前編
レスカティエ教国異端審問所
「まさかの時の……間に合わねぇや!」
宗教裁判の気配を察し駆け付けた三人組であったが、何もかもが手遅れであった。彼らの同僚は既に多数の淫魔に組み伏せられ、ただあえぎ声を上げるのみだ。さすがにショックが大きかったのか審問官は宗教裁判の開催を宣言できなかった。ふと、ジャッジ・ガベルが鳴らされる。三人組が音のした方向をみると白い淫魔が裁判長席に座っていた。その身から放たれる膨大な魔力から三人組は彼女こそが今回の事態の元凶であると直感した。
「レスカティエを穢したのは貴様か?」
「あら、素敵な光景じゃない。私自ら出陣した甲斐があるというものだわ。」
「我らの神聖な街を堕落させておいて、生きて帰れると思うなよ。我が主の御名において貴様を裁く。」
「魅了の魔法を使っていないとはいえ私を前にしてまだ抵抗できるなんて、さすがは異端審問官といったところかしら。」
「ふん、我らは悪魔の搦め手にかからぬよう3つの対策を施している。魅了に耐える訓練、装備、信仰、教育……4つだ。貴様なぞに遅れはとらん。(せめて、ビグルスとファンだけでも逃がさなければ。)」
「然り。(でかすぎるな、没。)」
「然り。(ええおっぱいやけど形があかんわ、没。)」
審問官の啖呵に配下の二人も同調する。しかし、彼我の戦力差は絶望的なまでに開いていた。そして、そのことはここにいる四人ともが理解していた。
「あらあら、勇敢ね。その勇敢さに敬意を表して特別に私が判決を下すわ。」
三人組はとっさに声を上げようとするが、魔界の王女は素早く判決を下した。
「判決。被告は堕落神の特別教育を受けること。以上。」
「くそ、かかれ。」
「被告は静粛に、なんてね。」
裁判長席に腰かける白い悪魔めがけて斬りかかろうとした三人組であったが、彼女の魔法により一瞬のうちに意識を刈り取られてしまった。
自分の手首と胴体に圧迫感を感じ意識を覚醒させたビグルス枢機卿は、自分がこれまで異端審問を行ってきた被告と同じ立場に立たされていることに気づいた。彼は手首と胴体を固定され柱に拘束されてしまっている。
「あら、お目覚めかしら。」
不意に声が掛けられた。声がした先に目を向けると漆黒の法衣をまとったシスターがいた。
「そんなに怖い顔しないで。あなたにはこれから堕落神様の教えをたっぷりと施すわ。」
「ふん、私が邪教になびくと思っているのか?」
「ええ、きっとね。」
シスターの返答はあらかじめ結末を知っているかのように確信に満ちたものだった。
「さて、始めましょうか。そうね、まずはクッションの教えからかしら。ルシュちゃん。」
「はぁい。」
この部屋に相応しくないのんびりとした声が響いた。彼がなんとか首を後ろに向けるとそこには牛の特徴を持った魔物がいた。凶暴さとは程遠いのほほんとした雰囲気、そしてたわわに実った胸が彼女の種族を教えていた。
「ホルスタウロスか。」
「そうよ。ルシュちゃんたちはクッションの教えの達人よ。これに耐えた男はいないわよ。」
「はっ、ならば私が最初に耐える人間になるわけだ。(邪教徒め、でかければいいと思っているのか。)」
「あはぁ、はじめましてぇ。ルシュです。」
「……。(目測で108、Hクラスか。なんの冗談だ。)」
「だんまりかしら?ルシュちゃん、はじめなさいな。」
ついにシスターはクッションの教えの開始を宣言した。しかし、ビグルス枢機卿が使ったようなやわらかクッションは見当たらない。
「えい。」
もとい、クッションは2つあった。
「えい。」
ルシュは力いっぱい自前のクッションを何度もおしつけた。大きさ・形・感触・お色気どれをとっても一級品の魔性のクッションである。ルシュの同業者たちはこれにより多大な成果を挙げてきた。しかし、ビグルス枢機卿は僅かに顔を歪めているだけでこれといった反応を示していない。
「あら、なかなかがんばるわね。ルシュちゃん、パフパフよ。」
「はぁい。」
「うぐっ。」
先ほどまで顔に押し付けられていた魔性のクッションがついにビグルスの顔を覆った。さすがに効果が出たのかビグルスから苦しそうなうめき声が漏れ出した。
(パフパフまでいくとはね。さすが異端審問官といったところかしら。でも、パフパフに耐えられた男はこれまで一人もいなかったわ。)
「むがっ。(ええい、余計な物を押し付けるな。その前に息が。)」
