読切小説
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ゴールテープはだれのもの?
ようやくだ。
ここまでとっても長い時間だったような気がする。
いつもの天井を見つめながら暗くなった部屋で静かな時を過ごす。
静かでとても穏やかな時。
これも今日で最後になるのだろう。
明日、自分は結婚する。

「……ね、眠れない…。」

期待と不安がいっぱいだ。
これから大丈夫なのだろうか。
不安がよぎる。
新しく迎える彼女の事とか、それからの生活とか。
そもそも結婚式が無事に終わるかどうか。
様々な人たちに祝福されるだろうか。

「どうしよう…なんて言おう…『君を一生幸せにするよ!』かなぁ…いやでも
 それほどまでにベタだとなぁ…。」

静けさがいやだ。
こういう時は明るい気持ちでいないとだめなんだと思う。
せめてせいぜい独り言で時間をつぶそうと思った。
もうプロポーズも終わったのに何を考えているんだろうとさえ思ったがそれで
も自分の独り言は止まらない。
明日の自分を勇気づけるように。
はたまた明日の不安を押しだすかのように。

「うーん…『君を一生愛してる』はなぁ…引かれるかなぁ。いやでもいっそな
 りふり構わず好きだって言った方がいいのかも。好きだ!愛してる!これか
 らも!!」

「あ…ごめんなさい。告白の練習中だった?また来ますね、ええ。」

「そんな!置いていかないで…っておあああああ!?誰だ!?アンタ!?」

胸を押さえながらオペラ歌手のように愛をつたえる。
さながらオペラ歌手のような状態のところを見られた。
よりにも寄ってなんでこのタイミングを見られなきゃならんのだ。
突然の来訪者に胸の高鳴りを抑えられない。
当然悪い意味でだ。

「突然おじゃましちゃってごめんなさいね。私サキュバスです。とってもかわ
 いい夜の恋人サキュバスちゃんです。いえいっ☆」

サキュバスは現れるなりぴょこんと跳ねながら敬礼する。
いつの間にやらあけっぱなしの窓から入ってきたらしい。
我ながら婚前の身でありながら不用心だといいたい。
目の前の少女含め思わず舌打ち者である。
(たぶん)空飛んできたとはいえ土足で自分の部屋に入ってくるのは遠慮して
もらいたい。

「そ、そんな結婚前夜に魔物に襲われるなんて!!俺はもうおしまいだぁ!!」

「あ!結婚するんですかぁ?おめでとーございますー!わーパチパチパチー。」

サキュバスはにっこり笑いながら祝福する。
魔物にこんなこと言われるのもなんか不思議な気分だが…まあ、ありがとうご
ざいます。

「…はあ…一応聞いておくけど…家に何しに来たんだ。」

「え?吸精…」

「却下だ。」

「ですよねー…と言いたいところですがぁ。あいにく私そろそろ魔力とか精力
 とか切らしちゃいそうでして…このままだと帰れないんですよぉー!助けて!
 助けてください!」

「ちょっ!泣きつかれても困る!」

「お願いですよぉ!困ってる人見捨てて『君を一生愛してる』ですか?いい男
 がそんな嘘いっちゃだめですよぉ!」

「ど、どこから聞いてたんだ!?」

急に静かな夜がバタバタし始めてきた。
突然の来訪者に自分の眠気は完全に冷め、緊張していた心も今は別の緊張で混
乱し始めてきそうだ。
バサバサと羽を動かしながら逃すまいと自分の事を捕まえるサキュバス。
ふにふにとした女性の柔らかさと少女の香りがふわっと鼻腔をくすぐる。
いかん、俺には婚約前の彼女がいるんだ…。
サキュバスから眼をそらし頭を正常に保とうとする。

