読切小説
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峠を越えて
雨が降りそうなあいにくの天気だが私にはどうしても出掛ける用事があった。
事の始めは隣に住む友人が持ってきた一通の手紙。
飛脚が急ぎでもってきたというその手紙を開けると私の医者としての師匠からの手紙だった。
手紙には「屋根の修理の際に身を落っことし、腰痛で部屋から一歩も出られなくなってしまった」
と文字の端々に無理を承知で筆をとった筆跡が見え隠れしている。
私が今こうして医師としてこの町で仕事ができるのはすべからくこの人のおかげなのだが、
師匠の元を離れてからはもう十年近く経っている。
そう考えればもう年なのだろう。あまり無茶はしないでほしいものだ。
そんなこともあって手紙の内容に願い立てされた通り、私は師匠が療養中の間隣の村で代理の医師を務めることになった。
だが隣の村は遠いことこの上ない。具体的に言うと峠を一つ越えたその先に村がある。
おまけにこの手紙が来たのは夜分、それも酒盛りが終わった後友人がいきなり「すまん忘れてた。」の一言でいきなり手渡したものだ。
おかげで私は酔いがすっかり冷め、顔を青くしながら夜分にもかかわらず提灯片手に支度をするのだった。
峠は片道で約六時間。到着は明日になりそうだ。


――――――――。


峠に入りほどなく歩く。
時刻は既に丑三つ時。月は出ないが風はある。
がさがさと時折聞こえる生き物の息遣いだけが私を恐怖に駆り立てる。

「はあ…やはり降ってきたか。」

しばらく峠を歩いていると雨が降ってきた。
悪天候には気を使ってる余裕がなかった。
だがお天道様にはそんなものは通用しない。
足元が濡れ、胴体が濡れ、しまいには暴風まで吹き荒れる始末だった。

「あれは…小屋か…。仕方ないあそこでやり過ごすか。」

師匠には悪いと思ったが、これ以上歩みを進めるのは危険だ。
この辺りは雨が降るとぬかるみで悪路が続く。
暴風の風向きと合わさって滑落死をする事故も後を絶たない人食い峠とも言われるほどだ。
その中で今の私にあの小屋はありがたい。
ボロボロで風が吹くだけで軋んでしまいそうな小屋でも雨風が凌げる屋根と壁があれば上等。
たとえネズミが巣食うあばら家であっても文句なしであった。
誘われるように私はそのネズミしかいないであろう小屋に入って行った。

「ふう…なんだこれは…椅子?もしかして茶屋か?」

戸をあけてみればそこには長椅子が二台ほど。
奥には台所だったらしき場所と一人で使うには多すぎる数の囲炉裏があった。
さしずめ店じまいした茶屋といった具合だろう。
人通りが全くないわけではないが、危険の方が多いこの峠での営業を考えると廃業も必然か。
だがそれはそれで好都合。
元が茶屋ならかまどもあれば囲炉裏もある。おまけに薪まで。暖が取れそうだ。

「…これは…良いものを見つけた。」

だがそれ以上に今の私にぴったりなものを見つけた。
傘だ。傘が置いてある。
私は入口のすぐそばに置いてあった傘に目を付けた。
大きさ的には人が持つような傘の大きさではない。
ぱっと見た感じでは何かと思ったが大きさ的に日差しを避けるために使ういわば日傘だろうか。
通常使うものよりも大きく、柄が長い。傘に店の名前が書いてあるところを見るとそうかもしれない。
長椅子と一緒に外に立てかけるもので本来人が持って使うものではないが、暴風が止めば使えるだろう。

「ふむ…ほこりを落とせば使えそうだな。よっと。」

提灯を側にあった金具にぶら下げ暗がりに灯りを保つ。
程よく部屋が明るくなるとようやく安堵のため息が出た。

茶屋の残り物であるだろう壁にぶら下がっていたはたきを掴み、傘をたたき始める。
やはりというか埃っぽい。だが外ではたくわけにもいかない。
汚れるのを覚悟で膝の上に乗せると大柄な傘にはたきを掛けた。

