稲荷の琴葉
「えーっ!? 大地、もっと遅くなるんっ!?」
携帯電話を手にしたまま琴葉はソファーから立ち上がって叫ぶ。
「すまん、琴葉」
携帯の受話口から、琴葉の恋人の絞り出すような声が流れる。
今日、稲荷の琴葉は恋人の鈴木大地の家に遊びに来ていた。
二人は遠距離恋愛で、会うのは二週間ぶりである。
それだと言うのに今日、大地は帰る直前に急な仕事が入って残業することになった
「帰るのが一時間ほど遅くなる」と電話されたのが一時間前、そして今、さらに遅くなると言われたところだ。
不満げに琴葉が頬と、三本の尾を膨らませる。
「もうっ! 今日は大地とぎょうさんおしゃべりして、夕飯も仲良ぅ食べて、ぎょうさんエッチしたいと思うておったのにぃ〜!」
送話器に向かってまくし立て気味に言う琴葉。
彼女の言葉には京訛りが入っていてほがらかな印象を受けるが、かなり怒っている。
「本当にごめ……」
「もう知らへん!」
さらに謝ろうとする大地をピシャリと琴葉は遮った。
ショックを受けたように電話の向こうで大地が黙る。
実際に、かなりショックを受けているのだろう。
思惑通りとばかりに琴葉の口がにぃっと狡猾そうな笑みを作った。
確かに彼女は怒ってはいるのだが、大地と喧嘩したいほど怒っている訳ではない。
彼の早く帰りたいという気持ちも良く分かる。
今回のように、琴葉が来たのに大地の帰りが遅くなるということも以前に何回かあった。
だからこそ知っているのだ。
ただ「遅い!」と言ったり「早く帰ってきて」と言ったりするだけでは効果がないと。
もちろん「もう知らない!」と突き放すのも効果はない。
これは次の戦略の布石だ。
黙ってしまっている大地に琴葉は怒っている調子で続ける。
「こうなったら……大地が帰って来はらないのなら、うちが一人でエッチしはるさかいにもうええっ!」
「うぇ、ええええっ!?」
琴葉の言葉に動転したような声を大地が上げる。
計算通りの反応だ。
普通の催促で効果がないなら、別の手段を使えばいい。
そして魔物娘の得意な手段と言えば、色仕掛けだ。
とは言えいつもの大地だったらただ彼を楽しませてしまうだけの結果となっただろう。
だが今は、琴葉に拒絶されたかのような言葉でショックを受けている状態だ。
思考が乱れているその状態で色仕掛けをされたら冷静な判断ができず、自分の誘いに乗るだろう。
そう琴葉は考えたのだ。
どすんと音を琴葉はソファーに座り込む。
音を立てたのも受話器の向こうにいる大地に聞こえるようにするためだ。
「こ、琴葉?」
音はちゃんと大地に聞こえたらしく、そして琴葉の宣言が本気だと分かったらしい。
戸惑い気味な声を彼は上げた。
「え、ええか大地? ほ、ほんまにうち、一人でしちゃうんやからねっ!」
自分から自慰をすると言ったのに、琴葉の声は震えていて、顔も羞恥で真っ赤になっている。
琴葉は幼いころは山奥で暮らしており、他の魔物と交流がなかった。
それゆえか、彼女は他の魔物と比べて性に関して奥手で羞恥心が強かったりもする。
自慰を電話越しに大地に聴かせるというこの状況も、頭が爆発しそうなほど恥ずかしい。
だが……そのことが彼女の心を性的に高ぶらせてもいた。
身体の奥が、特に蜜壷が熱くなって潤み始めている。
やはり彼女も魔物娘……三本の尾を持つ稲荷なのだ。
性に対する欲と楽しむ気持ちは他の魔物と勝るとも劣らない。
「ね、大地……」
媚びるような声を出しながら、琴葉は携帯電話を持っていない手をプリーツミニスカートの中に入れる。
スカートの中のショーツを片手でくいくいと引っ張って下ろしていき、そしてそのまま脚から抜き取った。
