第四章
コレンの正体がルディにばれるという事件から三日後、リストビア国は新兵の入団式の日を迎えていた。
城に通じる大通りは、店が出ていたり、芸に自信があるものが大道芸をしてみたりと、国民それぞれがそれぞれの方法で、このお祭りを楽しんでいる。
ルディはそんな賑わいの中一人、面倒くさそうに通りの端を歩き城へ向かって歩いて行く。
(人が多いし楽しそうなのは良いんだけど、ちょっと騒がしすぎるよなぁ…)
田舎者の彼にとっては、この騒がしさは愉快を通り越して不快であったようだ。
本日の入団式の正装であるオーダーメイドの礼服も、畳んで手荷物の中に突っ込まれている。
そうして、こそこそと歩いていると後ろからドッと盛り上がる人々の声が聞こえる。
ルディが振り返るとそこには、ルディとは違ってしっかりと礼服に身を包んだ男の姿があった。
今日は入団式用の礼服を来てただ通りを歩いているだけで、その場の人気者になれる。それが溜らなく嬉しいのだろ、その男は堂々と笑顔で胸にある帝国軍のシンボルを見せつける様に闊歩している。
国民はそれぞれ「頑張れよ〜!」や、「かっこいいぞ、兄ちゃん!」などと野次を飛ばしてる。
それを見て改めてルディは「まだ着なくて良かった」と言わんばかりの嘆息をするのであった。
その後もルディは通りの端っこを歩き続け、同じく新兵の仲間が通りを歩いてる時は、その仲間にバレない様に顔を隠し、手に持っている服を他の人達に礼服とバレない様に隠しながら城へと向かって行った。
そんなスニーキングミッション紛いの事をしながら進んで、あと城門まで200ヤードという所で、先程までは比べ物にならない位の歓声がルディの後方で起きた。
ただの歓声なら新兵仲間3人分くらいで慣れて振り向かなくなったが、今回のは明らかに盛り上がり方が違うかった為、穏便に城に入りたいルディも気にならずにはいられなかった。
ルディがこそこそと、歓声の発生地に向かうとそこにはやはり、今日の入団式に参加する仲間の姿があった。ただ他の人達と違うのは、その者の格好が異様であったのだ。
規定の黒色を基調とした靴は膝まで伸びており、靴というよりはブーツと言った方が正しい代物であろう。視線を上に向けると、ズボンも長ズボンではなくホットパンツを履いており、健康的なむっちりした太腿が曝け出されている。腰には愛用の武器が鞘に納められベルトにぶら下げられていた。さらに上を見てみると、黒と赤を基調としたトップを着ているのが分かる。流石にヘソを出す程には露出は高く無いものの、しっかりとサイズを合わせて作られたであろうその服は、彼女の胸から腰にかけてのラインを強調していた。肩からは腰まで届く様な小さなマントが付けられており、外地は黒で内側は赤色といった具合になっている。そして頭には、つばの広いピクチャーハットが被られている。
ルディはそんな礼服を着たコレンの姿を見て、驚かざるをえなかった。自分の正体を隠す為に男のふりをしていると思っていたコレンが、自分が女性であると自ら打ち明ける様な服装をしていたからだ。そして、その姿が異様に似合っており、美しすぎる事にも目を見開き驚き続けるしか無かった
等のコレンは、顔を真っ赤にし口を一文字にキューっと結びながら恥ずかしそうにチョコチョコと城に向かって歩き続けていた。
そんなコレンに皆「めんこいなお嬢ちゃん!」、「ママ、あの人お人形さんみたい」、「本当に奇麗、私もあんなに奇麗に格好よく…」等と黄色い声援ばかり飛ぶのであった。
(あのアラクネの仕業か〜、コレン御愁傷様…)
そう内心で気の毒に思いながら城へ向かって踵を返そうとする。
しかし、いざ振り返って歩き出そうとすると…
「あっ、ルディ!ルディじゃないか!!」
運悪くコレンに見つかってしまったようであった。
コレンはご主人様を見つけた子犬のごとくの笑顔で、ルディに近寄ってくる。
