だいすき
あれはまだ魔術の学校にいたころだ。
自分の学校には魔界の王女様がいて、クラスの男子はみんな彼女に夢中になった。もちろん自分もだ。
運に恵まれていたのか彼女と席が隣同士になったりダンスの授業で彼女とペアを組んだりと
どういうわけか彼女と付き合うチャンスは多かった。
これは運命だと当時は本気でそう思っていた。
彼女に告白して、失恋するまでは。
いろいろと何か理由らしいことを申し訳なさそうに彼女は説明していたがフラれたショックで何を言っていたのかよく思い出せない。
それでも彼女は困った笑顔で自分のことを慰めていたような気がした。
優しい彼女らしい対応だった、と思う。
ふとそんなことを思い出してしまったのは彼女との再会だった。
彼女とはほんの些細なきっかけで再び出会ってしまった。
(はあ…疲れた…。)
仕事に疲れてエレベーターに乗る。
学生のころとは違って自分はもう立派な大人だ。
朝起きて会社に行って仕事をやって家に帰る。
旅行にも行かないし、休日は寝て過ごす。
仕事はようやく慣れてきたものの、年々業務は増すばかりだ。
そんなことを考えていた時だった。
左腕を誰かがトントンと叩いてきた。
「こんばんは。」
「…リリムさん!?」
「あ、一発でわかったんだすごーい!私もね?君がライくんだって一目でわかったよ。」
うっかり彼女とエレベーターで出会った。しかも同じ会社のビルだ。
驚きを隠せなかった。
彼女は昔のように人懐っこく、きれいな姿で、もう10年近くたっているのに自分の心をときめか
せる。
が、なんというかその……フられた時の後遺症というか……合わせる顔がない。
なるべく視線を合わせないように体だけ彼女の方に向き直った。
「君は…昔とぜんっぜん姿が変わってないね…。」
「うーん。魔物って長寿だし?姿もあまり変わらないから。」
ぴょこぴょこと近寄り自分の顔を見上げるリリム。
背丈もあのころのまま。
当時は「これから成長期だ」と言い張っていたがあきらめてしまったのだろうか。
自分の会社は大手の総合商社である。
様々な部署が一つの会社のように独立している為、お互いの部署は関係性を保ちながらも接点があまり
ない部分がある。
そんなこともあってか同じ会社に居ながら彼女の存在に全くと言っていいほど気が付かなかったのだ。
かれこれ入社して2年ほどだが、こんなことってあるのか。
運命を感じる…というよりは度肝を抜かされたというのが正直な感想だ。
「リリムさん…まさか自分と同じ会社だとは思いませんでしたよ。」
「うん、びっくり!ほんと何年振りだろ…ライ君は…男前になったかな?」
「…ありがとうございます。」
じいーっと自分のことを見つめるリリム。
あの頃と何も変わっていないような気がする。
子供っぽいしゃべり方も、ほめ方も、やたら見つめてくるのも、男殺しなところも。
こんなところが彼女が重用される所以なんだろう。
「今はお仕事何されているんですか?」
「え…?うーん…部長補佐…秘書みたいなものかな?」
「かな?ってわからないんですか。」
「雑務からスケジュール管理、体調管理から性欲処理まで何でもやるよ。」
「何でもやりすぎじゃないか!?」
「最後のはウソだよ♪」
「はは…そりゃどうも…。」
「それとも…ライ君にだけはしてあげよっか?」
えっ
あのころの満面の笑みで言われた自分は時間が静止したかのように固まった。
幾度となく彼女のことを想い続けてきたのを見透かすかのようだった。
「……考えておきます。」
「……そっか♪」
だがそんなはちきれそうな思いも今では冷静に対処できてしまう。
昔だったら赤面して石のようになっていたかもしれない。
心ときめく話ではあったが、今の自分にしてみれば昔の片思いにこだわるのはみっともない様な気がした。
自分の肯定とも否定とも取れないような返事に、リリムも肯定とも否定とも取れない返事で返した。
少々の沈黙の後エレベーターは音を立てて開いた。
―――。
「これからどちらへ? もう帰り?」
「ライ君。私が君より立場上なのはわかるけどもう終業なんだから昔どおりでいいよ。」
「そうはいっても…昔もろくに会話してなかったような気がするよ…。」
「そういえば…私が話しかけるたびにライ君はいつも固まってたっけ。面白かったなー。」
「男たらしがよく言いますね。」
地下鉄のだだっ広い駅構内で自分とリリムは歩いていた。
自分の改札口まで距離にして約200メートル。
普段歩きなれた帰り道も彼女と一緒にいると新鮮だ。
昔と違ってうぶな心が抜けた分、いろんなことを話したくなる。
「あー言ったなー? これでも好きになった男の子一筋なんだぞー?」
「男子に黄色い悲鳴を出させた王女様が何を言っているのやら。」
「だってライ君、私が隣の席に座っていてもダンスの授業で一緒になっても全っ然話してくれなかった
じゃない。」
「それは……君が隣だと緊張してね。周りの男子の目もあったし話しかけられなかったんだよ。」
「普通に嫌われたのかと思ったんだけど。」
「なんかごめん。」
今までのうっぷんを晴らすかのように彼女は少し早口になった。ちょっとふてくされた顔もかわいい。
彼女は人間の生活を知るためということで交換留学という形で学校に来ていた。
思い返せば彼女は人間の中で魔物として一人ぼっちで大変だったんだろう。
そんな中で隣に座る自分が当時こんな風に思われていたとは。
昔のことではあるが申し訳ない気持ちになる。
「反省した?」
「反省しました。」
「もうしませんは?」
「もうしません。」
「今夜のおごりは?」
「……部署費用負担でお願いします。」
「……ライ君?」
「……なるべく手加減してくださいね。」
彼女は機嫌を取り戻したのかフフっと軽く笑ってくれた。
まあ、かつて自分が好いていた女の子の相手をするんだ。
未練がましい。そう思いながら苦笑いを浮かべ肯定すると、リリムと店に向かって歩みを進めた。
―――。
七時頃、自分とリリムは店についた。
店はありきたりな居酒屋。だが自分は初めて入る。
リリムはというと「ここはお茶漬けがおいしい」とか「ライ君嫌いなものある?」とか「お酒は
いけるの?」とか一通り自分の好みを聞くと、すぐにこの店を選んでそのまま案内された。
さすが現役秘書。この辺の店はもう常連さんって顔だった。
小さな和風の少し手狭な店だ。
だが二人だけで来るならこれぐらいの密度の方が丁度いい。
店といい手際の良さといい王女様っていう彼女のイメージはどこへやら。
今の彼女はもうどこにでもいる普通の気の利いた女子社員にしか見えなかった。
あのころの神格化された彼女の容姿を思い返すとそのギャップにどこか愛くるしさと哀愁が漂う。
「さ、どーぞ。スーツお預かりしますね♪」
「うん、脱がせようとするのはやめて。恥ずかしいから。」
彼女とカウンターの席に着いた。
お互いのひじが当たってしまいそうな距離感に淡い期待感を抱く。
自分は隅にあったセパレートのメニューを二人の間に広げた。
「じゃあビールとキャベツ。それと手羽先あと砂肝。」
「あいよ、社長さん!そっちの秘書さんは?」
「やきとり5本適当に見繕って。お酒は…この泡姫っていうやつ。」
「あいよっ!」
威勢のいい店員は好きだ。
だが社長って呼ぶのはやめてもらえないだろうか。
隣がガチの秘書だと思うとなんか胃が痛くなりそうだ。
威勢のいい返事通り、すぐさまお酒が運ばれてきた。
冷えたグラスに溢れそうな泡。ビールはやはりこうでなくては。
「ふふ…お酒の名前に泡姫だって。」
「凄い名前ですね。日本酒の炭酸バージョンみたいなやつですか。」
「じゃ、社長さん。乾杯しますか?ふふっ♪」
「やめれ。はいお疲れ様です。」
「かーんぱい♪」
グラスをぶつける。キンといい音が鳴る。うーん改めて大人になった気がするなあ。
同時に悲しくなってくるが。
「あー大人になったなぁ。ね、ライ君。」
思考回路一緒なのかなぁ。なんか悲しくなってきた。
「こーやっておばさんになってくのかなあ。」
「変なこと言わないでください。」
「ライ君、大人になったね。スーツがなんか似合うよ。」
「……。」
なんかってなんだよ。
そう言い返そうとしたけど彼女の声に色気があったので黙っておいた。
油断すると顔がにやけてビールが口からこぼれてしまいそうだ。うれしかった。
こうやって秘書ってのし上がっていくんだろうな。
自分をおだてても何も出ないのに。
……あ、支払自分だったっけ。
彼女の返事を待つようなまなざしを受ける。
今一度ビールを口に含んで会話にワンクッション置いた。
「リリムさんもまあ…その…なんだ。」
「なあに?」
「お酒が似合うようになりましたね。」
「大人ですから、ね♪」
他愛のない会話。
昔はこんなことさえできなかった。
ああ、なんでこうも青春を無駄にしてきてしまったんだろう。
お酒の力だろうか。はたまた少し距離を置いたことで彼女の存在が俯瞰で見えるようになった所為だろうか。
リリムが時折透明なお酒を口に運ぶ。
ふわっとして柔らかそうな薄いピンク色の唇はあの時のままだ。
「もー。酔ってるの?ライ君。」
「……まだ一口ぐらいしか飲んでいませんけど。」
「じーっと一点を見つめてたから。」
「変な場所ばっかり見るんですね。」
「それはライ君でしょー?ほらキャベツ来たよ。」
手狭なカウンターで体が密着しそうな距離感が居心地がよかった。
机を隣に合わせてたあのころの距離感だ。
店員からキャベツを受け取ったリリムは自分のところに皿を渡した。
「はんぶん食べていい?」
「頼めばいいじゃないですか。」
「だってー秘書がキャベツ単品頼むとか稼ぎが悪いと思われちゃうじゃない。あと柚子味噌ついて来るとは思わなかった。」
「居酒屋でキャベツだけ食べろとかはないでしょう。」
「お願い!焼き鳥半分あげるから!」
「リリムさん……本当に秘書なんですか?すいません!キャベツもう一皿ください!」
「あいよっ!」
オーダーを頼み大将が威勢のいい返事を返すとリリムはむっとする。
何を恥ずかしがっているのか自分にはわからなかった。
でもスーツを身にまとった彼女が戸惑うのはなんだかかわいらしい。
誰にも見せない彼女の素顔を独り占めしている気分になる。
「ほら…キャベツ頼みましたから。」
「もう!居酒屋でキャベツおかわりとかもうどうしたらいいかわからない!」
「はい、お先に焼き鳥お待ち!」
「おいしそー!」
「立ち直り早いな!」
「はい、砂肝と手羽先!」
「どうも。」
料理が一通りそろうと狭いテーブルカウンターは皿で表面が埋め尽くされた。
食事としては成り立たないがこうしたちょっとした飲みならこれぐらいがちょうどいい。
「はい、追加のキャベツお待ち!」
「ずいぶんと手際のいい店だな。」
「でしょ?たっぷり仕込んだから。」
「……仕込む?」
「いやぁーそっちの秘書さんには懇意にしてもらってますからねえ。かなわないですよほんと。
あ、他のお客さんには内緒ね!ワハハ!」
それ以上は言わないでくれと言わんばかりに店員が割って入った。
仕込むって…いったいあんた何をやらかしたんだ。
大将の顔が苦い笑顔で歪んでいるんだが。
客との会話に割って入るくらいなのだから、これはちょっと聞いてみたい。
「何か秘密でも握ってるの?」
興味本位で小さい声で聞いた。
リリムは店員が離れるのを見計らい、こっそりと話す。
「私の部署食品製品部でね、このお店の料理に部長がブチギレたの。」
「なんでまた?」
「焼き鳥が生焼けだったから。バイトが焼いたんだって。それを仲裁してあげたのよ。」
「優しいじゃないですか。」
「10万円でね♪」
意外な発言に目を丸くした。
……大人になるって事は、すなわち生きるために変わること。変えていくことなんだな。
つくづくそう思った。
お姫様なんだからお金に困ったりしないでしょうに。
何とも言えないエピソードにただ受け流すしかなかった。
「そんなことがあったんですね。」
「ひどいやつだと思った?」
「まあ多少は…」
「私はそうは思わないよ。だって許してあげたんだもん。」
「と、いいますと?」
「大人のケンカは逃げ道を残してあげないと駄目なの。絶対に許さないとか裁判で負けさせるとかじゃダメ。」
「リリムさんがやったことが許してあげているとは思えませんが。」
「条件付きで許してあげる。相手の責任を果たしてあげるのもマナーなんだよ。」
「はあーなるほどね。」
リリムは淡々としゃべった。
けじめをつける。俺よりもはるか高いところからいろんな人を見ている。
いや、お姫様なんだから当然と言えば当然なんだが…なんというかこう大局を見て、トータルを見て
物事を判断している姿は自分なんて到底かなわないような気にさせた。
改めてエリート街道走っているんだと思い知らされた。
「とどめを刺すようなことをすれば今度はほかの会社から嫌われちゃう。でも、ちゃんと制裁を
加えておかないとまた同じことされるかもしれないでしょ?けじめをつけておかないと……大
変なことになっちゃうよ?」
「ダメですよ。ヘタすると恐喝になるかもしれないんですから。」
「しょうがないじゃん。本当は無料で解決してあげようと思ったけどブチギレモードの部長を
魅了状態にするのに10万必要だったんだから。」
「必要経費!?」
「ほら、これ。怒った相手にも効く刑部狸の惚れ薬。1ビン10万円。海外EM部のつてで買ってきてもらったの。」
(刑部狸ってジパングの魔物だよな?なんで海外EM部からのお土産なんだ?)