「今、ショーツを抜ぎはったよ。濡れて汚れたらあかんさかいね」
電話ゆえにこの状況をみることができない大地のために、琴葉は実況してみせる。
頬は相変わらず羞恥心で赤かったが、一度始めたら腹がくくられたのだろう。
もう声は震えていなかった。
ショーツを適当にソファーの上に放り、琴葉は行動を進める。
サマーセーターの上からじっくりと自分の胸を揉み始めた。
「んっ……今、自分の胸を触っているんやよ。この手を大地の手だと思って……うっ、ふぅん……」
甘い吐息をつきながら琴葉は胸を揉み続ける。
電話の向こうで大地がゴクリと唾を飲み込んだ気がした。
『ああ、大地……うちの自慰、聞いてくれてはるんやな……そいで、興奮してくれてはるんかな? もう、大きくしてはるかな?』
電話の向こうで、仕事中のはずの大地はどんな表情をしているだろうか。
顔を恥ずかしそうに赤くして、何とか仕事に集中しようとしながらもつい自分の自慰を聞いてしまっているだろうか。
それとも仕事などそっちのけで耳に神経を集中させて自分の自慰を聞いているのだろうか。
大地の様子をそれぞれ想像して、琴葉の気持ちがさらに高まる。
もうセーターの上からなどもどかしい。
裾から手を潜り込ませ、ブラをたくし上げて直接胸を揉みしだく。
人差し指で乳首を、大地がやるように転がすのも忘れない。
「くぅぅんっ!」
思わず鼻にかかった嬌声が漏れた。
声を出さなくても、はぁはぁと息がまるで運動をした後のように上がっている。
一方、電話口の大地の息使いも少し荒くなっていた。
「ん、はぅ……大地? 大地も興奮しとるん?」
「えっ? あ、ま……まぁ……」
やや歯切れが悪いが、大地が肯定する返事をした。
自分の自慰の様子を聞いて恋人が興奮してくれている……そのことに琴葉の心と身体が喜びに震える。
ぐっと両足をソファーの上に乗せると、ツツツ……っと尻の割れ目を愛液が伝ったのを感じた。
こんなに濡れるならやはりショーツを脱いでおいて良かったと思いながら、琴葉は下腹部に手を伸ばす。
「大地が興奮してくれはって、うち、嬉しい……うちもな、えらく興奮しとるんや……今、オメコから汁が零れてもうてる……」
羞恥心も麻痺してきた。
また、今この場に大地がいないというのも琴葉を大胆にする要素になったようだ。
あられもない言葉を琴葉は電話の向こうにいる大地に聴かせる。
そしてついにその細い彼女の手が、自分の秘裂に届いた。
細い指先が蜜を掬い取りながらぬるりと粘膜を撫でる。
「ふうぅうん!」
ソファーの上で琴葉は身をすくませて声を上げた。
一度撫でただけでは止まらない。
何度も何度も指は花弁が吐き出す蜜を掬いとり、それを最も敏感な部分、クリトリスに塗りつけた。
「はぁっ、はぁ……んっ、んふうぅ! 大地ぃ……うち、えらい……くぅっ、ぬ、濡れとる……大地が欲しくてえらい濡れとるよ……ひゃう!」
にゅるにゅると秘裂をなぞるように指を動かしながら、琴葉は快感でふわふわした声を出す。
頭はまるで熱病にでもかかったかのようにふわふわとしたもやがかかっていた。
徐々にそのもやは広がっていき、琴葉から羞恥心と理性と思考能力を奪っていく。
もやに透けて残るのは快感を貪りたい心と、この淫らな様子を恋人に見せたいという欲望……
その欲望に突き動かされ、琴葉は普段の彼女からは考えられない大胆な行動に出た。
「ね……聞いて、大地……」
琴葉は一度、携帯電話を顔から離した。
そしてそれを下腹部に近づけていく。
携帯電話を股間に持ってきたところで、琴葉は秘裂をいじる指の動きを激しくした。