「大体俺はこれから結婚するの!所帯持ちよ、所帯持ち!愛する彼女をほって
 おいて今ここでエッチなんかできるか!」

「吸精って言っただけなのに…スケベ…」

「うるさい!それでなくたってはじめては彼女に捧げたいものなんだよ。」

「えっ」

サキュバスが急に黙りこくった。
ようやく黙ったかとも思ったがその考えは間違いだったことに気づく。
なんだろうか。
あれは俗に言う白い目で見られる。という奴なんだろう。

「うーわー。」

「な、何か?」

声のトーンが低い。
というか一定の音程を保っている。
その反応は紛れもなく、引いているというやつだった。

「ドーテーなんですか?」

「そ、そうだけど。」

「結婚前に一回もエッチしてない。」

「してないけど。」

「終わってる!!男して終わってます!」

サキュバスが頭を抱えて叫んだ。
人の事なんてどうでもいいじゃないか。
そもそも俺たちはプラトニックに恋愛をしてたんだ。
それが良かったからここまでこれたんだ。
全否定されたらここまで来れなかったとおもう。

「あのな、エッチだけが男女の仲じゃぁ…」

「はーいじゃあとっても女の子の事をわかってないおバカな新郎さんが目の前
 に居るのでクイズでーす。いえーパフパフー。」

サキュバスはテンションが低いままベッドの上に腰かける。
二人分の体重にベッドが悲鳴を上げると、結婚の祝儀はベッドに充てようと少
しだけ思った。

「第一問。エッチは女の幸せに含まれるでしょーか。」

「…な、何が言いたいかはわかった。」

「よろしい、ドーテーさん。ではドーテーさんここからは取引ですよ♪」

魔物との取引…サキュバスと言えば魔界を根城とするいうなれば悪魔にも近し
い存在だ。
魔術的な要因も含めてで何をされるのやら。
っていうかさらりっと俺の名前がドーテーになってるのはやめろ。

「これから私がドーテーさんにこの超絶キャワイイ☆サキュバスちゃんが女の
 子の気持ちいいところを教えてあげちゃいます。」

ウインクしながらペロッって舌を出すしぐさがイラッとする。
どこぞのお菓子屋さんのマスコットにでもなればいいんだお前は。

「ただしドーテーさんにももちろん条件があります。それは『私の体が気持ち
 よかったらガマンしないで射精すること』が条件です。」

「我慢しないで?」

「はい。サキュバスは夜の恋人ですから。賞味期限が短くって。」

「本当は?」

「こんなところでドーテーの相手してないで早く帰りたいです。」

イライラッっとしたが我慢だ。
うっかりベッドを拳で殴りそうになったが我慢だ。
買い換え前だけど大事にしてあげようという心気だ。

「歩いてだって帰れるんじゃないかなぁ?少なくともこの家から出るくらいに
 は。」

「あれれー?魅力的な相談だったと思うんですけどねー?まあ別にー?新婚初
 夜に恥をかいてもそれは別に私のせいじゃないしー?いいのかなー?そんな
 恥さらしてもー。」

「ぐっ…」

「気持ち良くないエッチしてー…それってこれから幸せなのかなぁ?離婚の原
 因の一つに精の不一致っていうのがあるけどなー?自ら離婚の可能性を作っ
 ちゃうとか新郎としてどーなのかなぁー?」

た、確かにそこは未知の領域だが納得できる部分でもある。
性の不一致は意外と離婚の原因としてあげられることが多い。
晩年はその理由にはならないが若いうちの結婚ではよくあることらしく、
婚約者は清純一辺倒なところがあって実にかいがいしいところがある。
だが、その性事情はもちろん知らない。
知っておく必要があるんじゃないか?サキュバスの言うように。
いやでも婚前前の夜にこんなことするのは。
悩む俺にサキュバスは顔を近づける。
そして耳元を甘噛みするかのようにささやく。

