万珍と清白姫の伝説
昔々、あるところに万珍という修行僧がおった。
こやつは女と見まがうほどの美貌を持っておったそうじゃ。
そんな万珍がある琥魔野詣(くまのもうで)に行く途中、ある家に泊まった。
そこには清白姫という、それはそれは美人な娘がおったそうな。
そして清白姫は万珍に恋をした。
早速夜、寝込みを襲おうとしたが万珍は起きてしまい、清白姫は断られてしまう。
それでもあきらめられない清白姫。
しきりに身体を撫でたり甘い言葉を囁いたりといろいろ万珍を誘惑し、ついに万珍も折れ
「では琥魔野詣の帰りに迎えに来ます」
と言い、いつまでに戻るとも約束した。
さて、万珍の帰りを待っていた清白姫だったが、約束の日になっても万珍は来ない。
一週間過ぎても一月過ぎても万珍は来ない。
それもそのはず、万珍は約束を破って別の道で帰ったからのう。
裏切られたことを知った清白姫は血相を変えて万珍を追いかけ、すぐに追いついた。
しかし万珍は人違いだと言って逃げおった。
修行中とは言え仮にも僧侶、人を導く立場だと言うのに、酷い男じゃのう。
清白姫が衝撃を受けて呆然としている間に万珍は大慌てで逃げ出した。
怒りと悲しみと、そして深すぎる万珍への愛情にその身を焦がし、ついに白蛇という魔物になって万珍を再び追いかけだした。
ん?
なんでいきなり変わったのかと?
人がいきなり魔物になるのはおかしいと?
さぁ、実際にその現場を見たわけじゃないから、詳しいことは拙僧にも分からぬのう。
もともと白蛇で、人の擬態をしていたのかもしれぬし、ジパングに潜んでいた魔王の娘、リリムが現れて清白姫を白蛇にして力を貸したのかも知れんのう。
ともかく、清白姫は白蛇になって万珍を追いかけだした。
川を渡り船頭に清白姫を渡さないように頼んで足止めする算段だった万珍もこれでは駄目だと困り、成道寺に逃げ込んでかくまうように頼んだ。
理由が理由なだけにかくまうことをためらった僧侶も多かったが、万珍は寺の僧侶によって釣鐘を下ろしてもらい、その中に隠れた。
一方、清白姫も成道寺にたどり着き、万珍が鐘の中に隠れていることを知った。
そして鐘に巻きつき、口から炎を吐いて鐘越しに万珍を焼き殺した。
万珍は因果応報じゃな。
あとで寺の僧侶が鐘を開けて調べてみたら塵となるまで焼けていたそうじゃ。
一方、自分が巻きついている鐘を加熱した清白姫も無事のはずがなく、大やけどを負ってそのまま死んだ。
そうじゃ、二人とも死んだのじゃ。
これが俗に言うヤンデレというヤツかのう?
む?
違うのか?
それは失礼。
こんな山奥で暮らしていると都会の話などはトンと耳に入ってこないのでな・・・
ゆがんだ解釈をしてしもうたようだ。
話を戻すかのう?
結局、万珍も清白姫も死んだ。
その次の日の夜、寺の住職の夢に万珍が出てきて
「今では私はあの世で清白姫の夫となりました。結果はこのようになりましたが、あの時はかくまってくれてありがとうございました。さらに頼んで申し訳ないのですが、我々が救われるように、供養してくださるよう、何卒よろしくお願いします」
と頼んだそうじゃ。
頼まれた通り住職が二人の供養をすると翌日の夜、再び万珍と清白姫が夢に出て住職に礼を言い、そのまま成仏したそうな・・・
これが万珍と清白姫の伝説じゃ。
満足したかのう?
何?
納得がいかんとな?
あの世なんて存在しない?
バカ者、存在するかもしれないではないか。
伝承なんてそんなもの・・・
なんだと?
伝承でも、魔物娘が出てくる話で、ヤンデレでもないのに
「二人とも死んであの世で結ばれて幸せに暮らしましたとさ」
のような終わり方はあり得ないと?