「ちょ…ちょっと!」

「……。」

声がした。私のではない。か細い女の声だ。
私は背筋が凍った。
同じく雨宿りをしたい者の声だろうか。
はたきの手を止めて息を飲む。

「だれか…いるのか!?」

………。
返事はない。気味が悪い。
ひくついた笑みを浮かべながらもう一度はたきでたたき始めると…

「こ…こらっ!やめて!」

「ま、まただ…!」

膝の上に乗せている「物」から声が発せられる。
これは…傘だ。傘から声が出ているとしか思えない。

「こらー!ほこりとってくれるのはありがたいけどさっきから痛いんじゃー!」

「おあーっ!?」

驚きの余りに私は大声を出しながら椅子から飛びあがった。
傘はというと宙返りをしながら私の膝から飛び降り、突如として傘がバサッと開く。
余りの奇想天外な動きにわが身を凍らせた。

「まったく…ひさしぶりに使ってもらえると思って楽しみにしてたのに!もー!」

人だ。あれは人影だ。紛れもなく人だ。何が何だかわからんが、あれは何なんだ。

「だ、誰だお前は!?頭に傘なんかかぶって芸子か!?あるいは辻か!?もしかして夜鷹…」

「もっと言葉選べ!」

あきれた目をした少女はつま先でこつんと蹴りを入れた。
彼女の高下駄がスネにあたると私は痛みによって多少なりと意識を戻す。
蹴りはないだろう蹴りは。地味に痛いんだぞ高下駄…というか下駄全般の蹴りは。
平静を取り戻し改めて見直したが、何かが変わるわけではない。
それはそれはもう目を疑う光景だった。
妙に潤いに満ちた肌は一目に妖艶さを醸し出し、妖しさを秘めた少女の瞳に
男心をくすぐられる。
そして少女を異質たらしめる傘から飛び出た大きな舌、傘に張り付く大きな目玉に目の焦点をかっさらわれた。

「私は唐傘おばけ。置き傘が長いことほったらかしにされて生まれたお化けだよ。」

「おば…っ」

「でもお化けって言うよりは付喪神だから。安心してね。」

付喪神…物に憑くといわれている神様。そこら辺は自分の親から教えてもらった。
だがそれは物を大事にしなさいという教えとばかり思い込んでいた。
まさか本当にこんな形で実在するとは全く思ってもみなかった。
いや、実際に目の前で姿を変えたのはこの子だし…。
やはりいるもんはいる。そういうものなんだろうか。
じろじろ見つめる私の眼差しに少女が気付いたのか私の方へと近寄ってくる。
私は焦って非礼を詫びようとしたが少女はさらに距離を詰めた。
彼女の傘にぶつかりそうになって私は姿勢をかがめた。

「……なんで手をとるんだい?」

不意に彼女は私の片手を両手で挟む。
潤いのある柔らかい手から良い匂いがする。
男を惑わせる女の匂い。
医者の仕事をやっていると女性の患者の体を触ることも頻繁にあるため、こういう感覚はとうの昔に麻痺していたと思っていた。
少女はと言うと私のことなどお構いなしに指をからめたり強く握ったり。
なんともかわいらしい彼女の手つきに動揺しながらも癒しを覚えた。

「手を握ると安心するでしょ?落ち着いた?」

ああ、と相槌を一つ打つ。
おばけ…いや付喪神と呼ぶべきだろうか。
ともかく人でないことには変わりない。
変わりないのだが…目の前のこの姿はどう見ても少女。
付喪神とはいえもう少しこう…御利益のありそうな姿で出てこれなかったのだろうか。
私がなんとなく手を握り返すと少女はだらしのない笑顔を浮かべた。

「安心しているのはどちらかと言えば君のような気がするけど…」

「えー?だって人に出会ったのってほんっっっっとーーーに久しぶりなんだもん!」

まるで懐かしい旧友にでもあったかのように彼女は興奮していた。
どれだけ放置されればこうなるのだろうか。
まるで孤独をさまよっていた所にようやく他人を見つけたあの感覚に近いものがあるのだろう。
このさびれた茶屋が店を閉めた時にほったらかしにされたとするならば…並みの人間の精神なら到底耐えられない。
彼女の笑顔が何となく私にとっても安堵感を与えて行く。
私にしてみても一人でこんな嵐の中で過ごすのは心細いと思っていた所だったので彼女の気持ちも
解らない訳ではなかった。