上下に動かしたり、あるいはかき混ぜるように動かしたりして、ぐちゅぐちゅとわざと卑猥な音を立てる。
「あっ、ああああっ! んっ! あっ! ふあああ、大地ぃいっ! ひゃうっ! あはぁ!」
身体をわななかせながら琴葉は喘ぐ。
離れているところにある電話に声が届くよう大袈裟に喘いだのだが、それがまた自分を掻き立てていた。
『うち……うち、電話しながら一人エッチして、こんなにいやらしいオメコの音を大地に聞かせとる……恥ずかしいけど、気持ちええ……っ!』
自分の喘ぐ声と股間から響く音を遠くに聞きながら琴葉はぼんやりと考える。
そろそろ十分に大地に聞かせたと思い、琴葉は受話器を耳に当てた。
体勢もソファーの上で開脚して座っている状態から、普段一人で慰めている時と同じように仰向けへと変える。
「はぁっ、はぁ……大地、聞こえた? うちのオメコ……こんなにぐちょぐちょになっとるんよ? 大地とエッチしとうてしとうて、こんなになっとるんよ?」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
大地からは返事がない。
ただ荒い呼吸音が受話器から流れている。
「大地……まさか大地も自慰をしはっとるわけやないやろな? あかんでっしゃろ、そんなところで自慰をしちゃ……」
「あ、ああ……」
曖昧な肯定の言葉が返ってきたが、大地の荒い呼吸は止まらない。
「それに、男の人は果ててまうと精を無駄撃ちしてまうんやからね? そないなこと、許しまへんえ? 今果ててええのはうちだけやさかいね?」
状況的には大地におあずけをかましている、自分が優位に立っている状態……にやりと琴葉の口が笑みの形を作る。
再び琴葉の手が蜜を垂らしている花弁に向かい、そのちょっと上に位置する陰核にそっと触れた。
自慰でイクのは琴葉にとって本意ではない……本当は大地の手によって絶頂に導かれたい。
だが、このまま果ててその自分のイヤらしい声を聞かせて、大地に早く帰らなければという気持ちを起こさせたいと言う気持ちもある。
その思いから、琴葉は再び自分が生み出す快楽の世界に身を躍らせた。
「んっ、あぁん、んぁ……こんなに、気持ちええなんて……あふっ、うっ、ああっ!」
普段、自慰をするときは左手で胸を触りながら右手でクリトリスをいじるのだが、今はその左手が携帯電話でふさがっている。
しかし大地に自分の自慰の様子を聞かせていることが、胸をいじるのに劣らない快楽と興奮を琴葉にもたらしていた。
「はぁ、うぅ……大地ぃ、よう聞いて……うちのいやらしい声、よう聞いて……んぁ、あふぁ、あぁんっ……!」
夢中で肉芽をいじりながら、琴葉は淫らな言葉も混ぜながら大地に自慰の様子を聞かせた。
身体にぞくぞくとした快感と震えが走る。
彼女の蜜壷からはもはやとめどなく蜜があふれ、尻を伝って尾の根元とソファーにしたたり落ちて染みを作った。
「あぁんっ! んぁ、はぁはぁ、あぁ、とろける……はぁ、大地……うち、オメコがとろけてまいそうや……ひぐっ、あっ、ああ……イクっ、イキそうや……うう、ふああ……うちの腰、自然と動いてはるよ……」
まるで正上位で大地と交わっている時のように、琴葉の腰が淫らにくねっている。
言葉のとおり、クライマックスが近い。
大地が電話の奥で期待に息を飲んだ。
「大地っ! うち、イクっ! イクっ……くっ、うぅううっ!」
膣や子宮での快感が弾け、脊髄から脳まで貫かれる。
がくんと琴葉の身体がソファーの上で弓なりに反った。
その体勢で身体全体が、特に腰がぶるぶると震える。
