年忘れの夜に
ある意味お楽しみ、ある意味大仕事、忘年会……
今年は、福来観光の企画・営業課はとある片田舎で忘年会をやるらしい。
そこのゴルフ場でゴルフをしたのち、近くの宿で宴会がある。
どちらも福来観光の姉妹社、福来グループの子会社であるため、予算も抑えられるのが魅力だ。
もっとも、参加費として私たちはいくらかお金を取られるのだが……それでいて参加を強要される。
ある意味、仕事だからだ。
正直、忘年会など私にとっては何も楽しみはない、面白くないイベントだ。
私はゴルフができないから、課長に付いてキャリーを務めるだけ。
酒は嫌いじゃないけど、大勢で飲むより静かに飲む方が好きだし、ビールよりはジントニックなどのお酒が好きだ。
二次会などにカラオケがあったとしても、何も歌えない……
私にとってはお楽しみな要素は皆無で、もっとも辛い仕事のうちの一つであった。
しかし、今年は少々事情が違う。
これが終われば吉田と……部下で恋人である彼と交われる、お楽しみがある。
私は妖狐の金田やアオオニの大丸と同室だが、ご丁寧にも彼女達は別の部屋で寝るらしい。
少し前、宴会前の風呂に入っていたとき、向こうからその約束を取り付けてくれた。
だから我慢して、普段から仕事を押し付ける腹立たしい課長のキャリーも務めたし、今も宴会で課長の酌をしている。
だが……
肝心の吉田は他の男と一緒に、宿の従業員の女性に目が行っていた。
その従業員は男性社員に囲まれてちやほやされていたが、吉田がそのグループの中で一緒に盛り上がっていたのだ。
従業員の女性はなぜか人間のふりをしているが、その正体は稲荷だ。
このホテル、福来ホテル・かみおりの宿には中庭に稲荷神社があるのだが、その稲荷神社の主かその娘と思われる。
尻尾はおそらく3本くらい……実際に見たわけではないので分からないが、同じ魔物であればそのくらい分かった。
確かに彼女は可愛い顔をしている。
他の男が盛り上がっている中、恋人である私に気を使ってむっつりと無反応でいるのも、賢い手段ではないだろう。
だが、その盛り上がり様はないんじゃないだろうか……
溜飲を下げるかのようにビールを煽る。
私らしからぬ飲み方だ。
そのとき、稲荷がリクエストに応えて何か言ったのだろう。
男たちがさらに盛り上がる。
その中には吉田もいた。
「……っ!」
私の中で何かが切れた。
「俺、ちょっとトイレ行ってきます」
ちょうど吉田がトイレのために席を外す。
私もそっと席を外し、彼のあとを追った。
「あれ、みどりさん? みどりさんもトイレですか?」
トイレから出てきた吉田を捕まえた。
いつもどおりの爽やかな笑顔で私に訊ねる。
おそらく、彼は私を怒らせていることに気づいていないし、原因も分かっていないだろう。
怒らせた原因の行動は悪気があってやっているわけでもないし、周りの調子に合わせていただけなのかもしれない。
だが、その悪気がないのが余計に許せない。
私は彼の浴衣の首根っこを捕まえた。
「えっ、みどりさん……!?」
「……」
無言のまま強引に私の部屋に引きずる。
そのまま、敷かれていた布団の上に彼を転がした(ちなみに布団はご丁寧に2人分だけ敷かれていた)
「みどりさん……?」
「……何、あの稲荷への態度?」
「稲荷? 態度?」
吉田がきょとんとした表情をしている。
とぼけた様子はない。
従業員の正体にも気づけていないし、私が怒っている原因も分かっていないようだ。
「さっきの従業員、稲荷……」
「あ、そうなんですか」
「『そうなんですか』じゃない。何なの? あの稲荷ににやにやしちゃって……」
ここまで言われて、ようやく吉田も私が何に対して怒っているのか感づいたのだろう。
顔が申し訳なさそうに曇る。
「いや、でも……」
「言い訳は聴きたくない」
私は鎌を鞘から抜き放った。
「……えっ?」
吉田の顔が青ざめる。
次の瞬間、彼が身にまとっていた旅館の浴衣は私によって細切れにされていた。
「わーっ!? みどりさん、旅館の物を裂いちゃうのはまずいですって!」
「黙って……」
言いながら私は彼を押し倒す。
彼の性器は緊張やちょっとの恐れからか、まだ勃っていなかった。
「……あなたが、他の女に目移りしないよう……徹底的に刻み付ける」
「あの、みどりさん、酔って……んんっ!?」
うるさい口を私の口で封じる。
ああ、確かに私は酔っている。
ハイペースで飲んだアルコールが、私の嫉妬心と情欲をさらに掻き立てていた。
宿の浴衣に包まれた身体が火照り、ショーツが冷たく濡れているのを感じる。
こうなったのは誰のせい?