「あ、お茶入れてあげるよ。」

「なんで茶があるんだ。ここって廃墟じゃなかったのか?」

「え?やだなあ。ここは茶屋…あれ?」

唐傘はあたりを見回す。
徐々に徐々にだが、口角が小さくなっていくのが傍目に見て痛々しかった。



―――――――――――――――――。



「うう…ぐすっ…じゃあ…じゃあ…ほんとうにここのお店の人たちは…もう…
 廃業して…えぐぅ…。」

「泣いたり笑ったり忙しい奴だな。」

「だっでー!さいごにづがわれだのもうなんでんぼまえじゃだいでずがー!」

「…何言ってるかわかんない。」

囲炉裏に火をつけ私は唐傘おばけと暖をとる。
お互いに向き合いながら茶釜を挟むと唐傘お化けは身の上を話を始めた。
もう何年昔になるかは知らないがここが茶屋だった時に貸し傘として置き傘があったらしい。
地理的な条件もあって置き傘はそこそこ繁盛したらしいがもともと雨天時に人が余りこない
ということもあって最終的には使われない傘が増えていったという。
少女もその一本らしく、私が日傘だと勘違いしたそれは彼女が付喪神として憑依した際に
その体に合わせて巨大化したものらしい。
らしいのだが…。
物が勝手に大きくなるわけないだろうとは思ったが、彼女のいきさつを聞いているだけでも結構
疲れたので余計な質問は胸の内にしまっておいた。
茶釜の蓋がカタカタと音が鳴り始めると私は湯をすくって湯呑に入れる。
当然ながらこんな廃墟に茶葉などない。
贅沢は言わない。暖かい場所と温かい飲み物があればここはそれで十分だ。

「うう…お湯なんか飲んでおいしいんですか?」

「雨で洗った茶釜で雨を煮立てて飲む。泥水よりかはマシだ。それより唐傘おばけ…」

「その唐傘おばけっていうの止めてもらえますか。私にはちゃんと名前があるんですよ。」

「神様にも名前あったの?」

「名前くらいあるよ!私には『ウノヤ』っていう名前が!」

「うのや…?」

余り神様に詳しい方ではないが聞いたことのない神様の名前だ。
だが不思議だ。初めて聞いたはずなのに聞いたことがある響きだ。
うのや…うのや…はて?

「ああ、思い出したこの店の名前だ。」

「え…?だって道行く人がみんな私のことをこう呼んで…!」

「だってほら君の傘の外側の部分に書いてあるだろう?」

どうやら内側に体があるせいか外側に何が書いてあるかわからなかったらしい。
唐傘おばけ…もといウノヤはどこに書いてあるのかわからずくるくる回りながら傘の至る場所
を探してみる。
だが頭と傘が固定されているのか動いたところで外側に書いてあることなど解らない。
自らの頭のてっぺんが見える人間はだれ一人としていないものだ。
ちなみに『うのや』は『卯の屋』と表記されており、転じてウサギ小屋のこと
を指すこの地方の造語だ。
これ以上泣かせてもかわいそうなので黙っておこう。

「し、しらなかった…」

「ぐるぐる回らないでくれ。埃っぽいんだから。」

「あう…すみません。そのお湯一杯もらっていいですか?」

湯呑を渡すと卯の屋…もといウノヤはお湯を注ぎ冷ましながら飲み始めた。
ずずーっとすするしぐさは爺くさかったが少女の見た目もあってか思いのほか癒されてしまう。
ふむ。旅先で妖怪…もとい人と出会うのも意外と悪くないかもしれない。
師匠のところの仕事が終わったら療養に温泉街まで足を運んでみよう。

「そういえばお医者様。この後はどちらへいかれますか?よろしければこのウノヤが一緒にお供
 いたしますよ!傘として!」

「いや…気持ちはありがたいが遠慮させてもらう。」

「ど…どーしてですか!?また雨が降ってきたら大変ですよ!」

「いやその…ハッキリ言うけど…君傘じゃないじゃん。」

一目に気が落ちて行くのがわかったが言わずには居られなかった。
彼女の姿はどう見ても人そのものの姿。
それはまだいいとして、傘の内側から垂れてくる舌に何とも言えない近寄りがたさを感じていた。
雨がやむまでならそれほど急ぐ必要もない。
どうせこうなるなら家で一晩を明かしてからでもよかったとさえ思う。