多少疑問は残ったがリリムは始終楽しそうに話していた。
だが何となくだが、笑ってこそいたけれどほんの少しどこか影があったような気がした。
話題が暗かったからだろうか。
心のどこかでそれだけじゃないというような気がしてならなかった。
目を伏せるのを誤魔化すように彼女は居酒屋のメニューを見つめながら焼き鳥をほおばった。
「リリムさん。お疲れですか?」
「え?」
彼女ははっとした顔でこちらを見直した。
「いや何となく……重たい話をさせてしまったような気がして。」
「そ、そう?ごめんね。気にかけてくれなくていいよ。気楽にしましょ?ね♪」
気にかけてくれなくていい…か。
なんでだろうか。そう言われると少しさびしさを感じた。
いや、こんな事を考えるのはちょっとでしゃばりすぎか?
(片思い程度で…。)
何となくそう思い、自分でハードルを勝手に建ててしまいそうだった。
今はもう関係ない。仲良くして、それで終わりでいいじゃないか。
もう恋人とは違うんだから。
「そうですか……じゃあ遠慮なく。」
自分に目線を飛ばす彼女の隙をついて皿から丸ごとキャベツを引き寄せた。
まだ柚子味噌が抉れていないところを見ると手つかずのようだ。
「ちょっと!それライ君が私の為に追加で頼んでくれたキャベツじゃない!」
キャベツ塊を箸でちぎりそのまま何のためらいもなく柚子味噌をたっぷりつけて口に入れる。
うん、おいしい。
いまさらだけどリリムさん10年近く見ていない間にちょっと食いしん坊キャラになったんじゃ
ないんだろうか。
「え?だって『キャベツのお替りとかどうしたらいいか解らない』って言ってたじゃないですか。」
「食べていいとは言ってないでしょ!」
「砂肝あげます。俺砂肝食べれないので。」
「なんでよ!なんで頼んだのよ!」
「昔一度だけ食べたことあったんですけど味が思い出せなくてたのみました。ジャリジャリして
やっぱまずいですねこれ。」
「私もそんなに砂肝好きじゃないの!」
「じゃあまたキャベツ頼みますか?」
「ぐうう…!ライ君のこと……やっぱりフって正解だった!」
「地味に過去をえぐりますね。すいませんキャベツおかわりで。私の部下に。」
「あいよっ!社長の部下さんにキャベツ追加で一丁!」
「こらー!大将も調子にのるなー!」
元気は出ただろうか。
自分にはよくわからない。
だが今は彼女の言う『逃げ道』にあやからせてもらおう。
怒る彼女を見てニヤニヤしながら飲むビールはちょっとだけぬるくなっていた。
―――――――。
「あふー、飲んだー。」
「大丈夫ですか?飛ばしてましたけど。」
「きょーはらいくんいるからいいのー。」
頼ってくれるのはうれしいが本当に大丈夫なのだろうか。
足のふらつきとか内臓面とか。
軽く飲むつもりだったのだが結構長く居てしまった。
自分は話してばっかりだったが、彼女の方は酔いが回ったのだろう。
「あーそうだ。もーいっけんいこう。」
「ダメです。」
「地上のホテルにバルがあるからそこいこう。」
「足ふらふらしてるじゃないですか。」
「じゃあホテルで休みましょ?」
「意味わかって言ってるんですか?」
「ライ君こそ……意味わかってるなら……男をみせてよね?」
「からかうのはやめてください。」
リリムを連れて地上に出た。
飲んでいたのが駅の地下だったこともあってラッキーだった。
地上にはタクシー乗り場のロータリーがある。
終電ギリギリであと一本あるかどうかという時間で結構混んでいるかと思ったが、以外にもすぐに
乗ることができた。
稼ぎ時だからだろうか。
たくさんのタクシーの黒いボディが街灯に反射してさながらピアノの黒鍵のように見える。
電車で帰りたいが彼女をほっておくわけにもいかないのでタクシーにしておくか。
そう結論付けると彼女を支えながらタクシーの待機列に並んだ。
「お客さんどちらまで。」
「リリムさん、おうちはどちらですか?」
「○○市2-3-11」
「はい○○市2-3-11ですね。」
「お願いします。レッツゴーで。」
運転手はリリムが言った番地を入力するとタクシーは出発した。
○○市…自分とリリム二人が在籍する会社と同じ市。
つまりこの近辺だ。
都会のど真ん中であるこのあたりに住んでいるとはやはり稼ぎが違うのだろう。
車の振動が心地よく妙に眠たくなってくる。
「すずしーい。」
リリムがエアコンの心地よさにくぐもるような声を出す。
確かにいい温度だ眠たい、眠たくなってくる…
いや、ダメだ、今寝たらリリムの面倒を誰が見るんだ。
そんなことを思っているとぽすっと肩にリリムの頭が寄りかかる。
「ライ君ちょっと寝たいから肩かして?」
「もう乗せてるじゃないですか。」
「……うん……そうだね……。」
このまま到着まで寝てしまうのだろうか。
それはそれで構わない。
運転手に見られないようにしたいのが一番の気がかりだがまあ大丈夫だろう。
タクシーの走行に合わせて街灯の丸い灯りが社内を駆け巡る。
彼女の頭の重たさが心地よく、人肌の暖かさを感じさせた。
「はいつきましたよ○○市2-3-11です。2700円。」
「どうもありがとうございます。」
「ん…ついた?」
「ほらリリムさんの家……!?」
見覚えがある建物だった。
断っておくが以前リリムさんの家に遊びに行ったとか言うわけではない。
目の前にあるのは大きなビル。いや、ホテルだ。
「これって…社員用カフェの窓から見えるあのラブホじゃねーか!」
都会になじむようにあまり派手すぎず品の良いたたずまいだが、夜になるとすさまじいエロティ
ックなライトアップで外観が刷新される。
いまどきのラブホはどこも清潔感を出すのが鉄則なのにこのライトアップはどうなんだろうか。
「あ、着いた。入ろう?」
「リリムさん!?」
「ここが今の私の家だもん。」
「う、うそでしょ!?」
「嘘じゃないよ。」
酔った上のジョークであってほしい。
どういうことだ?まさか済むに困ってこのホテルの一室を借りているのか?
ビジネスホテルなら近くにあるのに。
リリムはもう酔いが少し冷めたのかその足取りは元に戻っていた。
タクシーから降りると彼女は手を引きラブホテルへと何のためらいもなしに足を運ぶ。
大きな音とともに自動ドアが開く。
一目につかないように囲いが大げさに設置されているのを見ると後ろめたさを感じてしまった。
「ただいまー」
「おかえりなさいませリリム様。そちらの方は?」
「昔の同級生。」
「お部屋はいつも通り綺麗にしてありますのでお好きな部屋をご利用ください。」
自分の家がホテルだったら。
子供のころそんなことを考えていたことがある。
部屋なんか無駄に好き放題使えるだろうし、かくれんぼも好きなだけ出来る。
割高の自動販売機も怒られないで好きなだけ飲めるし、温泉は泳ぎ放題だ。
惜しむらくはここはラブホテルと言うこと。
そしてかつての同級生の家だということだ。
まばゆいばかりのライトが目に入ると現実から目をそらしたくなった。
「ライ君好きな部屋選んでいいよ。後で行くから。」
「あ、ああ。え!?泊まっていいの!?」
「だってホテルだもん。見せびらかしたかったんだもん。」
「他のお客は?」
「いるよ。デリヘルさんとかも。」
「ひえー。」
場違いな場所に連れてこられてしまった。
あこがれの同級生の家というだけで少しドキドキしていたのに…ステップアップどころか
エレベーターで屋上まで連れてこられた気分だ。
開いてる部屋の番号を受付のお姉さんに教えてもらうとそのまま部屋へと足を運んだ。
頭に角が生えているところをみると彼女の魔物なのかもしれない。
「ふう…落ち着きのない部屋だな。」
そして部屋について一人ごちる。
今は一人暮らしだから突然泊まることは大したことではない。
洗面具等は部屋に備え付けの自動販売機にあったので購入しておく。
人の家で買い物とは訳がわからない。
確かリリムはこの後部屋に来ると言っていた。
ああなんだろう凄い緊張してきた。
「ライくーん入っていい?」
「あ、はい。どうぞ。」
「あけてー。オートロックだからあけてー。」
「ああはいはい。」
とことこと歩いてドアを開ける。
いつもながらの小柄な彼女の体がひょっこりとドアの隙間から現れた。
が、思わずその姿にため息をついてしまった。良い意味で、いや悪い意味でかもしれない。
「それ魔法学校の制服じゃないか…!?」
「えへへ着替えちゃったー。」
昔のままの姿で昔の姿をしている。
それは紛れもなくあのころの。みんなのアイドルであった彼女の姿だった。
このままだと女子高生を連れ込んだと思われかねないのでささっと彼女を部屋の中に入れた。
矛盾した行為だが気にしている余裕なんてなかった。
「だってまだ入るんだもん。他にもいっぱいあるよ。体操着とか水着とか。」
「いや、選り好みをしているんじゃなくてね。」
「女の子の家に来たんだから楽しまないとだめでしょ?ライ君♪」
「この楽しみ方は……い、いいのか?どっかに隠しカメラとかついてるんじゃ。」
「ここの信用問題にかかわるから止めて。」
ああ、姿は変わっても中身は今のリリムだ。
ベッドに腰掛けると彼女も寄り添うようにそのまま自分の横に座った。
タクシーの中とは違って背徳感に駆られてしまう。
「聞こうかどうか迷っていることが一つあるんだが聞いていいか?」
「え?うん。まあ察しはつくけど。」
「なんでラブホなんかに住んでいるんだ?」
「わたしお姫様辞めちゃったの。」
躊躇うことなのないそっけない返答に表情がこわばった。
彼女はいつも通り笑顔で話していたが、それでも心にざわつくものがあった。
お姫様って辞めれるものなんだろうか。
お姫様辞めます。それは詰まるところ…考えたくない予感が浮かぶ。
「ほら、この不景気でしょ?お屋敷とりつぶしになっちゃって。」
「な、それはホントですか?」
「自分で言うのもなんだけど今までとても優雅に暮らしていたんだよ。たまに男の人と遊んだりいろいろ楽しかったよ。でも……」
リリムは言葉をつぐんだ。
何を言いたかったのか。自分にはわからない。
男の人と遊んだという言葉が妙に引っかかる。
彼女クラスになれば失恋とは無縁の存在だと思うのだが、そういうわけではないのだろう。
「その男の人が借金を抱えててね。人がいいから引き受けちゃったの。それでお屋敷取りつぶし。幸いにも私たちは魔物だからお金がなくてもある程度は生きていける。だからいろいろ頑張ってみんなでお金を稼いで伴侶を探しつつ住処を確保できるようにラブホテルを買ったの。」
「……。」
そうか。受付にいたメイドのサキュバスも。
常駐しているデリヘルと称した魔物たちも。
みんなそれの影響を受けていたんだ。