目の前の、愛おしくて仕方がない、だからこそ今は腹立たしい、男のせいだ。
心に突き動かされるまま、私は吉田のペニスを握る
さっきまで勃っていなかったのに、いつの間にか硬くなり始めていた。
「んっ……もう硬くなっている?」
「だって、みどりさんの格好がエロいから……」
そう言う吉田の目は私の胸元をちらちらと見ていた。
私も目をそこにやってみる。
浴衣の襟がはだけていた。
お風呂から上がったさい、金田から「浴衣にブラを付けるのは邪道!」と言われていたので、私はノーブラだ。
当然、はだけた合わせ目からは胸が直接覗ける。
どうやらそれに反応したらしい。
嬉しい気もするが、一方で他の女でもそんな反応をするのではないかと言う考えが私の脳裏をよぎる。
「他の女でもこうなるの?」
「っ……勃つのは……」
馬鹿正直に彼は答える。
ごまかされるのも嫌な気分になるが、正直に言われるのも傷つく。
「そう……」
片手で私は彼の胸元を押して完全に倒し、起き上がらないように押さえつける。
もう一方の手は軽くペニスに添えた。
そしてそのペニスに顔を近づけていく。
「みどりさ……」
「黙って……」
そう言って、私は彼のペニスを口に銜え込んだ。
舌を亀頭にねっとりと絡みつけ、転がすように舐める。
そう、何度も吉田と身体を重ねて分かった、吉田が一番喜ぶフェラチオ……
『……他の人はこんなこと、しないわよ?』
嫉妬がより私の舌使いを激しいものにする。
一方、手の方も休ませない。
押し倒していた方の手は吉田の乳首を指先で転がして愛撫する。
ペニスに添えている手は指先で軽く根元を扱く。
「あ、あっ……みどり、さん……っ!」
吉田が切なげに啼いている。
嫉妬に加えて、吉田を気持ちよくさせてあげたいという気持ちが私の口唇愛撫を加速させた。
我ながらそれだけで気分が左右されてしまうとは単純だと思う。
あまり感情というものを持たないマンティスはそんなものかもしれない。
でも、嫉妬の炎も消えていないのは事実。
ちゅちゅっと口の中にあるペニスを吸い立てる。
「ちょ……っ! みどりさん……それ、やばい……もう、出そうになる……!」
言葉の通り彼の鈴口から先走り汁が漏れてきた。
ペニスの先端部に舌を何度も這わせ、それを味わう。
「そ、そんな先っぽを……くぅっ!」
「ん、れる……じゅる……」
彼の声がさっきより切羽詰ったものになる。
ペニスもさらにぐぐっと怒張し、今にも爆発しそうだ。
とどめを刺すべく、私は吸い上げを強くしながら舌で亀頭を一撫でした。
「……あっ!」
どくん……
短い悲鳴とともに彼のペニスが脈打ち、甘美な精液が私の口内に流れ込んでくる。
全部受け止め、全部飲み下した。
私は、これでなくてはもう満足できない。
でも彼は……私で満足できているのだろうか?
