第三章
ルディが帰宅して日が落ちるまでに、現状の魔物に対して考察したのは以下の通りである
・ この国には沢山の魔物娘が本性を隠して住んでいる。
・ 前に一度聞いた通りで、現在の魔物は昔のような凶暴性を持ち合わせていない。
・ 魔物娘図鑑に書いてある事は大方正しい。
という事である。どの考察も仮説の域を脱することは無いが、彼の中では大きな物となっていた。
(俺ってやっぱり、どう考えても帝国軍に向いてないよなぁ…)
改めて、そう思うルディである。
そんな事を考えながらルディは、中央広場に向かっていた。
ただいつもと違うのは、腰に使い慣れた剣がぶら下がっている事である。
その理由は単純で、まだ確証が得られた訳では無いがコレンが魔物であるかもしれないとされる今、いつ襲われるかも分からないという事を示唆しての事であった。
(まぁ剣を抜くのは最悪のケースの場合のみだけどな)
そう考えながら、腰に手をあて自分の愛剣の存在を確かめるのであった。
そうしている内に広場の噴水に到着した。
ここは待ち合わせに最適という事もあり、この時間でもアイスクリームやクレープ等の出店がある。
ルディが出店に視線を泳がせていると、奥のベンチに目的の不安げな表情を浮かべて人物が座っていることを発見した。
「すまんコレン、待たせたか?」
「いや全然。僕もさっき来た所だよ!」
「そっかそっか、ごめんな。」
ルディを見つけた瞬間、コレンは飛びっきりの笑顔を浮かべる。
先程までの主人が帰ってくるまで待っている子犬の様な表情が嘘の様である。
実は、早くからルディの事をここで待っていたのかもしれない。
「何か食べたいものある、買ってくるぞ?」
それは、ルディに気を使って全然待っていないと言うコレンに対しての、ちょっとしたお詫びみたいな物であった。
「いいの?じゃあお言葉に甘えかな…う〜ん、何にしようかな〜」
コレンは顎に手を当て、周りの出店を眺め回しながら考え始める。
眉尻に軽く皺を寄せて、顎に手をあて考えている様子は何とも可愛らしいものであった。
「決めた、クレープにするよ!」
「了解、じゃあ買ってくるよ」
軽く頷くと同時に、何にするかルディに述べる。
それに待ってましたと言わんばかりに、ルディはお財布を手に持ちクレープ屋に向かっていく。
残された、コレンは未だにパフェという案も捨てきれない様子であった…。
やがてルディは二つのクレープを手に帰ってくる。
そして、片方のクレープをコレンに手渡す。
「ありがと〜!!」
コレンはそれを笑顔で受け取り、嬉しそうにクレープを眺めている。
「どうした、食べないのか?」
そんな様子を見て、ルディはコレンに尋ねる。
「いやいや、勿論食べるよ!僕さ、甘美な物が大好きでなんだ、だから久しぶりに食べる甘いものについね」
コレンは普段は甘い物を食べるのを控えているようでった。
ルディが買ってきたクレープは、イチゴやリンゴ、プラムなどと言ったフルーツが小さくカットされクリームと共に挟んである物であった。
「ルディ、ごちそうさま。久しぶりに大好きなスイーツを食べられて本当に良かったよ。有り難うね!」
「お、おう、どういたしまして」
その時のコレンの表情は、ルディをゾッとさせる程美しいものであった。
その後二人はベンチで噴水の音と人々がだんだん減って来た公園の余韻を楽しんでいるのであった。
「じゃあ、ゆっくりしてお腹も落ち着いたし行こっか」
やがて二人は居心地の良い空間に名残惜しさを残しつつも、コレンの見せたい物というのを見る為に立ち上がり、公園を後にする。
「ねぇルディ、ルディってこの国の城下街の中心区には詳しい?」
「いや、全然かな。立ち入り禁止されてる所が多いし、あんまり来た事もないや。」
二人は公園から城の方面に向かって数分歩いた裏通りに居た。
そこは、細く暗い道が無数に入りくねった所であり、立ち入りが禁止された場所が多くなっていて、人の姿も殆ど見えない少し不気味な通りとなっている。
「そっか、実は穴場があるんだよね、それが今回見せたい所なんだけどさ。まぁ、はぐれない様に着いて来て!」