魔物は男と現世で交わり続けるのが至上の幸せじゃと?
ほほう、漠と聞いて漠と飲み込む輩と違っておぬしは物事の裏を見るようじゃのう・・・
良かろう、普通は聞かせぬ、真実を語ってやろう。
白蛇となった清白姫がとち狂い、鐘に巻きついて万珍を焼き殺そうとしたところまでは事実じゃ。
その時、話を聞きつけた一人の人間の尼が隣の寺から飛んできたそうじゃ。
そして自分の過去を打ち明けて清白姫を説得しようとした。
自分は昔、好きになった男がいた。
自分のことを何かと気にかけてくれる男だったそうで、彼女もそのうちその男が気になったそうな・・・
しかし、けしからんことにその男にはすでに恋仲の女子がおったそうな・・・そんな女子がおるのに他の女にいらん愛想を巻くとは、万珍に劣らずけしからん男よな。
嫉妬に狂った彼女はその男の恋人を闇討ちした。
これで邪魔はおらず彼女は男が自分を見てくれるのではないかと思った。
しかしそうは問屋がおろさなかったようじゃな。
その男は行方不明になった自分の恋人を探そうとしてますますその恋人に夢中になったのじゃな、もう死んでこの世にいないのにのう・・・
業を煮やした彼女は思いついたそうじゃ。
その男を殺して自分も死に、永遠に自分の傍にいる存在にしようと・・・
そして実行に移した。
しかし、男を殺したところで気付いたんじゃな。
何も得られず、虚しいだけだったと・・・
悟った彼女は世を捨て、己を捨て、仏門に入ったそうじゃ。
・・・捕まって死罪にならなかったのかと気になるところじゃが、そこらへんは捕まらなかったのじゃろう。
そして今まで殺した二人のことを供養していたそうじゃ。
自分の体験を語り、その尼は言った。
殺してもむなしいだけ・・・・御仏のような大きな心持ちでまずは許してあげなさい。
命あればまだ取り返せる、まだ手段はあるはずだ。
そこからどうするか、話し合って別れるなり、四肢を断って自分のものにするなり、好きにすればいいと・・・
尼の言葉を聞き、清白姫は悩みに悩んだ結果、心中することは止めて万珍を許した。
けれども万珍への気持ちは抑えきれなかったので万珍に鐘と同じように巻きつき、近くの廃寺に連れ去った。
そしてその廃寺で万珍を肌身離さず巻きついて愛しているそうな・・・
廃寺の周囲に、万珍が逃げられぬように結界をかけてのう。
魔物の寿命も魔の者となった男の寿命も恐ろしく長いから、今でもおそらくその廃寺で交わり続けておるのじゃろう。
なんとか上手く丸く収まったようじゃの。
はたから見れば人の評価は様々じゃろうが、本人は幸せなのじゃろう。
これが万珍と清白姫の伝説じゃ。
満足したかの?
こんな山奥にこの話を聞きにわざわざここに来たのじゃ。
おぬしも何か色事の悩みを抱えておるのじゃろう?
ならば拙僧から言えることは一つじゃ。
欲しいものは手に入れなさい。
じゃが、取り返しのつかぬことになる結果を招きそうな手段なら、良く考えて、できることなら止めにすることじゃな。
すっきりしたか?
ならば行くが良い。
すまぬ、待たせたかのう?
おう、そんなにすぐに巻きついて寂しかったと・・・
おぬしと離れて一刻も経っておらぬではないか・・・
何、私が俗世が恋しくなって逃げてしまうのではないかと心配しておったとな?