余りにもショックだった。別に彼女のしてきたことにこだわっているわけじゃない。
ただ、彼女が不幸になっていたという現実に打ちひしがれてしまいそうだった。
そもそも出会ったときにすぐに疑問に思うべきだったんだ。
彼女が働いているという事実そのものが既に間違いであったことに気付くべきだった。
気付いたところでどうしようもないというのも、どこか悔しい気持ちだ。
いろいろと彼女に変なことを聞いてしまった後悔の念が押し寄せてきそうだった。
「でも私今の生活気にいってるんだ。だからライ君までくよくよしなくていいよ。」
「くよくよしていましたか?」
「してたよ。一緒になって心配してくれるなんて。ありがとね♪」
強がって見せた。彼女は自分以上に強がっていたんだ。
今日再び出会ってから、いや出会うもっと前から。
そこは…ありがとうなんていう所じゃないだろうに。
笑顔の彼女を見ると胸が苦しい。
「よく言いますよお姫様。」
精一杯言葉をひねり出した。
軽口をたたくだけで精一杯だ。
彼女が強がっているならそれを「ごめんなさい」なんて言葉で濁すのは駄目だ。
そんな気がする。
「もうお姫様じゃないよ。」
やめてくれ。そんな笑顔を見せるのは。
自分の懇願なんか気にしない。
彼女はまだお姫様だったんだ。
済む場所を失った召使たちを養う一国のお姫様なんだ。
「自分にとっては一生お姫様です。」
そうだ。彼女は…リリムは自分にとってもお姫様なのだから。
彼女の力になりたい。なんだか目頭が熱くなりそうだった。滑稽でしかないかもしれない。
それでもいい。そう見えてもいい。彼女が笑顔になるなら。本当の笑顔になるなら。
「あー…いったな?」
自分の顔を見て恥ずかしそうに彼女は苦笑した。
本心を見た気がした。クスリと笑った。
リリムは自分の肩に手をあてがう。
胸が高鳴ったその刹那―――
「この…王子様め♪」
リリムは自分の肩を抑えるとそのまま力強くベッドへと押し倒した。
刹那に見せたニヤけた彼女の顔がそのまま自分の顔へ迫っていく。
そのまま彼女が目を閉じる。
一瞬何が起こったのかわからなかったがすぐに何が起こるかは理解できた。
「ちゅっ…ちゅう…んんっ…ちゅう…」
「……!?」
リリムに口づけされた。
大人のキスと言う奴だろうか。
貪るように唇を蹂躙していくように。
彼女の小柄な体を支えつつ、彼女の期待にこたえるようにしたいものの体が強張って言うことを
聞いてくれない。
「……ぢゅう…っ…ふふ…ライ君…どうしたの?」
「すいません。なんかびっくりして。」
「ふふっ♪大人になっていろいろ成長したみたいだけど、女の子の扱いはまだまだね♪」
顔を伏してはいたが彼女が嬉々としたような、安堵したような声を出していた…気がする。
ニヤリと嗤うと彼女は唇を首筋にあてがう。
彼女の吐息を感じると官能的な感覚に背筋がざわついた。
「そ…そこはまずいですって。」
「大丈夫、襟で隠れるよ♪」
「リリムさん…っ」
彼女の両肩を包むように掴む。
しかし押し返す気にはなれなかった。
甘くとろける彼女の柔らかい唇が吸血するかのように吸いついてくる。
「ちゅー…っ……。」
「……っ」
小さな吸いつく音が小刻みに聞こえる。
何度も何度も。彼女が舌でなめるたびにつま先を曲げていた。
次第に呼吸が荒くなっていく。
息を吸うたびにリリムの甘い匂いを感じる。息を吸った胸が柔らかい体を押し返していく。
「…ぷはっ…はいできました王子様♪」
リリムは笑顔を見せながらぐりぐりと自分に吸いついた後を指先で押し付ける。
視界に入らない彼女のマーキングはむずがゆさを感じさせ、その存在感を示していた。
「ずいぶんと積極的ですね…」
「ライ君。わたし結構勇気出したんだけど?」
「ええ…心臓の鼓動が凄い伝わってきます。」
「ライ君。わたしすーっごく勇気出したんだけど?」
解っている。
これから何をすべきかも何をしなくてはいけないのかも。
だがなんだ。
その…しちゃっていいのだろうか。
無論彼女のことは好きだし、性欲も万端だ。
このまま最後までしちゃうのも別に問題ない。
「脱がすぞ。」
「…うん♪」
犯しちゃっていいのだろうかこの女子高生を。
見た目に刺激が強すぎる。
さっきまでスーツを着ていたとはいえ外身が昔と何一つ変わっていないんだぞ。
横に転がるような形で彼女を下にするとそのまま彼女はベッドに身を預けた。
(うあ…かわいい……けどこれ絶対にまずいだろ。)
彼女の襟もとのリボンをほどき上から順にボタンをはずしていく。
そんな一生懸命に俺のことを見ないでくれ。恥ずかしいから。
「ライ君マニアックなんだね。ブレザーも脱がさないでおっぱいそんなに見たいの?」
「君とエッチするならまず最初に絶対おっぱいが見たいと思ってた。」
「そ、そうかな?」
「男は大好きな女子のおっぱいを絶対に見たいと思っている。下半身もそうだが…いきなり下半身だと
やっぱり抵抗があるんだ。」
「そういう割には結構手際よく脱がしていくよね……。」
「リリムさんが俺のことフっちゃうからイメクラ行くしかなかったんですよ。」
「そ、それは!その……ごめんなさい…。」
「冗談です。真に受けないでください。」
リリムがふてくされそうになったのを見て素早く乳房に手を伸ばす。
「ひっ…!?」
リリムの乳房を握る自分の手の上から彼女が手を掴んだ。
「痛かったですか?」
「ごめん、ちょっと驚いただけ。」
「さっきのお返しです。」
「も、もう!ライ君っ…あっ…」
手をゆっくり動かし揉みしだいて行く。
指先はあまり動かさず、ゆっくり丁寧に。
陶器のような美しさとでもいえばいいだろうか。
彼女のおっぱいをなでまわすように触っていく。
「………っ…。」
(声を出さなくなった…感じているのか?)
リリムの乳房を揉むと彼女はその手を離しベッドに預けた。
頬が赤らんでいるのは気恥ずかしさだろうか。それともお酒が抜けきっていないのだろうか。
力なく声を殺すような彼女の姿に加虐心に駆られてしまう。
「ぅ…ん…ライ君…優しいんだね。一度はフっちゃったのに。」
「それが原因で乱暴にしたいとは思いません。」
「ふふっ…そっちじゃないよ。」
リリムは胸を揉む自分の手にそっと触れた。
今一度自分に優しくしてくれる人が現れたのが嬉しかったのだろうか。
あるいは同情してくれているだけで彼女にとっては満足なのだろうか。
それはわからない。だが、わかる必要なんてない気がしてきた。
「昔は昔ってやつです。」
「大人だね…んっ…ライ君は大人…。」
「そんなことありません。むしろリリムさんの方がしっかりしていて大人だと思いますよ。」
「私は…こどもだもん…。」
体型が変わっていないことを気にしているのだろうか。
コンプレックスに悩むのはわかるが体を弄っている自分の感想を言えばそんなことはない。
むしろ学生時代の時に彼女のそのスタイルは完成してしまったのだろう。
「昔から…こうやって…ライ君に…エッチしてもらえたらなって…おもってたもん…。」
「……お世辞が…」
「お世辞じゃないよ…んっ…隣に座って、授業で一緒にダンスして、いろんなことリードしてくれて…」
「……」
「私もお姫様だから……負けてられないって……ライバル心出しちゃったもん。」
リリムは時折喘ぎ声を洩らしながらぽつり、ぽつりと語った。
顔をそらしつつ、羞恥心を悟られないようにして。
ライバル心。
特別気にかけてくれたのはありがたいが微妙に敵対心がないとできない。
嬉しいやら悲しいやら、ちょっと複雑だ。
彼女に迷惑をかけると男子から非難の的になりかねないから必死になってリードしていたのだがどうや
ら全て裏目に出ていたのか。
リリムはこちらから目をそらさないように懸命に見つめていた。
自分が愛撫する姿をまるで脳裏に焼き付けるように眼差しをこちらに向けていた。
「だからライ君に…告白された時……どうしたらいいかわからなかったの…。バカだよね。好きなのに。
凄い好きなのに…ね。あぅ…っ…?」
彼女の言葉を遮るようにリリムの鎖骨に口づけた。
自己嫌悪は辞めてもらおう。
喋れなくなるように吸いつくと彼女は身悶えた。
「そ…そこは…」
「駄目ですか?」
「……ライ君なら…いいよ…」
リリムが先ほど自分に口づけたようにゆっくりと吸いつく。
自分のものであることを証明するかのようにマーキングしていく。
こんなこと一度だってやったことはない。
だが、そうせざるを得なかった。もう離れたくなかった。
彼女の言い分がわかった気がした。
好きなのにどうしていいかわからない。自分もわからなかったんだ。
「…っ」
キスマークから唾液で糸が引いていたのをリリムは指でくるくると巻きとっていた。
ほのかな笑顔で彼女はこちらを見ている。
「じゃあ…そろそろ本番しよっか。」
リリムが体を起こしベッドの上で立ち膝になって座った。
「ほらライ君立って。脱がしながらしてあげる。」
「あ、ああ。」
ベッドの上に立ちあがると天井がいつもより近くなる。
派手な壁紙がやたらと目につき、この手のホテルにありがちな高級そうなライトが目に付いた。
彼女の体を堪能していた時にはあまり気にしていなかったがすごくはずかしい。
自分の下半身が丸見えになってしまうのは……とくに元同級生に丸見えになってしまうのは多少抵抗
がある。
「えいっ♪」
「な、なにを。」
「ここにライ君のおちんちんがあるんだね。もうおっきい。」
自分の股間にリリムは顔をうずめた。
それは男が女にやる行為だとばかり思っていたんだが。
彼女の鼻や口が先ほどの愛撫で興奮した自分の一物を刺激する。
「いい匂いするね。」
「いや、そんなはずは…」
「淫魔だもん。これはいい匂いだよ?」
ベルトに手をかけると金具が音を立てて外れて行く。
彼女の顔が股間に息があたりそうになるくらいに近い。
しゅる、と音を立ててズボンとパンツが一気に脱がされた。
「ふーっ…♪」
「ちょ、息を吹きかけないでください。」
「ふふっ…ビクってしてる…ちゅ…っ」
キスの不意打ちにかかとをギュッとひねった。
「駄目だよ?あんまり暴れたら。」
「いや、でも…」
「こーいうのは丸見えだから面白いんじゃない。」
「面白いって…」
「じゃあライ君の丸見えおちんちん。今からお口でご奉仕してあげるからね?」
リリムは目を閉じて唇をいきり立つ亀頭にあてがう。
柔らかい彼女の唇がふわりと触れた。
想像以上の柔らかさだ。
リリムは躊躇うとことなくそれを唇よりさらに奥へと押し込んでいく。
にゅるり、にゅるりと彼女の舌を感じた。
「く…っ…こ、これ…」
「はあひぃ?はひふん…りゅちゅっ…れう…る…んっ…」
舌がからみつく。
こんなことどうやったら覚えるんだ?