そう言ってコレンは、入りくねった中心区を自分の庭かと思うかの様に、大通りや細い路地を進んでいく。
そして更に歩くこと数分、気が付くと城の真下に到着していた。
「実はね、ここだけ一般の人でも城に入る事が許されているんだ。」
街の中心には、城が建っている。
そのお城は建国される前の時代に建立され、補修こそされ続けているものも代わり映えせずに建ち続けている。そこには、国の重要機関がより集められており、政治や軍事の中心としての役割も担っている。
そんな一般人はとても立ち入れなさそうな重要な所ではあるが、前の執政官の
「この城からの景色を、我々達だけが独占するのは勿体ない!」
という言葉により、城の外周部分の一部である城壁が一般解放されているのである。
「へぇ、この城って入って良かったんだ…」
ルディはこの街に来て浅いので、そんな事はもちろん知らなかった。
寧ろ入り口が分かりにく過ぎて、入る事が出来るとは知っていても実際に入った事がある人も少ないであろう。
「ほら、ちょっと暗いかもだけど、着いて来て」
そう言ってコレンは、石造りの螺旋階段をトントンと上ってゆく。
城の一部とあって、しっかりとした造りがされており、壁を見ても床を見てもしっかりと石を敷き詰められている。また、魔法を用いた灯火によって照らされていて、光の届かなそうな所でもあるに関わらず足下がはっきりと見えるまでは明るくなっている。
そして螺旋階段を上り続ける事数分、一気に視界は開けて目の前にリストビア国の夜景が飛び込む。
「うわぁ、凄いな…」
「でしょ〜、これが見せたかったんだ!」
ルディの感嘆する様子を見て、コレンは誇らしげな表情を浮かべる。
そこから見える景色は、田舎出のルディにとっては体験した事の無い程の美しさであった。
すぐ下に広がる立ち入り禁止区が有り光が無く真っ暗闇である。そして、すぐ先には、飲食店や露天等の広がる歓楽街が煌びやかな光を放っている。そしてまたその先には、生活する人々の家が密集している為に、落ち着いた暖かい光を放っている。
この光こそがリストビア国を表しており、人々が豊かに生活している象徴なのである。
昼には役所や農場等の各々の仕事場が盛んになり、夜には歓楽街が盛んになる。
そして二人はまさに、このリストビア国そのものを見ているのであった。
「この国のここからの景色はいつ見ても奇麗だな〜。ね、ルディ。」
そして、夜の光を背にルディに向かって笑顔を見せるコレンの姿は、今まで見た事が無い程妖艶であり、ルディを異世界に誘い込むかの様な魅力を持っていた。
「…っ!」
そんなコレンの姿を見たルディは、魔物娘の特性を知ってか知らずか気づかぬうちに腰に下げた愛剣に手をあて、密かに魔力を溜めていた。
「ちょ、ちょっと、突然どうしたんだい?」
そんな突然の考えられぬ状況にコレンは、非常に驚いていた。
勿論コレンは自分が魔物娘で有るという疑いをルディに持たれているとは、全く思っていない。それ故に、ルディの行動に対して身に迫る恐怖を感じるのであった。
「なぁ、コレン。聞きたかった事が有るんだけどいいかな?」
「な、なんだい?」
「コレンってさ、一体何者なんだ?」
「と、突然どうしたの?」
コレンはルディの突然の問いに対して明らかに狼狽している。
「実は今日の昼に、服屋でのコレンを見てからずっと考えてた事があるんだけどさ。」
コレンはルディの口から紡がれていく一言一言に、緊張の面持ちを見せている。
「コレンって人間じゃないよね?」
コレンは下唇を噛みながら俯いていた。今にも泣きそうな姿で、ルディの視線から逃れる様に下を見ているしか無かった。
ルディは、そんなコレンの様子を見て確信していた。しかし、コレンが魔物娘だからといって、騙されていたからといって、ルディは責める様な事はせず、ただコレンが話し始めるまで待っているのであった。
「ご、ごめんなさい…騙してた訳じゃ無いんだ。ただ…」
コレンはまだ、気持ちの整理が着かずにいるのか、口から出る言葉がたどたどしい。ルディはコレンの動きに気を抜くでも無く、じっとコレンを見ている。