「そ…そんなー!せっかく人に出会えたのにー!つかってよー!」

「いや…使えって言われても…。」

どうすればいいのだろうか。
手をつなぎながら傘に入れば…いや寄り添っても彼女の頭が支柱になっている
ぶん面積が足りないだろう。
そもそも高下駄をはいて私と背丈がどっこいどっこいなのに、それは無理な話だ。

「お願い!使ってくれたらなんでもするから!」

「おい馬鹿、こんなとこで頭を下げるな。」

正座の姿勢のまま彼女が両手を突き頭を下げる。
卯の屋の文字がでかでかと私の目から少女を遮った。

「馬鹿でも良いです!せっかく人にあえて…やっと役に立てるんです!お願い
 します!」

だがその思いは傘越しでも伝わる。必死な声が伝わってくる。
傘についた一つ目もなんかこう「このとーり!おねがいします!」って目つき
をしているような気がしなくもない。

「違う!そうじゃない!良いから頭を上げろ!」

「嫌です!わたしだって必死なんです!連れて行ってくれるまで絶対にここを動きません!」

それは人の家に居座って使う言葉なんだが。
胸中でつぶやく頃にはもうすでに遅かった。

「ぎゃあああー!火があー!」

彼女の傘から黒い煙がもうもうと上がっていく。
頭を下げたその時、囲炉裏の火が彼女の傘に燃え移った。

「ばっ…馬鹿!おらっ水!いや…むしろ外に出ろ!」

瞬く間に文字通り骨まで焼き尽くされる状況に彼女は駆け足で宿の外へ飛び出し、暴風雨に打たれる。
傘をバタバタと両手ではたき風にあおられるウノヤは奇怪な踊りを踊っているようだった。
火はあっという間に消えたが、ずぶぬれになり焼け焦げた傘を涙目で見つめる少女は見てて痛々しかった。

「た…ただいまもどり…ました…うう…ぐすっ…。」

駄目だ。いまハッキリわかった。
この子妖怪だか神様だか知らないが…人としては完全に駄目な子だ。
あまりにも空回りして前に進めない感じに同情を誘う。
私はこの子をここに置いて一人で峠を越えることは絶対に心残りになると直感した。
ここでこの子と別れたら…と考えると後味が悪い。

「はあ…しょうがない、どうせ俺は帰りもこの道を通らないといけないし。
 もう少し雨が落ち着いたらウノヤを使用してこの峠を越えます。」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「けが人はじっとする!」

「…はい!」

ぴしゃりといってのけると少女は笑顔のまま静かになった。
暗くなったり明るくなったり…行燈でもここまで着けたり消したりはしない。
治療と言うわけではないが、彼女の焼け焦げてしまった傘の部分に私は適当に
包帯を重ねて糊で貼り付けていく。
雨が降っているのだから糊に意味はあまり意味はないだろうが、傘の部分に
痛覚があるから針は使えないと思った。
修理の必要性があったかどうかはわからないが苦痛に悶えていたあの顔を見る
となぜだかせざるをえないような気がした。
そもそもこの子を使おうと思った…いや連れて行こうと思ったのは、ほってお
くと近場でまたこんなドジを踏んでひとりで酷い目にあいかねないという思い
があったからだ。
まったくとんだ神様もいたものだ。
付喪神が死ぬかどうかはわからないが、万一落下して仏さんになりでもしたら
寝覚めが悪い。

「はえ?どうしましたか。じーっとみて。変なふうにこげちゃいましたか?」

心配そうに見つめていたつもりだがどうやら彼女は気にも留めていないようだ。
こちらの心配も気にしないでいい気なものだ。

「…いやなんでもない。とりあえず応急処置はしておいた。安静にしていなさい。」

「はい!あ、じゃあ風が止むまでちょっと寝ませんか?」

「…そうだな…火には気をつけてくれよ。」

「わかりました…えっくし!」

「おいおい。傘が風邪引いてどうするんだ…。」

先ほどの火消しで雨にさらされた体に触れるとウノヤは体を震わせた。
体をこわばらせ少し伏した目でウノヤは私から目をそらす。

「あ…あの…」

「どうした?」

「あの…ふく…その…かわ…し…」

今度は消え入るような小さい声でしゃべり始めるウノヤ。

「だから…その…服を…乾かしたい…」

はっとして私は彼女から背を向けた。

「す、すまない…。」

「み、見ちゃだめですよ!?絶対ですからね!?」

神様を怒らせるとどういうことになるかは大体わかっているつもりだ。
でも神仏って言うよりは…うーむ。
その辺もちょっと興味あるし後で聞いてみようか。
少女の着替えによって雑念が沸き立ちそうになり私はくだらないことでも考えることにした。