自分が思っていた以上に彼女の舌使いが的確に自分の弱点をついていく。
こちらを見上げながらリリムはぐちゅぐちゅと音を立てながら頭を動かし、舌を動かし、亀頭を口内
で蹂躙していく。
「ちゅうっ…ん…ちゅっ…にゅちゅ…ぐちゅ、ん…ちゅう…」
「ま、まってリリムさん!ちょっと飛ばしすぎ…!」
「んう…ぷはっ!もーライ君もうギブアップなの?」
「こんないきなり激しくしたら持ちませんよ。」
「だってライ君のおちんちんだよ?大好きな人のーお・ち・ん・ち・ん♪いっぱい気持ちよくしてあげ
ないと。」
こんなこと言われたら触られてないのにさらにいきり立ってしまう。
ペニスが彼女の言葉に反応しピクリと震えた。
「ほら、つづきしよ?ライ君のせーえきちゃんともらうからね?あ…む…」
リリムが再び唇をペニスの根元までスライドさせていく。
口内の粘膜から来る刺激が体中に電気を帯びさせていく。
「ぢゅぅ…ぢゅぢゅっ…れる…ん…んぢゅっ…!」
(やばい…このままだと出ちまう…。)
「でちゃってもひぃよお?」
「な、なんで解るん…」
「んぢゅぅ…ぷ…ふふ…はおにはいてあうよ?」
リリムが速度を落とすことなく頭を前後に動かすとたまっていた快楽が爆発しそうになってしまった。
丁寧に丁寧に。自分を感じさせるためだけに。その単純な動作が愛おしくなってしまう。
「ご、ごめんリリムさん射精るっ…!」
「ん…♪」
どぴゅっ…どく…どく…っ…
リリムの声とも言えないようなくぐもった返事に射精をしてしまった。
「ぢゅっ…ぢゅっ…」
「あ…あ…くっ…顔っ…押し付け…ぐあっ…」
「ん…く…っ」
悶えるような声を出すとリリムは離すまいと唇を根元まで押しつけてくる。
体を震わせ彼女の肩に手を乗せ体を震わせ続ける。
リリムはそれを舌で、口で味わうかのようにこちらを艶めかしく見ていた。
射精の律動に合わせて舌で優しく精子をうけとめる。
名残惜しさを残すように吸いつきながらペニスから口を離すと
「ん…ぢゅる…くん…!」
彼女は眼を閉じ、そのまま飲みこんだ。
「ん…ちゅっ…♪」
「…はあっ…はあ…」
脱力感と背徳感、射精の恍惚で呆けてしまった。
そんな顔もいつもの笑顔で彼女は見上げていた。
「ふふっ…でちゃったね♪」
「あ…ああ。」
「きもちよかった?」
「ええ…。」
「そっか。よかった♪」
リリムは優しい顔、もとい安堵のような顔を浮かべ見つめた。
舌を出し唇をぬらしていた精液を舐め取る。
白く濡れた液体の下から元の扇情的なピンクの唇があらわになると再び情欲を掻き立てられる。
「いけないんだ、ライ君。お口に出して飲ませちゃうだなんて。」
「それはリリムさんがいけないんです。あんなことされたら耐えられませんよ。」
「ふふっ♪じゃーあーもっと耐えられないようなこと、しましょ?」
その言葉の意味を解釈した自分は服を脱いだ。
シャワーにも入っていないので少し匂いが気になるだろうか。
一度射精したせいか野暮ったいことが気になる。
しかしどういう訳か興奮が収まらない。
彼女が両手を伸ばし自分を押し倒すと彼女は自分に躊躇うことなくまたがった。
「上からしちゃっても…いいよね?」
リリムがスカートをまくると白いレースのがあしらわれたショーツが見えた。
「この恰好のままするんですか?」
「だってやったことないもん。ライ君だから…ここまでサービスしてるんだよ?」
特別感に内心高揚する。
羞恥心に身をかられ必死になる彼女。
自分だけが独占できる占有感に琴線が震えた。
「無理しなくていいですからね?」
「大丈夫!今日はライ君が壊れないようにほどほどにするから!」
「え?」
「私とエッチした男の人って…みーんな柔らかいのに締めつけてくるとかいってみんな3分ぐらいで悲鳴みたいな声になって、10分立つともう声も出さずに射精しちゃうんだよねー。」
ごくりと生唾を飲んだ。
性欲からくるものではない。
が、恐怖からくるものであってほしくないと内心願ってしまう。
「念願のライ君とのあまあまエッチだから…歯止めきかないかも。」
「ちょ、ちょっと待って…!」
「大丈夫だよ。外に声は聞こえないから。」
彼女がこの上ないくらいの笑みを浮かべると俺は長年の謎に気付いてしまった。
そうか。そういうことだったのか。
リリムさんが男をなるべく敬遠していた理由。
それは自らのエッチに(性的な意味で)耐えられる男がいなかったからなんだ。
シンデレラを探す王子のように。
あるいは自分を倒してくれるものを探す猛者のように。
彼女にたりえる男がいなかったんだ。
美貌とか性格とか財産とか家柄とかじゃない。
彼女たちにとって最も必要な愛とその愛に耐えられる男が居なかっただけなんだ。
「ふ…いいですよ。」
「覚悟は決まった?」
「ええ…リリムさんこそ覚悟を決めてはどうですか?」
「ちょ…ら、ライ君っ!」
体を起こしリリムを逆にベッドへと押し返した。
彼女の細い線がぽすっとベッドに跳ねるとすぐさま彼女のスカートのホックをはずし躊躇いも無く脱がす。
ショーツを脱がし下半身が丸見えになると急に強引に責められたリリムは赤面とともに顔を手で隠した。
「さっき口でされたときにちゃんとしっかりお返ししないといけないと思いまして。」
「そ、そんなに気を使ってくれなくてもいいのに…わたしはライ君が好きだからしてるだけ…!」
「自分もリリムさんが好きだからやっているんです。嫌ですか?」
「そ、そんな風に聞くのずるい…。」
声が小さくなっていく。
何かズルイのだろうか。それはわからない。
だがリリムにとって越えたくない一線があるのだろう。
意地っ張りで強がりな自分。男にだまされた自分。
男女間のトラブルに巻き込まれていながら魔物という宿命から逃れられない自分。
いろんな自分がせめぎ合っていながら愛を捨てきれない自分。
リリムのそんな感情がどうしたらいいのかわからないというのを感じとっていた。
「ずるくないです。自分はリリムさんが好きですから。」
「う…うう…っ…や、やめてよ…!ぐすっ。」
「リリムさん?」
「嬉しくて泣いちゃうでしょ?バカ…。」
「す、すっごい焦った。やりすぎたかと思いました。」
「ごめんね…ライ君…ひゃっ!?」
ベッドに寝転んだリリムの膝を掴むと彼女は嬌声を上げた。
そのままゆっくりと彼女の足を開いていくと彼女の局部が丸見えになる。
つややかで綺麗な溝がまるで陶器を思わせる。
「挿れますよ。力抜いてください。」
「それぐらい知ってるもん。ばか。素人童貞のくせに。」
「リリムさんやめてください。このままだと『下の口は正直だぜ』とか言わないといけないじゃないですか。」
冗談めかしてはいるものの結構な勇気がいる。
亀頭を彼女の局部にくっつけるとほのかな温かみを感じる。
こうしているだけでも脳が焼けて行く気がする。
「あ…」
リリムの秘所からは既に愛液で濡れていた。
このまま押し込めば抵抗なく入っていきそうなくらいだ。
「…っ」
「ひっ…あ…」
「痛かったですか?」
「だ、大丈夫…うん…」
痛みを感じているそぶりはなかった。
だがゆっくりに慎重にペニスを挿入していく。
暖かく、柔らかく、男を愛してやまないリリムと言う生き物の秘所。
柔らかいのにすごく締めつけてくる。
まるで始めから自分専用に作られたかのように、彼女の秘所は自分のペニスに余すことなく包み込んでいく。
「ひぅ」
「本当に大丈夫…」
「な、何のことかしら?」
強がっている。
平静を装っているのが透けて見える。というかバレバレだ。
顔をそむけ目を細めそっぽを向くようだ。
初めて見てしまった。彼女が追い詰められているところを。
気を抜いたら妙なサドっ気を掻き立てられそうになる。
ゆっくりと奥へ、奥へと体を数センチずつ進めて行く。
リリムが目をつむる。
まるで生娘なんじゃないかって言うくらい…?あ、あれ?
「なあ…もしかしてさ…」
「〜〜〜っ」
リリムが我慢している。
もはや自分の話など聞いている余裕などないとばかりに。
「処女?」
「ちっ!違うの!ただこうやって男の人を上にしたことが無いだけで…!」
「それで?」
「正常位は初めてだから…こ、怖くなっちゃった…」
怖くなった。
なんだか気を使ってあげようっていうより笑ってしまいそうだった。
あのリリムさんが。男を取って食うようなリリムさんが。
男子のアイドルで淫魔のリリムさんが。
「……大丈夫ですよ。乱暴にしません。信じてください。」
「…ほんとに?」
「ええ。お姫様。どうぞごゆるりと本番行為をお楽しみください。」
「ひあっ!?」
何か言い返そうとしたリリムの口が嬌声で上書きされる。
腰を一気に動かしペニスを奥まで入れ込んだ。
狭く、柔らかい締めつけ具合に奥歯を噛みしめる。
にゅるにゅると奥底まで亀頭が滑り込むと体が浮いてきてしまう。
「あっ…あっ!ら、らいくん!それっ…!それいいっ!」
「っ…り、リリムさん…っ!?」
彼女が快楽を訴えるたびにペニスが締めつけられていく。
締めつけが強くなっていき、押し出されてしまうのではないかというくらいに。
彼女の太ももを担ぎ腰を動かしていく。
彼女のヒダをかき分け腰をぶつけていく。
ぱちゅん、ぱんっ、ぱんっ
規則正しく、愛液が混ざる水音が奏でられる。
脳髄が焼けただれて今にも彼女を欲望で塗りつぶしてしまいそうだ。
いとしい人と一つになり、すぐに持たないほどの快楽でペニスが爆発しそうになった。
「ご、ごめんリリムさんもう出る…っ!」
「い、いいよライ君…このまま…中に出して…。」
「ま、待ってくださいそれは…」
「大丈夫、大丈夫だから…お願い…ライ君のが…ほしいよ…。」
色香の混じった消え行ってしまいそうな声に体が先に反応する。
覆いかぶさるようにリリムを抱きしめる。
頬と頬がすりあうように彼女を余すことなく抱きしめた。
「あっライ君!あっあぅ…あん!あっ!!」
「リリムさん…っ!」
彼女が足を腰に巻きつけると興奮から精液を放出した。
抱きしめた腕が離すまいと少女の体を抱きとめる。
視界が彼女の顔すら見えなくなるほどホワイトアウトして――――
どくっ…どぴゅっ…どくっ…
熱くたぎった欲望を抑えきれず目の前の少女の膣に放出した。
「はあ…っ…」
「ん…っ…。」
リリムの膣は精液を受け止めるとそれを咀嚼するかのように自分のペニスをむにゅむにゅと押しつぶす。
射精の律動に合わせるように収縮するといつもより精液が多く出てくる気がした。
浴びせられるような快楽に体をこわばらせ、容赦なく彼女に精液を送り出すと体がうなだれた。
「らいくん…ぎゅってしよ?」
力尽きた自分を見て彼女は両手を伸ばした。
彼女を覆いつくすように体を預けると背に手を回す。
いとしい人を抱きしめる。
ただそれだけの行為がなぜこうも難しいのだろう。
射精後の賢者タイムに入ったせいか、どうもばかばかしいことを考えてしまう。
「らいくん…」
リリムの顔がわかるくらいに意識を取り戻す。
彼女は幸せそうに力尽きていた。顔を横に向け、額に張り付いた髪を指で払う。
そしてはっとした。
彼女に言われたから…というわけではないが本当に中に出してしまった。
やばい、どうしよう。謝らないと。
「今日はありがとう…ね?」
「……はい…。」
幸せなのか、不安なのか。デリケートな表情のリリムを見つめた。
今はもう緊張したりもしない。
大好きだっていう言葉も、告白もいらない。
俺たちはこういう間柄なんだ。
これでいいんだ。
―――――――。
「あー今日土曜日でよかったね。ライ君。もういっかいしよう?」
「…いま起きたばっかりなんですが。」
「だってーライ君とのエッチ気持ちよかったんだもん。」
「制服しわだらけじゃないですか。あのまま寝たんですか?」
「いいの。生活感が出てエッチじゃない。今日はいろんな服着てエッチしよう?部屋のあちこちがお洋服脱ぎ捨てらたのばっかりにしてすっごくエッチな感じにしよう?今日は着エロ三昧がいいな♪」
(ど…どうしよう。俺は恋仲とか以前にもっと身の危険的な意味で取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。)
「大丈夫。大丈夫。愛があれば…ね?」
ベッドの上で甘える彼女が秘書に戻るのはもう少し時間がかかりそうだ。
でも…まあいいか。彼女が心の底から笑顔になっているのなら。
体の痛みを感じながらも彼女の要望にこたえようとリリムにはにかんだ笑顔を見せた。
二人のとても大事で、ささやかな幸せに。
☆おしまい☆
自分の学校には魔界の王女様がいて、クラスの男子はみんな彼女に夢中になった。もちろん自分もだ。
運に恵まれていたのか彼女と席が隣同士になったりダンスの授業で彼女とペアを組んだりと
どういうわけか彼女と付き合うチャンスは多かった。
これは運命だと当時は本気でそう思っていた。
彼女に告白して、失恋するまでは。
いろいろと何か理由らしいことを申し訳なさそうに彼女は説明していたがフラれたショックで何を言っていたのかよく思い出せない。