ルディはあくまで他人のふりをして逃げ出そうとする
スタスタスタスタ…..スタスタス、ガシッ
「ちょっとルディ?何〜で逃げるのかな〜それに、その服装はどうしたのかな?」
逃げたルディをコレンは、後ろから抱きつき止める。
「お、おいコレン、皆見てるぞ?」
「ふ〜ん、恥ずかしいんだ〜。でも君も恥ずかしがっている僕を無視して行こうとしたよね?ね?」
さっきルディが逃げた事を根に持っているのか、コレンはルディが恥ずかしがっている様子を楽しんでいる。
「ほら、じゃあその持ってる服を着てお城へ行こっか〜」
そんな二人の様子を周りの皆は、非常に楽しそうに見てる。
「おら〜お前も新兵か、頑張れよ〜」
と応援する声もあれば
「お似合いじゃねぇか、仲良くやれよ〜」
と囃し立てるような声が多い。
コレンはそんな周りの声も気にせずに、ルディに抱きつき続けながら城へと少しずつ進んでいく。
「ほらお城までもう少しだよ、早く歩かないと〜」
「いや、コレン。胸も当たってるし、そもそもその格好は?」
「ん、これ?あの店員さんが結局、女性用を作っちゃったんだよね。最初は恥ずかしくて嫌だったけど、ルディをこうやって弄れてるし良かったかな〜♪」
コレンは完璧に変な方向にスイッチが入ってしまったようで、一切回りの事など気にならなくなっていた。そんなコレンを見て諦めたのかルディは抵抗をやめ、抱きつかれ歩きにくい状況であるが必死に早歩きをする。
そんなルディにとって恥ずかしく地獄の様な状態の中、ルディにふと疑問が生じる。
「そういや、もう男装はしなくて良いのか?」
「うん、どうせルディ以外にもすぐにバレていただろうしね。別にこの国なら女性だからって甘く見られる事も無さそうだしね。ほらルディ、もうそろそろお城の入り口だよ?服を着ないと。」
「分かった分かった、ちょっと離れてくれるかな?」
「はいはい。」
ようやくコレンから解放されてルディは一息つく。そしてさりげなく、距離をとるルディ。流石にお城に入るには礼服を着ていなければならないので、そそくさと上着に袖を通す。
「うんうん、かっこいいねルディ、似合ってるよ。それじゃ、入ろうか。」
きちんと礼服に着替えたルディとコレンは、今度はきちんと二人並んでしっかりとした足取りで城門へ歩いて行く。
城門の前には左右に兵が一人ずつ、それぞれ剣を抜き切っ先を地面に差し両手でポメルを押さえている。真ん中には役所の人間であろう口ひげを生やした初老の男性が立っている。
「はい、こんにちは、ルディ君とコレン君じゃな。なんじゃお主はやっぱり女子じゃったのか、しかし母親とは全く似つかないのぅ…。ルディ君も大きくなったの、父親にも母親にもそっくりじゃな。」
どうやらその男性は、二人の親の事を知っているようであった。
「あの失礼ですが、お名前は何と言うのでしょうか?そして、何で私の両親の事を知っているのでしょうか?」
ルディは失礼の無い様にと言った様子で恐る恐る尋ねる。
「あ〜そうじゃったな。私の名前はマックス・ケナードじゃ。ルディ君の父親には私が魔法を教えていたからの。そしてお前の母親には、お前が産まれた時に会うたよ。」
マックスは懐かしそうな表情を浮かべながら、いきさつを話す。どうやらマックスはルディの父に魔法を教えていたという。という事は、相当長い時間軍に居るのであろう。
尊敬している父の先生であるというマックスに対して、ルディは「自分もこの人に教わるのかもしれない」と期待と喜びを感じていた。
「コレン君は言わなくても言いかの?」
「はい…」
コレンは母親の話題になると少々気まずそうな表情をする。
マックスもそれを察しているのか、あまり多くを言わない様にしている。
「うんうん、今日が晴れ舞台じゃの。あまり面白くないかもしれんけどな、ルディ君の父親も参加した古くから続く伝統行事じゃから精一杯式典を楽しんで来なさんな。」
