勃起していないが、大きくなり始めた男性器はエラが張っており、確かにキノコのようであった。
「あ、きのこ……なぁんだ、こんなところにあったんだ……」
うっとりとした表情でライアはそのキノコをさする。
女性の柔らかい手にさすられ、ここ最近女性どころか自分でも慰めていなかった男性器がたちどころに固く張り詰めた。
食べごろとなったキノコを前にしてライアはクロヴァにねだる。
「ねぇ、きのこ、ねぇ……きのこ、たべさせて……?」
「いや食べさせてって……ぬおぅっ!?」
クロヴァの抗議の声が途切れる。
彼の逸物はクロヴァの答えを聞く前にライアの口内に消えていた。
「ん、れる……じゅるじゅる、んちゅう……んっ、んっ、ん」
ライアの舌がクロヴァの性器の先端を転がし、竿を面で撫で、さらに巻き付く。
頭もリズミカルに動かされ、それに合わせて彼女の金髪が揺れ動いた。
涎もいやらしく絡められてぐじゅぐじゅと淫猥な音を立てる。
これが少し前までクロヴァにキツくあたり、自らを「誇り高き」と言ったエルフかと疑いたくなるくらい、彼女の舌使いは巧みで執拗で貪欲で淫らだった。
たちまちのうちにクロヴァは追い詰められる。
「や、やめるんだライアっ! そんなにされると俺は……!」
なんとか彼女から離れようとクロヴァは腕を伸ばし、彼女の肩を押しやろうとする。
「んぅうううっ! んはぁあっ! はふぅ……なんれぇ……? こんなに、おいひいのにぃ……んむぅ、ちゅるるるるっ! じゅるり、はぅ、ちゅぷ…… 」
先程と同じように肩に触れただけで身体を震わせて声を上げたライアだったが、一度口を離して息をついただけだった。
何がまずいのかよくわからない、と言わんばかりの反応を見せ、再びクロヴァのキノコをくわえ込む。
ほとんど休む間もなく加えられた刺激の影響で、クロヴァの性器が一回り膨れ上がる。
射精の前兆だ。
魔物としての本能でそれを感じ取り、そして突き動かされたのか、ライアはクロヴァの肉棒をさらに深くまで咥え込んだ。
「よせっ、本当に……うあ、ああああ!」
クロヴァ腰がガクンと跳ね上がり、どぷりと精液がライアの口の中に放たれる。
少し驚いた表情をしたライアだったが、それでも銜え込んだキノコは口から離さない。
それどころか口内に広がったこれ以上ないほど甘美な味わいを感じ取ると、眼の色を変えて精液を飲み下し、もっと出せとねだるかのようにちゅうちゅうとペニスを吸い立てた。
「あっ、あぐっ! がっ!」
射精直後の敏感な性器にそんな刺激を加えられ、クロヴァは床の上に倒れ込んで身体をビクビクと痙攣させた。
クロヴァはまだ人間ゆえに射精はすでに収まっていたが、肉棒は彼女の刺激で萎えることを許されていない。
これ以上吸っても今味わった甘美な味はもう出てこないと理解したライアは名残惜しそうに口を離した。
そして始めて会ったときからは考えられないようなとろけた笑顔を浮かべてクロヴァにしなだれかかる。
「ん、んひゅう! クロヴァ〜……」
やはり肌にクロヴァの身体が触れるたびに身体を震わせ、甘い声を上げる。
「くそっ……」
射精後の影響で身体に力が入らない。
そして目の前で自分に無防備にしなだれかかっているエルフがたまらなく魅力的に、愛おしく見える。
クロヴァはライアを突き飛ばしたりすることができなかった。
代わりに、彼女に訊ねてみる。
「ライア、どうしてこんなことを……?」
「そんなの、どうでもいいでしょぉ……? だって、きのこたべたら、おいしくって、あたまがふわふわしてぇ……♪」
どうでもいいと言いながらも答えてくれた情報で、クロヴァは全てを悟った。
あのキノコと野菜だ。
この世界にはマタンゴモドキというキノコとまといの野菜という野菜がある。
マタンゴモドキは、強力な催淫作用を持ち、意識を混濁させる作用も持つ。
まといの野菜は食べた者の肌を敏感にさせるのだ。
目の前のエルフのように、触れられるだけで嬌声をあげるほど、服すらもどかしくなるほど。