それでも彼女は困った笑顔で自分のことを慰めていたような気がした。
優しい彼女らしい対応だった、と思う。
ふとそんなことを思い出してしまったのは彼女との再会だった。
彼女とはほんの些細なきっかけで再び出会ってしまった。
(はあ…疲れた…。)
仕事に疲れてエレベーターに乗る。
学生のころとは違って自分はもう立派な大人だ。
朝起きて会社に行って仕事をやって家に帰る。
旅行にも行かないし、休日は寝て過ごす。
仕事はようやく慣れてきたものの、年々業務は増すばかりだ。
そんなことを考えていた時だった。
左腕を誰かがトントンと叩いてきた。
「こんばんは。」
「…リリムさん!?」
「あ、一発でわかったんだすごーい!私もね?君がライくんだって一目でわかったよ。」
うっかり彼女とエレベーターで出会った。しかも同じ会社のビルだ。
驚きを隠せなかった。
彼女は昔のように人懐っこく、きれいな姿で、もう10年近くたっているのに自分の心をときめか
せる。
が、なんというかその……フられた時の後遺症というか……合わせる顔がない。
なるべく視線を合わせないように体だけ彼女の方に向き直った。
「君は…昔とぜんっぜん姿が変わってないね…。」
「うーん。魔物って長寿だし?姿もあまり変わらないから。」
ぴょこぴょこと近寄り自分の顔を見上げるリリム。
背丈もあのころのまま。
当時は「これから成長期だ」と言い張っていたがあきらめてしまったのだろうか。
自分の会社は大手の総合商社である。
様々な部署が一つの会社のように独立している為、お互いの部署は関係性を保ちながらも接点があまり
ない部分がある。
そんなこともあってか同じ会社に居ながら彼女の存在に全くと言っていいほど気が付かなかったのだ。
かれこれ入社して2年ほどだが、こんなことってあるのか。
運命を感じる…というよりは度肝を抜かされたというのが正直な感想だ。
「リリムさん…まさか自分と同じ会社だとは思いませんでしたよ。」
「うん、びっくり!ほんと何年振りだろ…ライ君は…男前になったかな?」
「…ありがとうございます。」
じいーっと自分のことを見つめるリリム。
あの頃と何も変わっていないような気がする。
子供っぽいしゃべり方も、ほめ方も、やたら見つめてくるのも、男殺しなところも。
こんなところが彼女が重用される所以なんだろう。
「今はお仕事何されているんですか?」
「え…?うーん…部長補佐…秘書みたいなものかな?」
「かな?ってわからないんですか。」
「雑務からスケジュール管理、体調管理から性欲処理まで何でもやるよ。」
「何でもやりすぎじゃないか!?」
「最後のはウソだよ♪」
「はは…そりゃどうも…。」
「それとも…ライ君にだけはしてあげよっか?」
えっ
あのころの満面の笑みで言われた自分は時間が静止したかのように固まった。
幾度となく彼女のことを想い続けてきたのを見透かすかのようだった。
「……考えておきます。」
「……そっか♪」
だがそんなはちきれそうな思いも今では冷静に対処できてしまう。
昔だったら赤面して石のようになっていたかもしれない。
心ときめく話ではあったが、今の自分にしてみれば昔の片思いにこだわるのはみっともない様な気がした。
自分の肯定とも否定とも取れないような返事に、リリムも肯定とも否定とも取れない返事で返した。
少々の沈黙の後エレベーターは音を立てて開いた。
―――。
「これからどちらへ? もう帰り?」
「ライ君。私が君より立場上なのはわかるけどもう終業なんだから昔どおりでいいよ。」
「そうはいっても…昔もろくに会話してなかったような気がするよ…。」
「そういえば…私が話しかけるたびにライ君はいつも固まってたっけ。面白かったなー。」
「男たらしがよく言いますね。」
地下鉄のだだっ広い駅構内で自分とリリムは歩いていた。
自分の改札口まで距離にして約200メートル。
普段歩きなれた帰り道も彼女と一緒にいると新鮮だ。
昔と違ってうぶな心が抜けた分、いろんなことを話したくなる。
「あー言ったなー? これでも好きになった男の子一筋なんだぞー?」
「男子に黄色い悲鳴を出させた王女様が何を言っているのやら。」
「だってライ君、私が隣の席に座っていてもダンスの授業で一緒になっても全っ然話してくれなかった
じゃない。」
「それは……君が隣だと緊張してね。周りの男子の目もあったし話しかけられなかったんだよ。」
「普通に嫌われたのかと思ったんだけど。」
「なんかごめん。」
今までのうっぷんを晴らすかのように彼女は少し早口になった。ちょっとふてくされた顔もかわいい。
彼女は人間の生活を知るためということで交換留学という形で学校に来ていた。
思い返せば彼女は人間の中で魔物として一人ぼっちで大変だったんだろう。
そんな中で隣に座る自分が当時こんな風に思われていたとは。
昔のことではあるが申し訳ない気持ちになる。
「反省した?」
「反省しました。」
「もうしませんは?」
「もうしません。」
「今夜のおごりは?」
「……部署費用負担でお願いします。」
「……ライ君?」
「……なるべく手加減してくださいね。」
彼女は機嫌を取り戻したのかフフっと軽く笑ってくれた。
まあ、かつて自分が好いていた女の子の相手をするんだ。
未練がましい。そう思いながら苦笑いを浮かべ肯定すると、リリムと店に向かって歩みを進めた。
―――。
七時頃、自分とリリムは店についた。
店はありきたりな居酒屋。だが自分は初めて入る。
リリムはというと「ここはお茶漬けがおいしい」とか「ライ君嫌いなものある?」とか「お酒は
いけるの?」とか一通り自分の好みを聞くと、すぐにこの店を選んでそのまま案内された。
さすが現役秘書。この辺の店はもう常連さんって顔だった。
小さな和風の少し手狭な店だ。
だが二人だけで来るならこれぐらいの密度の方が丁度いい。
店といい手際の良さといい王女様っていう彼女のイメージはどこへやら。
今の彼女はもうどこにでもいる普通の気の利いた女子社員にしか見えなかった。
あのころの神格化された彼女の容姿を思い返すとそのギャップにどこか愛くるしさと哀愁が漂う。
「さ、どーぞ。スーツお預かりしますね♪」
「うん、脱がせようとするのはやめて。恥ずかしいから。」
彼女とカウンターの席に着いた。
お互いのひじが当たってしまいそうな距離感に淡い期待感を抱く。
自分は隅にあったセパレートのメニューを二人の間に広げた。
「じゃあビールとキャベツ。それと手羽先あと砂肝。」
「あいよ、社長さん!そっちの秘書さんは?」
「やきとり5本適当に見繕って。お酒は…この泡姫っていうやつ。」
「あいよっ!」
威勢のいい店員は好きだ。
だが社長って呼ぶのはやめてもらえないだろうか。
隣がガチの秘書だと思うとなんか胃が痛くなりそうだ。
威勢のいい返事通り、すぐさまお酒が運ばれてきた。
冷えたグラスに溢れそうな泡。ビールはやはりこうでなくては。
「ふふ…お酒の名前に泡姫だって。」
「凄い名前ですね。日本酒の炭酸バージョンみたいなやつですか。」
「じゃ、社長さん。乾杯しますか?ふふっ♪」
「やめれ。はいお疲れ様です。」
「かーんぱい♪」
グラスをぶつける。キンといい音が鳴る。うーん改めて大人になった気がするなあ。
同時に悲しくなってくるが。
「あー大人になったなぁ。ね、ライ君。」
思考回路一緒なのかなぁ。なんか悲しくなってきた。
「こーやっておばさんになってくのかなあ。」
「変なこと言わないでください。」
「ライ君、大人になったね。スーツがなんか似合うよ。」
「……。」
なんかってなんだよ。
そう言い返そうとしたけど彼女の声に色気があったので黙っておいた。
油断すると顔がにやけてビールが口からこぼれてしまいそうだ。うれしかった。
こうやって秘書ってのし上がっていくんだろうな。
自分をおだてても何も出ないのに。
……あ、支払自分だったっけ。
彼女の返事を待つようなまなざしを受ける。
今一度ビールを口に含んで会話にワンクッション置いた。
「リリムさんもまあ…その…なんだ。」
「なあに?」
「お酒が似合うようになりましたね。」
「大人ですから、ね♪」
他愛のない会話。
昔はこんなことさえできなかった。
ああ、なんでこうも青春を無駄にしてきてしまったんだろう。
お酒の力だろうか。はたまた少し距離を置いたことで彼女の存在が俯瞰で見えるようになった所為だろうか。
リリムが時折透明なお酒を口に運ぶ。
ふわっとして柔らかそうな薄いピンク色の唇はあの時のままだ。
「もー。酔ってるの?ライ君。」
「……まだ一口ぐらいしか飲んでいませんけど。」
「じーっと一点を見つめてたから。」
「変な場所ばっかり見るんですね。」
「それはライ君でしょー?ほらキャベツ来たよ。」
手狭なカウンターで体が密着しそうな距離感が居心地がよかった。
机を隣に合わせてたあのころの距離感だ。
店員からキャベツを受け取ったリリムは自分のところに皿を渡した。
「はんぶん食べていい?」
「頼めばいいじゃないですか。」
「だってー秘書がキャベツ単品頼むとか稼ぎが悪いと思われちゃうじゃない。あと柚子味噌ついて来るとは思わなかった。」
「居酒屋でキャベツだけ食べろとかはないでしょう。」
「お願い!焼き鳥半分あげるから!」
「リリムさん……本当に秘書なんですか?すいません!キャベツもう一皿ください!」
「あいよっ!」
オーダーを頼み大将が威勢のいい返事を返すとリリムはむっとする。
何を恥ずかしがっているのか自分にはわからなかった。
でもスーツを身にまとった彼女が戸惑うのはなんだかかわいらしい。
誰にも見せない彼女の素顔を独り占めしている気分になる。
「ほら…キャベツ頼みましたから。」
「もう!居酒屋でキャベツおかわりとかもうどうしたらいいかわからない!」
「はい、お先に焼き鳥お待ち!」
「おいしそー!」
「立ち直り早いな!」
「はい、砂肝と手羽先!」
「どうも。」
料理が一通りそろうと狭いテーブルカウンターは皿で表面が埋め尽くされた。
食事としては成り立たないがこうしたちょっとした飲みならこれぐらいがちょうどいい。
「はい、追加のキャベツお待ち!」
「ずいぶんと手際のいい店だな。」
「でしょ?たっぷり仕込んだから。」
「……仕込む?」
「いやぁーそっちの秘書さんには懇意にしてもらってますからねえ。かなわないですよほんと。
あ、他のお客さんには内緒ね!ワハハ!」
それ以上は言わないでくれと言わんばかりに店員が割って入った。
仕込むって…いったいあんた何をやらかしたんだ。
大将の顔が苦い笑顔で歪んでいるんだが。
客との会話に割って入るくらいなのだから、これはちょっと聞いてみたい。
「何か秘密でも握ってるの?」
興味本位で小さい声で聞いた。
リリムは店員が離れるのを見計らい、こっそりと話す。
「私の部署食品製品部でね、このお店の料理に部長がブチギレたの。」
「なんでまた?」
「焼き鳥が生焼けだったから。バイトが焼いたんだって。それを仲裁してあげたのよ。」
「優しいじゃないですか。」
「10万円でね♪」
意外な発言に目を丸くした。
……大人になるって事は、すなわち生きるために変わること。変えていくことなんだな。
つくづくそう思った。
お姫様なんだからお金に困ったりしないでしょうに。
何とも言えないエピソードにただ受け流すしかなかった。
「そんなことがあったんですね。」
「ひどいやつだと思った?」
「まあ多少は…」
「私はそうは思わないよ。だって許してあげたんだもん。」
「と、いいますと?」
「大人のケンカは逃げ道を残してあげないと駄目なの。絶対に許さないとか裁判で負けさせるとかじゃダメ。」
「リリムさんがやったことが許してあげているとは思えませんが。」
「条件付きで許してあげる。相手の責任を果たしてあげるのもマナーなんだよ。」
「はあーなるほどね。」
リリムは淡々としゃべった。
けじめをつける。俺よりもはるか高いところからいろんな人を見ている。
いや、お姫様なんだから当然と言えば当然なんだが…なんというかこう大局を見て、トータルを見て
物事を判断している姿は自分なんて到底かなわないような気にさせた。
改めてエリート街道走っているんだと思い知らされた。
「とどめを刺すようなことをすれば今度はほかの会社から嫌われちゃう。でも、ちゃんと制裁を
加えておかないとまた同じことされるかもしれないでしょ?けじめをつけておかないと……大
変なことになっちゃうよ?」
「ダメですよ。ヘタすると恐喝になるかもしれないんですから。」
「しょうがないじゃん。本当は無料で解決してあげようと思ったけどブチギレモードの部長を
魅了状態にするのに10万必要だったんだから。」
「必要経費!?」
「ほら、これ。怒った相手にも効く刑部狸の惚れ薬。1ビン10万円。海外EM部のつてで買ってきてもらったの。」
(刑部狸ってジパングの魔物だよな?なんで海外EM部からのお土産なんだ?)