「彼女はあなたを信頼してますよ。だからこそ期待に答えるエッチをしてあげ
 ないと。愛してるんでしょ?」

「う……。」

声色はかつてないほど甘く、むしろ疑問を投げかけるには甘すぎた。
肯定しかできないくらいに…誘導されていくような甘美な声。
言われてみればそうなのかもしれない。
いつか来るこの日のために何も準備してこなかったのは明らかに俺のせいだ。
プラトニックに極めて普通の純愛をし続けた。それで満足だった。
しかしそれはただの言いわけだ。
いま必要なのは彼女にたりうる男になること。
そのためにはこのサキュバスの力を借りるのが最善の近道なんだ。
純愛をなし得るためにも、幸せな結婚生活をするためにも。
これは俺が招いた来るべき試練なんだ。

「わかった。じゃあ頼む。」

「ホントに!?やったぁ!これで帰れるっ!」

無邪気に笑うサキュバス。
少女の顔はかつてないほど安堵に満ちいていた。
つまり精を奪うこと前提らしい。
別に体に支障が出ないようなら構わないが。

「それじゃあさっそくですけどーこういうのはムードが大事なので…ちょーっ
 と失礼しますね。」

ベッドにもぐりこむサキュバス。
布団の中でもぞもぞと動き、その動きが止まるとちょいちょいと手のひらを動
かしてベッドの中へと誘ってきた。
って言うか今靴履いたまま入らなかったか?脱げよもう。
おそるおそるベッドの中を見ようとしたその時、不意に手を引っ張られる。

「ほらー早くベッドの中に入ってくださいよー…寒くて風邪引いちゃいます。」

「なっ!?」

いつの間にかサキュバスは来ていた服を脱ぎ全裸になっていた。
それどころかピアスも外れ、宝石類もなくなっていた。
始めからなかったかのように服もその他全ても消えていた。

「基本その1、女の要求には応えること!ほら入ってください!」

「わ、わかった。」

サキュバスに気押されながらも再びベッドの中へ戻ろうとした。
しかしサキュバスにそれを制止させられる。

「ずるいです…ドーテーばっかり服着て…脱いでよ。」

「……。」

「……。」

「…わ、わかりました。」

「なんで敬語なの?」

「わかったよ。」

今さらかもしれないが女の扱いって実はすごい難しいんじゃないか?
サキュバスに言われるまま服を脱ぐ。
ああ、何やってんだろ。
彼女にもまだ裸なんて見せてないのに…。
いや、ここは我慢だ俺!
彼女のためだ!
決して自分のためだけじゃないっ!!
意を決して衣類を脱いでいく。
寝巻の上、下、シャツ、パンツ。
着なれたそれをするすると脱いでいき床はさながら脱衣所のようになる。

「ど、どうだ?」

「キョドりすぎですー。でもま、ドーテー君にしては頑張ってる方ですし大目
 に見ましょう♪」

「お前…」

「文句は布団の中に入ってから聞きますよーだ。さあ…来てください。」

布団の中にすっぽりはまった頭を布団の先からぴょこんと顔を出す。
サキュバスの顔は…いわゆる受け入れる顔をしていた。
愛を求め、それでいてそれを受け止める顔。
期待と不安が入り混じっているのに幸せな顔。
なのにとてもいじらしい。
愛おしくて愛らしい。
自分が明日結婚式でなければたまらず…
そこまで考えて、止めておいた。
相手はサキュバスだ。
それだけは忘れてはいけない。
布団をめくらないように足から入り込みそのぬくもりで暖をとる。
裸の寒気と布団の熱が解放感に拍車をかけていく。

「ようこそです。ドーテーくん。緊張してますか?」

「うるさいな…。」

「駄目ですよ、今は私があなたの婚約者。今夜限りとはいえ大切に扱ってくだ
さい。ね♪」

ふにゅりと体に柔らかいものがあたる。
サキュバスはいつの間にやら俺の腕にもぐりこみ抱きついた。
吐息が体にかかり体が震える。
サキュバスの髪が肌に触れるとこそばゆく感じた。
眼はとてもきれいでいつまでも自分を愛おしく見つめ、恥ずかしがる俺の事な
どお構いなしにいつまでも見つめていて…そのまま朝までじーっと見ていそう
な、そんな気にさせる。
全裸のサキュバスの…少女の体が余すことなく彼に情欲を与えていた。