「まだ、足りないよね……」
口元を軽く拭い、私は囁く。
そしてショーツを下ろしながら彼を跨いだ。
「刻みつけるまで、まだまだ……」
「みどりさん……」
彼がぽつりと私の名前を呼ぶ。
眉を寄せ、でもすこし眉尻は下げ……その表情から彼の心の内は読み取れない。
「……っ」
無言で私は腰を下ろす。
にちゅ……
淫らな音を立て、私と吉田は深く繋がった。
そのまま私はしがみつくようにして彼を拘束し、腰を動かし始める。
私が吉田に腰を打ち付ける度にびたんびたんと肉がぶつかりあう音がし、それに混じって粘液質な音が部屋に響いた。
「う……ああっ、みどりさん……激し、い……!」
私の下で吉田が快楽に悶えて動いた。
だが私はそれすらも許さないように拘束を強める。
離したくなくて、誰にもこの吉田を渡したくなくて……
中世、マンティスの鎌は、彼女が男を知るまで狩りのためと自衛のためだけに使っていたが、男と交わった後はその男を護るためにも使われるようになる。
そしてそこだけがまるで世界のすべてのように交わり続けた。
だが、時は現代。
吉田を護るために鎌を振るうとか、常に一緒にいて交わるばかりとか、残念ながら現実的ではない。
だからこそ、交わっている時は離れたくない、離したくない。
「みどりさん、また……またイきそう……!」
吉田が私の身体の下で射精の予感に身体を戦慄かせた。
そのまま私の膣内に射精させてもよかったかもしれない。
だが、ふと思い立って、私は腰の動きを止めた。
日頃から大丸が、人の気持ちを聞くときに焦らしプレイが有効だとかなんだとか言っていたのを思い出したからだ。
「んぅ……みどり、さん?」
「……私の目を見て……」
急に私が動きを止めたことに、吉田が怪訝そうな表情をする。
そんな彼の顔を両手で掴み、顔を寄せて私は言う。
「私のこと、好き?」
何を今更と言った感じで吉田は軽く笑う。
だが私がじっと見つめ続けると、とろけた表情を少し引き締めたものにして答えた。
「好きですよ、この世のものの何より」
「……でも、旅館の従業員に目が行っていた」
「うっ、それは……」
目が行っていたのはやはり否定しないらしい。
「本当に、私のことが好き?」
「好きですってば。ウソだと思うなら、その鎌で私の首を掻き切ったら良いです」
「………」
彼の言葉に、私は無言で鎌の刃を彼の首筋に近づけた。
「え、マジっすか?」
一瞬身をすくめた吉田だったが、それだけだった。
鎌の刃を少し首に食い込ませても、ピクリとも動かない。
「……抵抗しないの?」
「いや〜、死ぬよりみどりさんに信用されていない方が悲しいですからね」
さらりと吉田は当たり前のようにそう言い、たはは〜っと、吉田はいつもどおり自然に笑う。
死ぬより悲しいだなんてずいぶん大袈裟な言葉だが、それに近いくらい本気で思っているらしいのが、タチが悪い。
「………」
もともと斬るつもりなどなかった私は鎌を彼の首から離した。
代わりにもう一度吉田の目を見つめて訊ねる。
「本当に、私のこと……好き?」
「何度でも言いますよ。俺は、みどりさんが好きです。大好きです」
「ん……」
他の女に目が行ったことは事実だが、その言葉も事実なのだろう。
嫉妬の炎が収まり、代わりに温かいものが私の心の中を満たす。
「私も、吉田のことが好き……」
そう言いながら私はぐっとさらに腰をおろした。
二人の結合がより深くなり、亀頭と子宮口が密着する。
「んあっ、ああ……だから、出して……吉田が、出して良いのは私の身体にだけ……」
それを行動で表そうと、私は子宮口を押し付けたまま腰を回転させるように動かした。
吉田の亀頭と私の子宮口がくにゅくにゅと擦れ合い、二人の口から同時に嬌声が上がる。
「出して、この奥に……あっ、ふぅんっ……私を、孕ませて……」
私の口から淫らな言葉が漏れる。
孕ませて……
現実的には、まだ子を持つのは時期が早い気がする。
付き合ってあまり日も経っていない。
現に、吉田がこのように他の女に目が行くことがあるという欠点など、今まで知らなかった。
でも……それでも吉田の子どもは欲しい。
そう思えるくらい、私は彼の事が好きだ。
思いの分だけ私はより腰をくねらせて彼の精をねだる。
「みどりさん、もう……!」
「私も、わた……し、も……く、イク……っ、イクっ! う、ふうううっ……!」
吉田にしがみついたまま、私は達した。
彼の上でびくびくと身体が震え、膣が彼の精を搾りとろうと締まるのを感じる。
「くっ、締まって……うっ、あああっ……!」
締め付けに耐えかねたようで、吉田の身体も絶頂を迎えた。
私に拘束に近いくらい抱きしめられたまま、射精している。