多少疑問は残ったがリリムは始終楽しそうに話していた。
だが何となくだが、笑ってこそいたけれどほんの少しどこか影があったような気がした。
話題が暗かったからだろうか。
心のどこかでそれだけじゃないというような気がしてならなかった。
目を伏せるのを誤魔化すように彼女は居酒屋のメニューを見つめながら焼き鳥をほおばった。
「リリムさん。お疲れですか?」
「え?」
彼女ははっとした顔でこちらを見直した。
「いや何となく……重たい話をさせてしまったような気がして。」
「そ、そう?ごめんね。気にかけてくれなくていいよ。気楽にしましょ?ね♪」
気にかけてくれなくていい…か。
なんでだろうか。そう言われると少しさびしさを感じた。
いや、こんな事を考えるのはちょっとでしゃばりすぎか?
(片思い程度で…。)
何となくそう思い、自分でハードルを勝手に建ててしまいそうだった。
今はもう関係ない。仲良くして、それで終わりでいいじゃないか。
もう恋人とは違うんだから。
「そうですか……じゃあ遠慮なく。」
自分に目線を飛ばす彼女の隙をついて皿から丸ごとキャベツを引き寄せた。
まだ柚子味噌が抉れていないところを見ると手つかずのようだ。
「ちょっと!それライ君が私の為に追加で頼んでくれたキャベツじゃない!」
キャベツ塊を箸でちぎりそのまま何のためらいもなく柚子味噌をたっぷりつけて口に入れる。
うん、おいしい。
いまさらだけどリリムさん10年近く見ていない間にちょっと食いしん坊キャラになったんじゃ
ないんだろうか。
「え?だって『キャベツのお替りとかどうしたらいいか解らない』って言ってたじゃないですか。」
「食べていいとは言ってないでしょ!」
「砂肝あげます。俺砂肝食べれないので。」
「なんでよ!なんで頼んだのよ!」
「昔一度だけ食べたことあったんですけど味が思い出せなくてたのみました。ジャリジャリして
やっぱまずいですねこれ。」
「私もそんなに砂肝好きじゃないの!」
「じゃあまたキャベツ頼みますか?」
「ぐうう…!ライ君のこと……やっぱりフって正解だった!」
「地味に過去をえぐりますね。すいませんキャベツおかわりで。私の部下に。」
「あいよっ!社長の部下さんにキャベツ追加で一丁!」
「こらー!大将も調子にのるなー!」
元気は出ただろうか。
自分にはよくわからない。
だが今は彼女の言う『逃げ道』にあやからせてもらおう。
怒る彼女を見てニヤニヤしながら飲むビールはちょっとだけぬるくなっていた。
―――――――。
「あふー、飲んだー。」
「大丈夫ですか?飛ばしてましたけど。」
「きょーはらいくんいるからいいのー。」
頼ってくれるのはうれしいが本当に大丈夫なのだろうか。
足のふらつきとか内臓面とか。
軽く飲むつもりだったのだが結構長く居てしまった。
自分は話してばっかりだったが、彼女の方は酔いが回ったのだろう。
「あーそうだ。もーいっけんいこう。」
「ダメです。」
「地上のホテルにバルがあるからそこいこう。」
「足ふらふらしてるじゃないですか。」
「じゃあホテルで休みましょ?」
「意味わかって言ってるんですか?」
「ライ君こそ……意味わかってるなら……男をみせてよね?」
「からかうのはやめてください。」
リリムを連れて地上に出た。
飲んでいたのが駅の地下だったこともあってラッキーだった。
地上にはタクシー乗り場のロータリーがある。
終電ギリギリであと一本あるかどうかという時間で結構混んでいるかと思ったが、以外にもすぐに
乗ることができた。
稼ぎ時だからだろうか。
たくさんのタクシーの黒いボディが街灯に反射してさながらピアノの黒鍵のように見える。
電車で帰りたいが彼女をほっておくわけにもいかないのでタクシーにしておくか。
そう結論付けると彼女を支えながらタクシーの待機列に並んだ。
「お客さんどちらまで。」
「リリムさん、おうちはどちらですか?」
「○○市2-3-11」
「はい○○市2-3-11ですね。」
「お願いします。レッツゴーで。」
運転手はリリムが言った番地を入力するとタクシーは出発した。
○○市…自分とリリム二人が在籍する会社と同じ市。
つまりこの近辺だ。
都会のど真ん中であるこのあたりに住んでいるとはやはり稼ぎが違うのだろう。
車の振動が心地よく妙に眠たくなってくる。
「すずしーい。」
リリムがエアコンの心地よさにくぐもるような声を出す。
確かにいい温度だ眠たい、眠たくなってくる…
いや、ダメだ、今寝たらリリムの面倒を誰が見るんだ。
そんなことを思っているとぽすっと肩にリリムの頭が寄りかかる。
「ライ君ちょっと寝たいから肩かして?」
「もう乗せてるじゃないですか。」
「……うん……そうだね……。」
このまま到着まで寝てしまうのだろうか。
それはそれで構わない。
運転手に見られないようにしたいのが一番の気がかりだがまあ大丈夫だろう。
タクシーの走行に合わせて街灯の丸い灯りが社内を駆け巡る。
彼女の頭の重たさが心地よく、人肌の暖かさを感じさせた。
「はいつきましたよ○○市2-3-11です。2700円。」
「どうもありがとうございます。」
「ん…ついた?」
「ほらリリムさんの家……!?」
見覚えがある建物だった。
断っておくが以前リリムさんの家に遊びに行ったとか言うわけではない。
目の前にあるのは大きなビル。いや、ホテルだ。
「これって…社員用カフェの窓から見えるあのラブホじゃねーか!」
都会になじむようにあまり派手すぎず品の良いたたずまいだが、夜になるとすさまじいエロティ
ックなライトアップで外観が刷新される。
いまどきのラブホはどこも清潔感を出すのが鉄則なのにこのライトアップはどうなんだろうか。
「あ、着いた。入ろう?」
「リリムさん!?」
「ここが今の私の家だもん。」
「う、うそでしょ!?」
「嘘じゃないよ。」
酔った上のジョークであってほしい。
どういうことだ?まさか済むに困ってこのホテルの一室を借りているのか?
ビジネスホテルなら近くにあるのに。
リリムはもう酔いが少し冷めたのかその足取りは元に戻っていた。
タクシーから降りると彼女は手を引きラブホテルへと何のためらいもなしに足を運ぶ。
大きな音とともに自動ドアが開く。
一目につかないように囲いが大げさに設置されているのを見ると後ろめたさを感じてしまった。
「ただいまー」
「おかえりなさいませリリム様。そちらの方は?」
「昔の同級生。」
「お部屋はいつも通り綺麗にしてありますのでお好きな部屋をご利用ください。」
自分の家がホテルだったら。
子供のころそんなことを考えていたことがある。
部屋なんか無駄に好き放題使えるだろうし、かくれんぼも好きなだけ出来る。
割高の自動販売機も怒られないで好きなだけ飲めるし、温泉は泳ぎ放題だ。
惜しむらくはここはラブホテルと言うこと。
そしてかつての同級生の家だということだ。
まばゆいばかりのライトが目に入ると現実から目をそらしたくなった。
「ライ君好きな部屋選んでいいよ。後で行くから。」
「あ、ああ。え!?泊まっていいの!?」
「だってホテルだもん。見せびらかしたかったんだもん。」
「他のお客は?」
「いるよ。デリヘルさんとかも。」
「ひえー。」
場違いな場所に連れてこられてしまった。
あこがれの同級生の家というだけで少しドキドキしていたのに…ステップアップどころか
エレベーターで屋上まで連れてこられた気分だ。
開いてる部屋の番号を受付のお姉さんに教えてもらうとそのまま部屋へと足を運んだ。
頭に角が生えているところをみると彼女の魔物なのかもしれない。
「ふう…落ち着きのない部屋だな。」
そして部屋について一人ごちる。
今は一人暮らしだから突然泊まることは大したことではない。
洗面具等は部屋に備え付けの自動販売機にあったので購入しておく。
人の家で買い物とは訳がわからない。
確かリリムはこの後部屋に来ると言っていた。
ああなんだろう凄い緊張してきた。
「ライくーん入っていい?」
「あ、はい。どうぞ。」
「あけてー。オートロックだからあけてー。」
「ああはいはい。」
とことこと歩いてドアを開ける。
いつもながらの小柄な彼女の体がひょっこりとドアの隙間から現れた。
が、思わずその姿にため息をついてしまった。良い意味で、いや悪い意味でかもしれない。
「それ魔法学校の制服じゃないか…!?」
「えへへ着替えちゃったー。」
昔のままの姿で昔の姿をしている。
それは紛れもなくあのころの。みんなのアイドルであった彼女の姿だった。
このままだと女子高生を連れ込んだと思われかねないのでささっと彼女を部屋の中に入れた。
矛盾した行為だが気にしている余裕なんてなかった。
「だってまだ入るんだもん。他にもいっぱいあるよ。体操着とか水着とか。」
「いや、選り好みをしているんじゃなくてね。」
「女の子の家に来たんだから楽しまないとだめでしょ?ライ君♪」
「この楽しみ方は……い、いいのか?どっかに隠しカメラとかついてるんじゃ。」
「ここの信用問題にかかわるから止めて。」
ああ、姿は変わっても中身は今のリリムだ。
ベッドに腰掛けると彼女も寄り添うようにそのまま自分の横に座った。
タクシーの中とは違って背徳感に駆られてしまう。
「聞こうかどうか迷っていることが一つあるんだが聞いていいか?」
「え?うん。まあ察しはつくけど。」
「なんでラブホなんかに住んでいるんだ?」
「わたしお姫様辞めちゃったの。」
躊躇うことなのないそっけない返答に表情がこわばった。
彼女はいつも通り笑顔で話していたが、それでも心にざわつくものがあった。
お姫様って辞めれるものなんだろうか。
お姫様辞めます。それは詰まるところ…考えたくない予感が浮かぶ。
「ほら、この不景気でしょ?お屋敷とりつぶしになっちゃって。」
「な、それはホントですか?」
「自分で言うのもなんだけど今までとても優雅に暮らしていたんだよ。たまに男の人と遊んだりいろいろ楽しかったよ。でも……」
リリムは言葉をつぐんだ。
何を言いたかったのか。自分にはわからない。
男の人と遊んだという言葉が妙に引っかかる。
彼女クラスになれば失恋とは無縁の存在だと思うのだが、そういうわけではないのだろう。
「その男の人が借金を抱えててね。人がいいから引き受けちゃったの。それでお屋敷取りつぶし。幸いにも私たちは魔物だからお金がなくてもある程度は生きていける。だからいろいろ頑張ってみんなでお金を稼いで伴侶を探しつつ住処を確保できるようにラブホテルを買ったの。」
「……。」
そうか。受付にいたメイドのサキュバスも。
常駐しているデリヘルと称した魔物たちも。
みんなそれの影響を受けていたんだ。