マックスは二人の招待状を確認する事もなく、城門を開ける事を指示した。
「はい!」「…はい。」
壮大な門が魔導力によって滑らかに開き始める。
巨大な一枚岩により造られた門は、様々な彫刻があしなわれている。
「では行ってらっしゃい。」
マックスは二人の背中をポンと押す。
門が上がりきった先には、先程の大通りと遜色がないくらい広い石畳の路が伸び、左右には奇麗な庭園が広がっている。
そして路の先には、国の端からも視認する事ができる城がそびえ立っている。
前時代に建立された城は、歳を感じさせない荘厳さを持っており、現代建築には用いられない技法を駆使して建てられている為に歴史的建造物としての価値も持つ。
ルディとコレンは奇麗な庭園、立派な城に感嘆しながら式場である大広間に向かって歩き続ける。やがて二人は広間の扉へと到着し、改めて門番による招待状のチェックを行った後、式場へと通された。
式場である大広間には入団試験時のピリピリした雰囲気とは違い、和やかな雰囲気が漂っていた。
ルディとコレンが大広間に入ると、式をセッティングする者が近寄ってきてそれぞれの席へと案内する。幸い二人の席は隣同士であり、コレンはあからさまに嬉しそうな表情を浮かべていた。
「しかし、本当に立派なお城だね〜。未だにこんなに美しく保たれてるなんて本当に凄いよ。」
「そうだな…」
コレンは単純に城の美しさに見蕩れ、ルディは自分の父もここで入団式をしたのかと感動していた。
そんな二人の周りは、コレンに対して「女だったの!?」と驚いた様子を見せている。
今年の入団者は、男性9名女性3名であった。
そしてそれぞれが、これから仲間となる者達に会釈をしている間に、この国の重鎮達が入場して来た。その姿を見て皆、静まり返る。
やがて執政官が入場し、壇上に立つ。
「ついに始まるね〜」
「あぁ…あの人が、この国の執政官か。」
そして、やがて執政官が話し始める。
「私はリストビア国の執政官をしているレビ・ハインツと言います。まずは、本日リストビア国帝国軍に入団する諸君に祝辞を申し上げたいと思います。そして、魔物と闘う、国を守る、自分の力を認めて貰いたい、等入団理由は様々であろうと思いますが、その身を帝国の為に捧げようとするその意思に感謝したいと思います。」
「うぇ…話が面白く無い」
その言葉にルディが横を向くと、コレンがあからさまに嫌そうな顔をしていた。
(この入団式に何を期待してたんだ)
とルディは内心突っ込みをいれつつ話に耳を傾ける。
「とまぁ堅苦しいのはここまでにするか、毎年毎年今年こそは真面目にやるぞとは思ってるんだがね。堅苦しいし、話も聞いててつまらないだろうしね。」
レビ執政官は先程とは打って変わって、一気に面倒くさそうな表情を浮かべ話し方までいつも通りに戻る。そして、皆が内心を思っていたであろう事を自らの口で言ってしまう。
「新兵の諸君は今日から、帝国軍の一人としてこの国で鍛錬をする事になる。今日から始まる新しい一日を充実させ楽しんでいって欲しい。私からはそれだけだ。」
レビ執政官はそう言って、新兵全員の顔を一瞥した後に段から降りて行った。
レビ・ハインツ執政官は形式に囚われた物事を嫌う。毅然とした態度を取っているが、する事する事全てに国の為、民の為と理にかなった行動をするが故に、皆から親しまれている。
この国に来たばっかの新兵達も不思議とその魅力を感じていた。
「何か、この国って面白い人が多いね〜。」
「そうだな、今の人然り入団試験の時のおっさん然り…。面白い国だな。」
「あっ、ルディもそう思うんだね。本当に面白い国だよ。」
二人は小さく笑いながら、次の人が壇に登るのを待っている。
すると、ちょうど噂の人物が壇上に上って来た。