どぷどぷと私の子宮口に精液が何度も浴びせられた。
「あ、熱い……んあっ、吉田ぁ……」
びくびくと脈打ちながらペニスは精を吐き出していたが、それもやがて収まった。
彼の射精が止まったと同時に、私はぐたりと彼の上で脱力する。
脱力したから、彼を抱きしめる力も弱くなったようだ。
彼はもぞもぞと身体を動かし、私に呼びかけてくる。
「ねぇ、みどりさん……」
「ん……なに?」
「もう一度シて、いいですか?」
何を今更……
私たちのセックスは一回や二回で終わらないのが常だ。
このあとももう何回か交わるつもりだった。
今は私が激しく搾ったから、今度はまったりと……あるいは、吉田の方から……
「んあっ!?」
ぼーっと考えていたところに前触れもなく突き上げられ、私は甘い声をあげる。
射精したばかりだから吉田は少し休む必要があるはずだと思っていたが、そうではなかったようだ。
そのまま何度か下から吉田は突き上げたあと、男の力で私の下から抜け出し、私を組み伏せた。
油断していた私はなすすべもなく組み伏せられ、吉田の突きによがらされる。
「あっ、あっ! んぅっ、あっ! そこ、気持ちいい……!」
「ここですよね、分かりますよ」
何度も身体を重ねて私の弱点を知っている吉田は的確にそこを突いてくる。
私もよりそこに吉田のペニスをこすりつけようと、吉田の下で自分から腰を動かしていた。
二人の喘ぎ声とぐちゃぐちゃと、私の愛液とさきほど放たれた吉田の精液が混じり合って立てる音がいやらしく部屋に響く。
「みどりさん……」
腰を情熱的に動かしながら、吉田が語りかけてくる。
「男が他の女に目が行ってしまうのは性ってものです。だから良いってわけでもないですけど……これだけは分かって欲しいんです」
「ん、ああんっ、ああ……んんっ!?」
吉田が上体を倒し、私のくちびるを貪ってきた。
舌が侵入してきて唾液を私の舌に擦りつけ、さらに私の舌を飴玉を転がすかのように弄ぶ。
「んちゅ……こんな風にキスをする相手は、みどりさんだけですよ」
「あっ、ふああ……」
下肢からの快感に加えてキスの影響で、私の心も身体もとろけてしまっていた。
そんなとろけている私の耳に吉田の言葉が入ってくる。
「こんなふうに、おっぱいとかを触ったり、アソコを触ったりしたいと思えるのは……逆に俺のアソコとか身体を触って欲しいと思う相手は……みどりさんだけですよ」
身体を起こし、私の胸を揉みしだきながら吉田が言う。
「そして……」
「うああっ!」
一際強く、吉田が突いてきた。
そのまま腰を動かしながら吉田が続ける。
「こんな風にセックスしたいと思って、するのもみどりさんだけです!」
私だけ……
その言葉がとろけた私の頭の中に響き、広がる。
確かに吉田はあの稲荷の従業員に目が行っていた。
おそらく、他の女に目が行くこともあるだろう。
だが、最後は私を見てくれている。
私が彼にとって特別な人だからだ。
彼が私にとって特別な人であるのと同じように……
『ちょっと、私も嫉妬しすぎたかな。ムッとしたのも事実だったけど……吉田は私のことを好きで、見てくれている……』
吉田への愛しい気持ちがあふれ、腕を彼の背中に回し、脚を彼の腰に回して自分の方に引き寄せた。
私が抱きしめたことで、吉田の顔が私に近づく。
だが今度はその口は私のくちびるではなく、耳元に近づいた。
そして、吉田がそっと囁いた。
「好きですよ、みどりさん。大好きです」
「……っ!?」
吉田にそう囁かれた瞬間、私の膣がきゅーっと締まった気がした。
身体が吉田に包まれたまま、がくがくと痙攣する。
達していた。
吉田の言葉がまるで言霊のように私の絶頂の引き金になったようだ。
心と身体の歓喜が爆発して私を絶頂に押しやり続ける。
吉田が短い声を上げた。
それと同時に私の膣内に再び精が放たれる。
「あっ、あっ……よ、しだぁ……」
絶頂の余韻、愛しい男の嬉しい言葉、彼のぬくもり、膣内に出された精……全てがとろけて一緒に混ざり、私を融かし、意識を甘い闇に誘う。
でも、これは言わなければ……
とろけゆく意識の中、私は口を開く。
「わた、し……も、……よしだ……が、好き……だいすき……」
切れ切れになりながらも私はそうつぶやいて吉田に伝える。
そしてそのまま、情事後のひとときの甘い眠りを貪った。
こうして忘年会は終わった。
やはり忘年会自体は大変で辛かった。
さらに吉田のちょっと嫌なところも見た。
でも、互いの気持ちを確認できた。
あの後も何度も交わり、何度も互いに気持ちを込めた言葉を交わした。
それらを考えれば……総じていい忘年会だったと思う。