余りにもショックだった。別に彼女のしてきたことにこだわっているわけじゃない。
ただ、彼女が不幸になっていたという現実に打ちひしがれてしまいそうだった。
そもそも出会ったときにすぐに疑問に思うべきだったんだ。
彼女が働いているという事実そのものが既に間違いであったことに気付くべきだった。
気付いたところでどうしようもないというのも、どこか悔しい気持ちだ。
いろいろと彼女に変なことを聞いてしまった後悔の念が押し寄せてきそうだった。
「でも私今の生活気にいってるんだ。だからライ君までくよくよしなくていいよ。」
「くよくよしていましたか?」
「してたよ。一緒になって心配してくれるなんて。ありがとね♪」
強がって見せた。彼女は自分以上に強がっていたんだ。
今日再び出会ってから、いや出会うもっと前から。
そこは…ありがとうなんていう所じゃないだろうに。
笑顔の彼女を見ると胸が苦しい。
「よく言いますよお姫様。」
精一杯言葉をひねり出した。
軽口をたたくだけで精一杯だ。
彼女が強がっているならそれを「ごめんなさい」なんて言葉で濁すのは駄目だ。
そんな気がする。
「もうお姫様じゃないよ。」
やめてくれ。そんな笑顔を見せるのは。
自分の懇願なんか気にしない。
彼女はまだお姫様だったんだ。
済む場所を失った召使たちを養う一国のお姫様なんだ。
「自分にとっては一生お姫様です。」
そうだ。彼女は…リリムは自分にとってもお姫様なのだから。
彼女の力になりたい。なんだか目頭が熱くなりそうだった。滑稽でしかないかもしれない。
それでもいい。そう見えてもいい。彼女が笑顔になるなら。本当の笑顔になるなら。
「あー…いったな?」
自分の顔を見て恥ずかしそうに彼女は苦笑した。
本心を見た気がした。クスリと笑った。
リリムは自分の肩に手をあてがう。
胸が高鳴ったその刹那―――
「この…王子様め♪」
リリムは自分の肩を抑えるとそのまま力強くベッドへと押し倒した。
刹那に見せたニヤけた彼女の顔がそのまま自分の顔へ迫っていく。
そのまま彼女が目を閉じる。
一瞬何が起こったのかわからなかったがすぐに何が起こるかは理解できた。
「ちゅっ…ちゅう…んんっ…ちゅう…」
「……!?」
リリムに口づけされた。
大人のキスと言う奴だろうか。
貪るように唇を蹂躙していくように。
彼女の小柄な体を支えつつ、彼女の期待にこたえるようにしたいものの体が強張って言うことを
聞いてくれない。
「……ぢゅう…っ…ふふ…ライ君…どうしたの?」
「すいません。なんかびっくりして。」
「ふふっ♪大人になっていろいろ成長したみたいだけど、女の子の扱いはまだまだね♪」
顔を伏してはいたが彼女が嬉々としたような、安堵したような声を出していた…気がする。
ニヤリと嗤うと彼女は唇を首筋にあてがう。
彼女の吐息を感じると官能的な感覚に背筋がざわついた。
「そ…そこはまずいですって。」
「大丈夫、襟で隠れるよ♪」
「リリムさん…っ」
彼女の両肩を包むように掴む。
しかし押し返す気にはなれなかった。
甘くとろける彼女の柔らかい唇が吸血するかのように吸いついてくる。
「ちゅー…っ……。」
「……っ」
小さな吸いつく音が小刻みに聞こえる。
何度も何度も。彼女が舌でなめるたびにつま先を曲げていた。
次第に呼吸が荒くなっていく。
息を吸うたびにリリムの甘い匂いを感じる。息を吸った胸が柔らかい体を押し返していく。
「…ぷはっ…はいできました王子様♪」
リリムは笑顔を見せながらぐりぐりと自分に吸いついた後を指先で押し付ける。
視界に入らない彼女のマーキングはむずがゆさを感じさせ、その存在感を示していた。
「ずいぶんと積極的ですね…」
「ライ君。わたし結構勇気出したんだけど?」
「ええ…心臓の鼓動が凄い伝わってきます。」
「ライ君。わたしすーっごく勇気出したんだけど?」
解っている。
これから何をすべきかも何をしなくてはいけないのかも。
だがなんだ。
その…しちゃっていいのだろうか。
無論彼女のことは好きだし、性欲も万端だ。
このまま最後までしちゃうのも別に問題ない。
「脱がすぞ。」
「…うん♪」
犯しちゃっていいのだろうかこの女子高生を。
見た目に刺激が強すぎる。
さっきまでスーツを着ていたとはいえ外身が昔と何一つ変わっていないんだぞ。
横に転がるような形で彼女を下にするとそのまま彼女はベッドに身を預けた。
(うあ…かわいい……けどこれ絶対にまずいだろ。)
彼女の襟もとのリボンをほどき上から順にボタンをはずしていく。
そんな一生懸命に俺のことを見ないでくれ。恥ずかしいから。
「ライ君マニアックなんだね。ブレザーも脱がさないでおっぱいそんなに見たいの?」
「君とエッチするならまず最初に絶対おっぱいが見たいと思ってた。」
「そ、そうかな?」
「男は大好きな女子のおっぱいを絶対に見たいと思っている。下半身もそうだが…いきなり下半身だと
やっぱり抵抗があるんだ。」
「そういう割には結構手際よく脱がしていくよね……。」
「リリムさんが俺のことフっちゃうからイメクラ行くしかなかったんですよ。」
「そ、それは!その……ごめんなさい…。」
「冗談です。真に受けないでください。」
リリムがふてくされそうになったのを見て素早く乳房に手を伸ばす。
「ひっ…!?」
リリムの乳房を握る自分の手の上から彼女が手を掴んだ。
「痛かったですか?」
「ごめん、ちょっと驚いただけ。」
「さっきのお返しです。」
「も、もう!ライ君っ…あっ…」
手をゆっくり動かし揉みしだいて行く。
指先はあまり動かさず、ゆっくり丁寧に。
陶器のような美しさとでもいえばいいだろうか。
彼女のおっぱいをなでまわすように触っていく。
「………っ…。」
(声を出さなくなった…感じているのか?)
リリムの乳房を揉むと彼女はその手を離しベッドに預けた。
頬が赤らんでいるのは気恥ずかしさだろうか。それともお酒が抜けきっていないのだろうか。
力なく声を殺すような彼女の姿に加虐心に駆られてしまう。
「ぅ…ん…ライ君…優しいんだね。一度はフっちゃったのに。」
「それが原因で乱暴にしたいとは思いません。」
「ふふっ…そっちじゃないよ。」
リリムは胸を揉む自分の手にそっと触れた。
今一度自分に優しくしてくれる人が現れたのが嬉しかったのだろうか。
あるいは同情してくれているだけで彼女にとっては満足なのだろうか。
それはわからない。だが、わかる必要なんてない気がしてきた。
「昔は昔ってやつです。」
「大人だね…んっ…ライ君は大人…。」
「そんなことありません。むしろリリムさんの方がしっかりしていて大人だと思いますよ。」
「私は…こどもだもん…。」
体型が変わっていないことを気にしているのだろうか。
コンプレックスに悩むのはわかるが体を弄っている自分の感想を言えばそんなことはない。
むしろ学生時代の時に彼女のそのスタイルは完成してしまったのだろう。
「昔から…こうやって…ライ君に…エッチしてもらえたらなって…おもってたもん…。」
「……お世辞が…」
「お世辞じゃないよ…んっ…隣に座って、授業で一緒にダンスして、いろんなことリードしてくれて…」
「……」
「私もお姫様だから……負けてられないって……ライバル心出しちゃったもん。」
リリムは時折喘ぎ声を洩らしながらぽつり、ぽつりと語った。
顔をそらしつつ、羞恥心を悟られないようにして。
ライバル心。
特別気にかけてくれたのはありがたいが微妙に敵対心がないとできない。
嬉しいやら悲しいやら、ちょっと複雑だ。
彼女に迷惑をかけると男子から非難の的になりかねないから必死になってリードしていたのだがどうや
ら全て裏目に出ていたのか。
リリムはこちらから目をそらさないように懸命に見つめていた。
自分が愛撫する姿をまるで脳裏に焼き付けるように眼差しをこちらに向けていた。
「だからライ君に…告白された時……どうしたらいいかわからなかったの…。バカだよね。好きなのに。
凄い好きなのに…ね。あぅ…っ…?」
彼女の言葉を遮るようにリリムの鎖骨に口づけた。
自己嫌悪は辞めてもらおう。
喋れなくなるように吸いつくと彼女は身悶えた。
「そ…そこは…」
「駄目ですか?」
「……ライ君なら…いいよ…」
リリムが先ほど自分に口づけたようにゆっくりと吸いつく。
自分のものであることを証明するかのようにマーキングしていく。
こんなこと一度だってやったことはない。
だが、そうせざるを得なかった。もう離れたくなかった。
彼女の言い分がわかった気がした。
好きなのにどうしていいかわからない。自分もわからなかったんだ。
「…っ」
キスマークから唾液で糸が引いていたのをリリムは指でくるくると巻きとっていた。
ほのかな笑顔で彼女はこちらを見ている。
「じゃあ…そろそろ本番しよっか。」
リリムが体を起こしベッドの上で立ち膝になって座った。
「ほらライ君立って。脱がしながらしてあげる。」
「あ、ああ。」
ベッドの上に立ちあがると天井がいつもより近くなる。
派手な壁紙がやたらと目につき、この手のホテルにありがちな高級そうなライトが目に付いた。
彼女の体を堪能していた時にはあまり気にしていなかったがすごくはずかしい。
自分の下半身が丸見えになってしまうのは……とくに元同級生に丸見えになってしまうのは多少抵抗
がある。
「えいっ♪」
「な、なにを。」
「ここにライ君のおちんちんがあるんだね。もうおっきい。」
自分の股間にリリムは顔をうずめた。
それは男が女にやる行為だとばかり思っていたんだが。
彼女の鼻や口が先ほどの愛撫で興奮した自分の一物を刺激する。
「いい匂いするね。」
「いや、そんなはずは…」
「淫魔だもん。これはいい匂いだよ?」
ベルトに手をかけると金具が音を立てて外れて行く。
彼女の顔が股間に息があたりそうになるくらいに近い。
しゅる、と音を立ててズボンとパンツが一気に脱がされた。
「ふーっ…♪」
「ちょ、息を吹きかけないでください。」
「ふふっ…ビクってしてる…ちゅ…っ」
キスの不意打ちにかかとをギュッとひねった。
「駄目だよ?あんまり暴れたら。」
「いや、でも…」
「こーいうのは丸見えだから面白いんじゃない。」
「面白いって…」
「じゃあライ君の丸見えおちんちん。今からお口でご奉仕してあげるからね?」
リリムは目を閉じて唇をいきり立つ亀頭にあてがう。
柔らかい彼女の唇がふわりと触れた。
想像以上の柔らかさだ。
リリムは躊躇うとことなくそれを唇よりさらに奥へと押し込んでいく。
にゅるり、にゅるりと彼女の舌を感じた。
「く…っ…こ、これ…」
「はあひぃ?はひふん…りゅちゅっ…れう…る…んっ…」
舌がからみつく。
こんなことどうやったら覚えるんだ?