「ゆっくりで良いから、落ち着くまで待ってるからさ…」
ただルディは紳士的であった。
そんなルディの言葉に、いくばくか気持ちに余裕が出来たコレンは顔を上げてルディの目をそっと見る。
そこにはコレンの想像していたルディの顔ではなく、あまりに優しすぎる顔を浮かべたルディが居た。
それを見たコレンは改めて泣きそうになりながら、ポツリポツリと話し始める。
「ごめんなさい、僕は確かに人間じゃないんだ。僕はま、魔物なんだ…」
ルディはあくまで口を挟む事無く、ただじっと聞いている。
「本当にごめんなさい、僕は、そ、その…」
コレンはしどろもどろになりながら話を続けようとするが、やはり素性を隠して反魔物領に潜入するだけあって機密等でもあるのか口どもっている。
「うん、言えない事もあるよな。いいよいいよ、責めるつもりは勿論無いしさ。」
コレンは自分の目から溢れる物をルディから隠すためか、また俯いてしまう。
「うっ…うっ、ひぐっ…」
しかし、嗚咽を隠せずにいた。ルディそんな縮こまった姿を見せるコレンに見かねて…
「っ!?ル、ルディ…?」
ルディはコレンを黙って抱きしめる。コレンは驚いて目を見開くが、またルディの胸の中で泣き始めてしまう。
「ルディ、ありがと…」
ルディが黙ってコレンを抱きしめる事数分、コレンは落ち着いたのか礼と共に二人は離れる。
「落ち着いたか?」
「うん…何も聞かないでくれて有り難う。」
「気にすんな。やっぱり、立場上言えない事もあるだろ?」
「うん、でもせめて僕の素性だけは明かしておこうと思うんだ。」
本来隠しておきたいであろう事を明かすというコレン、その表情にはもう魔物とバレていると分かっていても緊張の面持ちが伺える。
「僕はさっき言った通りで魔物娘なんだ。種族はダンピールって言って、ヴァンパイアと人間の元にできた子供が稀にそうなるんだ。」
ルディは軽く驚きつつも、頷きながら聞いている。
「そして、僕は魔王軍のスパイとしてリストビア国の潜入していたんだ。もちろん、他にも目的はあったけどさ…」
「そっかそっか、俺にそんな大事な事を打ち明けてくれて有り難うな。」
「い、いや、僕はルディに自分の素性を隠していたんだよ?何で怒らないの?」
「それがコレンの任務なら、自分の仕事を遂行するって素晴らしい事じゃんか。誰も責められはしないよ。」
「ありがとう…そして、ごめんね。」
「いや、良いんだ。しかしダンピールか初めて聞いたなぁ。人間とヴァンパイアの娘って事は、やっぱりあの図鑑に書いてある事は本当だったんだな。質問なんだけどさ、やっぱり今の魔物って人間を食べたりしないの?」
「うん、そんな事しないよ。むしろ、仮に連れ去られた人が居たとしても、今頃その連れ去った当人と仲良く暮らしていると思うよ。」
ルディは非常に明るく、初めて聞く事にワクワクするような様子を見せてコレンの話を聞いている。
「へぇやっぱりか〜!魔王の代替わりが有って、魔物にについて色々変わったって聞いてたけど、本質から変わってたんだな。じゃあさ、もしかしてだけど昼の服屋に居た店員さんってアラクネかな?」
「うん、何で分かったの?そして、僕以外にも居るって気づいてんだ…」
コレンは口を半開きにし、驚きつつルディを見つめている。
「いや、ね。あの採寸に使った糸から非常に濃い魔力を感じられたし、そもそもその前の会話聞こえてたしね。」
「やっぱり聞いてたんだ!!もう…恥ずかしいな。」
相変わらずコレンの表情はコロコロと変化する。
先程は泣いていたかと思えば、次の瞬間には驚いた表情を見せ、そしてまた次の瞬間には頬を膨らませ怒った表情を見せている。
「ははは、ごめんごめん。成る程やっぱり、この国には結構沢山の魔物が正体を隠して潜入してそうだな。」
ルディは自分の考えが合っていた事にほくそ笑みながら、ぼそぼそと呟いている。
「ねぇ、ルディ。僕の正体は魔物だったけど、帝国軍の兵としては敵じゃんか。やっぱり僕の事を斬る?」
「ん、斬るかって?そりゃ斬らないよ。帝国の教えは嘘だって分かったしな。そんな身構えなくても大丈夫だよ!」