「あっ、あっ……あうぅう……だいちぃ……」
絶頂が過ぎ去り、身体をソファーにぐったりと沈ませながら琴葉は電話口に向かって恋人の名前を呼ぶ。
「うち、イッてもうたよ……ほんまは大地に気持ちようしてほしいのに……」
「ああ……」
鼻をしゅんと鳴らす琴葉に、大地が申し訳なさそうに短く返事をした。
「寂しいよ、大地……はよぅ、はよぅ帰って来てよ……今、どこにおるん?」
「「うん、実はもう帰って来ているんだ」」
「えっ!?」
二つのことに琴葉は驚愕し、絶頂の余韻で弛緩していた身体を硬くした。
ひとつは、大地が今言った言葉……
もうひとつは、大地の声が電話の受話器からと、玄関とリビングの間にあるドアの向こうから聞こえたことだ。
がちゃり……
そのドアが開き、携帯電話の通話を切りながらバツの悪そうな顔をした大地が姿を現した。
「えっ!? あ、あ、ふあっ……」
驚きと羞恥心でパニックに陥った琴葉は意味のなさない言葉を口走り、顔を林檎のように赤く染める。
それでも無意識のうちに股間をふさふさの尾で覆うことはできた。
「あ、あう、だ、だいち……その、なんでもう帰ってこれはったん? まだ会社にいはると思ったのに……」
口をぱくぱくさせていたが、ようやく落ち着きを取り戻したのか、搾り出すような声で琴葉は訊ねた。
琴葉の問いに大地は答える。
二回目の電話……今の電話は会社からではなく、このアパートから電車で二駅のところでかけていたのだ。
だが、そこから最寄り駅への電車が車両故障で止まってしまったらしい。
そのことを電話で大地は言おうとしたのだが、それより先に琴葉が怒ってしまい、自慰を始めた……こう言うことだったのだ。
ちなみに電話中の彼の荒い息使いは、琴葉が電話で自慰を大地に聞かせている間、このアパートに早く帰ろうと走っていたかららしい。
まとめると、琴葉の今回の色仕掛けに自慰をする作戦は独り相撲、自爆と言うことになる。
それを理解した琴葉は顔を羞恥心に赤く染めた。
「む、むうううっ!」
突然琴葉はソファーの上から跳ね起き、大地に駆け寄ってその胸に飛び込んだ。
そのままぽかぽかと恋人の胸を拳で叩く。
「大地のアホぅ! うち、めっちゃはずかしい思いをしたやないか〜っ! う〜!」
「あぁ、ごめんよ」
そこで、勝手に自慰をしたのは琴葉だ、と言わないのが大地だ。
素直に謝って琴葉を落ち着かせるように背中を撫でる。
大地に撫でられて琴葉は恥ずかしさや自爆した悔しさなどの気持ちが鎮まっていく。
代わりに大地に包まれているがゆえ、彼を欲する気持ちがむくむくと高まってきた。
いや、相手を欲しがっているのは琴葉だけではない。
大地もまた琴葉を欲していた。
その証拠に抱きしめられている琴葉の身体には怒張している大地のモノが当たっている。
『そう言えば、大地……うちが自慰をしとる間、ずっと我慢してはったんやろな……』
大地に抱きしめられたまま、そっと琴葉はそれを優しく撫でた。
琴葉の動作に気づいたのか、大地の琴葉を抱きしめる腕が強くなる。
そして耳元で申し訳なさそうにぽつりとつぶやいた。
「ごめんな、琴葉。帰ってくるのが遅くて」
「ううん。うちこそワガママ言うて堪忍な……あっ」
肝心なことを言うのを忘れていた。
顔を上げて下から大地の顔をのぞき込みながら、琴葉はそれを言う。
「おかえり、大地」
「……ああ、ただいま」
そして二人のくちびるが繋がった。
もう既に二人の身体には火がついている。
少々遅くなったが……二人の夜は、これからだ。
携帯電話を手にしたまま琴葉はソファーから立ち上がって叫ぶ。