ただ、翌日の金田と大丸、そしてあの従業員の稲荷の視線が妙に優しくて悪戯っぽかったのは、とても恥ずかしかった。
今年は、福来観光の企画・営業課はとある片田舎で忘年会をやるらしい。
そこのゴルフ場でゴルフをしたのち、近くの宿で宴会がある。
どちらも福来観光の姉妹社、福来グループの子会社であるため、予算も抑えられるのが魅力だ。
もっとも、参加費として私たちはいくらかお金を取られるのだが……それでいて参加を強要される。
ある意味、仕事だからだ。
正直、忘年会など私にとっては何も楽しみはない、面白くないイベントだ。
私はゴルフができないから、課長に付いてキャリーを務めるだけ。
酒は嫌いじゃないけど、大勢で飲むより静かに飲む方が好きだし、ビールよりはジントニックなどのお酒が好きだ。
二次会などにカラオケがあったとしても、何も歌えない……
私にとってはお楽しみな要素は皆無で、もっとも辛い仕事のうちの一つであった。
しかし、今年は少々事情が違う。
これが終われば吉田と……部下で恋人である彼と交われる、お楽しみがある。
私は妖狐の金田やアオオニの大丸と同室だが、ご丁寧にも彼女達は別の部屋で寝るらしい。
少し前、宴会前の風呂に入っていたとき、向こうからその約束を取り付けてくれた。
だから我慢して、普段から仕事を押し付ける腹立たしい課長のキャリーも務めたし、今も宴会で課長の酌をしている。
だが……
肝心の吉田は他の男と一緒に、宿の従業員の女性に目が行っていた。
その従業員は男性社員に囲まれてちやほやされていたが、吉田がそのグループの中で一緒に盛り上がっていたのだ。
従業員の女性はなぜか人間のふりをしているが、その正体は稲荷だ。
このホテル、福来ホテル・かみおりの宿には中庭に稲荷神社があるのだが、その稲荷神社の主かその娘と思われる。
尻尾はおそらく3本くらい……実際に見たわけではないので分からないが、同じ魔物であればそのくらい分かった。
確かに彼女は可愛い顔をしている。
他の男が盛り上がっている中、恋人である私に気を使ってむっつりと無反応でいるのも、賢い手段ではないだろう。
だが、その盛り上がり様はないんじゃないだろうか……
溜飲を下げるかのようにビールを煽る。
私らしからぬ飲み方だ。
そのとき、稲荷がリクエストに応えて何か言ったのだろう。
男たちがさらに盛り上がる。
その中には吉田もいた。
「……っ!」
私の中で何かが切れた。
「俺、ちょっとトイレ行ってきます」
ちょうど吉田がトイレのために席を外す。
私もそっと席を外し、彼のあとを追った。
「あれ、みどりさん? みどりさんもトイレですか?」
トイレから出てきた吉田を捕まえた。
いつもどおりの爽やかな笑顔で私に訊ねる。
おそらく、彼は私を怒らせていることに気づいていないし、原因も分かっていないだろう。
怒らせた原因の行動は悪気があってやっているわけでもないし、周りの調子に合わせていただけなのかもしれない。
だが、その悪気がないのが余計に許せない。
私は彼の浴衣の首根っこを捕まえた。
「えっ、みどりさん……!?」
「……」
無言のまま強引に私の部屋に引きずる。
そのまま、敷かれていた布団の上に彼を転がした(ちなみに布団はご丁寧に2人分だけ敷かれていた)
「みどりさん……?」
「……何、あの稲荷への態度?」
「稲荷? 態度?」
吉田がきょとんとした表情をしている。
とぼけた様子はない。
従業員の正体にも気づけていないし、私が怒っている原因も分かっていないようだ。
「さっきの従業員、稲荷……」
「あ、そうなんですか」
「『そうなんですか』じゃない。何なの? あの稲荷ににやにやしちゃって……」
ここまで言われて、ようやく吉田も私が何に対して怒っているのか感づいたのだろう。
顔が申し訳なさそうに曇る。
「いや、でも……」
「言い訳は聴きたくない」
私は鎌を鞘から抜き放った。
「……えっ?」
吉田の顔が青ざめる。
次の瞬間、彼が身にまとっていた旅館の浴衣は私によって細切れにされていた。
「わーっ!? みどりさん、旅館の物を裂いちゃうのはまずいですって!」
「黙って……」
言いながら私は彼を押し倒す。
彼の性器は緊張やちょっとの恐れからか、まだ勃っていなかった。
「……あなたが、他の女に目移りしないよう……徹底的に刻み付ける」
「あの、みどりさん、酔って……んんっ!?」
うるさい口を私の口で封じる。
ああ、確かに私は酔っている。
ハイペースで飲んだアルコールが、私の嫉妬心と情欲をさらに掻き立てていた。
宿の浴衣に包まれた身体が火照り、ショーツが冷たく濡れているのを感じる。
こうなったのは誰のせい?