「ほんとに!?良かった…でも、バレちゃった以上もうこれまでの通りの関係ではいられないよね…」
コレンは非常に落ち込んだ様子で、ポツリと呟く。
「確かに、魔物娘ってことはコレンは女の子だった訳だもんな。そりゃ確かに、今まで通りに対応しろって言われると難しいよなぁ…俺も異性と触れ合った経験もそう無いしな。」
コレンと相対して、ルディは天然であった。
コレンは自分が魔物である以上、ルディが一緒に居たく無いと思うだろうと考えていた。しかし、ルディが争点を当てたのはコレンの性別が実は雌であったという事であった。
「いや、そうじゃなくて。僕は魔物だよ?一緒にいて嫌じゃないかなぁ...って」
言ってて寂しくなったのか、コレンの声はだんだん小さくなってゆく。
しかし相変わらず、ルディは呆気からんとした様子でいる。
「全然気にしないよ。コレンや服屋の姉さんを見てる限り、姿以外は俺たちと一切変わらなそうだしな。それに、俺が黙ってたらコレンが魔物だって周りにはバレないだろ?」
「良かった…本当に良かった」
「ははは、そんなに気になさんな。これからも、友達として職場仲間として宜しくな!」
ルディはさっきまで剣に当てていた手をコレンに手を差し伸べる。
「うん、こちらこそよろしく。」
そう言ってコレンも、出された手を握り返す。
この二人の図は、先程までの緊迫した様相とは打って変わってほのぼのした物であった。
その後共に夜景を楽しんだ後、改めて噴水のある公園に戻り二人は分かれた。
コレンは騙していた事への申し訳なさか、終止軽く落ち込んだ様子を見せていた。
ルディは今まで母以外と接した事の無かった異性という物に、緊張して軽く戸惑ってしまうのであった。それが、コレンにとっては「自分が魔物娘だから警戒されてる?」と、多少の不安要素となんていた。
結局、ルディは天然であるが異性との付き合いには、その天然さを発揮できずドギマギしてしまうのであった。
・ この国には沢山の魔物娘が本性を隠して住んでいる。
・ 前に一度聞いた通りで、現在の魔物は昔のような凶暴性を持ち合わせていない。
・ 魔物娘図鑑に書いてある事は大方正しい。
という事である。どの考察も仮説の域を脱することは無いが、彼の中では大きな物となっていた。
(俺ってやっぱり、どう考えても帝国軍に向いてないよなぁ…)
改めて、そう思うルディである。
そんな事を考えながらルディは、中央広場に向かっていた。
ただいつもと違うのは、腰に使い慣れた剣がぶら下がっている事である。
その理由は単純で、まだ確証が得られた訳では無いがコレンが魔物であるかもしれないとされる今、いつ襲われるかも分からないという事を示唆しての事であった。
(まぁ剣を抜くのは最悪のケースの場合のみだけどな)
そう考えながら、腰に手をあて自分の愛剣の存在を確かめるのであった。
そうしている内に広場の噴水に到着した。
ここは待ち合わせに最適という事もあり、この時間でもアイスクリームやクレープ等の出店がある。
ルディが出店に視線を泳がせていると、奥のベンチに目的の不安げな表情を浮かべて人物が座っていることを発見した。
「すまんコレン、待たせたか?」
「いや全然。僕もさっき来た所だよ!」
「そっかそっか、ごめんな。」
ルディを見つけた瞬間、コレンは飛びっきりの笑顔を浮かべる。
先程までの主人が帰ってくるまで待っている子犬の様な表情が嘘の様である。
実は、早くからルディの事をここで待っていたのかもしれない。
「何か食べたいものある、買ってくるぞ?」
それは、ルディに気を使って全然待っていないと言うコレンに対しての、ちょっとしたお詫びみたいな物であった。
「いいの?じゃあお言葉に甘えかな…う〜ん、何にしようかな〜」
コレンは顎に手を当て、周りの出店を眺め回しながら考え始める。
眉尻に軽く皺を寄せて、顎に手をあて考えている様子は何とも可愛らしいものであった。
「決めた、クレープにするよ!」
「了解、じゃあ買ってくるよ」
軽く頷くと同時に、何にするかルディに述べる。