おそらくサラダに使ったのはその二つだったのだろう。
『とすると、あれを売った商人は……!』
クロヴァの思考はそこまでだった。
しなだれかかっていたライアがクロヴァの胸板をついて仰向けに動きを封じる。
「きのこがなにかなんて、もうどうだっていいじゃなぁい……♪ それよりぃ、もっともっとぉ、きのこたべたいのぉ……きもちよくなりたいのぉ……♪」
そう言いながらライアはクロヴァにまたがり、すでに潤みきった秘所を男根の真上に合わせた。
マタンゴモドキの催淫効果はただ性欲を高めるだけではない。
性を知らない乙女であろうとプライドが高いヴァンパイアであろうと食べた女性に、膣に男性器を受け入れるよう、はっきりと仕向けるのだ。
クロヴァは顔を引きつらせて、思いとどまるように叫ぶ。
いくらここ最近女日照りで魔物に対してそんなに偏見を持っていない彼でも、元は禁欲的な主神教団の国の上流階級の出であり、誰彼交わろうと思うほど落ちぶれてはいなかった。
「よ、よせライア! こんなこと、初対面の男相手にやることでは……!」
「しょたいめん〜? そんなのかんけいないよぉ……♪ だって、あんなおいしいものくれたんだもの、あなたはきっといいニンゲンなんだ……♪ だから、いっしょになったって……」
好意の滲みでた、嬉しそうな笑顔を浮かべてライアはやんわりとクロヴァの言葉を遮り、否定した。
秘所がゆっくりと降りて男根にあてがわれる。
ライアの、まだ他人には触れられていない媚粘膜とクロヴァの亀頭が擦れ合う。
先端が擦れるだけでクロヴァの身体には快感が走り、びくんと身体が震えた。
抵抗する気が一気に削がれてしまい、脱力してしまう。
その様子にライアは満足そうに笑い、ゆっくりと腰を落としていった。
押さえ込んだような声が二つ、部屋に響く。
クロヴァは射精をこらえるために歯を食いしばっており、ライアはかすかな痛みに息を詰めていた。
彼女の秘裂からは血が一筋流れている。
それにはっと気づいてクロヴァは、上体を起して彼女に声をかけた。
「ライア、大丈夫か……?」
「んぁ、ぁ……だいじょうぶ、だよぉ……ほらぁ……」
魔物娘の身体が頑強なのと、マタンゴモドキによる催淫作用があるからだろう。
ライアは最初以上の辛さは見せず、にんまりと笑顔を深めて軽く腰を動かした。
たまらないのはクロヴァだ。
キツく締め付けながらも熱くたっぷりと潤んだ処女洞に肉棒をゆったりとこねくり回され、快感のあまり思わずライアにしがみつく。
いきなり敏感になっている肌に触れられて身体を震わせたライアだったが、すぐに嬉しそうに笑った。
「んひゃう!? んぅ……ん、んふふ、きもちいいんだねぇ……? わたしも、あそこもせなかもきもちいいよぉ……♪もっともっとぉ、いっぱいきもちよく、なろぉ……♪ いっしょに、ね? 」
クロヴァを抱きしめ返し、ライアはゆったりと腰を前後させた。
豊満な胸はクロヴァの体に密着してひしゃげ、むにゅむにゅと変形している。
胸からの快感にライアはクロヴァの上でライアは身体をびくびくとわななかせ、声を上げた。
彼女が震えるたびにその振動がペニスにも伝わり、クロヴァの身体を固くさせる。
「んぅぅぅっ!! おっぱい、おっぱいぃ! おっぱい、きもちいい……♪ もっと、むにゅむにゅてぇ、クロヴァからもむにゅむにゅしてぇ……♪」
理性の枷を完全に失っているためか、与えられる快楽を拒絶するどころかむしろもっともっとと求めていく。
言われたとおりクロヴァは片手を自分とライアの間に潜り込ませ、その豊満な乳房を揉みしだいた。
ライアの口からより甘く大きな嬌声が漏れ、一度胸を揉まれるたびそれに反応するようにして膣が収縮する。
もう一方の手でクロヴァはさわさわとライアの腰や尻を撫でる。
「ひぁぁぁぁんっ!あ、はぁ、くすぐったいぃ! でもきもちいいのぉ! びりびりってしてぇ! おかしくなっちゃうのぉ!」