しゅるり、と紐のほどける音がする。
ぱさり、と服の落ちる音がする。
時折聞こえる吐息のような小声が囲炉裏の火種の音にまぎれて聞こえる。

「もういいか?」

「わわっ!だめ…まだだめ!きゃっ!」

私の些細な問いに不意を突かれたのか彼女はあわてる。
とんっ、とんとんっと軽快な足取りが聞こえる。
明らかに危ないと思った私は彼女を受け止めるべく振りかえり
炎を避けるよう転がってきたウノヤを受け止めた。

「お、おい大丈夫か?」

「……っ!?」

「ふう…一安心か。」

これでまた火の手が上がったら一大事だった。
安堵しながら彼女の顔を見やると両目を必死に閉じている。
それこそ激しく赤面しながら。
彼女の体を押し上げようとすると…

「ひっ…〜〜〜〜〜!!!?」

――ふにゅりと彼女の柔らかさが両腕に伝わった。

受け止めていたのは彼女の胸だった。
意図していたわけではない。

「まっ…まて!誤解だ!」

はっと手を離すとウノヤは両手を胸に当てる。
だがそれだけだ。距離を離そうとはしない。
恥じらいを隠せず、ウノヤは顔を赤面させながら顔をそむけた。
いくら相手が神様だとは言え気まずい。
手に残る何とも形容しがたい快楽の感触に指の関節を動かす。

「お、おい悪かった…」

「い……いいですよ…。」

自分の謝罪を遮るようにウノヤは肯定した。
何を肯定したのかは知らないが。

「わ、私は人間に使われるのが…その…好きですから…だからその…してもいいです。」

「……。」

誤解だ。それは本当に誤解なんだ。
だが返事を返すことはできなかった。
彼女が唐突に距離を詰めてきたからだ。
改めてみると…ウノヤはかなりの美人だ。
子供っぽいような性格を出していたから余り気にしていなかったが体は充分に大人びている。
後ずさりする必要なんてないが、直視するとこのまま手をかけてしまいそうになる。
炎の明かりが彼女を照らしその影を大きくする。
影奉仕が重なる距離にまで彼女は近付いた。

「このお店が廃業になった以上、私はこの傘を離れて新しい傘につかないといけません。
 ですから…その…解き放ってくれたお礼に…?」

そこから自分は何かを言いかけた。

「ん…ちゅ…」

だがウノヤは唇をくちづけで塞いでしまった。
体が反射で彼女の背に手を回すとウノヤも自分の背に手を回す。
彼女の軽い体が今だけはしっかりと感じられる。

「えへへ…気持ちいいかもしれません。」

「…そうか。」

彼女の体からいい匂いがする。
雨にぬれているはずなのに、芳しい匂い。
まるで今さっき香でも焚いたかのように。

「女の子の匂いは良い香りですか?」

「…なっ?」

自分でも気がつかないうちに彼女の匂いを嗅いでいたのだろうか。
ウノヤはいたずら交じりに笑っていた。

「こうすると…もっと気持ちよくなれますよ?」

ウノヤは一度立ち上がるとそのまま自分の膝にまたがり対面座位の形になると

「えいっ」

そのまま傘を閉じた。
視界が暗闇に包まれる。

「何やって…?」

「こーすると私だけを感じることができてとーってもおとくなんですよ?」

私だけを感じる。すこし面食らったが、彼女の言いたいことは分かった。
彼女の傘に上半身が閉じ込められると周辺の音が消えた。
囲炉裏の炎の音、雨音さえも聞こえなくなる。
寄せた頬がしっとりと触れ、彼女の唇が耳に近づいた。
呼吸が、吐息が、音と熱と湿気が体にむずがゆいような感覚を与えて行く。