「こうやって女の子と布団に入るのは初めてですか?って初めてですよね…こ
 んなに心臓がバクバクなってるんですから…。」

頬を左胸に押し当てる。
柔らかな頬が伝っていく。

「でも!まだまだこれからですよ!そもそも始まってすらいないんですから!
 そういうわけで…ドーテーくん。キスはしたよね?」

「え…!いや…その…」

「し、してないの!?婚約者でしょ!?」

「……い、いいだろ!明日しようと思ってたんだよ!」

「…ねえ?本当に彼女の事好きなの?」

「好きに決まってるだろ!」

「ふーん。キスもしたことない仲なのに結婚するとか…ありえん、ありえん。」

「二回言わなくったっていいじゃないか…。」

「純愛だって普通結婚前にキスするでしょ!?誓いのキスまで待ってたら普通
 の女の子ならその気がないんだなって思っちゃいますよ!ってことは当然フ
 ァーストキスもしてない…よね。」

「……。」

「終わってる、男として。」

そんな堂々とため息をつかれると自分に自信がなくなっていく。
たとえ魔物と人間と生態系が違うとはいえ、出会って間もないサキュバスにこ
こまでコテンパンに言われると傷つくものがある。
今日二度目だ、終わってるって言われたの。
我ながらここまで来ると反論もできない。
純愛がどうのって言うより甲斐性の話になんだろうとちょっと悔やみながらサ
キュバスの言い分が理解できた。

「だっ…だけどファーストキスはしないからな!ここで!」

「ねえ、ファーストキスってどこまでならファーストキスだと思う?」

「はあ?」

「たとえば初めて口と口でちゅーするのはファーストキス?」

「当たり前だろ。」

「じゃあ私が勝手にドーテーくんにほっぺたにキスするのは?」

「…さ、さあ?」

「ドーテー君が私のほっぺにキスしたらそれは?ほっぺたくらいならいいと思
 う?」

「……。」

「男の子は唇奪ってナンボだよー。好きな人もそれを望んでる。上手なキスを
 彼女にしてあげたいなら…教えてあげてもいいけどっ♪」

んふふー♪と小悪魔な笑顔を浮かべる。
純な心をあざ笑うかのようにサキュバスは俺の体にまたがり体を密着させる。
扱いなれた寝具のように妖艶に絡みつきサキュバスは腕を頭に回す。
いい匂いがする。
この上ないくらいのくらくらする匂いが。

「むー。この期に及んで四の五の言うなんて男らしくないです!ここはバシッ
 と『キス…するよ…?』とか言って無理やり奪っちゃうくらいの気概を見せ
 ないと!さあ!」

「じゃ…じゃあ…」

おほん、と咳払いを挟む俺。
こんなくさいセリフ言わされるなんていろいろ最悪だ。

「キス…」

するよ…と言おうとした。
言おうとしたのだ。
言おうとしたのに。

「OK」

「なっ!?」

返事を待たずに迫る顔。
いや、唇と言った方がいい。
唇をいきなり奪われてしまった。

ちゅ…ぢゅぅっ!ぢゅるぢゅるっ…ぢゅううううっ!

「ん!?んんんん!?」

「んふー♪」

セリフが男女反転しているがそこは余り気にしないでいただこう。
何しろ当の本人がこの状況に内心ビビっているのだから。
くどいようだがこれはファーストキスだ。
もっと柔らかく優しい気持ちのいいものを想像していた。
少なくともキスする直前まではこのイメージだ。
だがサキュバスはそんなことなどお構いなしらしい。
唇が触れた瞬間いきなり唇から彼女の舌が割って入り瞬く間に彼女に口内を浸
食されてしまう。
口に放った甘く絡まる果実のように、サキュバスの舌はゆっくり、なめらかに
舌や歯や歯茎をなぞり神経の全てを快楽で蹂躙していく。
奥歯が震えそうになって、彼女の舌を噛むまいと懸命に耐えた。