それに待ってましたと言わんばかりに、ルディはお財布を手に持ちクレープ屋に向かっていく。
残された、コレンは未だにパフェという案も捨てきれない様子であった…。
やがてルディは二つのクレープを手に帰ってくる。
そして、片方のクレープをコレンに手渡す。
「ありがと〜!!」
コレンはそれを笑顔で受け取り、嬉しそうにクレープを眺めている。
「どうした、食べないのか?」
そんな様子を見て、ルディはコレンに尋ねる。
「いやいや、勿論食べるよ!僕さ、甘美な物が大好きでなんだ、だから久しぶりに食べる甘いものについね」
コレンは普段は甘い物を食べるのを控えているようでった。
ルディが買ってきたクレープは、イチゴやリンゴ、プラムなどと言ったフルーツが小さくカットされクリームと共に挟んである物であった。
「ルディ、ごちそうさま。久しぶりに大好きなスイーツを食べられて本当に良かったよ。有り難うね!」
「お、おう、どういたしまして」
その時のコレンの表情は、ルディをゾッとさせる程美しいものであった。
その後二人はベンチで噴水の音と人々がだんだん減って来た公園の余韻を楽しんでいるのであった。
「じゃあ、ゆっくりしてお腹も落ち着いたし行こっか」
やがて二人は居心地の良い空間に名残惜しさを残しつつも、コレンの見せたい物というのを見る為に立ち上がり、公園を後にする。
「ねぇルディ、ルディってこの国の城下街の中心区には詳しい?」
「いや、全然かな。立ち入り禁止されてる所が多いし、あんまり来た事もないや。」
二人は公園から城の方面に向かって数分歩いた裏通りに居た。
そこは、細く暗い道が無数に入りくねった所であり、立ち入りが禁止された場所が多くなっていて、人の姿も殆ど見えない少し不気味な通りとなっている。
「そっか、実は穴場があるんだよね、それが今回見せたい所なんだけどさ。まぁ、はぐれない様に着いて来て!」
そう言ってコレンは、入りくねった中心区を自分の庭かと思うかの様に、大通りや細い路地を進んでいく。
そして更に歩くこと数分、気が付くと城の真下に到着していた。
「実はね、ここだけ一般の人でも城に入る事が許されているんだ。」
街の中心には、城が建っている。
そのお城は建国される前の時代に建立され、補修こそされ続けているものも代わり映えせずに建ち続けている。そこには、国の重要機関がより集められており、政治や軍事の中心としての役割も担っている。
そんな一般人はとても立ち入れなさそうな重要な所ではあるが、前の執政官の
「この城からの景色を、我々達だけが独占するのは勿体ない!」
という言葉により、城の外周部分の一部である城壁が一般解放されているのである。
「へぇ、この城って入って良かったんだ…」
ルディはこの街に来て浅いので、そんな事はもちろん知らなかった。
寧ろ入り口が分かりにく過ぎて、入る事が出来るとは知っていても実際に入った事がある人も少ないであろう。
「ほら、ちょっと暗いかもだけど、着いて来て」
そう言ってコレンは、石造りの螺旋階段をトントンと上ってゆく。
城の一部とあって、しっかりとした造りがされており、壁を見ても床を見てもしっかりと石を敷き詰められている。また、魔法を用いた灯火によって照らされていて、光の届かなそうな所でもあるに関わらず足下がはっきりと見えるまでは明るくなっている。
そして螺旋階段を上り続ける事数分、一気に視界は開けて目の前にリストビア国の夜景が飛び込む。
「うわぁ、凄いな…」
「でしょ〜、これが見せたかったんだ!」
ルディの感嘆する様子を見て、コレンは誇らしげな表情を浮かべる。
そこから見える景色は、田舎出のルディにとっては体験した事の無い程の美しさであった。
すぐ下に広がる立ち入り禁止区が有り光が無く真っ暗闇である。そして、すぐ先には、飲食店や露天等の広がる歓楽街が煌びやかな光を放っている。そしてまたその先には、生活する人々の家が密集している為に、落ち着いた暖かい光を放っている。
この光こそがリストビア国を表しており、人々が豊かに生活している象徴なのである。