「さっそくだが、お前ら入団おめでとう!俺はコールマン=ハリスだ、リストビア国軍団長をしている。ずっとこの国に勤める者、帝国軍中枢部を目指して帝国本土へ行く者、旅に出る者それぞれ居ると思う。しかし、進む道は違えど今日この時、この場所で一緒に式を受け軍に入団した仲間だ、大事にしろよ。勿論、俺もみっちりお前らをしごいてやるからな。これから、宜しく頼むぜ!以上!次はグレイス様だな、少し待っとけ。」
コールマン団長はレビ執政官と違い、一瞥もくれずにさっさと壇を降りて行ってしまった。その様子を見てコレンは「大胆で面倒くさがりそうな人だし、つまらなかったのかな」と一言。ルディは「それは違うだろ」と突っ込みを入れつつ、あの大雑把そうな団長が様付けをする人物に対して「どんな人であるだろうか」と思案していた。
そして間もなく、一人の美しい女性が壇上に登って来た。それは、模擬戦の時に観覧席に居た黒いドレスを着た美女であった。
おそらくその美女が団長の言うグレイス様であろう。
その女性は、壇に上がっただけで会場の者達に息をのませる程の美しさを持っていた。ルディとて例外ではなく、模擬戦の時と同じく目を奪われていた。
その様子を見たコレンは、つまらなさそうに頬を膨らませてルディの太腿を抓るのであった。
「私の名前はグレイス・ディ・ファラデーである。ここリストビア国のある領土を管理しているグレイス家の18代目当主である。新たにこの国の軍に入団する諸君、その志し高き者達へこの土地に生きる住民を代表して感謝を述べさせて頂く。これから是非とも、この国のため民の為に鍛錬に励んでいって欲しい。」
グレイスは、簡潔に挨拶だけを済ませて壇を降りて行ってしまった。しかし、その一瞬だけでも姿を見れた事が嬉しいのか後方の席では泣いて喜んでいる先輩兵士の姿が見える。
噂によると、グレイス様ファンクラブというものが存在するらしく。その美しい容姿と、なかなか国民の前に姿を現さないというミステリアスさから、勝手にファンにアイドル化されているらしい。
「奇麗だなぁ…あっ、コレン?奇麗だなってのは、ただ単に感想で見蕩れてなんか無いからな。」
さっきグレイスに見蕩れてて抓られたのが相当痛かったのか、自分の言った事を急いで訂正するルディである。
「ふ〜ん、そうだよね〜あの女、ボクと違って奇麗だよねぇ。」
コレンはそんなルディの必死に訂正する様を見て、ジト目で拗ねた様子で唇を尖らせる。
「いやいや、ルディも十分奇麗だよ。ルディとさっきの人には、違った良さがあるんだって!」
コレンの様子を見て「ヤバイ!」と感じたルディは、コレンの手を取り必死に弁解をする。どうやら、コレンの扱いに慣れて来たみたいであった。
「そうかな…?ルディがそう言ってくれるんだったら良いけど。」
ルディが理解したコレンの特性は、機嫌をなおしてもらうのに、言葉だけでは駄目で何かしらのスキンシップも必要であるという事であった。
今回の場合でのスキンシップとは、手を取るというものであった。
「ほら自分に自信を持ちなって、せっかく可愛いんだから。」
「そ、そう…、ありがと。」
駄目押しとばかりにルディは、コレンをおだてる。
コレンの機嫌はなおったみたいだが、ルディには一つ不可解な事があった。
コレンの前でルディが他の女性に見蕩れるという事はよく有ったのだが、大体の場合はちょっと拗ねる程度で終わっていたのだが、今日だけは以上に機嫌が悪いように感じたのである。その上グレイスを「あの女」呼ばわりするのだから、明らかにグレイスを嫌っているのが分かる。
この気さくで明るいコレンにしては珍しいなとルディは感じながら、後で聞いてみようと思うのであった。
式は進行して行き、やがて終わりの時間が迫ってきた。
どうやらこの後、城から兵士の駐屯地まで練歩いた後、駐屯地の広間で民も合わせての歓迎パーティがあるらしい。ルディはせっかく、隠れてコソコソ城まで来たのに結局意味なかったのかと肩を落とすのであった。