「んぐっ!?」

「ぷはぁ…♪どうですか?キスの味は?これでファーストキスはおしまい。感
 想は?」

「死ぬかと思った…。」

「そんな…天国に昇りそうだったなんて…うれしい♪」

「死ぬかと思ったって言ってんだよ!長いんだよ!息できないんだよ!」

「まあまあそう言わずに。大体ファーストキッスなんてものは大体の男女が適
 当に済ましちゃうものなんです。成り行きでキスしてそれがファーストキス
 だったなんてのは良くある話なんですよ。だから余り気にしないでください。」

ヘラヘラ笑いながらサキュバスは頭に回した両腕をさらに深く締め上げる。
髪からもいい香りがする。
いまだ嗅いだ事のないような香り。
シャンプーでも花の香りでもない…なのに嗅ぎなれたかのような甘い匂い。

「じゃあ…今度はドーテー君からしてください。」

「……キスをか。」

「はい♪」

目を閉じサキュバスは俺の唇を受け入れる準備をする。
結局のところ自分からキスしないとやはり意味がない。
頭を動かすだけで彼女の唇に触れそうなその距離に様々な気持ちが複雑に高揚
していくのがわかった。
目を閉じ唇を近付ける。
優しく触れる唇。
止まる呼吸。
安らぐ気持ち。
これがキス…うん悪くない。
結婚する前に…付き合っていた時にすれば良かったと思う。

「優しいんですね。こんなキス…はじめてかも。えひひ♪」

「かっ…からかうなよな…。」

少女が笑う。
サキュバスなんてものを通り越して彼女は少女のようだった。
つい数分前まで自分をリードしていた顔とは違う朗らかで優しい笑顔。
間近にあるだけ、その笑顔の威力は心を溶かしていく。

「さてつぎはーっと…そろそろココ、使ってみませんか?ドーテー君♪」

サキュバスにしがみつかれその体を余すことなく味わいつくした俺の下半身は
既に焚きつけられた性欲を解き放とうとせんがために隆起していた。
気付かないうちにサキュバスの太ももに押し当てられ亀頭に快感が走る。
裸の解放感がいつにもまして性欲をこみあげさせていた。

「私にかかればドーテー卒業どころかレベルMAXパラメーターカンストの伝
 説の超(スーパー)テクニシャンになれますよ!」

「そ、そこまでのスキルはいらない…。」

「まあさすがに今夜一晩だけっていうのは無理があるかもだけどー…恋に奥手
 な彼女さんを満足できるようにはしてあげられます。ということで早速です
 が私のアソコ触ってください。」

「さらりと何言ってんの!?」

「触れ。」

「……はい。」

サキュバスはいい加減俺の否定的な発言にうんざりしていたらしい。
今のは目がマジだった。キレた女の顔をしていた。
百獣の王に睨まれたあの感じに近いと思った。
おそるおそる手を伸ばしサキュバスの秘所に指を近づける。

「んっ…じっ…じらさないでくださいよ…っ!」

「いや…ど、どうさわっていいものか…。」

「そのまま…もうちょっと上の…あんっ!?そ…そう…そこですっ…そこを指
 の腹で…そうっ…♪ゆっ…ゆっくりお願いしますよ…っ!」

甲高い声で彼女が曇った声を上げる。
快楽に酔いしれながらも的確に自らの気持ちのいい場所を教える。
これって実はサキュバスが気持ちいいだけなんじゃないだろうか。
気持ちいいところは人によりけりだって言うし。
突然の実践行為に頭が混乱しているのか余計な知識が紛れ込んでくる。
しかし忘れようと思った。
それを実践しようとする度胸もなければ余裕もない。
快楽を受け入れながらも懸命に教えようとするサキュバスの体温が徐々に上が
っていく。
自らの体の上に全身でまたがる彼女を空いた左手で支えながら右手の速度を一
定に保ち続ける。