自分が思っていた以上に彼女の舌使いが的確に自分の弱点をついていく。
こちらを見上げながらリリムはぐちゅぐちゅと音を立てながら頭を動かし、舌を動かし、亀頭を口内
で蹂躙していく。
「ちゅうっ…ん…ちゅっ…にゅちゅ…ぐちゅ、ん…ちゅう…」
「ま、まってリリムさん!ちょっと飛ばしすぎ…!」
「んう…ぷはっ!もーライ君もうギブアップなの?」
「こんないきなり激しくしたら持ちませんよ。」
「だってライ君のおちんちんだよ?大好きな人のーお・ち・ん・ち・ん♪いっぱい気持ちよくしてあげ
ないと。」
こんなこと言われたら触られてないのにさらにいきり立ってしまう。
ペニスが彼女の言葉に反応しピクリと震えた。
「ほら、つづきしよ?ライ君のせーえきちゃんともらうからね?あ…む…」
リリムが再び唇をペニスの根元までスライドさせていく。
口内の粘膜から来る刺激が体中に電気を帯びさせていく。
「ぢゅぅ…ぢゅぢゅっ…れる…ん…んぢゅっ…!」
(やばい…このままだと出ちまう…。)
「でちゃってもひぃよお?」
「な、なんで解るん…」
「んぢゅぅ…ぷ…ふふ…はおにはいてあうよ?」
リリムが速度を落とすことなく頭を前後に動かすとたまっていた快楽が爆発しそうになってしまった。
丁寧に丁寧に。自分を感じさせるためだけに。その単純な動作が愛おしくなってしまう。
「ご、ごめんリリムさん射精るっ…!」
「ん…♪」
どぴゅっ…どく…どく…っ…
リリムの声とも言えないようなくぐもった返事に射精をしてしまった。
「ぢゅっ…ぢゅっ…」
「あ…あ…くっ…顔っ…押し付け…ぐあっ…」
「ん…く…っ」
悶えるような声を出すとリリムは離すまいと唇を根元まで押しつけてくる。
体を震わせ彼女の肩に手を乗せ体を震わせ続ける。
リリムはそれを舌で、口で味わうかのようにこちらを艶めかしく見ていた。
射精の律動に合わせて舌で優しく精子をうけとめる。
名残惜しさを残すように吸いつきながらペニスから口を離すと
「ん…ぢゅる…くん…!」
彼女は眼を閉じ、そのまま飲みこんだ。
「ん…ちゅっ…♪」
「…はあっ…はあ…」
脱力感と背徳感、射精の恍惚で呆けてしまった。
そんな顔もいつもの笑顔で彼女は見上げていた。
「ふふっ…でちゃったね♪」
「あ…ああ。」
「きもちよかった?」
「ええ…。」
「そっか。よかった♪」
リリムは優しい顔、もとい安堵のような顔を浮かべ見つめた。
舌を出し唇をぬらしていた精液を舐め取る。
白く濡れた液体の下から元の扇情的なピンクの唇があらわになると再び情欲を掻き立てられる。
「いけないんだ、ライ君。お口に出して飲ませちゃうだなんて。」
「それはリリムさんがいけないんです。あんなことされたら耐えられませんよ。」
「ふふっ♪じゃーあーもっと耐えられないようなこと、しましょ?」
その言葉の意味を解釈した自分は服を脱いだ。
シャワーにも入っていないので少し匂いが気になるだろうか。
一度射精したせいか野暮ったいことが気になる。
しかしどういう訳か興奮が収まらない。
彼女が両手を伸ばし自分を押し倒すと彼女は自分に躊躇うことなくまたがった。
「上からしちゃっても…いいよね?」
リリムがスカートをまくると白いレースのがあしらわれたショーツが見えた。
「この恰好のままするんですか?」
「だってやったことないもん。ライ君だから…ここまでサービスしてるんだよ?」
特別感に内心高揚する。
羞恥心に身をかられ必死になる彼女。
自分だけが独占できる占有感に琴線が震えた。
「無理しなくていいですからね?」
「大丈夫!今日はライ君が壊れないようにほどほどにするから!」
「え?」
「私とエッチした男の人って…みーんな柔らかいのに締めつけてくるとかいってみんな3分ぐらいで悲鳴みたいな声になって、10分立つともう声も出さずに射精しちゃうんだよねー。」
ごくりと生唾を飲んだ。
性欲からくるものではない。
が、恐怖からくるものであってほしくないと内心願ってしまう。
「念願のライ君とのあまあまエッチだから…歯止めきかないかも。」
「ちょ、ちょっと待って…!」
「大丈夫だよ。外に声は聞こえないから。」
彼女がこの上ないくらいの笑みを浮かべると俺は長年の謎に気付いてしまった。
そうか。そういうことだったのか。
リリムさんが男をなるべく敬遠していた理由。
それは自らのエッチに(性的な意味で)耐えられる男がいなかったからなんだ。
シンデレラを探す王子のように。
あるいは自分を倒してくれるものを探す猛者のように。
彼女にたりえる男がいなかったんだ。
美貌とか性格とか財産とか家柄とかじゃない。
彼女たちにとって最も必要な愛とその愛に耐えられる男が居なかっただけなんだ。
「ふ…いいですよ。」
「覚悟は決まった?」
「ええ…リリムさんこそ覚悟を決めてはどうですか?」
「ちょ…ら、ライ君っ!」
体を起こしリリムを逆にベッドへと押し返した。
彼女の細い線がぽすっとベッドに跳ねるとすぐさま彼女のスカートのホックをはずし躊躇いも無く脱がす。
ショーツを脱がし下半身が丸見えになると急に強引に責められたリリムは赤面とともに顔を手で隠した。
「さっき口でされたときにちゃんとしっかりお返ししないといけないと思いまして。」
「そ、そんなに気を使ってくれなくてもいいのに…わたしはライ君が好きだからしてるだけ…!」
「自分もリリムさんが好きだからやっているんです。嫌ですか?」
「そ、そんな風に聞くのずるい…。」
声が小さくなっていく。
何かズルイのだろうか。それはわからない。
だがリリムにとって越えたくない一線があるのだろう。
意地っ張りで強がりな自分。男にだまされた自分。
男女間のトラブルに巻き込まれていながら魔物という宿命から逃れられない自分。
いろんな自分がせめぎ合っていながら愛を捨てきれない自分。
リリムのそんな感情がどうしたらいいのかわからないというのを感じとっていた。
「ずるくないです。自分はリリムさんが好きですから。」
「う…うう…っ…や、やめてよ…!ぐすっ。」
「リリムさん?」
「嬉しくて泣いちゃうでしょ?バカ…。」
「す、すっごい焦った。やりすぎたかと思いました。」
「ごめんね…ライ君…ひゃっ!?」
ベッドに寝転んだリリムの膝を掴むと彼女は嬌声を上げた。
そのままゆっくりと彼女の足を開いていくと彼女の局部が丸見えになる。
つややかで綺麗な溝がまるで陶器を思わせる。
「挿れますよ。力抜いてください。」
「それぐらい知ってるもん。ばか。素人童貞のくせに。」
「リリムさんやめてください。このままだと『下の口は正直だぜ』とか言わないといけないじゃないですか。」
冗談めかしてはいるものの結構な勇気がいる。
亀頭を彼女の局部にくっつけるとほのかな温かみを感じる。
こうしているだけでも脳が焼けて行く気がする。
「あ…」
リリムの秘所からは既に愛液で濡れていた。
このまま押し込めば抵抗なく入っていきそうなくらいだ。
「…っ」
「ひっ…あ…」
「痛かったですか?」
「だ、大丈夫…うん…」
痛みを感じているそぶりはなかった。
だがゆっくりに慎重にペニスを挿入していく。
暖かく、柔らかく、男を愛してやまないリリムと言う生き物の秘所。
柔らかいのにすごく締めつけてくる。
まるで始めから自分専用に作られたかのように、彼女の秘所は自分のペニスに余すことなく包み込んでいく。
「ひぅ」
「本当に大丈夫…」
「な、何のことかしら?」
強がっている。
平静を装っているのが透けて見える。というかバレバレだ。
顔をそむけ目を細めそっぽを向くようだ。
初めて見てしまった。彼女が追い詰められているところを。
気を抜いたら妙なサドっ気を掻き立てられそうになる。
ゆっくりと奥へ、奥へと体を数センチずつ進めて行く。
リリムが目をつむる。
まるで生娘なんじゃないかって言うくらい…?あ、あれ?
「なあ…もしかしてさ…」
「〜〜〜っ」
リリムが我慢している。
もはや自分の話など聞いている余裕などないとばかりに。
「処女?」
「ちっ!違うの!ただこうやって男の人を上にしたことが無いだけで…!」
「それで?」
「正常位は初めてだから…こ、怖くなっちゃった…」
怖くなった。
なんだか気を使ってあげようっていうより笑ってしまいそうだった。
あのリリムさんが。男を取って食うようなリリムさんが。
男子のアイドルで淫魔のリリムさんが。
「……大丈夫ですよ。乱暴にしません。信じてください。」
「…ほんとに?」
「ええ。お姫様。どうぞごゆるりと本番行為をお楽しみください。」
「ひあっ!?」
何か言い返そうとしたリリムの口が嬌声で上書きされる。
腰を一気に動かしペニスを奥まで入れ込んだ。
狭く、柔らかい締めつけ具合に奥歯を噛みしめる。
にゅるにゅると奥底まで亀頭が滑り込むと体が浮いてきてしまう。
「あっ…あっ!ら、らいくん!それっ…!それいいっ!」
「っ…り、リリムさん…っ!?」
彼女が快楽を訴えるたびにペニスが締めつけられていく。
締めつけが強くなっていき、押し出されてしまうのではないかというくらいに。
彼女の太ももを担ぎ腰を動かしていく。
彼女のヒダをかき分け腰をぶつけていく。
ぱちゅん、ぱんっ、ぱんっ
規則正しく、愛液が混ざる水音が奏でられる。
脳髄が焼けただれて今にも彼女を欲望で塗りつぶしてしまいそうだ。
いとしい人と一つになり、すぐに持たないほどの快楽でペニスが爆発しそうになった。
「ご、ごめんリリムさんもう出る…っ!」
「い、いいよライ君…このまま…中に出して…。」
「ま、待ってくださいそれは…」
「大丈夫、大丈夫だから…お願い…ライ君のが…ほしいよ…。」
色香の混じった消え行ってしまいそうな声に体が先に反応する。
覆いかぶさるようにリリムを抱きしめる。
頬と頬がすりあうように彼女を余すことなく抱きしめた。
「あっライ君!あっあぅ…あん!あっ!!」
「リリムさん…っ!」
彼女が足を腰に巻きつけると興奮から精液を放出した。
抱きしめた腕が離すまいと少女の体を抱きとめる。
視界が彼女の顔すら見えなくなるほどホワイトアウトして――――
どくっ…どぴゅっ…どくっ…
熱くたぎった欲望を抑えきれず目の前の少女の膣に放出した。
「はあ…っ…」
「ん…っ…。」
リリムの膣は精液を受け止めるとそれを咀嚼するかのように自分のペニスをむにゅむにゅと押しつぶす。
射精の律動に合わせるように収縮するといつもより精液が多く出てくる気がした。
浴びせられるような快楽に体をこわばらせ、容赦なく彼女に精液を送り出すと体がうなだれた。
「らいくん…ぎゅってしよ?」
力尽きた自分を見て彼女は両手を伸ばした。
彼女を覆いつくすように体を預けると背に手を回す。
いとしい人を抱きしめる。
ただそれだけの行為がなぜこうも難しいのだろう。
射精後の賢者タイムに入ったせいか、どうもばかばかしいことを考えてしまう。
「らいくん…」
リリムの顔がわかるくらいに意識を取り戻す。
彼女は幸せそうに力尽きていた。顔を横に向け、額に張り付いた髪を指で払う。
そしてはっとした。
彼女に言われたから…というわけではないが本当に中に出してしまった。
やばい、どうしよう。謝らないと。
「今日はありがとう…ね?」
「……はい…。」
幸せなのか、不安なのか。デリケートな表情のリリムを見つめた。
今はもう緊張したりもしない。
大好きだっていう言葉も、告白もいらない。
俺たちはこういう間柄なんだ。
これでいいんだ。
―――――――。
「あー今日土曜日でよかったね。ライ君。もういっかいしよう?」
「…いま起きたばっかりなんですが。」
「だってーライ君とのエッチ気持ちよかったんだもん。」
「制服しわだらけじゃないですか。あのまま寝たんですか?」
「いいの。生活感が出てエッチじゃない。今日はいろんな服着てエッチしよう?部屋のあちこちがお洋服脱ぎ捨てらたのばっかりにしてすっごくエッチな感じにしよう?今日は着エロ三昧がいいな♪」
(ど…どうしよう。俺は恋仲とか以前にもっと身の危険的な意味で取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。)
「大丈夫。大丈夫。愛があれば…ね?」
ベッドの上で甘える彼女が秘書に戻るのはもう少し時間がかかりそうだ。
でも…まあいいか。彼女が心の底から笑顔になっているのなら。
体の痛みを感じながらも彼女の要望にこたえようとリリムにはにかんだ笑顔を見せた。
二人のとても大事で、ささやかな幸せに。
☆おしまい☆
15/07/25 16:24更新 / にもの