まといの野菜の効果によって敏感になった肌には、たどたどしい愛撫による刺激も十分な快感として伝わっていた。
快感は彼女を駆り立て、腰の動きをより淫らにくねらせるものにし、膣の締め付けをより強力にする。
射精の感覚が近づいてきてクロヴァが声を上げた。
「はぐっ、そんなに締め付けるな……! また……またっ……!」
「んぅぅっ……いいよぉ、だして、わたしのなかに、おいしいのいっぱいそそいで……!」
「ちょ、おい……くっ!」
膣内に注ぎたくないから抜いてくれという意味だったのに、ライアはクロヴァの体に足を絡め、全身を思い切り密着させつつ膣を締め付けてきた。
逃げられない。
なすすべもなく、クロヴァの身体がそのまま絶頂を迎えた。
「あ、ぬああっ!」
「んく……っ、あ、ひぁぁぁぁぁっ!」
クロヴァと共に、ライアも絶頂に達した。
注ぎ込まれた精液の熱さと濃さ、粘っこいそれに奥を叩かれる感覚、そして精の味わいといった甘美な感覚の全てに、マタンゴモドキの影響で混濁している頭が掻き回される。
「あ、あ、ああああ……」
二度目の射精にぐったりとクロヴァは仰向けに倒れた。
彼に抱きついていたライアの身体もつられて倒れこむ。
「あふぅ……おいしいのが、おなかにいっぱいぃ……あんっ♪」
クロヴァの身体の上でうっとりとした表情を浮かべながらライアはつぶやく。
一方のクロヴァは何も言わない。
絶頂後の脱力感もあるが、初対面のエルフの膣内に己の精を注ぎ込んでしまったという罪悪感が彼を苛んでいた。
だが罪悪感と同時に彼の心の中にはこのエルフに対する慕情のようなものも芽生えていた。
初対面のときのキツい印象と情事中のとろけた印象との差なのか、ただ単に交わったら情が移ってしまったのか、それとも魔物の魅力にあっさりと魅了されてしまったか……
だがそれは確かに、初対面の好印象とは違う、はっきりとした好意ではあることを彼は自覚していた。
「ん〜、クロヴァ、つかれちゃった……? それならぁ……んむっ……」
脱力しているクロヴァの様子を見て、ライアが優しく唇を奪った。
そのまま軽く舌を絡めとり、いたわるようにしてキスを続ける。
キスされた事に一瞬驚くが、すでに彼女に想いを抱いているクロヴァははっきりとそのキスに応じた。
そしてそっと背中を撫でさする。
「ひゃっ、ああぁっ! うあああっ!?」
まだまといの野菜の影響で敏感なままだったか、ライアは大きく背を反らせる。
しかしその声は……最初は甘い嬌声であったが、後のは驚愕したような声だった。
身体を反らせていたライアが姿勢を元に戻し、クロヴァを見下ろす。
その顔は情事の影響で上気していたが、目は光を取り戻しており、正気に戻っていることを示していた。
二人の時間と空間が凍りつく。
「……な、な、なんだこれはーっ!?」
沈黙を破ったのはライアの悲鳴だった。
顔を真っ赤にして叫び、クロヴァを睨みつける。
だが、パニックに陥ったままなのか、それともマタンゴモドキの影響がまだ多少残っていたのか、クロヴァの性器を深々と膣内に埋めたままで、その二人の結合を解こうとしなかった。
「あ、あの……これは、その……覚えていないのかい?」
今、二人が交わったというのは言い逃れができない状態だ。
ならば相手に話を聞いてもらえるよう落ち着いてもらい、そのために自分を落ち着ける必要があった。
ライアがいきなり正気に戻ったことや大声を上げたことには驚いたが、それをなんとか抑えてクロヴァは静かに語りかける。
「な、な、な……貴様、何をしらばっくれて……!? あ……」
冷静なクロヴァの言葉にライアはさらに声をあげようとしたが、おぼろげながら先ほどの情事の記憶を思い出したのか間の抜けた声を上げた。
黙ってクロヴァはライアの反応を待つ。
確かあのサラダを食べてからボーッとして……とか、嫌がるこの男を押し倒して……とかと、ライアはブツブツとつぶやいて記憶を辿る。