「ふー…っ」

「ひっ!?」

耳に息を吹きかけられ体を跳ねる。
その反応を見て彼女はクスリと嗤った。

「お医者様?どーやら裸は見慣れていてもこーいうことはされたことが無いみたいですねぇ♪」

ウノヤが手を自分の着物の中に入れる。
細い女のしなやかな指が脇を抜け背を包み、そして結ばれた。

「そういうふうなことを君とは…」

「それはいけませんよ?お医者様なら患者の言うことは聞いて頂けないと…」

ウノヤがきつく抱きしめると豊満な乳房が惜しげもなくつぶれた。
むにゅり…と柔らかさを堪能させつつも乳首が隆起していることを感じさせる。
気持ちがいい…彼女には悪いと思ったが…心では我慢はできそうにない。

「うふふっ…息も荒くなってきましたね…♪じゃあ…あーむっ…♪」

「なっ…あっ…!?」

彼女の唇が耳に触れた…と思いきやすぐさま離れ…甘噛みされた。

「ちゅっ……ぢゅる…んっ…れるぅ…」

「なっ…待ってくれ…!舌が耳に入って…!」

「えー?好きなんですかぁ?好きなんですねぇ?ココこんなに大きくなってますし?
 ちゅっ…ぢゅるぢゅつっ…」

抱擁と耳への舌使いを続けながらウノヤは腰を押しつける。
時折座る位置を直すウノヤの腰づかいのもどかしさに体を震わせ堪えるしかなかった。

「あらら〜お医者さん。そんなに体よじっちゃって〜。」

「き、気持ち良すぎる!も、もう耐えられないから…!」

「ようやく素直になってくれましたね。傘閉じて耳舐めるとみーんな素直ないい子になってくれる
 んですよ?」

放心する。それしかできなかった。
灯りの一つ刺さない彼女だけの空間に身を任せる。
彼女の織りなす柔らかい空間。少女だけがもつ甘美な独占欲。

「じゃ〜あ〜こっちの舌も使っていじめてあげますね?ん〜ちゅっ…ぢゅっ…。」

耳への愛撫を続ける彼女とは別に何かが体を這いまわってきた。
蛇のような、だがぬめりがある。

「こ…これって…!?」

「おどろきましたか?これは傘についていた舌なんですよぉ?きもちいでしょ?」

ウノヤの抱擁の隙間を縫って体を這いまわる舌は妖しげな快感を生み出していく。
わきの下を抜け、腹をなぞり、乳首を通り目的地に向かっていくように進んでいく。
舌が延びれば延びるほど通った道筋は常に舐められ続け感度を高められていく。

「あーやっぱり気持ちいいんですね?でも耐えてくださいよ?最後までする前に終わったら
 もったいないですよぉ?」

「さ、最後?」

「ちゅっ…ちゅっ…クスッ…♪そうですよ。最後はこの舌でー…おちんちんに巻き付いてにゅぷにゅぷってしてあげます。」

「…!」

「声に出さなくてもわかりますよ…息の音で丸わかりです♪お医者様は素直なので張り切っちゃ
 いますから…覚悟してください!」

卯の屋がふーっと息を吹きかける。
耳の快感が収まり残った唾液がその存在感を感じさせた。
だが長く伸びた傘の舌がじわりじわりと動くと性感帯をくまなく突かれてしまう。

「し、舌が…っ!?」

「どうですか?舌がぐるぐるっとおちんちんに巻き付いた感想は?気持ちいいですか?」

「あっ…まっ…待ってくれ…」

「出しちゃってもいいですよ?このまま舌全部動かしてお医者様を気持ちよくさせてあげますからね?
 だから…いっぱいどぴゅどぴゅって…出しちゃってください♪」

にゅぷっ!にゅちゅっ!ずりゅずりゅっ!ぐ…ちゅ!にゅぢゅっ!