「んっ…初めてにしては…いいじゃないですか。見直しちゃいます…っ♪」

「そ…そういうもんか?」

「でも…あっ…んん…まだ序の口ですからね。そうやって気持ちよくしてくれ
 ると…女の子に挿れた時…気持ちいいですからね…。」

喘いでいるのか、自分の手の感触で。
見ず知らずの女、というかサキュバス相手に今手淫をして喘がせている。
高まる鼓動に反比例して頭はクリアになっている。
性欲とは違う別の欲望が込み上げ、吐息をもらしながらも強がるサキュバスに
更なる快楽を与えていく。

「いいっ…いいですよっ…それっ…!ドーテーくん…キス…させて?」

返事を待たずしてサキュバスは胸元に唇をあてがう。
時折喘ぎながら、体をこすりつけながら。
彼女は胸元にキスしていく。

ちゅっ…ちゅっ…ちゅうっ…

「どうですか…?ドーテーくん。挿入前なのに…気持ちいいでしょ?」

「いっ…良いな…なんかこういうのも。」

「その気になったね♪嬉しい♪」

サキュバスが上体を起こす。
月光に彩られ青白くなった彼女の体が布団をまくりあげ一糸まとわぬ姿を現し
た。
布団に隠れていた彼女の暖かさが一気に霧散し肌寒くなる。
ただ、それを感じさせないほどに彼女の姿は素敵だった。
体にあたっていた胸、抱きとめていたくびれ。
その姿は触れていた時とは違う存在感を視覚的にあらわしていた。

「じゃあ…挿れますね…正常位が良いかもしれないですけれど…そっちはフィ
 アンセとやってください。」

「な、なんでだよ。」

「私がフィアンセでもいいんですか?」

「そういうわけではないが…」

「ふふっ♪じゃあ…挿れちゃいますねー♪」

サキュバスがいきり立ったペニスを指の間で挟み狙いを定める。
先端が入口に触れると体が強張った。
初体験ということも相まって余計に緊張しているがそれはすぐに吹き飛んでい
ってしまった。

「ん…っ…」

にゅぷっ…とした感触が伝わるり体に電流が走る。
暖かさが伝わり、愛液のぬめりを感じる。
自らの物を受け入れられるということ。
初めてだったが…今一つ感想にできない。

「これでドーテーはおしまいですよドーテーくん。…どうですか?私の中は。」

「あっ…ああ。き…気持ちいいな。締まって…」

「これはドーテー君がしっかり私のアソコを愛撫してくれたからんですよ。
 とっても気持ちよかったからお返ししてあげないといけないですね。」

サキュバスがきゅっと中を締め付けるとペニスが引き締まったかのように更に
堅く、爆ぜようとする。

「じゃあ腰動かしますね。んしょっ…と。」

サキュバスが両手を後ろにつき、見せつけるかのように腰を上下に動かす。
にゅぷ…にゅぷ…とゆっくり静かに音を立てながらペニスが出入りする。
俺はただその場面を快感とともに凝視していた。
自分だけの快楽。
自分と相手だけの時間。
誰にも邪魔されない至福の時間であって、そして秘匿な快楽。

「んっ…くぅ…ふふっ♪どうですか?おちんちんきもちいい?」

「あっ…ああっ…!」

「嬉しいです。女の子も気持ち良くなってもらえるとうれしいんですよ。ああ
 でもイきたくなったらすぐに出してくださいね、約束は守ってくださいよ?」

意地悪な頬笑みがうすらぼんやりと月の光で見え隠れする。
笑顔とどこか影のあるような快楽の顔。
貪りつきたい愛欲の顔。
ほとばしる汗が彼女の体を伝うのを見つめながらそんなことを思った。