目の前の、愛おしくて仕方がない、だからこそ今は腹立たしい、男のせいだ。
心に突き動かされるまま、私は吉田のペニスを握る
さっきまで勃っていなかったのに、いつの間にか硬くなり始めていた。
「んっ……もう硬くなっている?」
「だって、みどりさんの格好がエロいから……」
そう言う吉田の目は私の胸元をちらちらと見ていた。
私も目をそこにやってみる。
浴衣の襟がはだけていた。
お風呂から上がったさい、金田から「浴衣にブラを付けるのは邪道!」と言われていたので、私はノーブラだ。
当然、はだけた合わせ目からは胸が直接覗ける。
どうやらそれに反応したらしい。
嬉しい気もするが、一方で他の女でもそんな反応をするのではないかと言う考えが私の脳裏をよぎる。
「他の女でもこうなるの?」
「っ……勃つのは……」
馬鹿正直に彼は答える。
ごまかされるのも嫌な気分になるが、正直に言われるのも傷つく。
「そう……」
片手で私は彼の胸元を押して完全に倒し、起き上がらないように押さえつける。
もう一方の手は軽くペニスに添えた。
そしてそのペニスに顔を近づけていく。
「みどりさ……」
「黙って……」
そう言って、私は彼のペニスを口に銜え込んだ。
舌を亀頭にねっとりと絡みつけ、転がすように舐める。
そう、何度も吉田と身体を重ねて分かった、吉田が一番喜ぶフェラチオ……
『……他の人はこんなこと、しないわよ?』
嫉妬がより私の舌使いを激しいものにする。
一方、手の方も休ませない。
押し倒していた方の手は吉田の乳首を指先で転がして愛撫する。
ペニスに添えている手は指先で軽く根元を扱く。
「あ、あっ……みどり、さん……っ!」
吉田が切なげに啼いている。
嫉妬に加えて、吉田を気持ちよくさせてあげたいという気持ちが私の口唇愛撫を加速させた。
我ながらそれだけで気分が左右されてしまうとは単純だと思う。
あまり感情というものを持たないマンティスはそんなものかもしれない。
でも、嫉妬の炎も消えていないのは事実。
ちゅちゅっと口の中にあるペニスを吸い立てる。
「ちょ……っ! みどりさん……それ、やばい……もう、出そうになる……!」
言葉の通り彼の鈴口から先走り汁が漏れてきた。
ペニスの先端部に舌を何度も這わせ、それを味わう。
「そ、そんな先っぽを……くぅっ!」
「ん、れる……じゅる……」
彼の声がさっきより切羽詰ったものになる。
ペニスもさらにぐぐっと怒張し、今にも爆発しそうだ。
とどめを刺すべく、私は吸い上げを強くしながら舌で亀頭を一撫でした。
「……あっ!」
どくん……
短い悲鳴とともに彼のペニスが脈打ち、甘美な精液が私の口内に流れ込んでくる。
全部受け止め、全部飲み下した。
私は、これでなくてはもう満足できない。
でも彼は……私で満足できているのだろうか?