そんなことはもうない。
そもそも逃げようにも結界を張られて私はここを出られぬではないか。
じゃがそんなことは枝葉末節。
私はおぬしにひどい仕打ちをし、業だらけの私を許してくれたおぬしのもとを離れぬよ。
そして、寿命が長い魔の者となってもここまで老いてしまった私を求めてくれるおぬしを大事に思っておるよ。
のう、清白姫・・・
こやつは女と見まがうほどの美貌を持っておったそうじゃ。
そんな万珍がある琥魔野詣(くまのもうで)に行く途中、ある家に泊まった。
そこには清白姫という、それはそれは美人な娘がおったそうな。
そして清白姫は万珍に恋をした。
早速夜、寝込みを襲おうとしたが万珍は起きてしまい、清白姫は断られてしまう。
それでもあきらめられない清白姫。
しきりに身体を撫でたり甘い言葉を囁いたりといろいろ万珍を誘惑し、ついに万珍も折れ
「では琥魔野詣の帰りに迎えに来ます」
と言い、いつまでに戻るとも約束した。
さて、万珍の帰りを待っていた清白姫だったが、約束の日になっても万珍は来ない。
一週間過ぎても一月過ぎても万珍は来ない。
それもそのはず、万珍は約束を破って別の道で帰ったからのう。
裏切られたことを知った清白姫は血相を変えて万珍を追いかけ、すぐに追いついた。
しかし万珍は人違いだと言って逃げおった。
修行中とは言え仮にも僧侶、人を導く立場だと言うのに、酷い男じゃのう。
清白姫が衝撃を受けて呆然としている間に万珍は大慌てで逃げ出した。
怒りと悲しみと、そして深すぎる万珍への愛情にその身を焦がし、ついに白蛇という魔物になって万珍を再び追いかけだした。
ん?
なんでいきなり変わったのかと?
人がいきなり魔物になるのはおかしいと?
さぁ、実際にその現場を見たわけじゃないから、詳しいことは拙僧にも分からぬのう。
もともと白蛇で、人の擬態をしていたのかもしれぬし、ジパングに潜んでいた魔王の娘、リリムが現れて清白姫を白蛇にして力を貸したのかも知れんのう。
ともかく、清白姫は白蛇になって万珍を追いかけだした。
川を渡り船頭に清白姫を渡さないように頼んで足止めする算段だった万珍もこれでは駄目だと困り、成道寺に逃げ込んでかくまうように頼んだ。
理由が理由なだけにかくまうことをためらった僧侶も多かったが、万珍は寺の僧侶によって釣鐘を下ろしてもらい、その中に隠れた。
一方、清白姫も成道寺にたどり着き、万珍が鐘の中に隠れていることを知った。
そして鐘に巻きつき、口から炎を吐いて鐘越しに万珍を焼き殺した。
万珍は因果応報じゃな。
あとで寺の僧侶が鐘を開けて調べてみたら塵となるまで焼けていたそうじゃ。
一方、自分が巻きついている鐘を加熱した清白姫も無事のはずがなく、大やけどを負ってそのまま死んだ。
そうじゃ、二人とも死んだのじゃ。
これが俗に言うヤンデレというヤツかのう?
む?
違うのか?
それは失礼。
こんな山奥で暮らしていると都会の話などはトンと耳に入ってこないのでな・・・
ゆがんだ解釈をしてしもうたようだ。
話を戻すかのう?
結局、万珍も清白姫も死んだ。
その次の日の夜、寺の住職の夢に万珍が出てきて
「今では私はあの世で清白姫の夫となりました。結果はこのようになりましたが、あの時はかくまってくれてありがとうございました。さらに頼んで申し訳ないのですが、我々が救われるように、供養してくださるよう、何卒よろしくお願いします」
と頼んだそうじゃ。
頼まれた通り住職が二人の供養をすると翌日の夜、再び万珍と清白姫が夢に出て住職に礼を言い、そのまま成仏したそうな・・・
これが万珍と清白姫の伝説じゃ。
満足したかのう?
何?
納得がいかんとな?
あの世なんて存在しない?
バカ者、存在するかもしれないではないか。
伝承なんてそんなもの・・・
なんだと?
伝承でも、魔物娘が出てくる話で、ヤンデレでもないのに
「二人とも死んであの世で結ばれて幸せに暮らしましたとさ」
のような終わり方はあり得ないと?