「でっ…でるっ…!」

「イきますか?まあちょっと疲れるくらいですので安心して出してくださいね。」

サキュバスが腰を振る。
奥深くまで咥え込まれたペニスが彼女のヒダにこすりつけられぐちゅぐちゅと
音を立てながらこの上なく愛し始める。
体を貫いていた電流が定期的なものから継続的なものに変わり、思わず身をよ
じる。
しかし、サキュバスは快楽を容赦なく与え続ける。
自らの快楽をむさぼりながらも他人を愛し続ける。
口からよだれを垂らしながら、恍惚に薄目をこちらに剥けながら彼女の体が跳
ねるたびに、ゆり動くたびに、射精の衝動が一気に高まっていく。

「んふっ…もう限界ですね。それじゃあどうぞドーテーくん。」

「ああっ…!?でっ…」

どくん!どくっ…どくっ…どくっ…

サキュバスに言われると同時に欲望が一気に体の底からあふれ出た。
普段以上にペニスが脈打っているような気がする。
本物のエッチを体験しているからだろうか。
体の隅々までが彼女に捧げられていくような気がする。
魔力を抽出とか精液を吸い出されてるとかそういうものではない満足感と幸福
感が身を包むようだった。

「あんっ…すご…これだから童貞とのエッチは止められませんよねー。どうで
 した?満足しましたか?私は魔力的にもまあ満足でしたけど。」

サキュバスがこちらに再び身を寄せる。
入れたペニスを締めながら体を預ける彼女の頭をなでてやると彼女は満足そう
に目を閉じる。

「これが…まあ…生エッチです。私的にはサキュバスが正常位で犯されるとか
 アウトだったので騎乗位でしたけど…まあフィアンセさんにはなるようにや
 っちゃってください。」

「最後の最後で体験はおろか説明もアバウトだね…」

「いいの。疲れちゃったから。じゃあ、結婚式頑張ってね。」

サキュバスは胸元に口づけた。
吸いついたといってもいいかもしれない。
名残惜しそうに俺の胸に吸いついた。
長い時間、じっくりかけて。

(…やれやれ…でも結婚最後の思い出としては…いいのかな?)

キスが終わり横で寝息を立てるサキュバス。
こっちの複雑な思いも知らないでいい気なものだ。
ちょっと憎たらしくなって、指先でほっぺたをつつこうとして、止めておいた。