「すまん、琴葉」
携帯の受話口から、琴葉の恋人の絞り出すような声が流れる。
今日、稲荷の琴葉は恋人の鈴木大地の家に遊びに来ていた。
二人は遠距離恋愛で、会うのは二週間ぶりである。
それだと言うのに今日、大地は帰る直前に急な仕事が入って残業することになった
「帰るのが一時間ほど遅くなる」と電話されたのが一時間前、そして今、さらに遅くなると言われたところだ。
不満げに琴葉が頬と、三本の尾を膨らませる。
「もうっ! 今日は大地とぎょうさんおしゃべりして、夕飯も仲良ぅ食べて、ぎょうさんエッチしたいと思うておったのにぃ〜!」
送話器に向かってまくし立て気味に言う琴葉。
彼女の言葉には京訛りが入っていてほがらかな印象を受けるが、かなり怒っている。
「本当にごめ……」
「もう知らへん!」
さらに謝ろうとする大地をピシャリと琴葉は遮った。
ショックを受けたように電話の向こうで大地が黙る。
実際に、かなりショックを受けているのだろう。
思惑通りとばかりに琴葉の口がにぃっと狡猾そうな笑みを作った。
確かに彼女は怒ってはいるのだが、大地と喧嘩したいほど怒っている訳ではない。
彼の早く帰りたいという気持ちも良く分かる。
今回のように、琴葉が来たのに大地の帰りが遅くなるということも以前に何回かあった。
だからこそ知っているのだ。
ただ「遅い!」と言ったり「早く帰ってきて」と言ったりするだけでは効果がないと。
もちろん「もう知らない!」と突き放すのも効果はない。
これは次の戦略の布石だ。
黙ってしまっている大地に琴葉は怒っている調子で続ける。
「こうなったら……大地が帰って来はらないのなら、うちが一人でエッチしはるさかいにもうええっ!」
「うぇ、ええええっ!?」
琴葉の言葉に動転したような声を大地が上げる。
計算通りの反応だ。
普通の催促で効果がないなら、別の手段を使えばいい。
そして魔物娘の得意な手段と言えば、色仕掛けだ。
とは言えいつもの大地だったらただ彼を楽しませてしまうだけの結果となっただろう。
だが今は、琴葉に拒絶されたかのような言葉でショックを受けている状態だ。
思考が乱れているその状態で色仕掛けをされたら冷静な判断ができず、自分の誘いに乗るだろう。
そう琴葉は考えたのだ。
どすんと音を琴葉はソファーに座り込む。
音を立てたのも受話器の向こうにいる大地に聞こえるようにするためだ。
「こ、琴葉?」
音はちゃんと大地に聞こえたらしく、そして琴葉の宣言が本気だと分かったらしい。
戸惑い気味な声を彼は上げた。
「え、ええか大地? ほ、ほんまにうち、一人でしちゃうんやからねっ!」
自分から自慰をすると言ったのに、琴葉の声は震えていて、顔も羞恥で真っ赤になっている。
琴葉は幼いころは山奥で暮らしており、他の魔物と交流がなかった。
それゆえか、彼女は他の魔物と比べて性に関して奥手で羞恥心が強かったりもする。
自慰を電話越しに大地に聴かせるというこの状況も、頭が爆発しそうなほど恥ずかしい。
だが……そのことが彼女の心を性的に高ぶらせてもいた。
身体の奥が、特に蜜壷が熱くなって潤み始めている。
やはり彼女も魔物娘……三本の尾を持つ稲荷なのだ。
性に対する欲と楽しむ気持ちは他の魔物と勝るとも劣らない。
「ね、大地……」
媚びるような声を出しながら、琴葉は携帯電話を持っていない手をプリーツミニスカートの中に入れる。
スカートの中のショーツを片手でくいくいと引っ張って下ろしていき、そしてそのまま脚から抜き取った。
「今、ショーツを抜ぎはったよ。濡れて汚れたらあかんさかいね」