昼には役所や農場等の各々の仕事場が盛んになり、夜には歓楽街が盛んになる。
そして二人はまさに、このリストビア国そのものを見ているのであった。
「この国のここからの景色はいつ見ても奇麗だな〜。ね、ルディ。」
そして、夜の光を背にルディに向かって笑顔を見せるコレンの姿は、今まで見た事が無い程妖艶であり、ルディを異世界に誘い込むかの様な魅力を持っていた。
「…っ!」
そんなコレンの姿を見たルディは、魔物娘の特性を知ってか知らずか気づかぬうちに腰に下げた愛剣に手をあて、密かに魔力を溜めていた。
「ちょ、ちょっと、突然どうしたんだい?」
そんな突然の考えられぬ状況にコレンは、非常に驚いていた。
勿論コレンは自分が魔物娘で有るという疑いをルディに持たれているとは、全く思っていない。それ故に、ルディの行動に対して身に迫る恐怖を感じるのであった。
「なぁ、コレン。聞きたかった事が有るんだけどいいかな?」
「な、なんだい?」
「コレンってさ、一体何者なんだ?」
「と、突然どうしたの?」
コレンはルディの突然の問いに対して明らかに狼狽している。
「実は今日の昼に、服屋でのコレンを見てからずっと考えてた事があるんだけどさ。」
コレンはルディの口から紡がれていく一言一言に、緊張の面持ちを見せている。
「コレンって人間じゃないよね?」
コレンは下唇を噛みながら俯いていた。今にも泣きそうな姿で、ルディの視線から逃れる様に下を見ているしか無かった。
ルディは、そんなコレンの様子を見て確信していた。しかし、コレンが魔物娘だからといって、騙されていたからといって、ルディは責める様な事はせず、ただコレンが話し始めるまで待っているのであった。
「ご、ごめんなさい…騙してた訳じゃ無いんだ。ただ…」
コレンはまだ、気持ちの整理が着かずにいるのか、口から出る言葉がたどたどしい。ルディはコレンの動きに気を抜くでも無く、じっとコレンを見ている。
「ゆっくりで良いから、落ち着くまで待ってるからさ…」
ただルディは紳士的であった。
そんなルディの言葉に、いくばくか気持ちに余裕が出来たコレンは顔を上げてルディの目をそっと見る。
そこにはコレンの想像していたルディの顔ではなく、あまりに優しすぎる顔を浮かべたルディが居た。
それを見たコレンは改めて泣きそうになりながら、ポツリポツリと話し始める。
「ごめんなさい、僕は確かに人間じゃないんだ。僕はま、魔物なんだ…」
ルディはあくまで口を挟む事無く、ただじっと聞いている。
「本当にごめんなさい、僕は、そ、その…」
コレンはしどろもどろになりながら話を続けようとするが、やはり素性を隠して反魔物領に潜入するだけあって機密等でもあるのか口どもっている。
「うん、言えない事もあるよな。いいよいいよ、責めるつもりは勿論無いしさ。」
コレンは自分の目から溢れる物をルディから隠すためか、また俯いてしまう。
「うっ…うっ、ひぐっ…」
しかし、嗚咽を隠せずにいた。ルディそんな縮こまった姿を見せるコレンに見かねて…
「っ!?ル、ルディ…?」
ルディはコレンを黙って抱きしめる。コレンは驚いて目を見開くが、またルディの胸の中で泣き始めてしまう。
「ルディ、ありがと…」
ルディが黙ってコレンを抱きしめる事数分、コレンは落ち着いたのか礼と共に二人は離れる。
「落ち着いたか?」
「うん…何も聞かないでくれて有り難う。」
「気にすんな。やっぱり、立場上言えない事もあるだろ?」
「うん、でもせめて僕の素性だけは明かしておこうと思うんだ。」
本来隠しておきたいであろう事を明かすというコレン、その表情にはもう魔物とバレていると分かっていても緊張の面持ちが伺える。
「僕はさっき言った通りで魔物娘なんだ。種族はダンピールって言って、ヴァンパイアと人間の元にできた子供が稀にそうなるんだ。」
ルディは軽く驚きつつも、頷きながら聞いている。
「そして、僕は魔王軍のスパイとしてリストビア国の潜入していたんだ。もちろん、他にも目的はあったけどさ…」
「そっかそっか、俺にそんな大事な事を打ち明けてくれて有り難うな。」