ルシュは魔物の本能により的確にパフパフしていく。頬に、口に、鼻に、おでこに、ある時は強く、ある時は弱く、パフパフしていく。
ビグルスが目を覚ましたのと同時刻、ファン枢機卿も目覚めた。素早く状況を確認した彼は自分が安楽椅子に座らされていることに気がついた。
「おはよう。気分はいかが?」
振り向くとそこにはシスターがいた。もっとも、彼が見慣れた主神のシスターではなく、堕落神のシスターであったが。
「わっちをどうする気や?」
「もちろん、我らが神の教えをあなたにも伝えるのよ。」
「やれるもんならやってみい。」
「もとより、そのつもりよ。リースちゃん。」
「はい。」
シスターが呼ぶと、可愛らしいドレスを着た少女が現れた。曇りのない黄金の髪に染みひとつない白磁の肌、一見すると人形かと錯覚するほどだ。淫魔の身体的特徴を持ちつつ淫らな雰囲気を感じさせないアンバランスな存在。
「サキュバス……いや、アリスやな。」
「うん、よろしくね、おじさん。」
「……。(AAの70とか無いわ。)」
「気に入ったかしら?あなたには安楽椅子の教えを受けてもらうわ。リースちゃん、始めてちょうだい。」
「はい、お姉ちゃん。」
そういうとリースはファンの膝の上にちょこんと座り、ファンにもたれかかった。
「なんのつもりや。」
「何って安楽椅子の教えよ。あなたは魔物の安楽椅子になって、淫らに過ごすことの素晴らしさを知ってもらうわ。」
枢機卿とシスターがやりとりをしている間も、リースは楽しそうに座っている。密着している部分から心地よい重さと感触が伝わり、リースが動くたびにわずかに甘い匂いが広がる。特に少女に興味が無いものでも思わず抱きしめたくなるだろう。しかし、ファンは未だに動じていない。
「強情ね。リースちゃん、スリスリするのよ。」
シスターが指示を出すと、リースはファンに頬ずりしながら甘えにかかった。
「えへへ、おじさん。」
(さて、スリスリまできたら後は時間の問題ね。)
「……。(まっと育ってからにしてくれんかのう。)」
魔物でありながら、魔物と感じさせない無垢な甘えがファンに襲いかかる。
「まさかの時の……間に合わねぇや!」
宗教裁判の気配を察し駆け付けた三人組であったが、何もかもが手遅れであった。彼らの同僚は既に多数の淫魔に組み伏せられ、ただあえぎ声を上げるのみだ。さすがにショックが大きかったのか審問官は宗教裁判の開催を宣言できなかった。ふと、ジャッジ・ガベルが鳴らされる。三人組が音のした方向をみると白い淫魔が裁判長席に座っていた。その身から放たれる膨大な魔力から三人組は彼女こそが今回の事態の元凶であると直感した。
「レスカティエを穢したのは貴様か?」
「あら、素敵な光景じゃない。私自ら出陣した甲斐があるというものだわ。」
「我らの神聖な街を堕落させておいて、生きて帰れると思うなよ。我が主の御名において貴様を裁く。」
「魅了の魔法を使っていないとはいえ私を前にしてまだ抵抗できるなんて、さすがは異端審問官といったところかしら。」
「ふん、我らは悪魔の搦め手にかからぬよう3つの対策を施している。魅了に耐える訓練、装備、信仰、教育……4つだ。貴様なぞに遅れはとらん。(せめて、ビグルスとファンだけでも逃がさなければ。)」
「然り。(でかすぎるな、没。)」
「然り。(ええおっぱいやけど形があかんわ、没。)」
審問官の啖呵に配下の二人も同調する。しかし、彼我の戦力差は絶望的なまでに開いていた。そして、そのことはここにいる四人ともが理解していた。
「あらあら、勇敢ね。その勇敢さに敬意を表して特別に私が判決を下すわ。」
三人組はとっさに声を上げようとするが、魔界の王女は素早く判決を下した。
「判決。被告は堕落神の特別教育を受けること。以上。」
「くそ、かかれ。」
「被告は静粛に、なんてね。」
裁判長席に腰かける白い悪魔めがけて斬りかかろうとした三人組であったが、彼女の魔法により一瞬のうちに意識を刈り取られてしまった。
自分の手首と胴体に圧迫感を感じ意識を覚醒させたビグルス枢機卿は、自分がこれまで異端審問を行ってきた被告と同じ立場に立たされていることに気づいた。彼は手首と胴体を固定され柱に拘束されてしまっている。
「あら、お目覚めかしら。」
不意に声が掛けられた。声がした先に目を向けると漆黒の法衣をまとったシスターがいた。