電話ゆえにこの状況をみることができない大地のために、琴葉は実況してみせる。
頬は相変わらず羞恥心で赤かったが、一度始めたら腹がくくられたのだろう。
もう声は震えていなかった。
ショーツを適当にソファーの上に放り、琴葉は行動を進める。
サマーセーターの上からじっくりと自分の胸を揉み始めた。
「んっ……今、自分の胸を触っているんやよ。この手を大地の手だと思って……うっ、ふぅん……」
甘い吐息をつきながら琴葉は胸を揉み続ける。
電話の向こうで大地がゴクリと唾を飲み込んだ気がした。
『ああ、大地……うちの自慰、聞いてくれてはるんやな……そいで、興奮してくれてはるんかな? もう、大きくしてはるかな?』
電話の向こうで、仕事中のはずの大地はどんな表情をしているだろうか。
顔を恥ずかしそうに赤くして、何とか仕事に集中しようとしながらもつい自分の自慰を聞いてしまっているだろうか。
それとも仕事などそっちのけで耳に神経を集中させて自分の自慰を聞いているのだろうか。
大地の様子をそれぞれ想像して、琴葉の気持ちがさらに高まる。
もうセーターの上からなどもどかしい。
裾から手を潜り込ませ、ブラをたくし上げて直接胸を揉みしだく。
人差し指で乳首を、大地がやるように転がすのも忘れない。
「くぅぅんっ!」
思わず鼻にかかった嬌声が漏れた。
声を出さなくても、はぁはぁと息がまるで運動をした後のように上がっている。
一方、電話口の大地の息使いも少し荒くなっていた。
「ん、はぅ……大地? 大地も興奮しとるん?」
「えっ? あ、ま……まぁ……」
やや歯切れが悪いが、大地が肯定する返事をした。
自分の自慰の様子を聞いて恋人が興奮してくれている……そのことに琴葉の心と身体が喜びに震える。
ぐっと両足をソファーの上に乗せると、ツツツ……っと尻の割れ目を愛液が伝ったのを感じた。
こんなに濡れるならやはりショーツを脱いでおいて良かったと思いながら、琴葉は下腹部に手を伸ばす。
「大地が興奮してくれはって、うち、嬉しい……うちもな、えらく興奮しとるんや……今、オメコから汁が零れてもうてる……」
羞恥心も麻痺してきた。
また、今この場に大地がいないというのも琴葉を大胆にする要素になったようだ。
あられもない言葉を琴葉は電話の向こうにいる大地に聴かせる。
そしてついにその細い彼女の手が、自分の秘裂に届いた。
細い指先が蜜を掬い取りながらぬるりと粘膜を撫でる。
「ふうぅうん!」
ソファーの上で琴葉は身をすくませて声を上げた。
一度撫でただけでは止まらない。
何度も何度も指は花弁が吐き出す蜜を掬いとり、それを最も敏感な部分、クリトリスに塗りつけた。
「はぁっ、はぁ……んっ、んふうぅ! 大地ぃ……うち、えらい……くぅっ、ぬ、濡れとる……大地が欲しくてえらい濡れとるよ……ひゃう!」
にゅるにゅると秘裂をなぞるように指を動かしながら、琴葉は快感でふわふわした声を出す。
頭はまるで熱病にでもかかったかのようにふわふわとしたもやがかかっていた。
徐々にそのもやは広がっていき、琴葉から羞恥心と理性と思考能力を奪っていく。
もやに透けて残るのは快感を貪りたい心と、この淫らな様子を恋人に見せたいという欲望……
その欲望に突き動かされ、琴葉は普段の彼女からは考えられない大胆な行動に出た。
「ね……聞いて、大地……」
琴葉は一度、携帯電話を顔から離した。
そしてそれを下腹部に近づけていく。
携帯電話を股間に持ってきたところで、琴葉は秘裂をいじる指の動きを激しくした。
上下に動かしたり、あるいはかき混ぜるように動かしたりして、ぐちゅぐちゅとわざと卑猥な音を立てる。