「まだ、足りないよね……」
口元を軽く拭い、私は囁く。
そしてショーツを下ろしながら彼を跨いだ。
「刻みつけるまで、まだまだ……」
「みどりさん……」
彼がぽつりと私の名前を呼ぶ。
眉を寄せ、でもすこし眉尻は下げ……その表情から彼の心の内は読み取れない。
「……っ」
無言で私は腰を下ろす。
にちゅ……
淫らな音を立て、私と吉田は深く繋がった。
そのまま私はしがみつくようにして彼を拘束し、腰を動かし始める。
私が吉田に腰を打ち付ける度にびたんびたんと肉がぶつかりあう音がし、それに混じって粘液質な音が部屋に響いた。
「う……ああっ、みどりさん……激し、い……!」
私の下で吉田が快楽に悶えて動いた。
だが私はそれすらも許さないように拘束を強める。
離したくなくて、誰にもこの吉田を渡したくなくて……
中世、マンティスの鎌は、彼女が男を知るまで狩りのためと自衛のためだけに使っていたが、男と交わった後はその男を護るためにも使われるようになる。
そしてそこだけがまるで世界のすべてのように交わり続けた。
だが、時は現代。
吉田を護るために鎌を振るうとか、常に一緒にいて交わるばかりとか、残念ながら現実的ではない。
だからこそ、交わっている時は離れたくない、離したくない。
「みどりさん、また……またイきそう……!」
吉田が私の身体の下で射精の予感に身体を戦慄かせた。
そのまま私の膣内に射精させてもよかったかもしれない。
だが、ふと思い立って、私は腰の動きを止めた。
日頃から大丸が、人の気持ちを聞くときに焦らしプレイが有効だとかなんだとか言っていたのを思い出したからだ。
「んぅ……みどり、さん?」
「……私の目を見て……」
急に私が動きを止めたことに、吉田が怪訝そうな表情をする。
そんな彼の顔を両手で掴み、顔を寄せて私は言う。
「私のこと、好き?」
何を今更と言った感じで吉田は軽く笑う。
だが私がじっと見つめ続けると、とろけた表情を少し引き締めたものにして答えた。
「好きですよ、この世のものの何より」
「……でも、旅館の従業員に目が行っていた」
「うっ、それは……」
目が行っていたのはやはり否定しないらしい。
「本当に、私のことが好き?」
「好きですってば。ウソだと思うなら、その鎌で私の首を掻き切ったら良いです」
「………」
彼の言葉に、私は無言で鎌の刃を彼の首筋に近づけた。
「え、マジっすか?」
一瞬身をすくめた吉田だったが、それだけだった。
鎌の刃を少し首に食い込ませても、ピクリとも動かない。
「……抵抗しないの?」
「いや〜、死ぬよりみどりさんに信用されていない方が悲しいですからね」
さらりと吉田は当たり前のようにそう言い、たはは〜っと、吉田はいつもどおり自然に笑う。
死ぬより悲しいだなんてずいぶん大袈裟な言葉だが、それに近いくらい本気で思っているらしいのが、タチが悪い。
「………」
もともと斬るつもりなどなかった私は鎌を彼の首から離した。
代わりにもう一度吉田の目を見つめて訊ねる。
「本当に、私のこと……好き?」
「何度でも言いますよ。俺は、みどりさんが好きです。大好きです」
「ん……」
他の女に目が行ったことは事実だが、その言葉も事実なのだろう。
嫉妬の炎が収まり、代わりに温かいものが私の心の中を満たす。
「私も、吉田のことが好き……」
そう言いながら私はぐっとさらに腰をおろした。
二人の結合がより深くなり、亀頭と子宮口が密着する。
「んあっ、ああ……だから、出して……吉田が、出して良いのは私の身体にだけ……」
それを行動で表そうと、私は子宮口を押し付けたまま腰を回転させるように動かした。
吉田の亀頭と私の子宮口がくにゅくにゅと擦れ合い、二人の口から同時に嬌声が上がる。
「出して、この奥に……あっ、ふぅんっ……私を、孕ませて……」
私の口から淫らな言葉が漏れる。
孕ませて……
現実的には、まだ子を持つのは時期が早い気がする。
付き合ってあまり日も経っていない。
現に、吉田がこのように他の女に目が行くことがあるという欠点など、今まで知らなかった。
でも……それでも吉田の子どもは欲しい。
そう思えるくらい、私は彼の事が好きだ。
思いの分だけ私はより腰をくねらせて彼の精をねだる。
「みどりさん、もう……!」
「私も、わた……し、も……く、イク……っ、イクっ! う、ふうううっ……!」
吉田にしがみついたまま、私は達した。
彼の上でびくびくと身体が震え、膣が彼の精を搾りとろうと締まるのを感じる。
「くっ、締まって……うっ、あああっ……!」
締め付けに耐えかねたようで、吉田の身体も絶頂を迎えた。
私に拘束に近いくらい抱きしめられたまま、射精している。
どぷどぷと私の子宮口に精液が何度も浴びせられた。
「あ、熱い……んあっ、吉田ぁ……」