城に通じる大通りは、店が出ていたり、芸に自信があるものが大道芸をしてみたりと、国民それぞれがそれぞれの方法で、このお祭りを楽しんでいる。
ルディはそんな賑わいの中一人、面倒くさそうに通りの端を歩き城へ向かって歩いて行く。
(人が多いし楽しそうなのは良いんだけど、ちょっと騒がしすぎるよなぁ…)
田舎者の彼にとっては、この騒がしさは愉快を通り越して不快であったようだ。
本日の入団式の正装であるオーダーメイドの礼服も、畳んで手荷物の中に突っ込まれている。
そうして、こそこそと歩いていると後ろからドッと盛り上がる人々の声が聞こえる。
ルディが振り返るとそこには、ルディとは違ってしっかりと礼服に身を包んだ男の姿があった。
今日は入団式用の礼服を来てただ通りを歩いているだけで、その場の人気者になれる。それが溜らなく嬉しいのだろ、その男は堂々と笑顔で胸にある帝国軍のシンボルを見せつける様に闊歩している。
国民はそれぞれ「頑張れよ〜!」や、「かっこいいぞ、兄ちゃん!」などと野次を飛ばしてる。
それを見て改めてルディは「まだ着なくて良かった」と言わんばかりの嘆息をするのであった。
その後もルディは通りの端っこを歩き続け、同じく新兵の仲間が通りを歩いてる時は、その仲間にバレない様に顔を隠し、手に持っている服を他の人達に礼服とバレない様に隠しながら城へと向かって行った。
そんなスニーキングミッション紛いの事をしながら進んで、あと城門まで200ヤードという所で、先程までは比べ物にならない位の歓声がルディの後方で起きた。
ただの歓声なら新兵仲間3人分くらいで慣れて振り向かなくなったが、今回のは明らかに盛り上がり方が違うかった為、穏便に城に入りたいルディも気にならずにはいられなかった。
ルディがこそこそと、歓声の発生地に向かうとそこにはやはり、今日の入団式に参加する仲間の姿があった。ただ他の人達と違うのは、その者の格好が異様であったのだ。
規定の黒色を基調とした靴は膝まで伸びており、靴というよりはブーツと言った方が正しい代物であろう。視線を上に向けると、ズボンも長ズボンではなくホットパンツを履いており、健康的なむっちりした太腿が曝け出されている。腰には愛用の武器が鞘に納められベルトにぶら下げられていた。さらに上を見てみると、黒と赤を基調としたトップを着ているのが分かる。流石にヘソを出す程には露出は高く無いものの、しっかりとサイズを合わせて作られたであろうその服は、彼女の胸から腰にかけてのラインを強調していた。肩からは腰まで届く様な小さなマントが付けられており、外地は黒で内側は赤色といった具合になっている。そして頭には、つばの広いピクチャーハットが被られている。
ルディはそんな礼服を着たコレンの姿を見て、驚かざるをえなかった。自分の正体を隠す為に男のふりをしていると思っていたコレンが、自分が女性であると自ら打ち明ける様な服装をしていたからだ。そして、その姿が異様に似合っており、美しすぎる事にも目を見開き驚き続けるしか無かった
等のコレンは、顔を真っ赤にし口を一文字にキューっと結びながら恥ずかしそうにチョコチョコと城に向かって歩き続けていた。
そんなコレンに皆「めんこいなお嬢ちゃん!」、「ママ、あの人お人形さんみたい」、「本当に奇麗、私もあんなに奇麗に格好よく…」等と黄色い声援ばかり飛ぶのであった。
(あのアラクネの仕業か〜、コレン御愁傷様…)
そう内心で気の毒に思いながら城へ向かって踵を返そうとする。
しかし、いざ振り返って歩き出そうとすると…
「あっ、ルディ!ルディじゃないか!!」
運悪くコレンに見つかってしまったようであった。
コレンはご主人様を見つけた子犬のごとくの笑顔で、ルディに近寄ってくる。
ルディはあくまで他人のふりをして逃げ出そうとする
スタスタスタスタ…..スタスタス、ガシッ
「ちょっとルディ?何〜で逃げるのかな〜それに、その服装はどうしたのかな?」