「あっ、ああああっ! んっ! あっ! ふあああ、大地ぃいっ! ひゃうっ! あはぁ!」
身体をわななかせながら琴葉は喘ぐ。
離れているところにある電話に声が届くよう大袈裟に喘いだのだが、それがまた自分を掻き立てていた。
『うち……うち、電話しながら一人エッチして、こんなにいやらしいオメコの音を大地に聞かせとる……恥ずかしいけど、気持ちええ……っ!』
自分の喘ぐ声と股間から響く音を遠くに聞きながら琴葉はぼんやりと考える。
そろそろ十分に大地に聞かせたと思い、琴葉は受話器を耳に当てた。
体勢もソファーの上で開脚して座っている状態から、普段一人で慰めている時と同じように仰向けへと変える。
「はぁっ、はぁ……大地、聞こえた? うちのオメコ……こんなにぐちょぐちょになっとるんよ? 大地とエッチしとうてしとうて、こんなになっとるんよ?」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
大地からは返事がない。
ただ荒い呼吸音が受話器から流れている。
「大地……まさか大地も自慰をしはっとるわけやないやろな? あかんでっしゃろ、そんなところで自慰をしちゃ……」
「あ、ああ……」
曖昧な肯定の言葉が返ってきたが、大地の荒い呼吸は止まらない。
「それに、男の人は果ててまうと精を無駄撃ちしてまうんやからね? そないなこと、許しまへんえ? 今果ててええのはうちだけやさかいね?」
状況的には大地におあずけをかましている、自分が優位に立っている状態……にやりと琴葉の口が笑みの形を作る。
再び琴葉の手が蜜を垂らしている花弁に向かい、そのちょっと上に位置する陰核にそっと触れた。
自慰でイクのは琴葉にとって本意ではない……本当は大地の手によって絶頂に導かれたい。
だが、このまま果ててその自分のイヤらしい声を聞かせて、大地に早く帰らなければという気持ちを起こさせたいと言う気持ちもある。
その思いから、琴葉は再び自分が生み出す快楽の世界に身を躍らせた。
「んっ、あぁん、んぁ……こんなに、気持ちええなんて……あふっ、うっ、ああっ!」
普段、自慰をするときは左手で胸を触りながら右手でクリトリスをいじるのだが、今はその左手が携帯電話でふさがっている。
しかし大地に自分の自慰の様子を聞かせていることが、胸をいじるのに劣らない快楽と興奮を琴葉にもたらしていた。
「はぁ、うぅ……大地ぃ、よう聞いて……うちのいやらしい声、よう聞いて……んぁ、あふぁ、あぁんっ……!」
夢中で肉芽をいじりながら、琴葉は淫らな言葉も混ぜながら大地に自慰の様子を聞かせた。
身体にぞくぞくとした快感と震えが走る。
彼女の蜜壷からはもはやとめどなく蜜があふれ、尻を伝って尾の根元とソファーにしたたり落ちて染みを作った。
「あぁんっ! んぁ、はぁはぁ、あぁ、とろける……はぁ、大地……うち、オメコがとろけてまいそうや……ひぐっ、あっ、ああ……イクっ、イキそうや……うう、ふああ……うちの腰、自然と動いてはるよ……」
まるで正上位で大地と交わっている時のように、琴葉の腰が淫らにくねっている。
言葉のとおり、クライマックスが近い。
大地が電話の奥で期待に息を飲んだ。
「大地っ! うち、イクっ! イクっ……くっ、うぅううっ!」
膣や子宮での快感が弾け、脊髄から脳まで貫かれる。
がくんと琴葉の身体がソファーの上で弓なりに反った。
その体勢で身体全体が、特に腰がぶるぶると震える。
「あっ、あっ……あうぅう……だいちぃ……」