びくびくと脈打ちながらペニスは精を吐き出していたが、それもやがて収まった。
彼の射精が止まったと同時に、私はぐたりと彼の上で脱力する。
脱力したから、彼を抱きしめる力も弱くなったようだ。
彼はもぞもぞと身体を動かし、私に呼びかけてくる。
「ねぇ、みどりさん……」
「ん……なに?」
「もう一度シて、いいですか?」
何を今更……
私たちのセックスは一回や二回で終わらないのが常だ。
このあとももう何回か交わるつもりだった。
今は私が激しく搾ったから、今度はまったりと……あるいは、吉田の方から……
「んあっ!?」
ぼーっと考えていたところに前触れもなく突き上げられ、私は甘い声をあげる。
射精したばかりだから吉田は少し休む必要があるはずだと思っていたが、そうではなかったようだ。
そのまま何度か下から吉田は突き上げたあと、男の力で私の下から抜け出し、私を組み伏せた。
油断していた私はなすすべもなく組み伏せられ、吉田の突きによがらされる。
「あっ、あっ! んぅっ、あっ! そこ、気持ちいい……!」
「ここですよね、分かりますよ」
何度も身体を重ねて私の弱点を知っている吉田は的確にそこを突いてくる。
私もよりそこに吉田のペニスをこすりつけようと、吉田の下で自分から腰を動かしていた。
二人の喘ぎ声とぐちゃぐちゃと、私の愛液とさきほど放たれた吉田の精液が混じり合って立てる音がいやらしく部屋に響く。
「みどりさん……」
腰を情熱的に動かしながら、吉田が語りかけてくる。
「男が他の女に目が行ってしまうのは性ってものです。だから良いってわけでもないですけど……これだけは分かって欲しいんです」
「ん、ああんっ、ああ……んんっ!?」
吉田が上体を倒し、私のくちびるを貪ってきた。
舌が侵入してきて唾液を私の舌に擦りつけ、さらに私の舌を飴玉を転がすかのように弄ぶ。
「んちゅ……こんな風にキスをする相手は、みどりさんだけですよ」
「あっ、ふああ……」
下肢からの快感に加えてキスの影響で、私の心も身体もとろけてしまっていた。
そんなとろけている私の耳に吉田の言葉が入ってくる。
「こんなふうに、おっぱいとかを触ったり、アソコを触ったりしたいと思えるのは……逆に俺のアソコとか身体を触って欲しいと思う相手は……みどりさんだけですよ」
身体を起こし、私の胸を揉みしだきながら吉田が言う。
「そして……」
「うああっ!」
一際強く、吉田が突いてきた。
そのまま腰を動かしながら吉田が続ける。
「こんな風にセックスしたいと思って、するのもみどりさんだけです!」
私だけ……
その言葉がとろけた私の頭の中に響き、広がる。
確かに吉田はあの稲荷の従業員に目が行っていた。
おそらく、他の女に目が行くこともあるだろう。
だが、最後は私を見てくれている。
私が彼にとって特別な人だからだ。
彼が私にとって特別な人であるのと同じように……
『ちょっと、私も嫉妬しすぎたかな。ムッとしたのも事実だったけど……吉田は私のことを好きで、見てくれている……』
吉田への愛しい気持ちがあふれ、腕を彼の背中に回し、脚を彼の腰に回して自分の方に引き寄せた。
私が抱きしめたことで、吉田の顔が私に近づく。
だが今度はその口は私のくちびるではなく、耳元に近づいた。
そして、吉田がそっと囁いた。
「好きですよ、みどりさん。大好きです」
「……っ!?」
吉田にそう囁かれた瞬間、私の膣がきゅーっと締まった気がした。
身体が吉田に包まれたまま、がくがくと痙攣する。
達していた。
吉田の言葉がまるで言霊のように私の絶頂の引き金になったようだ。
心と身体の歓喜が爆発して私を絶頂に押しやり続ける。
吉田が短い声を上げた。
それと同時に私の膣内に再び精が放たれる。
「あっ、あっ……よ、しだぁ……」
絶頂の余韻、愛しい男の嬉しい言葉、彼のぬくもり、膣内に出された精……全てがとろけて一緒に混ざり、私を融かし、意識を甘い闇に誘う。
でも、これは言わなければ……
とろけゆく意識の中、私は口を開く。
「わた、し……も、……よしだ……が、好き……だいすき……」
切れ切れになりながらも私はそうつぶやいて吉田に伝える。
そしてそのまま、情事後のひとときの甘い眠りを貪った。
こうして忘年会は終わった。
やはり忘年会自体は大変で辛かった。
さらに吉田のちょっと嫌なところも見た。
でも、互いの気持ちを確認できた。
あの後も何度も交わり、何度も互いに気持ちを込めた言葉を交わした。
それらを考えれば……総じていい忘年会だったと思う。
ただ、翌日の金田と大丸、そしてあの従業員の稲荷の視線が妙に優しくて悪戯っぽかったのは、とても恥ずかしかった。
11/12/29 19:30更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)