逃げたルディをコレンは、後ろから抱きつき止める。
「お、おいコレン、皆見てるぞ?」
「ふ〜ん、恥ずかしいんだ〜。でも君も恥ずかしがっている僕を無視して行こうとしたよね?ね?」
さっきルディが逃げた事を根に持っているのか、コレンはルディが恥ずかしがっている様子を楽しんでいる。
「ほら、じゃあその持ってる服を着てお城へ行こっか〜」
そんな二人の様子を周りの皆は、非常に楽しそうに見てる。
「おら〜お前も新兵か、頑張れよ〜」
と応援する声もあれば
「お似合いじゃねぇか、仲良くやれよ〜」
と囃し立てるような声が多い。
コレンはそんな周りの声も気にせずに、ルディに抱きつき続けながら城へと少しずつ進んでいく。
「ほらお城までもう少しだよ、早く歩かないと〜」
「いや、コレン。胸も当たってるし、そもそもその格好は?」
「ん、これ?あの店員さんが結局、女性用を作っちゃったんだよね。最初は恥ずかしくて嫌だったけど、ルディをこうやって弄れてるし良かったかな〜♪」
コレンは完璧に変な方向にスイッチが入ってしまったようで、一切回りの事など気にならなくなっていた。そんなコレンを見て諦めたのかルディは抵抗をやめ、抱きつかれ歩きにくい状況であるが必死に早歩きをする。
そんなルディにとって恥ずかしく地獄の様な状態の中、ルディにふと疑問が生じる。
「そういや、もう男装はしなくて良いのか?」
「うん、どうせルディ以外にもすぐにバレていただろうしね。別にこの国なら女性だからって甘く見られる事も無さそうだしね。ほらルディ、もうそろそろお城の入り口だよ?服を着ないと。」
「分かった分かった、ちょっと離れてくれるかな?」
「はいはい。」
ようやくコレンから解放されてルディは一息つく。そしてさりげなく、距離をとるルディ。流石にお城に入るには礼服を着ていなければならないので、そそくさと上着に袖を通す。
「うんうん、かっこいいねルディ、似合ってるよ。それじゃ、入ろうか。」
きちんと礼服に着替えたルディとコレンは、今度はきちんと二人並んでしっかりとした足取りで城門へ歩いて行く。
城門の前には左右に兵が一人ずつ、それぞれ剣を抜き切っ先を地面に差し両手でポメルを押さえている。真ん中には役所の人間であろう口ひげを生やした初老の男性が立っている。
「はい、こんにちは、ルディ君とコレン君じゃな。なんじゃお主はやっぱり女子じゃったのか、しかし母親とは全く似つかないのぅ…。ルディ君も大きくなったの、父親にも母親にもそっくりじゃな。」
どうやらその男性は、二人の親の事を知っているようであった。
「あの失礼ですが、お名前は何と言うのでしょうか?そして、何で私の両親の事を知っているのでしょうか?」
ルディは失礼の無い様にと言った様子で恐る恐る尋ねる。
「あ〜そうじゃったな。私の名前はマックス・ケナードじゃ。ルディ君の父親には私が魔法を教えていたからの。そしてお前の母親には、お前が産まれた時に会うたよ。」
マックスは懐かしそうな表情を浮かべながら、いきさつを話す。どうやらマックスはルディの父に魔法を教えていたという。という事は、相当長い時間軍に居るのであろう。
尊敬している父の先生であるというマックスに対して、ルディは「自分もこの人に教わるのかもしれない」と期待と喜びを感じていた。
「コレン君は言わなくても言いかの?」
「はい…」
コレンは母親の話題になると少々気まずそうな表情をする。
マックスもそれを察しているのか、あまり多くを言わない様にしている。
「うんうん、今日が晴れ舞台じゃの。あまり面白くないかもしれんけどな、ルディ君の父親も参加した古くから続く伝統行事じゃから精一杯式典を楽しんで来なさんな。」
マックスは二人の招待状を確認する事もなく、城門を開ける事を指示した。
「はい!」「…はい。」
壮大な門が魔導力によって滑らかに開き始める。