「あ!あ!こ、これはぁ…!」

声を堪え切れなかった。
舌が這いまわっていた時とは比べ物にならない速度で動いた。
陰茎を包み込み部分は舌が激しく上下し。
通り道であった乳首、わきの下、腹下は容赦なく舌で擦りあげられる。
舌で転がされる飴玉のように、舐めまわされない部分など存在しないように。
性感帯と言う性感帯を全て舐めつくされていた。

「あらあらお医者様ってば…助けてくれたときはかっこよかったんですけれどねえ…。でも…
 しかたないですよね。男の人はみんなこれが大好きですから…♪」

「う…ウノヤっ…!こ、これ待ってくれっ!気持ち良すぎてやばいっ…!」

「お医者様…ウノヤ直してくれたお礼をまだしておりませんよ?お礼…さしあげますね?」

ウノヤはきゅっと抱きしめる力を強めると…

「ありがとうございました…ちゅっ♪」

唇に口づけた。

どぴゅっ…っ!どくっ!どぴゅ…っどくっ!!

「きゃっ…出てます…っ!お医者様のが舌の中でどくどくって…!」

「はっ…はあっ…!」

「ああっ…いいですよっ…一滴残らず…っ!出してっ…!」

包み込まれた舌の隙間から精液がどろどろと止めどなくあふれ出ていく。
精液を一滴も逃すまいと大きな舌がもぞもぞと動くたびに射精後の愛撫が加速され、精液を堪える
ことができなくなってしまう。
射精が終わるまで彼女は私を抱きしめ続けた。

「気持ちよかったですか?お医者様?」

ウノヤは傘を開けた。
何時の間にやら囲炉裏のおかげで暖かくなっていた。
外はまだ雨音がするものの、風は収まっているようだ。
この分なら今日はもう寒さはしのげたと思っていい。

「ああ…気持ちよかった…だから…」

「だから?」

「寝かせてくれ…。」

「も、もー!ひとが一生懸命に頑張ったのにー!」

ちょっと怒った顔で、でもすぐに笑顔になる。
雨傘にはもったいないくらいに。

「ありがとう…すまんな…」

「え…えへへ…。」

「どうした?何がそんなに嬉しいんだ。」

「ありがとうって言われるの。結構好きですよ。」

そうか。彼女は元をただせば『物』だった。
物は感謝される言葉を待ち続けている。
だがそれを要求することは決してない。

そういう『物』だから。

精根尽き果てた私はそんな彼女の言葉を胸に止め、返事をすることもなく体を横にした。
ふと、彼女はあの姿のまま寝るのだろうか。
傘を閉じて横になるのだろうか。それとも物に戻って眠るのだろうか。
興味が少し湧いて、くだらないと思い私は睡魔に襲われるまま眠りについた。




――――――――。



「いやーすまんの。我が弟子よ。他の患者の治療をしてもらうばかりか屋根の修理までしてもら
 えるとはなー!」

「ずいぶんと元気そうですね。」

「バカモン!腰以外は元気じゃわい!で、そっちの傘の人は…」

「はじめまして!私お医者様の傘ウノヤと申します!」

結局ウノヤは私が代理の医者として過ごす間もずっとそばにいた。
始めは邪魔にならないか少し心配したが屋根の修理の時はきちんと傘になってくれていたし。
雨が降った時のお使いは彼女に任せれば濡れずに済むし、本人も雨が好きだという。
気がつけばなんだかんだでこの村の人気者になっていた。

「おおーそうかそうか。魔物の嫁さんとはようやるのう。」

「いや、この子はただの傘です。」

「すまんのうバカ弟子が気のきかないやつで…。」

「いえ、大丈夫ですよ。このウノヤ、お医者様の扱い方はなれましたので!」

フッフーン!とばかりに鼻息を荒げる。
なんだそれはどういう意味だ。

「お医者様はこまっている人は絶対に見捨てないいいひとですから!」

「お前は何もこまってないだろ。」

「困ってますよ。」

「何にだよ。」

「幸せいっぱい過ぎて!」

「はあ…お前…」

堂々とため息をついた。
師匠の目がこの上なく憎たらしく、腕をからませるウノヤの姿がうっとうしく。

「もう勝手にしてください。」

もう何だか折れるしかなかった。


☆おしまい☆

16/01/13 19:40更新 / にもの

■作者メッセージ
お読みいただきありがとうございました。
設定見てかわいいなーと思って勢いのまま書いたらこうなった。済まぬ。
唐傘おばけちゃんのバイノーラル作品をつくってくれるやさしい人がこの世のどこかにいると私は信じております(丸投げ)

※冒頭からミスっていたのを修正しました。
 本当に申し訳無いです><

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