魔物は男と現世で交わり続けるのが至上の幸せじゃと?
ほほう、漠と聞いて漠と飲み込む輩と違っておぬしは物事の裏を見るようじゃのう・・・
良かろう、普通は聞かせぬ、真実を語ってやろう。
白蛇となった清白姫がとち狂い、鐘に巻きついて万珍を焼き殺そうとしたところまでは事実じゃ。
その時、話を聞きつけた一人の人間の尼が隣の寺から飛んできたそうじゃ。
そして自分の過去を打ち明けて清白姫を説得しようとした。
自分は昔、好きになった男がいた。
自分のことを何かと気にかけてくれる男だったそうで、彼女もそのうちその男が気になったそうな・・・
しかし、けしからんことにその男にはすでに恋仲の女子がおったそうな・・・そんな女子がおるのに他の女にいらん愛想を巻くとは、万珍に劣らずけしからん男よな。
嫉妬に狂った彼女はその男の恋人を闇討ちした。
これで邪魔はおらず彼女は男が自分を見てくれるのではないかと思った。
しかしそうは問屋がおろさなかったようじゃな。
その男は行方不明になった自分の恋人を探そうとしてますますその恋人に夢中になったのじゃな、もう死んでこの世にいないのにのう・・・
業を煮やした彼女は思いついたそうじゃ。
その男を殺して自分も死に、永遠に自分の傍にいる存在にしようと・・・
そして実行に移した。
しかし、男を殺したところで気付いたんじゃな。
何も得られず、虚しいだけだったと・・・
悟った彼女は世を捨て、己を捨て、仏門に入ったそうじゃ。
・・・捕まって死罪にならなかったのかと気になるところじゃが、そこらへんは捕まらなかったのじゃろう。
そして今まで殺した二人のことを供養していたそうじゃ。
自分の体験を語り、その尼は言った。
殺してもむなしいだけ・・・・御仏のような大きな心持ちでまずは許してあげなさい。
命あればまだ取り返せる、まだ手段はあるはずだ。
そこからどうするか、話し合って別れるなり、四肢を断って自分のものにするなり、好きにすればいいと・・・
尼の言葉を聞き、清白姫は悩みに悩んだ結果、心中することは止めて万珍を許した。
けれども万珍への気持ちは抑えきれなかったので万珍に鐘と同じように巻きつき、近くの廃寺に連れ去った。
そしてその廃寺で万珍を肌身離さず巻きついて愛しているそうな・・・
廃寺の周囲に、万珍が逃げられぬように結界をかけてのう。
魔物の寿命も魔の者となった男の寿命も恐ろしく長いから、今でもおそらくその廃寺で交わり続けておるのじゃろう。
なんとか上手く丸く収まったようじゃの。
はたから見れば人の評価は様々じゃろうが、本人は幸せなのじゃろう。
これが万珍と清白姫の伝説じゃ。
満足したかの?
こんな山奥にこの話を聞きにわざわざここに来たのじゃ。
おぬしも何か色事の悩みを抱えておるのじゃろう?
ならば拙僧から言えることは一つじゃ。
欲しいものは手に入れなさい。
じゃが、取り返しのつかぬことになる結果を招きそうな手段なら、良く考えて、できることなら止めにすることじゃな。
すっきりしたか?
ならば行くが良い。
すまぬ、待たせたかのう?
おう、そんなにすぐに巻きついて寂しかったと・・・
おぬしと離れて一刻も経っておらぬではないか・・・
何、私が俗世が恋しくなって逃げてしまうのではないかと心配しておったとな?
そんなことはもうない。
そもそも逃げようにも結界を張られて私はここを出られぬではないか。
じゃがそんなことは枝葉末節。
私はおぬしにひどい仕打ちをし、業だらけの私を許してくれたおぬしのもとを離れぬよ。
そして、寿命が長い魔の者となってもここまで老いてしまった私を求めてくれるおぬしを大事に思っておるよ。
のう、清白姫・・・
11/09/30 23:31更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)