巨大な一枚岩により造られた門は、様々な彫刻があしなわれている。
「では行ってらっしゃい。」
マックスは二人の背中をポンと押す。
門が上がりきった先には、先程の大通りと遜色がないくらい広い石畳の路が伸び、左右には奇麗な庭園が広がっている。
そして路の先には、国の端からも視認する事ができる城がそびえ立っている。
前時代に建立された城は、歳を感じさせない荘厳さを持っており、現代建築には用いられない技法を駆使して建てられている為に歴史的建造物としての価値も持つ。
ルディとコレンは奇麗な庭園、立派な城に感嘆しながら式場である大広間に向かって歩き続ける。やがて二人は広間の扉へと到着し、改めて門番による招待状のチェックを行った後、式場へと通された。
式場である大広間には入団試験時のピリピリした雰囲気とは違い、和やかな雰囲気が漂っていた。
ルディとコレンが大広間に入ると、式をセッティングする者が近寄ってきてそれぞれの席へと案内する。幸い二人の席は隣同士であり、コレンはあからさまに嬉しそうな表情を浮かべていた。
「しかし、本当に立派なお城だね〜。未だにこんなに美しく保たれてるなんて本当に凄いよ。」
「そうだな…」
コレンは単純に城の美しさに見蕩れ、ルディは自分の父もここで入団式をしたのかと感動していた。
そんな二人の周りは、コレンに対して「女だったの!?」と驚いた様子を見せている。
今年の入団者は、男性9名女性3名であった。
そしてそれぞれが、これから仲間となる者達に会釈をしている間に、この国の重鎮達が入場して来た。その姿を見て皆、静まり返る。
やがて執政官が入場し、壇上に立つ。
「ついに始まるね〜」
「あぁ…あの人が、この国の執政官か。」
そして、やがて執政官が話し始める。
「私はリストビア国の執政官をしているレビ・ハインツと言います。まずは、本日リストビア国帝国軍に入団する諸君に祝辞を申し上げたいと思います。そして、魔物と闘う、国を守る、自分の力を認めて貰いたい、等入団理由は様々であろうと思いますが、その身を帝国の為に捧げようとするその意思に感謝したいと思います。」
「うぇ…話が面白く無い」
その言葉にルディが横を向くと、コレンがあからさまに嫌そうな顔をしていた。
(この入団式に何を期待してたんだ)
とルディは内心突っ込みをいれつつ話に耳を傾ける。
「とまぁ堅苦しいのはここまでにするか、毎年毎年今年こそは真面目にやるぞとは思ってるんだがね。堅苦しいし、話も聞いててつまらないだろうしね。」
レビ執政官は先程とは打って変わって、一気に面倒くさそうな表情を浮かべ話し方までいつも通りに戻る。そして、皆が内心を思っていたであろう事を自らの口で言ってしまう。
「新兵の諸君は今日から、帝国軍の一人としてこの国で鍛錬をする事になる。今日から始まる新しい一日を充実させ楽しんでいって欲しい。私からはそれだけだ。」
レビ執政官はそう言って、新兵全員の顔を一瞥した後に段から降りて行った。
レビ・ハインツ執政官は形式に囚われた物事を嫌う。毅然とした態度を取っているが、する事する事全てに国の為、民の為と理にかなった行動をするが故に、皆から親しまれている。
この国に来たばっかの新兵達も不思議とその魅力を感じていた。
「何か、この国って面白い人が多いね〜。」
「そうだな、今の人然り入団試験の時のおっさん然り…。面白い国だな。」
「あっ、ルディもそう思うんだね。本当に面白い国だよ。」
二人は小さく笑いながら、次の人が壇に登るのを待っている。
すると、ちょうど噂の人物が壇上に上って来た。
「さっそくだが、お前ら入団おめでとう!俺はコールマン=ハリスだ、リストビア国軍団長をしている。ずっとこの国に勤める者、帝国軍中枢部を目指して帝国本土へ行く者、旅に出る者それぞれ居ると思う。しかし、進む道は違えど今日この時、この場所で一緒に式を受け軍に入団した仲間だ、大事にしろよ。勿論、俺もみっちりお前らをしごいてやるからな。これから、宜しく頼むぜ!以上!次はグレイス様だな、少し待っとけ。」