この男のことをいいニンゲンだとも言って……や、この男に恥ずかしい姿を全部見せて……!ともつぶやき、顔を真っ赤に染めた。
ぶつぶつとライアはつぶやいていたが、彼女の中で何か結論が出たのか、クロヴァを見下ろして口を開いた。
「……な、なあ。この状況、あのサラダに原因があるのだから……それを食べさせたお前にも責任はある、よな?」
「そ、そうだな……」
認めざるを得ない。
知らなかったとは言え、彼女にマタンゴモドキとまといの野菜を与えたのは自分だ。
自分に彼女と交わろうとする下心などがなくても、サラダを与えたことでこのような結果を引き起こしたのであれば、それはクロヴァに非がある。
「すまない……」
素直に、クロヴァは自分の非を詫びた。
ライアは軽く首を横に振って続ける。
「……謝らなくてもいい。ただ……責任は、きちんととらなければならない、よな?」
自分を見下ろすライアの目をクロヴァはじっと見つめる。
その目にはこうなったことへの責任を取れという圧迫感と……目の前の男への愛情と、その男と結ばれる期待のような物が星のように光っていた。
『あんなおいしいものくれたんだもの、あなたはきっといいニンゲンなんだ……♪ だから、いっしょになったって……』
ひとつになる直前の彼女の言葉を思い出す。
あれは、マタンゴモドキの影響で意識が混濁したからこそ出た、彼女の偽らざる好意だったのだろう。
食べ物がきっかけというのも締まらないが、確かだ。
「つまり、君は俺とけ……」
「か、勘違いするなっ! これはあくまで責任をとってもらうだけだ! お前に食事と寝床を用意させるという荷を負わせるだけのことなんだからな!」
クロヴァが言おうとした結婚という言葉が照れくさくなったのか、羞恥に顔をりんごのように赤く染めてライアはあれこれと取り繕う。
そんな彼女にクロヴァは苦笑を漏らす。
彼もまた、交わりの最中から感じていたことだが、彼女に好意を抱いていた。
そして、そんな魅力的な彼女と共に暮らせることを嬉しくも感じていた。
滅茶苦茶な形で始まった二人の関係だが、いい予感はある。
「分かった。このクロヴァ・グラント、全身全霊をかけてライアとともに寄り添い生きて行くこと、愛することを誓おう」
クロヴァはライアを抱きしめた。
「んひゃうう!?」
まだまといの野菜の影響も残っていたのか、ライアが嬌声を上げた。
慌ててクロヴァは謝って、彼女の身体を離そうとした。
「いや、いいんだ……そ、それより……今の言葉、誇り高きエルフを前にして嘘偽りはないな?」
「ああ、ない」
はっきりとした声でクロヴァは答えた。
それを聞いたライアの顔に笑みが浮かぶ。
だがその笑顔は、男を上手く篭絡した狡猾な女の笑みではなく、純粋に男を手に入れて歓び、そしてこれからの快楽の生活を期待する、とろけた魔物の笑みだった。
えへらと笑いながらクロヴァを見ていたライアだったが、自分がそのような表情をしているのに気づいたか、ぷいっと横を向く。
「ふ、ふん! せいぜい、全力で償うことだな……!」
横を向きながらもチラチラと、共に生きて行くことになった男のことを見ながら、ライアは照れ隠しにそう言うのだった。
将軍の家を追い出されたクロヴァと、エルフの集落を追い出されたライア……
二人はこうして結ばれた。
その結ばれる際のきっかけとなったのは、やはりマタンゴモドキとまといの野菜だっただろう。
それも二つ同時に使ったことによる結果だ。
エルフの高いプライドすら崩落させた、マタンゴモドキとまといの野菜の組み合わせによって取りもたれて結ばれた二人は今、森の奥で今幸せに暮らしている。
12/10/09 21:03更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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