………
……



「それでは新郎ノーブル・キシュルートは新婦アメーリア・メグセシスを永久
 に愛することを誓いますか?」

「誓います。」

「それでは新婦アメーリアに近いの口づけを。」

ノーブルは誓いの口づけをアメーリアにする。
心なしか触れた唇に愛がこもっているような気がする。

「それではここに新たな夫婦が誕生したことを祝福する。これからも末長く二
 人は苦難を乗り越えていくことを望む。」

「おめでとう!ノーブル!」

「おめでとう!アメーリア!」

あたりが一斉にワッとなる。
二人を祝福する全てが二人を包みあげ、祝福していく。


「わーホントに結婚しちゃうんですねー。なんかの冗談かと思ってましたけど
 −。」

教会の外から…正しくは蚊帳の外からかもしれない。
サキュバスはその祝福のムードを遠くから感じていた。
パタパタと飛びながら手を敬礼の形にしながら遠くを見つめる。

「本当に僕でよかったのかい?アメーリア。」

「ええ。あなたのような純粋な人とならこれからやっていけると思うの。」

「……そうか。」

「そうよ。あの人とは違う。あの人なんかとは。」

「アメーリア…」

アメーリアは祝福のムードに包まれながらもほんの少しだけ影を落としていた。
誰かを記憶の外へ追いやるようにして、そしてすぐに笑顔を取り戻す。

「あっちゃー。やっぱり根に持ってるみたいですよドーテーくん。」

「……はあ…だろうと思った。」

「まさか結婚初夜でいきなり別れ話になるだなんてドーテーくん罪深すぎです。
 結婚詐欺にでも転職しますか?向いてますよ?」

「お前がキスマーク残すせいだろうが!」

結婚初夜。
その時にサキュバスにつけられたキスマークが残っていた。
そうとも気付かずに俺はその場で服を脱ぎ捨てたその時アメーリアの目に入っ
て来たのはそれだったという。
彼女は純粋で通ってきたはずなのに吸いつかれた跡が残っているというのを知
っていたということは彼女は…まあそれなりに純粋ではなかったということな
のだろうか。
キレたらキレたでうるさいし、怖いし、物投げるし、あの死にかかったベッド
は二人で使う前に叩き壊されるし。
とんだ鬼嫁だった。
純粋な自分を選んだのはアメーリア自身の本性を見抜かれないようなバカを欲
しがっただけなのかもしれないと後々になって思ったわけだ。
恋愛は大いなる偽りだというが…まさしくその典型なんだと思った。
結局俺は売り言葉に買い言葉でアメーリアと別れ、こうして今サキュバスに自
らの事とはいえあたり散らしている。

「まあ、それにしてもそんなキスマークの張本人をわざわざ私をまた魔界から
 呼び出すだなんて…」

「結婚しよう?」

「はい!?」

サキュバスは聞いたことのないような声をあげた。
笑いそうになって堪える。

「責任とってください。」

「それは女のセリフですよ!」

「駄目か?」

「却下。」

「…そうか。」

まあ普通に考えたらそうなる。
どう考えてもこのキスマークは意図して付いたものじゃないし。
そもそもはあの晩サキュバスを受け入れてしまった自分が全ての原因なのだ。
サキュバスの言うことも実は少しだけあたっていて、結婚詐欺だといわれて
祝いに来た人たちから非難轟々だったのは割と本当の話だ。
こうやってサキュバスを魔界から呼び出したのも人目につかないようなところ
でひっそりと生きていく準備をしていたついでだったからだ。
自ら招いた悲劇とはいえ何とも滑稽なことか。
自嘲気味に笑いもしたが、そのうち心機一転とした具合になって落ち着いた。

「…でも…まあ…!ドーテーくん優しかったし。一生死ぬことなく優しくして
 くれるならいいですよ!」

「前者は難しいな…でもまあ、受け入れてくれてありがとう。」

受け入れたのは彼女だけじゃなくて自分もだ。
これから彼女とまっすぐではない道を歩むことになるだろう。
だが、彼女は自分の心の支えだ。

「じゃあ結婚式しませんか?」

「ここでか?」

「ええ、愛を誓い休むことなく末永く性欲に励むことを誓いますか?」

「お前な…まっ、いいか。誓いましょう!」

「ドーテーくん大好き。」

「違う。」

「はい?」

「俺はドーテーじゃない、リノ・ナロウだ。」

「私だって『お前』じゃないです…けど!名前は言わないでおきましょう!」

「なんだよ、気になるじゃないか。」

「名前も知らない相手とエッチするのは気持ちいいじゃないですか?」

「…愛を誓う相手の名前を知らないのは…どうなんだ?」

「えー」

「えーじゃありません。」

「わかりましたーもうわがままなんだから。私はヴィラ。よろしくね、リノ♪」

サキュバスと結婚した。
厳密にいえば結婚していないのかもしれないが、この際夫婦になるのに肩書な
んていらないだろう。
もしくはその肩書を認めたくないだけなのかもしれない。

でも彼女の顔は笑顔だった。
はにかんだような、照れくさいような顔。
恥ずかしがっているサキュバスって結構珍しいんじゃないだろうか。
何となくそう思いながら新天地を目指そうと彼女を連れて俺は前いた住処を後
にした。
ささやかな祝福とともに。


☆おしまい☆

12/11/18 02:02更新 / にもの

■作者メッセージ
書いててすごいだるかった☆ほんとだよっ☆
結婚とか…題材にするんじゃあなかったよ…ぐへぇ…

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