「そんなに怖い顔しないで。あなたにはこれから堕落神様の教えをたっぷりと施すわ。」
「ふん、私が邪教になびくと思っているのか?」
「ええ、きっとね。」
シスターの返答はあらかじめ結末を知っているかのように確信に満ちたものだった。
「さて、始めましょうか。そうね、まずはクッションの教えからかしら。ルシュちゃん。」
「はぁい。」
この部屋に相応しくないのんびりとした声が響いた。彼がなんとか首を後ろに向けるとそこには牛の特徴を持った魔物がいた。凶暴さとは程遠いのほほんとした雰囲気、そしてたわわに実った胸が彼女の種族を教えていた。
「ホルスタウロスか。」
「そうよ。ルシュちゃんたちはクッションの教えの達人よ。これに耐えた男はいないわよ。」
「はっ、ならば私が最初に耐える人間になるわけだ。(邪教徒め、でかければいいと思っているのか。)」
「あはぁ、はじめましてぇ。ルシュです。」
「……。(目測で108、Hクラスか。なんの冗談だ。)」
「だんまりかしら?ルシュちゃん、はじめなさいな。」
ついにシスターはクッションの教えの開始を宣言した。しかし、ビグルス枢機卿が使ったようなやわらかクッションは見当たらない。
「えい。」
もとい、クッションは2つあった。
「えい。」
ルシュは力いっぱい自前のクッションを何度もおしつけた。大きさ・形・感触・お色気どれをとっても一級品の魔性のクッションである。ルシュの同業者たちはこれにより多大な成果を挙げてきた。しかし、ビグルス枢機卿は僅かに顔を歪めているだけでこれといった反応を示していない。
「あら、なかなかがんばるわね。ルシュちゃん、パフパフよ。」
「はぁい。」
「うぐっ。」
先ほどまで顔に押し付けられていた魔性のクッションがついにビグルスの顔を覆った。さすがに効果が出たのかビグルスから苦しそうなうめき声が漏れ出した。
(パフパフまでいくとはね。さすが異端審問官といったところかしら。でも、パフパフに耐えられた男はこれまで一人もいなかったわ。)
「むがっ。(ええい、余計な物を押し付けるな。その前に息が。)」
ルシュは魔物の本能により的確にパフパフしていく。頬に、口に、鼻に、おでこに、ある時は強く、ある時は弱く、パフパフしていく。
ビグルスが目を覚ましたのと同時刻、ファン枢機卿も目覚めた。素早く状況を確認した彼は自分が安楽椅子に座らされていることに気がついた。
「おはよう。気分はいかが?」
振り向くとそこにはシスターがいた。もっとも、彼が見慣れた主神のシスターではなく、堕落神のシスターであったが。
「わっちをどうする気や?」
「もちろん、我らが神の教えをあなたにも伝えるのよ。」
「やれるもんならやってみい。」
「もとより、そのつもりよ。リースちゃん。」
「はい。」
シスターが呼ぶと、可愛らしいドレスを着た少女が現れた。曇りのない黄金の髪に染みひとつない白磁の肌、一見すると人形かと錯覚するほどだ。淫魔の身体的特徴を持ちつつ淫らな雰囲気を感じさせないアンバランスな存在。
「サキュバス……いや、アリスやな。」
「うん、よろしくね、おじさん。」
「……。(AAの70とか無いわ。)」
「気に入ったかしら?あなたには安楽椅子の教えを受けてもらうわ。リースちゃん、始めてちょうだい。」
「はい、お姉ちゃん。」
そういうとリースはファンの膝の上にちょこんと座り、ファンにもたれかかった。
「なんのつもりや。」
「何って安楽椅子の教えよ。あなたは魔物の安楽椅子になって、淫らに過ごすことの素晴らしさを知ってもらうわ。」
枢機卿とシスターがやりとりをしている間も、リースは楽しそうに座っている。密着している部分から心地よい重さと感触が伝わり、リースが動くたびにわずかに甘い匂いが広がる。特に少女に興味が無いものでも思わず抱きしめたくなるだろう。しかし、ファンは未だに動じていない。
「強情ね。リースちゃん、スリスリするのよ。」
シスターが指示を出すと、リースはファンに頬ずりしながら甘えにかかった。
「えへへ、おじさん。」
(さて、スリスリまできたら後は時間の問題ね。)
「……。(まっと育ってからにしてくれんかのう。)」
魔物でありながら、魔物と感じさせない無垢な甘えがファンに襲いかかる。
14/12/02 23:39更新 / 重航空巡洋艦
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