絶頂が過ぎ去り、身体をソファーにぐったりと沈ませながら琴葉は電話口に向かって恋人の名前を呼ぶ。
「うち、イッてもうたよ……ほんまは大地に気持ちようしてほしいのに……」
「ああ……」
鼻をしゅんと鳴らす琴葉に、大地が申し訳なさそうに短く返事をした。
「寂しいよ、大地……はよぅ、はよぅ帰って来てよ……今、どこにおるん?」
「「うん、実はもう帰って来ているんだ」」
「えっ!?」
二つのことに琴葉は驚愕し、絶頂の余韻で弛緩していた身体を硬くした。
ひとつは、大地が今言った言葉……
もうひとつは、大地の声が電話の受話器からと、玄関とリビングの間にあるドアの向こうから聞こえたことだ。
がちゃり……
そのドアが開き、携帯電話の通話を切りながらバツの悪そうな顔をした大地が姿を現した。
「えっ!? あ、あ、ふあっ……」
驚きと羞恥心でパニックに陥った琴葉は意味のなさない言葉を口走り、顔を林檎のように赤く染める。
それでも無意識のうちに股間をふさふさの尾で覆うことはできた。
「あ、あう、だ、だいち……その、なんでもう帰ってこれはったん? まだ会社にいはると思ったのに……」
口をぱくぱくさせていたが、ようやく落ち着きを取り戻したのか、搾り出すような声で琴葉は訊ねた。
琴葉の問いに大地は答える。
二回目の電話……今の電話は会社からではなく、このアパートから電車で二駅のところでかけていたのだ。
だが、そこから最寄り駅への電車が車両故障で止まってしまったらしい。
そのことを電話で大地は言おうとしたのだが、それより先に琴葉が怒ってしまい、自慰を始めた……こう言うことだったのだ。
ちなみに電話中の彼の荒い息使いは、琴葉が電話で自慰を大地に聞かせている間、このアパートに早く帰ろうと走っていたかららしい。
まとめると、琴葉の今回の色仕掛けに自慰をする作戦は独り相撲、自爆と言うことになる。
それを理解した琴葉は顔を羞恥心に赤く染めた。
「む、むうううっ!」
突然琴葉はソファーの上から跳ね起き、大地に駆け寄ってその胸に飛び込んだ。
そのままぽかぽかと恋人の胸を拳で叩く。
「大地のアホぅ! うち、めっちゃはずかしい思いをしたやないか〜っ! う〜!」
「あぁ、ごめんよ」
そこで、勝手に自慰をしたのは琴葉だ、と言わないのが大地だ。
素直に謝って琴葉を落ち着かせるように背中を撫でる。
大地に撫でられて琴葉は恥ずかしさや自爆した悔しさなどの気持ちが鎮まっていく。
代わりに大地に包まれているがゆえ、彼を欲する気持ちがむくむくと高まってきた。
いや、相手を欲しがっているのは琴葉だけではない。
大地もまた琴葉を欲していた。
その証拠に抱きしめられている琴葉の身体には怒張している大地のモノが当たっている。
『そう言えば、大地……うちが自慰をしとる間、ずっと我慢してはったんやろな……』
大地に抱きしめられたまま、そっと琴葉はそれを優しく撫でた。
琴葉の動作に気づいたのか、大地の琴葉を抱きしめる腕が強くなる。
そして耳元で申し訳なさそうにぽつりとつぶやいた。
「ごめんな、琴葉。帰ってくるのが遅くて」
「ううん。うちこそワガママ言うて堪忍な……あっ」
肝心なことを言うのを忘れていた。
顔を上げて下から大地の顔をのぞき込みながら、琴葉はそれを言う。
「おかえり、大地」
「……ああ、ただいま」
そして二人のくちびるが繋がった。
もう既に二人の身体には火がついている。
少々遅くなったが……二人の夜は、これからだ。
12/07/21 00:03更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
戻る
次へ