「い、いや、僕はルディに自分の素性を隠していたんだよ?何で怒らないの?」
「それがコレンの任務なら、自分の仕事を遂行するって素晴らしい事じゃんか。誰も責められはしないよ。」
「ありがとう…そして、ごめんね。」
「いや、良いんだ。しかしダンピールか初めて聞いたなぁ。人間とヴァンパイアの娘って事は、やっぱりあの図鑑に書いてある事は本当だったんだな。質問なんだけどさ、やっぱり今の魔物って人間を食べたりしないの?」
「うん、そんな事しないよ。むしろ、仮に連れ去られた人が居たとしても、今頃その連れ去った当人と仲良く暮らしていると思うよ。」
ルディは非常に明るく、初めて聞く事にワクワクするような様子を見せてコレンの話を聞いている。
「へぇやっぱりか〜!魔王の代替わりが有って、魔物にについて色々変わったって聞いてたけど、本質から変わってたんだな。じゃあさ、もしかしてだけど昼の服屋に居た店員さんってアラクネかな?」
「うん、何で分かったの?そして、僕以外にも居るって気づいてんだ…」
コレンは口を半開きにし、驚きつつルディを見つめている。
「いや、ね。あの採寸に使った糸から非常に濃い魔力を感じられたし、そもそもその前の会話聞こえてたしね。」
「やっぱり聞いてたんだ!!もう…恥ずかしいな。」
相変わらずコレンの表情はコロコロと変化する。
先程は泣いていたかと思えば、次の瞬間には驚いた表情を見せ、そしてまた次の瞬間には頬を膨らませ怒った表情を見せている。
「ははは、ごめんごめん。成る程やっぱり、この国には結構沢山の魔物が正体を隠して潜入してそうだな。」
ルディは自分の考えが合っていた事にほくそ笑みながら、ぼそぼそと呟いている。
「ねぇ、ルディ。僕の正体は魔物だったけど、帝国軍の兵としては敵じゃんか。やっぱり僕の事を斬る?」
「ん、斬るかって?そりゃ斬らないよ。帝国の教えは嘘だって分かったしな。そんな身構えなくても大丈夫だよ!」
「ほんとに!?良かった…でも、バレちゃった以上もうこれまでの通りの関係ではいられないよね…」
コレンは非常に落ち込んだ様子で、ポツリと呟く。
「確かに、魔物娘ってことはコレンは女の子だった訳だもんな。そりゃ確かに、今まで通りに対応しろって言われると難しいよなぁ…俺も異性と触れ合った経験もそう無いしな。」
コレンと相対して、ルディは天然であった。
コレンは自分が魔物である以上、ルディが一緒に居たく無いと思うだろうと考えていた。しかし、ルディが争点を当てたのはコレンの性別が実は雌であったという事であった。
「いや、そうじゃなくて。僕は魔物だよ?一緒にいて嫌じゃないかなぁ...って」
言ってて寂しくなったのか、コレンの声はだんだん小さくなってゆく。
しかし相変わらず、ルディは呆気からんとした様子でいる。
「全然気にしないよ。コレンや服屋の姉さんを見てる限り、姿以外は俺たちと一切変わらなそうだしな。それに、俺が黙ってたらコレンが魔物だって周りにはバレないだろ?」
「良かった…本当に良かった」
「ははは、そんなに気になさんな。これからも、友達として職場仲間として宜しくな!」
ルディはさっきまで剣に当てていた手をコレンに手を差し伸べる。
「うん、こちらこそよろしく。」
そう言ってコレンも、出された手を握り返す。
この二人の図は、先程までの緊迫した様相とは打って変わってほのぼのした物であった。
その後共に夜景を楽しんだ後、改めて噴水のある公園に戻り二人は分かれた。
コレンは騙していた事への申し訳なさか、終止軽く落ち込んだ様子を見せていた。
ルディは今まで母以外と接した事の無かった異性という物に、緊張して軽く戸惑ってしまうのであった。それが、コレンにとっては「自分が魔物娘だから警戒されてる?」と、多少の不安要素となんていた。
結局、ルディは天然であるが異性との付き合いには、その天然さを発揮できずドギマギしてしまうのであった。
14/08/06 12:38更新 / ぜっぺり
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