コールマン団長はレビ執政官と違い、一瞥もくれずにさっさと壇を降りて行ってしまった。その様子を見てコレンは「大胆で面倒くさがりそうな人だし、つまらなかったのかな」と一言。ルディは「それは違うだろ」と突っ込みを入れつつ、あの大雑把そうな団長が様付けをする人物に対して「どんな人であるだろうか」と思案していた。
そして間もなく、一人の美しい女性が壇上に登って来た。それは、模擬戦の時に観覧席に居た黒いドレスを着た美女であった。
おそらくその美女が団長の言うグレイス様であろう。
その女性は、壇に上がっただけで会場の者達に息をのませる程の美しさを持っていた。ルディとて例外ではなく、模擬戦の時と同じく目を奪われていた。
その様子を見たコレンは、つまらなさそうに頬を膨らませてルディの太腿を抓るのであった。
「私の名前はグレイス・ディ・ファラデーである。ここリストビア国のある領土を管理しているグレイス家の18代目当主である。新たにこの国の軍に入団する諸君、その志し高き者達へこの土地に生きる住民を代表して感謝を述べさせて頂く。これから是非とも、この国のため民の為に鍛錬に励んでいって欲しい。」
グレイスは、簡潔に挨拶だけを済ませて壇を降りて行ってしまった。しかし、その一瞬だけでも姿を見れた事が嬉しいのか後方の席では泣いて喜んでいる先輩兵士の姿が見える。
噂によると、グレイス様ファンクラブというものが存在するらしく。その美しい容姿と、なかなか国民の前に姿を現さないというミステリアスさから、勝手にファンにアイドル化されているらしい。
「奇麗だなぁ…あっ、コレン?奇麗だなってのは、ただ単に感想で見蕩れてなんか無いからな。」
さっきグレイスに見蕩れてて抓られたのが相当痛かったのか、自分の言った事を急いで訂正するルディである。
「ふ〜ん、そうだよね〜あの女、ボクと違って奇麗だよねぇ。」
コレンはそんなルディの必死に訂正する様を見て、ジト目で拗ねた様子で唇を尖らせる。
「いやいや、ルディも十分奇麗だよ。ルディとさっきの人には、違った良さがあるんだって!」
コレンの様子を見て「ヤバイ!」と感じたルディは、コレンの手を取り必死に弁解をする。どうやら、コレンの扱いに慣れて来たみたいであった。
「そうかな…?ルディがそう言ってくれるんだったら良いけど。」
ルディが理解したコレンの特性は、機嫌をなおしてもらうのに、言葉だけでは駄目で何かしらのスキンシップも必要であるという事であった。
今回の場合でのスキンシップとは、手を取るというものであった。
「ほら自分に自信を持ちなって、せっかく可愛いんだから。」
「そ、そう…、ありがと。」
駄目押しとばかりにルディは、コレンをおだてる。
コレンの機嫌はなおったみたいだが、ルディには一つ不可解な事があった。
コレンの前でルディが他の女性に見蕩れるという事はよく有ったのだが、大体の場合はちょっと拗ねる程度で終わっていたのだが、今日だけは以上に機嫌が悪いように感じたのである。その上グレイスを「あの女」呼ばわりするのだから、明らかにグレイスを嫌っているのが分かる。
この気さくで明るいコレンにしては珍しいなとルディは感じながら、後で聞いてみようと思うのであった。
式は進行して行き、やがて終わりの時間が迫ってきた。
どうやらこの後、城から兵士の駐屯地まで練歩いた後、駐屯地の広間で民も合わせての歓迎パーティがあるらしい。ルディはせっかく、隠れてコソコソ城まで来たのに結局意味なかったのかと肩を落とすのであった。
14/09/04 01:42更新 / ぜっぺり
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